(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153675
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】磁気センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 33/032 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
G01R33/032
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063075
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大場 裕行
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸聖
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】荒井 賢一
【テーマコード(参考)】
2G017
【Fターム(参考)】
2G017AA01
2G017AD15
2G017BA05
(57)【要約】
【課題】磁界検出領域の狭小化、ひいては空間分解能の向上を図りうる磁気センサを提供する。
【解決手段】磁気検出素子200が、ナノグラニュラー薄膜20およびこれをその厚さ方向について挟むように配置されている一対の光束制御部材210、220を有する。複数の光学ユニット110、120を構成する投光要素111、121に、ナノグラニュラー薄膜20に対して、入射面に対して平行な方向に偏光するように調整された光を異なる入射方向から入射させる。ナノグラニュラー薄膜20を透過した光の受光要素1121、1122、1221、1222による受光量に基づき、ナノグラニュラー薄膜20に対して平行な方向および垂直な方向のそれぞれの磁界成分H
X、H
Yが磁界検出器14により検出される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子がマトリックスに分散しているナノグラニュラー構造を有するナノグラニュラー薄膜、および、前記ナノグラニュラー薄膜をその厚さ方向について挟むように配置されている一対の光束制御部材を有する磁気検出素子と、
前記磁気検出素子を構成する前記ナノグラニュラー薄膜に対して、前記一対の光束制御部材のうち一方の光束制御部材を介して、入射面に対して平行な方向に偏光するように調整された光を入射させる投光要素および前記ナノグラニュラー薄膜を透過した光を、前記一対の光束制御部材のうち少なくとも他方の光束制御部材を介して受光する受光要素により構成されている複数の光学ユニットと、
前記複数の光学ユニットのそれぞれを構成する前記受光要素のそれぞれによる受光量に基づき、前記ナノグラニュラー薄膜に対して平行な方向および垂直な方向のそれぞれの磁界成分を検出する磁界検出器と、
を備え、
前記複数の光学ユニットのそれぞれを構成する前記投光要素のそれぞれによる前記ナノグラニュラー薄膜に対する光の入射方向が相違するように、前記複数の光学ユニットのそれぞれを構成する前記投光要素が配置されている
磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気光学効果を利用して磁界を検出する、磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気光学効果を利用した磁気センサは、電磁誘導や半導体などの電気的な計測手段に比べて、電気的な雑音に強く耐絶縁性が大きいなどの利点を有しており、送電・配電設備、鉄道設備、産業機器などの回転検出や電流検出に使用することが提案されている。このような磁気センサとして、特定方向の磁界強度だけではなく。不特定方向の磁界強度や磁界方向を検出する磁気センサが提案されている(特許文献1参照)。当該磁気センサによれば、3組の磁気光学検出素子が互いに直交するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この磁気センサによれば、前述のように互いに直交するように構成されている3組の磁気光学素子のそれぞれに対する入出力光を妨げないように、当該3組の磁気光学素子が配置される必要がある。この結果、3つの磁界検出領域は互いに離れて設置されてしまい、合成される検出磁界領域が大きくなるので、空間分解能に劣る問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、磁界検出領域の狭小化、ひいては空間分解能の向上を図りうる磁気センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の磁気センサは、
