(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153588
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/04 20060101AFI20231011BHJP
H01M 50/474 20210101ALI20231011BHJP
H01M 50/477 20210101ALI20231011BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20231011BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20231011BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20231011BHJP
【FI】
H01M10/04 Z
H01M50/474
H01M50/477
H01M10/0525
H01M10/0566
H01M10/0585
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062951
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大路 潔
(72)【発明者】
【氏名】吉原 久未
(72)【発明者】
【氏名】梶本 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 敏貴
(72)【発明者】
【氏名】山本 嵩
(72)【発明者】
【氏名】富岡 沙絵子
【テーマコード(参考)】
5H021
5H028
5H029
【Fターム(参考)】
5H021AA02
5H021CC09
5H021HH03
5H021HH10
5H028AA06
5H028AA07
5H028AA08
5H028CC07
5H028CC08
5H028CC26
5H028HH05
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM01
5H029BJ02
5H029BJ12
5H029DJ04
5H029DJ14
5H029HJ03
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】電池容量を低下させることなく、電極積層体から浸出した電解液を速やかに再浸透させる。
【解決手段】積層型の電池セル1である。セパレータ42を介して正極体40と負極体41とを積層して構成される電極積層体4が、電解液43にその下部が浸かった状態で電池ケース2に収容されている。電極積層体4と電池ケース2との間に介在する絶縁カバー5が、電極積層体4の両側面に沿って拡がる一対の側面部51,51を有している。これら側面部51,51における電極積層体側の面に、電解液43に浸かった状態の部位からその上方に延びる、複数の縦溝60が形成されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層型の二次電池であって、
シート状のセパレータを介してシート状の正極体とシート状の負極体とを積層して構成される電極積層体と、
前記電極積層体の下部が電解液に浸かった状態で当該電極積層体および当該電解液を収容する電池ケースと、
前記電極積層体と前記電池ケースとの間に介在するカバー部材と、
を備え、
前記カバー部材は、
前記電極積層体の両側面に沿って拡がる一対の側面部を有し、
前記側面部における前記電極積層体側の面に、前記電解液に浸かった状態の部位からその上方に延びる、複数の縦溝が形成されている、二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載の二次電池において、
前記縦溝の幅は0.1mm以下である、二次電池。
【請求項3】
請求項1に記載の二次電池において、
前記カバー部材は、前記一対の側面部の各々に連なるとともに前記電極積層体の下面に沿って拡がる下面部を更に有し、
前記下面部の上面に、互いに連通するとともに前記縦溝とも連通する複数の下横溝が形成されている、二次電池。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の二次電池において、
前記カバー部材は、前記一対の側面部の各々に連なるとともに前記電極積層体の上面に沿って拡がる上面部を更に有し、
前記上面部の下面に、前記電極積層体の積層方向に延びるとともに前記縦溝とも連通する複数の上横溝が形成されている、二次電池。
【請求項5】
