(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153704
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】樹脂と金属間の熱伝達係数の計測装置及び計測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20231011BHJP
G01K 1/14 20210101ALI20231011BHJP
【FI】
G01N25/18 D
G01K1/14 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063128
(22)【出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷川 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】宮本 嗣久
(72)【発明者】
【氏名】小川 淳一
【テーマコード(参考)】
2F056
2G040
【Fターム(参考)】
2F056CL06
2G040AB08
2G040BA08
2G040BA24
2G040CA02
2G040DA03
2G040DA14
2G040DA21
2G040FA01
2G040ZA08
(57)【要約】
【課題】パンチ21をポット6の溶融樹脂11に押し当てて樹脂及11及びパンチ21の温度を測定し、樹脂11とパンチ21の間の熱伝達係数を求める。パンチ21を溶融樹脂11に押し当てたときの樹脂側温度センサ13の移動を防止する。
【解決手段】樹脂11とパンチ21の界面からの離隔距離が異なる樹脂11の各点の温度を測定する複数の温度測定子をまとめて一つのブロック34に保持し、そのブロック34をポット6に支持部材35を介して支持する。ポット6に溶融樹脂を貯留しブロック34の上面が溶融樹脂11の上面付近に位置付けられた状態になるようにし、その状態でパンチ21をポット6に嵌入して溶融樹脂11に押し当てる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融した樹脂を貯留するポットと、
上記ポットに嵌入されて先端面が上記樹脂に押し当てられる金属製のパンチと、
上記樹脂の温度を測定する樹脂側温度センサと、
上記パンチの温度を測定するパンチ側温度センサと、
上記樹脂及び上記パンチ各々の測定温度から上記樹脂と上記パンチの間の熱伝達係数を求める演算装置とを備えた熱伝達係数計測装置であって、
上記樹脂側温度センサは、
上記樹脂と上記パンチの界面からの離隔距離が異なる当該樹脂の各点の温度を電気的に測定する複数の温度測定子と、この複数の温度測定子を保持する一つのブロックと、該ブロックをその上面が上記樹脂の上面付近に位置付けられるように上記ポットに支持する支持部材とを備えていることを特徴とする熱伝達係数計測装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記樹脂側温度センサの上記温度測定子は、2種類の金属素線の先端同士を接合して熱接点とした熱電対であることを特徴とする熱伝達係数計測装置。
【請求項3】
請求項2において、
上記熱電対の上記金属素線は上記熱接点以外の上記樹脂に埋設される部分が、融点が上記樹脂の融点よりも高い高耐熱性樹脂によって絶縁コートされていることを特徴とする熱伝達係数計測装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2において、
上記ブロックは、その上面が上記溶融した樹脂の上面と面一になるように上記ポットに支持されていることを特徴とする熱伝達係数計測装置。
【請求項5】
請求項1又は請求項2において、
上記パンチ側温度センサは、各々上記パンチに埋設され該パンチの温度を電気的に測定する複数の温度測定子を備え、
上記パンチ側温度センサの上記複数の温度測定子は、上記パンチの上方から下方に向かって延びて、又は上記パンチの外周側から中心に向かって延びて、各々の先端の温度測定点が上記パンチの軸心を中心とする同じ円周上に間隔をおいて配置されていることを特徴とする熱伝達係数計測装置。
【請求項6】
請求項5において、
上記パンチ側温度センサの上記複数の温度測定子は、上記樹脂と上記パンチの界面からの離隔距離が異なる上記パンチの各点の温度を測定するべく、各々の上記温度測定点の位置が上記パンチの軸方向にずらされていることを特徴とする熱伝達係数計測装置。
【請求項7】
請求項1又は請求項2において、
上記ポットは、その内部に収容した樹脂の温度を調節する温度調節装置を備えていることを特徴とする熱伝達係数計測装置。
【請求項8】
請求項1又は請求項2において、
上記樹脂は熱可塑性であることを特徴とする熱伝達係数計測装置。
【請求項9】
請求項1又は請求項2において、
上記ポットの上記樹脂を貯留する樹脂貯留部及び上記パンチの嵌入部は、上記パンチの嵌入方向に直交する断面形状が真円形状であることを特徴とする熱伝達係数計測装置。
【請求項10】
請求項1又は請求項2において、
上記熱電対の上記金属素線における上記ブロックより上記ポットの内周面側に突出した部分は、上記支持部材よりも下側に突出するように湾曲した湾曲部を有することを特徴とする熱伝達係数計測装置。
【請求項11】
溶融した樹脂を貯留したポットにパンチを嵌入してその先端面を樹脂に押し当てる工程と、
