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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153565
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ロータリーピストンエンジン
(51)【国際特許分類】
   F01N 13/18 20100101AFI20231011BHJP
   F01N 13/16 20100101ALI20231011BHJP
   F01N 13/10 20100101ALI20231011BHJP
   F02B 55/16 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
F01N13/18
F01N13/16
F01N13/10
F02B55/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062920
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 靖
(72)【発明者】
【氏名】須藤 大樹
【テーマコード(参考)】
3G004
【Fターム(参考)】
3G004AA01
3G004BA01
3G004BA04
3G004DA01
3G004FA04
3G004GA02
(57)【要約】
【課題】ロータリーピストンエンジンにおいて排気通路の振動を抑制できる排気構造を提供する。
【解決手段】排気通路に、前後方向に延びる形状を有し且つ前記一対の排気ポートに共通して接続される第1排気通路と、排気通路の前記第1排気通路よりも下流側の通路を構成して第1排気通路内を排気が前方に向かって流れるように当該第1排気通路の前端に接続された第2排気通路とを設け、第1排気通路を、エンジン幅方向の前記一方側に凸となる湾曲形状とするとともに、一対の排気ポートの前後中央と前側の排気ポートとの間の位置から前方に延びる特定部分の厚みを当該第1排気通路の他の部分よりも厚くする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に延びるエキセントリックシャフト回りを回転するロータおよび当該ロータを収容するロータ収容室を有するエンジン本体と、前記エンジン本体から排出された排気が内側を流通する排気通路とを備えたロータリーピストンエンジンにおいて、
前記エンジン本体は、前記ロータの外周を囲むロータハウジングと、前記ロータハウジングの前後方向の両側に設けられる一対のサイドハウジングと、前後方向と直交するエンジン幅方向について前記一対のサイドハウジングの一方側の外側面にそれぞれ開口して共通の前記ロータ収容室から前記排気通路に排気を導出する一対の排気ポートとを備え、
前記排気通路は、前後方向に延びる形状を有し且つ前記一対の排気ポートに共通して接続された第1排気通路と、前記第1排気通路の前端に接続されて当該第1排気通路よりも下流側の前記排気通路を構成する第2排気通路とを備え、
前記第1排気通路は、エンジン幅方向の前記一方側に凸となる湾曲形状を有するとともに、前記一対の排気ポートの前後中央と前側の前記排気ポートとの間の第1位置からこれよりも前方の第2位置までの特定領域の厚みが当該第1排気通路の他の部分よりも厚くされている、ことを特徴とするロータリーピストンエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載のロータリーピストンエンジンにおいて、
前記第1排気通路は、内側を排気ガスが流通する本体部と、当該本体部の外周面に接合された補強部材とを備え、
前記第1排気通路の前記特定領域は、前記本体部の外周面に前記補強部材が接合されることで他の部分よりも厚くされている、ことを特徴とするロータリーピストンエンジン。
【請求項3】
請求項2に記載のロータリーピストンエンジンにおいて、
前記本体部および前記補強部材は金属製である、ことを特徴とするロータリーピストンエンジン。
【請求項4】
請求項1に記載のロータリーピストンエンジンにおいて、
前記第1排気通路のうち前記各排気ポートの開口端と対向する部分は、前後方向およびエンジン幅方向と直交する方向の寸法が前記各排気ポートの開口端との接続位置からエンジン幅方向の前記一方側に向かって拡大する形状を有する、ことを特徴とするロータリーピストンエンジン。
【請求項5】
請求項1に記載のロータリーピストンエンジンにおいて、
前記第1排気通路は、後側の前記排気ポートの開口端から前方に延びる形状を有し、
前記第1排気通路の後端部は、外側に凸となる球面に沿う形状を有する、ことを特徴とするロータリーピストンエンジン。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のロータリーピストンエンジンにおいて、
