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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153591
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20231011BHJP
   H02P 25/024 20160101ALI20231011BHJP
   H02P 21/05 20060101ALI20231011BHJP
   F16D 48/06 20060101ALI20231011BHJP
   B60L 9/18 20060101ALN20231011BHJP
【FI】
B60L15/20 K
H02P25/024
H02P21/05
F16D28/00 A
F16D48/06 102
B60L9/18 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062954
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】胡本 博史
(72)【発明者】
【氏名】吉末 知弘
(72)【発明者】
【氏名】曽利 僚
【テーマコード(参考)】
3J057
5H125
5H505
【Fターム(参考)】
3J057AA03
3J057BB03
3J057GA01
3J057GB11
3J057GB13
3J057GB14
3J057GB35
3J057GE05
3J057HH02
3J057JJ02
5H125AA01
5H125AB01
5H125BA00
5H125BB03
5H125BE05
5H125CA01
5H125EE08
5H125EE42
5H505AA16
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE07
5H505EE30
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL32
5H505LL41
5H505PP01
(57)【要約】
【課題】クラッチの性能に左右されることなく、駆動モータの磁力変更に伴って発生するトルク変動を抑制する。
【解決手段】磁力可変磁石35でロータ33の磁極が構成されている駆動モータ3と駆動輪4Rとの間にクラッチ83が配置されている。自動車1の走行時にはトルク制御とともにクラッチ83の締結トルクを要求トルクよりも高く制御する第1クラッチ制御を実行する。自動車1の走行時に増磁制御を実行する時には、その実行前に、第1クラッチ制御から締結トルクを要求トルクと一致させる第2クラッチ制御に変更するとともに、要求トルクに所定のスリップトルクを追加することにより、クラッチ83を締結状態から微少スリップ状態にさせるマイクロスリップ制御を開始する。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁力の変更が可能な磁力可変磁石でロータの磁極が構成されている駆動モータと、当該駆動モータと駆動輪との間に配置されたクラッチと、が備えられていて、電力を利用した走行が可能な電動車両の制御装置であって、
前記電動車両の走行時には、前記駆動輪に出力が要求される要求トルクと一致するように、前記駆動モータが出力するモータトルクを制御するトルク制御とともに、前記クラッチの締結トルクを前記要求トルクよりも高く制御する第1クラッチ制御を実行し、
前記電動車両の走行時に前記磁力可変磁石の磁力を増磁方向に変更する増磁制御を実行する時には、前記増磁制御の実行前に、前記第1クラッチ制御から前記締結トルクを前記要求トルクと一致させる第2クラッチ制御に変更するとともに、前記クラッチの動摩擦係数および静摩擦係数に基づいて前記要求トルクに所定のスリップトルクを追加することにより、前記クラッチを締結状態から微少スリップ状態にさせるマイクロスリップ制御を開始する、制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置において、
前記マイクロスリップ制御の開始時に、前記締結状態から前記微少スリップ状態への前記クラッチの状態変化に伴って発生するトルク変化が相殺されるように前記クラッチの油圧を調整する遷移制御が実行される、制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の制御装置において、
前記マイクロスリップ制御の実行中に、前記トルク制御に代えて、前記駆動輪から出力されるパワーが所定の目標パワー値と一致するように前記モータトルクを制御するパワー制御が実行される、制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の制御装置において、
前記増磁制御の実行後に、前記クラッチの入力側の回転数と出力側の回転数との差に基づいてフィードバック制御を実行することにより、前記パワー制御の実行中に前記微少スリップ状態に収束させる、制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の制御装置において、
前記マイクロスリップ制御の終了時に、前記微少スリップ状態から前記締結状態への前記クラッチの状態変化に伴って発生するトルク変化が相殺されるように前記クラッチの油圧を調整する遷移制御が実行される、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、電気自動車、ハイブリッド車など、電力を利用した走行が可能な電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、永久磁石同期型の駆動モータを搭載したハイブリッド車が開示されている。その駆動モータでは、ロータに設置する永久磁石に、磁力の大きさを大小に可変できる磁力可変マグネットが使用されている。
【0003】
その駆動モータの出力範囲は、複数の磁化領域に区画されていて、磁化領域の各々に、最適な磁力の値(磁力最適値)が設定されている。そして、駆動モータの出力が、これら磁化領域の各々の間を移行する時には、磁力可変マグネットの磁力が、移行先の磁力最適値に変更されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-027615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁力可変マグネットの磁力を変更するときには、駆動モータのステータのコイルに、着磁用の大きな電流(いわゆるd軸電流)が印加される。それにより、駆動用の電流(いわゆるq軸電流)と干渉してトルクが変動する。すなわち、d軸電流は、トルクを発生させるq軸電流に直交する成分である。そのため、その大きな電流自体はトルクとしては出力されないが、q軸電流と干渉することで、トルクが変動する。
【0006】
磁力の変更が減磁であれば、トルクが低くなる方向に変動するが、磁力の変更が増磁であれば、トルクが高くなる方向に変動する。そのため、磁力可変マグネットの磁力を増磁方向に変更するときには、駆動モータから高いトルクが出力される。一般的に、駆動モータと駆動輪との間に備えられているクラッチの締結トルクは、要求トルクより高くなっているので、そのトルクが駆動輪に伝わることで、走行中の車両にトルクショックが発生し、ドライバーに違和感を与える懸念がある。
【0007】
そのようなトルクショックを抑制するため、駆動モータと駆動輪との間に設置されているクラッチをスリップさせることが考えられる。すなわち、駆動モータから高いトルクが出力されても、クラッチをスリップさせれば、駆動輪に伝わるトルクを低減できるので、トルクショックを緩和できる。
【0008】
しかし、クラッチをスリップさせると、駆動モータの回転が急増するという現象が発生する(いわゆる「吹き上がり」)。このような吹き上がりの現象は速やかに解消しないと、スリップによる摩擦熱によってクラッチが損傷する懸念がある。
【0009】
