(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153581
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】車両の変速制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/30 20160101AFI20231011BHJP
F16H 59/36 20060101ALI20231011BHJP
F16H 59/70 20060101ALI20231011BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20231011BHJP
F16H 61/686 20060101ALI20231011BHJP
F16H 63/46 20060101ALI20231011BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20231011BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20231011BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20231011BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20231011BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20231011BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20231011BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B60W20/30
F16H59/36
F16H59/70
F16H61/02
F16H61/686
F16H63/46
F16H63/50
B60K6/48 ZHV
B60W10/02 900
B60W10/08 900
B60W10/10 900
B60L50/16
B60T8/17 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062943
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】錦織 大悟
(72)【発明者】
【氏名】五丹 宏明
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 亜紀菜
(72)【発明者】
【氏名】大久保 智広
(72)【発明者】
【氏名】肥後 公則
(72)【発明者】
【氏名】三上 貴之
【テーマコード(参考)】
3D202
3D246
3J552
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB12
3D202BB14
3D202BB15
3D202BB33
3D202BB34
3D202BB37
3D202BB64
3D202BB67
3D202CC05
3D202CC52
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3D202DD01
3D202DD06
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3D202DD26
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3D202DD33
3D202DD34
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3D202FF08
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3D246BA02
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3J552MA02
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5H125AA01
5H125AB01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BE05
5H125CB02
5H125CB07
5H125EE41
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】燃費向上と快適な走行性能を両立させる。
【解決手段】駆動モータ5、エンジン4の切り離しを可能にする中継クラッチ6などを備えた自動車1の変速制御装置20である。変速段の切替開始タイミングを判定するための変速マップ50と、その変速マップ50に基づいて変速段を切り替える変速機制御部22bなどを有している。変速マップ50は、協調回生時マップ51と、閾値が相対的に低回転側に規定されている非協調回生時マップ52,53とを含む。非協調回生時マップ52,53のシフトダウン側では、所定の低変速点D2の閾値が、その低変速点D2より高い各変速点D3~D7の閾値よりも小さく規定されるとともに協調回生時マップ51におけるシフトダウン側の所定の低変速点D2の閾値よりも小さく規定されている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源として搭載されるエンジンおよびモータと、
前記駆動源と駆動輪との間に介在し、油圧制御により複数の変速段を高低に切り替えて変速する自動変速機と、
前記エンジンと前記自動変速機との間に介在し、当該エンジンと当該自動変速機との切り離しを可能にする中継クラッチと、
を備えた車両の変速制御装置であって、
前記変速段の切替開始タイミングを判定するために、シフトダウン側およびシフトアップ側の双方の回転数に関する閾値が変速点毎に規定されている変速マップと、
前記変速マップに基づいて前記変速段を切り替える変速機制御部と、
前記モータによる回生を制御する回生制御部と、
前記中継クラッチを制御する中継クラッチ制御部と、
を有し、
前記変速マップは、
ブレーキと協調した協調回生時に用いられる協調回生時マップと、
協調回生時以外に用いられて、前記協調回生時マップよりも前記閾値が低回転側に規定されている非協調回生時マップと、
を含み、
前記非協調回生時マップのシフトダウン側では、所定の低変速点の前記閾値が、当該所定の低変速点より高い各変速点の前記閾値よりも小さく規定されるとともに前記協調回生時マップにおけるシフトダウン側の前記所定の低変速点の前記閾値よりも小さく規定されている、変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速制御装置において、
前記協調回生時マップにおけるシフトダウン側では、前記所定の低変速点より高い各変速点の前記閾値が、同じ値に規定されている変速制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の変速制御装置において、
前記非協調回生時マップが、前記閾値が相対的に低回転側に規定されている第1マップと、前記閾値が相対的に高回転側に規定されている第2マップと、を含み、
前記第1マップおよび前記第2マップの双方のシフトダウン側における前記所定の低変速点以下の各変速点の前記閾値が、同じ値に規定されている変速制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の変速制御装置において、
前記中継クラッチ制御部が、減速時の所定の高速段において前記中継クラッチを切り離された状態にする減速回生開始処理を実行するとともに、切り離された状態の前記中継クラッチを接続する減速回生終了処理を実行し、
前記減速回生終了処理が、
前記協調回生時マップを用いて停車までに、前記中継クラッチの接続を実行する第1減速回生終了処理と、
前記非協調回生時マップを用いて前記所定の低変速点での切替前に、前記中継クラッチの接続を実行する第2減速回生終了処理と、
を含み、
