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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153672
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】オイルユニット及び動力工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 21/02 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
B25B21/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063072
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】高萩 耕司
(57)【要約】
【課題】ケース内のチューブが注油口を塞いだりすることを効果的に防止する。
【解決手段】オイルユニット5は、内部にオイルを封入可能なユニットケース9と、ユニットケース9の内部に配置されるブレード73と、ブレード73を保持してユニットケース9から突出するスピンドル37と、ユニットケース9に形成されるネジ孔44と、ユニットケース9内でネジ孔44が開口する前室47の前側内面47aに配置される中空のチューブ48と、を含む。そして、前側内面47aにおけるネジ孔44の開口44a周りに、チューブ48を所定の位置で位置決めして開口44aから流れ込むオイルの流路を確保するリブ52が設けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にオイルを封入可能なケースと、
前記ケースの内部に配置されるブレードと、
前記ブレードを保持して前記ケースから突出する出力軸と、
前記ケースに形成される少なくとも1つの注油口と、
前記ケース内で前記注油口が開口する内面に配置される中空のチューブと、を含み、
前記内面における前記開口周りに、前記チューブを所定の位置で位置決めして前記開口から流れ込むオイルの流路を確保する流路形成手段が設けられているオイルユニット。
【請求項2】
前記流路形成手段は、前記内面に立設された突部である請求項1に記載のオイルユニット。
【請求項3】
前記突部は、複数立設されている請求項2に記載のオイルユニット。
【請求項4】
前記突部は、前記チューブを前記内面上で前記開口を閉塞しない位置に位置決めする請求項2又は3に記載のオイルユニット。
【請求項5】
前記突部は、前記チューブを前記内面から離間した位置に位置決めする請求項2又は3に記載のオイルユニット。
【請求項6】
前記注油口は、前記出力軸が突出する前記ケースの円盤状の前面部に形成されており、前記突部は、前記前面部の内面上で前記前面部の径方向と平行に延びている請求項2乃至5の何れかに記載のオイルユニット。
【請求項7】
前記突部は、前記前面部の周方向で前記開口を挟んで一対設けられている請求項6に記載のオイルユニット。
【請求項8】
前記突部には、切欠部が形成されている請求項2乃至7の何れかに記載のオイルユニット。
【請求項9】
前記内面には、前記流路と連通する凹部が形成されている請求項2乃至8の何れかに記載のオイルユニット。
【請求項10】
注油口は、ネジによって閉塞されるネジ孔である請求項1乃至9の何れかに記載のオイルユニット。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れかに記載のオイルユニットを備えてなる動力工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ソフトインパクトドライバ等の動力工具において、衝撃トルクの出力用に用いられるオイルユニットと、そのオイルユニットを用いた動力工具とに関する。
【背景技術】
【0002】
オイルユニットを用いたソフトインパクトドライバ等の動力工具においては、モータの回転を、オイルユニットにより断続的な衝撃トルク(インパクト)としてスピンドルから出力する。このオイルユニットは、例えば特許文献1に開示される構造が知られている。この構造は、オイルが封入されてモータの回転が伝達されるケース内に、スピンドルの後部を回転可能に収容している。また、ケースの中心で一体回転するカムをスピンドルの後部に挿入させると共に、カムの外側で当該後部内に、一対のボールとブレードとをそれぞれ放射方向へ移動可能に収容している。