そこで、本発明者らは、このようなクラッチのスリップに伴う駆動モータの吹き上がりを速やかに解消させる技術を先に提案している(特願2021-95825)。
【0010】
その技術は、大略、増磁によってクラッチでスリップが発生している時に、出力が要求されるトルクを目標に制御するトルク制御から、出力されるパワーを目標に制御するパワー制御に切り替える。それにより、出力されるトルクとともに、回転数についても収束させることが可能になり、駆動モータの吹き上がりを速やかに解消させることができる。
【0011】
(クラッチの摩擦係数差の問題)
一般に、クラッチの動摩擦係数(μd)は、静摩擦係数(μs)と同等になるように設定されている。従って、クラッチの締結時に摩擦係数が変化してもトルクショックはほとんど発生しない。従って、先に提案した技術においても問題はない。
【0012】
ところが、クラッチによっては、静摩擦係数に比べて動摩擦係数が低く、その差が大きい場合があり得る。そのような場合、先に提案した技術においても、クラッチの締結時に摩擦係数差に起因したトルクショックが発生し、ドライバーに違和感を与える懸念がある。
【0013】
今回、開示する技術では、クラッチの性能に左右されることなく、駆動モータの磁力変更に伴って発生するトルク変動を抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
開示する技術は、磁力の変更が可能な磁力可変磁石でロータの磁極が構成されている駆動モータと、当該駆動モータと駆動輪との間に配置されたクラッチと、が備えられていて、電力を利用した走行が可能な電動車両の制御装置に関する。
【0015】
前記制御装置は、前記電動車両の走行時には、前記駆動輪に出力が要求される要求トルクと一致するように、前記駆動モータが出力するモータトルクを制御するトルク制御とともに、前記クラッチの締結トルクを前記要求トルクよりも高く制御する第1クラッチ制御を実行する。
【0016】
そして、前記電動車両の走行時に前記磁力可変磁石の磁力を増磁方向に変更する増磁制御を実行する時には、前記増磁制御の実行前に、前記第1クラッチ制御から前記締結トルクを前記要求トルクと一致させる第2クラッチ制御に変更するとともに、前記クラッチの動摩擦係数および静摩擦係数に基づいて前記要求トルクに所定のスリップトルクを追加することにより、前記クラッチを締結状態から微少スリップ状態にさせるマイクロスリップ制御を開始する。
【0017】
すなわち、この制御装置によれば、先に提案した技術と同様に、電動車両の走行時に増磁制御を実行する時には、増磁制御の実行前に、第1クラッチ制御から締結トルクを要求トルクと一致させる第2クラッチ制御に変更する。従って、クラッチがスリップし、増磁に起因して発生するトルクショックを抑制できる。
【0018】
そして更に、クラッチの動摩擦係数および静摩擦係数に基づいて要求トルクに所定のスリップトルクを追加することにより、クラッチを締結状態から微少スリップ状態にさせるマイクロスリップ制御を開始する。
【0019】
すなわち、クラッチの差回転数が急増する増磁制御のタイミングで、クラッチを締結状態から非締結状態に切り替えるのではなく、その前に、所定のスリップトルクを要求トルクに追加することにより、クラッチを締結状態から微少スリップ状態に切り替える。それにより、差回転数の小さい条件の下で、前もって摩擦係数を静摩擦係数から動摩擦係数に切り替えることができるので、摩擦係数差に起因して発生するトルクショックを抑制できる。
【0020】
従って、この制御装置によれば、クラッチの性能に左右されることなく、駆動モータの磁力変更に伴って発生するトルク変動を抑制することができる。
【0021】
前記マイクロスリップ制御の開始時に、前記締結状態から前記微少スリップ状態への前記クラッチの状態変化に伴って発生するトルク変化が相殺されるように前記クラッチの油圧を調整する遷移制御が実行される、としてもよい。
【0022】
マイクロスリップ制御の開始時には、クラッチは、締結状態から微少スリップ状態に変化する。その状態変化に伴って、増磁制御のタイミングよりも小さいが、クラッチの摩擦係数差に起因したトルク変化が発生する。
【0023】
出力されるトルクが不規則で事前に特定が困難な増磁制御とは異なり、マイクロスリップ制御で増減されるスリップトルクは予め設定されている。そして、マイクロスリップ制御の開始時の摩擦係数の切り替わりに伴って発生するトルク変化は、そのスリップトルクによって定まるので、応答性に劣る油圧制御であっても、そのトルク変化に応じて調整できる。
【0024】
従って、そのトルク変化を相殺できる油圧制御の条件を設定し、それに基づいてクラッチの油圧(押付力)を調整すれば、マイクロスリップ制御の開始時に発生する微少なトルクショックについても抑制できる。
【0025】
前記マイクロスリップ制御の実行中に、前記トルク制御に代えて、前記駆動輪から出力されるパワーが所定の目標パワー値と一致するように前記モータトルクを制御するパワー制御が実行される、としてもよい。
【0026】
回転数はトルクに追随させるだけのトルク制御と異なり、パワー制御によれば、回転数およびトルクの双方をバランスよく調整することができる。従って、マイクロスリップ制御の実行中に、駆動モータのトルクおよび回転数の双方をバランスよく調整して、微少スリップ状態に安定して収束させることができる。
【0027】
前記増磁制御の実行後に、前記クラッチの入力側の回転数と出力側の回転数との差に基づいてフィードバック制御を実行することにより、前記パワー制御の実行中に前記微少スリップ状態に収束させる、としてもよい。
【0028】
そうすれば、微少スリップ状態に速やかに収束させることができる。
【0029】
前記マイクロスリップ制御の終了時に、前記微少スリップ状態から前記締結状態への前記クラッチの状態変化に伴って発生するトルク変化が相殺されるように前記クラッチの油圧を調整する遷移制御が実行される、としてもよい。
【0030】
そうすれば、マイクロスリップ制御の終了時に発生する微少なトルクショックについても抑制できる。その結果、ほぼショックレスな状態で駆動モータの磁力変更が可能になる。
【発明の効果】
【0031】
開示する技術によれば、クラッチの性能に左右されることなく、駆動モータの磁力変更に伴って発生するトルク変動を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】開示する技術を適用した自動車の主な構成を示す概略図である。
図2】駆動モータの構成を示す概略断面図である。
図3】MCUおよびこれに関連する主な入出力装置を示すブロック図である。
図4】駆動モータの出力範囲を例示する図である。
図5】簡略化して示す駆動モータの制御に関するシステム図である。
図6】駆動モータの制御の一例を示すフローチャートである。
図7】磁力変更制御の主な処理の流れを示すフローチャートである。
図8】トルクショックの発生を説明するための図である。
図9】TCUおよびこれに関連する主な入出力装置を示すブロック図である。
図10】吹き上がり現象を説明するための図である。
図11】変速機クラッチの摩擦係数差の問題を説明するための図である。
図12】開示する技術を適用した、増磁制御の前後における主な諸元のタイムチャートである。
図13図12に対応した制御の一例を示すフローチャートである。
図14図13に続くフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、開示する技術について説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0034】
<電動車両>
図1に、開示する技術を適用した自動車1(電動車両の一例)を示す。この自動車1は、電力を利用した走行が可能なハイブリッド車である。自動車1の駆動源には、エンジン2および駆動モータ3が搭載されている。これらが協働して、4つの車輪4F,4F,4R,4Rのうち、左右対称状に位置する2輪(駆動輪4R)を駆動する。それにより、自動車1は走行する。なお、自動車1は、駆動モータ3のみを搭載した電気自動車であってもよい。自動車1はまた、4輪駆動であってもよい。
