(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153619
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ワイヤソー切断装置及び切断方法
(51)【国際特許分類】
B28D 1/08 20060101AFI20231011BHJP
B23D 53/04 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B28D1/08
B23D53/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062993
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】502263905
【氏名又は名称】ダイヤモンド機工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000165424
【氏名又は名称】株式会社コンセック
(71)【出願人】
【識別番号】596105208
【氏名又は名称】第一カッター興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 立
(72)【発明者】
【氏名】向井 啓通
(72)【発明者】
【氏名】垣中 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】上條 宏明
(72)【発明者】
【氏名】平田 豪
(72)【発明者】
【氏名】神田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】綿川 文治
(72)【発明者】
【氏名】大下 貴史
(72)【発明者】
【氏名】眞野 敬英
【テーマコード(参考)】
3C040
3C069
【Fターム(参考)】
3C040AA19
3C040DD11
3C040JJ00
3C069AA01
3C069BA06
3C069BB03
3C069BC02
3C069BC04
3C069CA07
3C069EA01
(57)【要約】
【課題】切断終了後にワイヤを切断開始時の位置に自動で戻すことにより、効率的な作業を実現するためのワイヤソー切断装置及び切断方法を提供する。
【解決手段】ワイヤソー切断装置10は、一対のアーム部材50a,50bと、先端プーリー57と、アーム送り機構部45とを備える。先端プーリー57は、アーム部材50a,50bの先端部に設けられ切断時にワイヤW1を巻回する。アーム送り機構部45は、アーム部材50a,50bの延在する方向に、アーム部材50a,50bを直動させる。切断時には、2つの孔h11,h12にそれぞれアーム部材50a,50bを挿入しながら、先端プーリー57のワイヤW1でブロック70を切断する。切断後は、アーム部材50a,50bを後退させるとともに、ワイヤW1を巻き取ることにより、アーム部材50a,50bとワイヤW1を切断開始前の位置に戻す。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤを用いて切断対象物を切断するワイヤソー切断装置において、
前記ワイヤを巻回して回転させるワイヤ駆動部と、
前記ワイヤを前記切断対象物に押し付ける張力を前記ワイヤに付与する張力付与部と、
前記切断対象物に形成された離間する2つの孔のそれぞれに、先端が挿入可能な一対のアーム部材と、
前記アーム部材の先端に設けられ切断時に前記ワイヤを巻回する先端プーリーと、
前記先端プーリーを前記アーム部材の延在方向に移動させるために前記アーム部材を駆動させる可動機構部と、を備えることを特徴とするワイヤソー切断装置。
【請求項2】
待機用プーリーと変換プーリーとを更に備え、
前記先端プーリーは、前記アーム部材の前記延在方向と平行な第1面内において前記ワイヤを巻回し、
前記ワイヤ駆動部と前記張力付与部とは、前記第1面と直交する第2面内において前記ワイヤを巻回し、
前記待機用プーリーは、前記第1面内において前記ワイヤを巻回するように、前記1対のアーム部材の外側に配置され、
前記変換プーリーは、前記ワイヤを前記第1面内と前記第2面内との巻回方向に変更することを特徴とする請求項1に記載のワイヤソー切断装置。
【請求項3】
前記ワイヤ駆動部及び前記張力付与部を内蔵し、前記ワイヤを前記第2面内に配置するケース部材を更に備え、
前記ワイヤ駆動部、前記張力付与部、前記ケース部材及び前記ワイヤを備える本体部と、
