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特開2023-153399ジルコニアセラミック部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153399
(43)【公開日】2023-10-17
(54)【発明の名称】ジルコニアセラミック部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/10 20060101AFI20231005BHJP
   A61L 27/02 20060101ALI20231005BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A61L27/10
A61L27/02
A61L27/36 200
A61L27/36 311
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023137528
(22)【出願日】2023-08-25
(62)【分割の表示】P 2019155393の分割
【原出願日】2019-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】村上 隆幸
(57)【要約】
【課題】骨との固着力を向上させながら強度の低下も抑制することができ、且つ、容易で安価に製造できる生体用ジルコニアセラミック部材を提供する。
【解決手段】生体インプラント用のジルコニアセラミック部材1は、生体内に移植される際に生体骨2に対して骨セメント層3を介して対向する側である骨対向面4の断面視において形成される断面曲線Cから導かれるうねり曲線の1mmあたりの変曲点の数の2分の1の値である波数が、13.5/mm以上である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粉体の成形体を加工する加工工程と、
加工した前記成形体を焼成する焼成工程と、を含み、
前記加工工程は、前記成形体へメディア部材を吹き付けるブラスト処理を含む、ジルコニアセラミック部材の製造方法。
【請求項2】
前記メディア部材は、前記焼成工程において焼失される材質で構成されている、請求項1に記載のジルコニアセラミック部材の製造方法。
【請求項3】
前記メディア部材は、クルミ材、コーン材、又は合成樹脂材である、請求項1又は2に記載のジルコニアセラミック部材の製造方法。
【請求項4】
前記ブラスト処理は、前記成形体のうち、生体内に移植される際に生体骨に対して骨セメント層を介して対向する側である骨対向面に対しメディア部材を吹き付ける、請求項1~3のいずれか1項に記載のジルコニアセラミック部材の製造方法。
【請求項5】
前記加工工程は、前記成形体を切削加工する処理を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のジルコニアセラミック部材の製造方法。
【請求項6】
前記ブラスト処理は、前記切削加工する処理よりも後に行われる、請求項5に記載のジルコニアセラミック部材の製造方法。
【請求項7】
前記加工工程の前に、前記セラミック粉体を加圧して前記成形体を成形する成形工程を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のジルコニアセラミック部材の製造方法。
【請求項8】
前記成形工程は、バインダーと混合された前記セラミック粉体を加圧して前記成形体を成形する、請求項7に記載のジルコニアセラミック部材の製造方法。
【請求項9】
前記成形工程は、冷間静水圧プレスによって加圧して前記成形体を成形する、請求項7又は8に記載のジルコニアセラミック部材の製造方法。
【請求項10】
