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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001537
(43)【公開日】2023-01-06
(54)【発明の名称】貼着シート剥離剤
(51)【国際特許分類】
   C11D 3/18 20060101AFI20221226BHJP
   C11D 3/04 20060101ALI20221226BHJP
   C11D 3/33 20060101ALI20221226BHJP
   C11D 1/72 20060101ALI20221226BHJP
   C11D 3/37 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
C11D3/18
C11D3/04
C11D3/33
C11D1/72
C11D3/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021102328
(22)【出願日】2021-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上原 彩
(72)【発明者】
【氏名】上端 栞太
(72)【発明者】
【氏名】相沢 舜羅
(72)【発明者】
【氏名】江尻 亜沙美
(72)【発明者】
【氏名】金野 隆
(72)【発明者】
【氏名】新海 弘史
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003AC08
4H003AC23
4H003DA05
4H003DA07
4H003DB03
4H003EA21
4H003EB02
4H003EB04
4H003EB06
4H003EB16
4H003EB33
4H003ED02
(57)【要約】
【課題】折板屋根の天井面などに貼り付けられている貼着シートを好適に剥離することができる貼着シート剥離剤を実現する。
【解決手段】少なくとも水とジペンテンと水酸化ナトリウムとエチレンジアミン四酢酸とを含有しており、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを含んでいる貼着シート剥離剤であって、ジペンテンの含有量が0.5~1.0重量%であり、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量が0.5~1.0重量%であるようにした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水とジペンテンと水酸化ナトリウムとエチレンジアミン四酢酸とを含有しており、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを含むことを特徴とする貼着シート剥離剤。
【請求項2】
前記ジペンテンの含有量の上限が1.0重量%であり、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量の上限が1.0重量%であることを特徴とする請求項1に記載の貼着シート剥離剤。
【請求項3】
さらにジペンテンを水に分散させる分散剤を、少なくとも4重量%含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の貼着シート剥離剤。
【請求項4】
さらにポリビニルアルコールを含有し、前記ポリビニルアルコールの含有量が0.2~0.5重量%であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の貼着シート剥離剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、折板屋根の天井面などに貼り付けられている貼着シートを剥離するのに用いる貼着シート剥離剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、旅客上家の折板屋根において金属性の屋根材の裏側に生じた結露が水滴となって滴下するのを抑制するため、屋根材の裏面に断熱シート(断熱用貼着シート)を貼り付けた断熱屋根材が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61-20742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の断熱屋根材を長期間に亘って使用した場合、経年劣化した断熱シートの一部が屋根材から剥がれてしまうことがある。
剥がれた断熱シートが天井側から垂れ下がったり落下したりすると、その下の通行の妨げになるので、劣化した断熱シートを除去する作業を行うことになる。
【0005】
この除去作業において、作業員がスクレーパーと称される工具を用いて断熱シートを剥がし取る際に、断熱シートを構成するウレタンなどの断熱材が劣化しているために粉状になって飛散してしまうことがあるので、粉塵対策が必要であった。
また、断熱材を除去しても接着剤層が残ってしまい美観を損ねることや、その接着剤層を掻き取ろうとして屋根材の塗装面を損傷してしまうことがあった。
【0006】
また、上市されている剥離液(リムーバー)を使用した剥離も試みたが、分厚い断熱材を有しており天井面に貼り付けられている断熱シートを剥離することは困難であった。
そこで、本発明者らが鋭意検討し、屋根材の裏面に貼り付けられた断熱シートなど、厚みのある断熱材を有している貼着シート(貼着シートの接着剤層・シール層)でも剥離するのを可能にした剥離剤を開発するに至った。
【0007】
本発明の目的は、折板屋根の天井面などに貼り付けられている貼着シートを好適に剥離することができる貼着シート剥離剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、この発明は、貼着シート剥離剤であって、
少なくとも水とジペンテンと水酸化ナトリウムとエチレンジアミン四酢酸とを含有しており、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを含むようにした。
【0009】
かかる構成の貼着シート剥離剤であれば、折板屋根の天井面などに貼り付けられている貼着シートを好適に剥離することができる。
