IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 高砂工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-真空炉 図1
  • 特開-真空炉 図2
  • 特開-真空炉 図3
  • 特開-真空炉 図4
  • 特開-真空炉 図5
  • 特開-真空炉 図6
  • 特開-真空炉 図7
  • 特開-真空炉 図8
  • 特開-真空炉 図9
  • 特開-真空炉 図10
  • 特開-真空炉 図11
  • 特開-真空炉 図12
  • 特開-真空炉 図13
  • 特開-真空炉 図14
  • 特開-真空炉 図15
  • 特開-真空炉 図16
  • 特開-真空炉 図17
  • 特開-真空炉 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153727
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】真空炉
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/773 20060101AFI20231011BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20231011BHJP
   C21D 1/64 20060101ALI20231011BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C21D1/773 D
C21D1/18 J
C21D1/18 T
C21D1/18 U
C21D1/64
C21D1/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149527
(22)【出願日】2022-09-20
(62)【分割の表示】P 2022063050の分割
【原出願日】2022-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】390008431
【氏名又は名称】高砂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】善平 卓司
(72)【発明者】
【氏名】加賀 真城
(72)【発明者】
【氏名】細川 寛人
(72)【発明者】
【氏名】平本 昇
【テーマコード(参考)】
4K034
【Fターム(参考)】
4K034AA19
4K034BA10
4K034CA05
4K034CA06
4K034DA02
4K034DA06
4K034DA08
4K034DB02
4K034DB03
4K034DB04
4K034FA06
4K034FB12
4K034GA02
4K034GA08
(57)【要約】
【課題】冷却油の溶存ガス量を増加して熱処理が可能な真空炉の提供。
【解決手段】真空炉は、ワークを加熱する加熱室と、溶存する空気を予め減少した冷却油を貯留する油槽を有し、前記加熱室で加熱された前記ワークを前記冷却油に浸漬して冷却する焼入れ室と、前記ワークが前記加熱室に収容されている間に、前記冷却油に溶解させる不活性ガスを前記冷却油に供給する供給手段と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを加熱する加熱室と、
溶存する空気を予め減少した冷却油を貯留する油槽を有し、前記加熱室で加熱された前記ワークを前記冷却油に浸漬して冷却する焼入れ室と、
前記ワークが前記加熱室に収容されている間に、前記冷却油に溶解させる不活性ガスを前記冷却油に供給する供給手段と、を備える、
ことを特徴とする真空炉。
【請求項2】
請求項1に記載の真空炉であって、
前記供給手段は、前記焼入れ室において前記ワークを前記冷却油に浸漬している間は、前記冷却油に前記不活性ガスを供給しない、
ことを特徴とする真空炉。
【請求項3】
請求項1に記載の真空炉であって、
前記供給手段による前記不活性ガスの供給条件をユーザが設定可能な設定手段を備える、
ことを特徴とする真空炉。
【請求項4】
請求項1に記載の真空炉であって、
前記焼入れ室は、前記供給手段により前記冷却油に不活性ガスを供給する前に、不活性ガスの供給により増圧される、
ことを特徴とする真空炉。
【請求項5】
請求項4に記載の真空炉であって、
前記増圧後の前記焼入れ室の気圧は、大気圧よりも低い、
ことを特徴とする真空炉。
【請求項6】
請求項1に記載の真空炉であって、
前記焼入れ室の前記冷却油の液面よりも上方の空間に不活性ガスが供給され、
前記供給手段は、前記空間の前記不活性ガスを取り入れて、前記冷却油に前記不活性ガスを供給する、
ことを特徴とする真空炉。
【請求項7】
請求項6に記載の真空炉であって、
前記供給手段は、前記焼入れ室に内蔵される、
ことを特徴とする真空炉。
【請求項8】
請求項1に記載の真空炉であって、
前記供給手段は、前記不活性ガスを噴射する噴射部を備え、
前記噴射部には、該噴射部から噴射される前記不活性ガスの気泡を微細化する微細化手段が設けられている、
ことを特徴とする真空炉。
【請求項9】
請求項1に記載の真空炉であって、
前記ワークは、炉外から前記焼入れ室を経由して前記加熱室に搬入される、
ことを特徴とする真空炉。
【請求項10】
請求項1に記載の真空炉であって、
前記焼入れ室を減圧する減圧手段を備え、
前記ワークに対する熱処理の準備処理として、前記減圧手段の減圧によって、前記冷却油に溶存する空気を予め減少させる、
ことを特徴とする真空炉。
【請求項11】
請求項1に記載の真空炉であって、
前記供給手段は、前記油槽内に不活性ガスを供給する、
ことを特徴とする真空炉。
【請求項12】
請求項1に記載の真空炉であって、
前記供給手段は、
前記油槽から排出される前記冷却油を前記油槽に戻す循環部を備え、かつ、
前記循環部を循環する前記冷却油に不活性ガスを供給する、
