(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153800
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】光学式検知チップ及び光学式検知システム
(51)【国際特許分類】
G01N 31/22 20060101AFI20231011BHJP
G01N 31/00 20060101ALI20231011BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
G01N31/22 121A
G01N31/00 P
G01N21/78 A
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114513
(22)【出願日】2023-07-12
(62)【分割の表示】P 2023511601の分割
【原出願日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2021131390
(32)【優先日】2021-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506060258
【氏名又は名称】公立大学法人北九州市立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000219565
【氏名又は名称】東横化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【弁理士】
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】李 丞祐
(72)【発明者】
【氏名】平川 清
(72)【発明者】
【氏名】奥田 浩史
(57)【要約】 (修正有)
【課題】被検知ガスに含まれる硫化水素、メチルメルカプタンを短時間で正確に測定できる光学式検知チップを提供する。
【解決手段】透光基材2と、前記透光基材2上に形成され、アミノ基、ケトン基又はキノン類のいずれかを含有する有機色素分子31、および、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、Hg、Ag、Pb及びTlからなる群から選択される少なくとも一つの金属イオン32を含み、硫化水素及びメチルメルカプタンの少なくとも一つを含む被検知ガスに反応して色変化する色素層3を備える層構造体1と、を備える光学式検知チップ。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光基材と、
前記透光基材上に形成され、アミノ基、ケトン基又はキノン類のいずれかを含有する有機色素分子、および、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、Hg、Ag、Pb及びTlからなる群から選ばれる何れか一又は二の金属イオンを含み、
硫化水素及びメチルメルカプタンの少なくとも一つを含む被検知ガスに反応して色変化する色素層を備える層構造体と、
を備える光学式検知チップ。
【請求項2】
前記有機色素分子が、2,6-ジクロロインドフェノール、メチレンブルー、ブロモチモールブルー、メチルレッド、ニュートラルレッドのいずれかである、請求項1に記載の光学式検知チップ。
【請求項3】
前記透光基材が、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ガラスのいずれかである、請求項1又は2に記載の光学式検知チップ。
【請求項4】
前記層構造体が、前記透光基材と前記色素層との間に、平均粒子径が10~100nmで、帯電性を有する粒子からなる粒子層を備える、請求項1、2又は3に記載の光学式検知チップ。
【請求項5】
前記帯電性を有する粒子が、チタニア、シリカ、アルミナからなる群から選択される少なくとも一種の無機粒子を、または、アクリル樹脂、スチレン樹脂、フッ素樹脂及びシリコーン樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂粒子を含む、請求項4に記載の光学式検知チップ。
【請求項6】
前記層構造体が、さらに、有機化合物で形成される有機化合物層を備える、請求項4又は5に記載の光学式検知チップ。
【請求項7】
前記有機化合物層は、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、キトサン、ポリビニルピリジン及びポリリジンからなる群から選択される少なくとも一つのカチオン性有機化合物、または、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニル硫酸、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、ポリフマル酸からなる群から選択される少なくとも一つのアニオン性有機化合物から形成されている、請求項6に記載の光学式検知チップ。
【請求項8】
前記光学式検知チップは、前記透光基材の内部に入射した光を反射する曲面部を有する平面状板材で構成され、前記層構造体が前記曲面部に形成されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の光学式検知チップ。
【請求項9】
前記光学式検知チップは、被検知ガスに含まれる、硫化水素、メチルメルカプタンの検知に用いられる、請求項1~8のいずれか1項に記載の光学式検知チップ。
【請求項10】
硫化水素及びメチルメルカプタンの少なくとも一つを含む被検知ガスの濃度を測定する光学式検知システムであって、
導入する外気中の水分を除去して乾燥ガスにする除湿フィルタと、
採取した被検知ガスが封入されている密閉容器と、
前記密閉容器から前記被検知ガスを輸送するプッシャーブロック及びモータと、
前記被検知ガスをアンモニア、フェノールを除去する第1フィルタを通過させて第1光学式検知チップの曲面部に接触するように輸送する第1経路と、前記被検知ガスをアンモニア、フェノール及び硫化水素を除去する第2フィルタを通過させて第2光学式検知チップの曲面部に接触するように輸送する第2経路とに切り替える電磁バルブと、
発光ダイオード及びフォトダイオードを備える第1及び第2光学式検知デバイスと、
を備える、光学式検知システム。
【請求項11】
前記第1及び第2光学式検知チップは、請求項1~9のいずれか1項に記載の光学式検知チップである、請求項10に記載の光学式検知システム。
【請求項12】
前記光学式検知デバイスは、前記層構造体の色変化を測定する、請求項10又は11に記載の光学式検知システム。
【請求項13】
