(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153596
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】車両の下部車体構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
B62D25/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062967
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】木▲崎▼ 勇
(72)【発明者】
【氏名】福島 拓人
(72)【発明者】
【氏名】本田 正徳
(72)【発明者】
【氏名】河村 力
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203BB12
3D203CA25
3D203CA37
3D203CA53
(57)【要約】
【課題】車両衝突時に骨格部材に曲げ荷重が入力されたときに当該骨格部材が曲げ変形の抑制とともに確実に座屈しながら衝撃吸収を行うことが可能な車両の下部車体構造を提供する。
【解決手段】車両の下部車体構造は、閉断面を構成する骨格部材2を備える。骨格部材2は、第1部分11および第2部分12を備える。第1部分11は、圧縮面部21と、一対の側面部22とを備える。側面部22は、折曲部24と、折曲部24を起点として折曲部24より圧縮面部21側に位置するとともに曲げ荷重が入力された際に圧縮応力が生じる圧縮側領域25と、折曲部24を起点として折曲部24より圧縮面部21から離れる側に位置するとともに曲げ荷重が入力された際に引張応力が生じる引張側領域26とを備える。圧縮側領域25は、引張側領域26よりも高剛性となるように構成されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一方向に延びる第1部分と第2部分とが協働して閉断面を構成する骨格部材を備えた車両の下部車体構造であって、
前記第1部分は、
前記骨格部材に曲げ荷重が入力された際に圧縮応力が生じる圧縮面部と、
前記圧縮面部の両端部から前記第2部分に向けて延びる一対の側面部と
を備え、
前記一対の側面部は、それぞれ、
前記側面部が前記骨格部材の内側に折曲されることによって形成された折曲部と、
前記折曲部を起点として前記折曲部より前記圧縮面部側に位置するとともに前記曲げ荷重が入力された際に圧縮応力が生じる圧縮側領域と、
前記折曲部を起点として前記折曲部より前記圧縮面部から離れる側に位置するとともに前記曲げ荷重が入力された際に引張応力が生じる引張側領域と
を備え、
前記圧縮側領域は、前記圧縮面部を圧縮させる前記曲げ荷重に対して前記引張側領域よりも高剛性となるように構成されている、
ことを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の下部車体構造において、
前記折曲部における前記圧縮側領域の延長線と前記引張側領域との間の角度は、30度以下に設定されている、
ことを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の下部車体構造において、
前記第1部分および前記第2部分が並ぶ所定方向における前記圧縮側領域の幅は、当該所定方向における前記骨格部材の全幅に対して1/4以下になるように設定されている、
ことを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項4】
請求項3に記載の車両の下部車体構造において、
前記骨格部材は、車体の両側部において車両前後方向に延びるとともに閉断面を有するサイドシルであり、
前記第1部分は、上下一対のフランジ部を有し、前記サイドシルの車幅方向外側の部分を構成するサイドシルアウタであり、
前記第2部分は、上下一対のフランジ部を有し、前記サイドシルの車幅方向内側の部分を構成するサイドシルインナであり、
前記サイドシルアウタの前記フランジ部と前記サイドシルインナの前記フランジ部とが接合されることにより前記サイドシルを構成し、
前記サイドシルアウタおよび前記サイドシルインナのそれぞれの前記フランジ部は、前記サイドシルの断面中心より車幅方向外側に配置されている、
ことを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の下部車体構造において、
前記サイドシルは、前記サイドシルアウタの前記上下一対のフランジ部と前記サイドシルインナの前記上下一対のフランジ部との間に挟まれた状態で当該上下一対のフランジ部の間を連結する連結板部をさらに備える、
ことを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項6】
請求項5に記載の車両の下部車体構造において、
前記連結板部は、車両前後方向において前記サイドシルにおける車体のドア開口部を構成する部分に配置されている、
ことを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項7】
請求項5または6に記載の車両の下部車体構造において、
前記連結板部は、当該連結板部の曲げ強度が前記サイドシルアウタおよび前記サイドシルインナの曲げ強度よりも小さい構成を有する、
ことを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の車両の下部車体構造において、
前記圧縮側領域は、2枚の板材を接合することによって構成されている、
ことを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の車両の下部車体構造において、
前記サイドシルアウタは、前記圧縮側領域の板厚が前記引張側領域の板厚よりも大きくなるように構成されている、
ことを特徴とする車両の下部車体構造。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載の車両の下部車体構造において、
前記一対の側面部の前記折曲部は、前記圧縮面部からの距離が等距離になるように配置されている、
ことを特徴とする車両の下部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の下部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の下部車体構造は、車両の骨格を構成する骨格部材のうち、車両衝突時において曲げ荷重がかかるサイドシルなどの骨格部材では、車両軽量化およびコストダウンの観点から曲げ強度と衝撃吸収とを両立した断面構造(いわゆる、使い切り断面または性能最大化断面)が要求されている。
