(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153876
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】負極活物質、電気化学装置及び電子装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20231011BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231011BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20231011BHJP
C01B 32/21 20170101ALI20231011BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/133
C01B32/21
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023120553
(22)【出願日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】202211214083.5
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】蔡 余新
(72)【発明者】
【氏名】陳 宇聖
(72)【発明者】
【氏名】董 佳麗
(57)【要約】 (修正有)
【課題】負極活物質、並びに当該負極活物質を含む電気化学装置および電子装置を提供する。
【解決手段】本発明の負極活物質は、黒鉛および非晶質炭素を含み、負極活物質は、ラマン試験により、1.6≦W
D/W
G≦2.6を満たし、ここで、W
Dは、ラマンスペクトルにおける1340cm
-1~1370cm
-1の範囲内のDピークの半値幅であり、40cm
-1≦W
D≦100cm
-1を満たし、W
Gはラマンスペクトルにおける1570cm
-1~1590cm
-1の範囲内のGピークの半値幅であり、15cm
-1≦W
G≦50cm
-1を満たす。本発明の負極活物質は表面処理を経て、その表面は比較的に高い表面格子の欠陥度を有することで、そのグラムあたりの容量と動力学的特性を効果的に向上させることができ、さらに当該負極活物質を含む電気化学装置が高いエネルギー密度と電気化学特性を両立する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛および非晶質炭素を含み、
前記負極活物質は、ラマン試験により、1.6≦WD/WG≦2.6を満たし、
WDは、ラマンスペクトルにおける1340cm-1~1370cm-1の範囲内のDピークの半値幅であり、40cm-1≦WD≦100cm-1を満たし、
WGは、ラマンスペクトルにおける1570cm-1~1590cm-1の範囲内のGピークの半値幅であり、15cm-1≦WG≦50cm-1を満たす、負極活物質。
【請求項2】
WDとWGが、1.7≦WD/WG≦2.5を満たす、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
前記負極活物質は、
(i)WDとWGが、2≦WD/WG≦2.5を満たすことと、
(ii)WDが40cm-1≦WD≦60cm-1を満たすことと、
(iii)WGが15cm-1≦WG≦35cm-1を満たすことと、
(iv)前記負極活物質は、0.08≦ID/IG≦1.2を満たし、IDは前記Dピークの強度であり、IGは前記Gピークの強度であることと、のうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項4】
前記負極活物質は、
(v)前記負極活物質の比表面積をB1としたとき、B1が0.8cm2/g≦B1≦5.4cm2/gを満たすことと、
(vi)前記負極活物質の最可能孔径は2.5nm~3.5nmであり、前記負極活物質の孔容積に占める前記負極活物質の最可能孔径の孔容積の割合は、3%~8%であることと、
(vii)前記負極活物質は基面と端面を含み、前記負極活物質の比表面積に占める前記基面の比表面積の割合は40%~70%であることと、
(viii)前記負極活物質は基面と端面を含み、前記端面の粗さは前記基面の粗さよりも大きいことと、のうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
【請求項5】
前記負極活物質は、
(ix)B1が1.0cm2/g≦B1≦4.5cm2/gを満たすことと、
(x)前記負極活物質の最可能孔径は2.7nm~3.3nmであり、前記負極活物質の孔容積に占める前記負極活物質の最可能孔径の孔容積の割合は3.5%~7%であることと、
(xi)前記負極活物質の比表面積に占める前記基面の比表面積の割合は、45%~65%であることと、
(xii)前記負極活物質に1t圧力を加えた後の比表面積をB2としたとき、B2とB1が(B2-B1)/B1×100%≦80%を満たすことと、のうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項4に記載の負極活物質。
【請求項6】
前記負極活物質は、
(xiii)X線光電子分光法による試験により、前記負極活物質中の酸素の質量含有量は2%~5%であることと、
(xiv)前記負極活物質のタップ密度は0.90g/cm3~1.05g/cm3であることと、
(xv)前記負極活物質が5tの圧力での粉末の圧縮密度は1.9g/cm3~2.05g/cm3であることと、のうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
【請求項7】
前記負極活物質の製造方法は、
S1:黒鉛材料を提供することと、
S2:S1中の黒鉛材料と炭素質前駆体とを混合し、炭素質前駆体で被覆された黒鉛材料を得ることと、
S3:S2中の炭素質前駆体で被覆された黒鉛材料を炭酸水素塩と混合して混合物を得、前記混合物を熱処理して前記負極活物質を得ることと、を含むことを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
【請求項8】
負極を含み、
前記負極は負極集電体と前記負極集電体の少なくとも一方の表面に設けられた負極活物質層とを含み、
前記負極活物質層は請求項1~7のいずれか1項に記載の負極活物質を含む、電気化学装置。
【請求項9】
前記負極活物質の比表面積は4.35cm2/g~5.9cm2/gであり、および/または
前記負極とリチウム金属からなるボタン電池を用いて充放電試験を行い、前記ボタン電池は、0.005V~2Vでの可逆容量をC1mAh/gとし、0V~2Vでの可逆容量をC2mAh/gとすると、C2-C1≧1を満たすことを特徴とする請求項8に記載の電気化学装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵分野に関し、具体的には、負極活物質、並びに、当該負極活物質を含む電気化学装置及び電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)は、環境にやさしく、動作電圧が高く、比容量が大きく、サイクル寿命が長いなどの利点を備えるため、広く使用されており、今の世界で最も有望な新型グリーン化学電源になっている。近年、高い出力特性を持っている中型および大型のリチウムイオン電池は、電気自動車(EV)及び大規模なエネルギー貯蔵システム(ESS)に適用するために開発される。リチウムイオン電池の汎用に伴い、電池の持続時間に対する憂慮が徐々に顕在化し、エネルギー密度の向上は早急に解決すべき重要な技術的課題となっている。電極中の活物質を改良することは、上述課題を解決するための研究方向の一つである。
【0003】
先行技術では、主に人工黒鉛の黒鉛化度を高める方法、または天然黒鉛を使用して負極材料のグラムあたりの容量を高める方法を採用することで、電極アセンブリーのエネルギー密度を高めるが、これは同時にサイクル特性に深刻な影響を与え、彼方立てれば此方が立たないことになり、リチウムイオン電池の総合的な使用性能を両立することが困難になる。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、少なくともある程度で、関連分野における少なくとも一つの課題を解決するために、負極活物質、並びに、当該負極活物質を含む電気化学装置及び電子装置を提供した。
