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特開2023-153553視覚検査装置および視覚検査装置セット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153553
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】視覚検査装置および視覚検査装置セット
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/024 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
A61B3/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062897
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】513190726
【氏名又は名称】株式会社クリュートメディカルシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 智
(72)【発明者】
【氏名】木村 伸司
(72)【発明者】
【氏名】山中 健三
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA16
4C316AA18
4C316AA21
4C316AA28
4C316AB16
4C316FA02
4C316FA18
(57)【要約】
【課題】矯正レンズの有無または矯正レンズの球面度数にかかわらず適切な視覚検査を行える技術を提供する。
【解決手段】視覚検査を受ける被検者の眼に視標を表示するための表示光学系および表示素子と、表示光学系に装着可能な矯正レンズであって被検者が視標を視認可能とする矯正レンズの球面度数に応じて、表示素子上の検査可能領域内に表示される検査用視標の表示位置を補正する視標表示制御部と、を備える、視覚検査装置。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
視覚検査を受ける被検者の眼に視標を表示するための表示光学系および表示素子と、
前記表示光学系に装着可能な矯正レンズであって前記被検者が視標を視認可能とする矯正レンズの球面度数に応じて、前記表示素子上の検査可能領域内に表示される検査用視標の表示位置を補正する視標表示制御部と、
を備える、視覚検査装置。
【請求項2】
前記視標表示制御部は、前記被検者から見た前記検査用視標の座標位置が、前記矯正レンズを装着しない状態と等しくなるように、前記矯正レンズの球面度数に応じて、前記検査用視標の表示位置を補正する、請求項1に記載の視覚検査装置。
【請求項3】
前記表示光学系および前記表示素子は、前記被検者の左眼と右眼に対応してそれぞれ左右独立に設けられる、請求項1に記載の視覚検査装置。
【請求項4】
前記被検者の眼を検者が観察するための観察光学系および該観察光学系を通して前記被検者の眼を撮像する撮像素子を更に備える、請求項1に記載の視覚検査装置。
【請求項5】
前記視標表示制御部は、前記表示素子上に表示される固視標から、前記被検者の視線がずれた際に、前記検査用視標の表示位置を補正する補正量を、前記矯正レンズの球面度数に応じて変更する、請求項4に記載の視覚検査装置。
【請求項6】
前記撮像素子により撮像された眼の画像内に存在する前記矯正レンズの外観的特徴に基づいて前記矯正レンズの球面度数を自動認識する矯正レンズ識別部を更に備える、請求項4に記載の視覚検査装置。
【請求項7】
前記矯正レンズの球面度数を記憶する記憶部と、
前記矯正レンズ識別部により自動認識された球面度数と、前記記憶部に記憶された球面度数とが一致するか否かを判定する判定部と、
を更に備える、請求項6に記載の視覚検査装置。
【請求項8】
前記検査可能領域は、前記表示素子上に表示される背景画像である、請求項1~7のいずれか一つに記載の視覚検査装置。
【請求項9】
視覚検査を受ける被検者の左眼と右眼に対応してそれぞれ左右独立に設けられた表示光学系および表示素子と、
前記被検者の眼を検者が観察するための観察光学系および該観察光学系を通して前記被検者の眼を撮像する撮像素子と、
前記表示光学系に装着可能な矯正レンズであって前記被検者が視標を視認可能とする矯正レンズの球面度数に応じて、前記表示素子上の検査可能領域内に表示される検査用視標の表示位置を補正する視標表示制御部と、
を備える、視覚検査装置と、
互いに球面度数が異なる複数の前記矯正レンズであって、前記撮像素子により撮像された眼の画像内において球面度数を区別可能な外観的特徴を有する前記矯正レンズと、
を備える、視覚検査装置セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚検査装置および視覚検査装置セットに関する。
【背景技術】
【0002】
眼の検査の一つに、眼の視覚機能を検査する「視覚検査」がある。また、視覚検査の代表的なものに「視野検査」がある。視野検査は、たとえば緑内障や網膜剥離などが原因で起こる視野狭窄、視野欠損などの診断のために行われるもので、そのための検査装置が種々提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、矯正レンズの有無または矯正レンズの球面度数にかかわらず適切な視覚検査を行える技術を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様は、
視覚検査を受ける被検者の眼に視標を表示するための表示光学系および表示素子と、
前記表示光学系に装着可能な矯正レンズであって前記被検者が視標を視認可能とする矯正レンズの球面度数に応じて、前記表示素子上の検査可能領域内に表示される検査用視標の表示位置を補正する視標表示制御部と、
を備える、視覚検査装置である。
【0006】
第2の態様は、第1の態様に記載の視覚検査装置であって、
前記視標表示制御部は、前記被検者から見た前記検査用視標の座標位置が、前記矯正レンズを装着しない状態と等しくなるように、前記矯正レンズの球面度数に応じて、前記検査用視標の表示位置を補正する。
【0007】
第3の態様は、第1の態様に記載の視覚検査装置であって、
前記表示光学系および前記表示素子は、前記被検者の左眼と右眼に対応してそれぞれ左右独立に設けられる。
【0008】
第4の態様は、第1の態様に記載の視覚検査装置であって、
