(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153758
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリエステル樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20231011BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20231011BHJP
C08L 23/18 20060101ALI20231011BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20231011BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231011BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20231011BHJP
C08K 5/405 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L23/04
C08L23/18
C08L23/26
C08K3/013
C08K5/10
C08K5/405
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060510
(22)【出願日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2022062757
(32)【優先日】2022-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】江波 翔太
(72)【発明者】
【氏名】東城 裕介
(72)【発明者】
【氏名】梅津 秀之
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB032
4J002BB03X
4J002BB052
4J002BB05X
4J002BB073
4J002BB07Y
4J002BB122
4J002BB12X
4J002BB152
4J002BB15X
4J002BB213
4J002BB21Y
4J002CD064
4J002CD06Z
4J002DA068
4J002DE138
4J002DJ038
4J002DJ058
4J002DL008
4J002EH036
4J002EV237
4J002FD018
4J002GG01
4J002GJ02
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】
優れた機械物性、耐加水分解性、低温および高温での金属部材との密着性、ならびに水蒸気バリア性に優れ、ウェルド部の引張伸度にも優れる樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】
末端カルボキシ基量が25eq/t以上である熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、ポリオレフィン樹脂(B)20~70重量部、および変性エラストマー(C)5~25重量部、を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端カルボキシ基量が25eq/t以上である熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、ポリオレフィン樹脂(B)20~70重量部、および変性エラストマー(C)5~25重量部、を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、さらにオキソ酸エステル塩、および有機スルホン酸塩より選ばれる少なくとも一種の化合物(D)0.01~3.0重量部を配合してなる請求項1に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基量が30eq/tを超える請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
ASTM E 96 Bに従い求めた90℃での水蒸気透過係数が25g・mm/m2・day以下である請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる、厚さ1mmの中央部にウェルド部を有するASTM4号ダンベル試験片を、標点間距離50mm、歪み速度50mm/分で引張試験した際のウェルド部の引張伸度が4%以上である請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる射出成形品で測定した対水接触角が80度以上である請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリオレフィン樹脂(B)が高密度ポリエチレン(HDPE)である請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリオレフィン樹脂(B)が、エチレンまたはプロピレンと、炭素数4から8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種とからなる共重合体であり、該共重合体の構成成分100重量部のうち、炭素数4から8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種が10重量部以上40重量部以下である、請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、さらにエポキシ化合物(E)0.5~5.0重量部を配合してなる請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項10】
前記熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、さらに無機充填材(F)0.1~20重量部を配合してなる請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる、ウェルド部を有する成形品。
【請求項12】
請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなるシール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物およびそれを溶融成形してなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた射出成形性や機械物性などの諸特性を生かし、機械機構部品、電気・電子部品および自動車部品などの幅広い分野に利用されている。
【0003】
さらに近年、電気電子筐体やパイプ継ぎ手、電池ガスケットなどのシール部材として、ポリオレフィン樹脂等が使用されていたが、電池の高エネルギー密度化や、電気自動車向けの高出力・大容量な電池の登場により、内部発熱の増加や使用環境温度の拡大が進んでおり(約-40℃~80℃)、適用が難しい状況となっている。ポリオレフィン樹脂に代わる樹脂材料として耐熱性と耐薬品性の高い熱可塑性ポリエステル樹脂をシール部材として採用する傾向にある。例えば、シール部材用としての熱可塑性ポリエステル樹脂組成物として、ポリブチレンテレフタレート樹脂に対して、アスペクト比が3~200であり、かつ、平均粒径が5~300μmの無機充填剤と、オレフィン系樹脂及び/又はフッ素系樹脂を含むシール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が開示されている。(特許文献1)
【0004】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂からなるシール部材の水蒸気バリア性を改善する方法として、ポリブチレンテレフタレート樹脂に対し、フッ素樹脂を含むことを特徴とするリチウム電池用ガスケット(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-016594号公報
【特許文献2】特開2019-016477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、PBT樹脂と略す場合がある。)はポリオレフィン樹脂に対して、水蒸気バリア性が低く、水蒸気の透過によってシール部材として使用した際に、製品内部の電気電子部品や電池活性物質が透過した水蒸気によって劣化や腐食することが課題となっている。
【0007】
さらに、特許文献1に開示された樹脂組成物は、水蒸気バリア性は改善するものの、ポリブチレンテレフタレート樹脂と相溶しない不溶物を多く配合するため靭性が低く、かつ耐加水分解性も低かった。そのため低温および高温での金属部材との密着性が低く、高温多湿環境下での変形の発生、成形品のウェルド部の引張伸度不足に課題があり、シール部材に求められる特性の両立が困難であった。
【0008】