前記第1フィルタは酢酸カルシウムを含み、前記第2フィルタは酢酸カルシウムと硫酸亜鉛を含む、請求項10~12のいずれか1項に記載の光学式検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学式検知チップ及び光学式検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療・健康の分野では、口腔内のガスに含まれる各種ウイルスを検出することでインフルエンザに代表される感染病の原因を検出するもの、口腔ガスに含まれる硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイドを検出し口腔ガスの成分を濃度表示するもの、呼気ガスに含まれる一酸化窒素(NO)を検出することで喘息の診断をする等の被検知ガスによる検出方法が開発されている。しかし、被検知ガスの一つである口腔ガスは、硫化水素、ジメチルサルファイド、メチルメルカプタンの他に、アンモニア、フェノール、エチルアルコール、トリメチルアミン、アセトン等の数多くの種類の揮発性有機化合物を含んでいることから、それぞれを分離して測定することが難しい。そのために、口腔ガスを含む被検知ガスの分析は実用化が進まないのが現状である。
【0003】
一方、基板上に薄層を形成し、その薄層に特定の化合物を配置することで、電気的、磁気的、化学的、光学的な性質の変化をとらえる層構造体が知られている。特許文献1は、光ファイバ又は光導波路のクラッドの一部に形成されたコア露出部の表面にカチオン性化合物膜とアニオン性化合物膜の複数回の交互積層部を備える雰囲気センサが開示されている。特許文献1は、小型軽量でありながらガスや湿度を高感度で検知することができる雰囲気センサを提供している。特許文献2は、担体の表面に微粒子が吸着して形成される微粒子膜と、有機化合物が吸着して形成される有機化合物膜が開示されている。特許文献2は、特定の分子が吸着する有機化合物膜の表面積を広げることができ、少ない積層数で感度の高いセンサを提供している。
【0004】
また、非特許文献1は、2,6-ジクロロインドフェノール(以下、「DCIP」と称する。)による比色分析の試薬に銅(Cu)イオンを付加してシリカゲルサポートに固定することによって、口腔ガス中の硫化水素ガスを分析している。しかし、非特許文献1には硫化水素とメチルメルカプタンの区別に関して何ら記載されていない。また、全反射測定法(Attenuated Total Reflection:ATR法)に基づく測定で時間がかかり、さらに、湿度による影響を大きく受けて測定結果に関して信頼性が低いという問題がある。
【0005】
しかも、被検知ガスの一つである口腔ガスの分析には、採取できる量が少なく、また、含まれるガスの種類が多いことから測定に時間がかかるという問題があった。特に、歯周病により発生する口腔ガスは、個人差が大きく、微小な量しか採取できないために、正確に測定することが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Julio Rodriguez-Fernandez, Rosario Pereiro, Alfredo Sanz-Medel “Optical fiber sensor for hydrogen sulfide monitoring in mouth air“Analytica Chimica Acta,2002,471.1:13-23
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5219033号公報
【特許文献2】特許第5388309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、被検知ガスに含まれる硫化水素、メチルメルカプタンを短時間で正確に測定できる光学式検知チップを提供することを課題とする。
また、本発明は、被検知ガスのアンモニアガス、フェノールを分離し、硫化水素、メチルメルカプタンの量を測定する光学式検知チップを備える光学式検知システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する手段である本発明の特徴を以下にあげる。
【0010】
(1)本発明は、透光基材と、前記透光基材上に形成され、アミノ基、ケトン基又はキノン類のいずれかを含有する有機色素分子、および、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、Hg、Ag、Pb及びTlからなる群から選ばれる何れか一又は二の金属イオンを含み、硫化水素及びメチルメルカプタンの少なくとも一つを含む被検知ガスに反応して色変化する色素層を備える層構造体と、を備える、光学式検知チップ。
【0011】
(2)本発明は、前記有機色素分子が、2,6-ジクロロインドフェノール、メチレンブルー、ブロモチモールブルー、メチルレッド、ニュートラルレッドのいずれかである、(1)に記載の光学式検知チップ。
【0012】
(3)前記透光基材が、アクリル樹脂(PMMA)、スチレン樹脂(PS)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ガラスのいずれかである、(1)又は(2)に記載の光学式検知チップ。
【0013】
(4)前記層構造体が、前記透光基材と前記色素層との間に、平均粒子径が10~100nmで、帯電性を有する粒子からなる粒子層を備える、(1)、(2)又は(3)に記載の光学式検知チップ。
【0014】
(5)前記帯電性を有する粒子が、チタニア、シリカ、アルミナからなる群から選択される少なくとも一種の無機粒子を、または、アクリル樹脂、スチレン樹脂、フッ素樹脂及びシリコーン樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂粒子を含む、(4)に記載の光学式検知チップ。
【0015】
(6)前記層構造体が、さらに、有機化合物で形成される有機化合物層を備える、(4)又は(5)に記載の光学式検知チップ。
【0016】
(7)前記有機化合物層は、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、キトサン、ポリビニルピリジン及びポリリジンからなる群から選択される少なくとも一つのカチオン性有機化合物、または、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニル硫酸、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、ポリフマル酸からなる群から選択される少なくとも一つのアニオン性有機化合物から形成されている、(6)に記載の光学式検知チップ。
【0017】
(8)前記光学式検知チップは、前記透光基材の内部に入射した光を反射する曲面部を有する平面状板材で構成され、前記層構造体が前記曲面部に形成されている、(1)~(7)のいずれか1つに記載の光学式検知チップ。
【0018】
(9)前記光学式検知チップは、被検知ガスに含まれる、硫化水素、メチルメルカプタンの検知に用いられる(1)~(8)のいずれか1つに記載の光学式検知チップ。
【0019】
