(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153577
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】車両の変速制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20231011BHJP
F16H 59/46 20060101ALI20231011BHJP
F16H 59/58 20060101ALI20231011BHJP
F16H 61/16 20060101ALI20231011BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20231011BHJP
B60T 8/1755 20060101ALI20231011BHJP
B60T 8/26 20060101ALI20231011BHJP
B60T 8/176 20060101ALI20231011BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20231011BHJP
B60W 10/26 20060101ALI20231011BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20231011BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20231011BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20231011BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20231011BHJP
B60W 30/02 20120101ALI20231011BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20231011BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20231011BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20231011BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20231011BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20231011BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20231011BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/46
F16H59/58
F16H61/16
B60T8/17 C
B60T8/1755 A
B60T8/26 Z
B60T8/176 Z
B60K6/48 ZHV
B60W10/26 900
B60W10/10 900
B60W10/02 900
B60W20/00 900
B62D6/00 ZYW
B60W30/02
B60L50/16
B60L50/60
B60L15/20 K
B60L7/14
B62D101:00
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062935
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 誠
(72)【発明者】
【氏名】植松 徹
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 篤史
【テーマコード(参考)】
3D202
3D232
3D241
3D246
3J552
5H125
【Fターム(参考)】
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3D202BB15
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(57)【要約】
【課題】後輪駆動車両におけるオーバーステアの発生の抑制と、回生量の可及的確保とを両立させる。
【解決手段】車両の変速制御装置は、エンジン4と、モータ5と、自動変速機8と、摩擦ブレーキシステム3と、入力軸8aの回転数に応じた変速信号を自動変速機へ出力することによって自動変速機の変速段を変える変速制御、及び、摩擦ブレーキシステムによる制動力の分配とモータに回生動作をさせることによる後輪2Rへの回生制動トルクを付与との少なくとも一方により回生を行う回生制御を、自動車1の減速中に実行させる制御器(コントローラ20)と、を備え、制御器は、ブレーキ回生時には、摩擦ブレーキシステムにおける液圧を低下させるとともにモータの回生動作を継続した上で変速段を変更させる第1協調変速制御を実行する一方、非ブレーキ回生時には、AT入力トルクを増大させた上で変速段を変更させる第2協調変速制御を実行する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されかつ、前記車両の走行駆動力を発生するエンジンと、
前記車両の駆動力を発生させるとともに、前記車両の減速時に回生エネルギをバッテリに供給するモータと、
前記エンジン及び前記モータに接続される入力軸、及び、前記車両の後輪に接続される出力軸を有しかつ、入力された回転を、選択された変速段に対応する変速比で変速させて出力する油圧制御式の自動変速機と、
ドライバーによるブレーキペダル操作時に制動を実現するように、前記車両の前輪及び前記後輪に制動力を分配する液圧制御式の摩擦ブレーキシステムと、
前記入力軸の回転数に応じた変速信号を前記自動変速機へ出力することにより前記変速段を変更する変速制御、及び、前記摩擦ブレーキシステムによる前記制動力の分配と前記モータに回生動作をさせることによる前記後輪への回生制動トルクの付与との少なくとも一方によって回生を行う回生制御を前記車両の減速中に実行させる制御器と、を備え、
前記制御器は、前記回生制御中に前記車両がスリップ状態にあると判定された場合、
前記摩擦ブレーキシステムによる前記制動力の分配時には、前記後輪に分配される制動力を減少させるように前記摩擦ブレーキシステムにおける液圧を低下させるとともに、前記モータの回生動作を継続した上で前記変速段を変更させることにより、前記変速制御としての第1種変速制御を実行し、
前記摩擦ブレーキシステムによる前記制動力の非分配時には、前記回生制動トルクが減少するように前記入力軸の入力トルクを増大させつつ前記モータの回生動作を継続した上で前記変速段を変更させることにより、前記変速制御としての第2種変速制御を実行する
ことを特徴とする車両の変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両の変速制御装置において、
前記制御器は、前記回生制御中に前記車両が非スリップ状態にあると判定されかつ該車両が旋回状態にあると判定された場合、
前記摩擦ブレーキシステムによる前記制動力の分配時には、前記第1種変速制御を実行し、
前記摩擦ブレーキシステムによる前記制動力の非分配時には、前記第2種変速制御を実行する
ことを特徴とする車両の変速制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された車両の変速制御装置において、
前記制御器は、前記回生制御中に前記車両が非スリップ状態にあると判定されかつ該車両が非旋回状態にあると判定された場合、当該判定前後で前記入力軸の入力トルクを一定に保ちつつ前記モータの回生動作を維持した上で前記変速段を変更させることにより、前記変速制御としての第3種変速制御を実行する
ことを特徴とする車両の変速制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載された車両の変速制御装置において、
前記制御器は、nを正の整数として、n回目の前記変速制御の実行後かつ前記車両の減速中かつ前記回生制御中に、前記車両のオーバーステア状態を判定した場合には、前記回生制動トルクが減少するように前記入力トルクを増大しつつ前記モータの回生動作を維持するとともに、n+1回目の前記変速制御の実行を制限する
ことを特徴とする車両の変速制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の変速制御装置において、
前記制御器は、前記入力トルクの増大後かつ前記変速制御の制限中に、前記車両のオーバーステア状態が解消されないまま前記自動変速機の前記入力軸の回転数が制限回転数に到達した場合、前記自動変速機の前記入力軸と前記出力軸との間の動力伝達を遮断させる
ことを特徴とする車両の変速制御装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載された車両の変速制御装置において、
前記制御器は、前記入力トルクの増大後かつ前記変速制御の制限中に、前記車両のオーバーステア状態が発散する場合は、前記前輪または前記後輪への制動力の付与によって前記車両の挙動を安定化させる制御を、前記摩擦ブレーキシステムに実行させる
ことを特徴とする車両の変速制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の車両の変速制御装置において、
前記制御器は、前記車両の挙動に関する信号を出力する第1センサと、前記ドライバーのステアリング操作に関する信号を出力する第2センサとの信号を受けて、前記車両のオーバーステア状態を判定する
ことを特徴とする車両の変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、車両の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、ハイブリッド車両の制御装置が記載されている。このハイブリッド車両は、エンジンと、モータと、自動変速機とを備えている。エンジン及びモータは、自動変速機の入力軸に連結されている。このハイブリッド車両は、自動変速機がシフトダウンを行う際にモータが回生動作を行うことによって、燃費性能の向上を図る。
【0003】
特に、前記特許文献1に記載の自動変速機は、複数の摩擦要素をそれぞれ独立して制御する複数の摩擦制御機構を有している。前記制御装置は、複数の摩擦制御機構のうちの第1及び第2摩擦制御機構に指示油圧を指示する際に、それらの指示油圧に遅延演算処理を施す。前記特許文献1によれば、各指示油圧に遅延演算処理を施すことで、時間的な応答遅れを加味することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動変速機の出力軸が後輪に接続された後輪駆動車両では、モータが回生動作を行うと、後輪にのみ回生制動トルクが付与される。このため、例えば減速中にモータが回生動作を行うと、後輪がスリップ状態になり易い。そのスリップ状態が悪化すると、例えば減速旋回時に後輪が横滑りしてしまい、車両の挙動が、いわゆるオーバーステア状態に陥り易くなる。
【0006】
そこで、車両がオーバーステア状態になった場合、モータの回生動作を中止することが考えられる。すなわち、モータの回生動作を中止すれば、その回生制動トルク分の制動力が、摩擦ブレーキによって前輪及び後輪に分配されるため、後輪のスリップ状態、ひいては車両のオーバーステア状態が解消される。しかしながら、回生動作の中止は、ハイブリッド車両の燃費性能を低下させるため不都合である。
【0007】
残念ながら、従来のハイブリッド車両は、後輪がスリップ状態になったときのように、後輪駆動車両においてオーバーステア状態が懸念される状況下での回生動作が十分に検討されておらず、オーバーステアの抑制と、回生量の確保とを両立することができなかった。
