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  • 特開-表面改質方法および改質部材 図1
  • 特開-表面改質方法および改質部材 図2
  • 特開-表面改質方法および改質部材 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153467
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】表面改質方法および改質部材
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/356 20140101AFI20231011BHJP
【FI】
B23K26/356
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062760
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 悠太
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】樽谷 一郎
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AC02
4E168AD18
4E168CB02
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA06
4E168DA24
4E168DA26
4E168DA32
4E168DA40
4E168FB09
4E168JA02
4E168JA03
4E168JA05
(57)【要約】
【課題】パルスレーザの照射による新たな表面改質方法を提供する。
【解決手段】本発明は、被処理面へパルスレーザを照射して衝撃力を加える照射工程を備える表面改質方法である。パルスレーザの照射間隔は、第1方向に沿った第1間隔(d1/dx)よりも、第1方向と異なる第2方向に沿った第2間隔(d2/dy)が短くなっている。第1間隔は、パルスレーザのスポット径よりも小さいとよい。第2間隔に対する第1間隔の割合である間隔比(d1/d2)は、例えば、2.5以上であるとよい。パルスレーザは、第2間隔毎に、第1方向に平行な経路に沿って走査されるとよい。本発明の表面改質方法により、例えば、第2方向を略摺動方向とする摺動面を備えた摺動部材が得られる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理面へパルスレーザを照射して衝撃力を加える照射工程を備える表面改質方法であって、
該パルスレーザの照射間隔は、第1方向に沿った第1間隔(d1)よりも、該第1方向と異なる第2方向に沿った第2間隔(d2)が短い表面改質方法。
【請求項2】
前記第1間隔は、前記パルスレーザのスポット径よりも小さい請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項3】
前記第2間隔に対する前記第1間隔の割合である間隔比(d1/d2)が2.5以上である請求項1または2に記載の表面改質方法。
【請求項4】
前記パルスレーザは、前記第2間隔毎に、前記第1方向に平行な経路に沿って走査される請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項5】
前記第2方向を略摺動方向とする摺動面が得られる請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項6】
パルスレーザが照射された処理面を備え、
該処理面は、第1方向に沿った表面粗さよりも、該第1方向と異なる第2方向に沿った表面粗さが小さい改質部材。
【請求項7】
前記処理面は、前記第1方向の圧縮残留応力よりも前記第2方向の圧縮残留応力が大きい請求項6に記載の改質部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
疲労強度、耐摩耗性、耐食性、摺動性等の向上を図るため、種々の表面処理がなされる。その一つにピーニング処理がある。その代表例は、投射材(ショット)を被処理物の表面に高速で衝突させて、その表面に窪み状の塑性変形を多数生じさせるショットピーニングである。冷間加工の一種であるショットピーニングにより、被処理物の表面付近には加工硬化と圧縮残留応力が生じ、被処理物の疲労強度の向上や応力腐食割れの抑止(耐食性の向上)等が図られる。
【0003】
また、ショットの回収が不要で、処理条件を高精度に制御でき、深い領域にまで圧縮残留応力を付与できるレーザピーニングも利用される。レーザピーニングは、高エネルギー密度な短パルスレーザを被処理物へ照射し、そのときに生じる(プラズマ)衝撃波の伝播により、被処理物の表面に塑性変形を生じさせる。レーザピーニングに関する提案は多くなされており、例えば、下記の特許文献に関連する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-153977
【特許文献2】特開2016-44335
