(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153589
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】車両用電池ユニットの制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 58/10 20190101AFI20231011BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20231011BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20231011BHJP
B60W 10/26 20060101ALI20231011BHJP
B60W 20/50 20160101ALI20231011BHJP
B60W 10/30 20060101ALI20231011BHJP
B60W 20/15 20160101ALI20231011BHJP
B60L 50/61 20190101ALI20231011BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20231011BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20231011BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B60L58/10
B60K6/46 ZHV
B60W10/08 900
B60W10/26 900
B60W20/50
B60W10/30 900
B60W20/15
B60L50/61
H01M10/44 P
H01M10/48 P
H02J7/00 P
H02J7/00 Y
H02J7/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062952
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉原 久未
(72)【発明者】
【氏名】山本 嵩
(72)【発明者】
【氏名】大路 潔
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 敏貴
(72)【発明者】
【氏名】梶本 貴紀
【テーマコード(参考)】
3D202
5G503
5H030
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB00
3D202BB11
3D202BB18
3D202BB23
3D202BB43
3D202CC04
3D202CC60
3D202DD27
3D202DD44
3D202DD47
3D202DD48
5G503AA07
5G503BB02
5G503CA10
5G503DA07
5G503DA08
5G503EA08
5G503FA06
5G503GD03
5G503GD06
5H030AA01
5H030AS08
5H030BB10
5H030BB21
5H030FF41
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BC05
5H125BC11
5H125BC25
5H125BD17
5H125CA18
5H125CB02
5H125EE22
5H125EE62
(57)【要約】
【課題】ハイレート劣化を抑制し、電池ユニットの性能低下を低減させる。
【解決手段】駆動用電源として車両1に搭載される電池ユニット2の制御装置である。車両1の運転中に、ハイレート充電およびハイレート放電を予測するハイレート充放電予測部10dと、その予測に基づいて、電池ユニット2の充放電状態を変化させる充放電状態変更部10eとを備える。充放電状態変更部10eが、ハイレート放電が予測された場合に、電力を高めて一時的に充電を行うカウンター充電処理を実行するとともに、ハイレート充電が予測された場合に、電力を高めて一時的に放電を行うカウンター放電処理を実行する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動用電源として車両に搭載される電池ユニットの制御装置であって、
前記車両の運転中に、前記電池ユニットの性能に応じて設定される所定の基準値以上の電力で充電するハイレート充電、および、前記基準値以上の電力で放電するハイレート放電を予測するハイレート充放電予測部と、
前記ハイレート充放電予測部の予測に基づいて、前記電池ユニットの充放電状態を変化させる充放電状態変更部と、
を備え、
前記充放電状態変更部が、前記ハイレート放電が予測された場合に、電力を高めて一時的に充電を行うカウンター充電処理を実行するとともに、前記ハイレート充電が予測された場合に、電力を高めて一時的に放電を行うカウンター放電処理を実行する、制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置において、
前記車両は、インバータを介して前記電池ユニットと接続されている駆動モータを備え、
前記車両の力行運転中に、前記ハイレート充電が予測された場合には、前記充放電状態変更部は、前記インバータの効率を下げることによって前記カウンター放電処理を実行する、制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の制御装置において、
前記車両は、前記電池ユニットから供給される電力で作動する補機を備え、
前記車両の力行運転中に、前記ハイレート充電が予測された場合には、前記充放電状態変更部は、前記補機に電力を供給することによって前記カウンター放電処理を実行する、制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の制御装置において、
前記車両は、発電用エンジンによって駆動される発電機を備え、
前記車両の回生運転中に、前記ハイレート放電が予測された場合には、前記充放電状態変更部は、前記発電機で発電される電力を前記電池ユニットに充電することによって前記カウンター充電処理を実行する、制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の制御装置において、
前記電池ユニットは、個別に充放電が可能な複数の電池モジュールを含み、
前記車両の力行運転中に、前記ハイレート充電が予測された場合には、前記充放電状態変更部は、前記複数の電池モジュールのうち、その一部で放電させることによって前記カウンター放電処理を実行する、制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の制御装置において、
