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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153726
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】分離対象金属の分離方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 15/00 20060101AFI20231011BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20231011BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20231011BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20231011BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20231011BHJP
   C22B 47/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B01D15/00 N
B01J20/26 E
C09K3/00 108A
C22B3/44
C22B23/00 102
C22B47/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140003
(22)【出願日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2022063081
(32)【優先日】2022-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】永井 大介
(72)【発明者】
【氏名】本同 宏成
(72)【発明者】
【氏名】安間 有希
(72)【発明者】
【氏名】久野 匡慶
(72)【発明者】
【氏名】川端 功輝
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
4K001
【Fターム(参考)】
4D017AA01
4D017BA13
4D017CA13
4D017DA01
4D017DB03
4D017DB10
4G066AB05B
4G066AB07B
4G066AB09B
4G066AB15B
4G066AB24B
4G066AC11B
4G066AC14B
4G066AC17B
4G066AC35B
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA46
4G066DA07
4K001AA07
4K001AA16
4K001AA19
4K001CA49
4K001DB22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】対象金属を効果的に分離する方法やそれに用いられる金属配位ポリマーなどを提供する。
【解決手段】分離対象金属の酸化物をコアとした金属配位体を用いた分離対象金属の分離方法であって,金属配位体を,分離対象金属を含む溶液中に分散させ,溶液中の分離対象金属を分離対象金属の酸化物として分離する工程を含む,分離対象金属の分離方法;及び金属酸化物と,金属酸化物を担持する配位子ポリマーとを有する金属配位ポリマーであって,金属酸化物が,コバルト,ニッケル及びマンガンのいずれか1種又は2種以上の酸化物であり,配位子ポリマーが,(1)置換基を有してもよいジビニルベンゼンと,(2)アクリル酸又はメタクリル酸との共重合体である,金属配位ポリマー。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離対象金属の酸化物をコアとした金属配位体を用いた分離対象金属の分離方法であって,
前記金属配位体を,分離対象金属を含む溶液中に分散させ,前記溶液中の分離対象金属を分離対象金属の酸化物として分離する工程を含む,
分離対象金属の分離方法。
【請求項2】
請求項1に記載の分離対象金属の分離方法であって,
前記金属配位体が,分離対象金属の酸化物をコアとし,酸素原子,窒素原子,硫黄原子,及びリン原子のいずれか1種以上を含む配位可能基を持つ金属配位体である,
分離対象金属の分離方法。
【請求項3】
請求項2に記載の分離対象金属の分離方法であって,
前記配位可能基を有する配位子と,分離対象金属の金属塩を用いて,前記金属配位体を得る工程をさらに含む,
分離対象金属の分離方法。
【請求項4】
請求項1に記載の分離対象金属の分離方法であって,
前記金属配位体が,分離対象金属の酸化物をコアとし,カルボキシ基を配位基として有する金属配位ポリマーである,分離対象金属の分離方法。
【請求項5】
請求項4に記載の分離対象金属の分離方法であって,
カルボキシ基を有する配位子ポリマーと,分離対象金属の硫酸塩を用いて,前記金属配位ポリマーを得る工程をさらに含む,
分離対象金属の分離方法。
【請求項6】
請求項5に記載の分離対象金属の分離方法であって,
前記カルボキシ基を有する配位子ポリマーが,
(1)置換基を有してもよいジビニルベンゼンと,(2)アクリル酸又はメタクリル酸との共重合体であり,数平均分子量が1,500以上1,000,000以下である,分離対象金属の分離方法。
【請求項7】
請求項3又は6に記載の分離対象金属の分離方法であって,
前記分離対象金属が,コバルト,ニッケル及びマンガンのいずれか1種又は2種以上を含む,分離対象金属の分離方法。
【請求項8】
金属酸化物と,前記金属酸化物を担持する配位子ポリマーとを有する金属配位ポリマーであって,
前記金属酸化物が,コバルト,ニッケル及びマンガンのいずれか1種又は2種以上の酸化物であり,
