(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153476
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】プレキャストコンクリート部材およびプレキャストコンクリート部材による躯体構築方法
(51)【国際特許分類】
E04C 3/20 20060101AFI20231011BHJP
E04C 2/04 20060101ALI20231011BHJP
E04B 1/21 20060101ALI20231011BHJP
E04B 5/18 20060101ALI20231011BHJP
E04G 25/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
E04C3/20
E04C2/04 Z
E04B1/21 A
E04B5/18
E04G25/00 E
E04G25/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062778
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼崎 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】喜田 亮太
(72)【発明者】
【氏名】末 宏美
【テーマコード(参考)】
2E150
2E162
2E163
【Fターム(参考)】
2E150JC01
2E150JD21
2E150JE02
2E162CA11
2E163FA12
2E163FD21
2E163FD23
(57)【要約】
【課題】プレキャストコンクリート部材を用いた躯体構築の際に上階のプレキャストコンクリート部材を効率的に設置することができ、躯体構築の施工効率を向上可能なプレキャストコンクリート部材およびプレキャストコンクリート部材による躯体構築方法を提供する。
【解決手段】このプレキャストコンクリート部材12は、鉄筋コンクリート造の躯体を構築するための部材であって、構築時に使用される支保工の設置を補助するための支保工設置補助部材13がコンクリートに予め埋め込まれている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の躯体を構築するためのプレキャストコンクリート部材であって、
前記構築時に使用される支保工の設置を補助するための支保工設置補助部材がコンクリートに予め埋め込まれているプレキャストコンクリート部材。
【請求項2】
前記支保工設置補助部材は、上面から突出し前記支保工の間隔を保持する支保工間隔保持部材である請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材。
【請求項3】
前記支保工設置補助部材は、支保工用部材を上面から係合可能な支保工受け部材である請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材。
【請求項4】
前記プレキャストコンクリート部材は、梁部材または床部材である請求項1乃至3のいずれかに記載のプレキャストコンクリート部材。
【請求項5】
前記プレキャストコンクリート部材は、ハーフプレキャスト梁またはハーフプレキャスト床である請求項1乃至3のいずれかに記載のプレキャストコンクリート部材。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のプレキャストコンクリート部材を用いて鉄筋コンクリート造の躯体を構築する方法であって、
N階のプレキャストコンクリート部材を設置する工程と、
前記N階のプレキャストコンクリート部材に予め埋め込まれた前記支保工設置補助部材を用いて(N+1)階のプレキャストコンクリート部材を保持するための支保工を設置する工程と、
前記支保工を用いて前記(N+1)階のプレキャストコンクリート部材を設置する工程と、を備える、プレキャストコンクリート部材による躯体構築方法。
ただし、N=1,2,3,・・・
【請求項7】
前記プレキャストコンクリート部材がハーフプレキャスト部材であり、