請求項4に記載の二次電池において、
前記電極積層体は、その上部に、端子を構成する端子構成部を有し、
前記カバー部材は、前記端子構成部を露出させる端子開口を有し、
前記端子開口の周辺に位置する前記縦溝または前記上横溝が、前記端子開口の縁に沿って延びるように形成された縁溝を介して互いに連通している、二次電池。
【請求項6】
請求項4に記載の二次電池において、
前記電極積層体の上面が傾斜し、前記積層方向の中央部が相対的に低くなっている、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、車両の駆動用電源などに好適な積層型の二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
開示する技術に関し、セパレータではあるが、その表面に凹凸を設けることは、特許文献1に開示されている。ただし、その凹凸は、酸素ガスと負極との接触面積を増大させることを目的としている。そのため、その凹凸として、格子状や交差する直線状の形状、非連続的な多点状の形状が例示されている。また、その二次電池は、セパレータを挟んだ正極および負極の電極フィルムを、ロール状に巻いて形成する円柱形タイプ(捲回型)を対象としている。
【0003】
一方、開示する技術が対象とする、シート状の電極およびセパレータを積層して形成する角形タイプ(積層型)の二次電池は、特許文献2に開示されている。従来から、これら電極等を積層して構成された電極積層体(特許文献2の電極組立体)を、金属製のケースと絶縁するために、絶縁シートで覆うことが行われている。特許文献2では、その絶縁シートで電極積層体を覆う工程の生産性の向上を目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-132870号公報
【特許文献2】特開2018-107021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ハイブリッド車や電気自動車など、モータの出力を利用して走行する車両には、その駆動源として、高電圧バッテリが搭載されている。高電圧バッテリは、リチウムイオン電池からなる電池セル(二次電池)を多数連結して構成されているのが一般的である。
【0006】
車両では、その走行状態により、モータに高出力が要求されたり、モータを発電機に用いて高出力の発電が行われたりする場合がある。そうした場合、高電圧バッテリでは非常に大きな電流で充放電が行われる。そのような大電流による充放電が短時間で繰り返し行われると、電池セルの内部抵抗が不可逆に増加し、高電圧バッテリの性能低下が促進されるという現象が知られている(いわゆるハイレート劣化)。
【0007】
その要因の1つとして、充放電に伴って電池内部の状態が不均一になり、その解消に時間がかかることが想定されている。すなわち、二次電池で充放電が行われると、電極積層体が膨張または収縮する。それに伴い、電極積層体から電解液が浸透したり浸出したりする。電解液が電極積層体から浸出すると内部抵抗は高くなるが、電解液が電極積層体に再浸透すれば内部抵抗は低下し、元の値に回復する。
【0008】
ところが、電池セルの内部では、電極積層体から浸出した電解液は電池セルの下部に溜まった状態になる。それにより、電極積層体の上部は電解液の液面上に露出した状態となるため、電解液が再浸透して適量の電解液が行き渡るには時間を要する。一方、内部抵抗が回復する前に、内部抵抗の上昇が重畳的に発生すると、内部抵抗は不可逆に増加する。従って、高電流による充放電が短時間で繰り返されると、ハイレート劣化が促進される。
【0009】
それに対し、セパレータに多数の縦溝を形成して電解液を上方に流れ易くすることも考えられるが、セパレータの厚みが大きくなることは避けられない。セパレータの厚みが大きくなれば、その分、電池容量が低下する。電極積層体が含むセパレータは複数であるため、電池容量の低下もそれに応じて多くなる。
【0010】
そこで、開示する技術では、電池容量を低下させることなく、電極積層体から浸出した電解液を速やかに再浸透させることを狙いとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
開示する技術は、積層型の二次電池に関する。
【0012】
前記二次電池は、シート状のセパレータを介してシート状の正極体とシート状の負極体とを積層して構成される電極積層体と、前記電極積層体の下部が電解液に浸かった状態で当該電極積層体および当該電解液を収容する電池ケースと、前記電極積層体と前記電池ケースとの間に介在するカバー部材と、を備える。