前記配位子ポリマーが,
(1)置換基を有してもよいジビニルベンゼンと,(2)アクリル酸又はメタクリル酸との共重合体である,
金属配位ポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,対象金属を分離(回収)するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第6960070号公報には,リチウムイオン電池の電池滓を硫酸に分散させてスラリーを得て,スラリーに亜硫酸塩を添加し,マンガンと有価金属とを分離する金属の回収方法が記載されている。この特許文献に記載されるように,対象金属を分離し,回収することが望まれる。
【0003】
特開2019-137876号公報には,金属配位ポリマー上での種核成長法を利用し,金属混合溶液から対象金属を分離する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6960070号公報
【特許文献2】特開2019-137876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この明細書は,例えば,対象金属を効果的に分離する方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は,基本的には,分離対象金属Xを含む溶液に,分離対象金属の酸化物XOをコアとした金属配位体を分散させることで,溶液に含まれる分離対象金属Xを,分離対象金属の酸化物XOとしてコアに凝集等させることができるという実施例による知見に基づく。
またこの発明は,担体に分離対象金属Xの強酸塩(例えば硫酸塩)を担持させ,強塩基とともに加熱することで,分離対象金属の酸化物XOをコアとした金属配位体を得ることができるという実施例による知見に基づく。
【発明の効果】
【0007】
この明細書によれば,対象金属を効果的に分離する方法などを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は,CoO核生成後のポリマーのXPSスペクトルを示す図面に代わるグラフである。図1(a)は, ワイドスキャンスペクトルであり,図1(b)は,ナロースキャンスペクトルである。縦軸は強度であり,横軸は電子束縛エネルギー(eV)である。
図2図2は,金属配位ポリマーとCoO核を持つポリマーのIRスペクトルを示す図面に代わるグラフである。縦軸は強度であり,横軸は波数(cm-1)である。
図3図3は,CoO核を持つポリマーを用いたCo,Ni及びMnの吸着率を示す図面に代わるグラフである。縦軸は吸着率である。
図4図4は,NiO核を持つポリマーを用いたCo,Ni及びMnの吸着率を示す図面に代わるグラフである。縦軸は吸着率である。
図5図5は,MnO核を持つポリマーを用いたCo,Ni及びMnの吸着率を示す図面に代わるグラフである。縦軸は吸着率である。
図6図6は,実施例1において得られた核生成後のポリマーのXPSスペクトルを示す図面に代わるグラフである。縦軸は強度を示し,横軸は電子束縛エネルギーを示す。図6(a)は,ワイドスキャン(wide-scan)スペクトルを示す。図6(b)は,ナロウスキャン(narrow-scan)スペクトルを示す。
図7図7は,実施例3において得られた核生成後のポリマーのXPSスペクトルを示す図面に代わるグラフである。縦軸は強度を示し,横軸は電子束縛エネルギーを示す。図7(a)は,ワイドスキャン(wide-scan)スペクトルを示す。図7(b)は,ナロウスキャン(narrow-scan)スペクトルを示す。
図8図8は,実施例4において得られた核生成後のポリマーのXPSスペクトルを示す図面に代わるグラフである。縦軸は強度を示し,横軸は電子束縛エネルギーを示す。図8(a)は,ワイドスキャン(wide-scan)スペクトルを示す。図8(b)は,ナロウスキャン(narrow-scan)スペクトルを示す。
図9図9は,金属配位ポリマー上でCoO,NiO,およびMnOの核生成及び核成長の様子を示す図面に代わるTEM画像である。図9(a),図9(c)及び図9(e)は,それぞれ金属配位ポリマー上でCoO,NiO,およびMnOの核生成の様子を示す。図9(b),図9(d)及び図9(f)は,それぞれ金属配位ポリマー上でCoO,NiO,およびMnOの核成長の様子を示す。
図10図10は,金属配位ポリマーと核生成後のポリマーのIRスペクトルを示す図面に代わるグラフである。横軸は波数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下,本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0010】
分離対象金属の分離方法
最初の発明は,分離対象金属の分離方法に関する。
この分離対象金属の分離方法は,分離対象金属の酸化物をコアとした金属配位体を用いた分離対象金属の分離方法である。そして,この方法は,金属配位体を,分離対象金属を含む溶液中に分散させ,溶液中の分離対象金属を分離対象金属の酸化物として分離する工程を含む。分離対象金属の酸化物として分離した後は,適宜,酸化物を還元して,分離対象金属を回収してもよい。
【0011】
分離対象金属X
分離対象金属は,塩や酸化物を形成しうる金属であれば特に限定されない。
分離対象金属の例は,レアメタル,貴金属,及びベースメタルである。
レアメタルの例は,リチウム,ベリリウム,希土類元素(レアアース),チタン,バナジウム,クロム,マンガン,コバルト,ニッケル,ガリウム,ゲルマニウム,セレン,ルビジウム,ストロンチウム,ジルコニウム,ニオブ,モリブデン,パラジウム,インジウム,アンチモン,テルル,セシウム,ハフニウム,タンタル,タングステン,レニウム,タリウム,及びビスマスである。貴金属の例は,金,銀,及び白金である。ベースメタルの例は,鉄,銅,アルミニウム及び鉛である。