前記(N+1)階のプレキャストコンクリート部材の設置工程の間または後に前記N階のプレキャストコンクリート部材へのコンクリート打設を行う請求項6に記載のプレキャストコンクリート部材による躯体構築方法。
【請求項8】
請求項2に記載のプレキャストコンクリート部材を用いて鉄筋コンクリート造躯体を構築する方法であって、
前記プレキャストコンクリート部材がハーフプレキャスト部材であり、
前記支保工間隔保持部材は、前記ハーフプレキャスト部材に打設されるコンクリートの上面よりも突き出ており、
N階のプレキャストコンクリート部材を設置する工程と、
前記N階のプレキャストコンクリート部材に予め埋め込まれた前記支保工間隔保持部材を用いて(N+1)階のプレキャストコンクリート部材を保持するための支保工を設置する工程と、
前記支保工を用いて前記(N+1)階のプレキャストコンクリート部材を設置する工程と、
前記N階のプレキャストコンクリート部材へのコンクリート打設を行う工程と、を備えるプレキャストコンクリート部材による躯体構築方法。
ただし、N=1,2,3,・・・
【請求項9】
請求項3に記載のプレキャストコンクリート部材を用いて鉄筋コンクリート造躯体を構築する方法であって、
前記プレキャストコンクリート部材がハーフプレキャスト部材であり、
N階のプレキャストコンクリート部材を設置する工程と、
前記N階のプレキャストコンクリート部材に予め埋め込まれた前記支保工受け部材に前記支保工用部材を係合させて(N+1)階のプレキャストコンクリート部材を保持するための支保工を設置する工程と、
前記支保工を用いて前記(N+1)階のプレキャストコンクリート部材を設置する工程と、
前記N階のプレキャストコンクリート部材へのコンクリート打設を行う工程と、を備えるプレキャストコンクリート部材による躯体構築方法。
ただし、N=1,2,3,・・・
【請求項10】
前記N階のプレキャストコンクリート部材に打設されたコンクリートが硬化した後に前記N階のプレキャストコンクリート部材に設置された支保工を撤去し、前記支保工間隔保持部材を除去した後に、その除去後の凹部をコンクリートまたはモルタルにより埋める請求項8に記載のプレキャストコンクリート部材による躯体構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート部材およびプレキャストコンクリート部材による躯体構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、現場施工の省力化の観点から建築物の構造部材としてコンクリート部材のプレキャスト(PCa)化が進み、プレキャスト工法として工場で作製されたハーフプレキャスト部材を用いて鉄筋コンクリート造躯体を現場で構築し、仕上げとしてハーフプレキャスト部分に現場でコンクリートを打設して躯体を構築する工法も用いられている。
【0003】
ハーフプレキャスト部材を用いた鉄筋コンクリート造の躯体構築の従来の工程(a)~(e)について
図7を参照して説明する。まず、
図7(a)のように、下階のプレキャスト柱(図示省略)を設置し、上階のハーフプレキャスト梁用の支保工81を床コンクリート80上に設置し、この支保工81を用いて上階のハーフプレキャスト梁82を設置する。次に、
図7(b)のように、上階のハーフプレキャスト床83を設置し、次に、
図7(c)のように、ハーフプレキャスト床83上のスペース84およびハーフプレキャスト梁82上のスペース85に配筋する。次に、
図7(d)のように、スペース84,85を含めてハーフプレキャスト床83およびハーフプレキャスト梁82上に床コンクリート86を打設する。次に、
図7(e)のように、上階プレキャスト柱(図示省略)を設置し、床コンクリート86の硬化後に床コンクリート86上にさらに上階のハーフプレキャスト梁用の支保工91を設置し、この支保工91を用いてさらに上階のハーフプレキャスト梁92を設置する。上記工程を繰り返すことで、下階から上階へと順に躯体を積み上げるようにして構築していく。
【0004】
特許文献1は、プレキャストコンクリートで構成される複数の柱部材を上下に接合して構成される複数の柱と、隣接する2つの柱に接合されるプレキャストコンクリートで構成された梁部材とを用いて構成される建物の柱梁接合構造の接合方法に用いられる梁受金物を開示する(