このオイルユニットでは、ケースが回転すると、これと一体のカムも回転して後部内でボールを介してブレードを径方向外側へ押し出す。ケースの所定の位相で後部内がカムによりシールされると、オイル圧によってブレードは押し出し位置にとどまる。そのままケース内の突起がブレードに衝突することで衝撃トルク(インパクト)が発生する。続けてケースと共にカムが回転すると、後部内のオイルが流出してオイル圧が低下するため、ブレードは後部内に後退して突起を相対的に乗り越える。このブレードの押し出し、突起との衝突、後退を繰り返してインパクトが断続的に発生する。なお、ボール等を用いず、ケースとスピンドルとの相対回転によりブレードをケース内で揺動させ、油圧を変化させることでインパクトを発生させるオイルユニットも知られている。
【0003】
また、このオイルユニットでは、ケースの内部にオイルを充填するために、ケースの前面部等に複数のネジ孔が貫通形成され、各ネジ孔に、閉栓となるネジがそれぞれねじ込まれている。オイルを充填する際には、各ネジを取り外してネジ孔を開放させた状態で、オイルユニットをオイル内に浸す等する。すると、一部のネジ孔からオイルが入り、他のネジ孔からエアが抜け出してケース内に注油される。
一方、オイルユニットでは、連続作業を行うとオイルの温度が上昇して膨張し、ケースの内圧が上昇する。この内圧の上昇に伴うオイル漏れを防止するために、ケース内には、ゴム等で形成される中空のチューブが設けられている。このチューブは、ケースの内圧の上昇に応じて収縮し、内圧の低下に応じて元の形状に復帰することで、オイルの体積変化を吸収するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-122906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このチューブは、ケースに設けられるネジ孔(注油口)の裏側に配置されている。よって、チューブの位置によっては注油口を内側から塞いだり流路面積を狭めてしまったりして注油性を悪化させる。このため、粘度が高いオイルが使用できなかったり、チューブの構造に制約を受けたりする。チューブの両端を接着して注油口の内側でリング状に配置したり、ケースの内面にチューブが嵌合する溝を設けたりする対策も行われているが、チューブのずれ防止には十分でなく、注油口を塞いだりするおそれは残ってしまう。
【0006】
そこで、本開示は、ケース内のチューブが注油口を塞いだりすることを効果的に防止できるオイルユニット及び動力工具を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の第1の構成は、オイルユニットであって、内部にオイルを封入可能なケースと、
前記ケースの内部に配置されるブレードと、
前記ブレードを保持して前記ケースから突出する出力軸と、
前記ケースに形成される少なくとも1つの注油口と、
前記ケース内で前記注油口が開口する内面に配置される中空のチューブと、を含むものであってもよい。
そして、オイルユニットは、前記内面における前記開口周りに、前記チューブを所定の位置で位置決めして前記開口から流れ込むオイルの流路を確保する流路形成手段が設けられているものであってもよい。
上記目的を達成するために、本開示の第2の構成は、動力工具であって、第1の構成のオイルユニットを備えたものであってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、流路形成手段の採用により、ケース内のチューブが注油口を内側から塞いだり流路面積を狭めてしまったりすることを効果的に防止できる。よって、オイルの粘度やチューブの構造に制約を受けることがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ソフトインパクトドライバの中央縦断面図である。
図2】オイルユニットの中央縦拡大断面図である。
