IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人信州大学の特許一覧 ▶ 日本毛織株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-横隔膜修復材、及びその製造方法 図1
  • 特開-横隔膜修復材、及びその製造方法 図2
  • 特開-横隔膜修復材、及びその製造方法 図3
  • 特開-横隔膜修復材、及びその製造方法 図4
  • 特開-横隔膜修復材、及びその製造方法 図5
  • 特開-横隔膜修復材、及びその製造方法 図6
  • 特開-横隔膜修復材、及びその製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153617
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】横隔膜修復材、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/38 20060101AFI20231011BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20231011BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20231011BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20231011BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20231011BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
A61L27/38 100
A61L27/22
A61L27/18
A61L27/36 300
A61L27/58
A61L27/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062990
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義朗
(72)【発明者】
【氏名】山本 徳則
(72)【発明者】
【氏名】田井中 貴久
(72)【発明者】
【氏名】清水 忍
(72)【発明者】
【氏名】今村 哲也
(72)【発明者】
【氏名】遠山 由貴
(72)【発明者】
【氏名】延谷 公昭
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB11
4C081BA16
4C081BB07
4C081CA171
4C081CD151
4C081CD34
4C081DA05
4C081DC02
(57)【要約】
【課題】横隔膜に縫合して欠損部分を閉鎖することで、横隔膜の欠損部分の組織を修復し、欠損再発を改善することができる横隔膜修復材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、横隔膜の欠損を修復するのに用いる横隔膜修復材であって、横隔膜修復材1は、細胞層2、細胞層2の両側に配置されている第1の生体適合性長繊維不織布3、及び片側の第1の生体適合性長繊維不織布に接するように配置されている第2の生体適合性長繊維不織布4を含み、細胞層2は、幹細胞を含み、第1の生体適合性長繊維不織布3は、ゼラチンを主成分とするゼラチン長繊維不織布であり、第2の生体適合性長繊維不織布4は、引張弾性率が1.0MPa以上3.4MPa以下である横隔膜修復材に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
横隔膜の欠損を修復するのに用いる横隔膜修復材であって、
前記横隔膜修復材は、細胞層、細胞層の両側に配置されている第1の生体適合性長繊維不織布、及び片側の第1の生体適合性長繊維不織布に接するように配置されている第2の生体適合性長繊維不織布を含み、
前記細胞層は、幹細胞を含み、
第1の生体適合性長繊維不織布は、ゼラチンを主成分とするゼラチン長繊維不織布であり、
第2の生体適合性長繊維不織布は、引張弾性率が1.0MPa以上3.4MPa以下であることを特徴とする、横隔膜修復材。
【請求項2】
第2の生体適合性長繊維不織布は、引張強度が18N以上である、請求項1に記載の横隔膜修復材。
【請求項3】
第2の生体適合性長繊維不織布は、ポリグルコール酸を主成分とするポリグルコール酸長繊維不織布である、請求項1又は2に記載の横隔膜修復材。
【請求項4】
前記細胞層は、脂肪組織由来幹細胞を含む、請求項1~3のいずれかに記載の横隔膜修復材。
【請求項5】
前記細胞層は、2層以上の細胞シートを含む、請求項1~4のいずれかに記載の横隔膜修復材。
【請求項6】
第2の生体適合性長繊維不織布は、ひずみ率25%で100回繰り返し伸縮試験を行った後の伸び率が100%以上120%以下である、請求項1~5のいずれかに記載の横隔膜修復材。
【請求項7】
第2の生体適合性長繊維不織布は、ひずみ率50%で50回繰り返し伸縮試験を行った後の伸び率が100%以上140%以下である、請求項1~6のいずれかに記載の横隔膜修復材。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の横隔膜修復材の製造方法であって、
細胞シートを準備する工程、
細胞シートの一方の表面に第1の生体適合性長繊維不織布を積層して第1の積層体を得る工程、
2つの第1の積層体を細胞シートが互いに接するように積層して第2の積層体を得る工程、及び
第2の積層体の片側の第1の生体適合性長繊維不織布に接するように第2の生体適合性長繊維不織布を積層する工程を含む、横隔膜修復材の製造方法。
【請求項9】
第2の生体適合性長繊維不織布は、生体適合長繊維で構成された織編物をニードルパンチすることで得られる、請求項8に記載の横隔膜修復材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横隔膜の欠損の修復に用いる横隔膜修復材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
先天性横隔膜ヘルニアは、先天的に横隔膜に欠損があり、本来お腹の中にあるべき腹部臓器の一部が胸の中に脱出する疾患である。欠損孔のサイズが大きい場合は、人工布を用いてパッチ閉鎖を行うことがある。例えば、先天性横隔膜ヘルニアのパッチ閉鎖には、PTFEシートが広く使用されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Camila Gonzalez Ruhrnschopf et al., Biological versus synthetic patch for the repair of congenital diaphragmatic hernia: 8-year experience at a tertiary center, Journal of Pediatric Surgery, Vol56, 2021, pp1957-1961