前記被検者の眼を検者が観察するための観察光学系および該観察光学系を通して前記被検者の眼を撮像する撮像素子を更に備える。
【0009】
第5の態様は、第4の態様に記載の視覚検査装置であって、
前記視標表示制御部は、前記表示素子上に表示される固視標から、前記被検者の視線がずれた際に、前記検査用視標の表示位置を補正する補正量を、前記矯正レンズの球面度数に応じて変更する。
【0010】
第6の態様は、第4の態様に記載の視覚検査装置であって、
前記撮像素子により撮像された眼の画像内に存在する前記矯正レンズの外観的特徴に基づいて前記矯正レンズの球面度数を自動認識する矯正レンズ識別部を更に備える。
【0011】
第7の態様は、第6の態様に記載の視覚検査装置であって、
前記矯正レンズの球面度数を記憶する記憶部と、
前記矯正レンズ識別部により自動認識された球面度数と、前記記憶部に記憶された球面度数とが一致するか否かを判定する判定部と、
を更に備える。
【0012】
第8の態様は、第1~第7のいずれか一つの態様に記載の視覚検査装置であって、
前記検査可能領域は、前記表示素子に表示される背景画像である。
【0013】
第9の態様は、
視覚検査を受ける被検者の左眼と右眼に対応してそれぞれ左右独立に設けられた表示光学系および表示素子と、
前記被検者の眼を検者が観察するための観察光学系および該観察光学系を通して前記被検者の眼を撮像する撮像素子と、
前記表示光学系に装着可能な矯正レンズであって前記被検者が視標を視認可能とする矯正レンズの球面度数に応じて、前記表示素子上の検査可能領域内に表示される検査用視標の表示位置を補正する視標表示制御部と、
を備える、視覚検査装置と、
互いに球面度数が異なる複数の前記矯正レンズであって、前記撮像素子により撮像された眼の画像内において球面度数を区別可能な外観的特徴を有する前記矯正レンズと、
を備える、視覚検査装置セットである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、矯正レンズの有無または矯正レンズの球面度数にかかわらず適切な視覚検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、従来において、矯正レンズを視覚検査装置に装着しない場合、および、矯正レンズの球面度数ごとの、表示素子上の中心に位置する灰色単色の背景画像(広義には検査可能領域)と該背景画像内に表示される検査用視標(図中黒丸で表示)の座標位置を示す図である。図1Aは、矯正レンズを視覚検査装置に装着しない場合における図である。図1Bは、-6D(ディオプター)の矯正レンズを視覚検査装置に装着した場合における図である。図1Cは、-12D(ディオプター)の矯正レンズを視覚検査装置に装着した場合における図である。図1Dは、+6D(ディオプター)の矯正レンズを視覚検査装置に装着した場合における図である。
図2図2は本発明の実施形態に係る視覚検査装置の構成例を示す概略図である。
図3図3は本発明の実施形態に係る視覚検査装置の光学系の構成を含む概略図である。
図4図4は本発明の実施形態に係る視覚検査装置の制御系の構成を含むブロック図である。
図5図5は、本発明の実施形態における、矯正レンズを視覚検査装置に装着しない場合、および、矯正レンズの球面度数ごとの、表示素子上の中心に位置する灰色単色の背景画像(広義には検査可能領域)と該背景画像内に表示される検査用視標(図中黒丸で表示)の座標位置を示す図である。図5Aは、矯正レンズを視覚検査装置に装着しない場合における図である。図5Bは、-6D(ディオプター)の矯正レンズを視覚検査装置に装着した場合における図である。図5Cは、-12D(ディオプター)の矯正レンズを視覚検査装置に装着した場合における図である。図5Dは、+6D(ディオプター)の矯正レンズを視覚検査装置に装着した場合における図である。
図6図6は、本発明の実施形態における、固視標を見ているときの被検者の眼の画像を示す模式図である。図6Aは、矯正レンズを視覚検査装置に装着しない場合における図である。図6Bは、-6D(ディオプター)の矯正レンズを視覚検査装置に装着した場合における図である。図6Cは、-12D(ディオプター)の矯正レンズを視覚検査装置に装着した場合における図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<発明者の得た知見>
まず、発明者が得た知見について説明する。特許文献1に記載の視覚検査装置において、表示光学系および表示素子により、被検者に対し視標が表示される。その際、被検者の視力が良くなく、視標を明瞭に視認できない(以降、このことを「視認困難」ともいい、その逆を「視認可能」ともいう)こともあり得る。その場合、被検者が視標を視認可能とする矯正レンズを表示光学系に装着する。
【0017】
上記矯正レンズを表示光学系に装着した場合について本発明者が鋭意検討したところ、以下の課題を知見した。
【0018】
図1は、従来において、矯正レンズを視覚検査装置に装着しない場合、および、矯正レンズの球面度数ごとの、表示素子上の中心に位置する灰色単色の背景画像121(広義には検査可能領域121)と背景画像121内に表示される検査用視標(図中黒丸で表示)の座標位置を示す図である。図中の数値(単位:°)は検査可能な最大偏心度を指す。図中十字は表示素子上に表示された固視標を示す。図1Aは、矯正レンズを視覚検査装置に装着しない場合における図である。図1Bは、-6D(ディオプター)の矯正レンズを視覚検査装置に装着した場合における図である。図1Cは、-12D(ディオプター)の矯正レンズを視覚検査装置に装着した場合における図である。図1Dは、+6D(ディオプター)の矯正レンズを視覚検査装置に装着した場合における図である。なお、本明細書において、検査用視標の座標位置とは、例えば、固視標を原点として、被検者から見た検査用視標の位置を意味し、検査用視標の表示位置とは、表示素子上の検査用視標の位置を意味する。
【0019】
図1に示すように、矯正レンズを視覚検査装置に装着しない場合(図1A)に比べ、負の球面度数を有する矯正レンズを装着した場合、被検者から見た背景画像121は小さくなる(図1B図1C)。負の球面度数の絶対値が大きくなればなるほどその傾向は顕著である。逆に、正の球面度数を有する矯正レンズを装着した場合、被検者から見た背景画像121は大きくなる(図1D)。
【0020】