上記樹脂及び上記パンチの温度を測定する工程と、
上記樹脂及び上記パンチ各々の測定温度から上記樹脂と上記パンチの間の熱伝達係数を求める工程とを備え、
上記樹脂と上記パンチの界面からの離隔距離が異なる当該樹脂の各点の温度を電気的に測定する複数の温度測定子を一つのブロックに保持し、そのブロックを上記ポットに支持部材を介して支持しておき、
上記ポットに溶融した樹脂を貯留し、且つ上記ブロックの上面が当該樹脂の上面付近に位置付けられた状態になるようにし、その状態で上記パンチを上記ポットに嵌入してその先端面を樹脂に押し当てることを特徴とする熱伝達係数計測方法。
【請求項12】
請求項11において、
上記樹脂側温度センサの上記温度測定子は、2種類の金属素線の先端同士を接合して熱接点とした熱電対であることを特徴とする熱伝達係数計測方法。
【請求項13】
請求項11又は請求項12において、
上記熱電対の上記金属素線は上記熱接点以外の上記樹脂に埋設される部分が、融点が上記樹脂の融点よりも高い高耐熱性樹脂によって絶縁コートされていることを特徴とする熱伝達係数計測方法。
【請求項14】
請求項11又は請求項12において、
上記ブロックは、その上面が上記溶融した樹脂の上面と面一になるように上記ポットに支持し、
上記パンチの先端面を上記樹脂に押し当てたときに該先端面の一部を上記ブロックの上面に接触した状態にすることを特徴とする熱伝達係数計測方法。
【請求項15】
請求項11又は請求項12において、
上記パンチ側温度センサは、各々上記パンチに埋設され該パンチの温度を電気的に測定する複数の温度測定子を備え、
上記パンチ側温度センサの上記複数の温度測定子は、上記パンチの上方から下方に向かって延びて、又は上記パンチの外周側から中心に向かって延びて、各々の先端の温度測定点が上記パンチの軸心を中心とする同じ円周上に間隔をおいて配置されていることを特徴とする熱伝達係数計測方法。
【請求項16】
請求項15において、
上記パンチ側温度センサの上記複数の温度測定子は、上記樹脂と上記パンチの界面からの離隔距離が異なる上記パンチの各点の温度を測定するべく、各々の温度測定点の位置が上記パンチの軸方向にずらされていることを特徴とする熱伝達係数計測方法。
【請求項17】
請求項11又は請求項12において、
上記パンチを上記ポットに嵌入する前に、上記ポットの内部において上記樹脂を温度調節装置によって加熱溶融して所定温度に調節することを特徴とする熱伝達係数計測方法。
【請求項18】
請求項11又は請求項12において、
上記樹脂は熱可塑性であることを特徴とする熱伝達係数計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂と金属間の熱伝達係数の計測装置及び計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
相接する2つの物体間の熱伝達係数を両物体の温度分布に基いて算出することは一般に知られている。
【0003】
例えば、特許文献1にはモータのステータコアとケースの間の熱伝達係数を測定する方法が記載されている。この方法では、ケースと同じ材質ケースブロックをステータコアと同じ材質のコアブロックに接触させて加圧され、その状態でコアブロックがヒータにより加熱される。両ブロックが温度変化のない定常状態になった後に、両ブロックの温度分布が測定され、その温度分布に基いて熱伝達計数が算出される。
【0004】
特許文献2には、熱間鍛造される素材とパンチの間の熱伝達計数を測定する方法が記載されている。この方法では、素材が大気炉で所定温度に加熱されて下型に収容される。その素材にパンチが押し付けられ、押し付け前後のパンチの温度変化が測定される。この測定された温度変化と、事前に熱伝達係数を所定の値に設定して行なう数値シミュレーションによる温度変化が比較される。そして、両温度変化が所定条件になるまで、熱伝達係数を設定し直して数値シミュレーションを繰り返すことにより、熱伝達係数が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-200226号公報
【特許文献2】特開2018-8299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2は金属製の固体間の熱伝達係数を求めるが、本発明は、溶融した樹脂が固化していくときのその樹脂と金属(パンチ)の間の熱伝達係数を計測する。その熱伝達係数によって、例えば射出成形において樹脂から金型にどのくらいの熱が伝わるかがわかるため、成形中や脱型後の樹脂の温度分布を把握することができる。
【0007】
計測対象が溶融樹脂である場合も、その溶融樹脂を貯留したポットにパンチを嵌入して溶融樹脂に押し当て、その状態で樹脂及びパンチの温度を測定して熱伝達係数を求めるという、金属固体間の熱伝達係数の計測と同様の手法を採ることはできる。
【0008】
しかし、樹脂の場合は、金属とは違って、熱伝導率が低く、熱容量が大きい。そのため、
図7に示すように、樹脂には、パンチとの界面付近でしか顕著な勾配のある温度分布(パンチ嵌入方向の温度分布)を生じない上に、樹脂とパンチの界面における温度差も小さい。なお、
図7は樹脂-金型間の熱伝達係数とAl-金型間の熱伝達係数を同等(2500W/m
2K)と仮定した伝熱解析による計算結果であり、25℃のパンチを200℃の樹脂及びAl各々に押し当ててから20秒経過した時点のパンチ、樹脂及びAlの温度分布を示している。