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、横隔膜は伸縮力を有するが、PTFEシート等の人工布の場合、伸縮性に乏しく、また特に新生児を含む子供に使用する場合に成長に合わせて大きくなることがなく、横隔膜ヘルニアの術後再発のリスクが存在する。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、横隔膜に縫合して欠損部分を閉鎖することで、横隔膜の欠損部分の組織を修復し、欠損再発を改善することができる横隔膜修復材及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1以上の実施形態は、横隔膜の欠損を修復するのに用いる横隔膜修復材であって、前記横隔膜修復材は、細胞層、細胞層の両側に配置されている第1の生体適合性長繊維不織布、及び片側の第1の生体適合性長繊維不織布に接するように配置されている第2の生体適合性長繊維不織布を含み、前記細胞層は、幹細胞を含み、第1の生体適合性長繊維不織布は、ゼラチンを主成分とするゼラチン長繊維不織布であり、第2の生体適合性長繊維不織布は、引張弾性率が1.0MPa以上3.4MPa以下であることを特徴とする、横隔膜修復材に関する。
【0007】
本発明の1以上の実施形態は、前記横隔膜修復材の製造方法であって、細胞シートを準備する工程、細胞シートの一方の表面に第1の生体適合性長繊維不織布を積層して第1の積層体を得る工程、2つの第1の積層体を細胞シートが互いに接するように積層して第2の積層体を得る工程、及び第2の積層体の片側の第1の生体適合性長繊維不織布に接するように第2の生体適合性長繊維不織布を積層する工程を含む横隔膜修復材の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、横隔膜に縫合して欠損部分を閉鎖することで、横隔膜の欠損部分の組織を修復し、欠損再発を改善することができる横隔膜修復材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の1実施形態の横隔膜修復材の模式的断面図である。
図2】本発明の1実施形態の横隔膜修復材の模式的断面図である。
図3】本発明の1実施形態の横隔膜修復材の模式的断面図である。
図4】実施例1において、横隔膜修復実験後の横隔膜組織学的評価1の結果を示す写真である。
図5】実施例1及び比較例1において、横隔膜修復実験後の横隔膜組織学的評価2の結果を示す写真である。
図6】実施例1において、横隔膜修復実験後の横隔膜組織学的評価3の結果を示す写真である。
図7】実施例1において、横隔膜修復実験後の横隔膜組織学的評価3の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の発明者らは、上述した問題を解決するため、検討を重ねた。その結果、横隔膜修復材として、幹細胞を含む細胞層と、細胞層の両側に第1の生体適合性長繊維不織布を配置し、片側の第1の生体適合性長繊維不織布に接するように第2の生体適合性長繊維不織布を配置した積層体を用いるとともに、第1の生体適合性長繊維不織布としてゼラチンを主成分とするゼラチン長繊維不織布を用い、第2の生体適合性長繊維不織布の引張弾性率(ヤング率とも称される)を1.0MPa以上3.4MPa以下にすることで、該横隔膜修復材を横隔膜に縫合して欠損部分を閉鎖でき、横隔膜の欠損部分の組織を修復し、欠損再発を改善し得ることを見出した。
具体的には、第2の生体適合性長繊維不織布の引張弾性率を1.0MPa以上3.4MPa以下にすることで、横隔膜修復材にて横隔膜の欠損部分を縫合する際に縫合性が良好であり、縫合後に横隔膜の伸縮に合わせて伸縮しやすい。また、ゼラチン長繊維不織布と幹細胞を含む細胞層を併用することで、横隔膜とゼラチン長繊維不織布の結合性が高まり、血管新生や横紋筋新生等が進み、横隔膜の欠損部分の組織が修復され、欠損再発を抑制することができる。
【0011】
<細胞層>
細胞層は、1層以上の細胞シートで構成されればよく、特に限定されないが、細胞の数や分布等を調整しやすい観点から、2層以上の細胞シートを含むことが好ましい。本発明の1以上の実施形態において、細胞シートは、細胞同士が細胞間結合によりシート状になったものを意味する。細胞同士は、直接接着していてもよく、介在物質を介して互いに接着していてもよい。介在物質としては、細胞同士を接着し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックス等が挙げられる。介在物質は、特に限定されないが、細胞由来のものであることが好ましい。
【0012】
細胞シート(細胞層)は、幹細胞等の細胞を含む。幹細胞は、様々な特殊化した細胞型へ分化する可能性がある細胞である。幹細胞としては、特に限定されず、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性癌腫細胞(EC)、胚性生殖幹細胞(EG)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、成体幹細胞、胚盤胞由来幹細胞、生殖隆起由来幹細胞、奇形腫由来幹細胞、オンコスタチン非依存性幹細胞(OISC)、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞、羊膜由来間葉系幹細胞、皮膚由来間葉系幹細胞、骨膜由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、臍帯血由来間葉系幹細胞、歯髄由来幹細胞等が挙げられる。
【0013】
上述した幹細胞は、1種を単独で用いてもよく、目的等に応じて2種以上を併用してもよい。例えば、横隔膜の欠損部位における生着率を高める観点から、幹細胞は、間葉系幹細胞を含むことが好ましい。間葉系幹細胞としては、特に由来組織、臓器に限定されず、例えば、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪組織由来間葉系幹細胞、羊膜由来間葉系幹細胞、皮膚由来間葉系幹細胞、骨膜由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、臍帯血由来間葉系幹細胞、歯髄由来幹細胞等が挙げられる。中でも、骨髄由来細胞由来の幹細胞及び脂肪由来の幹細胞からなる群から選ばれる1以上を含むことがより好ましく、脂肪由来の幹細胞を含むことがより好ましい。
【0014】
横隔膜に縫合後の免疫拒絶反応を抑制する観点から、細胞は、同種同系あるいは自己由来の幹細胞であることが好ましく、同種同系あるいは自己由来の間葉系幹細胞であることがさらに好ましい。
