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特開2023-153925合成光生成方法、光利用方法、光源部、イメージング方法および光学的検出方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153925
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】合成光生成方法、光利用方法、光源部、イメージング方法および光学的検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/01 20060101AFI20231011BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20231011BHJP
   G02B 27/10 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
G01N21/01 D
G01N21/17 A
G02B27/10
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125423
(22)【出願日】2023-08-01
(62)【分割の表示】P 2022100732の分割
【原出願日】2017-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2017133512
(32)【優先日】2017-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】311012468
【氏名又は名称】安東 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安東 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】右近 寿一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩井 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】西舘 泉
(57)【要約】
【課題】
高い信頼性あるいは高い精度を有した光学的検出方法または光学的イメージング方法を提供する。あるいはその方法を活用した応用技術を提供する。
【解決手段】
発光源から出発する光路または光検出器に到達する光路の少なくとも一部が複数の光路から構成される。また前記光路途中の所定箇所で、前記複数の光路を通過した光が混合される。そしてこの混合光を、光学的検出または光学的イメージングに使用する。また上記複数の光路を通過する光間の光路長差は可干渉距離よりも長くても良い。さらに対象体の所定特性に基付いて光学的検出または光学的イメージングに使用される光の特性にフィードバックする手段を上記手段に併用しても良いし、上記手段とは別に単独で使用しても良い。また上記手段を活用した応用技術や応用物質、応用プログラムに発展させても良い。
【選択図】 図8A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光源の第1の発光領域が放出する第1の光を第1の光路に通過させ、
前記発光源の第2の発光領域が放出する第2の光を第2の光路に通過させ、
第1の光路通過光と第2の光路通過光を光合成部または対象体で強度加算する合成光生成方法であって、
前記第1の光の波長範囲の幅はΔλであり、
前記第1の光の波長範囲の中央波長はλであり、
前記第2の光の波長範囲の幅はΔλであり、
前記第2の光の波長範囲の中央波長はλであり、
前記第1の発光領域と前記第2の発光領域は互いに異なり、
前記第1の光路と前記第2の光路の間の光路長差はλ /Δλより長く、
前記第1の光路通過光から第1の光学雑音が発生し、前記第2の光路通過光から第2の光学雑音が発生する場合、前記強度加算が前記光学雑音を平滑化する合成光生成方法。
【請求項2】
前記光路長差は前記第1の光路通過光と前記第2の光路通過光との間の部分的可干渉性を低下させる請求項1記載の合成光生成方法。
【請求項3】
前記発光源と前記光合成部との間または前記発光源と前記対象体との間に光路変換素子が配置され、
前記光路変換素子は前記光路長差をλ /Δλより長くする請求項1または請求項2記載の合成光生成方法。
【請求項4】
前記発光源内の発光領域の最も広い幅はλ /Δλ以上である請求項1、請求項2、または請求項3記載の合成光生成方法。
【請求項5】
前記第1の光と前記第2の光は0.5μmから2.5μmまでの範囲のいずれかの波長を有し、
λ /Δλは30μm以上である請求項1、請求項3、または請求項4記載の合成光生成方法。
【請求項6】
発光源の第1の発光領域が放出する第1の光を第1の光路に通過させ、
前記発光源の第2の発光領域が放出する第2の光を第2の光路に通過させ、
第1の光路通過光と第2の光路通過光を光合成部または対象体で強度加算し、
強度加算された第1の光路通過光と第2の光路通過光の前記対象体への光照射を利用する光利用方法であって、
前記第1の光の波長範囲の幅はΔλであり、
前記第1の光の波長範囲の中央波長はλであり、
前記第2の光の波長範囲の幅はΔλであり、
前記第2の光の波長範囲の中央波長はλであり、
前記第1の発光領域と前記第2の発光領域は互いに異なり、
前記第1の光路と前記第2の光路の間の光路長差はλ /Δλより長く、
前記第1の光路通過光から第1の光学雑音が発生し、前記第2の光路通過光から第2の光学雑音が発生する場合、前記強度加算が前記光学雑音を平滑化する光利用方法。
【請求項7】
光照射された前記対象体への操作に関する利用と、
光照射時に前記対象体から得られる光に基づく利用と、の少なくともいずれかを行う請求項6記載の光利用方法。
【請求項8】
前記光路長差は前記第1の光路通過光と前記第2の光路通過光との間の部分的可干渉性を低下させる請求項6記載の光利用方法。
【請求項9】
前記発光源と前記光合成部との間または前記発光源と前記対象体との間に光路変換素子が配置される請求項7または請求項8記載の光利用方法。
【請求項10】
前記発光源内の発光領域の最も広い幅はλ /Δλ以上である請求項7、請求項8、または請求項9記載の光利用方法。
【請求項11】
発光源と光路変更素子と光合成部とを具備し、
前記発光源の第1の発光領域が放出する第1の光は第1の光路に通過され、
前記発光源の第2の発光領域が放出する第2の光は第2の光路に通過され、
前記第1の光の波長範囲の幅はΔλであり、
前記第1の光の波長範囲の中央波長はλであり、
前記第2の光の波長範囲の幅はΔλであり、
前記第2の光の波長範囲の中央波長はλであり、
前記第1の発光領域と前記第2の発光領域は互いに異なり、
前記光路変更素子は前記第1の光路と前記第2の光路の間の光路長差をλ /Δλより長くし、
前記光合成部は第1の光路通過光と第2の光路通過光を強度加算し、
前記第1の光路通過光から第1の光学雑音が発生し、前記第2の光路通過光から第2の光学雑音が発生する場合、前記強度加算が前記光学雑音を平滑化する光源部。
【請求項12】
第1の光を対象体に照射し、前記対象体から得られる第2の光を利用してイメージングするイメージング方法であって、
発光源の第1の発光領域が放出する第1の所定光が第1の光路を通過し、
前記発光源の第2の発光領域が放出する第2の所定光が第2の光路を通過し、
前記第1の光の波長範囲の幅はΔλであり、
前記第1の光の波長範囲の中央波長はλであり、
前記第2の光の波長範囲の幅はΔλであり、
前記第2の光の波長範囲の中央波長はλであり、
前記第1の発光領域と前記第2の発光領域は互いに異なり、
前記第1の光路と前記第2の光路の間の光路長差はλ /Δλより長く、
第1の光路通過光と第2の光路通過光を光合成部または対象体で強度加算して前記第1の光を生成し、
前記第1の光路通過光から第1の光学雑音が発生し、前記第2の光路通過光から第2の光学雑音が発生する場合、前記強度加算が前記光学雑音を平滑化するイメージング方法。
【請求項13】
第1の光を対象体に照射し、前記対象体から得られる第2の光を検出する光学的検出方法であって、
前記検出される波長範囲の幅はΔλであり、
前記波長範囲の中央波長λの光を前記第2の光が含み、
発光源の第1の発光領域が放出する第1の所定光が第1の光路を通過し、
前記発光源の第2の発光領域が放出する第2の所定光が第2の光路を通過し、
前記第1の発光領域と前記第2の発光領域は互いに異なり、
前記第1の光路と前記第2の光路の間の光路長差はλ /Δλより長く、
第1の光路通過光と第2の光路通過光を光合成部または前記対象体で強度加算して前記第1の光を生成し、
前記第1の光路通過光から第1の光学雑音が発生し、前記第2の光路通過光から第2の光学雑音が発生する場合、前記強度加算が前記光学雑音を平滑化する光学的検出方法。
【請求項14】
前記光路長差は前記第1の光路通過光と前記第2の光路通過光との間の部分的可干渉性を低下させる請求項13記載の光学的検出方法。
【請求項15】
前記発光源と前記光合成部との間または前記発光源と前記対象体との間に光路変換素子が配置される請求項13または請求項14記載の光学的検出方法。
【請求項16】
前記発光源内の発光領域の最も広い幅はλ /Δλ以上である請求項13、請求項14、または請求項15記載の光学的検出方法。
【請求項17】
前記第2の光は0.5μmから2.5μmまでの範囲のいずれかの波長を有し、
λ /Δλは30μm以上である請求項13、請求項15、または請求項16記載の光学的検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、光を用いて検出対象体からの信号を得る(または所定の光学特性を検出する)合成光生成方法、光利用方法、光源部、イメージング方法および光学的検出方法に関する。
【0002】
また更に、上記の光学的検出またはイメージングを利用した応用分野まで適用しても良い。この応用範囲には、光を用いて内部構造や内部活動状態の検出が可能な物質(の生成)や、光を用いた所定状態の管理方法や製造方法も含まれる。
【0003】
そして上記に限らず、上記検出対象体の光学特性を予想する計算方法まで含んでも良い。
【背景技術】
【0004】
光学的検出方法や光学的イメージング方法は非接触/非侵襲な方法(noncontact and noninvasive method)なため、検出時の検出対象体への負担が大幅に低減される。その結果として光を用いた上記検出方法やイメージング方法は、検出対象体の自然な状態観測や微小な変化測定などに適している。そのため前記方法は、非常に広い分野で多用される。
【0005】
それに対応し、これら光学的検出技術や光学的イメージング技術の応用(利用)分野も広がっている。またこの応用分野の一部には、光を用いて内部構造や内部活動状態の検出が可能な物質(の生成)や、光を利用した所定状態の管理分野や製造分野も含まれる。
【0006】
このようにこれらの技術が広範囲で適用されるに従い、光を用いた検出結果や測定結果に対して、より高い精度あるいは高い信頼性が求められて来た。また光を用いた検出/測定結果の信頼性や信憑性の確認手段として、理論的裏付けとの間の高い精度での照合確認も必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6-167640号公報
【特許文献2】特開平2-240545号公報
【特許文献3】特開2013-122443号公報
【特許文献4】特開2003-500255号公報
【特許文献5】特許第5098028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光学的検出技術やイメージング技術での検出精度向上や信頼性を高める手段の一つとして、検出信号や光学イメージ内に混入される光学雑音(Optical Noise)(光学的原因で発生するノイズ成分)の低減化が上げられる。
【0009】
その具体的手段の一例として特許文献1では、光の干渉性(Coherence)を低減させ、検出/測定系内の光学雑音量を低下させる方法で検出精度を向上させている。しかしながら特許文献1の開示範囲ではスペックルノイズの低減(Speckle Reduction)に限界が有り、一層の高精度または信頼性の確保が要求されている。
【0010】
上記の理由から、より高い信頼性あるいはより高い精度を実現できる光学的検出方法や光学的イメージング方法の提供、またはその方法を活用した応用(利用)展開技術の提供(光を用いて内部構造や内部活動状態の検出/測定/評価が可能な物質(の生成)、あるいは製造効率向上や制御精度の向上を可能にする製造方法や所定状態の管理方法の提供も含む)が求められる。さらに上記方法を具現化するための測定装置や光源部の提供への要請も有る。
【0011】
上記に関連した他の話として、上記の光学的検出やイメージングの結果の信頼性や信憑性を裏付ける手段として、各種の量子化学計算ソフトを用いた計算機シミュレーション方法が存在する。しかし既存の量子化学計算ソフトでは、高分子の第n倍音振動(n-th Overtone)の計算には膨大な計算時間が掛かる。従って高分子内の特定官能基(Atomic Group)に限定した第n倍音や結合音(Combination)の特性を簡易的に短時間で行える計算方法の提供が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
互いに光路長(Optical Length)の異なる光が合成(combined)(または混合(mixed))された光を、光学的検出または光学的イメージングに使用する。また上記の光路長差(Difference Value of Optical Length)は可干渉距離(Cohetence Length)よりも長くても良い。さらに上記合成(または混合)して得られた光内は、進行方向または電場振動方向が一致または類似しても良い。
【0013】
そして光学的検出方法または光学的イメージング方法を利用した応用展開技術にも、上記手段を適用させても良い。すなわち上記の光を用いた状態管理を行っても良い。さらに光を用いた検出あるいは計測、管理が可能な化学的状態やその変化あるいは物理化学的(または物理的)状態やその変化または構造やその変化、形態やその変化が(製造工程の過程で)生じる所定物質の製造や製造物の評価に適用しても良い。またそれに限らず、上記方法で製造または評価された機能性物質そのものに適用しても良い。
【0014】
上記手段とは切り離して単独で下記手段を実行しても良いし、上記手段と組み合わせて下記手段を併用しても良い。その下記手段とは、
1)光学的検出または光学的イメージングの対象となる対象体の所定特性を測定し、
2)その測定結果に基付き、光学的検出または光学的イメージングに使用する光の特性をフィードバックする。ここで上記所定特性とは、光学的検出または光学的イメージングに使用する光の波面特性あるいは前記光内の一部の進行方向に及ぼす影響に関係する。また上記の“光の特性”とは、波面特性あるいは前記光内の一部の進行方向を変化させる特性を意味する。
【0015】
一方それに限らず、光学的検出結果や光学的イメージング結果得られた対象体の光学特性が意味する現象を理論的に予測するため、下記の計算方法を行っても良い。α]この対象体内に含まれる所定領域内のグループ振動(Group Vibration)に関与するポテンシャル特性を算出する。β]その結果を利用して光の吸収波長もしくは吸収波数(振動数)を予想する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】本実施形態を示す測定装置の基本構成説明図(発散光照射)。
図1B】本実施形態を示す測定装置の基本構成説明図(平行光照射)。
図1C】本実施形態を示す測定装置の基本構成説明図(収束光照射)。
図2A】光源から出射される光の振動数と時間間の不確定性関係説明図。
図2B】検出波長範囲が制限された光の部分的可干渉性の説明図。
図3】部分的可干渉光のイメージングに及ぼす影響。
図4】微小な光散乱体からの散乱光内に発生する光学雑音に関する説明図。
図5】部分的可干渉光の分光測定に及ぼす影響説明図。
図6】タングステン・ハロゲンランプ管球の厚みムラの影響説明図。
図7】光学雑音低減化素子を組み込んだ近赤外顕微装置構造の一例説明図。
図8A】本実施形態における光学雑音低減方法の基本原理説明図(A)。
図8B】本実施形態における光学雑音低減方法の基本原理説明図(B)。
図9】本実施形態における光合成/光混合方法の場合分け一覧の説明図。
図10】本実施形態での光学雑音低減方法に関する他の解説方法を用いた説明図。
図11】異なる方向に放出される光間の合成/混合方法に関する実施例説明図。
図12A】波面分割光を利用した光路長変化方法に関する実施例説明図。
図12B】波面分割光を利用した光学特性変更部材一例の説明図。
図12C】波面分割光を利用した光学特性変更部材に関する詳細な一例説明図。
図13A】波面分割光を利用した光学特性変更部材の他の実施例説明図。
図13B】波面分割光を利用した光学特性変更部材の応用例説明図。
図13C】波面分割光を利用した光学特性変更部材の他の応用例説明図。
図14A】本実施形態の光学雑音低減方法を利用した光源部構造の応用例説明図。
図14B】波面分割光間の他の合成/混合方法説明図。
図14C】波面分割光間の合成/混合方法に関する応用例の説明図。
図14D】結像特性を利用した波面分割光間の合成/混合方法の説明図。
図14E】結像/集光位置の光学的処理を利用した波面分割光間の合成/混合方法。
図15】波面分割光間で光路長を変化させる方法に関する留意点の説明図。
図16A】波面分割光間で光路長を変化させる方法での対応実施例の内容説明図。
図16B】波面分割光間で光路長を変化させる方法での他の対応実施例説明図。
図17】比較検討用の従来公知技術内容説明図。
図18】光ガイド用ファイバ長を利用した光学的雑音低減方法の説明図。
図19A】異なる発光領域から発した光間合成/混合の基本的な方法説明図(A)。
図19B】異なる発光領域から発した光間合成/混合の基本的な方法説明図(B)。
図20】異なる発光領域で発した光の対象体内特定領域での合成/混合方法説明図。
図21A】異なる発光領域の発生光を位相変換素子で合成/混合する方法例(A)。
図21B】異なる発光領域の発生光を位相変換素子で合成/混合する方法例(B)。
図21C】異なる発光領域の発生光を位相変換素子で合成/混合する方法例(C)。
図22】位相変換素子の光合成/混合への効果実験に使用した光学系の説明図。
図23A】位相変換素子による光合成/混合の効果を示す説明図(A)。
図23B】位相変換素子による光合成/混合の効果を示す説明図(B)。
図24A】異なる発光領域から発した光を導波素子で合成/混合する方法例(A)。
図24B】異なる発光領域から発した光を導波素子で合成/混合する方法例(B)。
図24C】異なる発光領域から発した光を導波素子で合成/混合する方法例(C)。
図25】可干渉光と部分的非可干渉光の両方を用いた測定装置内説明図。
図26】対象体内部の多重散乱光が及ぼす影響説明図。
図27】対象体内部の光散乱体のイメージ図。
図28】対象体(透明な平行平板)内部で波面収差が発生する原理説明図。
図29A】波面収差粗動補正部内部の構造説明図。
図29B】波面収差微動補正部内部の構造説明図。
図30】参照光生成原理の説明図。
図31】対象体内発生の不要散乱光除去原理の説明図(説明用に一部改変)。
図32A】部分的非可干渉光を用いた波面収差特性検出方法の光学原理説明図。
図32B】部分的非可干渉光を用いた波面収差特性検出の電気的処理方法説明図。
図33】可干渉光を用いた波面収差特性検出方法の説明図。
図34】外部電場方向とその中を移動する荷電粒子の移動方向との間の関係説明図。
図35】特定官能基を構成する水素原子核の位置ベクトルを示す説明図。
図36】量子化学計算ソフト上での特定官能基内グループ振動の計算方法説明図。
図37】本実施形態における機能性バイオ物質の機能発揮方法からの分類分け説明図。
図38】フィブロイン内分子構造の概略説明図。
図39A】フィブロインを改良した機能性バイオ物質の実施形態例説明図(A)。
図39B】フィブロインを改良した機能性バイオ物質の実施形態例説明図(B)。
図40A】内部に導電領域を持った機能性バイオ物質の実施形態例説明図。
図40B】電力増幅機能またはスイッチング機能を持った機能性バイオ物質例説明図。
図41】近赤外波長領域に蛍光波長を有した蛍光蛋白質の発光団内構造例説明図。
図42】DNAの障害に関係した患部(不具合箇所)に対する対処方法例の説明図。
図43】2重包装構造を持つ細胞核内搬送用キャリアに関する実施形態例説明図。
図44】細胞核膜表面への選択的接合部の具体的構造例とその機能例の説明図。
図45】機能性バイオ物質の量産方法と工程管理方法に関する一実施形態説明図。
図46】毛母関連細胞を利用した機能性バイオ物質の生成過程例の説明図。
図47】機能性バイオ物質の量産方法と工程管理方法に関する応用形態説明図。
図48】地域分散形を利用した機能性バイオ物質の生産方法例の説明図。
図49】改良版βシート形結晶部を組み合わせた構造体形成の実施例説明図。
図50A】結晶部集合(多量体)ブロックの生成手順例の説明図。
図50B図49の構造体成形の手順を示す本実施形態例の説明図。
図50C図49の構造体成形の手順を示す本応用形態例の説明図。
図51】発光源に対する結像光学系間の光路長差の比較説明図。
図52】光合成(混合)部の他の実施例説明図。
図53】光ガイド(光パイプ)を利用した他の応用例説明図。
図54】光ガイド(光パイプ)内での光合成(混合)の原理説明図。
図55】指向性が高く部分的可干渉性の低い電磁波の生成方法説明図。
図56】本実施形態における水源/金属鉱床探索装置内の構造説明図。
図57】地球外地域での水源/金属鉱床探索方法例の説明図。
図58】地球外地域での水源/金属鉱床探索手順例の説明図。
図59】本実施形態における光の部分的可干渉性の違いを簡易的に解説する説明図。
図60】本実施形態における光の部分的可干渉性の制御方法を簡易的に解説する説明図。
図61】測定光の部分的可干渉性の違いに依る絹シート透過光特性の測定結果比較例。
図62】絹シートの吸光度特性の測定結果例。
図63】測定光の部分的可干渉性の違いに依るポリエチレンシート吸光度の比較例。
図64】吸光度曲線内のベースライン特性と測定対象分子構造との関係の検討例説明図。
図65】本実施形態の非可干渉性近赤外光を用いた機能性バイオ物質の同定方法説明図。
図66】本実施形態における機能性バイオ物質内2次構造と構成アミノ酸との関係説明図。
図67A】本実施形態における機能性バイオ物質に関する他の製造手順説明図。
図67B】本実施形態における機能性バイオ物質製造手順内の生成と成形工程の説明図。
図67C】本実施形態における機能性バイオ物質材料の製造における精製工程の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態における光源部および測定装置、近赤外顕微装置、光学的検出方法、イメージング方法、計算方法、状態管理方法、製造方法に関して、以下に図面を参照して説明する。まず説明の全容を把握し易いように、本実施形態内容に関する目次を示す。
第1章 本実施形態を示す測定装置の基本構成
第2章 部分的可干渉性の光学雑音に及ぼす影響
2.1節 光学雑音低減化へ向けた本実施形態の説明手順概説
2.2節 白色光が部分的可干渉性を持つ状況説明と用語の定義
2.3節 部分的可干渉性の光が光学的イメージングに及ぼす影響
2.4節 部分的可干渉性の光が分光特性の測定に及ぼす影響
2.5節 部分的可干渉性の光が分光特性に及ぼす影響例の数式的表現
2.6節 近赤外光を利用した検出/イメージングに関する影響とその波長範囲
第3章 部分的干渉性に関係した本実施形態における光学雑音低減方法
3.1節 光学雑音低減に向けた基本原理
3.2節 異なる方向への放出光の利用
3.3節 波面分割機能を有する光学特性変更部材
3.4節 分割波面間の合成(混合)
3.5節 部分的非可干渉光使用時の光強度の数式表現(光学雑音低減効果)
3.6節 光学特性変更部材構造上の工夫
3.7節 波面分割を利用した従来技術との比較
3.8節 光導波路機能を有する光学特性変更部材
3.9節 異なる領域からの放出光の合成(混合)
3.10節 異なる領域からの放出光の合成(混合)に関する応用例
3.11節 赤外光より波長の長い電磁波に関する部分的可干渉性の低減方法と応用例
3.12節 光の部分的可干渉性の制御方法に関する簡易的説明
第4章 可干渉光と部分的非可干渉光の混合/分離方法
4.1節 可干渉光と部分的非可干渉光の両方を用いた測定装置内の構造例
4.2節 可干渉光と部分的非可干渉光の混合と分離方法
第5章 測定対象体内部での光との相互作用
5.1節 対象体内部で発生する光散乱と光吸収および多重散乱の影響
5.2節 散乱/吸収の要因と散乱断面積との関係
5.3節 散乱断面積と光散乱の特徴
5.4節 後方散乱光(反射光)を用いた検出特性
5.5節 測定対象体内部での電磁波との相互作用に関する定式化
5.6節 照射光の部分的可干渉性の違いに依る測定結果への効果とその考察
第6章 光路途中で発生する波面収差のフィードバック方法
6.1節 対象体(透明な平行平板)内部で波面収差が発生する原理
6.2節 波面収差の補正方法
6.3節 波面収差特性検出方法の共通部分
6.4節 部分的非可干渉光を用いた波面収差特性検出方法
6.5節 可干渉光を用いた波面収差特性検出方法
第7章 高分子内の特定官能基に限定した第n倍音特性の計算方法
7.1節 光学雑音低減化方法と特定官能基でのグループ振動に帰属した吸収帯波長予測
7.2節 官能基内のグループ振動に関する数式的表現
7.3節 官能基内のグループ振動解析の意義
7.4節 グループ振動に帰属する吸収帯波長のシミュレーション方法
第8章 機能性バイオ物質
8.1節 機能性バイオ物質とは
8.2節 機能性バイオ物質の独自機能発揮方法から見た分類分け
8.3節 アミノ酸配列や立体構造で機能を発揮する機能性バイオ物質の実施例
8.4節 活性領域内構造や酵素として機能を発揮する機能性バイオ物質の実施例
8.5節 生成処理に関係した部分で機能を発揮する機能性バイオ物質の実施例
第9章 機能性バイオ物質を用いたゲノム編集処理
9.1節 DNA障害に関係した患部への対処例と現状の問題点
9.2節 細胞核内搬送用キャリアの構造と動作原理
9.3節 細胞核内搬送用キャリアの製造方法(量産化適合)
第10章 機能性バイオ物質の製造方法と工程管理
10.1節 製造方法と工程管理の基本手順
10.2節 地域分散形量産化工程
10.3節 非可干渉性近赤外光を用いた機能性バイオ物質の推定
10.4節 本実施形態における機能性バイオ物質の光学特性
10.5節 細胞外環境で製造する機能性バイオ物質の製造方法
第1章 本実施形態を示す測定装置の基本構成
本実施形態における光学的検出方法やイメージング方法を利用した測定装置の基本構成に付いて、図1A図1Cを用いて説明する。この測定装置の基本構成は、いずれも光源部2と検出部4、6から構成される。光源部2が第1の光に当たる照射光12を放射し、この照射光12を測定または検出の対象となる対象体10(検出対象体)に照射する。
【0018】
ここで上記対象体10は、動物や植物、微生物(細菌やウィルスも含む)などの生体に限らず、ヌクレオチド(Nucleotides)やアミノ酸/蛋白質、脂質(Lipids)(燐脂質(Phospholipids)も含む)、炭水化物などの生体構成物質単独でも良い。またそれ以外として、プラスチックなどの有機物、あるいは少なくとも光の一部を透過する無機物でも構わない。また検出対象体10の形態は固体に限らず、液体や気体の状態でも良い。そして検出対象体10単体のサイズは最大メートルオーダー(人間や象の大きさ)から最小は原子や分子のサイズまで任意に選べる。
【0019】
この対象体10から得られる第2の光(すなわち照射光12が対象体10の内部または表面で反射/透過/吸収/散乱された後の光)は検出光16として検出部4、6に投影される。この結果として、上記対象体10(検出対象体)の光学特性が検出または測定される。
【0020】
ここで得られる対象体10の光学特性としては、対象体10の反射/透過/吸収/散乱後の光量特性やその時間変化、光学的位相特性、分光特性(波長スペクトル)、イメージング(抽出された映像/画像)、画像解析結果(空間的周波数特性解析結果など)に限らず、あらゆる光学特性が検出対象に含まれても良い。
【0021】
また検出部4、6で得られた結果に基付き、フィードバック部8を介して光源部2からの照射光12の発光特性に制御を行っても良い。その具体例として、照射光12の定常的な発光量制御や発光量の時間的変化制御に限らず、対象体10に照射直前の照射光12の位相分布や光量分布を制御しても良い。またそれ以外の任意の制御を行っても良い。
【0022】
この対象体10に照射される照射光(第1の光)12が発散時、平行時、集束時での測定装置の特徴を、それぞれ図1A図1B図1Cに示す。また図1A図1B図1Cのいずれも、(a)が透過光検出時(前方散乱光検出を含む)、
(b)が反射光/散乱光検出時、
(c)が光源部2と検出部6が一体となって測定装置30内に収納されている時の構造を示している。
【0023】
図1A(c)と図1B(c)、図1C(c)では、ビームスプリッタ20を用いて照射光(第1の光)12と検出光(第2の光)16間の光路を一部共通化している。それにより測定装置30の小形化を容易にする効果が生まれる。
【0024】
一方で図1A(b)と図1B(b)、図1C(b)のビームスプリッタ20を使わない構造では、測定装置30内の光源部2と検出部6間の相対位置を任意に設定可能となる。その結果として、測定環境の柔軟性が増す効果が有る。
【0025】
光源部2内で照射光12を発光する発光源70(図10Aを用いて具体的一例を後述)は、多くの場合には発散光を放出する。そのため平行光や集束光を対象体10に照射する図1B図1Cの構造では、光源部2内にコリメートレンズ26や集光レンズ98を搭載する必要が有る。それに比べて図1Aのように発散光を直接利用する構造では上記の搭載が不要なため、測定装置30全体の低価格化と小形化が図れる効果が有る。
【0026】
図1Bのように平行な照射光12を用いると、照射光12進行方向に対する対象体10の設置位置の自由度が上がる。従って対象体10が気体状態の場合や、液体状態の溶媒内に分散されている場合の光学特性測定に向く。従って製造方法や状態管理方法に対する本実施形態では、図1Bのように平行な照射光12を用いても良い。
【0027】
この場合には、透明硝子容器36内の測定試料用カラム34内に気体状態または液体媒質内に分散された対象体10が封入される。ここでこの測定試料用カラム34には蓋46付き注入口42と蓋46付き注出口44が設けられ、対象体10の交換が容易となっている。
【0028】
さらに透明硝子容器36内部では、壁9に仕切られた参照試料用カラム32も設置されている。この参照試料用カラム32の注入口42と注出口44にも同様に蓋46が付いており、参照試料用カラム32内を真空に出来る。またそれに限らず、参照試料用カラム32内を対象体10分散前の液体溶媒単体で満たしても良い。
【0029】
透明硝子容器36は、測定装置30に対して移動可能となっている。特にこの硝子容器の移動方向38は照射光12の進行方向と非平行な関係(直交しても良い)となっている。そのため最初に参照試料用カラム32内の光学特性を測定した後、測定試料用カラム34内の光学特性を測定し、両者の結果を比較しても良い。このように両者の比較により、測定/検出の結果得られた光学特性の検出精度が高まる効果が有る。両者の比較方法として演算処理(規格化を含めても良い)後の測定データ間の差分を取っても良いし、両者間の割り算処理(対数上での差分処理)を行っても良い。測定装置30には固有の光学的伝達特性(関数)を所有しており、測定試料用カラム34から得られる光学特性内には前記の光学的伝達特性が含まれる。それに対して測定試料用カラム34と参照試料用カラム32の光学特性間の割り算処理(対数上での差分処理)を行うと、測定装置30内の光学的伝達特性が除去され、対象体10単独の光学特性が得られる効果が有る。
【0030】
気化して(または液体媒体内に分散された)分子状態の検出対象体10により、照射光(第1の光)12は散乱/吸収される。図1B(b)では、この時の側方散乱光を検出光(第2の光)16として検出する。一方図1B(a)では、全方散乱と吸収による透過光量ロスが検出される。また図1B(c)のように透明硝子容器36の底面にミラー面48が形成されている場合には、図1B(a)と同様に透過光量ロスが検出される。一方でミラー面48が形成されて無い場合には、後方報散乱光を検出光(第2の光)16として検出する事になる。このように平行な照射光12を利用すると、前方/後方/側方の各種散乱光検出が可能となり、検出精度が向上する効果が有る。
【0031】
図1Cのように対象体10に向けて収束状態の照射光12を照射すると、対象体10内部のα、β、γ各点で集光する(集光方法は第7章で後述)。その結果、対象体10内部の特定場所に限定した光学特性の測定/検出が行える効果が有る。図1C(a)では前方散乱光を、そして図1C(b)では側方散乱光、図1C(c)では後方散乱光を測定/検出できる。
【0032】
第2章 部分的可干渉性の光学雑音に及ぼす影響
(Chapter 2] Partial Coherence affecting Optical Noise)
白色光でも部分的可干渉性の特性を有し、光学的雑音を発生し得る事を以下の第2章で説明する。
【0033】
2.1節 光学雑音低減化へ向けた本実施形態の説明手順概説
図1A図1Cに示す測定装置30内に混入される光学雑音を低減させて、光学的検出または光学的イメージングの検出精度向上や信頼性を高める。その光学雑音を低減させる方法として本実施形態では、少なくとも照射光(第1の光)12と検出光(第2の光)16のいずれかの光学特性を変化させる。この変化させる光学特性として、
(1)(光学特性変更部材を使用して)部分的可干渉性に関係した光学雑音を低減
(2)対象体10に起因する波面収差あるいは部分的な進行方向変化のフィードバックのいずれか一方のみの実施、あるいは両方の併用実施を行う。
【0034】
上記(2)に関し、検出部4または6内の少なくとも一部で照射光12または検出光16に及ぼす影響を測定し、フィードバック部8を介して照射光12の光学特性を変化させる。同様に検出部4、6内部を制御して、検出光16の光学特性を変化させても良い(詳細は第6章で後述)。
【0035】
上記(1)に関して具体的な実施形態例を第3章で説明するに先立ち、部分的可干渉性の光(Partially Cohetent Light)が光学雑音を発生させる原理を第2章で説明する。
【0036】
また光学的検出または光学的イメージングで得られた知見の信頼性や信憑性を検証するため本実施形態では、量子化学計算ソフトを用いた計算機シミュレーションを併用しても良い。そして高分子内の特定官能基に限定した第n倍音や結合音の特性を理論的に計算する本実施形態方法を第7章で後述する。
【0037】
2.2節 白色光が部分的可干渉性を持つ状況説明と用語の定義
(Section 2.2) Occasion of Partially Coherent White Light and Definition of Technical Terms)
半導体レーザー素子(Laser Diode Tip)などから発生した単色のレーザー光が干渉性(Cohetency)を持つ事は知られている。それに対応して例えばタングステン・ハロゲンランプ(Tungsten Halogen Lamp)など小さな発光源70から放出された白色光も、部分的干渉性を持つ。
【0038】
例えば図2Aに示すように、タングステン・フィラメント50表面上のα点から放出された光(白色光)とβ点から放出された光(白色光)をγ点で同時に観察した場合を例に取る。両者間で“振幅の相関(Amplitude Correlation)”が非常に強い場合、あるいは両者間の“位相差(Phase Shift Value)が時間的に一定”する場合には、両者の光は可干渉的な光(Coherent Light)と呼ぶ。そしてこの場合には、γ点では両者の光間で“干渉”が起きる。
【0039】
反対に両者間で“振幅の相関”が全くない場合、あるいは両者間で“位相差が全く無関係に変化”する場合を非可干渉的な光(Incoherent Light)と呼ぶ。そしてこの場合には、γ点では両者の光間で“干渉”は起き無い。そしてγ点で観察される光強度は、α点から単独で得られる光強度とβ点から単独で得られる光強度との単純加算で得られる。
【0040】
ところで定常的に発光するレーザー光以外の多くの光は、上記の可干渉状態(Coherence)と非可干渉状態(Incoherence)の中間状態になっている。この完全な可干渉でも無く完全な非可干渉でも無い状態は、一般的に部分的可干渉(Partial Coherence)と呼ばれている。またそのような状態の光を部分的可干渉な光(Partial Coherent Light)と呼ばれる。
【0041】
この部分的可干渉性の光が検出対象体で散乱または反射や透過されると、その後の光路で部分的な“干渉”が生じ、スペックルノイズ(Speckle Noise)の原因となる。従って光を用いて検出対象体から信号を得る(この検出対象体内特定部位での所定の光学特性を検出する)またはこの検出対象体からのイメージ情報を取得する時には、“光の干渉現象”に起因するスペックルノイズの影響で、検出信号やイメージの品質や特性が劣化する。
【0042】
本実施形態の中では後述するように、“(A)光の異なる放出方向間や異なる発光領域間、異なる分割された波面間、異なる分割された振幅間を互いに非可干渉化”し、“(B)非可干渉化後の複数光を合成(混合)”する独自の手法を提案する。従って後述する本実施形態の説明文内では、信号検出やイメージングに使用する光を“部分的に非可干渉化する(完全な非可干渉化状態では無いが、有る程度は非可干渉化された状態も含む)”と言う意味で、部分的非可干渉(Partial Incoherence)と言う用語を特別に使用する。それにより、本実施形態と従来技術との違いを明確化する。
【0043】