図1Bおよび図1Cに示すように、負の球面度数を有する矯正レンズを装着した場合、背景画像121とともに検査用視標も縮小されるため、矯正レンズを装着しない場合と比べて、被検者から見た検査用視標の大きさは小さくなり、座標位置は中心よりに変化する。また、図1Dに示すように、正の球面度数を有する矯正レンズを装着した場合、背景画像121とともに検査用視標も拡大されるため、矯正レンズを装着しない場合と比べて、被検者から見た検査用視標の大きさは大きくなり、座標位置は外側よりに変化する。このような状態では、矯正レンズの球面度数によって、被検者から見た検査用視標の座標位置(つまり、検査を行っている偏心度)が変わってしまい、適切な視覚検査を行えない可能性がある。
【0021】
本発明者は、上述のような問題に対して鋭意検討を行った。その結果、矯正レンズの球面度数に応じて、表示素子上の検査可能領域内に表示される検査用視標の表示位置を補正する視標表示制御部を設けることで、矯正レンズの有無または矯正レンズの球面度数にかかわらず適切な視覚検査を行うことができることを見出した。
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。本実施形態においては、視覚検査装置が視野計である場合を例示する。なお、本明細書において特許文献1に記載の内容は全て組み込み可能である。
【0023】
<1.視覚検査装置>
図2は本発明の実施形態に係る視覚検査装置の構成例を示す概略図である。図示した視覚検査装置1は、被検者2の頭部3に装着して用いられるヘッドマウント型の視覚検査装置である。視覚検査装置1は、大きくは、装置本体5と、この装置本体5に機械的に接続された装着具6と、を備えている。
【0024】
装置本体5は、内部に空間を有する筐体7を備えている。筐体7の内部空間は、左右に分かれている。その理由は、被検者2の左眼8Lと右眼8Rで別々に視覚検査を行うためである。この視覚検査において、左眼8Lを被検眼とする場合は、被検者2が左眼8Lの瞳孔9Lを通して視標を見ることになり、右眼8Rを被検眼とする場合は、被検者2が右眼8Rの瞳孔9Rを通して視標を見ることになる。
【0025】
ここで記述する「視標」とは、被検者の視覚を検査するにあたって、被検者の眼に光による刺激を与えるために表示(呈示)されるものである。本明細書における「視標」は被検者を固視させるための固視標および被検者が視認できるか否かを確認する検査用視標を含む。以降、特記無い限り、「視標」は両者を包含する。
【0026】
視標に関しては、特に大きさ、形状等の制限はない。たとえば、緑内障検査の際には、所定の大きさで光の点を視標として表示するとともに、その光の点の位置を変化させることにより、欠損した視野の有無や欠損場所を検査(特定)することができる。
【0027】
装置本体5は、表示光学系11および表示素子12を内蔵している。装置本体5には、左右どちらの眼を被検眼とする場合にも、両眼開放の状態で視覚検査を行えるように、表示光学系11および表示素子12が左右独立に設けられている。すなわち、筐体7の一方の空間には、被検者2の右眼8Rに対応して表示光学系11Lと表示素子12Lが設けられ、筐体7の他方の内部空間には、被検者2の右眼8Rに対応して表示光学系11Rと表示素子12Rが設けられている。表示光学系11Lと表示素子12Lは、主として被検者2の左眼8Lの視覚検査を行うために設けられたものである。表示光学系11Rと表示素子12Rは、主として被検者2の右眼8Rの視覚検査を行うために設けられたものである。左右の表示光学系11L,11Rの光軸間距離は、図示しない調整機構により、被検者2の瞳孔間距離に合わせて調整可能になっている。
【0028】
装着具6は、被検者2の頭部3に装置本体5を装着するためのものである。装着具6は、被検者2の両側頭部から後頭部にかけてU字形に掛け渡されるベルト13と、被検者2の頭頂部に掛け渡されるベルト14とを備えている。そして、ベルト14の長さを適度に調整した状態で、ベルト13を後頭部側から引っ張って締め付けることにより、被検者2の頭部3に装置本体5をしっかりと固定して装着できる機構になっている。上述した表示光学系11L,11Rの光軸間距離は、被検者2の頭部3に装着具6によって装置本体5を固定した後に、被検者2が正面を向いた状態での瞳孔間距離に合わせて調整する。
【0029】
なお、以降の説明では、被検者2の左眼8Lと右眼8Rを左右の区別なく記載する場合は、符号L,Rを省略して眼8、瞳孔9と総称する。これと同様に、上述した表示光学系11L,11Rと表示素子12L,12Rについても左眼用と右眼用の区別なく記載する場合は、それぞれ符号L,Rを省略して表示光学系11、表示素子12と総称する。
【0030】
(光学系)
図3は本発明の実施形態に係る視覚検査装置の光学系の構成を含む概略図である。図示のように、視覚検査装置1は、上述した表示光学系11と表示素子12の他に、被検者の眼8を観察するための観察光学系15と、この観察光学系15を通して被検者の眼8を撮像する撮像素子16と、被検者の眼8に赤外線を照射する赤外光源(不図示)と、視覚検査装置1全体の制御を司る制御部30と、応答用のスイッチ31と、を備えている。観察光学系15、撮像素子16および赤外光源は、上述した表示光学系11や表示素子12と同様に、被検者の左眼用と右眼用でそれぞれ別々に設けられている。制御部30およびスイッチ31は、1つの視覚検査装置1につき1つずつ設けられている。表示素子12、スイッチ31、および撮像素子16は、図中符号A,B,Cで示すように、それぞれ制御部30に電気的に接続されている。
【0031】
(表示光学系)
表示光学系11は、被検者の眼8が配置される眼位置と表示素子12の表示面12aとの間の光軸18上に設けられている。具体的には、表示光学系11は、被検者の眼位置側から順に、第1レンズ19と、ミラー20と、場合によっては第2レンズ群(不図示)とを配置した構成になっている。以下、各構成要素について説明する。なお、以降の説明では、被検者の眼位置から表示素子12までの光軸18のうち、眼位置からミラー20までの光軸を光軸18aとし、ミラー20から表示素子12までの光軸を光軸18bとする。この光軸18bは、上述した光軸18aと略平行になっている。
【0032】
第1レンズ19は、眼位置からミラー20までの光軸18a上に配置されている。第1レンズ19は、正のパワーを有する非球面のレンズ(凸レンズ)を用いて構成されている。第1レンズ19は、ミラー20で反射して第1レンズ19に入射した光を被検者の瞳孔9に収束させる一方、被検者が瞳孔9を通して広角に物を見るときの光の発散を抑制するものである。
【0033】