図3,
図4)。梁受金物は梁部材を支持する支保工の一部として用いられ、2つの梁受金物が、柱部材において梁部材を設置する側面に離間して取り付けられ、本体部と、高さ調整ボルト及び支持板とを備え、高さ調整ボルトを調整して、支持板の上面を、柱部材の上面と同じ高さにすることにより、支持板の上面で梁部材の下面を支持することができる(段落0013,0014参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、
図7(e)の従来の支保工91は、短管と矩形のベースとから構成され、コンクリート床面を傷つけないように敷いた板などの上に設置し、設置面である床コンクリート86がコンクリート打設後に硬化し所定の強度が発現するまで設置できない。
図7(a)~(e)の従来の工程によれば、
図7(d)で打設した床コンクリート86の所定強度の発現まで、床コンクリート86上にその上階のハーフプレキャスト梁92用の支保工91を設置することができず、上階のハーフプレキャスト梁92の設置は床コンクリート86の強度発現まで待つ必要があるため、効率的な施工の妨げとなり、施工効率が低下していた。
【0007】
特許文献1の梁受金物は、梁部材を支持する支保工の一部として用いられるが、柱部材に設けられ、プレキャストコンクリートからなる梁部材に設けられるものではない。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、プレキャストコンクリート部材を用いた躯体構築の際に上階のプレキャストコンクリート部材を効率的に設置することができ、躯体構築の施工効率を向上可能なプレキャストコンクリート部材およびプレキャストコンクリート部材による躯体構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためのプレキャストコンクリート部材は、鉄筋コンクリート造の躯体を構築するためのプレキャストコンクリート部材であって、前記構築時に使用される支保工の設置を補助するための支保工設置補助部材がコンクリートに予め埋め込まれている。
【0010】
このプレキャストコンクリート部材によれば、躯体構築時に用いられる支保工設置補助部材がコンクリートに予め埋め込まれているので、下階のプレキャストコンクリート部材を設置した後に、その支保工設置補助部材を用いて上階用支保工を設置することができ、下階のプレキャストコンクリート部材の次の施工工程、たとえば仕上げコンクリートの打設を待たずに上階用支保工により上階のプレキャストコンクリート部材の設置工程を行うことができる。このように、下階のプレキャストコンクリート部材の設置後の施工工程を待たずに上階のプレキャストコンクリート部材を設置することができ、効率的な施工を実現でき、躯体構築の施工効率を向上することができる。
【0011】
上記プレキャストコンクリート部材において、前記支保工設置補助部材は、上面から突出し前記支保工の間隔を保持する支保工間隔保持部材であることが好ましい。
【0012】
また、前記支保工設置補助部材は、支保工用部材を上面から係合可能な支保工受け部材であってもよい。
【0013】
前記プレキャストコンクリート部材は、梁部材または床部材であることが好ましい。
【0014】
前記プレキャストコンクリート部材は、ハーフプレキャスト梁またはハーフプレキャスト床であることが好ましい。
【0015】
上記目的を達成するためのプレキャストコンクリート部材による躯体構築方法は、上述のプレキャストコンクリート部材を用いて鉄筋コンクリート造の躯体を構築する方法であって、
N階のプレキャストコンクリート部材を設置する工程と、前記N階のプレキャストコンクリート部材に予め埋め込まれた前記支保工設置補助部材を用いて(N+1)階のプレキャストコンクリート部材を保持するための支保工を設置する工程と、前記支保工を用いて前記(N+1)階のプレキャストコンクリート部材を設置する工程と、を備える。
ただし、N=1,2,3,・・・
【0016】
