(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153495
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】磁気冷凍材料およびそれを用いた磁気冷凍システム
(51)【国際特許分類】
H01F 1/01 20060101AFI20231011BHJP
F25B 21/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
H01F1/01 150
F25B21/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062806
(22)【出願日】2022-04-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「磁気冷凍材料および水素液化システムに関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 裕也
(72)【発明者】
【氏名】菊川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】辻井 直人
【テーマコード(参考)】
5E040
【Fターム(参考)】
5E040AB10
5E040CA16
5E040NN02
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は安価で加工しやすく寿命の長い冷凍材料を提供することである。
【解決手段】
磁気冷凍材料をRNi
xBからなる化合物を含む磁気冷凍材料とする。ここで、Rは、Gd(ガドリニウム)、Dy(ジスプロシウム)およびHo(ホルミウム)からなる群より選ばれる1以上からなる元素であり、xは3.8以上4.2以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNixBからなる化合物を含む磁気冷凍材料。Rは、Gd、DyおよびHoからなる群より選ばれる1以上からなり、xは3.8以上4.2以下である。
【請求項2】
前記xは4である、請求項1記載の磁気冷凍材料。
【請求項3】
前記RはGdである、請求項1記載の磁気冷凍材料。
【請求項4】
前記RはDyである、請求項1記載の磁気冷凍材料。
【請求項5】
前記RはHoである、請求項1記載の磁気冷凍材料。
【請求項6】
磁気熱量効果を示す磁気冷凍材料として請求項1から5の何れか一に記載の磁気冷凍材料を使用する、磁気冷凍システム。
【請求項7】
クライオポンプを備えた真空容器内部に、磁性体容器と前記磁性体容器に磁場を印加および除去する励磁消磁機構とクライオポンプステージとを備え、
前記磁性体容器は、少なくとも1つの端面に磁性部材を有し、かつ、少なくとも1つの端面に断熱材を有しており、
前記励磁消磁機構は、熱スイッチと永久磁石とを有し、前記真空容器内を移動可能であると共に、前記永久磁石と共に超伝導磁石を有し、
前記クライオポンプステージと前記磁性体容器は前記断熱材が設けられた端面で接しており、
前記励磁消磁機構は、前記磁性部材及び前記クライオポンプステージに熱スイッチで接することができ、
前記磁性部材は請求項1から5の何れか一に記載の磁気冷凍材料である、磁気冷凍システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気冷凍材料およびそれを用いた磁気冷凍システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素はエネルギーキャリアの柱として注目されている。その普及には、高密度での貯蔵・輸送が求められるので、「液体」状態で水素を取り扱う方向で供給ステーションなどのインフラをはじめとした大規模な社会投資が進もうとしている。
【0003】
水素の液化温度は約20K(マイナス253℃)とヘリウムに次いで低く、従来技術では効率的に水素液化を行うことが難しい。このため、効率的な水素液化技術の開発が嘱望されている。
【0004】
従来の気体の圧縮・膨張を利用した液化技術は、約40%という液化効率の原理上の上限があり、水素液化のコストを高止まりさせている一要因になっている。
一方、磁場を用いて磁性体を磁化(発熱)・消磁(吸熱)することで伴うエントロピー変化を利用した磁気熱量効果による磁気冷凍技術は、液化効率が理論上90%まで可能であり、エネルギーキャリアとしての水素普及を大いに進めるエンジンとして注目を集めている。なお、磁気冷凍技術およびそのための装置およびシステムについては、例えば特許文献1から4に開示がある。
【0005】