前記焼成工程は、前記成形体上の前記メディア部材が焼失する条件で前記成形体を焼成する、請求項1~9のいずれか1項に記載のジルコニアセラミック部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨セメント層を介して生体骨に固着される生体用ジルコニアセラミック部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人工関節置換術において、インプラントとしての生体用ジルコニアセラミック部材を生体骨に取り付ける方法として、骨セメント層を介して生体骨に対して固着させる方法がある。しかし、一般の骨セメントは、金属製のインプラント部材用に調整されているため、セラミック製のインプラント部材に用いた場合、固着力が比較的低くなるという問題がある。これに対して、例えば、特許文献1においては、骨セメントと接する部位においてシランカップリング剤を備えるセラミック製の補綴具を使用することについて開示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に係る補綴具は、化学的処理が行われることによって骨セメントとの接合力を向上させるものであるため、製造が煩雑でありコストがかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3260817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、特許文献1に開示されている補綴具のように化学的処理を行うまでもなく、安価に且つ容易に生体用ジルコニアセラミック部材を生体骨と固着させる方法として、例えば、生体用ジルコニアセラミック部材の表面を硬質のアルミナ粒子等のメディア部材によってブラスト処理を行い表面を粗面化して骨セメント層に固着させることが考えられる。
【0006】
しかし、生体用ジルコニアセラミック部材にブラスト処理をする場合、例えば、生体用ジルコニアセラミック部材の原料粉末が押し固められて成形された成形体に熱が加えられて焼成された後、ブラスト処理が行われて製造される。この場合、生体用ジルコニアセラミック部材にはマクロクラックが発生することがあり、破損が生じる原因となる。
【0007】
また、生体用ジルコニアセラミック部材の原料粉末が押し固められて成形された成形体に、焼成が行われる前にブラスト処理を行い、ブラスト処理後に焼成し粗面化された表面を有する生体用ジルコニアセラミック部材を製造することも可能である。この場合、焼成前に成形体に吹き付けられたブラスト処理のメディア部材の一部が焼成後においてもその表面に付着したまま残存する。そして、残存したメディア部材が原因となって生体用ジルコニアセラミック部材が破損する場合があり、生体用ジルコニアセラミック部材の強度が低下する。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、骨との固着力を向上させながら強度の低下も抑制することができ、且つ、安価で容易に製造できる生体用ジルコニアセラミック部材と、そのような生体用ジルコニアセラミック部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るジルコニアセラミック部材の製造方法は、セラミック粉体の成形体を加工する加工工程と、加工した前記成形体を焼成する焼成工程と、を含み、前記加工工程は、前記成形体へメディア部材を吹き付けるブラスト処理を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、骨との固着力を向上させながら強度の低下も抑制することができ、且つ、安価で容易に製造できる生体用ジルコニアセラミック部材と、そのような生体用ジルコニアセラミック部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】骨セメント層を介して生体骨に固着された生体用ジルコニアセラミック部材について固着された部分を一部拡大して模式的に示す図である。
図2】本発明に係る生体用ジルコニアセラミック部材のブラスト処理を行った表面の一部を拡大して模式的に示す図である。
図3】本発明に係る生体用ジルコニアセラミック部材の製造の工程を示すフローチャートである。
図4】比較例1の試験片の評価面の断面曲線の一例を示す図である。
図5】実施例1の試験片の評価面の断面曲線の一例を示す図である。
図6】評価試験で製造した各試験片の波数と引張応力との関係について示す図である。
図7図7(a)は、ブラスト処理を行っていない生体用ジルコニアセラミック部材の固着力測定試験後の評価面を撮影したSEM写真の画像を示す図であり、図7(b)は、実施例1の試験片の固着力測定試験後の評価面を撮影したSEM写真の画像を示す図である。