また特許文献2に開示されたガスケットは、水蒸気バリア性は改善するものの、未溶融のフッ素樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中で凝集し、靱性が低く、かつ耐加水分解性も低かった。そのため低温および高温での金属部材との密着性が低く、高温多湿環境下での変形の発生、成形品のウェルド部の引張伸度不足といった課題があり、シール部材に求められる特性の両立が困難であった。
【0009】
本発明は、優れた機械物性、耐加水分解性、低温(約-40℃)および高温(約80℃)での金属部材との密着性、ならびに水蒸気バリア性に優れ、ウェルド部の引張伸度にも優れる樹脂組成物およびその成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した課題を解決するために検討を重ねた結果、特定のカルボキシ基量である熱可塑性ポリエステル樹脂に、特定の配合量でポリオレフィン樹脂と変性エラストマーをそれぞれ配合することで、優れた機械物性、耐加水分解性、および水蒸気バリア性を発現しつつ、低温および高温での金属部材との密着性やウェルド部の引張伸度に優れることを見出し、本発明に達した。すなわち本発明は、以下の構成を有する。
[1]末端カルボキシ基量が25eq/t以上である熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、ポリオレフィン樹脂(B)20~70重量部、および変性エラストマー(C)5~25重量部、を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[2]前記熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、さらにオキソ酸エステル塩、および有機スルホン酸塩より選ばれる少なくとも一種の化合物(D)0.01~3.0重量部を配合してなる[1]に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[3]前記熱可塑性ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基量が30eq/tを超える[1]または[2]に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[4]ASTM E 96 Bに従い求めた90℃での水蒸気透過係数が25g・mm/m2・day以下である[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる、厚さ1mmの中央部にウェルド部を有するASTM4号ダンベル試験片を、標点間距離50mm、歪み速度50mm/分で引張試験した際のウェルド部の引張伸度が4%以上である[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[6]熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる射出成形品で測定した対水接触角が80度以上である[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[7]前記ポリオレフィン樹脂(B)が高密度ポリエチレン(HDPE)である[1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[8]前記ポリオレフィン樹脂(B)が、エチレンまたはプロピレンと、炭素数4から8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種とからなる共重合体であり、該共重合体の構成成分100重量部のうち、炭素数4から8のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種が10重量部以上40重量部以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[9]前記熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、さらにエポキシ化合物(E)0.5~5.0重量部を配合してなる[1]~[8]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[10]前記熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、さらに無機充填材(F)0.1~20重量部を配合してなる[1]~[9]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[11][1]~[10]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる、ウェルド部を有する成形品。
[12][1]~[10]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなるシール部材。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物によれば、優れた機械物性、耐加水分解性、水蒸気バリア性、およびウェルド部の引張伸度を有し、低温および高温での金属部材との密着性にも優れた成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物について詳細に説明する。
【0013】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、末端カルボキシ基量が25eq/t以上である熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、ポリオレフィン樹脂(B)20~70重量部、および変性エラストマー(C)5~25重量部を配合してなる。
【0014】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)成分、(B)成分および(C)成分が互いに反応した反応物を含むが、当該反応物は複雑な反応により生成されたものであり、その構造を特定することは実際的でない事情が存在する。したがって、本発明は配合する成分により発明を特定するものである。
【0015】
本発明者らは、末端カルボキシ基量が25eq/t以上である熱可塑性ポリエステル樹脂(A)中に、ポリオレフィン樹脂(B)、および変性エラストマー(C)を配合することで、非相溶成分同士である熱可塑性ポリエステル樹脂(A)とポリオレフィン樹脂(B)の相溶性を向上させ、機械物性、耐加水分解性、および水蒸気バリア性を損なうことなく、低温および高温での金属との密着性、ならびにウェルド部の引張伸度を向上できることを見出した。
【0016】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂(A)は、ジカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体(A1)と、ジオールあるいはそのエステル形成性誘導体(A2)とを主成分とし、重縮合反応させる等の通常の重合方法によって得られる重合体である。ここで、「主成分」とは、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)を構成する成分のうちジカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体(A1)、及びジオールあるいはそのエステル形成性誘導体(A2)が80重量部以上を占めることを表す。熱可塑性ポリエステル樹脂(A)は、(A1)及び(A2)の少なくともいずれかを2種類以上使用した共重合体であってもよい。
【0017】
ジカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体(A1)として、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、1,4-アントラセンジカルボン酸、1,5-アントラセンジカルボン酸、1,8-アントラセンジカルボン酸、2,6-アントラセンジカルボン酸、9,10-アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸化合物や、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸化合物、あるいはこれらのエステル形成性誘導体などを挙げることができ、これらを単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0018】
ジオールあるいはそのエステル形成性誘導体(A2)として、例えばエチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオール、あるいはこれらのエステル形成性誘導体などを挙げることができ、これらを単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0019】