このプレキャストコンクリート部材による躯体構築方法によれば、支保工設置補助部材がプレキャストコンクリート部材に予め埋め込まれているので、支保工を設置する位置が明確で設置施工が容易となり、また、N階のプレキャストコンクリート部材を設置した後に、その支保工設置補助部材を用いて(N+1)階用支保工を設置することができ、N階のプレキャストコンクリート部材の次の施工工程によらずに(N+1)階用支保工により(N+1)階のプレキャストコンクリート部材の設置工程を行うことができる。このように、N階のプレキャストコンクリート部材の設置後の施工工程を待たずに(N+1)階のプレキャストコンクリート部材を設置することができ、効率的な施工を実現でき、躯体構築の施工効率を向上することができる。
【0017】
上記プレキャストコンクリート部材による躯体構築方法において、前記プレキャストコンクリート部材がハーフプレキャスト部材であり、前記(N+1)階のプレキャストコンクリート部材の設置工程の間または後に前記N階のプレキャストコンクリート部材へのコンクリート打設を行うことが好ましい。プレキャストコンクリート部材がハーフプレキャスト部材である場合、N階のハーフプレキャスト部材へのコンクリート打設前に、(N+1)階のハーフプレキャスト部材の設置を行うことができる。このため、N階のハーフプレキャスト部材上に打設したコンクリートが硬化し所定の強度が発現するまで(N+1)階のハーフプレキャスト部材の設置を待つ必要がないので、効率的な施工を実現できる。
【0018】
また、前記支保工設置補助部材が上面から突出し前記支保工の間隔を保持する支保工間隔保持部材であるプレキャストコンクリート部材を用いて鉄筋コンクリート造躯体を構築する方法は、
前記プレキャストコンクリート部材がハーフプレキャスト部材であり、
前記支保工間隔保持部材は、前記ハーフプレキャスト部材に打設されるコンクリートの上面よりも突き出ており、
N階のプレキャストコンクリート部材を設置する工程と、前記N階のプレキャストコンクリート部材に予め埋め込まれた前記支保工間隔保持部材を用いて(N+1)階のプレキャストコンクリート部材を保持するための支保工を設置する工程と、前記支保工を用いて前記(N+1)階のプレキャストコンクリート部材を設置する工程と、前記N階のプレキャストコンクリート部材へのコンクリート打設を行う工程と、を備える。
ただし、N=1,2,3,・・・
【0019】
このプレキャストコンクリート部材による躯体構築方法によれば、(N+1)階のプレキャストコンクリート部材の設置工程の間または後にN階のプレキャストコンクリート部材へのコンクリート打設を行うことができるが、この打設工程において支保工間隔保持部材が打設されるコンクリートの上面よりも突き出ているので、支保工間隔保持部材の上部の支保工がコンクリート内に埋まることがなく、打設工程に支障が生じない。
【0020】
また、前記支保工設置補助部材が支保工用部材を上面から係合可能な支保工受け部材であるプレキャストコンクリート部材を用いて鉄筋コンクリート造躯体を構築する方法は、
前記プレキャストコンクリート部材がハーフプレキャスト部材であり、
N階のプレキャストコンクリート部材を設置する工程と、
前記N階のプレキャストコンクリート部材に予め埋め込まれた前記支保工受け部材に前記支保工用部材を係合させて(N+1)階のプレキャストコンクリート部材を保持するための支保工を設置する工程と、
前記支保工を用いて前記(N+1)階のプレキャストコンクリート部材を設置する工程と、
前記N階のプレキャストコンクリート部材へのコンクリート打設を行う工程と、を備える。
ただし、N=1,2,3,・・・
【0021】
このプレキャストコンクリート部材による躯体構築方法によれば、N階のプレキャストコンクリート部材に予め埋め込まれた支保工受け部材に支保工用部材を挿入等により係合させて(N+1)階のプレキャストコンクリート部材用の支保工を設置し、この支保工を用いた(N+1)階のプレキャストコンクリート部材の設置工程の間または後にN階のプレキャストコンクリート部材へのコンクリート打設を行うことができる。
【0022】