前記アーム部材、前記先端プーリー及び前記可動機構部を備え、前記本体部に対して着脱可能に前記本体部の下方に設けられる架台部と、を備え、
非切断時に、前記ワイヤは、前記先端プーリーから外れ、前記待機用プーリーに巻回していることを特徴とする請求項2に記載のワイヤソー切断装置。
【請求項4】
ワイヤソー切断装置のワイヤを動かすことにより切断対象物を切断する切断方法であって、
前記ワイヤソー切断装置は、
前記ワイヤを巻回して回転させるワイヤ駆動部と、
前記ワイヤを前記切断対象物に押し付ける張力を前記ワイヤに付与する張力付与部と、
切断時に前記ワイヤを巻回する先端プーリーが先端に設けられた一対のアーム部材と、
前記先端プーリーを前記アーム部材の延在方向に移動させるために前記アーム部材を駆動させる可動機構部と、を備え、
前記切断対象物に、前記一対のアーム部材の間隔で2つの孔を形成し、
前記孔のそれぞれに各アーム部材の先端を挿入し又は前記先端を挿入しながら、前記先端プーリーに巻回されたワイヤで、前記切断対象物における前記2つの孔の間を前記ワイヤで切断した後、
前記可動機構部によって、切断終了時には前記孔に先端が位置している前記アーム部材を、前記先端とは反対側に移動させるとともに、前記ワイヤを巻き取ることを特徴とする切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワイヤによって切断を行なうワイヤソー切断装置及び切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートブロック等を切断する場合に、ワイヤを高速回転させて切断するワイヤソーを用いる場合がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の技術においては、本体部と、本体部に間隔をおいて取り付けられた一対のスタンド部とを有したワイヤソー切断装置が記載されている。このワイヤソー切断装置において、本体部は、ワイヤを巻回する駆動プーリー及び第1プーリーを内蔵するケース部材を備えている。各スタンド部は、集塵装置に接続される中空のオフセットスタンドと、オフセットスタンドの先端部に取り付けられワイヤを巻回する先端プーリーとを有している。切断時には、ワイヤソー切断装置のスタンド部を、鉄筋コンクリートブロックに形成した2つの孔に挿入して、ワイヤソー切断装置を鉄筋コンクリートブロックに接触するように設置する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載されたワイヤソー切断装置は、押し切りである。このため、切断前において、ワイヤを、1対の細長いオフセットスタンドの先端プーリーに巻回させた後、これらオフセットスタンドの間の基端部(初期位置)に配置する。そして、切断後には、ワイヤは、1対のオフセットスタンドの先端を直線で結ぶように位置する。このため、次の切断前に、ワイヤを緩めて基端部(初期位置)に戻す必要がある。従来、長いワイヤを初期位置に戻すために、ワイヤを弛ませる作業は、人間が手作業で実施していた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためのワイヤソー切断装置は、ワイヤを用いて切断対象物を切断するワイヤソー切断装置において、前記ワイヤを巻回して回転させるワイヤ駆動部と、前記ワイヤを前記切断対象物に押し付ける張力を前記ワイヤに付与する張力付与部と、前記切断対象物に形成された離間する2つの孔のそれぞれに、先端が挿入可能な一対のアーム部材と、前記アーム部材の先端に設けられ切断時に前記ワイヤを巻回する先端プーリーと、前記先端プーリーを前記アーム部材の延在方向に移動させるために前記アーム部材を駆動させる可動機構部と、を備える。
【0006】
上記課題を解決するための切断方法は、ワイヤソー切断装置のワイヤを動かすことにより切断対象物を切断する切断方法であって、前記ワイヤソー切断装置は、前記ワイヤを巻回して回転させるワイヤ駆動部と、前記ワイヤを前記切断対象物に押し付ける張力を前記ワイヤに付与する張力付与部と、切断時に前記ワイヤを巻回する先端プーリーが先端に設けられた一対のアーム部材と、前記先端プーリーを前記アーム部材の延在方向に移動させるために前記アーム部材を駆動させる可動機構部と、を備え、前記切断対象物に、前記一対のアーム部材の間隔で2つの孔を形成し、前記孔のそれぞれに各アーム部材の先端を挿入し又は前記先端を挿入しながら、前記先端プーリーに巻回されたワイヤで、前記切断対象物における前記2つの孔の間を前記ワイヤで切断した後、前記可動機構部によって、切断終了時には前記孔に先端が位置している前記アーム部材を、前記先端とは反対側に移動させるとともに、前記ワイヤを巻き取る。