これら重合体および共重合体の好ましい例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/セバケート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレン/エチレンテレフタレート等が挙げられ、これらを単独で用いても2種以上混合してもよい。ここで、「/」は共重合体を表す。
【0020】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、末端カルボキシ基量が25eq/t以上である熱可塑性ポリエステル樹脂(A)を配合する。熱可塑性ポリエステル樹脂(A)の末端カルボキシ基量が25eq/t未満では変性エラストマー(C)成分との反応が不十分となり、優れた室温及び低温環境での引張伸度、ウェルド部の引張伸度が発現できなくなる。30eq/tを超えることがより好ましく、40eq/tを超えることが特に好ましい。末端カルボキシ基量の上限値は残存カルボキシ基による成形時の充填ピーク圧力の増加、耐加水分解性の低下を抑制する観点から、60eq/t以下であることが好ましく、50eq/t以下がより好ましい。ここで、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)をo-クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し測定した値である。末端カルボキシ基量が25eq/t以上である熱可塑性ポリエステル樹脂(A)を得るための方法は、特に限定はされないが、たとえば熱可塑性ポリエステル樹脂(A)を重合する際に、前記ジカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体(A1)の仕込み量を多くする、重縮合反応温度を高くする、重縮合反応時間を長くするなどの方法が挙げられる。
【0021】
本発明で用いられる熱可塑性ポリエステル樹脂(A)は、o-クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が、0.60~1.60であるものが好ましく、特に0.80~1.30の範囲にあるものが好適である。固有粘度が0.60以上であると室温及び低温環境での引張伸度が十分に得られ、一方、固有粘度が1.60以下とすることで成形性に優れる。
【0022】
本発明で用いる熱可塑性ポリエステル樹脂(A)の製造方法は、公知の重縮合法や開環重合法などにより製造することができ、バッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および重縮合反応を経る方法、ならびに直接重合による反応のいずれでも適用することができるが、カルボキシル末端基量を多くすることができ、かつ、触媒由来の異物が発生しにくいという点で、バッチ重合が好ましく、コストの点で、直接重合が好ましい。なお、エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に重合反応触媒を添加することが好ましく、重合反応触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステル、あるいはこれらの混合エステルなどの有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイドおよびブチルヒドロキシスズオキシド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸などのスズ化合物、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシドなどのジルコニア化合物、三酸化アンチモン、酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられるが、これらの内でも有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、さらに、チタン酸のテトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステルおよびテトライソプロピルエステルが好ましく、チタン酸のテトラ-n-ブチルエステルが特に好ましい。これらの重合反応触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用することもできる。重合反応触媒の添加量は、機械特性、成形性および色調の点で、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.005~0.5重量部の範囲が好ましく、0.01~0.2重量部の範囲がより好ましい。
【0023】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、ポリオレフィン樹脂(B)20~70重量部を配合する。
【0024】
本発明のポリオレフィン樹脂(B)は、オレフィンを主成分として重合または共重合して得られる熱可塑性樹脂である。ここで、「オレフィン」とは、炭素-炭素二重結合が一箇所存在する、分子式CxH2xで表される脂肪族不飽和炭化水素を意味する。オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、及び炭素数が4から20のα-オレフィンなどが挙げられる。ここで、「α-オレフィン」とは、炭素-炭素二重結合がα位に一箇所存在するオレフィンを意味する。また、ここでの「主成分」とは、ポリオレフィン樹脂(B)100重量部に対してオレフィン由来の成分が90重量部を超えることを意味する。ポリオレフィン樹脂100重量部に対して10重量部未満であれば、オレフィン以外の成分を共重合してもよい。
【0025】
ポリオレフィン樹脂(B)として、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン樹脂などが挙げられる。ポリエチレン樹脂は、その構造によって大きく3つに分類される。具体的には、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、直鎖状短鎖分岐ポリエチレン樹脂(LLDPE)、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)に分けられる。ポリプロピレン樹脂についても同様に、その構造によって大きく3つに分類される。具体的には、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンに分けられる。水蒸気バリア性を向上できる観点で、主成分であるオレフィンがエチレンであるポリエチレン樹脂や、主成分であるオレフィンがプロピレンであるポリプロピレン樹脂であることが好ましいが、低温および高温での金属部材との密着性の観点から柔軟性の高いポリエチレン樹脂がより好ましく、ポリエチレン樹脂の中でも水蒸気バリア性、耐熱性に優れる高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)が特に好ましい。
【0026】
また、本発明のポリオレフィン樹脂(B)は、シール部材と他の部材との接触部における気体や液体の通りにくさである封止性の観点から、前記(B)成分の構成成分100重量部のうち、炭素数4から8のα-オレフィンを5重量部を超えて共重合した共重合ポリオレフィン樹脂(以下、共重合ポリオレフィン樹脂と略す場合がある)であることが好ましい。前記のような共重合ポリオレフィン樹脂を配合することで、成形品表面に存在する高い撥水性を有するα-オレフィン由来の成分を含む共重合ポリオレフィン樹脂の量が増加し、対水接触角が大きくなることで、シール部材と他の部材との接触部において水の漏洩が抑制され、優れた封止性を発現することができる。共重合ポリオレフィン樹脂の構成成分における炭素数4から8のα-オレフィンの量は、対水接触角の観点から好ましくは共重合ポリオレフィン樹脂の構成成分100重量部のうち、10重量部以上50重量部未満であり、より好ましくは10重量部以上40重量部以下、さらに好ましくは20重量部以上40重量部以下である。また、前記共重合ポリオレフィン樹脂は、機械物性やウェルド部の引張伸度を向上できる点で、ASTM-1試験片を用いて、ASTM D638に従い求めた引張弾性率が2MPa以上50MPa以下の範囲であることが好ましい。共重合ポリオレフィン樹脂の引張弾性率は、より好ましくは2MPa以上25MPa以下であり、さらに好ましくは2MPa以上10MPa以下である。なお、本発明において、共重合体または混合物である、LLDPE、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンについては、5重量部を超えて炭素数4から8のα-オレフィンが共重合された共重合ポリオレフィン樹脂には含まれない。
【0027】
本発明のポリオレフィン樹脂の溶融粘度(MFR)は、マトリクスとなる熱可塑性ポリエステル樹脂(A)中で、ポリオレフィン樹脂(B)を微分散化でき、機械物性やウェルド部の引張伸度を向上できる点で、1~12g/10minの範囲であることが好ましい。溶融粘度の上限はさらに好ましくは10g/10min以下であり、8g/10min以下がより好ましい。一方で、溶融粘度の下限は、3g/10min以上が好ましく、5g/10min以上が特に好ましい。なお、ポリオレフィン樹脂の溶融粘度は、JISK7210(2014)に従い、東洋精機製メルトインデクサーを用いて230℃、2.16kg荷重で測定した値である。