【0003】
特許文献1記載には、衝撃吸収のための折曲部を有するサイドシルの構造が開示されている。サイドシルは、車体の両側部において車両前後方向に延びる閉断面構造を有する部材であり、2つの構成部材であるサイドシルアウタとサイドシルインナを備える。サイドシルアウタおよびサイドシルインナは、それぞれ一対のフランジ部を有し、フランジ部同士で接合することにより当該サイドシルアウタおよびサイドシルインナが合体して上記の閉断面構造を構成する。
【0004】
サイドシルアウタは、均一な板厚のスチールなどの板材をプレス成形することにより、一対のフランジ部を有する断面形状(ハット断面形状)に形成された部材である。サイドシルアウタの上下一対の側面部は、それぞれ、サイドシルの内側に折れ曲がるように屈曲することにより形成された折曲部を有する。これにより車両の側面衝突(側突)時などにおいて、折曲部を起点としてサイドシルアウタの座屈が開始され、サイドシル全体ではある程度の曲げ強度を維持しつつ座屈しながら衝撃吸収をすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
サイドシルアウタのフランジ部は、車幅方向においてドアの下端位置と同じ位置になるように設定されるのが一般的であるが、車室内の空間を確保するために、サイドシルインナとサイドシルアウタのフランジ部をサイドシルの断面中心より車幅方向外側に設定する構造を採用することが考えられる。このような構造の場合、サイドシルアウタの側面部の車幅方向の幅が確保できないので、サイドシルアウタのプレス成形時に当該側面部の成形性が低下する。この成形性の低下により、サイドシルアウタの側面部において折曲部の角度を十分に得られず、サイドシルの座屈のきっかけを設定することが困難になる。そのため、このような構造では、車両衝突時にサイドシルに曲げ荷重が入力されたときにサイドシルが確実に座屈しながら衝撃吸収を行うことが難しい。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、車両衝突時に骨格部材に曲げ荷重が入力されたときに当該骨格部材が曲げ変形の抑制とともに確実に座屈しながら衝撃吸収を行うことが可能な車両の下部車体構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の車両の下部車体構造は、同一方向に延びる第1部分と第2部分とが協働して閉断面を構成する骨格部材を備えた車両の下部車体構造であって、前記第1部分は、前記骨格部材に曲げ荷重が入力された際に圧縮応力が生じる圧縮面部と、前記圧縮面部の両端部から前記第2部分に向けて延びる一対の側面部とを備え、前記一対の側面部は、それぞれ、前記側面部が前記骨格部材の内側に折曲されることによって形成された折曲部と、前記折曲部を起点として前記折曲部より前記圧縮面部側に位置するとともに前記曲げ荷重が入力された際に圧縮応力が生じる圧縮側領域と、前記折曲部を起点として前記折曲部より前記圧縮面部から離れる側に位置するとともに前記曲げ荷重が入力された際に引張応力が生じる引張側領域とを備え、前記圧縮側領域は、前記圧縮面部を圧縮させる前記曲げ荷重に対して前記引張側領域よりも高剛性となるように構成されていることを特徴とする。
【0009】
かかる構成では、骨格部材の閉断面を構成する第1部分および第2部分のうち、第1部分は、骨格部材に曲げ荷重が入力された際に圧縮応力が生じる圧縮面部と、圧縮面部の両端部から第2部分に向かって延びる一対の側面部とを備える。側面部は、側面部が骨格部材の内側に折曲されることによって形成された折曲部を備える。
【0010】
この構成により、車両衝突時において骨格部材に曲げ荷重が入力された際には、第1部分の圧縮面部に圧縮応力が作用して圧縮面部が第2部分側へ移動しようとするとともに、当該第1部分の一対の側面部では、骨格部材の内側に折れ曲がった折曲部が骨格部材の内側へ移動しようとする。
【0011】
また、この構成では、各側面部は、折曲部を起点として折曲部より圧縮面部側に位置する圧縮側領域と、折曲部を起点として折曲部より圧縮面部から離れる側に位置する引張側領域を備え、圧縮側領域は、圧縮面部を圧縮させる曲げ荷重に対して引張側領域よりも高剛性となるように構成されている。そのため、車両衝突時には、折曲部が骨格部材の内側へ移動するのに伴って引張側領域が骨格部材の内方に引張変形していきながら、折曲部が骨格部材の内側に変位して骨格部材の座屈を生じさせる。このとき、折曲部が骨格部材の内側に変位する過程の途中では、一対の側面部のそれぞれの高剛性の圧縮側領域が変形の過程で圧縮面部が第2部分側へ移動する方向に対して略平行な状態になる。このため、当該圧縮側領域によって曲げ荷重に対して高い反力を生じるため、骨格部材の曲げ変形を抑制することが可能である。その結果、車両衝突時に骨格部材に曲げ荷重が入力されたときに当該骨格部材が曲げ変形の抑制とともに確実に座屈しながら衝撃吸収を行うことが可能になる。
【0012】
上記の車両の下部車体構造において、前記折曲部における前記圧縮側領域の延長線と前記引張側領域との間の角度は、30度以下に設定されているのが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、折曲部が上記のように30度以下の小さい角度で形成される場合においても、引張側領域が圧縮側領域より低剛性に構成されているので、車両衝突時には、引張側領域が骨格部材の内方に引張変形しながら、折曲部が骨格部材の内側に変位して骨格部材の座屈を確実に生じさせることが可能である。
【0014】
上記の車両の下部車体構造において、前記第1部分および前記第2部分が並ぶ所定方向における前記圧縮側領域の幅は、当該所定方向における前記骨格部材の全幅に対して1/4以下になるように設定されているのが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、車両衝突時には、第1部分における側面部の圧縮側領域内での骨格部材の座屈を抑制しつつ、側面部における圧縮側領域と引張側領域の境界である折曲部で確実に折れ曲がることが可能になり、当該側面部で高い反力を生じることが可能である。
【0016】