【0009】
従って、測定対象が樹脂であるとき信頼度が高い熱伝達係数を得るには、界面付近の樹脂の温度分布を正確に捉えることが必要になる。
【0010】
そこで問題になるのは、パンチによる加圧下において、上記温度分布を得るための熱電対等の複数の温度測定子を上記界面付近に所定の間隔で位置ずれなく保持した状態をいかにして保つかということである。パンチを樹脂に押し当てたときに樹脂を介して温度測定子に圧力が加わると、個々の温度測定子の位置がずれて温度測定子の間隔が変化する、或いは複数の温度測定子全てが樹脂の内部に深く沈み込んでしまうという問題である。
【0011】
本発明は、パンチを樹脂に押し当てたときの温度測定子のパンチ嵌入方向における位置ずれを抑えて、信頼度が高い熱伝達係数を計測できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題の解決のために、複数の温度測定子を一つのブロックに保持し、このブロックをポットに支持するようにした。
【0013】
ここに開示する熱伝達係数計測装置は、
溶融した樹脂を貯留するポットと、
上記ポットに嵌入されて先端面が上記樹脂に押し当てられる金属製のパンチと、
上記樹脂の温度を測定する樹脂側温度センサと、
上記パンチの温度を測定するパンチ側温度センサと、
上記樹脂及び上記パンチ各々の測定温度から上記樹脂と上記パンチの間の熱伝達係数を求める演算装置とを備えた熱伝達係数計測装置であって、
上記樹脂側温度センサは、
上記樹脂と上記パンチの界面からの離隔距離が異なる当該樹脂の各点の温度を電気的に測定する複数の温度測定子と、この複数の温度測定子を保持する一つのブロックと、該ブロックをその上面が上記樹脂の上面付近に位置付けられるように上記ポットに支持する支持部材とを備えていることを特徴とする。
【0014】
また、ここに開示する熱伝達係数計測方法は、
溶融した樹脂を貯留したポットにパンチを嵌入してその先端面を樹脂に押し当てる工程と、
上記樹脂及び上記パンチの温度を測定する工程と、
上記樹脂及び上記パンチ各々の測定温度から上記樹脂と上記パンチの間の熱伝達係数を求める工程とを備え、
上記樹脂と上記パンチの界面からの離隔距離が異なる当該樹脂の各点の温度を電気的に測定する複数の温度測定子を一つのブロックに保持し、そのブロックを上記ポットに支持部材を介して支持しておき、
上記ポットに溶融した樹脂を貯留し、且つ上記ブロックの上面が当該樹脂の上面付近に位置付けられた状態になるようにし、その状態で上記パンチを上記ポットに嵌入してその先端面を樹脂に押し当てることを特徴とする。
【0015】
上記計測装置、計測方法によれば、複数の温度測定子を一つのブロックにまとめて保持するから、それらの温度測定点のパンチ嵌入方向の間隔が溶融樹脂へのパンチの押当てによって変化することが避けられる。すなわち、パンチが溶融樹脂の上面に押し当てられたときに、パンチがブロックに当接しても、パンチからの圧力は温度測定子には直接には伝わらないから、複数の温度測定子の温度測定点の間隔が変化することが避けられる。
【0016】
仮に、パンチからの圧力がブロックを介して支持部材に伝わり、該支持部材が変形することによってブロックがパンチの嵌入方向に動くことがあっても、それはパンチに随従した動きになる。従って、ブロックに保持されている複数の温度測定子とパンチの先端面との位置関係、ひいてはパンチの先端面が押し当てられる樹脂の上面と複数の温度測定子との位置関係には大きな変化を生じない。
【0017】
このように、パンチを樹脂に押し当てたときに複数の温度測定子がパンチ嵌入方向に位置ずれすることが抑えられるから、樹脂の界面付近の温度分布を正確に捉えることができ、信頼度が高い熱伝達係数を得ることができる。
【0018】
上記樹脂側温度センサの上記温度測定子としては、サーミスタや測温抵抗体を採用することもできるが、好ましいのは、2種類の金属素線の先端同士を接合して熱接点(温度測定点)とした熱電対である。熱電対の場合、その素線を細くして低剛性とすることができるから、樹脂の相変化、冷却収縮の抵抗になることが避けられ、従って、歪みによって温度測定精度が低下することも避けられる。
【0019】
上記計測装置及び計測方法各々の一実施形態では、上記熱電対の上記金属素線は上記熱接点以外の上記樹脂に埋設される部分が、融点が上記樹脂の融点よりも高い高耐熱性樹脂によって絶縁コートされている。従って、各熱電対の2本の素線の熱接点以外の部分が溶融樹脂によって偶発的にショートすることが避けられる。
【0020】
上記計測装置及び計測方法各々の一実施形態では、上記ブロックは、その上面が上記溶融した樹脂の上面と面一になるように上記ポットに支持され、上記パンチの先端面を上記樹脂に押し当てたときに該先端面の一部が上記ブロックの上面に接触した状態になるようにする。パンチとブロックの接触により、両者の相対的な位置関係が固定された状態になるから、複数の温度測定子がパンチ嵌入方向に沈み込むことが確実に避けられる。
【0021】
上記計測装置及び計測方法各々の一実施形態では、上記パンチ側温度センサは、各々上記パンチに埋設され該パンチの温度を電気的に測定する複数の温度測定子を備え、この複数の温度測定子は、上記パンチの上方から下方に向かって延びて、又は上記パンチの外周側から中心に向かって延びて、各々の先端の温度測定点が上記パンチの軸心を中心とする同じ円周上に間隔をおいて配置されている。
【0022】