【0005】
第1の態様において、本発明は、黒鉛および非晶質炭素を含む負極活物質を提供し、ここで、前記負極活物質は、ラマン試験により、1.6≦WD/WG≦2.6を満たし、ここで、WDは、ラマンスペクトルにおける1340~1370cm-1の範囲内のDピークの半値幅であり、40cm-1≦WD≦100cm-1を満たし、WGはラマンスペクトルにおける1570cm-1~1590cm-1の範囲内のGピークの半値幅であり、15cm-1≦WG≦50cm-1を満たす。本発明において、Dピークの半値幅は、負極活物質の表面結晶粒の大きさを表し、主にその表面格子の欠陥度を反映する。Gピークの半値幅は負極活物質の結晶化度を表す。WD/WGが上記範囲にあると、負極活物質の表面格子の欠陥度が比較的に大きく、このような表面格子の欠陥は、活性イオンの急速な挿入に有利であり、負極活物質の動力学的特性を向上させることができる。さらに重要なのは、このような表面格子の欠陥は、より多くの活性イオンを貯蔵することで、負極活物質のグラムあたりの容量を向上させることもできる。いくつかの実施形態において、負極活物質は、1.7≦WD/WG≦2.5を満たす。いくつかの実施形態において、負極活物質は、2≦WD/WG≦2.5を満たす。
【0006】
いくつかの実施形態において、40cm-1≦WD≦60cm-1を満たす。いくつかの実施形態において、15cm-1≦WG≦35cm-1を満たす。
【0007】
いくつかの実施形態において、当該負極活物質は、0.08≦ID/IG≦1.2を満たし、ここで、IDはDピークの強度であり、IGはGピークの強度である。ID/IGの比は、負極活物質の結晶欠陥度を特徴付けることができ、その値が大きいほど欠陥度が高いことを示す。高い欠陥度は活性イオンの脱離チャネルを増加し、活性イオンの脱離速度を向上させることで、負極活物質の動力学的特性を向上させることができる。しかし、欠陥が多すぎると、電気化学装置の初回クーロン効率、サイクル、貯蔵などの特性の低下を招く。ID/IGの比が上記範囲内にあると、電気化学装置は良好な動力学を示すことができると同時に、その初回クーロン効率、サイクルなどの特性も明らかに低下しない。いくつかの実施形態において、0.1≦ID/IG≦1.0を満たす。
【0008】
いくつかの実施形態において、負極活物質は、当該負極活物質の比表面積をB1としたとき、0.8cm2/g≦B1≦5.4cm2/gを満たす。負極活物質は、比表面積が小さいほど、電解液との接触面積も小さくなるため、電気化学装置がSEI膜を初めて形成する際に消費する活性イオンが減少し、初回クーロン効率が高くなる。しかし、比表面積が小さすぎると、電解液の浸潤と活性拡散が困難になり、電気化学装置の動力学的特性に影響を与える。いくつかの実施形態において、1.0cm2/g≦B1≦4.5cm2/gを満たす。
【0009】
いくつかの実施形態において、当該負極活物質は基面と端面を含み、ここで、当該負極活物質の比表面積に占める基面の比表面積の割合は40%~70%である。リチウムイオンは主に黒鉛端面およびいくつかの欠陥部位を通じて内部に挿入し、かつ、電解液は主に端面で黒鉛と副反応してSEI膜を形成し、基面の比表面積の割合が高いほど、副反応が少なくなり、電気化学装置の初回クーロン効率およびサイクル安定性を改善することができる。しかし、基面の割合が高すぎると動力学的特性に影響を与える。基面の割合が上記範囲内にあると、電気化学装置は良好な初回クーロン効率およびサイクル特性を示すことができ、動力学的特性も両立することができる。いくつかの実施形態において、当該負極活物質の比表面積に占める基面の比表面積の割合は45%~65%である。
【0010】
いくつかの実施形態において、当該負極活物質は基面と端面を含み、ここで、端面の粗さは基面の粗さよりも大きい。
【0011】
いくつかの実施形態において、当該負極活物質の最可能孔径(the most probable pore diameter)は2.5nm~3.5nmである。負極活物質の最可能孔径は、孔径に伴う孔容積(pore volume)の変化率が最も大きい孔径を表し、すなわち、孔径‐孔容積微分曲線上で、最も強いピークに対応する孔径を最可能孔径と称する。本発明の負極活物質の最可能孔径は上述の範囲内にあると、一方ではリチウムを貯蔵して容量を高めることができ、他方ではリチウムを挿入する通路として機能して動力学的特性を高めることができる。孔径が大きすぎると副反応が増加する。いくつかの実施形態において、当該負極活物質の最可能孔径は2.7nm~3.3nmである。
【0012】
いくつかの実施形態において、当該負極活物質の孔容積に占める負極活物質の最可能孔径の孔容積の割合は3%~8%である。いくつかの実施形態において、当該負極活物質の孔容積に占める負極活物質の最可能孔径の孔容積の割合は3.5%~7%である。
【0013】
いくつかの実施形態において、負極活物質は、1t圧力を加えた後の比表面積をB2としたとき、(B2-B1)/B1×100%≦80%を満たす。負極活物質の加圧前後の比表面積が上述の関係式を満たすことは、負極活物質の構造が安定し、電気化学装置のサイクル過程における膨張特性の改善に有利であることを示す。
【0014】
いくつかの実施形態において、X線光電子分光法による試験により、当該負極活物質中の酸素の質量含有量は2%~5%である。表面の酸素含有量は、負極活物質の表面格子の欠陥の程度をある程度反映することができる。表面の酸素含有量が低すぎると、表面に十分な欠陥が形成されず、材料のグラムあたりの容量および動力学的特性に対する改善効果がない。表面の酸素含有量が高すぎると、形成された欠陥が多すぎて、初回クーロン効率の低下および電解液の消耗の増加を招く。酸素含有量が上記範囲内にあると、負極活物質は表面結晶の欠陥の程度が適当であり、最適なグラムあたりの容量と動力学的改善効果を発揮することができるが、他の特性に影響を与えない。いくつかの実施形態において、当該負極活物質中の酸素の質量含有量は2.2%~4.0%である。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記負極活物質のタップ密度は0.90g/cm3~1.05g/cm3である。いくつかの実施形態において、前記負極活物質が5tの圧力での粉末の圧縮密度(compacted density)は1.9g/cm3~2.05g/cm3である。粉末の圧縮密度が増加することで、負極活物質は高い圧縮密度の極片設計に用いられることで、電気化学装置の体積エネルギー密度を高めることができる。しかし、圧縮密度が大きすぎると、負極活物質の層間滑りがやすすぎ、材料の生地が柔らかくなるため、極片の反発が小さくなり、内部粒子の堆積により形成された孔隙が減少することによって、さらに電解液の浸潤と活性イオン拡散が困難になるため、電気化学装置の特性に影響を与える。
【0016】
いくつかの実施形態において、当該負極活物質の製造方法は、
S1:黒鉛材料を提供することと、
S2:S1中の黒鉛材料と炭素質前駆体とを混合し、炭素質前駆体で被覆された黒鉛材料を得ることと、
S3:S2中の炭素質前駆体で被覆された黒鉛材料を炭酸水素塩と混合して混合物を得、混合物を熱処理して当該負極活物質を得ることと、含む。
【0017】
本発明の負極活物質の製造方法は、まず、黒鉛材料の表面に炭素前駆体を優先的に被覆することにより、その後のガスとの反応をより容易にする。次に、熱により分解して酸化性雰囲気を発生できる固体を選択して黒鉛材料と優先的に混合し、黒鉛表面で発生する酸化反応をより均一かつ制御的にし、得られた負極活物質は、表面酸化の程度が適度であり、高いグラムあたりの容量と優れた動力学的特性を両立する。
【0018】
第2の態様において、本発明は、負極を含む電気化学装置を提供した。当該負極は負極集電体と負極集電体の少なくとも一方の表面に設けられた負極活物質層とを含み、ここで、当該負極活物質層は第1の態様の負極活物質を含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、負極活物質の比表面積は4.35cm2/g~5.9cm2/gである。
【0020】
いくつかの実施形態において、当該負極とリチウム金属からなるボタン電池を用いて充放電試験を行い、ボタン電池は、0.005V~2Vの間の可逆容量をC1mAh/gとし、0V~2Vの間の可逆容量をC2mAh/gとすると、C2-C1≧1を満たす。