上記の車両の下部車体構造において、前記骨格部材は、車体の両側部において車両前後方向に延びるとともに閉断面を有するサイドシルであり、前記第1部分は、上下一対のフランジ部を有し、前記サイドシルの車幅方向外側の部分を構成するサイドシルアウタであり、前記第2部分は、上下一対のフランジ部を有し、前記サイドシルの車幅方向内側の部分を構成するサイドシルインナであり、前記サイドシルアウタの前記フランジ部と前記サイドシルインナの前記フランジ部とが接合されることにより前記サイドシルを構成し、前記サイドシルアウタおよび前記サイドシルインナのそれぞれの前記フランジ部は、前記サイドシルの断面中心より車幅方向外側に配置されているのが好ましい。
【0017】
かかる構成によれば、サイドシルを構成するサイドシルアウタおよびサイドシルインナのそれぞれのフランジ部がサイドシルの断面中心より車幅方向外側に配置されているので、これらフランジ部で規定される車体のドア開口部の位置を車幅方向外側へ配置しやすくなり、車室内の空間を確保しやすくなる。したがって、サイドシルの曲げ変形の抑制および衝撃吸収性能を維持しながら車室内の空間確保が可能になる。
【0018】
上記の車両の下部車体構造において、前記サイドシルは、前記サイドシルアウタの前記上下一対のフランジ部と前記サイドシルインナの前記上下一対のフランジ部との間に挟まれた状態で当該上下一対のフランジ部の間を連結する連結板部をさらに備えるのが好ましい。
【0019】
かかる構成によれば、連結板部は、サイドシルアウタおよびサイドシルインナの上下一対のフランジ部の間に挟まれた状態で当該上下一対のフランジ部の間を連結している。このため、車両衝突時におけるサイドシルの曲げ変形の過程で上下一対のフランジ部が上下に離間する方向に変位しようとしても、連結板部によって上下一対のフランジ部の上下方向への変位が抑制される。そのため、サイドシルは折曲部の部位で確実に座屈することが可能になる。
【0020】
上記の車両の下部車体構造において、前記連結板部は、車両前後方向において前記サイドシルにおける車体のドア開口部を構成する部分に配置されているのが好ましい。
【0021】
車体のドア開口部は、上下方向に延びるピラーが無い領域であり、サイドシルの支持剛性が弱い領域であるが、上記のように、連結板部がサイドシルにおけるドア開口部を構成する部分に配置されているので、ピラーが無い領域でも、サイドシルは折曲部の部位で確実に座屈することが可能になる。
【0022】
上記の車両の下部車体構造において、前記連結板部は、当該連結板部の曲げ強度が前記サイドシルアウタおよび前記サイドシルインナの曲げ強度よりも小さい構成を有するのが好ましい。
【0023】
連結板部は、車両衝突時には上下一対のフランジ部によって上下方向へ引っ張られて引張荷重のみが作用するので、連結板部の曲げ強度は上記のサイドシルアウタおよびサイドシルインナほど要求されない。このような観点から、連結板部を当該連結板部の曲げ強度がサイドシルアウタおよびサイドシルインナの曲げ強度よりも小さい構成にすることにより、サイドシルの確実な座屈を達成しながら連結板部を薄くて安価な材料で製造することが可能になる。
【0024】
上記の車両の下部車体構造において、前記圧縮側領域は、2枚の板材を接合することによって構成されているのが好ましい。
【0025】
かかる構成によれば、サイドシルアウタの側面部の圧縮側領域が2枚の板材を接合することによって構成されているので、サイドシルアウタにおける2枚の板材の接合により座屈可能なサイドシルを容易に製造することが可能である。
【0026】
上記の車両の下部車体構造において、前記サイドシルアウタは、前記圧縮側領域の板厚が前記引張側領域の板厚よりも大きくなるように構成されていてもよい。
【0027】
かかる構成によれば、サイドシルアウタが圧縮側領域の板厚が引張側領域の板厚よりも大きくなるように構成されているので、サイドシルアウタの一体形成により座屈可能なサイドシルを容易に製造することが可能である。
【0028】
上記の車両の下部車体構造において、前記一対の側面部の前記折曲部は、前記圧縮面部からの距離が等距離になるように配置されているのが好ましい。
【0029】
かかる構成によれば、車両衝突時おいて骨格部材に曲げ荷重が入力されたときに一対の側面部の折曲部が同時に内側へ変位することが可能になり、サイドシルを一対の側面部のそれぞれの折曲部の部位で確実に座屈することが可能である。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明の車両の下部車体構造によれば、車両衝突時に骨格部材に曲げ荷重が入力されたときに当該骨格部材が曲げ変形の抑制とともに確実に座屈しながら衝撃吸収を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両の下部車体構造を備えた車体の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1のサイドシル、クロスメンバ、およびヒンジピラーの配置を示す拡大平面図である。
【
図3】
図1のサイドシル、クロスメンバ、およびヒンジピラーの配置を示す拡大斜視図である。
【
図6】(a)~(d)は、車両側突時におけるサイドシルの変形過程を示す断面説明図である。
【
図7】本発明の比較例である一般的なサイドシルの断面図でる。
【
図8】本実施形態および比較例におけるサイドシルの曲げモーメントの時間的変化を示すグラフである。
【
図9】本実施形態および比較例におけるサイドシルのねじりモーメントの時間的変化を示すグラフである。
【
図10】折曲部の位置を考察するための試験用の縦板を示す図である。
【
図11】縦板の全高さに対する縦板上端から折曲部までの距離の比率を変えた場合の座屈耐力比の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態に係る車両の下部車体構造について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0033】
図1~4に示されるように、本発明の実施形態に係る車両の下部車体構造が適用された車体1は、車体1の骨格を構成する骨格部材として、車幅方向Yの両側に離間した位置で車両前後方向Xに延びる一対のサイドシル2と、車幅方向Yに延びて一対のサイドシル2を連結するクロスメンバ3とを備える。また、車幅方向Yの両側には、他の骨格部材として、それぞれサイドシル2から上方Z1に延びるピラーとして、車両前後方向Xから順にヒンジピラー4、センターピラー5、およびリアピラー6が互いに間隔をあけて立設されている。本実施形態のサイドシル2は、ヒンジピラー4からリアピラー6までの間で車両前後方向Xに延びている。さらに、ヒンジピラー4の上端からセンターピラー5の上端へ向けて車両上方Z1つ後方X2に延びるフロントピラー7が設けられている。これらサイドシル2、ヒンジピラー4、センターピラー5、およびフロントピラー7によって車両前側のドア開口部8が形成される。ドア開口部8(具体的には、ヒンジピラー4におけるドア開口部8を構成する部分)には、図示しないドアが開閉自在に取り付けられる。また、車体1の一対のサイドシル2の間には、車体床部を構成するフロアパネル9が設けられている。