ミラー20は、眼位置からミラー20までの光軸18a上において、第1レンズ19を間に挟んで眼位置とは反対側に配置されている。ミラー20は、波長選択性を有するミラーを用いて構成されている。具体的には、ミラー20は、可視光を透過し、赤外線を反射するホットミラーを用いて構成されている。
【0034】
第2レンズ群は、ミラー20から表示素子12までの光軸18b上に配置されてもよい。第2レンズ群は、3つのレンズ(特許文献1に記載の符号21a,21b,21c、以降符号省略。)を用いて構成されてもよい。
【0035】
本発明の課題の欄で挙げた矯正レンズは、第1レンズ19および第2レンズ群のいずれに属してもよい。該矯正レンズは、少なくとも被検者の球面度数が矯正可能であれば限定は無く、被検者の乱視度数も矯正可能であってもよいし、別途、乱視矯正用の矯正レンズを視覚検査装置1に装着してもよい。本発明は、矯正レンズを装着することには限定されない。
【0036】
なお、表示光学系11に矯正レンズを装着する場合、左右の表示光学系11L、11Rに、同じ球面度数を有する矯正レンズを装着することが好ましい。この場合、検査を行う方の眼の視力に合わせて、矯正レンズの球面度数を選択してもよい。これにより、左右の視野(被検者から見た背景画像121の大きさ)が一致するため、適切な視覚検査を行うことができる。
【0037】
(表示素子)
表示素子12は、ミラー20から表示素子12までの光軸18b上で、場合によっては第2レンズ群と対向するように配置されている。表示素子12は、たとえば、バックライトを備える液晶表示素子等の平面型表示素子を用いて構成されている。表示素子12の表示面12aは、多数のピクセルをマトリクス状に配置した構成になっている。そして、実際に表示面12aに画像(視標を含む)を表示するときには、ピクセル単位で画像の表示(オン)と非表示(オフ)を制御できるようになっている。また、表示素子12の表示面12aは、好ましくは、対角長が1.5インチ以下の表示サイズ、より好ましくは対角長が1インチ以下の表示サイズになっており、この表示面12aの中心に光軸18bが位置合わせされている。
【0038】
上記構成からなる表示光学系11および表示素子12においては、表示素子12の表示面12aに視標を表示したときに、被検者2が眼位置から第1レンズ19、ミラー20および第2レンズ群を介して視標を見ることになる。その場合、眼位置に最も近い第1レンズ19の外径を大きくすれば、より広い範囲で視覚検査を行うことができる。ただし、第1レンズ19の外径を大きくすると、そのレンズ端を通る主光線が光軸18(18a)に対して大きく傾くことになる。そのため、第1レンズ19のパワーが低いと、レンズ端を通る主光線が発散してしまう。
【0039】
そこで本実施形態においては、第1レンズ19に高いパワー(好ましくは、パワーが20D以上、60D以下)のレンズを用いることにより、第1レンズ19のレンズ端を通る主光線を大きく屈折させてミラー20の反射面に収めている。ただし、このように高パワーの第1レンズ19を用いると、第1レンズ19から第2レンズ群に至る光路の途中で主光線の光束が集光し焦点を結んでしまう。このため、光路の途中で焦点を結んだ主光線の光束を、表示素子12の表示面12aで再度集光(結像)させるために、光軸18b上に第2レンズ群を配置してもよい。また、色収差や像倍率を補正するために、第2レンズ群を3つのレンズで構成してもよい。
【0040】
(観察光学系)
観察光学系15は、被検者の眼8を観察対象として、たとえば、瞳孔9、虹彩、強膜などを含む眼前部、あるいは、網膜10を含む眼底部などを観察するためのものである。観察光学系15は、被検者の眼位置から撮像素子16までの光軸18上に設けられている。具体的には、観察光学系15は、被検者の眼位置側から順に、第1レンズ19と、ミラー20と、第3レンズ22とを配置した構成になっている。このうち、第1レンズ19とミラー20は、光軸18aを含めて、上述した表示光学系11と共通(共用)になっている。
【0041】
第3レンズ22は、ミラー20から撮像素子16までの光軸18c上に配置されている。第3レンズ22は、正のパワーを有する非球面のレンズ(凸レンズ)を用いて構成されている。第3レンズ22は、第1レンズ19を対物レンズとして眼8を観察する場合に、眼8から第1レンズ19に入射し、かつミラー20を透過する光を、撮像素子16の撮像面16aに結像させるものである。
【0042】
(撮像素子)
撮像素子16は、被検眼となる眼(前眼部、眼底部など)8を撮像するものである。撮像素子16は、赤外線に対して感度を有するCCD(Charge Coupled Device)撮像素子、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)撮像素子などを用いて構成されている。撮像素子16の撮像面16aは、光軸18c上で眼8と正対する向きに配置され、この撮像面16aの中心に光軸18cが位置合わせされている。
【0043】
赤外光源(不図示)は、被検者の眼位置に向けて赤外線を照射するものである。赤外光源は、一対の赤外線発光ダイオードを用いて構成されている。一対の赤外線発光ダイオードは、被検者の視野を妨げないように、被検者の眼位置に対して斜め上方と斜め下方に分けて配置されている。そして、一方の赤外線発光ダイオードは、被検者の眼8に対して斜め上方から赤外線を照射し、他方の赤外線発光ダイオードは、被検者の眼8に対して斜め下方から赤外線を照射する構成になっている。
【0044】
上記構成からなる観察光学系15および撮像素子16においては、被検者の眼8に赤外光源から赤外線を照射しつつ、第1レンズ19、ミラー20および第3レンズ22を介して眼8の画像を撮像素子16で撮像することになる。
【0045】
(制御系)
図4は本発明の実施形態に係る視覚検査装置の制御系の構成を含むブロック図である。
制御部30は、視覚検査に際して各種の機能(手段)を実現するものである。制御部30は、たとえば、装置本体5よりも小さい筐体構造を有するもので、装着具6の後頭部側に実装される。これにより、装置本体5と制御部30との前後の重量バランスを保つことができる。
【0046】
制御部30は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard disk drive)、各種インタフェース等の組み合わせからなるコンピュータによって構成される。そして、制御部30は、CPUがROMまたはHDDに格納された所定のプログラムを実行することにより、各種の機能を実現するように構成されている。各機能を実現するための所定のプログラムは、コンピュータにインストールして用いられるが、そのインストールに先立ち、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体に格納して提供されてもよいし、あるいはコンピュータと接続する通信回線を通じて提供されてもよい。