【0015】
細胞層の厚みは特に限定されないが、例えば、血管新生や横紋筋新生等をより向上させ、横隔膜の欠損部分の組織の修復をより向上させる観点から、10μm以上200μm以下であることが好ましく、20μm以上170μm以下であることがより好ましく、30μm以上140μm以下であることがさらに好ましい。
【0016】
<第1の生体適合性長繊維不織布>
第1の生体適合性長繊維不織布は、ゼラチンを主成分とするゼラチン長繊維不織布である。本発明の1以上の実施形態において、「主成分」とは、90質量%以上含まれる成分を意味する。例えば、「ゼラチンを主成分とする」とは、ゼラチンを90質量%以上含むことを意味する。前記ゼラチン長繊維不織布は、ゼラチンを95質量%以上含んでもよく、実質的にゼラチン100質量%からなるものでもよい。前記ゼラチン長繊維不織布は、ゼラチンに加えて、必要に応じて、他の成分を10質量%以下含んでもよく、5質量%以下含んでもよい。他の成分は、他の生体適合性ポリマー、架橋剤、可塑剤、他の添加剤等であってもよい。
【0017】
本発明の1以上の実施形態の横隔膜修復材において、ゼラチン長繊維不織布は、膨潤した状態で用いられる。本発明の1以上の実施形態において、「膨潤」とは、ゼラチン長繊維不織布を液体、例えば水、生理食塩水、緩衝液、培地等で飽和状態まで膨潤することを意味する。前記飽和状態とは、液体が最大限に含まれた状態であり、液体の含有量が一定限度にとどまりそれ以上増えない状態を意味する。
【0018】
前記ゼラチンの原材料となるコラーゲンが由来する動物の種類や部位は特に限定されない。コラーゲンは、例えば脊髄動物由来でもよく、魚由来でもよい。また、真皮、靭帯、腱、骨、軟骨等の様々な器官や組織由来のコラーゲンを適宜用いることができる。また、コラーゲンからゼラチンを調製する方法も特に限定されず、例えば酸処理、アルカリ処理、及び酵素処理等が挙げられる。前記ゼラチンの分子量も特に限定されず、様々な分子量のものを適宜選択して用いることができる。また、ゼラチンは、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記ゼラチンは、特に限定されないが、適度な柔軟性及び硬さを有し、ゼラチン長繊維不織布のハンドリング性を高める観点から、ゼリー強度が100g以上400g以下であることが好ましく、より好ましくは150g以上360g以下である。本発明において、ゼリー強度は、JIS K 6503:2001に準じて測定することができる。前記ゼラチンは、市販品であってもよい。
【0020】
前記他の生体適合性ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、天然高分子や合成高分子を用いることができる。天然高分子としては、例えばタンパク質や多糖類が挙げられる。タンパク質としては、例えばコラーゲン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニン、フィブリン等が挙げられる。多糖類としては、例えばキトサン、アルギン酸カルシウム、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、 デンプン、ジェランガム、アガロース、グァーガム、キサンタンガム、カラギーナン、ペクチン、ローカストビーンガム、タマリンドガム、ダイユータンガム等の天然高分子を用いてもよく、カルボキシメチルセルロース等の天然高分子の誘導体を用いてもよい。合成高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、熱可塑性エラストマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、シクロオレフィンポリマー、アモルファスフッ素樹脂等の非吸収性の合成高分子や、ポリ乳酸、ポリグルコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン等の生体吸収性高分子等が挙げられる。上述した他の生体適合ポリマーは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0021】
ゼラチン長繊維不織布は、安全性が高く、生体吸収性に優れるゼラチンを主成分とすることから、横隔膜修復材に好適に用いることができる。特に、間葉系幹細胞を含む骨髄由来の幹細胞や脂肪由来の幹細胞等で構成された細胞シートと併用した場合、ゼラチン長繊維不織布と細胞シートの相乗作用が発生しやすく、横隔膜欠損部位において、目的細胞への分化が高まる。
【0022】
ゼラチン長繊維は、平均繊維径が2μm以上400μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上300μm以下であり、さらに好ましくは7μm以上250μm以下であり、特に好ましくは10μm以上150μm以下である。ゼラチン長繊維の平均繊維径が上記範囲内であると、幹細胞がゼラチン長繊維不織布に侵入しやすく、横隔膜欠損部位における幹細胞の生着率がより高まる。本明細書において、「ゼラチン長繊維の平均繊維径」は、膨潤後のゼラチン長繊維不織布から任意に選択した50本の繊維の直径を測定してその平均値を算出することで求めることができる。膨潤後のゼラチン長繊維不織布は、例えば、マイクロスコープ(CKX53、オリンパス社製)で観察することができる。
【0023】
前記ゼラチン長繊維不織布において、繊維交点が少なくとも部分的に溶着している。これにより、ゼラチン長繊維不織布中の繊維が3次元のネットワーク構造を形成し、ゼラチン不織布は膨潤状態でもへたらず、膨潤状態の強度が高くなる。また、ゼラチン長繊維不織布中の繊維が3次元のネットワーク構造を形成することで、ゼラチン長繊維不織布は所望の形に成形しやすく、かつ成形安定性も高いものとなる。ゼラチン長繊維不織布において、繊維交点は一部が溶着してもよく、繊維交点の全部が溶着してもよい。繊維交点の溶着は、特に限定されないが、例えば、ゼラチン長繊維不織布の製造時に完全に固化していない状態の繊維を堆積することで発現させることができる。
【0024】
前記ゼラチン長繊維不織布は、特に限定されないが、例えば、取扱性、細胞シートとの接着性、及び横隔膜修復後の細胞シートとの相互作用を高める観点から、厚みが0.1mm以上3.0mm以下であることが好ましく、0.2mm以上2.5mm以下であることがより好ましく、0.3mm以上2.0mm以下であることがさらに好ましい。
【0025】
前記ゼラチン長繊維不織布は、特に限定されないが、例えば、取扱性、細胞シートとの接着性、及び横隔膜修復後の細胞シートとの相互作用を高める観点から、目付が50g/m2以上300g/m2以下であることが好ましく、より好ましくは100g/m2以上200g/m2以下であり、さらに好ましくは130g/m2以上170g/m2以下である。本明細書において、ゼラチン不織布の目付は、JIS L 1913:2010に準じて測定することができる。