【0013】
前記カバー部材は、前記電極積層体の両側面に沿って拡がる一対の側面部を有し、前記側面部における前記電極積層体側の面に、前記電解液に浸かった状態の部位からその上方に延びる、複数の縦溝が形成されている。
【0014】
すなわち、この二次電池によれば、電極積層体と電池ケースとの間に介在するカバー部材の一対の側面部のうち、電極積層体側の面に、電解液に浸かった状態の部位からその上方に延びる、複数の縦溝が形成されている。カバー部材は、電池ケースに1つなので、複数含まれるセパレータと異なり、縦溝を形成しても、厚みの増加は少ない。従って、電池容量をほとんど低下させることがない。
【0015】
これら縦溝は、電解液に浸かった状態の部位からその上方に延びている。従って、電解液に浸かっていない状態の部位にも電解液を流通させることができ、電極積層体から浸出した電解液を速やかに再浸透させることができる。
【0016】
前記縦溝の幅は0.1mm以下にするのが好ましい。
【0017】
この数値範囲は、電解液の密度等の物理的条件に基づいて設定されたものである。各縦溝の幅をこのような寸法にすることで、表面張力および毛細管現象により、電池ケースの下端から上端まで、重力に抗して電解液を引き上げることが可能になる。従って、電解液を常時、電極積層体の上部に供給できるようになり、電極積層体から浸出した電解液を、よりいっそう速やかに再浸透させることができる。
【0018】
前記カバー部材は、前記一対の側面部の各々に連なるとともに前記電極積層体の下面に沿って拡がる下面部を更に有し、前記下面部の上面に、互いに連通するとともに前記縦溝とも連通する複数の下横溝が形成されている、としてもよい。
【0019】
そうすれば、電極積層体の下面は電解液に接した状態となり、電極積層体の下面からも電解液を浸透させることができる。更にこれら下横溝は、各縦溝とも連通している。従って、長手方向に並ぶ各縦溝に対して、偏ることなく電解液を供給することができる。
【0020】
前記カバー部材は、前記一対の側面部の各々に連なるとともに前記電極積層体の上面に沿って拡がる上面部を更に有し、前記上面部の下面に、前記電極積層体の積層方向に延びるとともに前記縦溝とも連通する複数の上横溝が形成されている、としてもよい。
【0021】
そうすれば、各縦溝を通じて電極積層体の上部に引き上げた電解液を、更に上横溝を伝わらすことにより、積層方向の全域に供給することができる。従って、電極積層体の積層方向における電解液の浸透のばらつきを抑制できる。
【0022】
前記電極積層体は、その上部に、端子を構成する端子構成部を有し、前記カバー部材は、前記端子構成部を露出させる端子開口を有し、前記端子開口の周辺に位置する前記縦溝または前記上横溝が、前記端子開口の縁に沿って延びるように形成された縁溝を介して互いに連通している、としてもよい。
【0023】
そうすれば、端子開口の周辺に引き上げられた電解液は、滞ることなく、縁溝を通じてその周囲の縦溝や上横溝に分散させることができる。
【0024】
前記電極積層体の上面が傾斜し、前記積層方向の中央部が相対的に低くなっている、としてもよい。
【0025】
そうすれば、電極積層体の上部に供給された電解液を、その傾斜を利用して、電極積層体の上面の中央部に導くことができる。それにより、電極積層体の積層方向における電解液の浸透のばらつきを抑制できる。電極積層体の全体に、バランスよく電解液を供給することができる。
【発明の効果】
【0026】
開示する技術を適用した二次電池によれば、電池容量を低下させることなく、電極積層体から浸出し電解液を速やかに再浸透させることができる。その結果、ハイレート劣化が抑制されるので、二次電池の性能低下を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】開示する技術を適用した電池セル(二次電池)の構造を示す概略図である。
【
図4】絶縁カバーの構成およびその組み立てを説明するための図である。
【
図5】組み立てた絶縁カバーを示す概略斜視図である。
【
図6】絶縁カバーの作用を説明するための図である。
【
図7】変形例の二次電池を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、開示する技術の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0029】
<二次電池の全体構成>
図1に、開示する技術を適用した電池セル1(二次電池)を示す。
図1の上図は、電池セル1の外観を表した斜視図である。