【0028】
前記ポリオレフィン樹脂(B)の配合量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して20~70重量部である。前記ポリオレフィン樹脂(B)の配合量は20重量部未満では水蒸気バリア性を発現することができない。より好ましくは30重量部以上であり、特に好ましくは40重量部以上である。一方で、前記ポリエチレン共重合体(B)の配合量が70重量部を超えると、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の室温及び低温環境での引張伸度、ウェルド部の引張伸度および耐熱性が低下する。より好ましくは60重量部以下であり、特に好ましくは50重量部以下である。
【0029】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、変性エラストマー(C)5~25重量部を配合する。
【0030】
変性エラストマーは、官能基を有するエラストマーである。変性エラストマー(C)を配合することで、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)由来の官能基と、変性エラストマー(C)由来の官能基とが反応し、化学結合を形成する。変性エラストマー(C)は前記ポリオレフィン樹脂(B)と近い構造単位を有しており、極性が低いため、(B)成分と相溶性が高いという性質を有している。これにより、変性エラストマー(C)と化学結合した(A)成分は、(B)成分と高い相溶性を発現し、その結果高い室温及び低温環境での引張伸度、ウェルド部の引張伸度、ならびに低温および高温での金属部材との密着性を発現することができる。なお、本発明において、ポリオレフィン樹脂(B)に該当する樹脂であって、変性エラストマーにも該当するような樹脂は、変性エラストマー(C)として扱うものとする。
【0031】
本発明の変性エラストマー(C)は、α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルを共重合成分とするグリシジル基含有共重合体、および酸変性されたオレフィン系熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種を含んでいることが好ましい。また、これらを2種以上含有してもよい。
【0032】
α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルを共重合成分とするグリシジル基含有共重合体は、官能基としてグリシジル基を有し、α-オレフィン、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルおよび必要に応じてこれらと共重合可能な不飽和酸モノマーを共重合することにより得られる共重合体である。前記共重合成分中、α-オレフィン、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルを合計して80重量%以上用いることが好ましい。
【0033】
α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-オクテン等を挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルとしては、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどを挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。中でも、メタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。また、上記成分と共重合可能な不飽和酸モノマーとしては、例えば、ビニルエーテル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアクリル酸およびメタクリル酸エステル類、アクリロニトリル、スチレンなどを挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。
【0034】
本発明におけるα-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとを共重合成分とするグリシジル基含有共重合体の好ましい例としては、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル/アクリル酸エステル共重合体、エチレン/アクリル酸グリシジル/酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0035】
酸変性されたオレフィン系熱可塑性エラストマーとは、オレフィン系熱可塑性エラストマーに、官能基として熱可塑性ポリエステル樹脂(A)との相互作用を発揮し得る酸基が導入された変性エラストマーである。
【0036】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、2種以上のオレフィンを共重合してなるものが挙げられる。オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、及び炭素数4~8のα-オレフィン等が挙げられる。このうち炭素数4~8のα-オレフィンとしては、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が挙げられる。これらのなかでも、オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、エチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの共重合体、及びプロピレンと炭素数4~8のα-オレフィンとの共重合体が好ましい。
【0037】
即ち、エチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの共重合体としては、エチレン・プロピレン共重合体(EPR)、エチレン・1-ブテン共重合体(EBR)、エチレン・1-ペンテン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体(EOR)が挙げられる。また、プロピレンと炭素数4~8のα-オレフィンとの共重合体としては、プロピレン・1-ブテン共重合体(PBR)、プロピレン・1-ペンテン共重合体、プロピレン・1-オクテン共重合体(POR)等が挙げられる。これらのなかでも、EPR、EBR、およびEORが好ましく、EBR、およびEORがより好ましい。
【0038】
一方、オレフィン系熱可塑性エラストマーに導入される酸基としては、酸無水物基(-CO-O-OC-)及びカルボキシ基(-COOH)等が挙げられる。これらの反応性基をエラストマーに付与する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0039】
上記酸基のなかでも、特に酸無水物基が好ましい。この酸無水物基を導入するための単量体としては、例えば、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ブテニル無水コハク酸等の酸無水物が挙げられる。これらのなかでも、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸が好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。これらの単量体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
即ち、酸変性されたオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、無水マレイン酸変性されたエチレン-1-ブテン共重合体、又は無水マレイン酸変性されたエチレン・オクテン共重合体が特に好ましい。なお、本発明において変性エラストマーとしてこれらの化合物を使用する場合、化合物中におけるその酸基の量は特に限定されない。
【0041】
変性エラストマー(C)の配合量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して5~25重量部である。前記変性エラストマー(C)の配合量は5重量部未満では、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)の末端カルボキシ基が未反応のまま多量に残存することによる耐加水分解性の低下、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)とポリオレフィン樹脂(B)の相溶性の悪化による低温環境での引張伸度やウェルド部の引張伸度の低下、低温および高温での金属部材との密着性の低下が起こる。より好ましくは9重量部以上であり、特に好ましくは12重量部以上である。一方で、前記変性エラストマー(C)の配合量が25重量部を超えると、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のウェルド部の引張伸度、及び水蒸気バリア性が低下する。より好ましくは21重量部以下であり、特に好ましくは18重量部以下である。