水素液化効率に直結する磁気冷凍材料の開発では、水素が液化する20K付近において磁性材料の磁場オン・オフ時における大きなエントロピー変化をもたらすことが第一に重要である。このため、これまでも室温磁気冷凍材料(La(FeSi)13)をはじめとした材料開発がおこなわれている。また、水素液化温度付近においても、ラーベス相(ErCO2)やEr5Si13といった材料が報告されている。
【0006】
しかしながら、ErCo2は下記の課題を抱えている。その1つは、希土類元素、コバルトを組成比でそれぞれ1/3、2/3含む高価な原料を使用していることであり、もう1つは、この磁気エントロピー変化が大きな体積変化が伴う1次転移であるため、サイクル疲労が見込まれることである。加えて、ErCo2は、融点が高温で、さらに分解溶融のため、加工が比較的困難という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-361061号公報
【特許文献2】特開2012-37112号公報
【特許文献3】特開2021-134950号公報
【特許文献4】特開2021-63255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記従来の問題であるコスト、加工および寿命の問題を解決して、安価で加工しやすく寿命の長い冷凍材料、およびその材料を用いた磁器冷凍システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の構成を下記に示す。
(構成1)
RNixBからなる化合物を含む磁気冷凍材料。Rは、Gd、DyおよびHoからなる群より選ばれる1以上からなり、xは3.8以上4.2以下である。
(構成2)
前記xは4である、構成1記載の磁気冷凍材料。
(構成3)
前記RはGdである、構成1記載の磁気冷凍材料。
(構成4)
前記RはDyである、構成1記載の磁気冷凍材料。
(構成5)
前記RはHoである、構成1記載の磁気冷凍材料。
(構成6)
磁気熱量効果を示す磁気冷凍材料として構成1から5の何れか一に記載の磁気冷凍材料を使用する、磁気冷凍システム。
(構成7)
クライオポンプを備えた真空容器内部に、磁性体容器と前記磁性体容器に磁場を印加および除去する励磁消磁機構とクライオポンプステージとを備え、
前記磁性体容器は、少なくとも1つの端面に磁性部材を有し、かつ、少なくとも1つの端面に断熱材を有しており、
前記励磁消磁機構は、熱スイッチと永久磁石とを有し、前記真空容器内を移動可能であると共に、前記永久磁石と共に超伝導磁石を有し、
前記クライオポンプステージと前記磁性体容器は前記断熱材が設けられた端面で接しており、
前記励磁消磁機構は、前記磁性部材及び前記クライオポンプステージに熱スイッチで接することができ、
前記磁性部材は構成1から5の何れか一に記載の磁気冷凍材料である、磁気冷凍システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安価で加工しやすく寿命の長い冷凍材料およびその材料を用いた磁器冷凍システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】RNi
4Bの磁気エントロピー変化ΔSの温度T依存性を示す特性図である。
【
図2】Gd
1-xHo
xNi
4Bの磁気エントロピー変化ΔSの温度T依存性を示す特性図である。
【
図3】本発明の磁気冷凍材料を用いた磁気冷凍システムの装置構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の磁気冷凍材料について説明する。
【0013】
本発明の磁気冷凍材料は、RNixBからなる化合物を含む材料である。
Rは、Gd(ガドリニウム)、Dy(ジスプロシウム)およびHo(ホルミウム)からなる群より選ばれる1以上からなる。ここで、xは3.8以上4.2以下で、好ましくは3.9以上4.1以下、さらにより好ましくはストイキオメトリックな4である。xがこの範囲にあると結晶構造が安定し、xが4に近づくほど安定な材料になる。なお、RNixBの結晶構造は、CaCu5型構造のc軸を2倍にてそのCuサイトに周期的にNiとBを並べた構造であり、その空間群はP6/mmmである。
Rが、GdNixB、DyNixBおよびHoNixBというように単一の元素からなる場合は、磁場5Tで磁気エントロピー変化の絶対値が0.1J/K・cm3以上という特徴があり、GdyHo1-yNixB(yは0以上1以下)というように複数の元素からなる場合は、そのyの大きさによって磁気エントロピー変化の大きさとそのピーク温度を制御できるという特徴がある。
【0014】