金属ナノ粒子がマトリックスに分散しているナノグラニュラー構造を有するナノグラニュラー薄膜、および、前記ナノグラニュラー薄膜をその厚さ方向について挟むように配置されている一対の光束制御部材を有する磁気検出素子と、
前記磁気検出素子を構成する前記ナノグラニュラー薄膜に対して、前記一対の光束制御部材のうち一方の光束制御部材を介して、入射面に対して平行な方向に偏光するように調整された光を入射させる投光要素および前記ナノグラニュラー薄膜を透過した光を、前記一対の光束制御部材のうち少なくとも他方の光束制御部材を介して受光する受光要素により構成されている複数の光学ユニットと、
前記複数の光学ユニットのそれぞれを構成する前記受光要素のそれぞれによる受光量に基づき、前記ナノグラニュラー薄膜に対して平行な方向および垂直な方向のそれぞれの磁界成分を検出する磁界検出器と、
を備え、
前記複数の光学ユニットのそれぞれを構成する前記投光要素のそれぞれによる前記ナノグラニュラー薄膜に対する光の入射方向が相違するように、前記複数の光学ユニットのそれぞれを構成する前記投光要素が配置されている。
【0007】
当該構成の磁界センサによれば、一のナノグラニュラー薄膜に対して、各光学ユニットを構成する各投光要素によって異なる方向から複数の光が入射される。ナノグラニュラー薄膜における磁界検出領域は、入射した光と交差する領域となるが、ナノグラニュラー薄膜は単一なので、各投光要素によって入射した光がナノグラニュラー薄膜と交差する領域は単一平面内に有ることとなり、各交差領域におけるナノグラニュラー薄膜の面垂直方向は同一方向で膜厚方向に等しい。このため、ナノグラニュラー薄膜の面垂直方向の各磁界検出領域は、ナノグラニュラー薄膜の膜厚に等しく、狭範囲の磁界検出が可能となる。また、複数の光をナノグラニュラー薄膜の同じ場所に入射させることができるので、複数の磁界検出領域を概略一致させることが可能となり、ナノグラニュラー薄膜の面内方向の磁界検出領域の領域狭小化を図ることができる。
【0008】
また、単一のナノグラニュラー薄膜を用いて磁気検出素子を構成することが可能であるため、当該磁気検出素子の構成を簡素化することができ、製造コストを低減することができる。
【0009】
さらに、ナノグラニュラー薄膜が一対の光束制御部材により挟まれており、光束制御部材を介してナノグラニュラー薄膜に対して光が入射される。このため、ナノグラニュラー薄膜の屈折率に対応して光束制御部材の屈折率が適当に設計または選択されることにより、当該ナノグラニュラー薄膜中を伝搬する複数の光の伝搬角度をそれぞれナノグラニュラー薄膜の主面の法線に対して対称な45deg(2軸検出)または54.7deg(3軸検出)とすることができるので、各検出軸を直交座標系に設定できる。これにより外部より加えられた磁界の方向と強度の算出を容易にすることができる。
【0010】
3軸検出の場合、各検出軸の検出方向を3軸の直交座標となる様に構成すると、各検出軸の方向は、〈100〉、〈010〉、〈001〉と表現できる。ここでナノグラニュラー薄膜の面垂直方向を〈111〉方向とすると、各検出軸の方向とナノグラニュラー薄膜の面垂直方向とがなす角度は、54.7degとなる。これは立方晶系において面(h1k1l1)と面(h2k2l2)との間の角度δが、cosδ=(h1h2+k1k2+l1l2)/((h12+k12+l12)(h22+k22+l22))0.5となり、(h1k1l1)を(100)、(010)または(001)とし、(h2k2l2)を(111)とするとcosδ=1/√3となり、δ=54.7degと求められることに対応する。
【0011】
単一のナノグラニュラー薄膜に対して異なる方向(当該薄膜の主面に対して傾斜した方向)から複数の光を入射させるので、受光要素による受光量の磁界変化による変化は、入射する光の偏光方向に依存する。光の偏光方向がナノグラニュラー薄膜に対する光の入射面に対して平行になるように調整されることで受光要素による受光量の変化量の増大が図られ、ひいては磁界検出感度の向上が図られる。光の偏光方向がナノグラニュラー薄膜に対する光の入射面に対して平行になるように調整された場合、当該光の偏光方向およびナノグラニュラー薄膜に対する光の入射面とのなす角度が±10degの範囲に含まれていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態としての磁気センサの構成に関する説明図。