図8図8(a)は、ブラスト処理を行わず且つ生理食塩水に浸漬した場合の生体用ジルコニアセラミック部材の固着力測定試験後の評価面を撮影したSEM写真の画像を示す図であり、図8(b)は、実施例2の試験片の固着力測定試験後の評価面を撮影したSEM写真の画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、本発明は、骨との固着力を向上させながら強度の低下も抑制でき、且つ、容易で安価に製造できる生体用ジルコニアセラミック部材と、そのような生体用ジルコニアセラミック部材の製造方法として、広く適用することができるものである。
【0013】
図1は、骨セメント層3を介して生体骨2に固着された生体用ジルコニアセラミック部材1について固着された部分を一部拡大して模式的に示す図である。図2は、本発明に係る生体用ジルコニアセラミック部材1のブラスト処理を行った表面の一部を拡大して模式的に示す図である。
【0014】
本発明に係る生体用ジルコニアセラミック部材1は、セラミック製のインプラントとして構成されている。生体用ジルコニアセラミック部材1は、生体内に移植された際、骨セメント層3を介して生体骨2に対して固着される。生体用ジルコニアセラミック部材1の生体骨2に対して骨セメント層3を介して対向する側である骨対向面4の表面は、ブラスト処理が行われる。
【0015】
ブラスト処理が行われた骨対向面4の表面には、拡大図である図2に示すように、断面視において波状に形成される断面曲線Cが形成されている。そして、評価試験においては、この生体用ジルコニアセラミック部材1の骨対向面4に形成された断面曲線Cの凹凸の数に基づいて、後述する方法によって波数が算出される。断面曲線Cは、図2に示すように、複数の頂部Pと底部Bとが交互に繰り返し形成されている。
【0016】
図3は、本発明に係る生体用ジルコニアセラミック部材1の製造の工程を示すフローチャートである。本発明における生体用ジルコニアセラミック部材1の製造方法は、成形工程S1と、加工工程S2と、焼成工程S3と、を含む。成形工程S1は、バインダーと混合されたセラミック粉体を加圧して成形体を成形する工程である。加工工程S2は、成形工程S1において成形された成形体を加工する工程である。また、加工工程S2は、骨対向面4の表面粗さを、粒状のメディア部材を吹き付けるブラスト処理によって調整する工程を含んでいる。そして、焼成工程S3は、焼成前に加工した成形体を焼成する工程である。
【0017】
本発明における製造方法によって製造される生体用ジルコニアセラミック部材1の固着力の評価では、実施例として、ブラスト処理を行う本発明に係る製造方法によって試験片を製造した。また、比較例として、本発明に係る製造方法とは異なりブラスト処理を行わない製造方法によって試験片を製造した。そして、生体用ジルコニアセラミック部材1のブラスト処理によって形成される表面の状態に対する、生体骨2への固着力の影響について評価する試験(固着力測定試験とも称する。)を行った。具体的には、ブラスト処理によって形成された生体用ジルコニアセラミック部材1の表面の波数に対する骨セメント層3との固着力との関係について評価する試験を行った。
【0018】
評価試験で用いた生体用ジルコニアセラミック部材1は、Yを3モル%含有する東ソー株式会社製TZ-3YSB正方晶安定化ジルコニアセラミックス原料粉末のセラミック粉末を、3000kg/cmの圧力下において冷間静水圧プレスによって押し固めることによって作製した。
【0019】
評価試験では、実施例に係る製造方法によって製造した試験片として、実施例1と実施例2の生体用ジルコニアセラミック部材(以下、実施例1の試験片、実施例2の試験片と称する。)を使用した。また、比較例に係る製造方法によって製造した試験片として、比較例1と比較例2の生体用ジルコニアセラミック部材(比較例1の試験片、比較例2の試験片と称する。)を使用した。そして、実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2の試験片を用いて表面に形成された波数に対する固着力との関係についての評価を行った。実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2の試験片の評価試験においては、各6つの試験片が製造されて測定が行われた。
【0020】