上記の(B)に対応した光学的操作において、互いに部分的非干渉化された光(Partial Incoherent Light)同士を組み合わせる操作を“混合する(mix)”と本実施例説明文中では表現する。また上記混合して得られた光を“混合光(mixed light)”と呼ぶ。
【0044】
一方で干渉性状態に拠らず異なる光路を経た光間を組み合わせる操作を“合成する(combine)” と本実施例説明文中では表現する。つまり合成される光間は干渉性(部分的可干渉性を含む)を持っていても良く、また非可干渉(部分的非可干渉を含む)の状態でも良い。
【0045】
異なる複数光路を経た広波長域光間を組み合わせる光学的操作方法に依っては、“短い波長成分では部分的非可干渉性”を持ち、“長い波長成分では部分的可干渉性”を持つような混在特性を示す場合が有る。この場合も、組み合わせ操作を“合成する”と呼び、組み合わせた結果得られる光を“合成光(combined light)”と本実施例説明文中では表現する。
【0046】
また上述した合成(または混合)されて得られた光は、進行方向または電場振動方向が一致または類似しても良い。そしてその結果として、互いに異なる光路を通過する合成(または混合)前の光は、合成後(または混合後)には少なくとも一部で同一の光路を通過する。
【0047】
今まで説明した“光の干渉性”が生じる根本原理を、まず始めに説明する。ここでは説明の容易性から便宜的に、“周波数幅Δν内の光の発光時刻に関する不定性(時間幅Δt内では一意的な規定不能)”の考え方を利用する。しかし光の干渉性を説明する一般的な方法として、本節(2.2節)内後半での説明内容が多い。
【0048】
図2Aのタングステン・フィラメント50表面上のα点から放出された白色光が、波長範囲としてλ-Δλ/2からλ+Δλ/2内の光のみを通過する光学的な狭帯域バンドパスフィルタ(波長選択フィルタ)52を通過後、距離R離れたγ点に到着した場合を考える。この時に狭帯域バンドパスフィルタ(波長選択フィルタ)52を通過できる光の周波数(振動数)範囲はν0+Δν/2からν0-Δν/2となる。
【0049】
またこのγ点からタングステン・フィラメント50表面上のβ点までの距離をR+δとする。真空中での光の伝搬速度をCで表す。γ点に同時に到着する光がβ点を出発した時刻は、α点を出発した時刻よりも
Δt=δ/C …(B・1)
だけ早いと考えるのが自然である。
【0050】
しかし光に関しても、下記の不確定性原理(Uncertainty Principle)が存在する。
1 ≧ Δt・Δν …(B・2)
すなわち上記の(B・2)式で規定された時間範囲Δt内で生じた複数の光学現象間(例えば複数の異なる位置でのフォトンの放出など)は、詳細な時間的前後関係の識別が困難と解釈される。すなわち上記の時間範囲Δt内で生じた複数の異なる位置からの発光は、“ほぼ同時に光を放出した”と見なされる。
【0051】
ところで光学的な狭帯域バンドパスフィルタ(波長選択フィルタ)52を通過できる光の中心波長λ、波長範囲Δλと中心周波数(振動数)νおよびその範囲Δνとの間には、
(λ-Δλ/2)×(ν+Δν/2)= λ×ν=C …(B・3)
の関係が成り立つので、(B・3)式においてΔλ×Δν/4≒0と見なすと
Δν ≒ Δλ × C /λ …(B・4)
の関係が導かれる。そして(B・1)式と(B・4)式を(B・2)式に代入すると
δ ≦ λ / Δλ …(B・5)
が得られる。すなわち図2Aにおいて光路長の差δが(B・5)式を満足する範囲内では、タングステン・フィラメント50表面上の異なる位置(α点やβ点)から放出された光は全て“ほぼ同時に放出された”と解釈される。特に(B・5)式の右辺を満足する長さを可干渉距離(Coherence Length)と呼ぶ。すなわち可干渉距離lCLは、
CL ≡ λ / Δλ …(B・6)
の関係式で表現される。
【0052】
従って上記(B・5)式を満足する範囲内の光間は、互いに部分的可干渉性の光の関係を持つ。また(B・5)式は満足しないが、(B・5)式に近い関係を持つ光間の関係を低可干渉性(Low Coherence)と呼ばれる。特に本実施形態の説明文中では(一般的な用語として使われて無いが独自性を際だたせるため)、上記(B・5)式を離脱した状況に制御(操作)された光を、前述した部分的非干渉化された光と特に呼ぶ。
【0053】
図2Aに示す例では、光学的な狭帯域バンドパスフィルタ(波長選択フィルタ)52を利用して(B・6)式内の波長範囲Δλが設定された。しかしそれに限らず、本実施形態での検出部6(図1A図1C)内で分離検出可能な波長範囲Δλ(波長分解能)を上記(B・6)式に適用しても良い。
【0054】
例えば図14Eの分光器22内に設置された1次元ラインセンサ132内の1個の検出セルで検出可能な波長範囲をΔλとして上記(B・6)式を使用できる。
【0055】
また一方では、図14Eの分光器22自体の波長分解能(半値幅)の値を、上記の波長範囲Δλとして上記(B・6)式に適用しても良い。ここで図14Eに例として示した分光器22の波長分解能(半値幅)は、スリット130の幅(またはピンホール幅)Wの影響を大きく受ける。
【0056】
中心波長λ近傍の波長λの光がブレーズ形回折格子126に入射時の回折角θは、
θ ≒ χ・λ …(B・7)
と近似される。ここでχは、回折格子の入射波長に対する回折角係数を表す。この(B・7)式においてλをΔλに置き換えると、下記の式となる。
Δθ ≒χ・Δλ …(B・8)
さらにコンデンサレンズ134-2と1次元ラインセンサ132間距離をSLで表すと、Δθに対応した1次元ラインセンサ132上での位置ずれ量ΔYは
ΔY = SL・Δθ ≒ SL・χ・Δλ …(B・9)
が得られる。
【0057】
一方でコンデンサレンズ134-2の結像倍率(横倍率)をMとすると、スリット130の幅(またはピンホール幅)Wとは
ΔY = M・W / 2 …(B・10)
の関係が有るので、(B・9)式と(B・10)式から、
Δλ ≒ M・W / (2SL・χ) …(B・11)
の関係が成立する。この(B・11)式を上記の(B・6)式に代入すると
CL = 2SL・χ・λ / (M・W) …(B・12)
の特性式が得られる。
【0058】
従って本実施例では、測定装置や近赤外顕微装置内のスリット130の幅Wやそれ以外の各パラメータM、SL、χに依存する各種光検出素子(あるいは図2A図2Bまたは図4の光学的な狭帯域バンドパスフィルタ10(波長選択フィルタ)などの光学素子)の特性に合わせて、照射光(第1の光)12または検出光(第2の光)16のスペックルノイズなどの光学雑音成分を低減させる(δ>lCLとなる)ように光源部2または検出部6内の光学系構造を工夫しても良い。
【0059】
上記では分光器22内のスリット130の幅(またはピンホール幅)Wが影響を及ぼす特性(光学素子(図2A図2Bまたは図4)の光学特性)に合わせて光源部2内光学系または検出部6内光学系を工夫してスペックルノイズなどの光学雑音成分を低減させる(δ>lCLとなる)具体的実施例を説明した。しかしそれに限らず本実施形態では、図7に示すモニタカメラ24の特性(波長分離性能/解像度など)、あるいは図示して無いが各種光検出器などの検出特性(波長分離性能/解像度など)や光学素子の光学特性に合わせてスペックルノイズなどの光学雑音成分を低減させる(δ>lCL)工夫を行っても良い。
【0060】
ここまでは比較的狭い波長範囲Δλを例に取って説明した。しかしそれに限らず例えば“白色光”のように波長範囲Δλが非常に広い場合でも、(B・5)式や(B・6))、(B・12)式は適用可能である。
【0061】
例えとしてタングステン・ハロゲンランプから放出された白色光の波長範囲Δλを2μm(0.5μm~2.5μm)程度、中央波長λを1.2μm程度と粗く見積もった場合には、(B・6)式から可干渉距離lCLは0.72μmとなる。すなわち複数の異なる発光点から放出された白色光でも、測定点(γ点)までの光路長の差δが0.72μm以下の白色光間では干渉が生じる(部分的可干渉の状態となる。)
そして発光源として上記のタングステン・フィラメント50に限らず、あらゆる発光源から放出された白色光に関しても同様に上記現象が発生する。例えば広域の位置から同時に白色光を放出する発光源に関しても(すなわち発光源の発光領域が非常に広い場合でも)、(B・5)式を満足する微小な発光領域から放出された白色光の間では同じ現象(干渉)が生じる。
【0062】
上記のように“時間範囲Δt内での発生(発光)時刻の不確定性”の概念を用いて可干渉距離を説明する代わりに多くの場合、下記のように異なる波連(Wave Train)間で干渉し得る距離として説明される場合が多い。
【0063】
例えば発光点から放出された白色光が空間内の同一方向(例えばz軸方向)に伝搬する場合を考える。仮にt=0、z=0の所で白色光に含まれる全ての波長光の位相(電場振幅値が“最大値”となるz軸方向の位置)が一致する場合を仮定する。この近傍で可干渉距離の範囲内に局在する全波長での電場振幅分布領域を“波連”と定義する。
【0064】
上述した可干渉距離の計算例を引用すると、白色光内に含まれる波長範囲が0.5μm~2.5μmの場合に1個の波連が定義される範囲は-0.36μm≦z≦0.36μm(=0.72μm÷2)となる。この0.36μmは最短波長の0.5μmより短いため、同一波連内では全波長の位相がほぼ揃う。
【0065】
従ってz軸方向で隣接する2個の波連間の一部が重なる場合には、重なり領域内では全波長光で干渉が起きる。
【0066】
2.3節 部分的可干渉性の光が光学的イメージングに及ぼす影響
(B・5)式を満足する範囲内では、図2Aのタングステン・フィラメント50(発光源)表面上の異なる位置(α点やβ点)から放出された光は全て“ほぼ同時に放出された”と解釈される。従って光学的な狭帯域バンドパスフィルタ10を通過後の光は図2Bのように、電場振幅54の位相(光進行方向での山谷の位置)は全て一致していると見なされる。
【0067】
この特性を持った部分的可干渉光が“片面に微細な凹凸構造を有する光透過物体56”を通過した時に発生する干渉現象例を図3に示す。図3(a)では光透過物体56表面に凹凸構造が無いため、隣接する部分的可干渉光60間での(位相ずれで発生する干渉に基付く)相殺効果は無い。
【0068】
一方の図3(b)では、光透過物体56表面に段差dの凹凸構造を持つ。ここで光透過物体56の屈折率をnとすると、この内部を機械的距離dだけ通過後の光路長は“nd”となる。一方で真空中の距離dだけ通過後の光路長はdとなる。従って図3(b)の上側経路(厚みdの真空中)を通過した光と図3(b)の下側経路(厚みdの光透過物体56)を通過した光との間の光路長の差δは
δ = (n-1)d …(B・13)
となる。ここでδ=λ/2の場合には、図3(b)の上側経路と下側経路を通過した部分的可干渉光間で干渉(相殺)して直進光強度が“0”となる。そしてこの透過光量を検出部6で検出した場合、図3(a)と(b)の差(干渉の影響)が光学雑音として現れる。
【0069】
図3では光路途中での光透過時における微細な凹凸構造の光学的イメージングに及ぼす影響例を示したがそれに限らず、光路途中での光反射や光散乱でも同様な現象(反射光や散乱光間の干渉)が起きる。
【0070】
図2Aを用いた説明では、“光源から出射(放出)される照射光12”(図1A図1C)間で干渉が起きる範囲として可干渉距離を説明した。しかしそれに限らず、観察や測定、検出の対象となる“対象体10(図1A図1C)内の微小領域内で反射または散乱(透過も含む)された光(部分的可干渉光)”間でも同様な干渉の影響が発生する。
【0071】
図4は照射光12が右から左の方向に進行し、対象体10内の微小な光散乱体66の一部で後方散乱した光を検出光16(図1A図1C参照)として利用する一例を示す。ここで微小な光散乱体66内のα点とβ点での後方散乱光がγ点で検出(測定)された場合を考える。β点からγ点までの光路長とα点からγ点までの光路長との差δに(B・5)式の関係を満足すると、γ点においてα点とβ点からの光干渉(Optical Interference)が生じる。
【0072】
更に対象体10の表面形状として微細な凹凸構造が有ると、図3の説明内容と同様に干渉現象が生じ、検出方向での検出光量の濃淡が発生する。その結果として、光学的イメージングに大きな悪影響を及ぼす。またそれに限らず、対象体10内部の屈折率が不均一な(屈折率分布を持つ)場合でも、同様に干渉現象(検出方向での検出光量の不必要な濃淡)が発生し、光学的イメージングに大きな悪影響を及ぼす。
【0073】
2.4節 部分的可干渉性の光が分光特性の測定に及ぼす影響
照射光12または検出光16(図1A~C)が部分的可干渉光の場合には、干渉(スペックルノイズ)の影響で光学的イメージングが劣化する理由を2.3節で説明した。またそれに限らず、光電変換後に得られた検出信号や対象体10自体の分光特性(吸光特性など)の測定結果にも大きな悪影響を及ぼす理由を説明する。
【0074】
図1A/B/C(a)の対象体10の構造例として、片面に微細な凹凸構造(高さdの段差)を有する光透過物体58を図5に示す。そしてここを通過する部分的可干渉性を有する入射光として、図5(a)は長波長光68の場合、図5(b)は短波長光62の場合を考える。
【0075】
段差dの上部通過光と下部通過光との間では、(B・13)式に対応した光路長の差δが発生する。この光路長の差δと入射光の真空中での波長λに対して“δ≒λ”の関係を満足する図5(b)の状態では、段差dの上部通過光と下部通過光との間の位相が一致する。従ってこの状態では、透過光の光量低下は少ない。
【0076】
他方で図5(a)の状態で“δ≒λ/2”の関係になると、段差dの上部通過光と下部通過光との間で“干渉に拠る直進光量の相殺現象”が生じる。その結果として、直進光量の低下が生じる。
【0077】
このように“入射光の波長によって直進光量が変化”すると、測定すべき対象体10自体の分光特性(吸光特性など)の測定結果に大きな誤差が生じる。
【0078】
図5の光透過物体58の特性として、一方の表面に微細な凹凸構造のみを有する例を用いて説明した。しかしそれに限らず、光透過物体58内部でも光干渉現象が発生する。すなわち所定厚みで光が透過可能な物体である無機誘電体、有機物(ポリ化された高分子)や生命体内部では、微小領域毎の光散乱が発生する。そして物体から出射後の進行方向が異なる多重散乱光間で一致した場合には、図5と同様な光干渉が発生する。
【0079】
図23Aは、厚み30μmで両表面が平坦なポリエチレンシートに対する透過光率の波長変化を測定した実験結果を示している(詳細な実験条件は後述)。図23A(a)では部分的可干渉性が高い近赤外光で測定し、図23A(c)に移るに従って部分的非可干渉性が高い近赤外光になっている。図23A(a)から図23A(c)に移るに従って、波長1.360μmでの透過率が85.3とから85.80%、87.2%と逐次増加している。同一試料(対象体10)と同一波長での前記変化は、測定に使用した近赤外光の部分的非可干渉性の違いに起因すると考えられる。
【0080】
すなわちポリエチレンシート内を光が通過すると、ポリエチレンシート内部で発生した多重散乱光もポリエチレンシートの後方に通過する。このポリエチレンシート通過後の検出光16の部分的可干渉性が高いと、同一方向に進行する検出光16間で干渉して直進光強度を低下させる。一方でこの検出光16の部分的非干渉性が高いと、同一方向に進行する検出光16間での干渉による直進光強度の低下が少ないと考えられる。
【0081】
説明容易性から、対象体10を平行光が通過する図5の例を用いて分光特性測定結果に及ぼす影響を説明した。しかしそれに限らず本実施例の測定装置として、図1A図1Cに示す全ての構造に関しても2.4節あるいは2.3節の現象は発生する。
【0082】
さらに図4を用いて2.3節で説明したように、微小な光散乱体66からの反射光を用いて分光特性や吸光特性を測定した場合にも、上記の現象は起きる。従って微小な光散乱体66を測定する近赤外顕微装置でも本実施例では図7に示すように、光学雑音低減化素子または部分的可干渉性低減化素子64を用いて光学雑音の低減化を行っても良い。
【0083】
図7に示す本実施形態における顕微装置では、発光源70から照射された照射光(第1の光)12がコリメートレンズ26で平行光に変換された後、対物レンズ25で対象体10内部の特定場所に集光される。この特定場所で反射された光は検出光(第2の光)16として分光器22上とモニタカメラ24上に結像される。
【0084】
具体的な光路としては、対象体10内部から得られた検出光(第2の光)16は対物レンズ25で平行光になり、ビームスプリッタ20で照射光(第1の光)12の光路から分離される。そして検出部6内でビームスプリッタ18により互いに異なる進行方向に分離される。分離された検出光(第2の光)16は、それぞれ検出レンズ28-1と2でモニタカメラ24上と分光器22上(詳細には図14Eに示すピンホールまたはスリット130上)に集光される。この顕微装置で検出または測定する対象体10内部の特定場所と分光器22およびモニタカメラ24の検出位置(撮像面やピンホールまたはスリット130)との間は、対物レンズ25と検出レンズ28-1/2の組み合わせで結像光学系を形成する。それにより対象体10内部の深さ方向での所定位置の特性信号のみ抽出可能となっている。
【0085】
本実施例の顕微装置では、光学雑音低減化素子または部分的可干渉性低減化素子64(詳細な構造と働きは第3章で後述)を光路途中に挿入しても良い。それにより照射光(第1の光)と検出光(第2の光)16の部分的非可干渉性が向上し、光干渉に基付く光学雑音が低減する。
【0086】
また上記顕微装置に使用する光として、2.5節で規定する波長範囲に含まれる近赤外光を用いても良い。前記の近赤外光を利用した顕微装置を、本実施例では特に“近赤外顕微装置”と呼ぶ。
【0087】
2.5節 部分的可干渉性の光が分光特性に及ぼす影響例の数式的表現
測定の対象体内の分光特性(吸光特性など)測定に部分的可干渉性の光を使用すると、光干渉に起因するスペックルノイズの影響で検出信号特性が劣化する事を、2.4節で定性的に説明した。本2.5節では特定のモデル例を用いて、定量的(数式的)に説明する。
【0088】
可視域から近赤外域までのパンクロマティックな(panchromatic広い波長範囲で多くの異なる波長光を同時に発光する)光源として、タングステン・ハロゲンランプやキセノンランプが知られる。これらの構造は、タングステン・フィラメントの周辺にハロゲン系ガス(沃素あるいは臭素化合物)やキセノンガスが封入されている。そして光学的視点からすると(光の波長オーダーの精度では)、これらのガスを封入する石英ガラス製管球(vessel)の厚みに均一性は無く、場所による厚みムラが存在する。従って管球内部で発生したパンクロマティックな光が管球を通過する過程で、管球の厚みムラに起因した光干渉が発生する。
【0089】
この状況モデルを図6に示す。発光源70のタングステン・フィラメント50近傍から発生した発散光が、管球67を通過後に焦点距離Fのコリメートレンズ26で平行光になる場合を想定する。ここではコリメートレンズ26開口部(Pupil Area)の半径を“1”に規格化する。そしてこのコリメートレンズ26の光軸を基準とし、タングステン・フィラメント50近傍のα点から発生して管球表面のβ点を通過する光の進行方向との間の角度をηとし、この光がコリメートレンズ26開口部を通過する位置の半径をrで表す。次にタングステン・ハロゲンランプの管球(石英ガラス)67内部の屈折率をn、その厚みをTと表記する。
【0090】
角度ηが充分小さい時には、タングステン・ハロゲンランプの管球(石英ガラス)67内部での光進行方向の角度ρとの間の関係は、スネル(Snell)の法則から
ρ ≒ η / n …(B・14)
と近似できるので、タングステン・ハロゲンランプの管球(石英ガラス)67内を通過する時の機械的距離τは、角度ηが充分小さい時には便宜的に下記のように近似する。
τ = T / cosρ ≒ T …(B・15)
管球表面のγ点でのタングステン・ハロゲンランプの管球(石英ガラス)67の厚みが、周辺よりdだけ薄い場合を考える。またα点から発生してγ点を通過後に管球67を出てコリメートレンズ26に向かう角度がηになる場合を仮定する。β点とγ点を通過した光は同一方向へ進行するため、部分的可干渉性の特性から干渉が生じる。
【0091】
β点とγ点を通過した光間の光路長の差δは、(B・15)式の近似を用いると(B・13)式と同じになる。するとβ点またはγ点を経てタングステン・ハロゲンランプの管球(石英ガラス)67通過後の合成波ψは、波数をk、光の進行方向をzとした時
ψ(r)
= eikz + Aeik[z+(n-1)d]
= eik[z+(n-1)d/2]{ (1-A)e-ik(n-1)d/2 + 2Acos[k(n-1)d/2] }
= eik[z+(n-1)d/2]
×{ (1+A) cos[k(n-1)d/2]- i(1-A)sin[k(n-1)d/2) }…(B・16)
となる。ここでγ点通過光の振幅を“1”、β点通過光の振幅を“A”とした。
【0092】
タングステン・ハロゲンランプの管球(石英ガラス)67の厚みムラ(thickness deviation)の分布は不均一だが、計算モデルを簡素化して“管球の厚みムラdが均一に分布する”と見なして計算を進める。コリメートレンズ26の開口面上での半径r、幅drの面積は2πrdrから、コリメートレンズ26の開口を通過する全ての合成波Ψは
【0093】
【数1】
【0094】
となる。従ってこの合成波Ψの光強度Icは、最大値で規格化するとk=2π/λから
【0095】
【数2】
【0096】
が得られる。(B・18)式の第2項は、“部分的可干渉な光を用いた分光特性の測定時に一部で光干渉が発生すると、測定波長に依存して検出光量が余弦波的に変化する”事を示す。
【0097】
タングステン・ハロゲンランプの管球(石英ガラス)67の厚みムラに限らず、あらゆる原因で部分的可干渉光間の干渉が生じた場合に、上記と類似した現象が発生する。光源部2または検出部6内(図1A図1C)の何らかの原因で光路長差δが発生し、同一方向に進行する異なる可干渉光(振動方向も一致する場合)の合成波ψは(B・16)式と同様に
ψ = eikz + Aeik(z+δ)
= eik[z+δ/2]{ (1+A) cos(kδ/2) - i(1-A)sin(kδ/2) }…(B・19)
となるが、ここで
|ψ| ≡{ (1+A)cos2(kδ/2) + (1-A)sin2(kδ/2) }1/2 …(B・20)
そして
【0098】
【数3】
【0099】
と置くと、(B・19)式は
ψ = |ψ|eik(z+δ/2+σ) …(B・22)
と変形できる。そして“互いに位相の異なる2個の平面波を合成した合成波ψはδ/2+σの位相を持った1個の平面波になる”事を(B・22)式は意味している。さらに同様の理由から、部分的可干渉性を持つ3以上の複数の平面波を合成すると1個の平面波が得られる。
【0100】
(例えば管球67が存在しない場合など)光干渉を起こす要因が全くない時のコリメートレンズ26を通過する全ての光に対する合成波をΨ0とし、光干渉を起こす要因により生じた新たな合成波をΨ1とする。それぞれの合成波Ψ0とΨ1が部分的可干渉性を持つ場合には、両者をさらに合成したΨ0+Ψ1からは、(B・18)式に類似した“検出波長方向での検出光量変化”が発生する。
【0101】
次に上記と異なる計算モデルとして、『タングステン・ハロゲンランプの管球67の壁面を平坦な平行平板と見なし、ここをコリメートレンズ26に向かう発散光が通過する』場合の特性を考える。ここで計算の簡素化のため、『コリメートレンズ26通過光の振幅分布は至る所で一定』と見なす。
【0102】
コリメートレンズ26のNA(Numerical Apperture)値をNAで表す。すると図6から、
r = η / NA …(B・23)
となる。ここではスネル(Snell)の法則を近似した(B・14)式は利用するが、(B・15)式に関しては少し精度を上げた下記の近似式を使用する。
【0103】
【数4】
【0104】
この(B・24)式右辺第2項が、(B・13)式(または(B・16)式)の“d”に対応する。
【0105】
前回の計算モデルと同様にコリメートレンズ26の開口面上での半径r、幅drの面積は2πrdrなので、コリメートレンズ26の開口を通過する全ての合成波Ψは
【0106】
【数5】
【0107】
で与えられる。ここでv≡rと置くとrdr=(1/2)dvから、(B・25)式の積分結果は下記の式となる。
【0108】
【数6】
【0109】
ここで(B・16)式のψをΨに置き換え、“A=-1”とし、
d = -T・NA/(2n) …(B・27)
と置き換えると、(B・26)式に比例する。従って合成波Ψに関する規格化後の光強度Icは、(B・18)式に上記の置き換えを施す事で
【0110】
【数7】
【0111】
が得られる。(B・28)式の右辺第2項に拠ると、検出強度が測定波長λの変化に応じて周期的に変化する。また測定波長λに応じた検出強度変化の周期は、平行平板(管球67)の厚み、あるいはコリメートレンズ26のNA値で変化する。
【0112】
図6のコリメートレンズ26通過後の平行光は、例えば図1B(a)のように対象体10を通過して検出部6内に入る。検出部6内では例えば図14Eのように、検出レンズ28-2で集光後に分光器22を用いて(B・28)式の特性を含んだ信号が検出または測定される。しかしそれに限らず図1A図1Cに示すいずれの光学系を用いても、(B・28)式の特性を含んだ信号が検出または測定され得る。すなわち『発光源70から光検出器80(図8B)に至る光路途中で、部分的可干渉性の光の発散光路または収束光路に透明な平行平板(管球の壁など)を配置すると光の干渉の影響で原理的に、波長λ変化に応じて周期的に強度が変化する光学雑音が発生し得る』事を(B・28)式が示している。
【0113】
(B・28)式では、上記の周期的に発生する光学雑音の変化量が非常に大きくなる。(B・27)式を(B・13)式に代入すると、光路長の差の最大値δmaxは
δmax = -(n-1)T・NA/(2n) …(B・29)
で与えられる。(B・29)式において平行平板(管球の壁など)の厚みTが大きくなると、δmax > lCLとなってしまう(実際の可干渉距離lCLの計算値は、2.7節で後述する)。この状態になると、コリメートレンズ26開口部の中心と周辺部をそれぞれ通過する光との間での光干渉が、分光器22内部で発生しない。
【0114】
(B・24)式の近似は、ρの値が充分小さい範囲でしか成立しない。さらに石英ガラス製タングステン・ハロゲンランプの管球67厚みの均一性は、それほど高くなく、大きな厚みムラが予想される。またコリメートレンズ26の開口部の振幅分布も均一性から大きく外れる。それらの結果として実際には、(B・28)式より遙かに小さな光学雑音量が観測される。
【0115】
タングステン・ハロゲンランプやキセノンランプなどパンクロマティックな光源では、タングステン・フィラメント周辺に配置された管球内で光路長の違いが発生し得る。その結果として、(上記管球も含めた)発光源から放出されたパンクロマティック光に(B・28)式のような光学雑音成分が含まれる場合が多い。
【0116】
上記パンクロマティックな光源からの放出光内の光学雑音成分の量を実際に測定すると、(B・28)式で与えられる程大きく無い。上記の色々な要因から、光学雑音成分の量が(B・28)式より減少すると考えられる。
【0117】
複数種類で複数個のタングステン・ハロゲンランプ光源(管球含む)からの放出光を実際に調べたところ、直流成分((B・28)式右辺第1項の係数)を“1”とした時の光学雑音成分((B・28)式右辺第2項の係数)は、0.1~1.0%程度だった。
【0118】
上記と比較し得て、パンクロマティックな光源として許容される光学雑音成分量に付いて説明する。厚み30μmのポリエチレンフィルム内を直進平行光が通過すると図23Aが示すように、メチレン基(-CH)のグループ伸縮振動第2倍音に帰属する吸収帯の光吸収量は約0.5%変化する(詳細は5章などで後述)。
【0119】
従ってパンクロマティックな光源として許容される光学雑音成分量は最悪でも平均0.5%以下(望ましくは平均0.1%以下)が必要となる。図23Aの実験条件に限らず、30μmより薄い試料(フィルム)で測定するニーズも有る。従って光学雑音成分量は平均0.05%以下あるいは002%以下の必要が有る。ここで上記の光学雑音成分量とは、直流成分((B・28)式右辺第1項の係数)を“1”とした時の光学雑音成分((B・28)式右辺第2項の係数値に相当)の比率と定義する。
【0120】
(管球などの影響で)パンクロマティック(非モノクロマティック)な光源光に元々含まれる0.1~1.0%程度の光学雑音成分に対し、第3章で説明する本実施形態例に拠り平均0.5%以下(あるいは平均0.1%以下、望ましくは平均0.05%以下または0.02%以下)に低減できる。一方で“発明が解決しようとする課題”で説明したように、特許文献1などの従来技術では光学雑音低減化に限界が有り、平均0.5%以下(あるいは平均0.1%以下、望ましくは平均0.05%以下または平均0.02%以下)に光学雑音を低減するのが難しかった。そして図9が示すように、第3章で後述する実施形態例は光干渉の影響で発生する光学雑音を有効に低下させるあらゆる方法を網羅的に提示している。
【0121】
従って光源内部に管球などを含む非モノクロマティックな光源から得られる照射光12(あるいは検出光16)に対して何らかの光学雑音低減処理を施した結果、照射光12(あるいは検出光16)内の光学雑音成分量が平均0.5%以下(あるいは平均0.1%以下、望ましくは平均0.05%以下または平均0.02%以下)を達成した場合には、全て(第3章で説明する)本実施形態のいずれかまたはその組み合わせを実施したと見なせる。
【0122】
2.6節 近赤外光を利用した検出/イメージングに関する影響とその波長範囲
可視域や赤外域(主に中赤外光や遠赤外光の波長域)で検出される分光特性(吸光特性)や光散乱特性は、比較的大きな変化として現れる。従って可視域や中/遠赤外域で得る信号に関しては、光学雑音の影響は余り問題とならない。しかし自然界では可視光に対して透明な物質は少なく、表面より深い内部まで可視光で測定可能な測定対象体の種類は限られる。また水分子は中赤外光や遠赤外光を良く吸収するため、少しでも湿った測定対象体や表面が濡れた測定対象体の内部特性測定に中赤外光や遠赤外光を使用するのは難しい。
【0123】
それに比べて波長域が0.7~2.5μm範囲内の近赤外光は、誘電体や有機物質、生命体に対する透過特性が優れている。従ってこれらの物質で構成される測定対象体10内部の特性測定には、近赤外光利用に適正が有る。特に生体内の光透過性に優れているため、近赤外光は“生命の窓”と呼ばれている。
【0124】
生体内部の活動状態の可視化(イメージング)には、f-MRI(Functional Magnetic Resonance Imaging)が使われる場合が多い。特にイメージングを扱う場合には、処理速度の高速化を目指して、パルス・フーリエ変換分光法(Pulse Fourier Transform Spectroscope)が多用されている。しかしこの方法での励起用パルス幅(Pulse Width of Magnetical Excitation)がマイクロ秒オーダーなため、それよりも高速な変化を検出できない欠点が有る。
【0125】
一方で生体内部での活動(生体反応や生化学反応あるいは触媒反応)では、マイクロ秒以下の高速で反応が完了する場合が多い。従って上記のf-MRI(あるいはNRI)では、高速に起きる生体内部の活動を検出できない。一方で高速な光検出器(や撮像装置)を使用すれば、近赤外光を用いて生体内部での高速変化を検出できる。従って生体内部での(マイクロ秒以下の)高速変化(活動)の検出には、近赤外光が向く。
【0126】
しかし誘電体や有機物質、生命体に対する近赤外光の透過特性が良いだけ、逆にこれらの物質内での近赤外光の吸収や散乱が少ない。従って測定対象体10内部の特定領域から近赤外光で得られる信号変化量は非常に小さい。
【0127】
その具体適例として図23Aの実験データが示すように、波長1.213μmにおける実測最小値とその周辺を結ぶ包絡線から推定される(同一波長位置での)補間値との間の光透過率の差は“0.5%”程度と非常に小さい。
【0128】
このように近赤外光を利用した信号変化量が非常に微小なため、光学雑音を低減させて充分なS/N比(Signal to Noise Ratio)を獲得する必要が有る。従って近赤外光を用いて対象体10内部の特定領域における特性状態またはその変化を検出または測定する場合には、本実施形態を用いた光学雑音の低減方法が特に重要となる。
【0129】
そして近赤外光を利用した場合は特に、2.3節で説明したイメージングや、2.4節で説明した(光電変換後の)信号検出や分光特性(例えば吸光特性や光散乱特性の波長依存性)の測定での光学雑音の低減化技術が重要となる。
【0130】
但し本実施形態で説明する光学雑音の低減化方法は可視域や中/遠赤外域を用いて得る検出信号に不向きな訳ではない。可視域や中/遠赤外域を用いて得る検出信号に対しても第3章以降で後述する光学雑音の低減化方法を適用するとノイズ量が低減し、S/N比が一層向上する。
【0131】
また第3章以降で具体的に説明する光学雑音低減化に向けた本実施形態手法に加えて、下記の使用波長域の限定を併用しても良い。その結果として充分なS/N比が獲得でき、信号検出や測定の精度や信頼性が高まる。
【0132】
上記の併用は特に、近赤外光を用いて生体内部の組成や構造あるいは活動状態やその変化を検出または測定する場合に大きな効果が生まれる。なぜなら0.7~2.5μm範囲内で規定される近赤外光に対して、特定波長範囲の光を吸収する物質が生体内に多数含まれている。そのため上記物質が吸収する特定波長範囲内の近赤外光は生体内で多量に吸収され、検出信号量が大幅に低下する。従って上記特定波長範囲を避けた波長光を検出や測定に利用すると、検出信号量の不必要な低下を防止できる。
【0133】
近赤外域内での特定波長範囲光を吸収する物質例として、ヘモグロビンやミオグロビン、チトクロムオキシダーゼ、ビリジンヌクレオチドなどの酸素濃度指示物質が上げられる(それらの吸光特性は、特許文献2に詳細に記載されている)。(特に脱酸化状態の)ヘモグロビンやミオグロビンは、850nm以下の波長域で吸光度が急上昇する。従って本実施形態で限定する使用波長域として、多少マージンを含めた875nmから2500nmの範囲が望ましい。
【0134】
一方酸素化チトクロムオキシダーゼは、940nm以下になると吸光度が若干上昇する。従って上記の酸素化チトクロムオキシダーゼの吸光度特性まで考慮すると、多少マージンを含めて950nmから2500nmの範囲がさらに望ましい。
【0135】
近赤外光を大きく吸収する生体内物質として、水分子が存在する。特許文献3の記載内容から、この水分子が関係する特定波長範囲の中で最も吸収の大きい領域は中心波長が1.91μm、吸光度の半値範囲が1.894~2.061μmとなっている。従って生体内の酸素濃度指示物質と水分子の吸収を避けた875nm以上で1890nm以下の範囲内、あるいは950nm以上で1890nm以下の範囲内に限定した光を用いて生体内部の組成や構造あるいは活動状態やその変化を検出または測定しても良い。
【0136】
さらに中心波長が1.43μm、吸光度の半値範囲が1.394~1.523μmの領域でも水分子の吸収が有る。従ってその領域も避けた875nm以上で1390nm以下(あるいは950nm以上で1390nm以下)の範囲内と1530nm以上で1890nm以下の範囲内の光を用いて生体内部の組成や構造あるいは活動状態やその変化を検出または測定しても良い。
【0137】
そしてさらに水分子の吸収は(比較的吸光度は低いが)、中心波長が0.97μm、吸光度の半値範囲が0.943~1.028μmの領域にも存在する。そのため上記水分子の吸収範囲を避けた1028nm以上で1890nm以下あるいは1028nm以上で1390nm以下の範囲内の光を用いて生体内部の組成や構造あるいは活動状態やその変化を検出または測定しても良い。
【0138】
上記波長範囲を(B・6)式に代入して、可干渉距離lCLの値を見積もる。本実施形態では検出部6内の検出特性に関係して(適合させて)可干渉距離lCLの値を設定しても良いと、2.2節で説明した。図14Eに示した分光器22例の波長分解能(半値幅)は、高性能で5nm、比較的性能の低い場合に50nmの場合を考える。
【0139】
従ってΔλ=5nmの場合にはλ=950nmで可干渉距離lCL≒0.18mm、λ=1028nmで可干渉距離lCL≒0.21mm、またλ=1890nmで可干渉距離lCL≒0.71mmとなる。
【0140】
一方でΔλ=30nmの場合にはλ=950nmで可干渉距離lCL≒30μm、λ=1028nmで可干渉距離lCL≒35μm、またλ=1890nmで可干渉距離lCL≒0.12mmとなる。
【0141】
上記見積もった可干渉距離の中で最大値が“0.71mm”なので、多少マージンを取って『可干渉距離lCLがおよそ1mm以上』になるように光学雑音低減に向けた工夫を行っても良い。
【0142】
第3章 部分的干渉性に関係した本実施形態における光学雑音低減方法
(Chapter 3] Optical Noise Reduction Method of Exemplary Eembodiment regarding Partial Coherence)
タングステン・ハロゲンランプやキセノンランプなどのパンクロマティックな光源から発生した部分的干渉性の光には、フィラメントを囲む管球の影響で光学的雑音が混在し得る状況を第2章で説明した。その光干渉に基付く光学的雑音を低減させる本実施形態の方法を第3章で説明する。
【0143】
3.1節 光学雑音低減に向けた基本原理
(Section 3.1) Basic Principle to Reduce Optical Noise)