【0012】
分離対象金属として好ましい例は,レアメタル,及び貴金属である。レアメタルのリサイクル技術は確立されていないものが多い。一方,この発明の技術を用いると効果的にレアメタルを分離できる。よって,分離対象金属として特に好ましいものはレアメタルである。分離対象金属の例は,コバルト(Co),ニッケル(Ni)及びマンガン(Mn)のいずれか1種又は2種以上である。例えば,特開2019-137876号公報(特許文献2)に記載の方法は,Pt(0)を核とするポリマーを用いて,白金族混合溶液から白金を結晶成長させることで白金を分離する。この方法をCo/Ni/Mnの分離に応用することを考えた場合,白金族の標準還元電位が+0.8V~+1.2Vであるのに対し,Co,Ni及びMnの標準還元電位は,それぞれ-0.3V,-0.3V及び-1.1Vと低い。このためこれらの金属は還元されにくく,特許文献2に記載された方法を用いて,これらの金属を分離することは困難である。一方,この明細書に記載された発明は,実施例により示された通り,コバルト,ニッケル及びマンガンを効果的に分離できる。Co,Ni及びMnは化学的性質が類似している。このためCo,Ni及びMnの2種以上を含む溶液から効果的にいずれかを分離する技術が確立されていない。この明細書に記載された方法は,後述する実施例により示された通り,Co,Ni及びMnの2種以上を含む溶液から効果的にいずれかを分離することができるので,極めて優れた分離方法であるといえる。
【0013】
分離対象金属の酸化物XO
分離対象金属の酸化物は,金属(の陽イオン)と酸素との化合物である。この明細書では便宜上,分離対象金属の酸化物をXOのように表記する。一方,実際のXとOとのモル比は,Xイオンの価数により変動する。
【0014】
金属配位体
金属配位体は,分離対象金属の酸化物XOをコアとした化合物又は組成物である。XOがコア(核)であるとは,金属配位体において,XOが組成物の一要素ではなく,XO部分が存在していることを意味する。そして,このコアに,分離対象金属を含む溶液中の分離対象金属が凝集することとなる。分離対象金属の酸化物XOをコアとした化合物又は組成物は,コア(XO)と担体とを含む。担体は,コアを支えるための要素である。
【0015】
金属配位体の好ましい例は,分離対象金属の酸化物XOをコアとし,酸素原子,窒素原子,硫黄原子,及びリン原子のいずれか1種以上を含む配位可能基を持つ金属配位体である。この例では,担体が配位可能基を持ち,配位可能基によりXOが結合されている。結合様式の例は,配位結合である。配位可能基の例は,カルボキシ基である。もっとも,金属配位体は,コアであるXOと,複数の配位座とを有するキレート錯体であってもよい。
【0016】
金属配位体の好ましい例は,分離対象金属の酸化物XOをコアとし,担体がポリマーである金属配位ポリマーである。金属配位ポリマーの好ましい例は,分離対象金属の酸化物XOをコアとし,カルボキシ基を配位基として有するものである。担体の例は,(1)置換基を有してもよいジビニルベンゼンと,(2)アクリル酸又はメタクリル酸との共重合体である。(1)と(2)の重合割合は,用途に応じて適宜調整すればよい。
置換基を有してもよいジビニルベンゼンの例は,ジビニルベンゼン,及び1~4つの置換基を有するジビニルベンゼンである。ジビニルベンゼンのビニル基は,オルト位,メタ位及びパラ位のいずれであってもよいし,これらが混合したものであってもよい。
ジビニルベンゼンの置換基の例は, ハロゲン原子,シアノ基,水酸基,アミノ基,ニトロ基,C1-6アルキル基,C1-6アルコキシ基,C2-6アルケニル基,C2-6アルキニル基,C3-6シクロアルキル基,である。 ハロゲン原子の例は,フッ素原子,塩素原子,臭素原子,及びヨウ素原子である。
1-6アルキル基の例は,メチル基,エチル基,n-プロピル基,イソプロピル基,n-ブチル基,イソブチル基,sec-ブチル基,tert-ブチル基,n-ペンチル基,イソペンチル基,ネオペンチル基,tert-ペンチル基,1-メチルブチル基,2-メチルブチル基,1,2-ジメチルプロピル基,1-エチルプロピル基,n-ヘキシル基,イソヘキシル基,1-メチルペンチル基,2-メチルペンチル基,3-メチルペンチル基,1,1-ジメチルブチル基,1,2-ジメチルブチル基,2,2-ジメチルブチル基,1-エチルブチル基,1,1,2-トリメチルプロピル基,1,2,2-トリメチルプロピル基,1-エチル-2-メチルプロピル基,及び1-エチル-1-メチルプロピル基である。
1-6アルコキシ基の例は,上記したC1-6アルキル基の末端に-O-で示される基が接続した基である。具体的な例は,メトキシ基,エトキシ基,及びプロピルオキシ基である。
2-6アルケニル基の例は,ビニル基,アリル基,3-ブテニル基,及び4-ペンテニル基である。
2-6アルキニル基の例は,エチニル基,1-プロピニル基,プロパルギル基,及び3-ブチニル基である。
3-6シクロアルキル基の例はシクロプロピル基,シクロブチル基,シクロペンチル基及びシクロヘキシル基である。
【0017】
上記の共重合体は,公知の架橋剤を含んだものであってもよい。架橋剤は1つ又は2つ以上のエチレン系二重結合を有するものが好ましい。架橋剤の例は,アクリレート誘導体,ジアクリレート誘導体,トリアクリレート誘導体,アクリルアミド誘導体,及びビスアクリルアミド誘導体である。これらの中ではジアクリレート誘導体,及びビスアクリルアミド誘導体が好ましい。アクリレート系誘導体の例は,1,4-ブタンジオールジアクリレート,1,3-ブチレングリコールジアクリレート,エチレングリコールジアクリレート,ペンタエリスリトールテトラアクリレート,トリエチレングリコールジアクリレート,ポリエチレングリコールジアクリレート,ジペンタエリスリトールジアクリレート,ソルビトールトリアクリレート,ビスフェノールAジアクリレート誘導体,ウレタン結合を含むジアクリレート誘導体,トリメチルプロパントリアクリレート,及びジペンタエリスリトールポリアクリレートである。