前記第2減速回生終了処理における前記所定の低変速点での切替時に、前記エンジンおよび前記モータの双方を駆動させるとともに前記自動変速機の摩擦締結要素をスリップさせる変速制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の変速制御装置において、
前記第2減速回生終了処理における前記所定の低変速点より高い変速点で切り替える際には、その変速点に応じて前記モータを駆動させる、変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、駆動源としてエンジンおよびモータが搭載されている車両の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
開示する技術に関し、特許文献1にハイブリッド車の制御装置が開示されている。
【0003】
変速機は油圧によって制御されるため、その応答性は低い。そこで、特許文献1の制御装置では、変速時に、その応答遅れを考慮して回生可能なトルクを演算する。そうすることにより、回生トルクの制御精度を高めて燃費を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている技術のように、車両にとって燃費の向上は重要な課題である。そのためには、駆動源としてエンジンおよびモータが搭載されている車両では、エンジンでの燃料消費の抑制とともに、モータによる回生を促進し、減速時に消費されるエネルギーの回収効率を高める必要がある。
【0006】
そのためには、減速時にエンジンを切り離し、エンジンでの燃料消費を無くすとともに、エンジンのモータリングによって消費されていたエネルギーについても、回生エネルギーとして回収するのが有効である。
【0007】
しかし、そうした場合、減速時に、変速機が2速等の低速段へシフトダウンする時には、車両のイナーシャが大きいために、モータの回生に伴うトルクのみが作用している変速機の入力側と、車両のイナーシャに伴うトルクが作用する変速機の出力側との間に、トルク差が生じる。このトルク差を解消しなければ、変速時、つまり変速機の摩擦締結要素の締結時にトルクショックが発生する。
【0008】
ブレーキペダルが踏み込まれて、そのブレーキによる制動力が作用している減速時には、その制動力によって変速機の出力側のトルクが減少する。トルク差が減少するので、トルクショックを低減できる。ドライバーもブレーキペダルを操作しているので、違和感を感じ難い。それに対し、ブレーキが使用されない減速時には、ブレーキの制動力が作用しないので、変速時に大きなトルクショックが発生してしまう。
【0009】
変速機の摩擦締結要素をスリップさせ、それによってトルクショックを低減することも考えられる。しかし、それだけでは、車両のイナーシャに伴うトルクに対しては不十分である。モータの回生で得られるトルクを加えても同様である。そのため、低速段へのシフトダウンに先だってエンジンを連結し、エンジンの駆動によるトルクを作用させる必要がある。
【0010】
しかし、そうすると回生ができなくなる。エンジンを切り離すことまでして得ている燃費向上効果が失われる。
【0011】
開示する技術では、燃費向上と快適な走行性能の両立を目指す。
【課題を解決するための手段】
【0012】
開示する技術は、駆動源として搭載されるエンジンおよびモータと、前記駆動源と駆動輪との間に介在し、油圧制御により複数の変速段を高低に切り替えて変速する自動変速機と、前記エンジンと前記自動変速機との間に介在し、当該エンジンと当該自動変速機との切り離しを可能にする中継クラッチと、を備えた車両の変速制御装置に関する。
【0013】
前記変速制御装置は、前記変速段の切替開始タイミングを判定するために、シフトダウン側およびシフトアップ側の双方の回転数に関する閾値が変速点毎に規定されている変速マップと、前記変速マップに基づいて前記変速段を切り替える変速機制御部と、前記モータによる回生を制御する回生制御部と、前記中継クラッチを制御する中継クラッチ制御部と、を有している。
【0014】
前記変速マップは、ブレーキと協調した協調回生時に用いられる協調回生時マップと、協調回生時以外に用いられて、前記協調回生時マップよりも前記閾値が低回転側に規定されている非協調回生時マップと、を含む。そして、前記非協調回生時マップのシフトダウン側では、所定の低変速点の前記閾値が、当該所定の低変速点より高い各変速点の前記閾値よりも小さく規定されるとともに前記協調回生時マップにおけるシフトダウン側の前記所定の低変速点の前記閾値よりも小さく規定されている。
【0015】
すなわち、この変速制御装置は、駆動源にエンジンおよびモータを備えた車両(いわゆるハイブリッド車)を対象とする。従って、上述したように、燃費を向上するには、エンジンでの燃料消費の抑制とともに、モータによる回生を促進し、減速時に消費されるエネルギーの回収効率を高める必要がある。
【0016】
そのためには、上述したように、中継クラッチ制御部が中継クラッチを制御することにより、減速時にエンジンを切り離し、回生制御部によって回生エネルギーを回収するのが有効である。
【0017】
しかし、そうすると、変速機制御部が行う変速時にトルクショックが発生する。ブレーキを使用した減速時にはトルクショックを低減できるが、ブレーキが使用されない減速時には、変速時に大きなトルクショックが発生する。そのため、変速に先だってエンジンを連結し、エンジントルクによってトルクショックを抑制する必要がある。その結果、回生による燃費向上効果が得られなくなる。
【0018】
それに対し、この変速制御装置では、このような減速回生時においても適切に変速でき、燃費向上と快適な走行性能とが両立できるように、変速機制御部が変速時に用いる変速マップが工夫されている。
【0019】
すなわち、変速マップは、協調回生時に用いられる協調回生時マップと、協調回生時以外に用いられて、協調回生時マップよりも閾値が低回転側に規定されている非協調回生時マップとを含む。そして、非協調回生時マップのシフトダウン側では、所定の低変速点の閾値が、その低変速点より高い各変速点の閾値よりも小さく規定されるとともに協調回生時マップにおけるその閾値よりも小さく規定されている。なお、ここでいう所定の低変速点は、上述したトルクショック抑制の対象となる変速点(特定変速点)に相当する。
【0020】
協調回生時には、ブレーキの使用と共に、特定変速点の閾値が相対的に高い協調回生時マップが用いられる。従って、相対的に高い回転数で変速段が切り替わる。高い回転数を保持できるので、回生エネルギーの回収効率の低下を抑制できる。そして、ブレーキによる制動力が作用するので、トルクショックについても低減できる。
【0021】
一方、非協調回生時には、ブレーキの不使用と共に、特定変速点の閾値が相対的に低い非協調回生時マップが用いられる。従って、その分、特定変速点でシフトダウンするタイミングを遅くできる。それにより、トルクショックを抑制するために、中継クラッチを接続してエンジンを始動させるタイミングについても遅らせることができる。その分、減速回生を長く維持できるので、燃費向上効果の減少を抑制できる。
【0022】
しかも、その特定変速点の閾値は、それよりも高い各速点の閾値よりも小さく規定されている。換言すれば、特定変速点よりも高い各変速点の閾値は、特定変速点の閾値よりも大きい。それにより、特定変速点より高い変速段では高い回転数を保持でき、回生エネルギーの回収効率の低下を抑制できる。
【0023】
従って、この変速制御装置によれば、燃費の総合的な向上と快適な走行性能とを両立できる。
【0024】
前記協調回生時マップにおけるシフトダウン側では、前記所定の低変速点より高い各変速点の前記閾値が、同じ値に規定されている、としてもよい。
【0025】
そうすれば、車両の運転領域の広い範囲において、車速が異なっていても同じ回転数でシフトダウンされる。従って、ドライバーに違和感を与え難くでき、爽快な走行感を損なわずに済む。燃費向上と快適な走行性能を高次元で両立できる。
【0026】
前記非協調回生時マップが、前記閾値が相対的に低回転側に規定されている第1マップと、前記閾値が相対的に高回転側に規定されている第2マップと、を含み、前記第1マップおよび前記第2マップの双方のシフトダウン側における前記所定の低変速点以下の各変速点の前記閾値が、同じ値に規定されている、としてもよい。
【0027】