図1の左下図(a)は、その上図において矢印(a)で示す方向から見た概略断面図であり、
図1の右下図(b)は、その上図において矢印(b)で示す方向から見た概略断面図である。
【0030】
電池セル1は、
図1において左右方向に短く、前後および上下の方向に長い、略直方体形状の外観を有している(角形タイプ)。この電池セル1は、主に車載向けである。すなわち、車両に搭載される駆動用の高電圧バッテリは、この電池セル1を集積して構成されている。
【0031】
電池セル1は、電池ケース2、一対の端子3、電極積層体4、絶縁カバー5(カバー部材)などで構成されている。この電池セル1では、絶縁カバー5が工夫されている。絶縁カバー5の詳細は別途後述する。
【0032】
電池ケース2は、上面が開口した容器からなる収容部20と、収容部20の上面を塞ぐ蓋部21とを有している。収容部20および蓋部21は、アルミなどの金属製である。収容部20は、一体成形品であり、互いに連なった厚みの薄い壁面で構成されている。蓋部21は、厚みの薄い板状に形成されている。収容部20に蓋部21を装着することで、電池ケース2の内部は密閉される。
【0033】
離れて位置する蓋部21の2箇所に、板面を貫通する端子孔22が形成されている。これら端子孔22の各々に、金属導体からなる端子部材23が、樹脂製の栓部材24を介在させることにより、電気的に絶縁した状態で蓋部21に取り付けられている。端子部材23の上端部分は、電池ケース2の外部に位置し、端子部材23の下端部分は、電池ケース2の内部に位置している。これら端子部材23の一方が正極の端子3とされ、他方が負極の端子3とされる。
【0034】
電極積層体4は、電池ケース2の内形よりも僅かに小さく、電池ケース2と相似形の直方体形状の外観を有している。電極積層体4は、電池ケース2との間に絶縁カバー5を介在させた状態で、電池ケース2に収容されている。それにより、絶縁カバー5は、電池ケース2の内面と電極積層体4の外面の双方に密接している。
【0035】
電極積層体4は、
図2に示すように、いずれも厚みの薄いシート状の部材からなる、正極体40、負極体41、およびセパレータ42を有している。正極体40、負極体41、およびセパレータ42は、電池ケース2に対応した長方形状に形成されている。
【0036】
電極積層体4は、正極体40と負極体41とを、セパレータ42を介して繰り返し積層することによって構成されている。すなわち、この電池セル1は積層型である。1つのセパレータ42を介在した1つの正極体40および1つの負極体41により、1つの電池要素が構成されている。従って、電極積層体4は、複数の電池要素を含む。
【0037】
正極体40は、例えば、金属箔と、その両面に付着したリチウム遷移金属複合酸化物を含む活物質とで構成されている。負極体41は、例えば、金属箔と、その両面に付着した黒鉛を含む活物質とで構成されている。セパレータ42は、多孔性のプラスチックシートであり、正極体40と負極体41との間を絶縁する。
【0038】
電池ケース2には、電極積層体4と共に電解液43が収容されている。電解液43は、リチウムイオンを含む有機溶媒からなる。すなわち、この電池セル1は、リチウムイオン電池である。電解液43は、電池ケース2の内部に充満しないように収容されている。
【0039】
詳細には、
図1の下図に示すように、静置した状態において、収容部20の底面から上面までの高さの中間部分にその液面が位置し、電極積層体4の下部が電解液43に浸かった状態となるように、電解液43は収容されている。電池ケース2の内部における電極積層体4の上部の周囲には、電池ケース2の下部に溜まる電解液43よりも大きなスペースを占める空間が存在している。
【0040】
正極体40の上縁の一端側には、正極の端子3と接続するために、上方に突出する正極フランジ40aが設けられている。負極体41にも、その上縁の他端側に、負極の端子3と接続するために、上方に突出する負極フランジ41aが設けられている。従って、これら正極フランジ40aの一群および負極フランジ41aの一群は、電極積層体4を構成した時には、
図2の上図に示すように、一列に並んで電極積層体4の上部から突出した状態になる。
【0041】
正極フランジ40aの一群は、正極中継金具44を介して正極の端子3の下端部分と接続されている。負極フランジ41aの一群は、負極中継金具45を介して負極の端子3の下端部分と接続されている。正極フランジ40aの一群および負極フランジ41aの一群の各々は、端子構成部を構成している。
【0042】
(ハイレート劣化)
