(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153584
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】超音波検査方法、超音波検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/04 20060101AFI20231011BHJP
G01N 29/46 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
G01N29/04
G01N29/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062947
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】溝田 裕久
(72)【発明者】
【氏名】松岡 誠一
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AC08
2G047BA03
2G047BB01
2G047BB02
2G047BC03
2G047BC04
2G047BC08
2G047DB02
2G047DB05
2G047GB02
2G047GF18
2G047GG10
2G047GG28
2G047GG33
(57)【要約】
【課題】摺動部を有する構造物に適用するのに好適な超音波計測方法および装置を提供することを目的とする。
【解決手段】摺動部を有する構造物の、摺動部の軌道面とその近傍を検査する超音波検査方法であって、構造物の外表面上に設定した計測点に超音波センサを設置する第1のステップと、軌道面の近傍に超音波の焦点が形成されるように超音波の送受信条件を設定して送受信を開始する第2のステップと、受信した超音波の摺動部の軌道面に由来する形状エコーの強度を取得する第3のステップと、超音波センサを移動させて形状エコーの強度が所定の強度より低くなったことをもって超音波センサの移動を停止する第4のステップと、停止状態で超音波を送受信する第5のステップと、第5のステップで取得された後方散乱波の強度から摺動部を有する構造物の損傷の有無を判定する第6のステップを有することを特徴とする超音波検査方法。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動部を有する構造物の、前記摺動部の軌道面とその近傍を検査する超音波検査方法であって、
前記構造物の外表面上に設定した計測点に超音波センサを設置する第1のステップと、前記軌道面の近傍に超音波の焦点が形成されるように超音波の送受信条件を設定して送受信を開始する第2のステップと、受信した超音波の前記摺動部の軌道面に由来する形状エコーの強度を取得する第3のステップと、前記超音波センサを移動させて前記形状エコーの強度が所定の強度より低くなったことをもって前記超音波センサの移動を停止する第4のステップと、停止状態で超音波を送受信する第5のステップと、前記第5のステップで取得された後方散乱波の強度から摺動部を有する構造物の損傷の有無を判定する第6のステップを有することを特徴とする超音波検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波検査方法であって、
前記第4のステップにおける前記超音波センサの移動は、前記構造物の前記計測点のある前記外表面に沿った移動であることを特徴とする超音波検査方法。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波検査方法であって、
前記超音波センサの移動は、当初は斜角探傷により前記軌道面の近傍に超音波の焦点を形成し、その後に垂直探傷により前記軌道面の近傍に超音波の焦点を形成するようにされることを特徴とする超音波検査方法。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波検査方法であって、
前記第4のステップにおける前記超音波センサの移動は、前記計測点を回転中心とした前記構造物の外表面における回転移動であることを特徴とする超音波検査方法。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波検査方法であって、
前記第4のステップにおいて、前記回転移動の後に焦点条件を再設定することを特徴とする超音波検査方法。