【0026】
前記ゼラチン長繊維不織布は、特に限定されないが、例えば、取扱性、細胞シートの接着性、及び横隔膜修復後の細胞シートとの相互作用を高める観点から、1.0kPaの圧縮応力時の圧縮変形率(以下において、単に「圧縮変形率」とも記す。)が1%以上40%以下であることが好ましく、5%以上35%以下であることがより好ましく、10%以上30%以下であることがさらに好ましい。本明細書において、圧縮変形率は、水で飽和状態まで膨潤した後の積層体において、無荷重の時の厚さを(H1)とし、1.0kPaの圧縮応力時の厚さを(H2)とした場合、下記数式(1)で算出したものである。圧縮試験は、後述のとおりに行う。
圧縮変形率(%)=100-{(H2/H1)×100}…(1)
【0027】
本発明の1以上の実施形態において、ゼラチン長繊維不織布は、細胞接着因子、細胞誘導因子、細胞増殖因子、細胞に栄養やエネルギ-を与える物質、細胞の機能を抑制又は亢進する物質等でコーティングされてもよい。細胞接着因子としては、特に限定されないが、例えば、フィブロネクチン等が挙げられる。細胞接着因子でゼラチン長繊維不織布をコーティングすることで、細胞シートとの接着が強固になる。細胞に栄養やエネルギ-を与える物質としては、特に限定されないが、例えば、ATP、ピルビン酸、グルタミン等が挙げられる。また、本発明の1以上の実施形態において、ゼラチン長繊維不織布を細胞誘導因子、細胞増殖因子等の生理活性物質を含む溶液に浸して、これらの成分を含ませてもよい。横隔膜に縫合後に、ゼラチン長繊維不織布から、これらの生理活性物質が徐々に放出されることで、目的細胞への分化等を促進することができる。
【0028】
本発明の1以上の実施形態において、ゼラチン長繊維不織布は、特に限定されないが、夾雑物の発生を抑制し、製品汚染を防ぐ観点から、ゼラチン等の生体適合性ポリマーを含む紡糸液をノズル吐出口から空気中に押し出し、前記ノズル吐出口の後方に位置し、前記ノズル吐出口とは非接触状態の流体噴射口から前方に向けて圧力流体を噴射し、前記押し出された紡糸液を前記圧力流体に随伴させて繊維形成させ、得られた生体適合長繊維を集積させて不織布とすることで作製することが好ましい。
【0029】
本発明の1以上の実施形態において、ゼラチン長繊維不織布は、架橋されていることが好ましい。これにより形態安定性及び耐水性を高めることができる。架橋は、架橋剤等の化合物を用いた化学架橋であってもよいが、生体安全性の観点から、生体安全性を有する架橋剤を用いる架橋、架橋剤を用いない架橋であることが好ましい。架橋剤を用いない架橋としては、例えば、熱架橋、電子線架橋、γ線等の放射線架橋、紫外線架橋等が挙げられる。電子線照射、γ線等の放射線照射の場合は、滅菌と架橋を同時にすることもできる。簡便に所望の架橋効果を得やすい観点から、熱架橋であることが好ましく、熱脱水架橋であることがより好ましい。熱脱水架橋は、例えば、100℃以上200℃以下で、24時間以上96時間以下行ってもよい。また、熱脱水架橋は、例えば、1kPa以下の真空下で行ってもよい。前記積層体は、架橋する前に乾燥してもよい。乾燥は、室温における風乾でもよく、真空凍結乾燥でもよい。
【0030】
本発明の1以上の実施形態において、ゼラチン長繊維不織布は、具体的には、国際公開公報2018/235745号に記載のとおりに作製し、必要に応じて膨潤させて用いることができる。また、ゼラチン長繊維不織布として、例えば、株式会社ニッケ・メディカル製の「Genocel(登録商標)」シートタイプ等の市販品を適宜に膨潤させて用いてもよい。
【0031】
<第2の生体適合性長繊維不織布>
第2の生体適合性長繊維不織布は、引張弾性率が1.0MPa以上3.4MPa以下である。これにより、横隔膜修復材を横隔膜に縫合して欠損部位を閉鎖する際の縫合性が良好である上、横隔膜修復材を横隔膜に縫合して欠損部位を閉鎖した後に、横隔膜修復材が横隔膜の伸縮に追従しやすく、欠損の再発、並びに胸郭変形及び側弯症等の合併症のリスクが低減する。第2の生体適合性長繊維不織布の引張弾性率は、好ましくは1.1MPa以上3.3MPa以下であり、より好ましくは1.2MPa以上3.2MPa以下であり、さらに好ましくは1.2MPa以上3.1MPa以下であり、さらにより好ましくは1.3MPa以上3.0MPa以下であり、特に好ましくは1.4MPa以上3.0MPa以下である。第2の生体適合性長繊維不織布の引張弾性率は、実施例に記載のとおりに測定することができる。
【0032】
第2の生体適合性長繊維不織布は、引張強度が18N以上であることが好ましい。これにより、横隔膜修復材を横隔膜に縫合して欠損部位を閉鎖する際の縫合強度をより高めることができる上、裂けることもなかった。第2の生体適合性長繊維不織布の引張強度は、より好ましくは18N以上150N以下であり、さらに好ましくは20N以上100N以下であり、さらにより好ましくは25N以上80N以下である。第2の生体適合性長繊維不織布の引張強度は、実施例に記載のとおりに測定することができる。
【0033】
第2の生体適合性長繊維不織布は、ひずみ率50%で50回繰り返し伸縮試験を行った後の伸び率(以下、50%50回伸び率とも記す)が70%以上200%以下であることが好ましく、より好ましくは100%以上150%以下であり、さらに120%以上140%以下である。横隔膜は、呼吸すると一般的に1.5倍の大きさになり、小児の1分間の呼吸回数は一般的に30~45回であり、大人の1分間の呼吸回数は一般的に15~20回であることから、第2の生体適合性長繊維不織布の50%50回伸び率が上述した範囲内であると、横隔膜修復材が呼吸時の大人や子供の横隔膜の伸縮に追従しやすくなる。第2の生体適合性長繊維不織布の50%50回伸び率は、実施例に記載のとおりに測定することができる。
【0034】
第2の生体適合性長繊維不織布は、ひずみ率25%で100回繰り返し伸縮試験を行った後の伸び率(以下、25%100回伸び率とも記す)が70%以上200%以下であることが好ましく、より好ましくは100%以上125%以下であり、さらに105%以上120%以下である。第2の生体適合性長繊維不織布は、25%100回伸び率が上述した範囲内であると、横隔膜修復材が新生児や小児の小さな呼吸時の横隔膜の伸縮に追従しやすくなる。第2の生体適合性長繊維不織布の25%100回伸び率は、実施例に記載のとおりに測定することができる。
【0035】
第2の生体適合性長繊維不織布は、上述した引張強度及び引張弾性率を満たす範囲内において、生体適合性ポリマーを主成分とする生体適合性長繊維不織布を適宜用いることができる。生体内分解性やゼラチンとの接着性の観点から、ポリ乳酸、ポリグルコール酸、ポリカプロラクトン、及びポリジオキサノン等からなる群から選ばれる1以上の生体吸収性高分子の主成分とする生体適合性長繊維不織布であることが好ましく、ポリグルコール酸を主成分とするポリグルコール酸長繊維不織布であることがより好ましい。