本実施形態における光学的雑音を低減させる基本原理を、図8A図8Bを用いて説明する。図1A図1Cのいずれかの構成を有する測定装置の内部において、発光部2内の発光源70から対象体10(検出または測定の対象)を経て検出部4、6内の光検出器80に到達する光路(あるいは発光源70から出発する光路の少なくとも一部または光検出器80に到達する光路の少なくとも一部)が、複数の光路から構成される。そして前記複数の光路は、光路途中の所定箇所で合成または混合される。
【0144】
ここでは2.2節内での用語の定義に従い、“混合”直後に生成される混合光は部分的非可干渉性を持ち(Partial Incoherent)、混合前の部分的可干渉性(Partial Coherence)が大幅に減少している。一方で“合成”直後に生成される合成光は、“部分的可干渉性”と“部分的非可干渉性”のいずれの状態も許容される。また合成光では両者の中間状態でも良く、例えば合成光内の短波長成分では部分的非可干渉性を持ち、長波長成分では部分的可干渉性を持つ場合も有る。
【0145】
ここで複数の光路が合成または混合される上記所定箇所は図8Aまたは図8Bが示すように、光路途中の光合成(混合)部102または対象体10内特定領域(光合成/混合場所)200、光検出器80内部の少なくともいずれかでも良い。
【0146】
特に光路途中に所定箇所(光路途中の光合成(混合)部102)が存在する場合には、合成光(混合光)78の光軸方向での局所的な領域内に上記所定箇所が存在する(すなわち上記所定箇所は光軸方向での特定位置に局在する)。
【0147】
一方で光軸方向に垂直な面(光断面)方向では、この所定箇所は必ずしも局在する必要は無い。従って各光路を通過する光201、202、203の光断面全体で同時に合成または混合されても良い。またそれに限らず、光軸方向に垂直な面(光断面)方向での局所的な領域内に上記所定箇所(光路途中の光合成(混合)部102)が配置されても良い。
【0148】
また複数の光路が合成または混合される上記所定箇所では、異なる光路を通過した光の進行方向あるいは電場の振動面方向の少なくともいずれかがほぼ一致する方が良い(必ずしも厳密に一致する必要は無い)。
【0149】
特に光路途中に所定箇所(光路途中の光合成(混合)部102)が存在すると、図8A(a)や図8B(a)のように合成光(混合光)78の状態で光路内を通過する。この所定箇所(光合成(混合)部102)で異なる光路を通過した光201、202、203間の進行方向が一致しないと、合成光(混合光)78の光路が長くなるに従って互いの光201、202、203が再度分離して部分的な非可干渉性が減少する。
【0150】
また合成光(混合光)78の光路が短い場合でも、図7の対物レンズ25や検出レンズ28-1、2等が作用して、対象体10内や分光器22、モニタカメラ24上で互いの光201、202、203が再度分離する危険性が有る。従って上記所定箇所(光路途中の光合成(混合)部102)で異なる光路を通過した光201、202、203間の進行方向が一致すると、検出信号精度やイメージ画像の鮮明性が向上する。
【0151】
同様に検出光16の偏光特性を測定するために検出部4、6内に検光子や偏光ビームスプリッタを配置する場合に、所定箇所(光路途中の光合成(混合)部102)で異なる光路を通過した光201、202、203間の電場の振動面方向を一致させる事で、検出信号特性が向上する。
【0152】
そして上記の複数の光路内では、互いの光路長の差δが可干渉距離lCLより大きくなるように光学的に配置をしても良い。すると異なる光路を通過した光間の上記所定箇所での光干渉が阻害され、光学的雑音を低減できる。このような光学的配置を行うと、上記所定箇所で複数光路を通過した光の特性が変更される(すなわち部分的可干渉性が低下し、部分的非可干渉性が増加する)。その結果として、異なる光路を通過した光は、上記所定箇所で“混合”される。
【0153】
互いに異なる光路を通過して部分的非可干渉光となった光間では光干渉が起きないため、光学雑音を低減できる。3.5章でこの効果を数式的に詳細に後述するが概念的には、異なる光路で発生する光学雑音成分((B・28)式または(B・18)式右辺の第2項に対応)の互いに異なる振動周期と互いに異なる位相を強度加算して光学雑音特性を平均化(平滑化)させている。そのため、加算数が多い方が平均化=平滑化効果が向上する。従ってこの複数の光路に分割する分割数N(上記加算数に対応)が大きい方が光学雑音の低減効果が増す。
【0154】
このようにして光干渉に基付く光学雑音を低減させる事で、2.3節で説明した光学的イメージングに及ぼす悪影響を低減できる。またそれだけでなく、2.4節で説明した分光特性の測定や一般的な検出光16を用いた光検出に及ぼす悪影響も低減できる。
【0155】
上記のように本実施形態では複数光路内の光路長間の差δを可干渉距離lCLより大きくなるように光学的に配置して、上記所定箇所あるいは合成後の光路内で光学特性が変更される(互いの部分的可干渉性が低下し、部分的非可干渉性が増加する)。ところで異なる2光路内を通過する部分的可干渉性の光を上記所定箇所で合成した場合、上記所定箇所での両者の進行方向や電場の振動面方向が大きく異なると元々光干渉が発生し辛い。その場合には本実施形態方法を実施しても光学的雑音低減効果が薄れる。従って本実施形態による光学的雑音低減効果を発揮するには、上記所定箇所での両者の進行方向や電場の振動面方向が有る程度一致する事が望ましい。
【0156】
本実施形態では図8Aまたは図8Bに示すように、上記複数の光路数(光路の分割数)Nの値として“3以上”(望ましくは4以上(図13Aなどの実施例))に設定している。しかしそれに限らず、図13B(a)や図12C(c)のように8以上または9以上でも良い。
【0157】
ところで前述した検出器80とは、光電変換機能を内蔵したあらゆる光検出機能部を含む。この光検出機能部の具体的な例として、光電変換機能を有する単一の光検出部から構成される半導体形光検出器に限らず、アバランシェ形(内部信号増倍形)検出器や光電子増倍管なども含まれる。また複数の光検出部(光検出セル)から構成される光検出器として複数の検出セルが1次元方向に配列されたラインセンサ、複数の検出素子が2次元方向に配列された面センサ、所定面領域内に照射される光スポット位置を検出するポジションセンサ(位置検出センサ)なども含まれる。さらにこれらの光電変換素子を内蔵した撮像機(図14Dのモニタカメラ24)や図14Eの分光器22も、前述した検出器80に含める。
【0158】
さらに前述した発光源70には、2.5節で説明したタングステン・ハロゲンランプやキセノンランプ、あるいは白熱電球や蛍光灯などのパンクロマティックな光源を使用する事が望ましい。
【0159】
2.5節では(B・28)式を用いて、発光源70から放出された発散光の光路途中に透明な平行平板を配置すると、その透過光の強度分布は測定波長λの変化に応じて周期的に変化し得る事を説明した。そしてこの現象は、パンクロマティックな光源とモノクロマティック(monochromatic単一波長あるいは狭波長域)な光源のいずれを用いた場合でも
発生する。
【0160】
この光を分光器に利用して高精度の分光特性(または吸光特性)を得る他の方法として、『同一時刻には対象体10に対して狭波長帯域のみの光を選択して照射し、照射する波長を時系列的に掃引』しても良い。この方法を採用する場合、同一時刻に照射する狭波長帯域光の強度を同時にモニターし、その結果を検出光量にフィードバックして測定波長λ毎の照射光量変化成分を除去できる。しかし上記方法では分光特性(または吸光特性)測定のための“波長掃引時間”が必要なため、対象体10内の“高速変化”の検出や測定は難しい。
【0161】
それに比べて発光源70にパンクロマティックな光源を用いて(本実施形態に従って)部分的非可干渉性の光を対象体10に照射し、例えば図14Eの分光器22で複数波長の検出光強度を同時に検出/測定すると、『高速検出/測定』が可能となる。その結果として、対象体10内部での“高速変化”を精度良く検出や測定できる効果が有る。
【0162】
しかしそれに限らず発光源70として、LD(Laser Diode)やLED(Light-emittind Diode)などのモノクロマティックな光源を使用しても良い。
【0163】
図8Aは、発光源70から対象体10内の特定領域αに至る光源部2内の光路が3光路で構成される本実施形態例を示す。本実施形態では3光路に限定する必要は無く、上述したようにそれ以上(4光路以上あるいは8光路以上、9光路以上)に設定(分割)されて
も良い。
また必ずしも発光源70直後の光路を複数の光路で構成する必要は無く、発光源70以降の光路の途中から複数光路に分割しても良い。
【0164】
図8Aに示す光源部2では、互いに光路長の異なる複数の光路が形成されている(図8B)。さらにこの複数の光路を通過した光を合成(または混合)する光合成(混合)部102が上記光源部2内に配置されても良い。
【0165】
図8A(a)の実施形態では、光源部2内に光合成(混合)部102が設置されている。そしてこの光合成(混合)部102が、上述した光源部2内光路途中の“所定箇所”に対応する。またこの状態での“所定箇所”(光合成(混合)部102)は、後述する図9内の合成/混合場所として“(照射光12の)光路途中”に相当する。
【0166】
すなわち図8A(a)の実施形態では発光源70から光合成(混合)部102までの光路は、第1/第2/第3の3光路から構成され、各光路を通過した光201、202、203は光合成(混合)部102で合成(混合)される。その後は各光201、202、203が合成光(混合光)78に纏められて、対象体10内部の特定領域α内に照射される。
【0167】
図8A(b)の実施形態では、光源部2内の全光路が第1/第2/第3の3光路から構成され、対象体10内の特定領域(光合成/混合場所)200で合成(混合)される。従ってこの場合には、対象体10内の特定領域(光合成/混合場所)200が、光路途中の“所定箇所”に対応する。
【0168】
この状態での“所定箇所”(対象体10内の特定領域(光合成/混合場所)200)は、後述する図9内の合成/混合場所として“対象体10内特定領域(検出面86等への結像含む)”に相当する。
【0169】
図8A(a)と(b)いずれも本実施形態では、第1/第2/第3の光路間の光路長差δに関してδ>lCLを満足する。従って第1/第2/第3の光路を通過する光201、202および203の間では部分的可干渉性が低下し、互いに部分的非可干渉性の光となる。
【0170】
従って図8A(a)または(b)のように光源部2内で照射光(第1の光)12(図1A図1C)に対して部分的可干渉性を低下させる(部分的非可干渉性の光に変更する)と、対象体10内の特定領域α(200)に対するイメージングや(光電変換後の)信号検出、分光計測(例えば吸光特性や光散乱特性の波長依存性などの計測)の検出/測定の精度が向上し、かつ信頼性の高い結果が得られる。
【0171】
すなわち図23Aを用いて5.3節で後述するように、対象体10の内部では多重散乱が生じている。従って対象体10に照射する照射光(第1の光)12に部分的可干渉光を用いると多重散乱光間での光干渉が発生し、イメージングや信号検出、分光測定に悪影響を与える(大きな光学雑音成分が混入する)。それだけで無く2.3節で説明したように対象体10表面での微細な凹凸構造や対象体10内部での屈折率分布の不均一性によって生じる光干渉の悪影響も有る。
【0172】
図8A(a)または(b)のように照射光(第1の光)12の部分的可干渉性を低下させる(部分的非可干渉性の光への変更)と、上記の対象体10の内部または表面に起因して発生し得る光干渉が低減する。
【0173】
図8Bは、対象体10内の特定領域βから検出部4、6内の光検出器80に至る検出部4、6内の光路が3光路で構成される本実施形態例を示す。本実施形態では3光路に限定する必要は無く、上述したようにそれ以上(4光路以上あるいは8光路以上、9光路以上)に設定(分割)されても良い。また必ずしも対象体10内のβ領域直後の光路を複数の光路で構成する必要は無く、対象体10以降の光路の途中から複数光路に分割しても良い。
【0174】
図8B(a)の実施形態では、検出部4、6内に光合成(混合)部102が設置されている。そしてこの光合成(混合)部102が、上述した検出部4、6内光路途中の“所定箇所”に対応する。またこの状態での“所定箇所”(光合成(混合)部102)は、後述する図9内の合成/混合場所として“(検出光16の)光路途中”に相当する。
【0175】
すなわち図8B(a)の実施形態では対象体10内のβ領域から光合成(混合)部102までの光路は、第1/第2/第3の3光路から構成され、各光路を通過した光201、202、203は光合成(混合)部102で合成(混合)される。その後は各光201、202、203が合成光(混合光)78に纏められて、光検出器80に到達する。
【0176】
図8B(b)の実施形態では、検出部4、6内の全光路が第1/第2/第3の3光路から構成され、光検出器上で合成(混合)される。従ってこの場合には、光検出器80が、光路途中の“所定箇所”に対応する。
【0177】
この状態での“所定箇所”(光検出器80)は、後述する図9内の合成/混合場所として“検出器80内の検出面86”に相当する。
【0178】
図8B(a)と(b)いずれも本実施形態では、第1/第2/第3の光路間の光路長差δに関してδ>lCLを満足する。従って第1/第2/第3の光路を通過する光201、202および203の間では部分的可干渉性が低下し、互いに部分的非可干渉性の光となる。
【0179】
図8A図8Bで示した本実施形態の基本概念(基本原理)の具体化方法に関する場合分け一覧を、図9に示す。
【0180】
図8A図8Bを用いて、光源部2内か検出部4、6内の光路(の少なくとも一部)を複数光路で構成した後、各光路を通過した光を合成/混合する構造/構成を示している。しかしそれに限らず本実施例では、『複数光路化⇒合成/混合』を光源部2と検出部4、6で跨って行っても良いし、『複数光路化⇒合成/混合』を光源部2内と検出部4、6内の両方で行っても良い。
【0181】
またそれだけで無く例えば図7に示した近赤外顕微装置のように、『複数光路化⇒合成/混合』を実施する光学雑音低減化素子または部分的可干渉性低減化素子64を光源部2内と検出部6内に兼用配置しても良い。このように兼用配置すると光干渉に起因する光学雑音量の大幅低下が可能となり、検出信号の高精度化と高信頼性確保が可能となる。
【0182】
図8Aの発光源70直後で複数の光路を構成させる方法の選択肢を表す欄が、図9の“合成/混合前の光路状態”の欄に相当する。すなわち本実施形態例では、発光源70から放出された照射光(第1の光)12に対して“光放出状態の多様性”を利用して複数光路を構成させる方法と、照射光(第1の光)12に対して“光路分割操作”を施して複数光路を構成させる方法(光路状態/操作の欄内に記載)の2通りのいずれか、あるいは両者の組み合わせを採用できる。
【0183】
また前記の“光放出状態の多様性”を利用して複数光路を構成させる場合には、(詳細内容の欄に記載された)異なる“発光領域”と“光放出方法”のいずれか、あるいは両方の組み合わせを利用しても良い。
【0184】
例えば1点からのみの発光では無く“発光領域に広がり”が有る場合には、異なる発光領域から発光した別々の光を合成して照射光(第1の光)12として利用できる。一方で発光源70からの放出光の放出方向に広がりが有る場合には、(異なる光放出方向を複数光路と見なして)異なる方向に放出される光を合成して照射光(第1の光)12として利用しても良い。
【0185】
図8Bに示す検出や測定を行う対象体10内のβ領域から得られる検出光(第2の光)に対しては、(光路状態/操作欄内の)“光放出状態の多様性”に含まれる(詳細内容欄内の)“異なる発光領域”と(光路状態/操作欄内の)“光路分割操作”が、本実施形態の選択肢として存在する。すなわち本実施形態では、上記2通りのいずれか、あるいは両者の組み合わせを行っても良い。
【0186】
例えば検出や測定を行う対象体10が図4の微小構造を有した(微小な光散乱体66の)場合でも、α点から得られる光とβ点から得られる光間の光路長の差δが可干渉距離lCLより大きくなる(δ>lCL)ように光学配置(図8B)する(“異なる発光領域”に適合させる)と、両者間の部分的可干渉性が低下して光学雑音量を低減できる。
【0187】
図8Aの照射光(第1の光)12と図18Bの検出光(第2の光)16のいずれに対しても、(光路状態/操作欄内の)“光路分割操作”に含まれる具体的な“詳細内容”として“波面分割(Wave Front Dividing)”する方法と、“振幅分割(Amplitude Dividing)”する方法のいずれか又は両者の組み合わせが選択できる。
【0188】
“波面分割”とは、光の進行方向に沿った光軸に垂直な切断面上で光断面を空間的に分割する方法を意味する。そして波面分割後は、個々の分割光の光断面形状が(波面分割前と比べて)変形する場合が多い。また透明な平行平板を用いて波面分割した場合は、個々の分割光の進行方向は互いに一致する。仮に各分割光の進行方向が互いに一致した場合でも、本実施形態では“波面分割後の個々の分割光は、異なる光路を通過する”と見なす。
【0189】
一方で“振幅分割”では、光断面形状を保持したまま互いに進行方向が異なる複数光路に分割される。そしてビームスプリッタや偏光ビームスプリッタなどの光学素子で振幅分割される場合が多い。
【0190】
複数光路を“光合成または光混合する方法”は具体的には、この複数光路毎に光進行方向を変化または制御させる。しかしそれに限らず“光合成/混合方法”として、あらゆる方法を用いても良い。
【0191】
始めに“詳細内容”欄内のすべての状態/操作に適用できる“光合成/混合方法”に付いて説明する。光学的雑音を低減させる基本原理を説明する図8A図8Bでは、互いに光路長の異なる第1/第2/第3の光路を通過する光201、202、203が所定箇所に向かって集まる。この所定箇所が、光合成(混合)部102または光検出器や対象体10内の特定領域(光合成/混合場所)200(α点)に相当する。
【0192】
従ってこの光路全般を含めて、図9では“光合成/混合方法”と記載した。またその“光合成/混合方法”の意味の補足説明として、〔光路毎の進路を変化/制御〕に関係する方法と明記した。そして本実施形態の説明文内では、異なる複数の光路毎の進路を変化または制御させる光学部材の総称を“光学特性変更部材”と呼ぶ。従って図9の“光合成/混合方法”の欄に記載した(光路毎の進路を変化/制御を行う)全ての光学素子単体またはそれら光学素子の組み合わせが、“光学特性変更部材”に該当する。
【0193】
この光学特性変更部材が持ち得る機能には、(A)複数の光路毎に光路長を変化/制御する機能(後述する図10の“光路長変化76”の機能に該当)と(B)複数の光路を所定箇所に合成(または混合)させる機能が含まれる。本実施例の説明文内では、少なくとも上記のいずれか一方の機能を発揮する(同時に両方の機能を発揮しても良い)光学部材を光学特性変更部材と呼ぶ。
【0194】
またこの光学特性変更部材の物理的構造として、一体で光路途中の一箇所に配置されても良い。またそれに限らず、光路中に分散配置された複数の部材も組み合わせとして配置されても良い。このように分散配置された場合には、光学特性変更部材の一部が上記(B)の機能を担い、それとは別位置に配置された残りの一部が上記(A)の機能を担うように機能分離させても良い。“異なる発光領域”および“異なる光放出方法”、“波面分割”、“振幅分割”のいずれの方法で構成された複数光路に対しても光進行方向を変化/制御させる一例として、レンズなどの屈折素子を用いても良い。また本実施形態では、前記の“屈折素子”には、球面レンズだけで無く、非球面レンズやフレネルレンズ、プリズム、透明な平行平板などが含まれても良い。
【0195】
またそれに限らず、回折関連素子や光反射素子、光位相変換素子を用いても良い。ここで前記の回折関連素子とは、回折格子やホログラム素子などが含まれ、微小平面が傾斜化されたブレーズ化が施されてもよい。
【0196】
また光位相変換素子とは、この素子を通過後または反射後の光(照射光12または検出光16)の位相を局所的あるいは全体的に変化させる光学素子を意味する。その機能を実現させるため、光位相変換素子の内部に微細な屈折率分布あるいは表面の微細凹凸構造を有する。また本実施例では前記光位相変換素子に、表面が特定周期あるいはランダムな微細凹凸構造を有したランダムフェーズシフター(Random Phase Shifter)やデフューザ(Defuser)、砂摺り面または砂掛け面(Sand Treatment Plate)も含める。
【0197】
また複数光路毎の進路変化/制御(光合成/混合方法)に光ファイバや所定板上に光誘導路を形成または集積して光の進行方向を誘導する導波素子を用いても良い。
【0198】
それ以外の方法として“所定箇所”へ光進行方向を変化/制御する変わりに、複数の進行方向を持った光に対して“所定箇所”に集まった光のみを抽出しても良い。この方法が図9の“検出部6で合成/混合光抽出”に対応する。例えば図8Bの検出部4、6内の光検出器80は『特定の局在箇所のみの光検出(光電変換)』を行う。そして検出部4、6内で光検出器80上の『特定の局在箇所』と対象体10内の“所定箇所β”との間で結像関係(共焦関係(Confocal Relation))を形成する事で、実質的に“所定箇所β”のみの情報を検出/測定可能となる(詳細は図20を用いて3.9節で後述)。
【0199】
また“異なる発光領域”から放出された光の光路途中にプリズムや特殊レンズを追加使用し、広い発光領域から放出された光を集めても良い。図2Aを用いて2.2節で説明したように、α点からγ点に到達する光とβ点からγ点に到達する光間の光路長の差δが可干渉距離lCLより広がると、互いの部分的可干渉性が低下し(部分的非可干渉性が増加し)、光学的雑音量が低下する。それには、α点とβ点間の距離が離れる事が望ましい。そのため、光路途中にプリズムや特殊レンズを使用して広い発光領域から放出される光を集めても良い(詳細は図24A図24Bを用いて3.9節で後述)。
【0200】
なお前記特殊レンズとは、非球面状態のレンズを意味する。具体的にはレンチキュラーレンズやシリンドリカルレンズ、フレネルレンズなどが含まれても良い。
【0201】
そして“振幅分割”で複数光路に分割された光を“光合成/混合する方法”として、さらに偏光性の反射素子や偏光性の透過素子(例えば偏光ビームスプリッタなど)や非偏光性のビームスプリッタを使用しても良い。さらに互いに異なる光路を通過した光間の電場振動面方向を合わせる手段として、位相板や検光子、あるいは偏光ビームスプリッタを付加的に使用しても良い。
【0202】
図8A図8Bを用いた上記の説明内容と図10を用いて後述するように、図9の“合成/混合前の光路状態”に対して“合成/混合場所”で複数の光路を経た光を合成/混合する。その過程で光路長変化76を発生させて合成光(混合光)78の光学特性を変更(部分的可干渉性を減少させて部分的非可干渉性を増加)する。
【0203】
図9の“合成/混合場所”や“空間的同一領域”、そして図8A図8B内の“光合成(混合)部102”は、上述した“所定箇所”に対応する。この所定箇所が照射光12や検出光16の光路途中に配置された場合の本実施形態内の具体的一例として、光ファイバ100内部のコア領域142を適合させても良い(詳細は図14Aを用いて3.4節で後述)。またそれに限らず本実施形態では、光位相変換素子の通過後の場所を適合させても良い(詳細は図14Bを用いて3.4節で後述)。
【0204】
3.1節の冒頭で説明した“複数の光路を通過した光が合成または混合される所定領域”を“対象体10内特定領域200”にした場合には上述した理由から、“検出面86等への結像を含む”(詳細は図20を用いて3.9節で後述)。従ってこの場合には、“光合成/混合方法”欄内の“検出器6で合成/混合光抽出”の方法が使用される。
【0205】
一方で3.1節の冒頭で説明した“複数の光路を通過した光が合成または混合される所定領域”を“光検出器80内部”にした場合が、図9“合成/混合場所”欄内の“検出器80内の検出面86”に対応する。本実施形態における“光検出器80”とは上述したように、単一の光検出セルのみで構成される光検出器だけに限らず、光電変換機能を内蔵したあらゆる光検出機能部を含む。従って撮像機を対応させた場合には、図14Dに示すモニタカメラ24内の撮像面(検出面)86が上記“所定箇所”に対応する。
【0206】
また“光検出器80”の一種として図14Eに示す分光器22では、ピンホールまたはスリット130が上記“所定箇所”に対応する。そしてこの実施形態例が、図9の“合成/混合場所”欄内の“ピンホールまたはスリット130”に対応する。
【0207】
図10を用いて、本実施形態における光学雑音低減方法に関する基本原理を、別観点からの解説を行う。図10(a)に示すように本実施形態では基本的に、発光源70から放出された光の一部72とは異なる別の光の一部74に対して光路長変化76させる。ここで光路長変化76の量δは、(B・6)式(または(B・12)式)で定義される可干渉距離lCLよりも大きくなる事が望ましい。その後、両者を混合して混合光78(合成光でも良い)を生成する。従ってこの方法により混合光78の光学的特性が変更され、部分的可干渉性が減少して部分的非可干渉性が増加する。従って図10に示す本実施形態の基本原理では発光源70から進む光路に沿って見た場合、光路長変化76を行った後に合成光(混合光)78の生成を行う。
【0208】
ところで光路長変化76の量δは、必ずしも全ての波長で可干渉距離lCLよりも大きくする必要は無い。と言うのは、(B・6)式(または(B・12)式)で定義される可干渉距離lCLは2.7節内後半で説明したように、対象とする中心波長λ0に応じて大きく異なる。従って発光源70からパンクロマティックな光が発生する場合には、使用する最短波長で上記可干渉距離lCLよりも大きくなれば良い。この場合には、合成光78内の長波長側で部分的可干渉性が残る。
【0209】
図10(a)の光学的操作を光源部2内で行う実施形態例を図10(b)に示す。この場合には、合成光(混合光)78が照射光(第1の光)12として対象体10に照射される。
【0210】
一方で図10(a)光学的操作を検出部4、6内で行う実施形態例を図10(c)に示す。すなわち対象体10から得られる検出光(第2の光)16の一部74を光路長変化76させた後、残りの光の一部72と合成(混合)させる。そして得られた合成光(混合光)78は、光検出器80に到達する。
【0211】
図8A図10(b)に対応し、図8B図10(c)に対応する。図8A図8Bで発生する光路長変化76を、図10では明示している。
【0212】
また本3.1節の最初の部分で説明したように図10の合成光(混合光)78の光路の内部(すくなくとも合成光(混合光)78の光路の出発位置)では、元々光の一部72に属していた光の進行方向(あるいは電場の振動面方向)と光の一部74に属していた光の進行方向(あるいは電場の振動面方向)が一致する事が望ましい。それにより対象体10の内部や光検出器80上での再分離が抑えられ、良好なイメージ画像や精度の高い検出信号が得られる。
【0213】
前述した光学特性変更部材に使用する材料あるいは光学特性変更部材の基材(Substrate)に使用される材料に付いて説明する。特に2.6節で説明した近赤外光を照射光12あるいは検出光16に使用する場合の、材料選定への留意点を下記に説明する。ここでの光学特性変更部材とは、図9における“光合成/混合方法〔光路毎の進路を変化/制御〕”の欄(列)内に記載された各種光学部材を前提とする。しかしそれに限らず、任意の光学素子材料に適用しても良い。
【0214】
上記光学特性変更部材全体あるいはその基材全体の中で、照射光12や検出光16が通過する部分には、光透過性の高い材料を選択するのが望ましい。比較的安価に入手可能な透明プラスチック樹脂として、アクリル樹脂PMMA(Poly-Methyl-Metacrylate)やポリカーボネート樹脂PC(Polycarbonate)が知られている。しかしこれらプラスチック樹脂内には、炭素原子と水素原子のみから構成される官能基(メチル基やメチレン基など)が多量に含まれる。
【0215】
上記の官能基は、2.6節で説明した近赤外光を吸収する特性を持つ。そして上記官能基内で発生する伸縮振動の第1倍音に帰属する吸収帯の中心波長光は、特に大きく吸収される。この吸収帯の中心波長は、およそ1710nmから1795nmの範囲内に含まれる。例えば厚み1mmの透明アクリル樹脂PMMA(Poly-Methyl-Metacrylate)の板内を前記中心波長光が通過した場合、透過光量がおよそ半減するほど光吸収量が大きい。従って照射光12や検出光16に近赤外光を使用する場合には、光学特性変更部材あるいはその基材の材料として透明プラスチック樹脂の使用は避けた方が良い。そして近赤外光に対する光透過性の高い材料として有機材料を使わず、無機材料を使用するのが望ましい。
【0216】
光透過性の高い無機材料として、光学ガラス(Optical Glass)やCaF、MgF、あるいはLiFやKBrなどが知られている。したがってこれらの無機材料が、光学特性変更部材(あるいは光学特性変更部材の基材)への適合性を持つ。
【0217】
ところで製造上の都合から、一般的な光学ガラス内には多量にヒドロキシル基(-OH基Hydroxyl Group)が混入する。そしてそのヒドロキシル基の伸縮振動の第1倍音に帰属する吸収帯の中心波長は、1395nmから1595nmまでの範囲内またはその近傍にある。従ってヒドロキシル基が多量に混入した光学ガラスを通過する光は、上記の波長域で光吸収を受ける。
【0218】
そのため2.6節で説明した波長域の近赤外光を照射光12あるいは検出光16に使用する場合には、光学特性変更部材(あるいは光学特性変更部材の基材)の材料として『ヒドロキシル基の混入量の少ない材料』の選定が望まれる。実験から得られた結果として、具体的に許容されるヒドロキシル基の混入量は“100ppm以下”が必要条件となる。特に高精度の近赤外スペクトル測定を行う場合には、“1ppm以下”が望ましい。このようにヒドロキシル基の混入量が上記許容範囲内の材料を選定する事で、1395nmから1595nmまでの波長範囲内での光吸収が回避でき、近赤外光の全波長域での精度の高い分光特性測定が可能となる効果が生まれる。
【0219】
上記許容範囲内の光透過性材料の具体的な入手方法として材料発注時に、『ヒドロキシル基混入が少なく製造管理された硝子材料』や『無水石英硝子』、『無水石英』を指定しても良い。これらはいずれも、クリーン度の低い環境下(クリーンルーム内)で低湿度を確保しつつ温度制御しながら素材製造を行う。低湿度に設定されたクリーンルーム内で素材製造を行うことで、空気中の水蒸気混入を阻止し、ヒドロキシル基の混入量を上記許容範囲内に抑えている。このような製造方法を採る事で、材料劣化の原因となる不純物混入が防止でき、生産された材料の純度が高くなる。その結果として光透過性材料の長期保存安定性が保証されるため、それを用いて作成した光学特性変更部材の特性(性能)が長期間持続する効果が有る。
【0220】
3.2節 異なる方向への放出光の利用
3.1節では図9の場合分け一連表を用いて、本実施形態における詳細な光学雑音低減方法の一覧を概説した。そしてその個々の詳細な具体例に付いて、3.2節以降で説明する。3.2節以降で説明する本実施形態例は一例に過ぎず、図9内でのあらゆる組み合わせが本実施形態に含まれる。
【0221】
図9の“合成/混合前の光路状態”欄内の“異なる光放出方向”を利用し、“特定光路の進路を変化”させる手段として“光反射素子”を用い、“照射光12の光路途中”で異なる光路間を“合成/混合”させる方法の例を図11に示す。
【0222】
光源部2内の発光源70の一種であるタングステン・フィラメント50から全方位方向に放出光が放射される。多くの場合は図11(a)のように、前方放出光84(第1の光路に相当)のみを利用する。
【0223】
それに対して本実施形態では、背面側に光反射素子の背面鏡82を配置し、後方放出光88(第2の光路に相当)をタングステン・フィラメント50の内部に戻す。タングステン・フィラメント50から背面鏡82を往復する距離が、光路長変化76をもたらす。2.7節後半の計算例と比較すると、ここで発生する光路長の差δは可干渉距離lCLより遙かに大きい。
【0224】
タングステン・フィラメント50の内部を通過した後方放出光88(第2の光路)は、前方放出光84(第1の光路)と同じ光路を通る。これにより、前方放出光84(第1の光路)と後方放出光88(第2の光路)が混合される。
【0225】
図11に示す本実施形態例では混合光の部分的可干渉性が大幅に低下するため、仮にこの発散光路途中に透明な平行平板を配置しても光学雑音量は比較的小さく抑えられる。またそれだけでなく図11の実施形態例ではタングステン・フィラメント50からの放出光を有効利用できる効果も生まれる。
【0226】
3.3節 波面分割機能を有する光学特性変更部材
図9の“光路分割操作”の中で“波面分割”を実施する場合の、具体的な本実施形態例を3.3節で説明する。この“波面分割”を行うために使用する光学素子としてここでは、屈折素子または回折関連素子を使用した例を説明する。しかしそれに限らず、光反射素子や光位相変換素子、導波素子を使用しても良い。例えば後述する図12C図13Cのように領域毎に異なる段差を持った光反射面を構成し、光断面92内での反射場所に応じて(反射後の)光路長を変化させても良い。
【0227】
また本3.3節で説明する本実施形態例では図9の“合成/混合場所”の欄内の内容として、“照射光12や検出光16の光路途中”を設定している。
【0228】
図9の“光合成/混合方法”として“回折関連素子”または“屈折素子”を使用した本実施形態例を図12Aに示す。照射光12や検出光16の光路途中での光断面の一部領域(透過光110-1が通過する領域)にブレーズ形回折格子またはプリズム128を配置し、透過光110-1の進行方向を変更する。
【0229】
その後で透過形回折格子120で前記の透過光110-1と透過光110-2を合成または混合する。この時に透過光110-1の回折1次光と透過光110-2の0次光の進行方向を一致させる。
【0230】
ブレーズ形回折格子またはプリズム128と透過形回折格子120間の光路長が透過光110-1と透過光110-2で異なる。このように図12Aの本実施形態例では、光の進行経路の違いにより発生する光路長変化を利用して合成光(混合光)79の光学特性を変更(部分的可干渉性を減少させて部分的非可干渉性を増加)する。
【0231】
図9の“波面分割”の実現に使用する屈折素子として透過性を有する平行平板を使用した本実施形態例を、図12Bから図13Cに示す。透過性平行平板内の屈折率をnとし、その厚みをdとした時、透過性平行平板内を直進する第1の光路と長さdの真空中(空気中)を直進する第2の光路を通過する光間では(B・13)式に示す光路長の差δが発生する。
【0232】
そして図12Bから図13Cに示す本実施形態例では、屈折率の違いにより発生する通過光の光路長変化δを利用して合成光(混合光)78の光学特性を変更(部分的可干渉性を減少させて部分的非可干渉性を増加)する。従って図12Bから図13Cに示す透明な平行平板94、114、116を組み合わせた光学素子は、光学特性変更部材(または分割波間光路長変換素子90)の一種に含まれる。
【0233】
図12Bが示すように、平行平板の切断面95は透過光の光軸に対して高い精度で平行となっている。従って光学特性変更部材(分割波間光路長変換素子90)を透過する光は、透過光断面92内の(平行平板の)切断面の境界線97で波面分割される。この波面分割された透過光毎に光路長が異なるため、異なる光路を通過する事になる。
【0234】
図12Bに示した光学特性変更部材(分割波間光路長変換素子90)に関する他の実施形態例を図12Cに示す。まず厚みtの透明な平行平板114-2の長辺方向をX軸方向に配置する。そして図12C(a)のように、厚み5tの透明な平行平板114-1の長辺方向をX軸方向にして、厚みtの透明な平行平板114-2上に重ねる(接着する)。その結果としてY軸方向に沿って、厚み0tと1t、6tの3領域が形成される。
【0235】
次に厚み2tの透明な平行平板114-3の長辺方向をY軸方向に配置する。そして厚み2tの透明な平行平板114-4の長辺方向をY軸方向にして、図12C(b)のように厚み2tの透明な平行平板114-3の下に重ねる(接着する)。その結果としてX軸方向に沿って、厚み4tと2t、0tの3領域が形成される。
【0236】
その次に図12(c)のように、図12(b)と図12(a)を重ねる(接着する)。そして部分的可干渉性の光の透過方向96を下から上に向かうZ軸方向に一致させる。その結果として、光通過方向96に対して垂直な方向で切断する光の断面方向で見ると、光路が9領域に分割される。そして各光路で平行平板114を通過する厚みは、左上から順に10tおよび8t、6t、5t、3t、t、4t、2t、0tとなる。それぞれの領域を通過する光路毎の光路長の差δは、(B・13)式で与えられる。
【0237】
3.1節の前半部で、光路に分割する分割数N(上記加算数に対応)が大きい方が光学雑音の低減効果が増す説明をした。従って図9の“合成/混合前の光路状態”の欄の中の“詳細内容”の欄内に記載された全ての項目の少なくともいずれか(例えば図11Cの実施形態例が含まれる波面分割に限らず、振幅分割や異なる光放出方向)に対応した光学特性変更部材に依って光がN個の異なる光路に分割された場合、全ての光路通過時に発生する光路長の差δが互いに異なるように設定しても良い。図12Cの実施例では、上記条件が満足されている。すなわち光断面上で分割された9領域を通過する(異なる9光路を通る)全ての光内で発生する光路長の差δが異なっている。
【0238】
上記内容を別の表現方法で説明すると、下記のようになる。すなわち光学特性変更部材として、厚みの異なる屈折素子(平行平板に限らず、プリズムやレンズも含む)を組み合わせで複数の光路に分割させる。各光路での屈折素子の厚みをmt(mは整数)とした時、分割される全ての光路では、全て異なるmの値を取る。なおこの光学特性変更部材としての特性は図12Cの構造に限らず、図13A図13Cの構造でも当てはまる。さらに上記の特性は図9の“合成/混合前の光路状態”欄内の“波面分布”だけで無く、“振幅分布”や“異なる光放出方向”に該当させても良い。
【0239】
