(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153518
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】触媒の探索方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/20 20060101AFI20231011BHJP
B01J 23/30 20060101ALI20231011BHJP
G16C 60/00 20190101ALI20231011BHJP
【FI】
B01J23/20 A
B01J23/30 A
G16C60/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062838
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000130259
【氏名又は名称】株式会社コベルコ科研
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100199808
【弁理士】
【氏名又は名称】川端 昌代
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(74)【代理人】
【識別番号】100208708
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100215371
【弁理士】
【氏名又は名称】古茂田 道夫
(74)【代理人】
【識別番号】230116643
【弁護士】
【氏名又は名称】田中 厳輝
(72)【発明者】
【氏名】高岸 洋一
(72)【発明者】
【氏名】大川 哲也
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA15
4G169BA01B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC23B
4G169BC26B
4G169BC55B
4G169BC60B
4G169CA03
4G169CA08
4G169CA13
4G169DA06
4G169EA04Y
4G169EB18Y
4G169EC14Y
4G169EC27
4G169ED10
(57)【要約】
【課題】本発明は、特性の良い元素の組み合わせを効率的に探索可能な触媒の探索方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る触媒の探索方法は、特定の化学反応に対する活性化エネルギーを低減させる2元素合金からなる触媒の探索方法であって、複数の2元素合金に対し、第一原理計算により各2元素合金の上記活性化エネルギーを解析する解析工程と、上記各2元素合金を構成する2つの元素の材料基礎物性値を説明変数とし、上記解析工程で解析された活性化エネルギーを目的変数とする予測モデルを構築する予測モデル構築工程と、上記予測モデルを用いて上記活性化エネルギーを最小化する材料基礎物性値を算出する逆解析工程と、上記逆解析工程で得られた材料基礎物性値を元に、実在の2つの元素を選択する2元素選択工程とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の化学反応に対する活性化エネルギーを低減させる2元素合金からなる触媒の探索方法であって、
複数の2元素合金に対し、第一原理計算により各2元素合金の上記活性化エネルギーを解析する解析工程と、
上記各2元素合金を構成する2つの元素の材料基礎物性値を説明変数とし、上記解析工程で解析された活性化エネルギーを目的変数とする予測モデルを構築する予測モデル構築工程と、
上記予測モデルを用いて上記活性化エネルギーを最小化する材料基礎物性値を算出する逆解析工程と、
上記逆解析工程で得られた材料基礎物性値を元に、実在の2つの元素を選択する2元素選択工程と
を備える触媒の探索方法。
【請求項2】
上記解析工程で、2元素合金として、X個のホスト原子とY個のゲスト原子から構成される原子クラスタ(X、Yは、10≧X≧Yの自然数)を仮定する請求項1に記載の触媒の探索方法。
【請求項3】
上記原子クラスタが、X=3かつY=1の4原子クラスタである請求項2に記載の触媒の探索方法。
【請求項4】
上記2元素選択工程で、複数の2元素合金が選択され、