そうすれば、車速の遅い状態での変速時に同じ回転数でシフトダウンされる。従って、ドライバーに違和感を与え難くでき、爽快な走行感を損なわずに済む。燃費向上と快適な走行性能を高次元で両立できる。
【0028】
前記中継クラッチ制御部が、減速時の所定の高速段において前記中継クラッチを切り離された状態にする減速回生開始処理を実行するとともに、切り離された状態の前記中継クラッチを接続する減速回生終了処理を実行し、前記減速回生終了処理が、前記協調回生時マップを用いて停車までに、前記中継クラッチの接続を実行する第1減速回生終了処理と、前記非協調回生時マップを用いて前記所定の低変速点での切替前に、前記中継クラッチの接続を実行する第2減速回生終了処理と、を含み、前記第2減速回生終了処理における前記所定の低変速点での切替時に、前記エンジンおよび前記モータの双方を駆動させるとともに前記自動変速機の摩擦締結要素をスリップさせる、としてもよい。
【0029】
すなわち、減速回生時にエンジンを切り離し、回生エネルギーを効果的に回収して、車両が停車するまでにエンジンを連結する。その際、ブレーキを使用する協調回生時には、協調回生時マップを用いて停車までに接続する。この場合、上述したように、回生エネルギーの回収効率の低下の抑制とともにトルクショックについても低減できる。
【0030】
ブレーキを使用しない非協調回生時には、非協調回生時マップを用いて所定の低変速点での切替前にエンジンを連結して再始動し、エンジンおよびモータの双方のトルクとともに自動変速機のスリップ効果を組み合わせることで、変速時に発生するトルク差を解消させる。それにより、上述したように、燃費向上効果の減少およびトルクショックの双方を抑制できる。
【0031】
前記第2減速回生終了処理における前記所定の低変速点より高い変速点で切り替える際には、その変速点に応じて前記モータを駆動させる、としてもよい。
【0032】
モータの回転数が比較的高い場合には、モータのトルクアップのみでもトルクショックの発生を防止できる。従って、その変速点に応じてモータを駆動し、トルクアップすることで、トルクショックを効果的に抑制できる。
【発明の効果】
【0033】
開示する技術を適用した車両の変速制御装置によれば、燃費向上と快適な走行性能の双方を両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】開示する技術を適用した自動車の主な構成を示す概略図である。
【
図3】PCMおよびこれに関連する主な入出力装置を示すブロック図である。
【
図4】TCMおよびこれに関連する主な入出力装置を示すブロック図である。
【
図5】自動車の基本的な走行例を説明するための図である。
【
図7】変速マップの各変速点の閾値をグラフ化した図である。
【
図8】変速制御装置が行う減速回生時における変速制御のフローチャートである。
【
図10】第2減速回生終了処理に対応した主な要素のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、開示する技術について説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0036】
<車両>
図1に、開示する技術を適用した自動車1(車両の一例)を示す。この自動車1は、電力を利用した走行が可能なハイブリッド車である。自動車1は、4つの車輪2(2F,2F,2R,2R)を有している。各車輪2には、その回転を制動するために、ブレーキ3が取り付けられている。
【0037】
自動車1の駆動源として、エンジン4および駆動モータ5が搭載されている。これらが協働して、4つの車輪2F,2F,2R,2Rのうち、左右対称状に位置する2輪(駆動輪2R)を駆動する。それにより、自動車1は走行する。駆動モータ5はまた、駆動源としてだけでなく、回生時には発電機としても利用される。
【0038】
この自動車1は、後述するように定格電圧が50V以下の高電圧バッテリ9を搭載している。その高電圧バッテリ9からの電力供給により、駆動モータ5は、主にエンジン4をアシストする形で走行する(いわゆるマイルドハイブリッド車)。なお、自動車1は、外部電源からの電力供給が可能な、いわゆるプラグインハイブリッド車であってもよい。
【0039】
この自動車1の場合、エンジン4は車体の前側に配置されており、駆動輪2Rは車体の後側に配置されている。すなわち、この自動車1は、いわゆるFR車である。自動車1は、FR車に限らず、4輪駆動であってもよい。
【0040】
自動車1には、エンジン4、駆動モータ5の他、駆動系の装置として、中継クラッチ6、インバータ7、自動変速機8などが備えられている。自動車1にはまた、制御系の装置として、パワーコントロールモジュール(PCM)21、変速機コントロールモジュール(TCM)22などが備えられている。
【0041】
車速センサ31、エンジンセンサ32、モータセンサ33、変速機センサ34、ブレーキセンサ35、アクセルセンサ36なども、制御系の装置に付随して自動車1に設置されている。
【0042】
(駆動系の装置)
エンジン4は、例えばガソリンを燃料に使用して燃焼を行う内燃機関である。エンジン4はまた、吸気、圧縮、膨張、排気の各サイクルを繰り返すことで回転動力を発生させる、いわゆる4サイクルエンジンである。エンジン4には、ディーゼルエンジン等、様々な種類や形態があるが、開示する技術では、特にエンジン4の種類や形態は限定しない。
【0043】
この自動車1では、エンジン4は、回転動力を出力するクランクシャフト4aを、車体の前後方向に向けた状態で、車幅方向の略中央部に配置されている。自動車1には、吸気システム、排気システム、燃量供給システムなど、エンジン4に付随した様々な装置や機構が設置されているが、これらの図示および説明は省略する。
【0044】
駆動モータ5は、三相の交流によって駆動する永久磁石型の同期モータである。駆動モータ5は、中継クラッチ6を介してエンジン4の後方に直列に配置されている。駆動モータ5はまた、自動変速機8の前方に直列に配置されている。
【0045】
中継クラッチ6は、駆動モータ5のシャフト5aの前端部と、エンジン4のクランクシャフト4aとの間に介在するように設置されている。中継クラッチ6は、その摩擦締結要素の締結の有無により、クランクシャフト4aとシャフト5aとが連結された状態(接続状態)と、クランクシャフト4aとシャフト5aとが分離した状態(分離状態)とに切り替え可能に構成されている。
【0046】
駆動モータ5のシャフト5aの後端部は自動変速機8の入力軸8aに連結されている。従って、エンジン4は、中継クラッチ6およびシャフト5aを介して、自動変速機8と連結されている。中継クラッチ6を分離状態にすることで、エンジン4は自動変速機8から切り離される。
【0047】
詳細は後述するが、自動車1の走行中、中継クラッチ6は、接続状態と分離状態との間で切り替えられる。例えば、自動車1の減速時には、中継クラッチ6を分離状態にし、エンジン4を切り離した状態での回生が行われる。
【0048】
そして、ブレーキ3と協調して減速回生する時(協調回生時)には、中継クラッチ6は、停車するまで(シャフト5aの回転数がゼロになるまで)に接続にされる。ブレーキ3と協調しないで減速回生する時(非協調回生時)には、中継クラッチ6は、シャフト5aが所定の回転数になるタイミングで接続される。
【0049】
すなわち、非協調回生時に中継クラッチ6を接続する場合には、加速に転じた時にエンストしないように、ある程度の回転数が必要とされる。中継クラッチ6を接続する回転数は、エンストの可能性がある下限回転数に、変速制御やエンジン4の始動などに要する時間の回転減少分の回転数を加えた回転数以上に設定されている。
【0050】
駆動モータ5は、インバータ7および高電圧ケーブル40を介して、駆動電源として車載されている高電圧バッテリ9と接続されている。この自動車1の場合、高電圧バッテリ9は、定格電圧が50V以下、具体的には48Vの直流バッテリが用いられている。
【0051】
高電圧バッテリ9は、インバータ7に高電圧の直流電力を供給する。インバータ7は、その直流電力を3相の交流に変換して駆動モータ5に通電する。それにより、駆動モータ5が回転駆動する。
【0052】