【0035】
この自動車1の場合、エンジン2は車体の前側に配置されており、駆動輪4Rは車体の後側に配置されている。すなわち、この自動車1は、いわゆるFR車である。更にこの自動車1の場合、駆動源としては、駆動モータ3よりもエンジン2が主体となっており、駆動モータ3は、エンジン2の駆動をアシストする形で利用される(いわゆるマイルドハイブリット)。駆動モータ3はまた、駆動源としてだけでなく、回生時には発電機としても利用される。
【0036】
自動車1には、エンジン2、駆動モータ3の他、駆動系の装置として、中継クラッチ5、インバータ6、変速機8、デファレンシャルギア9、バッテリ10などが備えられている。自動車1にはまた、制御系の装置として、エンジンコントロールユニット(ECU)20、モータコントロールユニット(MCU)21、変速機コントロールユニット(TCU)22、ブレーキコントロールユニット(BCU)23、総合コントロールユニット(GCU)24などが備えられている。エンジン回転センサ50、モータ回転センサ51、電流センサ52、磁力センサ53、アクセルセンサ54、変速機センサ55なども、制御系の装置に付随して自動車1に設置されている。
【0037】
(駆動系の装置)
エンジン2は、例えばガソリンを燃料に使用して燃焼を行う内燃機関である。エンジン2はまた、吸気、圧縮、膨張、排気の各サイクルを繰り返すことで回転動力を発生させる、いわゆる4サイクルエンジンである。エンジン2には、ディーゼルエンジン等、様々な種類や形態があるが、開示する技術では、特にエンジンの種類や形態は限定しない。
【0038】
この自動車1では、エンジン2は、回転動力を出力する出力軸を、車体の前後方向に向けた状態で、車幅方向の略中央部に配置されている。自動車1には、吸気システム、排気システム、燃量供給システムなど、エンジン2に付随した様々な装置や機構が設置されているが、これらの図示および説明は省略する。
【0039】
駆動モータ3は、中継クラッチ5を介してエンジン2の後方に直列に配置されている。駆動モータ3は、三相の交流によって駆動する永久磁石型の同期モータである。図2に簡略化して示すように、駆動モータ3は、大略、モータケース31、シャフト32、ロータ33、ステータ34などで構成されている。
【0040】
モータケース31は、その内部に、前端面および後端面が封止された円筒状のスペースを有する容器からなり、自動車1の車体に固定されている。ロータ33およびステータ34は、モータケース31に収容されている。シャフト32は、その前端部および後端部の各々をモータケース31から突出させた状態で、モータケース31に回転自在に軸支されている。
【0041】
シャフト32の前端部と、エンジン2の出力軸との間に介在するように、中継クラッチ5が設置されている。中継クラッチ5は、エンジン2の出力軸とシャフト32とが連結された状態(締結状態)と、エンジン2の出力軸とシャフト32とが分離した状態(非締結状態)とに切り替え可能に構成されている。
【0042】
シャフト32の後端部は変速機8の入力軸80に連結されている。なお、シャフト32と変速機8の入力軸80との間に、第2の中継クラッチを設けてもよい。
【0043】
ロータ33は、中心に軸孔を有する複数の金属板を積層して構成された円柱状の部材からなる。ロータ33の軸孔にシャフト32の中間部分を固定することで、ロータ33はシャフト32と一体化されている。
【0044】
ロータ33の外周部分には、全周にわたってマグネット35が設置されている。マグネット35は、周方向に異なる磁極、すなわちS極とN極とが等間隔で交互に並ぶように構成されている。マグネット35は、複数の磁極を有する1つの円筒状の磁石で構成してもよいし、各磁極を構成する複数の弧状の磁石で構成してもよい。
【0045】
この駆動モータ3では、更に、マグネット35が、磁力の大きさを大小に可変できるように構成されている(磁力可変磁石35)。通常、この種の駆動モータ3には、保磁力(抗磁力)が大きく、磁力が長期にわたって保持できる磁石(永久磁石)が使用される。この駆動モータ3では、磁力を比較的容易に変更できるように、保持力の小さい永久磁石が磁力可変磁石35として使用される。
【0046】
永久磁石には、例えば、フェライト磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石など様々な種類があり、保持力も様々である。磁力可変磁石35の種類や素材は、仕様に応じて選択可能であり、特に限定されない。
【0047】
ロータ33の周囲には、僅かな隙間(ギャップ)を隔てて円筒状のステータ34が設置されている(インナーロータ型)。ステータ34は、複数の金属板を積層して構成されたステータコア34aと、そのステータコア34aに電線を巻回して構成された複数のコイル36とを有している。
【0048】
ステータコア34aには、内側に放射状に張り出す複数のティース34bが設けられていて、これらティース34bに電線を所定の順序で巻き掛けることで複数のコイル36が形成されている。これらコイル36は、U相、V相、およびW相からなる三相のコイル群を構成している。
【0049】
各相のコイル群に通電するため、モータケース31の外側に、各相のコイル群の各々から接続ケーブル36aが導出されている。これら接続ケーブル36aは、インバータ6を介して、駆動電源として車載されているバッテリ10と接続されている。この自動車1の場合、バッテリ10は、定格電圧が50V以下、具体的には48Vの直流バッテリが用いられている。
【0050】
バッテリ10は、インバータ6に直流電力を供給する。インバータ6は、その直流電力を3相の交流に変換して駆動モータ3に通電する。それにより、ロータ33が回転駆動され、シャフト32を介して、変速機8に駆動モータ3のパワー(回転動力)が出力される。
【0051】
この自動車1の場合、変速機8は、多段式自動変速機(いわゆるAT)である。図1に示すように、変速機8はその一方の端部に入力軸80を有し、その入力軸80が駆動モータ3(シャフト32)と連結されている。変速機8の他方の端部には、入力軸80から独立した状態で回転する出力軸81を有している。これら入力軸80と出力軸81との間には、トルクコンバータ84、複数の遊星歯車機構82、および複数の変速機クラッチ83(ブレーキを含む)などからなる変速機構が組み込まれている。
【0052】
これら変速機構を切り替えることにより、前進または後進の切り替えや、変速機8の入力軸80と出力軸81との間で異なる回転数に変更、つまり変速比の切り替えができるように構成されている。
【0053】
例えば、各変速機クラッチ83の入力側83aは、トルクコンバータ84を介して入力軸80と連結可能に構成されている。各変速機クラッチ83の出力側83bは、対応した遊星歯車機構82を介して出力軸81と連結されている。そして、特定の変速機クラッチ83が選択されてその変速機クラッチ83が締結されると、その変速機クラッチ83およびそれに対応した遊星歯車機構82を介して、変速機の入力軸80と出力軸81とが連結される。それにより、変速比等が切り替わる。
【0054】
出力軸81は、車体の前後方向に延びて出力軸81と同軸に配置されているプロペラシャフト11を介してデファレンシャルギア9に連結されている。デファレンシャルギア9には、車幅方向に延びて、左右の駆動輪4R,4Rに連結された一対の駆動シャフト13,13が連結されている。プロペラシャフト11を通じて出力される回転動力は、デファレンシャルギア9で振り分けられた後、これら一対の駆動シャフト13,13を通じて各駆動輪4Rに伝達される。各車輪4F,4F,4R,4Rには、その回転を制動するために、ブレーキ14が取り付けられている。
【0055】
(制御系の装置)