前記エンジン本体は、前記ロータを1つだけ有する1ロータ式のロータリーピストンエンジンである、ことを特徴とするロータリーピストンエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリーピストンエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
車載用エンジン等では、エンジンから発せられる騒音を低減することが求められている。エンジンから発せられる音の一つとして排気通路で生じる音がある。具体的に、排気ガスがエンジン本体から排気通路に導出されると、排気ガスの脈動によって排気通路が振動して騒音が生じる。
【0003】
上記の排気通路の振動を抑制することを目的とした構造として、例えば、特許文献1には、複数の気筒を有するエンジンに設けられて各気筒に接続される複数の枝排気管と各排気管が合流する主排気管とを備える排気通路において、主排気管から最も離れた気筒の枝排気管の外表面のうち当該枝排気管が他の枝排気管と合流する部分に補強板が接合された構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-108751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のエンジンでは、互いに異なる気筒に各枝排気管がそれぞれ接続されており、各枝排気管に排気ガスが導入されるタイミングは互いに異なる。これに対して、ロータリーピストンエンジンでは、共通のロータ収容室と連通する複数の排気ポートが設けられて、複数の排気ポートから同時に排気通路に排気ガスが導出されるように構成される場合がある。特許文献1の構成は、このような複数の排気ポートから同時に排気通路に排気ガスが導入されるロータリーピストンエンジンにおける排気通路の振動について十分な考慮がなされておらず、この点、つまり、ロータリーピストンエンジンにおける排気通路の振動抑制の点で改良の余地がある。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、排気通路の振動を抑制できるロータリーピストンエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、前後方向に延びるエキセントリックシャフト回りを回転するロータおよび当該ロータを収容するロータ収容室を有するエンジン本体と、前記エンジン本体から排出された排気が内側を流通する排気通路とを備えたロータリーピストンエンジンにおいて、前記エンジン本体は、前記ロータの外周を囲むロータハウジングと、前記ロータハウジングの前後方向の両側に設けられる一対のサイドハウジングと、前後方向と直交するエンジン幅方向について前記一対のサイドハウジングの一方側の外側面にそれぞれ開口して共通の前記ロータ収容室から前記排気通路に排気を導出する一対の排気ポートとを備え、前記排気通路は、前後方向に延びる形状を有し且つ前記一対の排気ポートに共通して接続された第1排気通路と、前記第1排気通路の前端に接続されて当該第1排気通路よりも下流側の前記排気通路を構成する第2排気通路とを備え、前記第1排気通路は、エンジン幅方向の前記一方側に凸となる湾曲形状を有するとともに、前記一対の排気ポートの前後中央と前側の前記排気ポートとの間の第1位置からこれよりも前方の第2位置までの特定領域の厚みが当該第1排気通路の他の部分よりも厚くされている、ことを特徴とする。
【0008】
この構成では、共通のロータ収容室から排気を導出する一対の排気ポートが設けられたロータリーピストンエンジンにおいて、上記一対の排気ポートに共通して接続される第1排気通路の形状が、エンジン幅方向の前記一方側つまり排気ポートから排気通路が導出される向きに凸となる湾曲形状となっており、当該第1排気通路が平坦な形状とされる場合に比べて、第1排気通路のうち排気ガスが衝突する部分の剛性が高められている。そのため、排気ガスが第1排気通路の内周面に衝突したときの当該第1排気通路の振動を抑制でき、第1排気通路から生じる騒音を低減できる。
【0009】
しかも、排気通路の第1排気通路よりも下流側の通路を構成する第2排気通路が第1排気通路の前端に接続されており、第1排気通路内を排気が前方に向かって流れるという構成において、一対の排気ポートの前後中央と前側の前記排気ポートとの間の第1位置からこれよりも前方の第2位置までの特定領域の厚みが第1排気通路の他の部分よりも厚くされている。つまり、排気ガスの流れ方向について1対の排気ポートの中央位置と下流側の排気ポートとの間の第1位置からこれよりも下流側の第2位置までの領域であって、各排気ポートから第1排気通路に同時に導出される排気ガスが合流することで振動しやすい領域の厚みが厚くされて剛性が高められている。そのため、第1排気通路全体の厚みを大きくすることなく、第1排気通路の振動を効果的に抑制できる。