(10)硫化水素及びメチルメルカプタンの少なくとも一つを含む被検知ガスの濃度を測定する光学式検知システムであって、導入する外気中の水分を除去して乾燥ガスにする除湿フィルタと、採取した被検知ガスが封入されている密閉容器と、前記密閉容器から被検知ガスを輸送するプッシャーブロック及びモータと、前記被検知ガスをアンモニア、フェノールを除去する第1フィルタを通過させて第1光学式検知チップの曲面部に接触するように輸送する第1経路と、前記被検知ガスをアンモニア、フェノール及び硫化水素を除去する第2フィルタを通過させて第2光学式検知チップの曲面部に接触するように輸送する第2経路とに切り替える電磁バルブと、発光ダイオード(LED)とフォトダイオード(PD)とを備える第1及び第2光学式検知デバイスと、を備える、光学式検知システム。
【0020】
(11)前記第1及び第2光学式検知チップは、(1)~(9)のいずれか一つに記載の光学式検知チップである、(10)に記載の光学式検知システム。
【0021】
(12)前記光学式検知デバイスは、前記層構造体の色変化を測定する、(10)又は(11)に記載の光学式検知システム。
【0022】
(13)前記第1フィルタは酢酸カルシウムを含み、前記第2フィルタは酢酸カルシウムと硫酸亜鉛を含む、(10)~(12)のいずれか1つに記載の光学式検知システム。
【発明の効果】
【0023】
上記課題を解決する手段である本発明によって、以下のような特有の効果を奏する。
本発明は、硫化水素、メチルメルカプタンの量を短時間で、正確に検知する光学式検知チップを提供することができる。
さらに、本発明は、硫化水素、メチルメルカプタンの量を短時間に、正確に検知する光学式検知チップを備える光学式検知システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の光学式検知チップの外観を示している。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態の光学式検知チップが備える層構造体の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、(a)が金属イオンを有する有機色素分子の硫黄化合物に対する反応を示す図であり、(b)がDCIPとAgイオンの混合液の吸光度の変化を示すグラフである。
【
図4A】
図4Aは、有機色素分子の異なる水溶液に、硫黄を含むガスとしてそれぞれメチルメルカプタン(左側の図)、硫化水素(右側の図)を吹き込んだ時の吸光度の変化を示すグラフである。
【
図4B】
図4Bは、金属イオンの異なる水溶液に、硫黄を含むガスとしてそれぞれメチルメルカプタン(左側の図)、硫化水素(右側の図)を吹き込んだ時の吸光度の変化を示すグラフである。
【
図5】
図5は、本発明の他の実施形態の光学式検知チップが備える層構造体の構成を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の他の実施形態の光学式検知チップが備える層構造体の構成を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の光学式検知チップの製造プロセスを説明するための模式図である。
【
図8】
図8は、本発明の光学式検知システムの構成を示す概略図である。
【
図9】
図9は、フィルタの構造を示す概略図である。
【
図10】
図10は、光学式検知チップの入射光と出射光の位置を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の光学式検知システムの測定例を示すグラフである。
【
図12】
図12は、本発明の光学式検知システムと他の測定装置との比較を示すグラフである。
【
図13】
図13は、本発明の光学式検知チップの測定例を示す差分スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施形態を説明する。以下の説明は、本発明における実施形態の一例であって、特許請求の範囲を限定するものではない。なお、以降、金属元素は記号を用いる。
【0026】
(1.光学式検知チップの材料及び構成)
本発明は、透光基材と、アミノ基、ケトン基又はキノン類のいずれかを含有する有機色素分子、例えば、DCIP(C16H6Cl2NaO2)、メチレンブルー(C16H18N3SCl)、ブロモチモールブルー(C27H28Br2O5S)、メチルレッド(C15H15N3O2)、ニュートラルレッド(C15H17ClN4)のいずれかの有機色素分子と、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、Hg、Ag、Pb及びTlからなる群から選択される少なくとも一つの金属イオンとを含み、硫化水素(H2S)とメチルメルカプタン(CH3SH)の少なくとも一つを含む被検知ガスに反応して色変化する色素層を備える層構造体を、透光基材上に形成する光学式検知チップである。
【0027】
(第一の実施形態)
図1は、本発明の光学式検知チップの外観を示している。
図1に示すように、光学式検知チップ14は、透光基材2上に層構造体1を備えている。以下、
図1に基づいて光学式検知チップ14を説明する。
【0028】
(透光基材)
図1に示すように、本発明の光学式検知チップ14は、薄い平板状の透光基材2で、透光基材の樹脂の端部が曲面部になっている。この透光基材2の曲面部に被検知ガスとの接触により色変化を生ずる層構造体1が設けられている。この曲面部によって、入射光7は平面状板材の曲面部で一部が色素層に吸収されて減衰して出射光8となり、入射光7と出射光8の強度差及び色変化を生じさせることができる。
【0029】
(透光基材の材料)
透光基材2は、透光性が高く、また、屈曲部における光の減少を防止するために屈折率が高い方が望ましい。具体的には、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂の他に、透光性のある無機材料としてガラスをあげることができる。以下の表1に、各材料の屈折率を示している。なお、透光基材2は、電荷を付与することがあるために、絶縁性であることが好ましい。ガラスは、耐熱強化ガラス、石英ガラス等の種類を含む総称であり、ケイ酸化合物(ケイ酸塩鉱物)を主成分として、ホウ酸、リン酸等の酸化物等を含有する。本発明の光学式検知チップ14の透光基材2は、透光性が高く、屈折率が低いアクリル樹脂を用いることが好ましい。
【0030】
【0031】
(透光基材の形状)
光学式検知チップ14の透光基材2は、平面状の板状部材で、一部端部に曲面部を有し、特に限定しないが、厚さ0.1~2.0mm、幅2.5~10mm、長さ2.5~10mmの大きさを有する。
【0032】
光学式検知センサは、これまでは通常の場合光ファイバが使用されてきた。しかし、光ファイバの使用用途は、本来的にはデータ通信用であり、検知センサに使用するには感度を向上させる必要がある。そこで、本発明の光学式検知チップ14は、ファイバではない板状部材に曲面部を設けている。本発明の光学式検知チップ14は、U字に曲げた光ファイバと同等の性能を有し、かつ、金型により製造される成型品であるため再現性に優れている。また、本発明の光学式検知チップ14は、成型品にすることで、分析装置への組付け、取り外しを簡便化できる。さらに、本発明の光学式検知チップ14は、分析装置における分析の光量のばらつきが少なくなり、機器や治具への組付け評価も高くなる利点がある。
【0033】
(層構造体)