高電圧バッテリ9は、高電圧ケーブル40を介してDCDCコンバータ10とも接続されている。DCDCコンバータ10は、48Vの高電圧の直流電力を12Vの低電圧の直流電力に変換して出力する。DCDCコンバータ10(その出力側)は、低電圧ケーブル41を介して低電圧バッテリ11(いわゆる鉛蓄電池)と接続されている。
【0053】
低電圧バッテリ11は、図示は省略するが、低電圧ケーブル41を介して様々な電装品と接続されている。DCDCコンバータ10はまた、低電圧ケーブル41を介してCAN12(Controller Area Network)とも接続されている。それにより、DCDCコンバータ10はCAN12に低電圧の直流電力を供給する。
【0054】
自動変速機8は、多段式自動変速機(いわゆるAT)である。自動変速機8はその前端部に入力軸8aを有し、その入力軸8aが、上述したように駆動モータ5のシャフト5aと連結されている。自動変速機8はその後端部に、入力軸8aから独立した状態で回転する出力軸8bを有している。
【0055】
これら入力軸8aと出力軸8bとの間には、トルクコンバータ8c、複数の遊星歯車機構8d、および複数の変速機クラッチ8eなどからなる変速機構が組み込まれている。変速機クラッチ8eの各々は、油圧によって締結状態と非締結状態とに切り替わる複数の摩擦締結要素を有している。
【0056】
油圧制御により、変速機構の変速機クラッチ8eを切り替えることにより、前進または後進の切り替えおよび、自動変速機8の入力軸8aと出力軸8bとの間で異なる回転数に変更、つまり変速段の切り替えができるように構成されている。
【0057】
例えば、各変速機クラッチ8eの入力側は、トルクコンバータ8cを介して入力軸8aと連結可能に構成されている。各変速機クラッチ8eの出力側は、対応した遊星歯車機構8dを介して出力軸8bと連結されている。
【0058】
そして、特定の変速機クラッチ8eが選択されてその変速機クラッチ8eに所定の油圧が供給されると、その変速機クラッチ8eの摩擦締結要素が締結される。それにより、その変速機クラッチ8eおよびそれに対応した遊星歯車機構8dを介して入力軸8aと出力軸8bとが連結される。
【0059】
一方、その変速機クラッチ8eに供給された油圧が回収されると、その変速機クラッチ8eの摩擦締結要素が分離する。それにより、その変速機クラッチ8eおよびそれに対応した遊星歯車機構8dを介して連結されていた入力軸8aと出力軸8bとの間が切り離される。
【0060】
自動変速機8に油圧を供給するために、駆動源(エンジン4および/または駆動モータ5)によって駆動される機械式ポンプ(MOP)13と、電力で駆動する電動ポンプ(EOP)14とが、自動変速機8に付設されている。EOP14は低電圧バッテリ11と接続されており、低電圧バッテリ11から供給される電力で作動する。
【0061】
図2に、この自動変速機8の締結表を示す。表中の丸印は締結を示している。この自動変速機8には、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、および、第3クラッチCL3からなる3つのクラッチ要素と、第1ブレーキBR1および第2ブレーキBR2からなる2つのブレーキ要素とで構成された5つの変速機クラッチ8eが組み込まれている。
【0062】
自動変速機8は、油圧制御により、これら5つの変速機クラッチ8eの中から3つの変速機クラッチ8eを選択して締結する。そうすることにより、1速から8速までの前進用の変速段、および、後退用の変速段(後退速)のいずれかに切り替わる。
【0063】
例えば、1速では、第1クラッチCL1、第1ブレーキBR1、および、第2ブレーキBR2が締結されている。1速からシフトアップする場合、第1クラッチCL1に代えて第2クラッチCL2を締結することで1速から2速に切り替わる。第1ブレーキBR1に代えて第1クラッチCL1を締結することで2速から3速に切り替わる。第1クラッチCL1に代えて第3クラッチCL3を締結することで3速から4速に切り替わる。
【0064】
5速以降へのシフトアップもこれらと同様に行われる。シフトダウンする場合は、シフトアップでの切り替えと逆の手順になる。
【0065】
変速段は、高くなるほど、ギヤ比が小さくなる。例えば、1速よりも2速の方がギヤ比は小さい。通常、低速段は低速走行で使用され、高速段は高速走行で使用される。自動変速機8は、自動車1の走行中、これら1速から8速の各変速段を高低に切り替えて、駆動源から入力される回転数を変速して出力する。
【0066】
なお、変速機クラッチ8eが締結されない場合には、入力軸8aと出力軸8bとの間が切り離された状態になる(いわゆるニュートラル)。自動変速機8に駆動源から回転動力が入力されても、その回転動力は自動変速機8から出力されない。
【0067】
図1に示すように、自動変速機8の出力軸8bは、車体の前後方向に延びるプロペラシャフト15を介してデファレンシャルギア16に連結されている。デファレンシャルギア16には、車幅方向に延びて、左右の駆動輪2R,2Rに連結された一対の駆動シャフト17,17が連結されている。プロペラシャフト15を通じて出力される回転動力は、デファレンシャルギア16で振り分けられた後、これら一対の駆動シャフト17,17を通じて各駆動輪2Rに伝達される。
【0068】
(変速制御装置)
自動車1には、ドライバーの操作に応じて、エンジン4、駆動モータ5、中継クラッチ6、自動変速機8などを制御し、その走行をコントロールするために、上述したPCM21およびTCM22が設置されている。これらPCM21およびTCM22の各々は、プロセッサ、メモリ、インターフェースなどのハードウエアと、データベースや制御プログラムなどのソフトウエアとで構成されている。
【0069】
PCM21は、駆動源(エンジン4および駆動モータ5)の作動を主に制御するユニットである。PCM21はまた、ブレーキ3の作動も制御する。TCM22は、中継クラッチ6および自動変速機8の作動を主に制御するユニットである。PCM21およびTCM22の各々は、上述したようにCAN12によって接続されていて、互いに電気通信可能に構成されている。変速制御装置20は、これらPCM21およびTCM22によって構成されている。
【0070】
図3に、PCM21およびこれに関連する主な入出力装置を示す。PCM21には、CAN12の他、車速センサ31、エンジンセンサ32、モータセンサ33、ブレーキセンサ35、アクセルセンサ36、インバータ7、エンジン4、ブレーキ3、MOP13、EOP14などが接続されている。PCM21にはまた、機能的な構成として、モータ制御部21a、エンジン制御部21b、オイルポンプ制御部21c、回生制御部21dなどが、そのハードウエアおよびソフトウエアによって設けられている。
【0071】
モータ制御部21aは、駆動モータ5の駆動を制御する機能を有し、インバータ7を制御することにより、駆動モータ5に要求される回転動力を出力させる。エンジン制御部21bは、エンジン4の駆動を制御する機能を有し、エンジン4に要求される回転動力を出力させる。
【0072】
オイルポンプ制御部21cは、MOP13およびEOP14の作動を制御する機能を有し、自動変速機8に供給する油圧を調整する。回生制御部21dは、回生を制御する機能を有し、例えば、自動車1の減速時に、ブレーキ3と協調した駆動モータ5による回生(協調回生)を実行する。
【0073】
図4に、TCM22およびこれに関連する主な入出力装置を示す。TCM22には、CAN12の他、変速機センサ34、中継クラッチ6、自動変速機8などが接続されている。TCM22にはまた、機能的な構成として、中継クラッチ制御部22aと変速機制御部22bとが、そのハードウエアおよびソフトウエアによって設けられている。
【0074】
中継クラッチ制御部22aは、中継クラッチ6の作動を制御する。すなわち、中継クラッチ制御部22aは、自動車1の運転状態に応じて、中継クラッチ6を接続状態または分離状態に切り替える。変速機制御部22bは、自動車1の運転状態に応じて、後述する所定の変速マップ50に基づいて自動変速機8の変速段を切り替える。すなわち、変速機制御部22bは、自動変速機8に入力される回転数に対して出力する回転数を変更する。
【0075】