上述したように、電池セル1で充放電が行われると、電極積層体4、詳細には負極電極の表面に存在する活物質が膨張収縮する。それに伴い、電極積層体4から電解液43が浸透したり浸出したりする。
【0043】
電解液43が電極積層体4から浸出して電極積層体4が保持する電解液量が減ると、内部抵抗は高くなる。電解液43が電極積層体4に再浸透して電極積層体4が保持する電解液量が増えれば、内部抵抗は低くなる。再浸透が進んで、電極積層体4が保持する電解液量が元に戻れば、内部抵抗も元の値に回復する。
【0044】
ところが、上述したように、電極積層体4の上部は、電解液43の液面から上方に露出した状態になっている。そのため、電極積層体4の上部に電解液43が戻るには、電解液43が電極積層体4の下部から再浸透して電極積層体4の上部まで染み渡る必要がある。そのため、電解液量の減った電極積層体4の上部が元の状態に戻るまでには、時間がかかる。
【0045】
その一方で、内部抵抗が回復する前に、内部抵抗の上昇が重畳的に発生すると、内部抵抗が不可逆に増加するという問題がある(いわゆるハイレート劣化)。それに対し、高電流による充放電は内部抵抗を大きく上昇させるので、高電流による充放電が短時間で繰り返されると、ハイレート劣化が促進される。
【0046】
その対策の1つとして、セパレータ42に上下方向に延びる複数の溝を形成することが考えられる。そうすれば、溝を通じて電解液43を上方に流すことができるので、電極積層体4の上部に電解液43が戻り易くなる。例えば、車両の走行に伴って電池セル1が上下動すれば、それに伴い、溝を通じて電解液43も上下動するので、電極積層体4の上部が元の状態に戻る時間を短縮できる。
【0047】
しかし、セパレータ42に溝を形成するには、セパレータ42の厚みを大きくする必要がある。電解液43が流れ易いように、溝の断面を大きくすれば尚更である。セパレータ42の厚みが大きくなれば、電極積層体4の厚みも大きくなる。電極積層体4が含むセパレータ42は複数なので、電極積層体4の厚みは更に大きくなる。しかも、セパレータ42は電池容量には直接寄与しない部材である。従って、この対策は、電池容量の低下という新たな課題を生じる。
【0048】
そこで、本発明者らは、絶縁カバー5に着目し、電極積層体4の上部から電解液43が浸出しても、短時間で電極積層体4の上部に電解液43を行き渡らせることができるように、絶縁カバー5の構造を工夫した。
【0049】
(絶縁カバー5の構造)
図3に、絶縁カバー5の展開図を示す。絶縁カバー5は、電極積層体4と電池ケース2との間を絶縁するための部材である。絶縁カバー5は、例えば、プラスチック製のフィルムまたはシートをプレス加工することによって形成されている。複数のフィルムを積層し、ラミネート加工することによって形成してもよい。
【0050】
電極積層体4に接する絶縁カバー5の内面には、微少な凹凸構造が形成されている。
図3は、わかり易くするために、絶縁カバー5の厚みや凹凸構造を強調して表している。
【0051】
絶縁カバー5は、
図4に示すように、下面部50、一対の側面部51、上面部52、および、一対の端面部53を有している。そして、絶縁カバー5は、
図4の下図に矢印で示すように、これら各面部を折り曲げて所定の縁部を接合することにより、
図5に示すような、電極積層体4に密接した状態で被覆する直方体形状となるように構成されている。
【0052】
下面部50は、電極積層体4を被覆した時に、電極積層体4の下面に沿って拡がる部分である。下面部50は、電極積層体4の下面と略同一の形状および面積を有している。下面部50の両辺は、一対の側面部51の各々の下辺に連なっている。一対の側面部51は、電極積層体4を被覆した時に、電極積層体4の両側面に沿って拡がる部分である。各側面部51は、電極積層体4の側面と略同一の形状および面積を有している。
【0053】
上面部52は、電極積層体4を被覆した時に、電極積層体4の上面に沿って拡がる部分である。上面部52は、一対の上面片部52aに二分されていて、各上面片部52aの一辺が、各側面部51の上辺に連なっている。両上面片部52a,52aの他辺を接合することにより、上面部52が形成される。
【0054】
上面部52は、電極積層体4の上面と略同一の形状および面積を有している。ただし、上面部52には、電極積層体4から上方に突出する正極フランジ40aの一群および負極フランジ41aの一群(端子構成部)を露出させるために、正極用および負極用からなる2つの端子開口54が形成されている。
【0055】