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、切断終了後にワイヤを切断開始時の位置に、機械操作により自動で戻すことができるので、効率的な作業を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態におけるワイヤソー切断装置の斜視図である。
【
図2】実施形態におけるワイヤソー切断装置の背面図である。
【
図3】実施形態におけるワイヤソー切断装置の側面図である。
【
図4】実施形態におけるワイヤソー切断装置の上面図である。
【
図5】実施形態におけるワイヤソー切断装置の本体部の背面図である。
【
図6】実施形態におけるワイヤソー切断装置の架台部の背面図である。
【
図8】実施形態におけるワイヤソー切断装置の架台部の平面図である。
【
図9】実施形態のワイヤソー切断装置の切断開始前の動作の説明図である。
【
図10】実施形態のワイヤソー切断装置の切断開始直後の動作の説明図である。
【
図11】実施形態のワイヤソー切断装置の切断途中の動作の説明図である。
【
図12】実施形態のワイヤソー切断装置の切断途中であって、一方のアーム部材の先端が孔の端部に到着した時の動作の説明図である。
【
図13】実施形態のワイヤソー切断装置の切断終了時の動作の説明図である。
【
図14】実施形態のワイヤソー切断装置の切断終了後にアーム部材を戻す途中の動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1~
図14を用いて、ワイヤソー切断装置及び切断方法の一実施形態を説明する。
図1~
図4は、それぞれ本実施形態におけるワイヤソー切断装置10の斜視図、背面図、側面図、上面図である。なお、
図1では、ワイヤW1の図示を省略している。
【0010】
図1~
図4に示すように、ワイヤソー切断装置10は、ワイヤW1を備える本体部20と、この本体部20の下方に配置される架台部40とを備える。架台部40には、本体部20に対して直交する水平方向に延在する一対(2つ)のアーム部材50a,50bを備えている。更に、ワイヤソー切断装置10は、切断を行なうために、後述する各モータを制御する制御部を備えている。
図5及び
図6は、それぞれワイヤソー切断装置10の本体部20と架台部40の背面図である。
【0011】
(本体部20の構成)
図1に示すように、本体部20は、ベース部材21、ケース部材22、補助ベース部材24及びフレーム部材F1,F2を備えている。
【0012】
ベース部材21は、上面及び下面が開口した直方体形状のブロック部材である。ベース部材21の上方には、開口を覆うようにケース部材22が配置されている。ケース部材22は、全体として、横が約1.5m、縦が約1.3m、幅が約0.3mの直方体形状をしている。ケース部材22は、垂直方向に延在するように、ベース部材21の上に固定されている。ケース部材22の一面(
図2の手前の面)は、透明な板部材で構成されている。ケース部材22内においては、ワイヤW1が垂直面(第2面)内で配置されている。
【0013】
図5に示すように、ケース部材22の内部空間には、駆動プーリー25と、第1プーリー26と、第2プーリー27と、第3プーリー28とが収容されている。各プーリー(25~28)には、ワイヤW1が巻回される。このワイヤW1は、公知の乾式ワイヤソー切断装置に用いられるダイヤモンドワイヤである。
【0014】
駆動プーリー25は、ワイヤ駆動部として機能し、第1プーリー26~第3プーリー28よりも径が大きく、ワイヤW1に回転力を伝達する。このため、ケース部材22の背面には、駆動プーリー25を回転させる駆動モータ30が取り付けられている。本実施形態では、駆動モータ30として、サーボモータを用いる。
【0015】
第1プーリー26は、張力付与部として機能し、ワイヤW1を切断対象物に押し付ける張力を付与するためのテンションフィードプーリーである。第1プーリーには、付与する張力を一定に調節するための張力調整部が設けられている。この張力調整部によって、張力を調整するために、第1プーリー26は、垂直方向に移動可能に配置されている。
【0016】