【0008】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、後輪駆動車両におけるオーバーステアの発生の抑制と、回生量の可及的確保とを両立させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らの検討によると、スリップ状態において、自動変速機による変速と、回生量が比較的大きい摩擦ブレーキによる回生とが並行して行われると、オーバーステア状態に陥り易いことが判った。
【0010】
そこで、本願発明者らは、車両の減速時における、変速制御と回生量とオーバーステアとの関係を分析した。シフトダウンに際しては、変速に際して生じるトルクショックを抑制するために、自動変速機から出力されて後輪に付与されるトルクを増加させることが考えられる。
【0011】
本願発明者らの分析によると、後輪に付与されるトルクを摩擦ブレーキの液圧低下によって増加させれば、制動力の低下によって後輪がスリップし難くなる。これによれば、モータの回生動作、変速制御等を制限しなくとも、オーバーステア状態への悪化が抑制される。仮に、制動力の低下に併せて変速制御を行ったとしても、変速の完了に伴ってオーバーステア状態に陥り難くなるため、モータの回生動作を中止せずとも変速制御を継続できることがわかった。
【0012】
一方、ブレーキペダル非踏込時の回生(以下、「ペダルオフ回生」ともいう)は、前述した摩擦ブレーキによる回生と比べて回生量が小さい。この場合、摩擦ブレーキの液圧低下によってスリップ状態を回復させることはできない。モータの回生動作を中止すればオーバーステア状態に陥ることは回避されるものの、前述のように燃費性能の低下は避けられないものとなる。
【0013】
本願発明者らの実験によれば、ペダルオフ回生に際しては、モータの回生動作を中止までせずとも、その回生量を低下させるように制御すれば、オーバーステア状態までには至らないことが新たに判明し、本開示を想到するに至った。
【0014】
具体的に、本開示は、車両の変速制御装置に係る。この変速制御装置は、車両に搭載されかつ、前記車両の走行駆動力を発生するエンジンと、前記車両の駆動力を発生させるとともに、前記車両の減速時に回生エネルギをバッテリに供給するモータと、前記エンジン及び前記モータに接続される入力軸、及び、前記車両の後輪に接続される出力軸を有しかつ、入力された回転を、選択された変速段に対応する変速比で変速させて出力する油圧制御式の自動変速機と、ドライバーによるブレーキペダル操作時(ブレーキペダルの操作時)に制動を実現するように、前記車両の前輪及び前記後輪に制動力を分配する液圧制御式の摩擦ブレーキシステムと、前記入力軸の回転数に応じた変速信号を前記自動変速機へ出力することにより前記変速段を変更する変速制御、及び、前記摩擦ブレーキシステムによる前記制動力の分配と前記モータに回生動作をさせることによる前記後輪への回生制動トルクの付与との少なくとも一方によって回生を行う回生制御を前記車両の減速中に実行させる制御器と、を備える。
【0015】
そして、本開示によれば、前記制御器は、前記回生制御中に前記車両がスリップ状態にあると判定された場合、前記摩擦ブレーキシステムによる前記制動力の分配時には、前記後輪に分配される制動力を減少させるように前記摩擦ブレーキシステムにおける液圧を低下させるとともに、前記モータの回生動作を継続した上で前記変速段を変更させることにより、前記変速制御としての第1種変速制御を実行し、前記摩擦ブレーキシステムによる前記制動力の非分配時には、前記回生制動トルクが減少するように前記入力軸の入力トルクを増大させつつ前記モータの回生動作を継続した上で前記変速段を変更させることにより、前記変速制御としての第2種変速制御を実行する。
【0016】
この構成によると、車両の減速中に、モータが回生動作を行う。この制御は、摩擦ブレーキシステムとモータとの少なくとも一方による回生制御(回生協調制御)である。回生制御により、バッテリに蓄積される回生エネルギが増える。モータによる回生制動トルクは、自動変速機を通じて後輪にのみ付与される。摩擦ブレーキシステムは、後輪に付与される回生制動トルクを考慮して、前輪及び後輪へ制動力を分配する。その結果、車両に作用する制動は、ドライバーのブレーキペダル操作に応じた制動となる。
【0017】
また、車両の減速中に、制御器は、入力軸の回転数に応じた変速信号を自動変速機へ出力する。自動変速機は、変速信号を受けて、変速段の変更、つまり、変速段を、高速段から低速段へ変えるシフトダウンを実行する。車両の減速中に、エンジンの運転状態に対応する変速段が選択される。
【0018】
そして、前記回生制御中に車両がスリップ状態にあると判定された場合、制御器は、後輪に分配される制動力が低下するように、摩擦ブレーキシステムにおける液圧を低下させる。制動力の低下によって、後輪がスリップし難くなる。これによれば、モータの回生動作及び変速制御を制限しなくとも、オーバーステア状態の発生が抑制される。オーバーステア状態の発生が抑制されるため、モータの回生動作を中止せずとも変速制御を継続することができる。
【0019】
一方、前記ペダルオフ回生時は、摩擦ブレーキの液圧低下によってスリップ状態を回復させることはできない。この場合、制御器は、回生制動トルクが減少するよう自動変速機の入力軸の入力トルクを増大させる。これにより後輪に付与されていた回生制動トルクが減少して後輪のグリップが確保されるから、車両のスリップ状態、ひいてはオーバーステア状態の発生が抑制される。オーバーステア状態の発生が抑制されるため、モータの回生動作を中止せずとも変速制御を継続することができる。
【0020】
そして、回生制動トルクが減少するものの、モータの回生動作は維持される。したがって、回生量が可能な限り確保されるから、車両の燃費性能の向上に有利になる。
【0021】
このように、本開示に係る変速制御装置は、スリップ状態の悪化を抑制することによるオーバーステア状態の発生抑制と、回生動作の維持による回生量の可及的確保と、を両立させることができる。
【0022】
また、本開示の一態様によれば、前記制御器は、前記回生制御中に前記車両が非スリップ状態にあると判定されかつ該車両が旋回状態にあると判定された場合、前記摩擦ブレーキシステムによる前記制動力の分配時には、前記第1種変速制御を実行し、前記摩擦ブレーキシステムによる前記制動力の非分配時には、前記第2種変速制御を実行する、としてもよい。
【0023】
仮に車両が非スリップ状態にあったとしても、車両が旋回状態にあるときには、直進状態にあるときと比べて、変速に際してオーバーステア状態に陥り易い。
【0024】
これに対し、前記態様によると、旋回状態での変速に際しても、摩擦ブレーキの液圧低下の可否に応じて、前記第1種変速制御又は前記第2種変速制御を実行させる。これにより、旋回状態での変速に伴うスリップ、ひいてはオーバーステア状態の発生を抑制しつつ、回生量の可及的確保を実現することができる。
【0025】
また、本開示の一態様によれば、前記制御器は、前記回生制御中に前記車両が非スリップ状態にあると判定されかつ該車両が非旋回状態にあると判定された場合、当該判定前後で前記入力軸の入力トルクを一定に保ちつつ前記モータの回生動作を維持した上で前記変速段を変更させることにより、前記変速制御としての第3種変速制御を実行する、としてもよい。
【0026】
車両が非スリップ状態にありかつ非旋回状態(すなわち直進状態)にあるときには、スリップ状態又は旋回状態にあるときと比べて、変速に際してスリップは発生し難いものと考えられる。
【0027】
そこで、前記態様によると、車両が非スリップ状態にありかつ非旋回状態にあるときには、入力軸の入力トルクを一定に保った第3種変速制御、いわば通常変速制御を実行させる。これにより、入力トルクの変動に伴う違和感及び変速ショックを抑制することができる。
【0028】
また、本開示の一態様によれば、前記制御器は、nを正の整数として、n回目の前記変速制御の実行後かつ前記車両の減速中かつ前記回生制御中に、前記車両のオーバーステア状態を判定した場合には、前記回生制動トルクが減少するように前記入力トルクを増大しつつ前記モータの回生動作を維持するとともに、n+1回目の前記変速制御の実行を制限する、としてもよい。
【0029】
前記態様によると、前述した回生制御中に、車両のオーバーステア状態を判定した場合、制御器は、回生制動トルクが減少するよう自動変速機の入力軸の入力トルクを増大させる。これにより後輪に付与されていた回生制動トルクが減少して後輪の横力が確保されるから、車両のオーバーステア状態は解消に向かう。その際、摩擦ブレーキシステムが、回生制動トルクが減少する分の制動力を補ってもよい。
【0030】
回生制動トルクが減少するものの、モータの回生動作は維持される。車両がオーバーステア状態であっても、回生量が可能な限り確保されるから、車両の燃費性能の向上に有利になる。
【0031】
そして、回生制動トルクが減少する一方で、自動変速機の変速制御は制限される。具体的に、前記制御器は、前記車両のオーバーステア状態を判定した場合には、前記自動変速機のシフトダウンを禁止する、としてもよい。シフトダウンの禁止によって、シフトダウンに伴う自動変速機のイナーシャトルクによって後輪のトルクが変動することが避けられる。シフトダウンに伴い車両の挙動が不安定になることが抑制できる。
【0032】
このように、車両の変速制御装置は、車両がオーバーステア状態に仮に陥ったとしても、回生動作を維持するとともに、車両の挙動を安定化させることができる。変速制御を制限することは、前記第1変速制御及び第2変速制御に対するバックアップ制御として有用である。
【0033】
また、本開示の一態様によれば、前記制御器は、前記入力トルクの増大後かつ前記変速制御の制限中に、前記車両のオーバーステア状態が解消されないまま前記自動変速機の前記入力軸の回転数が制限回転数に到達した場合、前記自動変速機の前記入力軸と前記出力軸との間の動力伝達を遮断させる、としてもよい。
【0034】
オーバーステア状態が解消されない間は、自動変速機のシフトダウンを行うことが難しい。その一方で、車両の減速中に、エンジンの回転数は次第に低下するから、自動変速機のシフトダウンを行わずに遅延させると、エンジンの回転数が低くなりすぎて、エンジンストールに至る恐れがある。
【0035】
そこで、前記態様によると、制御器は、車両のオーバーステア状態が解消されないまま自動変速機の入力軸の回転数が制限回転数に到達した場合、自動変速機の入力軸と出力軸との間の動力伝達を遮断させる。これにより、エンジンストールが抑制できる。また、車両のオーバーステア状態の悪化が抑制できる。
【0036】
また、本開示の一態様によれば、前記制御器は、前記入力トルクの増大後かつ前記変速制御の制限中に、前記車両のオーバーステア状態が発散する場合は、前記前輪または前記後輪への制動力の付与によって前記車両の挙動を安定化させる制御を、前記摩擦ブレーキシステムに実行させる、としてもよい。
【0037】
ここで、車両の挙動を安定化させる制御には、DSC(Dynamic Stability Control)及びABS(Anti-lock Brake System)が含まれる。
【0038】
前記態様によると、車両のオーバーステア状態が発散する場合、DSC又はABSが作動することによって、車両の挙動がコントロール不能になることが回避できる。
【0039】
また、本開示の一態様によれば、前記制御器は、前記車両の挙動に関する信号を出力する第1センサと、前記ドライバーのステアリング操作に関する信号を出力する第2センサとの信号を受けて、前記車両のオーバーステア状態を判定する、としてもよい。
【0040】
前記態様によると、制御器は、第1センサ及び第2センサの信号に基づいて、オーバーステア状態を判定する。これにより、制御器は、速やかにかつ正確に、車両の挙動を判定できる。