また、Ni(ニッケル)の一部がCo(コバルト)、Mn(マンガン)およびFe(鉄)からなる群より選ばれる1以上で置き換えられているものでもよい。このNiからの置換量は元素数比で0以上0.1以下が好ましく、0以上0.05以下がより好ましい。すなわち、Niの一部がCoに置き換えられている場合はNi:Coの元素数比が0.9:1.1~1.1:0.9が好ましく、0.95:1.05~1.05:0.95がより好ましい。Niの一部がCo、MnおよびFeからなる群より選ばれる1以上で置換されていると置換量に応じて磁気エントロピー変化の大きさとそのピーク温度を制御できるという特徴がある。
【0015】
さらに、B(ホウ素)の一部がAl(アルミニウム)およびSi(シリコン)からなる群より選ばれる1以上で置き換えられているものでもよい。このBからの置換量は元素数比で0以上0.1以下が好ましく、0以上0.05以下がより好ましい。すなわち、Bの一部がAlに置き換えられている場合はB:Alの元素数比が0.9:1.1~1.1:0.9が好ましく、0.95:1.05~1.05:0.95がより好ましい。Bの一部がAlおよびSiからなる群より選ばれる1以上で置換されていると磁気エントロピー変化の大きさとそのピーク温度を制御できるという特徴がある。
【0016】
RNixBからなる化合物は、大きな磁気モーメントをもつ希土類元素RとCoより圧倒的な低コストのNiを組合せたものであり、さらに、ニッケル電子の磁気秩序を、希土類の磁気モーメントによる磁気転移温度と同程度の温度までおこさないようBでNiの密度を減少させたものになっている。
このことから、RNixBは、希土類元素を約1/6しか含まず、低コストのNiを主成分とするため原材料費が安く、かつ融点が低くて設備費等製造工程費用も抑えることができるので、低コストで提供することが可能になる。
また、RNixBは、大きな磁気エントロピー変化を伴う相転移が2次転移的に起こる材料のため、サイクル疲労が起こりにくく、長寿命な材料になる。
【0017】
本発明の磁気冷凍材料は、単体のR(RはGd、DyまたはHoの単体、あるいはそれら2以上の混合体)、NiおよびBをモル比で1:X:1になるように秤量したものを原料として準備する工程と、その原料をアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下でアーク溶解する合成工程により製造することができる。ここで、Xは3.8以上4.2以下で、3.9以上4.1以下が好ましく、4がより好ましい。なお、合成工程としては、アーク溶解法のみならず高周波誘導加熱などの方法も用いることができる。
【0018】
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明の磁器冷凍システムについて説明する。
【0019】
磁気熱量効果冷凍材料として本発明の磁気冷凍材料を用いた磁気冷凍システムは、その材料が安価で寿命が長いため、安価で効率よく磁気冷凍を行うことができる冷凍システムである。しかもこの材料は、20K以下というような温度帯で十分な磁気熱量効果を発揮するため、この磁気冷凍システムは、水素液化用途に好適に用いることができる。
【0020】
実施の形態2の磁器冷凍システムは、クライオポンプと本発明の磁気冷凍材料を用いた磁気冷凍装置を組み合わせた冷凍システムであって、
図3を用いて説明する。
本発明の冷凍システムは、クライオポンプを備えた真空容器11内部に磁性体容器と励磁消磁機構を設けたものである。
【0021】
磁性体容器は、少なくとも1つの端面に磁性部材31と、少なくともそれとは別の1つの端面に断熱材33を有している。該磁性体容器は、断熱材33を介してクライオポンプステージ23に接している。また、磁性部材31には、磁気冷凍材料を使用する。
【0022】
励磁消磁機構は、磁性体容器に磁場を印加または除去するために設けられ、永久磁石41と機械的熱スイッチ42を備えており、真空容器内を移動することができるように作製される。
図3の例では、この移動は可動棒44で行う。さらに、励磁消磁機構は、寒剤と超伝導磁石も用いることで、20K程度の極低温環境下で励磁消磁ができる。また、このような極低温で1テスラ(T)程度の強い磁場を生成できる永久磁石として、例えばネオジム系希土類永久磁石が挙げられる。超伝導磁石を併用することで、永久磁石のみでは達成困難な強力な磁場、例えば5テスラから10テスラを生成できる。寒剤としては、液体水素(20K)や液体のヘリウムを用いることができる。
【0023】
試料は、励磁冷却プロセスの後に断熱冷却プロセスを行って冷却する。