第2プーリー27は、巻取りプーリーであり、切断終了時に、ワイヤW1を巻き取るために用いる。本実施形態では、連動して移動する2つの第2プーリー27を用いる。各第2プーリー27は、第1プーリー26と同様に、垂直方向に移動可能に配置されている。
【0017】
そして、駆動プーリー25、第1プーリー26及び第2プーリー27の間には、位置が固定された第3プーリー28(ガイドプーリー)が配置されている。
ケース部材22の前面(
図2における裏面)には、第1プーリー26及び第2プーリー27の可動範囲に対応して、プーリー(26,27)の回転軸が貫通するスリットが形成されている。このスリットは、被覆部材29によって覆われている。被覆部材29は、プーリー(26,27)の移動範囲の周囲に、スリットを塞ぐための可撓性材料により構成されている。
【0018】
図1に示すように、ベース部材21には、前面側に、直方体形状の補助ベース部材24が取り付けられている。この補助ベース部材24の上面には、フレーム部材F1が固定されている。フレーム部材F1は、下方が開口した四角枠形状を有する。
そして、フレーム部材F1と、ケース部材22の背面とを繋ぐように、複数のフレーム部材F2が設けられている。
【0019】
更に、補助ベース部材24には、ガイドバー31,32が立設されている。このガイドバー31,32は、第1プーリー26及び第2プーリー27に対応する位置に設けられる。ガイドバー31,32には、第1プーリー26及び第2プーリー27を移動させる移動機構の第1移動体及び第2移動体(図示せず)がそれぞれ設けられている。第1移動体には、張力を調整しながら第1プーリー26の位置を移動させる移動用モータ34が取り付けられている。この移動用モータ34は、ワイヤソー切断装置10の切断速度及び付与張力に応じた速度で、第1プーリー26を移動させる。第2移動体には、ワイヤW1を巻き取るために第2プーリー27の位置を移動させる移動用モータ(図示せず)が取り付けられている。
【0020】
図2に示すように、補助ベース部材24の下面には、下方に突出して前方に延在するL字ブロック形状の取付部材35a,35bが離間して設けられている。この取付部材35a,35bは、後述する架台部40に収容されたアーム部材50a,50bよりも外側に設けられている。
【0021】
図5に示すように、取付部材35aの外側となる右側面には、変換プーリー36aが回転可能に取り付けられている。更に、取付部材35bの外側となる左側面には、変換プーリー36bが回転可能に取り付けられている。変換プーリー36a,36bは、第1プーリー26及び駆動プーリー25に巻回されたワイヤW1の端部を巻回する位置に設けられている。この変換プーリー36a,36bは、ケース部材22から下方に出てくるワイヤW1の延在方向を、垂直方向から水平方向(前後方向)に変換する。
【0022】
更に、取付部材35a,35bの下面には、待機用プーリー37,38が水平方向に回転可能に取り付けられている。この待機用プーリー37,38は、非切断時に後述する先端プーリー57にワイヤW1が巻回されていない場合に、ワイヤW1を巻回する。更に、この待機用プーリー37,38は、変換プーリー36a,36bからのワイヤW1の延在方向を、前後方向から左右方向に変換する。
【0023】
図2に示すように、待機用プーリー37,38は、後述するアーム部材50a,50bの先端プーリー57と同じ高さで配置される。
従って、ワイヤW1は、待機用プーリー38から、変換プーリー36b、駆動プーリー25、第3プーリー28、第2プーリー27、第3プーリー28、第2プーリー27、第3プーリー28、第1プーリー26、変換プーリー36aの順に巻回して、待機用プーリー37に至る。
そして、
図8に示すように、待機用プーリー37,38の間に、切断時にワイヤW1を巻回する1対のアーム部材50a,50bの各先端プーリー57が配置される。
【0024】
(架台部40の構成)
図1に示す架台部40は、前面が開口した箱型形状を有する基台部41を有する。この基台部41は、本体部20のベース部材21及び補助ベース部材24の両端部を上に載置したときに、これらベース部材(21,24)に対応する大きさを有する。更に、この基台部41の上面には、ケース部材22の内部に対応する開口が設けられている。この開口を介して、ケース部材22に収容されているワイヤW1が弛んだ場合には、基台部41の内部に配置可能になる。
【0025】