【発明の効果】
【0041】
以上説明したように、本開示によれば、後輪駆動車両におけるオーバーステアの発生の抑制と、回生量の可及的確保とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図3B】
図3Bは、摩擦ブレーキシステムのブロック図である。
【
図4】
図4は、挙動安定性に関する制御の全体のフローチャートである。
【
図5】
図5は、挙動安定性に関する制御の機能を説明する図である。
【
図7】
図7は、自動変速機の、変速段毎のシフトダウン点を示している。
【
図12】
図12は、シフトダウンを遅延させる場合のタイムチャートである。
【
図13】
図13は、シフトダウンを遅延させた結果、自動変速機のK1クラッチを開放する場合のタイムチャートである。
【
図14】
図14は、シフトダウン中にオーバーステアが判定された場合のタイムチャートである。
【
図15】
図15は、第2処理の変形例に係るフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、車両の変速制御装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明する変速制御装置は例示である。
【0044】
(ハイブリッド自動車)
図1に、開示する技術を適用した自動車1(車両の一例)を示す。この自動車1は、電力を利用した走行が可能なハイブリッド自動車である。自動車1は、前輪2F及び後輪2Rの合計4つの車輪を有している。前輪2F及び後輪2Rには、その回転を制動するために、それぞれ摩擦ブレーキ31が取り付けられている。
【0045】
自動車1には、駆動源として、自動車1の走行駆動力を発生するエンジン4及びモータ5が搭載されている。これらが協働して、後輪2Rを駆動する。それにより、自動車1は走行する。自動車1は後輪駆動車両である。モータ5はまた、駆動源としてだけでなく、回生時には発電機としても利用される。
【0046】
この自動車1は、後述するように定格電圧が50V以下の高電圧バッテリ9を搭載している。その高電圧バッテリ9からの電力供給により、モータ5は、主にエンジン4をアシストする形で走行する(いわゆるマイルドハイブリッド車)。なお、自動車1は、外部電源からの電力供給が可能な、いわゆるプラグインハイブリッド車であってもよい。
【0047】
この自動車1の場合、エンジン4は車体の前側に配置されており、駆動輪は車体の後側に配置されている。すなわち、この自動車1は、いわゆるFR車である。
【0048】
自動車1には、エンジン4、モータ5の他、駆動系の装置として、K0クラッチ6、インバータ7、自動変速機8が備えられている。自動車1にはまた、制御系の装置として、コントローラ20が備えられている。自動車1にはまた、制動系の装置として、摩擦ブレーキ31を含む摩擦ブレーキシステム3が備えられている。
【0049】
(駆動系の装置)
エンジン4は、例えば化石燃料を燃焼させる内燃機関である。エンジン4はまた、吸気、圧縮、膨張、排気の各サイクルを繰り返すことで回転動力を発生させる、いわゆる4サイクルエンジンである。エンジン4には、火花点火式エンジン、圧縮着火式エンジン等、様々な種類や形態があるが、開示する技術では、特にエンジン4の種類や形態は限定しない。
【0050】
この自動車1では、エンジン4は、回転動力を出力するクランクシャフト4aを、車体の前後方向に向けた状態で、車幅方向の略中央部に配置されている。自動車1には、吸気システム、排気システム、燃料供給システムなど、エンジン4に付随した様々な装置や機構が設置されている。
【0051】
モータ5は、三相の交流によって駆動する永久磁石型の同期モータである。モータ5は、K0クラッチ6を介してエンジン4の後方に直列に配置されている。モータ5はまた、自動変速機8の前方に直列に配置されている。
【0052】
K0クラッチ6は、モータ5のシャフト5aの前端部と、エンジン4のクランクシャフト4aとの間に介在するように設置されている。K0クラッチ6は、クランクシャフト4aとシャフト5aとが連結された状態(接続状態)と、クランクシャフト4aとシャフト5aとが分離した状態(分離状態)とに切り替える。
【0053】
モータ5のシャフト5aの後端部は自動変速機8の入力軸8aに連結されている。従って、エンジン4は、K0クラッチ6及びシャフト5aを介して、自動変速機8と連結されている。K0クラッチ6を分離状態にすることで、エンジン4は自動変速機8から切り離される。
【0054】
自動車1の走行中、K0クラッチ6は、接続状態と分離状態との間で切り替えられる。例えば、自動車1の減速時には、K0クラッチ6を分離状態にし、エンジン4を切り離した状態での回生が行われる場合がある。
【0055】
モータ5は、インバータ7及び高電圧ケーブル40を介して、駆動電源として車載されている高電圧バッテリ9と接続されている。この自動車1の場合、高電圧バッテリ9は、定格電圧が50V以下、具体的には48Vの直流バッテリが用いられている。
【0056】
高電圧バッテリ9は、インバータ7に高電圧の直流電力を供給する。インバータ7は、その直流電力を3相の交流に変換してモータ5に通電する。それにより、モータ5が回転駆動する。また、モータ5は、回生エネルギを、高電圧バッテリ9へ供給する。
【0057】
高電圧バッテリ9は、高電圧ケーブル40を介してDCDCコンバータ10とも接続されている。DCDCコンバータ10は、48Vの高電圧の直流電力を12Vの低電圧の直流電力に変換して出力する。DCDCコンバータ10(その出力側)は、低電圧ケーブル41を介して低電圧バッテリ11(いわゆる鉛蓄電池)と接続されている。
【0058】
低電圧バッテリ11は、低電圧ケーブル41を介して様々な電装品と接続されている。DCDCコンバータ10はまた、低電圧ケーブル41を介してCAN12(Controller Area Network)とも接続されている。それにより、DCDCコンバータ10はCAN12に低電圧の直流電力を供給する。
【0059】
自動変速機8は、油圧制御式の多段式自動変速機(いわゆるAT)である。この自動変速機8は、エンジン4に接続される入力軸8a、及び、自動車1の駆動輪(後輪2R)に接続される出力軸8bを有している。この自動変速機8は、入力軸8aに入力された回転を、乗員によって選択された変速段に対応する変速比で変速させて出力することができる。
【0060】
詳しくは、入力軸8aは、自動変速機8の前端部に配置されている。この入力軸8aは、上述したようにモータ5のシャフト5aと連結されている。出力軸8bは、自動変速機8の後端部に配置されている。この出力軸8bは、入力軸8aから独立した状態で回転する。
【0061】
これら入力軸8aと出力軸8bとの間には、トルクコンバータ8c、複数の遊星歯車機構、及び複数の摩擦締結要素などからなる変速機構が組み込まれている。各摩擦締結要素は、油圧によって締結状態と非締結状態とに切り替わる。
【0062】
図2に、この自動変速機8の締結表を示す。表中の丸印は締結を示している。この自動変速機8には、摩擦締結要素として、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、及び、第3クラッチCL3からなる3つのクラッチと、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2からなる2つのブレーキとが組み込まれている。
【0063】
自動変速機8は、油圧制御により、これら3つのクラッチと2つのブレーキとの中から3つの要素を選択して締結する。そうすることにより、自動変速機の変速段は、1速から8速までの前進用の変速段、及び、後退用の変速段(後退速)のいずれかに切り替わる。
【0064】
具体的には、第1クラッチCL1、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2の締結により、1速が形成される。第2クラッチCL2、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2の締結により、2速が形成される。第1クラッチCL1、第2クラッチCL2及び第2ブレーキBR2の締結により、3速が形成される。第2クラッチCL2、第3クラッチCL3及び第2ブレーキBR2の締結により、4速が形成される。第1クラッチCL1、第3クラッチCL3及び第2ブレーキBR2の締結により、5速が形成される。第1クラッチCL1、第2クラッチCL2及び第3クラッチCL3の締結により、6速が形成される。第1クラッチCL1、第3クラッチCL3及び第1ブレーキBR1の締結により、7速が形成される。第2クラッチCL2、第3クラッチCL3及び第1ブレーキBR1の締結により、8速が形成される。第3クラッチCL3、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2の締結により、後退速が形成される。
【0065】
そして、例えば1速からシフトアップする場合、第1クラッチCL1に代えて第2クラッチCL2を締結することで、変速段は1速から2速に切り替わる。第1ブレーキBR1に代えて第1クラッチCL1を締結することで、変速段は2速から3速に切り替わる。第1クラッチCL1に代えて第3クラッチCL3を締結することで、変速段は3速から4速に切り替わる。
【0066】
5速以降へのシフトアップもこれらと同様に行われる。シフトダウンする場合は、シフトアップでの切り替えと逆の手順になる。
【0067】
各変速段において締結されるべき要素が締結されないと、入力軸8aと出力軸8bとの間が切り離された状態になる(いわゆるニュートラル)。自動変速機8に駆動源から回転動力が入力されても、その回転動力は自動変速機8から出力されない。
【0068】
後述するように、自動車1の減速中に、自動変速機8がニュートラルにされる場合がある。具体的に自動変速機8が2速、3速、又は、4速の状態では、第2クラッチCL2が開放されることにより自動変速機8はニュートラルになる。また、自動変速機8が5速、6速、7速、又は、8速の状態では、第3クラッチCL3が開放されることにより自動変速機8はニュートラルになる。以下の説明において、これら第2クラッチCL2及び第3クラッチCL3を総称して、K1クラッチと呼ぶ場合がある。自動車1の減速中に、K1クラッチを開放するとは、自動変速機8の入力軸8aと出力軸8bとの間の動力伝達を遮断して、自動変速機8をニュートラルにする意味である。
【0069】
図1に示すように、自動変速機8の出力軸8bは、車体の前後方向に延びるプロペラシャフト15を介してデファレンシャルギア16に連結されている。デファレンシャルギア16には、車幅方向に延びて、左右の後輪2R,2Rに連結された一対の駆動シャフト17,17が連結されている。プロペラシャフト15を通じて出力される回転動力は、デファレンシャルギア16で振り分けられた後、これら一対の駆動シャフト17,17を通じて各後輪2Rに伝達される。
【0070】
(変速制御装置)
図3Aは、変速制御装置のブロック図である。自動車1には、ドライバーの操作に応じて、エンジン4、モータ5、K0クラッチ6、自動変速機8、摩擦ブレーキシステム3などを制御し、自動車1の走行をコントロールするために、上述したコントローラ20が設置されている。コントローラ20は、プロセッサ、メモリ、インターフェースなどのハードウエアと、データベースや制御プログラムなどのソフトウエアとで構成されている。尚、
図3Aの変速制御装置には、一つのコントローラ20が示されているが、変速制御装置のコントローラは、駆動源(エンジン4及びモータ5)の作動を主に制御するユニット(PCM)と、K0クラッチ6及び自動変速機8の作動を主に制御するユニット(TCM)とに分かれていてもよい。PCM及びTCMは、CAN12によって接続されていて、互いに電気通信可能に構成される。PCMはさらに、摩擦ブレーキシステム3を制御するためのブレーキECUを兼ねている。尚、PCMからブレーキECUを分離してもよい。