自動車1には、運転者の操作に応じて、その走行をコントロールするために、上述した、ECU20、MCU21、TCU22、BCU23、およびGCU24の各ユニットが設置されている。これらユニットの各々は、プロセッサ、メモリ、インターフェースなどのハードウエアと、データベースや制御プログラムなどのソフトウエアとで構成されている。これらユニットの各々は、例えばCAN(Controller Area Network)によって接続されていて、互いに電気通信可能に構成されている。
【0056】
ECU20は、エンジン2の作動を主に制御するユニットである。MCU21は、駆動モータ3の作動を主に制御するユニットである。TCU22は、変速機8の作動を主に制御するユニットである。BCU23、ブレーキ14の作動を主に制御するユニットである。GCU24は、これらECU20、MCU21、TCU22、BCU23と電気的に接続されていて、これらを総合的に制御する上位ユニットである。
【0057】
開示する技術における「制御装置」は、これらユニットによって構成されている。特に、駆動モータ3の作動を主に制御するMCU21、および、変速機8の作動を主に制御するTCU22が、その制御装置の主体を構成している。これらユニットが協働することにより、後述するマイクロスリップ制御などが実行される。
【0058】
エンジン回転センサ50は、エンジン2に取り付けられており、エンジン2の回転数を検出してECU20に出力する。モータ回転センサ51は、駆動モータ3に取り付けられており、駆動モータ3の回転数や回転位置を検出してMCU21に出力する。電流センサ52は接続ケーブル36aに取り付けられており、各コイル36に通電される電流値を検出してMCU21に出力する。
【0059】
磁力センサ53は、駆動モータ3に取り付けられており、磁力可変磁石35の磁力を検出してMCU21に出力する。アクセルセンサ54は、運転者が自動車1を駆動する時に踏み込むアクセルのペダル(アクセルペダル15)に取り付けられており、自動車1の駆動に要求される出力に相当するアクセル開度を検出してECU20に出力する。変速機センサ55は、各変速機クラッチ83の回転数および締結トルク、出力軸81の回転数などを検出してTCU22に出力する。
【0060】
これらセンサから入力される検出値の信号に基づいて、各ユニットが協働して駆動系の各装置を制御することで、自動車1が走行する。例えば、自動車1がエンジン2の駆動力で走行する時には、アクセルセンサ54およびエンジン回転センサ50の検出値に基づいて、ECU20がエンジン2の運転を制御する。
【0061】
そして、TCU22は、中継クラッチ5が締結状態になるように制御するとともに、変速機8の変速機構を自動車1の運転状態に応じて切り替える。自動車1の制動時には、BCU23が各ブレーキ14を制御する。回生による制動時には、TCU22は、中継クラッチ5は非締結状態ないし部分締結状態となるように制御するとともに、変速機8の所定の変速機クラッチ83を締結する。そうして、MCU21は、駆動モータ3で発電し、その電力がバッテリ10に回収されるように制御する。
【0062】
<駆動モータの制御>
MCU21は、駆動モータ3が単独で出力する状態で、あるいは、必要に応じてエンジン2の出力をアシストする状態で、駆動モータ3が出力するパワーを使用して自動車1が走行するように制御する。
【0063】
具体的には、アクセルセンサ54、エンジン回転センサ50等の検出値に基づいて、ECU20が、エンジン2で出力するトルクを設定する。それに伴って、予め設定されたエンジン2と駆動モータ3との間での出力の分配比率に従って、GCU24が、所定の出力範囲で、駆動モータ3に対するトルクの要求量(要求トルク)を設定する。MCU21は、その要求トルクが出力されるように駆動モータ3を制御する。
【0064】
図3に、MCU21およびこれに関連する主な入出力装置を示す。MCU21には、機能的な構成として、モータ出力制御部21aおよび磁化制御部21bが、そのハードウエアおよびソフトウエアによって設けられている。モータ出力制御部21aは、駆動モータ3の駆動を制御する機能を有し、コイル36に流れる駆動電流を制御することにより、駆動モータ3に、要求されたパワーを出力させる。
【0065】
一方、磁化制御部21bは、駆動モータ3の力率を高める機能を有し、コイル36に流れる磁化電流を制御することにより、磁力可変磁石35の磁力を変更する。具体的には、磁力可変磁石35の磁力が、駆動電流によってコイル36に発生する電磁力と略一致するように、磁力可変磁石35の磁力を変更する。
【0066】
力率とは、皮相電力(駆動モータ3に供給される電力)に対する有効電力(実際に消費される電力)の割合である。力率が低いと、同じ出力を得るのに大きな電流を通電する必要があるため、それだけモータが大型化する。従って、駆動モータ3の力率を高めることで、駆動モータ3を軽量かつコンパクトにできる。また、力率が高まれば、回生時の発電力も高めることができる。
【0067】
(駆動モータの出力範囲)
図4に、駆動モータ3の出力範囲を例示する。回転数別のトルク(負荷)の上限値を示す負荷上限ラインによって、出力範囲が画定されている。
【0068】
具体的には、所定の回転数(r1)までの低回転領域では、トルクの上限値は最大(T2)に保持される。低回転領域より回転数の高い中回転領域および高回転領域では、回転数がその上限値(r2)に達するまで、トルクの上限値は次第に逓減している。
【0069】
MCU21には、このような出力範囲を画定するマップやテーブルなどのデータが予め設定されている。モータ出力制御部21aは、そのデータを参照することにより、その出力範囲で駆動モータ3を制御する。
【0070】
更に、この駆動モータ3の出力範囲は、複数の磁化領域に区画されている。そして、これら磁化領域の各々に応じて、磁化制御部21bが磁力可変磁石35の磁力を変更するように構成されている。
【0071】
図4に示すように、本実施形態では、駆動モータ3の出力範囲が第1~第4の4つの磁化領域Rmに区画されている。具体的には、低回転側に偏在してトルクの最大値T2を含む高負荷の第1磁化領域Rm1、低回転側から高回転側に拡がるとともに、第1磁化領域Rm1よりも低負荷で中回転にトルクのピークを有する第2磁化領域Rm2、第2磁化領域Rm2よりも低負荷でトルクのピークが高回転側にシフトした第3磁化領域Rm3、第3磁化領域Rm3よりも低負荷で、駆動モータ3が空運転するトルク(自動車1の走行に寄与しないトルク)T1を含む第4磁化領域Rm4とに区画されている。
【0072】
磁化領域Rmの各々には、それぞれの出力に対応して、高力率化が図れる最適な磁力値(磁力最適値)が設定されている。例えば、第1磁化領域Rm1では、磁力可変磁石35の初期状態での磁力が磁力最適値として設定されている(第1磁力最適値)。第2磁化領域Rm2では、第1磁力最適値よりも低い磁力最適値が設定されている(第2磁力最適値)。そして、第3磁化領域Rm3では、第2磁力最適値よりも低い第3磁力最適値が設定され、第4磁化領域Rm4では、第3磁力最適値よりも低い第4磁力最適値が設定されている。
【0073】
磁化制御部21bは、自動車1の運転状態に基づいて最適な磁化領域Rmを予測し、磁化領域Rmが隣接している他の磁化領域Rmに移行する場合には、磁力可変磁石35の磁力を、その磁化領域Rmに対応した磁力最適値に変更する。例えば、第1磁化領域Rm1から第2磁化領域Rm2に移行する場合には、駆動モータ3において減磁処理が実行され、磁力可変磁石35の磁力が、第1磁力最適値から第2磁力最適値に変更される。
【0074】
また例えば、第3磁化領域Rm3から第2磁化領域Rm2に移行する場合には、駆動モータ3において増磁処理が実行され、磁力可変磁石35の磁力が、第3磁力最適値から第2磁力最適値に変更される。
【0075】
(駆動モータの制御の具体例)
図5に、駆動モータ3の制御に関する簡略化したシステム図を示す。図6に、MCU21が行う駆動モータ3の制御の一例を示す。これらを参照しながら、駆動モータ3の具体的な制御の流れについて説明する。なお、駆動モータ3は、トルク電流指令Iqと励磁電流指令Idとを用いたベクトル制御によって制御されている。
【0076】