【0047】
制御部30は、上記プログラムの実行によって実現される機能(手段)の一例として、縮瞳検出部41と、感度マップ作成部42と、表示制御部43と、を備えている。また、制御部30は、情報の記憶部としてのメモリ44を備えている。
【0048】
縮瞳検出部41は、被検眼の縮瞳現象を検出する機能である。縮瞳現象とは、被検者の眼の瞳孔9が縮小する現象であって、装置本体5を装着した被検者の瞳孔9に光が入射したときに起こる。縮瞳検出部41は、撮像素子16が取得した瞳孔9の画像に基づいて、表示素子12に表示した視標の明るさが所定の明るさ(輝度)以上となったときの瞳孔9の縮瞳を検出する。
【0049】
感度マップ作成部42は、視覚検査において感度マップを作成する機能である。感度マップ作成部42は、たとえば、自覚式視野検査では、被検者が視標の光に反応してスイッチ31を押圧操作したときに、表示素子12が表示していた視標の明るさ(輝度)を網膜10の感度としてマッピングする。また、感度マップ作成部42は、他覚式視野検査では、縮瞳検出部41が瞳孔9の縮瞳を検出したときに、表示素子12が表示していた視標の明るさを網膜10の感度としてマッピングする。
【0050】
表示制御部43は、表示素子12に表示する画像を制御する機能である。表示素子12に表示する画像には、少なくとも、視覚検査のための検査画像が含まれる。検査画像は、視野検査の際に被検者に対して表示(呈示)される画像であって、たとえば、視野検査において視標であるところの固視標および検査用視標、ならびに背景画像121などを含む画像をいう。
【0051】
背景画像121は、例えば、表示素子12上の中心に位置する。表示素子12上の中心またはその近傍に、背景画像121の幾何中心があってもよい。背景画像121の形状には限定は無く、図1に示すように丸形状でもよい。背景画像121の種類にも限定は無く、図1に示すように単色でもよいし風景画像でもよい。いずれにせよ、該背景画像121の幾何中心を表示素子上の中心またはその近傍(5mm程度(好ましくは3mm程度、より好ましくは1mm程度)のずれは許容)に位置させる。更に言うと、背景画像121が無くとも構わない。背景画像121が無い場合であっても、検査可能領域121は画定される。
【0052】
視標表示制御部431は、表示制御部43に包含される構成である。視標表示制御部431が制御するのは、少なくとも検査用視標の表示位置である。視標表示制御部431は、矯正レンズの球面度数に応じて、表示素子12上の検査可能領域121内に表示される検査用視標の表示位置を補正するように構成されている。先の図1に示すように、矯正レンズの球面度数と背景画像121の大きさとは凡そ比例関係(線形関係)にある。これは、矯正レンズの球面度数を把握できていれば、視覚検査装置1に矯正レンズを装着した状態(以降、「矯正状態」ともいう)での背景画像121内の検査用視標の座標位置を、視覚検査装置1に矯正レンズを装着しない状態(以降、「未矯正状態」ともいう)での背景画像121内の検査用視標の座標位置へと戻す(補正する)ことが可能であることを意味する。
【0053】
図5は、本実施形態における、矯正レンズを視覚検査装置1に装着しない場合、および、矯正レンズの球面度数ごとの、表示素子12上の中心に位置する灰色単色の背景画像121(広義には検査可能領域121)と該背景画像121内に表示される検査用視標(図中黒丸で表示)の座標位置を示す図である。図中の数値(単位:°)は検査可能な最大偏心度を指す。図中十字は表示素子12上に表示された固視標を示す。図中破線丸は補正前の検査用視標の座標位置を示す。図5Aは、矯正レンズを視覚検査装置に装着しない場合における図である。図5Bは、-6D(ディオプター)の矯正レンズを視覚検査装置に装着した場合における図である。図5Cは、-12D(ディオプター)の矯正レンズを視覚検査装置に装着した場合における図である。図5Dは、+6D(ディオプター)の矯正レンズを視覚検査装置に装着した場合における図である。
【0054】
図5に示すように、本実施形態においても、矯正レンズを視覚検査装置1に装着しない場合(図5A)に比べ、矯正レンズを装着した場合(図5B図5D)、被検者から見た背景画像121の大きさが異なっている。その一方、被検者から見た検査用視標は、矯正レンズを装着した場合でも、矯正レンズを装着しない場合と同じ座標位置に表示されている。具体的には、例えば、図5Bおよび図5Cに示すように、負の球面度数を有する矯正レンズを装着した場合、検査用視標の表示位置を外側よりに補正することによって、図5Aに示す矯正レンズを装着しない場合と同じ座標位置に検査用視標が表示される。また、図5Dに示すように、正の球面度数を有する矯正レンズを装着した場合、検査用視標の表示位置を中心よりに補正することによって、図5Aに示す矯正レンズを装着しない場合と同じ座標位置に検査用視標が表示される。つまり、本実施形態の視標表示制御部431は、被検者から見た検査用視標の座標位置が、矯正レンズを装着しない状態と等しくなるように、矯正レンズの球面度数に応じて、検査用視標の表示位置を補正するように構成されている。言い換えると、本実施形態の視標表示制御部431は、検査用視標から表示光学系11を通って被検者の眼8(被検者が固視標を固視した状態においては瞳孔9の中心)に入射する光束の角度が、矯正レンズを装着しない状態と等しくなるように、矯正レンズの球面度数に応じて、検査用視標の表示位置を補正するように構成されている。これにより、検査を行っている偏心度が、矯正レンズの有無または矯正レンズの球面度数によって変わることなく、適切な視覚検査を行うことができる。
【0055】
上記の例では矯正レンズの球面度数と背景画像121の大きさ(つまり、矯正レンズの球面度数と、検査用視標の表示位置を補正する量)とが線形関係にあることを前提としたが、非線形関係であってもよい。例えば、図1図5の各図は背景画像121の大きさの変化を顕著に示しているが、これは矯正レンズ単体の場合の変化であり、本発明に係る視覚検査装置1の表示光学系11には他にもレンズ等が存在する。そのため、背景画像121の大きさの変化は多少緩やかである。このことを反映し、矯正レンズの球面度数と背景画像121の大きさとが非線形関係(曲線関係)にあることを前提としてもよい。
