(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153659
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ガス測定器及びガス測定システム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/02 20060101AFI20231011BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20231011BHJP
G01N 27/12 20060101ALI20231011BHJP
G01N 27/64 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
G01N27/02 Z
G01N27/00 J
G01N27/12 B
G01N27/64 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063053
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】水谷 学世
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誉久
(72)【発明者】
【氏名】野田 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】澤田 和明
【テーマコード(参考)】
2G041
2G046
2G060
【Fターム(参考)】
2G041CA04
2G041EA05
2G041FA30
2G041GA15
2G041GA22
2G041GA25
2G046BD01
2G046BG04
2G046BH02
2G046BH03
2G046BH04
2G046BH05
2G060AA01
2G060AB26
2G060AE19
2G060AF06
2G060BA07
2G060BB08
2G060BB12
2G060BB14
2G060BC03
2G060BD08
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】簡素な構成でガスの成分を測定できるガス測定器を提供する。
【解決手段】ガス測定器は、ガス分子の分子量に応じてガス分子の進行方向及び進行速度が制御されるようにガスを整流するガス整流部と、ガス整流部によって整流されたガスのガス分子を吸着し、吸着位置及び吸着量を検出するガスセンサとを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス分子の分子量に応じて前記ガス分子の進行方向及び進行速度が制御されるようにガスを整流するガス整流部と、
前記ガス整流部によって整流された前記ガスの前記ガス分子を吸着し、吸着位置及び吸着量を検出するガスセンサと、
を備える、ガス測定器。
【請求項2】
前記ガス整流部は、互いに平行な複数のスリットを有するフィルタである、請求項1に記載のガス測定器。
【請求項3】
前記フィルタはシリコン又はアルミニウムからなる、請求項2に記載のガス測定器。
【請求項4】
前記ガスセンサは、前記ガス分子を吸着する感応膜と、前記感応膜に吸着された前記ガス分子の吸着位置及び吸着量を出力する出力部とを有する、請求項1~3の何れか一項に記載のガス測定器。
【請求項5】
ガスが流通可能であるチャンバと、
前記チャンバの内部に配置され、前記チャンバの内部を流通する前記ガスを測定するガス測定器と、
を備え、
前記ガス測定器は、ガス分子の分子量に応じて前記ガス分子の進行方向及び進行速度が制御されるように前記ガスを整流するガス整流部と、前記ガス整流部によって整流された前記ガスの前記ガス分子を吸着し、吸着位置及び吸着量を検出するガスセンサと、を有する、
ガス測定システム。
【請求項6】
前記ガス整流部は、互いに平行な複数のスリットが主面に形成された板状のフィルタであり、
前記フィルタは、前記主面が前記ガスの流通方向と平行となり、かつ、前記複数のスリットそれぞれの延在方向が前記ガスの流通方向に直交するように、前記チャンバの内部に配置される、請求項5に記載のガス測定システム。
【請求項7】
