(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153585
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】高周波解凍装置
(51)【国際特許分類】
A23L 3/365 20060101AFI20231011BHJP
H05B 6/54 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
A23L3/365 A
H05B6/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062948
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】堀内 敬介
(72)【発明者】
【氏名】市川 勝英
(72)【発明者】
【氏名】藤本 貴行
【テーマコード(参考)】
3K090
4B022
【Fターム(参考)】
3K090AA05
3K090AB03
3K090BA05
3K090BB01
3K090EA02
4B022LB01
4B022LQ07
4B022LT07
(57)【要約】
【課題】装置全体の信頼性やメンテナンス性を向上させ、かつ被解凍物に合わせたカスタム性を向上させた高周波解凍装置を低コストで提供する。
【解決手段】加熱室の上下壁面に一対に対向して配置される電極と、加熱室の左右壁面に設けられた棚部と、棚部に支持されて前記電極の間に設置される治具保持板と、電極と治具保持板の間に設置される治具とを備え、立方体状の治具は、一方面の平行部と平行部に交差する方向の柱状部とを含む導電性板状部材が絶縁性部材に覆われて構成されており、導電性板状部材の平行部が加熱室内の被解凍物と対向する位置に任意に配置されることを特徴とする高周波解凍装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱室の上下壁面に一対に対向して配置される電極と、前記加熱室の左右壁面に設けられた棚部と、前記棚部に支持されて前記電極の間に設置される治具保持板と、前記電極と前記治具保持板の間に設置される治具とを備え、
立方体状の前記治具は、一方面の平行部と前記平行部に交差する方向の柱状部とを含む導電性板状部材が絶縁性部材に覆われて構成されており、前記導電性板状部材の前記平行部が前記加熱室内の被解凍物と対向する位置に任意に配置されることを特徴とする高周波解凍装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波解凍装置であって、
前記治具保持板と前記治具は、加熱室から脱着可能であることを特徴とする高周波解凍装置。
【請求項3】
請求項1に記載の高周波解凍装置であって、
立方体状の前記治具は、前記一方面とその対向面のいずれかの面に凹部を他の面に凸部を有し、その表面に凹部または凸部を備える前記治具保持板の表面上に固定されることを特徴とする高周波解凍装置。
【請求項4】
請求項3に記載の高周波解凍装置であって、
立方体状の複数の前記治具は、凹部または凸部により積み重ねられて前記加熱室内に配置されることを特徴とする高周波解凍装置。
【請求項5】
請求項2に記載の高周波解凍装置であって、
前記電極と前記導電性板状部材は、それぞれ絶縁材料で覆われていることを特徴とする高周波解凍装置。
【請求項6】
請求項2に記載の高周波解凍装置であって、
前記導電性板状部材の高さ方向のサイズは板の厚みに対して2倍以上であることを特徴とする高周波解凍装置。
【請求項7】
請求項2に記載の高周波解凍装置であって、
前記導電性板状部材の水平方向のサイズは被解凍物よりも小さいことを特徴とする高周波解凍装置。
【請求項8】
請求項2に記載の高周波解凍装置であって、
前記絶縁性部材は被解凍物の上方に配置されることを特徴とする高周波解凍装置。
【請求項9】
請求項2に記載の高周波解凍装置であって、
前記絶縁性部材は被解凍物の解凍希望部の水平位置に合わせ上方または下方に配置されることを特徴とする高周波解凍装置。
【請求項10】
請求項2に記載の高周波解凍装置であって、
前記絶縁性部材の凹凸形状で、他の絶縁性部材を積層していることを特徴とする高周波解凍装置。
【請求項11】
請求項2に記載の高周波解凍装置であって、
導電性板状部材の端部から被解凍物の解凍をしたくない領域までの距離を100[mm]以内としたことを特徴とする高周波解凍装置。
【請求項12】
請求項2に記載の高周波解凍装置であって、
前記絶縁性部材が被解凍物の複数の解凍希望部にあわせて複数存在することを特徴とする、高周波解凍装置。
【請求項13】