実施例1の試験片、実施例2の試験片、比較例1の試験片、及び比較例2の試験片の製造においては、まず、バインダーと混合されたジルコニアセラミックス用原料粉末を加圧して成形体が成形された。次に、成形された成形体は、マシニングセンタ等によって円柱状に切削加工された。尚、実施例1の試験片、実施例2の試験片、比較例1の試験片、及び比較例2の試験片はそれぞれ、焼成後のサイズとして、直径16mm、厚さ30mmの円柱形状となるように作製された。実施例1の試験片、実施例2の試験片、比較例1の試験片、及び比較例2の試験片が切削加工された後は、それぞれ以下においてその製造の手順を説明する。
【0021】
まず、切削加工された後の実施例1の試験片について説明する。実施例1の試験片では、固着力を評価する評価面、即ち円柱の一方の端面に対してブラスト処理を行った。そして、ブラスト処理が行われた実施例1の試験片は、熱が加えられ焼成された。ブラスト処理に用いたメディア部材には、焼成工程において焼失する材質の部材として粒度100のクルミ材が使用された。ブラスト処理において、ブラスト圧は0.15MPaに設定された。尚、メディア部材は、加熱によって焼失するものであればよく、クルミ材の他、例えばコーン材或いは合成樹脂材を使用してもよい。
【0022】
図2を参照して、上述の条件によって製造された実施例1の試験片について、表面における波数の算出が以下の要領で行われた。波数の算出では、まず、評価面の断面曲線Cが取得された上で、当該断面曲線Cからうねり曲線が導かれる。断面曲線Cの取得には、接触式又は非接触式の表面性状測定器、例えば、接触式のミツトヨ製SV-3100SA等の面粗さ測定器が用いられ、基準長さを2.5mm、区間数を5、測定速度を1mm/秒の条件にて測定を行った。
【0023】
うねり曲線は、断面曲線Cに基づいて、カットオフλcを0.025mm、λfを2.5mmとしてガウシアンフィルタ処理が行われて導かれる。次に、得られたうねり曲線を一次微分することによって、頂部Pと底部Bを、一次微分値がゼロとなる部分即ち変曲点として求めた。そして、1mmあたりの変曲点の数の2分の1の値を波数として算出した。尚、試験片の評価面における波数を測定する際には、切削工具によるツールマークの影響を、各試験片の各測定において均一化するために、ツールマークに対して直交する方向に限定して測定を行った。
【0024】
実施例1の試験片が製造された後、実施例1の試験片は、固着力の測定試験のため合成樹脂製の円筒状の治具内に挿入される。当該円筒状の治具の内径は、試験片がほぼ隙間なく挿入される大きさであって、高さが試験片よりも高くなるように設定されている。次に、試験片の固着面に骨セメント層3が形成されるように骨セメント部材が充填されて試験に必要な厚みに形成される。尚、骨セメント部材には、Stryker社製Surgical SIMPLEX(登録商標)を使用した。骨セメント部材の成形は、粉8gに対し液4ccを加え60秒間混練した後、60秒間静置した。また、硬化に際しては、5kgのおもりで負荷をかけ780秒間静置した。骨セメント部材が成形された後は、骨セメント部材に固着した状態の試験片が治具から取り出される。取り出された試験片は、37℃に設定された恒温槽内において大気中で48時間以上静置された。その後、試験片は、Instron社製の万能試験機MODEL1123による引張試験に供された。引張試験では、クロスヘッドスピードを30mm/分に設定して試験を行い、骨セメント層3と試験片が分離するまで試験片の評価面に垂直な方向に引張荷重が加えられた。引張り試験においては、分離に至るまでに生じる最大応力を固着力として測定した。
【0025】
実施例2の試験片では、実施例1と同様に、固着力を評価する面に対してブラスト処理を行った。そしてブラスト処理を行った後、熱が加えられ焼成が行われた。また、実施例2の試験片は、実施例1と同様の方法で、評価面の波数の算出が行われた。
【0026】
実施例2の試験片では、生体内に近い環境である37℃の生理食塩水に長時間浸す試験条件を加えて評価試験を行った。具体的には、実施例2の試験片では、試験片が製造された後、実施例1の試験片と同様、円筒状の治具に挿入されて、骨セメント部材が固着された。次に、骨セメント部材が固着された試験片は、治具から取り出された後、大気中ではなく、生理食塩水で満たされた容器に浸漬された状態で37℃に設定された恒温槽に入れられて48時間以上静置された。その後、試験片は、実施例1と同様にして固着力が測定された。