【0036】
ポリグルコール酸長繊維不織布は、ポリグルコール酸を90質量%以上含んでもよく、95質量%以上含んでもよく、実質的にポリグルコール酸100質量%からなるものでもよい。前記ポリグルコール酸長繊維不織布は、ポリグルコール酸に加えて、必要に応じて、他の成分を10質量%以下含んでもよく、5質量%以下含んでもよい。他の成分は、第1の生体適合性長繊維不織布の欄にて説明した他の生体適合性ポリマー等であってもよい。
【0037】
ポリグルコール酸の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば、引張強度及び弾性率を高める観点から、7000以上130000以下であることが好ましく、より好ましくは7500以上100000であり、さらに好ましくは8000以上80000以下である。本明細書において、ポリグルコール酸の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定する。
【0038】
ポリグルコール酸長繊維不織布の目付は、特に限定されないが、例えば、引張強度及び弾性率を高める観点から、60g/m2以上300g/m2以下であることが好ましく、より好ましくは70g/m2以上200g/m2以下であり、さらに好ましくは80g/m2以上180g/m2以下である。本明細書において、ポリグルコール酸長繊維不織布の目付は、JIS L 1913:2010に準じて測定することができる。
【0039】
ポリグルコール酸長繊維不織布の厚みは、特に限定されないが、例えば、取扱性及び縫合強度を高める観点から、0.1mm以上3.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.2mm以上1.0mm以下であり、さらに好ましくは0.3mm以上0.8mm以下である。
【0040】
ポリグルコール酸長繊維の単繊維繊度は、特に限定されないが、例えば、分解性の観点から、好ましくは10dtex以上200dtex以下であり、より好ましくは20dtex以上150dtex以下であり、さらに好ましくは40dtex以上80dtex以下である。
【0041】
ポリグルコール酸長繊維不織布は、特に限定されないが、例えば、引張強度及び弾性率を高める観点から、ポリグルコール酸長繊維で構成された編織物をニードルパンチ処理した長繊維ニードルパンチ不織布であることが好ましく、ポリグルコール酸長繊維で構成された編物(ニットとも称される)をニードルパンチ処理した長繊維ニードルパンチ不織布であることがより好ましい。ニットは、横編でもよく、丸編みでもよい。
【0042】
長繊維ニードルパンチ不織布は、公知の製造方法で作製すればよく、特に限定されないが、例えば、1例として、下記のように作製することができる。
(1)筒編機等の編機でニットを作製する。
(2)ニットを平らに置き、しわが出来ないように2つ重ねにする。
(3)2つ重ねにしたニットをニードルパンチ機でニードルパンチを行い、不織布を作製する。ニードルパンチは、繊維が絡み合って解れにくい状態になるまで行えばよい。
(4)ヒートセットを行い、不織布の伸縮を固定するため、熱固定を行う。ヒートセットは、例えば、40℃以上180℃以下で、1分以上60分以下行うことができる。
(5)プレス機にてヒートプレスし、厚み補正を行う。ヒートプレスは、所望の厚みが得られるように適宜行えばよく、例えば、圧力5MPa以上40MPa以下、温度40℃以上180℃以下の条件で行うことができる。
【0043】
<横隔膜修復材>
横隔膜修復材は、細胞層、細胞層の両側に配置されている第1の生体適合性長繊維不織布、及び片側の第1の生体適合性長繊維不織布に接するように配置されている第2の生体適合性長繊維不織布を含む。細胞層は、2層以上の細胞シートを含んでもよい。
【0044】
図1は、本発明の1実施形態の横隔膜修復材の模式的断面(厚さ方向に垂直な断面)図である。該実施形態の横隔膜修復材1は、細胞層2、細胞層2の両側に配置されている第1の生体適合性長繊維不織布3(3a、3b)、及び第1の生体適合性長繊維不織布3bに接するように配置されている第2の生体適合性長繊維不織布4を含む。第1の生体適合性長繊維不織布3(3a、3b)としては、上述したゼラチン長繊維不織布を適宜用いる。第2の生体適合性長繊維不織布としては、上述したポリグルコール酸長繊維不織布を好適に用いることができる。細胞層2は、細胞シート2a及び2bの2層の細胞シートを含む。細胞シートとしては、上述した幹細胞を含む細胞シートを適宜用いることができる。横隔膜修復材1の厚さ方向に垂直な断面において、細胞シート2a、2b、及び第1の生体適合性長繊維不織布3a及び3bのサイズは同じであり、第2の生体適合性長繊維不織布4のサイズは、第1の生体適合性長繊維不織布3のサイズより小さい。
【0045】
第1の生体適合性長繊維不織布3a及び3bは、それぞれ、細胞シート2a、2bの一方の表面に部分的に接着してもよく、全体に接着してもよい。細胞シート2aと細胞シート2bは、部分的に接着してもよく、全体的に接着してもよい。
【0046】
第1の生体適合性長繊維不織布3a及び3bは、目付、厚みや長繊維の平均繊維径等が同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0047】
細胞シート2a及び2bは、同じ種類の細胞で構成された細胞シートであってもよく、異なる種類の細胞で構成された細胞シートであってもよい。また、細胞シート2a及び2bは、それぞれ、1種類の細胞で構成された細胞シートであってもよく、2種類以上の細胞で構成された細胞シートであってもよい。
【0048】
横隔膜修復材1は、細胞シート2a及び2bに加えて、必要に応じて他の細胞シートをさらに含んでもよく、前記他の細胞シートは、細胞シート2a及び2bの間に配置されることが好ましい。他の細胞シートは、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。
【0049】
横隔膜修復材1は、第1の生体適合性長繊維不織布3a及び3bに加えて、必要に応じて他のゼラチン長繊維不織布をさらに含んでもよく、前記他のゼラチン長繊維不織布は、細胞シートの間に配置されていてもよい。
【0050】
図2は、本発明の1実施形態の横隔膜修復材の模式的断面(厚さ方向に垂直な断面)図である。該実施形態の横隔膜修復材11は、厚さ方向に垂直な断面において、第2の生体適合性長繊維不織布14のサイズが、第1の生体適合性長繊維不織布3のサイズと同じである以外は、横隔膜修復材1と同様の構成を有する。
【0051】