【請求項6】
請求項1に記載の超音波検査方法であって、
前記第4のステップにおける前記超音波センサの移動は、前記計測点のある前記外表面に沿った移動と、回転移動とを組み合わせたものであることを特徴とする超音波検査方法。
【請求項7】
請求項5に記載の超音波検査方法であって、
前記摺動部を有する構造物はベアリングであって、
前記超音波センサを、前記計測点のある前記外表面に沿って、ベアリングの円周方向に移動させる第7のステップと、
前記第5から第7のステップを繰り返す第8のステップを有することを特徴とする超音波検査方法。
【請求項8】
請求項1に記載の超音波検査方法であって、
構造物の損傷の有無を判定する前記第6のステップは、取得した形状エコーを周波数解析して周波数分布を算出する第9のステップと、超音波の中心周波数と検出可能な面粗さの下限値との関係性を予め求めてデータベース化したものを照合して検出下限となる面粗さを読み出す第10のステップを有することを特徴とする超音波検査方法。
【請求項9】
請求項1に記載の超音波検査方法であって、
構造物の損傷の有無を判定する前記第6のステップは、前記第5のステップで取得された超音波波形データを画像化してから、後方散乱波によるエコー群の始点と終点を検出する第11のステップと、分析結果から損傷領域を特定する第12のステップと、健全な場合の形状データと照合することで損傷領域の断面積を推定する第13のステップと、損傷領域もしくは断面積から損傷評価量として損傷面積比率もしくは損傷体積を算出する第14のステップを有することを特徴とする超音波検査方法。
【請求項10】
請求項9に記載の超音波検査方法であって、
前記損傷評価量を運転時間で管理する第15のステップと、前記損傷評価量とあらかじめ定めておいた基準となる損傷量とを照合する第16のステップと、運転時間で管理する油分分析結果と基準となる油分に含まれる摩耗粉量とを照合する第17のステップと、前記第16のステップまたは前記第17のステップのうち、少なくとも1つの照合結果に基づいて、メンテナンスの必要性を通知するアラートを生成する第18のステップを有することを特徴とする超音波検査方法。
【請求項11】
請求項1に記載の超音波検査方法であって、
前記摺動部を有する構造物はベアリングであって、ベアリングの軌道面の超音波検査結果から損傷情報を入力する第19のステップと、軌道面の応力分布を算出する第17のステップと、き裂進展解析によりき裂進展展速度を算出する第20のステップと、指定した損傷状態になるまでの余寿命を算出する第21のステップを有し、超音波検査を実施する毎に余寿命評価を更新することを特徴とする超音波検査方法。
【請求項12】
摺動部を有する構造物の、前記摺動部の軌道面とその近傍を検査する超音波検査装置であって、
摺動部を有する構造物の軌道面近傍に超音波を集束可能な集束型の超音波センサと、前記超音波センサを固定・回転・押し付ける機能を有するセンサ把持装置と、前記超音波センサを外表面上で移動させるセンサ軌道レールと、計測条件に基づいて超音波を送受信し、受信波は、波形データとして取得するパルサレシーバと、制御処理部を備え、
前記制御処理部は、前記構造物の外表面上に設定した計測点に前記センサ把持装置を用いて超音波センサを設置した状態で、前記軌道面の近傍に超音波の焦点が形成されるように超音波の送受信条件を設定して送受信を開始させ、前記パルサレシーバで受信した超音波の形状エコーの強度を取得し、前記超音波センサを前記センサ把持装置または前記センサ軌道レールの少なくともいずれか1つで移動させ、前記形状エコーの強度が所定の強度より低くなったことをもって前記超音波センサの移動を停止し、前記パルサレシーバを用いて停止状態で超音波を送受信し、取得された後方散乱波の強度から摺動部を有する構造物の損傷の有無を判定することを特徴とする超音波検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部品に対して超音波センサを用いて表面状態の計測評価を行う超音波計測方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物内部の微小な欠陥を評価可能とする公知技術として特許文献1が知られている。特許文献1では、超音波ビームを摩擦圧接材に対して集束点が内部の圧接した部位に位置するように斜めに入射させ、摩擦圧接材の内部に存在する欠陥からの後方散乱波を検知し、該後方散乱波に含まれる林状エコーを含む欠陥を示す情報から内部欠陥を検出する超音波検査方法および装置について述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、構造物の内部を対象にしており、構造物の摺動面とその近傍を検査する方法に適さない。すなわち、特許文献1の方法を用いて構造物の摺動面とその近傍を検査する場合、試料表面に起因する形状エコーと、試料表面の欠損に起因するエコーとが同時に検知されるため、分離することができない。