これによれば、温度測定子自体がパンチ先端面と各温度測定点の間で熱を奪う介在物にならない。また、各測定点が同一円周上に配置されているから、樹脂から各温度測定点までの熱の移動条件は同じになる。よって、各温度測定子で測定される温度の信頼性が高くなり、ひいてはそれらの測定温度に基いて得られる熱伝達係数の信頼性が高くなる。
【0023】
上記計測装置及び計測方法各々の一実施形態では、上記パンチ側温度センサの上記複数の温度測定子は、上記樹脂と上記パンチの界面からの離隔距離が異なる上記パンチの各点の温度を測定するべく、各々の上記温度測定点の位置が上記パンチの軸方向にずらされている。従って、パンチにおけるパンチ嵌入方向の温度分布を確実に捉えることができ、得られる熱伝達係数の信頼性が高くなる。
【0024】
上記計測装置の一実施形態では、上記ポットは、その内部に収容した樹脂の温度を調節する温度調節装置を備えている。ここに、樹脂を外部で昇温してからポットに移すと、ポット等に熱を奪われて樹脂が複雑な温度分布になってしまう。これに対して、当該実施形態によれば、ポット内で樹脂を所定温度に調節することができるから、パンチをポットに嵌入する前に樹脂温度の均一性を高めることができ、信頼性が高い熱伝達係数を得る上で有利になる。樹脂は、ポット内で温度調節装置によって加熱溶融して温度調節してもよく、また、外部で加熱溶融してポットに移し、ポット内で温度調節装置によって温度調節するようにしてもよい。
【0025】
上記計測方法の一実施形態では、上記パンチを上記ポットに嵌入する前に、上記ポットの内部において上記樹脂を温度調節装置によって加熱溶融して所定温度に調節する。これによれば、ポット内で樹脂を所定温度に調節することができるから、パンチをポットに嵌入する前に樹脂温度の均一性を高めることができ、信頼性が高い熱伝達係数を得る上で有利になる。
【0026】
上記樹脂は熱可塑性であっても熱硬化性であってもよい。
【0027】
上記計測装置の一実施形態では、上記ポットの上記樹脂を貯留する樹脂貯留部及び上記パンチの嵌入部は、上記パンチの嵌入方向に直交する断面形状が真円形状である。これにより、パンチをポットに嵌入するときのポットに対するパンチの位置合わせが容易になる。
【0028】
上記計測装置の一実施形態では、上記熱電対の上記金属素線における上記ブロックより上記ポットの内周面側に突出した部分は、上記支持部材よりも下側に突出するように湾曲した湾曲部を有する。本構成によれば、例えば高圧力下の計測等において、パンチの嵌入によりブロックが大きく下方に変位しても、湾曲部のしなりにより、金属素線のせん断や損傷を抑制できる。そうして、計測の信頼性を確保できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、パンチを溶融樹脂に押し当てたときの温度測定子のパンチ嵌入方向における位置ずれが防止されるから、樹脂の界面付近の温度を確実に測定することができ、よって、信頼性が高い熱伝達係数を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】実施形態1に係る熱伝達係数計測装置の斜視図。
【
図3】パンチを溶融樹脂に押し当てる前と後の同装置の一部を示す断面図。
【
図4】同装置の樹脂側温度センサの配置を示す断面図。
【
図6】パンチを樹脂に押し当てたときの実施形態と比較例のパンチ温度の経時変化を示すグラフ図。
【
図7】パンチを樹脂及びAl各々に押し当ててから所定時間経過した時点のパンチ、樹脂及びAlの温度分布を示すグラフ図。
【
図8】実施形態2に係る熱伝達係数計測装置の
図4相当図。
【
図9】実施形態2に係る熱伝達係数計測装置の
図5相当図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0032】
(実施形態1)
<熱伝達係数計測装置>
図1に示す熱伝達係数計測装置1は熱可塑性樹脂と金属間の熱伝達係数を計測する装置である。この熱伝達係数計測装置1は、溶融樹脂を貯留するポット装置2、パンチ装置3及び演算装置4を備えてなる。
【0033】
ポット装置2は、ベース5と、ベース5の上に支持したポット6と、このポット6の上端開口を塞ぐ蓋7とを備えてなる。
図2に示すように、ポット6は、金属製基台8と、この基台8に固定された軸心が垂直になって金属製円筒体9とによって構成されている。基台8と円筒体9によって樹脂11を貯留する樹脂貯留部12が形成されている。樹脂貯留部12の水平断面形状(後述するパンチ嵌入方向に直交する断面形状)は真円形状である。樹脂貯留部12には、熱伝達係数を計測するための樹脂11の温度を測定する樹脂側温度センサ13が設けられている。樹脂側温度センサ13については後に詳述する。
【0034】
ポット装置2は、樹脂貯留部12に収容した樹脂11を加熱溶融して所定温度に調節する温度調節装置を備えている。温度調節装置は、基台8に埋設された複数本の棒状ヒータ15、基台8の温度を測定する温度センサ(熱電対)16、並びに温度センサ16による測定温度が所定値になるように棒状ヒータ15の作動を制御する制御装置(図示省略)を備えている。さらに、温度調節装置は、円筒体9に巻き付けられたバンドヒータ17、円筒体9の温度を測定する温度センサ(熱電対)18、並びに温度センサ18による測定温度が所定値になるようにバンドヒータ17の作動を制御する制御装置(図示省略)を備えている。
【0035】