図3図2のA-A線断面図である。
図4図4Aは、前ケースの後方からの斜視図、図4Bは、ネジ孔の位置での前ケースの中央縦断面図である。
図5図2のB-B線断面図である。
図6図2のC-C線断面図である。
図7図7Aは、変更例における前ケースの後方からの斜視図、図7Bは、ネジ孔の位置での前ケースの中央縦断面図である。
図8】変更例のオイルユニットの中央縦断面図である。
図9図9Aは、他の変更例における前ケースの後方からの斜視図、図9Bは、ネジ孔の位置での前ケースの中央縦断面図である。
図10】他の変更例のオイルユニットの中央縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の一実施形態において、流路形成手段は、ケースの内面に立設された突部であってもよい。
この構成によれば、突部によって流路形成手段を簡単に形成可能となる。
本開示の一実施形態において、突部は、複数立設されていてもよい。
この構成によれば、チューブの位置決めが確実に行える。
本開示の一実施形態において、突部は、チューブを内面上で開口を閉塞しない位置に位置決めするものであってもよい。
この構成によれば、内面上にチューブがあっても流路が確保できる。
本開示の一実施形態において、突部は、チューブを内面から離間した位置に位置決めするものであってもよい。
この構成によれば、チューブによる開口の閉塞を確実に防止できる。
本開示の一実施形態において、注油口は、出力軸が突出するケースの円盤状の前面部に形成されており、突部は、前面部の内面上で前面部の径方向と平行に延びていてもよい。
この構成によれば、突部によってオイルの流れを整流できる。
本開示の一実施形態において、突部は、前面部の周方向で開口を挟んで一対設けられていてもよい。
この構成によれば、チューブによる注油口の閉塞をより効果的に防止可能となると共に、オイルの整流効果も高まる。
本開示の一実施形態において、突部には、切欠部が形成されていてもよい。
この構成によれば、大きな流路面積が確保可能となる。
本開示の一実施形態において、内面には、流路と連通する凹部が形成されていてもよいい。
この構成によれば、凹部側へのオイルの流れが促進される。
本開示の一実施形態において、注油口は、ネジによって閉塞されるネジ孔であってもよい。
この構成によれば、開閉可能な注油口が簡単に得られる。
【実施例0011】
以下、本開示の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、第2の構成に係る動力工具の一例である充電式のソフトインパクトドライバ1の中央縦断面図である。図2はオイルユニットの中央縦拡大断面図である。
なお、ここでの「ソフトインパクトドライバ」は、出願人が定義した名称で、他の電動工具メーカでは、オイルパルスドライバと称したり、インパルスドライバと称したりする場合もある。要するに、オイルが封入されたオイルユニットを有する工具であれば全て本開示の動力工具に含まれる。
【0012】
ソフトインパクトドライバ1は、本体部2とグリップ部3とを有する。本体部2は、中心軸を前後方向として延び、後部にモータ4、前部にオイルユニット5をそれぞれ収容している。グリップ部3は、本体部2から下方に突出する。グリップ部3の下端には、バッテリ装着部6が設けられている。バッテリ装着部6には、電源となるバッテリパック7が前方から取り付け可能である。
ソフトインパクトドライバ1のハウジングは、本体ハウジング8と、ユニットケース9と、ユニットケースカバー10とを含む。本体ハウジング8は、本体部2の後部とグリップ部3とバッテリ装着部6とを一体化している。
【0013】
ユニットケース9は、後部が本体ハウジング8に保持されて、本体ハウジング8から前方へ突出する先細り筒状である。ユニットケースカバー10は、本体ハウジング8の前方でユニットケース9に前方から被せられる。ユニットケースカバー10の前端には、ゴム製のバンパ11が設けられている。
グリップ部3の上部には、スイッチ12が収容される。スイッチ12は、トリガ13を前方へ突出させている。スイッチ12の上側には、モータ4の回転の正逆切替ボタン14が設けられている。正逆切替ボタン14の前方には、前方を照射するライト15が設けられている。