【0005】
以上のことから本発明においては、摺動部を有する構造物に適用するのに好適な超音波計測方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上のことから本発明においては、「摺動部を有する構造物の、摺動部の軌道面とその近傍を検査する超音波検査方法であって、構造物の外表面上に設定した計測点に超音波センサを設置する第1のステップと、軌道面の近傍に超音波の焦点が形成されるように超音波の送受信条件を設定して送受信を開始する第2のステップと、受信した超音波の摺動部の軌道面に由来する形状エコーの強度を取得する第3のステップと、超音波センサを移動させて形状エコーの強度が所定の強度より低くなったことをもって超音波センサの移動を停止する第4のステップと、停止状態で超音波を送受信する第5のステップと、第5のステップで取得された後方散乱波の強度から摺動部を有する構造物の損傷の有無を判定する第6のステップを有することを特徴とする超音波検査方法」としたものである。
【0007】
また本発明においては、「摺動部を有する構造物の、摺動部の軌道面とその近傍を検査する超音波検査装置であって、摺動部を有する構造物の軌道面近傍に超音波を集束可能な集束型の超音波センサと、超音波センサを固定・回転・押し付ける機能を有するセンサ把持装置と、超音波センサを外表面上で移動させるセンサ軌道レールと、計測条件に基づいて超音波を送受信し、受信波は、波形データとして取得するパルサレシーバと、制御処理部を備え、制御処理部は、構造物の外表面上に設定した計測点に前記センサ把持装置を用いて超音波センサを設置した状態で、軌道面の近傍に超音波の焦点が形成されるように超音波の送受信条件を設定して送受信を開始させ、パルサレシーバで受信した超音波の形状エコーの強度を取得し、超音波センサをセンサ把持装置またはセンサ軌道レールの少なくともいずれか1つで移動させ、形状エコーの強度が所定の強度より低くなったことをもって超音波センサの移動を停止し、パルサレシーバを用いて停止状態で超音波を送受信し、取得された後方散乱波の強度から摺動部を有する構造物の損傷の有無を判定することを特徴とする超音波検査装置」としたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、摺動部を有する機器の軌道面とその端部周辺の超音波検査が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】集束超音波による後方散乱成分の発生についての模式図。
【
図4】フェーズドアレイ法による粗い面の探傷の模式図。
【
図5】平滑な面と粗い面のフェーズドアレイ法による検出性の比較結果を示す図。
【
図7】フェーズドアレイ法によるベアリング軌道面の画像化結果の一例を示す図。
【
図8】後方散乱成分による検査方法の一例を示す図。
【
図9】本発明の実施例1に係る検査方法を模式的に示す図。
【
図10】本発明の実施例1に係る検査方法を示すフロー。
【
図12】本発明の剥離断面積を求めるときの処理フロー。
【
図13】本発明の剥離断面積の求め方の一例を示す図。
【
図14】本発明による製品管理方法の一例を示す図。
【
図15】本発明の検査を実施するための装置構成例を示す図。
【
図16】外輪の剥落部位においてベアリングボールと外輪が接触不可能となっていることを示す図。
【
図17】本発明に係るベアリングの運用方法を示すフロー。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まずは、従来技術について説明する。
【0011】
電力プラント、モビリティ、家電など、様々な分野で摺動部品が利用されている。大型の摺動部品としては、風力発電所や火力発電所では回転部・増速部・発電部のベアリングが、小型の摺動部品としては、自動車や飛行機ではエンジン動弁系部品がある。中でも、発電所に用いられるベアリングには、生産性と経済性を両立するため、高い信頼性と長い寿命が求められる。したがって、運転状態の監視はもちろん、定期的な潤滑剤の補給・入れ替え、分解検査など、メンテナンスが必要となるが、特に高所に設置する風力発電において、メンテナンスはコストと時間を要する。