【0071】
変速制御装置は、車両の走行に関係する各種のパラメータを計測するセンサを備えている。具体的に、変速制御装置は、車速センサ51、車輪速センサ52、操舵角センサ53、ヨーレートセンサ54、ブレーキペダルセンサ55、アクセル開度センサ56、AT入力トルクセンサ57、及び、AT入力回転数センサ58を備えている。
【0072】
車速センサ51は、自動車1の車速に対応する信号を出力する。車輪速センサ52は、自動車1の四輪2F、2Rそれぞれの車輪の回転数に対応する信号を出力する。
【0073】
操舵角センサ53は、ドライバーが操作をするステアリングホイール110(
図1参照)の回転角、つまり操舵角に対応する信号を出力する。ヨーレートセンサ54は、自動車1のヨーレートに対応する信号を出力する。
【0074】
ブレーキペダルセンサ55は、ドライバーが操作をするブレーキペダル19(
図1参照)の踏み込みに対応する信号を出力する。アクセル開度センサ56は、ドライバーが操作をするアクセルペダル18(
図1参照)の踏み込みに対応する信号を出力する。
【0075】
AT入力トルクセンサ57は、自動変速機8の入力軸8aの入力トルクに対応する信号を出力する。AT入力回転数センサ58は、自動変速機8の入力軸8aの回転数に対応する信号を出力する。
【0076】
コントローラ20は、これらのセンサが出力した信号を、CAN12を介して受ける。コントローラ20は、CAN12を通じて、エンジン4、インバータ7、K0クラッチ6、自動変速機8、及び、摩擦ブレーキシステム3へ制御信号を出力する。これにより、コントローラ20は、エンジン4、モータ5、K0クラッチ6、自動変速機8、及び、摩擦ブレーキシステム3を制御する。
【0077】
例えば、コントローラ20は、自動変速機8の変速段を変更する変速制御を実行させることができる。この変速制御は、入力軸8aの回転数に応じた変速信号を自動変速機8へ出力することにより、該自動変速機8の変速段を変更するものである。変速段を変更することで、前述のシフトアップ及びシフトダウンを実現することができる。その際、コントローラ20は、入力軸8aと出力軸8bとの回転数の差を調整した上で、変速段の変更を実行する。
【0078】
コントローラ20はまた、摩擦ブレーキシステム3を制御することができる。
【0079】
図3Bは、摩擦ブレーキシステム3のブロック図である。
図3Bに示す摩擦ブレーキシステム3は、ドライバーによるブレーキペダル19操作時に制動を実現するように、自動車1の前輪2F及び後輪2Rに制動力を分配する。この摩擦ブレーキシステム3は、液圧制御式の摩擦ブレーキシステムである。
【0080】
図3Bに示すように、摩擦ブレーキシステム3は、前述した4つの摩擦ブレーキ31(
図3Bでは1つのみ図示)と、マスタシリンダ32と、ブレーキ機構33と、を備えている。
【0081】
マスタシリンダ32は、ブレーキペダル19に作用した踏力をブレーキ液に伝達し、該ブレーキ液の液圧に変換する。ブレーキ機構33は、後述のコントローラ20からの電気信号を受けて液圧回路を切り替える。
【0082】
そして、ブレーキ機構33が液圧回路を切り替えることで、前後の摩擦ブレーキ31に作用する液圧が制御される。液圧の高低は、摩擦ブレーキ31が分配する制動力の高低と対応している。すなわち、液圧が低いときには、該液圧が高いときと比べて制動力は低くなる。
【0083】
そして、本実施形態に係るコントローラ20は、エネルギの回生を行う回生制御を実行させることもできる。この回生制御は、摩擦ブレーキシステム3による制動力の分配と、モータ5による後輪2Rへの回生制動トルクの付与と、の少なくとも一方によって回生を行うものである。言い換えると、このコントローラ20は、制動力の分配と、回生制動トルクの付与との協調によって回生を行うこともできる。尚、ブレーキペダル19の非操作時のように、摩擦ブレーキシステム3が回生に関与してない場合も、ここでいう「回生制御」に含まれるようになっている。
【0084】
本実施形態に係るコントローラ20は、自動車1の減速中に、前記変速制御及び回生制御を実行させることができる。
【0085】
(挙動安定性に関する制御)
<制御全体>
図4は、自動車1の挙動安定性に関する制御の全体を示している。尚、
図4、及び、後で説明をする
図6、8-11、15のフローは、基本的には、自動車1の減速時の制御に係る。
【0086】
図5は、自動車1の、挙動安定性に関する制御の機能の考え方を示している。自動車1は、アクティブ制御と、パッシブ制御と、DSC/ABS制御との三つの機能を有している。アクティブ制御は、車輪2F、2Rのグリップ力を
図5に例示される摩擦円の中に留めるように機能する。車輪2F、2Rのグリップ力が摩擦円の中に留まっていれば、自動車1の挙動安定性は維持される。アクティブ制御は、自動車1の挙動安定性を維持するための制御である。
【0087】
パッシブ制御は、車輪2F、2Rのグリップ力が摩擦円を超えてしまって、自動車1の挙動が不安定性になった場合に、車輪2F、2Rのグリップ力を摩擦円の中へ戻すように機能する。
【0088】
DSC/ABS制御は、自動車1の挙動の発散しそうな場合に、換言すれば、車輪2F、2Rのグリップ力が、径が最も大きい円を超えてしまいそうな場合に、摩擦ブレーキシステム3が、摩擦ブレーキ31を通じて各車輪2F、2Rに制動力を付与することにより、車輪2F、2Rのグリップ力を摩擦円の中へ戻すように機能する。DSC/ABS制御は、公知の技術を採用できる。
【0089】
三つの機能を有している自動車1は、車両の挙動の安定性が確保できる。
【0090】
図4のフローにおいて、スタート後のステップS11において、コントローラ20は、センサ信号を読み込む。コントローラ20は、自動車1の走行状態を判断する。その後、コントローラ20は、第1処理を実行する(ステップS12)。第1処理はアクティブ制御に係り、路面μに応じて変速制御を切り替える。第1処理の詳細は後述する。
【0091】
ステップS12の第1処理の後、プロセスは、第2処理(ステップS13)又は第4処理(ステップS15)へ移行する。第2処理はパッシブ制御に係り、自動車1がオーバーステア状態になった場合の、変速制御に係る。第2処理の詳細は後述する。
【0092】
ステップS13の後、プロセスは、第3処理(ステップS14)又は第4処理(ステップS15)へ移行する。第3処理はアクティブ制御に係り、車輪2F、2Rのスリップ状態に応じて、変速制御を切り替える。第3処理の詳細は後述する。また、第4処理は、DSC/ABS制御である。第4処理の詳細は後述する。
【0093】
<第1処理>
図6は、第1処理のフローチャートである。スタート後のステップS21において、コントローラ20は路面μが低いか否かを判断する。コントローラ20は、車速、車輪速、操舵角、及び/又は、ヨーレートに基づいて、路面μが所定よりも低いか否かを判断する。ステップS21の判断がNoの場合、つまり、路面μが低くない場合、プロセスはステップS22へ進む。ステップS21の判断がYesの場合、つまり、路面μが低い場合、プロセスはステップS25へ進む。
【0094】
路面μが低くない場合、つまり、路面μが高いため、車輪2F、2Rのグリップが摩擦円の中に留まりやすい場合、コントローラ20は、通常の変速制御を実行する。先ずステップS22において、コントローラ20は、ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいるか否かを判断する。コントローラは、ブレーキペダルセンサ55の信号に基づいて判断する。ステップS22の判断がYesの場合、つまり、ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいる場合、プロセスはステップS23へ進む。ステップS22の判断がNoの場合、つまり、ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいない場合、プロセスはステップS24へ進む。
【0095】
ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいる場合、コントローラ20は、ドライバーの要求制動力の一部を、モータ5の回生制動トルクによって賄う回生協調制御を実行する。尚、モータ5の回生制動トルクの分だけ、摩擦ブレーキ31の液圧は下げられる。
【0096】
ステップS23においてコントローラ20は、自動変速機8のシフトダウン点として、第1変速点S1を選択する。
図7は、自動変速機8の、変速段毎のシフトダウン点を例示している。
図7の横軸は車速、縦軸は自動変速機8の入力軸8aの回転数である。第1変速点S1は、各変速段について、車速にかかわらず一定の、入力軸8aの回転数に設定されている。第1変速点S1は、後述する第2変速点S2及び第3変速点S3よりも高い。例えば6速で走行している場合、車速が60km/h弱程度で、自動変速機8の入力軸8aの回転数が第1変速点S1に到達するため、自動変速機8は、6速から5速へシフトダウンする。シフトダウンに伴い、自動変速機8の入力軸の回転数、換言すれば、モータ5の回転数は、第1変速点S1よりも高まる。ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいて、コントローラ20が回生協調制御を実行している場合に、シフトダウン点を第1変速点S1に設定することによって、回生動作中のモータ5の回転数を高く維持することができる。高いモータ回転数は、回生量を増やすから、自動車1の燃費性能を向上させる。
【0097】
ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいない場合、コントローラ20は、回生協調制御を行わない。モータ5は、エンジンブレーキ相当分の回生制動トルクを後輪2Rに付与し、回生動作を行う。ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいない減速状態では、ドライバーがアクセルペダル18を踏むことによって加速要求へ変化する場合がある。シフトダウン点を第1変速点S1に設定することによって自動変速機8の入力軸8aの回転数を高く維持していると、ドライバーの加速要求時に、十分な駆動力が確保できない恐れがある。
【0098】
そこで、コントローラ20は、ステップS24において、自動変速機8のシフトダウン点として、第2変速点S2を選択する。
図7に示すように、第2変速点S2は、第1変速点S1よりも、自動変速機8の入力軸8aの回転数が低い。これにより、減速中の自動変速機8の入力軸8aの回転数が相対的に低くなるから、ドライバーの加速要求時に、十分な駆動力が確保できる。
【0099】
ステップS23又はステップS24の通常制御後、プロセスは第2処理へと移行する。
【0100】
路面μが低くない通常制御に対し、路面μが低い場合、車輪2F、2Rのグリップ力が摩擦円を超えて自動車1の挙動が不安定になりやすい。そこで、コントローラ20は、自動変速機8の変速動作に起因して自動車1の挙動が不安定にならないようにする制御を行う。
【0101】
先ず、ステップS25においてコントローラ20は、自動車1が加速中であるか否かを判断する。自動車1が加速中である場合(Yesの場合)、プロセスはステップS26へ移行し、自動車1が加速中でない場合(Noの場合)、プロセスはステップS27へ移行する。
【0102】