図2は、本発明の一実施形態の光学式検知チップが備える層構造体の構成を示す図である。
図2に示すように、本発明の層構造体1は、透光基材2上に、アミノ基、ケトン基又はキノン類のいずれかを含有する有機色素分子31及びAgイオン32を含む色素層3を設けている。
【0034】
(色変化)
図3は、(a)が金属イオンを有する有機色素分子の硫黄化合物に対する反応を示す図であり、(b)が有機色素分子の吸光度の変化を示すグラフである。測定は、紫外可視近赤外分光装置を用いている。ここでは、DCIPと被検知ガスとの反応による色変化について説明する。水溶液中で、ここでは詳細は図示していないが、2,6-ジクロロインドフェノールナトリウム塩(DCIPNa)のNaイオンは、硝酸銀(AgNO
3)のAgイオンとイオン交換している。そこにメチルメルカプタン、硫化水素を含む被検知ガスを吹き込むと硫化銀(Ag
2S)が生成し、DCIPイオンの近傍でHイオンが生成する(ステップ1)。DCIPのケトン基、アミノ基はHイオンとの反応性が高く、また発生したHイオンがDCIPの近傍であることから求核攻撃を行う(ステップ2)。その結果、アミノ基が求電子性の高い、2電子不足状態となる。不足した電子は硫化銀の硫黄(S)から供与される。その結果、DCIPイオンが還元され、無色となり膜の吸光度が低下する(ステップ3)。
また、
図3(b)に示すように、DCIPとAgイオンが混合した水溶液における可視光領域における吸光度は、硫化水素を吹き込むことで大きく低下していることがわかる。これにより、DCIPとAgイオンの混合液が、硫化水素、メチルメルカプタンの被検知ガスによって色変化を生ずることがわかるし、色変化を捉えることで硫化水素、メチルメルカプタンが存在することがわかる。
【0035】
(有機色素分子)
本発明における有機色素分子31は、硫化水素、メチルメルカプタン等の被検知ガスと反応し、色変化するアミノ基、ケトン基、キノン類等の官能基を有する化合物を用いる。具体例として、有機色素分子31は、3,7-ジアミノ-5-フェニルフェナジン-5-イウムクロリド(C18H15ClN4)、5,6-ジメチル-1,10-フェナントロリン(C14H12N2)、アシッドブルー9(C37H34N2Na2O9S3)、5-メチル-1,10-フェナントロリン水和物(C13H10N2-XH2O)、1,10-フェナントロリン(C12H8N2)、5-ニトロ-1,10-フェナントロリン(C12H7N3O2)、フルオレセインイソチオシアナート(C21H11NO5S)、エオシン(C20H8Br4O5)、ベーシックバイオレット(C24H28ClN3)、2,2’-ビピリジル(C10H8N2)、N-フェニルアントラニル酸(C13H11NO2)、フェロイン溶液(C36H24FeN6O4S)、ビオローゲン(C32H54Cl2N2O10)、2,6-ジクロロインドフェノール(C16H6Cl2NaO2:DCIP)、2,6-ジクロロフェノールインド-o-クレゾールナトリウム(C13H8Cl2NNaO2)、2,7-ジアミノ-9-チオニア-10-アザアントラセン(C12H10N3S)、インジゴトリスルホン酸カリウム(C16H7K3N2O11S3)、インジゴカルミン(C16H8N2Na2O8S2)、ニュートラルレッド(C15H17ClN4)、メチルロザニリン塩化物(C25H30ClN3)、チモールブルー(C27H30O5S)、メチルエロー(C14H15N3)、ブロモフェノールブルー(C19H10Br4O4S)、コンゴーレッド(C32H22N6Na2O6S2)、メチルオレンジ(C14H14N3NaO3S)、ブロモクレゾールグリーン(C21H14Br4O5S)、メチレンブルー(C16H18ClN3S)、メチルレッド(C15H15N3O2)、メチルパープル(C14H11NO3)、アゾリトミン(C10H11N3O)、ブロモクレゾールパープル(C21H16Br2O5S)、クレゾールレッド(C21H18O5S)、フェノールフタレイン(C20H14O4)、チモールフタレイン(C28H30O4)、フェノサフラニン(C18H15ClN4)、インジゴテトラスルホン酸(C16H6N2O14S4.4KH2O)、ブロモチモールブルー(C27H28Br2O5S)、ジフェニルアミン(C12H11N)、ジフェニルベンジジン(C24H20N2)、ジフェニルアミンスルホン酸(C12H11NO3S)、5,6-ジメチルフェナントロリン鉄(II)(5,6-ジメチルフェロイン)((C14H5N2)3Fe)、エリオグラウシンA(C37H34N2Na2O9S3)、5-メチルフェナントロリン鉄(II)(5-メチルフェロイン)(C13H10N2)、フェナントロリン鉄(II)(フェロイン)([Fe(C12H8N2)3]SO4)、5-ニトロフェナントロリン鉄(II)(ニトロフェロイン)(C12H7N3O2)等、または、これらのいずれかの塩をあげることができる。このなかで、特に、DCIP、メチレンブルー、ブロモチモールブルー、メチルレッド、ニュートラルレッドが好ましい。これらの有機色素及び官能基は、炭素の環状構造により電子移動が行われやすく、アミノ基、ケトン基、キノン類を有することで、プロトンとの反応性が高くすることができる。
【0036】
(金属イオン)
硫化水素、メチルメルカプタンと反応する金属イオン32は、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cd、Hg、Ag、Pb及びTlからなる群から選ばれる何れか一つの元素を用いることが望ましいが、物性を制御するために、二つ以上の元素を用いることもできる。その場合、元素の種類が多くなると精密な組成の調整、制御に手間がかかる問題もあるので、同時に選択する元素は二つ以下とすることが好ましい。特に、選択する金属としてはCu、Ag、Hgが好ましい。金属イオンは、酸との塩の形態で水に溶解させた水溶液を有機色素分子31に塗布する。または、有機色素分子31を設けている透光基材2を水溶液に浸漬することで形成することができる。酸としては、塩酸、臭化水素、硫酸、硝酸、スルホン酸、酢酸等のカルボン酸等を用いることができる。特に、硝酸銀、硝酸銅を用いることが好ましい。色変化が大きく、検知が容易だからである。
【0037】
(沈殿係数)
これらの金属イオン32は、硫化水素、メチルメルカプタンと反応すると、プロトンが生成されこのプロトンにアミノ基のN(窒素)の不対電子、もしくは、ケトン基、キノン類のO(酸素)が求核作用により、最終的にはカルボカチオンが生成され有機色素分子31が還元される。したがって、金属イオン32の硫化物の沈殿係数の低い方が硫化物を生成しやすくなる。そこで、表2に示すように、金属の硫化物の沈殿係数が1×10-16以下で、好ましくは1×10-25以下で、より好ましくは、1×10-35以下である。具体的には、硫化銅(CuS)、Ag2S、硫化水銀(HgS)がより好ましいことから、金属は、Cu、Ag、Hgが好ましい。
【0038】
【0039】
(金属イオンの配置)
有機色素分子31は、透光基材2上にDCIPNaが層を形成している。