前記充放電状態変更部は、前記複数の電池モジュールのうち、その一部での放電とともに、残部へ充電することによって前記カウンター放電処理を実行する、制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の制御装置において、
前記車両は、前記電池ユニットから供給される電力で作動する補機を備え、
前記充放電状態変更部は、前記補機に電力を供給することによって前記カウンター放電処理を補完する、制御装置。
【請求項8】
請求項1に記載の制御装置において、
前記電池ユニットは、個別に充放電が可能な複数の電池モジュールを含み、
前記車両の回生運転中に、前記ハイレート充電が予測された場合には、前記充放電状態変更部は、所定の前記電池モジュールで前記カウンター放電処理を実行し、残部の前記電池モジュールに、回生で得られる電力とともに前記所定の電池モジュールで放電して得られる電力を充電する、制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の制御装置において、
前記電池ユニットは、個別に充放電が可能な複数の電池モジュールを含み、
前記車両の力行運転中に、前記ハイレート放電が予測された場合には、前記充放電状態変更部は、所定の前記電池モジュールで前記カウンター充電処理を実行し、残部の前記電池モジュールで、力行で消費される電力とともに前記所定の電池モジュールに充電する電力を放電させる、制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載の制御装置において、
前記車両は、発電用エンジンによって駆動される発電機を備え、
前記充放電状態変更部は、前記発電機で発電される電力を充電することによって前記カウンター充電処理を補完する、制御装置。
【請求項11】
請求項1に記載の制御装置において、
前記電池ユニットは、個別に充放電が可能な複数の電池モジュールを含み、
前記車両の回生運転中に、前記ハイレート放電が予測された場合には、前記充放電状態変更部は、回生で得られる電力を、所定の一部の前記電池モジュールに充電することによって前記カウンター充電処理を実行する、制御装置。
【請求項12】
請求項11に記載の制御装置において、
前記充放電状態変更部は、回生で得られる電力とともに、前記電池モジュールの残部で放電して得られる電力を前記所定の一部の電池モジュールに充電することによって前記カウンター充電処理を実行する、制御装置。
【請求項13】
請求項12に記載の制御装置において、
前記車両は、発電用エンジンによって駆動される発電機を備え、
前記充放電状態変更部は、前記発電機で発電される電力を充電することによって前記カウンター充電処理を補完する、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、車両に搭載される電池ユニットの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車や電気自動車など、モータの出力を利用して走行する車両には、その駆動源として、リチウムイオン電池などの二次電池からなる大容量の電池ユニットが搭載されている。
【0003】
車両では、その走行状態により、モータに高出力が要求されたり、モータを発電機に用いて高出力の発電が行われたりする場合がある。そうした場合、電池ユニットでは非常に大きな電流で瞬間的な充放電が行われる。そのような大電流による瞬間的な充放電が繰り返し行われると、電池ユニットの性能低下が促進されるという現象が知られている(いわゆるハイレート劣化)。
【0004】
それに対し、ハイレート劣化の程度を推定し、充放電される電力が許容できる範囲を超える前に、その電力を制限する技術が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術は、電池ユニットのハイレート劣化の進行を遅延させることはできるが、ハイレート劣化それ自体を抑制するものではない。従って、大電流による瞬間的な充放電が高頻度で行われる車両では、電池ユニットの性能低下は避けられない。特許文献1の技術は改善の余地がある。
【0007】
そこで、開示する技術は、ハイレート劣化それ自体の抑制が可能になる車両用電池ユニットの制御装置の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示する技術は、駆動用電源として車両に搭載される電池ユニットの制御装置に関する。
【0009】
前記制御装置は、前記車両の運転中に、前記電池ユニットの性能に応じて設定される所定の基準値以上の電力で充電するハイレート充電、および、前記基準値以上の電力で放電するハイレート放電を予測するハイレート充放電予測部と、前記ハイレート充放電予測部の予測に基づいて、前記電池ユニットの充放電状態を変化させる充放電状態変更部と、を備える。
【0010】
そして、前記充放電状態変更部が、前記ハイレート放電が予測された場合に、電力を高めて一時的に充電を行うカウンター充電処理を実行するとともに、前記ハイレート充電が予測された場合に、電力を高めて一時的に放電を行うカウンター放電処理を実行する。
【0011】
すなわち、この制御装置によれば、車両の運転中に、ハイレート充電とハイレート放電が、ハイレート充放電予測部によって予測、つまり事前に推定される。そして、ハイレート放電が予測された場合には、充放電状態変更部が、その逆の状態であるカウンター充電処理を実行し、ハイレート充電が予測された場合には、その逆の状態であるカウンター放電処理を実行する。
【0012】
この点、詳細は後述するが、本発明者らは、ハイレート充放電が行われる前に、このような逆の状態に一時的にすることで、ハイレート劣化それ自体を抑制することが可能になることを見出した。従って、この制御装置によれば、ハイレート劣化それ自体の抑制が可能になるので、電池ユニットの性能低下を低減できる。
【0013】
前記制御装置はまた、前記車両は、インバータを介して前記電池ユニットと接続されている駆動モータを備え、前記車両の力行運転中に、前記ハイレート充電が予測された場合には、前記充放電状態変更部は、前記インバータの効率を下げることによって前記カウンター放電処理を実行する、としてもよい。
【0014】
そうすれば、車両の力行運転に影響を与えることなく、カウンター放電処理を実行できる。
【0015】
前記制御装置はまた、前記車両は、前記電池ユニットから供給される電力で作動する補機を備える場合には、前記車両の力行運転中に、前記ハイレート充電が予測された場合には、前記充放電状態変更部は、前記補機に電力を供給することによって前記カウンター放電処理を実行する、としてもよい。
【0016】
この手段によっても、車両の力行運転に影響を与えることなく、カウンター放電処理を実行できる。補機を選択することで、放電状態を調整できるので、汎用性に優れる。十分な放電量を確保し易い点でも有利である。先の手段と組み合わせれば、よりいっそう効果的である。