自動車1が加速中であれば、車速及び/又は自動変速機8の入力軸8aの回転数が高くなるに従い、自動変速機8はシフトアップを行う。加速中の自動車1は、いつかは減速に至るが、減速中に、自動変速機8はシフトダウンを行う。自動変速機8のシフトダウン時には、自動変速機8のイナーシャトルクによって後輪2Rのトルク変動が生じる。路面μが低い場合、シフトダウンに伴う後輪2Rのトルク変動が、自動車1の挙動を不安定にさせる恐れがある。そこで、コントローラ20は、ステップS26において、シフトアップを抑制する。具体的に、コントローラ20は、自動変速機8が、6速から7速へ、及び、7速から8速へシフトアップすることを禁止する。ステップS26において、自動変速機8は、最高6速になる。自動変速機8の最高速段を制限することは、その後の減速中のシフトダウンの頻度を下げる。自動車1の挙動が不安定になり得る機会が減る。
【0103】
ステップS27は、自動車1の減速中に対応する。車速及び/又は自動変速機8の入力軸8aの回転数が低くなるに従い、自動変速機8はシフトダウンを行う。コントローラ20は、シフトダウンに起因する自動車1の挙動の不安定化を可能な限り避けるために、車速ができる限り低い状態で、シフトダウンを実行する。具体的にコントローラ20は、自動変速機8のシフトダウン点として、第3変速点S3を選択する。第3変速点S3は、
図7に示すように、第1変速点S1及び第2変速点S2よりも低い。
【0104】
前述の通り、7速及び8速へのシフトアップが禁止されているため、最高速段は6速である。しかも、シフトダウン点が第3変速点S3である。このため、ステップS27において、自動変速機8は、
図7に白抜きの矢印で示すように、車速が40km/h程度にまで低下しないと、シフトダウンを行わない。高車速におけるシフトダウンが行われないため、自動車1の挙動が不安定になることが抑制できる。
【0105】
続くステップS28において、コントローラ20は、自動変速機8の入力軸8aの回転数が、第3変速点S3よりも低くなると、K1クラッチを開放させる。K1クラッチは、前述したように、自動変速機8の摩擦締結要素によって構成されるクラッチであり、K1クラッチが開放すると、自動変速機8の入力軸8aと出力軸8bとの間の動力伝達が遮断される。K1クラッチの開放は、後輪2Rにかかるトルクを下げるため、自動車1の挙動の不安定化を抑制できると共に、エンジン4の回転数のさらなる低下によるエンジンストールが避けられる。
【0106】
路面μが低い場合のアクティブ制御の後、プロセスは第4処理へ移行する。
【0107】
<第2処理>
図8は、第2処理のフローチャートである。第2処理は前述したようにパッシブ制御である。スタート後のステップS31において、コントローラ20は、オーバーステア判定が成立したか否かを判断する。コントローラ20は、例えば、車速と操舵角とから算出できる推定ヨーレートと、ヨーレートセンサ54の信号に基づく実ヨーレートとの偏差に基づいて、自動車1がオーバーステア状態にあるか否かを判断する。推定ヨーレートと実ヨーレートとの偏差が所定値以上の場合、コントローラ20は、自動車1がオーバーステア状態にあると判断してもよい。ステップS31の判断がNoの場合、つまり、自動車1がオーバーステア状態にない場合、パッシブ制御は行われない。プロセスは、第3処理へ進む。一方、ステップS31の判断がYesの場合、つまり、自動車1がオーバーステア状態にある場合、プロセスはステップS32へ進む。
【0108】
ステップS32において、コントローラ20は、ブレーキ回生が行われているか否かを判断する。つまり、ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいるか否かが判断される。ステップS32の判断がYesの場合、プロセスはステップS33へ移行し、ステップS32の判断がNoの場合、プロセスはステップS33へ移行せずに、ステップS34へ進む。
【0109】
ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいる減速時は、前述したように、ドライバーの要求制動力の一部がモータ5の回生制動トルクによって賄われる回生協調制御が実行されている。モータ5の回生制動トルクは、後輪駆動車両である自動車1の、後輪2Rにのみ付与される。このため、後輪2Rの横力が減少して自動車1の挙動が、オーバーステアになりやすい。
【0110】
そこでステップS33において、コントローラ20は、トルクアップ制御を実行する。具体的には、摩擦ブレーキ31の制動力の一部を賄っていたモータ5の回生制動トルクが無くなるよう、自動変速機8の入力軸8aの入力トルクを高める。トルクアップ制御は、回生協調制御の終了に相当する。摩擦ブレーキシステム3は、回生制動トルクが無くなった分の制動力を、摩擦ブレーキ31の制動力によって補う。尚、回生協調制御が終了しても、アクセルオフに伴うエンジンブレーキに相当する回生制動トルクは残り、モータ5の回生動作自体は継続する。自動車1がオーバーステア状態になっても、回生量を確保するため、自動車1の燃費性能の向上に有利になる。
【0111】
後輪2Rに付与されていた回生制動トルクが減少して後輪2Rの横力が確保されるから、自動車1のオーバーステア状態は解消に向かう。推定ヨーレートと実ヨーレートとの偏差が縮小に向かう。回生量をできる限り確保しながら、自動車1の挙動の安定化を図ることができる。ステップS33の後、プロセスはステップS34へ進む。
【0112】
尚、ステップS32においてブレーキ回生が行われていない、つまり、ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいない減速時は、エンジンブレーキに相当する回生制動を行う第2回生制御が行われており、回生協調制御が行われていないため、ステップS33のトルクアップは行われない。プロセスが、ステップS32からステップS34へ移行する場合も、モータ5は、アクセルオフに伴うエンジンブレーキに相当する回生制動トルクで回生動作を行っている。
【0113】
ステップS34において、コントローラ20は、自動車1の不安定挙動が発散しているか否かを判断する。コントローラ20は、例えば、推定ヨーレートと実ヨーレートとの偏差が拡大している場合に、自動車1の不安定挙動が発散していると判断してもよい。ステップS34の判断がYesの場合、プロセスはステップS35へ移行する。ステップS34の判断がNoの場合、プロセスはステップS310へ移行する。
【0114】
ステップS35において、コントローラ20は、自動変速機8が変速中でないか(つまり、変速外か)否かを判断する。自動変速機8が変速中でない場合(つまり、Yesの場合)、プロセスはステップS36へ進む。自動変速機8が変速中である場合(つまり、Noの場合)、プロセスはステップS310へ進む。
【0115】
ステップS36において、コントローラ20は、自動変速機8のシフトダウンを遅延させる。つまり、自動車1の走行状態がシフトダウン点に到達しても、コントローラ20は、自動車1のオーバーステア状態が解消するまで、自動変速機8のシフトダウンを禁止する。自動変速機8のシフトダウンは、前述の通り、後輪2Rのトルク変動を伴うため、自動車1の挙動がさらに不安定になる恐れがあるが、シフトダウンの禁止によって、自動車1の挙動がさらに不安定になることが抑制される。尚、シフトダウン点は、通常変速制御の第1変速点S1又は第2変速点S2である。
【0116】
続くステップS37において、コントローラ20は、自動車1のオーバーステア状態が解消されたか否かを判断する。コントローラ20は、推定ヨーレートと実ヨーレートとの偏差が所定値を下回れば、自動車1のオーバーステア状態が解消されたと判断してもよい。自動車1のオーバーステア状態が解消された場合、プロセスは第4処理へ進む。自動車1のオーバーステア状態が解消されていない場合、プロセスはステップS38へ進む。
【0117】
ステップS38において、コントローラ20は、自動変速機8の入力軸8aの回転数が第3変速点S3に到達したか否かを判断する。入力軸8aの回転数が第3変速点S3に到達した場合、プロセスはステップS39へ進み、到達していない場合、プロセスは第4処理へ進む。第3変速点S3は、前述したように、エンジンストールを考慮したシフトダウン点である。
【0118】
ステップS39において、コントローラ20は、第1処理のステップS28と同様に、自動変速機8のK1クラッチを開放する。これにより、エンジンストールが抑制できる。その後、プロセスは、第4処理へ進む。
【0119】
このように、自動車1が、回生協調制御又は第2回生制御による減速中にオーバーステア状態になった場合には、自動変速機8のシフトダウンが遅延される。シフトダウンに起因して自動車1の挙動がさらに不安定になることが抑制される。また、自動変速機8のシフトダウンが遅延されると、自動変速機8の入力軸8aの回転数が低下してエンジンストールの恐れが生じるが、自動変速機8の入力軸8aの回転数が制限回転数(つまり、第3変速点S3)に到達すれば、自動変速機8の入力軸8aと出力軸8bとの間の動力伝達が遮断されるため、エンジンストールが抑制できる。
【0120】
一方、自動車1がオーバーステア状態にある場合であって、自動変速機8のシフトダウン中である場合(ステップS35がNoの場合)、又は、自動車1のオーバーステア状態が解消した後に、遅延していたシフトダウンを行う場合(ステップS34がNoの場合)、コントローラ20は、ステップS310において、オーバーステア判定時の変速制御を実行する。この変速制御の詳細は後述する。簡単には、シフトダウンに伴い自動変速機8のイナーシャに起因して後輪2Rのトルクが変動する。ステップS310のオーバーステア判定時の変速制御は、イナーシャ分の後輪2Rのトルク変動が抑制されるよう、自動変速機8の入力軸8aの入力トルクが、通常の変速制御時、つまりオーバーステアの非判定時の入力トルクよりも高められる。入力トルクの増大量が相対的に増大する結果、シフトダウンを行ってもトルク変動が抑制されて、シフトダウンに起因して自動車1の挙動の不安定化が悪化することが抑制される。
【0121】
続くステップS311において、コントローラ20は、ブレーキ回生中であるか否かを判断し、ブレーキ回生中であるYesの場合、プロセスはステップS312へ進む。一方、ブレーキ回生中でないNoの場合、プロセスはステップS311から第4処理へ進む。
【0122】
ステップS312において、コントローラ20は、回生協調制御を中止し、モータ5の回生制動トルクによって賄っていた制動力を、摩擦ブレーキ31によって確保し、ドライバーの要求する制動に見合う減速度を達成する。尚、回生協調制御が終了しても、アクセルオフに伴うエンジンブレーキに相当する回生制動トルクは残り、モータ5の回生動作自体は継続する。
【0123】
<変速処理>
図9は、変速制御のフローチャートである。スタート後のステップS41において、コントローラ20はAT入力トルク、及び、AT入力回転数を読み込む。プロセスはその後、ステップS42とステップS44とのそれぞれに進む。
【0124】
ステップS42において、コントローラ20は、自動変速機8の変速の際の目標加速度変動を設定する。目標加速度変動は、自動変速機8の変速の際に自動車1に生じる加速度変動の目標値である。基本的には、AT入力回転数が高いほど目標加速度変動は大きく設定される。AT入力回転数が高い場合は、ドライバーに、シフトアップ又はシフトダウンを感じさせることが許容できる。目標加速度変動は、シフトアップ及びシフトダウンのそれぞれについて設定されている関係式又はマップに基づき、自動変速機8の変速段とAT入力回転数とから定められる。
【0125】
続くステップS43において、コントローラ20は、設定した目標加速度変動から、AT出力トルクを算出する。AT出力トルクは、自動変速機8の変速時における、出力軸8bのトルク変動である。
【0126】
一方、ステップS44において、コントローラ20は、自動変速機8の変速の際の目標変速時間を設定する。基本的には、AT入力回転数が高いほど目標変速時間は短く設定される。AT入力回転数が高い場合は、シフトアップ又はシフトダウンが速やかに完了することが求められる。目標変速時間は、シフトアップ及びシフトダウンのそれぞれについて設定されている関係式又はマップに基づき、自動変速機8の変速段とAT入力回転数とから定められる。