バッテリ装着部6内には、端子台16が収容されている。端子台16は、バッテリパック7と電気的に接続される。端子台16の上側には、コントローラ17が配置されている。コントローラ17は、制御回路基板18を備えて端子台16と平行に配置されている。コントローラ17の上側には、スイッチパネル19が設けられている。スイッチパネル19には、打撃力の切替ボタン等が設けられている。
【0014】
モータ4は、ステータ20とロータ21とを有するブラシレスモータである。ロータ21の軸心に設けた回転軸22は、前後方向に延びている。
本体ハウジング8内でモータ4の前側には、円盤状のギヤケース23が保持されている。回転軸22は、ギヤケース23の中心を貫通して、前端に設けたピニオン24を前方へ突出させている。ギヤケース23は、回転軸22を支持する軸受25を保持している。
ギヤケース23の前側には、減速機構26が設けられている。減速機構26は、インターナルギヤ27と、3つのプラネタリギヤ28,28・・と、キャリア29とを含んでいる。
インターナルギヤ27は、ギヤケース23の前側へ一体に固定されている。インターナルギヤ27の前端には、前方へ延びる筒部30が形成されている。筒部30は、ユニットケース9の後部に差し込まれてユニットケース9と連結されている。
各プラネタリギヤ28は、中心を貫通するピン31を介してキャリア29に支持される。キャリア29は、オイルユニット5の後ケース36の後面に固定されている。各プラネタリギヤ28は、インターナルギヤ27内でピニオン24を中心に配置されてピニオン24と噛み合う。
【0015】
第1の構成に係るオイルユニット5は、図2にも示すように、前ケース35と、後ケース36と、スピンドル37とを備えている。オイルユニット5は、前後の軸受38,39によってユニットケース9内で同軸で回転可能に支持されている。前側の軸受38は、ユニットケース9の前部とスピンドル37との間に配置されている。後側の軸受39は、筒部30と後ケース36との間に配置されている。
前ケース35は、前方へ向けて段階的に先細りとなる筒状である。前ケース35の前面を形成する円盤状の前面部40には、スピンドル37が貫通する軸心孔41を有して後方へ延びる中心筒42が形成されている。軸心孔41とスピンドル37との間には、シール用のOリング43が設けられている。
軸心孔41の径方向外側で前面部40には、注油口となる一対のネジ孔44,44が貫通形成されている。ネジ孔44,44には、閉栓となる一対のネジ45,45が、それぞれOリング46を介して前方からねじ込まれている。中心筒42は、ネジ孔44,44を越えて後方へ突出し、前面部40の後方に、リング状の前室47を形成している。
【0016】
前室47内には、チューブ48が収容されている。チューブ48は、両端が閉塞されて空気が封入された中空体で、図3に示すように、中心筒42を囲む格好で背面視C字状に収容されている。チューブ48の後方には、仕切板49が設けられている。仕切板49は、外周に複数の切欠き50,50・・を備えている。仕切板49の後方には、後室51が形成されている。後室51は、切欠き50を介して前室47と連通している。
前ケース35において、前室47の前側内面47aには、4つのリブ52,52・・が立設されている。このリブ52は、図4に示すように、各ネジ孔44の開口44aを挟んで前面部40の周方向に所定間隔をおいて一対ずつ配置されている。一対のリブ52,52は、ネジ孔44の中心を通る前面部40の径方向と平行に延びている。一対のリブ52,52の径方向内側の端面は、周方向でネジ孔44の略中心の前後に位置している。各リブ52は、前室47の前側内面47aと仕切板49の前面との前後方向の間隔の1/2を越える高さで後方へ突出している。
【0017】
チューブ48は、各リブ52の径方向内側で中心筒42を巻回した状態で配置されている。よって、チューブ48は、前後方向では、前室47の前側内面47aと仕切板49の前面とに当接し、径方向では、各リブ52と中心筒42の外周面とに当接して前室47内で位置決めされる。