MCU21は、自動車1が走行可能な状態になると、電流センサ52、モータ回転センサ51、磁力センサ53から、常時、検出値が入力されるようになる(ステップS1)。また、ECU20でも同様に、アクセルセンサ54やエンジン回転センサ50から、常時、検出値が入力されるようになる。
【0077】
GCU24は、ECU20からアクセルセンサ54の検出値を取得し、予め設定されているエンジン2と駆動モータ3との間での出力の分配比率に従って、駆動輪4Rに対して出力するトルクのうち、駆動モータ3に要求するトルク(要求トルク)を設定する。GCU24は、その要求トルクを出力するためのコマンド(トルク指令値T)を、MCU21に出力する。
【0078】
すなわち、MCU21では、駆動モータ3の出力を、所定の目標トルクに基づいて制御する(いわゆるトルク制御)。トルク制御により、駆動モータ3が出力するトルク(モータトルク)は、目標トルクと一致するように制御される。従って、この自動車1が走行している時に上述したコマンドが入力されると、MCU21は、その要求トルクを目標トルクとして、駆動モータ3を制御する。駆動モータ3のトルク制御により、自動車1は、ドライバーの要求に応じて走行する。
【0079】
この自動車1が走行している時にはまた、上述したように、磁化領域Rmを移行する時にトルク制御が中断されて、駆動モータ3のコイル36に高電圧を印加する制御が実行される(磁力変更制御)。磁力変更制御により、磁力可変磁石35の磁力は変更される。
【0080】
具体的には、MCU21(モータ出力制御部21a)は、トルク指令値Tが入力されると(ステップS2でYes)、そのトルクを発生させる駆動電流(トルク電流成分)の変化量を出力するコマンド(駆動電流指令値Idq)の演算処理を実行する(ステップS3)。また、MCU21(磁化制御部21b)は、適切な磁化領域Rmに対応した磁力最適値を出力するコマンド(磁化状態指令値Φ)の演算処理を実行する(ステップS4)。磁化制御部21bは、磁化状態指令値Φに基づいて、磁力可変磁石35の磁力の変化量に相当するトルク電流成分を出力するコマンド(磁力電流指令値Idq)の演算処理を実行する(ステップS5)。
【0081】
MCU21は、演算した駆動電流指令値Idqと磁力電流指令値Idqとに基づいて、磁力可変磁石35の磁力の変更が必要か否かを判定する(ステップS6)。例えば、上述したように、要求されたトルクを出力すると、磁化領域Rmが他の磁化領域Rmに移行する場合には、磁力可変磁石35の磁力の変更が必要と判定し、要求されたトルクを出力しても、同じ磁化領域Rmに位置する場合には、磁力可変磁石35の磁力の変更は不要と判定する。
【0082】
そして、MCU21は、磁力可変磁石35の磁力の変更は不要と判定した場合、出力するトルクが、駆動モータ3が空運転するトルクT1より大きいか否かを判定する(ステップS7)。そして、MCU21は、出力するトルクがトルクT1より大きい場合には、通常のベクトル制御によって駆動モータ3を制御する。
【0083】
すなわち、モータ出力制御部21aが、電流制御により、電流センサ52およびモータ回転センサ51の検出値に基づいて、PWM制御を行うために出力するコマンド(電圧指令値Vuvw)の演算処理を実行する(ステップS8)。そして、PWM制御により、スイッチング指令値が演算される(ステップS9)。
【0084】
そのスイッチング指令値が、ドライバ回路を通じてインバータ6に出力されることにより、インバータ6の内部で、複数のスイッチング素子がオンオフ制御される。それにより、所定の3相の交流(駆動電流)が各コイル群に通電されて、駆動モータ3が、要求されたトルクで回転する(ステップS10)。
【0085】
一方、MCU21が、磁力可変磁石35の磁力の変更が必要と判定した場合には(ステップS6でNo)、磁化制御部21bによって磁力変更制御が実行される(ステップS11)。
【0086】
また、MCU21が、磁力可変磁石35の磁力の変更は不要と判定した場合でも、出力するトルクが、駆動モータ3が空運転するトルクT1以下と判定した場合には(ステップS7でNo)、磁化制御部21bによって磁力変更制御が実行される(ステップS11)。
【0087】
すなわち、駆動モータ3の回転動力の要求量が、ほとんど0(ゼロ)となった場合には、磁力可変磁石35は、その磁力が初期状態に変更される(リセット)。自動車1の場合、例えば、アイドリング状態や停止状態から、一気にアクセルペダル15が踏み込まれて急加速するような場合がある。
【0088】
磁力可変磁石35の場合、初期状態の磁力が高負荷に合わせて高く設定されているので、空運転時に磁力をリセットすることで、そのような急加速が行われた場合でも、駆動モータ3を適切に駆動することができる。
【0089】
図7に、磁力変更制御の主な処理の流れを示す。磁化制御部21bは、磁力変更制御が要求されると、磁化状態指令値Φに基づいて、磁化処理の方向を判定する。すなわち、磁力可変磁石35の磁力を増やす処理(増磁処理)を実行するのか、磁力可変磁石35の磁力を減らす処理(減磁処理)を実行するのかを判定する。磁化制御部21bは更に、その増減する磁力の変化量を特定する。
【0090】
そして、磁化制御部21bは、モータ回転センサ51の検出値に基づいて、ロータ33のステータ34に対する位置(回転方向の位置)が、磁化処理に適した位置にあるか否かを判定し(ステップS21)、ロータ33が適正な位置に位置する時に、磁化電流を出力する(ステップS22)。磁化電流は、磁力可変磁石35の保磁力よりも大きな電磁力を発生させるパルス状の電流である。増磁処理と減磁処理とでは、電磁力の磁力線の向きは逆になる。
【0091】
磁化制御部21bは、磁力可変磁石35の磁力が、磁化状態指令値Φによって指示された磁力最適値と略同じか否かを判定し(ステップS23)、磁力可変磁石35の磁力がその磁力最適値と略同じになるまで、磁化処理を実行する。磁力可変磁石35の磁力をリセットする場合には、初期の磁力と略同じになるまで、磁化処理を実行する。
【0092】
そして、磁力可変磁石35の磁力が、その磁力最適値または初期の磁力と略同じになれば、磁力変更制御を終了し、図6に示すように、通常のベクトル制御によって駆動モータ3を制御する(ステップS8~S10)。
【0093】
<クラッチのスリップ>
上述したように、この自動車1では、自動車1が走行している時にも、磁力変更制御が実行される。自動車1の走行中、増磁する方向への磁力変更制御(増磁制御)を実行すると、走行している自動車1にトルクショックが発生し、ドライバーに違和感を与える懸念がある。
【0094】
図8の上図に、増磁制御時におけるモータトルクTmの経時変化を例示する。この例示では、時間t1からt1’の期間に増磁処理が実行されている。そして、t1’からt2の期間は、磁力の変更を確認するとともに、駆動用の電流値(q軸電流の値)が、増磁後の磁力に対応するように学習させる制御(学習制御)を実行し、モータトルクTmを要求トルクに一致させる期間である。学習制御は、増磁に伴う制御であり、増磁制御に含まれる。Taは要求トルクである。自動車1の走行中、駆動モータ3はトルク制御されているため、増磁制御の実行前のモータトルクTmは、要求トルクTaと一致している。
【0095】
Ttは、変速機8におけるクラッチ締結トルクである。クラッチ締結トルクTtは、変速機8の入力軸80と出力軸81とを連結している変速機クラッチ83の締結トルクであり、その変速機クラッチ83がその出力側83bに伝達可能なトルクに相当する。モータトルクTmを確実に駆動輪4Rに伝達させるため、通常、クラッチ締結トルクTtは、要求トルクTaよりも高い値となるように制御(第1クラッチ制御)されている。
【0096】
増磁制御時には、大きな電磁力を発生させるために、コイル36に磁化電流(d軸電流)が通電される。それにより、駆動モータ3に、駆動電圧を大きく上回る高電圧が印加される。そのため、図8の上図に示すように、増磁制御時には、要求トルクTaを大きく上回るピーク状の高いモータトルクTmが、駆動モータ3から出力される。その結果、走行している自動車1にトルクショックが発生し、ドライバーに違和感を与える懸念がある。