図2に示すように、透光基材2上での構成の状況は、DCIPが2層構成になっている。これは、ベンゼン環による疎水性効果によっている。DCIPは、窒素(N)原子の部分でおれていて、その上にベンゼン環効果でもう一層のDCIPが吸着する。Agイオンが最外層に吸着するのは、最外層のDCIPはNa塩のままなので、その状態で硝酸銀の溶液につけるとNaイオンとAgイオンがイオン交換して膜に吸着する。この吸着したAgイオンが被検知ガスとの接触で効率的に色変化を起こす反応を生ずる。
【0040】
図4Aは、有機色素分子の異なる水溶液に、硫黄を含むガスとしてそれぞれメチルメルカプタン(左側の図)、硫化水素(右側の図)を吹き込んだ時の吸光度の変化を示すグラフである。
図4Bは、金属イオンの異なる水溶液に、硫黄を含むガスとしてそれぞれメチルメルカプタン(左側の図)、硫化水素(右側の図)を吹き込んだ時の吸光度の変化を示すグラフである。
図4A(a)は、金属イオンがAgイオンで、有機色素分子がDCIPの水溶液におけるメチルメルカプタン、硫化水素の吸光度の変化を示している。
図4A(b)は、金属イオンがAgイオンで、有機色素分子がメチレンブルーの水溶液におけるメチルメルカプタン、硫化水素の吸光度の変化を示している。
図4A(c)は、金属イオンがAgイオンで、有機色素分子がプロモチモールブルーの水溶液におけるメチルメルカプタン、硫化水素の吸光度の変化を示している。
図4B(a)は、金属イオンがCuイオンで、有機色素分子がDCIPの水溶液におけるメチルメルカプタン、硫化水素の吸光度の変化を示している。
図4B(b)は、金属イオンがFeイオンで、有機色素分子がDCIPの水溶液におけるメチルメルカプタン、硫化水素の吸光度の変化を示している。
いずれの水溶液においても、メチルメルカプタン、硫化水素により、吸光度が変化していることが分かる。また、上述した他の有機色素分子、金属イオンでも同様に吸光度の変化を示している。
【0041】
(第2の実施形態)
図5は、本発明の他の実施形態の光学式検知チップが備える層構造体を示す図である。
本発明の光学式検知チップ14を構成する層構造体1は、透光基材2と、有機色素層31及び金属イオン32からなる色素層3との間に、平均粒子径が10~100nm、好ましくは30~80nmで、帯電性を有する粒子からなる粒子層4を備える。粒子層4は、粒子が単層又は複層で形成されている。複層にすることで、粒子層4が形成する連続空間が増え、被検知ガスが入り金属イオン32と接触する機会を増やすことで、光学式検知チップ14の感度が向上させることができる。
【0042】
(粒子層)
粒子層4における粒子の平均粒子径は、10~100nm好ましくは30~80nmである。粒子層4の粒子間に適度な大きさの連続した空隙を形成して、被検知ガスの拡散性に優れ、応答性に優れた層構造体1を得ることができる。粒子の平均粒子径が30nmより小さくなると、粒子間に形成される空隙が小さくなり被検知ガスの拡散性が低下する傾向がみられる。特に、10nmより小さくなると被検知ガスの拡散性が著しく低下する。粒子の平均粒子径が80nmより大きくなると、透光基材2や色素層3への粒子の吸着速度が低下し、均一な粒子層4の作成が困難となる。特に、100nmより大きくなると、均一な粒子層4の作成が著しく困難になる。
【0043】
粒子は無機粒子、樹脂粒子のいずれでもよい。また、粒子は、乾式、湿式のいずれの製造方法であってもよい。粒子としては、表面電荷を有するもの、表面に電荷を導入できるものであれば、特に制限なく用いることができる。例えば、チタニア、シリカ、アルミナ等の酸化物、炭化物、窒化物等の無機粒子をあげることができる。また、天然樹脂及び/又は合成樹脂、またはこれらの誘導体があげられる。粒子の形状としては、略球状に形成されたものが好適に用いられる。分散性に優れるとともに、粒子層4の粒子間に形成される空隙の大きさを制御し易いからである。
【0044】
また、粒子の表面電荷は、透光基材2の表面の電荷(図示せず)に静電相互作用するように粒子の表面電荷を変えることで粒子を直接透光基材2上に設けることができる。吸着させる相手材の電荷と反対の電荷であればアニオン性、カチオン性のいずれでもよい。透光基材2の表面の電荷に静電相互作用するよう、粒子の表面電荷を変えることで有機化合物層5を介さず、粒子を直接に透光基材2上に設けることができる。粒子はシリカが好ましい。そのほかに、チタニア、アルミナを複合して用いることができる。シリカ表面にアルミナを処理してコーティングしてもよい。また、シリカのアニオン性に対して、カチオン性のアルミナを処理することで表面の極性を制御することができる。
【0045】
(電荷層の形成)
光学式検知チップ14は、透光基材2に電荷を付与してもよい。電荷は、アニオン性、カチオン性のいずれでもよい。この電荷を有する電荷層(図示せず)を備えることで、透光基材2と色素層3とを強固に、長期に安定した層構造体1を形成することができる。電荷層は、特に限定されるものではないが、コロナ放電によるプラズマ処理で形成することができる。また、アニオン性、カチオン性の水溶液に浸漬又は塗布することで、電荷を付着させることができる。
【0046】
(粒子層の形成)
粒子層4は、後述する有機化合物層5と反対の電荷を有する透光基材2の表面を、粒子の分散液に浸漬させて、粒子層4を形成することができる。粒子の分散液は、水又は有機溶媒、水と有機溶媒の混合液に粒子を分散させたものが用いられる。また、粒子表面の処理のためにカチオン性のゾル状の処理剤を用いることもできる。必要に応じて、塩酸等の添加や緩衝液の使用によって、分散液のpHを調整し、粒子が十分に電荷を有するようにすることができる。分散液の濃度は粒子の分散性等に依存するが、粒子の吸着が相手材の電荷の中和及び飽和に基づいているので、厳密な濃度設定は必要としない。標準的には0.1~25wt%が用いられるが、この範囲に限定されるものではない。
【0047】
(第3の実施形態)
図6は、本発明の他の実施形態の光学式検知チップが備える層構造体の構成を示す図である。層構造体1が、色素層3と粒子層4と、さらに、有機化合物で形成される有機化合物層5とを備えている。
図6に示すように、透光基材2と色素層3との間に、有機化合物を吸着して形成される有機化合物層5と、シリカ等の粒子からなる粒子層4とを交互に少なくとも1層ずつ積層する。透光基材2上には、電荷層(図示せず)を設けてもよい。透光基材2上に、有機化合物層5を設けその上に粒子層4を設けても良いし、透光基材2上に、粒子層4を設け、その上に有機化合物層5を設けても良い。この順番は用いる色素層3の電荷に応じて選択するのが良い。被検知ガスの拡散性を考えた場合、最外層は粒子層4が望ましい。カチオン性色素を用いる場合は、粒子層4はアニオン性を用いた方が色素の導入量が多くなるため良い。この場合、有機化合物層5はカチオン性を用いた方が電荷的に安定のため良い。また、透光基材2はアニオン性が付与されるものが多いことから、カチオン性色素を用いる場合、カチオン性有機化合物層5、アニオン性粒子層4、色素層3とするのが良い。
【0048】