図3は、本発明の1実施形態の横隔膜修復材の模式的断面(厚さ方向に垂直な断面)図である。該実施形態の横隔膜修復材21は、厚さ方向に垂直な断面において、第2の生体適合性長繊維不織布24のサイズが、第1の生体適合性長繊維不織布3のサイズより大きい以外は、横隔膜修復材1と同様の構成を有する。
【0052】
図1図3に示されている横隔膜修復材の厚さ方向に垂直な断面において、細胞シート2a、細胞シート2b、第1の生体適合性長繊維不織布3a及び第1の生体適合性長繊維不織布3bのサイズは同じであるが、細胞シート2a、細胞シート2bと、第1の生体適合性長繊維不織布3a、第1の生体適合性長繊維不織布3bのサイズは異なってもよい。また、細胞シート2aと細胞シート2bのサイズも異なってもよい。また、第1の生体適合性長繊維不織布3aと第1の生体適合性長繊維不織布3bのサイズも異なってもよい。例えば、血管新生や横紋筋新生等をより向上させ、横隔膜の欠損部分の組織の修復をより向上させる観点から、横隔膜修復材の厚さ方向に垂直な断面において、細胞シート2a、細胞シート2b、第1の生体適合性長繊維不織布3a及び第1の生体適合性長繊維不織布3bのサイズは同じであることが好ましい。
【0053】
本発明の1以上の実施形態の横隔膜修復材において、ゼラチン長繊維不織布と細胞シートは直接接着してもよく、介在物質、例えば細胞外マトリックス等を介して接着してもよい。また、本発明の1以上の実施形態の横隔膜修復材において、細胞シートと細胞シートは直接接着してもよく、介在物質、例えば細胞外マトリックス等を介して接着してもよい。
【0054】
<横隔膜修復材の製造方法>
本発明の1以上の実施形態において、特に限定されないが、横隔膜修復材の作製は、下記のような工程を含む。
(1)細胞シートを準備する工程;
(2)細胞シートとゼラチン長繊維不織布層を積層して第1の積層体を得る工程;
(3)2つの第1の積層体を、細胞シート同士が接するように積層し、第2の積層体を得る工程;
(4)第2の積層体の片側の第1の生体適合性長繊維不織布に接するように第2の生体適合性長繊維不織布を積層する工程。
【0055】
本発明の1以上の実施形態において、細胞シートは、例えば、細胞を公知の培養方法により接着培養することで得ることができる。培養皿等の培養容器からの細胞シートの剥離は、公知の方法で行うことができる。培養皿等の培養容器については、特に限定されないが、例えば、細胞シートを剥離しやすい培養容器を用いることが好ましい。このような培養容器としては、例えば、株式会社セルシード製の温度応答性培養基材等の市販品を用いてもよい。
【0056】
細胞培養時には、培地としては、特に限定されず、細胞の種類に応じて、細胞の生存増殖に必要な成分を含むものを適宜用いることができる。前記培地は、血清、抗生物質及び成長因子等を含んでもよい。血清は、例えば、ウシ血清、ウシ胎児血清、ウマ血清、ヒト血清等を適宜用いることができる。抗生物質は、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、アンフォテリシン、アンピシリン、ミノマイシン、カナマイシン等を適宜用いることができる。成長因子は、細胞増殖因子、分化誘導因子、細胞接着因子等を適宜用いることができる。
【0057】
細胞培養時の播種する細胞数は、細胞の種類等に応じて適宜決めればよいが、例えば、培養容器の接着面積に対して、0.10x105Cells/cm2以上0.60x105Cells/cm2以下であってもよく、0.20x105Cells/cm2以上0.50x105Cells/cm2以下であってもよく、0.35x105Cells/cm2以上0.45x105Cells/cm2以下であることがさらに好ましい。
【0058】
細胞培養は、例えば、27℃以上40℃以下で行ってもよく、31℃以上37℃以下であってもよい。二酸化炭素は、2%以上10%以下の範囲であってもよい。
【0059】
培養時間は、細胞種類、細胞数等に応じて適宜決めればよいが、例えば、2日以上8日以下継続して培養してもよく、3日以上7日以下継続して行ってもよく、4日以上6日以下継続して行ってもよい。培地は、2日以上4日以下毎に交換してもよい。
【0060】
培養容器から剥離した細胞シートの一方の表面上に、培地がない状態で、培地で膨潤させたゼラチン長繊維不織布を積層し、例えば、室温(20℃以上25℃以下)で約2分以上10分以下静置することで、ゼラチン長繊維不織布と細胞シートを接着させて、第1の積層体を得ることができる。ゼラチン長繊維不織布は、細胞シートの大きさに合わせて所定のサイズにカットして使用することができる。
【0061】
第1の積層体を2つ作製し、2つの第1の積層体を、細胞シート同士が接するように積層し、例えば、培地がない状態で、2%以上10%以下の二酸化炭素の雰囲気下、27℃以上40℃以下、好ましくは35℃以上40℃以下の温度で約60分以上120分以下培養することで、細胞シート同士を接着させて、第2の積層体を得ることができる。
【0062】
第2の積層体の片側の第1の生体適合性長繊維不織布に接するように第2の生体適合性長繊維不織布を積層することで、横隔膜修復材を得ることができる。必要に応じて、第2の積層体の片側の第1の生体適合性長繊維不織布に接するように第2の生体適合性長繊維不織布を積層した後に、縫合や生体適合性接着剤(フィブリン糊等)等を使用して第2の積層体と第2の生体適合性長繊維不織布を一体化し、横隔膜修復材を得てもよく、吸収性縫合糸(吸収糸とも称される)で2の積層体と第2の生体適合性長繊維不織布を縫合して一体化することで、横隔膜修復材を得てもよい。
【0063】
本発明の1以上の実施形態において、横隔膜修復材は、先天性横隔膜ヘルニア等の横隔膜に欠損を有する疾患の場合、第1の生体適合性長繊維不織布が組織の最接近側になるように配置して横隔膜修復材と横隔膜を縫合して欠損を閉鎖することができる。
【実施例0064】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0065】
(製造例1)
ポリグルコール酸(以下、PGAとも記す)長繊維(マルチフィラメント糸、フィラメント本数10、単繊維繊度4.6dtex、総繊度46dtex)を用い、筒編機でニット(目付12g/m2、厚み0.25mm)を作製した。得られたニットを平らに置き、しわが出来ないように3枚重ねた後、ニードルパンチ機で、繊維が絡み合って解れにくい状態になるまでニードルパンチを行い、不織布を作製した。次に、ヒートセットを行い、不織布の伸縮を固定するために、熱固定を行い。次に、プレス機でヒートプレスし、厚み補正を行い、目付70g/m2、厚み0.3mmのPGA長繊維ニードルパンチ不織布を作製した。
【0066】
(製造例2)
ニットを5枚重ねにした以外は、製造例1と同様にして、目付120g/m2、厚み0.4mmのPGA長繊維ニードルパンチ不織布を作製した。
【0067】
(製造例3)
ニットを8枚重ねにした以外は、製造例1と同様にして、目付180g/m2、厚み0.6mmのPGA長繊維ニードルパンチ不織布を作製した。