【0056】
なお、負の球面度数を有する矯正レンズを装着している状態において、検査を行う偏心度が大きい場合、検査用視標の表示位置を外側よりに補正した結果、検査用視標が背景画像121の外側(検査可能領域121の範囲外)に出てしまう可能性がある。この場合、検査用視標の表示位置の補正を行わなくてもよいし、検査用視標が背景画像121の外周部付近に表示されるよう、検査用視標の表示位置を補正してもよい。
【0057】
図5に示すように、本実施形態では、矯正レンズの球面度数に応じて、被検者から見た検査用視標の大きさが異なっている。視標表示制御部431は、検査用視標の表示素子12上の大きさを補正(変更)しないことが好ましい。この場合、被検者の眼8に入射する検査用視標の光量(エネルギー)が、矯正レンズの球面度数によらず一定となるため、より適切な視覚検査を行うことができる。
【0058】
表示制御部43(または視標表示制御部431)は、被検者の瞳孔間距離をPD、被検者に対する固視標の表示距離をL、瞳孔間距離PDと表示距離Lとによって求まる輻輳角に基づいて、表示素子12の各々に固視標を表示してもよい。上記輻輳角に基づいて表示素子12の各々に固視標を表示する内容は、先の特許文献1に記載の内容を適用しても構わない。
【0059】
図6は、固視標を見ているとき(以下、固視状態ともいう)の被検者の眼の画像161を示す模式図である。図6Aは、矯正レンズを視覚検査装置に装着しない場合における図である。図6Bは、-6D(ディオプター)の矯正レンズを視覚検査装置に装着した場合における図である。図6Cは、-12D(ディオプター)の矯正レンズを視覚検査装置に装着した場合における図である。
【0060】
図6の各図を比べると、被検者の眼8の大きさ、ひいては瞳孔9の外観(例:瞳孔径)が異なることがわかる。具体的には、負の球面度数を有する矯正レンズを装着した場合、矯正レンズを装着しない場合に比べて、被検者の眼8および瞳孔9の大きさが小さくなっていることがわかる。
【0061】
検者が被検者の眼の画像161を確認する一つの理由が、被検者が検査用視標に視線が向いていないことを確認することにある。視野検査は、被検者が正面の固視標を固視した状態で周辺視野に異常が無いかを確認することに大きな意味がある。それにもかかわらず被検者の視線が固視標からずれた状態だと適切な視覚検査を行えない可能性がある。
【0062】
そこで、視標表示制御部431は、例えば、検査用視標を表示素子12上に表示させる前に、固視標から被検者の視線がずれた際に、検査用視標の表示位置を所定の補正量だけ補正することが好ましい。具体的には、例えば、矯正レンズを装着しない状態で、被検者の視線が固視標から右方向に10mmずれた場合、検査用視標の表示位置を視線のずれと同じ方向(この場合は右方向)に10mm補正すれば、検査を行っている偏心度が変わることなく、適切な視覚検査を行うことができる。なお、固視標から被検者の視線がずれた方向、および、ずれた量を確認するには、例えば、被検者の眼の画像161(特に、瞳孔9の中心の位置)を確認すればよい。
【0063】
しかしながら、矯正レンズを装着した状態においては、例えば、検査用視標の表示位置を右に10mm補正したからといって、被験者から見た検査用視標の座標位置が右に10mm変更されるとは限らない。したがって、視標表示制御部431は、検査用視標を表示素子12上に表示させる前に、表示素子12上に表示される固視標から、被検者の視線がずれた際に、検査用視標の表示位置を補正する補正量を、矯正レンズの球面度数に応じて変更することが好ましい。具体的には、例えば、負の球面度数を有する矯正レンズを装着している場合、補正量を通常より大きく変更し、正の球面度数を有する矯正レンズを装着している場合、補正量を通常より小さく変更すればよい。これにより、固視標から被検者の視線がずれた場合でも、検査を行っている偏心度が変わることなく、適切な視覚検査を行うことができる。
【0064】
なお、固視標から被検者の視線がずれた際に、検査用視標の表示位置を所定の補正量だけ補正する場合、視標表示制御部431は、固視標の表示位置について、例えば、検査用視標と同じだけ補正してもよいし、補正しなくてもよい。また、検査用視標を表示素子12上に表示させた後に、固視標から被検者の視線がずれた場合、その後に検査用視標の表示位置を補正したとしても適切な視覚検査を行えない可能性があるため、検査用視標の表示位置を補正しなくてもよい。
【0065】
被検者の眼の画像161の中心と瞳孔9の中心とが一致あるいはその近傍(例えば眼の画像161の中心から5mm半径の円内)にある状態は、正常な固視状態であるとしてもよい。その一方、矯正レンズの有無または矯正レンズの球面度数により検査可能領域121の大きさが変わる。その影響が、被検者の眼の画像161にも及ぶため、上記の「5mm半径の円内」は、矯正レンズの球面度数に応じて、適宜変更してもよい。
【0066】
情報の記憶部であるメモリ44は、視覚検査に必要な情報を含めて、各種の情報を記憶するために用いられる。たとえば、感度マップ作成部42は、視覚検査を開始してから終了するまでに得られた検査結果をメモリ44に順に記憶し、視覚検査の終了後に、メモリ44に記憶してある検査結果を用いて感度マップを作成する。
【0067】
メモリ44は、矯正レンズの球面度数を記憶してもよい。記憶させる態様には限定は無く、検者が手入力で矯正レンズの球面度数を視覚検査装置1に入力してもよいし、インターネット回線を介してメモリ44に記憶させてもよい。更に別の態様として、撮像素子により撮像された眼の画像161内に存在する矯正レンズの外観的特徴に基づいて矯正レンズの球面度数を自動認識する矯正レンズ識別部46を視覚検査装置1に更に設け、該矯正レンズ識別部46により自動認識された球面度数をメモリ44に記憶させてもよい。
【0068】
「矯正レンズの外観的特徴」は、例えば、矯正レンズの外縁に切り欠きを設けることが挙げられる。この構成を採用すれば、図6Bおよび図6Cに示すように、眼の画像161上において矯正レンズの切り欠き(符号161N)が外観で確認できる。球面度数ごとに切り欠きの態様を異ならせてもよいし、肉眼では判別できなくとも画像161上では外観が判別可能な特徴であってもよい。該特徴としては、例えば赤外線を照射したときに画像161上で識別可能な隠しマーク等が挙げられる。矯正レンズがこのような外観的特徴を備えていることで、例えば、視覚検査が終了した後においても、保存された眼の画像161から矯正レンズの球面度数を確認し、適切な視覚検査が行われていたかどうかを確認することができる。