有機化合物としては、電荷を有する官能基を主鎖又は側鎖にもつ有機高分子が用いられる。カチオン性有機化合物としては、4級アンモニウム基等のカチオン性電荷を帯びる官能基を有するもの、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリビニルピリジン、ポリリジン等の少なくとも一つで、単独または混合して用いることができる。アニオン性有機化合物としては、スルホン酸、硫酸、カルボン酸等のアニオン性電荷を帯びることのできる官能基を有するもの、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニル硫酸、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、ポリフマル酸等の少なくとも一つで、単独または混合して用いることができる。また、導電性高分子やポリアニリン-N-プロパンスルホン酸等の機能性高分子等を用いることもできる。粒子層3又は透光基材2の表面電荷と反対の電荷を有する有機化合物を用いて、粒子層3や透光基材2に有機化合物を吸着させ有機化合物層5を形成することができる。
【0049】
(歯周病への適用)
口腔内は歯周病からだけではなく、胃腸等の消化器系、肺等の呼吸系からも生命活動、新陳代謝などから多数の物質が出ている。特に、硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイド((CH3)2S)、エチルアルコール(C2H5OH)、トリメチルアミン((CH3)3N)、アセトン((CH3)2O)、フェノール(C6H5OH等)等も含まれている。また、空気中にある酸素、二酸化炭素等のガス、花粉等の粒子も含まれている。この中で、歯周病により硫化水素、メチルメルカプタンが多く発生することがわかっている(出典:YAEGAKI, K.; SANADA, K. Volatile sulfur compounds in mouth air from clinically healthy subjects and patients with periodontal disease. Journal of periodontal research, 1992, 27.4: 233-238.)。そこで、本発明の光学式検知チップ14は、硫化水素、メチルメルカプタンを選択的に測定することで、歯周病を容易に発見することが示唆されている。
なお、ここでフェノールとは、芳香族置換基上にヒドロキシ基(-OH)を持つ化合物であり、一例としてフェノール(C6H5OH)をあげられる。
【0050】
(2.光学式検知チップの製造方法)
本発明の光学式検知チップ14で、透光基材2上に層構造体1として色素層3、粒子層4、有機化合物層5とを備える光学式検知チップ14の製造方法について説明する。
【0051】
(第1の実施形態の製造方法)
図7は、本発明の光学式検知チップの製造プロセスを説明するための模式図である。層構造体1として色素層3を備える光学式検知チップ14の製造方法について説明する。
初めに、光学式検知チップ14の透光基材2を受け入れ、外観チェックを行い、外観に傷等があるものが後工程に入らないように受け入れ工程1を設けている。
次に、
図7(1)に示すように、透光基材2を蒸留水、純水、超純水中で、超音波を印加しながら洗浄する洗浄工程2を設けている。これにより、製膜面のごみを取り除き不良品の発生を防いでいる。
さらに、洗浄後の製膜面の観察を顕微鏡で行う洗浄後検査工程3を設けている。成形不良がある物、汚れがついている物が、後工程に入るのを防止している。
【0052】
次に、
図7(2)に示すように、洗浄・乾燥後には、コロナ放電によりプラズマ処理をし、透光基材2上に電荷を付与するプラズマ処理工程4を設けている。これにより、透光基材2をプラズマにより親水化している。このプラズマ処理は必須の工程ではないが、後述する有機色素成分層31又は粒子層4を形成するときに、親水化していることで、安定した、また、強固な層を形成することができる。
【0053】
次に、複数の透光基材2を製膜カセットに載せるカセット載せ替え工程5を設けている。この製膜カセットを製膜装置に載せ、複数の透光基材2の製膜を行う。
次に、
図7(3)に示すように、カセットを製膜装置にセットするカセットの設置工程6を設けている。
次に、カセットを、有機色素成分を溶解している溶媒中に浸漬して、透光基材2上に有機色素成分層31を形成し、次に、金属イオンを溶解している溶媒中に浸漬して、有機色素成分層31上に金属イオン32を導入する製膜工程7を設けている。
【0054】
次に、製膜した透光基材2を装着しているカセットを製膜装置から取り出すカセット取り出し工程8を設けている。
次に、
図7(4)に示すように、オーブンに入れて乾燥して溶媒を除去する乾燥工程9を設けている。
【0055】
その後、透光基材2上の製膜面を顕微鏡で観察し、製膜面に異常がないか検査する製膜面の検査工程10を設けている。製膜面の検査工程10では、観察した製膜面に異常がある透光基材2を廃棄している。
その後、カセットから透光基材2を取出し、製膜面を保護するためにキャップを装着させる組付け工程11を設けている。
その後、
図7(5)に示すように、組付けた光学式検知チップ14をアルミパッケージ等の包装材等に組み立てる包装工程12を設けている。光学式検知チップ14における層構造体1は、金属イオン32が表面に存在することから、空気中の酸素、水分によって劣化する。したがって、光学式検知チップ14を組み立て後には、早期に包装する必要がある。また、冷暗所に置いて保存することが望ましい。
【0056】
(第2の実施形態の製造方法)
本発明の第2の実施形態における光学式検知チップ14の製造方法について説明する。第2の実施形態の光学式検知チップ14は、透光基材2上には粒子層4を設けている。粒子層4における粒子は、アニオン性、カチオン性等の極性はいずれでもよく、または、無機粒子、樹脂粒子でもよい。しかし、透光基材2上にプラズマ工程によるイオンの極性と反対の極性の粒子を塗布処理することで安定して、かつ、密に詰まった多数の粒子を配置することができるし、粒子の粗密を制御する。この粒子層4の上に、有機色素成分層31を形成し、さらに、有機色素成分層31上に金属イオン32を導入することで光学式検知チップ14を製造する。
【0057】
(第3の実施形態の製造方法)
本発明の第3の実施形態における光学式検知チップ14の製造方法について説明する。本発明は、電荷層と色素層3との間に、有機化合物層5と粒子層4とをそれぞれ1層以上を備える光学式検知チップ14を製造する。
【0058】
図6に示されている透明基板2の直上に電荷層(図示せず)を設け、その直上に有機化合物層5を設けている。電荷層が、アニオン性であれば、有機化合物層5はカチオン性にする。有機化合物としては、アニオン性有機化合物、カチオン性有機化合物を用いる。粒子や透光基材2の表面電荷と反対の電荷を有する有機化合物を用いて、粒子層3や透光基材2に有機化合物を吸着させ有機化合物層5を形成する。
【0059】
本発明の光学式検知チップ14は、有機化合物層5の上部に粒子層4を設ける。この粒子層4は、直下の有機化合物層5のカチオン性に対応するために、アニオン性にする。粒子層4の粒子径が大きくなると、層構造体1が厚くなり、透光基材2から遠くなり感度が低下する。それを防ぐには、粒子の直径を小さくすることが好ましい。