【0010】
上記構成において、好ましくは、前記第1排気通路は、内側を排気ガスが流通する本体部と、当該本体部の外周面に接合された補強部材とを備え、前記第1排気通路の前記特定領域は、前記本体部の外周面に前記補強部材が接合されることで他の部分よりも厚くされている(請求項2)。
【0011】
この構成によれば、本体部に補強部材を接合するという簡単な構成で、特定領域の厚みを厚くできる。
【0012】
上記構成において、前記本体部および前記補強部材としては金属製のものが挙げられる(請求項3)。
【0013】
上記構成において、好ましくは、前記第1排気通路のうち前記各排気ポートの開口端と対向する部分は、前後方向およびエンジン幅方向と直交する方向の寸法が前記各排気ポートの開口端との接続位置からエンジン幅方向の前記一方側に向かって拡大する形状を有する(請求項4)。
【0014】
この構成では、各排気ポートから第1排気通路に導出された排気ガスを前後方向およびエンジン幅方向と直交する方向に拡散させることができ、第1排気通路内での排気ガスの動圧を低減できる。そのため、第1排気通路の振動をより低減できる。
【0015】
上記構成において、好ましくは、前記第1排気通路は、後側の前記排気ポートの開口端から前方に延びる形状を有し、前記第1排気通路の後端部は、外側に凸となる球面に沿う形状を有する(請求項5)。
【0016】
この構成によれば、第1排気通路の後端部であって後側の排気ポートと対向する部分の剛性をさらに高めることができ、第1排気通路の後端部の振動をより一層低減できる。
【0017】
上記構成において、エンジン本体としては、前記ロータを1つだけ有する1ロータ式のロータリーピストンエンジンが挙げられる(請求項6)。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明のロータリーピストンエンジンによれば、ロータリーピストンエンジンにおいて排気通路の振動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係るエンジンの概略構成を示したシステム図である。
図2】エンジンを含むパワートレインシステムの概略平面図である。
図3】パワートレインシステムを概略正面図である。
図4】エンジン周辺の概略側面図である。
図5図4のV-V線における概略断面図である。
図6図5のVI-VI線における概略断面図である。
図7図5のVII-VII線における概略断面図である。
図8】第1エキマニ部内の排気の流れを説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(エンジンの全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係るロータリーピストンエンジン1の概略構成を示したシステム図である。以下では、ロータリーピストンエンジン1を単にエンジン1という。図2はエンジン1を含み車両に搭載されるパワートレインシステム200の概略平面図、図3はパワートレインシステム200の概略正面図、図4はパワートレインシステム200のうちのエンジン1周辺の概略側面図である。なお、図2では、後述する吸気通路3の図示は省略している。
【0021】
本実施形態に係るエンジン1は、車両に搭載される。例えば、エンジン1は、モータを車輪の駆動源として備えるハイブリッド車両に搭載される。本実施形態では、車両に搭載される、モータ等を含むパワートレインシステム200にエンジン1が組み込まれている。具体的に、パワートレインシステム200は、図2に示すように、エンジン1と、発電機202、減速機203と、モータ201とを有する。発電機202は、エンジン1により駆動されて発電し、バッテリ(不図示)を充電する。モータ201は、バッテリからの給電によって回転する。減速機203は、モータ201の回転を減速して車輪に伝達する。本実施形態では、エンジン1は、上記のように発電機202を駆動する装置として利用される。
【0022】
エンジン1は、エンジン本体10と、エンジン本体10に導入される吸気が内側を流通する吸気通路3と、エンジン本体10から排出される排気が内側を流通する排気通路5と、排気通路5を流れる排気の一部を吸気通路3に還流するEGR装置4とを備える。
【0023】
(エンジン本体)