【0017】
前記制御装置はまた、前記車両は、発電用エンジンによって駆動される発電機を備える場合には、前記車両の回生運転中に、前記ハイレート放電が予測された場合には、前記充放電状態変更部は、前記発電機で発電される電力を前記電池ユニットに充電することによって前記カウンター充電処理を実行する、としてもよい。
【0018】
そうすれば、回生運転による充電量が少なく、それだけではカウンター充電を適切に行えない場合でも、カウンター充電処理を適切に実行できる。
【0019】
開示する技術はまた、前記電池ユニットが、個別に充放電が可能な複数の電池モジュールを含む場合に好適である。すなわち、この場合、前記車両の力行運転中に、前記ハイレート充電が予測された場合には、前記充放電状態変更部は、前記複数の電池モジュールのうち、その一部で放電させることによって前記カウンター放電処理を実行する。
【0020】
この場合、個々の電池モジュールの充放電を調整することで、電池ユニットの中で充放電量の調整ができる。そして、この手段によれば、力行運転による放電量のみでカウンター放電処理が実行できる。
【0021】
前記制御装置はまた、前記充放電状態変更部は、前記複数の電池モジュールのうち、その一部での放電とともに、残部へ充電することによって前記カウンター放電処理を実行する、としてもよい。
【0022】
この手段によれば、力行運転による放電量のみではカウンター放電処理を適切に実行できない場合においても、他の電池モジュールで充電することにより、放電量を増大できる。従って、所定の電池モジュールでカウンター放電処理を適切に実行できる。
【0023】
前記制御装置はまた、前記車両は、前記電池ユニットから供給される電力で作動する補機を備える場合には、前記充放電状態変更部は、前記補機に電力を供給することによって前記カウンター放電処理を補完する、としてもよい。
【0024】
電池モジュールの容量によっては、先の手段を採用しても、カウンター放電処理を適切に実行できない場合がある。そのような場合であっても、この手段によれば、補機を利用するので、カウンター放電処理を適切に実行できる。
【0025】
前記制御装置が、前記電池ユニットは、個別に充放電が可能な複数の電池モジュールを含む場合には、前記車両の回生運転中に、前記ハイレート充電が予測された場合には、前記充放電状態変更部は、所定の前記電池モジュールで前記カウンター放電処理を実行し、残部の前記電池モジュールに、回生で得られる電力とともに前記所定の電池モジュールで放電して得られる電力を充電する、としてもよい。
【0026】
このような電池ユニットであれば、回生運転中にも、カウンター放電処理が実行できる。すなわち、ここで示すように、所定の電池モジュールでカウンター放電処理を実行し、残部の電池モジュールに、回生で得られる電力とともに所定の電池モジュールで放電して得られる電力を充電すればよい。そうすることで、カウンター放電処理を実行できる。
【0027】
前記制御装置が、前記電池ユニットは、個別に充放電が可能な複数の電池モジュールを含む場合にはまた、前記車両の力行運転中に、前記ハイレート放電が予測された場合には、前記充放電状態変更部は、所定の前記電池モジュールで前記カウンター充電処理を実行し、残部の前記電池モジュールで、力行で消費される電力とともに前記所定の電池モジュールに充電する電力を放電させる、としてもよい。
【0028】
そうすれば、力行運転中に、電池ユニットの中だけでカウンター充電処理を実行することができる。従って、力行運転に影響を与えることなく、そして、他の機器にも影響を与えることなく、カウンター充電処理を実行できる。
【0029】
前記制御装置はまた、前記車両は、発電用エンジンによって駆動される発電機を備える場合には、前記充放電状態変更部は、前記発電機で発電される電力を充電することによって前記カウンター充電処理を補完する、としてもよい。
【0030】
そうすれば、先の手段でカウンター充電処理を適切に行えない場合にも、カウンター充電処理を適切に実行できる。また、残部の電池モジュールでの放電量を抑制することもできる。従って、残部の電池モジュールの容量が少ない場合に有効である。
【0031】
前記制御装置が、前記電池ユニットは、個別に充放電が可能な複数の電池モジュールを含む場合にはまた、前記車両の回生運転中に、前記ハイレート放電が予測された場合には、前記充放電状態変更部は、回生で得られる電力を、所定の一部の前記電池モジュールに充電することによって前記カウンター充電処理を実行する、としてもよい。
【0032】
この場合、個々の電池モジュールの充放電を調整することで、電池ユニットの中で充放電量の調整ができる。そして、この手段によれば、回生運転による充電のみでカウンター充電処理が実行できる。
【0033】
前記制御装置はまた、前記充放電状態変更部は、回生で得られる電力とともに、前記電池モジュールの残部で放電して得られる電力を前記所定の一部の電池モジュールに充電することによって前記カウンター充電処理を実行する、としてもよい。
【0034】
この手段によれば、回生運転による充電量のみではカウンター充電処理を適切に実行できない場合においても、残部の電池モジュールで放電することにより、充電量を増大できる。従って、所定の電池モジュールでカウンター充電処理を適切に実行できる。
【0035】
前記制御装置はまた、前記車両は、発電用エンジンによって駆動される発電機を備える婆には、前記充放電状態変更部は、前記発電機で発電される電力を充電することによって前記カウンター充電処理を補完する、としてもよい。
【0036】
電池モジュールの容量によっては、先の手段を採用しても、カウンター充電処理を適切に実行できない場合がある。そのような場合であっても、この手段によれば、発電機を利用するので、カウンター充電処理を適切に実行できる。
【発明の効果】
【0037】
開示する技術を適用した車両用電池ユニットの制御装置によれば、ハイレート劣化それ自体の抑制が可能になるので、電池ユニットの性能低下を低減できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図2】制御装置とその主な関連機器との関係を示すブロック図である。
【
図3】ハイレート劣化の抑制機構を説明するための図である。
【
図4】ハイレート劣化の抑制機構を説明するための図である。
【
図6】ハイレート充放電を説明するための図である。
【
図7】第1実施形態の車両における制御例を示すフローチャートである。
【
図8】第1実施形態の車両における制御例を示すフローチャートである。
【
図9】第1実施形態の車両における制御例を示すフローチャートである。
【
図11】第2実施形態の車両における制御例を示すフローチャートである。
【