さらに図9の“合成/混合前の光路状態”の欄の中の“詳細内容”の欄内に記載された全ての項目の少なくともいずれか(例えば図11Cの実施形態例が含まれる波面分割に限らず、振幅分割や異なる光放出方向)に関して本実施形態では、互いに異なる光路を通過する光間の光路長の差δは、(B・6)式(または(B・12)式)で与えられる可干渉距離lCLよりも大きくなるように光学配置される事が望ましい。図9(c)の実施形態例では、異なる領域間の厚みの差の最小値がtとなっている。従って上記の理由から(B・13)式を考慮して、
(n-1)t > lCL = λ / Δλ …(B・29)
の条件を満足するように光学配置を設定しても良い。例えば屈折素子の屈折率が1.5の場合、2.7節後半のマージンを見越した計算例からtの値を2mm以上に設定しても良い。一方で使用波長の上限値を1.89μmより小さくすると共に光学系全体の小形化を目指してtの値を1mm以上に設定しても良い。さらにΔλの値が5nmより大きな検出部4、6(または光検出器)を使用した場合には、tの値を0.5mm以上、望ましくは0.3mm以上に設定しても良い。
【0240】
この内容に付いても別の表現方法をすると、下記のようにも説明できる。すなわち厚みの異なる屈折素子(平行平板に限らず、プリズムやレンズも含む)を組み合わせで複数の光路に分割させる光学特性変更部材において、各光路での屈折素子の厚みをmt(mは整数)とした時、tは(B・29)式の条件を満足する。なおこの光学特性変更部材としての特性も図12Cの構造に限らず、図13A図13Cの構造でも当てはまる。さらに上記の特性は図9の“合成/混合前の光路状態”欄内の“波面分布”だけで無く、“振幅分布”や“異なる光放出方向”に該当させても良い。
【0241】
さらに本実施形態の応用例として上記の両方を組み合わせると、光学特性変更部材の特性を次のように表現できる。すなわちN個の光路に分割可能な光学特性変更部材において、各光路での屈折素子の厚みをmt(または各光路通過時に発生する光路長がをmδ)(mは整数)とすると、N個全ての光路で異なるmの値を取り、かつ(B・29)式(またはδ>lCL)を満足する。
【0242】
図11Cに示す光学特性変更部材では、Y軸方向に沿った3分割と、X軸方向に沿った3分割を組み合わせて(接着して)9領域に分割している。このような分割方法を本実施形態の説明文中では“XY分割”と呼ぶ。このXY分割は図11Cに限らず、1軸方向での分割数は2以上(例えばY軸方向で2分割×X軸方向で2分割の計4分割)なら任意の分割数を選択しても良い。
【0243】
また図11CではX軸とY軸が互いに直交しているがそれに限らず、例えばX軸とY軸が斜交(X軸とY軸が90度以外の角度で交わる)しても良い。さらに他の波面分割方法として、1軸(X軸)方向に沿ってのみ分割する“X軸分割”を行っても良い。また他の例として光学特性変更部材をX軸分割する部分とY軸分割する部分に分離し、光路上の異なる位置に分散配置させても良い。
【0244】
他の波面分割方法である“角度分割”方法に付いて、図13A図13Bを用いて説明する。この方法では、(円形な)透過光断面92に対し、円の中心を基準とした光路間の分割境界線97を角度方向に分割する。光路途中で角度分割を行っても、結像部でのMTF(Modulation Transfer Function)特性劣化が起きないので良好なイメージング特性が得られる効果が有る。
【0245】
例えば図13A(a)のように厚みTaが例えば2tの透明な平行平板94-1の切断面95を横方向に配置する。次にその下に切断面95を縦方向に配置した厚みTbが例えば3tの透明な平行平板94-2(図13A(b))を重ねて(接着して)図13A(c)の構造をした光学特性変更部材を構成する。そして切断面95と平行になるように光透過方向96を設定する。その結果として切断面の境界部97が互いに直交する4象限に、透過光断面92が角度分割される。
【0246】
図13A(c)の光学特性変更部材では、光透過方向96から見た各光路が通過する場所(各領域)の厚みは、第1象限から順にTa(例えば2t)、Ta+Tb(例えば5t)、Tb(例えば3t)、厚み“0”となる。このように厚みmtにおいて、各光路が通過する場所(各領域)毎にmの値が異なり(第1象限から順にmの値が2、5、3、0)、tとして(B・29)式を満足する(例えば0.3mm以上)。
【0247】
図13A(c)では、透明な半円平行平板94-1と2を接着して一体化された光学特性変更部材となっている。しかしそれに限らず、光路途中に複数個を分散配置されても良い。この場合には互いに分割された領域間が重ならないように、所定の角度ずつ(例えば2個分散配置される場合には45度ずつ)傾けて配置しても良い。
【0248】
図13A(c)の応用例を図13Bに示す。図13A(c)の構造を有する光学特性変更部材2組を互いに45度ずらして重ねた構造が図13B(a)の右側に示す。この光学特性変更部材の厚みは、光路(分割領域)毎に10t、7t、4t、2t、0、3t、6t、8tとなる。
【0249】
図13A(c)の構造を有する光学特性変更部材2組を重ねる(接着する)時のずらし
角度を45度では無く、30度にした例を図13B(b)の左端に示す。一方で厚み1tの透明な半円平行平板94-5と厚み3tの透明な半円平行平板94-6を90度ずらして重ね(接着し)(図13B(b)の中央の図)、その上に左端の組を重ねて(接着して)形成した光学特性変更部材を図13B(b)の右端に示す。この構造では透過光断面92を12等分に領域分割されている(分割された光路数N=12)。
【0250】
図13Bの右端図では、透明な半円平行平板94-1と2を接着して一体化された光学特性変更部材となっている。しかしそれに限らず、光路途中に複数個を分散配置しても良い。この場合には互いに分割された領域間が重ならないように、所定の角度ずつ(例えば図13B右端の素子を2個分散配置される場合には22.5度ずつ)傾けて配置しても良い。
【0251】
円形に透過光断面92に対して半径方向に領域分割(光路分割)する方法を本実施形態例では“半径分割”と呼ぶ。この半径分割で透過光断面92を波面分割する例と、角度分割との組み合わせ例を図13Cに示す。
【0252】
厚みが9tの透明な円柱形平行平板116-1と116-2を2枚重ね、図18B(a)右端構造の上に重ねて(接着して)構成した光学特性変更部材を図13Cの右側に示す。
【0253】
図13C右側の構造では、透過光断面92が24(3×8)分割され、同時に異なる24個の光路(光路数N=24)が形成される。また光路(分割領域)毎の厚みをmtとすると、mの値として1、5、14、23、27を除いた0から28までに含まれる全ての正の整数値が、各光路(分割領域)に割り振られている。
【0254】
図13Cの右図では、一体化された光学特性変更部材内で同時に角度分割と半径分割が行われている。しかしそれに限らず、同一機能を発揮する光学特性変更部材を光路途中に複数個分散配置しても良い。その一例として光学特性変更部材内で角度分割する一部と半径分割する一部を互いに分離し、光路上に分散配置しても良い。
【0255】
図12Cから図13Cまでに示した実施形態例では、X/Y方向や角度方向、半径方向に等分割されている。しかしそれに限らず本実施形態では分割光路毎(分割領域毎)に非等分割されても良い。また光学特性変更部材で生成される光路数N(または分割数)は、2以上の任意の値に設定しても良い。さらに本実施形態では、他の任意の方法で透過光断面92を波面分割しても良い。
【0256】
3.1節で概略説明し3.5節で数式を使って詳細に説明するように、光学特性変更部材で生成される光路数N(または分割数)は大きい方が光学雑音低減効果は上がる。そして透過光に対する屈折素子の厚みや反射光に対する段差量を変化させる波面分割方法では図13C右図の24分割(N=24)の例でも分かるように、光学特性変更部材で生成される光路数N(または分割領域数)が多くなるように任意に設定できる。さらにN分割された各光路を通過する光量を全てほぼ等しいような光学配置が容易となる。
【0257】
それに比べると図9に示した振幅分割では、同一強度を確保しながら多くの光路に分割するのが難しい。仮に振幅分割可能な複数の振幅分割平面を形成しても、最大強度に近い分割光は2光路だけに止まる。そして他に分割された光路の強度は大幅に減少する傾向がある。
【0258】
波面分割機能を持った光学特性変更部材として、光入射面と光出射面間で傾斜を持ったプリズムを使用しても良いし、一方の面が非平面にしても良い。しかしこの場合、透過後の光路毎に光軸ずれが生じ易い。
【0259】
これに比べて図12B図13Cに示すように光学特性変更部材の構成素子として透明な平行平板を用い、その平面に垂直方向に光透過方向96を設定すると、“透過後の光軸ずれ”が無く、“透過後(出射後)の全ての光路間が平行に保たれる”効果が有る。それにより異なる光路間の合成(混合)操作が容易になる。さらに例えば図7のように合成(混合)操作後に対物レンズ25や検出レンズ28-1、2を配置しても集光点近傍での位置ずれが生じ辛いため、鮮明なイメージ像や精度の高い検出信号が得られる。
【0260】
照射光(第1の光)12や検出光(第2の光)16の光学特性変更に波面分割機能を用いる場合、変更後の光学特性が互いに異なる境界線(波面分割境界線)が光進行方向に直交する断面内に現れる。この波面分割境界線の具体例として、図12B図13Aに示した切断面の境界線97が対応する。
【0261】
ところで例えばタングステン・フィラメント50などを用いた発光源70(図11図14A、B)では、発光時に発熱が起きる。そしてこの発光源70の冷却用に、機械式ファンを使用する場合が多い。この機械式ファンが回転すると微小な機械的振動が発生し、この機械的振動が“波面分割機能を有する光学特性変更部材”に伝搬する場合が有る。するとその影響で、上記波面分割境界線が微小に機械振動する事が有る。
【0262】
3.1節の最後で行った光学特性変更部材(あるいはその基材)に使用する材料の説明内で、近赤外領域に大きな吸収帯を持つ材料の存在を説明した。従って近赤外領域に大きな吸収帯を持つ材料を使用して“波面分割機能を有する光学特性変更部材”を作成した場合、検出部4、6(図1A、B、C)から得られる上記吸収帯内波長光の検出信号内にノイズ成分が混入し得る。このノイズ成分は、上記波面分割境界線の機械振動に同期して発生する。このノイズ成分を除去するため、3.1節最後の記載内容と同様に“波面分割機能を有する光学特性変更部材”の材料選定を配慮すると良い。
【0263】
すなわち“波面分割機能を有する光学特性変更部材(あるいはその基材)”の材料には有機材料を使わず、無機材料を使用するのが望ましい。その無機材料例として、光学ガラスやCaF、MgF、あるいはLiFやKBrなどが上げられる。
【0264】
とくに“波面分割機能を有する光学特性変更部材(あるいはその基材)”の材料内に含まれるヒドロキシル基の混入量は“100ppm以下”(望ましくは“1ppm以下”)の条件を満たす低OH材料が適している。具体例としては、『ヒドロキシル基混入が少なく製造管理された硝子材料』や『無水石英硝子』、『無水石英』などが上げられる。
【0265】
このように“波面分割機能を有する光学特性変更部材(あるいはその基材)”の材料選択を配慮すると、機械的振動の混入の影響が少ない高精度な分光特性が得られる効果が生まれる。
【0266】
3.4節 分割波面間の合成(混合)
3.3節で説明した光学特性変更部材を使用した後の光の合成/混合方法を本3.4節で説明する。図10を用いて3.1節で説明したように、光学特性変更部材を用いて複数光路に分割した後に、異なる光路を通過した光の合成または混合を行う。ここで説明する合成/混合前の光路状態は波面分割のみに限らず、図9の“合成/混合前の光路状態”欄内の任意の状態(項目)を適合させても良い。また各項目の組み合わせ状態でも良く、図14A図14Bでは“異なる光放出方向”と“波面分割”の組み合わせ例を示している。
【0267】
すなわち図14A図14Bの実施形態例では、発光源70(タングステンフィラメント50)から直接コリメートレンズ26に向かう放出方向と背面鏡82へ向かう放出方向の異なる光放出方向の状態(項目)を利用している。またそれと同時に、厚みTbの透明な平行平板94-1と厚みTaの透明な平行平板94-2を組み合わせて波面分割する光学特性変更部材を光路途中に配置している。
【0268】
また図9の“合成/混合場所”欄内に該当する項目として本3.4節の前半では、“(照射光12や検出光16の)光路途中”に対応した内容を説明する。そして本3.4節の後半では、“検出器80内の検出面86”と“ピンホールまたはスリット130”に対応した内容を説明する。そして始めに、“(照射光12や検出光16の)光路途中”に対応した内容から説明を始める。
【0269】
図8A(a)の光合成(混合)部に相当する光学系は図14Aでは、集光レンズ98と光ファイバ100を組み合わせから構成されている。この波面分割機能を有する光学特性変更部材を通過後の全光路通過光は全て平行状態となっている。この光を集光レンズ98で集光させると、全ての光の等位相面が集光面上で光軸に対して垂直な平面となっている。そしてこの状態は3.1節の前半で説明した『異なる光路を通過した光の進行方向が一致』した状態となっている。
【0270】
そしてこの集光面が、3.1節の前半で説明した『光軸方向で局所的な領域内に存在する所定箇所』に対応する。そしてこの所定箇所に光ファイバ100の入射面を一致させる。そしてこの光ファイバ100内を通過する過程で、光学特性変更部材で波面分割された各光路を通過した光が混ざり合う。その結果として、光ファイバ100の出射面(合成光の出口108)から合成光(混合光)78が放出される。
【0271】
図14A内の背面鏡82から光ファイバ100の左側入り口までを、図1A図1Cあるいは図7図8A図10(b)の光源部2の内部に収納させても良い。そして光ファイバ100右側の合成光の出口108を、対象体10の近くに配置しても良い。
【0272】
光ファイバ100は非常に高い柔軟性を持ち、光ファイバ100の長さを任意の長さ(例えば50m以下)に設定できる。それにより発光源70(タングステン・フィラメント50)近傍で発生する熱や振動の影響から対象体10を遮断できる(isolate)効果がある。
【0273】
図9の“光合成/混合方法”欄内に、表面に微細な凹凸構造を有して透過光や反射光の位相を局所的に変化させる“光位相変換素子”(ランダムフェーズシフターやデフューザ、砂摺り面などを含む)が記載されている。この方法を用いた具体的な実施形態例を図14Bに示す。
【0274】
図14Aと同様に異なる光路として、異なる光放出方向(前方と後方)の光を利用している。また透明な半円平行平板94-1、2を組み合わせた光学特性変更部材としては図12Cから図13Cに示した構造に限らず、波面分割を可能とする任意な構造でも良い。
【0275】
図9の“光合成/混合方法”欄内に記載された“光位相変換素子”には、片面がランダムな微細凹凸構造を有する透明平板(光合成部102-2)104が相当する。そしていずれの光路を経た光もこの微細凹凸面で同時に拡散されて、広い範囲の方向へ進む。この特徴から、この微細凹凸面上のあらゆる位置から拡散した光の一部は、一致した特定の方向にも進む。ところで3.3節で説明したように“波面分割”では、透過光断面92(図12Bまたは図13A)上の異なる位置で通過する(または反射する)光の光路は互いに異なる。従って“光位相変換素子”通過後(または反射後)に特定進行方向で抽出された光は、『異なる光路を通過した光の進行方向が一致した状態』(3.1節前半の説明内容と一致)となる。
【0276】
“光位相変換素子”通過後(または反射後)の特定方向に進行する光を抽出する具体的方法として、例えば図14Eのように検出レンズ28-2の集光面上でピンホールまたはスリット130を通過した光のみ抽出しても良い。あるいは図14Dのように検出レンズ28-2の集光面上にモニタカメラ24の撮像面(検出面)86を配置し、その中の特定画素のみに照射される光を検出しても良い。
【0277】
上記のように“光位相変換素子”通過後(または反射後)の特定方向への進行光を敢えて抽出しなくても、片面がランダムな微細凹凸構造を有する透明平板(光合成部102-2)104から所定距離以上離れた通過光の波面106内では光の混合(または合成)が生じる。このように光の回折現象を利用して光の混合(または合成)を行っても良い。
【0278】
このように“光位相変換素子”を用いて光を混合(または合成)すると、ある程度以上離れた所では光の進行方向に依らずに混合(または合成)が起きる。従って合成光(混合光)78の生成に高精度な光学配置や光軸合わせ(alignment)が不要なため、多量に安価な測定装置を作り易い効果が有る。
【0279】
さらに図14Bのように(透明な半円平行平板94-1、2から構成される)光学特性変更部材の一部(光出口)に光位相変換素子を直接接着して、光学特性変更部材と光位相変換素子を一体化しても良い。それにより一体の光学素子で光路分離(分割)機能と光合成/混合機能の両方が備わるため、既存の測定装置(や顕微装置)からの改造が容易となる。
【0280】
なお図14Bでは光位相変換素子(片面がランダムな微細凹凸構造を有する透明平板(光合成部102-2)104)あるいは光学特性変更部材との一体化素子は光源部2内に配置されている。しかしそれに限らず検出部6内に配置されても良いし、図7のように光源部2と検出部6の両方に兼用して配置されても良い。(この場合には光位相変換素子あるいは光学特性変更部材との一体化素子が、光学雑音低減化素子または部分的可干渉性低減化素子64に相当する。)
図9の“光合成/混合方法”欄内の“回折関連素子”を用いた方法の例を、図14Cに示す。図14Cでは回折関連素子としてブレーズ形回折格子124を使用しているがそれに限らず、回折を利用して光を合成(混合)する機能を有したあらゆる光学素子を使用しても良い。一般に回折関連素子は、透過光または反射光の分割に使用される場合が多い。しかし光が分割される光路を逆から見ると、光が合成(または混合)される形態を取る。この特徴を利用して、合成光(混合光)78の生成を行う。
【0281】
透明な平行平板114-1と2を組み合わせて波面分割を利用した光学特性変更部材を構成する。そしてこの光学特性変更部材の少なくとも一部の出口に、フレネルプリズム(ブレーズ形ホログラム)122などの光進行方向変更用光学素子を配置する。なおこの光進行方向変更用光学素子と光学特性変更部材を接着して一体化しても良い。
【0282】
そして進行方向が変更された通過光110-1はブレーズ形回折格子124のところで、透明な平行平板114-1のみを通過した通過光110-2と合成される。従ってフレネルプリズム(ブレーズ形ホログラム)122とブレーズ形回折格子124の組み合わせ部が光合成(混合)部102-3となり、図8A(a)または図8B(a)の光合成(混合)部102に相当する。
【0283】
なお図14Cの本実施形態例では、透過光110-1、2を使用している。しかしそれに限らず、反射光を利用して合成光(混合光)78を生成しても良い。
【0284】
図9“合成/混合場所”欄内の“検出器80内の検出面86”に対応した実施形態例を、図14Dに示す。この実施形態例を利用すると、微小な光散乱体66の拡大像を鮮明にイメージングできる。
【0285】
対物レンズ25と検出レンズ28-2の組み合わせで、モニタカメラ24内の撮像面(検出面)86は微小な光散乱体66に対する結像面となる。この結像光学系(または共焦光学系(Confocal Optical System))の一部を光の合成/混合に利用する。結像光学系(または共焦光学系)では、1点から出発した光は光路に依らず結像面上で1点に集光する。そしてこの結像面上の集光点位置では、全ての光路を通過した光が合成/混合される。
【0286】
従って互いに光路長が異なる複数光路に分割(分離)する光学特性変更部材を結像光学系の光路途中に配置すると、図8B(b)および図10(c)に示す光学配置が構成される。また別の見方として、図14Dの検出レンズ28-2とモニタカメラ24内の撮像面(検出面)86を組み合わせた光合成(混合)部102-4を、図8B(a)の光合成(混合)部102に対応させても良い。
【0287】
図14Eに示す分光器22は、入り口に配置されたピンホールまたはスリット130の通過光のみの分光特性を測定する構造となっている。すなわちピンホールまたはスリット130の通過光をコンデンサレンズ134-1で平行光に戻し、ブレーズ形回折格子126での回折を使用して波長分離する。そして分離された各波長光は、コンデンサレンズ134-2によって1次元ラインセンサ132上にそれぞれ集光される。この1次元ラインセンサ132上に照射される光量分布を検出して、分光特性が測定される。
【0288】
そして図14Eに示す他の応用実施形態例でも結像光学系(または共焦光学系)を用いて、光路長の異なる複数光路を通過した光を合成(混合)する。この場合には微小な光散乱体66内の対物レンズ25の光軸上から得られた光のみが、結像位置(または共焦点位置(Confocal Position))に配置されたピンホールまたはスリット130を通過する。
【0289】
微小な光散乱体66内の局所領域のみの分光特性を測定するための工夫として、その局所領域の結像位置(または共焦点位置)に分光器22の入り口のピンホールまたはスリット130の位置に一致させている。しかしそれに限らず、単独に存在するピンホールまたはスリット130を光路途中の所定位置(微小な光散乱体66内局所領域に対応した結像位置(または共焦点位置))に配置しても良い。
【0290】
結像光学系内の発散光路途中または集束光路途中に平行平板94-1、2を配置すると、2.5節内の(B・28)式が示すように不必要な光干渉が発生する。それだけでなく第6章で後述するように、球面収差の影響で結像イメージが悪化する。従って図14D図14Eの本実施形態例では、透明な半円平行平板94-1、2などで構成される光学特性変更部材を平行状態にある光路途中に配置している。この具体的な実施形態例として図22が示すように、コリメートレンズ26と集光レンズ98の間で照射光12を平行状態にする。そしてこの平行状態にある光路途中に、光学特性変更部材である透明な半円平行平板94-1、2を配置している。しかし上記の例に限らず平行状態にある光路(平行光束)途中に、図9の“光合成/混合方法”欄に記載されたあらゆる形態の光学特性変更部材を配置しても良い。その結果として、不必要な光干渉を除去して光学雑音を除去し、結像イメージの鮮明化が可能となる効果が生まれる。
【0291】
なお平行な光路途中に配置する光学特性変更部材は図14D図14Eに限らず、図9内の“波面分割”もしくは“振幅分割”の機能を有するあらゆる部材を利用しても良い。
【0292】
3.4節内の今までは、主に“波面分割”で分割された複数光路を通過した光を混合あるいは合成させる方法を中心に説明した。しかし図9の“詳細内容”欄に記載されているように、“振幅分割”で分割された複数光路を通過した光を混合あるいは合成させても良い。
【0293】
“振幅分割”で分割された複数光路を通過した光を混合させる場合に本実施形態例では、混合光内の(電場の)振動面の方向を一致させても良い。例えば“振幅分割”で分割された2光路内を通過する光間で(電場の)振動面が互いに傾いた(完全に一致しない)場合、混合処理(または合成処理)の段階で両者の振動面の方向を一致させても良い。この具体的方法の一例として、図33に示す検光子496や偏光ビームスプリッタ492を用いて所定の振動面を有する光成分のみを抽出し(透過させ)ても良い。
【0294】
上記の検光子496や偏光ビームスプリッタ492を用いて混合光内の振動面方向を逸しさせると、混合光は直線偏光(Linearly Polarized Light)となる。しかしそれに限らず本実施形態例では混合光内の偏光特性が一致していれば良く、円偏光(Circularly Polarized Light)や楕円偏光(Elliptically Polarized Light)でも良い。また上記の操作は“振幅分割”で分割された複数光路を通過した光を混合あるいは合成させる場合に限らず、図9の“詳細内容”欄に記載されるあらゆる方法に対しても適用しても良い。
【0295】
上記の混合光を用いて検出部6(図1A図1C)内で信号検出/測定(分光特性検出も含む)やイメージングあるいは波面収差特性検出/測定を行う場合、例えば図33のような“偏光面操作”(特定な電場の振動面に関する光学的操作)を行う場合が有る。もし混合光内での偏光特性が(混合前の異なる光路間で)異なる場合、検出部6内部での“偏光面操作”で部分的可干渉性が向上して光学雑音が増加する恐れが有る。従って混合光内の偏光特性(あるいは振動面方向など)が一致すると、検出部6内部での“偏光面操作”を行っても光学雑音増加が抑えられて安定な信号検出/測定(分光特性検出も含む)やイメージングあるいは波面収差特性検出/測定が行える効果が生じる。
【0296】
3.5節 部分的非可干渉光使用時の光強度数式表現(光雑音低減効果)
(Section 3.5) Light Intensity Formula of Partially Incoherent Light indicating
Optical Noise Reduction Effect)
3.1節では定性的に、本実施形態の方法で光学雑音が低減する状況を説明した。本3.5節では数式を用いて定量的に実施効果を説明する。
【0297】
図13A図13Bの例で示した角度分割によって透過光断面92を均等にN分割(N領域に等分割)する場合を考える。2.5節内で既に説明したように、例えば図6のタングステン・ハロゲンランプの管球(石英ガラス)67の厚みTの均一性は低い。そのためN分割された領域毎の平均厚みをTmとすると、異なる領域m毎に平均厚みTmは異なる値を示す。
【0298】
図13A図13Bの光学特性変更部材の働きにより、異なる光路を通過した光間は互いに部分的非可干渉性を示す。その結果としてそれらを混合する場所では、(B・19)式で表記される振幅特性上の合成(合算)は生じない。その代わりに混合場所では、異なる光路の通過光強度(光量)が単純に加算される。
【0299】
上記状況から、部分的非可干渉光を混合した後の光強度特性は(B・28)式に対して
【0300】
【数8】
【0301】
と変形される。
【0302】
(B・30)式右辺の第2項は光干渉に拠って生じる光学雑音量を示す。この第2項の分子において異なる光路毎に異なる平均厚みTmを持つため、測定波長λに応じた変化の周期が異なる。この異なる周期を持った余弦波間で平均化されて、右辺第2項の変動振幅最大値が減少すると考えられる。
【0303】
部分的可干渉光の検出強度分布を示す(B・28)式と部分的非可干渉光の検出強度分布を示す(B・30)式を比べると、本実施形態の方法を採用する事で光学雑音量が大幅に低減すると分かる。ここでは図13A図13Bの角度分割を例に取って説明したがそれに限らず、図9の全ての“合成/混合前の光路状態”に関して上記と類似した結果が得られる。
【0304】
2.6節内の最後で説明したように光源内部の管球などの影響で、パンクロマティック(非モノクロマティック)な光源から得られた照射光12(あるいは検出光16)内の多くには平均0.1~1.0%程度の光学雑音成分が含まれる。本実施形態例では(B・30)式の効果により、光学雑音成分量は平均0.5%以下(あるいは平均0.1%以下、望ましくは平均0.05%以下または平均0.02%以下)に減少する。ここで光学雑音成分量とは、直流成分((B・30)式右辺第1項の係数)を“1”とした時の光学雑音成分((B・30)式右辺第2項の平均振幅値)の比率と定義する。なお第5章などで引用する図23A(c)の実験データは、光学雑音成分が大幅に低減する(上記数値を満足する)事を示している。
【0305】
異なる光路毎の平均厚みTmが全て一致する場合には(B・30)式は(B・28)式と完全に一致するため、測定波長λの変化に応じた周期的な光量変動(光学雑音)の低減効果は現れない。ところで(B・30)式は、異なる光路を経た光間では部分的可干渉性が減少して部分的非可干渉性が増加する状態を表している。しかし光学雑音を低下させる本実施形態の方法は絶対的に万能な方法ではなく、光学系内で強い光干渉が発生する(例えば全てのTmが一致するなど)状況では光学雑音の低減効果は薄れる。
【0306】
また異なる光路毎の平均厚みTmが全て一致しない場合でも、分割された光路数Nの値が小さいと(B・30)式右辺の第2項にビート(beat)が発生する。説明の簡素化のため、N=2の場合で説明する。T≠Tの状況でも、(B・30)式右辺の第2項の値が1/2となる波長λと-1/2となる波長λの値が存在する。両者間の間隔(波長差)は(B・28)式の周期より遙かに広いので、検出/測定波長範囲をそれよりも狭い範囲に設定すれば光学雑音の低減効果は現れる。しかし上記のビートが発生し辛い光学系の構成が好まれる。
【0307】
そのため本実施形態では、分割された光路数Nの値は“3以上”、さらに4以上や8以上、9以上が望ましい。この分割された光路数Nの値を増加させるために本実施形態例では、図9の“詳細内容”欄に記載された複数項目を組み合わせて使用しても良い。
【0308】
3.6節 光学特性変更部材構造上の工夫
3.3節で説明した波面分割機能を有する光学特性変更部材使用時の留意点と技術的工夫内容を本3.6節で説明する。例として厚みTの透明な半円平行平板94-1と厚み2Tの透明な半円平行平板94-2を組み合わせて(接着して)光学特性変更部材を構成する。
【0309】
図15(a)のように接着層112と透明な半円平行平板94-1または2との界面で光反射が起きると、その反射光と直進光との間で光干渉が発生して光学雑音が増加する。また図15(a)のように透明な半円平行平板94-1または2と空気中との界面で光反射が生じ、不必要な光干渉が発生する危険性も有る。
【0310】
さらに図15(c)のように透明な半円平行平板94-2の切断面95が透過光110-2の光軸に対して傾いた場合や、切断面の境界線97が広がる場合には、その部分が影となって不必要な透過光量のロスが発生する。またさらに透明な半円平行平板94-2の平行面間の平行度が低下すると、透明な半円平行平板94-2通過後の透過光110-1の進行角ζ(透過光110-2の進行方向との間のなす角)が大きくなり、混合後で進行方向が互いに不一致になり易い(3.1節前半の説明内容参照)。
【0311】
透明な平行平板114-1、2と接着層112との間の界面での光反射を防止するため、図16A(a)のように両者の界面を透過光110-1、2の光軸に略平行に配置しても良い。また他の方法として本実施形態例では、接着層112の屈折率を接着相手の材質(すなわち透明な平行平板114-1、2を構成するガラス材質)の屈折率に合わせても良い。
【0312】
また図15(b)の透明な半円平行平板94-1、2表裏面での光反射(とそれによって発生する光干渉)を防止するため、透明な半円平行平板94-1、2表裏に反射防止コート層118-1~3を設けても良い。すなわち図9の“詳細内容”の“波面分割”に限らず全ての項目においても、光学特性変更部材と空気(真空)との界面に反射防止コート層118-1~3を形成して光反射を防止させる。その結果として不必要な光干渉を防ぎ、光学雑音の増加を防止できる効果が有る。
【0313】
図15(c)を用いて説明した切断面の境界線97や切断面95による透過光の光量ロスを防止するため、光学特性変更部材の製造精度を高める。すなわち光学特性変更部材内の切断面の境界線97の幅を1mm以下(0.5mm以下または0.2mm以下が望ましい)に設定する。また光学特性変更部材の最大厚みをTとし、透過光110-2の光軸に対する切断面95の傾き角をηとした時、Ttanηの値が1mm以下(望ましくは0.5mm以下または0.2mm以下)となるように製造精度を規定する。
【0314】
3.1節の冒頭で、『複数光路の通過光は所定箇所で合成または混合される』と説明した。それが実施可能なように、光学特性変更部材の製造精度(例えば光学特性変更部材内の平行精度など)の許容範囲を規定する。
【0315】
例えば図14Eの実施例では、ピンホールまたはスリット130部で合成または混合される。従って透明な半円平行平板94-1のみの通過光と透明な半円平行平板94-2も通過した光が同時にピンホールまたはスリット130内を通過する必要が有る。
【0316】
屈折率nの透明な半円平行平板94-2を構成する両平面間の傾き角をθとする。そして透明な平行平板通過後の光の進行方向傾き角をζとすると、近似的に
ζ ≒( n - 1)θ …(B・31)
の関係が成り立つ。そして検出レンズ28-2の焦点距離を“F”と置く。そしてピンホール半径/スリット幅Wの1/2の値を“a”とする。透明な半円平行平板94-1のみを通過してピンホールまたはスリット130表面に集光する位置を基準とし、ピンホールまたはスリット130表面上での透明な半円平行平板94-2も通過した光が集光する位置のずれ量をDとすると、D≒Fζと近似できる。そしてこの光がピンホールまたはスリット130内を通過できる条件はD<aとなるので、以上を纏めると
【0317】
【数9】
【0318】
の関係が成立する。従って上記の条件を満足するように、光学特性変更部材の製造精度(例えば光学特性変更部材内の平行精度)を規定する。
【0319】
3.7節 波面分割を利用した従来技術との比較
[先行技術文献]の中で明示した[特許文献1]内に記載された従来技術と、本実施形態との違いをここで説明する。
【0320】
[特許文献1]では図17に示すように光ファイバ100-1と光ファイバ100-2で光路長を変え、コリメートレンズ136で混合している。しかしこの先行技術では、混合後の光の進行方向が一致しない。すなわちコリメートレンズ136の前側焦点面に光ファイバ100-1、2の出口が配置されているため、コリメートレンズ136で平行になった光の進行方向がα、βと互いに異なる。その結果コリメートレンズ136通過後の光進行方向αとβとでは等位相面(波面)が互いに傾き、精度の高い光合成または光混合が行えない。そのため部分的可干渉性の低減効果が不充分となる。
【0321】
さらに図8Aまたは図10(b)が示すように本実施形態では、合成光(混合光)78の光進行方向を(合成/混合前の光路に拠らず)全て一致させた後に対象体10に照射している。それに拠って図1C図7のように集束光を対象体10に照射した場合には、全ての光が対象体内の特定領域α内に効率良く照射できる。すると例えば図14D図14Eのように微小な光散乱体66内の局所的な特定領域に対する測定や観測に関しては特に、高い信号検出精度やイメージングの高精度、分光特性測定精度が確保できる効果が有る。
【0322】
3.8節 光導波路機能を有する光学特性変更部材
図9の“光合成/混合方法”欄内で使用する光学素子として記載されている“導波素子(光ファイバ/光導波路)”を使用した本実施形態例を説明する。本実施形態例では導波素子の長さを所定距離よりも長くする事で導波素子内を通過する光の光路毎に光路長を変えて部分的可干渉性を低下させる。なお導波素子内を通過する光の光路毎の光路長は、(B・6)式または(B・12)式で与えられる可干渉距離より長くしても良い。すなわち上記の所定距離は可干渉距離に相当しても良い。
【0323】
光ファイバ100-2の入り口から内部に入れる最大入射角εの範囲を、NA(厳密には真空中(空気中)ではNA=sinεで表される)で規定する。εの値が充分小さい時には、NA≒εとなる。またこの時の光ファイバ100-2のコア領域142内の入射角をξで表す。光ファイバ100-2のコア領域142内の屈折率をnで表すと、スネルの法則からε≒n×ξの近似が成り立つ。
【0324】
光ファイバ100-2のコア領域142内の中心部を直進する光路を通過する光と、コア領域142とクラッド層144の界面近傍も通過する光路を通る光との間で発生する光路差δの値を概算する。
【0325】
コア領域142とクラッド層144の界面近傍も通過する光路は図18(a)に示すように、曲線を描く。計算の簡素化のため、この曲線を直線近似する。すなわちコア領域142の光路は直進し、コア領域142とクラッド層144の界面近傍で全反射するものと見なす。
【0326】
この光路とコア領域142内の中心部を直進する光路との間の、光ファイバ100-2の単位長さ当たりの光路長差δ
δ≒{ ( 1 / cosξ )-1 }n …(B・33)
となるので、光ファイバ100-2の全長をLとした時に光ファイバ100-2通過後の光路長差の合計値δ=Lδが(B・6)式または(B・12)式で与えられる可干渉距離lCLより長くなる条件は、図18から
【0327】
【数10】
【0328】
で与えられる。この(B・34)式を満足する長さより光ファイバ100-2の全長Lを長くすれば、光ファイバ100-2内通過光の部分的可干渉性は低下する。
【0329】
上記の(B・34)式は光ファイバ100-2に限定して成立する条件式では無く、あらゆる導波素子(例えば基板上に形成(集積配置)された光導波路など)にも適用される。
【0330】
3.9節 異なる領域からの放出光の合成/混合方法
図9内の“異なる発光領域”を用いた本実施形態例の説明を行う。この場合も基本的には、3.1節で説明した基本原理を踏襲している。すなわち本実施形態例では、対象体10内の特定領域(あるいは測定点)γまでの互いの光路長の差δが(B・6)式または(B・12)式で与えられる可干渉距離lCLより長くなる複数の発光領域(例えば図2Aのタングステン・フィラメント50近傍のα領域とβ領域)から発生した光を混合して対象体10に照射する。あるいは対象体10を経た後の検出光16(図8Bまたは図10の光検出器80で検出される光)には、前記α領域とβ領域から発生した光の合成光または混合光が含まれても良い。
【0331】
本3.9節では図8Aで既に説明した内容を“異なる発光領域”(図9)に適用した基本的な実施形態方法を図19A図19Bを用いて概説する。その後、その具体的な実施形態例について、図20図21Cおよび図24A図24Bを用いて説明する。
【0332】