【0097】
そこで、このようなトルクショックを抑制するため、この自動車1では、MCU21がTCU22と協働して、増磁制御(それに伴う学習制御も含む)時に、変速機クラッチ83をスリップさせる。具体的には、クラッチ締結トルクTtが要求トルクTaと一致するように制御(第2クラッチ制御)する。
【0098】
図9に、TCU22およびこれに関連する主な入出力装置を示す。TCU22には、機能的な構成として、中継クラッチ制御部22aと変速機クラッチ制御部22bとが、そのハードウエアおよびソフトウエアによって設けられている。中継クラッチ制御部22aは、中継クラッチ5の作動を制御する。変速機クラッチ制御部22bは、変速機クラッチ83の各々の作動を制御する。第1クラッチ制御および第2クラッチ制御は、変速機クラッチ制御部22bによって実行される。
【0099】
変速機クラッチ制御部22bは、GCU24から磁力変更制御の実行に関する情報を取得すると、それに応じて、使用している変速機クラッチ83の作動を制御する。具体的には、変速機クラッチ制御部22bは、図8の下図に示すように、増磁制御の開始(時間t1)の直前(時間t0)に、第1クラッチ制御から第2クラッチ制御に切り替える。それにより、クラッチ締結トルクTtを低下させる。その結果、変速機クラッチ83はスリップする。
【0100】
このとき、クラッチ締結トルクTtは要求トルクと一致するように制御される。第2クラッチ制御を実行することで、駆動モータ3から高いモータトルクTmが出力されても、要求トルクを上回るトルクは駆動輪4Rに伝達しないようにできる。その結果、増磁に起因したトルクショックを抑制できる。
【0101】
<第2クラッチ制御における課題とその解決手段>
変速機クラッチ83をスリップさせると、駆動モータ3の回転が急増するという現象が発生する(いわゆる「吹き上がり」)。
【0102】
図10に、増磁制御時におけるモータトルクTmとモータ回転数Rmとの関係を示す。なお、ここではエンジン2の出力は考慮しないため、モータ回転数Rmは、変速機8の入力軸80の回転数でもある。また、モータトルクTmは、変速機8に入力されるトルク(変速機クラッチ83の入力側83aのトルク:変速機入力トルク)に相当する。クラッチ締結トルクTtは、要求トルクと一致するように制御されるので、変速機8から出力されるトルク(変速機クラッチ83の出力側83bのトルク:変速機出力トルク)に相当する。
【0103】
増磁制御の実行前の駆動モータ3は、所定の回転数Raで回転している。そして、この時、使用されている変速機クラッチ83は締結されているため、その変速機クラッチ83の入力側83aおよび出力側83bの双方もまた、回転数Raで回転している。なお、変速機8の出力軸81は、その変速機クラッチ83に対応した遊星歯車機構82によって変速された回転数で回転している。
【0104】
図10に示すように、増磁制御時に変速機クラッチ83をスリップさせると、駆動モータ3が空回りする状態になるので、モータ回転数Rmは、要求トルクTaに対応した回転数Raから一気に増加する。学習制御時も更に増加し、モータ回転数Rmは、高止まりした状態になる。この吹き上がり現象は、速やかに解消しないと、スリップによる摩擦熱によって変速機クラッチ83が損傷するおそれがある。
【0105】
更に、トルク制御では、その時の回転数に応じて、目標トルク(要求トルクTa)と一致するようにモータトルクTmを制御する。従って、吹き上がり現象によって回転数が増加した後は、その回転数が維持された状態になる。つまり、従来のトルク制御だけでは、吹き上がり現象は解消できない。
【0106】
吹き上がり現象を速やかに解消する対策として、増磁制御の直後に、要求トルクTaに一致させていたクラッチ締結トルクTtを大きくすることが考えられる。スリップが減少するので、モータ回転数Rmが低下して、吹き上がり現象を解消できる。しかし、そうすると、その反動で高いモータトルクTmが駆動輪4Rに伝わることになるため、トルクショックが発生する。
【0107】
また、別の対策として、増磁制御の直後に、トルク制御における目標トルクを要求トルクTaよりも小さくし、モータトルクTmそれ自体を小さくすることが考えられる。そうすれば、モータ回転数Rmが低下するので、吹き上がり現象を解消できる。
【0108】
しかし、そうすると、モータ回転数Rmが当初の回転数Raよりも低下する場合がある。その場合、吹き上がり現象の解消後に、トルク制御によってモータトルクTmが要求トルクに復帰しても、モータ回転数Rmは当初の状態には戻らない。駆動モータ3のパワー不足により、ドライバーに違和感を与える懸念がある。
【0109】
そこで、先に提案した技術では、増磁制御の後に、駆動モータ3から出力されるパワーに基づいてモータトルクTmを制御するパワー制御を実行し、駆動モータ3が出力するトルクおよび回転数を早期に収束できるように工夫した。しかしながら、その技術では、変速機クラッチ83の性能によっては、トルクショックが発生してドライバーに違和感を与える可能性があり、改善の余地があることを見出した。
【0110】
<変速機クラッチの摩擦係数差の問題>
一般に、変速機クラッチ83の動摩擦係数(μd)は、静摩擦係数(μs)と同等になるように設定されている。
【0111】
変速機クラッチ83の締結時には、摩擦係数が動摩擦係数から静摩擦係数に切り替わる。動摩擦係数と静摩擦係数とが同等であれば、増磁制御に伴う変速機クラッチ83の締結時にドライバーに違和感を与えるトルクショックは発生しない。従って、先に提案した技術においても問題はない。
【0112】
ところが、変速機クラッチ83によっては、静摩擦係数に比べて動摩擦係数が低く、その差が大きい場合があり得る。そのような場合、先に提案した技術においても、増磁制御に伴う変速機クラッチ83の締結時にトルクショックが発生し、ドライバーに違和感を与える懸念がある。
【0113】
この点、図11を参照して具体的に説明する。図11の下図は、変速機クラッチ83の入力側83aと出力側83bの差回転数の経時変化を表しており、t1で増磁制御が開始されている。変速機クラッチ83の動摩擦係数と静摩擦係数とに差がある場合、トルク制御としては、動摩擦係数に合わせた制御(μd合わせ制御)と、静摩擦係数に合わせた制御(μs合わせ制御)とが考えられる。
【0114】
図11の上図は、μd合わせ制御を表している。図11の中図は、μs合わせ制御を表している。これら図において、破線は変速機入力トルクTmに相当し、実線は変速機出力トルクTtに相当する。μd合わせ制御では、動摩擦係数(μd)に基づいて制御されるので、目標とされる変速機入力トルクTmは、変速機クラッチ83に作用する油圧(押付力)に動摩擦係数を乗じた値となる。一方、μs合わせ制御では、静摩擦係数(μs)に基づいて制御されるので、目標とされる変速機入力トルクTmは、変速機クラッチ83に作用する油圧(押付力)に静摩擦係数を乗じた値となる。
【0115】
μd合わせ制御において、増磁制御の開始に伴って変速機クラッチ83がスリップし始めると、差回転数の増加に伴って変速機出力トルクTtも、その上限(押付力に静摩擦係数を乗じた値)まで増加する。この変速機出力トルクTtの変動(飛び出しショック)が人の感知レベルを超えると、ドライバーに違和感を与え得る。
【0116】
また、μs合わせ制御において、増増磁制御の開始に伴って変速機クラッチ83がスリップし始めると、摩擦係数の切り替わりに伴って変速機出力トルクTtは、押付力に動摩擦係数を乗じた値まで減少する。増磁制御が終了して変速機クラッチ83が再度締結されるまで、その状態が保持される。この間の変速機出力トルクTtの変動(引き込みショック)が人の感知レベルを超えると、ドライバーに違和感を与え得る。
【0117】
いずれの制御においても、変速機クラッチ83の静摩擦係数と動摩擦係数との差が大きい場合には、増磁制御に伴って摩擦係数差に起因したトルクショックが発生し、ドライバーに違和感を与えるおそれがある。
【0118】