基台部41の前方には、集塵カバー43が設けられている。この集塵カバー43は、四角枠形状を有し、前面に設けられた開口の周囲を覆うように設けられている。更に、この集塵カバー43の前面には、シール部材(図示せず)が突出するように取り付けられている。シール部材は、ワイヤソー切断装置10が接触する切断対象物の壁面に応じて変形して、この壁面と集塵カバー43との接続部分を密着する。更に、集塵カバー43の一方の側面には、上下に並んだ2つの集塵管43aが設けられている。集塵管43aは、集塵装置(図示せず)にホース(図示せず)を介して接続される。
【0026】
図4に示すように、基台部41に取り付けられた固定板44には、1対(2つ)のアーム送り機構部45が設けられている。これら1対のアーム送り機構部45は、左右が反転した同じ構成を有している。各アーム送り機構部45は、アーム部材50a,50bを前後に移動させる可動機構部として機能する。本実施形態では、アーム送り機構部45は、アーム部材50a,50bを前後に直進移動させる直動機構部である。アーム送り機構部45は、正逆回転可能なモータ46を備える。このモータ46は、回転軸46aを内蔵した接続部(図示せず)で固定されている。
図6に示すように、モータ46の回転軸46aには、ピニオンギア47が設けられている。
【0027】
図4に示すアーム部材50a,50bは、同じ構成を有しており、中空の四角枠の断面形状を有した延在方向に延びる棒状部51を有する。この棒状部51の端部には、円管52が溶接されている。この円管52は、ホース(図示せず)を介して集塵装置(図示せず)に接続されている。
【0028】
図3に示すように、棒状部51の下面には、延在方向に延びるラック53が固定されている。このラック53は、
図4に示すアーム送り機構部45のモータ46の回転軸46aのピニオンギア47と噛合することにより、モータ46の回転によってアーム部材50a,50b全体が前後に移動する。
【0029】
図4に示すように、棒状部51の先端部55には、固定部材56を介して先端プーリー57が回転可能に設けられている。この先端プーリー57は、切断時には、ワイヤW1を巻回する。
更に、
図3及び
図7に示すように、棒状部51において先端プーリーより先端側には、2個のガイド部材58a,58bが設けられている。
【0030】
図7に示すように、ガイド部材58a,58bは、先端プーリー57の厚み(高さ)分の間隔を空けて、上下に設けられている。ガイド部材58a,58bは、水平軸に対して上下対称の形状を有している。各ガイド部材58a,58bは、滑り部材としての2個のボールキャスタが設けられている。各ボールキャスタは、垂直軸から角度θ1で離間した位置に配置される。そして、各ボールキャスタの先端に設けられたボール59が、棒状部51が挿入される孔(後述するコア孔h11,h12)の内周面に当接するように、棒状部51から径方向に突出している。この場合、ガイド部材58aのボール59は、ガイド部材58bのボール59と対向して配置される。そして、各ボール59は、孔(コア孔h11,h12)の内周面に当接した場合には、この内周面を当接して転がりながら棒状部51の先端を、孔の中心に支持する。
【0031】
(切断方法)
次に、
図9~
図14を用いて、上述した構成のワイヤソー切断装置10を用いた切断方法について説明する。
図9~
図14は、切断方法を説明するための平面断面図である。これらの図において、見やすくするため、ワイヤソー切断装置10については、断面ハッチングを省略している。また、ここでは、切断対象物である鉄筋コンクリート製のブロック70の一部を切り出す際に、ブロック70を水平方向に切断(水平切断)する場合について説明する。更に、見やすくするために、水平方向に切断された部分のハッチングを取り除いている。
【0032】
図9に示すように、この水平切断においては、まず、2つの孔を穿孔する。具体的には、公知のコアドリルを用いて、ブロック70に、離間した円筒形状の2つのコア孔h11,h12を形成する。これらコア孔h11,h12は、1対のアーム部材50a,50bの距離に対応する間隔で形成される。そして、これらコア孔h11,h12は、ブロック70の側面(図における下面)から水平方向に延在するように形成される。
【0033】