図12】第2実施形態の車両における制御例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、開示する技術の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0040】
<第1実施形態>
図1に、第1実施形態の車両1の概略図を示す。開示する技術は、電気自動車やハイブリッド車など、駆動用電源を搭載し、その電力で走行する車両であれば適用できる。第1実施形態では、電気自動車への適用例を示す。
【0041】
例示の車両1には、高電圧な電気系統を構成する電気機器として、電池ユニット2、電池コントローラ2a、駆動側インバータ3、駆動モータ4、発電側インバータ5、発電機6、発電用エンジン7、補機8などが搭載されている。これら電気機器が、高電圧および大電流に対応した電気配線9を介して接続されている。
【0042】
なお、この車両1には、その運転に必要なアクセル、ブレーキ、ステアリングなどの機器とともに、エアコンやカーナビゲーションなどの一般的な各種電装品も装備されている。これらの内容については、周知であるので、特に必要でない限り、その図示および説明は省略する。
【0043】
電池ユニット2は、高電圧かつ大容量の二次電池であり、駆動用電源として車両1に搭載されている。電池ユニット2は、多数の電池セル(リチウムイオン電池)を連結することによって構成されている。電池コントローラ2aは、電池ユニット2の充放電状態の制御に特化したそれ専用の制御装置であり、電池ユニット2に付設されている。
【0044】
駆動モータ4は、駆動側インバータ3を介して電池ユニット2と接続されている。駆動側インバータ3が、電池ユニット2から供給される直流電力を3相の交流電流に変換して駆動モータ4に出力する。そうすることで、駆動モータ4の出力軸に連結されている駆動輪1aが回転し、車両1は走行する(いわゆる力行運転)。
【0045】
駆動モータ4はまた、減速時などには発電機としても利用される。すなわち、駆動側インバータ3が、駆動モータ4で発電される交流電流を直流電流に変換して電池ユニット2に出力する。そうすることで、電池ユニット2は充電される(いわゆる回生運転)。
【0046】
発電用エンジン7は、発電専用の小型エンジンである。従って、発電機6は発電用エンジン7の駆動によって作動する。発電機6は発電側インバータ5を介して電池ユニット2と接続されている。発電側インバータ5は、発電機6から供給される3相の交流電流を直流電流に変換して電池ユニット2に出力する。
【0047】
すなわち、この車両1は、いわゆるレンジエクステンダーと称するタイプの電気自動車である。発電用エンジン7を駆動させることで、電池ユニット2を必要に応じて充電でき、航続距離を延長できる。
【0048】
補機8は、電池ユニット2からの電力の供給によって作動する電気機器の総称である。ただし、ここでの補機8は、補機8が作動しても車両1の走行状態や運転状態には影響を与えない特定の機器である(特定補機)。補機8の具体例としては、例えば、電動コンプレッサ、電動ウォータポンプなどが挙げられる。
【0049】
(BCU)
車両1には、その運転状態に応じて電池ユニット2を制御するために、BCU10(バッテリコントロールユニット、制御装置の一例)が搭載されている。BCU10は、電池コントローラ2aの上位に位置する制御装置であり、電池コントローラ2aと協働して、電池ユニット2の充放電状態を制御する。
【0050】
BCU10は、
図1に示すように、プロセッサ10a、メモリ10b、インターフェース10cなどのハードウエアと、メモリ10bに実装されている制御プログラム、制御データなどのソフトウエアとで構成されている。BCU10はまた、
図2に示すように、これらハードウエアおよびソフトウエアによって得られる機能的な構成として、ハイレート充放電予測部10dおよび充放電状態変更部10eを有している。これらは、開示する技術における主要な構成であるため、別途後述する。
【0051】
そして、BCU10は、
図2にのみ簡略化して示すように、制御に用いられる低電圧な電気系統12を介して、様々な関連機器と接続されている。BCU10は、例えば、アクセル開度センサ、車速センサなどの車両1に設置されている各種の車載センサ11と接続されている。そして、これら車載センサ11から、車両1の運転状態を把握するために必要な情報、例えばアクセル開度、走行速度、駆動モータ4の回転数などを取得する。
【0052】
BCU10は、電池コントローラ2aとも接続されている。BCU10は、電池コントローラ2aとの間で双方向に制御信号やデータ信号を送受信する。それにより、BCU10は、電池ユニット2の残容量や充放電状態を把握する。更に、BCU10は、補機8、駆動側インバータ3、発電側インバータ5、発電用エンジン7とも接続されており、これらの作動を制御するために、必要に応じてこれらに制御信号を送信する。
【0053】
(ハイレート充放電)
本実施形態の車両1の場合、例えば、走行開始時には、駆動モータ4の出力のみによって車両1を動かす必要がある。従って、駆動モータ4は高トルクを出力する必要があり、電池ユニット2(詳細には電池ユニット2を構成している各電池セル)には、駆動側インバータ3に通電(放電)するために、瞬間的に大電流が流れることになる。
【0054】
ハイブリッド車の場合においても、エンジンの駆動をモータでアシストする際に大電流が流れる。このように、電池ユニット2に大電流が流れることによって行われる放電を「ハイレート放電」という。
【0055】
走行開始時に限らず、車両1の運転中にも、電池ユニット2に大電流が流れる状況は頻度高く発生する。例えば、力行運転中に急加速すれば、駆動モータ4に短時間で大きな出力が要求される。従って、電池ユニット2では、ハイレート放電が行われる。
【0056】
一方、回生運転中に急減速すれば、駆動モータ4から短時間で大きな電力が供給される。従って、この場合、電池ユニット2では、大きな電力を充電するために大電流が流れる。このように、電池ユニット2に大電流が流れることによって行われる充電を「ハイレート充電」という。
【0057】
上り下りの傾斜が大きく変化する道路での走行時などでは、このような状況が短時間で繰り返し発生することになる。すなわち、ハイレート充放電が高頻度で発生する。ハイレート充放電が高頻度で発生すると、ハイレート劣化が促進され、電池ユニット2の性能が低下する。
【0058】
例えば、ハイレート放電が行われると、それに伴って電池の内部抵抗は一時的に上昇する。そして、上昇した内部抵抗が復帰するにはある程度、時間を要する。そのため、内部抵抗が上昇している時に、再度、ハイレート放電が行われると、内部抵抗の上昇が促進されて、内部抵抗が不可逆的に上昇するようになる。それにより、電池ユニット2が劣化する(ハイレート劣化)。このような状態が累積して発生すると、ハイレート劣化が促進され、電池ユニット2の性能が低下する。