【0034】
図4~5に示されるように、サイドシル2は、車体1の両側部において車両前後方向Xに延びるとともに閉断面Cを有する略筒状の部材であり、上方Z1および下方Z1にそれぞれ突出する後述の一対のフランジ部23および一対のフランジ部33を有する。
【0035】
車体1の骨格部材であるサイドシル2は、第1部分であるサイドシルアウタ11と、サイドシルアウタ11に対して車幅方向内側Y2に位置する第2部分であるサイドシルインナ12と、サイドシルアウタ11とサイドシルインナ12との間に挟まれた連結板部14とを備える。
【0036】
サイドシルアウタ11は、2枚のスチールなどの板材(主板材20およびパッチ13)によって構成され、サイドシルインナ12および連結板部14は、1枚のスチールなどの板材によって構成されている。
【0037】
サイドシルアウタ11は、上下一対のフランジ部23を有し、サイドシル2の車幅方向外側Y1の部分を構成する部材である。サイドシルインナ12は、上下一対のフランジ部33を有し、サイドシル2の車幅方向内側Y2の部分を構成する部材である。
【0038】
サイドシルアウタ11のフランジ部23とサイドシルインナ12のフランジ部33とが接合されることによりサイドシル2を構成している。すなわち、サイドシル2の閉断面Cは、同一方向(本実施形態では車両前後方向X)に延びるサイドシルアウタ11とサイドシルインナ12とが協働する(具体的には接合する)ことにより構成されている。
【0039】
以下、サイドシルアウタ11の構成についてさらに詳細に説明する。
図4~5に示されるように、本実施形態のサイドシルアウタ11は、スチールなどからなる2枚の板材である主板材20とパッチ13とを接合するとともにプレス成形により、ハット断面形状(すなわち、一対のフランジ部23を有する形状)に加工されている。
【0040】
サイドシルアウタ11は、具体的には、上下方向Zに延びる縦壁であって車両側突時(車外側から車両側方への障害物等の衝突時)などでサイドシル2にサイドシル2を車内側へ曲げる曲げ荷重B(
図1参照)が入力された際に圧縮応力が生じる圧縮面部21と、圧縮面部21の両端部からサイドシルインナ12に向けて上下方向Zに広がるように車幅方向内側Y2に延びる一対の側面部22と、当該一対の側面部22の車幅方向内側Y2の端部から上方Z1および下方Z2にそれぞれ延びる一対のフランジ部23とを備える。
【0041】
一対の側面部22は、それぞれ、側面部22がサイドシル2の内側に折曲されることによって形成された第1折曲部24と、第1折曲部24を起点として第1折曲部24より圧縮面部21側に位置するとともに曲げ荷重Bが入力された際に圧縮応力が生じる圧縮側領域25と、第1折曲部24を起点として第1折曲部24より圧縮面部21から離れる側に位置するとともに曲げ荷重Bが入力された際に引張応力が生じる引張側領域26とを備える。第1折曲部24は、本発明の折曲部に対応する。
【0042】
第1折曲部24は、側面部22(具体的には、主板材20の側面部22に相当する部分)がサイドシル2の内側に折曲されることによって形成されている。
【0043】
圧縮側領域25は、圧縮面部21を圧縮させる曲げ荷重Bに対して引張側領域26よりも高剛性となるように構成されている。本実施形態では、圧縮側領域25は、2枚の板材(主板材20およびパッチ13)を接合することによって構成されている。
図5に示されるパッチ13は、主板材20の内側に接合される。パッチ13は、本体部13aと、当該本体部13aの両側部が折れ曲がって形成された一対の両側部13bとを有する。本体部13aが圧縮面部21に接合されるとともに、両側部13bが圧縮側領域25に接合されている。両側部13bの先端の位置は、第1折曲部24の位置と一致している。これにより、サイドシルアウタ11のうち圧縮面部21および一対の側面部22のうちの圧縮側領域25の部位が高剛性になり、パッチ13が無い引張側領域26は低剛性になる。
【0044】
また、本実施形態の側面部22では、圧縮側領域25は主板材20およびパッチ13を接合することによって構成され、引張側領域26が主板材20のみで構成されている。これにより、側面部22は、当該側面部22の剛性が第1折曲部24を境界として圧縮側領域25の剛性から引張側領域26の剛性に不連続に変化するように構成されている。言い換えれば、本実施形態の圧縮側領域25および引張側領域26は、それぞれの領域内では一律の剛性を有しているのが、第1折曲部24では圧縮側領域25の剛性と引張側領域26の剛性とが急激に変化するように構成されている。
【0045】
パッチ13は、主板材20の車幅方向外側Y1または内側Y2のいずれかの面に接合すればよいが、主板材20の車幅方向外側Y1の面に接合する方が車両衝突時において圧縮側領域25がつぶれにくい(変形しにくい)という点で好ましい。
【0046】
本実施形態では、上記のように側面部22が上記のように第1折曲部24を境界として部高剛性の圧縮側領域25と低剛性の引張側領域26とが不連続に変化する構成を有しているので、車両衝突時にサイドシル2に曲げ荷重Bが入力されたときは第1折曲部24で座屈しやすくなっている。したがって、
図5に示されるように、第1折曲部24における圧縮側領域25の延長線と引張側領域16との間の角度θは、30度以下に設定されていてもサイドシル2は確実に座屈可能である。
【0047】
つぎに、サイドシルインナ12の構成について詳細に説明する。
図4~5に示されるように、サイドシルインナ12は、1枚のスチールなどの板材をプレス成形することにより、ハット断面形状(すなわち、一対のフランジ部23を有する形状)に加工されている。
【0048】
サイドシルインナ12は、具体的には、上下方向Zに延びる縦壁であってサイドシル2に曲げ荷重B(
図1参照)が入力された際に引張応力が生じる引張面部31と、引張面部31の両端部からサイドシルアウタ11に向けて上下方向Zに広がるように車幅方向外側Y1に延びる一対の側面部32(すなわち、上側側面部32Aおよび下側側面部32B)と、当該一対の側面部32の車幅方向外側Y1の端部から上方Z1および下方Z2にそれぞれ延びる一対のフランジ部33とを備える。