【0012】
このような摺動部を有する構造物を非分解で保守する方法としては、油分析や、異音・騒音・温度・振動のデータから異常診断する方法が知られている。これらの方法で異常を判断することはできるが、一般的に、損傷場所を精度よく特定することや損傷量を定量評価することは難しい。例えば、適用実績が多い油分析では、分光技術により油中に存在する金属の量と種類の微量測定が可能で、運転時間に対する摩耗量の標準値を経験的に定めて管理することができる。しかしながら、油の採取箇所・採取量・平均回数などに応じて定量分析結果にバラツキが生じ、損傷量を精度よく把握することは難しい。
【0013】
他方、超音波計測により、ベアリングなどの摺動部を有する構造物の損傷量を非分解で定量評価する方法が知られている。なお以下では特に断りのない限り、摺動部を有する構造物としてベアリングを対象とした検査を例に述べるが、ベアリング以外の摺動部を有する構造物にも適用可能である。
【0014】
一般的な超音波探傷方法について
図1を用いて説明する。ベアリングの損傷は、過負荷や摩耗を要因として、外表面からアクセスが困難な軌道面や転動面の近傍で生じることが多い。一方、超音波検査では一般的に
図1に示すように、検出したい構造物2の欠陥種類に合わせ、き裂4に対しては斜角探傷センサ1b、剥離3に対しては垂直探傷センサ1aを用いるというように適切な探傷方法を適用する。すなわち、超音波の入射角を選定して検査する必要がある。
【0015】
構造物表面が粗いときの探傷について
図2を用いて説明する。構造物2であるベアリングの軌道面には、軌道面に生じうる小さいフレーキング(剥離)面や粗い面5が形成されやすい。粗くなった表面5は、これを検出しようとしても、センサ1aを用いた垂直探傷法ではエコー位置は軌道面のエコーとほとんど同じ位置で信号が分離できず、センサ1bを用いた単純な斜角探傷ではエコーが弱いために検出することができない場合がある。すなわち、
図1に例示したこれらの一般的な手法では、粗くなった外表面、もしくは、外表面近傍の欠陥を検出することが困難である。
【0016】
図3は、集束超音波による後方散乱成分の発生についての模式図である。ここでは、特許文献1の手法を、
図1に示したような構造物内部の欠陥ではなく、外表面の近傍にある粗い面5を対象として、2次元的に面状に分布している微少な凹凸の検出・評価に適用することについて、説明する。
図3に示すように、斜角探傷センサ1bを用いて、集束した超音波による斜角探傷で、入射波w1のベクトルと反射波w2のベクトルで張られる断面内で入射波w1の粗い面5への入射角を大きくして反射波w2を受信できないように斜角探傷センサ1bを設置すると、ある一定以上の粗い面5を検出することが可能である。
【0017】
なお
図3においてw3は粗い面5における散乱現象による散乱波であり、散乱波w3のうち斜角探傷センサ1bに向かうベクトル成分が後方散乱波w4である。粗い面5における超音波の散乱現象については、1970年代から1980年代にかけて理論的に解明されている。近年では、
図4と
図5を用いて後述するようにアレイセンサを用いたフェーズドアレイ法により、集束超音波を電子走査して断面像を出力することで、ある一定(目安として波長の1/8程度)以上の粗さをもった凹凸表面からの散乱波成分(後方散乱成分w4)を容易に確認することができる。
【0018】
図4は、フェーズドアレイ法による粗い面の探傷の模式図である。この図では構造物である試験片2に対してアレイセンサ1cから集束超音波を走査範囲6に対して照射する。このとき、外表面からの反射波により、形状エコー(底面エコー7,コーナーエコー8)、後方散乱成分w4、底面エコー7と後方散乱成分w4の重畳成分9が検知できる。
【0019】
図5は、平滑な面と粗い面のフェーズドアレイ法による検出波形を比較した図である。
図5ではモニタ画面90を受信波表示部91,走査範囲表示部92により分割表示しており、上部は研磨された表面であるときのモニタ画面例を上部に、粗い表面であるときのモニタ画面例を下部に例示している。
【0020】