【0059】
(ハイレート劣化の抑制)
本発明者らは、ハイレート充放電を行う前に、一時的に、その逆となる充放電(カウンター放電およびカウンター充電)を、電力を高めて行うことで、ハイレート劣化それ自体の抑制が可能になるということを見出した。開示する技術はこの知見に基づく。ここでは、そのメカニズムについて具体的に説明する。
【0060】
図3に、電池ユニット2を構成している電池セル50を模式的に示す。この電池セル50は、リチウムイオン電池である。電池セル50の内部には、その正極を構成している正極集電体50aと、その負極を構成している負極集電体50bとが、セパレータ50cを介して配置されている。正極集電体50aと負極集電体50bと間には、リチリウムイオンを含む電解液が存在している。
【0061】
正極集電体50aの表面には、バインダ50dによって正極活物質50eの粒子が付着している。負極集電体50bの表面には、バインダ50gによって負極活物質50fの粒子が付着している。放電時には、電池セル50の外部で負極集電体50bから正極集電体50aに電子が流れる。それにより、電解液に含まれているリチリウムイオンは、正極側に移動するとともに、
図3の(a)に示すように、正極活物質50eに挿入される。
【0062】
一方、充電時には、電池セル50の外部で正極集電体50aから負極集電体50bに電子が流れる結果、リチリウムイオンは負極側に移動する。そのため、
図3の(b)に示すように、正極活物質50eに挿入されたリチウムイオンは、正極活物質50eから離脱して電解液に戻る。
【0063】
図4に、正極活物質50eと電解液の界面領域を拡大した模式図を示す。
図4の上段の(A)は、通常のハイレート放電を行った時のリチウムイオンの分布を表している。対して、
図4の下段の(B)は、開示する技術を適用してハイレート放電を行った時のリチウムイオンの分布を表している。
【0064】
上述したように、放電時には、電解液中のリチリウムイオンは、正極側に移動して正極活物質50eに挿入される。(A)の左図(i)に示すように、リチウムイオンは電解液に均一に分布しているので、ハイレート放電を行うと、多量のリチウムイオンが電解液中を移動して、(A)の右図(ii)に示すように、それらが界面領域を経て正極活物質50eに取り込まれる。その際、比較的大きな抵抗が生じるために、瞬時に大電流を取り出すことができない。その結果、電池の内部抵抗が上昇する。
【0065】
一方、開示する技術では、ハイレート放電を行う前に、その逆となる充電(カウンター充電)を行う。それにより、(B)の左図(i’)に示すように、正極活物質50eに挿入されていたリチウムイオンを正極活物質50eの界面領域に移動させ、(B)の中図(i)に示すように、リチウムイオンをその界面領域に集中させる。
【0066】
その状態でハイレート放電を行えば、取込時の抵抗を低減して、(B)の左図(ii)に示すように、正極活物質50eに多量のリチウムイオンを取り込むことが可能になり、瞬時に大電流を取り出せるようになると考えられる。
【0067】
なお、ハイレート充電の場合も、充放電状態が逆になる点を除けば、ハイレート放電の場合と同様である。すなわち、ハイレート充電を行う前に、一時的に電力を高めた放電(カウンター放電)を行えばよい。
【0068】
(検証試験)
本発明者らは、上述したメカニズムを検証するために、一般的な電池セルを用いて試験を行った。その試験では、10秒間のハイレート放電を行う直前に、異なる充電レートで1秒間のカウンター充電を実行した。
【0069】
そして、ハイレート放電によって瞬間的に電圧が降下した時の電池の内部抵抗と、ハイレート放電後、電圧が復帰した時の電池の内部抵抗とを比較した。その試験結果を
図5に示す。
図5における破線は、ハイレート放電直後の瞬間的な内部抵抗を表している。
図5における実線は、ハイレート放電後、電圧が復帰した時(試験では10分後)の内部抵抗を表している。
【0070】
0C、つまりカウンター充電を行わない通常のハイレート放電では、内部抵抗が上昇して高くなることが確認された。一方、カウンター充電を行うことで、その内部抵抗の上昇量が低減し、充電レートが高くなるほど、その内部抵抗の上昇量も低減することが確認された。
【0071】
すなわち、ハイレート放電を行うと、それに伴って内部抵抗が一時的に上昇する。そして、上昇した内部抵抗が復帰するには、電解液および電極が元の状態に戻る必要があるため、ある程度、時間を要する。そのため、内部抵抗が上昇している時に、再度、ハイレート放電が行われると、内部抵抗の上昇が促進されるので、内部抵抗の不可逆的な上昇が発生する。つまり、ハイレート劣化が進むことになる。
【0072】
一方、カウンター充電は、ハイレート放電に伴う内部抵抗の上昇を低減でき、上昇した内部抵抗が復帰する時間も短縮できる。特に、電力を高めて、つまりハイレートにして、カウンター充電を行うのが効果的である。それにより、内部抵抗の累積する上昇を低減できるので、ハイレート劣化それ自体の抑制が可能になる。
【0073】
この点、カウンター放電も同様である。従って、カウンター充放電はハイレート充放電に対して有効であり、特にハイレートなカウンター充放電が好ましい。カウンター充放電を実行することで、ハイレート劣化の抑制が可能になる。
【0074】
(ハイレート充放電予測部、充放電状態変更部)
電池ユニット2のハイレート劣化を抑制するために、この車両1のBCU10には、上述したように、ハイレート充放電予測部10dおよび充放電状態変更部10eが備えられている。
【0075】
ハイレート充放電予測部10dは、車両1の運転中に、ハイレート充電およびハイレート放電を予測する。すなわち、ハイレート充放電予測部10dは、車両1の運転中に、電池ユニット2で充放電が行われる場合、その充放電の実行前に、車両1の運転状態等に基づいて、その充放電がハイレート充電であるか、またはハイレート放電であるかについての推測を実行する。
【0076】
ここでいうハイレート充電およびハイレート放電は、電池容量等、電池ユニット2(詳細にはその電池セル)の性能に応じて設定される所定の基準値に基づいて判断される。
図6に、所定の電池セルにおいて認められた電流値と内部抵抗の上昇率との関係を示す。この電池セルの場合、電流値がi0以上になると、内部抵抗の上昇率が急激に増加する傾向が認められる。
【0077】
すなわち、この電池セルの場合、電流値がi0以上となる領域でハイレート劣化が発生し、電流値がi0未満の領域では、ハイレート劣化は発生しないと判断できる。このように、ハイレート充放電であるか否かは、その電池セルで特定される所定の基準値で判断できる。
【0078】