【
図4A】ナノグラニュラー薄膜の屈折率および金属含有率の相関関係に関する説明図。
【
図4B】ナノグラニュラー薄膜における光伝搬角および光束制御部材の屈折率の相関関係に関する説明図。
【
図4C】ナノグラニュラー薄膜における光伝搬角および光束制御部材の屈折率の相関関係に関する説明図。
【
図4D】ナノグラニュラー薄膜における光伝搬角および光束制御部材の屈折率の相関関係に関する説明図。
【
図5A】受光素子による受光量およびナノグラニュラー薄膜に印加される磁場の角度の相関関係に関する説明図(φ=0°)。
【
図5B】受光素子による受光量およびナノグラニュラー薄膜に印加される磁場の角度の相関関係に関する説明図(φ=90°)。
【
図5C】受光素子による受光量およびナノグラニュラー薄膜に印加される磁場の角度の相関関係に関する説明図(φ=45°)。
【
図6A】ナノグラニュラー薄膜のX-Y平面内で、X方向からθの角度で外部磁界Hが加えられた時のX方向成分HxおよびY方向成分Hyに関する説明図。
【
図6B】ナノグラニュラー薄膜のX方向の磁化率aおよびY方向の磁化率bに応じた、磁化MのX方向成分Mx=aHxおよびY方向成分My=bHyに関する説明図。
【
図7】磁気検出素子による検出磁界成分と磁場角度との相関関係に関する説明図。
【
図8】磁気検出素子による差動検出器の出力信号と磁場位置との相関関係に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(磁気センサの構成)
図1に示されている本発明の一実施形態としての磁気センサは、レーザ100(例えば、1.55μm波長帯半導体レーザ)と、第1光学ユニット110と、第2光学ユニット120と、磁気検出素子200と、第1差動検出器11と、第2差動検出器12と、磁界検出器14と、を備えている。
【0014】
図1に示されているように、第1光学ユニット110は、第1投光要素111と、一対の第1受光要素1121、1122と、偏光子113と、1/2λ板114と、レンズ115と、1/2λ板116と、偏光子117と、三角形プリズム118と、を備えている。第1投光要素111は、レーザ100から発せられ、カプラ102を介して分岐された一方の光を、偏光子113、1/2λ板114およびレンズ115を介して磁気検出素子200に対して投光する。これにより、磁気検出素子200を構成するナノグラニュラー薄膜20に対して、入射面に対して平行な方向に偏光している光が入射される。一方の第1受光要素1121は、磁気検出素子200から、レンズ115、1/2λ板116および偏光子117を介して光を受光する。他方の第1受光要素1122は、磁気検出素子200から、レンズ115、1/2λ板116および偏光子117に加えて、さらに三角形プリズム118を介して光を受光する。
【0015】
同様に
図1に示されているように、第2光学ユニット120は、第2投光要素121と、一対の第2受光要素1221、1222と、偏光子123と、1/2λ板124と、レンズ125と、1/2λ板126と、偏光子127と、三角形プリズム128と、を備えている。第2投光要素121は、レーザ100から発せられ、カプラ102を介して分岐された他方の光を、偏光子123、1/2λ板124およびレンズ125を介して磁気検出素子200に対して投光する。これにより、磁気検出素子200を構成するナノグラニュラー薄膜20に対して、入射面に対して平行な方向に偏光している光が入射される。一方の第2受光要素1221は、磁気検出素子200から、レンズ125、1/2λ板126および偏光子127を介して光を受光する。他方の第2受光要素1222は、磁気検出素子200から、レンズ125、1/2λ板126および偏光子127に加えて、さらに三角形プリズム128を介して光を受光する。
【0016】
図1に示されているように、第1光学ユニット110を構成する第1投光要素111および第2光学ユニット120を構成する第2投光要素121のそれぞれによるナノグラニュラー薄膜20に対する光の入射方向が相違するように、第1投光要素111および第2投光要素121が配置されている。
【0017】
第1差動検出器11(フォトダイオード)により、第1光学ユニット110を構成する一対の第1受光要素1121、1122のそれぞれによる受光量に応じた信号が出力される。第2差動検出器12(フォトダイオード)により、第2光学ユニット120を構成する一対の第2受光要素1221、1222のそれぞれによる受光量に応じた信号が出力される。信号処理器14により、第1差動検出器11および第2差動検出器12のそれぞれの出力信号に基づき、磁気検出素子200を構成するナノグラニュラー薄膜20に対して平行なX方向および垂直なY方向のそれぞれの磁界成分を検出する。