油圧制御によって締結時の変速機クラッチ83の押付力を調整することにより、そのトルクショックを抑制することも考えられる。ところが、油圧制御は応答性が低く、瞬時には対応できない。応答性の低い油圧制御で、不規則な増磁制御に伴うトルクショックを安定して抑制することは容易でない。
【0119】
そこで、この制御装置では、駆動モータの磁力変更、詳細には増磁制御に伴って発生し得る許容できないトルク変動を、変速機クラッチ83の制御によって抑制できるように工夫した。
【0120】
具体的には、先に提案した技術と同様に、自動車1の走行時には、トルク制御とともに第1クラッチ制御を実行する。そして、自動車1の走行時に増磁制御を実行する時には、その増磁制御の実行前に、第1クラッチ制御から第2クラッチ制御に変更する。すなわち、変速機クラッチ83をスリップさせることにより、増磁に起因して発生するトルクショックを抑制する。
【0121】
そして、この制御装置では、変速機クラッチ83の動摩擦係数および静摩擦係数に基づいて要求トルクに所定のスリップトルクを追加し、新たな要求トルク(微増要求トルク)を設定する。そして、第2クラッチ制御への変更とともに(つまり増磁制御の実行前に)、その微増要求トルクに基づいて、変速機クラッチ83を締結状態から微少スリップ状態にさせる制御(マイクロスリップ制御)を開始する。
【0122】
すなわち、変速機クラッチ83の差回転数が急増するタイミング(増磁の開始時)で、変速機クラッチ83を締結状態から非締結状態に切り替えるのではなく、その前に、変速機クラッチ83が僅かにスリップする状態(微少スリップ状態)に切り替える。それにより、差回転数の小さい条件の下で、前もって摩擦係数を静摩擦係数から動摩擦係数に切り替えることができるので、摩擦係数差に起因して発生するトルクショックを抑制できる。
【0123】
微少スリップ状態は、変速機クラッチ83が完全には締結しておらず、摩擦係数が静摩擦係数から動摩擦係数に切り替わっていればよい。第2クラッチ制御への変更により、クラッチ締結トルクは要求トルクに一致する。従って、要求トルクに追加するスリップトルクは、微少スリップ状態を生じさせるために必要十分なトルクであればよい。
【0124】
マイクロスリップ制御の実行中は、トルク制御に代えてパワー制御を実行するのが好ましい。更には、増磁制御の実行後に、変速機クラッチ83の入力側83aの回転数と出力側83bの回転数との差に基づいてフィードバック制御を実行し、パワー制御の実行中に微少スリップ状態に収束させるのが、より好ましい。
【0125】
そうすれば、駆動モータ3が出力するトルクとともにその回転数もバランスよく調整することができ、吹き上がり現象を速やかに解消できる。従って、増磁後に短時間で駆動モータ3を元の状態に復帰できる。
【0126】
<マイクロスリップ制御に伴うパワー制御およびフィードバック制御>
パワー制御では、駆動輪4Rから出力されるパワー、つまり駆動輪4RのトルクTおよび回転数Rの乗算値が、所定の目標とするパワー値(目標パワー値)となるように、トルクの制御を実行する。
【0127】
すなわち、パワー制御では、要求トルクTaではなく、目標パワー値に対応したモータトルクTmを目標トルクとするトルク制御が実行される。目標パワー値が一定であれば、吹き上がり現象のピーク時のように、モータ回転数Rmが高いと、それに応じて目標トルクは低くなり、吹き上がり現象が弱まって、モータ回転数Rmが低くなれば、目標トルクは高くなる。従って、パワー制御によれば、トルク制御と異なり、回転数およびトルクの双方をバランスよく調整することができる。
【0128】
ここでの目標パワー値は、変速機クラッチ83が微少スリップ状態になる値である。それにより、マイクロスリップ制御の実行中に、駆動モータ3のトルクおよび回転数の双方をバランスよく調整して、微少スリップ状態に安定して収束させることができる。
【0129】
具体的には、ここでの目標パワー値は、微増要求トルクに回転数を乗じた値とされる。例えば、要求トルクTaに駆動モータ3の実回転数を乗じた値に、例えば105%など、所定のスリップ率を乗じることで、目標パワー値を設定できる。
【0130】
目標パワー値は、要求トルクTaに実回転数と所定のスリップ率を乗じた値である。そのため、パワー制御は、トルク制御の付加的な制御であり、トルク制御と相性が良い。従って、これら制御は、互いに円滑かつ容易に切り替えることができ、制御の安定性に優れる。
【0131】
増磁制御の実行後は、パワー制御により、モータトルクTmは低下し、モータ回転数Rmも減少する。ただし、このときのモータ回転数Rmは、トルクの変化に応じて、受動的に変化する。そのため、モータ回転数Rmは、緩やかに減少していく。従って、モータ回転数Rmが微少スリップ状態の回転数(微少スリップ回転数)に収束するまでには、比較的長い時間を要する。
【0132】
そこで、増磁制御の実行後に、使用している変速機クラッチ83の入力側83aの回転数と出力側83bの回転数との差(差回転数)に基づいてフィードバック制御を実行し、パワー制御の実行中に微少スリップ状態に収束させる。
【0133】
フィードバック制御が開始されると、速やかに微少スリップ状態となるように、差回転数に応じて、トルク制御のゲイン調整が行われる。それにより、変速機クラッチ83を、当初の微少スリップ状態に速やかに収束させることができる。
【0134】
<遷移制御>
更に、マイクロスリップ制御の開始時および/または終了時には、油圧制御を利用した協調制御を行うのが好ましい。具体的には、マイクロスリップ制御の前後における変速機クラッチ83の状態変化に伴って発生するトルク変化(トルクショック)が相殺されるように、トルクの調整とともに、変速機クラッチ83の油圧を調整する制御(遷移制御)を実行する。
【0135】
例えば、マイクロスリップ制御の開始時には、変速機クラッチ83は、締結状態から微少スリップ状態に変化する。マイクスリップ制御の終了時には、変速機クラッチ83は、微少スリップ状態から締結状態に変化する。これら変速機クラッチ83の状態変化に伴って、変速機クラッチ83の摩擦係数差に起因したトルク変化が発生する。
【0136】
出力されるトルクが不規則で事前に特定が困難な増磁制御とは異なり、マイクロスリップ制御で増減されるスリップトルクは予め設定された値である。マイクロスリップ制御の開始時または終了時の摩擦係数の切り替わりに伴って発生するトルク変化は、そのスリップトルクによって定まるので、応答性に劣る油圧制御であっても、そのトルク変化に応じて調整できる。
【0137】
例えば、スリップトルクの増減に伴うトルク変化を相殺できる油圧制御の条件を、予備試験等によって設定し、それに基づいて変速機クラッチ83の油圧(押付力)を調整する。そうすれば、マイクロスリップ制御に伴って発生する摩擦係数差に起因した微少なトルクショックも抑制できる。その結果、ほぼショックレスな状態で駆動モータ3の磁力変更が可能になる。
【0138】
<具体的な制御例>
図12図13図14に、マイクロスリップ制御に関する具体的な制御例を示す。図12は、増磁制御の前後における主な諸元のタイムチャートである。図13および図14は、制御装置が行う図12に対応した制御のフローチャートである。
【0139】
図12において、上段はトルクに関するタイムチャートである。実線は変速機入力トルク(モータトルクTm)を、破線は変速機出力トルクを、それぞれ表している。
【0140】
中段は変速機8の油圧(変速機クラッチ83の押付力)に関するタイムチャートである。下段は差回転数に関するタイムチャートである。使用されている変速機クラッチ83の入力側83aの回転数と出力側83bの回転数との差を表している。
【0141】
図13に示すように、MCU21は、増磁制御が実行されるか否かを判定する(ステップS30)。そして、増磁制御が実行されると判定した場合、TCU22は、第1クラッチ制御から第2クラッチ制御に変更する(ステップS31)。それにより、クラッチ締結トルクTtは要求トルクTaに一致した状態になる。
【0142】