ポット6の上端開口を塞ぐ蓋7には、ポット6に貯留された樹脂11の表面に窒素を供給して樹脂11の酸化を防ぐ窒素供給管19が接続されている。
【0036】
パンチ装置3は、ポット6に嵌入される金属製の円柱状パンチ21と、パンチ21に埋設された複数の(本実施形態では棒状にした3本の)温度測定子23よりなるパンチ側温度センサ22と、断熱材26と、弾性シール27とを備えてなる。パンチ21の頂面には加圧試験機の加圧ロッドが結合されるロッド取付孔(ねじ孔)28が開口している。
【0037】
<パンチ側温度センサ22について>
複数の温度測定子23各々は熱電対よりなり、いずれもパンチ21の上端部よりパンチ嵌入方向の前方、すなわち、下方に延びている。複数の温度測定子23は、樹脂11とパンチ21の接触界面(以下、単に「界面」という。)からの離隔距離が異なるパンチ21の各点の温度を測定するべく、各々の先端の温度測定点23aの位置がパンチ21の軸方向にずらしてある。
図1からもわかるように、複数の温度測定子23各々の先端の温度測定点23aは、パンチ21の軸心を中心とする同じ円周上に間隔をおいて配置されている。
【0038】
本実施形態では、3本の温度測定子23各々の温度測定点23aは、パンチ21の先端面から2mm離れた位置、4mm離れた位置、並びに6mm離れた位置に配置されている。
【0039】
<パンチとポット間の断熱及び樹脂漏れ防止について>
パンチ21のポット6に嵌入される嵌入部21aは当該嵌入方向に直交する断面形状が真円形状である。嵌入部21aは、パンチ21の基部(上部)21bと同心で且つ基部21bよりも小径に形成されている。この嵌入部21aに各々円環状である断熱材26及び弾性シール27が後者を上側に配置して且つ互いに上下に接触させて嵌められている。弾性シール27の上面は、基部21bにおける嵌入部21aの上端から周囲に出張った部分の下面に当接している。この下面が後述の押圧部29となっている。
【0040】
図3に示すように、断熱材26は、円筒体であって、嵌入部21aがポット6に嵌入したときに該嵌入部21aの外周面とポット6の内周面(円筒体9の内周面)の間に介在するように設けられている。パンチ21がポット6に嵌入していく途中、並びにパンチ21がポット6の樹脂11に押し当てられた状態での、ポット6とパンチ21の間の熱移動がこの断熱材26によって抑制される。
【0041】
弾性シール27は、所謂Oリングであって、嵌入部21aがポット6に嵌入したときに断熱材26の上側において嵌入部21aの外周面とポット6の内周面の間に介在するように設けられている。パンチ21がポット6の樹脂11に押し当てられたときにポット6とパンチ21の嵌入部21aの間から樹脂11が漏れることが弾性シール27によって阻止される。
【0042】
この樹脂漏れの阻止について説明する。パンチ21の嵌入部21aに嵌められた断熱材26及び弾性シール27各々の外周面とポット6の内周面の間には、嵌入部21aがポット6に嵌入していくときにポット6内の気体(窒素ガス)が外部に抜けるようにするクリアランスが設けられている。つまり、嵌入部21aに嵌められた断熱材26及び弾性シール27各々の外周面とポット6の内周面は全周にわたって隙間なく密接しているのではなく、当該嵌入を円滑にすることも狙いとして、嵌入時に上記外周面と内周面の間の少なくともいずれかの部位に僅かのクリアランスができるようにされている。
【0043】
そうして、
図3(A)に示すようにパンチ21の先端面がポット6の樹脂11に接触し、
図3(B)に示すようにその先端面が樹脂11に押し当てられると、パンチ21の押圧部29から弾性シール27に圧力が加わる。断熱材26は樹脂11に支えられて実質的に動かないから、押圧部29からの上記圧力によって弾性シール27が断熱材26の上端面に押し付けられることになる。その結果、弾性シール27はその内周部及び外周部がそれぞれ内周側及び外周側に出っばるように弾性変形して、端的に言えば、押し潰されて、パンチ21の嵌入部21aの外周面とポット6の内周面に強く押し当てられる。よって、パンチ21の嵌入部21aの外周面とポット6の内周面の間から樹脂11が漏れることが阻止される。
【0044】
<樹脂側温度センサ13について>
図4に示すように、樹脂側温度センサ13は、複数(本実施形態では3つ)の温度測定子31を備えている。複数の温度測定子31は、パンチ嵌入方向(上下方向)に微小間隔をおいて水平に配置されて一つのブロック34に保持されている。そうして、このブロック34の上面がポット6に貯留される溶融樹脂11の上面付近に位置付けられるように、好ましくは、ブロック34の上面が溶融樹脂11に浸らないよう、さらには溶融樹脂11の上面とブロックの上面が面一になるように、ブロック34がポット6に支持部材35によって支持されている。
【0045】
図5に示すように、複数の温度測定子31各々は2種類の金属素線31a,31bの先端同士を接合して熱接点(温度測定点)31cとした熱電対である。金属素線31a,31bは、その熱接点31c以外の上記樹脂に埋設される部分が、融点が上記樹脂の融点よりも高い高耐熱性樹脂によって絶縁コートされている。
【0046】