次に、ワイヤソー切断装置10を設置する。具体的には、吊り上げたワイヤソー切断装置10を、コア孔h11,h12が開口するブロック70の側面に配置する。この場合、コア孔h11,h12のそれぞれの中心とアーム部材50a,50bの中心とが整合するように、ワイヤソー切断装置10を配置する。そして、集塵カバー43のシール部材がブロック70と密着するように、ワイヤソー切断装置10をブロック70の側面側に押し付ける。この状態においては、アーム部材50a,50bの先端は、待機用プーリー37,38の先端と同一、もしくは後方に配置され、ワイヤW1は、待機用プーリー37,38の間で弛まない状態の初期位置にある。
【0034】
そして、制御部の指示信号に応じて、切断処理を実行する。
ここでは、まず、吸引の開始処理を実行する。具体的には、基台部41の集塵カバー43の集塵管43a、各アーム部材50a,50bの円管52に接続された集塵装置を稼働させる。これにより、集塵管43a及び円管52の端部を介して、集塵カバー43、基台部41、ベース部材21、ケース部材22の内部の空気が排出される。
【0035】
次に、制御部は、駆動モータ30を駆動させる。これにより、駆動プーリー25が回転するので、この駆動プーリー25に巻回されているワイヤW1が高速回転する。
この場合、第1プーリーを用いて初期の張力調整処理を実行する。具体的には、ワイヤW1の張力を一定にするために、制御部は、移動用モータ34を駆動して第1移動体を垂直方向に移動させる。これにより、第1プーリー26の位置を調整することにより張力を調整する。
【0036】
次に、制御部は、右側のアーム送り機構部45のモータ46を駆動する。これにより、モータ46の回転力が、ピニオンギア47及びラック53を介してアーム部材50aの直進力に変換されて、アーム部材50aが前進する。ここで、アーム部材50aのガイド部材58a,58bが、コア孔h11に挿入されると、ボール59がコア孔h11の内周面を当接しながら滑る。これにより、アーム部材50aがコア孔h11にガイドされながら挿入される。
【0037】
その後、
図10に示すように、アーム部材50aの先端プーリー57が、待機用プーリー37,38の先端よりも前に出た場合には、先端プーリー57が、高速回転しているワイヤW1を引っ掛ける。そして、アーム部材50aが更に前進すると、先端プーリー57は、ワイヤW1を引っ張りながら前進する。この場合、ワイヤW1の張力に応じて第1プーリー26がケース部材22内で垂直方向に移動し、ワイヤW1の長さ及び張力を調整する。
【0038】
そして、アーム部材50aの前進移動に応じて、高速回転したワイヤW1が、ブロック70を切断する。この場合、待機用プーリー37,アーム部材50aの先端プーリー57及び待機用プーリー38に巻回されたワイヤW1がブロック70を切断する。なお、ワイヤW1によってブロック70の切断が開始されると、切断によって発生する粉塵(切断粉)が発生する。この切断粉は、集塵管43a及び円管52の端部を介して、稼働中の集塵装置に吸引されることにより、ワイヤソー切断装置10の外部に排出される。
【0039】
そして、
図11に示すように、右側のアーム送り機構部45を駆動してから所定時間が経過した後(例えばアーム部材50aが50mm先行した後)、制御部は、左側のアーム送り機構部45のモータ46も駆動する。これにより、アーム部材50bが前進する。この場合においても、アーム部材50aと同様に、アーム部材50bの先端部55がコア孔h12に挿入されると、ガイド部材58a,58bのボール59によって、アーム部材50bがコア孔h12にガイドされる。
【0040】
更に、アーム部材50bが前進すると、アーム部材50bの先端プーリー57が、高速回転しているワイヤW1を引っ掛けた後、このワイヤW1を引っ張りながら前進する。この場合においても、ワイヤW1の張力に応じて第1プーリー26が移動し、ワイヤW1の長さ及び張力を調整する。
【0041】
結果として、アーム部材50a,50bの前進移動に応じて、高速回転したワイヤW1が、ブロック70を切断する。この場合、待機用プーリー37,アーム部材50aの先端プーリー57、アーム部材50bの先端プーリー57及び待機用プーリー38に巻回されたワイヤW1がブロック70を切断する。
【0042】
その後、
図12に示すように、アーム部材50aの先端部55がコア孔h11の先端に到着する。この場合、制御部は、右側のアーム送り機構部45のモータ46を停止する。これにより、アーム部材50aの前進が停止される。このとき、左側のアーム送り機構部45のモータ46は駆動を続けることにより、アーム部材50bは前進を続ける。
【0043】
そして、