【0021】
第3の態様において、本発明は、第2の態様の電気化学装置を含む電子装置を提供した。
【0022】
本発明は、負極活物質の表面が比較的に高い表面格子の欠陥度を持つように、負極活物質の表面を酸化処理した。すなわち、活性イオンの急速な挿入に有利であり、負極活物質の動力学的特性を高めることができ、また、より多くの活性イオンを貯蔵し、負極活物質のグラムあたりの容量を向上させることができ、さらに、当該負極活物質を含む電気化学装置が高いエネルギー密度と電気化学的特性を両立するようにする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
以下では、本発明の実施例を説明するために、本発明の実施例または先行技術を説明するための必要な図面を概略に説明する。明らかに、以下に説明される図面は、本発明の実施例の一部にすぎない。当業者にとって、創造的労力をかけない前提で、依然としてこれらの図面に例示される構造により他の実施例の図面を得ることができる。
【
図1】
図1は、本発明の実施例9及び比較例1の負極活物質のRamanスペクトルを示す。
【
図2】
図2は、本発明の実施例9及び比較例1の負極活物質の孔径‐孔容積微分曲線を示す。
【
図3】
図3は、本発明の実施例9の負極活物質のSEM図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。本発明の実施例は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0025】
なお、本明細書では、量、比率、その他の数値を範囲フォーマットで表すことがある。このような範囲フォーマットは、便利さと簡潔さのために使用されることを理解すべき、範囲制限として明示的に指定された数値だけでなく、各数値およびサブ範囲を明示的に指定するように、その範囲内に含まれるすべての個別の数値またはサブ範囲を含むことを柔軟に理解すべきである。
【0026】
具体的な実施形態および請求項の範囲において、「のうちの少なくとも一方」、「のうちの少なくとも1つ」、「のうちの少なくとも1種」または他の類似用語によって接続された項のリストは、リストされた項の任意の組み合わせを意味することができる。例えば、項Aと項Bがリストされている場合、「AとBのうちの少なくとも1つ」は、Aのみ、Bのみ、またはAとBを意味する。別の実例において、項A、項B、および項Cがリストされている場合、「A、B、およびCのうちの少なくとも1つ」は、Aのみ、またはBのみ、Cのみ、AとB(Cを除く)、AとC(Bを除く)、BとC(Aを除く)、またはA、B、Cのすべてを意味する。項Aは、単一の要素または複数の要素を含んでいてもよい。項Bは、単一の要素または複数の要素を含んでいてもよい。項Cは、単一の要素または複数の要素を含んでいてもよい。
【0027】
一、負極活物質
本発明で提供される負極活物質は、黒鉛および非晶質炭素を含み、ここで、前記負極活物質は、ラマン試験により、1.6≦WD/WG≦2.6を満たし、ここで、WDは、ラマンスペクトルにおける1340cm-1~1370cm-1の範囲内のDピークの半値幅であり、40cm-1≦WD≦100cm-1を満たし、WGはラマンスペクトルにおける1570cm-1~1590cm-1の範囲内のGピークの半値幅であり、15cm-1≦WG≦50cm-1を満たす。本発明において、Dピークの半値幅は、負極活物質の表面結晶粒の大きさを表し、主にその表面格子の欠陥度を反映する。Gピークの半値幅は負極活物質の結晶化度を表す。WD/WGが上記範囲にあると、負極活物質の表面格子の欠陥度が比較的に大きく、このような表面格子の欠陥は、活性イオンの急速な挿入に有利であり、負極活物質の動力学的特性を向上させることができる。さらに重要なのは、このような表面格子の欠陥は、より多くの活性イオンを貯蔵することで、負極活物質のグラムあたりの容量を向上させることもできる。いくつかの実施形態において、WD/WGは、1.65、1.75、1.85、1.9、1.95、2.0、2.05、2.15、2.25、2.35、2.45、2.55、またはこれらの数値のいずれか2つからなる範囲である。いくつかの実施形態において、1.7≦WD/WG≦2.5を満たす。いくつかの実施形態において、2≦WD/WG≦2.5を満たす。
【0028】
いくつかの実施形態において、WDは、42cm-1、44cm-1、46cm-1、48cm-1、50cm-1、52cm-1、54cm-1、56cm-1、58cm-1、60cm-1、65cm-1、70cm-1、75cm-1、80cm-1、85cm-1、90cm-1、95cm-1、またはこれらの数値のいずれか2つからなる範囲である。いくつかの実施形態において、40cm-1≦WD≦60cm-1を満たす。WDが高すぎると、材料の表面の結晶粒が小さすぎ、欠陥が多いため、副反応が多く、電気化学装置の初回クーロン効率が低いことを示し、低すぎると、材料の表面処理が不十分であり、リチウムを貯蔵して容量を向上させるための欠陥が少なく、動力学的特性が改善されないことを示す。
【0029】
いくつかの実施形態において、WGは、16cm-1、17cm-1、18cm-1、19cm-1、20cm-1、21cm-1、22cm-1、23cm-1、24cm-1、25cm-1、26cm-1、27cm-1、28cm-1、29cm-1、30cm-1、31cm-1、32cm-1、33cm-1、34cm-1、37cm-1、40cm-1、43cm-1、45cm-1、47cm-1、またはこれらの数値のいずれか2つからなる範囲である。いくつかの実施形態において、15cm-1≦WG≦35cm-1を満たす。WGが高すぎると、材料の結晶化度が悪く、結晶構造が著しく破壊されるため、初回クーロン効率が明らかに低下し、かつ活物質層間のリチウム貯蔵部位が減少し、容量が低下することを示し、低すぎると、材料の結晶性が良く、黒鉛化度が高く、容量と初回クーロン効率が高いが、動力学が悪く、電気化学装置が高温サイクル中に不安定であることを示す。
【0030】
いくつかの実施形態において、当該負極活物質は、0.08≦ID/IG≦1.2を満たし、ここで、IDはDピークの強度であり、IGはGピークの強度である。ID/IGの比は、負極活物質の結晶欠陥度を特徴付けることができ、その値が大きいほど欠陥度が高いことを示す。高い欠陥度は活性イオンの脱離チャネルを増加させ、活性イオンの脱離速度を向上させることで、負極活物質の動力学的特性を向上させることができる。しかし、欠陥が多すぎると、電気化学装置の初回クーロン効率、サイクル、貯蔵などの特性の低下を招く。ID/IGの比が上記範囲内にあると、電気化学装置は良好な動力学を示すことができると同時に、その初回クーロン効率、サイクルなどの特性も明らかに低下しない。いくつかの実施形態において、ID/IGは、0.09、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、0.95、1.0、1.05、1.1、1.15、またはこれらの数値のいずれか2つからなる範囲である。いくつかの実施形態において、0.1≦ID/IG≦1.0を満たす。
【0031】
いくつかの実施形態において、負極活物質は、当該負極活物質の比表面積をB1としたとき、0.8cm2/g≦B1≦5.4cm2/gを満たす。負極活物質は、比表面積が小さいほど、電解液との接触面積も小さくなるため、電気化学装置がSEI膜を初めて形成する際に消費する活性イオンが減少し、初回クーロン効率が高くなる。しかし、比表面積が小さすぎると、電解液の浸潤と活性拡散が困難になり、電気化学装置の動力学的特性に影響を与える。いくつかの実施形態において、B1は、0.9cm2/g、1.1cm2/g、1.3cm2/g、1.5cm2/g、1.7cm2/g、2.0cm2/g、2.3cm2/g、2.5cm2/g、2.7cm2/g、3.0cm2/g、3.3cm2/g、3.5cm2/g、3.7cm2/g、4.0cm2/g、4.3cm2/g、4.7cm2/g、4.9cm2/g、またはこれらの数値のいずれか2つからなる範囲である。いくつかの実施形態において、1.0cm2/g≦B1≦4.5cm2/gを満たす。
【0032】