前記N階のプレキャストコンクリート部材に打設されたコンクリートが硬化した後に前記N階のプレキャストコンクリート部材に設置された支保工を撤去し、前記支保工間隔保持部材を除去した後に、その除去後の凹部をコンクリートまたはモルタルにより埋めることが好ましい。
【0023】
なお、ハーフプレキャスト部材とは、施工現場において打設されるコンクリート部分の厚みを省略して工場で製造されるもので、施工現場でハーフプレキャスト部材上にコンクリートを打設し、梁やコンクリート床等を所定の厚さにして完成させる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のプレキャストコンクリート部材およびプレキャストコンクリート部材による躯体構築方法によれば、プレキャストコンクリート部材を用いた躯体構築の際に上階のプレキャストコンクリート部材を効率的に設置することができ、躯体構築の施工効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本実施形態によるハーフプレキャスト梁を所定位置に設置した状態で一部内部を示す側面図である。
【
図2】
図1のハーフプレキャスト梁の支保工間隔保持部材と支保工支柱との接続部を示す要部断面図である。
【
図3】本実施形態によるハーフプレキャスト梁による躯体構築方法の主要な工程(a)~(f)を概略的に示す側面図である。
【
図4】
図1,
図2の支保工間隔保持部材の除去を説明するための図である。
【
図5】本実施形態によるハーフプレキャスト梁の支保工間隔保持部材の別の例を示す要部側面図(a)および支保工間隔保持部材の除去を説明するための要部側面図(b)である。
【
図6】本実施形態において別の例による支保工受け部材を予め埋め込んだハーフプレキャスト梁を示す側面図(a)および支保工受け部材に支保工支柱を係合させたハーフプレキャスト梁を示す側面図(b)である。
【
図7】従来のプレキャストコンクリート部材による躯体構築方法の主要な工程(a)~(e)を概略的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態によるハーフプレキャスト梁を所定位置に設置した状態で一部内部を示す側面図である。
図2は、
図1のハーフプレキャスト梁の支保工間隔保持部材と支保工支柱との接続部を示す要部断面図である。
【0027】
本実施形態による支保工設置補助部材付きプレキャスト部材として、支保工間隔保持部材が予め埋め込まれたハーフプレキャスト梁、および、支保工間隔保持部材と支保工支柱との接続部について
図1,
図2を参照して説明する。
【0028】
図1に示すように、ハーフプレキャスト梁12は、工場製造時にコンクリート内に予め埋め込まれた支保工間隔保持部材13を有し、支保工間隔保持部材13は、たとえば、太径ネジ鉄筋を一対用いて上面から所定の長さで突き出ており、さらに破線で示す現場施工で構築されるコンクリート床17,梁上部18の天端レベル(コンクリート床17の上面17a,梁上部18の上面18a)から突き出るように設けられ、予め計画された支保工設置位置に対応するように梁の長手方向(
図1の紙面奥行方向)の複数位置に配置されている。
【0029】
図1のハーフプレキャスト梁12は、プレキャスト柱間の所定位置に設置された後、上部のスペース16内に内部から伸びて位置するせん断補強筋12aの内側に複数の主筋16aが配筋され、また、ハーフプレキャスト床14の上部のスペース15に配筋されてから、スペース15,16を含むコンクリート床17の形成部分にコンクリートが打設される。これにより、ハーフプレキャスト梁12と梁上部18とが合体することで梁が構築されるとともに、ハーフプレキャスト床14とその上部に打設されたコンクリートとにより破線で示すコンクリート床17が構築される。梁上部18の上面18aとコンクリート床17の上面17aとは同一平面を構成し、梁上部18の上面18aから支保工間隔保持部材13が突き出ている。
【0030】