請求項2に記載の高周波解凍装置であって、
前記絶縁性部材の一部に誘電率が被解凍物の冷凍時の誘電率よりも高く、解凍時の誘電率よりも低い材料を充填されていることを特徴とする、高周波解凍装置。
【請求項14】
請求項13に記載の高周波解凍装置であって、
被解凍物が高さ方向に複数積層されたことを特徴とする、高周波解凍装置。
【請求項15】
加熱室の上下壁面に一対に対向して配置される電極と、前記加熱室の左右壁面に設けられた棚部と、前記棚部に支持されて前記電極の間に設置される治具保持板と、前記電極と前記治具保持板の間に設置される治具とを備え、
立方体状の前記治具は、渦巻き状に形成された導電性板状部材が絶縁性部材に覆われて構成されており、前記導電性板状部材の渦巻きを形成する面が前記加熱室内の被解凍物と対向する位置に任意に配置されることを特徴とする高周波解凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解凍をする高周波解凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用の電子レンジは、冷凍状態にある食材を解凍から加熱まで一貫してマイクロ波(周波数2.45GHz)で行う。マイクロ波は波長が短いため、食材が大きい場合は食材中心までマイクロ波が浸透せず解凍に時間を要する。また、解凍後の食材に含まれる水の誘電損率の方が解凍前の氷の誘電損率に比べて大きいため、氷から水になった部分から先に過剰に加熱してしまう解凍ムラが発生することがある。
【0003】
これに対し、1~100MHzの高周波を用いる誘電加熱であれば、解凍前後の氷と水の誘電損率比が小さいため、ムラの少ない解凍に適していると言われており、業務用解凍機などで高周波解凍装置が活用されている。
【0004】
高周波解凍装置は、一般に2つの電極間に高周波高電圧を印加し、その間に被解凍物を配置するが、被解凍物と電極との間の空気層(エアギャップ)が大きい場合は、空気の誘電率が小さいことを理由に、被解凍物にエネルギーが伝わりにくくなり加熱効率が悪くなり、結果として解凍時間が長くなってしまう。
【0005】
そのため、上部の電極を被解凍物の凹凸形状に合わせ変更させつつ密接させるよう近づける構造が特許文献1で示されている。しかしながら、電極を可動あるいは変形させることを前提としており、駆動用モータやギアやベアリングなどの駆動機構が必要となり部品点数が増え、機構部品の摩耗劣化によるシステム寿命の短縮や、エンドユーザの扱いや振動環境によっては位置ズレなどの故障を誘発してしまうため、装置全体の信頼性やメンテナンス性の観点での課題があった。
【0006】
また解凍ムラを軽減させる目的で、被解凍部の下側にある下部電極をマトリクス状に複数に分割させ、機械的に上下に可動させるか、電気的にアクティブな電極を切り替えるスイッチで局所制御する技術も特許文献2で公開されている。しかしながらこの場合にも、機械的あるいは電気的なスイッチを有することで、スイッチ開閉に伴う動作耐久性の観点で破損・焼損・絶縁不良・接点溶着・接触不良に対する安全設計の必要性や、落下時や地震時の故障の際の保守性悪化という課題が残ってしまい、装置全体の信頼性やメンテナンス性の観点での課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8-78151号公報
【特許文献2】国際公開WО2020/027240A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術は、機械的あるいは電気的な駆動部品があることで、耐久性を気にしなければならない部品点数が増えてしまい、装置全体の信頼性やメンテナンス性の観点の課題があった。また被解凍物に合わせて電極の形や大きさや分割数を最適設計することが前提になっているため、被解凍物の形や種類が複雑になる場合は、分解の容易性(メンテナンス性)だけでなく、装置全体を変更しなければならなくなってしまうことで被解凍物に合わせたカスタム性の観点でも経済性が悪く小型化が困難である。
【0009】
以上のことから本発明では、装置全体の信頼性やメンテナンス性を向上させ、かつ被解凍物に合わせたカスタム性を向上させた高周波解凍装置を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のことから本発明においては、「加熱室の上下壁面に一対に対向して配置される電極と、加熱室の左右壁面に設けられた棚部と、棚部に支持されて前記電極の間に設置される治具保持板と、電極と治具保持板の間に設置される治具とを備え、立方体状の治具は、一方面の平行部と平行部に交差する方向の柱状部とを含む導電性板状部材が絶縁性部材に覆われて構成されており、導電性板状部材の平行部が加熱室内の被解凍物と対向する位置に任意に配置されることを特徴とする高周波解凍装置。」としたものである。