いくつかの実施形態において、当該負極活物質は基面と端面を含み、ここで、当該負極活物質の比表面積に占める基面の比表面積の割合は40%~70%である。基面の比表面積の割合が高いほど、副反応が少なくなり、電気化学装置の初回クーロン効率とサイクル安定性を改善することができる。しかし、基面の割合が高すぎると動力学的特性に影響を与える。基面の割合が上記範囲内にあると、電気化学装置は良好な初回クーロン効率およびサイクル特性を示すことができ、動力学的特性も両立することができる。いくつかの実施形態において、当該負極活物質の比表面積に占める基面の比表面積の割合は42%、44%、46%、48%、50%、52%、54%、56%、58%、60%、62%、64%、66%、68%、またはこれらの数値のいずれか2つからなる範囲である。いくつかの実施形態において、当該負極活物質の比表面積に占める基面の比表面積の割合は45%~65%である。
【0033】
いくつかの実施形態において、当該負極活物質は基面と端面を含み、ここで、端面の粗さは基面の粗さよりも大きい。いくつかの実施形態において、
図3に示すように、負極活物質の端面(左側)の粗さは、基面(右側)の粗さよりも大きい。
【0034】
いくつかの実施形態において、当該負極活物質の最可能孔径は2.5nm~3.5nmである。負極活物質の最可能孔径は、孔径に伴う孔容積の変化率が最も大きい孔径を表す。本発明の負極活物質の最可能孔径は上述の範囲内にあると、一方ではリチウムを貯蔵して容量を高めることができ、他方ではリチウムを挿入する通路として機能して動力学的特性を高めることができ、孔径が大きすぎると副反応が増加する。いくつかの実施形態において、負極活物質の最可能孔径は、2.55nm、2.6nm、2.65nm、2.7nm、2.75nm、2.8nm、2.85nm、2.9nm、2.95nm、3.0nm、3.05nm、3.1nm、3.15nm、3.2nm、3.25nm、3.3nm、3.35nm、3.4nm、3.45nm、またはこれらの数値のいずれか2つからなる範囲である。いくつかの実施形態において、当該負極活物質の最可能孔径は2.7nm~3.3nmである。
【0035】
いくつかの実施形態において、当該負極活物質の孔容積に占める負極活物質の最可能孔径の孔容積の割合は3%~8%である。いくつかの実施形態において、当該負極活物質の孔容積に占める負極活物質の最可能孔径の孔容積の割合は4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、またはこれらの数値のいずれか2つからなる範囲である。いくつかの実施形態において、当該負極活物質の孔容積に占める負極活物質の最可能孔径の孔容積の割合は3.5%~7%である。
【0036】
いくつかの実施形態において、負極活物質は、1t圧力を加えた後の比表面積をB2としたとき、(B2-B1)/B1×100%≦80%を満たす。負極活物質の加圧前後の比表面積が上述の関係式を満たすことは、負極活物質の構造が安定し、電気化学装置のサイクル過程における膨張特性の改善に有利であることを示す。いくつかの実施形態において、負極活物質は、10%≦(B2-B1)/B1×100%≦80%を満たす。いくつかの実施形態において、(B2-B1)/B1×100%は、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、またはこれらの数値のいずれか2つからなる範囲である。
【0037】
いくつかの実施形態において、負極活物質は、4.0cm2/g≦B2≦6.0cm2/gを満たす。いくつかの実施形態において、B2は、4.1cm2/g、4.3cm2/g、4.5cm2/g、4.7cm2/g、5.0cm2/g、5.3cm2/g、5.5cm2/g、5.7cm2/g、またはこれらの数値のいずれか2つからなる範囲である。本発明において、B2は負極活物質に1tの圧力を加えた後の比表面積である。負極活物質に圧力を加える方法は以下の通りである。電子圧力試験機(三思縦横(SUNS)UTM7305)を用い、重量1.0±0.05gの負極活物質の粉末を直径13mmの金型上に置き、負極活物質の粉末に1tの圧力を加えて5s保持し、圧力を外して粉末を取り出す。
【0038】
いくつかの実施形態において、X線光電子分光法による試験により、当該負極活物質中の酸素の質量含有量は2%~5%である。表面の酸素含有量は、負極活物質の表面格子の欠陥の程度をある程度反映することができる。表面の酸素含有量が低すぎると、表面に十分な欠陥が形成されず、材料のグラムあたりの容量および動力学的特性に改善効果がない。表面の酸素含有量が高すぎると、形成された欠陥が多すぎて、初回クーロン効率の低下および電解液の消耗の増加を招く。酸素含有量が上記範囲内にあると、負極活物質は表面結晶の欠陥の程度が適当であり、最適なグラムあたりの容量と動力学的改善効果を発揮することができるが、他の特性に影響を与えない。いくつかの実施形態において、負極活物質中の酸素の質量含有量は、2.1%、2.3%、2.5%、2.7%、3.0%、3.3%、3.5%、3.7%、3.9%、4.3%、4.5%、4.7%、またはこれらの数値のいずれか2つからなる範囲である。いくつかの実施形態において、当該負極活物質中の酸素の質量含有量は2.2%~4.0%である。
【0039】
いくつかの実施形態において、当該負極活物質のタップ密度は0.90g/cm3~1.05g/cm3である。いくつかの実施形態において、負極活物質のタップ密度は、0.90g/cm3、0.91g/cm3、0.92g/cm3、0.93g/cm3、0.95g/cm3、0.96g/cm3、0.97g/cm3、0.98g/cm3、0.99g/cm3、1.00g/cm3、1.01g/cm3、1.02g/cm3、1.03g/cm3、1.04g/cm3、またはこれらの数値のいずれか2つからなる範囲である。
【0040】
いくつかの実施形態において、負極活物質が5tの圧力での粉末の圧縮密度は1.9g/cm3~2.05g/cm3である。粉末の圧縮密度が増加することで、負極活物質は高い圧縮密度の極片設計に用いられることで、電気化学装置の体積エネルギー密度を高めることができる。しかし、圧縮密度が大きすぎると、負極活物質の層間滑りがやすすぎ、材料の生地が柔らかくなるため、極片の反発が小さくなり、内部粒子の堆積により形成された孔隙が減少することによって、さらに電解液の浸潤と活性イオン拡散が困難になるため、電気化学装置の特性に影響を与える。いくつかの実施形態において、負極活物質が5tの圧力での圧縮密度は、1.90g/cm3、1.92g/cm3、1.93g/cm3、1.94g/cm3、1.96g/cm3、1.97g/cm3、1.98g/cm3c、1.99g/cm3、2.01g/cm3、2.02g/cm3、2.03g/cm3、2.04g/cm3、またはこれらの数値のいずれか2つからなる範囲である。
【0041】
いくつかの実施形態において、当該負極活物質の製造方法は、
S1:黒鉛材料を提供することと、
S2:S1中の黒鉛材料と炭素質前駆体とを混合し、炭素質前駆体で被覆された黒鉛材料を得ることと、S3:S2中の炭素質前駆体で被覆された黒鉛材料を炭酸水素塩と混合して混合物を得、混合物を熱処理して当該負極活物質を得ることとを含む
【0042】
本発明の負極活物質の製造方法は、まず、黒鉛材料の表面に炭素前駆体を優先的に被覆することにより、その後のガスとの反応をより容易にする。次に、熱により分解して酸化性雰囲気を発生できる固体を選択して黒鉛材料と優先的に混合し、黒鉛表面で発生する酸化反応をより均一かつ制御的にし、得られた負極活物質は、表面酸化の程度が適度であり、高いグラムあたりの容量と優れた動力学的特性を両立する。
【0043】
いくつかの実施形態において、S1における、黒鉛材料を提供することは以下のステップを含む。黒鉛前駆体をバインダーと混合して第1の混合物を得、第1の混合物に第1の熱処理を行って黒鉛材料前駆体を得、黒鉛材料前駆体を黒鉛化処理して前記黒鉛を得る。
【0044】