【0069】
そして、視覚検査装置1は、矯正レンズ識別部46により自動認識された球面度数と、記憶部(メモリ44)に記憶された球面度数とが一致するか否かを判定する判定部47を更に備えてもよい。判定部47を備えることの利点は以下の場合が想定される。
【0070】
例えば、ある被検者にとっての矯正レンズの球面度数を予め検者が把握しており、該球面度数に対応する矯正レンズを視覚検査装置1に装着して視覚検査を行う。ところが、視覚検査の際、矯正レンズ識別部46により自動認識された球面度数が、検者が把握していた球面度数と異なると判定部47により判定され、検者に対して視覚検査装置1から警告が発せられる。この警告により、矯正レンズを間違えて視覚検査装置1に装着されたことが判明する。それにより、不適切な状態での視覚検査の結果を得る前に、適切な状態に戻すことができる。
【0071】
制御部30には、上述したスイッチ31、撮像素子16L,16R、表示素子12L,12Rのほかに、端末45が有線または無線で通信可能に接続されている。端末45は、視覚検査装置1を使用するにあたって、視覚検査を行う眼科医などの検者が、例えば、視覚検査に必要な各種の設定、調整、操作、指示などを行うためのものである。端末45は、たとえば、モニタ付きのパーソナルコンピュータ等を用いて構成される。
【0072】
スイッチ31は、視覚検査を受ける被検者が操作するものである。スイッチ31は、主に視覚検査で被検者が応答用に操作するものである。スイッチ31としては、好ましくは、被検者が手で持って操作する手動式のスイッチ、より好ましくは、被検者が手の指(たとえば、親指や人差し指など)で押圧操作する押圧式のスイッチを用いるとよい。その場合、被検者がスイッチ31を押圧操作すると、スイッチ31がオフ状態からオン状態に切り替わり、スイッチ31からオン信号が出力される。このオン信号は制御部30に取り込まれる。
【0073】
以上の通り、本実施形態によれば、矯正レンズの有無または矯正レンズの球面度数にかかわらず適切な視覚検査を行える。
【0074】
<2.視覚検査方法>
続いて、本発明の実施形態に係る視覚検査装置1を用いて行われる視覚検査方法について説明する。
【0075】
本発明の実施形態に係る視覚検査装置1においては、動的量的視野検査(ゴールドマン視野検査)、静的量的視野検査、眼底視野検査(マイクロペリメトリー)、網膜電図検査(ERG)その他の検査を行うことが可能である。ここでは一例として、静的量的視野検査を行う場合について説明する。
【0076】
静的量的視野検査は、次のように行われる。まず、視野内の中心部に固視標を呈示し、この固視標を被検者に固視させる。次に、被検者に固視標を固視させたまま、視野内の一点に視標を呈示し、その明るさを徐々に増していく。すると、視標がある明るさになると、被検者から視標が見えるようになる。そこで、被検者が視標を見えるようになったときの明るさに対応する値を、そのときに視標を呈示している点での網膜感度とする。そして、視野内の各点について同様の測定を行うことにより、視野内の網膜感度の相違を量的に調べ、マップを作成する。このような静的量的視野検査には、自覚式視野検査と他覚式視野検査がある。本実施形態の視覚検査装置1を使用すれば、いずれの方式の検査も行うことができる。以下、説明する。
【0077】
自覚式視野検査は、次のように行われる。まず、ヘッドマウント型の視覚検査装置1(装置本体5)を被検者の頭部に装着するとともに、被検者の手にスイッチ31を持たせる。次に、制御部30の指令に基づき、表示素子12の表示面12aに固視標を表示して被検者に固視させ、その状態で表示面12aの一点に視野検査用の視標を表示する。このとき、最初は視標の明るさを暗くしておき、その後、徐々に視標の明るさを増していく。そうすると、最初のうちは暗くて被検者から視標が見えなくても、視標がある明るさになると被検者の網膜が光の刺激に反応し、被検者から視標が見えるようになる。このため、被検者から視標が見えるようになったときに、その応答として被検者にスイッチ31を押してもらう。被検者がスイッチ31を押すと、制御部30にオン信号が送られる。このオン信号を受けて、感度マップ作成部42は、そのときの視標の点の明るさに対応する値をその点の網膜の感度とする。以降は、視野内の各点について同様の測定を行うことにより、感度マップ作成部42が視野内の網膜感度の相違を量的に調べ、網膜の感度マップを作成する。
【0078】
他覚式視野検査は、次のように行われる。まず、ヘッドマウント型の視覚検査装置1を被検者の頭部に装着して、上記同様に被検者に固視標を固視させる。次に、制御部30の指令に基づき、表示素子12の表示面12aの一点に視野検査用の視標を表示する。このとき、最初は視標の明るさを暗くしておき、その後、徐々に視標の明るさを増していく。そうすると、最初のうちは暗くて被検者から視標が見えなくても、視標がある明るさになると被検者の網膜が光の刺激に反応し、被検者から視標が見えるようになる。
【0079】
自覚式視野検査にせよ他覚式視野検査にせよ、本実施形態では、これまで述べてきた球面度数に基づく変換作業を適用したうえで、視標表示制御部431は、表示素子12に表示する検査用視標(好適には検査用視標および固視標)の表示位置を制御する。その制御の際には、先に述べた矯正レンズ識別部46および判定部47を適用し、視覚検査装置1に入力された矯正レンズについての情報(有無、球面度数)と、実際に視覚検査装置1に装着された矯正レンズの球面度数とが一致しているか否かの確認作業を行ってもよい。
【0080】
その際、被検者の瞳孔9の大きさ(瞳孔径)が視標の明るさに応じて変化する。具体的には、被検者の瞳孔9の径が縮小する。このときの眼8の状態変化を撮像する。眼8の撮像は、赤外光源から眼8に向けて赤外線を照射し、これによって得られる眼8の像光を、観察光学系15(19,20,22)を介して撮像素子16の撮像面16aに結像させることにより行う。眼8の撮像を開始するタイミングは、たとえば、表示面12aに視標を表示する前のタイミング、あるいは、視標の表示と同時に設定すればよい。ちなみに、人間の網膜は、赤外線に対して感度を持たないため、眼8の状態変化に影響を与えることはない。
【0081】