図1に示すように、車速センサ31は、例えば各車輪2に取り付けられており、各車輪2の回転数を検出してPCM21に出力する。PCM21は、これら検出値から車速を算出する。エンジンセンサ32は、エンジン4に取り付けられており、エンジン4の回転数及びトルクを検出してPCM21に出力する。モータセンサ33は、駆動モータ5に取り付けられており、駆動モータ5の回転数およびトルクを検出してPCM21に出力する。
【0076】
ブレーキセンサ35は、ブレーキペダル18に取り付けられており、その踏み込み量を検出してPCM21に出力する。アクセルセンサ36は、アクセルペダル19に取り付けられており、その踏み込み量を検出してPCM21に出力する。変速機センサ34は、自動変速機8に取り付けられており、各変速機クラッチ8eの回転数および締結トルク、出力軸8bの回転数などを検出してTCM22に出力する。
【0077】
これらセンサから入力される検出値の信号に基づいて、PCM21およびTCM22の各々が協働して駆動系の各装置を制御することで、自動車1は走行する。この自動車1の場合、エンジン4および駆動モータ5を併用して走行する。例えば、自動車1の始動時や加速時には、駆動モータ5は、エンジン4の出力をアシストする。車速が中速域や高速域に到達し、自動車1が安定走行している時には、エンジン4と駆動モータ5の双方の駆動で走行したり、エンジン4を切り離して駆動モータ5の駆動のみで走行したりする。
【0078】
また、この自動車1の場合、自動車1の減速時には、エンジン4を切り離し、状況に応じてブレーキ3との協調制御によって制動しながら、駆動モータ5で積極的に減速回生を行う。それにより、この自動車1では、減速時に消費されるエネルギーを、より多く回収して燃費を向上させる。
【0079】
<車両の走行例>
図5に、自動車1の基本的な走行例を示す。図の上側は、自動車1の走行状態(車速の変化)を表している。図の下側に示す各状態
図C1~C7は、その自動車1の走行状態に対応した中継クラッチ6および変速機クラッチ8eの締結の有無と、回転動力(トルクないし負荷)の出力状態、電力の供給状態を表している。
【0080】
実線L1は中継クラッチ6の締結の有無を示し、実線L2は変速機クラッチ8eの締結の有無(つまりニュートラルか否か)を示している。太矢印Y1は駆動源(エンジン4および/または駆動モータ5)からの回転動力の出力を示し、細矢印Y2は高電圧バッテリ9から駆動モータ5への電力の入出力を示している。
【0081】
図5の左端に、自動車1が完全に停車している状態を示す。この自動車1は、ドライバーのキー操作などに基づいて、セルモータが作動し、それによってエンジン4が始動する。このときは、状態
図C1に示すように、中継クラッチ6は接続状態であり、自動変速機8はニュートラルの状態である。
【0082】
次に、アクセルが踏み込まれて自動車1が走行を開始すると、状態
図C2に示すように、自動変速機8は低速段で連結された状態になり、アクセルの踏み込み量に応じてエンジン4から回転動力が出力される。その際、駆動モータ5はエンジン4の駆動をアシストする。詳細には、駆動モータ5は、燃費が最適化されるように、エンジン4が自動変速機8に出力する回転動力を調整し、駆動、停止、または、発電(回生)を行う。
【0083】
自動車1が走行すると、その運転状態に応じて、自動車1は、エンジン4と駆動モータ5の双方の駆動で走行(HEV走行)したり(状態
図C2の状態)、エンジン4を切り離して駆動モータ5の駆動のみで走行(EV走行)したりする(状態
図C3の状態)。このとき、自動変速機8は高速段側に設定された状態となり、燃料および電力の消費を抑制する。従って、燃費が向上する。回転数が低いので、こもり音も低減できる。従って、騒音も低減できる。
【0084】
特にこの自動車1の場合、EV走行が可能な運転領域では、優先的にEV走行を行う。EV走行では、エンジン4が停止しているので、燃料を消費しない。燃焼に伴うエネルギーロスも発生しない。従って、燃費を更に向上できる。
【0085】
なお、自動車1の走行中にエンジン4を切り離す場合としては、上述したようにEV走行を行う時や、後述するように減速回生を行う時などが挙げられる。一方、エンジン4を連結する場合としては、EV走行が不能な運転領域で走行する時、アイドルストップを行う時、エアコンの使用による出力増加要求があった時、高電圧バッテリ9の充電のために回生要求があった時などが挙げられる。
【0086】
EV走行からHEV走行に復帰する時には、状態
図C4に示すように、エンジン4が連結されて、走行する自動車1のイナーシャと駆動モータ5の駆動による回転動力とにより、エンジン4を再始動する。
【0087】
そして、自動車1が停止に向けて減速を開始すると、この自動車1の場合、状態
図C5に示すように、エンジン4を切り離して減速回生を行う。エンジン4を切り離すことで、より多くのエネルギーを回収できる。
【0088】
車速が大きく低下し、自動車1が停止に近づくと、この自動車1の場合、状態
図C6に示すように、エンジン4を連結し、アイドルストップの準備を行う。
【0089】
すなわち、自動変速機8の変速段が低速段の時に分離状態の中継クラッチ6を接続する。アイドルストップすることで、自動車1が停止しても直ちに駆動モータ5の駆動によってエンジン4を再始動できる。アイドルストップ時には、自動変速機8はニュートラルの状態となり、自動車1は、状態
図C1と同じ状態になる。
【0090】
アイドルストップした自動車1が再始動する時は、状態
図C7に示すように、高電圧バッテリ9からの電力供給によって駆動モータ5が駆動する。エンジン4は、その回転動力で始動する。従って、円滑かつ低騒音でエンジン4を再始動できる。
【0091】
<変速マップ>
上述したように、自動車1の走行中は、自動変速機8の変速段は高速段側に設定した方が、燃費向上や騒音抑制の観点からは好ましい。
【0092】
しかし、自動変速機8が高速段であると、シャフト5aの回転数は低いので、駆動モータ5で回生する時の発電量が抑制される。従って、エネルギーの回収効率が低下し、燃費が悪化する。
【0093】
また、アクセルペダル19が踏み込まれて自動車1の急加速が要求された場合、自動変速機8が高速段であると、トルク不足によって対応できない。従って、ドライバーがイメージする加速との間に差が生じて、爽快な走行感が得られないおそれがある。
【0094】
それに対し、この自動車1では、燃費向上と快適な走行性能を両立できるように、自動変速機8のシフトパターンを規定した変速マップ50が工夫されている。
図6に、その変速マップ50を例示する。変速マップ50は、TCM22のメモリに設定されている。そのデータの形態は、表に限らず数式、数値群などでもよく、仕様に応じて適宜選択できる。
【0095】
変速マップ50は、大略、3つの異なるマップで構成されている。すなわち、変速マップ50は、回生要求マップ51、燃焼要求マップ52、および、走り要求マップ53を含む。回生要求マップ51は、協調回生時、つまりブレーキ3と協調して減速回生する時に用いられるマップであり、「協調回生時マップ」に相当する。
【0096】
燃焼要求マップ52および走り要求マップ53は、非協調回生時、つまり協調回生時以外に用いられるマップである。例えば、自動車1の加速時および定速走行時(力行時)や、ブレーキ3と協調しないで減速回生する時に用いられるマップであり、「非協調回生時マップ」に相当する。燃焼要求マップ52はまた「第1マップ」に相当し、走り要求マップ53はまた「第2マップ」に相当する。
【0097】
これらマップには、変速段の切り替えを開始するタイミング(切替開始タイミング)を判定するための閾値が、シフトダウン側およびシフトアップ側の双方に関して、変速点毎に規定されている。すなわち、シフトアップ側には、変速段を高低に切り替える複数の切替点として、U1~U7の変速点が規定されており、シフトダウン側には、D1~D7の変速点が規定されている。
【0098】
そして、これらの変速点毎に、変速段を切り替える最低の回転数(自動変速機8の入力側の回転数)が、閾値として、対応する車速と共に規定されている。なお、閾値は回転数それ自体に限らず、回転数と相関のある他の値であってもよい。
【0099】