選択された上記複数の2元素合金の活性化エネルギーを検証する検証工程をさらに備える請求項1、請求項2又は請求項3に記載の触媒の探索方法。
【請求項5】
上記化学反応の反応速度が、吸着反応律速である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の触媒の探索方法。
【請求項6】
上記化学反応が、ガスの還元反応である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の触媒の探索方法。
【請求項7】
上記ガスが、酸化窒素(NOx)である請求項6に記載の触媒の探索方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の探索方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のエンジンから排出されるガス中の酸化窒素(NOx)は、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)などを主成分とする触媒を用いて分解され、N2として大気中に放出されている。これらの触媒はいずれも希少金属であり、高い価格や資源の枯渇が懸念される。このため、新たな触媒、特に2元素合金からなる触媒の開発が注目されている。
【0003】
2元素合金からなる触媒の探索は、一般に実績のある材料をベースに2つの元素を選択し、試作評価を繰り返す試行錯誤により行われてきたが、近年では、第一原理計算に基づく合金元素の触媒活性評価も利用されている(非特許文献1)。
【0004】
上記触媒活性評価では、触媒の合金種を特定すると、ある化学反応に対してその触媒を用いた際の活性化エネルギーを算出することができる。この活性化エネルギーが低減されれば、触媒として有効であることが分かる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Machine-learning prediction of the d-band center for metals and bimetals、 Ichigaku Takigawa、Ken-ichi Shimizu、and Satoru Takakusagi、 Royal Soc. Chem. Adv.、 6、52587-52595(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記触媒活性評価を用いることで、実際に試作評価を繰り返すより効率は向上するものの、依然として元素を特定するための試行錯誤を必要とする。2元素の組み合わせは膨大に存在し、計算負荷も大きいため、最も特性の良い元素の組み合わせを探索することは困難である。
【0007】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、特性の良い元素の組み合わせを効率的に探索可能な触媒の探索方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る触媒の探索方法は、特定の化学反応に対する活性化エネルギーを低減させる2元素合金からなる触媒の探索方法であって、複数の2元素合金に対し、第一原理計算により各2元素合金の上記活性化エネルギーを解析する解析工程と、上記各2元素合金を構成する2つの元素の材料基礎物性値を説明変数とし、上記解析工程で解析された活性化エネルギーを目的変数とする予測モデルを構築する予測モデル構築工程と、上記予測モデルを用いて上記活性化エネルギーを最小化する材料基礎物性値を算出する逆解析工程と、上記逆解析工程で得られた材料基礎物性値を元に、実在の2つの元素を選択する2元素選択工程とを備える。
【0009】
当該触媒の探索方法では、複数の2元素合金に対し、第一原理計算により各2元素合金の上記活性化エネルギーを解析した後、得られた結果に基づき活性化エネルギーを目的変数とする予測モデルを構築する。当該触媒の探索方法では、上記予測モデルを用いて活性化エネルギーを最小化する材料基礎物性値を算出する逆解析を行い、活性化エネルギーを最小化する材料基礎物性値に近い実在の2つの元素を選択することで、特性の良い元素の組み合わせを効率的に探索することができる。
【0010】
上記解析工程で、2元素合金として、X個のホスト原子とY個のゲスト原子から構成される原子クラスタ(X、Yは、10≧X≧Yの自然数)を仮定するとよい。このように上記解析工程で、原子クラスタを仮定して計算することで、計算規模を大幅に削減できる。これにより計算時間の増大を抑止しつつ、上記解析工程で解析する2元素合金の種類を増やすことができるので、予測モデル構築工程で構築される予測モデルの予測精度を高めることができる。