【0127】
続くステップS45において、コントローラ20は、設定した目標変速時間から、AT入力回転傾きを算出する。AT入力回転傾きは、自動変速機8の変速の際の、入力軸8aの回転数の変化率である。
【0128】
ステップS43及びステップS45の後、プロセスはステップS46へ移行する。ステップS46において、コントローラ20は、算出したAT出力トルク及び/又はAT入力回転傾きの補正が必要か否かを判断する。前述した第2処理のステップS310のように、自動車1がオーバーステア状態で変速を行う場合、自動車1の挙動を安定させるため、シフトダウンに伴う後輪2Rのトルク変動を抑制する必要がある。この場合、コントローラ20は、ステップS46において、補正が必要であると判断する。ステップS46の判断がYesの場合、プロセスはステップS47へ進み、算出したAT出力トルク及び/又はAT入力回転傾きの補正を行う。具体的に、オーバーステア判定時の変速制御では、後輪2Rのトルク変動が抑制されるように、換言すれば、AT出力トルクがフラットになるよう補正が行われる。オーバーステア状態の判定時は、オーバーステア状態の非判定時よりも目標加速度変動を小さくする。補正後、プロセスはステップS48へ進む。一方、ステップS46の判断がNoの場合、つまり、補正が不要な通常の変速制御では、プロセスはステップS47に進まずに、ステップS48へ進む。
【0129】
尚、後述する第3処理のステップS54の第1協調変速制御、及び、ステップS55の第2協調変速制御においても、ステップS47の補正が実行され、変速の際の後輪2Rのトルク変動が抑制される。
【0130】
ステップS48において、コントローラ20は、AT出力トルク及びAT入力回転傾きに基づいてAT入力トルクを算出する。AT入力トルクは、自動変速機8の入力軸8aに入力されるトルクであり、主にモータ5によってAT入力トルクは調整される。前述した第2処理のステップS310においてシフトダウンを行う場合、ステップS47における補正が行われる結果、AT入力トルクの増大量は、通常の(つまり、オーバーステア状態の非判定時であって補正無しの)シフトダウン時の増大量よりも増大される。
【0131】
AT入力トルクが算出されると、続くステップS49において、コントローラ20は、算出されたAT入力トルクに対応するよう、自動変速機8の摩擦締結要素に供給する油圧を算出する。設定された油圧に従い、摩擦締結要素に油圧が供給されることによって、自動変速機8はシフトダウン、又は、シフトアップを行う。
【0132】
<第3処理>
図10は、第3処理のフローチャートである。第3処理は前述したようにアクティブ制御に係る。
図8のステップS31の判定、すなわち自動車1がオーバーステア状態にあるか否かの判定がNoであった場合に第3処理に至ることから明らかなように、この第3処理は、「自動車1がオーバーステア状態ではない場合」に行われる処理である。コントローラ20が第3処理を行うことで、自動車1がオーバーステア状態に陥り易い状況にあるか否かを判断し、その判断に対応した変速制御を行いつつ、オーバーステア状態の発生を未然に抑制することができる。
【0133】
前述のように、
図6、8-11、15のフローは、基本的には、自動車1の減速時の制御に係る。そのため、
図10に示す第3処理も、基本的には減速時における処理を示している。
【0134】
車両減速時において、コントローラ20は、ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいるか否かに応じて、前記回生制御としての、回生協調制御又は第2回生制御を実行する。これらの回生は、いわゆる「減速回生」に相当する。
【0135】
詳しくは、コントローラ20は、ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいる減速時には、ドライバーの要求制動力の一部を、モータ5の回生制動トルクによって賄う回生協調制御を実行する。一方、コントローラ20は、ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいない減速時は、エンジンブレーキに相当する回生制動を行う第2回生制御を実行する。
【0136】
いずれにせよ、本実施形態に係るコントローラ20は、回生制御(回生協調制御又は第2回生制御)中の変速に際し、以下に示す処理を行うようになっている。
【0137】
具体的に、スタート後のステップS51において、コントローラ20は、自動車1がスリップ状態にあるか否か(スリップ判定が成立するか否か)を判定する。
【0138】
ステップS51の判定は、例えば車速と車輪速とに基づいて各車輪2F、2Rのスリップ状態を判断することで行ってもよい。この判定がYesの場合、つまり、回生制御中に自動車1がスリップ状態(車輪2F、2Rがスリップしている状態)にあると判断された場合、プロセスはステップS52へ進む。
【0139】
プロセスがステップS52に進んだ場合、車輪2F、2Rがスリップしていることになる。車輪2F、2Rがスリップしている状態で自動変速機8が変速を行って後輪2Rのトルクが変動すると、オーバーステア状態の発生により、自動車1の挙動が不安定になる恐れがある。
【0140】
そこで、オーバーステア状態の発生を抑制するための制御を行うところ、その制御をよりきめ細かく行うべく、ステップS52において、コントローラ20は、ブレーキ回生中であるか否かを判定する。
【0141】
ステップS52の判定は、摩擦ブレーキシステム3による制動力の分配時であるか、或いは、摩擦ブレーキシステム3による制動力の非分配時であるかの判断に等しい。この判断は、ブレーキペダル19を踏んでいるか否かの判断に等しい。この判断は、回生協調制御を実行しているか、或いは、第2回生制御を実行しているかの判断に等しい。
【0142】
ステップS52の判定は、例えばブレーキペダルセンサ55及びアクセル開度センサ56の検出信号に基づいて行ってもよい。この判定がYesの場合、つまり、ブレーキ回生時(摩擦ブレーキシステム3による制動力の分配時)には、プロセスはステップS54へ進む。一方、非ブレーキ回生時(摩擦ブレーキシステム3による制動力の非分配時)には、プロセスはステップS55へ進む。
【0143】
ステップS54において、コントローラ20は、摩擦ブレーキシステム3、モータ5及び自動変速機8による、変速制御としての第1協調変速制御(第1種変速制御)を実行する。この第1協調変速制御では、コントローラ20は、制動力を減少させるように摩擦ブレーキシステム3における液圧を低下させるとともに、モータ5の回生動作を継続した上で、変速段を変更させる。液圧の低下は、少なくとも後輪2Rに分配される制動力を減少させるように行われる。
【0144】
この場合、コントローラ20は、摩擦ブレーキシステム3における液圧を低下させかつモータ5の回生動作を継続させた後に、入力軸8aと出力軸8bとの回転数の差の調整を実行させる。尚、摩擦ブレーキシステム3における液圧を低下させた状態で回転数の差の調整を行ってもよいし、摩擦ブレーキシステム3における液圧の低下を解除させた後に回転数の差の調整を行ってもよい。
【0145】
また、液圧の低下量は、自動車1のスリップ状態に応じて変化させてもよい。具体的に、コントローラ20は、自動車1が強くスリップしていると判断される場合(例えば、前輪2Fと後輪2Rとで車輪速の差が大きい場合)には、自動車1が弱くスリップしていると判断される場合(例えば、前輪2Fと後輪2Rとで車輪速の差が小さい場合)と比べて、液圧の低下量を大きくしてもよい。また、自動車1がスリップ状態にありかつ自動車1が旋回状態にあるときには、自動車1がスリップ状態にありかつ自動車1が非旋回状態にあるときと比べて、液圧の低下量を大きくしてもよい。各種シーンに応じて液圧の低下量を大きく設定することで、オーバーステア状態の発生を、より確実に抑制することができる。
【0146】
そして、第1協調変速制御において、自動変速機8は、変速に伴う後輪2Rのトルク変動が抑制されるように変速制御を実行する。この第1協調変速制御では、
図9の変速制御のフローにおける、ステップS47の補正が行われる。摩擦ブレーキシステム3及び/又はモータ5は、変速の際のトルク変動を補うように、後輪2Rへトルクを付与する。後輪2Rへのトルクの付与は、前述のように、モータ5の回生動作を維持しつつ、摩擦ブレーキシステム3における液圧を低下させることで行うことができる。その結果、自動車1の挙動が不安定になることが抑制される。
【0147】
一方、ステップS55において、コントローラ20は、モータ5及び自動変速機8による、変速制御としての第2協調変速制御(第2種変速制御)を実行する。この第2協調変速制御では、コントローラ20は、回生制動トルクが減少するようにAT入力トルクを増大させつつモータ5の回生動作を継続した上で、変速段を変更させる。
【0148】
この場合、コントローラ20は、AT入力トルクを増加させた後に、入力軸8aと出力軸8bとの回転数の差の調整を実行させる。AT入力トルクを増加させた状態で回転数の差の調整を行ってもよいし、AT入力トルクの増加を解除させた後に回転数の差の調整を行ってもよい。
【0149】
また、AT入力トルクの増加量は、自動車1のスリップ状態に応じて変化させてもよい。具体的に、コントローラ20は、自動車1が強くスリップしていると判断される場合(例えば、前輪2Fと後輪2Rとで車輪速の差が大きい場合)には、自動車1が弱くスリップしていると判断される場合(例えば、前輪2Fと後輪2Rとで車輪速の差が小さい場合)と比べて、AT入力トルクの増加量を大きくしてもよい。また、自動車1がスリップ状態にありかつ自動車1が旋回状態にあるときには、自動車1がスリップ状態にありかつ自動車1が非旋回状態にあるときと比べて、AT入力トルクの増加量を大きくしてもよい。各種シーンに応じてAT入力トルクの増加量を大きく設定することで、オーバーステア状態の発生を、より確実に抑制することができる。
【0150】
そして、第2協調変速制御において、自動変速機8は、変速に伴う後輪2Rのトルク変動が抑制されるように変速制御を実行する。この第1協調変速制御では、
図9の変速制御のフローにおける、ステップS47の補正が行われる。モータ5は、変速の際のトルク変動を補うように、後輪2Rへトルクを付与する。後輪2Rへのトルクの付与は、前述のように、AT入力トルクを増加させることで行うことができる。その結果、自動車1の挙動が不安定になることが抑制される。
【0151】
一方、ステップS51でNoと判定された場合(自動車1が非スリップ状態にあると判定された場合)にプロセスが進むステップS53では、コントローラ20は、自動車1の旋回判定が成立したか否か判断(判定)する。
【0152】
ステップS53の判定は、例えば例えばとヨーレートとに基づいて行ってもよい。この判定がYesの場合、つまり、自動車1が旋回状態であると判定された場合(より正確には、回生制御中に自動車1が非スリップ状態にあると判定されかつ該自動車1が旋回状態にあると判定された場合)、プロセスはステップS52へ進む。一方、自動車1が非旋回状態であると判定された場合(より正確には、回生制御中に自動車1が非スリップ状態にあると判定されかつ該自動車1が非旋回状態にあると判定された場合)、プロセスはステップS56へ進む。
【0153】
ステップS52に進んだ場合、コントローラ20は、前述のように、ブレーキ回生時には第1協調変速制御を実行し、非ブレーキ回生時には第2協調変速制御を実行するようになっている。
【0154】
つまり、コントローラ20は、スリップ判定及び旋回判定のうちの少なくとも一方が成立した場合は、ブレーキ回生を行っているか否かに応じて第1協調変速制御又は第2協調変速制御を実行する。コントローラ20はまた、スリップ判定及び旋回判定が双方とも非成立となった場合は、ブレーキ回生を行っているか否かにかかわらず、後述の通常変速制御を実行する。