図2のように、N階のハーフプレキャスト梁12の支保工間隔保持部材13と(N+1)階のハーフプレキャスト梁22用の鋼管等からなる支保工支柱21とが接続部25で接続されて(N+1)階のハーフプレキャスト梁22用の支保工35が構築される。すなわち、太径ネジ鉄筋からなる支保工間隔保持部材13の上端部にプレートナット26をねじ込んで固定し、プレートナット26のプレート部26aに支保工支柱21の下端プレート27を載せ、必要に応じてプレート部26aと下端プレート27との間に強力万力28を複数配置し、強力万力28によりプレートナット26と支保工支柱21とを固定することで、支保工間隔保持部材13と支保工支柱21とが確実に接続され、安定した支保工35を確実に設置することができる。また、一対の支保工支柱21は、長さ方向中間部に配置された連結部29により水平方向に連結されて安定性が確保される。
【0031】
また、支保工間隔保持部材13はプレートナット26と協働して支保工35の間隔を所定長さに保持するようになっている。すなわち、支保工間隔保持部材13の上端部にプレートナット26を回転してねじ込む際に、プレートナット26の回転量の調整によりプレートナット26の頂部の高さを調整し、支保工間隔保持部材13とプレートナット26との全体高さを調整できるので、支保工支柱21と接続したとき支保工35を所定長さにできる。
【0032】
次に、
図1,
図2のハーフプレキャスト梁を用いた鉄筋コンクリート造の躯体構築方法の各工程について
図3を参照して説明する。
図3は本実施形態によるハーフプレキャスト梁による躯体構築方法の主要な工程(a)~(f)を概略的に示す側面図である。
【0033】
まず、
図3(a)のように、N階のプレキャスト柱(図示省略)を設置し、N階のハーフプレキャスト梁12を設置時に保持するための支保工支柱11を床コンクリート10上に設置し、この支保工支柱11を用いて
図1のN階のハーフプレキャスト梁12を支持し設置する。
【0034】
ハーフプレキャスト梁12は、工場で製造され、施工現場に搬入されたときには既に工場での製造時にコンクリート内に予め埋め込まれた支保工間隔保持部材13がコンクリート上面から突き出ている。
【0035】
次に、
図3(b)のように、N階のハーフプレキャスト床14を設置する。次に、
図3(c)のように、ハーフプレキャスト梁12の上面から突き出た支保工間隔保持部材13に対し、
図2のように、(N+1)階のハーフプレキャスト梁22(
図3(d))を設置時に保持するための支保工支柱21を接続部25で接続する。支保工支柱21と支保工間隔保持部材13とは接続部25で接続して(N+1)階のハーフプレキャスト梁22を保持する支保工35を構成する。なお、支保工35を設置する位置は、支保工間隔保持部材13の位置から予め明確であるため施工時に支保工の位置調整などが不要で支保工の設置施工が容易となる。
【0036】
次に、
図3(d)のように、(N+1)階のハーフプレキャスト梁22を、支保工間隔保持部材13と支保工支柱21とから構成される支保工35により支持された状態で設置する。なお、このとき、(N+1)階プレキャスト柱(図示省略)を設置する。
【0037】
次に、
図1,
図3(e)のように、N階のハーフプレキャスト床14上のスペース15に配筋し、N階のハーフプレキャスト梁12の上部のスペース16に配筋する。次に、
図3(f)のように、
図1,
図3(e)の配筋がされたスペース15,16を埋めるようにしてN階のハーフプレキャスト床14の上部とN階のハーフプレキャスト梁12の上部にコンクリートを打設し、コンクリート床17および梁上部18を形成する。
【0038】
図3(d)の(N+1)階のハーフプレキャスト梁22に同様の支保工間隔保持部材23が予め埋め込まれており、上述の各工程を繰り返すことで、N階、(N+1)階、(N+2)階へと鉄筋コンクリート造の躯体を構築することができる。(N=1,2,3,・・・)
【0039】
以上のようにして、本実施形態によれば、N階のハーフプレキャスト梁12を設置した後、N階のコンクリート床17,梁上部18のコンクリート打設前に、N階のハーフプレキャスト梁12に予め埋め込まれた支保工間隔保持部材13を用いて(N+1)階のハーフプレキャスト梁22の設置のための支保工35を設置できるので、かかる支保工35を用いて(N+1)階のハーフプレキャスト梁22を設置することができる。このため、従来のように打設されたN階の床コンクリートが硬化し所定の強度が発現するまで(N+1)階のハーフプレキャスト梁の設置を待つ必要がなくなる。