アクリルアミド系誘導体の例は,N,N’-メチレンビスアクリルアミド,N,N’-トリメチレンビス(ビニルスルホニルアセトアミド),エチレングリコールジメタクリラート,ジエチレングリコールジメタクリラート,トリエチレングリコールジメタクリラート,ジメタクリル酸テトラエチレングリコール,ポリエチレングリコールジメタクリレート,メチレンビスアクリルアミド,及びN,N’-(1,2-ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミドである。これらの中では,架橋剤として,N,N’-メチレンビスアクリルアミドを好ましく用いることができる。
架橋剤は,1種のみを用いてもよいし,2種類以上を混合して用いてもよい。
架橋剤を用いた場合,金属配位ポリマーの構造式内に架橋剤に由来する分子部分が存在してもよい。
【0018】
担体としてのポリマーの数平均分子量(Mn)の例は,1,500以上1,000,000以下である。ポリマーの数平均分子量は,ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって得られたポリスチレン換算分子量(g/mol)である。数平均分子量(Mn)は,3000以上50万以下でもよいし,5000以上20万以下でもよいし,1万以上20万以下でもよい。
担体が,(1)置換基を有してもよいジビニルベンゼンと,(2)アクリル酸又はメタクリル酸との共重合体である場合,担体に存在するカルボキシ基にXOが配位して,コアを形成すると考えられる。そして,XO部位が,溶液中のXイオンをXOとして凝集させる核として機能すると考えられる。
【0019】
金属配位体の具体的な例は,酸化コバルト,酸化ニッケル又は酸化マンガン(二酸化マンガン)をコアとし,(1)置換基を有してもよいジビニルベンゼンと,(2)アクリル酸又はメタクリル酸との共重合体を担体とするものである。
【0020】
分離対象金属を含む溶液
分離対象金属Xを含む溶液は,分離対象金属Xが陽イオンとして溶解している溶液である。分離対象金属Xが陽イオンとして溶解させる方法は公知である。公知の方法を用いて,分離対象金属Xを含む溶液を得ることができる。例えば,分離対象金属Xを含む対象を粉砕し,強酸又は強アルカリを含む液に混合して加熱下で攪拌することで,分離対象金属Xが陽イオンとして溶解している溶液を得ることができる。
【0021】
金属配位体の製造方法
以下,ポリマーが担体である金属配位体を例として,金属配位体の製造方法を説明する。以下の例では,担体ポリマー(配位子ポリマー)を得る工程と,担体ポリマーに分離対象金属Xの硫酸塩と塩基を用いて,金属配位体を得る工程とを含む。担体ポリマーは,カルボキシ基を有するものが好ましい。
【0022】
担体ポリマーを,例えば,以下のスキームを用いて得ることができる。
【化1】
【0023】
上記スキームにおいて,Rは,水素又はメチル基であり,Rは,ジビニルベンゼンの置換基であり,mは0~4である。mが2以上の場合,Rは同一でも異なってもよく,ジビニルベンゼンの置換基である。
アクリル酸(メタクリル酸)とジビニルベンゼン誘導体とを有機溶媒に溶解し,ラジカル反応の開始剤を混合して,適宜脱気をしつつ,攪拌し,ラジカル共重合反応を進行させ,架橋体を得る。ジビニルベンゼン誘導体とアクリル酸(メタクリル酸)とのモル比は,2:1~1:20であり,1:1~1:10でもよく,1:2~1:5でもよい。上記のスキームにおいて,公知の架橋剤を混合してもよい。架橋剤の混合割合は,得ようとする共重合体の物性や構造式に合わせて適宜調整すればよい。反応系には,重合開始剤(例えばラジカル重合開始剤)を適宜含んでもよいし,公知の触媒を適宜用いてもよい。
【0024】
有機溶媒の例は,ヘキサン,シクロヘキサン,アセトン,酢酸エチル,酢酸イソブチル,2-ブタノン,テトラヒドロフラン,ジメチルスルホキシド,メタノール,ドデカン,トルエン,及びヘキサンである。これらの中で好ましい有機溶剤はトルエン及びジメチルスルホキシドである。
ラジカル反応の開始剤の例は,2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル),2,2’-アゾビスイソブチロニトリル,1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル),2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル,及びアゾビスイソブチロニトリルであり,これらの中では2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)が好ましい。
【0025】
反応は,不活性ガスの存在下又は真空中で行うことが好ましい。不活性ガスの例は,希ガス(例えばアルゴン)及び窒素である。
反応温度の例は50℃以上90℃以下であり,60℃以上80℃以下でもよいし,65℃以上75℃以下でもよい。反応時間の例は,1時間以上1週間以下であり,10時間以上2日以下でもよい。攪拌速度は適宜調整すればよい。
【0026】
上記のスキームにより得られた架橋体をアルコール(例えばエタノール)でソックスレー抽出後,真空乾燥することにより,担体ポリマーを得ることができる。この担体ポリマーは,カルボキシ基を有する配位子ポリマーである。
【0027】
金属配位体を得る工程