従って、電池ユニット2を構成する電池セルに対して事前に実験等を行うことにより、電池ユニット2において判断基準となる基準値が特定され、その基準値がBCU10に設定される。ハイレート充放電予測部10dは、その基準値に基づいてハイレート充放電であるか否かを判断する。
【0079】
ハイレート充電およびハイレート放電の予測は、ドライバーの操作や車両1の走行状態に基づいて行われる。例えば、ドライバーがアクセルを踏み込めば、その情報がアクセル開度センサからBCU10に送信されるので、ハイレート放電の実行が予測できる。
【0080】
カーナビゲーションの情報に基づいて予測することも可能である。すなわち、GPS機能により、車両1の走行経路が予め予測でき、車両1が走行する道路状況を事前に把握することができる。道路状況と車両1の走行速度などから、ハイレート充電やハイレート放電の実行が予測できる。
【0081】
充放電状態変更部10eは、ハイレート充放電予測部10dの予測に基づいて、電池ユニット2の充放電状態を変化させる。すなわち、充放電状態変更部10eは、ハイレート放電が予測された場合には、その直前にカウンター充電を行う処理(カウンター充電処理)を実行するとともに、ハイレート充電が予測された場合には、その直前にカウンター放電を行う処理(カウンター放電処理)を実行する。
【0082】
上述したように、カウンター充放電はハイレートである方が好ましい。従って、目標とするハイレートな充放電値(目標充放電値)が予めBCU10に設定されている。充放電状態変更部10eは、その目標充放電値を目指して、カウンター充放電処理を実行する。
【0083】
<BCUが行う制御例>
カウンター放電処理およびカウンター充電処理を実行するための制御は、車両1の仕様に応じて様々パターンが考えられる。ここでは、その基本的な制御とともに、実施形態1の車両1に対応した主な制御例を示す。
【0084】
図7に、BCU10が行う基本的な制御の流れを示す。BCU10は、イグニッションがオンにされ、運転状態になって車両1が走行を開始すると、各種の車載センサ11から入力される信号に基づいて、車速や道路状況等、車両1の状態を確認する(ステップS1)。それにより、車両1の運転中、BCU10(ハイレート充放電予測部10d)は、常時、ハイレート充電およびハイレート放電を予測する。
【0085】
そうして、ハイレート充放電予測部10dがハイレート充電を予測すると(ステップS2でYes)、BCU10(充放電状態変更部10e)は、電池コントローラ2aと協働して、カウンター放電処理を実行する(ステップS3)。ハイレート充放電予測部10dがハイレート放電を予測すると(ステップS4でYes)、充放電状態変更部10eは、電池コントローラ2aと協働して、カウンター充電処理を実行する(ステップS5)。
【0086】
ハイレート充電およびハイレート放電のいずれもが予測されない場合(ステップS4でNo)、つまり、電池ユニット2が充放電しない、または、充放電するにしても、所定の基準値未満での充放電(非ハイレート充放電)であると予測される場合には、BCU10は、通常の制御を実行し、通常の充放電状態を保持する(ステップS6)。
【0087】
(カウンター放電処理1)
図8に、BCU10(充放電状態変更部10e)が行うカウンター放電処理の制御例を示す。車両1が力行運転中である場合(ステップS10でYes)、電池ユニット2では、力行に伴う放電が行われている。通常運転であれば、その放電は非ハイレート放電であり、カウンター放電を行うためには、それに加えて、更に大きな電力で電池ユニット2から放電させる必要がある。力行に伴う放電がハイレート放電であっても、より大きな電力で放電させるのが好ましい。
【0088】
そこで、BCU10は、駆動側インバータ3の効率を下げる手段を選択する(ステップS11)。それにより、力行運転に影響を与えることなく、電池ユニット2から大きな電力で放電させることができる。そうすることで、目標充放電値が実現でき、カウンター放電処理を適切に実行できる場合には(ステップS12でYes)、BCU10は、駆動側インバータ3の効率を下げることによってカウンター放電処理を実行する(ステップS13)。カウンター放電処理を効果的に実行できる。
【0089】
一方、その手段だけでは目標充放電値が実現できず、カウンター放電処理が適切に実行できない場合(ステップS12でNo)、BCU10は、更に補機8に電力を供給する手段を選択する(ステップS14)。
【0090】
補機8は、上述したように、電動コンプレッサ、電動ウォータポンプなどであり、これらのいずれか1つを用いてもよいし、複数を用いてもよい。必要に応じて自在に放電できる。また、この車両1の場合、発電機6も補機8として利用できる。
【0091】
すなわち、発電時以外は、発電機6および発電用エンジン7は停止している。従って、発電機6をモータとして使用し、発電用エンジン7をモータリング運転することで、電池ユニット2から大きな電力で放電させることができる。BCU10は、これら手段によってカウンター放電処理を実行する(ステップS13)。カウンター放電処理をより効果的に実行できる。
【0092】
なお、上述したステップのうち、ステップS11およびステップS12を省略し、BCU10は、直接、補機8に電力を供給する手段を選択して、カウンター放電処理を実行してもよい(ステップS14,ステップS13)。また、ステップS11とステップS14とを逆にして、インバータの効率を下げる手段と補機8に電力を供給する手段の優先順位を変更してもよい。
【0093】
(カウンター充電処理1)
図9に、この車両1において、BCU10(充放電状態変更部10e)が行うカウンター充電処理の制御例を示す。車両1が回生運転中である場合(ステップS18でYes)、電池ユニット2では回生による充電が行われている。その充電がハイレート充電であって目標充放電値に達している場合には、カウンター充電処理は実行しなくてもよい。しかし、通常は目標充放電値に達していない場合が多い。
【0094】
それに対し、この車両1の場合、上述したように、必要に応じて発電できる発電機6を搭載している。BCU10は、発電機6を用いて電池ユニット2に電力を供給する手段を選択できる。BCU10は、発電機6で発電される電力を回生による電力に加えた状態でカウンター充電処理を実行する(ステップS19)。それにより、カウンター充電処理をより効果的に実行できる。
【0095】
<第2実施形態>
図10に、第2実施形態の車両(第2車両1B)の概略図を示す。第2車両1Bは、第1実施形態の車両1(以下、第1車両1Aとする)と同様に、電気自動車である。
【0096】
第2車両1Bにおける、電池ユニット2、電池コントローラ2a、駆動側インバータ3、駆動モータ4、発電側インバータ5、発電機6、発電用エンジン7、補機8などの高電圧機器、更には、車両1に装備される一般的な機器などの基本的な構成は、第1車両1Aと同じである。BCU10の基本的な構成も、第2車両1Bと第1車両1Aとで同じである。従って、同じ内容の構成には同じ符号を用いることでその説明は省略する。