【0011】
上記原子クラスタが、X=3かつY=1の4原子クラスタであるとよい。上記解析工程で、2元素合金として、3個のホスト原子と1個のゲスト原子から構成される4原子クラスタを仮定することで、解析精度の低下を抑止しつつ、計算規模をさらに削減できる。
【0012】
上記2元素選択工程で、複数の2元素合金が選択され、選択された上記複数の2元素合金の活性化エネルギーを検証する検証工程をさらに備えるとよい。このように2元素合金の活性化エネルギーを検証する検証工程をさらに備えることで、選択された2元素合金の妥当性を検証するとともに、複数の2元素合金を選択する場合において、特性の良い元素の組み合わせをより確実に選択することができる。
【0013】
上記化学反応の反応速度が、吸着反応律速であるとよい。当該触媒の探索方法は、化学反応の反応速度が吸着反応律速である場合に、特に好適に機能する。
【0014】
上記化学反応が、ガスの還元反応であるとよい。当該触媒の探索方法は、ガスの還元反応に対して特に好適に機能する。
【0015】
上記ガスが、酸化窒素(NOx)であるとよい。当該触媒の探索方法を用いることで、例えば代替触媒が必要とされている自動車のエンジンから排出されるガスに含まれる酸化窒素(NOx)を分解する触媒を効率的に探索することができる。
【0016】
ここで、「2元素合金」には、2つの元素のみで構成される合金に加え、不可避的不純物として他の元素を含有するもの、あるいは例えば2元素合金を安定化する等の目的のために2元素合金の特性を損なわない範囲で加えられる他の元素を含有するものを含むものとする。なお、上記他の元素の含有質量は、2元素合金を構成する2つの元素の含有質量の和に対し、0.05倍以下、好ましくは0.03倍以下である。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の触媒の探索方法は、特性の良い元素の組み合わせを効率的に探索可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る触媒の探索方法を示すフロー図である。
【
図2】
図2は、
図1の解析工程で用いられる原子クラスタを説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、実施例における回帰特性を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例の触媒反応性評価に使用した試験装置の構成を示す模式図である。
【
図5】
図5は、実施例における触媒のNO分解率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る触媒の探索方法について図面を参照しつつ説明する。
【0020】
本発明の一実施形態に係る触媒の探索方法は、特定の化学反応に対する活性化エネルギーを低減させる2元素合金からなる触媒の探索方法である。
【0021】
<化学反応>
上記化学反応としては、触媒が有効に機能する化学反応であれば特に限定されず、酸化・還元反応や腐食反応など種々の現象に応用することができる。
【0022】
上記化学反応の反応速度が、吸着反応律速であることが好ましい。当該触媒の探索方法は、化学反応の反応速度が吸着反応律速である場合に、特に好適に機能する。裏を返すと、上記化学反応の反応速度が、輸送律速でないことが好ましい。
【0023】
また、上記化学反応が、ガスの還元反応であるとよい。当該触媒の探索方法は、ガスの還元反応に対して特に好適に機能する。中でも上記ガスが酸化窒素(NOx)であるとよい。一酸化窒素(NO)を代表例に説明すると、NOは以下の過程で分解されると言われている。
(1)NOの触媒表面への吸着
(2)NO→N+O
(3)NO+N→N2O
(4)N2O→N2+O
(5)N+N→N2
つまり、(1)NOが触媒表面に吸着し、(2)N原子とO原子とに分解される。分解されたN原子は、(3)NOと反応した(4)N2Oを経て、又は(5)N原子同士が反応して、N2に還元される。この反応において、律速段階は(2)の吸着反応であるから、触媒の効果が現れ易い。従って、当該触媒の探索方法を用いることで、例えば代替触媒が必要とされている自動車のエンジンから排出されるガスに含まれる酸化窒素(NOx)を分解する触媒を効率的に探索することができる。