前記チャンバの上流にガス分子をイオン化するイオン化装置が設けられる、請求項5又は6に記載のガス測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガス測定器及びガス測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、匂い測定装置を開示する。この匂い測定装置は、匂いに対する感応特性が互いに異なる二種類のセンサを有する。第一のセンサは、分子量が比較的大きい匂い分子を検出する重質系用のセンサであり、第二のセンサは、分子量が比較的小さい匂い分子を検出する軽質系用のセンサである。匂い測定装置では、重質系用のセンサの検出信号の測定値をX軸の要素とし、軽質系用のセンサの検出信号の測定値をY軸の要素としたときに得られるベクトルに基づいて、匂いを測定する。ベクトルの大きさは匂いの強さを示し、ベクトルの傾きは匂いの質を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の匂い測定装置にあっては、検出対象のガスの分子量に合わせてセンサを用意する必要がある。このため、検出対象のガスが複数の成分を含む場合には、成分のそれぞれに対応する匂いセンサが必要となり、装置の構造が複雑化するおそれがある。本開示は、より簡素な構成でガスの成分を測定できるガス測定器及びガス測定システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係るガス測定器は、ガス分子の分子量に応じてガス分子の進行方向及び進行速度が制御されるようにガスを整流するガス整流部と、ガス整流部によって整流されたガスのガス分子を吸着し、吸着位置及び吸着量を検出するガスセンサとを備える。
【0006】
このガス測定器では、ガス整流部によって、ガス分子の分子量に応じてガス分子の進行方向及び進行速度が制御される。進行方向及び進行速度が制御されたガス分子は、その分子量に応じてガスセンサの異なる位置に到達し、ガスセンサに吸着される。ガス分子の吸着位置及び吸着量はガスセンサによって検出される。ガス分子の吸着位置及び吸着量はガス分子の分子量に依存する。このため、ガス測定器では、例えば吸着位置及び吸着量に基づいてガス分子が特定される。このように、ガス測定器は、複数の匂いセンサを備えるガス測定器と比べて、より簡易な構成でガスの成分を測定できる。
【0007】
一実施形態においては、ガス整流部は、互いに平行な複数のスリットを有するフィルタとしてもよい。この場合、フィルタは、ガスがスリットを通過する際にガスを整流できる。
【0008】
一実施形態においては、フィルタはシリコン又はアルミニウムからなってもよい。シリコン又はアルミニウムは、特定のガス分子に特異的な反応を示さないので、ガス整流部の整流性能に影響を与えることを回避できる。
【0009】
一実施形態においては、ガスセンサは、ガス分子を吸着する感応膜と、感応膜に吸着されたガス分子の吸着位置及び吸着量を出力する出力部とを有してもよい。この場合、ガス測定器は、例えば、出力部によって出力されたガス分子の吸着位置及び吸着量をマッピングできる。
【0010】
本開示の他の側面におけるガス測定システムは、ガスが流通可能であるチャンバと、チャンバの内部に配置され、チャンバの内部を流通するガスを測定するガス測定器と、を備え、当該ガス測定器は、ガス分子の分子量に応じてガス分子の進行方向及び進行速度が制御されるようにガスを整流するガス整流部と、ガス整流部によって整流されたガスのガス分子を吸着し、吸着位置及び吸着量を検出するガスセンサとを有する。このガス測定システムは、複数の匂いセンサを備えるガス測定システムと比べて、より簡易な構成でガスの成分を測定できる。
【0011】
一実施形態においては、ガス整流部は、互いに平行な複数のスリットが主面に形成された板状のフィルタであり、フィルタは、主面がガスの流通方向と平行となり、かつ、複数のスリットそれぞれの延在方向がガスの流通方向に直交するように、チャンバの内部に配置される。この場合、ガスの分子量に応じて入り込むスリットが異なるため、ガス整流部は、流通するガスを分子量に応じて適切に整流できる。
【0012】
一実施形態においては、チャンバの上流にガス分子をイオン化するイオン化装置が設けられてもよい。この場合、ガス測定システムは、ガスセンサがガスをより検知しやすくできる。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係るガス測定器及びガス測定方法によれば、より簡易な構成でガスの成分を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係るガス測定システムの一例を示す概略図である。
【
図2】
図1のガス測定システムにおいて利用されるガス測定器の斜視図である。
【
図3】
図2のガス測定器におけるガスセンサの一例を示す平面図である。
【
図4】
図1のガス測定システムの整流原理を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は繰り返さない。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。「上」「下」「左」「右」「手前」「奥」などの語は、図示する状態に基づくものであり、便宜的なものに過ぎず、本開示を限定するものではない。