複数の温度測定子31は、金属素線31a,31bの熱接点31cに近い部分が上下に微小間隔をあけた状態にまとめられて電気絶縁材よりなるブロック34に保持されている。すなわち、複数の温度測定子31各々の熱接点31cに近い部分を上下に微小間隔をあけた状態に集積させ、その部分が包み込まれた状態になるように、電気絶縁材を固めて直方体状のブロック34としている。電気絶縁材としては耐熱セメントを好ましく用いることができる。ブロック34の上面は平滑である。ブロック34は、その平滑な上面が水平になるように支持部材35によってポット6に支持されている。
【0047】
複数の温度測定子31各々の金属素線31a,31bは、ブロック34よりポット6の樹脂貯留部12の中央側に突出した部分が平面視でV字状になるように、突出端同士が接合されて熱接点31cとされている。複数の温度測定子31各々の熱接点31cは、樹脂貯留部12の中央においてパンチ嵌入方向に微小間隔をあけて並んでいる。
【0048】
本実施形態では、3つの温度測定子31各々の熱接点(温度測定点)31cは、ブロック34の上面から0.5mm離れた位置、1.5mm離れた位置、並びに2.5mm離れた位置に配置されている。
【0049】
なお、複数の温度測定子31各々の金属素線31a,31bにおけるブロック34よりポット6の樹脂貯留部12の内周面側に突出した部分は、ポット6の外部まで水平に延びている。
【0050】
支持部材35は、電気絶縁性を有する高耐熱繊維よりなり、ブロック34の上端の隅に固定されて水平に設けられており、可撓性を有する。ポット6を構成する円筒体9は、上下に合わされた上側円筒部9aと下側円筒部9bよりなる。支持部材35は、ポット6の樹脂貯留部12の中央部を跨いでポット6の一方から他方にわたるように、その両側部が上側円筒部9aと下側円筒部9bの間に挟み込まれてポット6に固定されている。
【0051】
溶融樹脂11が冷却に伴って収縮してくると、ブロック34の位置が下がってくる。この樹脂の収縮にブロック34(つまりは温度測定子31)を随従させるために、支持部材35については所定の荷重が加わると破断するようにする。例えば、支持部材35としては、繊維径が4μm~13μmであり破断歪みが5.5%以下である複数本の繊維を合わせてなる太さ(tex番手)が1.7g/1000m~2500g/1000mの繊維束を好適に用いることができる。
【0052】
<演算装置4について>
樹脂側温度センサ13によって測定される樹脂11の温度、並びにパンチ側温度センサ22によって測定されるパンチ21の温度は、電気信号に変換されて温度データとして演算装置4に入力される。演算装置4はこの温度データを演算処理することにより熱伝達係数hを求める。
【0053】
具体的には、樹脂側温度センサ13によって測定される界面からの離隔距離が異なる複数点の温度データから、フィッティングによって樹脂11の界面付近のパンチ嵌入方向の温度分布が求められる。パンチ側温度センサ22によって測定される界面からの離隔距離が異なる複数点の温度データから、フィッティングによってパンチ21のパンチ嵌入方向の温度分布が求められる。この樹脂11及びパンチ21各々の温度分布から当該界面における樹脂11側の温度Trとパンチ21側の温度Tmが求められる。
【0054】
樹脂11とパンチ21の界面を通過する熱流束をqとすると、熱伝達係数hは、「h=q/(Tr-Tm)」で与えられる。演算装置4は樹脂11側の温度Trとパンチ21側の温度Tmと既知の熱流束qに基いて熱伝達係数hを算出する。
【0055】
熱流束qは、パンチ21の表面からパンチ嵌入方向に長さL離れた位置の温度をTeとし、パンチ21の熱伝導率aとすると、q=a×(Tm-Te)/Lで与えられる。よって、上記フィッティングで得られるTmと上記Te、熱伝導率a及び長さLから熱流束qを求める。なお、予め測定し電子的に格納して保存した熱流束qを熱伝達係数hの算出に用いるようにしてもよい。
【0056】
<熱伝達係数の計測方法>
熱伝達係数計測装置1を用いた樹脂と金属の間の熱伝達係数の計測方法を説明する。
【0057】
<準備工程>
加圧試験機の加圧ロッドにパンチ装置3を取り付け、パンチ21の下方にポット装置2を設置する。計測対象樹脂11をポット6の樹脂貯留部12に入れてポット6の上端開口を蓋7で塞ぐ。窒素供給管19からポット6内に窒素ガスを供給する。その状態で、基台8に埋設した棒状ヒータ15及び円筒体9に巻き付けたハンドヒータ17によって樹脂11を加熱溶融して所定温度(例えば200℃)にする。樹脂11の量は、これを加熱溶融して所定温度にしたときに、樹脂側温度センサ13のブロック34の上面が樹脂11の上面付近に位置付けられた状態になるようにする。好ましくは、ブロック34の上面が溶融樹脂11に浸らないように、さらには樹脂11の上面がブロック34の上面と面一になるようにする。
【0058】
<ポットの溶融樹脂にパンチを嵌入して押し当てる工程>
ヒータ15,17による樹脂11の加熱を停止して(加熱時でも可)ポット6から蓋7を外す。加圧試験機を作動させて、パンチ21をポット6に嵌入しパンチ21の先端面を溶融樹脂11に押し当てる。パンチ21をポット6に嵌入していったとき、パンチ21の嵌入部21aに嵌められた断熱材26及び弾性シール27各々の外周面とポット6の内周面の間のクリアランスから、ポット6内の気体(窒素ガス)が外部に抜けていく。
【0059】
図3(A)に示すようにパンチ21の先端面がポット6の溶融樹脂11に接触して押し付けられると、
図3(B)に示すように、断熱材26が溶融樹脂11に支えられて動かない状態でパンチ21が溶融樹脂11に若干押し込まれる。これにより、パンチ21の押圧部29から弾性シール27に圧力が加わって弾性シール27が断熱材26の上端面に押し付けられる。その結果、弾性シール27が押し潰される形に弾性変形してその内周側及び外周側がパンチ21の嵌入部21aの外周面とポット6の内周面に強く押し当てられる。