TCU22はまた、その後に実行される遷移制御に合わせて油圧の調整を開始する(ステップS32)。具体的には、変速機8に供給する油圧を、事前に、予め設定されている所定の設定油圧Ptまで低下させる。
【0143】
そして、油圧がその設定油圧Ptになった状態で(図12におけるt0)、MCU21は、トルク制御を中断し、遷移制御のトルク調整を開始する(ステップS33)。すなわち、使用している変速機クラッチ83が締結状態から微少スリップ状態となるように、スリップトルクを加えることによって要求トルクTaを微増要求トルクTa’に変更する。
【0144】
それに伴い、変速機クラッチ83は微少スリップを開始し、差回転数が増加する(図12におけるt0~t1)。摩擦係数は静摩擦係数から動摩擦係数に切り替わるので、それに伴って変速機出力トルクが減少する。なお、この制御例ではトルク制御が上述したμs合わせ制御を行っている場合を表している。
【0145】
TCU22は、その変速機出力トルクの減少が相殺されるように、その変速機出力トルクの減少に合わせて油圧を上昇させる(図12におけるt0~t2)。それにより、摩擦係数差に起因したトルクショックを抑制し、そのトルク変化を人が感知できないレベルに納める。従って、ドライバーに違和感を与えることなく、変速機クラッチ83を締結状態から微少スリップ状態に切り替えることができる。
【0146】
差回転数が微少スリップ状態に対応した回転数Rs(微少スリップ回転数)に達すると(図12におけるt1)、MCU21は、微少スリップ状態を目標としたパワー制御を開始する(ステップS34)。それにより、変速機クラッチ83は、微少スリップ状態に収束し、その状態が保持される。変速機入力トルクは微増要求トルクTa’で安定するとともに差回転数は微少スリップ回転数Rsで安定する(図12におけるt2以降)。油圧も同様に所定の油圧で安定する。
【0147】
変速機クラッチ83が微少スリップ状態になると、MCU21は、増磁制御を開始する(ステップS35)。図12における時間t3からt4の期間が増磁制御に相当する(学習制御を含む)。この間、上述したように、駆動モータ33からは高いモータトルクTmが出力される。それに応じて、モータ回転数Rmが増加し、差回転数も増加する(吹き上がり現象)。
【0148】
それに対し、第2クラッチ制御により、クラッチ締結トルクTtは要求トルクTaに一致している。それにより、増磁制御によって高いモータトルクTmが出力されても、変速機クラッチ83の下流側には、要求トルクTaと略同一の変速機出力トルクが出力される。従って、増磁に起因したトルクショックを抑制できる。
【0149】
増磁制御が終了すると(ステップS36でYes)、変速機入力トルクは減少する。この間もパワー制御が実行されている。パワー制御では、上述したように、目標パワー値に対応した目標トルクによってトルク制御が実行される。従って、増磁制御の終了に伴い、増大した変速機入力トルクは低下し、差回転数も減少する。
【0150】
ただし、このときの差回転数は緩やかに減少していく。そのため、微少スリップ回転数Rsに収束するまでには、比較的長い時間を要する。そこで、MCU21は、TCU22(変速機クラッチ制御部22b)と協働して、パワー制御の実行中にフィードバック制御を開始する。
【0151】
すなわち、図14に示すように、差回転数が基準値Rf未満になると(ステップS37でYes)、フィードバック制御が開始される(ステップS38)。基準値Rfは、変速機8の仕様に応じてTCU22に設定されている。
【0152】
TCU22は、変速機センサ55の検出値に基づいて実測または推測される差回転数を、その基準値Rfと比較する。そして、その差回転数が基準値Rf未満と判定した場合に(図12におけるt5)、微少スリップ状態に収束、つまり差回転数が微少スリップ回転数Rsとなるように、変速機クラッチ83の回転数に関してフィードバック制御を開始する。フィードバック制御の実行により、変速機クラッチ83を、微少スリップ状態に速やかに復帰させることができる。
【0153】
そうして、差回転数が微少スリップ回転数Rsに達すると(ステップS39でYes)、つまり変速機クラッチ83が微少スリップ状態に復帰すると、パワー制御およびフィードバック制御を終了し、遷移制御を開始する(ステップS40、図12におけるt6)。
【0154】
すなわち、MCU21は、変速機クラッチ83が微少スリップ状態から締結状態になるように、スリップトルクを除くことによって微増要求トルクTa’を要求トルクTaに変更する。
【0155】
それに伴い、差回転数は減少する(図12におけるt6~t7)。変速機クラッチ83が締結すると、摩擦係数は動摩擦係数から静摩擦係数に切り替わるので、それに伴って変速機出力トルクが増加する。
【0156】
TCU22は、その変速機出力トルクの増加が相殺されるように、その変速機出力トルクの増加に合わせて油圧を低下させる。それにより、摩擦係数差に起因したトルクショックを抑制し、そのトルク変化を人が感知できできないレベルに納める。従って、ドライバーに違和感を与えることなく、変速機クラッチ83を微少スリップ状態から締結状態に切り替えることができる。
【0157】
これら一連の処理により、吹き上がり現象は解消され、モータトルクTmおよびモータ回転数Rmは、当初の状態に復帰する。変速機クラッチ83も締結状態に復帰する(図12におけるt7)。それにより、MCU21は、トルク制御を再開する(ステップS41)。
【0158】
TCU22は、第2クラッチ制御から第1クラッチ制御に変更する(ステップS42)。それにより、クラッチ締結トルクTtは通常の値まで上昇する(図12におけるt7以降)。TCU22はまた、変速機8に供給する油圧についても通常の値まで上昇させる。それにより、駆動モータ3および変速機8は増磁制御前の状態に復帰する。
【0159】
このように、開示する技術を適用した制御装置によれば、自動車1の走行中に、要求トルクよりも高いモータトルクTmが発生する増磁制御が行われても、第2クラッチ制御により、増磁に起因して発生するトルクショックを抑制できる。そして、変速機クラッチ83のスリップに伴って発生する駆動モータ33の吹き上がり現象も、パワー制御およびフィードバック制御によって速やかに解消できるので、適切な制御状態に円滑に復帰できる。
【0160】
更に、変速機クラッチ83の摩擦係数差に起因して発生するトルクショックについても、マイクロスリップ制御によって抑制できる。従って、変速機クラッチ83の動摩擦係数と静摩擦係数とに大きな差がある場合でも、ドライバーに違和感を与える懸念がない。
【0161】
この制御装置によれば、変速機クラッチ83の性能に左右されることなく、駆動モータ3の磁力変更に伴って発生するトルク変動を抑制できる。変速機クラッチ83の適用範囲が拡充するので、利便性に優れる。
【0162】
なお、開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、駆動モータ3、変速機8などは、多種様々な構成が存在する。自動車1も同様である。従って、これらの構成は、仕様に応じて選択でき、その仕様に応じて開示する技術を適用すればよい。
【符号の説明】
【0163】
1 自動車(電動車両)
2 エンジン
3 駆動モータ3
4R 駆動輪
5 中継クラッチ
8 変速機
10 バッテリ
20 エンジンコントロールユニット(ECU)
21 モータコントロールユニット(MCU)
21a モータ出力制御部
21b 磁化制御部
22 変速機コントロールユニット(TCU)
22a 中継クラッチ制御部
22b 変速機クラッチ制御部
23 ブレーキコントロールユニット(BCU)
24 総合コントロールユニット(GCU)
33 ロータ
34 ステータ
35 マグネット(磁力可変磁石)
80 入力軸
81 出力軸
82 遊星歯車機構
83 変速機クラッチ
83a 入力側
83b 出力側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
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図14