【0027】
比較例1の試験片は、ブラスト処理が行われず製造された点で実施例1に係る製造方法とは異なり、ブラスト処理が行われなかったこと以外、実施例1と同様の手順で製造された。即ち、比較例1の試験片は、ジルコニアセラミックス用原料粉末によって成形された成形体が、マシニングセンタ等によって切削加工されて円柱状に形成された後、熱が加えられ焼成が行われて作製された。焼成された比較例1の試験片は、円柱状の治具に挿入されてセメント部材が固着された後、治具から取り外されて、実施例1の試験片と同様、37℃に設定された恒温槽内において大気中で48時間以上静置された。そして、恒温槽から取り出された比較例1の試験片は、引張試験機によって固着力の測定等が行われた。
【0028】
比較例2の試験片は、ブラスト処理が行われず製造された点で実施例2に係る製造方法とは異なり、ブラスト処理が行われなかったこと以外、実施例2と同様の手順で製造された。即ち、比較例2の試験片は、ジルコニアセラミックス用原料粉末によって成形された成形体が、マシニングセンタ等によって切削加工されて円柱状に形成された後、熱が加えられ焼成が行われて作製された。焼成された比較例2の試験片は、円柱状の治具に挿入されてセメント部材が固着された後、治具から取り外されて、生理食塩水で満たされた容器に浸漬された状態で37℃に設定された恒温槽内に静置された。そして、恒温槽から取り出された比較例2の試験片は、引張試験機によって固着力の測定等が行われた。
【0029】
図4は、比較例1の試験片の評価面の断面曲線Cの一例を示す図である。図5は、実施例1の試験片の評価面の断面曲線Cの一例を示す図である。図4及び図5から明らかなように、実施例1の試験片の評価面の波数は、切削加工のまま、ブラスト処理されなかった比較例1の試験片の評価面よりも、ブラスト処理が行われることによって多くなっている。
【0030】
図6は、評価試験で製造した各試験片の波数と引張応力(固着力)との関係について示す図である。図6においては、各実施例及び比較例について、6つの各試験片のデータと、6つの各試験片のデータの平均値を示している。即ち、図6において、6つの各試験片のデータは、小さいサイズのマークで示され、また、6つの各試験片のデータの平均値は、大きいサイズのマークで示されている。
【0031】
実施例1の試験片では、波数の平均値が21.2/mmであり、引張応力の平均値が9.6MPaであった。実施例2の試験片では、波数の平均値が20.8/mmであり、引張応力の平均値が6.7MPaであった。比較例1の試験片では、波数の平均値が12.1/mmであり、引張応力の平均値が6.9MPaであった。比較例2の試験片では、波数の平均値が11.8/mmであり、引張応力の平均値が3.0MPaであった。
【0032】
上記の結果より、比較例1の引張応力に対して実施例1の引張応力は、約40%向上することが確認できた。また、比較例2の引張応力に対して実施例2の引張応力は、約120%向上することが確認できた。即ち、波数の増加により固着力が向上することが確認できた。
【0033】
また、前述の結果より、生理食塩水に浸漬しなかった場合の試験片の引張応力の値に対する生理食塩水に浸漬した場合の試験片の引張応力の値の低下が抑制できることが確認できた。即ち、比較例1に対する比較例2の引張応力の平均値の低下率が56%であったのに対して、実施例1に対する実施例2の引張応力の平均値の低下率は30%であった。つまり、生理食塩水に浸漬した場合の固着力の低下が改善したことが確認できた。
【0034】
比較例1の試験片について、算出された波数は、11.1/mm以上、13.2/mm以下であり、骨セメント層3との固着力が5.2MPa以上であった。これに対し、実施例1の試験片について、算出された波数は、19.4/mm以上、23.0/mm以下であり、骨セメント層3との固着力が8.6MPa以上であった。
【0035】
つまり、生理食塩水に浸漬しないで行った比較例1及び実施例1の評価試験においては、図3及び図4からも明らかなように、ブラスト処理を行った実施例1の試験片の方が、ブラスト処理を行わなかった比較例1の試験片よりも波数が多くなり、固着力も平均すると高いことが確認された。
【0036】