【0024】
当該触媒の探索方法は、
図1に示すように、解析工程S1と、予測モデル構築工程S2と、逆解析工程S3と、2元素選択工程S4と、検証工程S5とを備える。
【0025】
<解析工程>
解析工程S1では、複数の2元素合金に対し、第一原理計算により各2元素合金の上記活性化エネルギーを解析する。
【0026】
2元素合金は、2つの元素からなる合金であり、2つの元素を特定すると決定される。この2つの元素の選び方は膨大に存在し得る。解析工程S1では、その中から複数の2元素合金を選択し、それぞれの活性化エネルギーを解析する。
【0027】
解析する2元素合金の個数の下限としては、100が好ましく、150がより好ましい。一方、解析する2元素合金の個数の上限としては、500が好ましく、300がより好ましい。解析する2元素合金の個数が上記下限未満であると、後述する予測モデル構築工程S2において、十分な予測精度を確保できないおそれがある。逆に、解析する2元素合金の個数が上記上限を超えると、解析時間に比し予測精度の向上効果が飽和傾向となる。
【0028】
2つの元素の選択方法としては、種々の元素が含まれるように選ぶとよく、特にイオン化ポテンシャルが偏らないように選択するとよい。すなわち、イオン化ポテンシャルの小さいもの同士、大きいもの同士、小さいものと大きいものとの組み合わせが適度に選択され、かつ選択される元素の種類が多く含まれるとよい。
【0029】
第一原理計算は、公知の計算手法であり、例えば非特許文献1に記載の方法を用いることができる。
【0030】
一般には、担体上に数百原子で構成される原子クラスタを用いて解析がなされるが、当該触媒の探索方法では、2元素合金として、X個のホスト原子とY個のゲスト原子から構成される原子クラスタ(X、Yは、10≧X≧Yの自然数)を仮定する。中でも2元素合金として、
図2に示すように、担体X上に配置された3個のホスト原子11と1個のゲスト原子12から構成される4原子クラスタ1(四面体構造)を仮定するとよいことを本発明者らは知得している。当該触媒の探索方法では、解析工程S1では必ずしも高精度の活性化エネルギー値を必要とはしない。予測モデル構築工程S2で、材料基礎物性値に対する相関が維持できる程度の精度があれば実用に耐え得る。本発明者らは、4原子程度までクラスタの原子数を下げても、実用に耐え得ることを見出し、4原子モデルによる解析を確立した。そして、解析工程S1で、4原子クラスタ1を仮定して計算することで、計算規模を大幅に削減できる。これにより計算時間の増大を抑止しつつ、解析工程S1で解析する2元素合金の種類を増やすことができるので、むしろ予測モデル構築工程S2で構築される予測モデルの予測精度を高めることができる。
【0031】
4原子クラスタ1を用いて第一原理計算を行う場合は、例えばDFT(Densitiy Functional Theory)に基づいた電子状態計算を行い、活性化エネルギーは始状態及び終状態からベル-エバンス-ボランニー則により推定することができる。
【0032】
4原子クラスタ1を用いる場合、2つの元素のいずれをホスト原子11とするかにより解析結果が異なり得る。ホスト原子11とゲスト原子12とを入れ替えた結果については、それぞれ独立した結果として扱われる。
【0033】
<予測モデル構築工程>
予測モデル構築工程S2では、上記各2元素合金を構成する2つの元素の材料基礎物性値を説明変数とし、上記解析工程で解析された活性化エネルギーを目的変数とする予測モデルを構築する。
【0034】
上記材料基礎物性には、各元素の原子単体としての物性値と、結晶としての物性値の両方を含めるとよい。前者の例として、族、周期、イオン化ポテンシャル、電気陰性度などが挙げられ、後者の例として格子定数、融解エンタルピー、密度、ウィグナーザイツセルなどが挙げられる。中でも、電気陰性度、イオン化ポテンシャル、融解エンタルピー、密度が含まれていることが好ましい。
【0035】
上記予測モデルとして、回帰モデルを構築するとよい。上記回帰モデルとしては、Elastic net、ランダムフォレスト、サポートベクター、人工ニューラルネットワーク(Artificial Neural Network、ANN)などを挙げることができる。中でも回帰特性のよいANNが好ましい。つまり、上記予測モデルは機械学習に基づいて構築されるとよい。
【0036】