【0011】
また本発明においては、「加熱室の上下壁面に一対に対向して配置される電極と、加熱室の左右壁面に設けられた棚部と、棚部に支持されて電極の間に設置される治具保持板と、電極と治具保持板の間に設置される治具とを備え、立方体状の治具は、渦巻き状に形成された導電性板状部材が絶縁性部材に覆われて構成されており、導電性板状部材の渦巻きを形成する面が加熱室内の被解凍物と対向する位置に任意に配置されることを特徴とする高周波解凍装置」としたものである。
【発明の効果】
【0012】
上記構成により、可動部を必要とせず、かつ被解凍物の種類や形や数が変わっても、任意に形状や位置を変更させる部材を、導電性板状部材を覆った絶縁部材の冶具のみの変更で容易に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例1に係る高周波解凍装置の全体構成例を示す断面図。
【
図2b】
図2の冶具のA-A´断面の構成例を示す図。
【
図2c】
図2の冶具のA-A´断面の構成例を示す図。
【
図3a】
図2導電性板状部材31の立体形状の例を示す図。
【
図3b】
図2導電性板状部材31の立体形状の例を示す図。
【
図3c】
図2導電性板状部材31の立体形状の例を示す図。
【
図4c】治具を用いた実施例1のときの等価回路を示す動作原理図。
【
図5】本発明の実施例2に係る高周波解凍装置の全体構成例を示す図。
【
図6】
図4の組み立て性や分解容易性を示した分解斜視図。
【
図7a】治具を用いないときの体積エネルギー密度解析結果を示す図。
【
図7b】治具を用いた実施例1のときの体積エネルギー密度解析結果を示す図。
【
図7c】治具を用いた実施例2のときのときの体積エネルギー密度解析結果を示す図。
【
図8】本発明の実施例3に係る高周波解凍装置の全体構成例を示す図。
【
図9】本発明の実施例4に係る高周波解凍装置の全体構成例を示す図。
【
図10】
図9の組み立て性や分解容易性を示した分解斜視図。
【
図11】本発明の実施例5に係る高周波解凍装置の全体構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例0015】
図1に本発明の実施例1に係る高周波解凍装置100の全体構成例の断面図を示す。高周波電源20が図示しない整合回路を介して上側電極50aと下側電極50bに接続される。どちらの電極50も酸化による性能劣化や意図しない導体の接触によるスパーク発生防止のために金属が剥き出しにならないよう薄い絶縁被膜で覆うか、あるいは図示しない絶縁物を被解凍物10との間に介して加熱室60の上下壁面に一対に対向して配置された、いわゆる平行平板である。
【0016】
加熱室60の左右壁面には凹凸形状を有する棚部70が形成されており、棚部70に冶具保持板40が差し込むようにして載置される。冶具保持板40には、導電性板状部材31と、導電性板状部材31を覆うようにして金属が剥き出しにならないよう配置された絶縁部材32が一体となった冶具30が搭載される。
【0017】
図2a、
図2b、
図2cに
図1の冶具30の特徴を示した構成図を示す。ここでは説明を簡略化するために冶具のサイズを単純にしている。
図2aは立方体状の冶具の外観であり、その上面には複数の篏合穴部(以下冶具上凹部という)を、その下面には複数の篏合突起部(以下冶具上凸部という)を形成しており、いわゆるレゴブロック形状とされている。
【0018】
この図のA-A’をカットした断面例の図を
図2b、
図2cに示す。
図2bは複数電動部材から構成する場合を示しており、内包される導電性板状部材31が「山型」の形状をしており、複数の板材を、導電性板接合部35を溶接や半田付けやカシメ等の金属接合をして一体にし、その周りに樹脂等の絶縁部材を鋳造し成形している。冶具30下部には、冶具上凸部34を有し、冶具保持板40に設けられた板上凹部41と同の中心が合うよう篏合し任意の位置に位置決めが可能である。また冶具30上部には冶具上凹部33が設けられ、冶具30の上に他の冶具30を積み重ねることも可能である。
【0019】
図2cは単一導電部材を板金可能する場合を示しており、内包される導電部性板状部材31が「Uの字」あるいは「コの字」の形状をしており、最小限の板材を板金加工し、その周りに樹脂等の絶縁部材を鋳造し成形している。導電性板接合部35が無いことで、接合不良部の過温度上昇防止や検査の容易性の効果がある。
【0020】
図3a、
図3b、