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】松本康太郎ほか,レーザ加工学会誌,Vol.17,No 4(2010),pp.200-206.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、溶接部へレーザピーニングを行う際に、その溶接部の繰返し荷重方向(Y方向)の垂直方向(X方向)に関して、照射スポットの重畳率(面積%)を所定範囲にすることを提案している。もっとも、実質的には直線状に延びる溶接止端部(いわゆるビード)に沿って、単にパルスレーザをX方向へ走査させているだけに過ぎない。
【0007】
特許文献2は、高温環境下で使用される金属部材の割れを抑止するため、レーザピーニング後にフラップホイール磨きをして、圧縮残留応力の付与と表面粗さの低減を両立させることを提案している。しかし、特許文献2には、レーザピーニング後の表面粗さの異方性等について何ら記載がない。
【0008】
非特許文献1は、処理面の表面粗さや変形を抑制しつつ、圧縮残留応力を付与するレーザピーニングには、ナノ秒レーザよりもパルス幅が短いサブナノ秒レーザが好ましいことを述べているに留まる。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来とは異なる新たな表面改質方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意研究した結果、パルスレーザの照射間隔を方向により変化させることにより、照射面(処理面)の表面粗さに異方性が生じることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0011】
《表面改質方法》
本発明は、被処理面へパルスレーザを照射して衝撃力を加える照射工程を備える表面改質方法であって、該パルスレーザの照射間隔は、第1方向に沿った第1間隔(d1)よりも、該第1方向と異なる第2方向に沿った第2間隔(d2)が短い表面改質方法である。
【0012】
本発明によれば、機序は定かではないが、パルスレーザを照射した処理面の表面粗さを、照射間隔の広い第1方向よりも照射間隔の狭い第2方向に関して、相対的に小さくできる。このため本発明の表面改質方法によれば、例えば、圧縮残留応力の付与や加工硬化等による機械的特性の向上に留まらず、表面粗さを抑制・低減等して摺動特性の向上等を図ることも可能となる。
【0013】
《改質部材》
本発明は改質部材としても把握される。例えば、本発明は、パルスレーザが照射された処理面を備え、処理面は、第1方向に沿った表面粗さよりも、第1方向と異なる第2方向に沿った表面粗さが小さい改質部材でもよい。その処理面は、表面粗さ以外の特性に関しても、異方性を発揮してもよい。例えば、処理面に付与された圧縮残留応力は、第1方向よりも第2方向に関して大きくてもよい。
【0014】
《その他》
(1)パルスレーザのビーム形状は円形状に限らず、楕円形状等の異形状でもよい。本明細書でいう照射間隔は、ビーム(スポット)の形状に依らず、隣接スポット間における中心間距離とする。エネルギー密度が集中するビーム中心(スポット中心)の軌跡に基づいて照射間隔を特定すれば十分である。
【0015】
なお、照射間隔は、例えば、走査速度や照射タイミング(パルス間隔/周波数)の設定値に基づいて特定されてもよいし、実物である処理面上にある照射痕(例えば、観察域:2mm×2mm)から、中心間距離の平均値として特定されてもよい。
【0016】
本明細書でいう「第1」、「第2」は説明の便宜上の呼称であり、第1方向と第2方向は任意に選択される。また、各方向は一定(直線状の方向)でも、変化してもよい。第1方向と第2方向が直交していると、パルスレーザの走査経路(軌跡)の制御が容易となる。
【0017】
(2)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。特に断らない限り、本明細書でいう「x~yns」はxns~ynsを意味する。他の単位系(GW/cm等)についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】処理装置例を示す模式図である。
図2】被処理面に対するパルスレーザの走査軌跡例を示す模式図である。
図3】照射間隔比(dx/dy)と表面粗さ(Ra、Rz)の関係を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、方法のみならず物(部材等)にも適宜該当し得る。方法に関する構成要素は物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0020】
《レーザ照射》
(1)照射間隔
第2間隔(d2)に対する第1間隔(d1)の割合である(照射)間隔比(d1/d2)は、例えば、1超、1.5以上(超)、2以上(超)、2.5以上(超)、3以上(超)、4以上(超)、さらには5以上(超)である。その上限は問わないが、敢えていうと、10以下、8以下さらには6以下とするとよい。これにより所望の処理面が効率的に得られる。
【0021】
第1間隔(d1)は、例えば、パルスレーザのスポット径よりも小さいとよい。第2間隔(d2)は第1間隔よりも小さいため、当然、スポット径よりも小さくなる。このとき、隣接する照射域(スポット)間で重畳が生じるため、被処理面全体が略均一的に表面改質される。