特に、この貼着シート剥離剤は、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有しているので、例えば、ウレタン製やポリエチレン製の断熱材と、その断熱材を折板屋根の天井面などに貼り付けるための接着シールとを備えた断熱シートなどの貼着シートにも浸透し易く、その貼着シート(断熱シート)を好適に剥離することができる。
【0010】
また、望ましくは、
前記ジペンテンの含有量の上限が1.0重量%であり、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量の上限が1.0重量%であるようにする。
こうすることで、貼着シートを剥離する貼着シート剥離剤の剥離性能を安定したレベルに維持することができる。
【0011】
また、望ましくは、
さらにジペンテンを水に分散させる分散剤を、少なくとも4重量%含有しているようにする。
こうすることで、貼着シート剥離剤が相分離し難くなり、性状が安定した貼着シート剥離剤を剥離対象の貼着シートに対して好適に塗布してその貼着シートに浸透させることができる。
【0012】
また、望ましくは、
さらにポリビニルアルコールを含有し、前記ポリビニルアルコールの含有量が0.2~0.5重量%であるようにする。
こうすることで、貼着シート剥離剤を剥離対象の貼着シートに対して好適に塗布することができる。
例えば、ポリビニルアルコールの含有量が0.2重量%未満であると、貼着シート剥離剤の粘度が低いために塗布した貼着シート剥離剤が液だれし易く、貼着シートに対する貼着シート剥離剤の浸透が不十分になってしまうことがある。
また、ポリビニルアルコールの含有量が0.5重量%を超えると貼着シート剥離剤の粘度が高くなり過ぎて塗布し難くなるので、これを上限とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、折板屋根の天井面などに貼り付けられている貼着シートを好適に剥離することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る貼着シート剥離剤の実施形態について詳細に説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態に限定するものではない。
【0015】
本実施形態の貼着シート剥離剤は、壁面や天井面などに貼り付けられている各種貼着シートを剥離するのに用いる薬液である。
特に、本実施形態の貼着シート剥離剤は、旅客上家の折板屋根の天井面などに貼付されている断熱シートを好適に剥離することを可能にするものである。
なお、断熱シートは、ウレタン製やポリエチレン製の断熱材と、その断熱材を折板屋根を構成する屋根材に貼り付けるための接着シール(接着剤層)とを備えた貼着シートである。
【0016】
本実施形態の貼着シート剥離剤は、少なくとも水とジペンテンと水酸化ナトリウムとエチレンジアミン四酢酸とを含有しており、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有している。
また、この貼着シート剥離剤は、さらに分散剤、安定剤、エタノール、ポリビニルアルコールを含有している。
【0017】
ジペンテンは、接着シールの接着剤を溶解する成分であり、例えば、断熱シートにおける接着シールの粘着度を低下させるためのものである。
なお、ジペンテンはリモネンとも称される物質であるので、ジペンテンに替えてリモネンを用いてもよい。
【0018】
水酸化ナトリウムは、シールの剥離に必要なアルカリ成分である。
本実施形態では、貼着シート剥離剤がpH13未満となるように、水酸化ナトリウムの添加量を調整した。
エチレンジアミン四酢酸は、各種洗剤に用いられている洗浄液成分である。
この水酸化ナトリウムとエチレンジアミン四酢酸が接着シールに浸透し、接着シールを膨潤させることで、ジペンテンによる接着シールの粘着度低下を起こし易くしている。
つまり、水酸化ナトリウムとエチレンジアミン四酢酸をジペンテンと併用することで、貼着シートを剥離する相乗効果が得られる。
なお、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)と、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水和物(EDTA・4Na)は、水溶液中で同じ性状を呈するので、エチレンジアミン四酢酸に替えてエチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水和物を用いてもよい。
【0019】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、曇点が低く、油性の強い界面活性剤である。
ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、断熱シートを剥離するため、貼着シート剥離剤を断熱シートに浸透し易くする機能に加え、断熱シートの断熱材(ウレタン樹脂やポリエチレン樹脂)が飛散しないように凝集させるための機能も有している。
なお、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの中でも、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテルが貼着シート剥離剤の成分として好ましいことを本発明者らは見出した。
【0020】
分散剤は、ジペンテン(リモネン)を水溶液中に分散させる成分である。
本実施形態では、ジペンテン(リモネン)の分散剤として、ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテルまたはプロピレングリコールを用いた。
安定剤は、貼着シート剥離剤の性状を安定させる成分である。ここでは、主に曇点を引き上げ、貼着シート剥離剤が白濁するのを防止するために安定剤を添加した。
本実施形態では、安定剤として、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールまたは尿素を用いた。