図3(a)は、励磁冷却プロセスの際の概念図である。まず、磁性体容器の内部空間32に試料を入れ、真空容器11内部に納める。粗引用ポンプ13でクライオポンプが起動できる程度に真空容器11内部を粗引きする。クライオポンプが起動できるようになったら、可動棒44を動かすことにより、磁性部材31に永久磁石41による磁場が印加されるように励磁消磁装置の位置を調整する。このとき、励磁消磁装置の熱スイッチ42が磁性部材31及びクライオポンプステージ23に接するようにする。磁場が印加したことによって磁性部材31が発熱するので、熱スイッチ42によりクライオポンプを起動する。クライオポンプにヘリウム等の10~20K程度の温度では凝縮しない蒸気圧の高い気体を用いると、冷却が進みクライオポンプステージ23が10K程度まで冷却される。また、クライオポンプに水素等の22~50K程度の温度では凝縮しない蒸気圧の高い気体を用いると、冷却が進みクライオポンプステージ23が25K程度まで冷却される。
【0024】
励磁冷却プロセスによる試料の冷却が止まったら、次に断熱冷却プロセスを行う。
図3(b)のように、可動棒44を動かすことによって、励磁消磁機構の位置を移動させる。このとき、永久磁石41から磁性部材31に印加される磁場ができるだけ小さくなるように励磁消磁機構と磁性体容器の位置を離す。この操作により、磁気冷却効果が起き、断熱材33により磁性容器がクライオポンプステージから熱的に絶縁されているため、さらに試料が冷却される。
【0025】
本磁気冷凍システムは、超伝導電磁石を用いており、永久磁石のみでは達成困難な強力な磁場を生成できる。したがって、磁性部材31に実施の形態1の材料であるRNixBからなる化合物(Rは、Gd、DyおよびHoからなる群より選ばれる1以上からなり、xは3.8以上4.2以下である)を用い、永久磁石41に超伝導電磁石を付設することで5~10テスラの強力な磁場を生成することができ、液体水素の製造がエネルギー効率よく行える。磁性部材31に用いるRNixBは、液体水素の沸点付近である20~30Kで、大きな磁気エントロピー変化を有する磁気冷凍材料であるためである。また、液体のヘリウムを用いると、超伝導電磁石が容易に実現できる。液体水素を用いても、超伝導材料を適切に選択することで、超伝導電磁石が実現できる。
実施の形態2で示した磁気冷凍システムで効率よく磁気冷凍を行うことができる。また、この磁気冷凍システムは、水素を効率よく液化でき、磁気冷凍材料の寿命も長く、したがってメンテナンスにかかる負担の少ないものである。
【実施例0026】
(実施例1)
実施例1では、RNixBとしてGdNi4B、DyNi4B、HoNi4BおよびGd1-xHoxNi4Bからなる化合物を合成し、磁化測定により5Tまでの磁気エントロピー変化ΔSを測定した。
なお、当然ながら、本発明はこのような特定の形式に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲により規定されるものであることに注意されたい。
【0027】
試料は、単体のR(RはGd、DyまたはHoの単体、あるいはGdとHoの混合体)、NiおよびBをモル比で1:4:1になるように秤量したものを原料とし、アルゴン雰囲気下でアーク溶解して合成した。ここで、秤量にはXP205(メトラー・トレド社製)を、測定にはMPMS-XL(Quantum Design社製)を用いた。また、XRD(X-ray Diffraction)によって、合成された試料がRNi
4Bであることを同定している。
その結果、
図1に示すように、RをGd、DyあるいはHoとした実施例1では、|ΔS|>0.12J/(K・cm
3)が得られた。
また、
図2に示すように、Rに2種類の希土類元素GdおよびHoを組成比を振って用いた場合も、|ΔS|>0.1J/(K・cm
3)が確保された。加えて、組成比によって、そのピーク温度を連続的に制御できることが示された。
【0028】
(比較例1)
比較例1では、実施例1のRの部分をTbまたはErとし、その他は実施例1に準拠させて作製した試料TbNi4BおよびErNi4Bを準備し、測定も実施例1に準拠させてその特性を評価した。
その結果、RとしてGd、DyあるいはHoを用いた場合より、約2割以上|ΔS|は小さいものであった。
本発明の磁気冷凍材料は、高コストな希土類元素の含有率が1/6と少なく、またコストの低いニッケルを主成分とし、融点も低いため、安価で加工しやすい材料である。さらに、本発明の磁気冷凍材料は、大きな磁気エントロピー変化を伴う相転移は2次相転移であるためサイクル疲労が起こりにくく、したがって寿命の長い磁気冷凍材料である。
このため、本発明によれば、安価で加工しやすく寿命の長い冷凍材料およびその材料を用いた磁気冷凍システムが提供されるので、産業の発展に大いに寄与すると考える。
磁気冷凍は、次世代エネルギーキャリアの柱として注目されている水素を効率的に液化することが可能なので、本発明の水素液化への適用は、特に大きく産業の発展に寄与すると考える。