【0155】
ステップS56において、コントローラ20は、変速制御としての通常変速制御(第3種変速制御)を実行する。この通常変速制御では、コントローラ20は、ステップS53の判定前後でAT入力トルクを一定に保ちつつモータ5の回生動作を維持した上で、変速段を変更させる。
【0156】
つまり、プロセスがステップS56に進んだ場合、車輪2F、2Rがスリップ状態ではなくかつ、自動車1が直進状態であるため、自動変速機8の変速の際に、自動車1が不安定になる可能性が低い。そのため、ステップS56においては、
図9の変速制御のフローにおける、ステップS47の補正は行われない。
【0157】
第3処理の後、プロセスは第4処理へ進む。
【0158】
<第4処理>
図11は、第4処理のフローチャートである。第4処理は、DSC/ABS制御である。スタート後のステップS61において、コントローラ20は、自動車1の不安定な挙動が発散しているか否かを判断する。自動車1の不安定な挙動が発散している場合、プロセスはステップS62へ進む。自動車1の不安定な挙動が発散していない場合、DSC/ABS制御は不要であるため、第4処理が終了する。
【0159】
ステップS62において、コントローラ20は、ブレーキオンであるか否かを判断する。ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいる場合(つまり、Yesの場合)、プロセスはステップS63へ進み、ブレーキペダル19を踏んでいない場合(つまり、Noの場合)、プロセスはステップS64へ進む。
【0160】
ステップS63においては、ブレーキオンであるため、DSC制御又はABS制御が実行され、自動車1の不安定な挙動を収束させる。ステップS64においては、ブレーキオフであるため、DSC制御が実行され、自動車1の不安定な挙動を収束させる。
【0161】
ステップS63又はステップS64における制御介入によって、自動車1の不安定な挙動が収束すれば、第4処理が終了する。
【0162】
<各処理の関係>
なお、第1処理~第4処理は、自動車1の減速時には逐次実行されるようになっている。例えば、第3処理と第4処理が終了した後に、減速中の自動車1がオーバーステア状態に至ると共に、オーバーステア状態に至った状態のまま、再び、第1処理と第2処理が開始されるケースが考えられる。
【0163】
このようなケースの場合、第2処理におけるステップS31は、NoではなくYesと判断されることになる。この場合、前述のステップS36に示したように、コントローラ20は、自動変速機8のシフトダウンを遅延させることで、変速制御の実行を制限することになる。
【0164】
すなわち、コントローラ20は、nを正の整数として、n回目の変速制御(第1協調変速制御、第2協調変速制御又は通常変速制御)の実行後かつ、摩擦ブレーキシステム3が制動力を分配している自動車1の減速中かつ、回生制御中に、自動車1のオーバーステア状態を判定した場合(ステップS31:Yes)には、回生制動トルクが減少するようにAT入力トルクを増大しつつモータ5の回生動作を維持するとともに、n+1回目の変速制御の実行を制限するようになっている。
【0165】
これにより、オーバーステア状態が発生する前のタイミング(第3処理の実行タイミング)と、オーバーステア状態が発生した後のタイミング(第2処理の一部実行タイミング)との双方で、自動車1が不安定な挙動にならないようにすることが可能になる。
【0166】
また、変速制御の実行が制限されたものの、オーバーステア状態が解消されないままAT入力回転数が制限回転数まで下降した場合は、第2処理においてK1クラッチを開放することになる。
【0167】
また、コントローラ20は、AT入力トルクの増大後かつn+1回目の変速制御の制限中に、自動車1のオーバーステア状態が解消されないまま自動変速機8のAT入力回転数が制限回転数に到達した場合(ステップS38:Yes)に、
図8のステップS39に示したようにK1クラッチを開放することで、自動変速機8の入力軸8aと出力軸8bとの間の動力伝達を遮断させるようになっている。
【0168】
これにより、オーバーステア状態の発生前の自動車1の挙動と、オーバーステア状態の発生直後の自動車1の挙動と、オーバーステア状態が解消されないまま持続した場合の自動車1の挙動との全てに対し、網羅的に安定化を図ることが可能になる。
【0169】
また、変速制御の実行が制限されたものの、オーバーステア状態が解消されずに、むしろ発散に至った場合は、第4処理によって安定化を図ることになる。
【0170】
すなわち、コントローラ20は、AT入力トルクの増大後かつn+1回目の変速制御の制限中に、自動車1のオーバーステア状態が発散する場合(ステップS61:Yes)には、前輪2Fまたは後輪2Rへの制動力の付与によって自動車1の挙動を安定化させる制御を、摩擦ブレーキシステム3に実行させるようになっている。
【0171】
これにより、自動車1の不安定な挙動を収束させることが可能になる。
【0172】
<制御例>
次に、
図12-
図14のタイムチャートを参照しながら、第2処理を説明する。各タイムチャートには、ブレーキペダル操作量及びブレーキ液圧の変化、操舵角の変化(操舵角センサ53の計測値)、ギア段の変化、ヨーレートの変化(ヨーレートセンサ54の計測値)、回生制動トルクの変化、AT入力トルクの変化、自動変速機8の伝達比の変化、AT入力回転数の変化が含まれている。
【0173】
先ず
図12は、自動車1のオーバーステア状態が解消するまで、自動変速機8のシフトダウンを禁止する場合のタイムチャートである。時刻t1においてドライバーがブレーキペダル19を踏み始める。コントローラ20は、回生協調制御を開始する。コントローラ20からの信号に基づいて、摩擦ブレーキシステム3は、一点鎖線で示されるブレーキペダル19の操作量に対してブレーキ液圧を下げる。摩擦ブレーキ31の制動力が、その分低下する。モータ5は、摩擦ブレーキ31の制動力の低下分を補うように、回生制動トルクを高める。これにより、回生エネルギが確保できるから、自動車1の燃費の向上に有利になる。回生制動トルクが高まるため、自動変速機8の入力軸8aに入力されるトルクが低下する。
【0174】
時刻t2に、ドライバーがステアリングホイール110を操舵し始める。それに伴い操舵角が次第に大きくなる。自動車1が旋回を開始して、ヨーレートが次第に増大する。
【0175】
時刻t3において、自動車1がオーバーステア状態となり、実ヨーレートと推定ヨーレートとの偏差が大きくなる。コントローラ20は、回生協調制御を終了すべく、摩擦ブレーキ31の制動力の一部を賄っていたモータ5の回生制動トルクが無くなるよう、自動変速機8の入力軸8aの入力トルクを高める(トルクアップ、ステップS33)。これにより、回生制動トルクが低減する。尚、時刻t3以降も、アクセルオフに伴うエンジンブレーキに相当する回生制動トルクは残り、モータ5の回生動作自体は継続する。また、モータ5の回生制動トルクの減少を補うように、摩擦ブレーキ31の液圧が高められる。
【0176】
自動車1の減速に伴い、AT入力回転数が次第に低下する。時刻t3以降に、AT入力回転数が、第1変速点S1、つまり回生協調制御の場合に設定される変速点に到達しても、コントローラ20は、自動変速機8にシフトダウンを実行させない。自動変速機8のシフトダウンは遅延される(ステップS36)。
【0177】
前述したトルクアップによって、後輪2Rに付与されていた回生制動トルクが減少し、後輪2Rの横力が確保されるから、自動車1のオーバーステア状態は解消に向かう。時刻t4に、自動車1のオーバーステア状態が解消されれば、コントローラ20は、自動変速機8に、遅延していたシフトダウンを実行させる(ステップS34からステップS310へ移行)。具体的には、モータ5のトルク増大によって自動変速機8の入力軸8aの入力トルクが、通常の変速制御時よりも高められる(「増大」の矢印参照)。これにより、シフトダウンの際のイナーシャ分の後輪2Rのトルク変動が抑制されるため、オーバーステア状態が解消された直後において、自動車1の挙動が不安定に戻ることが抑制される。
【0178】
そして、時刻t5に、自動変速機8のシフトダウンが終了する。
【0179】
尚、自動車1のオーバーステア状態の解消後における、自動変速機8のシフトダウンの際には、オーバーステア判定時の変速制御ではなく、通常の変速制御を実行してもよい。つまり、シフトダウン時のモータ5のトルク増大を抑制してもよい。
【0180】
図13は、自動車1のオーバーステア状態が解消するまで、自動変速機8のシフトダウンを禁止する場合のタイムチャートである。
図13のタイムチャートは、
図12のタイムチャートと比較して、AT入力回転数が、第3変速点S3に到達する点が異なる。
【0181】
図13のタイムチャートにおいても、
図12のタイムチャートと同様に、時刻t1においてドライバーがブレーキペダル19を踏み始め、時刻t2においてドライバーがステアリングホイール110を操舵し始め、時刻t3に自動車1がオーバーステア状態となる。コントローラ20は、回生協調制御を終了すべく、摩擦ブレーキ31の制動力の一部を賄っていたモータ5の回生制動トルクが無くなるよう、自動変速機8の入力軸8aの入力トルクを高める(トルクアップ)。これにより、回生制動トルクが低減する。尚、時刻t3以降も、モータ5の回生動作自体は継続する。自動変速機8の変速は遅延される。
【0182】
自動車1の減速に伴い、AT入力回転数が次第に低下し、時刻t4に、AT入力回転数が、第3変速点S3に到達する。第3変速点S3は、エンジンストールを考慮したシフトダウン点である。コントローラ20は、自動変速機8のK1クラッチを開放させる。これにより、AT入力回転数が低下し、自動変速機8の入力軸8aと出力軸8bとの速度比である伝達比が低下する。
【0183】
尚、入力軸8aのトルクアップによってオーバーステア状態は解消される。オーバーステア状態の解消後に、自動変速機8はシフトダウンを行う。
【0184】
図14は、自動変速機8の変速中に、自動車1がオーバーステア状態になった場合のタイムチャートである。
図14のタイムチャートにおいても、
図12のタイムチャートと同様に、時刻t1においてドライバーがブレーキペダル19を踏み始め、時刻t2においてドライバーがステアリングホイール110を操舵し始める。コントローラ20は、回生協調制御を行う。
【0185】
時刻t3において、AT入力回転数が第1変速点S1に到達したため、自動変速機8はシフトダウンを実行する。自動車1は旋回中であるため、第3処理の第1協調変速制御(ステップS54)が実行される。
図14に例示するように、自動変速機8のシフトダウンに合わせて、時刻t4以降に、摩擦ブレーキ31の液圧が調整される。
【0186】
変速中の時刻t5に、自動車1がオーバーステア状態になる。コントローラ20は、第2処理のステップS310-S312の通り、回生協調制御を中止すべく、自動変速機8の入力軸8aの入力トルクを高め(トルクアップ)、かつ、モータ5のトルク増大によって自動変速機8の入力軸8aの入力トルクを、通常の変速制御時よりも高める。回生協調制御の中止のためのトルクアップと、変速のためのトルクアップとは、実質的に同時に行ってもよいし、タイミングをずらして行ってもよい。後輪2Rの横力の確保と、変速の際のトルク変動の抑制とによって、自動車1の挙動の不安定化が悪化してしまうことが抑制される。尚、モータ5の回生制動トルクの減少を補うように、摩擦ブレーキ31の液圧が高められる。また、モータ5は、エンジンブレーキに相当する回生制動トルクでの回生動作は行っている。
【0187】
そして、時刻t6に、自動変速機8のシフトダウンが終了する。
【0188】