いくつかの実施形態において、黒鉛前駆体は、コールタールピッチ、石炭系重油、常圧残油、石油系重油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリベンゼン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、フルフリルアルコール樹脂、フェノール樹脂、イミド樹脂等の有機物から選ばれる少なくとも1種である。いくつかの実施形態において、黒鉛前駆体は、石油コークスおよびピッチコークスから選ばれる少なくとも1種である。いくつかの実施形態において、バインダーは、ピッチ、樹脂、およびタールから選ばれる少なくとも1種である。いくつかの実施形態において、バインダーは高温ピッチを選択する。いくつかの実施形態において、高温ピッチの軟化点は、200℃~250℃であり、例えば、210℃、220℃、または240℃である。いくつかの実施形態において、黒鉛前駆体とバインダーとの割合は1:(0.1~1)であり、例えば、1:0.1、1:0.2、1:0.3、1:0.4、1:0.5、1:0.6、1:0.7、1:0.8、または1:0.9である。
【0045】
いくつかの実施形態において、第1の熱処理の温度は450℃~550℃であり、例えば、460℃、470℃、480℃、490℃、500℃、510℃、520℃、530℃または540℃である。いくつかの実施形態において、第1の熱処理の時間は1h~5hであり、例えば2h、3hまたは4hである。いくつかの実施形態において、黒鉛化処理の温度は2500℃~3200℃であり、例えば、2600℃、2700℃、2800℃、2900℃、3000℃、または3100℃である。いくつかの実施形態において、黒鉛化処理の時間は10h~200hであり、例えば20h、40h、60h、80h、100h、120h、140h、160h、または180hである。
【0046】
いくつかの実施形態において、S2における炭素質前駆体は、ピッチ類、樹脂類およびコールタールから選ばれる少なくとも1種である。いくつかの実施形態において、ピッチ類は、コールタール、タール軽油、タール中油、タール重油、ナフタレン油、アントラセン油、コールタールピッチ、ピッチ油、中間相ピッチ、酸素架橋石油ピッチ、重油から選ばれる少なくとも1種である。いくつかの実施形態において、樹脂類は、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸などの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂から選ばれる少なくとも1種である。いくつかの実施形態において、ピッチ類の軟化点は、40℃~90℃であり、例えば、50℃、60℃、70℃、または80℃である。
【0047】
いくつかの実施形態において、S2における混合温度は、50℃~100℃であり、例えば、60℃、70℃、80℃または90℃である。いくつかの実施形態において、S2における炭素質前駆体の質量含有量は、黒鉛材料の質量に基づいて、0.1%~15%であり、例えば、1%、3%、5%、7%、9%、10%、12%または14%である。
【0048】
いくつかの実施形態において、S3における炭酸水素塩は、炭酸水素アンモニウムおよび/または炭酸水素ナトリウムから選択される。いくつかの実施形態において、S3における炭酸水素塩の質量含有量は、炭素質前駆体で被覆された黒鉛材料の質量に基づいて、0.5%~15%であり、例えば、1%、3%、5%、7%、9%、10%、12%、または14%である。いくつかの実施形態において、S3における熱処理の温度は、50℃~1000℃であり、例えば、100℃、150℃、200℃、250℃、300℃、350℃、400℃、450℃、500℃、550℃、650℃、700℃、800℃、または900℃である。いくつかの実施形態において、S3における熱処理の時間は4h~10hであり、例えば、5h、6h、7h、8hまたは9hである。いくつかの実施形態において、S3における熱処理は、不活性雰囲気中で行われ、例えば、窒素またはアルゴン中で行われる。
【0049】
二、電気化学装置
本発明の電気化学装置は、負極を含み、当該負極は負極集電体と負極集電体の少なくとも一方の表面に設けられた負極活物質層とを含み、ここで、当該負極活物質層は第1の態様の負極活物質を含む。
【0050】
いくつかの実施形態において、負極活物質の比表面積は4.35cm2/g~5.9cm2/gである。いくつかの実施形態において、負極活物質の比表面積は、4.5cm2/g、4.7cm2/g、5.0cm2/g、5.3cm2/g、5.5cm2/g、5.7cm2/g、またはこれらの数値のいずれか2つからなる範囲である。本発明において、電気化学装置における負極活物質の比表面積は、電気化学装置の電圧が3Vまで放電し、分解して負極を取り出し、負極極片上の粉末を掻き落として測定した比表面積である。
【0051】
いくつかの実施形態において、当該負極とリチウム金属からなるボタン電池を用いて充放電試験を行い、ボタン電池は、0.005V~2Vの間の可逆容量をC1mAh/gとし、0V~2Vの間の可逆容量をC2mAh/gとすると、C2-C1≧1を満たす。いくつかの実施形態において、C2-C1の値は、1mAh/g、2mAh/g、3mAh/g、4mAh/g、5mAh/g、6mAh/g、またはこれらの数値のいずれか2つからなる範囲である。本発明において、ボタン電池を構成する負極は、電気化学装置が電圧3Vまで放電した後、分解された負極である。
【0052】
いくつかの実施形態において、当該電気化学装置はリチウムイオン電池を含み、25℃で500サイクル後、リチウムイオン電池の膨張率は9%未満である。いくつかの実施形態において、当該リチウムイオン電池の膨張率は8%未満または7%未満である。
【0053】
いくつかの実施形態において、負極活物質層はさらに粘着剤を含む。いくつかの実施形態において、粘着剤は、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、カルボキシル化されたポリ塩化ビニル、ポリフルオロエチレン、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(1,1-ジフルオロエチレン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル(エステル)化されたスチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂、またはナイロンを含むが、これらに限定されない。
【0054】
いくつかの実施形態において、負極活物質層は導電材を含む。いくつかの実施形態において、導電材は、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、金属粉末、金属繊維、銅、ニッケル、アルミニウム、銀またはポリフェニレン誘導体を含むが、これらに限定されない。
【0055】
いくつかの実施形態において、負極集電体は、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、発泡ニッケル、発泡銅、または導電性金属で被覆されたポリマー基材を含むが、これらに限定されない。
【0056】
本発明の電気化学装置は、さらに正極を含み、本発明の実施形態における正極に使用され得る材料、構成およびその製造方法は、先行技術に開示されている任意の技術を含む。
【0057】
いくつかの実施形態において、正極は集電体と当該集電体上に位置する正極活物質層とを含む。
【0058】
いくつかの実施形態において、正極活物質は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン(NCM)三元材料、リン酸第一鉄リチウム(LiFePO4)またはマンガン酸リチウム(LiMn2O4)を含むが、これらに限定されない。
【0059】
いくつかの実施形態において、正極活物質層は、粘着剤をさらに含み、そして、任意に導電材を含む。粘着剤は、正極活物質粒子同士の結合を高め、また、正極活物質と集電体の結合を高めることができる。
【0060】
いくつかの実施形態において、粘着剤は、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、カルボキシル化されたポリ塩化ビニル、ポリフルオロエチレン、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(1,1-ジフルオロエチレン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル(エステル)化されたスチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂、またはナイロンを含むが、これらに限定されない。
【0061】