なお3.9節では異なる発光領域例として、タングステン・フィラメント50を用いた発光源70で説明する。しかしそれに限らず、比較的広い領域から同時に発光する特性を有する全ての発光源70を説明内容に適合させても良い。またここでは異なる発光領域を有する“同一発光源70”の例を用いて説明している。しかしそれに限らず、異なる発光領域は異なる発光源に跨って分散配置されても良い。すなわち本実施形態例では異なる複数の発光源から放出された光を混合して照射光(第1の光)12(図1A図1C)として使用しても良い。そしてこの場合には図1A図1Cの光源部2の内部に、複数の異なる発光源が内蔵されている。またこの場合にも光合成(混合)部102(図8A(a))では3.1節で説明したように、異なる複数の発光領域から放出された光の進行方向(あるいは電場の振動面方向)がほぼ一致する事が望ましい。
【0333】
図19Aは、図8A(b)で既に説明した内容を“異なる発光領域”(図9)に適用した基本的な実施形態方法を示す。図19A(a)では発光源70(タングステン・フィラメント50)と対象体10の間に光学特性変更部材の一種に相当する光路変更素子210が配置される。一方で図19A(a)ではそれが無く、発光源70(タングステン・フィラメント50)から放出された光が直接対象体10に照射される。
【0334】
図19A(a)と(b)いずれも、対象体内特定領域200に相当するα領域が光合成/混合場所となっている。ここで発光源70(タングステン・フィラメント50)から放出された全ての光が対象体10内のα領域を通過する訳では無い。発光源70(タングステン・フィラメント50)から放出された光の一部のみがα領域を通過するが、このα領域を通過した光のみを検出部6で選択的に抽出する。そしてこのα領域は図9の“合成/混合場所”欄内の“対象体10内特定領域200”あるいは“(検出面86等への結像含む)”に対応するが、詳細は図20を用いて後述する。
【0335】
同一発光源70内の複数の発光領域から対象体内特定領域200に相当するα点に至る光路長間の差δ1、δ2は、(B・6)式または(B・12)式で与えられる可干渉距離lCLより長いと、各発光領域から放出された光間の部分的可干渉性が低下する。
【0336】
図19A(a)での幾何学的配置の理由から、発光源70(タングステン・フィラメント50)と対象体10間の距離が離れる程、それぞれの光路長差δ、δの値は小さくなる。逆に発光源70(タングステン・フィラメント50)と対象体10間の距離が縮まると、それぞれの光路長差δ、δの値は発光源70(タングステン・フィラメント50)上での発光領域間の距離まで縮まる。
【0337】
従って同一発光源70上の発光領域間の距離が(B・6)式または(B・12)式で与えられる可干渉距離lCLより長い場合には、発光源70(タングステン・フィラメント50)と対象体10間の距離に依らずに常に部分的可干渉性が低下する。従って本実施形態例では、発光源70における広域な発光領域の幅(長さ)を(B・6)式または(B・12)式で与えられる可干渉距離lCLより長く設定しても良い。
【0338】
特に発光源70としてタングステン・フィラメント50を用いた場合、縦方向と横方向で発光領域の幅が異なる。この場合(発光源70の方向で広域な発光領域の幅(長さ)が異なる場合)には発光源70内の発光領域の幅が最も広い部分での長さを、可干渉距離lCLより長くしても良い。
【0339】
ところで発光源70と対象体10間の距離が充分短く、発光源70内の発光領域の最も広い幅が可干渉距離lCLと同じ場合には、発光源70内両端部の発光領域から放出された光間しか部分的非可干渉性が得られない。この場合には発光源70内中央部近傍の発光領域から放出された光間では、部分的可干渉性が保たれる。
【0340】
互いの光路長差δが可干渉距離lCLより長くなる光路数Nの値が大きい程望ましいと、3.1節内の前半部(あるいは3.5節)で説明した。従って光学雑音低減効果の観点では、発光源70内の発光領域の幅は一層広い方が良い。従って発光源70と対象体10間の距離に依らず常に光学雑音低減効果が発揮できる条件としては、発光源70内の発光領域の幅が最も広い部分での長さがN×lCLより広い事が望ましい。ここで前記のNの値は、“2以上”、さらに3以上や4以上、8以上が望ましい。
【0341】
また別の言い方をすると、発光源70内のN×lCLより広い広域発光領域から放出された光が対象体10に照射されるように光学系を配置しても良い。またそれのみに限らず、発光源70内のN×lCLより広い広域発光領域から放出された光が対象体10を経て検出部4、6内の光検出器80(図8Bまたは図10(c))に到達するように光学系を配置しても良い。
【0342】
3.1節内で光学特性変更部材が発揮し得る2種類の機能の説明を行った。図19A(b)で使用する光路変更素子(光学特性変更部材)210は、発光源70から放出された光の光路(主に進行方向)を変更させて“(A)光路毎の光路長を変化/制御”を行う。
【0343】
すなわち発光源70(タングステン・フィラメント50)上の複数の異なる発光領域から放出された光に対して、光路変更素子(光学特性変更部材)210で進行方向(光路)を変更させる。
【0344】
上記光路変更素子(光学特性変更部材)210として、図9の“光合成/混合方法”欄内に記載された光位相変換素子や回折関連素子を使用しても良い。それにより上記光路変更素子(光学特性変更部材)210の通過光が拡散される。そしてその拡散された光の一部が、対象体内特定領域(光合成/混合場所)200の対象体10内α領域に到達する。
【0345】
同一発光源70内の複数の発光領域から対象体10内α点に至る光路長間の差δ、δは、発光源70と対象体10間の距離が縮まるに従って大きくなると上述した。しかし発光源70(タングステン・フィラメント50)は多量の熱や振動(放熱用ファンの回転振動など)を発生するので、発光源70と対象体10間の距離は短く配置し辛い。その対策として光路変更素子(光学特性変更部材)210を発光源70(タングステン・フィラメント50)と対象体10との間に配置する。そして対象体10に近付ける事で、発光源70内の複数の発光領域からの光路長間の差δ、δを大きくして部分的可干渉性を減少し易くする効果が生まれる。
【0346】
実際には発光源70内の各発光領域からは、発散光が放出されている。しかし後述するように対象体10内の特定領域200が光合成/混合場所に一致する光の光路として、発光源70内の各発光領域からの概平行光が光路変更素子(光学特性変更部材)210に到達する場合を考える。この場合には図19A(a)の説明と同様に、発光源70における広域な発光領域の幅(長さ)が可干渉距離lCLより長いと合成光の部分的可干渉性が低下し易い。
【0347】
また図19A(a)と同様、図19A(b)でも発光源70内の発光領域の幅が最も広い部分での長さがN×lCLより広い事が望ましい(Nの値は、“2以上”、3以上や8以上でも良い)。そして図19A(b)の方法でも発光源70内のN×lCLより広い広域発光領域から放出された光が対象体10に照射されるように光学系を配置しても良い。さらに発光源70内のN×lCLより広い広域発光領域から放出された光が対象体10を経て検出部4、6内の光検出器80(図8Bまたは図10(c))に到達するように光学系を配置しても良い。ここでこれらの条件は図19Aに限らず、図19B(a)および図19B(b)でも適用されても良い。
【0348】
図19A(a)と(b)に示す方法は、対象体10内のα領域を通過した光のみを検出部4、6内で選択的に抽出する事で、対象体内特定領域200を光合成/混合場所に設定した。それに比べて図19B(a)と(b)の方法は、光源部2内部に光合成(混合)部102を設置して合成光(混合光)78を生成する。この場合は発光源70内での複数の異なる発光領域から光合成(混合)部102に到達するまでの光路長間の差δ1、δ2を可干渉距離lCLより長くして、互いの部分的可干渉性を減少させる。
【0349】
そして図19Bは、図8A(a)で既に説明した内容を“異なる発光領域”(図9)に適用した基本的な実施形態方法を示している。
【0350】
図19B(a)では発光源70内での複数の異なる発光領域から放出された光が直接光合成(混合)部102に到達する。一方で図19B(b)では図19A(b)と同様な光路変換素子(光学特性変更部材)210を、発光源70と光合成(混合)部102との間に配置する。
【0351】
図19A(a)と(b)での対象体内特定領域200のα領域を光合成/混合場所に設定する具体的な実施形態例を、図20に示す。ここで図20(a)は図19A(a)に対応し、図20(b)は図19A(b)に対応する。そして図20(a)と(b)いずれも対象体10内のα領域が、図9の“合成/混合場所”欄内の“対象体10内特定領域200”に相当する。
【0352】
検出部6内には分光器22とモニタカメラ24が設置されており、これらで対象体10から得られる検出光(第2の光)16を検出し、対象体10の内部を測定する。ここでモニタカメラ24内の撮像面(検出面)86(図14D参照)の位置と分光器22内のピンホールまたはスリット130(図14E参照)位置は、対象体10内のα領域(α点)と結像(共焦点)の関係にある。従ってモニタカメラ24と分光器22は、対象体10内のα領域(α点)から得られる信号を選択的に抽出する。このように検出面を配置する事が、図9の“合成/混合場所”欄内の“(検出面86等への結像含む)”に対応する。
【0353】
一方では発光源70内での複数の異なる発光領域から放出された光(図20(a))または光路変換素子(光学特性変換部材)210通過後の光は、拡散光として広がる。そして発光源70内での複数の異なる全ての発光領域から放出された光の一部は、対象体10内のα領域を通過する。従って検出部6内の結像光学系を利用して、発光源70内での複数の異なる発光領域から放出された光が実質的に対象体10内のα領域(α点)内で合成/混合される。
【0354】
図20では信号検出にモニタカメラ24と分光器22を使用している。しかしそれに限らず、本実施形態では任意の信号検出手段(広義の光検出器80)を結像位置(共焦位置)に配置しても良い。
【0355】
図19B(a)と(b)に関する具体的な実施形態例を、図21Aに示す。ここで図21A(a)は図19B(a)に対応し、図21A(b)は図19B(b)に対応する。光検出器80の一例として図21Aでは、分光器22を使っている。しかしそれに限らず対象体10から得られる信号を検出する手段として、任意機能を持った光検出器80を使って良い。
【0356】
図21A(a)では、コリメートレンズ26は図19B(a)の光合成(混合)部102の機能の一部を果たす。すなわち発光源70内の複数の発光領域(α、β、γの各領域)から放出された発散光は、コリメートレンズ26上で部分的に合成(混合)される。
【0357】
しかしコリメートレンズ26通過後の等位相面(波面)は、発光領域がα、β、γ毎に互いに傾いた関係に有る(光の進行方向が一致してない)。そのためこの状態では図17と同様に、完全に合成(混合)された状態では無い。
【0358】
上記コリメートレンズ26通過後の光は対象体10内部で多重散乱を起こして拡散される。検出部6では検出レンズ28とピンホールまたはスリット130の組み合わせで、対象体10を経た検出光16の中で“互いに進行方向が一致”する平行光のみを抽出して検出する。従って図21A(a)に示す実施形態例では、コリメートレンズ26と対象体10(内部での多重散乱)の組み合わせ(厳密には検出部6を含めた組み合わせ)で、光合成(混合)部102が構成される。
【0359】
図19B(b)の光特性変更部材の一種である光路変更素子210として、図21A(b)では位相変換素子212(具体的にはデフューザやランダムフェーズシフター、砂摺り面など)を使用し、発光源70内のα、β、γの各発光領域から放出された光の進行方向をさらに拡散(さらに広がる方向に光の進行方向を変更)させる。その結果として、コリメートレンズ26通過後の平行光の中にα、β、γの各発光領域から放出された光が含まれる(平行校光内では、α、β、γの各発光領域から放出された異なる光路を通過した光の進行方向が一致する)。
【0360】
そして図21A(a)と同様に図21A(b)でも、検出部6内の検出レンズ28とピンホールまたはスリット130の組み合わせで、対象体10を経た光の平行光成分のみが選択的に検出される。
【0361】
従って図21A(b)では、コリメートレンズ(厳密には検出部6を含めた組み合わせ)が、図19B(b)の光合成(混合)部102に相当する。
【0362】
図21A(b)ではコリメートレンズ26通過後の照射光12内には、非平行な成分も多量に含まれる。対象体10に照射する合成光(混合光)78の進行方向を一致させて部分的非可干渉性を一層向上させる具体的方法として、コリメートレンズ26と対象体10の間にビームエキスパンダーを配置し、その途中の集光部にピンホールを配置しても良い。
【0363】
光学特性変更部材の機能の内の“(A)複数の光路毎に光路長を変化/制御”する機能を実現する光路変更素子210の実現手段として位相変換素子212を用いる他の実施形態例を図21Bに示す。タングステン・ハロゲンランプやキセノンランプなどのパンクロマティックナ光源では、管球内にハロゲン系ガス(沃素あるいは臭素化合物)やキセノンガスが封入されている。そしてこの管球214の内壁または外壁に微細な凹凸形状を形成して位相変換特性を持たせる。その結果として、発光源70(例えばタングステン・フィラメント50)上の複数の異なる発光領域から放出される光路が変更され、複数の光路毎の光路長が変更/制御される。
【0364】
さらに背面鏡82を用いて異なる光路を通過した光を合成(混合)する。図21Bのように内壁または外壁に位相変換特性を有する管球(と背面鏡82)を用いると、非常に安価に部分的可干渉性を減少させた光が生成できる効果が有る。またそれに限らず、図9の“光合成/混合方法”欄内に記載された光位相変換素子や回折関連素子を管球214の近傍に配置しても良い。
【0365】
また背面鏡82で反射した光は平行光となるので、図示してないが平行光の光路途中に合う12A~図13Cのような波面分割機能を有する光学特性変更部材を配置しても良い。またそれに限らず、この光学特性変更部材の後ろに、図14Aで示す集光レンズ98と光ファイバ100から構成される光合成(混合)部102-1を配置して良い。さらにこの時に使用する光ファイバ100として、図21Cで使われるバンドル形光ファイバ300を使用しても良い。
【0366】
図19B(b)の光路変更素子(光学特性変更部材)210に関する他の実施形態例を、図21Cを用いて説明する。この光路変更素子(光学特性変更部材)210には、結像レンズ215とコリメートレンズ26、およびバンドル形光ファイバ群300(光ファイバ100)の組み合わせが対応する。
【0367】
特にバンドル形光ファイバ群300(光ファイバ100)が、発光源70上の非常に広い範囲に及ぶ発光領域(α、β、γの各領域(各点))からの放出光を集めて対象体10へ照射できる機能を持つ。さらに発光源70のタングステン・フィラメント50から発生する熱と冷却用ファンからの振動の影響をバンドル形光ファイバ群300(光ファイバ100)の出入り口間で遮断する効果も発揮する。
【0368】
発光源70上の異なる発光領域(α、β、γの各領域(各点))から放出された拡散光は結像レンズ216で、バンドル形光ファイバ群300(光ファイバ100)の入射面上に結像させる。ここでバンドル形光ファイバ群300(光ファイバ100)の光入射領域の幅を“D”、結像レンズ216の結像倍率を“M”で表すと、発光源70上の広域発光領域の幅としてD/Mの範囲内で発光した光がバンドル形光ファイバ群300(光ファイバ100)内を通過できる。ここで
D / M > N・lCL …(B・35)
(lCLは(B・6)式または(B・12)式で与えられ、Nは1以上の正数(但しNは2以上または4以上、8以上が望ましい))を満足する事が望ましい。特にバンドル形光ファイバ群300(光ファイバ100)を使用すると“D”の値を大きくできるので、Nを大きく取れる。その結果としてバンドル形光ファイバ群300(光ファイバ100)通過光間の部分的可干渉性を大きく減少できる(部分的非可干渉性が大幅に増加する)。
【0369】
発光源70上のα、β、γの各領域(各点)から放出された光は、バンドル形光ファイバ群300(光ファイバ100)の光入射領域内のε、ζ、ηの各点に結像される。バンドル形光ファイバ群300(光ファイバ100)は入射された光をそのまま運ぶので、それぞれの光は光出射領域内のε、ζ、ηの各点から放出される。
【0370】
バンドル形光ファイバ群300(光ファイバ100)の光出射領域内のε、ζ、ηの各点から放出されたそれぞれの光はコリメートレンズ26通過後に平行光となるが、この平行光の進行方向は互いにずれる(平行光の等位相面(波面)は、互いに傾く)。
【0371】
バンドル形光ファイバ群300(光ファイバ100)の光出射領域内のε、ζ、ηの各点から放出された光の進行方向を一致させるため、光学特性変更部材として位相変換素子212を使用する。ここで使用する光学特性変更部材としては、3.1節内で説明した中で“(B)複数の光路を合成(混合)”に該当する機能を発揮する。またこの位相変換素子(光学特性変更部材)212は、図19B(b)の光合成(混合)部102に対応する。
【0372】
この位相変換素子(光学特性変更部材)212は透過光を拡散させる(平行光を透過させた場合に拡散光に変換される)ので、対象体10に照射される照射光12内には多量に非平行光成分が含まれる。それに対して検出レンズ28とピンホールまたはスリット130との組み合わせで、対象体10を経た後の平行光成分のみと選択的に抽出して信号検出している。従って図21Cでは厳密には、位相変換素子(光学特性変更部材)212および検出レンズ28とピンホールまたはスリット130との組み合わせで光合成(混合)部102を構成している。
【0373】
図19A図19Bの具体的な実施形態例の一部を図20から図20Cで示した。しかし前記の具体的な実施形態例に限らず、図19Aまたは図19Bを実現する他のあらゆる具体的な方法を使用しても良い。すなわち3.1節で光学特性変更部材の持ち得る機能として
(A)複数の光路毎に光路長を変化/制御する機能(後述する図10の“光路長変化76”の機能に該当)と
(B)複数の光路を所定箇所に合成(または混合)させる機能が含まれる事を説明した。この“(B)複数光路の合成(または混合)”を実現するあらゆる光学特性変更部材の形態を図19Bの光合成(混合)部102として使用しても良い。また上記“(A)複数光路毎の光路長を変化/制御”を実現するあらゆる光学特性変更部材の形態を図19A(b)または図19B(b)の光路変更素子(光学特性変更部材)210として使用しても良い。さらにこの光学特性変更部材として、図9の“光合成/混合方法”欄内に記載されたあらゆる光学素子あるいはそれらの組み合わせを用いても良い。
【0374】
図20(b)や図21A(b)あるいは図21B/Cでは光の光路(進行方向)を変更するために位相変換素子212、214を使用している。しかし任意の特性を有する光位相変換素子212、214で、常に効率良く部分的可干渉性を減少できる訳では無い。光位相変換素子212の特性と部分的可干渉性の低減効果を測定するために用いた実験系を図22に示す。また図22の光学系は、本実施形態の他の応用例にも相当する。
【0375】
実験では、図9の“合成/混合前の光路状態”として、“異なる発光領域”と“異なる光放出方向”、“波面分割”の3種類の項目を組み合わせている。
【0376】
ここで背面鏡82の曲率半径19mm,コリメートレンズ26と集光レンズ98の焦点距離は共に25.4mmとした(結像倍率M=1となる)。またコリメートレンズ26と集光レンズ98、エキスパンドレンズ218、検出レンズ28の開口部の平行光束径は25mmと全て一致させた。
【0377】
またバンドル形光ファイバ群300(光ファイバ100)の光入射領域の幅Dは5mmとした。その結果、(B・35)式の左辺の値は5mmとなる。ここで使用した螺旋状タングステン・フィラメント50の長さは5mm程度有り、発光源70の広い発光領域のほぼ全域からの放出光を対象体10に照射できている。またバンドル形光ファイバ群300(光ファイバ100)の長さを2mにして、発光源70のタングステン・フィラメント50から発生する熱と冷却用ファンからの振動の影響をバンドル形光ファイバ群300(光ファイバ100)の出入り口間で遮断した。
【0378】
透明な半円平行平板94-1、2の組み合わせおよび透明な半円平行平板94-3、4の組み合わせには、図13B(a)に示した45度ずつ角度分割する光学特性変更部材を2組み使用した。なお分割された光路数を増やすため、両者間では互いに22.5度だけ回転させた角度で設置した。ここで図13B(a)に示した“t”の値は1mmとし、通常BK-7と呼ばれる光学ガラスを使用した。また透明な半円平行平板94-1と2間の接着および透明な半円平行平板94-3と4間の接着には、BK-7と同じ屈折率の接着剤を使用した。
【0379】
またエキスパンドレンズ218と検出レンズ28の焦点距離は、50mmと250mmに設定した。また光位相変換素子(光学特性変更部材)212通過後に光は拡散される(拡散光となる)。しかし検出レンズ28とピンホールまたはスリット130との組み合わせを利用し、対象体10を透過した後の平行光成分のみを抽出して検出した。
【0380】
なお対象体10としては、可視域では透明に見える厚み30μmのポリエチレンフィルムを使用した。対象体10のポリエチレンフィルムは近赤外光に対しても混濁状態では無い。従って検出レンズ28とピンホールまたはスリット130との組み合わせを利用して実質的には、対象体10に入射される平行光(α領域およびβ領域、γ領域から放出され、進行方向が一致した形で対象体に入射された光)の成分のみが選択的に抽出されて検出されたと考えられる。
【0381】
そして位相変換素子(光学特性変更部材)212の片面は、砂粒粒径の異なる砂摺り面(Sand Treatment Plate)とした。また位相変換素子(光学特性変更部材)212の他方の平面部には、反射防止コートを施した。
【0382】
図23Aは対象体10挿入前の検出光量を100%均一に規格化した時の、対象体10挿入前の検出光量比(透過率)の測定波長依存性を示している。また位相変換素子(光学特性変更部材)212の砂摺り面生成に使用した砂粒粒径を変えた時の測定結果の変化を調べている。図23A(a)は#1200の砂粒(平均の面粗さRa(Average Value of Roughness)は0.35μm)を使用している。また図23A(b)は#800の砂粒を使用し(平均の面粗さRaは0.48μm)、図23A(c)は#400の砂粒を使用している(平均の面粗さRaは1.2μm)。
【0383】
波長1.213μmでの透過率と波長1.360μmでの透過率の差分値が、図23A(a)から図23A(c)に移動するに従って大きくなる。しかし図23A(a)と図23A(b)とでの変化は比較的少ない(図23A(c)になると、大きな効果が現れる)。
【0384】
一方で、波長1.213μmにおける実測最小値とその周辺を結ぶ包絡線から推定される(同一波長位置での)補間値との間の光透過率の差は、図23Aの(a)、(b)、(c)ともにほぼ“0.5%”の同程度となっている。
【0385】
図23Aでは相対的な透過率の変化で表したが、これを吸光度変化で表したのが、図23Bで有る。ここで吸光度とは、上記透過率の逆数を常用対数で表した値を示す。波長1.213μmにおける吸光最大値とその周辺との差は、砂粒粒径に拠らずほぼ類似した値を示す事が図23Bから分かる。一方で図23Bの全体のベースラインの高さが砂粒粒径で大きく変化している。上記の波長1.213μmにおける吸光最大値と全体のベースラインの発生原因は第5章で詳細に後述する。
【0386】
図23Bの吸光度特性において、ベースラインの高さが低い方が分光特性(吸光特性)の測定精度が向上する。従って#400(平均の面粗さRaは1.2μm)で最も測定精度が高い。一方で#800(平均の面粗さRaは0.48μm)と#1200(平均の面粗さRaは0.35μm)間での測定精度は、少し変化する。
【0387】
上記の平均の面粗さRaは、砂摺り面上の微細な機械的凹凸の平均量を表している。従って砂摺り面透過後に生じる位相差の平均量δは、(B・13)式の“d”の所に“Ra”の値を代入して求まる。波長1.213μmにおけるBK-7の屈折率nをおよそ1.5とすると、Ra=1.2μm時にはδ=0.6μmとなる。この値は波長1.213μmのおよそ半分の値となる。同様にRa=0.48μmに対応した位相差の平均値は1/5、Ra=0.35μmに対応した位相差の平均値は1/7となる。
【0388】
したがって本実施形態例で位相変換素子(光学特性変更部材)212を使った場合には、それにより発生する位相差の平均値が使用波長の1/6以上(望ましくは1/5以上、または1/4以上)になると効果が発生すると言える。
【特許文献1】にも光学雑音を低減させるために回折格子や拡散板を使用する例が記載されている。しかし
【特許文献1】では、実際に効果を発揮するために必要な光位相変換素子や回折関連素子の性能に関して一切開示されてない。また検出部6内の光学特性/光学配置との関連性も開示されてない。
【0389】
発光源70内の離れた広い発光領域(発光点)から放出される光の光路間の光路長差は大きくなるので、『発光源70内の広い発光領域(発光点)から放出される光を、対象体10に照射するあるいは光検出器80で検出する』のが望ましいと、本3.9節の前半部で説明した。その方法を実現する実施形態の応用例を図24A図24Bに示す。
【0390】
図24Aは発光源70内の(発光点βからγに至る)広い発光領域から放出される照射光12を、結像倍率Mの結像レンズで発光領域を縮小させて光ファイバ100の入射領域内に通過させる。そして光ファイバ100の出射領域を通過した照射光12はコリメートレンズ26で平行光に変換されて、対象体10に照射される。
【0391】
しかしそれに限らずコリメートレンズ26で対象体10内の局所領域に集光(光ファイバ100の出射領域に対して結像)させても良い。また図24Aでは1本のみの光ファイバ100のように描かれているがそれに限らず、バンドル形光ファイバ群でも良い。
【0392】
さらに図24Aでは1枚の結像レンズ216のみで結像系を構成しているがそれに限らず、複数枚のレンズで結像系を構成しても良い。その具体的な一例として図22に示すように、コリメートレンズ26と集光レンズ98で結像系を構成しても良い。さらに3.4節内の最後の箇所で説明したように、コリメートレンズ26と集光レンズ98で形成する平行状態(平行光束)の照射光に対して波面分割機能(またはそれ以外の機能)を持った光学特性変更部材を配置しても良い。この光学特性変更部材の一例として図22では、透明な半円平行平板94-1と2の組み合わせの例を示している。
【0393】
図24Aの結像レンズ216は、光学特性変更部材としての“(A)複数光路毎の光路長を変化/制御”の機能を果たしている。従ってこの結像レンズ216は、図19B(b)で説明した光路変換素子210の一種に含まれる。
【0394】
一方で図24Aの光ファイバ100は、光学特性変更部材としての“(B)複数の光路を合成(または混合)”する機能を果たしている。また図24Bでも、光ファイバ100は同じ機能を発揮している。従ってこの光ファイバ100は、図19B(b)で説明した光合成(混合)部102に対応する。
【0395】
図24Aに記載したように、光ファイバ100の入射領域におけるコア径を“ΔD”で表す。また結像レンズ216の結像倍率(横倍率)を“M”とする。この場合にも、(B・35)式内のDをΔDに置き換えた条件を満たすと、光ファイバ100内の合成光(混合光)78(図10(b))は部分的非可干渉性を示す。
【0396】
さらに別の観点から、光ファイバ100内に入る光間の光路長差δを検討する。まず結像レンズ216の光軸上に発光源70上のα点(α領域)を配置する。次に発光源70上のβ点(β領域)から放出された後に結像レンズ216の中心点を通過し、光ファイバ100の入射領域内端部(コア領域とクラッド層の境界位置)に到達する光路を考える。この光路と結像レンズ216の光軸との角度をηで表す。また発光源70から光ファイバ100の入射領域までの距離を“SF”とする。
【0397】
発光源70上でのα点(α領域)とβ点(β領域)間の距離は、ΔD/(2M) となる
ので、ηが充分小さい時には、
【0398】
【数11】
【0399】
と近似される。一方でα点(α領域)から光ファイバ100の入射領域までと、β点(β領域)から光ファイバ100の入射領域までの光路長差δは、
【0400】
【数12】
【0401】
で与えられる。従って光ファイバ100内で混合されて部分的可干渉性が減少する(部分的非可干渉性が増加する)条件は、
【0402】
【数13】
【0403】
となる(Nは1以上の正数)。また上記の可干渉距離lCLは、(B・6)式または(B・12)式で与えられる。ここで(B・38)式の左辺に対して、(B・24)式と同様な近似式を適用すると
【0404】
【数14】
【0405】
と変形される。(B・39)の近似式を見ると、結像レンズ216の結像倍率(横倍率)Mに対する光ファイバ100の入射領域におけるコア径ΔDの比が重要な要因となるのが分かる。すなわち結像レンズ216の結像倍率(横倍率)Mを極力小さくし、かつ光ファイバ100の入射領域におけるコア径ΔDを極力大きくするのが望ましい。さらに発光源70から光ファイバ100の入射領域までの距離SFは、短い方が良い。
【0406】
すなわち図24Aの光学配置において、(B・38)式または(B・39)式を満足するように設定すると、(例えば発光源70内部の管球などの影響で発生する)光学雑音を低減できる。なお上記の結像倍率Mは1個の結像レンズ216を使用した場合に限らず、任意の結像光学系(共焦点光学系)形成時の結像倍率(横倍率)が上記の式に適用されても良い。
【0407】
光学特性変更部材が担う“(B)複数光路の合成(または混合)”の機能を実現する手段として、図21A(b)あるいは図21C図22では位相変換素子212を使用した。しかしこの方法では、検出部4、6内で信号検出に利用される光の効率が低い。それに比べて図24A(あるいは図24B)の結像光学系(共焦点光学系)と光ファイバ100の組み合わせを使用する事で、部分的非可干渉性の光を効率良く対象体10に照射できるばかりでなく、効率良く検出部4、6内の光検出器80に導く事が(光検出器80で信号検出)できる効果が有る。
【0408】
上記光ファイバ100の入射領域から光ファイバ100内に入射できる光の入射角度範囲は、NA値で表される。市販されている多くの光ファイバ100のNA値は、例えば0.22などと比較的小さな値となっている。そのために(B・38)式または(B・39)式を満足させると、発光源70から放出された中での一部の照射光12しか結像レンズ216を通過しない。これを改良して照射光12に利用効率を高めると共に、(B・38)式または(B・39)式内のSFの値を小さくする方法を図24Bに示す。
【0409】
図24Bに示す本実施形態応用例では光ファイバ100の入射領域(またはその近傍)に光路変換素子210を配置し、光ファイバ100内に入射できる光の実質的なNA値を上げる。その光路変換素子210の具体的一例としてマイクロ凹レンズ230を使用しても良い。しかしそれに限らず光路変換素子210としては、光ファイバ100内に入射できる光の入射角度範囲を広げる機能を有するあらゆる光学素子を使用しても良い。
【0410】
また発光源70に近い位置に凹レンズまたはシリンドリカル凹レンズ240を配置し、発光源70からマイクロ凹レンズ230(光路変換素子210)に至る結像系の結像倍率Mを低減させる機能と両者間の機械的距離SFの値を小さくする機能を同時に達成している。
【0411】
図24Bでは発光源70と光ファイバ100との間にコリメートレンズ26と集光レンズ98を配置し、両者の間で照射光12を平行な状態としている。しかしそれに限らず、発光源70と光ファイバ100との間に1枚の結像レンズ216のみを配置し、光路途中に凹レンズまたはシリンドリカル凹レンズ240を配置しても良い。
【0412】
タングステン・フィラメント50など長手方向と短手方向での発光領域の幅が大きく異なる発光源70を使用した場合、シリンドリカル凹レンズ240などを配置し、発光領域の長手方向と短手方向での結像倍率Mを変化させても良い。
【0413】
図24Bの光学配置では、光ファイバ100の入射領域近傍で非点収差が発生する。ここで発光源70上のα点から放出された光の光ファイバ100の入射領域近傍では、発光領域の長手方向と短手方向に対する集光位置が光軸上でずれる現象をこの非点収差と呼ぶ。しかし結像倍率Mを“1”より小さく設定すると、このずれ量を小さく設定できる。その結果として、光ファイバ100の入射領域近傍で非点収差に拠らず多くの光を光ファイバ100内のコア領域142内に誘導できる。
【0414】
発光領域の長手方向と短手方向で結像倍率Mを変化させる他の方法として発光源70とコリメートレンズ26の間にシリンドリカル凹レンズ240を配置する代わりに、コリメートレンズ26と集光レンズ98との間で照射光12が平行状態になった場所に2枚のシリンドリカル凹レンズを配置してビームエキスパンダーを形成しても良い。
【0415】
また図24Bでは波面分割機能を有した光学特性変更部材である透明な半円平行平板94-1、2を平行状態となった照射光12の光路途中に配置し、照射光12の部分的可干渉性を減少(部分的非可干渉性を増加)させている。しかしそれに限らず、図9の“光合成/混合方法”欄内に記載されるあらゆる光学特性変更部材(とその組み合わせ)を光路途中に配置しても良い。
【0416】
図1A(または図1B図1C)の光源部2内構造として、図24B(あるいは図24A図24C)で構成させてもよい。発光源70では発熱し、その冷却用にファンを使用して震動源となる場合が有る。上記のように対象体10と発光源70の間に光ファイバ100を配置すると、熱や振動の影響から対象体10を守る効果が有る。
【0417】
図24Bで示した結像(共焦点)光学系におけるタングステン・フィラメント50の長手方向と短手方向で結像倍率Mを変化させる他の方法として、図24Aの球面レンズを使う代わりに、非球面レンズを使っても良いし、プリズム220やレンチキュラーレンズ222を光路途中に配置しても良い。
【0418】
すなわち図24Cでは(a)と(b)共に、光合成(混合)部102に光ファイバ100を使用する。そして光路変換素子210として図24C(a)では、結像レンズ216とプリズム220を組み合わせている。また他の実施形態応用例として図24C(b)では、光路変換素子210に結像レンズ216とレンチキュラーレンズ222の組み合わせを使用している。
【0419】
3.10節 異なる領域からの放出光の合成/混合に関する応用例
同一発光源70内の異なる領域から放出された光を混合(または合成)する場合に、異なる光路間の光路長を変化させる方法を、3.9節で説明した。それに拠り混合(合成)後の光の部分的可干渉性を低減(部分的非可干渉性を増加)できる。本節ではその技術を発展させ、『異なる光路間の光路長差を拡大』する方法と、より『効率的な混合(合成)』の方法を説明する。
【0420】
図21C図22はいずれも、ハンドル形光ファイバ群300(光ファイバ100)の入り口が、発光源70(タングステン・フィラメント50)に対する結像位置に対応する。この結像光学系の形成方法として、図21Cでは1個の光路変更素子210(結像レンズ216)のみを使用している。それに比べて図22では、空間的に異なる位置に配置された複数の光路変更素子(コリメートレンズ26と集光レンズ98)の組み合わせを使用して結像光学系を形成している。単一の光路変更素子210(図21Cの結像レンズ216)で結像光学系を構成するより、空間的に異なる位置に配置された複数の光路変更素子(図22のコリメートレンズ26と集光レンズ98)の組み合わせを使用した方が“異なる光路間の光路長差”を拡大できる。その結果として、空間的に異なる位置に配置された複数の光路変更素子を組み合わせて結像光学系を構成して“部分的可干渉性を一層低減”する効果が有る。その基本的原理を下記に説明する。
【0421】
図51は発光源70(タングステンフィラメント50)の発光像を光ファイバ100(光合成(混合)部102)の入り口に結像させる結像光学系を表している。ここで図51(a)は、1個の結像レンズ216(光路変換素子210)のみで結像光学系を構成する。一方で図51(b)は、空間的に異なる位置に配置された複数の光路変更素子(コリメートレンズ26と集光レンズ98)の組み合わせで結像光学系を構成する。
【0422】
複数の光路変更素子(コリメートレンズ26と集光レンズ98)の間を通過する照射光12の状態は、基本的に発散光状態でも集束光状態でも良い。例えば図22図24Bに示すように、照射光12(の光断面)を波面分割して分割された光路毎に光路長を変化させる光学特性変更部材を複数の光路変更素子(コリメートレンズ26と集光レンズ98)間に挿入する光学系を考える。そしてこの光学特性変更部材が透明な平行平板94-1~4の組み合わせで構成される、図22図24Bの例に付いて検討する。結像光学系内の発散光の光路途中または集束光の光路途中に平行平板94-1~4を配置すると、結像光学系内に収差(aberration)が発生する事が一般的に知られている。従って複数の光路変更素子(コリメートレンズ26と集光レンズ98)の間を通過する照射光12は、平行光状態が望ましい。このように平行光状態を利用すると、発光源70(タングステンフィラメント50)に対する収差の少ない正確な結像パターンが光ファイバ100(光合成(混合)部102)の入り口に形成できる効果が生じる。
【0423】
一般的に入手可能な無機材料製(例えば無水石英ガラス製など)の光ファイバ100のコア径ΔDは、1.0mm以下がほとんどである。一方でタングステン・ハロゲンランプ内に使われるタングステン・フィラメント50の長手方向の標準的な長さ(α点とβ点間の距離ιの2倍)は4cmと、コア径ΔDの40倍以上ある。従ってタングステン・フィラメント50の発光像を1/40以下に縮小して光ファイバ100の入り口に結像させる必要がある。そのため図51(a)のように1個の結像レンズ216のみで1/40以下に縮小して結像させるには、結像レンズ216を光ファイバ100の入り口近くに配置させる必要がある。