【0016】
[ガス測定システムの構成]
図1は、実施形態に係るガス測定システムの一例を示す概略図である。
図1に示されるガス測定システム1は、ガスの成分を測定するシステムである。
図1に示されるように、ガス測定システム1は、チャンバ10及びガス測定器3を備える。チャンバ10は、内部にガス測定器3を収容する空間を画成し、ガスが流通可能である。チャンバ10は、ガス導入口及びガス排気口を有する。ガス測定器3は、ガスの成分を測定する機器であり、チャンバ10の内部に配置される。チャンバ10のガス排気口には、チャンバ10内のガスを吸引するポンプ2が設けられる。チャンバ10のガス導入口には、イオン化装置4が設けられてもよい。イオン化装置4は、チャンバ10上流のガス管内にレーザ、光、電子などのエネルギーを印加することにより、チャンバ10へ導入されるガス分子をイオン化する。これにより、ガス測定器3はガス分子を検知しやすくなる。
【0017】
[ガス測定器の構成]
図2は、
図1のガス測定システムにおいて利用されるガス測定器の斜視図である。ガス測定器3は、ケース30、フィルタ31(ガス整流部の一例)及びガスセンサ32を備える。ケース30は、上部が開放された箱状の部材であり、ガスを透過しない材料で形成される。ケース30は、内部にガスセンサ32を収容する空間を画成する。フィルタ31は、略板状の部材であり、シリコンやアルミニウムなど、特定のガス成分に特異的な反応を示さない材料で形成される。フィルタ31は、その主面31aに互い平行な複数のスリット31bが形成される。フィルタ31は、その主面31aがガスの流通方向と平行となり、かつ、複数のスリット31bそれぞれの延在方向がガスの流通方向に直交するように、チャンバ10の内部に配置される。フィルタ31の縁部は、ケース30の上端に気密に接合される。ガスセンサ32は、ケース30の内部の底面に設けられる。ガスセンサ32は、フィルタ31の複数のスリット31bを通過したガス分子を検知する。
【0018】
[ガスセンサの構成]
図3は、
図2のガス測定器におけるガスセンサの一例を示す平面図である。
図3に示されるように、ガスセンサ32は、複数のセンサ画素34を含むセンサ回路群、センサ回路群上に設けられた感応膜33、及び、センサ回路群に接続される出力部35を備える。
【0019】
センサ回路群は、二次元状に配列された複数のセンサ画素34が半導体基板上に形成される。センサ回路群は、一例としてCMOSセンサである。複数のセンサ画素34は、M行×N列に二次元状に配列されることにより、画素アレイを構成する。M及びNは2以上の整数である。複数のセンサ画素34のそれぞれには、電源電圧Vが印加される。複数のセンサ画素34のそれぞれのグランド電極は、接地される。複数のセンサ画素34のそれぞれは、対応する感応膜33の各エリアに吸着されるガス分子を検出する。
【0020】
感応膜33は、ガスセンサ32の全面において、複数のセンサ画素34に跨るように配置(成膜)される。感応膜33は、ガス分子を吸着することにより、状態を変化させる薄膜である。例えば、ガスに含まれる化学物質に応じて、感応膜33のインピーダンスなどの電気的特性が変化する。感応膜33は、吸着されたガス分子を短期間保持し、その後、吸着されたガス分子を放出する。放出されたガス分子の化学構成又は性質は、吸着前後で変化しない。感応膜33は、ガス分子を放出した後で、新なガス分子を吸着する。
【0021】
出力部35は、センサ回路群と電気的に接続され、複数のセンサ画素34のそれぞれから、各センサ画素34に対応する感応膜33のエリアの電気的特性が変化したことを表す電気信号が受信される。出力部35は、受信される電気信号に基づき、感応膜33に吸着されるガス分子の吸着位置及び吸着量を算出し出力する。出力部35から出力されたガス分子の吸着位置及び吸着量と、予め測定されたガスの成分ごとの吸着位置及び吸着量とに基づいて、ガスの成分が特定される。
【0022】
[ガス測定システムの整流原理]
図4は、
図1のガス測定システムの整流原理を説明するための概略図である。
図1及び
図4に示されるように、ガス分子はガス測定器3のフィルタ31を通過してガスセンサ32によって検出される。ガス分子は分子量の小さいガス分子aと分子量の大きいガス分子bとを含む。
【0023】
ガス分子は、ポンプ2に吸引されることによってチャンバ10に導入される。チャンバ10に導入されたガス分子は、ポンプ2の吸引力で前進しつつ、一部は重力によって下降する。ガス分子a及びガス分子bは、フィルタ31を通過して、ガスセンサ32に到達する。ガス分子a及びガス分子bは、それぞれ感応膜33に吸着され短期間保持されてから放出される。吸着から放出までの期間において、ガスセンサ32はガス成分を検出する。その後、放出されたガス分子a及びガス分子bは、ポンプ2の吸引力により、チャンバ10のガス排気口を介してチャンバ10から排気される。