ことを特徴とする真空炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空炉に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部品などのワークの熱処理においては、ワーク表面に酸化膜が形成されると品質に影響する。そこで酸化膜の形成を抑制する技術が知られている。特許文献1には、真空炉がコストアップとなる点を指摘し、大気雰囲気化で熱処理を行うに際し、冷却油中の酸素を減少させる技術が提案されている。しかし、特許文献1の技術では、大気雰囲気化で熱処理を行うため、酸化膜の抑制には不十分であると考えられる。一般に、酸化膜を抑制するためには減圧下で熱処理を行う真空炉が有利である。特許文献2には減圧下で熱処理を行う装置が開示されており、ワークを冷却油に浸漬して冷却する間、ワークに気体を噴射するものが開示されている。特許文献3にも減圧下で熱処理を行う装置が開示されており、焼入れの際の蒸気膜段階で冷却油を焼入れ室に注入し、沸騰段階で焼入れ室を減圧する手法(ハイパスカル法と呼ぶ場合がある)が開示されている。
【0003】
一方、真空炉においては、冷却油に新油を用いる場合には新油が収容された焼き入れ室を一定期間減圧し(例えば一晩)、新油中に溶存する空気が十分に減少される。その目的の一つはワーク表面に酸化膜が形成されることを抑制する点にある。その後、新油は繰り返しワークの冷却に用いられるが、真空炉においては焼入れ室がワークの搬入出のために大気と連通する場合には減圧されるため、冷却油に溶存する空気は比較的低い状態が維持される。
【0004】
しかし、冷却油に溶存するガス量が低いと冷却性能が低下する場合がある。非特許文献1には溶存ガス量が低いと冷却性能が低下することが指摘されており、冷却油の攪拌を行って溶存ガス量を増加させると冷却性能が回復することを、ビーカを用いた実験で確認したことが説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3151681号公報
【特許文献2】国際公開第2018/123246号パンフレット
【特許文献3】特許第6533146号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】市谷克実、減圧下での熱処理油の挙動、「工業加熱」、日本、社団法人日本工業炉協会、平成18年11月15日、第43巻、第6号、20~26頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1は、冷却油の攪拌による溶存ガス量の増加には時間を要することから、真空炉において冷却油の減圧や撹拌が繰り返し行われたとしても、溶存ガス量の変動による冷却性能の変動には影響が小さく、冷却油の性能の平準化の点では問題にはならないと結論付けている。しかし、真空炉の開発の観点から言えば、冷却油の性能を高めることで熱処理性能の改善の余地がある。
【0008】
本発明の目的は、冷却油の溶存ガス量を増加して熱処理が可能な真空炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、
ワークを加熱する加熱室と、
溶存する空気を予め減少した冷却油を貯留する油槽を有し、前記加熱室で加熱された前記ワークを前記冷却油に浸漬して冷却する焼入れ室と、
前記ワークが前記加熱室に収容されている間に、前記冷却油に溶解させる不活性ガスを前記冷却油に供給する供給手段と、を備える、
ことを特徴とする真空炉が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、冷却油の溶存ガス量を増加して熱処理が可能な真空炉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る真空炉の説明図。
図2図1の真空炉の焼入れ室の説明図。
図3】(A)及び(B)は制御ユニットの処理例を示すフローチャート、(C)は図1の真空炉の動作説明図。
図4】制御ユニットの処理例を示すフローチャート。
図5】(A)~(F)は図1の真空炉の動作説明図。
図6】(A)~(D)は図1の真空炉の動作説明図。
図7】加熱処理中の加熱室及び焼入れ室の状態を示すタイミングチャート。
図8】不活性ガスの供給タイミングの例を示す説明図。
図9】制御ユニットの別の処理例を示すフローチャート。
図10】加熱処理中の加熱室及び焼入れ室の別の状態を示すタイミングチャート。
図11】(A)~(C)は供給ユニットの別の例を示す説明図。
図12】(A)及び(B)は供給ユニットの別の例を示す説明図。
図13】加熱処理中の加熱室及び焼入れ室の別の状態を示すタイミングチャート。
図14】本発明の別の実施形態に係る真空炉の説明図。
図15図14の真空炉の動作説明図。
図16】本発明の別の実施形態に係る真空炉の説明図。
図17】(A)は試験体の説明図、(B)は試験内容の説明図。
図18】(A)~(C)は実験結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
<第一実施形態>
<真空炉の構成>
図1は本発明の一実施形態に係る真空炉1の説明図、図2は真空炉1の焼入れ室3の説明図であり、図1は真空炉1の側面視での構造、図2は真空炉1の正面視での構造をそれぞれ示す。
【0014】
真空炉1は、連続的に配置された加熱室2と焼入れ室3とを備え、ワークWに対して熱処理を行う設備である。ワークWは、例えば、バスケットに収納された複数の機械部品である。加熱室2はハウジング20で区画されており、その内部には断熱材で形成された断熱容器21が設けられている。断熱容器21は気密に維持される一方、焼入れ室3の側にドア21aを有しており、ドア21aの開放時に断熱容器21内へのワークWの搬入と、断熱容器21から外部へのワークWの搬出が可能である。ドア21aは不図示のアクチュエータにより移動される。
【0015】
断熱容器21内の底部にはワークWを搬送する搬送ユニット22が設けられている。搬送ユニット22は、炉床を形成すると共にワークWを断熱容器21の内外に移動するユニットであり、本実施形態ではローラコンベアである。しかし、搬送ユニット22はローラコンベアに限られず、チェーンコンベアや、フォーク型搬送ロボットであってもよい。
【0016】