【0424】
タングステン・フィラメント50から光ファイバ100の入り口までの距離を、SFで表す。そして結像レンズ216の光軸延長上での発光源70(タングステン・フィラメント50)上の発光点をα点と定める。そしてこのα点がタングステン・フィラメント50の長手方向の中点に一致するように設定する。タングステン・フィラメント50の長手方向の端面に位置するβ点から放出された照射光12が、結像レンズ216の光軸中心を通過する場合を考える。この照射光12と結像レンズ216の光軸との間の角度をηで表現する。またα点とβ点間の距離を、ιで表す。
【0425】
上記のように結像レンズ216を光ファイバ100の入り口近くに配置させた場合には、
η ≒ tan-1(ι/SF) …(B・42)
と近似できる。
【0426】
そしてβ点から放出された照射光12が結像レンズ216を通過して光ファイバ100の入り口に到達するまでの光路長と、α点からの放出光が光ファイバ100入り口に至るまでの光路長との差分値δは、η値が充分小さい時には
δ = SF{( cosη)-1- 1 } ≒ SF・η/2 …(B・43)
の近似式で表せる。(B・43)式が示すように、光路長差δは角度ηの二乗で変化する。しかし1個の結像レンズ216(光路変更素子210)のみで結像光学系を構成した場合には、角度ηの値を大きく設定できない。
【0427】
(B・6)式あるいは(B・12)式で与えられる可干渉距離lCLおよび自然数N(“1”以上が必須であるが、“2”以上または“4”以上のなるべく大きな値が望ましい)と上記の光路長差δとの間に
δ ≧ N・lCL …(B・44)
の関係が成り立つ時に、光合成(混合)部102(光ファイバ100)を経た光の部分的可干渉性が減少(部分的非可干渉性が増加)する。
【0428】
しかし1個の結像レンズ216(光路変更素子210)のみで構成される結像光学系では角度ηの値が小さいため、充分大きなNに対して(B・44)式を満足できない。その結果として、部分的可干渉性の減少効果(部分的非可干渉性の増加効果)が充分に得難い。
【0429】
次に、空間的に異なる位置に配置された複数の光路変更素子(コリメートレンズ26と集光レンズ98)の組み合わせで結像光学系を構成する場合(図51(b))の特性を説明する。この場合には前側に配置された光路変換素子(コリメートレンズ26)の焦点距離Fcを、SFより遙かに小さな値(Fc<<SF)に設定できる。この時の角度ηに関する関係式は
η ≒ tan-1(ι/Fc) …(B・45)
となる。(B・45)式においてFcを充分小さく(Fc<<SF)設定できるため、角度ηが大きくなる。従って(B・43)式内に大きな角度ηの値を代入できるため、大きな光路長差δが得られる。そのため空間的に異なる位置に配置された複数の光路変更素子を組み合わせると、充分大きなNに対して(B・44)式が成立するため、大きな部分的可干渉性の減少効果(部分的非可干渉性の増加効果)が得られる。
【0430】
複数の光路変更素子(コリメートレンズ26と集光レンズ98など)を組み合わせて形成した結像光学系の光軸を、図51(b)では一点鎖線(Alternate Long and Short Dash Line)で示す。この光軸の延長線と発光源70(例えばタングステン・フィラメント70)との交点をα点で表す。このα点から最も離れた位置に存在する、発光源70内の発光点をβ点とする。またα点とβ点間の距離をιで示す。
【0431】
上記β点とα点からそれぞれ放出された後、前側に配置された光路変換素子(コリメートレンズ26)内の光軸上を通過する照射光12間の光路長差δcは
δc = Fc{( cosη)-1 - 1 } ≒ Fc・η/2 …(B・46)
となる。ここで角度ηは、(B・45)式を満たす。
【0432】
次に上記β点から放出され、後側に配置された光路変換素子(集光レンズ98)内の光軸上を通過する照射光12を考える。ここで後側に配置された光路変換素子(集光レンズ98)の焦点距離をFoで表す。そして図51(b)が示すように、この光の進行方向の光軸からの傾き角度をκとする。この光が光路変換素子(集光レンズ98)内の光軸上を通過後に、光ファイバ100の入り口に到達するまでの光路と、光軸上を通過する光路との間の光路長δoは
δo = Fo{( cosκ)-1 - 1 } ≒ Fo・κ/2 …(B・47)
となる。
【0433】
従ってα点とβ点からそれぞれ放出され、光ファイバ100の入り口に到達するまでの光路長差の合計が
δc + δo ≧ N・lCL …(B・48)
を満足するように光学設計をすると、部分的可干渉性の減少効果(部分的非可干渉性の増加効果)が発揮させる。なお(B・48)式において可干渉距離lCLは、(B・6)式あるいは(B・12)式で与えられる。また自然数Nの値は“1”以上が必須であるが、“2”以上または“4”以上のなるべく大きな値が望ましい。
【0434】
図51に示した実施例では、光合成部(または光混合部)102として光ファイバ100を使用している。しかし上述したように、一般的に入手可能な無機材料製(例えば無水石英ガラズ製など)の光ファイバ100のコア径ΔDは大部分が1.0mm以下なため、発光源70からの発光パターンを縮小して結像させる必要が有る。
【0435】
また結像倍率を小さくすると、照射光12の光ファイバ100の入り口への入射角ηが大きな光路が発生する。光ファイバ100内のコア領域142内に侵入可能な最大入射角ηは、NA値(NA=sinη)で定義される。そして標準的な光ファイバ100のNA値は0.22と比較的小さい。従って光ファイバ100の入り口への結像倍率を小さくすると、入射角ηが大きな光路を経た照射光12の一部がコア領域142内に侵入できず、光利用効率が大幅に減少する問題が生じる。
【0436】
上記の課題を解決するため図52図54に示すように、光合成部(または光混合部)102として光ガイドまたは光パイプ(Light Guide / Light Pipe)250を使用しても良い。光ガイド(光パイプ)250とは図9に記載した導波素子の一種で、内部を光が通過可能な透明な光学素子を示す。すなわち光ガイド(パイプ)の前端面(Front-end Boundary)252から光(例えば照射光12)が入射し、側面(Side Surface)254で内部反射(全反射(Total Internal Reflection))しながら内部を通過し、光ガイド(パイプ)の後端面(Back-end Boundary)256から出射する。
【0437】
光ガイド(光パイプ)250の入射前に異なる経路を経た光どうし(例えば発光源70内の異なる発光点α、βから放出された光間)は、光ガイド(光パイプ)250の内部を通過して、互いに混ざり合う(混合または合成される)。この光ガイド(光パイプ)250内部の通過光(照射光12)が側面254から漏れない(全反射が阻止されない)構造で有れば、光ガイド(光パイプ)250は任意の形状を取れる。この光ガイド(光パイプ)250の具体的な形状例として、角柱形状や円柱形状(あるいは角錐形や円錐形に近い形状)を取っても良い。
【0438】
光ガイド(光パイプ)250内部の屈折率nは空気中(真空中)の屈折率より常に大きい。従って光ガイド(光パイプ)の前端面252での照射光12の入射角κ(η)は、0度≦κ≦90度の範囲内の任意の値が許容される(図54(a)参照)。そのため、光ガイド(光パイプ)250への光入射面(光ガイド(光パイプ)の前端面252)通過時の光損失が少ない効果がある。
【0439】
例えば屈折率nが1.5の平面ガラスに垂直入射する光は、入射表面で4%程度の反射が起きる。従って光ガイド(パイプ)の前端部252と後端部256の両方に反射防止コート(ARコート(Antireflection Coatings))を施して(反射率を1%以下、望ましくは0.5%以下に制御して)、前端部252と後端部256通過時の光損失を低減させても良い。
【0440】
さらに光の合成あるいは混合に光ガイド(光パイプ)250を使用すると、(発光源70と光ガイド(光パイプ)の前端面252間の)結像倍率への制約が少なくなる。なぜなら例えば透明な無機材料製(無水石英ガラス製など)で例えば直方体形状の光ガイド(光パイプ)250を使用する場合、任意の寸法で容易に光ガイド(光パイプ)250を作成できる(光ガイド(光パイプ)250の寸法任意性が高い)からである。そのため、途中の(光路変換素子210を用いた)結像光学系設計の自由度が向上する効果も生まれる。
【0441】
上記光ガイド(光パイプ)250の具体的形状の一例として、図54では四角柱を示している。また図52図53では四角柱の形状と“四角錐の先端部を切断して除去した形状”との中間の形状となっている。しかしそれに限らず、例えば六角柱や六角錐(の一部)、あるいは三角柱や三角錐(の一部)でも良い。
【0442】
また3.1節の最後に説明した理由から、この光ガイド(光パイプ)250の材料には有機材料を使わず、無機材料を使用するのが望ましい。その無機材料例として、光学ガラスやCaF、MgF、あるいはLiFやKBrなどが上げられる。
【0443】
とくにこの光ガイド(光パイプ)250の材料内に含まれるヒドロキシル基の混入量は“100ppm以下”(望ましくは“1ppm以下”)の条件を満たす低OH材料が適している。具体例としては、『ヒドロキシル基混入が少なく製造管理された硝子材料』や『無水石英硝子』、『無水石英』などが上げられる。
【0444】
図52が示すように、光路変更素子210(結像レンズ216、あるいはコリメートレンズ26と集光レンズ98の組み合わせなど)の働きで、結像光学系が形成されている。なお図52(b)のように複数の光路変更素子(コリメートレンズ26と集光レンズ98)が異なる位置に配置された場合には、両者の間に光学特性変更部材(図9)を配置しても良い。その光学特性変更部材の機能例として、“波面分割を利用した更なる光路長差生成”を行っても良い。具体的には、3.3節で既に説明した任意の方法を利用できる。なおその一例として図52(b)では、コリメートレンズ26と集光レンズ98の間の平行光束部に透明な半円平行平板94-1、2を配置している。
【0445】
上記結像光学系の働きで、発光源70(例えばタングステン・フィラメント50)上の発光パターンに対する結像パターンが、光ガイド(パイプ)の前端面252上に投影される。この投影像(結像パターン)を形成した光が、そのまま光ガイド(光パイプ)250(光合成(混合)部102)内に入り込み、光ガイド(パイプ)の後端面256から放出される。
【0446】
図52では縮小された結像パターンが投影された(結像倍率が1より小さい)例が記載されている。しかしそれに限らず、任意の結像倍率のパターンが光ガイド(パイプ)の前端面252上に投影されてもよい。この場合には光ガイド(パイプ)の前端面252の領域サイズが、投影された結像パターンより大きい方が望ましい。それにより、光ガイド(パイプ)の前端面252内に侵入する照射光12の利用効率が高まる。
【0447】
図52に示した実施例では、光ガイド(光パイプ)250(光合成(混合)部102)の側面254-1、2が、光軸に対してわずかな傾き(テーパー)を持つ。その結果、光ガイド(パイプ)の後端面256の領域サイズが前端面252の領域サイズより小さくなる。そして光ガイド(光パイプ)250(光合成(混合)部102)内を通過する光(照射光12)の光密度が、前端面252よりも後端面256の方が高くなる。
【0448】
前述したように、一般的な光ファイバ100内のコア領域142の直径ΔDは0.6mm前後が多い。上記のように側面254-1、2を傾かせて、光ガイド(パイプ)の後端面256の領域サイズをそれより小さく設定しても良い。例えば光ガイド(パイプ)の後端面256を出射した光を光ファイバ100内に通過させる場合を考える。傾斜した側面254-1、2を使用して後端面256の領域サイズを適正に変化させると、“光ガイド(光パイプ)250と光ファイバ100間の光学的結合時の光利用効率向上”(光接合部での大幅な光損失の防止)が実現できる。
【0449】
なお図52に示した光ガイド(光パイプ)250の例では、側面254-1と254-2それぞれがわずかな傾き(テーパー)を持つ平面となっている。しかしそれに限らず、光ガイド(光パイプ)250を構成する4側面254の中でいずれか1側面のみが勾配を有してもよい。さらにそれだけで無く、側面254-1、2の一部が曲面形状を持ち、部分的に傾きを持っても良い。但しこの場合には後述するように、光ガイド(光パイプ)250内部を通過する光が側面254-1、2で反射(全反射)する形状を保つ、あるいは側面254-1、2で反射する構造(たとえば光が内部反射するように側面254-1、2に光反射層を形成するなど)を持たせる必要がある。
【0450】
また図52の実施例では、光ガイド(光パイプ)250(光合成(混合)部102)の断面形状を四角形にしている。しかしそれに限らず(例えば光ファイバ100との光接合効率を考えて)、断面形状を円形または楕円形にしても良い。
【0451】
このように傾斜した側面254-1、2を使用して前端面252と後端面256間の領域サイズを適正に変化させる事で、“発光源70の発光部サイズ”と“光合成(混合)後に配置する光学系から要求される後端面256の領域サイズ”との整合性を取り易くなる効果が生まれる。
【0452】
なお上記に限らず、側面254-1、2を光軸と平行にして(前端面252と後端面256間の領域サイズを一致させ)も良い。
【0453】
図52図54では、光ガイド(パイプ)の後端部256を通過後の光路の記載が省略されている。上述したように光ガイド(パイプ)の後端面256の領域サイズを小さくした場合、光ガイド(パイプ)の後端部256を通過後の光は“擬似的な点光源からの発散光”として取り扱える。そして光ガイド(パイプ)の後端部256から放出された光を、“図1Aの光源部2から放出された照射光(第1の光)12”のように取り扱える。
【0454】
また図24Aのように光ガイド(パイプ)の後端部256の直後にコリメートレンズ26を配置して略平行光状態とし、図1B(あるいは図21A)のように対象体10に対して平行光照射を行っても良い。
【0455】
さらに図1Cのように略平行光の光路途中に対物レンズ25を配置し、略集束光の状態で対象体10に照射しても良い。この略集束光照射の例として他に、図7図14E図20の光学系の一部を使用しても良い。
【0456】
すなわち図1A図1Cに示す光源部2内に、光合成(混合)部102として上記の光ガイド(光パイプ)250を配置しても良い。またさらに上記光源部2内に光学特性変更部材の一種である光路変更素子210を(上記光合成(混合)部102の手前に)配置し、一部の光路に対して光路長変化76(図10)を発生させても良い。またそれに限らず図1A図1Cに示す光源部2内に図9に示す任意の光学特性変更部材を配置し、図8A図10(a)(b)を用いて3.1節で説明した機能を持たせても良い。
【0457】
それだけでなく、光ガイド(パイプ)の後端部256を光ファイバ100に光学的に接合し、光ファイバ100の出口に図24のような光学系を配置してもよい。またさらに光ガイド(パイプ)の後端部256をバンドル形光ファイバ群300と光学的に接合し、バンドル形光ファイバ群300の出口に図21C図22のような光学系を配置しても良い。
【0458】
本実施形態システムでは図14A図14E図16B図18図21A図21C図22図24A図24B図24Cの例で示すように、光路途中に光ファイバ100やピンホールまたはスリット130を設置する場合がある。またそれに限らず、光ガイド(光パイプ)250(光合成(混合)部102)で後端面256の領域サイズを狭めると、実質出来にピンホールまたはスリット130を設置したのと同等の光学的効果が生まれる。そしてこれらの光学素子を“部分的可干渉な光”の光路途中に設置すると、空間的可干渉性(Spatial Coherency)が増加すると言われている。その結果として照射光(第1の光)12または検出光(第2の光)16の部分的可干渉性が増加し、光学雑音が増加し易くなる傾向がある。
【0459】
それに比べて本実施形態システムのように発光源70に近い位置(光源部2の内部あるいは光源部2からの出射位置近傍)で照射光12を光ガイド(光パイプ)250内を通過させると、発光源70内の異なる発光点から放出された光間が光ガイド(光パイプ)250内部で合成または混合される。このように発光源70に近い位置(光源部2の内部あるいは光源部2からの出射位置近傍)で予め、照射光12の部分的可干渉性を低下(部分的非可干渉性を増加)させる。するとその後の光路途中で光ファイバ100やピンホールまたはスリット130を設置しても、照射光12の部分的可干渉性が増加しない(部分的非可干渉性が低下しない)。このように光源部2の内部あるいは光源部2からの出射位置近傍に光ガイド(光パイプ)250を配置することで、光学雑音が低減する効果がある。
【0460】
図52に示すように発光源70の結像位置に光ガイドの前端面252を配置すると、発光源70からの放出光に対する高い光利用効率が得られる。しかしそれに限らず、発光源70の非結像位置に光ガイドの前端面252を配置しても良い。その具体例として図52(a)において、発光源70と光ガイド(光パイプ)250の間に結像レンズ216以外の別の光学素子(図9に記載した他の光学特性変更部材など)を配置しても良いし、発光源70と光ガイド(光パイプ)250の間に一切の光学素子を配置しなくても良い。またそれに限らず、非結像光学系を形成しても良い。
【0461】
本実施形態システムにおける他の応用例を図53に示す。図17に示した従来技術との違いを、3.7節で説明した。図17ではコリメートレンズ136通過後の光進行方向がα、βと互いに一致しないため、このままでは部分的可干渉性は低下(部分的非可干渉性は増加)しない。
【0462】
それに対して本応用例では、光ファイバ100-1と100-2を出た両方の光を光ガイド(光パイプ)250内を通過させる。両方の光は光ガイド(光パイプ)250内で互いに合成または混合されて、互いの光進行方向が一致する。従って図53に示す応用例でも、光ガイド(光パイプ)250内は、光合成(混合)部102の働きをする。
【0463】
ここまでの説明では、光ガイド(光パイプ)250が持つ光合成(混合)部102の働きを利用していた。ここでは図54を使い、光合成(混合)部102の機能を持つ基本原理を説明する。大きな入射角ηを持った入射光は、光ファイバ100のコア領域142内に侵入できないと既に説明した。そのため(例えば照射光12)の光路途中に光ファイバ100を配置すると、その入り口での光量ロスが大きな問題となる。それに対して、光ガイド(光パイプ)の前端面252では光量低下が生じない理由を図54(a)に示す。
【0464】
空気中(または真空中)を入射角(Incident Angle)κで入射する光は、屈折率nの透明媒体内では屈折角(Angle of Refraction)ξで屈折する。入射角κと屈折角ξとの関係を示す近似式は、既に(B・14)式で説明している。ところで近似を使わずに正確なスネル(Snell)の法則を書き表すと、
sinκ = nsinξ …(B・49)
となる。
【0465】
(B・49)式において、常に“sinκ ≦ 1”が成り立つ必要がある。そして“sinκ= 1”となる屈折角ξの最大値が全反射角(Angle of Total Internal Reflection)と呼ばれる。例えば“n=1.5”の時には、(B・49)式から全反射角は“41.8度”となる。
【0466】
図54(a)では空気中(または真空中)を進行した照射光12が、光ガイド(パイプ)の前端面252を通過して光ガイド(光パイプ)250の内部に侵入する。この光路を逆から見る。光ガイド(光パイプ)250内部を通過する光が光ガイド(パイプ)の前端面252に対して角度ξで到達すると、屈折して角度κとなって空気中(または真空中)を進行する。ここで光ガイド(パイプ)の前端面252に到達する角度が“41.8度”より大きくなると、この光は光ガイド(パイプ)の前端面252で全反射して、空気中(または真空中)には出られない。
【0467】
このように屈折体内での界面への到達角度に制約がある反面、空気中(または真空中)の入射光(照射光12)に関しては、到達角度(入射角κ)への制約が無い。従って“0度≦κ≦90度”の範囲内では、任意の入射角κを持つ照射光12が光ガイド(光パイプ)の前端面252を通過できる。厳密な光学計算の結果から、光ガイド(パイプ)の前端面252通過時に微小な光反射に起因する光量ロスがわずかに生じる。しかし光ガイド(光パイプ)の前端面252に反射防止コート(ARコート(Antireflection Coatings))を施す事で、ここでの光量ロスを大幅に低減できる。従って光合成(混合)部102(図8A図8B参照)に光ガイド(光パイプ)250を使用すると、光ガイド(光パイプ)250通過光(照射光12)の高い光利用効率を得られる効果が生じる。
【0468】
そして光ガイド(光パイプ)250内を通過する照射光12は、光ガイド(光パイプ)250内部の側面254-1で反射(全反射)する。この時の反射角(全反射角)をφで表す。図54(a)が示すように、光ガイド(光パイプ)250の側面254-1と光ガイド(パイプ)の前端面252間が直交する場合には、上記屈折角ξと反射角(全反射角)φとの間の関係は
ξ + φ = 90度 …(B・50)
で与えられる。
【0469】
光ガイド(パイプ)の前端面252に対して任意の入射角κで光ガイド(光パイプ)250内に入る照射光12の屈折角ξは、上述したように常に“41.8度以下”となる。従って(B・50)式から、角度φは常に“48.2度以上”となる。そして“φ≧48.2度”の現象は上述した理由から、『光ガイド(光パイプ)250内を通過する照射光12は、光ガイド(光パイプ)250内部の側面254-1、2で全反射し、しかも反射時の光損失が起きない』事を意味する。つまり合成光(混合光)78の生成(図10参照)に光ガイド(光パイプ)250を使用すると、光合成(混合)時の光損失が非常に少なくできる効果が生まれる。
【0470】
合成光(混合光)78の生成に使用する光学特性変更部材の例として、回折格子120、124(図12A図14C)や光ファイバ100(図14A図24A図24B図24C)、位相変換素子102-2、212(図14B図21A(b)、図21C図22)などの使用例を説明した。ところで上記の光学特性変更部材内を光が通過する時には、いずれの光学特性変更部材でも多少の透過光量ロスが発生する。これらの光学特性変更部材と比べると、(同様に光学特性変更部材に属する)光ガイド(光パイプ)250は使用時の光損失量が格段に少ない。
【0471】
図54で例示した光ガイド(光パイプ)250は、直方体の形状を取る。それとは異なり、図52図53に例示した光ガイド(光パイプ)250の構造では、側面254-1、2の少なくとも一部が勾配を持つ。さらに側面254-1、2の一部が曲面形状を持ち、勾配量が部分的に変化する構造も許容される。そしてこの場合には、光ガイド(パイプ)の前端面252または後端面256と側面254-1、2との間の角度が、90度とは異なる(場所が少なくとも局所的には存在し得る)。
【0472】
(少なくとも局所的な)側面254-1、2内の勾配角(Slope Angle)をμとすると
、(B・50)式に対して
ξ + φ + μ = 90度 …(B・51)
の関係が成り立つ。
【0473】
屈折角ξが取り得る最大値(屈折率nが“1.5”の時の“41.8度”)と、側面254-1、2で全反射が起きる臨界角(Critical Angle)としての“φ=41.8度”を(B・50)式に代入すると、“μ=6.4度”を得る。つまり側面254-1、2で全反射が起こるためには、側面254-1、2での勾配角μを“6.4度以下”にする必要がある。
【0474】
光ガイド(光パイプ)250の製造時の前端面252や後端面256の角度誤差や照射光12の波長変化に拠る屈折率nの変化も考慮に入れると、光ガイド(パイプ)の側面254-1、2での勾配角μは“6度以下”(望ましくは“5度以下”)に設定するのが望ましい。
【0475】
上記計算の前提として、“光ガイド(パイプ)の側面254-1、2の表面は空気中(真空中)に露出した状態”を想定した。しかし本実施形態例では上記条件に限らず、光ガイド(パイプ)の側面254-1、2での勾配角μを例えば“5度以上”に設定しても良い。この場合には“側面254-1、2での全反射条件”が崩れるので、代わりに光ガイド(パイプ)の側面254-1、2の表面に光反射層のコーティングを行っても良い。
【0476】
このように光ガイド(光パイプ)250内部で全反射を繰り返しながら進む照射光12間で光合成(混合)される状況を図54(b)に示す。光ガイドの前端面252上のε点は、図52での発光源70(タングステン・フィラメント50)上の発光点αの結像点あるいは、図53での光ファイバ100-2の出射口に対応する。同様にζ点は発光源70(タングステン・フィラメント50)上の発光点βの結像点あるいは、光ファイバ100-1の出射口に対応する。図54(b)が示すようにε点とζ点の近傍では、両者の光は別光路を通過する。
【0477】
しかし光ガイド(光パイプ)250内を少し進行した所で、ε点通過光の光路260とζ点通過光の光路270が互いに重なり合う。そして両光路260、270が重なり合った領域が、光の混合領域280となり、互いの光が合成(混合)される。さらに光ガイド(光パイプ)250内部の側面254-1、2で全反射を繰り返しながら、両者の光の合成(混合)が一層進行する。そして光ガイド(パイプ)の後端面256の通過(出射)の時点で、(図8Aあるいは図8B図10が示す)合成光(混合光)78となる。
【0478】
合成光(混合光)78の生成に使用する光学特性変更部材の例である図12A図14Cで示した回折格子120、124あるいは、図14Bまたは図21A(b)、図21C図22に記載した位相変換素子102-2、212では基本的に、1回のみの光合成(光混合)操作が行われる。
【0479】
それに比べて光ガイド(光パイプ)250では、側面254-1、2での全反射の繰り返し毎に複数回の光路の重ね合わせ(すなわち光合成/光混合)処理が実施される。従って発光源70から放出されて異なる光路を通過した光間の混合(合成)度合いが向上し、部分的可干渉性の低下効率(部分的非可干渉性の増加効率)が向上する効果がある。
【0480】
3.11節 赤外光より波長の長い電磁波に対する部分的可干渉性の低減方法と応用例
図1A図1Cに記載された本実施形態システムでは、照射光(第1の光)12を対象体10内に照射し、そこから得られる検出光(第2の光)16を用いて対象体10内部の特性や状態を測定する。この対象体10内部では、照射光(第1の光)12(および検出光(第2の光)16)は多重の光散乱を繰り返す。そして照射光12または検出光16が部分的可干渉な光の場合には、第5章で後述するように検出光16に光学雑音が発生すると共に照射光12の対象体10内部への侵入距離(Penetration Length)が低下する。
【0481】
この現象は近赤外光や赤外光に限らず、それより波長の長い電磁波でも発生する。ところでレーダー(Radar:Radio Detection and Ranging)などで電磁波の指向性を高めるには、一般的に電磁波の波面(Wave Front)を平坦化する手法が用いられる。しかしこの手法では電磁波の可干渉性が増加するので、対象体10内部への侵入距離が低下する。(レーダーで単一周波数の電磁波使用時には、部分的可干渉性では無く可干渉性となる。)第5章で示す近赤外光を用いた実験データは、それより波長の長い電磁波でも同様な現象が発生する事を示唆している。一方で電磁波の部分的可干渉性(あるいは可干渉性)を低下させるようとして電磁波の波面を乱すと、指向性が大幅に低下する問題が発生する。
【0482】
本実施形態の応用例として、充分な指向性を確保しながら(部分的)可干渉性が低い電磁波を生成する方法を説明する。図55(a)の各電磁波発生源/受信部292は、(図示して無いが)電磁波の送受信用に共通なアンテナと電磁波発生用送信回路、電磁波の受信回路(検出回路)から構成されている。そして互いに異なる電磁波発生源/受信部292-1~-n(内のアンテナ)から出射した指向性を持つ電磁波290-1~-n(すなわち異なる進路を経由した電磁波)間を空間的に互いに重ねて、電磁波の混合を行う。そのために単独で指向性を持つ電磁波290を放射する独立した複数の電磁波発生源/受信部292を、互いに近接して配置し、放射方向を一致させる。すると電磁波発生源/受信部292-1~-nから充分離れた位置で、指向性を持つ混合電磁波294が作られる。
【0483】
上記指向性を持つ混合電磁波294の生成メカニズムを、以下に詳細に説明する。各電磁波発生源/受信部292-1~-nから放射された電磁波290-1~-nは、それぞれ指向性を持つ。しかし電磁波発生源/受信部292-1~-nから充分離れた位置では、電磁波290-1~-nはそれぞれ(進行方向に垂直な平面内で)空間的な広がりを持つ。従って複数の電磁波発生源/受信部292-1~-nを1次元方向または2次元方向に密集させて配列すると、充分遠方(図55(a)の右側)では広がりを持った各電磁波290-1~-n間で空間的に重なる。そしてこの重なり部分で電磁波290-1~-n間が混合されて、指向性を持つ混合電磁波294が生成される。ここで各電磁波290-1~-nは指向性を持つため、混合後でも指向性特性は変化しない。
【0484】
図10を用いて3.1節で説明したように、同一発光源70から放出された光の一部74に対して(B・44)式を満足するように光路長変化76させると、他の光の一部72との間に光干渉が発生しない。この光干渉の発生原因に付いて2.2節では、不確定性原理(Uncertainty Principle)を使って説明した。
【0485】
上記で説明した光(電磁波間の)干渉原因に基付くと、異なる電磁波発生源/受信部292-1~-nから放射された電磁波290-1~-n間では干渉が起きない。従って上記方法で生成された指向性を持つ混合電磁波294は、高い指向性を保つにも関わらず(部分的)可干渉性が低い((部分的)非可干渉性が高い)。この指向性を持つ混合電磁波294を使用すると第5章で後述するように、対象体10への侵入距離が増加する。そのため、対象体10内の特性や状態に関して深い領域まで測定可能となる効果が有る。さらに対象体10内での多重散乱光370間の干渉雑音が低下するので、精度の高い特性検出も可能となる。
【0486】
ところで上記応用例に限らず本3.11節内で説明する周波数領域の電磁波に関しても、3.1節から3.10節で説明した方法(異なる進路(光路)を経由した電磁波間を合成(混合)する、あるいは電磁波内の一部の光路長を変化させた後に合成(混合)する)を使用しても良い。
【0487】
電磁波発生源/受信部292-1~-nの内部は個別に、少なくとも1個のレーダーアンテナが設置されている。このレーダーアンテナ構造として例えば、八木アンテナ(Yagi Antenna)構造や1点から球状に放出される電磁波を半球状または楕円状、放物線形状の反射ミラーを用いて平行化する(パラボラアンテナ(Parabola Antenna))構造など任意の構造を使用しても良い。上記アンテナ構造に適した本実施形態で使用する電波の周波数帯は、低周波帯から中周波帯が含まれる。具体的には30kHz~300kHz範囲のLF波(Low Frequency Wave:長波)だけでなく、300kHz~3MHz範囲のMF波(Middle Frequency Wave:中波)、3MHz~30MHz範囲のHF波(High Frequency Wave:短波)30MHz~300MHz範囲のVHF波(Very High Frequency Wave:長波)を対象にしても良い。
【0488】
1本の導線に交流電流を流すと、周辺に電磁波が放出される。また電磁波がこの導線通過時に誘導電流が流れ、電磁波の検出ができる。従って電磁波発生用送信回路と電磁波の受信回路(検出回路)を接続すると、同一のレーダーアンテナが電磁波の発生源になると共に電磁波の受信部としても利用できる。
【0489】
次に電子レンジやレーダーに使用されるマイクロ波の放射が可能な電磁波(定在波)発生源292を使用した本実施形態の応用例を図55(b)に示す。電子レンジに使用される周波数は、国際規格で2.45GHz(波長は12.2cm)に統一されている。但しアメリカ合衆国内に限り、915MHz(波長は32.8cm)での使用が認められている。
【0490】
マグネトロン電磁波発生源296-1~-nから放出されたマイクロ波の指向性を高めるため、マイクロ波の出口に導波管形アンテナ298-1~-nが設置されている。この導波管形アンテナ298-1~-nの具体的な形状例は、直方体形または円柱形(あるいは角錐形や円錐形)の内部が空洞の筒で、この空洞内の内壁で反射を繰り返しながら指向性を高めたマイクロ波が外部に放射される。
【0491】
そしてこの導波管形アンテナ298-1~-nはマイクロ波の放射口になると共に、外部から侵入するマイクロ波に対する受信機(マイクロ波検出器)の一部としても使用できる。このように導波管形アンテナ298-1~-nをマイクロ波受信機として使用する場合には、(図示して無いが)導波管形アンテナ298-1~-n個々の一端にプリアンプ回路と信号処理用回路を接続しても良い。
【0492】
マグネトロン電磁波発生源296の内部は、強力な直流磁場中に設置された熱電子管構造をしても良い。管球(Vessel)の空洞中央に設置された陰極(Cathode)は、ヒーターで加熱される。そしてこの陰極から放出された熱電子(Thermoelectron)は、印可された電界(Electrical Field)の働きで陽極(Anode)に向かって真空中を移動する。この時に熱電子は、外部の直流磁場の影響でサイクロイド曲線(Cycloid Curve)を描きながら
マイクロ波を放出する。
【0493】
このマグネトロン電磁波発生源296の実用周波数範囲は、100MHzから200GHzと言われている。従って本実施形態例で呼ぶ“マイクロ波”とは、電波の範疇では高周波数帯側を示す広義的概念で使用する。すなわち狭義なマイクロ波で定義されている3GHz~30GHz範囲のSHF波(Super High Frequency Wave:狭義のマイクロ波))に限らず、さらに広い周波数範囲も含める。すなわち30MHz~300MHz範囲のVHF波や300MHz~3GHz範囲のUHF波(Ultra High Frequency Wave)、30GHz~300GHz範囲のEHF波(Extremely High Frequency Wave:ミリ波)も、“広義のマイクロ波周波数領域”に含める。
【0494】
導波管形アンテナ298-1~-nの外部に放射されたマイクロ波は、それぞれ指向性を持つ電磁波290-1~-nとなる。高い指向性を持つ電磁波290-1~-nでも図55(b)のように、導波管形アンテナ298-1~-nより遠方では進行方向に垂直面内で広がりを持つ。また図55(b)が示すようにマグネトロン電磁波発生源296と導波管形アンテナ298でそれぞれ構成される複数の組が、一方向または面方向に密に配置される。すると導波管形アンテナ298-1~-nより遠方では、指向性を持つ電磁波290-1~-n間で空間的に重なり合って互いに合成(混合)される。そのように合成(混合)されて生成された指向性を持つ混合電磁波294は、(部分的)可干渉性の低い電磁波となる。
【0495】
ところで空洞部の断面形状が長方形(または正方形)の導波管形アンテナ298-1~-nを2次元方向に配列したフェーズドアレイアンテナ(Phased Array Antenna)が知られている。これはマイクロ波の指向性を高めるため、全ての導波管形アンテナ298-1~-nから放射されたマイクロ波の波面を適正化する構造を持つ。このアンテナ使用時には、唯一のマグネトロン電磁波発生部296のみが使用される。そのためこのアンテナから放射されたマイクロ波の可干渉性は非常に高い。
【0496】
導波管形アンテナ298-1~-nの配置例は互いに類似しているが、フェーズドアレイアンテナと図55(b)に示す本実施形態の応用例では可干渉性を抑える効果が基本的に異なる。すなわち唯一のマグネトロン電磁波発生部296を使用して可干渉性の高いマイクロ波を生成する従来のフェーズドアレイアンテナでは、対象体10への侵入距離が短く検出信号へ混入する電磁波雑音が大きい。それに比べて互いに独立した複数のマグネトロン電磁波発生源296-1~-nを使用する本実施形態の応用例を使用すると、対象体10への侵入距離が長くなり、検出信号に混入する電磁波雑音を大幅に低減できる効果が有る。
【0497】
図55(a)あるいは(b)の方法で生成した“高い指向性を持ちながら低い(部分的)干渉性(高い(部分的)非可干渉性)を持つ混合電磁波294”の発生源を、今後は指向性電磁波発生/受信部362と呼ぶ。そしてこの指向性電磁波発生/受信部362の内部は、電磁波発生源/受信部292-1~-nあるいはマグネトロン電磁波発生部296-1~-nと導波管形アンテナ298-1~-nの組みが複数配列されている。またこの指向性電磁波発生/受信部362内には、外部からの電磁波(またはマイクロ波)の受信(検出)機能も備わっている。
【0498】
電子レンジで食物を暖めるのは、食物内の“水分”がマイクロ波のエネルギーを吸収して発熱する原理を利用している。電磁波のエネルギーを吸収するメカニズムは、使用する電磁波の波長帯により異なる。図27を用いて5.2節で後述するように可視光照射時には、分子を構成する“電子軌道の偏り”がエネルギーを吸収する。また近赤外光を照射すると、水素原子を含む官能基(Atomic Group)内の“グループ振動”でエネルギーを吸収する。さらに波長を長くした赤外光を照射すると、分子内の構成原子間が振動する。
【0499】
それよりも照射する電磁波の波長を長くすると、分子内の構成原子間振動では電磁波を吸収できず、“分子全体の回転や並進運動”でエネルギーを吸収する。ところでこの“分子全体の回転や並進運動”が起き易いのは“固体”では無く、“液体”である点が重要となる。つまりここで説明する周波数範囲内(30kHzから300GHzまでの範囲、あるいは30MHzから300GHzまでの範囲)の電磁波を最も吸収するのは、(固体より)“液体”状態の水分子と言える。すなわち上記の周波数の電磁波のエネルギーは、固体よりも水分子の方が遙かに吸収する。