エンジン本体10は、1ロータ式である。エンジン本体10は、所定の方向に延びるエキセントリックシャフト12と、エキセントリックシャフト12回りを回転するロータ11と、ロータ11を収容するロータ収容室Rとを有する。エンジン本体10は、ロータ11の外周を囲むロータハウジング13と、ロータハウジング13の上記所定の方向の両側(つまりロータ11の回転軸に沿う方向の両側)に設けられる一対のサイドハウジング14、14とを有する。ロータ収容室Rは、ロータハウジング13と2つのサイドハウジング14、14により区画されている。ロータハウジング13は、2ノードのペリトロコイド曲線に沿う内周面を有する。ロータ11は、エキセントリックシャフト12に対して遊星回転運動してロータハウジング13の内周面に沿って回転する。
【0024】
エンジン本体10は、一方のサイドハウジング14のロータハウジング13と反対側(上記所定の方向について)に連結されて、フライホイールが収容されるリアカバー20を有する。エンジン本体10は、他方のサイドハウジング14のロータハウジング13と反対側(上記所定の方向について)に連結されるフロントカバー22を有する。
【0025】
エンジン1は、上記所定の方向が略水平方向と一致する姿勢つまりロータ11の回転軸およびエキセントリックシャフト12が略水平方向に延びる姿勢で車両に搭載される。以下の説明では、上記所定の方向(エキセントリックシャフト12の長手方向およびロータ11の回転軸に沿う方向)を前後方向という。この所定の方向(前後方向)は、請求項の「前後方向」に相当する。また、以下では、この前後方向について、リアカバー20が設けられる側を後、フロントカバー22が設けられる側を前、として説明を行う。また、以下では、エンジン1が車両に搭載された状態での上下方向を単に上下方向とし、エンジン本体10を後方から見たときの左右方向を単に左右方向として説明する。この左右方向は、請求項の「エンジン幅方向」に相当する。また、後述するように、本実施形態では、排気ポート15がサイドハウジング14の右側面に開口しており、左右方向について「右側」が請求項の「一方側」に相当する。
【0026】
パワートレインシステム200は、エンジン1、発電機202、減速機203、モータ201がこの順で前方から並ぶように構成されている。具体的に、エンジン1の後面つまりリアカバー20の後面に発電機202が連結され、発電機202の後面に減速機203が連結され、減速機203の後面にモータ201が連結されている。
【0027】
本実施形態では、エンジン1は、エンジン1の上記の前後方向(エキセントリックシャフト12の長手方向およびロータ11の回転軸に沿う方向)が車幅方向と一致し、上記左右方向が車両前後方向と一致する姿勢で車両に搭載される。なお、図1のエンジン本体10の図は、これを前方から見たときの概略断面図である。また、図2はパワートレインシステム200を上方から見たときの図であり、図3はパワートレインシステム200を前方から見たときの図であり、図4はパワートレインシステム200のうちのエンジン1の周辺部分を右方から見たときの図である。
【0028】
エンジン本体10には、吸気通路3に接続されて吸気通路3内の吸気をロータ収容室Rに導入する吸気ポート16、および、排気通路5に接続されてロータ収容室Rから排気を排気通路5に導出する排気ポート15が形成されている。吸気ポート16は、ロータ収容室Rの右側上部に開口しており、排気ポート15はロータ収容室Rの右側下部に開口している。つまり、エンジン本体10は、ロータ11が前方から見て時計回りに回転し、ロータ収容室Rの右側上部、左側上部、左側下部、右側下部の各領域がそれぞれ概ね吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程の実施領域となるように構成されている。換言すると、エンジン1は、上下方向について、各行程の実施領域が上記の位置になるように車両に搭載される。
【0029】
吸気ポート16および排気ポート15は、それぞれ2つずつエンジン本体10に設けられている。エンジン本体10は、サイドポート式のロータリーピストンエンジンであり、吸気ポート16および排気ポート15はサイドハウジング14に形成されている。具体的に、2つのサイドハウジング14の上部には、それぞれ1つずつ吸気ポート16が形成されており、各吸気ポート16は、各サイドハウジング14の右側面(右側の外側面)の上部に開口している。また、2つのサイドハウジング14の下部にそれぞれ1つずつ排気ポート15が形成されており、各排気ポート15は、各サイドハウジング14の右側面の下部に開口している。2つの排気ポート15は、前後方向についてほぼ対称な形状を有し、2つのサイドハウジング14の右側面のほぼ同じ高さ位置に開口している。同様に、2つの吸気ポート16は、前後方向についてほぼ対称な形状を有し、2つのサイドハウジング14の右側面のほぼ同じ高さ位置に開口している。
【0030】