図13に示すように、アーム部材50bの先端部55がコア孔h12の先端に到達すると、制御部は、左側のアーム送り機構部45のモータ46を停止する。これにより、アーム部材50bの前進を停止する。更に、制御部は、駆動モータ30を停止する。
以上により、コア孔h11,h12の間において、ワイヤW1よりもブロック70の側面側(図において下側)の領域が、水平面で、上下方向に切断される。
【0044】
次に、
図14に示すように、制御部は、1対のアーム送り機構部45のモータ46を、切断時とは逆方向に回転させる。これにより、アーム部材50a,50bは、後方に移動する。この場合においても、各アーム部材50a,50bは、ボール59によりコア孔h11,h12にガイドされながら移動する。ここで、一方のアーム部材50aが、少し(例えば50mm)早めに後退するように、右側のアーム送り機構部45のモータ46を少し早めに駆動してもよい。
【0045】
アーム部材50a,50bの後退に伴って第2プーリー27を移動させることにより、ワイヤW1を巻き取る。ここでは、アーム送り機構部45に連動されて、第1プーリー26を移動させることにより、ワイヤW1の長さ及び張力を調整する。この場合、ワイヤW1は、切断面を経由して、ブロック70から徐々に抜け出る方向に移動する。
【0046】
その後、
図9に示すように、各アーム部材50a,50bの先端が待機用プーリー37,38の先端よりも後方の位置まで至った場合に、制御部は、各アーム送り機構部45のモータ46を停止する。この場合、ワイヤW1は、アーム部材50a,50bの先端プーリー57から外れて、待機用プーリー37,38の間で張力が加わった切断前の状態になる。そして、集塵装置を停止する。
【0047】
(作用)
本実施形態のワイヤソー切断装置10においては、各アーム部材50a,50bを前後に移動させるアーム送り機構部45を備える。ワイヤW1によるブロック70の切断後、各アーム部材50a,50bの先端がコア孔h11,h12の奥(開口と反対側)に位置した状態から、アーム送り機構部45のモータ46を逆回転させて、各アーム部材50a,50bの先端を後退させる。これに伴って、第2プーリー27を移動させることにより、ワイヤW1を巻き取る。これにより、各アーム部材50a,50b及びワイヤW1は、切断開始前の初期位置に戻る。
【0048】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態のワイヤソー切断装置10は、各アーム部材50a,50bを前後に移動させるアーム送り機構部45を備える。アーム送り機構部45のモータ46を回転させることにより、各アーム部材50a,50bに引っ掛けた高速移動するワイヤW1を前に押しながらブロック70を水平面で切断する。切断が終了したときには、コア孔h11,h12の奥(開口と反対側)に、アーム部材50a,50bの先端が位置する。この状態から、各アーム部材50a,50bを後退させるとともに、ワイヤW1を巻き取る。これにより、各アーム部材50a,50b及びワイヤW1を、切断開始前の位置に戻すことができるので、次の切断を効率的に行なうことができる。
【0049】
(2)本実施形態のワイヤソー切断装置10は、垂直方向に延在する本体部20と、この本体部20の下方に位置する架台部40とを備える。架台部40は、架台部40から前後に突出し水平方向に移動するアーム部材50a,50bと、アーム部材50a,50bを直線移動させるアーム送り機構部45と、を備える。これにより、切断時にワイヤW1を引っ掛けるアーム部材50a,50bの先端プーリー57を、コア孔h11,h12内で効率的に移動させることができる。
【0050】
(3)本実施形態のワイヤソー切断装置10は、上下に分離可能な本体部20と架台部40とを備える。架台部40には、切断時にワイヤW1を引っ掛ける先端プーリー57を取り付けたアーム部材50a,50bを備える。本体部20には、先端プーリー57と面一にワイヤW1を待機時に保持する待機用プーリー37,38を備える。これにより、切断時には、先端プーリー57に巻回されるワイヤW1は、非切断時には、架台部40とは分離して本体部20に収容された状態になる。従って、摩耗等によりワイヤW1を交換する場合には、ワイヤソー切断装置10全体ではなく、本体部20のみを、架台部40から分離して交換することができる。
【0051】