断熱容器21内には、また、複数のヒータ23が設けられている。ヒータ23により断熱容器21内を加熱し、搬送ユニット22上に停止されているワークWの加熱処理を行うことができる。加熱室2には循環ファン24が設けられている。循環ファン24の羽根は断熱容器21内に配置されており、断熱容器21内のガスを循環することができる。
【0017】
加熱室2には、浸炭ガス供給ユニット7が設けられている。浸炭ガス供給ユニット7は、ガス貯留部70及び制御弁V5を備える。ガス貯留部70には浸炭用の圧縮ガス(例えばアセチレンガス)が貯留され、制御弁V5を開くと断熱容器21内に浸炭ガスを供給できる。
【0018】
焼入れ室3はハウジング30で区画されており、その正面側の壁部にはワークWの搬入出口となる開口部31aが形成され、焼入れ室3と加熱室2との間の隔壁にはワークWを焼入れ室3と加熱室2との間で搬送するための開口部31bが形成されている。開口部31aはドア34で開閉され、開口部31bはドア35で開閉される。ドア34、35は不図示のアクチュエータの駆動により移動する。
【0019】
焼入れ室3は、上側の搬送室31と下側の油槽32とを備える。油槽32には冷却油が貯留される。搬送室31には搬送ユニット33が設けられている。搬送ユニット33は、本実施形態ではローラコンベアである。しかし、搬送ユニット33はローラコンベアに限られず、チェーンコンベアであってもよい。
【0020】
搬送ユニット33は昇降ユニット36により昇降される。昇降ユニット36は、アクチュエータ36aと、アクチュエータ36aと搬送ユニット33とを接続する吊り具36bとを備え、図1の搬送ユニット33及び図2の破線で示す搬送位置と、図2において実線で示す浸漬位置との間で搬送ユニット33を昇降する。吊り具36bは例えばチェーンであり、アクチュエータ36aは吊り具の送り出し、引き込みを行う流体シリンダである。搬送ユニット33上のワークWは、搬送ユニット33が浸漬位置に降下することで、冷却油中に浸漬される。昇降ユニット36は、浸漬位置の付近で小さい距離で連続的に搬送ユニット33(つまりワークW)を昇降することも可能である。油槽32にはヒータ37が設けられており、ヒータ37の発熱により冷却油32aの温度調整が可能である。
【0021】
油槽32には複数の循環ユニット39が設けられている。循環ユニット39は、油槽32の外部に設けられたモータ等の駆動源39aと、油槽32内に設けられた羽根39bとを備え、冷却油32aを攪拌する攪拌ユニットである。油槽32内には、L字又はJ字型の複数の循環通路38が通路壁38wにより形成されている。循環通路38は入口38aと出口38bとを有する筒状の通路である。入口38aは油槽32の上部に位置し、出口38bは油槽32の下部で、特に、浸漬位置の搬送ユニット33の下方に位置している。
【0022】
羽根39bは、循環通路38内に配置され、その回転により図2において矢印で示すように入口38aから出口38bへ向かう循環流を生じさせる。出口38bから出ていく冷却油がワークW周辺の冷却油を流動させ、ワークWの冷却性能を向上する。
【0023】
真空炉1は、減圧ユニット5及び不活性ガス供給ユニット6を備えている。減圧ユニット5は、真空ポンプ50と、制御弁V1及びV2とを有する。真空ポンプ50を稼働させ、制御弁V1を開くことで焼入れ室3の減圧を行うことができ、例えば、焼入れ室3の真空引きを行える。また、制御弁V2を開くことで断熱容器21内の減圧を行うことができ、例えば、断熱容器21の真空引きを行える。真空ポンプ50は加熱室2と焼入れ室3とで共用される。しかし、各室に個別に真空ポンプを備えた構成であってもよい。
【0024】
不活性ガス供給ユニット6は、ガス供給源60と、制御弁V3、V4及びV6とを備え、窒素などの不活性ガスを供給するユニットである。ガス供給源60は、例えば、不活性ガスの圧縮ガスを貯留するタンクである。制御弁V3を開くとガス供給源60から焼入れ室3の搬送室31に不活性ガスが供給され、焼入れ室3の復圧等を行える。制御弁V4を開くとガス供給源60から加熱室2の断熱容器21に不活性ガスが供給され、断熱容器21の復圧等を行える。
【0025】
冷却油32aは、冷却油32aに溶解している酸素量を減少させるために事前に溶存空気が減圧により減少され、溶存ガス量が低下している。その結果、冷却油32aの冷却性能が低下する。制御弁V6を開くと、冷却油32aに不活性ガスが供給される。不活性ガスを冷却油32aに供給し、溶解させることで冷却油32aの溶存ガス量を増加させ、冷却油32aの性能を向上する。なお、本実施形態ではガス供給源60を、搬送室31、油槽32及び断熱容器21で共用している。しかし、各室に個別にガス供給源を備えた構成であってもよい。
【0026】
制御弁V6から油槽32内への配管の先端には噴射部61が設けられている。不活性ガスは噴射部61から冷却油32a中に噴射される。不活性ガスを冷却油中32aに噴射することで、その溶解効率を向上できる。噴射部61には、噴射部61から噴射される不活性ガスの気泡を微細化する微細化部62が設けられている。微細化部62は例えば多孔質材料で構成される。微細化部62はマイクロバブルやナノバブルを発生する機構であってもよい。不活性ガスの気泡が微細化されることで、冷却油32aに対する溶解効率を向上できる。
【0027】
冷却油32aに対する不活性ガスの供給位置は、任意の場所が選択できるが、本実施形態の場合、循環通路38内としている。循環通路38内に不活性ガスを噴射することで、冷却油32aの循環流と不活性ガスが混ざり合い、不活性ガスの溶解効率を向上できる。しかも、循環流は入口38aから出口38bに向かう下降流であり、冷却油32aの液面(油面)から遠ざかる流れである。この流れに不活性ガスを噴射することで、不活性ガスが早期に油面から冷却油32a外へ逃げてしまうことを抑制できる。更に本実施形態では、循環通路38内で、循環流の流れ方向で羽根39bに対して上流側の部位に不活性ガスを噴射している。噴射後に不活性ガスが羽根39bによって冷却油32aと混合され、不活性ガスの冷却油32aに対する溶解効率を向上できる。循環ユニット39は常時作動してもよいし、ワークWの焼入れの間と、冷却油32aに対する不活性ガスの供給の間のみ作動してもよい。
【0028】