この状態でネジ孔44,44の各開口44aは、図3に示すように、背面視では前面部40の径方向で内側部分がチューブ48とオーバーラップするが、径方向での外側部分はチューブ48とオーバーラップしていない。このため前室47内には、図2に二点鎖線矢印で示すように、各ネジ孔44から開口44aを介して前室47内にオイルが流入できる流路Rがそれぞれ確保されるようになっている。
【0018】
後ケース36は、後面部55と側壁部56とを備えている。後面部55は、円盤状を有している。側壁部56は、後面部55の周縁から前方に突出する円筒状を有している。側壁部56が前ケース35内に後方からねじ込まれて前ケース35と結合される。側壁部56と前ケース35との間には、シール用のOリング57が設けられている。
側壁部56の前端は、仕切板49に当接している。前ケース35の内面には、仕切板49の前面が当接する段部58が設けられている。仕切板49は、側壁部56と段部58との間で挟持固定される。
図5に示すように、側壁部56の内周面には、一対の突起59,59が形成されている。突起59,59は、後ケース36の軸心を中心とした点対称位置に配置されて中心側へ隆起している。突起59,59は、中心側へ行くに従って周方向の幅が狭くなるテーパ状の横断面形状を有している。
後ケース36の後面部55の中心には、受け凹部60が形成されている。受け凹部60の中央には、カム61が前向きに固定されている。カム61の後部は、二面幅部62となっている。カム61の前部は、最も太い中心から直径方向で外側へ行くに従って徐々に薄肉となる扁平部63となっている。二面幅部62と扁平部63とは、正面視で突起59,59の中心同士を結ぶ直線と直交する向きとなっている。
【0019】
スピンドル37は、軸心に貫通孔65を有している。貫通孔65の後部は、後室51内に位置する内圧室66となっている。内圧室66は、横断面円形を有し、カム61が相対回転可能に挿入されている。スピンドル37の後端は、カム61の外側で後ケース36の受け凹部60に支持されている。
スピンドル37の後部67は、後ケース36の直径方向に延びる扁平な横断面形状となっている。但し、後部67の横断面の長手寸法は、後ケース36の突起59,59の対向面間の寸法よりも短くなっている。後部67は、仕切板49と後ケース36の後面部55との間に位置している。後部67の前後には、図6に示すように、前連通孔68と後連通孔69とがそれぞれスピンドル37の直径方向に形成されている。この方向は、後部67が延びる直径方向と直交している。前連通孔68は、後部67と仕切板49との当接状態で貫通孔65の後述する調圧孔77と後室51内とを連通させる。後連通孔69は、後部67と後面部55との当接状態で内圧室66と後室51内とを連通させる。
【0020】
後部67内でカム61の扁平部63の径方向外側には、一対の孔70,70が形成されている。孔70,70は、内圧室66と連通してスピンドル37の直径方向に形成される。この方向は、後部67が延びる方向と同じである。孔70,70には、ボール71,71が配置されている。各ボール71は、孔70内で放射方向へ移動可能で、中心側へ移動した際にはカム61の扁平部63に接触可能となっている。
後部67の長手方向両端には、一対の保持溝72,72が形成されている。保持溝72,72は、孔70,70と連通している。保持溝72,72は、後部67の長手方向両端及び前後に開口するように前後方向に貫通形成されている。
各保持溝72内に、ブレード73がそれぞれ配置されている。各ブレード73は、保持溝72の周方向の幅に略収まる幅と、保持溝72の前後方向の全長に亘って収まる長さとを有している。各ブレード73は、保持溝72内でスピンドル37の径方向へ移動可能に保持されている。各ブレード73は、中心側へ移動した際はボール71に接触可能となっている。各ブレード73の径方向外側の端部は、径方向外側へ行くに従って幅が小さくなるテーパ状となっている。
【0021】
スピンドル37の前端は、ユニットケース9及びユニットケースカバー10を貫通して前方へ突出している。当該前端には、ドライバビット等のビットB(図1)を着脱するためのスリーブ75が設けられている。
貫通孔65の前部は、ビットBを挿入する前側のビット挿入孔76と、ビット挿入孔76よりも小径となる後側の調圧孔77となっている。ビット挿入孔76の後端には、ビットBの後端を受けるビットピース78が挿入されている。ビットピース78の後方で調圧孔77には、圧力調整バルブ79が挿入されている。圧力調整バルブ79は、シール状態で調圧孔77に螺合している。圧力調整バルブ79は、前方からの回転操作に伴うネジ送りで軸方向に移動してオイル圧(出力)を調整するために設けられている。