【0068】
(参考例1)
ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEとも記す)を材料とする非吸収性ヘルニア・胸壁・腹壁用補綴材(目付360g/m2、厚み1.0mm、日本ゴア合同社(W.L.Gore&Associates G.K.)製、品名「デュアルメッシュ)を用いた。
【0069】
(参考例2)
PGAを材料とする吸収性組織補強材(目付35g/m2、厚み0.15mm、グンゼメディカルジャパン株式会社製、品名「ネオベール(登録商標)」、015Gシートタイプ)を用いた。
【0070】
製造例1~3のPGA長繊維ニードルパンチ不織布、参考例1のPTFEデュアルメッシュ、参考例2の組織補強材について、下記のとおり、引張試験及び伸縮試験を行い、引張強度、引張弾性率、50%50回伸び率及び25%100回伸び率を測定した。その結果を下記表1に示した。
【0071】
(引張試験)
幅1cm、長さ8cmの試験片を用い、つかみ幅2cm、つかみ間隔を4cmとし、オートグラフ(島津製作所製、型番「AGS-X,10N-10kN」)で、引張速度100mm/minで破断するまで引っ張り、引張応力-ひずみ曲線を得た。破断時の引張強度とし、得られた引張応力-ひずみ曲線において、ISO 527-1に準じて、下記数式(2)のとおり、ひずみ0.05~0.25%間の線形回帰によって引張弾性率を求めた。試験片は、タテ及びヨコ方向のそれぞれにおいて、3回採取し、計6回の測定値の平均値を求めた。
E=(σ2―σ1)/(ε2―ε1)…(2)
但し、数式(2)において、Eは引張弾性率、σ1はひずみε1=0.05%において測定された引張応力、σ2はひずみε2=0.25%において測定された引張応力を表す。
【0072】
(伸縮試験1)
幅1cm、長さ8cmの試験片を用い、つかみ幅2cm、つかみ間隔を4cmとし、オートグラフ(島津製作所製、型番「AGS-X,10N-10kN」)で、引張速度100mm/minで、2cm引張り戻すという動きを計50回往復した後の伸び率を測定した。
試験片は、タテ及びヨコ方向のそれぞれにおいて、3回採取し、計6回の測定値の平均値を求めた。
【0073】
(伸縮試験2)
幅1cm、長さ8cmの試験片を用い、つかみ幅2cm、つかみ間隔を4cmとし、オートグラフ(島津製作所製、型番「AGS-X,10N-10kN」)で、引張速度100mm/minで、1cm引張り戻すという動きを計100回往復した後の伸び率を測定した。
試験片は、タテ及びヨコ方向のそれぞれにおいて、3回採取し、計6回の測定値の平均値を求めた。
【0074】
【表1】
【0075】
表1のデータから分かるように、製造例1~3のPGA長繊維ニードルパンチ不織布は、引張弾性率が1.0MPa以上3.4MPa以下であり、横隔膜に縫合する際の縫合性が良好である上、横隔膜に縫合して欠損部分を閉鎖した後に、横隔膜の伸縮に追従しやすく、該PGA長繊維ニードルパンチ不織布を繊維シート及びゼラチン長繊維不織布と併用した横隔膜修復材にて先天性横隔膜ヘルニア等の欠損部分を閉鎖することで、横隔膜の欠損部分の組織を修復し、欠損再発を改善し得る可能性が示唆された。
【0076】
表1のデータから分かるように、製造例1~3のPGA長繊維ニードルパンチ不織布は、引張強度が18N以上であり、横隔膜に縫合する際に裂けることもなく、縫合強度をより高めることができる。
【0077】
一方、人工布として使用されている参考例1のPTFEデュアルメッシュは、引張弾性率が3.4MPaを超えていることから、横隔膜に縫合して欠損部分を閉鎖した後に、横隔膜の成長や伸縮に追従しにくい。参考例2の組織補強材は、引張弾性率が1.0MPa未満であり、横隔膜に縫合する際に縫合しにくい上、引張強度が低く、横隔膜に縫合する際に裂けやすかった。
【0078】
(実施例1)
<脂肪細胞の採取及び初代培養>
動物はラットを使用した。麻酔下の動物の下腹部を正中切開して、脂肪組織(0.5~1.0g)を摘出した。摘出した脂肪組織をαМEМに移して、細かく切断した。その後、脂肪組織を0.1%コラゲナーゼ含有HBSSに移して、37℃で約100rpmで旋回させ、明らかな固形の脂肪組織がなくなるまで、60~90分旋回コラゲナーゼ酵素処理を行った。酵素処理した細胞含有溶液を遠心管に移した。遠心分離を1200rpmで10分間行った後、上清を除去した。下層に集積した細胞を新鮮培養培地で懸濁して、10cm培養皿に播種した。培養皿を5%CO2、37℃の条件でインキュベートし、コンフルエントに達するまで、5日から7日間初代培養を行った。なお、初代培養期間中、全量培地交換を2日おきに行い、培養皿に接着しなかった細胞(血球細胞や死細胞等)を除去した。培養皿に接着・伸展して増殖した細胞を脂肪由来細胞として取り扱った。
<細胞シートの作製>
初代培養から継代を経てコンフルエントに達した脂肪由来細胞(P6-7)をトリプシン処理して、培養皿から回収した。遠心分離を1300rpmで10分間行った後、上清を除去して、新鮮培地で懸濁した。その細胞懸濁液から細胞カウントを行い、5×106cells/mLとなるように細胞懸濁液を新鮮培地で調製した。調製した細胞懸濁液1mL(細胞数5.0×106cells)を、セルビュー(登録商標)クラレッチ遠赤蛍光細胞リンカーミニキットの一般膜標識用(シグマアルドリッチ製)を用いて脂肪由来幹細胞(ASC)を標識した後、6cmの温度応答性培養皿に播種した。新鮮培地3mLを追加して、5%CO2、37℃の条件インキュベートし、オーバーコンフルエントに達するまで、10日間培養を行った。このとき、培地は2日おきに全量交換した。
<横隔膜修復材の作製>
6cmの温度応答性培養皿で脂肪由来細胞がオーバーコンフルエントになった後、培地を除去して、培養皿の底の温度を20~25℃まで低下させた。培養皿を20分静置して、脂肪由来細胞を培養皿から剥がし、シート状に遊離させた。この時の細胞シートの直径は約35mmであった。得られた細胞シートの一方の表面上に培地で膨潤させたゼラチン長繊維不織布(Genocel(登録商標)、シートタイプ、ニッケ・メディカル社製)を積層して、ゼラチン長繊維不織布と細胞シートを接着させた後、ゼラチン長繊維不織布と細胞シートの第1の積層体を回収した。なお、ゼラチン長繊維不織布は、膨潤時の繊維の平均繊維径は47~50μm、直径は約35mm、厚さは約450μmであった。回収した第1の積層体を2枚、細胞シートの表面同士が重なるように積層した。積層体を10cmの培養皿に置き、細胞シートが互いに接着するように、培地が無い状態で5%CO2、37℃の条件で60分間インキュベーションし、第2の積層体を得た。
上記で得られた第2の積層体に、新鮮培地10~12mL添加して、2-3日間、培地交換なしで培養を行った。培養3日後、移植直前のゼラチン長繊維不織布で挟んだ細胞層の厚さは、約200μmであった。