図3cは、導電性板状部材31の立体形状の例を示している。
図3aはL字状の場合、
図3bは
図2bの「山型」の形状の場合、
図3cは
図2cの「Uの字」あるいは「コの字」の形状の場合であり、本発明はこのいずれであってもよい。またこれらの形状は、薄板を積層して構成されたものであってもよい。
【0021】
このように導電性板状部材31は、電極50a、50bと同方向の平行部31aと、前記電極に向かう方向の柱状部31Bにより構成されており、冶具30は導電性板状部材31が絶縁部材32に覆われた立方体とされている。
【0022】
なお、
図3a、
図3b、
図3cに示すとおり、解凍効率を向上させるために、折り曲げた導電性板状部材31の高さ方向のサイズHは板の厚みtよりも十分に大きくしていること、少なくとも2倍以上であることが
図4a、
図4b、
図4cで後述する動作原理上、重要な特徴となる。
【0023】
上記のような構造を有することで、機械的あるいは電気的な可動部が無くても、加熱室60内に被解凍物10を載置する位置と重なる位置に任意に冶具30を載置出来、被解凍物10の種類や形や数が変わっても、冶具30のみの形状や位置の変更のみで容易に装置全体の信頼性やメンテナンス性を向上させ、かつ被解凍物に合わせたカスタム性を向上させた高周波解凍装置を低コストで提供する実現することが可能となる。
【0024】
図4a、
図4b、
図4cに
図1の等価回路を示した動作原理図を示す。まず比較対象となる従来構造として冶具が無い場合を
図4aに示す。
図4aでは、上側電極50aと被解凍物10の間にエアギャップが介在するため、高周波電源20で投入したエネルギーが効率よく被解凍物10に到達せず、エアギャップで一部吸収されてしまうことで、解凍時間が多くかかり、あるいは無駄な電気代を消耗する課題がある。
【0025】
本発明の特徴とする冶具30を入れた
図4bの構成の場合は、折り曲げた導電性板状部材31の高さ方向のサイズHと板の厚みtを合わせた導体全体高さh内は電気的に同電位となる特徴を持つ。
【0026】
よって、
図4cに示すように、導体全体高さhの分だけ仮想上側電極50cの位置に上側電極50aが被解凍物10に近づいたかのような見かけ上の等価回路と同じ物理的意味を持ち、電極50そのものを実際に可動させなくても、あたかも可動したかのような振る舞いをする。故に、可動部無しでもエアギャップ部を最小にすることが可能となり、解凍効率を上げられるという効果を持つ。
【0027】
なお、
図4cには図示していない凹み部を更に設け、誘電率が被解凍物の冷凍時の誘電率よりも高く、解凍時の誘電率よりも低い材料(例えば水に近いもの)を充填することで、解凍開始時は冶具よりも被解凍物側に電界がより印加されるが、解凍が進むと冶具側に電界がより印加されることで過加熱抑止も可能である。
図中、導電性板状部材31の端部から解凍をしたくない領域までの距離をx、被解凍物10の紙面方向断面積をa、被解凍物の水平面方向の等価熱伝導率をλと定義し、冷凍希望部と解凍希望部の温度差をΔT、高周波電源に投入したエネルギをP、解凍効率をηとしたとき、(1)(2)式が成り立つ。(1)式は熱伝導率の熱抵抗の関係式であり、(2)式はそれを変形し、距離xについて解いた形である。
他の食材でも、一般に稠密で脂分の少ない高熱伝導な食材であったとしても熱伝導率は氷よりも小さくλ=0.1~1.5[W/(mK)]である。また電子レンジと同等の庫内サイズであれば、断面積は概ね上記の0.15[m2]が最大値となる。
つまり、出力を大きくして解凍効率を上げた状態で急速解凍することで、約1[mm]~20[mm]程度だけ導電性板状部材31を冷凍希望部から離すだけで良いことを意味しており、加熱室60を大型化することなく、部分解凍が可能となる。なお、出力が小さい場合や解凍効率が悪い場合は、上記の数倍(例えば100[mm])にもなりえるため注意が必要である。
部分解凍が出来ることの価値は、冷凍希望部の過加熱をする懸念が減ることから、大きなサイズで仕入れ、小さなサイズに小分けにして提供するような業務用の10~20[kg]のステーキ肉や1[L]=1000[mL]以上の生クリームなどを、必要な分だけ部分解凍し、残りは再冷凍が可能となる効果を有する。
そのため、冷凍食材を扱っている飲食店にとっては、大きなサイズで生産者から仕入れることで食材を低コストで仕入れることが可能となり、また冷凍保存することで発注や輸送や納品対応の頻度を減らし手間が減ることで人手不足の問題を解消し、更に予想していなかった団体客への対応など販売機会の損失をすることなく解凍後2日程度で提供出来なくなってしまう食材については無駄な解凍をすることがなくなるためフードロス低減の効果も併せ持つ。