【0060】
よって、断熱材26によってポット6からパンチ21への熱移動が防止されるとともに、パンチ21の嵌入部21aの外周面とポット6の内周面の間から溶融樹脂11が漏れることが弾性シール27によって確実に阻止される。
【0061】
また、パンチ21を溶融樹脂11の上面に押し当てたときに、パンチ21がブロック34に当接しても、パンチ21からの圧力は温度測定子31には直接には伝わらないから、複数の温度測定子31の温度測定点31cの間隔が変化することが避けられる。
【0062】
ブロック34の上面が溶融樹脂11の上面より上方へ若干突出した状態になっていても、パンチ21がブロック34に当たると、支持部材35が撓むことによってブロック34はその上面が溶融樹脂11の上面と面一になるまでパンチ21に追随して押し下げられることになる。従って、複数の温度測定子31の温度測定点31cの間隔が変化することはなく、また、ブロック34の上面が溶融樹脂11の上面と面一になることにより、各温度測定点31cの界面からの離隔距離が所期の離隔距離となる。
【0063】
<樹脂及びパンチの温度を測定する工程>
パンチ21が樹脂11に押し当てられた状態になったら、パンチ21の位置を固定し、樹脂側温度センサ13及びパンチ側温度センサ22によって樹脂11及びパンチ21の温度を測定する。樹脂側温度センサ13は複数の温度測定子31を備えてなるから、界面からの離隔距離が相異なる複数点の樹脂温度が樹脂側温度センサ13によって測定されることになる。パンチ側温度センサ22は複数の温度測定子23を備えてなるから、界面からの離隔距離が相異なる複数点のパンチ温度がパンチ側温度センサ22によって測定されることになる。
【0064】
樹脂11が冷却して収縮していくときは支持部材35が破断することによってブロック34が樹脂11の収縮に随従していくため、ブロック34の上面が樹脂11の上面と略面一になった状態が保たれる。従って、樹脂11の収縮によって樹脂11とパンチ21の間に隙間を生じても、樹脂11の略狙い通りの各位置の温度を測定することができる。
【0065】
<測定温度から熱伝達係数を求める工程>
樹脂側温度センサ13及びパンチ側温度センサ22によって測定された樹脂11及びパンチ21各々の複数点の温度から樹脂11とパンチ21の間の熱伝達係数を演算装置4によって求める。
【0066】
具体的には、界面からの離隔距離が異なる複数点の樹脂側の温度データから、フィッティングによって樹脂11の界面付近のパンチ嵌入方向の温度分布が求められる。界面からの離隔距離が異なる複数点のパンチ側の温度データから、フィッティングによってパンチ21のパンチ嵌入方向の温度分布が求められる。この樹脂11及びパンチ21各々の温度分布から当該界面における樹脂11側の温度Trとパンチ21側の温度Tmが求められる。この界面の温度差(Tr-Tm)と予め電子的に格納して保存された熱流束qに基いて熱伝達係数h=q/(Tr-Tm)が算出される。
【0067】
樹脂11は、その上面に押し当てられたパンチ21に熱を奪われることにより、溶融状態から冷却固化していく。すなわち、液相から固相への相変化を起こす。本実施形態では、パンチ21が樹脂11に押し当てられた時点から樹脂11及びパンチ21の温度の測定を開始し、界面の温度差(Tr-Tm)の経時変化から樹脂11が液相から固相に変化するときの熱伝達係数の変化を求める。
【0068】
樹脂11の収縮によって樹脂11とパンチ21の間に隙間を生じたときは、その隙間(空気層)を挟んだ樹脂11からパンチ21への熱移動の熱伝達係数が計測されることになる。
【0069】
<断熱材と弾性シールの組み合わせによる効果>
上記実施形態と、パンチ21の嵌入部21の上端にOリング溝を設けてこの溝に上記弾性シール(Oリング)27を嵌めた比較例(断熱材なし)とについて、パンチ21を樹脂11に押し当てたときのパンチ側温度センサ22の温度測定子23によって測定されるパンチ側温度の経時変化を調べた。その結果を
図6に示す。
【0070】
実施形態(断熱材と弾性シールの組合わせ)は比較例(断熱材なし)に比べて、温度測定子23によって測定される温度が低くなっており、断熱材26がポット6からパンチ21への熱移動の抑制に効果的に働いていることがわかる。また、比較例(断熱材なし)では界面からの距離2mmの測定点と距離4mm及び距離6mmの各測定点の温度差が大きい。これは、ポット6とパンチ21の間の隙間に樹脂が侵入し、さらには樹脂漏れを生じて、ポット6からパンチ21への不均等な熱移動を生じているためと認められる。これに対して、実施形態(断熱材と弾性シールの組合わせ)では、各測定点間の温度差が小さい。このことから、ポット6とパンチ21の間への樹脂の侵入や樹脂漏れが断熱材26と弾性シールによって防止されていること、従って、ポット6からパンチ21への不均等な熱移動が防止されていることがわかる。
【0071】
<樹脂側温度センサの効果>
上記実施形態と、3つの温度測定子(熱電対)31をブロック34に保持してポット6の樹脂貯留部12の中央に側方から延ばして配置した比較例(支持部材なし)とについて、パンチ21を溶融樹脂11に押し当てその樹脂11が冷却固化したときに各温度測定子31の温度測定点31cがどのような位置になっているかを調べた。