燃焼要求マップ52のシフトアップ側には、U1~U7の変速点毎に、変速段の切り替えを開始する車速とそれに対応した回転数(Ra:U1~Ra:U7)とが規定されている。例えば、燃焼要求マップ52の変速点U3は、3速から4速に切り替える。従って、3速で走行している自動車1の車速が増加して30km/hになると共に回転数がRa:U3になると、そのタイミングで4速に変速段が切り替わり、シフトアップする。
【0100】
また、回生要求マップ51のシフトダウン側には、D1~D7の変速点毎に、変速段の切り替えを開始する車速とそれに対応した回転数(Rc:D1~Rc:D7)とが規定されている。例えば、回生要求マップ51の変速点D2は、3速から2速に切り替える。従って、3速で走行している自動車1の車速が減少して23km/hになると共に回転数がRc:D2になると、そのタイミングで2速に変速段が切り替わり、シフトダウンする。
【0101】
図7に、これら各マップにおける各変速点の閾値をグラフ化して示す。破線が回生要求マップ51のグラフであり、一点鎖線が走り要求マップ53のグラフであり、実線が燃焼要求マップ52のグラフである。各グラフの要素が変速点に相当する(要素の一部に対応する閾値を付記)。縦軸は閾値であり、R0およびR1は所定の回転数を表している。
【0102】
回生要求マップ51は、燃焼要求マップ52および走り要求マップ53の双方よりも閾値が高回転側に規定されている。すなわち、回生要求マップ51では、燃焼要求マップ52および走り要求マップ53の双方よりも、回転数が高く保持されるように設定されている。
【0103】
例えば、シフトダウン側の変速点D7で比べた場合、回生要求マップ51であれば、回転数がRc:D7に達した時に8速から7速に切り替わるのに対し、走り要求マップ53であれば、回転数がそれより低いRb:D7に達した時に8速から7速に切り替わる。燃焼要求マップ52では更にそれよりも低い回転数Ra:D7で切り替わる。
【0104】
従って、回生要求マップ51によれば、駆動モータ5を相対的に高回転側で回転できるので、発電量が多くなり、回生効率が向上する。従って、回生時の燃費を向上できる。
【0105】
一方、燃焼要求マップ52は、走り要求マップ53よりも閾値が低回転側に規定されている。すなわち、燃焼要求マップ52の閾値は相対的に低回転側に規定され、走り要求マップ53の閾値は相対的に高回転側に規定されている。走り要求マップ53では、燃焼要求マップ52よりも、回転数が高く保持されるように設定されている。
【0106】
燃焼要求マップ52は、燃費向上を優先するように設定されている。対して、走り要求マップ53は、快適な走行性能を優先するように設定されている。燃焼要求マップ52は、主にアクセルの不使用時に用いられ、走り要求マップ53は、主にアクセルの使用時に用いられる。
【0107】
例えば、変速点U7では、燃焼要求マップ52であれば、回転数がRa:U7に達した時に7速から8速に切り替わるのに対し、走り要求マップ53であれば、回転数がそれより高いRb:U7に達した時に7速から8速に切り替わる。
【0108】
従って、燃焼要求マップ52によれば、相対的に低回転側で回転するので、エンジン4や駆動モータ5の出力が低くなり、燃料や電力の消費を抑制できる。回転数の増加に伴って発生するこもり音も低減できる。
【0109】
一方、走り要求マップ53によれば、相対的に高回転側で回転できるので、出力できるトルクが大きくなり、より短時間で加速できる。従って、ドライバーは、イメージ通りの加速が得られ、爽快な走行感を味わうことができる。
【0110】
回生要求マップ51および走り要求マップ53の各々におけるシフトダウン側では、所定の低変速点より高い各変速点の閾値は、同じ値に規定されている。
【0111】
具体的には、回生要求マップ51の変速点D1,D2以外の変速点、つまり変速点D3以上の各変速点は同一の閾値が規定されている(Rc:D3~Rc:D7が同一値)。同様に、走り要求マップ53の変速点D3以上の各変速点も同一の閾値が規定されている(Rb:D3~Rb:D7が同一値)。
【0112】
それにより、自動車1の運転領域の広い範囲において、車速が異なっていても同じ回転数でシフトダウンされる。従って、ドライバーに違和感を与え難くでき、爽快な走行感を損なわずに済む。燃費向上と快適な走行性能を高次元で両立できる。
【0113】
燃焼要求マップ52および走り要求マップ53の双方のシフトダウン側における所定の低変速点(後述する特定変速点D2)以下の各変速点の閾値は、車速と共に、同じ値に規定されている。また、燃焼要求マップ52および走り要求マップ53の双方のシフトアップ側における所定の低変速点以下の各変速点の閾値は、車速と共に、両マップの対応する変速点間で同じ値に規定されている。
【0114】
具体的には、燃焼要求マップ52の変速点D1,D2の各閾値、および、走り要求マップ53の変速点D1,D2の各閾値は、車速と共に同じ値に規定されている(Ra:D1=Rb:D1,Ra:D2=Rb:D2)。そして、燃焼要求マップ52の変速点U1の閾値は、走り要求マップ53の変速点U1の閾値と車速と共に同じ値に規定され(Ra:U1=Rb:U1)、燃焼要求マップ52の変速点U2の閾値は、走り要求マップ53の変速点U2の閾値と車速と共に同じ値に規定されている(Ra:U2=Rb:U2)。
【0115】
それにより、車速の遅い状態での異なる変速時に、マップが異なっていても、同じ車速および回転数でシフトダウンまたはシフトアップされる。従って、変速を伴う自動車1の加速または減速が頻繁に行われても、ドライバーに違和感を与え難くでき、爽快な走行感を損なわずに済む。燃費向上と快適な走行性能を高次元で両立できる。
【0116】
これら各マップ(燃焼要求マップ52、走り要求マップ53、回生要求マップ51)の各々における最低変速点の閾値は、同じ値が規定されている。
【0117】
すなわち、各マップのシフトダウン側の最低変速点D1は、車速と共に、同一の閾値が規定されている(Ra:D1=Rb:D1=Rc:D1)。各マップのシフトアップ側の双方の最低変速点U1も、車速と共に、同一の閾値が規定されている(Ra:U1=Rb:U1=Rc:U1)。
【0118】
それにより、どのマップを用いた場合でも、車速が最も遅い状態での変速時には、同一の速度および回転数でシフトダウンまたはシフトアップされる。従って、ドライバーに違和感を与え難くでき、爽快な走行感を損なわずに済む。燃費向上と快適な走行性能を高次元で両立できる。
【0119】
これら各マップ(燃焼要求マップ52、走り要求マップ53、回生要求マップ51)のシフトダウン側およびシフトアップ側の双方における変速段が同一の変速点を比較した場合、シフトダウン側よりもシフトアップ側の方が、閾値が大きく規定されている。
【0120】
具体的には、シフトアップ側の変速点は、シフトダウン側の変速段が同じ変速点に対して車速において+5km/h程度のヒステリシスが設けられている。そして、最初にシフトダウン側とシフトアップ側との間を移行する時には、同一のマップが用いられるように構成されている。
【0121】
例えば、自動車1が回生要求マップ51を用いて走行している場合に、車速が23km/h(回転数はRc:D2)に減速すると、変速点D2の規定により、3速から2速にシフトダウンする。その後、最初に加速する時には、走り要求マップ53に移行するのではなく、同じ回生要求マップ51が用いられる。
【0122】
すなわち、回生要求マップ51のシフトアップ側の規定に基づいて変速が行われ、変速点U2の規定により、2速から3速にシフトアップする。それにより、最初に加速する時には、車速が28km/h(回転数はRc:U2)になるまで、シフトチェンジは行わない。つまり、車速が5km/h程度増速するまでは、同じ変速段が用いられるように設定されている。
【0123】
また例えば、自動車1が燃焼要求マップ52を用いて走行している場合に、車速が33km/h(回転数はRa:U4)に増速すると、変速点U4の規定により、4速から5速にシフトアップする。その後、最初に減速する時には、回生要求マップ51に移行するのではなく、同じ燃焼要求マップ52が用いられる。
【0124】
すなわち、燃焼要求マップ52のシフトダウン側の規定に基づいて変速が行われ、変速点D4の規定により、5速から4速にシフトダウンする。それにより、最初に減速する時には、車速が28km/h(回転数はRa:D4)になるまで、シフトチェンジは行わない。つまり、車速が5km/h程度減速するまでは、同じ変速段が用いられるように設定されている。