制御ユニット9は真空炉1を自動制御する。制御ユニット9は、処理部と記憶部と入出力インタフェースとを含む。処理部はCPUに代表されるプロセッサであり、記憶部に記憶されたプログラムを実行する。記憶部は、ROM、RAM、ハードディスク等の記憶デバイスであり、処理部が実行するプログラムの他、制御に必要な情報を記憶する。入出力インタフェースは処理部と外部デバイスとの間で信号の送受信を行う。
【0029】
入出力インタフェースには、各室の圧力や温度を計測するセンサ、ワークWの搬送位置を検知するセンサ等の群90の検知結果が入力され、処理部は入力された検知結果に基づいて真空炉1のモータや、制御弁等の流体デバイス等の各アクチュエータに制御信号を出力し、その駆動を行う。制御ユニット9には操作パネル91が接続されている。操作パネル91は例えばタッチパネルである。ユーザは操作パネル91を用いて真空炉1の各種の設定や動作の指示が可能である。
【0030】
<制御例>
制御ユニット9の処理部が実行する制御処理例について説明する。なお、特に断らない場合、各制御弁や各ドアは閉鎖されている。
【0031】
<設定>
図3(A)はユーザによる動作設定を受け付ける処理の例を示すフローチャートである。S1では操作パネル91に設定画面を表示する。設定画面は例えばメニュー形式で各種の設定項目が表示される。ユーザは所望の設定項目を呼び出し、設定内容を入力することができる。ユーザが設定可能な動作設定としては、例えば、噴射部61から冷却油32aに不活性ガスを供給する条件を挙げることができる。この供給条件としては、不活性ガスを供給するタイミング、或いは、供給時間、若しくは供給態様(連続、間欠)等を挙げることができる。
【0032】
S2では設定項目に関する操作パネル91に対するユーザの入力を受け付ける。S3ではS2で入力された設定内容を記憶部に保存する。以上により処理が終了する。保存した設定内容にて真空炉1の動作が実行されることになる。
【0033】
<新油の真空引き>
冷却油32aが新油の場合、溶存酸素量が多い。このため、ワークWに対する熱処理の準備処理として、減圧ユニット5による減圧によって冷却油に溶存する空気を予め減少させる。図3(B)は制御ユニット9の処理部が実行する処理例を示し、ユーザの指示により実行される。図3(C)は真空炉1の動作説明図である。
【0034】
S11ではユーザによる開始指示を受け付ける。新油が油槽32に収容された状態で処理が開始される。S12では真空ポンプ50を作動し、制御弁V1を開放して焼入れ室3内の真空引きを行う。図3(C)に模式的に示すように焼入れ室3内のガスが排気される。焼入れ室3内は、例えば、10Pa未満に減圧される。新油中の溶存酸素が脱離して減圧ユニット5によって炉外へ排気される。
【0035】
S13では終了条件が成立したか否かを判定する。終了条件は例えば時間の経過又はユーザの終了時期である。時間の経過の場合、例えば、半日から1日程度であり、これにより十分に溶存空気を冷却油32aから除去することができる。終了条件が成立した場合はS14へ進み、制御弁V1を閉じ、真空ポンプ50を停止して真空引きを終了する。
【0036】
<熱処理の例>
ワークWに対する一連の熱処理の例について説明する。図4は制御ユニット9の処理部が実行する処理例を示し、図5(A)~図6(D)は真空炉1の動作説明図である。S21でワークWが焼入れ室3に搬入される。図5(A)はこのときの真空炉1の動作を示している。焼入れ室3に不活性ガス供給ユニット6により不活性ガスを供給して焼入れ室3を大気圧とした後、ドア34が開放され、ワークWが炉外から焼入れ室3に搬入される。焼入れ室3はこの時、大気に開放される。
【0037】
S22では減圧ユニット5により焼入れ室3の真空引きを行う。図5(B)はこのときの真空炉1の動作を示している。真空ポンプ50を作動し、制御弁V1を開放して焼入れ室3内を減圧する。焼入れ室3内は、例えば、10Pa未満に減圧される。ワークWの搬入時に焼入れ室3に進入した空気が炉外に排気される。このとき、冷却油32aに溶解した空気も脱ガスされ、炉外へ排気され、ワークWの搬入時に大気開放によって冷却油32aに溶存酸素が増加することが抑制される。
【0038】
S23では、焼入れ室3から加熱室2へワークWを搬送する。図5(C)はこのときの真空炉1の動作を示している。ドア35及びドア21aを開放し、搬送ユニット33及び搬送ユニット22を駆動してワークWを加熱室2へ搬送する。
【0039】
次に、加熱室2での処理としてS24では減圧ユニット5により加熱室2の真空引きを行い、S25で加熱処理を行う。焼入れ室3での処理としてS26では不活性ガス供給ユニット6により不活性ガスを搬送室31に供給して焼入れ室3内を増圧する。図5(D)はこのときの真空炉1の動作を示している。
【0040】
真空ポンプ50を作動し、制御弁V2を開放して加熱室2内を減圧する。ワークWが加熱室2に搬送された際に空気も加熱室2に進入している場合があるため、その空気を炉外へ排気する。加熱室2内は、例えば、10Pa未満に減圧されるが、50Pa程度でヒータ23による加熱が開始される。並行して、制御弁V3を開放して搬送室31に不活性ガス供給ユニット6により不活性ガスを供給し焼入れ室3内を増圧する。ここでの増圧は、その後に冷却油32aに不活性ガスを供給する際、不活性ガスの脱ガスを抑制して溶解を促進するためのものである。
【0041】
加熱室2での加熱処理(S25)に並行して、S27では制御弁V3を閉鎖して搬送室31に対する不活性ガスの供給を停止する一方、制御弁V6を開放して冷却油32aに不活性ガスを供給する。図5(E)はこのときの真空炉1の動作を示している。冷却油32aの溶存酸素量が低いまま、溶存ガス量を増加することができる。加熱室2での加熱処理には、浸炭ガス供給ユニット7により制御弁V5を開放して断熱容器21内に浸炭ガスを供給する工程が含まれる。
【0042】
加熱室2での加熱処理(S25)の終了に合わせて、S28では制御弁V6を閉鎖して冷却油32aに対する不活性ガスの供給を終了する。S29では加熱室2と焼入れ室3との気圧を平衡させるため(例えば大気圧よりも少し低い圧力)、制御弁V3、V4を開放して不活性ガス供給ユニット6により搬送室31と断熱容器21に不活性ガスを供給する。図5(F)はこのときの真空炉1の動作を示しており、搬送室31と断熱容器21にそれぞれ不活性ガスが供給されている。冷却油32aに対する不活性ガスの供給は終了している。