こうして組み付けられる圧力調整バルブ79と、前ケース35と、後ケース36と、ネジ45,45と、スピンドル37等とにより、前室47及び後室51を含む密閉空間S(図6)が形成される。この密閉空間S内にオイルが封入される。
【0022】
以上の如く構成されたオイルユニット5では、オイルを充填する際は、前面部40のネジ45,45を取り外してネジ孔44,44を開放させた状態とする。そして、スピンドル37を上向きにし、スピンドル37の前部を除いてオイルユニット5をオイル内に浸す。このときスピンドル37を鉛直方向からやや傾いた姿勢とする。すると、傾きによって下側となる一方のネジ孔44からオイルが入ると同時に、他方のネジ孔44からエアが抜け出してオイルがオイルユニット5の内部に充填される。
このとき、前室47内では、チューブ48がリブ52によって位置決めされているので、ネジ孔44から流れ込むオイルは、チューブ48に阻害されることなく流路Rを通って前室47に入り、さらに仕切板49の切欠き50を介して後室51に注油される。
【0023】
そして、ソフトインパクトドライバ1では、スピンドル37のビット挿入孔76にビットBを装着した状態で、使用者がグリップ部3を把持してトリガ13を引く。すると、スイッチ12がON動作してバッテリパック7から制御回路基板18を介してモータ4へ三相電流が供給されてロータ21が回転する。よって、ロータ21と共に回転軸22が回転する。
回転軸22の回転は、ピニオン24を介してプラネタリギヤ28,28・・に伝わる。そして、インターナルギヤ27内を公転するプラネタリギヤ28,28・・により減速されて、キャリア29からオイルユニット5の後ケース36に伝わる。よって、後ケース36と前ケース35とが共に回転する。
オイルユニット5では、図5の矢印方向へ後ケース36と共にカム61が回転する。すると、カム61の扁平部63がボール71,71を介してブレード73,73を後部67からの突出方向へ押し出す。回転が進んで扁平部63が後部67と平行となる図5の位相では、扁平部63がボール71,71及びブレード73,73を最外まで押し出す。
【0024】
後ケース36とカム61とがさらに回転すると、突起59,59がブレード73,73に当接する。この位相では、後連通孔69と内圧室66との間は扁平部63により閉塞され、内圧室66内のオイル圧が高まる。このため、ブレード73,73は押し出し位置で保持される。よって、突起59,59がブレード73,73に衝突することでスピンドル37に衝撃トルク(インパクト)が発生する。
衝撃トルク発生後は、突起59,59とブレード73,73とのテーパ同士の案内によって、各ブレード73は中心側へ後退する。このとき内圧室66内のオイルは各部品の隙間から後室51内へ流出し、ブレード73,73の後退を許容する。よって、後退したブレード73,73が相対的に突起59,59を乗り越える。
突起59,59がブレード73,73を過ぎると、後ケース36及びカム61の回転によって後連通孔69と内圧室66との間が開放される。よって、再びカム61がボール71,71を介してブレード73,73を押し出す。この繰り返しによって後ケース36の1回転で2回の衝撃トルクが発生することになる。こうしてスピンドル37のビット挿入孔76に装着したビットBでネジ締め等の作業を行うことができる。
【0025】
上記実施例のオイルユニット5及びソフトインパクトドライバ1は、内部にオイルを封入可能なユニットケース9(ケースの一例)と、ユニットケース9の内部に配置されるブレード73と、ブレード73を保持してユニットケース9から突出するスピンドル37(出力軸の一例)と、ユニットケース9に形成されるネジ孔44(注油口の一例)と、ユニットケース9内でネジ孔44が開口する前室47の前側内面47a(内面の一例)に配置される中空のチューブ48と、を含む。
そして、前側内面47aにおけるネジ孔44の開口44a周りに、チューブ48を所定の位置で位置決めして開口44aから流れ込むオイルの流路Rを確保するリブ52(流路形成手段の一例)が設けられている。