【0022】
なお、本明細書では、スポット(ビーム断面)の形状を問わず、そのサイズを「径」という。スポット径は、パルスレーザの走査軌跡とスポットの外縁との交点間(線分)の距離である。例えば、走査軌跡が直線でスポットが円形状なら、その直径がスポット径となる。
【0023】
(2)走査
パルスレーザは、レーザ源(光源)と被処理面(基体等)の相対移動により走査される。それら両方を移動させてもよいが、通常、一方のみを移動させれば足る。
【0024】
パルスレーザの軌跡(走査経路)は直線状でも曲線状でもよい。第1方向と第2方向が直交するとき、第2間隔毎に、第1方向に平行な経路に沿ってパルスレーザを走査させるとよい。例えば、第1方向の一方(X軸(正)方向)に沿って第1間隔(dx)ずつパルス照射した後、第2方向(Y軸方向)へ第2間隔(dy)だけズレて、第1方向の他方(X軸(負)方向)に沿って第1間隔(dx)ずつパルス照射が繰り返しなされるとよい。このように走査してパルスレーザを照射すると、機序は明らかではないが、第1方向より第2方向に関して、表面粗さが小さくなると共に圧縮残留応力が大きくなり得る。
【0025】
(3)レーザ
レーザは、アブレーションを生じさせる大きなパワー密度(エネルギー密度/フルエンス)をもつ短パルスレーザ(単に「パルスレーザ」という。)であるとよい。パワー密度は、例えば、1~100GW/cm、1~50GW/cmさらには1~25GW/cmである。パワー密度は、レーザ出力をレーザスポット面積で除して求まる。パルス幅は、例えば、0.1~100ns、1~50nsさらには1~10nsである。
【0026】
ちなみにアブレーションは、レーザの照射域にある原子等が、気化、蒸発、蒸散、飛散等して放出される現象である。放出された粒子(「放出粒子」という。)は、原子、分子、イオン、電子、光子、ラジカル、クラスター等の様々な形態をとり得る。なお、アブレーションは、電離した荷電粒子からなる状態(狭義のプラズマ)を生じる場合には限られないが、そのようなアブレーションにより生じる衝撃波を適宜「プラズマ衝撃波」という。
【0027】
パルスレーザを照射した物体表面付近で生じるアブレーションに伴う膨脹(衝撃波)が、透明な液体(水、油等)や物体(ガラス、樹脂等)で抑止されることにより、その表面付近は、超高圧状態となり衝撃力を受ける。その衝撃力が表面付近の降伏応力を越えることにより、その表面付近には、塑性変形による加工硬化や圧縮残留応力が生じる。
【0028】
パルスレーザの波長は、被処理面に対する吸収率が大きく、またアブレーションの膨脹を抑止する物質(適宜「透明体」という。)に対する透過率も大きいとよい。その波長は、例えば、1100~300nmさらには700~400nmである。本明細書でいう波長は、基本波長でも、変換後の波長(第2高調波、第3高調波等)でもよい。基本光源に代表的なYAGレーザを用いる場合なら、例えば、基本波長:1064nm、第2高調波:532nmまたは第3高調波:355nmのパルスレーザを利用できる。
【0029】
基本光源となるレーザ(媒質)の種類は問わず、固体レーザ、気体レーザ、液体レーザ等のいずれでもよい。通常、Nd:YAGレーザ、Nd:YVOレーザ、Yb:fiberレーザなどの固体レーザが用いられる。また半導体レーザ(GaAs、GaAlAs、GaInAs等)を基本光源としてもよい。
【0030】
(4)照射条件
パルスレーザを照射する繰返し周波数は、例えば、1~100Hz、1~50Hzさらには1~20Hzである。繰返し周波数は、1秒間に照射されるパルス数である。繰返し周波数が過小でも過大でも、表面改質処理の効率や効果が低下し得る。
【0031】
パルスレーザのカバレージは、例えば、100~10000%、300~8000%さらには500~7000%である。カバレージの増加に伴い、処理面の均質性が向上し得る。カバレージ(Cv)は、単位面積あたりのレーザ重畳率(%)であり、次式により算出される。
Cv=100×Ap×Np(%)、
Ap:スポット面積(mm)、Np:照射密度(パルス数/mm
【0032】
換言すると、カバレージ(Cv)は、表面改質を行う領域の面積(S)に対して、レーザ照射がなされた総面積(A)の割合である。レーザのビーム形状が円形である場合、Ap=πd/4、A=Ap×N(d:スポット径、N:照射されたパルス総数)となり、Cv=100×A/S=100×Ap×N/S(%)となる。
【0033】
被処理面に対するレーザ照射域の移動速度(レーザの走査速度)、移動する照射域を重畳させる割合(パルスラップ率)などは、既述した条件を満たす範囲内で適宜調整される。繰返し周波数にも依るが、走査速度は、例えば、0.1~500mm/sさらには1~100mm/s、パルスラップ率は、例えば、10~100%未満さらには20~95%である。
【0034】
(5)処理雰囲気
レーザ照射は、アブレーション(特にプラズマ)により生じる膨脹が抑制される雰囲気下でなされるとよい。例えば、既述した透明体(水等の液体、ガラス等の固体、大気や不活性ガス等の気体)で覆われた被処理面へ、その透明体側からレーザ照射されるとよい。なお、透明体の形態は問わず、例えば、膜状(液膜、ガラスや樹脂等のコーティング)でもよい。
【0035】
《基体》