【0043】
S30ではワークWを加熱室2から焼入れ室3へ搬送する。図6(A)はこのときの真空炉1の動作を示している。ドア21a及びドア35を開放し、搬送ユニット22及び搬送ユニット33を駆動してワークWを焼入れ室2へ搬送する。ワークWの搬送が完了するとドア21a及びドア35を閉鎖し、減圧ユニット5により断熱容器21の真空引きを行う。
【0044】
S31ではワークWの焼入れを行う。図6(B)はこのときの真空炉1の動作を示している。昇降ユニット36によりワークWと共に搬送装置33が浸漬位置に降下される。ワークWは冷却油32aに浸漬され急冷される。
【0045】
焼入れが終わると、昇降ユニット36によりワークWと共に搬送装置33を搬送位置に上昇し、S32でワークWを炉外に搬出する。図6(C)及び図6(D)はこのときの真空炉1の動作を示している。図6(C)に示すように、制御弁V3が開放され、搬送室31に不活性ガス供給ユニット6により不活性ガスを供給して焼入れ室3を大気圧に復圧する。その後、図6(D)に示すようにドア34を開放し、搬送装置33によりワークWが炉外へ搬出される。以上により、ワークWに対する熱処理が終了する。
【0046】
S33では、次の処理対象のワークWがあるか否かを判定し、次のワークWがあればS21へ戻って同様の処理を繰り返す。
【0047】
図7を参照して図4の処理における加熱処理中の真空炉1の状態について説明する。図7は、冷却油32aに対する不活性ガスの供給タイミング(「不活性ガス供給」)、焼入れ室3内の圧力変化(「焼入れ室圧力」)、焼入れ室3内の減圧タイミング(「焼入れ室減圧」)、加熱室2内の圧力変化(「加熱室圧力」)、加熱室2内の減圧タイミング(「加熱室減圧」)を示すタイミングチャートである。図7では、ワークの搬入後、加熱室2での加熱処理が、加熱・均熱→浸炭→拡散→降温→均熱の各工程で進み、ワークが焼入れ室3へ搬出されて、油冷の後、炉外へワークが取り出される手順が想定されている。なお、ここでのワーク搬入とは、焼入れ室3から加熱室2へのワークWの搬送を意味する。
【0048】
「ワーク搬入」では、S22での真空引きで焼入れ室3の気圧が圧力P1(例えば10Pa未満)に減圧される。時間t1でワークWが焼入れ室3から加熱室2へ搬送される。加熱室2へワークWが搬送されると、ドア35及び21aが閉鎖された後、S24で加熱室2が真空引きされる。加熱室2は基本的に常時真空状態(例えば10Pa未満)に減圧されているが、焼入れ室3から加熱室2へのワークWの搬送の際に僅かな空気が加熱室2へ進入している可能性があるため、念のために加熱室2の真空引きを行う(脱ガス)。
【0049】
ドア35及び21aが閉鎖された後、S22での真空引きで圧力P1(例えば10Pa未満)に減圧された焼入れ室3内の気圧は、冷却油32aに対する不活性ガスの溶解を促進するため、S26で圧力P2に増圧される。圧力P2は、例えば、1kPa以上9000kPa以下、好ましくは10kPa以上2000KPa以下、更に好ましくは30kPa~90kPaの範囲内の圧力である。図7の例では圧力P2として大気圧より低い圧力(30kPa程度)が想定されている。
【0050】
加熱室2内の気圧が50Pa以下になると、ヒータ23を駆動してワークWの加熱が開始される。加熱室2内の温度が所定の温度になると、その温度が維持されるようにヒータ23を駆動して均熱を行う。一方、ワークWの加熱開始に並行して、焼入れ室3では冷却油32aに対する不活性ガスが開始される。焼入れ室3の気圧は、圧力P2に増圧されているため、真空引き直後の10Pa未満の状態よりも、冷却油32aに対する不活性ガスの溶解が促進される。
【0051】
冷却油32aに対して不活性ガスを供給している間、冷却油32aに溶解しなかった不活性ガスが搬送室31内の気圧を上昇させる。そこで、減圧ユニット5により焼入れ室3を周期的に減圧して焼入れ室3の気圧を圧力P2に維持する。焼入れ室3内の気圧が上昇すること自体は特に問題がないが、ワークWを加熱室2から焼入れ室3へ搬送する際、加熱室2(特に断熱容器21)と焼入れ室3とを圧力P3(例えば80~90kPa)に復圧して気圧の平衡をとる必要がある。その際に、焼入れ室3内の気圧コントロールを容易にするために、焼入れ室3の気圧を圧力P2に維持する。図7において、「不活性ガス供給」が供給中の時間帯において「焼入れ室圧力」が脈動しているのは、冷却油32aに溶解しなかった不活性ガスが搬送室31内の気圧を上昇させる減少と、減圧ユニット5による焼入れ室3内の減圧とを表現したものである。
【0052】
加熱処理中、断熱容器21内は真空状態(10Pa未満)に維持される。ここで本実施形態では、一つの真空ポンプ50により各室の減圧を行っている。真空ポンプ50の容量が小さい場合、複数の室を同時に減圧することが容量的に困難な場合がある。そこで、「焼入れ室減圧」の減圧タイミングと、「加熱室減圧」の減圧タイミングとは、重複せずに2つの室で交互に減圧が行われる減圧ユニット5が制御されている。
【0053】
浸炭工程においては、浸炭ガス供給ユニット7により浸炭ガスが断熱容器21に供給されており、その気圧が増加する。断熱容器21内の気圧コントロールのため、浸炭工程中は、減圧ユニット5を断熱容器21の減圧にのみ用いる。このため、浸炭工程においては、冷却油32aに対する不活性ガスの供給を一時的に停止している。無論、浸炭工程においても、冷却油32aに対する不活性ガスの供給を行っても構わない。
【0054】
拡散工程を経て降温工程では、一部のヒータ23の駆動を停止して、断熱容器21内の温度を所定の温度まで徐々に低下させる。その後の均熱工程を経て加熱室2での加熱処理が終了する。その後、ワークWを加熱室2から焼入れ室3へ搬出するために、焼入れ室3と加熱室2をそれぞれ圧力P3に復圧する。加熱室2から焼入れ室3へワークWを搬出すると、ワークは冷却油32aに浸漬される(油冷)。その後、ワークは炉外に取り出される。加熱室2は再び減圧ユニット5により真空引きされる。
【0055】