この構成によれば、ユニットケース9内のチューブ48がネジ孔44を内側から塞いだり流路面積を狭めてしまったりすることを効果的に防止できる。よって、オイルの粘度やチューブの構造に制約を受けることがなくなる。
【0026】
流路形成手段は、前側内面47aに立設されたリブ52(突部の一例)である。
よって、リブ52によって流路形成手段を簡単に形成可能となる。
リブ52は、複数立設されている。
よって、チューブ48の位置決めが確実に行える。
リブ52は、チューブ48を前側内面47a上で開口44aを閉塞しない位置に位置決めする。
よって、前側内面47a上にチューブ48があっても流路Rが確保できる。
ネジ孔44は、スピンドル37が突出するユニットケース9の円盤状の前面部40に形成されており、リブ52は、前面部40の前側内面47a上で前面部40の径方向と平行に延びている。
よって、リブ52によってオイルの流れを整流できる。
リブ52は、前面部40の周方向で開口44aを挟んで一対設けられている。
よって、チューブ48によるネジ孔44の閉塞をより効果的に防止可能となると共に、オイルの整流効果も高まる。
注油口は、ネジ45によって閉塞されるネジ孔44である。
よって、開閉可能な注油口が簡単に得られる。
【0027】
なお、上記実施例において、リブの径方向長さは、内側の端面が周方向でネジ孔の略中心の前後に位置するように設定されているが、リブの径方向長さはこれに限らない。リブは、当該端面がネジ孔の中心を越える位置や、ネジ孔自体を越える位置まで延びるように形成されてもよい。
【0028】
但し、流路形成手段となるリブの構造は、上記例に限らない。
図7に示す前ケース35では、開口44aを挟む各リブ52Aが、径方向部90と軸方向部91とからなるL字状となっている。径方向部90は、前室47の前側内面47a上で前面部40の径方向と平行に延びている。軸方向部91は、径方向部90の径方向外側の端部から前ケース35の内周面上で後方へ延びている。
また、径方向部90,90の径方向内側の端部と中心筒42との間で前室47の前側内面47aには、凹部92が形成されている。凹部92は、径方向部90,90の端部間を繋ぐ格好で中心筒42との接線方向へ直線状に形成されている。
【0029】
よって、この前ケース35を用いたオイルユニット5においては、図8に示すように、チューブ48は、前後方向では、リブ52A,52Aの径方向部90,90の後面と仕切板49の前面とに当接し、径方向では、リブ52A,52Aの軸方向部91,91に当接して位置決めされる。この状態で開口44aとチューブ48との間には、径方向部90,90の前後方向の厚み分の隙間が形成される。この隙間は、凹部92と連通している。また、前ケース35の内周面とチューブ48との間には、軸方向部91,91の径方向の厚み分の隙間が形成される。
こうして前室47内には、図8に二点鎖線矢印で示すように、開口44aから流入するオイルが、径方向部90,90の間からチューブ48と中心筒42との間を通ってチューブ48の内周側から前室47に流れ込む流路R1が確保される。ここでは凹部92により、流路R1を通るオイルが凹部92にも流れ込むため、チューブ48の内周側へオイルが流入しやすくなる。また、前室47内には、開口44aから流入するオイルが、軸方向部91,91の間からチューブ48と前ケース35の内周面との間を通ってチューブ48の外周側から前室47に流れ込む流路R2が確保される。
【0030】
この変更例においても、前室47内では、チューブ48がリブ52Aによって位置決めされているので、ネジ孔44から流れ込むオイルは、チューブ48に阻害されることなく流路R1及びR2を通って前室47に入り、さらに後室51に注油される。よって、チューブ48がネジ孔44を塞いだりすることを効果的に防止できる。
特に、リブ52Aは、チューブ48を前側内面47aから離間した位置に位置決めする。
よって、チューブ48による開口44aの閉塞を確実に防止できる。
前側内面47aには、流路R1と連通する凹部92が形成されている。
よって、凹部92がある内周側へのオイルの流れが促進される。
なお、この変更例において、凹部は両リブを越えて両端が突出する長さで形成してもよい。