【0024】
ガス分子a及びガス分子bは分子量が互いに異なるため、ガス分子aの導入から排気までのルートと、ガス分子bの導入から排気までのルートとが互いに異なる。ガス分子bは、ガス分子aより分子量が大きいため、チャンバ10に導入された後、ガス分子aよりも早く下方向へ流動する。これにより、ガス分子bは、ガス分子aよりもガスセンサ32においてチャンバ10のガス導入口付近のエリアに到達しやすい。これに対して、ガス分子aは、ガス分子bよりも分子量が小さいため、チャンバ10に導入された後、ガス分子aよりも時間をかけて下方向へ流動する。このため、ガス分子aは、ガス分子bよりもガスセンサ32においてチャンバ10のガス排気口付近のエリアに到達しやすい。
【0025】
フィルタ31には、互い平行な複数のスリット31bが形成されている。ガス分子a及びガス分子bが下方向へ流動する場合、分子量が大きいガス分子bは、複数のスリット31bのうちチャンバ10のガス導入口付近のスリットを通ってガスセンサ32に到達する。分子量が小さいガス分子aは、ガス分子bよりも、チャンバ10のガス導入口から離れたスリットを通ってガスセンサ32に到達する。ガスの気流の向き及び速度は、ガスがスリットを通過することで整えられる。そして、ガス分子は、その分子量に応じた位置のスリットを通過する。このため、分子量に応じたガス分子の気流群が形成され、それぞれの気流が混合されにくくなる。このように、フィルタ31が存在することにより、ガス分子は、感応膜33において分子量に応じた位置に吸着される。
【0026】
[実施形態のまとめ]
ガス測定システム1のガス測定器3では、フィルタ31によって、ガス分子の分子量に応じてガス分子の進行方向及び進行速度が制御される。進行方向及び進行速度が制御されたガス分子は、その分子量に応じてガスセンサ32の異なる位置に到達し、ガスセンサ32に吸着される。ガス分子の吸着位置及び吸着量はガスセンサ32によって検出される。ガス分子の吸着位置及び吸着量はガス分子の分子量に依存する。このため、ガス測定器3では、吸着位置及び吸着量に基づいてガス分子が特定される。このように、ガス測定器3は、複数の匂いセンサを備えるガス測定器と比べて、より簡易な構成でガスの成分を測定できる。
【0027】
フィルタ31、互いに平行な複数のスリットを有するため、ガスがスリットを通過する際にガスを整流できる。フィルタ31はシリコン又はアルミニウムからなるため、入手しやすくかつ加工しやすい安価な材料である。また、シリコン又はアルミニウムは、特定のガス成分に特異的な反応を示さないので、ガス整流部の整流性能に影響を与えることを回避できる。
【0028】
ガスセンサ32は、ガス分子を吸着する感応膜33と、感応膜33に吸着されたガス分子の吸着位置及び吸着量を出力する出力部35とを有するため、出力部35によって出力されたガス分子の吸着位置及び吸着量をマッピングできる。
【0029】
[変形例]
以上、種々の例示的実施形態について説明してきたが、上記の例示的実施形態に限定されることなく、様々な省略、置換、及び変更がなされてもよい。
【0030】
図4に示されるように、フィルタ31において、複数のスリット31bを形成する部材の各々は、短冊状の断面形状を有するが、各部材の断面形状は、これに限られない。各部材の断面形状は、平行四辺形や三角形となってもよく、適宜変更可能である。
【0031】
測定対象のガスが所定のガス分子を含む場合、所定のガス分子の軌道を特異に変化させるために、フィルタ31は、そのガス分子と親和性のある素材が採用されてもよい。また、所定のガス分子の軌道を特異に変化させるために、各スリット31bの幅や間隔が同じ大きさにされてもよく、任意の大きさに変えられてもよい。
【0032】
ガスセンサ32の上面に設けられる感応膜33は、一枚ではなく、ガスセンサ32の上面を複数に区画分けて、複数枚設けられてもよい。また、各ガス成分に対する感度が異なる感応膜が複数種設けられてもよい。さらに、フィルタ31の整流効果に応じて、各ガス成分に対する感度が異なる複数種の感応膜の並び方が、ガスの流通方向に沿って変えられてもよい。感応膜33は一部のセンサ画素34を覆わなくてもよい。また、チャンバ10へのガスの導入は、チャンバ10へガスを圧送するポンプを設けることにより実現されてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1…ガス測定システム、2…ポンプ、3…ガス測定器、10…チャンバ、31…フィルタ、31a…主面、31b…スリット、32…ガスセンサ、33…感応膜、35…出力部。