【0097】
第2車両1Bは、第1車両1Aと比べて電池ユニット2の構成が異なる。すなわち、第2車両1Bの電池ユニット2(以下、第2電池ユニット2Bとする)は、個別に充放電が可能な複数の電池モジュール20を含む。第2電池ユニット2Bは、並列に接続された複数の電池モジュール20で構成されている。なお、図例では3個の電池モジュール20(第1電池モジュール21、第2電池モジュール22、第3電池モジュール23)を示すが、電池モジュール20の個数は2個または4個以上でもよい。
【0098】
各電池モジュール20は、第1車両1Aの電池ユニット2と同様に、多数の電池セル50(リチウムイオン電池)を連結することによって構成されている。第2電池ユニット2Bの電池コントローラ2aは、電池モジュール20の各々の充放電状態を制御することにより、第2電池ユニット2B(電池モジュール20全体)の充放電状態を制御する。従って、複数の電池モジュール20への充放電は、一体的に実行できるし部分的にも実行できる。
【0099】
<BCUが行う制御例>
第2車両1BのBCU10が行う基本的な制御は、第1車両1Aと同じである。すなわち、第2車両1Bにおいても、
図7に示す制御に従って、カウンター放電処理およびカウンター充電処理が実行される。
【0100】
(カウンター放電処理2)
図11に、第2車両1BのBCU10(充放電状態変更部10e)が行うカウンター放電処理の制御例を示す。第2車両1Bが力行運転中ではない、つまり回生運転中の場合(ステップS20でNo)、第2電池ユニット2Bには、回生による電力が充電されている。通常、その電力は、各電池モジュール20に均等に分配される。
【0101】
BCU10は、これら複数の電池モジュール20のうち、所定の電池モジュール20でカウンター放電処理を実行し、残部の電池モジュール20に、回生で得られる電力とともに所定の電池モジュール20で放電して得られる電力を充電することが可能か否かを判断する(ステップS21)。
【0102】
例えば、第1電池モジュール21でカウンター放電処理を実行することを想定した場合、第1電池モジュール21に分配されていた回生電力は、第2電池モジュール22および第3電池モジュール23に振り分ける必要がある。更に、第1電池モジュール21でのカウンター放電によって生じる電力も、これら電池モジュール20に振り分ける必要がある。
【0103】
BCU10は、各電池モジュール20の電池容量からこのような処理が可能か否かを判断する。なお、カウンター放電処理は、1個の電池モジュール20に限らない。複数の電池モジュール20で実行してもよい。この手段によれば、回生運転に影響を与えることなく、カウンター放電処理を効果的に実行できる。
【0104】
その結果、BCU10は、カウンター放電処理の実行が可能であると判断すると(ステップS21でYes)、カウンター放電処理を実行する(ステップS22)。そして、BCU10は、カウンター放電処理の対象とする電池モジュール20を変更し(切り替えて)、カウンター放電処理を繰り返す(ステップS23)。
【0105】
例えば、第1電池モジュール21のカウンター放電処理が終われば、次に第2電池モジュール22でカウンター放電処理を実行し、それが終われば、第3電池モジュール23でカウンター放電処理を実行する。それにより、複数の電池モジュール20でカウンター放電処理が行えるので、ハイレート充電が高容量であっても十分対応できるようになる。
【0106】
一方、第2車両1Bが力行運転中の場合(ステップS20でYes)、第2電池ユニット2Bでは、力行による電力が放電されている。通常、その電力は、各電池モジュール20に均等に分配される。
【0107】
BCU10は、これら複数の電池モジュール20のうち、その一部で放電させることによってカウンター放電処理を実行できるか否かを判断する(ステップS24)。すなわち、各電池モジュール20に分散している電力を一部の電池モジュール20に集約させ、その一部の電池モジュール20が放電する電力量を増大させる。
【0108】
例えば、第1電池モジュール21および第2電池モジュール22での放電を中断し、第3電池モジュール23のみで力行運転に要する電力を放電させる。そうすることによって第3電池モジュール23でカウンター放電処理を実行する。力行運転に影響を与えることなく、カウンター放電処理を効果的に実行できる。
【0109】
その結果、BCU10は、カウンター放電処理の実行が可能であると判断すると(ステップS24でYes)、カウンター放電処理を実行する(ステップS22)。そして、BCU10は、カウンター放電処理の対象とする電池モジュール20を変更し、カウンター放電処理を繰り返す(ステップS23)。
【0110】
しかしながら、力行による電力の消費量が少なく、その力行電力を1個の電池モジュール20に集約しても、目標充放電値に達しない場合がある。そのような場合、BCU10は、カウンター放電処理の実行は適切でないと判断し(ステップS24でNo)、複数の電池モジュール20のうち、その一部での放電とともに、残部へ充電することによってカウンター放電処理の実行が可能か否かを判断する(ステップS25)。
【0111】
例えば、先と同様に第3電池モジュール23でのカウンター放電処理を想定した場合、力行電力に加え、更に第3電池モジュール23で放電を行う。この場合、第1電池モジュール21および第2電池モジュール22では、第3電池モジュール23の放電によって生じる電力を充電する必要がある。
【0112】
その結果、BCU10は、カウンター放電処理の適切な実行が可能と判断すると(ステップS25でYes)、カウンター放電処理を実行する(ステップS22)。電力が無駄にならず、カウンター放電処理をより効果的に実行できる。そして、BCU10は、カウンター放電処理の対象とする電池モジュール20を変更し、カウンター放電処理を繰り返す(ステップS23)。
【0113】
一方、BCU10は、この手段によってもカウンター放電処理の適切な実行は不能と判断すると(ステップS25でNo)、補機8に電力を供給することによってカウンター放電処理を補完する手段を選択する(ステップS26)。補機8に電力を供給することで、より多くの電力を自在に放電できるようになり、適切なカウンター放電処理が実行できるようになる。
【0114】
BCU10は、力行電力および他の電池モジュール20へ放電する電力に、補機8に供給する電力を加えた放電により、対象とした所定の電池モジュール20でカウンター放電処理を実行する(ステップS22)。カウンター放電処理をより効果的に実行できる。そして、BCU10は、カウンター放電処理の対象とする電池モジュール20を変更し、カウンター放電処理を繰り返す(ステップS23)。