【0125】
それにより、煩雑な変速が抑制されるとともに、ドライバーに違和感を与え難くできる。従って、爽快な走行感を損なわずに済む。燃費向上と快適な走行性能を高次元で両立できる。
【0126】
異なる変速マップ50への移行は、その後に引き続いて行われるシフトチェンジのタイミングにおいて実行される。その際、双方の閾値が異なる場合には、連続的に移行できるように、双方の閾値の中間値で変速されるように設定されている。
【0127】
例えば、燃焼要求マップ52を用いて4速で減速している時には、車速が23km/h(回転数はRa:D3)になれば、変速点D3の規定により、3速にシフトダウンする。その際(燃焼要求マップ52を用いて4速で減速している時)に、走り要求マップ53に移行する場合、走り要求マップ53の変速点D3では、車速が24km/h(回転数はRb:D3)が規定されているので、これらの中間値(例えば、車速で23.5km/hおよびそれに対応した回転数)で、走り要求マップ53の3速にシフトダウンするように設定されている。
【0128】
このように、この変速制御装置20には、自動車1の主な運転状態に対応した3つの異なるシフトパターンで構成された変速マップ50が装備されているので、燃費の総合的な向上と快適な走行性能とを両立できる。
【0129】
<減速回生時における自動変速機の変速>
上述したように、この自動車1の場合、停車に向けて減速を開始すると、より多くのエネルギーを回収するために、エンジン4を切り離して回生を行う。
【0130】
しかし、そうした場合、自動変速機8が低速段へシフトダウンする時には、自動車1のイナーシャが大きいために、駆動モータ5の回生に伴うトルクのみが作用している変速機クラッチ8eの入力側と、自動車1のイナーシャに伴うトルクが作用する変速機クラッチ8eの出力側との間に、トルク差が生じる。
【0131】
このトルク差を解消しなければ、変速時、つまり変速機クラッチ8eの締結時に大きなトルクショックが発生する。そのトルクショックは、ドライバーに違和感を与え得る。
【0132】
通常、減速時にはブレーキ操作が伴う。駆動モータ5は、ブレーキ3による制動と協調して回生を行う(協調回生)。ブレーキペダル18が踏み込まれて、そのブレーキ3による制動力が作用している減速時には、その制動力によって変速機クラッチ8eの出力側のトルクが減少する。トルク差が減少するので、トルクショックを低減できる。
【0133】
それに対し、自動車1が、ブレーキ3による制動が無い状態で減速し、停止または微速状態になる場合もあり得る。このようなブレーキ3が使用されない状態での減速回生時(非協調回生時)には、ブレーキ3の制動力が作用しないので、変速時に大きなトルクショックが発生してしまう。
【0134】
変速機クラッチ8eをスリップさせ、それによってトルクショックを低減することも考えられる。しかし、変速機クラッチ8eのスリップは、車両のイナーシャに伴うトルクに対しては不十分である。駆動モータ5の回生に伴うトルクを加えても同様である。
【0135】
従って、トルクショックを防止するには、低速段へのシフトダウンに先だって、中継クラッチ6を締結し、エンジン4の駆動によるトルクを作用させる必要がある。エンジン4のトルクを加えることができれば、車両のイナーシャに伴うトルクを相殺できる。
【0136】
しかし、そうすると回生ができなくなる。エンジン4を切り離した状態での回生によって得られる燃費向上効果が得られなくなる。
【0137】
そこで、この変速制御装置20では、このような減速回生時においても適切に変速でき、燃費向上と快適な走行性能とが両立できるように、自動車1の運転状態に合わせて各マップの閾値が規定されている。
【0138】
具体的には、燃焼要求マップ52および走り要求マップ53(非協調回生時マップ)のシフトダウン側では、所定の低変速点の閾値が、その低変速点より高い各変速点の閾値よりも小さく規定されるとともに回生要求マップ51(協調回生時マップ)におけるシフトダウン側の、その所定の低変速点の閾値よりも小さく規定されている。
【0139】
ここでいう所定の低変速点は、この自動車1の場合、3速から2速に変速段を切り替える変速点D2(以下、特定変速点D2ともいう)である。後述するように、中継クラッチ6は、この特定変速点D2での切り替えタイミングに先だって、分離状態から接続状態に切り替わる。
【0140】
図7に示すように、燃焼要求マップ52および走り要求マップ53における特定変速点D2の各閾値(Ra:D2,Rb:D2)は、それよりも高い各変速点D3~D7の閾値よりも小さく規定されている。そして、燃焼要求マップ52および走り要求マップ53における特定変速点D2の閾値(Ra:D2,Rb:D2)は、回生要求マップ51における特定変速点D2の閾値(Rc:D2)よりも小さく規定されている。
【0141】
従って、ブレーキ3の使用と共に、回生要求マップ51が用いられる協調回生時には、相対的に高い回転数で変速段が3速から2速に切り替わる。高い回転数が保持されるので、駆動モータ5の回生効率の低下を抑制できる。
【0142】
ブレーキ3による制動力が作用しているので、その制動力によって変速機クラッチ8eの出力側のトルクが減少する。トルク差が減少するので、トルクショックを低減できる。
【0143】
一方、ブレーキ3の不使用と共に、燃焼要求マップ52または走り要求マップ53が用いられる非協調回生時には、相対的に低い回転数で変速段が3速から2速に切り替わる。従って、その分、シフトダウンするタイミングを遅くできる。
【0144】
それにより、トルクショックを抑制するために、中継クラッチ6を接続してエンジン4を始動させるタイミングについても遅らせることができる。その分、減速回生を長く維持できるので、燃費向上効果の減少を抑制できる。
【0145】
しかも、特定変速点D2の閾値は、それよりも高い各変速点D3~D7の閾値よりも小さい、換言すれば、特定変速点D2よりも高い各変速点D3~D7の閾値は、特定変速点D2の閾値よりも大きい。それにより、特定変速点D2より高い変速段では高い回転数を保持できる。従って、その過程では、駆動モータ5の回生効率の低下を抑制できる。
【0146】
(減速回生時の変速制御)
図8~
図10に、自動車1が停車する過程で行う減速回生時の変速制御の一例を示す。
図8および
図9は、変速制御装置20(PCM21およびTCM22)が行うその変速制御のフローチャートである。
図10は、後述する第2減速回生終了処理に対応したタイムチャートである。なお、ここでの自動車1は中速域(例えば40km/h)から減速中であるものとする。
【0147】
図8に示すように、変速制御装置20は、自動車1の走行中は各種センサから出力される信号を読み込み、これら信号に基づいて自動車1の運転状態を判定する(ステップS1)。そうすることにより、変速制御装置20は、減速回生を行うか否かについて判定する(ステップS2)。
【0148】
その結果、減速回生を行うと判定した場合には(ステップS2でYes)、変速制御装置20(中継クラッチ制御部22a)は、中継クラッチ6が分離状態か否か、つまりエンジン4が切り離されているか否かを判定する(ステップS3)。
【0149】
そして、中継クラッチ6が接続状態であると判定した場合には(ステップS3でNo)、自動変速機8の変速段が所定の高速段(少なくとも4速以上)であることを前提に(ステップS4でYes)、中継クラッチ6を分離状態にする(ステップS5)。
【0150】
すなわち、変速制御装置20(中継クラッチ制御部22a)は、減速回生に先だって、所定の高速段において中継クラッチ6を切り離された状態する処理(減速回生開始処理)を実行する。それにより、エンジン4を停止でき、そして、エンジン4の影響を受けずに減速回生できるので、燃費を向上できる。従って、変速制御装置20は、中継クラッチ6が分離状態になった後に減速回生を開始する。
【0151】
続いて、変速制御装置20は、自動車1が停車するまでの間に、切り離された状態の中継クラッチ6を接続する処理(減速回生終了処理)を実行する。減速回生終了処理は、その減速回生が、ブレーキ3を使用する協調回生か、ブレーキ3を使用しない非協調回生かにより、異なる処理を実行する。