いくつかの実施形態において、導電材は、炭素系材料、金属系材料、導電性ポリマー、及びこれらの混合物を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、炭素系材料は、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、またはそれらの任意の組み合わせから選択される。いくつかの実施例において、金属系材料は、金属粉末、金属繊維、銅、ニッケル、アルミニウム、および銀から選択される。いくつかの実施例において、導電性ポリマーはポリフェニレン誘導体である。
【0062】
いくつかの実施形態において、集電体は、アルミニウムを含むことができるが、これらに限定されない。
【0063】
正極は、当該技術分野で公知の調製方法によって調製することができる。例えば、正極は、溶媒中に活物質、導電材及び粘着剤を混合して活物質組成物を調製し、この活物質組成物を集電体上に塗布する方法により得ることができる。いくつかの実施例において、溶媒は、N-メチルピロリドンを含むことができるが、これらに限定されない。
【0064】
本発明の電気化学装置は、電解液をさらに含む。本発明の実施例に用いられる電解液は、先行技術で既知のものでありうる。
【0065】
いくつかの実施形態において、当該電解液は、有機溶媒、リチウム塩及び添加剤を含む。本発明に係わる電解液の有機溶媒は、先行技術で既知の任意の、電解液の溶媒として使用可能な有機溶媒でありうる。本発明に係わる電解液に用いられる電解質は限定されず、先行技術で既知の任意の電解質でありうる。本発明に係わる電解液の添加剤は、先行技術で既知の任意の、電解液の添加剤として使用可能なものでありうる。
【0066】
いくつかの実施形態において、前記有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネートまたはプロピオン酸エチルを含むが、これらに限定はされない。
【0067】
いくつかの実施形態において、前記リチウム塩は、有機リチウム塩または無機リチウム塩のうちの少なくとも1種を含む。
【0068】
いくつかの実施形態において、前記リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドLiN(CF3SO2)2(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドLi(N(SO2F)2)(LiFSI)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウムLiB(C2O4)2(LiBOB)またはジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムLiBF2(C2O4)(LiDFOB)を含むが、これらに限定はされない。
【0069】
いくつかの実施形態において、前記電解液中のリチウム塩の濃度は、0.5~3mol/L、0.5~2mol/Lまたは0.8~1.5mol/Lである。
【0070】
本発明の電気化学装置は、短絡を防止するために、正極と負極の間にセパレータが設けられている。本発明の実施形態に用いられるセパレータの材料と形状は、特に限定されず、先行技術で開示された任意の材料と形状でありうる。いくつかの実施形態において、セパレータは、本発明の電解液に対して安定である材料から形成されたポリマーまたは無機物などを含む。
【0071】
例えば、セパレータは、基材層および表面処理層を含んでもよい。基材層は、多孔質構造を有する不織布、膜または複合膜であり、基材層の材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、およびポリイミドから選ばれる少なくとも1種である。具体的には、ポリプロピレン多孔質膜、ポリエチレン多孔質膜、ポリプロピレン不織布、ポリエチレン不織布、またはポリプロピレン-ポリエチレン-ポリプロピレン多孔質複合膜を選択して使用してもよい。
【0072】
基材層の少なくとも一方の表面には表面処理層が設けられており、表面処理層はポリマー層または無機物層であってもよく、ポリマーと無機物とを混合して形成される層であってもよい。
【0073】
無機物層は、無機粒子とバインダーを含み、無機粒子は、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、二酸化ハフニウム、酸化スズ、二酸化セリウム、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、炭化ケイ素、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、および硫酸バリウムから選択される1種または複数種類の組み合わせである。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメタクリル酸メチル、ポリテトラフルオロエチレン、およびポリヘキサフルオロプロピレンから選択される1種または複数種類の組み合わせである。
【0074】
ポリマー層には、ポリマーが含まれ、ポリマーの材料は、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、アクリル酸エステルのポリマー、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリフッ化ビニリデン、およびポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)から選択される少なくとも1種である。
【0075】
いくつかの実施形態において、本発明の電気化学装置は、一次電池、または二次電池を含むが、これらに限定されない。
【0076】
いくつかの実施形態において、前記電気化学装置は、リチウム二次電池である。
【0077】
いくつかの実施形態において、リチウム二次電池は、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池またはリチウムイオンポリマー二次電池を含むが、これらに限定されない。
【0078】
三、電子装置
本発明の電子装置は、本発明の実施形態に係わる電気化学装置を使用する任意の装置でありうる。
【0079】
いくつかの実施例において、前記電子装置は、ノートパソコン、ペン入力型コンピューター、モバイルコンピューター、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯型ファクシミリ、携帯型コピー機、携帯型プリンター、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、携帯型CDプレーヤー、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯型テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、アシスト自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機、時計、電動工具、閃光灯、カメラ、家庭用大型蓄電池、及びリチウムイオンキャパシタなどを含むが、これらに限定されない。
【0080】
以下では、例としてリチウムイオン電池を挙げ、具体的な実施例を参照してリチウムイオン電池の調製について説明し、当業者は、本発明に記載されている調製方法が単なる例示であり、他のいかなる好適な調製方法が本発明の範囲内にあることを理解すべきである。
【0081】
実施例1
リチウムイオン電池の調製
1、負極の調製
1)、負極活物質の調製
S1:原料として石油コークスを選択し、石油コークスを軟化点230℃の高温ピッチと1:0.15の割合で混合した後、550℃で3hr温度保持し、3000℃で150hr黒鉛化処理を経て黒鉛活物質を得た;
S2:その後、黒鉛活物質を軟化点70℃の低温ピッチと均一に混合した後、80℃に加熱し、ここで、活物質と低温ピッチとの質量比は1:0.05であり、ピッチを黒鉛活物質の表面に均一に被覆させた;
S3:上述したピッチで被覆された黒鉛活物質を炭酸水素アンモニウムと重量比100:3で混合し、炉内装入率50%で箱型炉に入れ、窒素雰囲気下で300℃で6hr加熱し、ここで、炉内装入率は、加熱装置の炉内容積に占める材料の添加量の比率であり、負極活物質を得た。
【0082】
2)、負極の調製