【0060】
最初にアニオン性の有機化合物層5を設ける場合は、直上の粒子層4はカチオン性にする。これによって、強固に付着させることができる。さらに、層数を増やして反応するポイントを多くすることで、小さい反応に対して色変化の感度を上げることができる。最後の粒子層4の後に、色素層3によって、Agイオン32が頂上となる。重ね合わせることで、Agイオン32の反映する場所が多くなり、反応するポイントの密度が高くなる。この有機化合物層5と粒子層4とを、それぞれ少なくとも1層以上を交互に積層する。空間を大きくして、被検知ガスを大量に取り込み、反応のポイント数を増やし、感度を上げる。
【0061】
(光学式検知チップの応用)
以上説明したように、光学式検知チップ14は、種々の分析に応用することができる。分析は、適当な波長のスペクトルを試料に入射した後で、光の一部を吸収又は減衰した出射光によって物質又は物質の状態を特定することができる。
【0062】
(3.光学式検知システムの構成)
図8は、本発明の光学式検知システムの構成を示す概略図である。
本発明の光学式検知システム10は、被検知ガスに含まれる硫化水素、メチルメルカプタンの濃度を測定する光学式検知システム10であって、導入する外気の水分を除去してドライエアにする除湿フィルタ132と、採取した被検知ガスが封入されている密閉容器12と、密閉容器12から被検知ガスを輸送するプッシャーブロック121及びモータ122と、被検知ガスを、第1フィルタ111に通してアンモニア(NH
4OH)、フェノール(C
6H
5OH)等を除去して第1フィルタ111を通過した硫化水素、メチルメルカプタンを第1光学式検知チップ141の曲面部にある層構造体1に接触するように輸送する第1経路と、第2フィルタ112を通してアンモニア、フェノール及び硫化水素を除去して第2フィルタ112を通過したメチルメルカプタンを第2光学式検知チップ142の曲面部にある層構造体1に接触するように輸送する第2経路に切り替える電磁バルブ161、162と、LED171とPD172を配置した第1及び第2光学式検知デバイス151、152を備える。
その他に、電磁バルブ161、162、シリンジモータ122等の電子部品を動作させる制御系システム(図示せず)、第1及び第2光学式検知デバイス151、152に配置されるLED171とPD172を測定し、濃度等を計算する測定系システム(図示せず)を有している。以下に、光学式検知システム10について詳細に説明する。
【0063】
(ドライエアの作製)
本発明の光学式検知システム10は、ポンプを開いてから外気を取りいれ、ごみ除去用フィルタ131でごみ、花粉等の粒子を除去する。その後、乾燥剤を含む除湿フィルタ132を通過させてして水分を除去して乾燥した空気であるドライエアを作製する。ドライエアは、ポンプで第1及び第2電磁バルブ161、162へ輸送管で輸送される。
【0064】
(被検知ガスの電磁バルブへの輸送)
次に、被検知ガスを採取し、光学式検知システム10内の、密閉容器12に採取した被検知ガスを移送する。密閉容器12は輸送管に連結していて、シリンジモータ122により動作するプッシャーブロック121によって押し出され、輸送管で電磁バルブ161、162まで輸送される。シリンジモータ122は、硫化水素、メチルメルカプタンのガス量を正確に輸送するために用いられている。密閉容器12から所定の量の被検知ガスを輸送する。
【0065】
(フィルタへの輸送)
光学式検知システム1内に光学式検知チップ14を配置し測定を開始する。次に、第1及び第2電磁弁161、162をあけて、所定量を正確に第1及び第2フィルタ111、112に輸送する。
図9は、フィルタの構造を示す概略図である。
図9(1)に示す第1フィルタ111は、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合(PFA)製の筒状の樹脂チューブ191のその前後に石英ウール194を配置して、内部に酢酸カルシウム((CH
3COO)
2Ca)の粉体193を充填させている。
図9(2)に示す第2フィルタ112は、PFA製の筒状の樹脂チューブ191の内部に、硫酸亜鉛(ZnSO
4)を染み込ませたポリプロピレン(PP)製の不織布192と酢酸カルシウムの粉体193を充填させている。酢酸カルシウムは、弱塩基性であって、被検知ガス内の測定しない不要なガス成分の一つであるアンモニア(NH
4OH)と反応して、これを除去することができる。また、同様にフェノールを酢酸カルシウムのCaと錯体を形成させて除去することができる。また、硫酸亜鉛は、硫化水素を除去することができる。
【0066】
(光学式検知デバイスによる測定)
光学式検知チップ14に被検知ガスを接触させることで、光学式検知チップ14の色素層3で色変化を生ずる。第1及び第2光学式検知デバイス151、152は、入射光を光学式検知チップ14の色素層3に当てることで光学式検知チップの層構造体1の色変化の情報を獲得した出射光を捉えることができる。入射光の発光素子はLED171で、受光素子はPD172を用いている。第1及び第2光学式検知デバイス151、152におけるLED171の波長は、限定するものではなく、有機色素分子に対応した波長を用いることができる。
【0067】
本発明の光学式検知システム10は、波長を長さに変換した膜の厚さの構造を反映することができ、波長による回折限界を超えた分解能での観測が可能になる。透光基材2の屈折率が、空気の屈折率である1.0より大きいことから、入射した光が曲面部で反射される。
図10は、光学式検知チップの入射光と出射光の位置を示す図である。光学式検知チップ14は、長さ方向の端部は曲面部になっていて、相対する下部の端部は平面状になっている。LED171から発射する単一の波長を有する入射光を、光ファイバを通して、光学式検知チップ14の平面状端部から、曲面部に向かって入射する。入射光7は、光学式検知チップ14の曲面部が、層構造体1の色変化の情報を獲得し、下部平面状端部から出射光8として出射し、光ファイバを通して、PD172でとらえることができる。入射した光は平面状板材の曲面部で漏洩、有機色素分子に吸収され、出射光として反射されるのでのその強度の変化から色変化を検知する。
【0068】
(光学式検知チップへの輸送)
光学式検知チップ14をセットし、第2光学式検知チップ142をドライエアの雰囲気にしてベースラインを取得する(
図11の(i)ドライエア(a)の部分)。この時、第1光学式検知チップ141にはドライエアを当てないこととする。ベースライン取得後、第2電磁弁162からケミカルフィルタ112を通して第2光学式検知チップ142へ被検知ガスを流して接触させる(
図11の(ii)ガス暴露の部分)。この間、第1電磁バルブ161を通して、ドライエアを光学式検知チップ141に接触させる。このとき、第2電磁バルブ162で第2光学式検知チップ142にドライエアが混入しないように遮断する。第2光学式検知チップ142への被検知ガスの暴露後、第2電磁弁162を切り替えて、第1電磁バルブ161から第1フィルタ111を通して光学式検知チップ141に被検知ガスを暴露させる。この間、第2光学式検知チップ142にドライエアを暴露させベースラインを引きなおすこととする(