【0049】
引張面部31の上下方向Zにおいて中間付近には、
図3および
図5に示されるように、サイドシルインナ12の補強のためのビード31aがサイドシルインナ12の延設方向(すなわち、車両前後方向X)に延びるように設けられている。ビード31aは、引張面部31の中間付近をサイドシル2の内方(車幅方向外側Y1)へ凹ますことにより形成される。本実施形態のビード31aは、
図3に示されるように、サイドシル2の車両前方側X1端部2b(ヒンジピラー4との連結部分)からクロスメンバ3の車両後側X2端部の位置Eまで延びている。
【0050】
一対の側面部32(すなわち、上側側面部32Aおよび下側側面部32B)は、それぞれ、サイドシル2の内側に折れ曲がることにより形成された第2折曲部34と、2つの車幅方向Yに延びる面(
図5の符号35、37、38、40で示される面を参照)とを備える。つまり、側面部32は、2つの段を有する略階段状の断面を有する。
【0051】
具体的には、一対の側面部32のうち、上側側面部32Aは、車幅方向Yに延びる第1上面部35と、上記第1上面部35の車幅方向内側Y2端部35aから車幅方向内側Y2かつ下側Z2に延びる上側傾斜面部36と、上記上側傾斜面部36の車幅方向内側Y2端部から上記の第2折曲部34を形成しながら車幅方向内側Y2に延びる第2上面部37とを備える。
【0052】
また、下側側面部32Bは、上記第1上面部35から下方に離間した位置で車幅方向Yに延びる第1下面部38と、上記第1下面部38の車幅方向内側Y2端部38aから車幅方向内側Y2かつ上側Z1に延びる下側傾斜面部39と、上記下側傾斜面部39の車幅方向内側Y2端部から上記の第2折曲部34を形成しながら車幅方向内側Y2に延びる第2下面部40とを備える。下側側面部32Bは、上側側面部32Aと線対称の形状を有する。したがって、車幅方向Yにおいて、第1下面部38は第1上面部35と同じ幅を有し、下側傾斜面部39は上側傾斜面部36と同じ幅および傾斜角を有し、第2下面部40は第2上面部37と同じ幅を有する。
【0053】
すなわち、サイドシルインナ12は、上記第2上面部37と上記上側傾斜面部36との間、および、上記第2下面部40と上記下側傾斜面部39との間にサイドシル2の断面内側に折曲がる上下一対の第2折曲部34を有する構成になっている。
【0054】
引張面部31は、上下方向Zに延び、上記第2上面部37と上記第2下面部40の車幅方向内側Y2端部同士を連結する。
【0055】
図3~4に示されるように、サイドシルインナ12には、車幅方向Yに延びるクロスメンバ3の端部が接合されている。クロスメンバ3は、その端部において、上記のサイドシルインナ12に接合される3つのフランジ部、第1フランジ部41、第2フランジ部42、および第3フランジ部43を有する。第1フランジ部41は、クロスメンバ3の上面から車幅方向外側Y1に延び、サイドシルインナ12の第2上面部37に接合されている。第2フランジ部42は、クロスメンバ3の側面(車両前後方向Xを向く面)の車幅方向外側Y1の端縁から車両前後方向Xに延び、サイドシルインナ12の引張面部31に接合されている。第3フランジ部43は、クロスメンバ3の底壁部の車幅方向外側Y1の端縁から上方Z1(すなわち、クロスメンバ3の内方)に延び、引張面部31に接合されている。
【0056】
図5に示されるように、本実施形態のサイドシル2では、サイドシルアウタ11およびサイドシルインナ12が並ぶ所定方向(車幅方向Y)における圧縮側領域25の幅L2は、当該所定方向(車幅方向Y)におけるサイドシル2の全幅L1に対して1/4以下になるように設定されているので、車両側突時などで曲げ荷重Bが入力された際にサイドシル2を第1折曲部24の部位で確実に座屈できるようになっている。
【0057】
また、
図5に示されるように、サイドシルアウタ11およびサイドシルインナ12が並ぶ所定方向(車幅方向Y)における第2上面部37および第2下面部40の幅L3は、当該所定方向(車幅方向Y)におけるサイドシル2の全幅L1に対して1/4以下になるように設定されているので、車両側突時などで曲げ荷重Bが入力された際に第2上面部37および第2下面部40の部位での座屈を抑制してサイドシル2を第2折曲部34の部位で確実に座屈できるようになっている。
【0058】
また、
図5に示されるように、サイドシルアウタ11およびサイドシルインナ12のそれぞれのフランジ部23、33(とくに上方Z1に突出するフランジ部23、33)は、
図1のドア開口部8の位置(車幅方向Yにおける位置)の基準となるが、サイドシル2の断面中心Oより車幅方向外側Y1に配置されているので、車内空間の確保が可能になっている。
【0059】
図4~5に示されるように、連結板部14は、サイドシルアウタ11の上下一対のフランジ部23とサイドシルインナ12の上下一対のフランジ部33との間に挟まれた状態で当該上下一対のフランジ部23の間および上下一対のフランジ部33の間を連結する。
【0060】
連結板部14は、サイドシル2の内部であれば車両前後方向Xの任意の位置に設置することが可能であるが、
図1に示されるように、車両前後方向Xにおいてサイドシル2における車体1のドア開口部8を構成する部分2aを補強して当該部分2aでの座屈を促すために、連結板部14が配置されているのが好ましい。
【0061】
連結板部14は、当該連結板部14の曲げ強度がサイドシルアウタ11およびサイドシルインナ12の曲げ強度よりも小さい構成を有する。具体的には、サイドシルアウタ11を構成する主板材20およびパッチ13、ならびにサイドシルインナ12を構成する板材よりも薄い板材で構成されている。
【0062】
一対の側面部22の第1折曲部24は、圧縮面部21からの距離が等距離になるように配置されている。すなわち、この構成では、サイドシルアウタ11の第1折曲部24が上下対称の位置にある。
【0063】
(サイドシル2の変形過程)
つぎに、
図6(a)~(d)を参照しながら、上記のように構成されたサイドシル2が車両側突時に曲げ荷重Bを受けたときの変形過程を示す。
【0064】
図6(a)には、車両側突時、すなわち、サイドシル2に対して車幅方向外側Y1から障害物Sが車幅方向内方Y2へ向かって衝突することにより、衝突荷重がサイドシル2に側方から入力される。これにより、
図1に示されるように、ヒンジピラー4およびセンターピラー5などの車体構成部材によって車両前後方向Xの両端で固定されたサイドシル2には、サイドシル2を車内側に曲げる曲げ荷重Bが入力される。
【0065】