エンジン本体10には、ロータ収容室R内に燃料を噴射する燃料噴射装置17と、ロータ収容室R内に形成された燃料と空気の混合気を添加する点火プラグ18とが取り付けられている。燃料噴射装置17は、ロータ収容室Rの上端(詳細には上端から点火プラグ18側にオフセットした位置)を臨むように取り付けられており、点火プラグ18は、ロータ収容室Rの左下部を臨むように取り付けられている。
【0031】
(吸気通路)
吸気通路3には、吸気中に含まれる異物を除去するエアクリーナ31と、吸気通路3を開閉してエンジン本体10(ロータ収容室R)に導入される吸気の量を調整可能なスロットル弁32とが、上流側からこの順に設けられている。スロットル弁32はスロットルバルブケース33に収容されており、スロットルバルブケース33に固定されたアクチュエータ34によって駆動される。吸気通路3のうちスロットルバルブケース33よりも下流側の部分は、2つの吸気ポート16、16と連通して吸気をこれら2つの吸気ポート16、16に分配するインテークマニホールド38を構成している。インテークマニホールド38は、各サイドハウジング14の右側面における吸気ポート16の開口部付近から上方に延びる姿勢でエンジン本体10の右側面に固定されている。
【0032】
吸気通路3のエアクリーナ31よりも下流側の部分には、当該部分を通過する吸気の流量を検出するエアフロメータセンサSN1が設けられている。また、インテークマニホールド38には、これを通過するガスの温度である吸気温を検出する吸気温センサSN2が設けられている。
【0033】
(排気通路)
排気通路5には、排気を浄化するための浄化装置51が設けられている。排気通路5は、2つの排気ポート15、15と連通して内側でこれら排気ポート15、15から導出された排気が合流する排気マニホールド52と、排気マニホールド52の下流端から下流側(排気ガスの流れ方向について)に延びる下流側排気通路53とを備えている。浄化装置51は、下流側排気通路53の途中部に設けられている。
【0034】
排気マニホールド52は、インテークマニホールド38の下方において2つの排気ポート15、15と連通する状態でサイドハウジング14の右側面に固定されている。排気マニホールド52の詳細構造については後述する。
【0035】
(EGR装置)
EGR装置4は、排気通路5と吸気通路3とを連通するEGR通路40を備える。EGR通路40には、EGR通路40を流れる排気であるEGRガスを冷却するEGRクーラ41と、EGR通路40を開閉してインテークマニホールド38に導入されるEGRガスの量を調整するEGR弁42とが、上流側(EGRガスの流れ方向について)からこの順に設けられている。EGR弁42はEGRバルブケース43に収容されており、EGRバルブケース43に固定されたEGRバルブアクチュエータ44によって駆動される。
【0036】
EGR装置4は、エンジン本体10の右方に配設されている。具体的には、図3に示すように、EGR弁42を内蔵するEGRバルブケース43およびEGRバルブアクチュエータ44は、エンジン本体10の右方で且つインテークマニホールド38の後方に配設されている。EGRクーラ41はエンジン本体10の右方で且つ上下方向についてインテークマニホールド38と排気マニホールド52の間の位置に、前後方向に延びる姿勢で配設されている。
【0037】
(排気マニホールドの詳細構造)
排気マニホールド52の詳細構造について説明する。図5は、図4のV-V線断面の一部を示した図である。図6は、図5のVI-VI線断面の一部を示した図である。図7は、図5のVII-VII線断面の一部を示した図である。
【0038】
図5に示すように、2つの排気ポート15は、ロータ収容室R側の開口部から右方に延びてサイドハウジング14の右側面に開口している。図示は省略するが、2つの吸気ポート16も同様にロータ収容室R側の開口部から右方に延びてサイドハウジング14の右側面に開口している。
【0039】
以下の排気マニホールド52の説明では、排気ガスの流れ方向についての上流、下流を単に上流、下流という。また、各排気ポート15、15のサイドハウジング14の右側面に形成された開口端を、それぞれ単に開口端という。また、2つのサイドハウジング14のうち前側つまり前端に位置するサイドハウジング14を前側サイドハウジング14Aといい、前側サイドハウジング14Aに形成された排気ポート(つまり2つの排気ポート15、15のうち前側の排気ポート)を前側排気ポート15Aという。また、2つのサイドハウジング14のうち後側つまり後端に位置するサイドハウジング14を後側サイドハウジング14Bといい、後側サイドハウジング14Bに形成された排気ポート(つまり2つの排気ポート15、15のうち後側の排気ポート)を後側排気ポート15Bという。
【0040】