【0018】
図2に示されているように、磁気検出素子200は、基板202と、基板202の上に形成されたナノグラニュラー薄膜20と、ナノグラニュラー薄膜20をその厚さ方向について挟むように配置されている第1光束制御部材210および第2光束制御部材220と、を備えている。
【0019】
基板202は、例えば、Y方向を厚さ方向とし、X-Z平面において略矩形状の部材であって、第1光束制御部材210と同程度の屈折率を有する誘電性部材により構成されている。「同程度」とは、例えば、基板202の屈折率nの、第1光束制御部材210の屈折率n1に対する比率(n/n1)が1±0.13の範囲に収まる程度に屈折率nおよびn1が近似していることを意味する。例えば、n1=1.6である場合、n=1.6(n/n1=1.0)であってもよく、n=1.5(n/n1=0.94)であってもよい。
【0020】
ナノグラニュラー薄膜20は、金属ナノ粒子がマトリックスに分散しているナノグラニュラー構造を有している。ナノグラニュラー薄膜20は、例えば、組成が一般式FeaCobNicMwNxOyFz(0≦a≦0.60、0≦b≦0.60、0≦c≦0.60、0.05<a+b+c<0.60、0.10≦w≦0.50、0≦x≦0.50、0≦y≦0.50、0≦z≦0.50、0.20≦x+y+z≦0.70、a+b+c+w+x+y+z=1)で表わされる。M成分はMg、Al、Si、Ti、Y、Zr、Nb、HfおよびTaのうちから選択される少なくとも1種の元素である。金属ナノ粒子は、Fe、CoおよびNiの少なくとも1種からなり、かつ、例えば2~50nmの平均粒子径を有している。マトリックスは、M成分とN,OおよびFの少なくとも1種とからなる絶縁体により構成されている。ナノグラニュラー薄膜20の厚さは、例えば0.3~10μmの範囲に含まれている。
【0021】
第1光束制御部材210および第2光束制御部材220のそれぞれは、例えば、Z方向を軸線方向とする略正三角柱状の誘電性部材(例えば、ガラス(屈折率n
1=1.60))により構成されている。
図2に示されているように、第1光束制御部材210はその一の側面において基板202に接合または当接し、他の2つの側面のそれぞれには反射防止膜212(例えば、SiO
2、Ta
2O
5などにより構成されている。)が形成されている。
図2に示されているように、第2光束制御部材220はその一の側面においてナノグラニュラー薄膜20に接合または当接し、他の2つの側面のそれぞれには反射膜222(例えば、SiO
2、Ta
2O
5などにより構成されている。)が形成されている。
【0022】
図3に示されているように、第1光束制御部材210および基板202は、第1光束制御部材210および基板202を介して、屈折率n
2を有するナノグラニュラー薄膜20に入射角θ
1で入射した光のナノグラニュラー薄膜20における屈折角θ
2(伝搬角)を制御するために適当な屈折率n
1を有する材料により構成されている。同様に、第2光束制御部材220は、第2光束制御部材220を介して、屈折率n
2を有するナノグラニュラー薄膜20に入射角θ
1で入射した光のナノグラニュラー薄膜20における屈折角θ
2(伝搬角)を制御するために適当な屈折率n
1を有する材料により構成されている。
【0023】
図4Aには、金属ナノ粒子がFeおよびCoにより構成され、マトリックスがMgのフッ化物により構成されているナノグラニュラー薄膜20の屈折率n
2と、FeおよびCoの含有量(mol%)との相関関係が示されている。
図4Aから、FeおよびCoの含有量が多くなるほど、ナノグラニュラー薄膜20の屈折率n
2が大きくなることがわかる。
【0024】
図4Bには、第1光束制御部材210(および基板202)の屈折率n
1が1.6であり、ナノグラニュラー薄膜20の屈折率n
2が1.6、1.8、2.0、2.4および2.8のそれぞれである場合における、当該ナノグラニュラー薄膜20に対する光の入射角θ
1および屈折角θ
2の相関関係が実線、点線、一点鎖線、二点鎖線および破線のそれぞれにより示されている。
【0025】
図4Bから、第1光束制御部材210(および基板202)と第2光束制御部材220の屈折率n
1が1.6に設計された場合、入射角θ
1が60degに調節されることにより、屈折率n
2が2.0のナノグラニュラー薄膜20における屈折角θ
2(伝搬角)が45degに調整されることがわかる。また、この場合、入射角θ
1が65degに調節されることにより、屈折率n