一対の端面部53の各々は、電極積層体4を被覆した時に、電極積層体4の端面に沿って拡がる部分である。各端面部53は、一対の端面片部53aに二分されていて、各端面片部53aの一辺が、各側面部51の端辺に連なっている。両端面片部53a,53aの他辺を接合することによって端面部53が形成される。
【0056】
各端面部53は、電極積層体4の端面と略同一の形状および面積を有している。ただし、各端面部53の下部には、絶縁カバー5の中に電解液43を出入りさせるために、流通開口55が形成されている。
【0057】
(微細な溝)
そして、上述したように、電極積層体4と対向する絶縁カバー5の内面には、微少な凹凸構造が形成されている。それにより、
図3、
図5に示すように、下面部50、一対の側面部51、および上面部52の各々に、特定の微細な溝が形成されている。
【0058】
各側面部51の内面には、その下端から上端まで上下方向に延びる複数の縦溝60が形成されている。これら縦溝60は、密度、接触角、表面張力等の、絶縁カバー5および電解液43の物理的な性状等に基づいて寸法が設計されたものであり、表面張力および毛細管現象により、電極積層体4の上部まで電解液43を引き上げることができるように形成されている。
【0059】
具体的には、各縦溝60の幅Wは0.1mm以下に設定されている。各縦溝60の深さHは、幅W以下である。各縦溝60をこのような寸法にすることで、表面張力および毛細管現象により、電池ケース2の下端から上端まで(0.1mm幅は70mmを想定)、重力に抗して電解液43を引き上げることができる。
【0060】
下面部50の上面には、互いに連通するとともに縦溝60とも連通する複数の下横溝61が形成されている。詳細には、下横溝61は、前後および左右の両方向に交差して延びる複数の溝からなり、格子状に形成されている。下横溝61の幅および深さは、縦溝60と略同じであり、左右方向に延びる各下横溝61は、各縦溝60に連続するように配置されている。なお、下横溝61の幅および深さは、縦溝60と異なっていてもよい。
【0061】
上面部52の下面には、電極積層体4の積層方向である左右方向に延びるとともに縦溝60とも連通する複数の上横溝62が形成されている。この電池セル1では、各上横溝62は、各縦溝60を上面部52に延出させることによって形成されている。従って、各上横溝62は、縦溝60と同じ幅および深さを有している。なお、上横溝62の幅および深さも縦溝60と異なっていてもよい。
【0062】
端子開口54の周囲には、その縁に沿って延びる縁溝63が形成されている。そして、端子開口54の周辺に位置する縦溝60または上横溝62は、この縁溝63を介して互いに連通している。縁溝63もまた、その幅および深さは縦溝60と略同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0063】
これら縦溝60、下横溝61、上横溝62、および縁溝63の深さは微少なので、絶縁カバー5に設けても、その厚みの増加量は僅かである。しかも、セパレータ42と異なり、絶縁カバー5は1枚なので、電池ケース2の内部の容量はほとんど変化しない。従って、このような微細な凹凸構造を絶縁カバー5に設けても、電池容量が低下する懸念はない。
【0064】
(絶縁カバーの作用)
図6の上図に、比較例として、上述した微細な溝の無い絶縁カバー5を装着した電池セル1を示す。
図6の下図に、この実施形態の電池セル1を示す。なお、便宜上、比較例も同じ部材には同じ符号を用いる。
【0065】
充放電より、電極積層体4から電解液43が浸出した場合、比較例の電池セル1では、電極積層体4の上部の電解液量が回復するためには、電解液43に浸かっている電極積層体4の下部から再浸透した電解液43が、電解液43に浸かっていない上部に徐々に染み込んでいくのを待つしかない。電極積層体4の上部が元の状態に戻るまでには時間がかかる。
【0066】
電解液43に浸かっている電極積層体4の下部においても、電極積層体4の下面は、絶縁カバー5に密着した状態になっている。そのため、電解液43が浸透できるのは、電極積層体4の下部のうち、電極積層体4の前後の端面側の部位に限られる。従って、電極積層体4の上部が元の状態に戻るまでには、更に時間がかかる。
【0067】
それに対し、実施形態の電池セル1では、下面部50の上面に下横溝61が形成されている。従って、電極積層体4の下面は電解液43に接した状態となり、電極積層体4の下面からも電解液43を浸透させることができる。更にこれら下横溝61は、各縦溝60とも連通している。従って、電解液43は各縦溝60にも円滑に入り込む。
【0068】