研磨された表面であるとき、受信波表示部91に表示される受信波の時系列信号は大きな変動はない。走査範囲表示部92によれば走査範囲6には底面エコー7およびコーナーエコー8のみが観測されており、93の部分の受信波解析結果を示す表面が研磨された表面であることがわかる。
【0021】
これに対し粗い表面であるとき、受信波表示部91に表示される受信波の時系列信号は、大きな変動はない時間領域94と、そのあとに続く大きな変動をしている時間領域93がある。走査範囲表示部92によれば走査範囲6には底面エコー7およびコーナーエコー8が観測されているが、その他に時間領域94の部分の受信波解析結果を示す材料内部の状態とともに、時間領域93の部分の受信波解析結果を示す表面が粗い表面5であることがわかる。
【0022】
以降の説明では、表面の微細な凹凸に起因して生じる散乱波w3を効率よく発生させて、かつ感度良く後方散乱波w4として受信するために集束超音波を用いることを前提条件として述べる。
【0023】
上記したように、フェーズドアレイ法によれば散乱波成分(後方散乱成分w4)を容易に確認することができるものの、しかしながら、ベアリングのように摺動部を有する構造物に対して、集束超音波による後方散乱成分w4を検出する方法を活用した検査方法についての報告は多くない。
【0024】
図6は、ベアリングとその断面の模式図である。
図6下部には相対的に回転可能とされた外輪10aと内輪10bにより構成されたベアリング10を例示しており、ここで外輪10aおよび内輪10bの外表面のうち、回転軸と直交している平坦な面10cをA面、外輪10aの外表面のうち、円筒状の面10dを側面と呼ぶこととする。
【0025】
図6上部には、ベアリング10の断面10eにおける断面形状が示されており、外輪10aの断面と内輪10bの断面の間の境界面10iにベアリングボール10fを備えている。なおベアリングボール10fが外輪10a、内輪10bと接する境界面10i(軌道面10g)の上下には回転を円滑に行うためのオイルを保持する油溝部10hが形成されている。摺動部を監視する本発明では、特に軌道面10gが、粗い面5になっていることを確認するものである。
【0026】
係るベアリングを対象とした、集束超音波による後方散乱成分w4の検出手法の報告事例が少ない、その理由は明確で、
図6に示すように、摺動部の内表面形状が大抵の場合複雑な断面形状をしており、かつ、センサを設置可能な領域が周辺の構造物やベアリングを固定するボルトやナットだけでなく、センサ自体のサイズによりかなりの制限を受けるからである。このため、軌道面10gとその端部である軌道面上端10jと10k近傍に生じうる損傷について、斜角探傷を適用しても軌道面とその端部10g、10j、10kや油溝10hの形状に起因する強い形状エコーが、垂直探傷をすると油溝10hや内外輪の境界10i(底面)の強い形状エコーが軌道面や軌道面端部からの弱い散乱エコーと重畳して検査性が悪くなる。
【0027】
一例として、視覚的にわかりやすいフェーズドアレイ法による斜角探傷で当該部を画像化した結果を
図7に示している。
図7では、その上部に示すように摺動部を有する構造物であるベアリング2に対して、
図6の側面10d側にフェーズドアレイセンサ1cを配置し、軌道面10gや油溝10hや内外輪の境界面10iを含む領域を走査範囲6として集束超音波を照射する。
図7上部の位置関係では、フェーズドアレイセンサ1cを主たる監視対象部位である軌道面10gや油溝10hや内外輪の境界面10iに対して、斜め方向から集束超音波を照射するように配置している。この時、
図7下部に示すように、斜角の方向、すなわち軌道面10gの曲率部の法線方向がセンサ位置と交わる周辺一帯には、強い形状エコー7,8が示されており、当該部周辺に損傷があっても形状エコー7,8と重畳して検知することができないことがわかる。
【0028】
図8は、後方散乱成分による検査方法の一例を示す図であり、
図8上部と
図7上部との相違は、主たる監視対象部位である軌道面10gや油溝10hに対して、ほぼ垂直方向からの集束超音波を照射するように配置していることである。すなわち、ほとんどセンサ1cを油溝10hの直上に配置し、軌道面10gを垂直探傷に近い屈折角で検査することにより、形状エコー7,8を抑制し、後方散乱成分w4の視認性を向上することができる。
【0029】
図8左下部は、監視面が健全である場合であり、軌道面10gと油溝10hの境界部における上端形状エコーが検知されている。
図8右下部は、監視面が損傷している場合であり、軌道面10gからの後方散乱波が生じている状況が検知されている。