図6(b)に示されるように、車両側突時の初期の状態では、サイドシル2のサイドシルアウタ11の圧縮面部21に圧縮応力が作用したときに、圧縮面部21がサイドシルインナ12側(車幅方向内側Y2)へ移動しようとするとともに、当該サイドシルアウタ11の一対の側面部22では、第1折曲部24を境界として圧縮側領域25では圧縮応力が作用するとともに引張側領域26では引張応力が作用する。側面部22のうちパッチ13を有する圧縮側領域25は引張側領域26よりも高剛性であるので、第1折曲部24が小さい角度(30度以下)であっても、第1折曲部24はサイドシル2内側への移動が促される(誘発される)。
【0066】
この第1折曲部24がサイドシル2の内側へ移動するのに伴って、引張側領域26がサイドシル2の内方に引張変形していきながら、第1折曲部24がサイドシル2の内側に変位してサイドシル2の座屈を生じさせる。このとき、第1折曲部24がサイドシル2の内側に変位する過程の途中では、一対の側面部22のそれぞれの高剛性の圧縮側領域25が変形の過程で衝突荷重の方向(すなわち、圧縮面部21がサイドシルインナ12側へ移動する方向、具体的には車幅方向Y)に対して略平行な状態になる。このため、当該圧縮側領域25によって曲げ荷重Bに対して高い反力を生じる。また、この圧縮時において、サイドシル2の上下のフランジ部23、33が上下に離間する動きが連結板部14によって抑制され、曲げ荷重Bに対して高い反力を生じる。
【0067】
これらの反力については、
図8のグラフの曲線Iの時間t1における曲げモーメントM
Bの立上りを見れば明らかである。
図8のグラフは、反力としてサイドシルに生じる曲げモーメントM
Bの時間的変化を示す。
図8の曲線Iは本実施形態のサイドシル2における曲げモーメントの時間的変化を示し、曲線IIは比較例として
図7に示される従来のサイドシル50における曲げモーメントの時間的変化を示す。なお、
図7に示される従来のサイドシル50は、同一板厚のサイドシルアウタ51およびサイドシルインナ52から構成され、サイドシルアウタ51の一対のフランジ部51aとサイドシルインナ52の一対のフランジ部52aとが接合された構造である。このサイドシル50は、本実施形態のように座屈のきっかけとなる第1折曲部24および第2折曲部34を有しない構造である。
【0068】
本実施形態のサイドシル2が
図6(b)の状態になったときには、上記の
図8のグラフでは時間t1に相当し、このとき、曲線Iはサイドシル2の反力として高い曲げモーメントが発生していることを示す。一方、時間t1のときの曲線IIは、従来のサイドシル50の反力としての低い曲げモーメントしか発生していないことを示す。
【0069】
ついで、
図6(c)に示されるように、車両側突開始からさらに時間が進行した状態では、サイドシルアウタ11の変形とともにサイドシルインナ12の変形も進行する。サイドシルインナ12の変形の過程では、サイドシルインナ12の一対の側面部32(上側側面部32Aおよび下側側面部32B)の車幅方向外側Y1の端部(一対のフランジ部33およびその周辺部)が上方Z1および下方Z2にそれぞれ延ばされ、サイドシルインナ12の第1~2上面部35、37および第1~2下面部38、40がサイドシル2の断面外側に膨らむように変形しようとする。しかし、それと同時に、サイドシルインナ12の一対の側面部32のそれぞれの第2折曲部34がサイドシル2の断面外側に変位しようとするため、第1~2上面部35、37および第1~2下面部38、40は衝突荷重の方向(すなわち、圧縮面部21がサイドシルインナ12側へ移動する方向、具体的には車幅方向Y)に対して略平行な状態を維持できる。このため、サイドシルインナ12の第1~2上面部35、37および第1~2下面部38、40は、変形途中のサイドシルアウタ11を支え、より高い反力を生じることができ、サイドシル2の曲げ変形を抑制することが可能である。
【0070】
このサイドシルインナ12の反力についても、
図8のグラフの曲線Iの時間t2における曲げモーメントの高さを見れば明らかである。すなわち、本実施形態のサイドシル2が
図6(c)の状態になったときには、
図8のグラフでは時間t2に相当し、このとき、曲線Iはサイドシル2の反力として高い曲げモーメントが維持されていることを示している。この曲線Iを見れば、サイドシルアウタ11が第1折曲部24を有するだけでなくサイドシルインナ12も第2折曲部34を有することで、サイドシル2の車幅方向内側Y2への座屈を効果的に抑制でき、サイドシル2の反力を持続させていることが分かる。
【0071】
一方、時間t2のときの曲線IIを見れば、従来のサイドシル50の反力としての曲げモーメントは曲線Iよりも低いレベルしか到達していないことを示している。
【0072】
さらに、
図6(d)に示されるように、車両側突開始からさらに時間が進行した状態では、サイドシルインナ12の第2折曲部34がサイドシル2の外方へ移動してサイドシルインナ12が外方へ張り出しながら変形して反力を発生させていく。
【0073】
本実施形態のサイドシル2が
図6(d)の状態になったときには、
図8のグラフでは時間t3に相当する。時間t3では、曲線Iはサイドシル2の反力として曲げモーメントは徐々に低下しながらも反力の低下を抑制しており、曲線IIに示される従来のサイドシル50の反力よりも十分に高いレベルが持続されていることが
図8から分かる。
【0074】
(サイドシル2のねじりについて)
上記のサイドシル2の曲げ変形では、車両側突時においてサイドシル2に曲げ荷重Bがかけられたときの曲げモーメントとしての反力を見たが、本実施形態のサイドシル2は、上記のように第1折曲部24および第2折曲部34を有することにより、車両前後方向Xに延びる軸回りのねじりモーメントが作用した場合でも高い反力を生じることが可能である。
【0075】
図9のグラフには、本実施形態のサイドシル2における反力としてねじりモーメントM
Tの時間的変化が曲線IIIで示され、
図7の従来のサイドシル50におけるねじりモーメントM
Tの時間的変化が曲線IVで示されている。この
図9のグラフを見ても明らかなように、本実施形態のサイドシル2(曲線III)と従来のサイドシル50(曲線IV)はねじりモーメントが入力開始した初期の段階では反力として同程度のねじりモーメントを発生しているが、その後は、本実施形態のサイドシル2の方が従来のサイドシル50よりも反力として高いねじりモーメントを維持していることが分かる。