【0031】
図9に示す前ケース35では、図7の各リブ52Aにおいて、径方向部90を短くして径方向部90と軸方向部91との間に切欠部93を設けている。切欠部93により、リブ52A,52Aの間は周方向で前室47と連通する。よって、径方向部90と軸方向部91との間には、図10に二点鎖線矢印で示すように、図7と同様の流路R1,R2に加えて、開口44aから流入するオイルが、切欠部93をそれぞれ通ってリブ52A,52Aの間から周方向外側へ流れて前室47に流れ込む流路R3が確保される。
この変更例においても、前室47内では、チューブ48がリブ52Aによって位置決めされているので、ネジ孔44から流れ込むオイルは、チューブ48に阻害されることなく流路R1及びR2、R3を通って前室47に入り、さらに後室51に注油される。よって、チューブ48がネジ孔44を塞いだりすることを効果的に防止できる。
特に、リブ52Aに切欠部93が形成されているので、大きな流路面積が確保可能となる。
なお、この変更例において、切欠部はリブ同士で異なる幅であってもよい。切欠部は両方のリブでなく、何れか一方のリブにのみ設けてもよい。
【0032】
上記各例において、各ネジ孔に設けるリブは一対に限らない。何れか一方のリブのみ設けてもよい。
リブの幅や高さは適宜変更できる。
リブは、直線状に限らず、曲線状であってもよい。
流路形成手段としては、リブに限らず、円柱状や角柱状等の1又は複数の突部をネジ孔の周囲等に立設してもよい。異なる形状の突部を複数組み合わせてもよい。凹部の位置や数も適宜変更できる。突部と凹部との組み合わせも適宜変更可能である。
ネジ孔の位置及び数は上記例に限らない。例えばネジ孔は、上記例よりも径方向内側にあってもよいし、一対でなく3つ以上あってもよい。
但し、注油口としてはネジ孔に限らず、単純な貫通孔としてもよい。この場合、ネジ以外の閉栓を使用すればよい。
チューブの形状も上記例に限らない。チューブは、全周で繋がったリングであってもよい。また、流路形成手段としては、リブや突起を利用せず、チューブ自体の形状によって注油口を回避させる構成も採用できる。
【0033】
ケースは、上記例のような前ケースと後ケースとからなるユニットケースに限らない。ケースは、3つ以上の部品から構成してもよい。ケースは、前後でなく左右や上下に分割される構造であってもよい。仕切板をなくして前室と後室とに分割しなくてもよい。
ボールやコイルバネを用いず、ケースとスピンドルとの相対回転によりブレードをケース内で揺動させて油圧を制御するオイルユニットも採用できる。例えば、スピンドルに、半径方向外向きに付勢される1又は複数のブレードを配置して、オイル室を形成するケースの回転によりブレードの片面に間欠的に高い流体圧を作用させるオイルユニットが挙げられる。この構造では、ブレードが回転方向に傾斜しながらケース内に設けられたシール部とスピンドルに設けた溝とによってシールされることでスピンドルに押し付けられ、それによってスピンドルが衝撃的に回転する。
モータもブラシレスに限らず、整流子モータ等も採用できる。バッテリパックを電源としないAC工具であっても本開示は適用可能である。
動力工具としては、ソフトインパクトドライバに限らない。本開示は、オイルユニットの内部へ容易に注油可能となるため、オイルユニットを有する他の動力工具にも採用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1・・ソフトインパクトドライバ、2・・本体部、3・・グリップ部、4・・モータ、5・・オイルユニット、8・・本体ハウジング、9・・ユニットケース、22・・回転軸、26・・減速機構、35・・前ケース、36・・後ケース、37・・スピンドル、40・・前面部、41・・軸心孔、42・・中心筒、44・・ネジ孔、44a・・開口、45・・ネジ、47・・前室、47a・・前側内面、48・・チューブ、49・・仕切板、51・・後室、52,52A・・リブ、61・・カム、73・・ブレード、90・・径方向部、91・・軸方向部、92・・凹部、93・・切欠部、R,R1~R3・・流路、B・・ビット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10