各縦溝60は、電解液43に浸かった状態の部位からその上方に延び、電極積層体4の上方まで達している。そして、上述したように、縦溝60は、表面張力および毛細管現象により、電池ケース2の下端から上端まで、重力に抗して電解液43を引き上げることができるように形成されている。
【0069】
従って、
図6の下図に実線の矢印で示すように、常に電解液43を電極積層体4の上部に供給することができる。側面部51の全域に縦溝60が形成されているので、電極積層体4の側面の全域にわたってバランスよく電解液43を引き上げることができる。
【0070】
上面部52には、これら縦溝60が延出されることにより、複数の上横溝62が左右方向(電極積層体4の積層方向)に延びている。従って、縦溝60を伝って引き上げられた電解液43は、更に、上横溝62を伝って電極積層体4の幅方向の中央部にも供給される。各電池要素に大きく偏ることなく電解液43を供給できる。
【0071】
更に、端子開口54の周囲には縁溝63が形成されていて、その周辺の縦溝60および上横溝62が縁溝63に連通している。従って、端子開口54の周辺に引き上げられた電解液43も、滞ることなく、縁溝63を通じてその周囲に分散させることができる。
【0072】
このように、絶縁カバー5に設けた微細な溝により、常時、電解液43を、電極積層体4の上部にバランスよく供給することができる。比較例の電池セル1と同様に、電極積層体4の下部からも電解液43は再浸透する。しかも、下横溝61によってその再浸透も促進される。
【0073】
従って、この絶縁カバー5を採用した電池セル1によれば、高電流による充放電によって電極積層体4から多くの電解液43が浸出したとしても、電極積層体4から浸出した電解液43を速やかにその上下から再浸透させることができ、短時間で電極積層体4を元の状態に回復できる。その結果、ハイレート劣化が抑制されるので、二次電池の性能低下を低減できる。
【0074】
<変形例>
図7に、上述した電池セル1の変形例(変形電池セル1A)を示す。この変形電池セル1Aでは、電極積層体4の形態が、上述した二次電池と異なる。その他の構成は、上述した二次電池と同じである。従って、同じ内容の構成については同じ符号を用いてその説明は省略する。
【0075】
図7に示すように、変形電池セル1Aの電極積層体4は、その上面に傾斜面70を有している。すなわち、変形電池セル1Aの上面は傾斜しており、その積層方向の中央部が相対的に低くなっている。詳細には、電極積層体4の上面の両端部から中央部に向かって徐々に下り傾斜している。
【0076】
傾斜の形態(断面形状)は直線状でも曲線状でもよい。電極積層体4の上面の両端部から中央部の全域において、端部側よりも中央部側の方が低くなっていればよい。電極積層体4の上面の両端部と中央部との間に、高低差Δhが存在していればよい。なお、
図7では、わかり易くするために、傾斜を強調して表している。
【0077】
傾斜面70は、電極積層体4を構成している正極体40、負極体41、およびセパレータ42の上下寸法を、電極積層体4の端部側と中央部側とで異ならせることによって形成してもよい。また、傾斜面70は、電極積層体4の中央部側を端部側に対して下方に押し込み、電極積層体4の中央部側を凹ますことによって形成してもよい。その場合、その形状を保持するために、電池ケース2の下面と電極積層体4の下面との間に姿勢保持具を介在させるのが好ましい。
【0078】
電極積層体4の上面にこのような傾斜面70を設けることで、電極積層体4の上部に引き上げた電解液43を、その傾斜を利用して、電極積層体4の上面の中央部に導くことができる。それにより、電極積層体4の端部側に位置する電池要素と電極積層体4の中央部側に位置する電池要素とで、電解液43の浸透度合いに差が生じるのを抑制できる。電極積層体4の全体に、バランスよく電解液43を供給することができる。
【0079】
なお、開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、実施形態では、カバー部材として絶縁カバー5を例示したが、カバー部材は絶縁カバー5とは別に設けてもよい。実施形態のカバー部材は、電極積層体4の略全体を被覆したが、電極積層体4の一部を被覆するものであってもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 電池セル(二次電池)
2 電池ケース
3 端子
4 電極積層体
5 絶縁カバー(カバー部材)
40 正極体
41 負極体
42 セパレータ
43 電解液
50 下面部
51 側面部
52 上面部
53 端面部
54 端子開口
55 流通開口
60 縦溝
61 下横溝
62 上横溝
63 縁溝