冷却油32aに不活性ガスを溶解させて溶存ガス量を増加することには時間を要する。本実施形態では、ワークが加熱室2に存在する間に、その時間を利用して冷却油32aに対する不活性ガスの供給を行い、溶存ガス量を増加させることができる。本実施形態では冷却油32aに対する不活性ガスの供給は、加熱・均熱、拡散、降温、均熱の間に渡って行われる。これにより供給時間を例えば、60~120分程度確保でき、噴射部61からの不活性ガスの冷却油32aへの直接噴射と相俟って、冷却油32aの溶存ガス量を十分に増加できる。
【0056】
<第二実施形態>
冷却油32aに対する不活性ガスの供給タイミングの他の例について図8を参照して説明する。上記の通り、冷却油32aに不活性ガスを溶解させて溶存ガス量を増加することには時間を要するため、ユーザは加熱処理の時間等に応じて適宜適切な供給タイミングを設定することができる。
【0057】
図8のEX1の例は、加熱処理の前半の時間帯(加熱室2へのワークWの搬入タイミングに近い時間帯。例えば加熱、均熱まで等)に冷却油32aに対して不活性ガスを供給する例を示している。図8のEX2の例は、加熱処理の後半の時間帯(焼入れ室3へのワークWの搬出タイミングに近い時間帯。例えば、拡散、冷却、均熱まで等)に冷却油32aに対して不活性ガスを供給する例を示している。EX1、EX2のいずれのタイミングも採用可能であるが、冷却油32aの溶存ガスが脱ガスする可能性がある点を考慮すると、焼入れに近い時間帯であるEX2の例が有利である。
【0058】
図8のEX3の例は、加熱処理の前半の時間帯と後半の時間帯とに分けて冷却油32aに対する不活性ガスの供給を行う例を示している。第一実施形態と同様の供給タイミングであり、加熱処理の途中で不活性ガスの供給に支障がある場合等に適している。図8のEX4の例は、加熱処理の中間の時間帯に冷却油32aに対する不活性ガスの供給を行う例を示している。加熱処理の前半や後半に不活性ガスの供給に支障がある場合等に適している。
【0059】
EX5の例は、加熱処理の段階から冷却油32aに対する不活性ガスの供給を開始し、ワークWが焼入れ室3に搬送され、冷却油32aに浸漬される直前に供給を終了する例を示している。より長時間の供給時間を確保し易くなる。
【0060】
これまでの例では、ワークWの焼入れ中(ワークWが冷却油32aに浸漬していない時間帯)には冷却油32aに対して不活性ガスを供給していない。これは、焼入れ時に冷却油32aの性質を安定させる利点がある。これに対して、図8の供給タイミングも採用可能である。図示の例では、加熱処理の段階から冷却油32aに対する不活性ガスの供給を開始し、ワークWの焼入れ中(ワークWが冷却油32aに浸漬されている間)も、供給を継続している例を示している。より長時間の供給時間を確保し易くなる。
【0061】
いずれの例においても、ワークWが加熱室2に存在している時間を利用して、冷却油32aに対する不活性ガスの供給を行うことで、冷却油32a中の溶存ガス量を増加するための時間を確保することができる。
【0062】
<第三実施形態>
第一実施形態の図4の例では、ワークW毎(或いはS21で焼入れ室3が大気開放される毎)にS27で冷却油32aに対する不活性ガスの供給を行った。これは、冷却油32a中の溶存ガス量を十分に維持する点で有利である。
【0063】
しかし、複数のワークW毎に冷却油32aに対する不活性ガスの供給を行ってもよい。図9はその例を示すフローチャートである。図4の例と異なる処理についてのみ説明する。この例では、ワークWを3つ処理するごとに、冷却油32aに対する不活性ガスの供給を行う。ワークWの処理数はユーザが設定可能であってもよい。
【0064】
S23で加熱室2へワークWを搬送した後、焼入れ室3の側の処理としてはS41~S43の処理を行う。S41では、ワークWの処理回数を示す変数Nが3か否かを判定する。N=3の場合はS42へ進み、N≠3の場合はS43へ進む。S42では変数Nを0にリセットしてS26へ進む。S43では変数Nを一つ加算して、S26~S28の処理をスルーしてS29へ進む。
【0065】
本実施形態では、冷却油32aに対する不活性ガスの供給を複数のワークW毎に行うため、不必要に不活性ガスが供給されることを防止できる。
【0066】
<第四実施形態>
第一実施形態では、冷却油32aに対する不活性ガスの供給中に、焼入れ室3の気圧を圧力P2(<P3)に維持する例について説明したが、復圧時の圧力P3よりも圧力P2が高くてもよい。圧力P2が高い方が、冷却油32aに対する不活性ガスの溶解が促進される。
【0067】
図10は、図7に代わる本実施形態における加熱処理中の真空炉1の状態を示すタイミングチャートである。図7の例と異なる点について説明する。
【0068】
本実施形態では、図4のS22での真空引きで圧力P1(例えば10Pa未満)に減圧された焼入れ室3内の気圧は、冷却油32aに対する不活性ガスの溶解を促進するため、S26で圧力P2’に増圧される。圧力P2’は、例えば、130kPa程度である。冷却油32aに対して不活性ガスを供給している間、冷却油32aに溶解しなかった不活性ガスが搬送室31内の気圧を上昇させる。そこで、減圧ユニット5により焼入れ室3を周期的に減圧して焼入れ室3の気圧を圧力P2’に維持する。
【0069】
復圧時(図4のS29)には、減圧ユニット5により焼入れ室3内の気圧を圧力P3に減圧し、加熱室2内の気圧と平衡させる。
【0070】
<第五実施形態>
第一実施形態では、不活性ガス供給ユニット6として、搬送室31、断熱容器21及び油槽32でガス供給源60を共用したが、油槽32の冷却油32aに不活性ガスを供給する専用のユニットを設けてもよい。
【0071】
図11(A)はその一例を示す。図示の不活性ガス供給ユニット6Aは、送気ユニット63と、不活性ガスを貯留するタンクTと、逆止弁67a及び67bを含む。送気ユニット63は、シリンダ65と、シリンダ65内のピストン65aを往復させるアクチュエータ64とを含む。アクチュエータ64は、例えば、流体回路又は電動モータを含む。
【0072】
シリンダ65は吸引口65bと吐出口65cとを備え、吸引口65bは逆止弁67aを介してタンクTと連通している。吐出口65cは、逆止弁67bを介して油槽32に連通している。
【0073】