(変形例)
図15は、第2処理の変形例を示している。この変形例は、シフトダウンを遅延しない点が、
図8のフローと異なる。スタート後のステップS71において、コントローラ20は、オーバーステア判定が成立したか否かを判断する。ステップS71の判断がNoの場合、パッシブ制御は行われない。ステップS71の判断がYesの場合、プロセスはステップS72へ進む。
【0189】
ステップS72において、コントローラ20は、ブレーキ回生が行われているか否かを判断する。ステップS72の判断がYesの場合、プロセスはステップS73へ移行し、ステップS72の判断がNoの場合、プロセスはステップS73へ移行せずに、ステップS74へ進む。
【0190】
ステップS73において、コントローラ20は、トルクアップ制御を実行する。これにより、回生協調制御が終了する。後輪2Rに付与されていた回生制動トルクが減少して後輪2Rの横力が確保されるから、自動車1のオーバーステア状態は解消に向かう。ステップS73の後、プロセスはステップS74へ進む。ステップS74以降において、モータ5は、アクセルオフに伴うエンジンブレーキに相当する回生制動トルクで回生動作を行う。自動車1がオーバーステア状態であっても、回生量が、可能な限り確保されるから、自動車1の燃費性能の向上に有利になる。
【0191】
ステップS74において、コントローラ20は、自動車1の不安定挙動が発散しているか否かを判断する。ステップS74の判断がYesの場合、プロセスはステップS75へ移行する。ステップS74の判断がNoの場合、プロセスはステップS710へ移行する。
【0192】
ステップS75において、コントローラ20は、自動変速機8が変速中でないか否かを判断する。自動変速機8が変速中でない場合(つまり、Yesの場合)、プロセスはステップS76へ進む。自動変速機8が変速中である場合(つまり、Noの場合)、プロセスはステップS710へ進む。
【0193】
ステップS76において、コントローラ20は、自動変速機8の入力軸8aの回転数が第1変速点S1に到達したか否かを判断する。入力軸8aの回転数が第1変速点S1に到達した場合、プロセスはステップS77へ進み、到達していない場合、プロセスは第4処理へ進む。第1変速点S1は、前述したように、回生協調制御を実行している場合のシフトダウン点である。尚、ステップS76において、コントローラ20は、自動変速機8の入力軸8aの回転数が第2変速点S2に到達したか否かを判断してもよい。
【0194】
ステップS77において、コントローラ20は、自動変速機8のK1クラッチを開放する。自動変速機8のシフトダウンが行われないため、シフトダウンに起因する自動車1の挙動の不安定化が抑制される。
【0195】
このように、変形例に係る第2処理においては、自動車1がオーバーステア状態にある場合に、K1クラッチを開放し、自動変速機8のシフトダウンを行わない。これにより、自動車1の挙動が、変速に起因してさらに不安定になることが抑制される。また、エンジンストールが回避できる。
【0196】
一方、自動車1がオーバーステア状態にある場合であって、自動変速機8のシフトダウン中である場合(ステップS75がNoの場合)、又は、自動車1のオーバーステア状態が解消した後にシフトダウンを行う場合(ステップS74がNoの場合)、コントローラ20は、ステップS710において、オーバーステア判定時の変速制御を実行する。シフトダウンを行ってもトルク変動が抑制されているため、自動車1の挙動の不安定化が悪化することが抑制される。
【0197】
続くステップS711において、コントローラ20は、ブレーキ回生中であるか否かを判断し、ブレーキ回生中であるYesの場合、プロセスはステップS712へ進む。一方、ブレーキ回生中でないNoの場合、プロセスはステップS711から第4処理へ進む。
【0198】
ステップS712において、コントローラ20は、回生協調制御を中止し、モータ5の回生制動トルクによって賄っていた制動力を、摩擦ブレーキ31によって確保し、ドライバーの要求する制動に見合う減速度を達成する。
【0199】
なお、開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、自動車1の構成は例示である。仕様に応じてその構成は適宜変更できる。
【0200】
図4、6、8-11、及び、15の各フローにおいて、ステップの順番を入れ替えたり、一部のステップを省略したり、別のステップを追加したり、する変更が可能である。
【0201】
(まとめ)
以上説明したように、本実施形態によれば、自動車1の減速中に、モータ5が回生動作を行う。この制御は、摩擦ブレーキシステム3とモータ5との少なくとも一方による回生制御(回生協調制御)である。この回生協調制御により、高電圧バッテリ9に蓄積される回生エネルギが増える。モータ5による回生制動トルクは、自動変速機8を通じて後輪2Rにのみ付与される。摩擦ブレーキシステム3は、後輪2Rに付与される回生制動トルクを考慮して、前輪2F及び後輪2Rへ制動力を分配する。その結果、自動車1に作用する制動は、ドライバーのブレーキペダル19操作に応じた制動となる。
【0202】
また、自動車1の減速中に、制御器としてのコントローラ20は、入力軸8aの回転数に応じた変速信号を自動変速機8へ出力する。自動変速機8は、変速信号を受けて、変速段の変更、つまり、変速段を、高速段から低速段へ変えるシフトダウンを実行する。自動車1の減速中に、エンジン4の運転状態に対応する変速段が選択される。
【0203】
そして、
図10のステップS51,ステップS52及びステップS54を用いて説明したように、回生協調制御中に自動車1がスリップ状態にあると判定された場合、コントローラ20は、後輪2Rに分配される制動力が低下するように、摩擦ブレーキシステム3における液圧を低下させる。制動力の低下によって、後輪2Rがスリップし難くなる。これによれば、モータ5の回生動作及び変速制御を制限しなくとも、オーバーステア状態の発生が抑制される。オーバーステア状態の発生が抑制されるため、モータ5の回生動作を中止せずとも変速制御を継続することができる。
【0204】
一方、ペダルオフ回生としての第2回生制御時は、摩擦ブレーキ31の液圧低下によってスリップ状態を回復させることはできない。この場合、
図10のステップS51、ステップS52及びステップS55を用いて説明したように、コントローラ20は、回生制動トルクが減少するよう自動変速機8の入力軸8aの入力トルクを増大させる。これにより後輪2Rに付与されていた回生制動トルクが減少して後輪2Rのグリップが確保されるから、自動車1のスリップ状態、ひいてはオーバーステア状態の発生が抑制される。オーバーステア状態の発生が抑制されるため、モータ5の回生動作を中止せずとも変速制御を継続することができる。
【0205】
そして、回生制動トルクが減少するものの、モータ5の回生動作は維持される。したがって、回生量が可能な限り確保されるから、自動車1の燃費性能の向上に有利になる。
【0206】
このように、本実施形態に係る変速制御装置は、スリップ状態の悪化を抑制することによるオーバーステア状態の発生抑制と、回生動作の維持による回生量の可及的確保と、を両立させることができる。
【0207】
また、仮に自動車1が非スリップ状態にあったとしても、該自動車1が旋回状態にあるときには、直進状態にあるときと比べて、変速に際してオーバーステア状態に陥り易い。
【0208】
これに対し、本実施形態によると、
図10のステップS52,S53,S54,S55を用いて説明したように、旋回状態での変速に際しても、摩擦ブレーキ31の液圧低下の可否に応じて、第1種変速制御又は前記第2種変速制御を実行させる。これにより、旋回状態での変速に伴うスリップ、ひいてはオーバーステア状態の発生を抑制しつつ、回生量の可及的確保を実現することができる。
【0209】
また、自動車1が非スリップ状態にありかつ非旋回状態(すなわち直進状態)にあるときには、スリップ状態又は旋回状態にあるときと比べて、変速に際してスリップは発生し難いものと考えられる。
【0210】
そこで、本実施形態によると、
図10のステップS51,S53,S56を用いて説明したように、自動車1が非スリップ状態にありかつ非旋回状態にあるときには、入力軸8aの入力トルクを一定に保った第3種変速制御、いわば通常変速制御を実行させる。これにより、入力トルクの変動に伴う違和感及び変速ショックを抑制することができる。
【0211】
また、回生制御中に自動車1のオーバーステア状態を判定した場合、コントローラ20は、
図8のステップS33を用いて説明したように、回生制動トルクが減少するよう自動変速機8の入力軸8aの入力トルクを増大させる。これにより後輪2Rに付与されていた回生制動トルクが減少して後輪2Rの横力が確保されるから、自動車1のオーバーステア状態は解消に向かう。その際、摩擦ブレーキシステム3は、回生制動トルクが減少する分の制動力を補ってもよい。
【0212】
回生制動トルクが減少するものの、モータ5の回生動作は維持される。自動車1がオーバーステア状態であっても、回生量が可能な限り確保されるから、自動車1の燃費性能の向上に有利になる。
【0213】
そして、
図8のステップS36を用いて説明したように、回生制動トルクが減少する一方で、自動変速機8の変速制御は制限される。具体的に、コントローラ20は、自動車1のオーバーステア状態を判定した場合には、自動変速機8のシフトダウンを禁止してもよい。シフトダウンの禁止によって、シフトダウンに伴う自動変速機8のイナーシャトルクによって後輪2Rのトルクが変動することが避けられる。シフトダウンに伴い自動車1の挙動が不安定になることが抑制できる。
【0214】
このように、本実施形態は、自動車1がオーバーステア状態に仮に陥ったとしても、回生動作を維持するとともに、自動車1の挙動を安定化させることができる。
図8に示す第2処理によって変速制御を制限することは、
図10に示す第3処理に対するバックアップ制御として有用である。
【0215】
また、オーバーステア状態が解消されない間は、自動変速機8のシフトダウンを行うことが難しい。その一方で、自動車1の減速中に、エンジン4の回転数は次第に低下するから、自動変速機8のシフトダウンを行わずに遅延させると、エンジン4の回転数が低くなりすぎて、エンジンストールに至る恐れがある。
【0216】
そこで、コントローラ20は、自動車1のオーバーステア状態が解消されないまま自動変速機8の入力軸8aの回転数が制限回転数に到達した場合、
図8のステップS39を用いて説明したように、自動変速機8の入力軸8aと出力軸8bとの間の動力伝達を遮断させる。これにより、エンジンストールが抑制できる。また、自動車1のオーバーステア状態の悪化が抑制できる。
【0217】
また、
図11のステップS61,S63,S64を用いて説明したように、自動車1のオーバーステア状態が発散する場合、DSC又はABSが作動することによって、自動車1の挙動がコントロール不能になることが回避できる。
【0218】
また、本実施形態に係るコントローラ20は、自動車1の挙動に関する信号を出力するヨーレートセンサ54と、ドライバーのステアリング操作に関する信号を出力する操舵角センサ53との信号を受けて、自動車1のオーバーステア状態を判定する。
【0219】
これによれば、コントローラ20は、ヨーレートセンサ及び操舵角センサ53の信号に基づいて、オーバーステア状態を判定する。これにより、コントローラ20は、速やかにかつ正確に、自動車1の挙動を判定できる。
【符号の説明】
【0220】
1 自動車(車両)
19 ブレーキペダル
110 ステアリングホイール
20 コントローラ(制御器)
2F 前輪
2R 後輪
3 摩擦ブレーキシステム
4 エンジン
5 モータ
53 操舵角センサ(第2センサ)
54 ヨーレートセンサ(第1センサ)
8 自動変速機
8a 入力軸
8b 出力軸
9 高電圧バッテリ