【0152】
具体的には、回生要求マップ51を用いて停車までに、中継クラッチ6の接続を実行する処理(第1減速回生終了処理)、および、燃焼要求マップ52または走り要求マップ53を用いて所定の低変速点での切替前に、中継クラッチ6の接続を実行する処理(第2減速回生終了処理)のいずれかを実行する。
【0153】
すなわち、変速制御装置20は、ブレーキ3が使用されているか否かを判定する(ステップS6)。例えば、ブレーキペダル18の踏み込み操作が行われている場合には、変速制御装置20は、第1減速回生終了処理を実行する。そして、変速マップ50のうち、回生要求マップ51を選択する(ステップS7)。
【0154】
それにより、自動車1が更に減速し、自動変速機8で低速段での切り替えが行われても、相対的に高い回転数で変速段が切り替わる。高い回転数が保持されるので、駆動モータ5の回生効率の低下を抑制できる。
【0155】
ブレーキ3による制動力が作用しているので、その制動力によって変速機クラッチ8eの出力側のトルクが減少する。トルク差が減少するので、トルクショックを低減できる。
【0156】
従って、この場合の変速制御装置20は、停車までに中継クラッチ6を接続し、エンジン4と自動変速機8とを連結する(ステップS8)。
【0157】
一方、ブレーキ3が使用されていないと判定した場合には(ステップS6でNo)、変速制御装置20は、第2減速回生終了処理を実行する。そして、変速マップ50のうち、自動車1の運転状態に応じて、燃焼要求マップ52または走り要求マップ53を選択する(ステップS9)。
【0158】
図10は、第2減速回生終了処理に対応したタイムチャートである。そこには、自動車1が、25km/h程度に減速した時点から停車するまでの状態が表されている。中継クラッチ6は、上述したように先に分離されているので、エンジン4は切り離されて停止している(エンジンの回転数はゼロ、燃料消費も無し)。
【0159】
エンジン4は停止しているが駆動モータ5は回転しているため、MOP13が作動して自動変速機8に油圧を供給している。この自動車1の場合、上述した所定の低変速点として、3速から2速に切り替える特定変速点D2が用いられている。すなわち、その特定変速点D2での切替前に、中継クラッチ6の接続が実行される。
【0160】
図10のタイムチャートの開始時点では、車速が25km/h程度であることから、自動変速機8の変速段は4速となっている。この例示では、4速の過程で減速回生が開始されている(t1のタイミング)。減速回生の開始により、駆動モータ5が出力するモータトルクは駆動時とは逆の負の値となり、発電によって減速時に消費されるエネルギーが回収される。
【0161】
図9に示すように、変速制御装置20は、自動車1が減速する過程で変速点に達したか否かを判定する(ステップS10)。そして、変速点に達した場合には、その時の変速段が特定変速点D2の切り替え前の変速段(3速)であるか否かを判定する(ステップS11)。
【0162】
そして、3速でないと判定した場合には(ステップS11でNo)、変速制御装置20は、駆動モータ5の出力をトルクアップすることにより、トルクショックの発生を抑制しながら変速する(ステップS12)。
図10では、t2からt3の期間に相当する。
【0163】
すなわち、変速制御装置20は、第2減速回生終了処理における特定変速点D2より高い変速点で切り替える際には、その変速点に応じて駆動モータ5を駆動させ、トルクショックの発生を防止する。駆動モータ5の回転数が比較的高いので、駆動モータ5のトルクアップのみでもトルクショックの発生を防止できる。
【0164】
一方、3速であると判定した場合には(ステップS11でYes)、変速制御装置20は、駆動モータ5の回転数が、所定の接続回転数Rsに到達したか否かを判定する(ステップS13)。接続回転数Rsは、特定変速点D2よりも僅かに高い回転数であり、中継クラッチ6を締結し、接続状態にする回転数である。接続回転数Rsは、変速制御装置20に予め設定されている。
【0165】
そして、接続回転数Rsに到達したと判定した場合には(ステップS13でYes)、変速制御装置20は、中継クラッチ6を締結し、エンジン4を自動変速機8に連結する(ステップS14)。
図10ではt4のタイミングに相当する。
【0166】
そうした後、変速制御装置20は、駆動モータ5を駆動し、始動トルクを付加してエンジン4を再始動する(ステップS15)。それにより、モータトルクは所定値まで上昇する。
図10では、t4からt5の期間に相当する。エンジン4の再始動により、燃料消費が始まる。しかし、特定変速点D2の直前まで減速回生が行えるので、燃費向上効果の減少を抑制できる。
【0167】
そして、変速制御装置20は、特定変速点D2に達したと判定したタイミングで(ステップS16でYes)、変速機クラッチ8e(詳細にはその摩擦締結要素)をスリップさせて、変速段を2速に切り替える(ステップS17)。
図10では、t5からt6の期間に相当する。
【0168】
すなわち、変速制御装置20は、第2減速回生終了処理における特定変速点D2での切替時に、エンジン4および駆動モータ5の双方を駆動させるとともに、自動変速機8の摩擦締結要素をスリップさせる。それにより、エンジン4および駆動モータ5の双方のトルクおよび変速機クラッチ8eのスリップ効果の組み合わせにより、車両のイナーシャに伴うトルクを相殺する。従って、トルクショックの発生を防止できる。
【0169】
このような一連の処理を実行するには時間を要する。それに対し、燃焼要求マップ52および走り要求マップ53の双方において、特定変速点D2とそれより1つ高い変速点D3との間における閾値の差は、他の変速点間における閾値の差よりも大きく規定されている(
図7参照)。
【0170】
従って、トルクショックを抑制するための処理に要する時間を十分に確保でき、トルクショックを安定的かつ効果的に抑制できる。
【0171】
その後、駆動モータ5は停止し、自動車1はエンジン4の駆動によって走行する。変速制御装置20は、変速点D1に達したか否かを判定する(ステップS18)。そして、変速点D1に達したと判定した場合には(ステップS18でYes)、変速制御装置20は、変速機クラッチ8eをスリップさせて変速段を1速に切り替える(ステップS19)。
図10では、t7からt8の期間に相当する。
【0172】
回転数は低く、エンジン4および駆動モータ5の双方が自動変速機8に連結されているので、変速機クラッチ8eのスリップだけでもトルクショックの発生を防止できる。変速制御装置20は、自動変速機8が1速に切り替わると、エンジン4を停止する。エンジン4および駆動モータ5の双方が停止するため、変速制御装置20はEOP14を作動する。EOP14で自動変速機8に油圧を供給し、変速段を1速に保持する。
【0173】
このように、この変速制御装置20によれば、減速時にエンジン4を切り離し、自動車1の運転状態に対応した変速マップ50を用いて減速回生を行うとともに、減速中の自動変速機8の変速段の切り替えに伴って発生し得るトルクショックも抑制できるように構成されている。従って、燃費の総合的な向上と快適な走行性能の双方を両立できる。
【0174】
なお、開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、自動車1の構成は例示である。仕様に応じてその構成は適宜変更できる。
【符号の説明】
【0175】
1 自動車(車両)
3 ブレーキ
4 エンジン
5 駆動モータ
6 中継クラッチ
7 インバータ
8 自動変速機
9 高電圧バッテリ
10 DCDCコンバータ
11 低電圧バッテリ
12 CAN
13 機械式ポンプ(MOP)
14 電動ポンプ(EOP)
18 ブレーキペダル
19 アクセルペダル
20 変速制御装置
21 パワーコントロールモジュール(PCM)
21a モータ制御部
21b エンジン制御部
21c オイルポンプ制御部
21d 回生制御部
22 変速機コントロールモジュール(TCM)
22a 中継クラッチ制御部
22b 変速機制御部
50 変速マップ
51 回生要求マップ(協調回生時マップ)
52 燃焼要求マップ(非協調回生時マップ、第1マップ)
53 走り要求マップ(非協調回生時マップ、第2マップ)