また、比較例2の試験片について、算出された波数は、11.2/mm以上、12.1/mm以下であり、骨セメント層3との固着力が2.0MPa以上であった。これに対し、実施例2の試験片について、算出された波数は、19.4/mm以上、22.3/mm以下であり、骨セメント層3との固着力が4.1MPa以上であった。
【0037】
つまり、生理食塩水に浸漬した比較例2及び実施例2の評価試験においても、ブラスト処理を行った実施例2の試験片の方が、ブラスト処理を行わなかった比較例2の試験片よりも波数が多くなり、固着力の低下も抑制できることが確認できた。
【0038】
また、図6を参照して、比較例1と実施例1との比較において、波数が13.5/mm以上であれば、試験片と骨セメント層3との固着力が向上すると考えられる。更に、波数が18.0/mm以上であれば、骨セメント層3との固着力が大きく向上すると考えられる。
【0039】
また、波数の増加に伴い試験片と骨セメント層3との固着力は向上する傾向にあるため、固着力の観点からは波数が多いことが望ましい。しかしながら、ブラスト処理に要する時間、メディア部材のコスト、及び、過度なブラスト処理を行うことによる強度の低下等から、波数は30/mm以下にすることが好ましい。また、25/mm以下が更に好ましい。
【0040】
引張試験後の生体用ジルコニアセラミック部材に関しては、SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)による観察を行った。図7(a)は、ブラスト処理を行っていない生体用ジルコニアセラミック部材の固着力測定試験後の評価面を撮影したSEM写真の画像を示す図であり、図7(b)は、実施例1の試験片の固着力測定試験後の評価面を撮影したSEM写真の画像を示す図である。図8(a)は、ブラスト処理を行わず且つ生理食塩水に浸漬した場合の生体用ジルコニアセラミック部材の固着力測定試験後の評価面を撮影したSEM写真の画像を示す図であり、図8(b)は、実施例2の試験片の固着力測定試験後の評価面を撮影したSEM写真の画像を示す図である。図7及び図8では、オリジナルの撮影倍率は200倍である。縮尺については、写真の右下において目盛を付して示しており、1目盛を20μm、即ち、10目盛を200μmとして示している。
【0041】
ブラスト処理を行った図7(b)の試験片には、ブラスト処理を行わなかった図7(a)の生体用ジルコニアセラミック部材よりも表面の凹凸が数多く形成されていることが確認できた。また、ブラスト処理を行い生理食塩水に浸漬された後引張試験を行った図8(b)の試験片においても、ブラスト処理を行わなかった図8(a)の生体用ジルコニアセラミック部材よりも表面の凹凸が多いことが確認できた。尚、各SEM写真において、周囲よりも暗く見える部分は、骨セメントが残存付着している部分であり、それ以外の部分は、生体用ジルコニアセラミック部材の表面が露出している部分である。図7(b)に示す実施例1の方が、図7(a)に示す比較例1よりも骨セメントが残存付着している部分が多いことが分かる。同様に、図8(b)に示す実施例2の方が、図8(b)に示す比較例2よりも骨セメントが残存付着している部分が多いことが分かる。
【0042】
また、ブラスト処理によるジルコニアセラミック部材の強度への影響については、上記実施例と同様の方法によって作製した強度試験用の試験片によって比較を行ったが、顕著な低下を示すものではなかった。
【0043】
[本実施形態の作用及び効果]
本実施形態における生体用ジルコニアセラミック部材1は、焼失するメディア部材によって表面のブラスト処理が焼成される前に行われることで、生体骨2に対して骨セメント層3を介して対向する側である骨対向面4に断面視において断面曲線Cが形成される。そして、断面曲線Cから導かれるうねり曲線の1mmあたりの変曲点の数の2分の1の値として算出される波数が13.5/mm以上となる。このとき、生体用ジルコニアセラミック部材1の骨セメント層3との固着力は、波数が13.5/mm未満のものと比べて大きく向上する。即ち、例えば、ブラスト処理を行わない生体用ジルコニアセラミック部材1においては、例えば波数が13.2/mm以下となり、骨セメント層3との固着力は、平均値の比較において、波数が13.5/mm以上の方が高い値を示す。即ち、波数が増加するとともに固着力を向上させることができる。
【0044】