図5等に示すように、排気マニホールド52は、排気マニホールド52の上流側部分を構成する第1エキマニ部61と、下流側部分を構成する第2エキマニ部62と、取付部63とを有する。これら第1エキマニ部61、第2エキマニ部62および取付部63は、いずれも金属製の部材であり、溶接等によって一体に形成されている。上記の第1エキマニ部61は請求項の「第1排気通路」に相当し、第2エキマニ部62は請求項の「第2排気通路」に相当する。
【0041】
第1エキマニ部61は、前後方向に延びる形状を有し、エンジン本体10の右方に配設されている。第2エキマニ部62は、前斜め右方に膨出する形状を有し、第1エキマニ部61の前端からエンジン本体10の前方位置まで前斜め左方に湾曲している。排気マニホールド52よりも下流側の排気通路5を構成する上記の下流側排気通路53は、エンジン本体10の前方において第2エキマニ部62の左端(下流端)に連結されており、この連結箇所から左方に延びている。取付部63は、エンジン本体10の右側面10Cに沿って前後方向および上下方向に延びる板状を有する。取付部63は、排気マニホールド52をエンジン本体10に固定するための部材であり、取付部63がエンジン本体10の右側面10Cにボルト91およびナット92によって固定されることで排気マニホールド52はエンジン本体10に固定されている。なお、図示は省略したが、エンジン本体10の右側面10Cと取付部63との間には薄い板状のシール部材が挟み込まれている。
【0042】
(第1エキマニ部)
第1エキマニ部61は、後側排気ポート15Bの開口端115Bから、前側排気ポート15Aの開口端115Aよりも前方の位置まで延びている。第1エキマニ部61は、これら排気ポート15A、15Bの開口端115A、115Bと連通している。
【0043】
具体的に、第1エキマニ部61の左側面には、後側排気ポート15Bの開口端115Bと対向する位置に、当該開口端115Bと連通して後側排気ポート15Bを通過した排気ガスが導入される後側導入口71Bが形成されている。また、第1エキマニ部61の左側面には、前側排気ポート15Aの開口端115Aと対向する位置に、当該開口端115Aと連通して前側排気ポート15Aを通過した排気ガスが導入される前側導入口71Aが形成されている。上記のように、第1エキマニ部61は、後側排気ポート15Bの開口端115Bから前方に延びており、後側導入口71Bは、第1エキマニ部61の後端に設けられている。
【0044】
本実施形態では、第1エキマニ部61とエンジン本体10との間に取付部63が介在しており、取付部63に形成された貫通孔163A、163Bを介して、各排気ポート15A、15Bの開口端115A、115Bと各導入口71A、71Bとが連通している。具体的に、第1エキマニ部61の左側面の各排気ポート15A、15Bの開口端115A、115Bと対向する部分には、左方つまりエンジン本体10側に突出する導入部72A、72Bがそれぞれ形成されており、当該導入部72A、72Bの左端面に各導入口71A、71Bが開口している。取付部63には、各排気ポート15A、15Bの開口端115A、115Bと対向する位置に、取付部63を左右に貫通する貫通孔163A、163Bがそれぞれ形成されている。各導入部72A、72Bは、エンジン本体10の右側面10Cと当接する取付部63の左側面からわずかに離間した状態で、取付部63の各貫通孔163A、163Bに差し込まれている。
【0045】
図3に示すように、各排気ポート15A、15Bの開口端115A、115Bはそれぞれ上下方向に延びる略楕円形を有しており、各貫通孔163A、163Bおよび各導入口71A、71Bもこれらに対応して上下方向に延びる略楕円形を有している。ただし、図5図6および図7に示すように、各貫通孔163A、163Bおよび各導入口71A、71Bは、対応する各排気ポート15A、15Bの開口端115A、115Bの孔径よりも大きく、右方から見たときに各貫通孔163A、163Bおよび各導入口71A、71Bは各開口端115A、115Bの外側を囲んでいる。
【0046】
第1エキマニ部61は、上記の各導入部72A、72Bを含み内側を排気が流通する本体部70と、本体部70の外周面に接合される補強部材80とを備える。
【0047】
図6および図7等に示すように、本体部70は、前後方向と直交する断面において、その右側部分が右方に凸となる湾曲形状を有している。これより、第1エキマニ部61は、全体として右方に凸となる湾曲形状となっている。本実施形態では、本体部70の右側部分の断面は、右方に凸となる略半円形を呈している。
【0048】