ピストン65aがD1方向に移動すると、シリンダ65内が負圧となって逆止弁67aは開き、タンク66から不活性ガスがシリンダ65内に吸引される。このとき、逆止弁67bは閉じている。ピストン65aがD2方向に移動すると、逆止弁67bが開き、シリンダ65内の不活性ガスが油槽32内の冷却油32aに供給される。ピストン65aをD1方向、D2方向に連続的に往復させることで、油槽32の冷却油32aに不活性ガスを供給できる。これにより冷却油32a中の溶存ガス量を増加できる。
【0074】
図11(B)は別の例を示す。図示の不活性ガス供給ユニット6Bは、図11(A)の不活性ガス供給ユニット6Aと同じ構造であるが、不活性ガスの供給源が異なっている。不活性ガス供給ユニット6Bの吸引口65bは逆止弁67aを介して搬送室31内と連通している。ワークWの搬出入時(図4のS21、S32)を除き、搬送室31内には、不活性ガス供給ユニット6によって不活性ガスが充満している。不活性ガス供給ユニット6Bは、搬送室31内を不活性ガスの供給源として利用するものである。
【0075】
図11(C)は更に別の例を示す。図11(C)の不活性ガス供給ユニット6Cは、焼入れ室3に内蔵されたユニットであり、搬送室31内の不活性ガスを油槽32の冷却油32a中に送出する送気ポンプである。
【0076】
図12(A)は更に別の例を示す。図12(A)の不活性ガス供給ユニット6Dは、エジェクタ68と送液ポンプ69とを備える。エジェクタ68は焼入れ室3内に配置され、送液ポンプ69は焼入れ室3外に配置される。エジェクタ68は直線状の油通路を形成する本体681と、油通路と交差する方向のガス通路部682とを有する。本体681の油通路は入口681aと出口681bとを有する。
【0077】
本体681は冷却油32a中に浸漬されており、ガス通路部682は本体681から冷却油32aの油面上方まで延設され、搬送室31に連通している。
【0078】
本体681は、油通路を囲むように形成された筒状の空間681cを有し、空間681cはガス通路部682と連通している。空間681cと油通路との間には複数のガス通路681dで連通している。
【0079】
送液ポンプ69は、油槽32から冷却油32aを吸い込み、吸い込んだ冷却油32aをエジェクタ68の入口681aに吐出する。吐出された冷却油32aは本体681を通過して出口681bから油槽32内に噴射される。冷却油32aが本体681を通過することにより空間681c及びガス通路681dに負圧を生じて、搬送室31内の不活性ガスがガス通路部682、空間681c及びガス通路681dを通って本体681を通過する冷却油32aに混ざり込む。出口681bからは、不活性ガスが混ざり込んだ冷却油32aが噴射される。こうして冷却油32aに不活性ガスを供給し、冷却油32a中の溶存ガス量を増加することができる。
【0080】
図12(B)は更に別の例を示す。図12(B)の不活性ガス供給ユニット6Eは、図12(A)の不活性ガス供給ユニット6Dと同様の構成であるが、エジェクタ68が焼入れ室3の外部に配置されている。
【0081】
エジェクタ68と送液ポンプ69とは、油槽32から排出される冷却油32aを油槽32に戻す循環部を構成しており、循環経路の途中であるエジェクタ68において不活性ガスが冷却油32aに供給される。不活性ガスが混ざり込んだ冷却油32aは出口681b及び配管69aを介して油槽32に噴射される。配管69aに代えて配管69bから搬送室31に、不活性ガスが混ざり込んだ冷却油32aを噴射してもよい。噴射された冷却油32aは油槽32の冷却油32a上に落下して混ざり合うことになる。
【0082】
<第六実施形態>
図11(B)~図12(B)の各不活性ガス供給ユニット6B~6Eは、不活性ガスの供給源が搬送室31であるため、不活性ガスを冷却油32aに供給しても、焼入れ室3内の気圧は上昇しない。したがって、焼入れ室3内の気圧を一定に維持するために、焼入れ室3を減圧する必要はなく、むしろ不活性ガスが冷却油32aに溶解すると焼入れ室3内の気圧が低下するので、制御弁V3を開いてガス供給源60から搬送室31へ不活性ガスを供給する。図13は、図7に代わる本実施形態における加熱処理中の真空炉1の状態を示すタイミングチャートである。図7の例と異なる点について説明する。
【0083】
本実施形態では、減圧ユニット5による焼入れ室3の減圧は、図4のS22での真空引きのみであり、その後は焼入れ室3の減圧が不要である。減圧ユニット5は、専ら加熱室2(断熱容器21)の圧力制御に用いられる。
【0084】
冷却油32aに対する不活性ガスの供給は、浸炭工程中も行われる。冷却油32aに対する不活性ガスの供給により焼入れ室3内の気圧が下がるので、時間t2や時間t3において、制御弁V3を開いてガス供給源60から搬送室31へ不活性ガスを供給する。これにより、焼入れ室3内の気圧を圧力P2に維持する。
【0085】
<第七実施形態>
上記各実施形態は、ハイパスカル法との併用も可能である。図14はその一例を示す真空炉1Aの説明図である。真空炉1Aは、真空炉1にハイパスカルユニット10を増設したものである。ハイパスカルユニット10は、冷却油32aを貯留したサブタンク11と、不活性ガスの圧縮ガスを貯留した加圧タンク12と、真空タンク13と、を備える。真空タンク13は、制御弁V14を介して真空ポンプ50に接続されており、制御弁V14を開き真空ポンプ50により減圧することで予め真空引きされる。真空タンク13はまた、制御弁V15を介して搬送室31の上部に連通している。制御弁V15を開くことで真空タンク13によって搬送室31内のガスが吸引され、焼入れ室3内を減圧可能である。真空タンク13と制御弁14及び15との組は複数組設けられる。
【0086】
サブタンク11は制御弁V12を介して加圧タンク12に接続され、また、制御弁V11を介して油槽32に接続されている。加圧タンク12は、大気圧以上の内圧を有している。制御弁V11及びV12を開くことで、加圧タンク12の圧縮ガスによってサブタンク11が加圧され、サブタンク11内の冷却油32aを油槽32に短時間で供給することができる。サブタンク11はまた、制御弁V13を介して真空ポンプ50に接続されている。制御弁V13を開き、サブタンク11を真空ポンプ50によって減圧することで、油槽32内の冷却油32aの一部を、サブタンク11に戻すことができる。