金属配位体を得る工程の例は,担体ポリマー,分離対象金属Xの硫酸塩及び塩基を用いて,金属配位体を得る工程である。この工程により,担体ポリマー上にXOのコア(核)を形成できる。コアは,分離作業において,XOが凝集等するコアとなる部位である。分離対象金属Xの硫酸塩XSOは,溶媒和物(例えば水和物)であってもよい。分離対象金属Xの硫酸塩を便宜上XSOとも表記するものの,Xの価数によって,XとSOとの組成比は変化する。溶媒に,担体ポリマーを分散させ,分離対象金属の硫酸塩XSO及びアルカリを加熱下に還流し,冷却することで,金属配位体を得ることができる。反応系に界面活性剤を添加することが好ましい。この際,担体ポリマー上に分離対象金属の硫酸塩XSOがトラップされ,分離対象金属の硫酸塩XSOがXOに置き換わると考えられる。
【0028】
溶媒は,公知の溶媒を適宜利用することができる。
溶媒の例は,エステル系有機溶媒,脂肪族ケトン,エーテル系有機溶媒,アミド系有機溶媒,炭化水素系有機溶媒,アルコール性有機溶媒,ジオール系有機溶媒,ニトリル系溶媒,及びハロゲン系溶媒である。溶媒は,いずれか1種を用いてもよいし,2種以上を混合して用いてもよい。
エステル系有機溶媒の例は,酢酸メチル,酢酸エチル,及び酢酸ブチルである。
脂肪族ケトンの例は,アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,ジアセトンアルコール,シクロペンタノン,及びシクロヘキサノンである。
エーテル系有機溶媒の例は,エチレングリコールジメチルエーテル,ジブチルエーテル,テトラヒドロフラン,メチルシクロペンチルエーテル,及びジオキサンである。
アミド系有機溶媒の例は,N-メチルピロリドン,2-ピロリドン,ジメチルホルムアミド,ジメチルイミダゾリジノン,及びジメチルアセトアミドである。
炭化水素系有機溶媒の例は,トルエン,及びヘキサンである。
アルコール性有機溶媒の例は,メタノール,エタノール,プロパノール,イソプロパノール,ブタノール,t-ブチルアルコール,及びアミルアルコールである。
ジオール系有機溶媒の例は,エチレングリコール,ジエチレングリコール,トリエチレングリコール,プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,及び1,3-プロパンジオールである。
ニトリル系溶媒の例は,アセトニトリルである。
ハロゲン系溶媒の例は,ジクロロメタン,及びトリクロロエチレンである。
これらの中では,ジオール系有機溶媒が好ましい。
【0029】
塩基の例は,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化カルシウム,アンモニア水,炭酸ナトリウム,及び炭酸水素ナトリウムである。塩基の好ましい例は,水酸化ナトリウムである。この反応において,適宜界面活性剤を加えてもよい。界面活性剤の例は,オレイン酸,ステアリン酸,オレイン酸ナトリウム,ステアリン酸ナトリウム,ステアリン酸マグネシウム,及び安息香酸ナトリウムであり,好ましい界面活性剤は,オレイン酸ナトリウムである。各組成比は適宜調整すればよい。
反応は,不活性ガスの存在下に行うことが好ましい。不活性ガスの例は,希ガス(例えばアルゴン)及び窒素である。
反応温度の例は100℃以上400℃以下であり,150℃以上300℃以下でもよいし,150℃以上250℃以下でもよい。反応時間の例は,0.5時間以上1日以下であり,1時間以上4時間以下でもよい。
金属配位体を洗浄した後に,真空乾燥することで,精製後の金属配位体を得ることができる。
【0030】
分離対象金属を分離する工程
分離対象金属を分離する工程は,金属配位体を,分離対象金属を含む溶液中に分散させ,溶液中の分離対象金属を分離対象金属の酸化物XOとして分離するための工程である。分離対象金属を含む溶液は,分離対象金属がイオン化できる環境であればよい。分離対象金属を含む溶液における溶媒は,特に限定されない。溶媒の例は,金属配位体を得る工程における溶媒と同様のものを適宜用いることができる。分離対象金属を溶解させる方法は,公知である。このため,公知の方法を用いて,分離対象金属を含むものから,分離対象金属を溶解させればよい。溶解対象となる分離対象金属を含むものは,分離対象金属を含めばよい。溶解対象となる分離対象金属を含むものの例は,リサイクル対象となる携帯電話,基板,回路,電子部品,及びアクセサリである。溶液は,pH調整剤を用いて,適宜酸性度を調整してもよいし,溶媒の量を調整してもよい。分離対象金属を分離する工程は,基本的には,金属配位体を得る工程と同様の処理を行えばよく,この工程により,金属配位体におけるコアのXOに溶液中のXイオンがXOとして凝集等した凝集体を得ることができる。このようにして,分離対象金属を含む溶液から分離対象金属を分離することができる。なお,この工程では,金属配位体におけるXOを核(コア)として,結晶成長することにより,溶液中の分離対象金属が溶液から分離されるものが好ましい。
【0031】
分離対象金属を回収する工程
分離対象金属の酸化物XOとして分離した後は,適宜,酸化物を還元して,分離対象金属Xを回収してもよい。また,分離対象金属の酸化物XOを強酸と反応させることにより回収してもよい。強酸の例は,硫酸,硝酸及び塩酸である。回収後の分離対象金属は,純粋な金属であってもよいし,分離対象金属の塩(例えば,硫酸塩,硝酸塩及び塩酸塩)であってもよい。分離対象金属の用途に応じて,適切な回収方法を採用すればよい。分離対象金属の酸化物XOから分離対象金属Xを回収する方法は,公知である。このため公知の方法を用いて,分離対象金属の酸化物XOから分離対象金属Xを回収すればよい。分離対象金属を回収する例は,強酸の存在下に,凝集体を溶解し,担体を除去すればよい。強酸の例は,硝酸,過塩素酸,硫酸,塩酸及びフッ化水素酸の混合液である。
【0032】
この発明の応用例