この分散剤と安定剤をともに添加することで、貼着シート剥離剤が相分離するのを抑えることができ、貼着シート剥離剤の性状をより一層安定させることができる。
【0021】
エタノールは、断熱シートを剥離するため、貼着シート剥離剤を断熱シート(断熱材と接着シール)に浸透し易くする成分である。
【0022】
ポリビニルアルコールは、増粘剤であり、貼着シート剥離剤の粘度を高めるために添加している。
このポリビニルアルコールの添加によって貼着シート剥離剤の粘度を高めることで、壁面や天井面などに貼り付けられている貼着シート(断熱シート)に対して塗布した貼着シート剥離剤が貼着シート(断熱シート)の表面に付着し易くなって、貼着シート剥離剤の成分が貼着シート(断熱シート)に浸透し易くなる。
【0023】
そして、本実施形態の貼着シート剥離剤における、ジペンテンの含有量は0.5~1.0重量%であることが好ましく、また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量は0.5~1.0重量%であることが好ましい。
ジペンテンの含有量が1.0重量%を超えると、貼着シート剥離剤が相分離し易くなるので好ましくない。また、ジペンテンの含有量が0.5重量%未満であると、十分な剥離性能が得られないので好ましくない。
ポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量が1.0重量%を超えると、泡立ち易くなったり白濁し易くなったりすることで、貼着シート剥離剤の浸透性が低下することがあるので好ましくない。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量が0.5重量%未満であると、十分な剥離性能が得られないので好ましくない。
【0024】
水酸化ナトリウムの含有量は0.1重量%程度であることが好ましく、エチレンジアミン四酢酸の含有量は2.0重量%程度であることが好ましい。
水酸化ナトリウムとエチレンジアミン四酢酸の含有量を調整して、貼着シート剥離剤をpH13未満とすることが好ましい。
【0025】
分散剤の含有量は、4重量%以上であることが好ましい。
分散剤の含有量が4重量%未満であると、貼着シート剥離剤が相分離してしまうことがあるので好ましくない。
【0026】
安定剤の含有量は、4重量%以上であることが好ましい。
安定剤の含有量が4重量%未満であると、貼着シート剥離剤が白濁してしまうことがあるので好ましくない。
【0027】
エタノールの含有量は、1.5重量%程度であることが好ましい。
エタノールの含有量が1.5重量%を超えると、貼着シート剥離剤が乾燥し易くなり、貼着シートへの浸透が不十分になることがあるので好ましくない。
【0028】
ポリビニルアルコールの含有量は、0.2~0.5重量%であることが好ましい。
ポリビニルアルコールの含有量が0.2重量%未満であると、貼着シート剥離剤の粘度が低いために塗布した貼着シート剥離剤が液だれし易く、貼着シート(断熱シート)に対する貼着シート剥離剤の浸透が不十分になってしまうことがある。
なお、ポリビニルアルコールの含有量が0.5重量%を超えると貼着シート剥離剤の粘度が高くなり過ぎて塗布し難くなるのでこれを上限とした。
【0029】
これら貼着シート剥離剤の各成分の配合については、本発明者らが試作試験などを繰り返し、上記した好ましい含有量を見出した。
そして、本発明者らは、以下の配合の貼着シート剥離剤を調整し、後述する断熱シートの除去作業に使用した。ここでは、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテルを用いている。
ジペンテン ; 1.0重量%
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル ; 1.0重量%
水酸化ナトリウム ; 0.1重量%
エチレンジアミン四酢酸 ; 2.0重量%
分散剤(ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル) ; 4.0重量%
安定剤(3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール) ; 4.0重量%
エタノール ; 1.5重量%
ポリビニルアルコール ; 0.38重量%
水 ; 86.02重量%
【0030】
このような配合の貼着シート剥離剤であれば、貼着シート(断熱シート)を剥がし残すことなく、良好に剥離することができる。
【0031】
次に、本実施形態の貼着シート剥離剤の使用した断熱シートの除去作業について説明する。
【0032】
上述した配合に調整した貼着シート剥離剤を、旅客上家の折板屋根の天井面に貼付されている断熱シートに塗布した。
ここでは噴霧器を使って貼着シート剥離剤を天井面に向けて噴霧し、天井面に貼付されている断熱シートに対して貼着シート剥離剤を750cc/m塗布した。
この貼着シート剥離剤は、添加しているポリビニルアルコールによって適度な粘性を有しているので、塗布された天井面から液だれすることなく、断熱シートに好適に付着させることができた。
この塗布後、断熱シートに貼着シート剥離剤を浸透させるように30分放置した。
【0033】
30分間の放置後、作業員がスクレーパーを使って折板屋根から断熱シートを剥がすと、接着シール部分も残さずに断熱シートを剥離することができた。
また、断熱シートを剥離する際、断熱材はウェットな塊として除去することができ、粉塵の飛散は生じることなく、好適に除去作業を終えることができた。
このように、折板屋根の天井面に貼付されている断熱シートを好適に剥離し、除去することができる。
【0034】
なお、ここでは天井面に貼付されている貼着シートである断熱シートを剥離する場合を例に説明したが、壁面に貼付されている貼着シートであっても好適に剥離することができる。
また、ここでは噴霧器を使って貼着シート剥離剤を塗布したが、刷毛や塗布ローラーを使って貼着シート剥離剤を塗布するようにしてもよい。
【0035】
以上のように、本実施形態の貼着シート剥離剤であれば、壁面や天井面などに貼付されている貼着シートを好適に剥離することができる。
【0036】
なお、本発明の適用は上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。