【0115】
(カウンター充電処理2)
図12に、第2車両1BのBCU10(充放電状態変更部10e)が行うカウンター充電処理の制御例を示す。第2車両1Bが力行運転中の場合(ステップS30でYes)、第2電池ユニット2Bでは、力行による電力が放電されている。通常、その電力は、各電池モジュール20に均等に分配される。
【0116】
BCU10は、これら複数の電池モジュール20のうち、その一部でカウンター充電処理を実行できるか否かを判断する(ステップS31)。具体的には、所定の電池モジュール20でカウンター充電処理を実行し、残部の電池モジュール20で、力行で消費される電力とともに所定の電池モジュール20に充電する電力を追加して放電させることができるか否かを判断する。
【0117】
例えば、第1電池モジュール21でカウンター充電処理を実行することを想定した場合、第1電池モジュール21で放電していた力行電力は、第2電池モジュール22および第3電池モジュール23に振り分ける必要がある。更に、第1電池モジュール21に充電が必要な電力も、これら電池モジュール20に振り分けて放電させる必要がある。従って、第2電池モジュール22および第3電池モジュール23では、当初分配されていた力行電力に加えて、これら電力も放電することが必要になる。
【0118】
その結果、BCU10は、カウンター充電処理の適切な実行が可能と判断すると(ステップS31でYes)、カウンター充電処理を実行する(ステップS32)。力行運転に影響を与えることなく、カウンター充電処理を効果的に実行できる。そして、BCU10は、カウンター充電処理の対象とする電池モジュール20を変更し、カウンター充電処理を繰り返す(ステップS33)。
【0119】
一方、BCU10は、この手段によっては、目標充放電値に達せず、カウンター充電処理の適切な実行は不能と判断すると(ステップS31でNo)、発電機6で電力を供給することによってカウンター充電処理を補完する手段を選択する(ステップS34)。発電機6で電力を供給すれば、必要な電力で充電できるようになり、適切なカウンター充電処理が実行できる。
【0120】
BCU10は、他の電池モジュール20の放電によって得られる電力に、発電機6による電力を加えた充電により、カウンター充電処理を実行する(ステップS32)。カウンター充電処理をより効果的に実行できる。そして、BCU10は、カウンター充電処理の対象とする電池モジュール20を変更し、カウンター充電処理を繰り返す(ステップS33)。
【0121】
ステップS30において、第2車両1Bが力行運転中ではない、つまり回生運転中の場合(No)、第2電池ユニット2Bには、回生による電力が充電されている。通常、その電力は、各電池モジュール20に均等に分配される。
【0122】
BCU10は、回生によって得られる電力を、所定の一部の電池モジュール20に集約して充電することで、カウンター充電が適切に実行できるか否かを判断する(ステップS35)。
【0123】
例えば、第1電池モジュール21でカウンター充電処理を実行することを想定した場合、第2電池モジュール22および第3電池モジュール23に振り分けていた回生電力を、第1電池モジュール21に集約させる。そうすることで、第1電池モジュール21が充電する電力量を増大できる。
【0124】
その結果、BCU10は、カウンター充電処理の適切な実行が可能と判断すると(ステップS35でYes)、カウンター充電処理を実行する(ステップS32)。カウンター充電処理を効果的に実行できる。そして、BCU10は、カウンター充電処理の対象とする電池モジュール20を変更し、カウンター充電処理を繰り返す(ステップS33)。
【0125】
しかしながら、回生によって得られる電力量が少なく、その回生電力を1個の電池モジュール20に集約しても、目標充放電値に達しない場合がある。そのような場合、BCU10は、カウンター充電処理の実行は適切でないと判断する(ステップS35でNo)。
【0126】
その場合、BCU10は、回生電力とともに、電池モジュール20の残部で放電して得られる電力を所定の一部の電池モジュール20に充電することにより、カウンター充電処理が適切に実行できるか否かを判断する(ステップS36)。
【0127】
第1電池モジュール21でカウンター充電処理を実行する場合であれば、第2電池モジュール22および/または第3電池モジュール23で放電し、それによって得られる電力を、回生電力に加えて、第1電池モジュール21に充電する。第1電池モジュール21が充電する電力量を更に増大できる。
【0128】
その結果、BCU10は、カウンター充電処理の適切な実行が可能と判断すると(ステップS36でYes)、カウンター充電処理を実行する(ステップS32)。充電量が増大するので、カウンター充電処理をより効果的に実行できる。そして、BCU10は、カウンター充電処理の対象とする電池モジュール20を変更し、カウンター充電処理を繰り返す(ステップS33)。
【0129】
一方、BCU10は、その手段によってはカウンター充電処理の実行は適切でないと判断すると(ステップS36でNo)、発電機6で電力を供給することによってカウンター充電処理を補完する手段を選択する(ステップS37)。発電機6で電力を供給すれば、必要な電力で充電できるようになり、適切なカウンター充電処理が実行できる。
【0130】
BCU10は、回生電力と他の電池モジュール20からの追加充電によって得られる電力に、発電機6で発電される電力を加えた充電により、カウンター充電処理を実行する(ステップS32)。カウンター充電処理をより効果的に実行できる。そして、BCU10は、カウンター充電処理の対象とする電池モジュール20を変更し、カウンター充電処理を繰り返す(ステップS33)。
【0131】
このように、開示する技術を適用したBCU10によれば、カウンター充放電処理の実行により、ハイレート劣化それ自体の抑制が可能になるので、ハイレート充放電が高頻度で発生する車両1に搭載しても、電池ユニット2の性能低下を効果的に抑制できる。
【0132】
なお、開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0133】
例えば、上述した各実施形態の車種およびその構成は一例似すぎない。冒頭で述べたように、ハイブリッド車など、駆動用電源として電池ユニットを搭載し、その電力で走行する車両であればよい。また、各実施形態で説明した制御も一例である。車種および車両の構成に応じて様々な手段が選択できる。
【符号の説明】
【0134】
1 車両
2 電池ユニット
2a 電池コントローラ
3 駆動側インバータ
4 駆動モータ
5 発電側インバータ
6 発電機
7 発電用エンジン
8 補機
9 電気配線
10 BCU(制御装置)
10d ハイレート充放電予測部
10e 充放電状態変更部