例えば,複数種類の分離対象金属の酸化物XO(XO,XO,XO,・・・XO,)を用意し,分離対象金属を含む溶液中において,それらを物理的に分離して,それぞれの分離対象金属の酸化物を得てもよいし,さらに分離対象金属を回収してもよい。物理的に分離するためには,公知の方法を適宜採用すればよい。例えば,溶液を通すものの,金属配位ポリマーを通さない袋やかごに,それぞれの分離対象金属の酸化物を収容し,分離対象金属を含む溶液中において,分離対象金属を分離する工程を行えばよい。例えば,3つの袋に,それぞれCoO,MnO及びNiOをコアとする金属配位ポリマーを封入する。そして,それぞれの袋内で,CoO,MnO及びNiOを結晶成長させる。このようにして,CoO,MnO及びNiOを同時に分離することができる。結晶成長の後に,3つの袋を取り除くことで,CoO,MnO及びNiOを分離できる。後述した実施例により示される通り,この発明を用いることで,CoO,MnO及びNiOを分離できることが示された。そうすると,CoO,MnO及びNiOをコアとする金属配位ポリマーを用いることで,同時にCoO,MnO及びNiOを分離できると考えられる。
【実施例0033】
金属配位ポリマーの合成
50mL二口ナスフラスコを窒素置換した後,ジビニルベンゼン(0.72g, 4.5mmol),2,2‘-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN, 0.074g, 0.45mmol),ジメチルスルホキシド(DMSO, 22.5mL),トルエン(7.5mL),アクリル酸(2.06mL, 15mmol)を加えた。その後,凍結脱気を行い70Cで24時間撹拌した。得られた架橋体をエタノールでソックスレー抽出後,真空乾燥することにより,金属配位ポリマーを得た(80%, 1.44g)。
【化2】
【0034】
金属配位ポリマー上でのCoOの核生成
Coの分離実験に先立ち,金属配位ポリマー上にCoOの核生成を行った。アルゴン雰囲気下でエチレングリコール(20mL)に金属配位ポリマー(0.6g),CoSO・7HO(1.12g,4mmol),水酸化ナトリウム(0.16g, 4 mmol),及びオレイン酸ナトリウム(1.21g,4mol)を加え,200 Cで2時間加熱還流した。放冷した後,得られたポリマーを蒸留水で洗浄後,真空乾燥しCoO核を持つポリマーを得た(ポリマー1gあたりCoOが73.9mg担持)。
【0035】
CoO核生成後のポリマーのXPSスペクトル
核生成後のポリマーのXPSスペクトルを測定したところ,wide-scanスペクトルからCo2p3/2とO1sに帰属されるピークが確認され(図1a),narrow-scanスペクトルからCo(II)のピークが確認された(図1b)。このことから,ポリマー上でCoO核の生成が確認された。なお,narrow scan スペクトルが文献のCoOのスペクトルと類似していたことからもCoO核の生成が支持された。
【0036】
金属配位ポリマーとCoO核生成後のポリマーのIRスペクトル
金属配位ポリマーとCoO核生成後のポリマーのIRスペクトルを測定した(図2)。金属配位ポリマーのIRスペクトルで1694cm-1付近に観測されたカルボニル基由来の吸収ピークが,CoO核生成後のポリマーのIRスペクトルでは高波数側(1717cm-1付近)にシフトし,1550cm-1付近に新しい吸収ピークが観測されたことから,金属配位ポリマーのカルボキシ基がCoOに配位していることが確認された。
【実施例0037】
CoO核を持つポリマーによるCo/Ni/Mn混合溶液からのCo分離
アルゴン雰囲気下でエチレングリコール(12mL)にCoO核を持つポリマー(0.8 g),CoSO・7HO(33.7mg,0.12mmol),NiSO・6HO(31.5mg,0.12mmol),MnSO・5HO(30mg,0.12 mmol),水酸化ナトリウム(31.2mg, 0.8mmol),オレイン酸ナトリウム(0.24mg,0.8mmol)を加え200 Cで2時間加熱還流した。放冷した後,得られたポリマーを蒸留水で洗浄後,ポリマーを得た。
得られたポリマー(0.05g)をテフロン(登録商標)ビーカーに入れ,硝酸(1.5mL),フッ化水素酸(1.5mL)を加え,時計皿で蓋をしてホットプレート上で30分間加熱した。続いて過塩素酸(1.5mL)を加え,時計皿で蓋をしてホットプレート上で30分間加熱した。その後,時計皿を外して,そのまま加熱を続け,蒸発乾固させてシロップ状態となったら,ビーカーをホットプレートから外し放冷した。続いて,テフロン(登録商標)ビーカーに1 mol/L硝酸水溶液(5mL)を加え,2分間ホットプレート上で加熱することにより,乾固試料を溶解させた。この溶液を遠沈管に移し遠心分離機(3000rpm,40分間)にかけ,得られた上澄み液を10 mLメスフラスコに入れ,0.1mol/L硝酸水溶液を足して全量で10 mLとした。この溶液を50倍希釈し,原子吸光光度計(HITACHI Z-2310)でCo,Mn,Niの濃度を測定して吸着率(吸着率=(初期濃度-原子吸光光度計で求めた濃度)÷ 初期濃度×100)を決定したところ,Coを選択的かつ高吸着率(100%)で回収できることが明らかとなった(図3)。
【実施例0038】
金属配位ポリマー上でのNiOの核生成
Niの分離実験に先立ち金属配位ポリマー上にNiOの核生成を行った。アルゴン雰囲気下でエチレングリコール(20mL)に金属配位ポリマー(0.6g),NiSO・6HO(1.05g,4mmol),水酸化ナトリウム(0.16g, 4mmol),オレイン酸ナトリウム(1.21g,4mmol)を加え200Cで2時間加熱還流した。放冷した後,得られたポリマーを蒸留水で洗浄後,真空乾燥しNiO核を持つポリマーを得た(ポリマー1gあたりNiOが92.83mg担持)。
【0039】
NiO核を持つポリマーによるCo/Ni/Mn混合溶液からのNi分離