【0042】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)と変性エラストマー(C)の反応性を向上させ、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)とポリオレフィン樹脂(B)の相溶性を向上させるため、さらにオキソ酸エステル塩、および有機スルホン酸塩より選ばれる少なくとも一種の化合物(D)を配合することが好ましい。オキソ酸エステル塩、および有機スルホン酸塩より選ばれる少なくとも一種の化合物(D)は極性の高い官能基と極性の低い官能基を有しており、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に配合することで、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)とポリオレフィン樹脂(B)の極性の差による相溶性を改善し、高いウェルド部の引張伸度を発現することができる。
【0043】
オキソ酸エステル塩とは、オキソ酸塩とアルコールが脱水縮合反応して生成される化合物である。オキソ酸塩については特に限定されることはないが、調達性やコストの観点から、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウムであることが好ましい。アルコールについては、オキソ酸エステル塩の構造において、アルコールに由来する脂肪族鎖の末端がオキソ酸塩由来の構造と近接していると前記相溶性向上効果が見込めないため、脂肪族鎖である主鎖の炭素数が6以上であるアルコールが好ましい。
【0044】
有機スルホン酸塩とは、化学構造中に有機基を含むスルホン酸塩である。有機基の構成について特に限定されることはなく、脂肪族鎖、芳香族鎖のいずれか、あるいは両方を含んでいてもよい。ただし、脂肪族鎖のみで構成されている場合、有機スルホン酸塩の構造において、有機基に由来する脂肪族鎖の末端がスルホン酸塩由来の構造と近接していると前記相溶性向上効果が見込めないため、脂肪族鎖である主鎖の炭素数が6以上の有機基であることが好ましい。また、調達製やコストの観点から有機スルホン酸塩は有機スルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0045】
本発明において、オキソ酸エステル塩、および有機スルホン酸塩より選ばれる少なくとも一種の化合物(D)の配合量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、0.01~3.0重量部であることが好ましい。係る配合量とすることで、前記(A)成分と前記(B)成分の相溶性が向上し、高いウェルド部の引張伸度を発現することができる。より好ましくは0.03重量部以上であり、特に好ましくは0.05重量部以上である。一方、2.0重量部以下がより好ましく、1.5重量部以下が特に好ましい。
【0046】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、耐加水分解性を向上するため、さらにエポキシ化合物(E)を配合することが好ましい。エポキシ化合物(E)を配合することで、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)のカルボキシ基を反応封鎖し、湿熱環境下での加水分解反応を抑制することができる。また、耐加水分解性の向上に伴う分子量低下抑制効果により、高い水蒸気バリア性を発現することができる。
【0047】
本発明で用いられるエポキシ化合物(E)は、分子内にエポキシ基を有する化合物であり、特に限定されるものではないが、グリシジルエステル化合物、グリシジルエーテル化合物およびエポキシ化脂肪酸エステル化合物、グリシジルイミド化合物、脂環式エポキシ化合物が挙げられる。これらを2種以上併用してもよい。なお、本発明において、分子内にエポキシ基を有しており、かつエポキシ当量が700g/eq以下である成分を、エポキシ樹脂(E)として扱うものとする。
【0048】
グリシジルエーテル化合物は、グリシジルエーテル構造を有する化合物であり、フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの縮合物、ノボラック型エポキシ、多価水酸基化合物のグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0049】
フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの縮合物の具体的として、ビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、ビスフェノールS、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロアントラセン-9,10-ジオール、6-ヒドトキシ-2-ナフトエ酸、1,1-メチレンビス-2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,1,2,2-テトラキス-4-ヒドロキシフェニルエタン、カシューフェノール等のフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの縮合により得られる縮合物が挙げられる。
【0050】
ノボラック型エポキシの具体例として、フェノールノボラック型エポキシ、クレゾールノボラック型エポキシ、ナフトールノボラック型エポキシ、ビスフェノールAノボラック型エポキシ、ジシクロペンタジエン-フェノール付加ノボラック型エポキシ、ジメチレンフェニレン-フェノール付加ノボラック型エポキシ、ジメチレンビフェニレン-フェノール付加ノボラック型エポキシなどが挙げられる。
【0051】
エポキシ化合物(E)は、エポキシ化合物同士の反応を抑え、滞留安定性の悪化を抑制できることから、グリシジルエーテル化合物、エポキシ化脂肪酸エステル化合物、および脂環式エポキシ化合物から選択される少なくとも1つであることが好ましく、その中でもグリシジルエーテル化合物およびエポキシ化脂肪酸エステル化合物がより好ましく、そしてさらにその中でも耐加水分解性をより向上できることから、グリシジルエーテル化合物がさらに好ましい。また、グリシジルエーテル化合物の中でも、耐熱性を向上できることからノボラック型エポキシが好ましい。
【0052】
また、エポキシ化合物(E)は、エポキシ当量が100~700g/eqであるエポキシ化合物が好ましい。エポキシ化合物(E)のエポキシ当量が100g/eq以上の場合、溶融加工時のガス量を抑制できる。150g/eq以上がさらに好ましい。また、エポキシ化合物(E)のエポキシ当量が700g/eq以下の場合、長期耐加水分解性および高温での溶融滞留安定性をより高いレベルで両立することができる。650g/eq以下がさらに好ましい。なお、エポキシ化合物(E)のエポキシ当量は、分子を構成するモノマーの重量比またはモル比より算出される値とする。
【0053】
本発明において、エポキシ化合物(E)の配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.5~5.0重量部であることが好ましい。(E)成分の配合量が0.5重量部以上の場合、長期耐加水分解性、水蒸気バリア性が向上する。より好ましくは0.1重量部以上であり、さらに好ましくは0.3重量部以上である。一方、(E)成分の配合量が5.0重量部以下であれば、耐熱性および滞留安定性が向上する。より好ましくは4.0重量部以下であり、さらに好ましくは3.0重量部以下である。
【0054】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、水蒸気バリア性の向上、線膨張係数の低減による耐冷熱サイクル性の向上、クリープ変形の抑制をするために、さらに無機充填材(F)を配合することが好ましい。
【0055】