【0076】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の車両の下部車体構造は、サイドシルインナ12と協働してサイドシル2の閉断面Cを構成するサイドシルアウタ11の上下一対の側面部22の幅寸法が確保できない構造において、車両側突時に当該一対の側面部22の第1折曲部24を断面内側に変位させてサイドシル2を確実に座屈させるという課題を解決するために、サイドシルアウタ11の側面部22の第1折曲部24を境界として、当該側面部22の圧縮側領域25が高剛性となるように剛性差を設け、座屈のきっかけとするようにしてサイドシル2が第1折曲部24で座屈しやすくしている。
【0077】
すなわち、
図5に示されるように、サイドシルアウタ11は、サイドシル2に曲げ荷重Bが入力された際に圧縮応力が生じる圧縮面部21と、圧縮面部21の両端部からサイドシルインナ12に向かって延びる一対の側面部22とを備える。側面部22は、側面部22がサイドシル2の内側に折曲されることによって形成された第1折曲部24を備える。
【0078】
この構成により、車両衝突時においてサイドシル2に曲げ荷重Bが入力された際には、
図6(b)に示されるように、サイドシルアウタ11の圧縮面部21に圧縮応力が作用して圧縮面部21がサイドシルインナ12側へ移動しようとするとともに、当該サイドシルアウタ11の一対の側面部22では、サイドシル2の内側に折れ曲がった第1折曲部24がサイドシル2の内側へ移動しようとする。
【0079】
また、このサイドシルアウタ11の構成では、各側面部22は、第1折曲部24を起点として第1折曲部24より圧縮面部21側に位置する圧縮側領域25と、第1折曲部24を起点として第1折曲部24より圧縮面部21から離れる側に位置する引張側領域26とを備え、さらに、圧縮側領域25は、圧縮面部21を圧縮させる曲げ荷重Bに対して引張側領域26よりも高剛性となるように構成されている。言い換えれば、側面部22は、当該側面部22の剛性が第1折曲部24を境界として圧縮側領域25の剛性から引張側領域26の剛性に不連続に変化するように構成されている。そのため、車両衝突時には、
図6(b)に示されるように、第1折曲部24がサイドシル2の内側へ移動するのに伴って引張側領域26がサイドシル2の内方に引張変形していきながら、第1折曲部24がサイドシル2の内側に変位してサイドシル2の座屈を生じさせる。このとき、第1折曲部24がサイドシル2の内側に変位する過程の途中では、一対の側面部22のそれぞれの高剛性の圧縮側領域25が変形の過程で圧縮面部21がサイドシルインナ12側へ移動する方向に対して略平行な状態になる。このため、当該圧縮側領域25によって曲げ荷重Bに対して高い反力を生じるため、サイドシル2の曲げ変形を抑制することが可能である。その結果、車両衝突時にサイドシル2に曲げ荷重Bが入力されたときに当該サイドシル2が曲げ変形の抑制とともに確実に座屈しながら衝撃吸収を行うことが可能になる。
【0080】
(2)
本実施形態の車両の下部車体構造では、第1折曲部24における圧縮側領域25の延長線と引張側領域26との間の角度θは、30度以下に設定されている。この構成によれば、第1折曲部24が上記のように30度以下の小さい角度θで形成される場合においても、引張側領域26が圧縮側領域25より低剛性に構成されているので、車両衝突時には、引張側領域26がサイドシル2の内方に引張変形しながら、第1折曲部24がサイドシル2の内側に変位してサイドシル2の座屈を確実に生じさせることが可能である。
【0081】
すなわち、本実施形態のサイドシル2では、サイドシルアウタ11の上下一対の側面部22の幅寸法が確保できない構造において、サイドシルアウタ11の第1折曲部24の角度θを十分に確保できない場合でも、車両側突時に当該一対の側面部22の第1折曲部24を断面内側に変位しながらサイドシル2が確実に座屈することが可能である。
【0082】
(3)
本実施形態の車両の下部車体構造では、サイドシルアウタ11およびサイドシルインナ12が並ぶ所定方向(車幅方向Y)における圧縮側領域25の幅L2は、当該所定方向(車幅方向Y)におけるサイドシル2の全幅L1に対して1/4以下になるように設定されている。
【0083】
かかる構成によれば、車両衝突時には、サイドシルアウタ11における側面部22の圧縮側領域25内でのサイドシル2の座屈を抑制しつつ、側面部22における圧縮側領域25と引張側領域26の境界である第1折曲部24で確実に折れ曲がることが可能になり、当該側面部22で高い反力を生じることが可能である。
【0084】
ここで、サイドシルの全幅のうち座屈を促すための折曲部の最適な位置について
図10~11を参照しながら検証する。まず、
図10に示されるように、サイドシルの車幅方向において全幅の部分を1つの縦板61のモデルに置き換えて考える。縦板61の上下の端部は、端板62、63に連結して拘束されている。
【0085】
この縦板61の理想的な座屈耐力の指標となる縦板61の本来持つ全ポテンシャルである全塑性モーメントに近づけるためには、形状変化点(すなわち、縦板61が座屈する点)としての折曲部64を縦板61に設けることが考えられる。そこで、
図10に示されるように上記の縦板61に上下方向の曲げ荷重が作用したときに縦板61が折曲部64で座屈して折れ曲がるモデルを用いて、縦板61の全高さbのうち上端から距離b’の位置に折曲部64を設けた場合の縦板61の反力の大きさの目安となる座屈耐力比Rをコンピュータシミュレーションにより求めた。その結果として、
図11のグラフのように、縦板61の全高さbに対する上記距離b’の比b’/bと座屈耐力比R(理想的な座屈耐力に対する割合)との関係を示すと、縦板61の全高さbのうち1/4の高さ位置に折曲部64を設けると座屈耐力が最も高まることが分かる。
【0086】
この結果から、上記のサイドシル2の第1折曲部24の位置は、サイドシル2の全幅L1に対して圧縮面部21から1/4×L1の距離にあれば最も座屈耐力が高まると考えられる。この検証結果に基づいて、上記のように圧縮側領域25の幅L2が当該所定方向(車幅方向Y)におけるサイドシル2の全幅L1に対して1/4以下になるように設定すれば、圧縮側領域25内でのサイドシル2の座屈を抑制しつつ、側面部22における圧縮側領域25と引張側領域26の境界である第1折曲部24で確実に折れ曲がることが可能になり、当該側面部22で高い反力を生じることが可能になるとの結果が導き出される。
【0087】
(4)