2が1.8のナノグラニュラー薄膜20における屈折角θ
2(伝搬角)が55degに調整されることがわかる。また、屈折率n
2が2.0、2.4、2.8の場合では、ナノグラニュラー薄膜20における屈折角θ
2(伝搬角)は、入射角θ
1を調節しても55degに調整できないことがわかる。
【0026】
その一方、
図4Cに示されているように、第1光束制御部材210および第2光束制御部材が存在しない場合、ナノグラニュラー薄膜20の屈折率n
2が1.6に設計された場合でも、その屈折角θ
2(伝搬角)は38deg程度にしかならない。
【0027】
図4Dには、第1光束制御部材210の屈折率n
1が1.6であり、基板202の屈折率nが1.5で、ナノグラニュラー薄膜20の屈折率n
2が1.6、1.8、2.0、2.4および2.8のそれぞれである場合における、当該ナノグラニュラー薄膜20に対する光の入射角θ
1および屈折角θ
2の相関関係が実線、点線、一点鎖線、二点鎖線および破線のそれぞれにより示されている。
図4Dにおいて、基板202の屈折率が第1光束制御部材210の屈折率よりも小さいため、入射角θ
1が70deg以上となると入射光は第1光束制御部材210と基板202の境界で全反射されるので、許容される入射角θ
1は70deg未満となるが、ナノグラニュラー薄膜20の屈折率n
2が1.8であれば、入射角θ
1が67degで屈折角θ
2(伝搬角)は55degに調整でき、入射角θ
1が53degで屈折角θ
2(伝搬角)は45degに調整でき。また、ナノグラニュラー薄膜20の屈折率n
2が2.0では、入射角θ
1が62degで屈折角θ
2(伝搬角)は45degに調整できる。
【0028】
(磁気センサの機能)
ナノグラニュラー薄膜20に対してY方向(ナノグラニュラー薄膜20に対して垂直な方向)に対して角度θをなす磁場Hが印加された。この状態で、第1投光素子111によりナノグラニュラー薄膜20に対して屈折角θ2(伝搬角)=+45°でX-Y平面を入射面とする光が入射された際の、第1受光要素1121、1122による受光量および当該角度θの相関関係が測定された。また、この状態で、第2投光素子121によりナノグラニュラー薄膜20に対して屈折角θ2(伝搬角)=-45°(第1投光素子111による光の入射角に対して90°をなす方向)でX-Y平面を入射面とする光が入射された際の、第2受光要素1221、1222による受光量および当該角度θの相関関係が測定された。
【0029】
図5Aには、ナノグラニュラー薄膜20に対する入射面および偏光面のなす角度φが0°である場合(入射面および偏光面が平行である場合)における、第1光学ユニット110の第1受光要素1121、1122の一方の第1受光要素1121による受光量および磁場角度θの相関関係が一点鎖線で示され、他方の第1受光要素1122による受光量および磁場角度θの相関関係が二点鎖線で示されている。
図5Bには、ナノグラニュラー薄膜20に対する入射面および偏光面のなす角度φが90°である場合(入射面および偏光面が垂直である場合)における、第1受光要素1121、1122の一方の第1受光要素1121による受光量および磁場角度θの相関関係が一点鎖線で示され、他方の第1受光要素1122による受光量および磁場角度θの相関関係が二点鎖線で示されている。
図5Cには、ナノグラニュラー薄膜20に対する入射面および偏光面のなす角度φが45°である場合における、第1受光要素1121、1122の一方の第1受光要素1121による受光量および磁場角度θの相関関係が一点鎖線で示され、他方の第1受光要素1122による受光量および磁場角度θの相関関係が二点鎖線で示されている。
【0030】
図5A~
図5Cから、ナノグラニュラー薄膜20に対する入射面および偏光面のなす角度φが0°である場合(入射面および偏光面が平行である場合)、第1受光要素1121における受光量が最大であり、磁気検出感度が最高になることがわかる。説明を省略するが、第2光学ユニット120の第2受光要素1221、1222においても同様である。
【0031】
ナノグラニュラー薄膜20の磁気光学効果は、外部磁界Hに対する磁化Mの大きさに比例するが、ナノグラニュラー薄膜20はその形状による効果として面に垂直方向の磁化率と、面に平行方向の磁化率とが反磁界の効果によって異なるため、磁気光学効果から得られる磁化Mに対応する測定量から外部磁界Hを求めるには、反磁界による効果を補正する必要がある。
【0032】
図6Aには、ナノグラニュラー薄膜20のX-Y平面内で、X方向からθの角度で外部磁界Hが加えられた時のX方向成分Hxと、Y方向成分Hyが示されている。