また、本体部70は、その左側部分の上下方向の寸法Lが右方に向かって拡大する形状を有している。具体的に、本体部70の左側部分の下部は略水平に延びる一方で、上部は右側ほど上方に位置するように構成されている。これより、本体部70の上下方向の寸法Lは、その左右中央付近の位置において最も大きくなり、左右方向中央付近から左側および右側に向かうに従って小さくなっている。本体部70は、その全体において上記の形状(その左側部分の上下方向の寸法Lが右方に向かって拡大する形状)を有しており、本体部70のうち各排気ポート15A、15Bと対向する部分は、その上下方向の寸法が各排気ポート15A、15Bの開口端115A、115Bとの接続位置から右方に向かって拡大する形状を呈している。本実施形態では、本体部70は、本体部70の右側部分を構成して略半円形の断面を有するする右本体部70Aと、本体部70の左側部分を構成して右方に向かって上下方向の寸法Lが拡大する左本体部70Bとが溶接等により一体に接合されることで形成されている。
【0049】
また、図5等に示すように、本体部70の後端部73は、外側に凸となる球面に沿う形状を呈している。具体的に、本体部70の後端部73は、本体部70の他の部分と同様に、前後方向と直交する断面において右方に凸となるように湾曲する形状を呈する(前後方向の各位置において)。また、本体部70の後端部73は、上下方向と直交する断面において、外側(後斜め右方)に凸となるように湾曲する形状を呈する(上下方向の各位置において)。本実施形態では、右本体部70Aの上下方向と直交する断面が上下方向の各位置において外側に凸となる略1/4円状を呈している。言い換えると、本体部70の後端部73における右側領域は、略1/4球状を呈している。この球面形状は、前後方向について、後側排気ポート15Bの前端位置付近まで続いており、本体部70のうち後側排気ポート15Bと対向する部分のほぼ全体が、後斜め右方に凸となる湾曲形状とされている。
【0050】
補強部材80は、板状を呈しており、本体部70の外周面にこれに沿って接合されている。本体部70および補強部材80はともに金属製であり、溶接等によって互いに一体に接合されている。例えば、本体部70および補強部材80はともにステンレス製である。
【0051】
図5に示すように、補強部材80は、本体部70のうち前側排気ポート15Aと後側排気ポート15B(つまり一対の排気ポート15A、15Bどうし)の前後中央と前側排気ポート15Aとの間の第1位置X20からこれよりも前方の第2位置X21までの特定領域に接合されている。本実施形態では、第1位置X20は、前側排気ポート15Aの中心位置X1と後側排気ポート15Bの中心位置X2との中央の位置X10よりもわずかに前方の位置とされ、第2位置X21は、前側排気ポート15Aの中心位置X1よりもわずかに後方の位置とされている。
【0052】
これより、第1エキマニ部61の上記の特定領域、つまり、前側排気ポート15Aと後側排気ポート15Bの前後中央と前側排気ポート15Aとの間の第1位置X20からこれよりも前方の第2位置X21までの特定領域、に位置する特定部分65の厚みd1は、第1エキマニ部61の他の部分の厚み、つまり、本体部70の厚みよりも大きくなっている。
【0053】
具体的に、本体部70は、上記のように右本体部70Aと左本体部70Bとで構成されている。右本体部70Aと左本体部70Bの厚みd2は、それぞれほぼ一定で且つ互いに同等に設定されている。右本体部70Aと左本体部70Bとは、各端部において重ね合わせられた状態で接合されており、この接合箇所の本体部70の厚みd3は右本体部70Aおよび左本体部70Bの各厚みd2の2倍程度となっている。これに対して、補強部材80の厚みd4は、右本体部70Aおよび左本体部70Bの各厚みd2よりも大きい寸法に設定されている。これより、補強部材80が接合された第1エキマニ部61の上記特定部分65の厚みd1は、上記の本体部70の接合箇所の厚みd3つまり本体部70の最大厚さよりも大きくなっている。なお、補強部材80の厚みd4はほぼ一定の寸法に設定されている。
【0054】
図6に示すように、補強部材80は、上下方向については、右本体部70Aの外周面のほぼ全体にわたって、つまり、本体部70の右側部分の外周面の上端付近から下端付近にわたってこれに接合されている。
【0055】
(作用等)
以上のように、上記実施形態に係るロータリーピストンエンジンでは、一対のサイドハウジング14A、14Bに、共通のロータ収容室Rから排気を排気通路5に導出する排気ポート15A、15Bがそれぞれ形成されており、2つの排気ポート15A、15Bから排気通路5にほぼ同時に高圧の排気ガスが導出される。これより、エンジンの掃気性は高くなる一方で、排気通路5内の圧力が高くなりやすく排気通路5が振動して騒音が生じやすくなる。これに対して、上記実施形態では、2つの排気ポート15A、15Bに共通して接続される第1エキマニ部61が、右側つまり排気ポート15A、15Bから第1エキマニ部61に導出される排気ガスの流れる先に向かって凸となる湾曲形状を有しており、第1エキマニ部61のうち排気ガスが衝突する部分の剛性が高められている。そのため、第1エキマニ部61の振動を抑えることができ、騒音を小さくできる。