【0030】
この方法では、軌道面10gと軌道面上端の一部の検査を視認性良く実施できる。このため、油溝10hの直上近傍にセンサを配置してベアリング周方向にスキャンすれば、損傷個所を効率良く見出すことが出来る。
【0031】
その一方で、軌道面下端は超音波の伝搬経路がほとんど形状で遮られているため、超音波が当該部に集束するどころかほとんど伝搬できていない。そして、センサを単にA面10Cの方向にずらしていっても、境界面10iや、軌道面10gと境界面10iが成すコーナー(軌道面下端10k)からの強い反射波を受信せざるを得ないので、下端部周辺の評価が困難になる。
【0032】
以上より、摺動部を有する構造物の外表面に超音波センサを設置し、構造物内部を伝搬させたのち、検査対象となる軌道面とその端部に到達し得る状況下において、構造物の形状に起因して生じる強いエコーと弱い散乱波を意図的に分離することが課題となる。さらには、このような摩耗や小さな欠損から始まり、剥落や割れに至った際に、表面状態の評価だけではなく、剥離体積の定量評価も困難であるという課題がある。
【0033】
よって、摺動部の摺動面(軌道面とその端部)に生じる損傷に対して、有効な超音波検査方法を確立できていなかった。本発明は、電子走査による超音波検査を想定して述べる。なお、単一型(固定角)の集束超音波センサを用いた機械走査による検査にも適用可能である。
【0034】
以下,本発明の実施例について、図面を用いて説明する。
【0035】
なお、発明者らは、センサの設置方法を工夫することで、被検体形状に起因する強いエコーが指向性を有することを利用して、主たる反射波成分を消失させる一方で、比較的粗い表面から無指向的に生じた散乱波は後方成分も変わらずに残存する現象に着目し、新たな検査方法を確立した。すなわち、センサ設置範囲や入射角を調整して、後方散乱波が際立つように受信し、画像化することで視認性良く摺動面を検査することを可能とした。さらには、剥落した面の表面状態も、摩耗した表面と同様に凹凸のある表面状態になること、そして、検出した後方散乱波成分を画像化した分布が、粗い面の面形状を具現化していることに着目して、後方散乱波成分を画像化、強度評価することにより、剥落断面積や剥落量を推定することを可能としたものである。
【0036】
本発明は、形状エコーを除外して計測するものであり、形状エコーが除外されるまでセンサを移動させて計測するものである。実施例1では、センサの回転移動について説明し、実施例2では外表面に沿った移動について説明する。
【実施例0037】
図7のような強い形状エコー7,8を、検査装置の感度を落とさず、むしろ強くしても意図的に消す方法としては、2つの手法が考えられる。1つの手法は、先に述べた回転移動を行うものであり、具体的には
図8に示すように、ベアリングの油溝形状と曲面の形状を利用する方法である。
【0038】
そこで本発明においては、
図9に示すように、センサの配向方向を利用して形状エコーを抑制する方法を採用する。
図9は、本発明の実施例1に係る検査方法を模式的に示した図である。
図6下部で示した断面の方向を基準方向とするときに、センサ1cと断面がなす角を、配向角θとする。またこの時のセンサ1cの設置位置は、監視対象部位である軌道面10gや油溝10hが集束超音波の走査範囲6に含まれるように設定する。そのうえで配向角θを可変に設定して、各配向角θの時の受信波に、強い形状エコーを検知しない時の配向角θを得る。
【0039】
すなわち、軌道面10gの形状に起因するエコーがノイズレベルにまで消失するように、センサ1cをθ度だけ配向する。θの目安としては、20度~50度である。なお、軌道面10gの形状に起因する強いエコーが消失していれば、軌道面の上下端10j、10kに起因するコーナーエコーも同じく消失している。このようにすることで、センサ1cの配置面として、軌道面10gからだけでなく、形状エコーの重畳を免れないA面10cからも当該部の検査が可能となる。
【0040】
ここでセンサ1cの回転移動は、断面に対して配向角θが得られれば良く、例えばセンサ1cの位置に回転軸を取る場合や、実施例2にて後述する外表面に沿った移動と組み合わせ、監視対象部位を回転軸とする場合が考えられる。センサ1cの位置に回転軸を取る場合、センサ1cの移動領域が小さくなり、周辺の構造物やベアリングを固定するボルトやナットの影響を受けづらい利点がある。ただし、軌道面までの路程、すなわち形状エコーの位置が回転角に依存すること、そして、適宜、集束条件を調整することが必要となる。一方で、監視対象部位を回転軸とした場合、軌道面までの超音波の路程の変化を抑制できるが、センサ1cの駆動パターンが複雑になる。