撮像素子16を用いて撮像された眼8の画像161は、制御部30に取り込まれる。その際、縮瞳検出部41では、視標の明るさを徐々に増やす過程で、被検者の瞳孔径が視標の明るさに反応して変化(縮小)したかどうかを、撮像素子16から送り込まれる画像161のデータに基づいて判断する。そして、被検者の瞳孔径が変化したと縮瞳検出部41が判断すると、感度マップ作成部42は、そのときの視標の点の明るさに対応する値をその点の網膜上の感度とする。以降は、視野内の各点について同様の測定を自動的に次々と行うことにより、感度マップ作成部42が視野内の網膜上の感度の相違を量的に調べ、網膜上の感度マップを自動的に作成する。
【0082】
被検者の瞳孔径が視標の明るさに反応して変化(縮小)したかどうかの検出に対し、これまで述べてきた球面度数に基づく変換作業を適用してもよい。具体的には、撮像された眼8の画像161上において、瞳孔径の変化(縮小)は、矯正レンズの有無または矯正レンズの球面度数により異なる。これに対し、これまで述べてきた球面度数に基づき瞳孔径を未矯正状態の瞳孔径に変換し、その瞳孔径を基に被検者の瞳孔径が変化したかどうかを縮瞳検出部41が検出してもよい。
【0083】
なお、これまでに述べてきた座標位置の変換作業は、縮瞳検出部41および先に述べた視標表示制御部431が行ってもよいし、視覚検査装置1に別途設けた演算部により得られた演算結果を縮瞳検出部41および視標表示制御部431が各々取得して縮瞳検出および視標表示に反映させてもよい。
【0084】
なお、他覚式視野検査では、表示素子12の表示面12aの一点に明るい視標を表示し、瞳孔径の縮小の度合いを観察することにより感度マップを作成する単一閾上刺激法を用いても良い。
【0085】
<3.変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0086】
例えば、上記実施形態においては、視覚検査装置1の装着具6をベルト13,14により構成したが、被検者2の頭部3に装置本体5を装着可能な構成であれば、どのような構成の装着具6を採用してもかまわない。ただし、視覚検査中に装置本体5の位置が動いてしまうと、正しい検査結果が得られなくなる。このため、装着具6の構成としては、被検者2の頭部3に装置本体5をきちんと固定できる構成であることが好ましい。
【0087】
また、上記実施形態においては、被検者2の頭部3に装置本体5を装着して使用するヘッドマウント型の視覚検査装置1を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、左右独立した構成の表示光学系と表示素子を備え、両眼開放の状態で視覚検査を行えるものであれば、いずれも適用可能である。
【0088】
また、上記実施形態においては、液晶表示素子を用いて表示素子12を構成するとしたが、本発明はこれに限らず、たとえば、有機EL(Electro Luminescence)表示素子などを用いて表示素子12を構成してもよい。
【0089】
また、上記実施形態においては、表示光学系11を合計4つのレンズで構成するとともに、観察光学系15を合計2つのレンズ(そのうちの一つは表示光学系11と共用)で構成してもよいが、各々の光学系を構成するレンズの個数や形状、光軸方向のレンズ間隔などは、必要に応じて変更可能である。ただし、第2レンズ群については、正のパワーを有するレンズと負のパワーを有するレンズを組み合わせて色収差や像倍率を補正するため、複数個のレンズで構成することが好ましい。また、ミラー20をダイクロイックミラーで構成してもよい。
【0090】
また、本実施形態では、表示光学系11および表示素子12は、被検者の左眼8Lと右眼8Rに対応してそれぞれ左右独立に設けられた。その一方、本発明の主旨は、矯正レンズの球面度数に応じて、検査可能領域121内に表示される検査用視標の表示位置を補正することであり、上記左右独立構造を備えない場合であってもこれは実現可能である。その結果、本発明の技術的思想はこの構成に限定されない。
【0091】
また、本実施形態では、被検者の眼を検者が観察するための観察光学系15および該観察光学系15を通して被検者の眼を撮像する撮像素子16を更に備えた。その一方、本発明の主旨は、矯正レンズの球面度数に応じて、検査可能領域121内に表示される検査用視標の表示位置を補正することであり、観察光学系15および撮像素子16を備えない場合であってもこれは実現可能である。その結果、本発明の技術的思想はこの構成に限定されない。
【0092】
また、矯正レンズの球面度数に応じて、検査可能領域121内に表示される検査用視標の表示位置を補正することに加え、例えば、検査用視標の輝度を維持(または変更)するよう視標表示制御部431により制御してもよい。
【0093】
また、本実施形態において、矯正レンズを装着した場合、被検者から見た背景画像121の大きさが異なることを説明したが、視標表示制御部431は、矯正レンズの球面度数に応じて、表示素子12上に表示する背景画像121の大きさを変更してもよい。具体的には、例えば、被験者から見た背景画像121の大きさが、矯正レンズを装着しない場合と同じになるように、表示素子12上に表示する背景画像121の大きさを変更してもよい。この場合、負の球面度数を有する矯正レンズを装着した場合でも、検査可能な最大偏心度を維持することができる。
【0094】
また、乱視矯正用の矯正レンズを視覚検査装置1に装着した場合、視標表示制御部431は、例えば、矯正レンズの円柱度数や乱視軸に応じて、検査可能領域121内に表示される検査用視標の表示位置を補正してもよい。
【0095】
本発明の技術的思想は、これまでに説明した視覚検査装置1と、互いに球面度数が異なる複数の矯正レンズであって、撮像素子16により撮像された眼の画像161内において球面度数を区別可能な外観的特徴を有する矯正レンズとを含む、視覚検査装置セットにも反映されている。
【符号の説明】
【0096】
1…視覚検査装置
2…被検者
3…頭部
5…装置本体
6…装着具
7…筐体
8…眼
9…瞳孔
10…網膜
11…表示光学系
12…表示素子
12a…表示面
121…検査可能領域(背景画像)
13,14…ベルト
15…観察光学系
16…撮像素子
161…被検者の眼の画像
161N…眼の画像上における矯正レンズの切り欠き
18…光軸
19…第1レンズ
20…ミラー
22…第3レンズ
30…制御部
31…スイッチ
41…縮瞳検出部
42…感度マップ作成部
43…表示制御部
431…視標表示制御部
44…メモリ
45…端末
46…矯正レンズ識別部
47…判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6