その後、第2の積層体の片側の第1の生体適合性長繊維不織布に接するように製造例2のPGA長繊維ニードルパンチ不織布(直径約20mm)を積層し、5-0モノフィラメント吸収糸で3針縫合し、図1に示す構造を有する横隔膜修復材を得た。なお、図1では、吸収糸は図示していない。
<横隔膜修復実験>
動物は15-20週齢雄F344/NSlcラットを用いた。三種混合麻酔薬を腹腔内投与し、気管内挿管を行い、人工呼吸管理下に左上腹部で開腹し、左横隔膜の一部を切除し(肺を確認することができる)、横隔膜ヘルニアモデルとした。ラットの横隔膜欠損部に、ゼラチン長繊維不織布3b側が組織の最近接側になるように上記で得られた横隔膜修復材を配置し、横隔膜修復材と横隔膜を、5-0モノフィラメント非吸収糸を用いて3針で縫合し、閉腹した。
【0079】
(比較例1)
実施例1で用いたものと同様の培地で膨潤させたゼラチン長繊維不織布を2枚積層して積層体を得た。次に、該積層体を10cmの培養皿に置き、培地が無い状態で5%CO2、37℃の条件で90分間インキュベーションした後、片側の第1の生体適合性長繊維不織布に接するように製造例2のPGA長繊維ニードルパンチ不織布(直径約20mm)を積層し、5-0モノフィラメント吸収糸で3針縫合し、横隔膜修復材を得た。
該横隔膜修復材を用いた以外は、実施例1と同様にして横隔膜修復実験を行った。
【0080】
(比較例2)
実施例1で用いたものと同様の培地で膨潤させたゼラチン長繊維不織布を2枚積層して積層体を得た。次に、該積層体を10cmの培養皿に置き、培地が無い状態で5%CO2、37℃の条件で90分間インキュベーションした後、片側の第1の生体適合性長繊維不織布に接するように参考例2のPGAを材料とする組織補強材(直径約30mm)を積層し、5-0モノフィラメント吸収糸で3針縫合し、横隔膜修復材を得た。該横隔膜修復材を用い、ラットの横隔膜欠損部に、PGA長繊維ニードルパンチ不織布と接していないゼラチン長繊維不織布側が組織の最接近側になるように配置し、横隔膜修復材と横隔膜を、5-0モノフィラメント非吸収糸を用いて縫合しようとしたところ、横隔膜修復材が裂けてしまい、縫合することができなかった。
【0081】
(横隔膜組織学的評価1)
実施例1において、横隔膜修復実験2週間後、動物に麻酔をかけて、横隔膜を取り出した。横隔膜の5mmのパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色した上で、横隔膜欠損孔付近を観察した。
また、横隔膜の5mmのパラフィン切片を作製し、核をDAPIで染色した上で、脂肪由来幹細胞を観察した。
結果を図4に示した。
【0082】
図4において、Aは横隔膜の欠損部分の断面写真であり、B及びCは横隔膜欠損孔付近のDAPI染色写真であり、DはCにおいて四角で囲んだ部分の拡大図である。図B~Dにおいて、脂肪由来幹細胞は赤色で染まっている。図4から、横隔膜修復材1が横隔膜欠損孔50を閉鎖しており、横隔膜欠損孔50側に脂肪由来幹細胞(一例が矢印で示されている)が寄ってきていることが分かり、再生の可能性が示唆された。
【0083】
(横隔膜組織学的評価2)
実施例1及び比較例1のそれぞれにおいて、横隔膜修復実験2週間後に、横隔膜の5mmのパラフィン切片を作製し、HE染色した。結果を図5に示した。
【0084】
図5において、A及びBは比較例1の組織切片のHE染色結果であり、C及びDは実施例1の組織切片のHE染色結果である。図5において、A及びBと、C及びDの対比により、幹細胞を含まない横隔膜修復材を用いた比較例1では、ゼラチン長繊維不織布10が粗となっており、幹細胞を含む横隔膜修復材を用いた実施例1では、ゼラチン長繊維不織布10が密となっていることが分かる。また、幹細胞を含む横隔膜修復材を用いた実施例1の方が、横隔膜30との結合性が向上していることが分かる。
【0085】
(横隔膜組織学的評価3)
血管新生を抗CD31抗体を用いて評価した。実施例1及び比較例1のそれぞれにおいて、横隔膜修復実験2週間後に、横隔膜の5mmのパラフィン切片を作製し、CD31抗体を用いて血管内皮細胞を免疫組織学的に染色し、核をDAPIで染色した。結果を図6に示した。
【0086】
図6において、Aは比較例1の組織切片の蛍光染色写真であり、Bは実施例1の組織切片の蛍光染色写真である。図6において、青色は、DAPIで染色された細胞を示し、赤色は、CD31で染まったCD31陽性細胞(太矢印)、すなわち血管新生を示し、脂肪由来幹細胞(細い矢印)は水色に染まっている。図6Bでは、赤色のCD陽性細胞が多く、血管の新生が確認された。
【0087】
(横隔膜組織学的評価4)
横紋筋新生を横紋筋マーカーを用いて評価した。実施例1及び比較例1のそれぞれにおいて、横隔膜修復実験2週間後に、横隔膜の5mmのパラフィン切片を作製し、抗デスミン抗体を用いて、横紋筋を免疫組織学的に染色した。また、核をDAPIで染色した。また、実施例1において、横隔膜修復実験4週間後に、横隔膜の5mmのパラフィン切片を作製し、抗ミオグロビン抗体を用いて、横紋筋を免疫組織学的に染色した。また、核をDAPIで染色した。デスミンは未熟な横紋筋のマーカーであり、ミオグロビンは成熟した横紋筋のマーカーである。結果を図7に示した。
【0088】
図7において、Aは比較例1の組織切片の蛍光染色写真であり、Bは実施例1の横隔膜修復実験2週間後の組織切片の蛍光染色写真であり、Cは実施例1の横隔膜修復実験4週間後の組織切片の蛍光染色写真である。図7A及び7Bにおいて、青色は、DAPIで染色された細胞を示し、緑はデスミン陽性細胞を示し、脂肪由来幹細胞(細い矢印)は水色に染まっており、赤色はαSMA(α平滑筋アクチン)を示す。図7Cにおいて、青色は、DAPIで染色された細胞を示し、緑はミオグロビン陽性細胞を示し、赤色はαSMA(α平滑筋アクチン)を示す。
【0089】
実施例1において、図7Bに示されているように、横隔膜修復実験2週間後では、ゼラチン長繊維不織布10内に緑色に染まる部位、未熟な横紋筋のマーカーであるデスミン陽性部位が確認でき、図7Cに示されているように、横隔膜修復実験4週間後では、横紋筋のマーカーであるミオグロビン陽性部位が確認できる。これらのことから、筋組織が新生してきていることが示唆された。
【0090】
以上のとおり、本発明の横隔膜修復材を用いることで、縫合性よく、横隔膜欠損部を閉鎖することができるとともに、横隔膜欠損部において組織修復が進み、欠損再発を改善することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 横隔膜修復材
2 細胞層
2a、2b 細胞シート
3、3a、3b、10 第1の生体適合性長繊維不織布(ゼラチン長繊維不織布)
4、20 第2の生体適合性長繊維不織布
30 横隔膜
50 横隔膜欠損孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7