アルゴン雰囲気下でエチレングリコール(12mL)にNiO核を持つポリマー(0.8g),CoSO・7HO(33.7mg,0.12mmol),NiSO・6HO(31.5mg,0.12 mmol),MnSO・5HO(30mg,0.12mmol),水酸化ナトリウム(31.2mg,0.80mmol),オレイン酸ナトリウム(0.24g,0.80mmol)を加え200Cで2時間加熱還流した。放冷した後,得られたポリマーを蒸留水で洗浄後,ポリマーを得た。
得られたポリマー(0.05g)をテフロン(登録商標)ビーカーに入れ,硝酸(1.5 mL),フッ化水素酸(1.5mL)を加え,時計皿で蓋をしてホットプレート上で30分間加熱した。続いて過塩素酸(1.5mL)を加え,時計皿で蓋をしてホットプレート上で30分間加熱した。その後,時計皿を外して,そのまま加熱を続け,蒸発乾固させてシロップ状態となったら,ビーカーをホットプレートから外し放冷した。続いて,テフロン(登録商標)ビーカーに1mol/L硝酸水溶液(5mL)を加え,2分間ホットプレート上で加熱することにより,乾固試料を溶解させた。この溶液を遠沈管に移し遠心分離機(3000rpm,40分間)にかけ,得られた上澄み液を10mLメスフラスコに入れ,0.1mol/L硝酸水溶液を足して全量で10mLとした。この溶液を50倍希釈し,原子吸光光度計でCo,Mn,Niの濃度を測定して吸着率を決定したところ,Niを優先的に吸着できることが明らかとなった(図4)。
【実施例0040】
金属配位ポリマー上でのMnOの核生成
Mnの分離実験に先立ち金属配位ポリマー上にMnOの核生成を行った。アルゴン雰囲気下でエチレングリコール(20mL)に金属配位ポリマー(0.6g),MnSO・6HO(0.96g,4mmol),水酸化ナトリウム(0.16g,4mmol),オレイン酸ナトリウム(1.21g,4mmol)を加え200Cで2時間加熱還流した。放冷した後,得られたポリマーを蒸留水で洗浄後,真空乾燥しMnO核を持つポリマーを得た(ポリマー1gあたりMnOが119.1mg担持)。
【0041】
MnO核を持つポリマーによるCo/Ni/Mn混合溶液からのMn分離
アルゴン雰囲気下でエチレングリコール(12mL)にMnO核を持つポリマー(0.8g),CoSO・7HO(33.7mg,0.12mmol),NiSO・6HO(31.5mg,0.12mmol),MnSO・5HO(30mg,0.12mmol),水酸化ナトリウム(31.2mg,0.80mmol),オレイン酸ナトリウム(0.24 g, 0.80mmol)を加え200Cで2時間加熱還流した。放冷した後,得られたポリマーを蒸留水で洗浄後,ポリマーを得た。
得られたポリマー(0.05g)をテフロン(登録商標)ビーカーに入れ,硝酸(1.5mL),フッ化水素酸(1.5mL)を加え,時計皿で蓋をしてホットプレート上で30分間加熱した。続いて過塩素酸(1.5mL)を加え,時計皿で蓋をしてホットプレート上で30分間加熱した。その後,時計皿を外して,そのまま加熱を続け,蒸発乾固させてシロップ状態となったら,ビーカーをホットプレートから外し放冷した。続いて,テフロン(登録商標)ビーカーに1mol/L硝酸水溶液(5mL)を加え,2分間ホットプレート上で加熱することにより,乾固試料を溶解させた。この溶液を遠沈管に移し,遠心分離機(3000rpm,40分間)にかけ,得られた上澄み液を10mLメスフラスコに入れ,0.1mol/L硝酸水溶液を足して全量で10mLとした。この溶液を50倍希釈し,原子吸光光度計でCo,Mn,Niの濃度を測定して吸着率を決定したところ,Mnを選択的かつ高吸着率(100%)で回収できることが明らかとなった(図5)。
【0042】
[参考例1]
CoO核生成後のポリマーのXPSスペクトル
実施例1において得られた核生成後のポリマーのXPSスペクトルを再度測定した。その結果を図6に示す。図6は,実施例1において得られた核生成後のポリマーのXPSスペクトルを示す図面に代わるグラフである。図6(a)は,ワイドスキャン(wide-scan)スペクトルを示す。図6(b)は,ナロウスキャン(narrow-scan)スペクトルを示す。図6(a)から,Co2p3/2, Co2p1/2及びO1sに由来するピークが確認された。図6(b)からCo2p3/2とCo2p1/2のピークが780.6 eVと797.0 eVに確認された。これらのピーク位置は,CoOのピーク位置に近いことから(https://srdata.nist.gov/xps/EngElmSrchQuery.aspx?EType=PE&CSOpt=Retri_ex_dat&Elm=Co),ポリマー上でCoO核の生成が確認された。さらに、図6(b)のnarrow-scan スペクトルが文献のCoOのスペクトルと類似していたことからもCoO核の生成が支持された (X-ray Photoelectron Spectroscopy (XPS) Reference Pages: Cobalt (xpsfitting.com))。
【0043】
[参考例2]
NiO核生成後のポリマーのXPSスペクトル
実施例3における核生成後のポリマーのXPSスペクトルを再度測定した。その結果を図7に示す。図7は,実施例3において得られた核生成後のポリマーのXPSスペクトルを示す図面に代わるグラフである。図7(a)は,ワイドスキャン(wide-scan)スペクトルを示す。図7(b)は,ナロウスキャン(narrow-scan)スペクトルを示す。図7(a)から,Ni2p3/2, Ni2p1/2及びO1sに帰属されるピークが観測された。図7(b)から,Ni2p3/2のピークが853.3 eV,855.7 eV及び856.9 eVの3つのピークに分離された。これらのピーク位置は,NiOのXPSスペクトルに関する文献(Uhlenbrock, St.; Scharfschwerdt, Chr.; Neumann, M.; Illing, G.; Freund, H.-J. J. Phys.: Condens. Matter 1992, 4, 7973-7978.)とほぼ一致したことから,NiO核の生成が支持された。