(4)本実施形態の各アーム部材50a,50bの先端部55には、先端プーリー57よりも先端に、ボール59を備えたガイド部材58a,58bが設けられている。これにより、アーム部材50a,50bの先端のボール59は、コア孔h11,h12の内周面を当接しながら転がる。従って、ボール59によって、アーム部材50a,50bは、コア孔h11,h12の中心に位置するようにガイドされながら、円滑にコア孔h11,h12内に挿入することができる。
【0052】
(5)本実施形態においては、1対のアーム部材50a,50bのうち一方のアーム部材50aを先行しながら切断する。これにより、ワイヤW1には、アーム部材50aが前進する力が押し付け力として加わるため、1対のアーム部材50a,50bを横並びで移動させる場合に比べて、効率的に切断することができる。
【0053】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態のワイヤソー切断装置10は、アーム送り機構部45のモータ46の回転軸46aに設けたピニオンギア47と、このピニオンギア47に螺合するラック53を下面に取り付けたアーム部材50a,50bとを備える。ワイヤW1を巻回する先端プーリー57を設けたアーム部材50a,50bの先端を前後に移動させる構成は、このラック53とピニオンギア47とを用いた構成に限られない。例えば、エアシリンダやアクチュエータを用いて、アーム部材50a,50bを前後に移動させてもよい。更に、先端プーリー57を前後に移動させる機構は、アーム部材50a,50bを前後に直線移動させる場合に限られない。例えば、アーム部材50a,50bを、伸縮可能な構成にして、切断時には伸長し、切断終了後には、縮小させる構成としてもよい。具体的には、アーム部材を、断面が四角形状の大きさの異なる2つの中空形状の管部材を入れ子状にして構成する。そして、切断時には、アーム部材の管部材をスライドさせることにより延長(先端を孔の奥に前進)させ、切断終了後に、入れ子状に戻すことにより縮小(先端を後退)させる。
【0054】
・上記実施形態では、第1プーリー26とともに、第2プーリー27を設ける。切断領域に応じたワイヤW1の長さによっては、第2プーリーを省略したり第2プーリーを固定したりしてもよい。
【0055】
・上記実施形態では、切断時において、アーム部材50aをアーム部材50bよりも先に前進させる。また、切断後、アーム部材50aをアーム部材50bから先に後退させる。コア孔h11,h12におけるアーム部材50a,50bの移動方法は、これに限られない。例えば、切断時及び切断後に、アーム部材50a,50bの先端が横並びとなるように、2つのモータ46を駆動させてもよい。
【0056】
・上記実施形態のワイヤソー切断装置10は、アーム部材50a,50bを挿入しながら、アーム部材50a,50bの先端の先端プーリー57に巻回したワイヤW1でブロック70を切断した。切断方法は、アーム部材50a,50bを挿入しながら切断する場合に限られない。例えば、アーム部材50a,50bを、切断前に(先に)コア孔h11,h12に挿入する。この場合、ワイヤW1を、先端プーリー57に巻回し、アーム部材50a,50bの基元部に位置するように配置する。そして、切断時には、コア孔h11,h12の側面及びブロック70の側面にワイヤW1を配置した状態から、ワイヤW1に張力を加えて切断を行なう。
【0057】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。
(a)前記アーム部材には、前記先端プーリーよりも先端側に、前記孔の内周面に当接しながら回転可能な滑り部材が取り付けられていることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のワイヤソー切断装置。
【符号の説明】
【0058】
θ1…角度、F1,F2…フレーム部材、W1…ワイヤ、h11,h12…コア孔、10…ワイヤソー切断装置、20…本体部、21…ベース部材、22…ケース部材、24…補助ベース部材、25…駆動プーリー、26…第1プーリー、27…第2プーリー、28…第3プーリー、29…被覆部材、30…駆動モータ、31,32…ガイドバー、34…移動用モータ、35a,35b…取付部材、36a,36b…変換プーリー、37,38…待機用プーリー、40…架台部、41…基台部、43…集塵カバー、43a…集塵管、44…固定板、45…アーム送り機構部、46…モータ、46a…回転軸、47…ピニオンギア、50a,50b…アーム部材、51…棒状部、52…円管、53…ラック、55…先端部、56…固定部材、57…先端プーリー、58a,58b…ガイド部材、59…ボール、70…ブロック。