図11の(iii)ドライエア(b)の部分)。
【0069】
第1光学式検知チップ141も被検知ガスの暴露後、ドライエアを暴露しベースラインを引きなおすこととする。暴露前と暴露後のベースラインの値の差分を変化量として、それに応じた濃度を算出する。第2フィルタ112で硫化水素を除去していることから、第2光学式検知デバイス152はメチルメルカプタンの反応による出力が得られる。第1フィルタ111では、硫化水素を除去していないため、第1光学式検知デバイス151は、メチルメルカプタンと硫化水素の混合ガスによる反応の出力が得られる。
【0070】
(硫化水素、メチルメルカプタンの測定)
このように、第2光学式検知デバイス152からは、メチルメルカプタンとの反応による出力が得られ、第1光学式検知デバイス151からは、硫化水素とメチルメルカプタンの混合ガスによる反応の出力が得られる。第2光学式検知デバイス152から、メチルメルカプタンだけの出力が得られるので、第1光学式検知デバイス151の出力から差し引く事で、硫化水素のみの出力が得られる。第1光学式検知デバイス151、第2光学式検知デバイス152から得られる値から硫化水素とメチルメルカプタンのそれぞれ濃度を算出する。
【実施例0071】
本発明の実施例について以下に説明する。本発明は様々な態様が可能であり、以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
(実験例)
光学式検知チップの透光基材は、材質がアクリル樹脂(旭化成社製:デルペット80N)で、厚さ0.5~3mmの平板で、曲線形状の半径が1.0~5.0mmで、表面粗さが0.03~0.3mmで成形している。
この透光基材の表面を蒸留水に浸漬し、超音波洗浄により表面を洗浄した。次に、曲線形状の表面にプラズマ処理をし、O3により表面に電荷を付与している。
次に、カチオン性のシリカゾル(平均粒子径45nm、スノーテックスST-AK-L、日産化学製)を20~25%含む水溶液に、透光基材を10分間浸漬した。この操作により、シリカによる粒子層を形成していた。1層当たりの層厚は、シリカゾルの溶液の濃度、浸漬する時間で制御することができる。
次に、透光基材を水洗で洗浄し、次に、1mmol/LのDCIPNa(関東化学製)水溶液に浸漬し、粒子層表面に1層の有機色素成分層を形成した。
次に、1mmol/LのAgNO3(関東化学社製)水溶液に、10分間浸漬し、有機色素成分層の表面にAgイオンを吸着させて、色素層を形成した。
これにより、光学式検知チップを作成し、光学式検知デバイスに装着させて、硫化水素とメチルメルカプタンの測定に供した。以下の実験は、すべてこの光学式検知デバイスを用いている。
【0073】
光学式検知デバイスを上述した構成を有する光学式検知システムに装着した。
次に、測定するための被検知ガスの採取方法を以下のとおりの順序で進める。
(1)ストローを唇で挟み、唇をしっかりと閉じる。
(2)その状態で30秒待ち、30秒間被検知ガスを溜める。その間は鼻呼吸で口をあけないようにする。
(3)注射器用プランジャをゆっくり引き、シリンジの中に被検知ガス:10mLを採取する。
(4)採取後すぐに測定を開始する。
【0074】
図11は、本発明の光学式検知システムの測定例を示すグラフである。
初めに、ドライエアを一定時間流して、光学式検知デバイスに供給して、光学式検知式チップ表面にある曲線部の層構造体の水分を乾燥により除去する。このときの、測定前の層構造体の吸光度として測定する。この時の電圧を測定電圧(a)とする。
次いで、密閉容器から被検知ガスを供給し電磁バルブを開き、光学式検知デバイスと被検知ガスとを接触させる。次に、常時点灯しているLEDによる単一の670nmの光が光学式検知デバイスから反射されて戻ってくる。このときに、入射光が層構造体の色素層の色変化をとらえ、この変化をPDが電圧として測定する。次いで、ドライエアを流して、この時の、電圧を測定電圧(b)とする。この測定電圧(a)と測定電圧(b)との差分から、ガスに含まれる硫化水素とメチルメルカプタンの濃度を検出する。
【0075】
図11に示すように、初めに、被検知ガスとの接触で光学式検知チップの湿度が変化するために一定電圧が低下している。しかし、被検知ガスを流すと反応が生じ測定電圧が大きくなっていく。この電圧の増加は、硫化水素とメチルメルカプタンの濃度に比例する。
図11に示すように、メチルメルカプタンの量の増加分に応じて測定する電圧が変化していることがわかる。また、硫化水素でも同様の結果が得られた。
【0076】
図12は、本発明の光学式検知システムとガスクロマトグラフィ装置との相関を示すグラフで、(a)硫化水素、(b)メチルメルカプタンの相関を示している。
硫化水素とメチルメルカプタンの濃度が不明の被検知ガスを、本発明の光学式検知システムとガスクロマトグラフィ装置で測定した。採取した被検知ガスを、ガスクロマトグラフィ装置によって10mLで分析し、残り10mLを本発明の光学式検知システムで分析した。ガスクロマトグラフィ装置の構成は、ガスクロマトグラフィ装置(アジレントテクロノジー社製)とパルスド炎光光度検出器(金陵電機製)を用い、波長は390nmをセンターにし測定した。
図12(a)に示すように、硫化水素の場合は相関係数Rが0.95で、
図12(b)に示すように、メチルメルカプタンの場合は相関係数Rが0.99で、両者とも強い相関性があることが分かる。したがって、本発明の光学式検知システムは、被検知ガスからでもガスクロマトグラフィ装置と同等の測定精度を有する。
【0077】
また、本実験に使用したガスクロマトグラフィ装置は、測定結果の表示まで8分かかるのに対して、本発明は90秒で測定結果を表示できる。また、一般的なガスクロマトグラフィ装置は高純度水素、高純度ヘリウム、高純度空気が必要であるが、本発明の光学式検知システムは、爆発する危険性のある高純度水素や入手が困難になりつつある高純度ヘリウムを必要とせず、短時間で、正確に測定することができる。
【0078】
図13は、本発明の光学式検知チップの測定例を示す差分スペクトルを示すグラフである。本発明の光学式検知チップを用いた光学式検知デバイスを、200~1000nmの波長の重水素ハロゲン光源(オーシャンインサイト製:DH-2000)と分光器(オーシャンインサイト製:HR-2000+)に接続し、被検知ガスの暴露を行ない、その被検知ガス暴露前後の波長スペクトルを記録し、得られた波長スペクトルから差分スペクトルを計算している。
被検知ガスとして、1.0ppmのそれぞれ硫化水素とメチルメルカプタンを7mL、本発明の光学式検知チップに暴露して測定している。
図13(a)被検知ガスが硫化水素の場合、
図13(b)被検知ガスがメチルメルカプタンのグラフに示している。
図13(a)(b)に示すように、差分スペクトルに大きな差分があり、硫化水素とメチルメルカプタンを検知していることがわかる。
以上の結果からわかるように、本発明によれば、被検知ガスから、硫化水素とメチルメルカプタンの濃度をガスクロマトグラフィ装置と同程度の精度で、短時間で、正確に測定する光学式検知チップ、光学式検知システムを提供することができる。