【0041】
また、センサ1cにマトリクスアレイセンサを用いた場合には、アクセス面に対して垂直ではない任意の走査範囲6を電子的に設け、データ処理により可視化することが可能であり、その傾き角を配向角θとしても良い。
【0042】
図10は、本発明の実施例1に係る検査フローを示す図である。この処理における処理ステップS1では、超音波検査を開始し、次に処理ステップS2から処理ステップS4において、
図7の状態とする。
【0043】
具体的には、処理ステップS2で、構造物上の外表面上において設定した計測点にセンサ1cを設置する。処理ステップS3で、送受信条件を設定して送受信を開始する。ここで送受信条件とは、軌道面10g近傍に超音波の焦点を形成し、かつ、その焦点について軌道面10g近傍を機械走査もしくは電子走査することを可能とするための条件である。処理ステップS4では、監視対象物であるベアリングからの受信波を受信し、これに含まれる形状エコー強度を取得する。なお、形状エコー強度の大きさを判断するための基準感度は、あらかじめ標準試験片を用いて定めているか、その場で軌道面10gの形状エコー強度を参考して定めるのが良い。
【0044】
処理ステップS5では、形状エコー強度が電子ノイズ程度になるようにセンサ1cの配向を開始する。処理ステップS6では、形状エコーが出現すると予測する範囲をモニタしつつセンサ1cを配向させて、形状エコーが所定の強度より低くなったか、否かを判断する。処理ステップS7では、形状エコーが所定の強度より低くなったことをもってセンサ配向を終了するとともに、この時の配向角を保持する。処理ステップS8では、ステップS7で保持した配向角θで再度超音波を送受信する。この時、送受信条件は、センサ1cの配向により、軌道面10gまでの伝搬距離は長くなるため、軌道面10gが大きく焦域から外れるような場合には、集束条件や感度を調整するのがよい。
【0045】
処理ステップS9では、S8で受信した受信波から後方散乱波を取得して強度を評価する。続いて処理ステップS10で軌道面の損傷の有無を判定し、処理ステップS11で、あるセンサ設置点における1断面の超音波検査を終了する。
【0046】
さらには、処理ステップS10で表面の摩耗の有無を判定する際、処理ステップS4で取得した形状エコーを処理ステップS20で周波数解析して周波数分布を算出しておき、処理ステップS21で、超音波の集束条件や中心周波数と検出可能な面粗さの下限値との関係性を予め求めてデータベース化したものを照合することにより、検出下限となる面粗さを読み出し、処理ステップS10で損傷が有ると判断した場合に、その損傷がどの程度の面粗さ以上に相当しているか情報として出力するのがよい。ここで、中心周波数とは超音波プローブから発せられる、もしくは、散乱源からの散乱波に含まれる主な周波数のことを指す。
【0047】
軌道面に人工的に損傷を付与したベアリングに、本発明を適用した結果を
図11に示す。
図11上部には、走査開始と走査後のセンサ位置を示しており、走査の間、センサは断面に対して約30度配向させた状態が維持されている。
図11中段の右側には、健全部について
図9の面10C(A面)からのアクセスを示している。また
図11下部には、複数の軌道面10g1,10g2,10g3について、健全部(走査開始位置)では軌道面の形状エコーは消失している一方で、損傷を付与した部位(走査終了位置)では損傷面からの後方散乱波を検出できていることが見て取れる。このように、センサ1cの配向角が一度定まれば、配向角を維持しつつセンサ1cを移動させることで、効率よく軌道面の損傷の有無を検査することができる。ベアリングに本発明を適用する際は、例えばセンサ1cを円周方向にアクセス面に沿って移動させればよい。 なお本発明の実施に際し、さらに油溝直上センサを配置して、軌道面上端位置近傍に出現するエコーに着目して検査する手順を加えると、上端を含む剥落がある場合、エコーの深さ位置が変わることを視認しやすいので、上端部を効率よく検査することができる。
本発明は、形状エコーを除外して計測するものであり、形状エコーが除外されるまでセンサを移動させて計測するものである。実施例2では外表面に沿った移動について説明する。