前記の無機充填材(F)の具体例としては、例えば、繊維状、ウィスカー状、針状、粒状、粉末状および層状の無機充填材が挙げられ、具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維や液晶性ポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、硫酸カルシウムウィスカー、針状酸化チタン、ガラスビーズ、ミルドファイバー、ガラスフレーク、ワラステナイト、シリカ、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの混合物、微粉ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、スメクタイト系粘土鉱物(モンモリロナイト、ヘクトライト)、バーミキュライト、マイカ、フッ素テニオライト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウム、およびドロマイトなどが挙げられる。本発明に使用する上記の無機充填材(F)は、その表面が公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理されていてもよい。また、本発明に使用する上記の無機充填材(F)は、2種以上を併用してもよい。水蒸気バリア性向上の観点から、無機充填材(F)の中でも、ガラスフレーク、カオリン、マイカのなどの板状、層状の無機充填材が好ましい。板状、層状の無機充填材を配合することで、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を透過しようとする水分子が、板状、層状の無機充填材を避けてより長い経路を通ることになり、高いバリア性が発現される。
【0056】
無機充填材(F)の平均粒径は、0.1~200μmであることが好ましい。無機充填材(F)の樹脂中での分散性を向上できる点で、0.1μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましく、3.0μm以上が特に好ましい。機械強度の観点から200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、20μm以下が特に好ましい。なお、平均粒子径は無機充填材(F)の形状にかかわらず、(株)島津製作所製レーザー粒度分布計SALD-2000による粒子径測定により求めた体積基準の累積分布における50%累積時の粒径値とする。
【0057】
無機充填材(F)の配合量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して0.1重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましく、3重量部以上が特に好ましい。一方、20重量部以下が好ましく、15重量部以下がより好ましく、10重量部以下が特に好ましい。
【0058】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、難燃剤、離型剤、顔料、染料および帯電防止剤などの任意の添加剤を配合することができる。
【0059】
離型剤の具体例としては、例えばモンタン酸やステアリン酸などの高級脂肪酸エステル系ワックス、ポリオレフィン系ワックス、エチレンビスステアロアマイド系ワックスなどが挙げられる。離型剤を配合することで溶融加工時に金型からの離型性をよくすることができる。
【0060】
離型剤の配合量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、0.01~1.0重量部が好ましい。離型性の観点から、0.03重量部以上がより好ましく、耐熱性の観点から0.6重量部以下がより好ましい。
【0061】
本発明の樹脂組成物を製造する方法としては、例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ポリオレフィン樹脂(B)および変性エラストマー(C)と、必要に応じて各種添加剤を予備混合して、溶融混練機に供給して溶融混練する方法、あるいは、重量フィダーなどの定量フィダーを用いて各成分を所定量溶融混練機に供給して溶融混練する方法などが挙げられる。溶融混練機としては、例えば“ユニメルト”あるいは“ダルメージ”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、コニカル押出機およびニーダータイプの混練機などを用いることができる。
【0062】
上記の予備混合の例として、ドライブレンドする方法や、タンブラー、リボンミキサーおよびヘンシェルミキサー等の機械的な混合装置を用いて混合する方法などが挙げられる。また、無機充填材は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加してもよい。また、液体の添加剤の場合は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中に液添ノズルを設置してプランジャーポンプを用いて添加する方法や、元込め部などから定量ポンプで供給する方法などを用いてもよい。
【0063】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、ペレット化して、成形加工に供することが好ましい。ペレット化の方法として、溶融混練機などを用いて溶融混練された樹脂組成物を、ストランド状に吐出し、ストランドカッターでカッティングする方法が挙げられる。
【0064】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、ASTM E 96 Bに従い求めた90℃での水蒸気透過係数が25g・mm/m2・day以下であることが好ましい。水蒸気透過係数が25g・mm/m2・day以下であることで、水蒸気バリア性に優れ、リチウムイオン電池の内部活性物質の失活を防ぎ、長期にわたり特性を発現することができるため、リチウム電池用ガスケット部材の用途において好適に用いられる。水蒸気透過係数はより好ましくは21g・mm/m2・day以下であり、特に好ましくは19g・mm/m2・day以下である。水蒸気透過係数を上記の値とするための方法としては、そのような熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得られる限り限定はされないが、たとえば熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、前記ポリオレフィン樹脂(B)の配合量を20重量部以上とし、さらに前記変性エラストマー(C)の配合量を20重量部以下とすること、さらに前記エポキシ樹脂(E)を添加する方法などが挙げられる。なお、水蒸気透過係数は、ASTM E 96 Bに従い求めた、樹脂厚み1mmでの90℃熱風乾燥環境における値で評価する。
【0065】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる、厚さ1mmの中央部にウェルド部を有するASTM4号ダンベル試験片を、標点間距離50mm、歪み速度50mm/分で引張試験した際のウェルド部の引張伸度は4%以上であることが好ましい。ウェルド部の引張伸度が4%以上であれば、延伸加工や曲げ加工、カシメ加工においても優れた加工性を有するため、シール部材として、特に電気電子部品ケース部材、パッキン部材、および配管継ぎ手や電池などに使われるガスケット部材の用途に好適に用いられる。ウェルド部の引張伸度は、より好ましくは6%以上であり、特に好ましくは8%以上である。ウェルド部の引張伸度を上記の値とするための方法としては、そのような熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得られる限り限定はされないが、たとえば本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融混練して製造する際の加工温度を275℃~300℃の高温で行い、前記熱可塑性ポリエステル樹脂(A)と前記変性エラストマー(C)の反応を促進させる、(C)成分を変性量がより大きいものに変更する、さらにオキソ酸エステル塩、および有機スルホン酸塩より選ばれる少なくとも一種の化合物(D)を添加することなどが挙げられる。
【0066】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、封止性評価において、50サイクル後に漏れがないことが好ましい。封止性に優れると、シール部材と他の部材との接触部における気体や液体の透過が抑制でき、長期にわたり封止物の漏れを抑制することができるため、特にパッキン部材、配管継ぎ手などの用途に好適に用いられる。封止性は、より好ましくは60サイクルで漏れがないことであり、特に好ましくは70サイクルで漏れがないことである。封止性評価において、50サイクル後に漏れをなくす方法としては、そのような熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得られる限り限定はされないが、たとえば前記ポリオレフィン樹脂(B)として共重合ポリオレフィン樹脂を使用することが挙げられる。なお、封止性評価とは、容器内側の空間が円筒形状であり、内径がφ40mm、深さ35mmのアルミニウム製のカップに着色インクを添加した水20mLを加え、前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる試験片およびその上にアルミニウム製の蓋を組み付けて密閉容器とし、容器を逆さまにした状態で、2℃/分で-40℃まで降温させ、-40℃×1hで処理後、5℃/分で80℃まで昇温させ、80℃×1hで処理することを1サイクルとして、所定のサイクルを処理した後に目視で容器内の着色水の漏れを確認して評価する。