図7のような下階から上階へと順次積み上げる従来の方法に対し、N階の床コンクリートの打設前に(N+1)階のハーフプレキャスト梁を設置でき、N階の床コンクリートの強度発現の日数を考慮する必要がなくなるので、効率的な施工を実現でき、躯体構築の施工効率を向上させることができる。
【0040】
また、支保工間隔保持部材13は、コンクリート打設された梁上部18の上面18aよりも高く突き出ているので、支保工間隔保持部材13の上部の支保工支柱21がコンクリート内に埋まることがなく、コンクリート打設工程に支障が生じない。なお、支保工間隔保持部材13は、最終的に切断されるため、ハーフプレキャスト梁12の上面からの突出長さは、打設されるコンクリート床17,梁上部18のコンクリートの厚みより長ければよく、長すぎないほうが望ましい。
【0041】
図4は、
図1,
図2の支保工間隔保持部材の除去を説明するための図である。
図3(f)の支保工支柱21をN階のコンクリート床17の硬化後に撤去し、次に、支保工間隔保持部材13の除去による後処理を行う。すなわち、
図4のように、
図1の梁上部18の上面18aにおいて
図3(f)のコンクリート打設時に支保工間隔保持部材13の周囲のコンクリートを硬化前に除去して上面18aから凹んだ逆円錐台状の凹部19を形成しておき、コンクリート硬化後に、凹部19の底近傍で支保工間隔保持部材13の太径ネジ鉄筋を切断する。次に、凹部19内にコンクリートまたはモルタルを充填することで、凹部19をコンクリートまたはモルタルで埋める。
【0042】
次に、
図1,
図2の支保工間隔保持部材の別の例について
図5を参照して説明する。
図5は、本実施形態によるハーフプレキャスト梁の支保工間隔保持部材の別の例を示す要部側面図(a)および支保工間隔保持部材の除去を説明するための要部側面図(b)である。
図5(a)のハーフプレキャスト梁12は、太径ネジ鉄筋用長ナット30にねじ込まれた支保工間隔保持部材13を太径ネジ鉄筋用長ナット30とともに予め埋め込んだものである。
図5(a)のハーフプレキャスト梁12の支保工間隔保持部材13を、
図2と同様に支保工支柱21に接続部25で接続し、支保工を設置できる。
【0043】
図5(a)の支保工間隔保持部材13は、その太径ネジ鉄筋を、
図5(b)のように、
図3(f)の打設されたN階の梁上部18のコンクリート硬化後に、ネジ回しすることで緩めて上方に引き抜いて除去することができる。次に、太径ネジ鉄筋の除去により生じた穴部内にコンクリートまたはモルタルを充填することで、穴部をコンクリートまたはモルタルで埋める。なお、太径ネジ鉄筋とコンクリートとの界面はコンクリート剥離剤を塗布しておくか撤去可能なゴムホース等を用いて縁を切っておくことが好ましい。
【0044】
次に、支保工支柱を上面から係合可能な支保工受け部材を予め埋め込んだ別のハーフプレキャスト梁について
図6を参照して説明する。
図6は、本実施形態による支保工受け部材を予め埋め込んだハーフプレキャスト梁を示す側面図(a)および支保工受け部材に支保工支柱を係合させたハーフプレキャスト梁を示す側面図(b)である。
【0045】
図6(a)に示すハーフプレキャスト梁12Aは、鋼管からなる支保工受け部材33を予めコンクリート内に埋め込んだものである。支保工受け部材33は、ハーフプレキャスト梁12Aの上面または上面近傍から下方に延び、
図6(a)では上面から突き出ていないが、上面から突き出てもよい。支保工受け部材33は、その穴部33a内に支保工支柱21Aを上部から差し込んで係合可能になっている。
【0046】
ハーフプレキャスト梁12Aを
図3(a)のように設置した後に
図3(c)の工程で、
図6(b)のように、所定長さの支保工支柱21Aを支保工受け部材33の穴部33a内に差し込んで設置することで、(N+1)階のハーフプレキャスト梁22の設置時に安定して保持するための支保工36を構築できる。一対の支保工支柱21Aは