本実施形態の車両の下部車体構造では、骨格部材は、車体1の両側部において車両前後方向Xに延びるとともに閉断面Cを有するサイドシル2である。骨格部材を構成する2つの部分のうちの第1部分は、上下一対のフランジ部23を有し、サイドシル2の車幅方向外側Y1の部分を構成するサイドシルアウタ11である。骨格部材を構成する2つの部分のうちの第2部分は、上下一対のフランジ部33を有し、サイドシル2の車幅方向内側Y2の部分を構成するサイドシルインナ12である。サイドシルアウタ11の一対のフランジ部23とサイドシルインナ12の一対のフランジ部33とが接合されることによりサイドシル2を構成している。
【0088】
本実施形態の構成では、
図5に示されるように、サイドシル2を構成するサイドシルアウタ11およびサイドシルインナ12のそれぞれのフランジ部23、33がサイドシル2の断面中心Oより車幅方向外側Y1に配置されているので、これらフランジ部23、33で規定される車体1のドア開口部8の位置を車幅方向外側Y1へ配置しやすくなり、車室内の空間を確保しやすくなる。したがって、サイドシル2の曲げ変形の抑制および衝撃吸収性能を維持しながら車室内の空間確保が可能になる。
【0089】
(5)
本実施形態の車両の下部車体構造では、サイドシル2は、連結板部14を備える。連結板部14は、サイドシルアウタ11およびサイドシルインナ12の上下一対のフランジ部23、33の間に挟まれた状態で当該上下一対のフランジ部23の間および上下一対のフランジ部33の間を連結している。このため、車両衝突時におけるサイドシル2の曲げ変形の過程で上下一対のフランジ部23、33が上下に離間する方向に変位しようとしても、連結板部14によって上下一対のフランジ部23、33の上下方向Zへの変位(すなわち、一対のフランジ部23同士(および一対のフランジ部33同士)が互いに上下方向Zに離れること)が抑制される。そのため、サイドシル2は第1折曲部24の部位で確実に座屈することが可能になる。
【0090】
(6)
本実施形態の車両の下部車体構造では、連結板部14は、車両前後方向Xにおいてサイドシル2における車体1のドア開口部8を構成する部分2a(
図1参照)に配置されている。車体1のドア開口部8は、上下方向Zに延びるピラーが無い領域であり、サイドシル2の支持剛性が弱い領域であるが、上記のように、連結板部14がサイドシル2におけるドア開口部8を構成する部分2aに配置されているので、ピラーが無い領域でも、サイドシル2は第1折曲部24の部位で確実に座屈することが可能になる。
【0091】
(7)
本実施形態の車両の下部車体構造では、連結板部14は、当該連結板部14の曲げ強度がサイドシルアウタ11およびサイドシルインナ12の曲げ強度よりも小さい構成を有する。連結板部14は、車両衝突時には上下一対のフランジ部23、23、33、33によって上下方向へ引っ張られて引張荷重のみが作用するので、連結板部14の曲げ強度は上記のサイドシルアウタ11およびサイドシルインナほど要求されない。このような観点から、連結板部14を当該連結板部14の曲げ強度がサイドシルアウタ11およびサイドシルインナ12の曲げ強度よりも小さい構成にすることにより、サイドシル2の確実な座屈を達成しながら連結板部14を薄くて安価な材料で製造することが可能になる。
【0092】
(8)
本実施形態の車両の下部車体構造では、サイドシルアウタ11の圧縮側領域25は、2枚の板材、すなわち、主板材20およびパッチ13を接合することによって構成されている。かかる構成によれば、サイドシルアウタ11の側面部22の圧縮側領域25が2枚の板材を接合することによって構成されているので、サイドシルアウタ11における2枚の板材の接合により座屈可能なサイドシル2を容易に製造することが可能である。
【0093】
(9)
本実施形態の車両の下部車体構造では、サイドシルアウタ11の一対の側面部22の第1折曲部24は、圧縮面部21からの距離が等距離になるように配置されている。この構成では、車両衝突時おいてサイドシル2に曲げ荷重Bが入力されたときに一対の側面部22の第1折曲部24が同時に内側へ変位することが可能になり、サイドシル2を一対の側面部22のそれぞれの第1折曲部24の部位で確実に座屈することが可能である。
【0094】
(変形例)
(A)
上記実施形態のサイドシルアウタ11では、圧縮側領域25が、2枚の板材、すなわち、主板材20およびパッチ13を接合することによって構成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。サイドシルアウタ11が1枚の板材で構成される場合には、圧縮側領域25の板厚が引張側領域26の板厚よりも大きくなるように構成されてもよい。この構成では、サイドシルアウタ11の一体形成により座屈可能なサイドシル2を容易に製造することが可能である。
【0095】
(B)
上記の実施形態のサイドシル2は、第1部分および第2部分が協働して閉断面Cを構成する一例として、別部材であるサイドシルアウタ11およびサイドシルインナ12が接合されることによって構成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、サイドシルは、第1部分および第2部分にそれぞれ対応するサイドシルアウタおよびサイドシルインナが一体化された構成であってもよい。その場合も上記実施形態のサイドシル2と同様の作用効果を奏することが可能である。
【0096】
(C)
上記実施形態では、本発明が適用される骨格部材としてサイドシル2が一例として示されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、車体を構成する骨格部材のうち車両衝突時に曲げ荷重が作用する部材であれば本発明の技術を適用することが可能である。例えば、本発明が適用される骨格部材には、上記のサイドシルだけでなく、車幅方向Yに延びるクロスメンバ3、ダッシュクロスメンバ、フロアフレーム、およびリヤフレームなども含まれる。例えば、クロスメンバ3の場合、クロスメンバ3の上側を構成する部材(アッパメンバ)の上面が圧縮面部になり、上面の車両前後方向Xの両端部から下方に延びる部分が一対の側面部になる。
【符号の説明】
【0097】
1 車体
2 サイドシル(骨格部材)
3 クロスメンバ(骨格部材)
8 ドア開口部
11 サイドシルアウタ(第1部分)
12 サイドシルインナ(第2部分)
13 パッチ
14 連結板部
20 主板材
21 圧縮面部
22 側面部
23 フランジ部
24 第1折曲部 (折曲部)
25 圧縮側領域
26 引張側領域
31 引張面部
31a ビード
32 側面部
33 フランジ部
34 第2折曲部
35 第1上面部
36 上側傾斜面部
37 第2上面部
38 第1下面部
39 下側傾斜面部
40 第2下面部