被処理面を有する基体(基材)は、その材質、形態(形状、大きさ)、用途等を問わない。基体は、単一材の他、複数の異種材からなる接合材体でも、基材中にフィラーが分散した複合材でもよい。本明細書でいう「母材」は、改質される被処理材の表面側にある主たる材料を意味する。
【0036】
代表的な母材は金属である。金属は、例えば、Fe基材、Al基材、Mg基材、Ti基材である。基材は、単体、合金、化合物等である。
【0037】
なお、被処理面は、基材自体の表面でもよいし、その基材表面に別な膜、層、箔等が付着された付着面でもよいし、基材表面に他の表面処理が施された改質面でもよい。
【0038】
《改質部材》
被処理面を表面改質して得られる改質部材の用途は問わない。改質部材の用途例として改質部材がある。摺動部材は、例えば、内燃機関や変速機の各部材(ピストン等)、歯車、軸または軸受等である。その主たる摺動方向が、表面粗さが小さくなる方向(本発明でいう第2方向)に沿っていると好ましい。つまり摺動面が、(被)処理面の第2方向を略摺動方向としているとよい。なお、改質部材は、処理面に付与された大きな圧縮残留応力により、優れた疲労強度、耐食性(例えば、耐応力腐食割れ)等も発揮し得る。
【実施例0039】
直交二方向の照射間隔を種々変更して、パルスレーザを被処理面へ照射した試料(改質部材)を製作し、改質された処理面の特性を評価した。このような具体例に基づいて、以下で本発明をより詳細に説明する。
【0040】
《試料の製作》
図1に示す処理装置を用いて、アルミニウム合金(JIS A5052)からなる基板(基体)の被処理面へパルスレーザを照射して表面改質処理を行った。具体的には次の通りである。
【0041】
処理装置は、レーザ源、反射ミラーや集光レンズを備える光学系、基板を収容する水槽、水槽の前面側に集光レンズに対向して設けた光学窓(レーザ透過窓)と、水槽を直交三軸方向(X方向、Y方向、Z方向)へ移動させれる(3軸)可動ステージとを備える。なお、説明の便宜上、光路方向(光学系と水槽の距離を調整する方向)をZ方向、Z方向に直交する鉛直方向(水槽(被処理面)を上下動させる方向)をY方向(第2方向)、Z方向に直交する水平方向(水槽(被処理面)を水平動させる方向)をX方向(第1方向)とする。
【0042】
水槽内に基板を設置(固定)して、純水(透明体)を満たした。基板の被処理面上に水泡等が滞留しないように、マグネットポンプにより被処理面上に水流を常に生じさせた。レーザが通過する水中の厚さ(水中の入射面から被処理面までの距離)は約2cmとした。
【0043】
レーザ源にはNd;YAGの第二高調波(波長:532nm)を用いた。パルスレーザは、繰返し周波数:10Hz、パルス幅:6nm、スポット径D(被処理面上の照射域):0.84mm、パワー密度:3GW/cmとした。
【0044】
可動ステージを操作して、図2に示すように被処理面の処理域(5mm×5mm)上でパルスレーザを走査させた。具体的にいうと、先ず、X方向に沿って間隔dx毎に照射域(スポット)を移動させる。次に、処理域の端部でY方向に沿って間隔dyだけ上昇した位置から、X方向に沿って間隔dx毎に照射域(スポット)を逆向きに移動(折り返し)する。このような往復動を繰り返して、処理域全体に、カバレージ:500%(一スポットあたり5回のパルス照射)としてパルスレーザを照射した。試料毎に、照射間隔(dx、dy)を表1に示すように変更した。
【0045】
《測定》
(1)表面粗さ
各試料の処理面の表面粗さを、接触式表面粗さ測定機(ミツトヨ、 SJ 410 )を用いて測定した。評価長さ:4mm、基準長さ(カットオフ値):0.8mmとした。Y方向に沿って測定した算術平均粗さ(Ra)と最大高さ(Rz)を表1に併せて示した(JIS B 0601:2001)。
【0046】
(2)残留応力
各試料の処理面の残留応力を、X線応力測定装置(パルステック工業株式会社製、μ-X360s/線源:CrKα線、コリメータ径:φ1mm)を用いて測定した。両方向(X、Y)の残留応力を表1に併せて示した。なお、表中の「-」は、残留応力が圧縮応力であることを示す。なお、レーザ照射していない未処理な被処理面の残留応力は-21MPaであった。
【0047】
《評価》
(1)照射間隔と表面粗さ
表1に基づいて、照射間隔の割合(間隔比:dx/dy)とY方向の表面粗さとの関係を図3に示した。表1および図3から明らかなように、間隔比が1未満(以下)の範囲では、間隔比の減少と共にY方向の表面粗さが急増した。一方、間隔比が1超になると、間隔比の増加と共にY方向の表面粗さが安定的に減少した。なお、間隔比が変化しても、X方向の表面粗さは略一定(Ra:2.64~2.84μm、Rz:17.06~18.79μm)であった。
【0048】
(2)照射間隔と圧縮残留応力
表1から明らかなように、間隔比が変化しても、いずれの方向の圧縮残留応力もあまり変動しなかった。但し、照射間隔が小さいY方向の圧縮残留応力は、X方向の圧縮残留応力よりも大きく、基材(A5052)の降伏応力(215MPa)に相当する十分な大きさであった。
【0049】
以上から明らかなように、パルスレーザを照射する間隔を二方向間で変化させることにより、大きな圧縮残留応力を付与しつつ、表面粗さの抑制または調整が可能になることが確認された。
【0050】
【表1】
図1
図2
図3