【0087】
焼入れ時のハイパスカルユニット10の制御例について説明する。図14に示すように昇降ユニット36によって搬送ユニット33をワークWと共に浸漬位置に降下させ、ワークWを冷却油32aに浸漬する。これと略同時に制御弁V12及びV11を開き、サブタンク11内の冷却油32aを油槽32に供給する。これにより図15に例示するように焼入れ室3内の冷却油32aの油面は搬送室31の上部まで上昇する。すなわち、本実施形態では搬送室31も一時的に油槽を構成する。また、加圧タンク12及びサブタンク11と連通した焼入れ室3内はパスカルの原理により圧力が上昇する。
【0088】
その後、臨界区域における沸騰段階、及び、沸騰段階後の対流段階では、制御弁V15を開いて真空タンク13と搬送室31とを連通し、焼入れ室3内を減圧する。このとき、複数組の真空タンク13と制御弁14及び15とのうち、各真空タンク13を段階的に搬送室31と連通させる。これによりワークWの冷却速度に比例して焼入れ室3内を減圧することができる。全ての真空タンク13を搬送室31に連通した後、沸騰段階から対流段階に移行すると、各制御弁14を開いて真空ポンプ50を搬送室31に連通し、真空ポンプ50によって焼入れ室3内を減圧する。
【0089】
以上により、焼入れが行われる。ハイパスカル法による焼入れでは、蒸気膜段階において冷却油32aを増量して焼入れ室3が加圧されるので、ワークWの表面に蒸気膜が発生することを抑制でき、ワークWの冷却速度をより速くすることができる。また、焼入れ室3を、ワークWの冷却速度に比例した速度で減圧することができる。したがって、伝熱形態が核沸騰から対流段階に移行するのを遅らせることができる。よって、危険区域に進入する前に、ワークWの均熱性を確保することができる。
【0090】
焼き入れ後には、次回の焼入れに備えて、制御弁V15を閉じ、各真空タンク13が真空引きされる。制御弁V12、V14が閉鎖され、制御弁V13が開放される。真空ポンプ50によりサブタンク11内を減圧して、油槽32から冷却油32aをサブタンク11に戻す。その後、制御弁V11及びV12を閉鎖する。
【0091】
<第八実施形態>
上記各実施形態の真空炉1及び1Aは、炉外からワークWが焼入れ室3に搬入され、焼入れ室3を経由して加熱室2へワークWが搬送され、熱処理後のワークWは焼入れ室3から搬出される構造である。しかし、炉外からワークWを加熱室2に搬入し、熱処理後のワークWを焼入れ室3から搬出する構造も採用可能である。図16はその一例を示す。
【0092】
真空炉1Bは、加熱室2のハウジング20が、焼入れ室3と反対側の壁部に、ワークWの搬入口となる開口部20aが形成されており、開口部20aはドア25で開閉される。ドア25は不図示のアクチュエータにより移動される。断熱容器21に代わる断熱容器21Aは、開口部20aに対向する壁部が、開閉可能なドア21bで構成されている。
【0093】
真空炉1Bでは、ワークWがはじめに加熱室2に搬入され、加熱処理後、焼入れ室3に搬送されて焼入れが行われる。焼き入れ後には焼入れ室3から炉外に搬出される。
【0094】
本実施形態においても、ワークWが加熱室2に存在する間に、冷却油32aに不活性ガスを供給して、冷却油32aの溶存ガス量を増加させることができる。
【0095】
<第九実施形態>
試験体を用いて、焼入れ試験を行った。図17(A)は試験体100の断面図及び右側面図である。試験体100は円柱形状の鋼材(直径50mm、長さ100mm、SCM435)である。試験体100は、その端面の3か所に穴をあけて熱電対101~103が装填されている。熱電対101は端面の外周付近、熱電対103は端面の中心付近、熱電対102は端面の中心から直径/4の距離の位置付近にそれぞれ配置されている。
【0096】
焼入れ試験は、データロガーと共に試験体100を加熱処理により900℃程度に加熱した後、冷却油に浸漬した。データロガーにより各熱電対101~103の温度検知結果を所定時間の間、記録した。試験は、4つの条件に分けて行った。図17(B)は試験内容の説明図である。「圧力」は焼入れ中の焼入れ室内の気圧である。「ハイパスカル法」は第七実施形態で説明したハイパスカル法の適用の有無を示す。「不活性ガス供給」は、焼入れ前に冷却油に不活性ガスを噴射して溶存ガス量を増加させたか否かを示しており、「有」の場合、90分間、不活性ガスとして窒素ガスを冷却油に供給した。
【0097】
図18(A)~図18(C)は試験結果を示している。図18(A)は熱電対101の試験結果を、図18(B)は熱電対102の試験結果を、図18(C)は熱電対103の試験結果を、それぞれ示している。また、R1は番号1、R2は番号2、R3は番号3、R4は番号4にそれぞれ対応する。
【0098】
ハイパスカル法を実施していない番号1及び番号3の試験結果であるR1、R3を比較すると、R3の方がR1よりも冷却速度が速いことが分かる。冷却速度が速いほど、焼入れ硬度は硬くなる。冷却油に不活性ガスを噴射して溶存ガス量を増加させることで、冷却油の冷却性能が向上していることが理解される。
【0099】
ハイパスカル法を実施した番号2及び番号4の試験結果であるR2、R4を比較すると、R4の方がR2よりも冷却速度が速いことが分かる。ハイパスカル法を実施した場合にも冷却油に不活性ガスを噴射して溶存ガス量を増加させることで、冷却油の冷却性能が向上していることが理解される。
【0100】
<他の実施形態>
上記各実施形態では、加熱室2での加熱処理として浸炭油焼入処理を行う場合を例示したが、加熱処理の内容は浸炭油焼入れ処理に限定されるわけではなく、液体(例えば焼入油)を用いた様々な加熱冷却処理(例えば、真空油焼入れ、溶体化、固溶化、析出硬化等)に適用可能である。
以上、発明の実施形態について説明したが、発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0101】
1~1B 真空炉、2 加熱室、3 焼入れ室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18