【0500】
水自体の誘電損失(Dielectric Loss)により電磁波エネルギーの吸収が最も大きくなる周波数は、20GHzから80GHzの範囲(最大周波数は温度により変化する)と言われている。しかし電磁波の周波数を大きく変えても“水の電磁波エネルギー吸収効率”は余り変わらない。そのため電子レンジで使われる電磁波の周波数を2.45GHz(または915MHz)にしても、充分な水分子の吸収が起こり、(食品の)加熱が可能となる。さらに周波数が30MHz(あるいは3MHz)から300GHzまでの範囲の電磁波でも、同様の理由から水分子のエネルギー吸収と発熱が可能となる。
【0501】
本実施形態での応用例では、上記現象を『水源や金属鉱床(Metalliferous Deposit)386の探索』に利用しても良い。具体的には指向性を持つ混合電磁波294を探索場所に照射する。そして測定領域毎の混合電磁波294との相互作用の度合いを比較する。
【0502】
もし探索場所に水源386が有れば、その水源386が混合電磁波294のエネルギーを吸収する。水源386では電磁波(マイクロ波)の吸収が大きいため、水源386内での電磁波の反射量(後方散乱量)が相対的に減少する。指向性電磁波発生/受信部362で電磁波の反射量(後方散乱量)変化を調べると、水源386内での電磁波反射量(後方散乱量)低下が分かる。また電磁波(マイクロ波)のエネルギーを吸収すると、水源386内の温度が上昇する。この温度上昇を調べても、水源386位置の探索が行える。
【0503】
また金属鉱床386での電磁波の反射(散乱)量は、他の領域より大きくなる。従って他の領域と比べて電磁波の反射(散乱)量が多い領域は、金属鉱床386が存在する可能性を示唆する。
【0504】
近年、月面に水が存在する事が分かって来た。太陽電池パネル384で太陽光から得た電気で月面の水を電気分解し、酸素分子と水素分子が得られる。その酸素分子と水素分子からロケット燃料が作れる。さらに酸素分子を利用すれば、月面で生物が生息可能となる。また月面内部に埋蔵されている金属鉱床から各種金属を抽出できれば、月面上の建造物や移動体、他惑星へ向かうロケットなどの製造物の材料として使える。
【0505】
以下では応用例適応の一例として、月面内の資源探索方法を説明する。しかしそれに限らず下記の方法を利用して、地球内部の資源探索や地球外地域(例えば小惑星や惑星、衛星)での資源探索を行っても良い。
【0506】
この月面上の水源または金属鉱床386の位置探索(あるいは月以外の地球外地域での資源探索)に使用できる水源/金属鉱床探索装置の構造例を、図56に示す。戦車と同様のキャタピラ(Caterpillar Tread)372が、月面表面と直接接触する。そして移動用車輪374が回転してキャタピラを動かして、水源/金属鉱床探索装置が月面表面上を移動する。
【0507】
図56の中央部は、水源/金属鉱床探索装置の内部配置を示している。図55で示した内部構造を持った指向性電磁波発生/受信部362は、下方(すなわち月面の地下内部あるいは月以外の地球外地域の中心部)に向かって指向性を持つ混合電磁波294を放射し、下方(すなわち月面の地下内部あるいは月以外の地球外地域の中心部)で反射(後方散乱)されて戻って来る混合電磁波を受信(検出)するように配置されている。
【0508】
またこの指向性電磁波発生/受信部362は、電磁波発生/受信部の回転機構364内に収納されて任意の方向に傾斜できる構造となっている。そして電磁波発生/受信部の回転駆動部366の回転に合わせて、電磁波発生/受信部の回転機構364全体が任意方向にわずかに回転する。この機構を利用して、指向性を持つ混合電磁波294を月面の地下内部の任意方向に放射できる。また同様に、月面の地下内部の任意方向から散乱または反射されて戻って来る混合電磁波294を受信(検出)できる。
【0509】
なお図56が示すように、水源/金属鉱床探索装置の内部には、遠赤外線分光器376と赤外線分光器376も搭載されている。ここで遠赤外線分光器376自体は光源を持たず、月面の地下から放射される遠赤外光の分光特性(分光スペクトル)が測定できる構造となっている。一方で赤外線分光器378内には、独自の赤外線発光源が存在する。この発光源から放射された赤外光は、月面表面または月面表面近傍の空中に向けて照射される。そして月面表面または月面表面近傍の空中での反射光または散乱光の分光特性(分光スペクトル)を調べる。
【0510】
水源/金属鉱床探索装置の上面に設置された太陽電池パネル384内で発生される電力はバッテリ388内に蓄えられ、夜間の活動を可能にしている。また通信制御部394はアンテナ396を経由した外部機器との無線通信の制御を行う。そして探索装置内制御系398は、これら各部の動作を統合的に制御・管理する。
【0511】
図57は、この水源/金属鉱床探索装置を用いた月面内部の水源や金属鉱床の位置探索(あるいは月以外の地球外地域での資源探索)方法例を示す。ここで1台のみの水源/金属鉱床探索装置を用いた水源位置探索方法例を、図57(a)に示す。そして複数台の水源/金属鉱床探索装置を用いた水源位置探索方法例は、図57(b)で記載する。本実施形態の応用例では、最初に図57(a)の簡易的な方法を用いて水源または金属鉱床386の埋蔵可能性を探り、次に可能性の有る領域に対して図57(b)の方法で詳細に調査しても良い。
【0512】
図57(a)の簡易的な探索では指向性電磁波発生/受信部362から、水源/金属鉱床探索装置の直下に向けて指向性を持つ混合電磁波294を放射する。放射された指向性を持つ混合電磁波294は地表392の内部の至る所で反射(後方散乱)して、指向性電磁波発生/受信部362に戻ってくる。ここで混合電磁波294の反射(後方散乱)位置に応じて、混合電磁波294の放射直後から指向性電磁波発生/受信部362に戻るまでの時間が異なる。従って短期間にパルス状に指向性を持つ混合電磁波294を放射し、指向性電磁波発生/受信部362に戻る混合電磁波294に対する放射直後からの検出強度変化を測定する。このように放射直後からの時間変化を測定すると、地表392以下の深さ方向の情報が有る程度予想できる。
【0513】
図26(b)を用いて5.1節で説明するように、実際には多重散乱された電磁波294の影響を受けて深さ方向の検出精度が大幅に低下する。さらにこの多重散乱光380(電磁波)と測定対象とする後方散乱光390(電磁波)間で干渉が発生すると、さらに検出精度が落ちる。しかし本実施形態の応用例では指向性を持つ混合電磁波294の可干渉性を大幅に低下させている(非可干渉性を飛躍的に向上させている)ので、多重散乱光380(電磁波)と後方散乱光390(電磁波)間の干渉が発生しない。そのため探索精度が向上する効果が生まれる。
【0514】
このようにして探索した場合、金属鉱床386が存在する領域からの混合電磁波294の反射量(後方散乱量)は大きい。従って混合電磁波294の放射直後からの検出強度が大幅に増加する領域には、金属鉱床386が存在する可能性がある。
【0515】
片や水源386が存在する領域では大きな混合電磁波294の吸収が起きる。そのため、その領域からの混合電磁波294の反射量(後方散乱量)が大幅に低下される。
【0516】
ところで水源386だけで無く、空洞が存在する領域からも混合電磁波294の反射量(後方散乱量)が大幅に低下する。この場合の水源386と空洞領域間の見分け方は、それより深い位置からの反射量(後方散乱量)を比較すれば分かる。すなわち水源386で多量に混合電磁波294のエネルギーが吸収された場合は、それより深い位置からの混合電磁波294の反射量(後方散乱量)は小さい。一方で空洞領域内では混合電磁波294のエネルギー吸収が無いので、それより深い位置からの混合電磁波294の反射量(後方散乱量)は大きい。
【0517】
混合電磁波294の反射量(後方散乱量)変化検出だけでなく、他の物理パラメータも併用すると探索精度が向上する。混合電磁波294を水源または金属鉱床386内部に照射すると、水源または金属鉱床386の表面部でエネルギーを吸収して局所的に温度が上昇する。この温度上昇を検出して、水源または金属鉱床386位置の検出精度を上げても良い。
【0518】
あらゆる物質からは、その温度に応じた波長光を輻射する。黒体輻射光の最大強度位置での波長と温度の関係例として、0℃では10.3μmで50℃では8.05μm、100℃では7.75μmとなっている。従って水源または金属鉱床386あるいはこの周辺から放出される黒体輻射光の分光特性を、遠赤外線分光器376で測定しても良い。
【0519】
また遠赤外光382を直接観測する変わりに、水源または金属鉱床386で発生した熱382の伝導を利用して地表392付近での温度変化を測定しても良い。
【0520】
月面地表392の温度は、昼は100℃以上、夜は零下150℃以下になる。従って夜間(零下150℃以下)に温度変化測定を行うと、高い測定精度が得られる。
【0521】
図55(b)を使って説明したように、マグネトロン電磁波発生源296内の陰極がヒーターで加熱されて熱電子が放出される。従って指向性電磁波発生/受信部362作動時の発熱が、上記の温度変化に悪影響を及ぼす。その悪影響を除去するためにも、図57(b)のように複数台の水源/金属鉱床探索装置を組み合わせても良い。
【0522】
すなわち上記温度変化を測定する場合には、1台の水源/金属鉱床探索装置内の指向性電磁波発生/受信部362を作動させて水源または金属鉱床386に指向性を持つ混合電磁波294を照射し、もう一方の発熱の無い水源/金属鉱床探索装置で温度変化を測定する。
【0523】
またそれに限らず図57(b)に示すように、複数の指向性電磁波発生/受信部362-1、-2から同時に指向性を持つ複合電磁波294-1、-2を照射してもよい。そして複数の指向性電磁波発生/受信部362-1、-2で複合電磁波294の検出(受信)を行う。これにより、内部で多重散乱された電磁波294の影響を低減できる効果が有る。
【0524】
また異なる位置に配置された複数の指向性電磁波発生/受信部362-1、-2から同時に指向性を持つ複合電磁波294-1、-2を照射すると、所定箇所のみに複合電磁波294-1、-2のエネルギーが集中する。この集中エネルギーを利用して、水源386内の一部の温度を100℃以上に上昇させても良い。100℃以上に上昇した水源386内の一部は沸騰して拡散を開始する。月面の昼間(100℃以上)に拡散した水蒸気368の一部は、地表392の外に放出される。この放出された水蒸気368を赤外線分光器378(図56)で観測できれば、上記のエネルギー集中領域に水源386が存在すると、確証できる。
【0525】
ところで水分子は、中心波長が2.73μmと2.66μm、6.27μmの近傍で赤外光を強く吸収する。従って赤外線分光器378得られた吸光特性内で、上記波長帯で共通に光吸収が発生した場合には、水蒸気368が地表392に放出されたと推定できる。
【0526】
今まで説明した一連の探索手順を、図58に示す。水源または金属鉱床386の存在場所探索を開始(S101)すると、S102に示すように水源/金属鉱床探索装置が探索対象地域(例えば月面の地表392や地球外地域(衛生、小惑星、惑星など))内の移動を開始する。最初の探索位置では図57(a)のように、地表392から地下(月面や衛星、小惑、惑星などの中心部)へ向けて指向性を持つ混合電磁波294を放射する。放射した指向性を持つ混合電磁波294を利用した水源または金属鉱床386の探索方法として、内部で反射(後方散乱)されて戻ってくる混合電磁波294を検出しても良い。それと同時に遠赤外分光器376を用いて、水源または金属鉱床386内部(またはその表面近傍)で発生する熱(遠赤外光)382の特性変化を検出しても良い。
【0527】
その結果として、最初の探索位置での水源または金属鉱床386存在の可能性が有るか?を判定する(S104)。仮にその可能性が無い場合(S104のNo)には、別の探索位置に移動する(S102)。
【0528】
このようにして最初のステップでは、水源または金属鉱床386が存在する可能性のある領域のマッピングを行う。そして次のステップで、可能性のある領域(S104のYes)に対して探索精度を高める。
【0529】
次のステップでは図57(b)のように、複数の水源/金属鉱床探索装置を動員して多角的調査を開始する。その一例としてS105が示すように、水源または金属鉱床386の候補場所に対して多方向から同時に指向性を持つ混合電磁波294を照射する。そしてそこから得られる混合電磁波294を検出(受信)する。またそれと平行して、遠赤外線分光器376を使用して対象領域から発生する熱(や遠赤外光)382の測定を行っても良い。
【0530】
この精度の高い調査結果、対象となる水源または金属鉱床386の候補が誤りだった場合(S106のNo)には、別のマッピング場所に移動する(S105)。
【0531】
一方で水源または金属鉱床386の可能性が高くなった領域(S106のYes)では、S107のさらなる確証調査を行っても良い。ここでは多方向から一箇所に指向性を持つ混合電磁波294-1、-2を集中させて、水源または金属鉱床386の温度をさらに上昇させる。そして地表392付近を拡散して地表392表面上に放出された水蒸気368を、赤外線分光器378を用いて検出しても良い。
【0532】
このように探索終了(S108のYes)まで、水源/金属鉱床探索装置が地表392上を移動し続ける。
【0533】
部分的可干渉性を低下させた電磁波(指向性を持つ混合電磁波294)の生成方法を図55で示した。この電磁波294の応用分野例として、図56図58を用いた資源探索方法を説明した。ここで図56の水源/金属鉱床探索装置は、地表392を走行する形態を取っている。
【0534】
しかしこれに限らず、地表392の上空から指向性を持つ混合電磁波294を放射しても良い。この地表392の上空からの放射方法として例えば、ヘリコプターや飛行機、人工衛星などに指向性電磁波発生/受信部362を搭載しても良い。あるいは地表392より下部の地下に指向性電磁波発生/受信部362を配置し、定期的な変化の測定に利用しても良い。
【0535】
さらに図57図58に示した方法(の一部)を、地球の資源探索に使用しても良い。特に地球の資源探索に本実施形態の応用例を使用する場合には、金属鉱床探索に特化しても良い。
【0536】
3.12節 光の部分的可干渉性の制御方法に関する簡易的説明
3.11節(前節)までは光の部分的可干渉性の制御方法に関して、数式を多用した定量的説明に注力した。その結果として有る程度の理論的厳密性を確保できた反面、内容が難解となった傾向がある。上記弊害を解消するため本3.12節では、本実施形態における“光の部分的可干渉性の制御方法”を簡易的かつ直感的に解説する。従って本3.12節での理論的厳密性は、若干緩くなる。
【0537】
図59(a)を用いて、従来の部分的可干渉性を持つ光での干渉現象を定性的に示す。発光源70(例えばタングステン・フィラメント50)から放射された光は、比較的平坦な波面(等位相面)106を持って直進する。この光が“片面が微細凹凸構造を有する透明平板”104を透過すると、連続して広がる波面(Cotinually Extended Wave Front)106内の歪みが生じる。
【0538】
光は波面106に垂直な方向に進行するため、上記の波面106の歪みに対応して光の進行方向が曲がる。その結果として、直進光の光量が低下する。図59(a)の中抜け太矢印は、放射光の進行方向を示す。この“片面が微細凹凸構造を有する透明平板”104の影響で光が“干渉”する結果、1)図59(a)の右側に示すように、中抜け太矢印方向に進む光の強度が増加し、2)直進光の光量が低下する。
【0539】
本実施形態での技術的工夫の結果得られた、部分的干渉性が低下した非可干渉性の光を、図59(b)に示す。図59(a)と同様に発光源70(例えばタングステン・フィラメント50)から放射された直後の光は、比較的平坦な連続して広がる波面(Cotinually Extended Wave Front)106を持って直進する。
【0540】
この光は図8A図8bと同様に、複数光路生成用光学特性変更部材101と光合成(混合)部102を通過する。すると連続して広がる波面106が、『細かく分断』される。しかし複数光路生成用光学特性変更部材101と光合成(混合)部102を通過しても、波長は変化しない。そのため光の進行方向に沿った等位相面間隔(波面間隔(Wave Front Interval))は、不変に保たれる。
【0541】
この光の波面106は細かく分断されているので、“片面が微細凹凸構造を有する透明平板”104を通過しても、連続して広がる波面106特有の歪みは生じない。従って細かく分断された波面106毎の傾きが生じないので、干渉を受けずにそのまま直進する。
【0542】
ここで説明した『連続して広がる波面106を細かく分断』する方法に、本実施形態における大きな技術的新規性と技術的進歩性が含まれる。なぜなら『連続して広がる波面106の一部を単に空間的に分離』しても、部分的可干渉性の低減にはならない。
【0543】
すなわち2.5節内の(B・22)式の導入時に説明したように、“波面106の一部を空間的に分離”した位置より少し離れた後方位置で『分離された波面を基にした光の合成』が起きる。ここで生成された合成光は、当初の部分的可干渉性が引き継がれる。
【0544】
図60を用いて、本実施形態における光の部分的可干渉性の制御方法の簡易的解説をする。発光源70(例えばタングステン・フィラメント50)から放射された直後の光は、比較的平坦な連続して広がる波面106を持って直進する。この連続して広がる波面106は、発光源70から『同時』に放射された光が集まって生成する。
【0545】
複数光路生成用光学特性変更部材101と光合成(混合)部102内部の機能に関する分かり易いイメージを、図60で示す。図60はあくまで、分かり易いイメージを明示しているに過ぎない。具体的な技術内容は、3.11節以前に説明している。
【0546】
連続して広がる波面106が通過する光路の一部に、透明な平行平板114を配置する。透明な平行平板114内の屈折率をnとすると、その内部を通過する光の速度は“1/n”だけ遅くなる。その結果として周辺とは『放射時刻の異なる』光107が、透明な平行平板114の外に出る。その後、この『放射時刻の異なる』光107が、連続して広がる波面106内の残りの部分と混合される。
【0547】
図60のイメージ図と図8A図8Bとの対応を説明する。光路の一部に透明な平行平板114を配置すると、透明な平行平板114内外を通過する光間で光路201~208の違いが発生する。透明な平行平板114通過後の光の進行方向は不変に保たれるので、透明な平行平板114の後方で混合光78が生成される。
【0548】
また図10との対応を考えた時には、透明な平行平板114内を通過する光(光の一部74)と外を通過する光(光の一部72)間で光路長変化76が発生している。
【0549】
なお図60のイメージ図として、連続して広がる波面106の一部を分割する“波面分割方法”の例を記載している。しかし波面分割に限らず、任意の方法で異なる光路201~208の生成または光路長変化76の生成を行っても良い。
【0550】
『連続して広がる波面106を細かく分断』するには、発光源70から『同時』に放射する時刻と『異なる放射時刻』の光107を放射した時刻との間の放射時刻差が重要となる。すなわちこの両者の時刻差Δtが(B・2)式(2.2節)から外れた条件を満たす時に、『分断』が行える。また(B・2)式に関連して、可干渉距離の条件式((B・6)式または(B・12)式)が与えられる。
【0551】
(B・2)式に拠ると、周波数幅Δνが短いとΔtが極端に長くなる。例えば照射光12の光量を極端に下げ、1個ずつの光子(Photon)を時系列的に対象体10に照射するフォトンカウンティング(Photon Counting)の実験手法がある。1個ずつの光子を放射する時刻は互いに異なるが、全光子の到達場所を積算したパターン内に干渉縞が観測される。
【0552】
この実験に使用する1個ずつの光子のエネルギー幅(周波数幅Δν)が非常に狭いため、1個ずつの光子を放射する時刻間のずれΔtが(B・2)式を満足する。従ってこの場合には、『波面106の分断』には当てはまらない。
【0553】
生体内部の3次元パターン観測技術として、OCT(Optical Computerized Tomograpy)の技術が知られている。これは可干渉性の光の光路を振幅2分割し、1方の光のみを対象体10に照射させる。また他方の光は参照光として利用する。検出部6内部で、対象体10から得られた検出光16と参照光を干渉させる。対象体10から得られた検出光16と参照光との間の光路長差が可干渉距離を越えた時の非干渉性を利用して、測定対象位置以外からの信号ノイズ成分を除去している。
【0554】
上記のOCT技術と本実施形態との違いと本実施形態の効果を下記に纏める。
A〕OCTでは、可干渉光を対象体10内部に照射する
図26(b)を用いて5.1節で後述するように、対象体10内部では可干渉光の後方散乱光390と多重散乱光380間で干渉する。この干渉の影響で光学雑音の多い検出イメージしか得られない。それと比べて本実施形態では、部分的可干渉性の低い“混合光78”を対象体10に照射する。その結果として図61図63を用いて第5章で後述するように、精度の高い検出信号が得られる。
B〕OCTでは、光路長差を持った検出光16と参照光との合成を検出部6で行う
図26(a)と図61を用いて第5章で後述するように、可干渉光の直進光360と対象体10内部で発生する多重散乱光370との間で干渉する。そのため対象体10内部に侵入する可干渉光の侵入距離(Penetration Length)が短くなる。一方で本実施形態では、部分的可干渉性の低い“混合光78”を対象体10に照射する。そのため図61に示すように、侵入距離が増加する。
C〕OCTでは、対象体10表面の凹凸形状変化に対する補正をしない
… 一方で波面が平坦なままの参照光を利用する。従って対象体10表面の凹凸形状変化に応じて、検出イメージを得る場所の深さ方向の位置ずれが発生する。それに対して本実施形態例では第6章で後述するように、対象体10表面の凹凸形状変化や内部の屈折率変化を補正する機能を有している。そのため対象体10内部での正確な深さ方向設定が可能である。
【0555】
第4章 可干渉光と部分的非可干渉光の混合/分離方法
(Chapter 4] Mixture and Separation between Normal and Partially Incoherent Light)
第3章では、対象体10の特性/検出測定に用いる照射光12または検出光16の部分的可干渉性を減少させて部分的非可干渉性を増加させる方法を説明した。しかし例えばOCT(Optical Computerized Tomography)の測定には、可干渉光が必須となる。また第6章で後述する波面収差の測定も、可干渉光を用いると検出精度が上がる。第4章では可干渉光と部分的非可干渉光の両方を用いた測定装置を説明する。
【0556】
4.1節 可干渉光と部分的非可干渉光の両方を用いた測定装置内の構造例
レーザー光源などの可干渉光の光源部322と、部分的非可干渉光の光源部302の両方を持つ測定装置の実施形態例を図25に示す。なお図25内の矢印は、光の光路と進行方向を示す。
【0557】
ここで対象体10より上側の光学配置は、図1C(c)の光学配置に類似する。そして図1C(c)の光源部2が、図25の最上部の右側の部分的非可干渉光の光源部302、可干渉光の光源部322、および光混合部(Light Combiner Section)340から構成される領域に対応する。ここで部分的非可干渉光の光源部302の具体的構造は、第1章と第3章で説明した光源部2内の構造に相当する。この部分的非可干渉光の光源部302と可干渉光の光源部322から放出された光は、光混合部340(具体的な混合方法は、4.2節で後述する)で混合される。
【0558】
上記光混合部340で混合された可干渉光と部分的非可干渉光は共に、参照光生成部320内で参照光を抽出される。この参照光は可干渉光部分と部分的非可干渉光部分が別々に、部分的非可干渉性の反射光に対する波面収差特性検出部306、および部分的非可干渉性の透過光に対する波面収差特性検出部316、可干渉性の反射光に対する波面収差特性検出部326、可干渉性の透過光に対する波面収差特性検出部336内での波面収差特性検出に利用される。そして参照光生成部320内で非参照光となった残りの光は、照射光と検出光間の光路分離部310に送られる。
【0559】
対象体10より上部左側の光分離部312以降の全光路が、図1C(c)の検出部6に対応する。また図25の対象体10より下側の全ての光学系が、図1C(a)の検出部4に対応する。
【0560】
また照射光と検出光間の光路分離部(Optical Path Separation Section)310では、照射光12と対象体10で反射して得られる検出光16との間の光路を分離する。この光路分離方法の一例として、図1C(c)のビームスプリッタ20を使用しても良い。さらに対象体10より下側が、図1C(a)の検出部4に対応する。
【0561】
図25では、対物レンズ308で照射光12を対象体10内で集光させ、この集光点を通過した光を対物レンズ318で集めての良い。従って例えば図1C(a)または(c)のように、照射光12を対象体10内のα点(またはα領域)やγ点(γ領域)に集光させる場合を考える。6.1節で後述するように、照射光12が対象体10内のα点(またはα領域)やγ点(γ領域)に到達する光路途中で波面収差(Wave Front Aberration)
が発生する。その結果として、α点(またはα領域)やγ点(γ領域)では検出光12が集光されず、集光点がぼやける。このα点(またはα領域)やγ点(γ領域)に到達するまでの波面収差量を事前に予測し、前記とは反対の波面収差を対象体10に入る前の照射光12に加えておく。それにより対象体10内部で発生する波面収差特性が相殺され、対象体10内のα点(またはα領域)やγ点(γ領域)に照射光12が集光できる。
【0562】
また対象体10内のα領域を出発して対象体10の外に出た検出光16の中に発生する波面収差特性に対しても、検出部6内の光路途中で反対の波面収差特性を検出光16に加える。それにより、光検出器80(図8B)の検出面上に良好な結像パターンが得られる。
【0563】
上記のように光源部2内部で補正すべき波面収差特性を照射光12に事前に与える処理と、対象体10から得られる検出光16内の波面収差特性を補正する処理を波面収差補正(Compensation of Wave Front Aberration)と呼ぶ。
【0564】
図25の実施形態例では、対象体10に対する反射光と透過光別々に波面収差特性を測定し、照射光12と検出光16それぞれに波面収差補正を行っている。また波面収差補正の精度を上げるため、粗動(Course)と微動(Fine)の2段階に分けて波面収差補正を行う。ここで照射光の波面収差粗動補正部352と透過光の波面収差補正粗動補正部358で、粗動の波面収差補正を行う。また照射光の波面収差微動補正部354と透過光の波面収差補正微動補正部356で、微動の波面収差補正を行う。
【0565】
すなわち照射光の波面収差補正には、照射光の波面収差粗動補正部352を利用しておおよその波面収差補正を行う。そしてそこで残った波面収差残量に対して、照射光の波面収差微動補正部354で細かな波面収差を補正する。
【0566】
また対象体10の透過後に得られる検出光16の波面収差補正には、検出光の波面収差粗動補正部356を利用しておおよその波面収差補正を行う。そしてそこで残った波面収差残量に対して、検出光の波面収差微動補正部358で細かな波面収差を補正する。
【0567】
対象体10からの透過光(対象体10から下側の光路)に対しては、独自に波面収差補正を行う。そのため対物レンズ318通過直後の検出光16に対して、透過光の波面収差補正粗動補正部358と透過光の波面収差補正微動補正部356をこの順で配置する。
【0568】
一方で対象体10からの反射光(対象体10から上側の光路)に関しては、照射光12の光路と検出光16の光路が一致する。従って対象体10内部を通過する時に照射光12内に発生する波面収差特性と、対象体10内部のγ点(γ領域)から反射して戻って来る検出光16内に発生する波面収差特性は一致する。
【0569】
従って反射光を用いる対象体10から上側の光路では、光源部2に対する波面収差補正と検出部4、6に対する波面収差補正を共通化する。図25の実施形態例では、照射光と検出光間の光路分離部310と対物レンズ308との間に、照射光の波面収差粗動補正部352と照射光の波面収差微動補正部354をこの順に配置している。
【0570】
上記の波面収差補正を実行するためには、対象体10内で実際に発生する波面収差特性を検出する必要が有る。この特性を、各波面収差特性検出部306、316、326、336内で検出/測定する。
【0571】
これらの検出部では波面収差が発生する前の理想状態の光と波面収差が含まれた光との間の特性を比較し、その差分特性を波面収差特性として検出する。すなわち光混合部340で得た混合光を用い、参照光生成部320内で波面収差発生前の思想状態の波面特性を生成する。そして各波面収差特性検出部306、316、326、336内では、そこに入力する波面収差が含まれた検出光と参照光生成部320で得られる参照光との間を比較し、両者の差分特性を検出すべき波面収差特性と見なす。
【0572】
特に本実施形態例では、部分的非可干渉光で得られる波面収差特性を利用して上記粗動補正部352,356での波面収差補正を行う。そしてさらに可干渉光で得られる波面収差特性を利用して、上記微動補正部354,358での波面収差補正を行う。
【0573】
すなわち部分的非可干渉性の反射光に対する波面収差特性検出器306の検出/測定結果を、照射光の波面収差粗動補正部352にフィードバックする。また部分的非可干渉性の透過光に対する波面収差特性検出器316の検出/測定結果を、透過光の波面収差粗動補正部356にフィードバックする。
【0574】
それと同時に並行して、可干渉性の反射光に対する波面収差特性検出器326の検出/測定結果を、照射光の波面収差微動補正部354にフィードバックする。そして可干渉性の透過光に対する波面収差特性検出器326の検出/測定結果を、透過光の波面収差微動補正部358にフィードバックする。
【0575】
第6章で説明するように、部分的非可干渉光を用いて波面収差特性を検出した場合には、検出精度は低い代わりに検出範囲(ダイナミックレンジ)が非常に広い。一方で可干渉光を用いて波面収差特性を検出した場合には、検出精度は高いが検出範囲(ダイナミックレンジ)が非常に狭い。図25に示す測定装置例では両者を併用して両者の利点を効率良く引き出している。
【0576】
前述した光混合部340で混合した可干渉光と部分的非可干渉光は、光分離部(Light Separator Section)312、332で互いに分離される。ここで分離されたそれぞれの光は、おのおの光分離部(Light Divider Section)342、344、346、368で分割される。
【0577】
ここで分割された光は別々に信号検出と波面収差特性の検出に利用される。つまり部分的非可干渉性の反射光に対する信号検出部304、部分的非可干渉性の透過光に対する信号検出部314、可干渉性の反射光に対する信号検出部324、と可干渉性の透過光に対する信号検出部334で信号検出が行われる。
【0578】
また部分的非可干渉性の反射光に対する波面収差特性検出部306、部分的非可干渉性の透過光に対する波面収差特性検出部316、可干渉性の反射光に対する波面収差特性検出部326、と可干渉性の透過光に対する波面収差特性検出部336で波面収差特性の検出がなされる。
【0579】
4.2節 可干渉光と部分的非可干渉光の混合と分離方法
図25の可干渉光の光源部322から放出された可干渉光と部分的非可干渉光の光源部302から出た部分的非可干渉光との間の、混合と分離方法を本4.2節で説明する。
【0580】
本実施形態例では、
A〕(電場の)振動面の直交性を利用(偏光ビームスプリッタ使用)と
B〕使用波長範囲の分離を利用(反射/透過に波長依存性を持つ光学素子使用)の少なくともいずれかを採用するが、両者を併用しても良い。
【0581】
“A〕振動面の直交性”を利用する方法に付いて、最初に説明する。図示してないが、図25の可干渉光の光源部322の光出口と部分的非可干渉光の光源部302の光出口に検光子(特定の振動面を持つ光のみを透過/反射させる特性を持った光学素子)を配置する。そして可干渉光と部分的非可干渉光間の(電場の)振動面が直交するように設定する。
【0582】
この場合には光混合部340内に偏光ビームスプリッタを配置し、可干渉光と部分的非可干渉光を混合しても良い。また光分離部312、332内にも同様に偏光ビームスプリッタを配置し、可干渉光と部分的非可干渉光の振動面の直交性を利用して両者を分離する。
【0583】
次に“B〕波長特性の違いで分離”する方法を説明する。この場合には光混合部340と光分離部312、332内に“特定波長範囲内の光のみを透過(または反射)”し、“他の波長光を反射(または透過)”する特性を持った光学素子(バンドパスフィルタ)を配置する。そして可干渉光と部分的非可干渉光で使用波長を変化させて、両者の混合と分離を行う。
【0584】
特許文献3に記載される“中心に炭素原子または窒素原子が配置された官能基の吸収波長変化”を検出する場合、部分的非可干渉光を用いて第1倍音もしくは第2倍音、第3倍音の伸縮振動(Stretching)に帰属した吸収波長の変化(吸収帯の中心波長変化)を検出するのが望ましい。この場合には、上記の波長域を外した波長を持った可干渉光を利用すると良い。
【0585】
2.6節で説明した近赤外光の波長範囲内には、上記伸縮振動の第n倍音に帰属する吸収帯の他に結合音に帰属する吸収帯が存在する。これら吸収帯の帰属を同定する場合、比較的容易に伸縮振動の第n倍音に帰属する吸収帯の同定は行える。それに比べて複雑な要因の組み合わせで結合音が構成される。そのため構成要因まで含めた結合音の帰属推定は難しい。従って本実施形態の光学的検出方法やイメージング方法には、主に伸縮振動の第n倍音に帰属する吸収帯波長を検出/測定対象に選択している。
【0586】
この場合の第1倍音に対応した吸収帯の下限波長値は1440nmであり、第2倍音に対応した上限波長値は1210nm、下限波長値は970nmとなる。また第3倍音に対応した上限波長値は920nmとなる。従って可干渉光の波長としては、930nm~960nmの範囲内または1260nm~1390nmの範囲内が望ましい。
【0587】
上記数値に関する実験的根拠を図23Bに示す。波長1.213μm周辺の吸収帯は、中心に炭素原子が配置されたメチレン基(Methylene Group)に拠る逆対称伸縮振動(Asymmetric Stretching)の第2倍音に帰属すると予想される。そして中心に窒素原子が配置された官能基に関する第2倍音の吸収帯波長は、もう少し小さな値を取る。
【0588】
図23Bの1.35μm~1.50μm波長域内の吸収帯は、メチレン基の結合音に帰属すると予想される。可干渉光が使用可能な波長域1260nm~1390nm内の一部に、上記の結合音に帰属する吸収帯が含まれる。本実施形態の光学的検出方法またはイメージング方法には、結合音に帰属する吸収帯の波長変化を対象から外しても良い事を意味している。
【0589】
第5章 測定対象体内部での光との相互作用
対象体10(図1A図1C)内部で生じる、光との相互作用に付いて説明する。
【0590】
5.1節 対象体内部で発生する光散乱と光吸収および多重散乱の影響
対象体10が無機化合物あるいは生体を含む高分子化合物を含む場合には、対象体10の内部で光散乱と光吸収が発生する。
【0591】
量子力学的解釈に沿って、対象体10内部での光散乱と光吸収の発生原因を説明する。対象体10の内部の局所的な電気双極子モーメント(Electric Dipole Moment)箇所を光(電磁波)が通過すると、光吸収により電気双極子モーメントの振動モードが基底状態(Ground State)から励起状態(Excited State)へ遷移する(transit)。
【0592】
量子力学的誘導放出(Induced Emission described in Quantum Mechanics)の原理に従い、励起状態の一部は基底状態に戻る。この時に発生する光が、散乱光(Scattered Light)となる。一方で励起状態のエネルギーが内部の格子振動(原子間振動)(Lattice Vibration(Atomic Vibration))に変換されると、光吸収(Light Absorption)なる。
【0593】
入射方向に近い方向に散乱光が散乱される場合を前方散乱(Forward Scattering)と呼ばれる。また入射方向とは反対側に散乱される場合を後方散乱(Back Scattering)、側方への散乱を側方散乱(Side Scattering)とそれぞれ呼ばれる。そして対象体10内部で複数回散乱される光を多重散乱光(Multi-Scattered Light)と言う。
【0594】
対象体10内部で発生する多重散乱光が、信号検出特性(分光特性検出も含む)やイメージング特性に悪影響を及ぼす。この状況を、図26(a)を用いて説明する。ここでは照射光12として、部分的可干渉光を使用した場合を考える。
【0595】
図26(a)で示す対象体10の透過光には、直進光360が含まれる。またそれだけでなく、対象体10内で複数回散乱を受けた多重散乱光370も存在する。この中で直進光360と同じ方向に進む多重散乱光370は、直進光360と干渉を起こす。この干渉の結果として、直進する光量の合計値が減少する場合も有る。
【0596】
上記の現象を図23Bが現していると考えられる。#1200が最も部分的可干渉性が高く(部分的非可干渉性が低く)、#400が最も部分的可干渉性が低い(部分的非可干渉性が高い)。1.25μmから1.35μmの波長域で代表されるベースラインの吸光度を比較すると、#1200が最も吸光度が高い(直進透過光の光量合計値が小さくなる)。この直進透過光の光量合計値低下の原因に、部分的可干渉性の多重散乱光の影響が有ると考えている。