図2と同様に中間部に配置された連結部29により水平方向に連結されて安定性を確保する。また、後工程で支保工支柱21Aを上部に引き抜くことで撤去することができる。撤去後に梁上部18にできた穴部内にコンクリートまたはモルタルを充填し埋める。なお、支保工支柱21Aを引き抜き容易とするために
図3(f)のコンクリート打設前に支保工支柱21Aの梁上部18内の埋没部分にコンクリート剥離剤を塗布しておくか撤去可能なゴムホース等を用いて縁を切っておくことが好ましい。
【0047】
なお、支保工支柱を係合可能な支保工受け部材は、
図6(a)の構成に限定されず、他の構成であってもよい。たとえば、
図6(a)の鋼管からなる支保工受け部材33を太径ネジ鉄筋用長ナットに変更してもよく、この場合、
図3(c)の工程で所定長さの太径ネジ鉄筋をハーフプレキャスト梁12A内の太径ネジ鉄筋用長ナットにねじ込んで取り付けてから、
図2と同様に支保工支柱21を設置する。太径ネジ鉄筋の除去は
図5(b)と同様にして行い、除去後に穴部をコンクリートまたはモルタルで埋める。
【0048】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、
図1~
図6では支保工設置補助部材として支保工間隔保持部材や支保工受け部材を予め埋め込んだハーフプレキャスト梁を例にしたが、本発明は、これに限定されず、たとえば、ハーフプレキャスト床に適用することができる。すなわち、ハーフプレキャスト床を工場で支保工用間隔保持材や支保工受け部材を予め埋め込んで製造し、N階のハーフプレキャスト床の設置後で上部コンクリート打設前に、N階のハーフプレキャスト床に埋め込まれた支保工設置補助部材としての支保工用間隔保持材や支保工受け部材を用いて支保工を構築し、かかる支保工により(N+1)階のハーフプレキャスト床を支持して設置することができる。この場合、N階の上部コンクリート打設はポンプを用いて行うことが好ましい。
【0049】
また、本発明のプレキャストコンクリート部材は、ハーフプレキャスト部材に限定されず、現場設置後にコンクリート打設の必要がないプレキャストコンクリート部材であってもよく、この場合も、N階のプレキャストコンクリート部材の設置後に、次のN階のプレキャストコンクリート部材の施工工程に関わりなく(N+1)階のプレキャストコンクリート部材を設置することができ、効率的な施工を実現でき、躯体構築の施工効率を向上できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、プレキャストコンクリート部材を用いた鉄筋コンクリート造の躯体構築の際に上階のプレキャストコンクリート部材を効率的に設置でき、躯体構築の施工効率を向上できるため、かかる躯体による建物・建築物の工期短縮に寄与できる。
【符号の説明】
【0051】
12,12A ハーフプレキャスト梁
13 支保工間隔保持部材(支保工設置補助部材)
14 ハーフプレキャスト床
15,16 スペース
16a 主筋
17 コンクリート床
17a 上面
18 梁上部
18a 上面
19 凹部
21 支保工支柱
21A 支保工支柱
22 (N+1)階のハーフプレキャスト梁
23 支保工間隔保持部材
25 接続部
26 プレートナット
26a プレート部
27 下端プレート
28 強力万力
29 連結部
30 太径ネジ鉄筋用長ナット
33 支保工受け部材(支保工設置補助部材)
33a 穴部
35,36 支保工
【手続補正書】
【提出日】2022-12-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項6
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載のプレキャストコンクリート部材を用いて鉄筋コンクリート造の躯体を構築する方法であって、
N階のプレキャストコンクリート部材を設置する工程と、
前記N階のプレキャストコンクリート部材に予め埋め込まれた前記支保工設置補助部材を用いて(N+1)階のプレキャストコンクリート部材を保持するための支保工を設置する工程と、
前記支保工を用いて前記(N+1)階のプレキャストコンクリート部材を設置する工程と、を備える、プレキャストコンクリート部材による躯体構築方法。
ただし、N=1,2,3,・・・