上記で調製した負極活物質と、スチレンブタジエンゴム(SBR)と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)とを重量比997.7:1.2:1.1で脱イオン水に分散させ、十分に攪拌して均一に混合し、負極用スラリーを得た。アセチレンブラックを銅箔に塗布し、負極集電体を得た。負極スラリーを負極集電体に塗布し、乾燥し、冷間圧延して負極を得た。
【0083】
2、正極の調製
コバルト酸リチウム(LiCoO2)と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを重量比96:2:2で適量のN-メチルピロリドン(NMP)中で十分に攪拌して均一に混合した後、正極集電体であるアルミニウム箔に塗布、乾燥、冷間圧延し、正極を得た。
【0084】
3、電解液の調製
乾燥アルゴンガス雰囲気で、エチレンカーボネート(EC)と、プロピレンカーボネート(PC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを重量比1:1:1で混合し、LiPF6を加え、均一に混合した。3wt%のフルオロエチレンカーボネートと、2wt%のアジポニトリルとを加え、均一に混合して電解液を得た。ここで、LiPF6の濃度は1.15mol/Lである。
【0085】
4、セパレータの調製
厚さ12μmのポリエチレン(PE)多孔質ポリマーフィルムをセパレータとした。
【0086】
5、リチウムイオン電池の調製
正極、セパレータおよび負極を順番に積み重ね、セパレータを正極と負極の間に配置して隔離の機能を発揮させ、その後、電池を巻回してベアセル(Bare cell)を得、タブを溶接した後、ベアセルを外装箔のアルミラミネートフィルムに入れ、上述調製した電解液を乾燥後のベアセルに注入し、眞空封止、放置、成形、フォーメーション、容量測定などの工程を経て、リチウムイオン電池を得た。
【0087】
実施例2~実施例16、比較例1~比較例2
負極活物質の調製
負極活物質の調製工程は、調製工程S3における炭酸水素アンモニウムの含有量(ピッチで被覆された黒鉛活物質と炭酸水素アンモニウムとを重量比100:xとの割合で添加する)と加熱温度パラメータとを調整することによって対応する負極活物質を調製すること以外、実施例1と実施例1と同様であり、具体的には表1を参照する。
負極、正極、電解液、セパレータ及びリチウムイオン電池の調製は実施例1と同様である。
【0088】
測定方法
1、Ramanスペクトル測定方法
顕微レーザーラマン分光測定装置(HR Evolution)を用いて負極活物質のRamanスペクトルを測定した。具体的には、少量の粉末を取り、サンプル槽の中央に置き、ガラス板で平らにし、レーザーパラメータを1800gr/mm、532nm、50%、2sに設定し、サンプルのRaman特性ピークスペクトルを測定した。
【0089】
2、負極活物質の比表面積の測定方法
比表面積分析装置(TristarII3020M)を使用し、窒素吸着/脱着法によって負極活物質の比表面積を測定した。具体的には、負極活物質サンプルを真空乾燥オーブンで乾燥してから、サンプルチューブに入れて分析装置で測定した。
黒鉛の基面の割合の確認:黒鉛中の端面と基面は、ガスへの吸着エネルギーが異なり、端面の吸着エネルギーは200~50e/kであり、基面の吸着エネルギーは一般的50~80e/kである。比表面積を測定するプロセスで、異なる吸着エネルギーに対応する比表面積をソフトウェアでフィッティング処理することにより、基面の割合を得ることができる。
【0090】
3、リチウムイオン電池のグラムあたりの容量と初回クーロン効率の測定方法
リチウムイオン電池を0.05Cで5.0mVまで放電し、50μAで5.0mVまで放電し、20μAで5.0mVまで放電し、0.1Cで2.0Vまで充電し、このときのリチウムイオン電池の容量を記録し、グラムあたりの容量とした。初回充電のグラムあたりの容量を初回放電のグラムあたりの容量で割ると、初回クーロン効率になる。0.05Cとは、設計グラムあたりの容量の0.05倍の電流値を意味し、0.1Cとは、設計グラムあたりの容量の0.1倍の電流値を意味する。
【0091】
4、リチウムイオン電池のサイクル厚さ膨張率の測定方法
25℃で、マイクロメータを使用し、リチウムイオン電池の3.95Vにおける厚さを測定し、H0とした。リチウムイオン電池を1.5Cのレートで500サイクル充放電し、その間、50サイクルごとにリチウムイオン電池の電圧4.45Vにおける厚さを測定し、Hnとした。リチウムイオン電池のサイクル厚さ膨張率は、下記式で算出した。
サイクル回数に対応するサイクル厚さ膨張率=(Hn-H0)/H0×100%。
【0092】
測定結果
表1に負極活物質の表面処理のプロセスパラメータおよび関連性能の測定結果を示した。
【0093】
【0094】
実施例1~実施例4、実施例5~実施例8、実施例9~実施例12、および実施例13~16からわかるように、比較的低い処理温度300℃において、炭酸水素アンモニウムの添加量の増加につれて、分解によるCO2ガス流量が増加し、負極活物質のRamanスペクトルにおけるDピークおよびGピークの半値幅が少し増加した。これは、活物質表面の無秩序度が増加し、結晶性が少し低下することを示し、活物質表面に少し酸化され、結晶構造が破壊されたことと関係がある。処理温度を上昇させた後、ガス流量の影響が明らかではない。これは、ガス流量が十分であることを前提として、材料表面の酸化反応の程度はほとんど差がないことを示す。また、活物質の比表面積およびグラムあたりの容量などの他の性能パラメータからも同様の結論が得られる。また、実施例1~実施例4からわかるように、材料の初回クーロン効率が少し改善されることは、低温で少し酸化し、黒鉛表面のいくつかの-OH官能基が減少させたことと関係があり、これらの官能基は電解液と副反応しやすい。
【0095】
実施例2、実施例6、実施例10および実施例14からわかるように、炭酸水素アンモニウムの添加量が一致していることを確保すると、温度上昇後の活物質のRamanスペクトルにおけるDピークおよびGピークの半値幅が明らかに増加した(実施例3、実施例7、実施例11および実施例15、実施例4、実施例8、実施例12および実施例16からも同様の結論を得ることができる)。したがって、温度上昇は表面酸化反応の程度に顕著な促進作用を果たした。そして、温度の上昇に伴い、活物質の比表面積が顕著に増加し、酸素含有量が顕著に上昇したことは、材料表面に酸化反応が発生した後、格子中のCの一部が酸化され、いくつかの細孔構造が形成されたことを示す。また、基面の割合が減少することは、反応の多くが黒鉛の端面に集中して発生し、それによって端面の比表面積の割合が増加することを示す。これらの細孔構造はリチウムを効果的に貯蔵することができるから、材料のグラムあたりの容量を明らかに向上させることができる。しかし、比表面積が増加することにより、活物質と電解液との間の副反応が増加し、全体的に初回クーロン効率に影響を与える。
【0096】
比較例1と比較例2からわかるように、炭酸水素アンモニウムの添加量と反応温度を下げると、活物質のRamanスペクトルにおけるGピークの半値幅が小さくなる。これは、ピークが鋭く、材料の結晶化度が高いことを示す。また、材料の比表面積が小さく、グラムあたりの容量が低いことは、酸化反応の程度が弱いことを示す。温度と炭酸水素アンモニウムの量を上げた後、活物質の酸化反応は異常に激しく、Ramanスペクトルにおける、材料表面の欠陥の程度を特徴付けるDピークとGピークとの強度比は顕著に増加し、グラムあたりの容量の向上は多いが、初回クーロン効率は明らかに低下し、リチウムイオン電池のエネルギー密度の改善に不利である。
【0097】
表2は、負極活物質の調製において、加熱時間と加熱装置中のサンプルの装填量が負極活物質のタップ密度、圧縮密度、比表面積、ボタン電池容量およびリチウムイオン電池のサイクル厚さ膨張率に与える影響を示す。
【0098】
実施例17~32の負極活物質は、実施例9の負極活物質の調製条件に基づいて、S3工程における窒素雰囲気下での加熱時間と炉内装入率を調整することにより得られた。
【0099】
炉内装入率は、加熱装置の炉内総容積に占める実際に充填された粉体の体積の割合である。
【0100】