<逆解析工程>
逆解析工程S3では、上記予測モデルを用いて上記活性化エネルギーを最小化する材料基礎物性値を算出する。
【0037】
活性化エネルギーを最小化する材料基礎物性値の探索には、遺伝的アルゴリズム、焼きなまし法、ベイズ最適化法などを用いることができるが、中でもベイズ最適化法が好ましい。特に機械学習により回帰モデルを構築した場合、そのモデル自体の中身はブラックボックスである。ベイズ最適化法は、このようなブラックボックス最適化に好適な探索方法である。
【0038】
なお、材料基礎物性でも活性化エネルギーに対する影響がない、もしくは低いものは、その値は特定されず、任意の値でよいことになる。
【0039】
<2元素選択工程>
2元素選択工程S4では、逆解析工程S3で得られた材料基礎物性値を元に、実在の2つの元素を選択する。
【0040】
この2元素選択工程S4では、類似度評価を行い、逆解析工程S3で得られた材料基礎物性値に類似する2つの元素、すなわち特定の2元素合金を選択することとなる。上記類似度評価としては、ユークリッド距離とコサイン類似度を使用した方法などを挙げることができる。
【0041】
この2元素選択工程S4で選ばれる2つの元素の材料基礎物性値は、逆解析工程S3で得られた材料基礎物性値と正確に一致するとは限らない。また、選択された2つの元素で合金が作れないという場合も想定される。このため、2元素選択工程S4では、複数の2元素合金が選択される。
【0042】
2元素合金の選択数の下限としては、10が好ましく、15がより好ましい。一方、2元素合金の選択数の上限としては、50が好ましく、35がより好ましい。2元素合金の選択数が上記下限未満であると、検証工程S5を経た結果、候補となる2元素合金が存在しなくなるおそれがある。逆に、2元素合金の選択数が上記上限を超えると、検証工程S5に時間がかかり過ぎるおそれがある。
【0043】
また、解析工程S1で4原子クラスタを仮定して計算している場合においては、ホスト原子11の種類が3種類以上7種類以下、選択されたホスト原子11に対してゲスト原子12が3種類以上7種類以下となるように選択するとよい。なお、ゲスト原子12の種類数は、選ばれたホスト原子11ごとに異なってもよい。
【0044】
検証工程S5では、選択された上記複数の2元素合金の活性化エネルギーを検証する。このように2元素合金の活性化エネルギーを検証する検証工程S5をさらに備えることで、選択された2元素合金の妥当性を検証するとともに、複数の2元素合金を選択する場合において、特性の良い元素の組み合わせをより確実に選択することができる。
【0045】
検証工程S5では、活性化エネルギーそのものを測定して行う方法のほか、活性化エネルギーの指標となる他のパラメータを用いて行う方法を採用してもよい。例えばNOの場合、NO分解率を用いて検証することができる。
【0046】
検証工程S5では、まず選択された2元素合金が実際に作ることができるか否かが検討される。実際に作ることができない合金は、この段階で選択から除外される。この検討は、化学的見地から行ってもよいし、実際に作製して判断してもよい。
【0047】
作ることのできる2元素合金は、実際に2元素合金を作成して、対象の化学反応について活性化エネルギーを実測するとよい。実測することで、複数の2元素合金の中から、好適な2元素合金を確実に選び出すことができる。
【0048】
第一原理計算を利用して計算により活性化エネルギーを算出してもよい。計算により算出する場合は、実測する場合に比べて2元素合金を選び出すまでの時間を節約できる。このときの計算は、4原子クラスタ1を用いて行ってもよいが、担体X上に数百原子で構成される原子クラスタを用いて行う従来の解析手法を用いてもよい。4原子クラスタ1を用いる場合は、短時間で選び出すことができる。一方、従来の解析手法を用いる場合は、計算精度が高いため、より正確に選び出すことができる。
【0049】
<利点>
当該触媒の探索方法では、複数の2元素合金に対し、第一原理計算により各2元素合金の上記活性化エネルギーを解析した後、得られた結果に基づき活性化エネルギーを目的変数とする予測モデルを構築する。当該触媒の探索方法では、上記予測モデルを用いて活性化エネルギーを最小化する材料基礎物性値を算出する逆解析を行い、活性化エネルギーを最小化する材料基礎物性値に近い実在の2つの元素を選択することで、特性の良い元素の組み合わせを効率的に探索することができる。
【0050】
[その他の実施形態]