また、上記の固着力の向上を、ブラスト処理のメディア部材が焼成後に残存しない方法で行うことを前提としているため、生体用ジルコニアセラミック部材1の強度の低下も回避できる。
【0045】
また、ブラスト処理による表面処理を行うことを前提としているため、生体用ジルコニアセラミック部材1の粗面化加工は安価且つ容易に行われる。
【0046】
従って、骨との固着力を向上させながら強度の低下も抑制することができ、且つ、安価で容易に製造できる生体用ジルコニアセラミック部材1を提供することができる。
【0047】
また、本実施形態によると、生体用ジルコニアセラミック部材は、波数が、18.0/mm以上である。このため、生体用ジルコニアセラミック部材の骨セメントとの固着力が更に高くなり、骨との固着力を更に高めることができる。
【0048】
また、本実施形態によると、生体用ジルコニアセラミック部材は、波数が30.0/mm以下である。このため、生体用ジルコニアセラミック部材の波数が増加することによって生じる強度の低下を抑制することができる。即ち、セラミックスの様な脆性材料においては、表面粗さの増大が強度の低下につながることが一般に知られているが、本実施形態によると、表面の粗さが過度に大きくなることで強度が低下するのを防ぐことができる。
【0049】
また、本実施形態に係る生体インプラント用のジルコニアセラミック部材の製造方法は、成形工程S1と、加工工程S2と、焼成工程S3と、を含んでいる。そして、加工工程S2においては、生体内に移植される際に生体骨2に対して骨セメント層3を介して対向する側である骨対向面4の表面粗さを、粒状のメディア部材を吹き付けるブラスト処理によって調整する工程を含んでいる。即ち、従来焼成後に行っていたブラスト処理を焼成する前の加工工程S2において行うことで、焼成後の生体用ジルコニアセラミック部材1のマイクロクラックの発生を抑制することができる。このため、焼成後の生体用ジルコニアセラミック部材1の骨との固着力を向上させながら強度の低下も抑制することができる。
【0050】
また、生体用ジルコニアセラミック部材1の表面粗さの調整をブラスト処理によって行うため、容易且つ安価に上述の生体用ジルコニアセラミック部材1を製造することができる。
【0051】
従って、骨との固着力を向上させながら強度の低下も抑制することができ、且つ、安価で容易に製造できる生体用ジルコニアセラミック部材1の製造方法を提供することを目的とする。
【0052】
また、本実施形態に係る生体インプラント用のジルコニアセラミック部材の製造方法において、ブラスト処理に用いるメディア部材は、焼成工程において焼失される材質で構成される。このため、焼成前の生体用ジルコニアセラミック部材1の成形体にブラスト処理のメディア部材が残存した場合であっても、焼成される際に焼失する。これにより、焼成後の生体用ジルコニアセラミック部材1には、メディア部材が残存せず破損の原因となることもない。
【0053】
〔本発明の別の表現〕
本発明は以下のようにも表現される。
【0054】
(1)上記課題を解決するため、本発明のある局面に係る生体インプラント用のジルコニアセラミック部材は、生体内に移植される際に生体骨に対して骨セメント層を介して対向する側である骨対向面に断面視において形成される断面曲線から導かれるうねり曲線の1mmあたりの変曲点の数の2分の1の値である波数が、13.5/mm以上である。
【0055】
この構成によると、生体用ジルコニアセラミック部材は、焼失するメディア部材によって表面のブラスト処理が焼成される前に行われることで、生体骨に対して骨セメント層を介して対向する側である骨対向面に断面視において断面曲線が形成される。そして、断面曲線から導かれるうねり曲線の1mmあたりの変曲点の数の2分の1の値として算出される波数が13.5/mm以上となる。このとき、生体用ジルコニアセラミック部材の骨セメント層との固着力は、波数が13.5/mm未満のものと比べて大きく向上する。即ち、例えば、ブラスト処理を行わない生体用ジルコニアセラミック部材においては、例えば波数が13.2/mm以下となり、骨セメント層との固着力は、平均値での比較において、波数が13.5/mm以上の方が高い値を示す。即ち、波数が増加するとともに固着力を向上させることができる。
【0056】