B1は負極活物質の加圧前の比表面積であり、B2は1tの圧力を加えた後の比表面積である。負極活物質に圧力を加える方法は以下の通りである。電子圧力試験機(三思縦横(SUNS)UTM7305)を用い、重量1.0±0.05gの負極活物質の粉末を直径13mmの型上に置き、負極活物質の粉末に1tの圧力を加えて5s保持し、圧力を外して粉末を取り出す。
【0101】
B11は、リチウムイオン電池を3Vまで放電した後に分解して負極極片を取り出し、粉末を掻き落として測定した比表面積である。C1は、リチウムイオン電池を3Vまで放電した後に分解して負極極片を取り出し、Li片をボタンハーフ電池に装着した後、5.0mVまで放電したグラムあたりの容量である。C2は、上記リチウムイオン電池を0mVまで放電したグラムあたりの容量である。具体的な放電の流れは以下の通りである。0.05Cで5.0mVまたは0mVまで放電し、50μAで5.0mVまたは0mVまで放電し、20μAで5.0mVまたは0mVまで放電し、0.1Cで2.0Vまで充電し、このときのリチウムイオン電池の容量を記録し、グラムあたりの容量とした。0.05Cとは、設計グラムあたりの容量の0.05倍の電流値を意味し、0.1Cとは、設計グラムあたりの容量の0.1倍の電流値を意味する。
【0102】
【0103】
実施例17~実施例20、実施例21~実施例24、実施例25~実施例28および実施例29~実施例32をそれぞれ比較することからわかるように、加熱時間が変わらない場合、炉内装入率を高めると、負極活物質のタップ密度が増加し、圧縮密度が低下し、C2-C1容量が低下した。これは、負極活物質の酸化程度が少し弱くなることを示す。これは、材料の装填量が多いと、粉末とガスの接触が不十分であることと関係がある。また、当該負極活物質を含むリチウムイオン電池のサイクル膨張率も少し減少するは、酸化の程度が材料の構造安定性に影響を与えることを示す。
【0104】
実施例17、実施例21、実施例25および実施例29、実施例18、実施例22、実施例26および実施例30、実施例19、実施例23、実施例27および実施例31、実施例20、実施例24、実施例28および実施例32をそれぞれ比較することからわかるように、反応時間を延長した後、負極活物質の圧縮密度は明らかに向上したが、材料の加圧前後の比表面積の変化率(B2-B1)/B1はそれに伴って増大し、リチウムイオン電池の膨張率は増加する。また、負極活物質の5.0mVから0mVの間のグラムあたりの容量は著しく向上する。上記負極活物質の性能差は、酸化反応の程度および発生する位置に関係する。酸化反応が激しいと、負極活物質表面の転位などの欠陥が減少することで、負極活物質が加圧された後に層間収縮および滑りが発生しやすくなると推定され、結果として負極活物質粉末の圧縮密度が向上する。また、これらの酸化反応は、負極活物質の二次粒子間のバインダーを反応して消耗し、それによって二次粒子の構造が不安定になり、結果としてリチウムイオン電池中の膨張が大きくなる。
【0105】
明細書全体において、「いくつかの実施例」、「実施例の一部」、「一つの実施例」、「別の一例」、「例」、「具体例」または「例の一部」による引用は、本発明の少なくとも1つの実施例または例は、当該実施例または例に記載した特定の特徴、構造、材料または特性を含むことを意味する。したがって、明細書全体の各箇所に記載された、例えば「いくつかの実施例において」、「実施例において」、「一つの実施例において」、「別の例において」、「一つの例において」、「特定の例において」または「例」は、必ずしも本発明における同じ実施例または例を引用するわけではない。また、本明細書の特定の特徴、構造、材料、または特性は、一つまたは複数の実施例または例において、いかなる好適な方法で組み合わせることができる。
【0106】
例示的な実施例が記載及び説明されたが、当業者は、上述した実施例が本発明を限定するものとして解釈されないこと、かつ、本発明の技術思想、原理、及び範囲から逸脱しない場合に実施例への改変、置換及び変更が可能であることを理解すべきである。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛および非晶質炭素を含み、
前記負極活物質は、ラマン試験により、1.6≦WD/WG≦2.6を満たし、
WDは、ラマンスペクトルにおける1340cm-1~1370cm-1の範囲内のDピークの半値幅であり、40cm-1≦WD≦100cm-1を満たし、
WGは、ラマンスペクトルにおける1570cm-1~1590cm-1の範囲内のGピークの半値幅であり、15cm-1≦WG≦50cm-1を満たす、負極活物質。
【請求項2】
WDとWGが、1.7≦WD/WG≦2.5を満たす、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
前記負極活物質は、
(i)WDとWGが、2≦WD/WG≦2.5を満たすことと、
(ii)WDが40cm-1≦WD≦60cm-1を満たすことと、
(iii)WGが15cm-1≦WG≦35cm-1を満たすことと、
(iv)前記負極活物質は、0.08≦ID/IG≦1.2を満たし、IDは前記Dピークの強度であり、IGは前記Gピークの強度であることと、のうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項4】
前記負極活物質は、
(v)前記負極活物質の比表面積をB1としたとき、B1が0.8cm2/g≦B1≦5.4cm2/gを満たすことと、
(vi)前記負極活物質の最可能孔径は2.5nm~3.5nmであり、前記負極活物質の孔容積に占める前記負極活物質の最可能孔径の孔容積の割合は、3%~8%であることと、
(vii)前記負極活物質は基面と端面を含み、前記負極活物質の比表面積に占める前記基面の比表面積の割合は40%~70%であることと、
(viii)前記負極活物質は基面と端面を含み、前記端面の粗さは前記基面の粗さよりも大きいことと、のうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
【請求項5】
前記負極活物質は、
(ix)B1が1.0cm2/g≦B1≦4.5cm2/gを満たすことと、
(x)前記負極活物質の最可能孔径は2.7nm~3.3nmであり、前記負極活物質の孔容積に占める前記負極活物質の最可能孔径の孔容積の割合は3.5%~7%であることと、
(xi)前記負極活物質の比表面積に占める前記基面の比表面積の割合は、45%~65%であることと、
(xii)前記負極活物質に1t圧力を加えた後の比表面積をB2としたとき、B2とB1が(B2-B1)/B1×100%≦80%を満たすことと、のうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項4に記載の負極活物質。
【請求項6】
前記負極活物質は、
(xiii)X線光電子分光法による試験により、前記負極活物質中の酸素の質量含有量は2%~5%であることと、
(xiv)前記負極活物質のタップ密度は0.90g/cm3~1.05g/cm3であることと、
(xv)前記負極活物質が5tの圧力での粉末の圧縮密度は1.9g/cm3~2.05g/cm3であることと、のうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
【請求項7】
前記負極活物質の製造方法は、
S1:黒鉛材料を提供することと、
S2:S1中の黒鉛材料と炭素質前駆体とを混合し、炭素質前駆体で被覆された黒鉛材料を得ることと、
S3:S2中の炭素質前駆体で被覆された黒鉛材料を炭酸水素塩と混合して混合物を得、前記混合物を熱処理して前記負極活物質を得ることと、を含むことを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
【請求項8】
負極を含み、
前記負極は負極集電体と前記負極集電体の少なくとも一方の表面に設けられた負極活物質層とを含み、
前記負極活物質層は請求項1~7のいずれか1項に記載の負極活物質を含む、電気化学装置。
【請求項9】
前記負極活物質の比表面積は4.35cm2/g~5.9cm2/gであり、および/または
前記負極とリチウム金属からなるボタン電池を用いて充放電試験を行い、前記ボタン電池は、0.005V~2Vでの可逆容量をC1mAh/gとし、0V~2Vでの可逆容量をC2mAh/gとすると、C2-C1≧1を満たすことを特徴とする請求項8に記載の電気化学装置。
【請求項10】
請求項8に記載の電気化学装置を含む、電子装置。