【0033】
この際、ナノグラニュラー薄膜20の磁化Mは、面に平行方向(X方向)の磁化率をa、面に垂直方向の(Y方向)の磁化率をbとすると、
図6Bに示されているように、Mx=aHxおよびMy=bHyが合成された値となる。一方、光の伝搬方向であるP方向およびQ方向は、磁気光学効果による磁化Mの検出方向となる。このため、磁化MのP方向およびQ方向のそれぞれの磁化成分MpおよびMqのそれぞれに比例する磁気光学効果が第1差動検出器11および第2差動検出器12のそれぞれによって検出される。磁化成分MpおよびMqと磁界成分HxおよびHyとの関係は、P方向およびX方向のなす角度αおよびQ方向およびY方向のなす角度βを用いて次の関係式(11)で表わされる。このため、磁化率aおよびbがあらかじめ測定されることによって、当該関係式にしたがって磁界成分HxおよびHyが求められる。
【0034】
aHx=Mp×cosα-Mq×sinβ、
bHy=Mq×cosβ+Mp×sinα ‥(11)。
【0035】
ここで、α=β=45degとすると、関係式(11)は次式(12)のように簡略化されうる。
【0036】
aHx=(1/2)1/2×(Mp-Mq)、
bHy=(1/2)1/2×(Mq+Mp) ‥(12)。
【0037】
ナノグラニュラー薄膜20に対してY方向(ナノグラニュラー薄膜20に対して垂直な方向)に対して角度θをなす磁場Hが磁石によって印加された。この状態で、第1投光素子111によりナノグラニュラー薄膜20に対して屈折角θ2(伝搬角)=+45°でX-Y平面を入射面かつ偏光面とする光が入射され、第2投光素子121によりナノグラニュラー薄膜20に対して屈折角θ2(伝搬角)=-45°でX-Y平面を入射面かつ偏光面とする光が入射された。そして、第1受光素子1121、1122による受光量および第2受光素子1221、1222による受光量に基づき、磁気検出器14によりナノグラニュラー薄膜20に対して平行な磁界成分HXおよび垂直な磁界成分HYのそれぞれが測定された。
【0038】
図7には、磁界成分HxおよびHyのそれぞれと、磁場Hの角度θとの相関関係が二点鎖線および一点鎖線のそれぞれにより示されている。
図7から、磁界の方位θが90degおよび270degでX方向の磁界成分Hxの極大値が得られ、磁界の方位θが0deg(360deg)および180degでY方向の磁界成分Hyの極大値が得られており、磁石による磁界成分が正しく測定できていることがわかる。
【0039】
ナノグラニュラー薄膜20に対してX方向(ナノグラニュラー薄膜20に対して平行な方向)に対して磁石を用いて、当該磁石の位置が+X方向および-X方向に変位されながら各X方向の位置で磁石を360deg回転して磁場Hが印加された。この状態で、第1投光素子111によりナノグラニュラー薄膜20に対して屈折角θ2(伝搬角)=+45°でX-Y平面を入射面かつ偏光面とする光が入射され、第2投光素子121によりナノグラニュラー薄膜20に対して屈折角θ2(伝搬角)=-45°でX-Y平面を入射面かつ偏光面とする光が入射された。そして、第1受光要素1121、1122による受光量および第2受光要素1221、1222による受光量に基づき、第1差動検出器11および第2差動検出器12で検出された、磁化成分に比例した磁気光学効果による出力信号が測定された。
【0040】
図8には、第1差動検出器11および第2差動検出器12で検出された、磁化成分に比例した磁気光学効果による出力信号において、X方向の各位置それぞれについて、磁石を360deg回転した際の最大振幅と、磁石の位置Xとの相関関係が一点鎖線および二点鎖線のそれぞれにより示されている。
図8から、第1受光要素1121、1122による受光量に基づく第1差動検出器11の出力信号と、第2受光要素1221、1222による受光量に基づく第2差動検出器12の出力信号のそれぞれについて、最大振幅が得られるX位置がほぼX=0の位置となっており、第1光学ユニット110による磁界検出位置と、第2光学ユニット120磁界検出位置がほぼ一致していることが示され、磁界検出領域が一致していることがわかる。
【符号の説明】
【0041】
11‥第1差動検出器、12‥第2差動検出器、14‥磁界検出器、20‥ナノグラニュラー薄膜、100‥レーザ(光源)、110‥第1光学ユニット、111‥第1投光要素、1121、1122‥第1受光要素、120‥第2光学ユニット、121‥第2投光要素、1221、1222‥第2受光要素、200‥磁気検出素子、202‥基板、210‥第1光束制御部材、212‥反射防止膜、220‥第2光束制御部材、222‥反射膜。