【0067】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、対水接触角が80度以上であることが好ましい。対水接触角が80度以上であれば、異物や汚れが成形品表面に付着しにくくなるため、液体配管、キッチン用品や台所用品の用途に好適に用いられる。対水接触角は、より好ましくは90度以上であり、特に好ましくは95度以上である。対水接触角が上記の値とするための方法としては、そのような熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得られる限り限定はされないが、たとえば前記ポリオレフィン樹脂(B)として共重合ポリオレフィン樹脂を使用することなどが挙げられる。なお、対水接触角は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を射出成形した射出成形品を試験片として使用し、協和界面科学株式会社製DM-501接触角計を用いて、液適法、液適量0.3μLで10回測定した平均値で評価する。
【0068】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形することにより、各種形状の成形品を得ることができる。溶融成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形およびブロー成形などが挙げられ、射出成形が特に好ましく用いられる。
【0069】
射出成形の方法としては、通常の射出成形方法以外にもガスアシスト成形、2色成形、サンドイッチ成形、インモールド成形、インサート成形およびインジェクションプレス成形などが知られているが、いずれの成形方法も適用できる。
【0070】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品は、高い水蒸気バリア性及び高いウェルド部の引張伸度を有する。高い水蒸気バリア性を有することから、内容物の劣化や腐食を防ぐことができるため、食品、化粧品、医薬等の包装材および容器、自動車の燃料のタンク部材、建材の配管部材、電気電子部品ケース部材、パッキン部材、ならびに配管継ぎ手や電池などに使われるガスケット部材などに好適に用いることができる。また、高いウェルド部の引張伸度も有していることから、パッキン部材、ならびに配管継ぎ手や電池などに使われるガスケット部材などのシール部材に用いることが特に好ましい。
【実施例0071】
次に、実施例により本発明の熱可塑性樹脂組成物について具体的に説明する。ここで%および部とは、すべて重量%および重量部を表し、下記の樹脂名中の「/」は共重合を意味する。
【0072】
[各特性の測定方法]
各実施例および比較例においては、次に記載する測定方法によって、その特性を評価した。
【0073】
1.室温環境での引張伸度
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を、日精樹脂工業株式会社製NEX1000射出成形機を用いて、射出時間と保圧時間は合わせて10秒、冷却時間10秒の成形サイクル条件で試験片厚み4mmのISO-1Aダンベルの引張物性評価用試験片を得た。得られた引張物性評価用試験片を用い、23℃環境下でISO527(2012)に従い、引張最大点伸び(引張伸度)を測定した。値は3本の測定値の平均値とした。
【0074】
2.低温環境での引張伸度
日精樹脂工業株式会社製NEX1000射出成形機を用いて、上記1.項の引張物性評価用試験片と同一の射出成形条件で、試験片厚み4mmのISO-1Aダンベルの引張物性評価用試験片の引張物性評価用試験片を得た。得られた引張物性評価用試験片を(株)島津製作所製恒温槽TCR-1内で-40℃に温度調整した低温環境下で、ISO527(2012)に従い、引張最大点伸び(引張伸度)を測定した。値は3本の測定値の平均値とした。
【0075】
3.ウェルド部の引張伸度
ファナック株式会社製FANUC ROBOSHOT α-30C射出成形機を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の温度条件で、射出時間と保圧時間は合わせて17秒、冷却時間15秒の成形サイクル条件で、両端にゲートを有するASTM4号ダンベル片(厚み約1mm)の両端から樹脂組成物を射出し、中央部にウェルド部を有するウェルド部の引張伸度測定用試験片を得た。この試験片を用い、標点間距離50mm、歪み速度50mm/分の速度で引張試験を行い、破断時の伸度をウェルド部の引張伸度とした。破断時の伸度は下記式で算出した。
破断時の伸度(ウェルド部の引張伸度)=((引張試験機ロードセル移動量(S)mm/標点間距離50mm)×100)
【0076】
4.水蒸気バリア性
日精樹脂工業株式会社製NEX1000射出成形機を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の温度条件で、射出時間と保圧時間は合わせて15秒、冷却時間10秒の成形サイクル条件で、試験片厚み約1mm、縦横80mmの角板試験片を得た。得られた角板試験片から直径65mm、厚み1mmの水蒸気透過試験片を作成し、ASTM E 96 Bに従い、エスペック株式会社製熱風乾燥機PVH201を用い、90℃の環境内に500時間暴露後の重量変化より水蒸気透過量を計算し、下記式より水蒸気透過係数を算出した。
水蒸気透過係数(g・mm/m2・day)=水蒸気透過量×厚み(mm)/透過面積(m2)/処理時間(day)
【0077】
5.封止性
上記4.項と同様の方法で、直径65mm、厚み1mmの水蒸気透過試験片を得た。容器内側の空間が円筒形状であり、内径がφ40mm、深さ35mmのアルミニウム製のカップに着色インクを添加した水20mLに加えて、水蒸気透過試験片およびその上にアルミニウム製の蓋を組み付けて密閉容器とし、容器を逆さまにした状態でESPEC(株)製TSA-73EL-A冷熱試験機に投入し、2℃/分で-40℃まで降温させ、-40℃×1hで処理後、5℃/分で80℃まで昇温させ、80℃×1hで処理することを1サイクルとする条件で、50サイクル、60サイクル、70サイクル、80サイクル到達時点の容器内着色水の漏れがないか目視で観察を行った。50サイクル到達時に漏れが確認された場合はD評価、50サイクル到達時に漏れがなく60サイクル到達時に漏れが確認された場合はC評価、60サイクル到達時に漏れがなく70サイクル到達時に漏れが確認された場合はB評価、80サイクル到達時に漏れが確認されなかった場合はA評価とした。A,B,C評価が優れており、A>B>Cの関係でより優れていると判断した。
【0078】
6.耐冷熱サイクル性(低温および高温での金属密着性)
日精樹脂工業株式会社製NEX1000射出成形機を用いて、成形温度270℃、金型温度80℃の条件で、大きさが縦47mm、横47mm、高さ27mmで、材質がS35Cの鉄芯をインサート成形用の金型に設置し、樹脂厚み1.5mmで被覆した成形品を、ESPEC(株)製TSA-73EL-A冷熱試験機を用いて、2℃/分で-40℃まで降温させ、-40℃×1hで処理後、5℃/分で80℃まで昇温させ、80℃×1hで処理することを1サイクルとする条件で、1サイクル毎に成形品の観察を行い、クラックが発生するサイクル回数を測定した。
【0079】
7.耐加水分解性
日精樹脂工業株式会社製NEX1000射出成形機を用いて、1.項の引張物性評価用試験片と同一の射出成形条件で、試験片厚み4mmのISO-1Aダンベルの引張物性評価用試験片を得た。得られた引張物性評価用試験片を121℃×100%RHの温度と湿度に設定されたエスペック(株)社製高度加速寿命試験装置EHS-411に投入し、100時間湿熱処理を行った。湿熱処理後の成形品について、上記1.項の引張試験と同一の条件で引張最大点強度を測定し、3本の測定値の平均値を求めた。湿熱処理後の引張最大点強度と湿熱処理未処理の引張最大点強度から、下記式により引張強度保持率を求めた。
引張強度保持率(%)=(湿熱処理後の引張最大点強度÷湿熱処理前の引張最大点強度)×100
【0080】
8.対水接触角
日精樹脂工業株式会社製NEX1000射出成形機を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の温度条件で、射出時間と保圧時間は合わせて15秒、冷却時間10秒の成形サイクル条件で、試験片厚み約1mm、縦横80mmの角板試験片を得た。得られた試験片を、エスペック株式会社製熱風乾燥機PVH201を用いて、70℃の環境内に2時間曝露し、アニール処理を行った。得られたアニール処理済み試験片表面の対水接触角を、協和界面科学株式会社製DM-501接触角計を用いて、液適法、液適量0.3μLで10回測定した平均値を求めた。
【0081】
実施例および比較例に用いられる原料を次に示す。
【0082】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)
(A-1)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂):固有粘度(IV値)0.85、末端カルボキシ基量26eq/t