【0072】
実施形態(支持部材あり)も比較(支持部材なし)も、3つの温度測定子31は、各温度測定点31cがブロック34の上面から0.5mm離れた位置、1.5mm離れた位置、並びに2.5mm離れた位置になるようにブロック34に保持した。そして、ブロック34をその上面が溶融樹脂11の上面と面一になるように位置付けた状態で、パンチ21をポット6に嵌入して溶融樹脂11に押し当てた。界面からの離隔距離が0.5mm、1.5mm及び2.5mmの各位置の温度測定することを狙いとするものである。
【0073】
比較例(支持部材なし)では、界面からの離隔距離0.5mm位置の温度測定を狙いとする温度測定点31cは、パンチ21の押当て樹脂11の冷却固化により、樹脂11の上面から3.238mm離隔した位置に沈み込んでいた。界面からの離隔距離1.5mm、2.5mmの各位置の温度測定を狙いとする温度測定点31cも0.5mm位置の温度測定を狙いとする温度測定点31cと同様に深く沈み込んでいた。
【0074】
一方、実施形態(支持部材あり)では、界面からの離隔距離が0.5mm、1.5mm及び2.5mmの各位置の温度測定を狙いとする各温度測定点31cは、パンチ21の押当て樹脂11の冷却固化後の樹脂11の上面からの離隔距離がそれぞれ0.502mm、1.557mm、2.360mmであった。
【0075】
この結果から、実施形態の場合、3つの温度測定点31cの間隔は樹脂11の冷却固化(収縮)の影響で多少変化するものの、パンチ21が樹脂11に押し当てられたときは支持部材35によってブロック34の上面が樹脂11の上面と略面一になった状態が保たれ、樹脂11が冷却して収縮していくときは支持部材35が破断することによってブロック34の上面が樹脂11の上面と略面一になった状態が保たれ、略狙い通りの位置の樹脂温度を測定できることが明らかになった。
【0076】
なお、上記実施形態は樹脂が熱可塑性であるケースであるが、本発明が熱硬化性樹脂にも適用できることはもちろんである。
【0077】
(実施形態2)
以下、本開示に係る他の実施形態について詳述する。なお、これらの実施形態の説明において、実施形態1と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0078】
上記実施形態1では、
図4及び
図5に示すように、複数の温度測定子31各々の金属素線31a,31bにおけるブロック34よりポット6の樹脂貯留部12の内周面側に突出した部分は、ポット6の外部まで水平に延びている構成であった。また、支持部材35は、1本であり、ブロック34の上端の隅に固定されて水平に設けられている構成であった。
【0079】
しかしながら、金属素線31a,31bの形状や、支持部材35の配置及び本数等は上記構成に限られない。
【0080】
例えば、
図8及び
図9に示すように、支持部材35を2本以上(
図9では2本)設けてもよいし、支持部材35をブロック34の下端の隅に固定してもよい。
【0081】
また、複数の温度測定子31各々の金属素線31a,31bにおけるブロック34よりポット6の樹脂貯留部12の内周面側に突出した部分は、水平に延びる代わりに、湾曲した形状、好ましくは下方に湾曲した湾曲部31dを有する形状であってもよい。なお、湾曲部31dは、支持部材34よりも下側に突出するように湾曲していることがより好ましい。
【0082】
パンチ21の嵌入により、樹脂11とパンチ21との界面及びその近傍における樹脂11は、冷却されて固化される。上記実施形態1の構成では、例えば約8MPa以下の低圧力下における計測では、樹脂11の上記界面及びその近傍の温度を確実に測定することができ、よって、信頼性が高い熱伝達係数を得ることができる。
【0083】
しかしながら、例えば約8MPaを超える、好ましくは10MPa以上の高圧力下における計測では、パンチ21の嵌入により、固化した樹脂11中に埋め込まれた金属素線31a,31bのせん断や損傷が生じ、計測の信頼性を確保し難くなるおそれがある。
【0084】
図8及び
図9に示す構成では、金属素線31a,31bは湾曲部31dを有する。当該湾曲部31dの大部分は、支持部材35よりも下方に配置されている。パンチ21の嵌入により、支持部材35は上述のごとく破断されるが、湾曲部31dの周辺の樹脂11は、パンチ21の下面から十分離れた位置に配置されており、パンチ21が嵌入しても、依然として溶融状態にある。従って、例えば高圧力下の計測等において、パンチ21の嵌入によりブロック34が大きく下方に変位しても、湾曲部31dのしなりにより、金属素線31a,31bのせん断や損傷を抑制できる。そうして、計測の信頼性を確保できる。
【0085】
なお、
図8及び
図9に示す構成では、湾曲部31dは、屈曲形状を有しているが、当該構成に限られず、例えば滑らかな曲線状等であってもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 熱伝達係数計測装置
2 ポット装置
3 パンチ装置
4 演算装置
6 ポット
11 樹脂
12 樹脂貯留部
13 樹脂側温度センサ
15,17 温度調節装置を構成するヒータ
16,18 温度調節装置を構成するセンサ
21 パンチ
21a 嵌入部
21b 基部
22 パンチ側温度センサ
23 温度測定子
23a 温度測定点
31 温度測定子
31a,31b 金属素線
31c 熱接点(温度測定点)
34 ブロック
35 支持部材