【0044】
[参考例3]
MnO核生成後のポリマーのXPSスペクトル
実施例4において得られた核生成後のポリマーのXPSスペクトルを測定した。その結果を図8に示す。図8は,実施例4において得られた核生成後のポリマーのXPSスペクトルを示す図面に代わるグラフである。図8(a)は,ワイドスキャン(wide-scan)スペクトルを示す。図8(b)は,ナロウスキャン(narrow-scan)スペクトルを示す。図8(a)に示されるように,Mn2p3/2, Mn2p1/2及びO1sに由来するピークが観測された。図8(b)には,Mn2p3/2とMn2p1/2のピークが641.5 eVと653.7 eVに観測された。これらのピーク位置は,MnOのXPSスペクトルに関する文献値(Zhang, C.; Wang, J.-G.; Jin, D.; Xie, K.; Wei, B. Electrochim. Acta 2015, 180, 990-997.)とほぼ一致した。さらに,MnOにはサテライトピークが存在し,他のマンガン酸化物(MnOやMn)には存在しないとの報告(https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/materials-science/learning-center/periodic-table.html)があることから,MnO核の生成が支持された。
【実施例0045】
核生成と核成長後の透過型電子顕微鏡(TEM)画像
図9は,金属配位ポリマー上でCoO,NiO,およびMnOの核生成及び核成長の様子を示す図面に代わるTEM画像である。図9(a),図9(c)及び図9(e)は,それぞれ金属配位ポリマー上でCoO,NiO,およびMnOの核生成の様子を示す。図9(b),図9(d)及び図9(f)は,それぞれ金属配位ポリマー上でCoO,NiO,およびMnOの核成長の様子を示す。
【0046】
CoO,NiO,およびMnOを核に持つポリマーを用いた核成長は下記に記述した内容により行った。
CoOを核に持つポリマ-(0.6g)をアルゴン雰囲気下でエチレングリコール(20mL)にCoSO・7HO(1.05g, 4mmol),水酸化ナトリウム(0.16g, 4mmol),オレイン酸ナトリウム(1.21g, 4mmol)を加え200 Cで2時間加熱還流することにより,核成長を行った。反応容器を放冷した後,得られたポリマーを蒸留水で洗浄後,真空乾燥し核成長したポリマーを得た。
NiOを核に持つポリマ-(0.6 g)をアルゴン雰囲気下でエチレングリコール(20mL)にNiSO・6HO(1.05g, 4mmol),水酸化ナトリウム(0.16g, 4mmol),オレイン酸ナトリウム(1.21g, 4mmol)を加え200Cで2時間加熱還流することにより,核成長を行った。反応容器を放冷した後,得られたポリマーを蒸留水で洗浄後,真空乾燥し核成長したポリマーを得た。
MnOを核に持つポリマ-(0.6g)をアルゴン雰囲気下でエチレングリコール(20 mL)にMnSO・5HO(1.05g, 4mmol),水酸化ナトリウム(0.16g, 4mmol),オレイン酸ナトリウム(1.21g, 4mmol)を加え200Cで2時間加熱還流することにより,核成長を行った。反応容器を放冷した後,得られたポリマーを蒸留水で洗浄後,真空乾燥し核成長したポリマーを得た。
【0047】
CoO,NiO,およびMnOの核成長を行った後のTEM画像(図9(b),図9(d)及び図9(f))と,核成長を行う前のTEM画像(図9(a),図9(c)及び図9(e))とを比べると,核を持つポリマーに比べ,核成長後には結晶が大きくなっていることから,金属配位ポリマー上の核(コア)から,目的の金属酸化物が結晶成長していることが証明された。
【0048】
金属配位ポリマーとCoO,NiO,MnOの核生成後のポリマーのIRスペクトル
金属配位ポリマーと核生成後のポリマーのIRスペクトルを測定した(図10)。図10は,金属配位ポリマーと核生成後のポリマーのIRスペクトルを示す図面に代わるグラフである。金属配位ポリマーのIRスペクトルで1694cm-1に観測されたカルボニル基由来の吸収ピークが,核生成後のポリマーのIRスペクトルでは高波数側にシフトし,1550 cm-1付近に新しい吸収ピークが観測されたことから,金属配位ポリマーのカルボキシ基が金属酸化物(CoO, MnO, NiO)に配位していることが確認された。
【0049】
考察
実施例は,金属酸化物を配位した金属配位ポリマーを用い,金属硫酸塩を原料として金属酸化物を生成させる工程を含む,金属の分離方法に関する。
従来,還元剤を用いて,金属を分離する方法が知られていた。この方法を用いて分離できる金属は,標準還元電位が高く(+0.8~+1.5 V),還元されやすい金属のみであった。つまり,従来の方法で回収するのに適した金属は,白金族元素,銅,銀,金及び水銀の10種類程度であった。
一方,実施例により示された方法は,分離したい金属の金属硫酸塩を経て,金属酸化物として分離する。この方法では,硫酸塩及び酸化物を形成することができる金属であれば,分離回収できることとなる。
この実施例では,金属酸化物の担体としてポリマーを用いた。このポリマーはその物性から数平均分子量(M)が1,500以上1,000,000以下であったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
この発明は,分離対象金属を分離できるので,リサイクル産業や金属加工産業において利用されうる。
図1
図2
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図10