【0056】
しかも、第1エキマニ部61の上記特定部分65の厚みが他の部分の厚みよりも厚くされている。そのため、第1エキマニ部61全体の厚みを大きくすることなく、つまり、第1エキマニ部61の重量を小さく抑えつつ、効果的に第1エキマニ部61の振動を抑制できる。
【0057】
具体的に、排気マニホールド52のうち第1エキマニ部61よりも下流側の部分を構成する第2エキマニ部62は、第1エキマニ部61の前端に接続されており、排気ガスは第1エキマニ部61内を前方に向かって流れる。これより、図8の矢印Y1に示すように、後側排気ポート15Bから排出されて前方に向かう排気と、図8の矢印Y2に示すように前側排気ポート15Aから排出されて右方に広がる排気とは、前側排気ポート15Aの周辺で合流する。そのため、第1エキマニ部61のうち前側排気ポート15A寄りの部分、つまり、前側排気ポート15Aと後側排気ポート15Bの前後中央よりも前方の領域において排気の脈動は特に大きくなる。これに対して、上記実施形態では、前側排気ポート15Aと後側排気ポート15Bの前後中央位置X10と前側排気ポート15Aとの間の第1位置X20からこれよりも前方の第2位置X21までの特定部分65(特定領域)の厚みが大きくされて当該特定部分65の剛性が高められているので、排気の脈動に伴って生じる第1エキマニ部61の振動を効果的に抑制できる。
【0058】
特に、上記実施形態では、第2エキマニ部62が湾曲形状を有していることで、第2エキマニ部62およびこれに接続される第1エキマニ部61の前端付近の剛性は確保されている。そして、上記特定部分65は、前側排気ポート15Aと対向する位置X1よりも後側、つまり、第1エキマニ部61の前端付近よりも後方の領域に設定されている。そのため、第1エキマニ部61の前側部分の剛性を確保しつつ、厚みを大きくする特定部分65の範囲を小さく抑えて第1エキマニ部61および排気通路5を軽量化することができる。
【0059】
また、上記実施形態では、第1エキマニ部61の本体部70の外周面に補強部材80が接合されることで第1エキマニ部61の特定部分65の厚みが厚くされている。そのため、第1エキマニ部61をその一部の厚みが大きくなるように鋳物等で一体物として形成する場合に比べて、簡単な構成で特定部分65の厚みを厚くできる。
【0060】
また、上記実施形態では、各排気ポート15A、15Bの開口端と対向する部分を含む本体部70全体が、その左側部分の上下方向の寸法Lが右方に向かって拡大する形状を呈している。そのため、各排気ポート15A、15Bから第1エキマニ部61に導出された排気ガスを上下方向に拡散させて、第1エキマニ部61内での排気ガスの動圧を低減できる。そのため、第1エキマニ部61内における排気ガスの圧力変動に伴って生じる第1エキマニ部61の振動を確実に低減できる。
【0061】
また、上記実施形態では、第1エキマニ部61が、後側排気ポート15Bの開口端から前方に延びており、且つ、第1エキマニ部61の後端部73が球面に沿う形状とされており、第1エキマニ部61の後端部73であって後側排気ポート15Bと対向する部分の剛性が高められている。そのため、後側排気ポート15Bから導出された排気ガスの圧力を受けて第1エキマニ部61の後端部73が振動するのを抑制でき、第1エキマニ部61の振動をより確実に抑制できる。
【0062】
(変形例)
上記実施形態では、第1エキマニ部61の本体部70および補強部材80がともに金属製である場合を説明したが、これらの材質は金属に限られない。
【0063】
上記実施形態では、第1エキマニ部61の本体部70の外周面に補強部材80が接合されることで第1エキマニ部61の特定部分65の厚みが厚くされる場合を説明したが、本体部70と補強部材80とを一体に形成してその一部の厚みを厚くすることで特定部分65の厚みを厚くしてもよい。ただし、上記のように本体部70の外周面に補強部材80を接合する構成とすれば、容易に第1エキマニ部61の特定部分65の厚みを厚くできる。
【0064】
上記実施形態では、ロータリーピストンエンジンが1つのロータ11のみを有する1ロータタイプである場合を説明したが、複数のロータ11を有するロータリーピストンエンジンに上記構成を適用してもよい。
【符号の説明】
【0065】
3 吸気通路
8 排気通路
10 エンジン本体
11 ロータ
12 エキセントリックシャフト
13 ロータハウジング
14 サイドハウジング
15 排気ポート
16 吸気ポート
61 第1エキマニ部(第1排気通路)
62 第2エキマニ部(第2排気通路)
65 特定部分(特定領域)
70 本体部
73 第1エキマニ部の後端部
80 補強部材
R ロータ収容室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8