次の方法により(A-1)成分を調製した。エステル化反応を行うため1,4-ブタンジオール(富士フイルム和光純薬(株)製)360gにテレフタル酸(富士フイルム和光純薬(株)製)831gを混合し、エステル化反応触媒としてテトラ-n-ブチルチタネート(東京化成工業(株)製)0.58gおよびモノブチルヒドロキシスズオキサイド(東京化成工業(株)製)0.51gを添加した。これらを精留塔を備えた反応器にて、190℃、79.9kPaの条件で反応を開始し、段階的に昇温するとともに1,4-ブタンジオール541gを徐々に添加し、エステル化反応物を得た。このエステル化反応物1250gに、重縮合触媒としてのテトラ-n-ブチルチタネート0.58gと、リン酸(東京化成工業(株)製)0.07gを添加し、255℃、67Paの条件で161分間、重縮合反応を行った。
【0083】
(A-2)ポリブチレンテレフタレート樹脂:IV値0.87、末端カルボキシ基量34eq/t
前記(A-1)の調製条件に対して、重縮合反応温度を260℃、重縮合反応時間を143分としたこと以外は同条件で調製した。
【0084】
(A-3)ポリブチレンテレフタレート樹脂:IV値0.85、末端カルボキシ基量43eq/t
前記(A-1)の調製条件に対して、重縮合反応温度を265℃、重縮合反応時間を117分としたこと以外は同条件で調製した。
【0085】
(A-4)ポリブチレンテレフタレート樹脂:IV値0.83、末端カルボキシ基量51eq/t
前記(A-1)の調製条件に対して、重縮合反応温度を270℃、重縮合反応時間を92分としたこと以外は同条件で調製した。
【0086】
(A-5)ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂):IV値0.93、末端カルボキシ基量31eq/t
次の方法により(A-5)成分を調製した。エステル交換反応を行うためエチレングリコール(富士フイルム和光純薬(株)製)501gにテレフタル酸ジメチル(富士フイルム和光純薬(株)製)1300gを混合し、エステル交換反応触媒として酢酸マグネシウム四水和物(東京化成工業(株)製)0.98gを添加した。これらを精留塔を備えた反応器にて、160℃、窒素気流下の条件で反応を開始し、段階的に昇温を行い、最終的に240℃の条件下でエステル交換反応を行った。留出液の状態などによりエステル交換反応の終了を確認し、エステル交換反応の反応時間を220分間とした。得られた反応物に、重縮合反応触媒として三酸化アンチモン(日本精鉱(株)製)0.47g、リン酸トリメチル(東京化成工業(株)製)0.23gを添加し、温度290℃、圧力100Paの条件で重縮合反応を行った。反応物の粘度などにより重縮合反応の終了を確認し、熱可塑性ポリエステル樹脂を得るための重縮合反応の反応時間を140分間とし、合計360分間反応を実施し、熱可塑性ポリエステル樹脂を得た。
【0087】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)以外の熱可塑性ポリエステル樹脂(A’)
(A’-1)ポリブチレンテレフタレート樹脂:IV値0.87、末端カルボキシ基量13eq/t
前記(A-1)の調製条件に対して、重縮合反応温度を245℃、重縮合反応時間を200分としたこと以外は同条件で調製した。
【0088】
(A’-2)ポリブチレンテレフタレート樹脂:IV値0.86、末端カルボキシ基量21eq/t
前記(A-1)の調製条件に対して、重縮合反応温度を250℃、重縮合反応時間を180分としたこと以外は同条件で調製した。
【0089】
ポリオレフィン樹脂(B)
(B-1)(株)プライムポリマー製ポリプロピレン樹脂、J105G、MFR9.0g/10min
(B-2)(株)プライムポリマー製ポリエチレン樹脂(HDPE)、2200J、MFR5.2g/min
(B-3)エチレン/1-ブテン共重合体:三井化学(株)製“タフマー” (登録商標)A-4085S、(エチレン/1-ブテン重量比:85/15)、MFR6.7g/min、引張弾性率16MPa
(B-4)エチレン/1-ブテン共重合体:三井化学(株)製“タフマー” (登録商標)A-1070S、(エチレン/1-ブテン重量比:74/26)、MFR2.2g/min、引張弾性率6MPa
(B-5)エチレン/1-オクテン共重合体:ダウ・ケミカル(株)製“エンゲージ”8180(エチレン/1-オクテン重量比:63/37)、MFR1.0g/min、引張弾性率4MPa
【0090】
ポリオレフィン樹脂(B)以外の樹脂(B’)
(B’-1)ダイキン工業(株)製ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフロンPTFE ルブロン L5、平均粒径5μm
【0091】
変性エラストマー(C)
(C-1)エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体:住友化学(株)製、“ボンドファースト” (登録商標)BF-2C(エチレン/メタクリル酸グリシジル重量比:94/6)(エポキシ当量:2369g/eq)
(C-2)無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン樹脂:デュポン(株)製、“フサボンド” (登録商標)P613
【0092】
オキソ酸エステル塩、および有機スルホン酸塩より選ばれる少なくとも一種の化合物(D)
(D-1)ドデシル硫酸ナトリウム、富士フイルム和光純薬(株)製
(D-2)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、東京化成工業(株)製
【0093】
エポキシ化合物(E)
(E-1)ジシクロペンタジエン型ノボラックエポキシ:DIC(株)製“EPICLON”(登録商標)HP-7200H(エポキシ当量:275g/eq)
【0094】
無機充填材(F)
(F-1)板状ガラスフィラー:日本板硝子(株)製“ファインフレーク”(登録商標)MEG160FY(平均厚さ:約0.7μm、平均粒径:約160μm)
【0095】
[実施例1~20、比較例1~6]
スクリュー径30mm、L/Dが35の同方向回転ベント付き二軸押出機(日本製鋼所製、TEX-30α)を用いて、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ポリオレフィン樹脂(B)、および変性エラストマー(C)を表1~表4に示した組成で混合した後、二軸押出機の元込め部から添加した。混練温度250℃、スクリュー回転150rpmの押出条件で溶融混合を行い、得られた樹脂組成物をストランド状に吐出し、冷却バスを通して固化させた後、ストランドカッターによりペレット化した。
【0096】
得られたペレットを110℃の温度の熱風乾燥機で6時間乾燥後、前記方法で評価し、表1~表4にその結果を示した。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
実施例1~11と比較例1~7との比較により、末端カルボキシ基量が25eq/t以上の熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、ポリオレフィン樹脂(B)20~70重量部、変性エラストマー(C)5~25重量部配合した樹脂組成物が、室温および-40℃環境下での機械物性、ウェルド部の引張伸度、水蒸気バリア性のバランスに優れることがわかった。
【0102】
実施例1~3、実施例10の比較より、末端カルボキシ基量が30eq/tを超える熱可塑性ポリエステル樹脂(A)を配合した熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が、さらに室温および-40℃環境下での機械物性、ウェルド部の引張伸度、水蒸気バリア性のバランスに優れることがわかった。
【0103】
実施例3と実施例12、13、16の比較、実施例19と実施例20の比較により、さらにオキソ酸エステル塩、有機スルホン酸塩より選ばれる少なくとも一種の化合物(D)を、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し0.01~3.0重量部配合した樹脂組成物が、さらに-40℃環境下での機械物性、ウェルド部の引張伸度、水蒸気バリア性のバランスにより優れることがわかった。
【0104】
実施例3、実施例14、16の比較より、さらにエポキシ化合物(E)を熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に0.5~5重量部配合した樹脂組成物が、さらにウェルド部の引張伸度、耐加水分解性のバランスにより優れることがわかった。
【0105】
実施例3、実施例15、16および比較例8との比較より、さらに無機充填材(F)を熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に0.1~20重量部配合した樹脂組成物が、さらに室温および-40℃環境下での機械物性、水蒸気バリア性のバランスにより優れることがわかった。
【0106】
実施例3と実施例17、18、19の比較より、ポリオレフィン樹脂(B)として共重合ポリオレフィン樹脂を配合した樹脂組成物が、さらに封止性、対水接触角に優れることがわかった。