また、上記の固着力の向上を、ブラスト処理のメディア部材が焼成後に残存しない方法で行うことを前提としているため、生体用ジルコニアセラミック部材の強度の低下も回避できる。
【0057】
また、ブラスト処理による表面処理を行うことを前提としているため、生体用ジルコニアセラミック部材の粗面化加工は安価且つ容易に行われる。
【0058】
従って、骨との固着力を向上させながら強度の低下も抑制することができ、且つ、安価で容易に製造できる生体用ジルコニアセラミック部材を提供することができる。
【0059】
(2)また、好ましくは、生体用ジルコニアセラミック部材は、前記波数が18.0/mm以上である。
【0060】
この構成によると、生体用ジルコニアセラミック部材は、波数が18.0/mm以上である。このため、生体用ジルコニアセラミック部材の骨セメントとの固着力が更に高くなり、骨との固着力を更に高めることができる。
【0061】
(3)また、好ましくは、生体用ジルコニアセラミック部材は、前記波数が30.0/mm以下である。
【0062】
この構成によると、生体用ジルコニアセラミック部材は、前記波数が30.0/mm以下である。このため、生体用ジルコニアセラミック部材の波数が増加することによって生じる強度の低下を抑制することができる。即ち、セラミックスの様な脆性材料においては、表面粗さの増大が強度の低下につながることが一般に知られているが、この構成によると、表面の粗さが過度に大きくなることで強度が低下するのを防ぐことができる。
【0063】
(4)本発明のある局面に係る生体インプラント用のジルコニアセラミック部材の製造方法において、バインダーと混合されたセラミック粉体を加圧して成形体を成形する成形工程と、前記成形体を加工する加工工程と、加工した前記成形体を焼成する焼成工程と、を含み、前記加工工程において、生体内に移植される際に生体骨に対して骨セメント層を介して対向する側である骨対向面の表面粗さを、粒状のメディア部材を吹き付けるブラスト処理によって調整する工程を含む。
【0064】
この構成によると、生体インプラント用のジルコニアセラミック部材の製造方法において、成形工程と、加工工程と、焼成工程と、を含んでいる。そして、加工工程においては、生体内に移植される際に生体骨に対して骨セメント層を介して対向する側である骨対向面の表面粗さを、粒状のメディア部材を吹き付けるブラスト処理によって調整する工程を含んでいる。即ち、従来焼成後に行っていたブラスト処理を焼成する前の加工工程において行うことで、焼成後の生体用ジルコニアセラミック部材のマイクロクラックの発生を抑制することができる。このため、焼成後の生体用ジルコニアセラミック部材の骨との固着力を向上させながら強度の低下も抑制することができる。
【0065】
また、生体用ジルコニアセラミック部材の表面粗さの調整をブラスト処理によって行うため、容易且つ安価に上述の生体用ジルコニアセラミック部材を製造することができる。
【0066】
従って、骨との固着力を向上させながら強度の低下も抑制することができ、且つ、安価で容易に製造できる生体用ジルコニアセラミック部材の製造方法を提供することを目的とする。
【0067】
(5)また、好ましくは、生体インプラント用のジルコニアセラミック部材の製造方法において、前記ブラスト処理に用いる前記メディア部材が、前記焼成工程において焼失される材質で構成されている。
【0068】
この構成によると、生体インプラント用のジルコニアセラミック部材の製造方法において、ブラスト処理に用いるメディア部材は、焼成工程において焼失される材質で構成される。このため、焼成前の生体用ジルコニアセラミック部材の成形体にブラスト処理のメディア部材が残存した場合であっても、焼成される際に焼失する。これにより、焼成後の生体用ジルコニアセラミック部材には、メディア部材が残存せず破損の原因となることもない。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、骨セメント層3を介して生体骨2に固着される生体用ジルコニアセラミック部材1、及び生体用ジルコニアセラミック部材の製造方法として、広く適用することができるものである。
【符号の説明】
【0070】
1 生体用ジルコニアセラミック部材
2 生体骨
3 骨セメント層
4 骨対向面
C 断面曲線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8