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0051】
上記実施形態では、検証工程を備える場合を説明したが、検証工程は省略可能である。2元素選択工程で選ばれた2元素合金を、検証工程を経ることなくそのまま触媒として使用することを妨げるものではない。
【0052】
上記実施形態では、2元素選択工程で、複数の2元素合金が選択される場合を説明したが、1つの2元素合金が選択される場合も本発明の意図するところである。この場合、検証工程は省略してもよい。一方、検証工程を行う場合は、選択された2元素合金の活性化エネルギーが予測された所望の値と同等であるかを検証するとよい。
【実施例0053】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
一酸化窒素(NO)の直接還元触媒を対象に本発明の効果を実証した。
【0055】
2元素合金として、周期表の3族から7族(MgからNdまで)の43種(2元素合金としては1849通りの組み合わせ)を対象とし、約260の組み合わせを選択した。なお、安定してNOを吸着できない組み合わせについては対象外とした。
【0056】
(解析工程)
NOの触媒粒子への吸着及びNOの解離に着目して、上記260の組み合わせの活性化エネルギーを解析した。具体的には、DFT(Densitiy Functional Theory)に基づいた電子状態計算を行い、活性化エネルギーは始状態及び終状態からベル-エバンス-ボランニー則により推定した。その際、担体にはジルコニアZrO2の(111)面を用いた。
【0057】
(予測モデル構築工程)
各元素の材料基礎物性値を与え、その2元素合金を触媒とした場合のNO分子を還元する際の活性化エネルギーを予測する回帰モデル(予測モデル)を、ANNを用いて構築した。上記材料基礎物性としては、電気陰性度、イオン化ポテンシャル、融解エンタルピー及び密度を用いた。
【0058】
予測モデルの妥当性を検証するため、解析したデータは、予め教師データと検証データとに7:3で分割し、教師データについてはk-fold法による公差検証を行った。結果を
図3に示す。教師データ及び検証データともにR
2値で0.9を超える良好な特性を示した。
【0059】
(逆解析工程)
次に、上記予測モデルを用いて活性化エネルギーを最小化する材料基礎物性値を算出した。逆解析には、ベイズ最適化法を採用した。その結果、電子供与性の高い元素が候補となり得ることが分かった。
【0060】
(2元素選択工程)
例として一方の原子がNbである場合に着目し、活性化エネルギーを整理すると、活性化エネルギーが最も小さいものがNbW、最も高いものがNbSb、その中間がNbGeという結果となった。なお、活性化エネルギーが小さいほど触媒として有効である。
【0061】
(検証工程)
上記2元素選択工程で候補となったNb系の合金を対象に、実際に触媒を試作し、NO分解率を測定した。
【0062】
まず、活性アルミナ(球状φ2mm、平均細孔径48オングストローム)を担体とし、Nb化合物の水溶液を含浸担持した後、115℃で乾燥した。このNbを担持した活性アルミナにSb化合物の水溶液を含浸担持し、115℃で乾燥した。空気流通下で600℃、3時間の焼成を行った後、空気を流通させたまま冷却した。このようにしてNbSb触媒を作製した。
【0063】
同様の手法でNbW触媒及びNbGe触媒を作製した。
【0064】
試作した触媒は、
図4に示す試験装置2を用いて評価した。試験装置2は、NOボンベ21と、N
2ボンベ22と、反応管23と、ガス分析機24とを備える。
【0065】
触媒25は、反応管23内に設けられた一対の金網23a間に充填される。反応管23には、触媒25の温度を測定可能な熱電対23bが設けられている。
【0066】
NOボンベ21及びN2ボンベ22の下流には、それぞれ気体の供給圧力を調整する減圧弁26と、流量を調整するマスフローコントローラ27とが設けられている。減圧弁26及びマスフローコントローラ27で圧力及び流量が調整されたNOガス及びN2ガスは、混合されて反応管23に供給される。この試験では、N2ガスを600℃に昇温した後、NO濃度が1000ppmとなるように調整して反応管23に供給した。
【0067】
触媒を経たNOガスの濃度をガス分析機24により測定した。結果を
図5に示す。NO分解率は、予測通りにNbW>NbGe>NbSbとなっていることが分かる。