【0597】
上記多重散乱光の影響が反射方向でも発生する状況を、図26(b)に示す。対象体10内部で1回だけ後方散乱を受け、反射方向に戻る後方散乱光390が存在する。また同時に、対象体10内で複数回散乱を受けて反射方向に戻る多重散乱光389も存在する。この多重散乱光389が上記の後方散乱光390と同じ方向に戻ると、両者間で光干渉を起こす。従って後方散乱光390を用いた信号検出(分光特性検出も含む)精度やイメージング精度向上には、本実施形態例で示す部分的非可干渉光を使用する事が望ましい。
【0598】
5.2節 散乱/吸収の要因と散乱断面積との関係
局所的な電気双極子モーメントが存在する場所で、光吸収や光散乱が発生すると5.1節で説明した。2.7節で説明した近赤外光に感受性を持つ電気双極子モーメントの具体的形態として主に、
1〕高分子化合物内の電子軌道(電子雲分布の偏り)と
2〕水素原子を含む官能基(を構成する原子間のグループ振動(Group Vibration))の
2種類が存在する。
【0599】
生命体や有機化学材料内部は、多数の高分子化合物から構成される。その高分子化合物の内部では、各種原子核配列により骨格部が構成される。またこの骨格部周辺を図27の電子雲(Electron Cloud)(電子軌道(Electronic Orbital))404が取り囲み、前記原子核間を結合している。
【0600】
照射光12が対象体10内に入り込むと、その電場に誘起されてこの電子雲分布に偏りが発生する。そしてこの電子雲分布の偏りが、電気双極子モーメントに対応する。図27が示すように高分子化合物402の分子サイズは相対的に巨大なため、この散乱断面積(Scattering Cross-Section)も相対的に大きい。
【0601】
上記の官能基を構成する各原子核周辺の電子雲分布の状況で、構成原子毎の実行電荷(Actual Charge)が正負の値を持つ。そしてこの官能基406を照射光12が通過すると、構成原子毎の実行電荷の正極性と負極性に応じて構成原子間で振動(グループ振動)する。従ってこの官能基406を構成する原子毎の実行電荷の違いが、電気双極子モーメントを構成する。
【0602】
この官能基406は、中心原子核とその周辺に配置された1~3個の水素原子核のみから構成されるため、官能基406自体のサイズは(上記の高分子化合物402と比べると)非常に小さい。そのため上記官能基406の散乱断面積は、(上記高分子化合物402と比べて)非常に小さい。
【0603】
5.3節 散乱断面積と光散乱の特徴
Emil Wolfらの教科書(Max Born and Emil Wolf:Principles of Optics (1975, PERGAMON PRESS LTD)Chapter 13)に拠ると、上記官能基406程度に散乱断面積の小さな光散乱体ではレーリ散乱(Rayleigh Scattering)が起き易い。
【0604】
一方で散乱断面積の大きな高分子化合物402では、異なるタイプの光散乱(ミー散乱(Mie Scattering))が発生すると上記教科書内に記載されている。またこのタイプの光散乱では、“同一高分子化合物402内の各点で発生するレーリ散乱光が互いに干渉”した形で現れる。
【0605】
すなわち2.7節で説明した近赤外光に感受性を持つ2種類の電気双極子モーメント(光散乱体)では散乱断面積が異なるため、光散乱状態が互いに異なる。
【0606】
図23Bの吸光度を示す実験データを用いて、上述した2種類の光散乱体(電気双極子モーメント)との関係を考察する。波長1.213μm周辺の吸収帯は、中心に炭素原子が配置されたメチレン基に拠る逆対称伸縮振動の第2倍音に帰属し得る事を4.2節内で既に説明した。
【0607】
官能基406に属するメチレン基の散乱断面積は非常に小さいため、メチレン基からの散乱光間は干渉し辛い。そのため図23B(あるいは図23A)での波長1.213μm周辺吸収帯のベースラインからの吸光度の差分値は、照射光12の部分的可干渉性に依らずほぼ一定になると考えられる。
【0608】
1.25μmから1.35μmの波長域で代表されるベースラインの吸光度は、高分子化合物402(図27)からの散乱光の影響が大きいと予想される。ミー散乱特性は“高分子化合物402内の各点でのレーリ散乱光が互いに干渉した特性”に類似するので、照射光12の部分的可干渉性の違いでベースラインの吸光度が変化している可能性が有る。
【0609】
5.4節 後方散乱光(反射光)を用いた検出特性
上記教科書の記載内容に拠ると、レーリ散乱では前方散乱光の光強度と後方散乱光の光強度がほぼ等しい。一方でミー散乱では、前方散乱光の光強度に比べて後方散乱光の光強度が桁違いに小さくなる(場合に拠っては1/100のオーダーから1/1000のオーダーとなる)。
【0610】
この違いを図27に模式的に示した。すなわち高分子化合物402から得られる後方散乱光強度は非常に少ない。それに比べて(散乱断面積は小さいが)官能基405で散乱を受ける全散乱光強度内での相対的な後方散乱光強度は高い。
【0611】
第3章で説明したように照射光12の部分的可干渉性を減少させる(部分的非可干渉性を増加させる)と共に、図1A図1Cの(b)と(c)に示すように反射光(後方散乱光)を利用して光学的検出(分光特性も含む)やイメージングを行っても良い。そうする事で高分子化合物402からの散乱光の影響を低減させながら、官能基406からの信号やイメージを効率良く検出/測定できる効果が生まれる。
【0612】
特に対象体10からの反射光(後方散乱光)を用いて対象体10内部の構造や状態あるいはその変化を測定する場合、対象体10内部へ深く入り込める照射光12の侵入深さ(Penetration Depth)が問題となる。
【0613】
ランベルト・ベール(Lambert-Beer)の法則が成り立つ場合、対象体10内に侵入する照射光12の強度は侵入深さに応じて指数関数的に減少する。そしてこの時の減少係数が、図23Bに示す吸光度に比例する。図23Bで見る限り、#400の位相変換素子を用いた場合(部分的非可干渉性が増加した場合)、#1200(部分的可干渉性が相対的に高い場合)と比べて吸光度が6/7程度に減少している。
【0614】
従って図23Bの実験データは、『照射光12の部分的可干渉性を低下させる(部分的非可干渉性を増加させる)と、対象体10内部への可能侵入距離が増加する』事を意味する。
【0615】
ここで#1200を使用した場合でも図22が示すように、背面鏡82を使用すると共に光路途中に透明な平行平板94-1~4を配置して部分的可干渉性を低下させる処理をしている。従って全く部分的可干渉性を低下させない従来技術と比較すると、吸光度は6/7より遙かに小さな値になると予想させる。
【0616】
この対象体10内部への照射光12の侵入深さの違いは、図26(a)に示す直進光360に対する多重散乱光370の光干渉の影響として説明ができる。すなわち図26(a)に示す対象体(図23Bの実験データではポリエチレンシート)10内通過時の直進光360の侵入強度と深さの関係は、図23Bの#400に近い特性を示すと予想される。しかし対象体10の内部で多重散乱した後に直進する光370が、上記直進光360と光干渉を起こすと考えられる。その結果として、#1200よりも大きな吸光度となり、対象体10内の可能侵入距離が減少すると説明できる。
【0617】
生体内の細胞膜(Cell Membrane)(脂質2重層(Lipid Bilayer))や細胞内膜(Internal Membrane)、脂肪成分(Fat)内の構成分子構造は、上記のポリエチレンに類似している。従って上記部位での吸光度特性は、図23Bに類似している。従って上記現象からも、部分的可干渉性を減少させた(部分的非可干渉性を増加させた)光は、生体内のより深い領域まで入り込める(生体内のより深い領域での構造や活動状態あるいはその変化を観測できる)効果が有る。
【0618】
今までは対象体10内部での多重散乱光370の影響のみを説明したが、それ以外として照射光12内に混入する波面収差の影響も考慮する必要が有る。照射光12内に混入する波面収差には、
1.対象体10内部で発生する波面収差と
2.対象体10入り口の界面(空気中と対象体10との間の境界面)で発生する波面収差の2種類が存在する。
【0619】
いずれにしても図26(a)に示す対象体10内の直進光360に対して、波面収差の影響を受けた光の位相がずれる。その結果として両者間の光干渉で、対象体10内部への照射光12の可能侵入距離が減少する。
【0620】
以上の説明を纏めると、
(1)部分的可干渉性を低減(部分的非可干渉性を増加)させる(第3章実施例)、あるいは
(2)対象体10に起因する波面収差特性を改善させる(第6章の実施例)と、対象体10内部への照射光12の可能侵入距離を伸ばせる(深い領域まで測定が可能となる)と言う効果が生まれる。
【0621】
上記に関連して、照射光12の対象体10内部への侵入深さと使用波長との関係を説明する。対象体10内に照射光12を直進させた時の、対象体10内部の侵入深さと直進状態の照射光12強度との関係を上記ランベルト・ベールの法則が示している。ここで直進光強度の減衰要因として、対象体10内部での光吸収と光散乱が考えられる。ここでは光の反射は、光散乱の一部(後方散乱光)と考える。従って対象体10内部で光散乱が頻繁に発生すると、直進光の減衰が大きく(侵入深さが短く)なる。
【0622】
可視域から近赤外域での光散乱形態は図27を用いて5.3節で説明したように、散乱断面積が比較的小さな散乱(レーリ散乱)と散乱断面積が相対的に大きな散乱(ミー散乱など)の2タイプに分けて考えられる。
【0623】
いずれの場合も、光散乱確率(実質的な散乱断面積)は、使用波長が短くなるにつれて急激に大きくなる。具体的にはレーリ散乱では、散乱光強度(散乱確率/散乱断面積)は波長の4乗に反比例する。またミー散乱でも類似した傾向が有る。
【0624】
動物や植物、微生物などを含めたあらゆる生体内部は複雑な構造をしており、その個々の構造体で光散乱が発生する。従って可視域から近赤外域の光を生体内部に照射すると、使用波長が短くなると急激に侵入深さが短くなる。
【0625】
反対に使用波長が長い近赤外光を使用すると、生体内部での光散乱の確率(散乱断面積)が大幅に低下する。その結果として照射光12に近赤外光を使用すると、生体内部の深い領域まで光が侵入できる。そのため生体内部の比較的深い領域での構造分析や組成分析、活動状態やその変化の分析に近赤外光が適している。
【0626】
従って照射光12として2.6節で説明した波長範囲の光(近赤外光)を使用する方法と、第3章で説明した部分的可干渉性を低減(部分的非可干渉性を増加)させる方法を組み合わせる事で、生体内部での照射光12の侵入距離を一層広げられる効果が生まれる。
【0627】
またそれに限らず照射光12として2.6節で説明した波長範囲の光(近赤外光)を使用する方法と、第6章で説明した対象体10で発生する波面収差を改善する方法を組み合わせても、生体内部での照射光12の侵入距離を一層広げられる効果が生まれる。
【0628】
さらに2.6節で説明した波長範囲と第3章で説明した部分的可干渉性を低減(部分的非可干渉性を増加)させる方法、第6章で説明した波面収差を改善する方法の全てを組み合わせても良い。
【0629】
5.5節 測定対象体内部での電磁波との相互作用に関する定式化
5.1節から5.4節までは、対象体10の内部での可視光や近赤外光との相互作用を定性的に説明した。これらの相互作用をより深く考察できるように、本5.5節では相互作用の定式化を行う。ここで導入する関係式の適用範囲は可視光や近赤外光に限らず、紫外光から30kHzのLF波(Low Frequency Wave:長波)に至る広範囲の電磁波一般に適用できる。
【0630】
マックスウェル(Maxwell)の方程式の一部として
【0631】
【数58】
【0632】
が存在する。上記(B・52)式は、“電流Jが流れた時に周辺に発生する電磁場”を意味する。ここで外部電磁波を吸収して発生する誘導電流(Induced-current)Jaに関して、
【0633】
【数59】
【0634】
と書き直す。ここで上記εは、誘電体内の誘電率を表している。
【0635】
電荷(Charge)が存在しない時のマックスウェルの方程式は、他にも
【0636】
【数60】
【0637】
【数61】
【0638】
が存在する。
【0639】
ここで(B・53)式から(B・55)式の関係を利用すると、
【0640】
【数62】
【0641】
の関係式が導かれる。
【0642】
誘電体中の局所的な電気双極子モーメント(Electric Dipole Moment)または誘電分極(Dielectric Polarization)を、Pε(r,t,ω)と表記する。ここでωは、電磁波の角振動数を表す。そして真空中の誘電率ε0に関して
εE=εE+Pε(r,t,ω) …(B・57)
の関係が成り立つ。
【0643】
また5.1節と5.2節で、局所的な電気双極子モーメントPσ(r,t,ω)の振動で電磁波の吸収が発生すると説明した。そしてこの局所的な電気双極子モーメントPσ(r,t,ω)と上記の誘導電流(Induced-Current)Jaとの間には
【0644】
【数63】
【0645】
の関係が有る。
【0646】
(B・57)式と(B・58)式を使用すると、(B・56)式は
【0647】
【数64】
【0648】
の関係式が導かれる。(B・59)式の左辺は、真空中(すなわち対象体10の外部)での電磁波の波動特性(Wave Characteristic)を表している。つまり図1Aから図1Cに示した照射光(第1の光)12と検出光(第2の光)16の挙動は、(B・59)式で与えられる。そして“Pε=Pσ=0”とすると、(B・59)式は真空中を通過する電磁波方程式を表す。
【0649】
ところで対象体10の内部での光散乱と光吸収は、局所的な電気双極子モーメントの振動が関与すると5.1節と5.2節で説明した。そして(B・59)式右辺のPεが散乱光の生成に関与し、Pσが光吸収に関与する。
【0650】
また図27や5.2節で説明したように、近赤外光との相互作用の要因として
1〕高分子化合物内の電子軌道(電子雲分布の偏り)と
2〕水素原子を含む官能基(を構成する原子間のグループ振動(Group Vibration))の
2種類が存在する。従って上記の電気双極子モーメントPεとPσそれぞれに、上記2種類の相互作用要因が関与する。
【0651】
ところで官能基内のグループ振動(の励起)エネルギーは散乱光として放出されるより、高分子化合物内の原子間振動エネルギーに拡散される場合が多い。従って官能基内のグループ振動は、PεよりPσへの寄与率が高い(光吸収され易い)。従って電気双極子モーメントPσの一部(一種)に、(C・7)式で示す“官能基内の電気双極子モーメントμx”(7.2節で後述)が含まれる。
【0652】
対象体10の外部を通過する照射光(第1の光)12と検出光(第2の光)16の電磁波E(r,t) を
【0653】
【数65】
【0654】
で記述した場合、電気双極子モーメントPεとPσはそれぞれ
【0655】
【数66】
【0656】
【数67】
【0657】
と変数分離できる。この(B・61)式と(B・62)式を(B・59)式に代入すると、
【0658】
【数68】
【0659】
が得られる。そして散乱光強度と光吸収の量は、照射する電磁波の角振動数(振動数)の二乗に比例する事を(B・63)式は示している。また均一にpεやpσが分布する光散乱体や光吸収体では、散乱光強度と光吸収の量は(光干渉が起きない場合には)その体積に比例する事も分かる。これらの特性は、5.3節で説明したレーリ散乱(Rayleigh Scattering)に対応する。
【0660】
そして(B・63)式の形の方程式の解は
【0661】
【数69】
【0662】
で与えられる事が知られている。なお(B・64)式における“r”は、対象体10内部の局所的な位置ベクトル(Position Vector of Scattering Source)を表す。そして“r”は、対象体10の外部に配置された測定点(図1Aから図1Cでの検出部6)の位置ベクトル(Position Vector of Detecting Destination)を表す。
【0663】
またpεとpσの分布を2次元配列に限定すると、(B・64)式は一般の光学の教科書に記載されるフレネル-キルヒーホフの式(Fresnel-Kirchhoff' Formula)に対応する。ここで(B・64)式内の“pε(rs,t)-pσ(r,t)”が、フレネル-キルヒーホフの式の2次元の開口関数(Pupil Function)に対応する。しかし(B・64)式内の“pε(r,t)-pσ(r,t)”は、3次元分布を持つ所に独自性がある。
【0664】
(B・64)式の被積分領域内で上記の開口関数に対応した部分を除いた残りの項は、“球面波(Spherical Wave)”を表している。また(B・64)式の右辺は、対象体10内部全領域での積分を示している。そのため(B・64)式内では、“球面波間の干渉の影響”が現れる。従って(B・64)式は、対象体10内部での部分的可干渉性(あるいは可干渉性)を持つ電磁波との相互作用を表している。
【0665】
本実施形態で目指している部分的可干渉性を減少させた(あるいは非可干渉性の)電磁波との相互作用の定式化方法は、Emil Wolfらの教科書(Max Born and Emil Wolf:Principles of Optics (1975, PERGAMON PRESS LTD)Chapter 10)内で示唆されている。そこの記載内容を参考にすると、部分的可干渉性を減少させた(あるいは非可干渉性の)電磁波の定式化は、電場振幅では無く『検出される光強度』で表現するのが望ましい。
【0666】
(B・64)式内の被積分項は、対象体10内部の局所領域から散乱/吸収される電磁波の振幅(電磁場)を表している。そのため電磁波の振幅(電磁場)間を“合成”すると、電磁波間の干渉が現れる。それに対して部分的可干渉性を減少させた(あるいは非可干渉性の)電磁波では、対象体10内部の局所領域から散乱/吸収される電磁波の強度(光量)を積分(混合)する。強度(光量)自体には位相の情報が削除されている。従って積分結果には、位相の違いで発生する“干渉効果”が現れない。
【0667】
(B・64)式を参考にして上記内容を定式化すると、
【0668】
【数70】
【0669】
が対応する。ここで電磁波が真空中で運ぶ電磁波エネルギーI(r,t)は
【0670】
【数71】
【0671】
となる事が知られている。また(B・66)式において
【0672】
【数72】
【0673】
がなりたつ。従って(B・66)式と(B・67)式を考慮して、(B・65)式の係数を設定した。
【0674】
(B・65)式を利用すれば、対象体10内部での局所的な散乱と吸収を加味した強度から検出部6(図1A図1C)で得られる検出強度I(r)が理論的に予想できる。またこのような光強度での表現方法は、3.5節内で記載した(B・30)式とも整合性が良い。
【0675】
ここで対象体10内での深さ方向での照射光12の強度変化が理論的に予想できれば、理論計算精度がさらに向上する。巨視的観点から、対象体10内での深さ方向での照射光12の強度変化が指数関数的に減少するランベルト・ベール(Lambert-Beer)の法則を近似的に利用しても良い。
【0676】
このようにランベルト・ベール(Lambert-Beer)の法則と(B・65)式に示した理論計算式を組み合わせると、部分的可干渉性の低い(あるいは非可干渉性の)電磁波を使用時の検出部6(図1A図1C)で得られる検出強度I(r)が理論的に予想できる。その結果、対象体10内部での局所的な状態や属性を精度良く分析できる効果が生まれる。
【0677】
5.6節 照射光の部分的可干渉性の違いに依る測定結果への効果とその考察
3.9節内では図23A図23Bを用い、照射光12の部分的可干渉性の違いに依る測定結果の違いを既に説明した。本5.6節では更なる実験結果の提示と、その結果に関する考察を行う。
【0678】
本5.6節の実験でも、図22と同じ実験系を使用した。位相変換素子(光学特性変更部材)212の砂摺り面作成に#240の砂粒(平均の面粗さRaは2.08μm)を使い、“非可干渉性に近い近赤外光”の生成を行った。
【0679】
一方で“部分的可干渉性を持つ従来の近赤外光”を用いた実験では、位相変換素子(光学特性変更部材)212は削除した。また分光器22での検出光量を合わせるため、上記の位置にOD1.5(Optical Density)のND(Neutral-Density)フィルタを配置した。
【0680】
いずれも250回の繰り返し測定結果の平均値を算出している。
【0681】
図61は、厚さ約100μmの絹シートを透過した光の分光特性を示す。波長0.9μmの光で比較すると、“部分的可干渉性を持つ従来の近赤外光”での光透過率は2%強だった。それと比べて“非可干渉性に近い近赤外光”の光透過率は6%弱と、3倍弱の違いが有った。この実験データからも“部分的可干渉性を持つ従来の近赤外光”に比べて、“非可干渉性に近い近赤外光”は対象体10への侵入距離が長くなる事が分かる。
【0682】
また“部分的可干渉性を持つ従来の近赤外光”での波長方向での透過光量変化は直線的(参考までに追記記載した破線直線(Broken Straight Line)と、ほぼ同じ)で、吸光特性上の変化は観察されない。
【0683】
一方で“非可干渉性に近い近赤外光” での波長方向での透過光量変化は、上記と大幅に異なる特性を示す。波長が1.35μm以上になると、参考までに追記記載した破線直線より大幅に光量低下が見られる。
【0684】
この透過光量変化特性を吸光度変化に変換した結果を図62に示す。図62に示した絹シートの吸光度には、複数のピーク(極大点)が見られる。なお“-log10(It/Ii)”を吸光度と定義する。ここでIiは、照射光(第1の光)12の入射強度を表す。また絹シートを透過後に得られた検出光(第2の光)16の透過強度をItと表した。
【0685】
比較のため、厚み30μmポリエチレンシート透過光の吸光度特性を図63に示す。ポリエチレンの分子構造は図64(a)と(b)に示す。主鎖(Principal Chain)を構成する炭素原子それぞれに、2個ずつの水素原子が結合した簡単な構造を持っている。またこのポリエチレンの“伸縮振動(Stretching)に帰属する吸収帯の中心波長”は、第1倍音(First-Order Overtone)が1.7μmより長い位置、そして第2倍音が1.21μm前後、第3倍音が0.92μm前後に存在する事が知られている。また結合音(Combination)に帰属する吸収帯は1.39μmから1.42μmの範囲に存在する事も知られている。
【0686】
上記ポリエチレンと比べると、絹シートは複雑な分子構造を持つ。絹シートの材料はフィブロイン(Fibroin)と呼ばれる蛋白質から構成されている。そしてこのフィブロインは図64(c)に示すように、6個のアミノ酸(Hexapeptides)毎に周期的な構造を持つ。そして主にグリシン(Glycine)Gとアラニン(Alanine)Aが、この周期的構造を形成する。所でグリシンのアミノ残基(Residue)は、1個の水素原子が炭素原子と結合している。またアラニンのアミノ残基には、メチル基(-CH3)が炭素原子と結合する。
【0687】
メチル基の“伸縮振動に帰属する吸収帯の中心波長”は、メチレン基(-CH2)の中心波長より若干短い事が知られている。一方でグリシン残基(-CH)の“伸縮振動に帰属する吸収帯の中心波長”は、メチレン基(-CH2)の中心波長とほぼ類似する事も知られている。
【0688】
従って図62の吸光度特性内の“下向き矢印(Lower Direction Arrow)”で示したピーク(極大)位置は、アラニンのアミノ残基を構成するメチル基(-CH3)のグループ振動に起因している可能性が有る。そして図63の吸収帯との対比から、これらのピークは波長が短い順にメチル基(-CH3)の伸縮振動の第2倍音、結合音、伸縮振動の第1倍音の可能性が有る。
【0689】
一方で図62内の“上向き中抜け太矢印(White-Centerd Bold Arrow of Higher Direction)”で示したピーク(極大)位置はそれぞれ、蛋白質内のペプチド結合(Peptide Bond)部内の第2級アミド(Amide II)が関与している可能性が有る。
【0690】
図38を用いて8.3節で後述するように、上記のフィブロイン内にβシート形結晶部602が存在する。このβシート形結晶部602内では、上記の第2級アミド間で水素結合している。従って“上向き中抜け太矢印”で示したピーク(極大)位置のいずれかは、この水素結合に関与している可能性が有る。
【0691】
図61の下側に示すように、“部分的可干渉性を持つ従来の近赤外光”では、絹シート内の分子構造分析が不可能だった。しかし本実施形態で実現した“非可干渉性に近い近赤外光”を使用すると、絹シートのような複雑な分子構造を持つ集合体でも詳細な構造分析が可能となる。
【0692】
ポリエチレンシートの透過光から得られる吸光度特性に及ぼす、照射光12の部分的可干渉性の違いを詳細に検討すると、相互作用を表す(B・64)式と(B・65)式との違いが見えてくる。図63の下側が“非可干渉性に近い近赤外光”を使用した場合で、左側の縦軸に従っている。一方で図63の上側が、“部分的可干渉性を持つ従来の近赤外光”を使用した場合で、右側の縦軸に従っている。ここで左右の縦軸のスケールは大幅に異なっている。
【0693】
まず(a)と(b)および(c)と(d)を比べると、破線で示したベースライン勾配に対するピークの高さが大幅に異なる事が分かる。“非可干渉性に近い近赤外光”を使用した場合の方が、大幅に見かけのピーク高さが上がっている。図23Aおよび図23Bと比較して分かるように、(a)と(b)間および(c)と(d)間の絶対的なピーク高さは変わって無い。“部分的可干渉性を持つ従来の近赤外光”で測定した方が、ベースラインの勾配が高くなっている。しかし信号のC/N比(Carrier to Noise Ratio)は、明らかに“非可干渉性に近い近赤外光”で測定した方が良くなっている。
【0694】
次に(e)と(f)に示す吸収帯近傍波長での裾野特性に注目する。“非可干渉性に近い近赤外光”で測定すると、ここで大きな吸光度の低下が見られる。一方で“非可干渉性に近い近赤外光”を用いた場合には、吸収帯の裾野がなだらかになっている。すなわち吸収帯の端部(吸収帯のエッジ部)の鋭敏さ(Sharpness)が大きく異なる。
【0695】
伸縮振動の第2倍音に帰属する吸収帯の周辺((g)~(i))では、上記の違いは見られない。しかしここには別の伸縮振動に由来する吸収帯が存在するため、上記の違いが見られない可能性が有る。中心波長が1.21μmの吸収帯は、メチレン基(-CH2)の対称伸縮振動(Symmetrical Stretching)の第2倍音に帰属すると言われている。中心波長が1.19μm近傍に高さは小さいが、逆対称伸縮振動(Asymmetrical Stretching)の第2倍音に帰属する吸収帯が存在すると言われている。従って(g)~(i)の位置では吸収帯の裾野がなだらかなのでは無く、逆対称伸縮振動の第2倍音に帰属する吸収帯が検出されている可能性が有る。
【0696】
さらに“非可干渉性に近い近赤外光”で測定すると、結合音に関連する(j)の位置で大きな振動が見られる。照射光12の特性で測定結果が変化するので、(j)位置での振動はフェルミ共鳴(Fermi Resonance)とは異なる。
【0697】
この(e)と(f)、(j)の各波長領域で発生する変化は、吸収帯の端部(Edge)で発生する特殊な現象の可能性が有る。例えば(e)と(f)、(j)の各領域に対応した波長の光を、ポリエチレン内のメチレン基(-CH2)に照射した場合を考える。この波長光を吸収して、メチレン基は振動励起状態に移ろうとする。しかし7.2節内の(A・60)式が示す量子効果(Quantum Effect)の影響で、メチレン基は振動励起状態に遷移できない。その代わりにメチレン基周辺の電子雲が上記波長光を吸収して帳尻を合わせた場合(“pσ(rσ,ω)”の値が局所的に僅かに変化する場合)を想定する。
【0698】
ポリエチレン内のメチレン基近傍での“pε(rε,ω)”の値が小さい場合には、(B・65)式内では“pσ(rσ,ω)”の値が多少変化しても全体への影響はほとんど無い。しかし(B・64)式では、メチレン基近傍での散乱光とメチレン基から大きく離れた場所(すなわち“pε(rε,ω)”の値が大きな場所)での散乱光との間で光干渉を起こす。その結果としてメチレン基近傍での“pε(rε,ω)”の微小な値変化が大きく増幅される。この増幅結果が、(e)と(f)、(j)の各波長領域での違いとして現れている可能性は否定できない。
【0699】
図63では、ベースラインのプロファイルを破線で記載した。このベースラインのプロファイルは、高分子の周辺に局在する電子軌道の偏りが関係すると考えられる。そしてこの破線は、波長が長くなるに従って吸光度の値が減少する。一方で図62に示した絹シートの破線(ベースライン)は、波長が長くなるに従って吸光度の値が増加する。このベースライン特性の違いは、高分子構造と関係を持つ可能性が有る。
【0700】
例えばポリエチレンポリマーのように繊維状の構造を持つ場合、図64(a)のように短波長光に対して多数の“電子軌道の偏り”が発生して多くのエネルギーを吸収する。一方で図64(b)にように長波長光では、赤外光のエネルギー吸収効率が低下する可能性がある。
【0701】
また図64(c)で示すように絹シートを構成するフィブロインは、6アミノ酸毎に周期的な構造を取る。このアミノ酸配列の周期構造に合わせて、周期構造を持つ電子軌道が現れる。そして周期構造を構成するブロックの端面で、この電子軌道は境界条件を受ける。そしてこの電子軌道の基底状態393から励起状態399への遷移に必要なエネルギーが、最大吸収量(吸光度の高い波長)に対応する(7.2節の(A・60)式参照)。その結果として、図62の右肩上がりのベースライン(破線)が形成されると説明できる。
【0702】
このように(B・65)式を利用すると、吸光度特性内のベースライン特性を高分子構造から説明する方法も有る。従って未知の高分子や生体を構成する高分子から得られる“非可干渉性に近い近赤外光”を用いた吸光特性から、
A〕ベースライン特性から高分子構造の推定や、
B〕吸収帯の中心波長から高分子内の官能基の推定が行える効果がある。またそれだけで無く、
C〕吸収帯の中心波長の標準値からの波長シフト量から生体内のリアルタイムでの活動状況(またはその変化)も推定できる効果も有る。
【0703】
第6章 光路途中で発生する波面収差のフィードバック方法
測定装置30内に混入する光学雑音低減方法として本実施形態例では、
(1)部分的可干渉性に関係した光学雑音の低減と
(2)対象体10に起因する波面収差あるいは部分的な進行方向変化のフィードバックの
2通りの中で少なくともいずれかを行うと、2.1節で説明した。
【0704】
上記(1)の方法に付いては、第3章を中心に説明した。次の(2)の方法について本第6章で説明する。
【0705】
6.1節 対象体(透明な平行平板)内部で波面収差が発生する原理
まず始めに図28を用いて、対象体10内部で波面収差が発生する基本原理の説明をする。
【0706】
図28(a)に示すように、真空中(空気中)で照射光12がα点に集光する対物レンズ308を使用する。説明の簡素化のため、対象体10として屈折率nの透明な平行平板を仮定する。対物レンズ308から集光点に至る光路途中に平行平板(対象体10)を配置すると、真空(空気)と屈折率nの平行平板との界面で屈折が起きる。その結果として図28(b)のように、β点に集光せずに光路により集光位置がずれる。この現象を波面収差と言う。
【0707】
図28(b)では説明の簡素化のため、対象体10表面を光学的に平面とした(上記のように表面が完全な平面でも波面収差は発生する)。しかし実際には対象体10表面は凹凸形状を持つ。そしてこの凹凸形状に応じて、更なる波面収差が発生する。
【0708】
6.2節 波面収差の補正方法
6.2節で波面収差の補正方法を説明する前に、図28(b)でβ点上に集光しない理由の説明をする。
【0709】
図28(a)では、対物レンズ308開口面(Pupil Plane)上で分割された各点からα点までの光路長が全て一致するため、α点で集光する。一方で図28(b)では、β点までの光路途中に屈折率nの対象体10が挿入される。その結果として、(B・13)式に従った光路長差δが発生する。またこの光路長差δの値は、対物レンズ308開口面上の半径位置で異なる。そしてこの光路長差δの違いで、β点での集光が阻害される。
【0710】
上記原理に基付き、上記の光路長差δと反対の光路長差を対物レンズ308開口面上で事前に挿入させて補正する。この補正方法が、波面収差補正方法に相当する。またこの光路長差δの補正は、対物レンズ308入射直前(または入射直後)の平行光で行うのが望ましい。
【0711】
上記波面収差補正の具体的方法として本実施形態では、対物レンズ308入射直前(または入射直後)の平行光状態にある照射光12または検出光16の光断面をメッシュ状に分割し、メッシュに分割したセル毎に光路長を変化させても良い。
【0712】
図25の照射光の波面収差粗動補正部352と透過光の波面収差粗動補正部356内の具体的構造例を図29Aに示す。照射光12または検出光16の光断面が、縦横方向に2次元的に配列されたセル毎に分割される。
【0713】
各セルの表面は、それぞれ光反射面416-1~6が形成されている。またこの光反射面416-1~6の下層には個別電極部414-1~6が設置される。この個別電極部414-1~6と共通電極部410との間に圧電素子418-1~6が配置される。
【0714】
例えば共通電極部410に対する所定電圧を個別電極部414-3に印加すると、圧電素子418-3の厚みが変化する。そしてこの圧電素子418-3の厚み変化に応じて、光反射面416-3表面で反射した照射光12または検出光16の光路長が変化する。
【0715】
図25の照射光の波面収差微動補正部354と透過光の波面収差微動補正部358内の具体的構造例を図29Bに示す。図29Bでも、照射光12または検出光16の光断面が縦横方向に2次元的に配列されたセル毎に分割される。
【0716】
図29Bの構造では、光反射面と共通電極部420が共有される。そして照射光12または検出光16は、この光反射面を兼用する共通電極部420で反射する。またこの光反射面を兼用する共通電極部420の上部には液晶層428-1~3が形成され、液晶層428-1~3内部での液晶配向に応じて光路長が変化する。各液晶層428-1~3間は、仕切り板422で分離されている。また液晶配向を変化させるための透明電極部424-1~3が上部に形成されている。
【0717】
図29Bでは照射光12または検出光16を反射させて光路長を変化させるがそれに限らず、照射光12または検出光16を透過させて光路長を変化させても良い。
【0718】
6.3節 波面収差特性検出方法の共通部分
本6.3節では最初に、図25の参照光生成部320内部の説明から始める。
【0719】
図1Cで収束性の照射光12を照射した時、対象体10内部では1点(α/β/γ点)のみに集光する例を記載した。これはあくまで説明の簡素化のための記載に過ぎず、対象体10内の異なる複数点に同時に集光しても良い。またそれに限らず本実施形態例では、対象体10内部の局所領域で照射光12が予め定められた3次元形状を形成しても良い。
【0720】
対象体10内部で形成する照射光の3次元形状や複数集光点などの制御は、参照光生成部320内で行う。その基本的原理として本実施形態例は、『共焦関係間での結像パターンを光軸方向に沿って複数形成』する。
【0721】
参照光生成部320内部に配置された3次元透過パターン形成部440内部は、複数の2次元透過像形成層442、444、446が所定の距離を置いて積層された構造を持つ。この2次元透過像形成層442、444、446は検出光16の断面部分での特定領域光のみを抽出する機能を有する。そしてこの2次元透過像形成層442、444、446を、例えば液晶シャッターで作成しても良い。
【0722】
しかしそれに限らず、光の光路途中に配置され、所定パターン内部のみが光透過(あるいは光反射)可能な機能を有したあらゆる光学素子を使っても良い。たとえば2次元状の所定パターン形状を有する機械的マスクやピンホール、スリットを使用し、パターン形状変更時に上記機械的マスクやピンホール、スリットを出し入れして交換しても良い。あるいは2次元状に配置され、電気信号に応じて局所的に光透過/反射特性が変化する2次元光スイッチアレイを使用しても良い。
【0723】
そして2次元透過像形成層442、444、446の各層は、対象体10内の異なる深さ位置と結像(共焦)関係に有る。そして光混合部340(図25)を出た平行光が各2次元透過像形成層442、444、446を通過する事で、対象体10内で形成する結像パターンが生成される。
【0724】
例えば2次元透過像形成層442と446を透過する光は全て透過する(つまり2次元透過像形成層442と446を透過する光は一切遮光されない)ように設定し、2次元透過像形成層444のε領域のみ光を透過させるピンホール構造を形成した場合を想定する。この場合には、対象体10内のα点のみに集光する。
【0725】
さらに2次元透過像形成層444内の複数点のみが通過可能な複数ピンホールパターンを形成すると、それに応じて対象体10内部の対応平面(結像面)上の複数箇所に集光する。
【0726】
2次元透過像形成層444のε領域のみ光を透過させるピンホール構造を形成し、さらに2次元透過像形成層442のη領域を通過可能なピンホール構造を持たせると共にε領域とη領域を通過した光の光路を開く。すると対象体10内部では、深さの異なるα点とγ点で集光する。
【0727】
このようにε領域とζ領域、η領域にピンホールを形成し、それらを通過する光の光路上は透過可能とする。それに拠り、α領域とβ領域、γ領域のみに集光する。
【0728】
図30では複数の2次元透過像形成層442、444、446が同一の3次元透過パターン形成部440内にまとめて収納されている。しかしそれに限らず、互いに異なる位置に配置された2次元透過像形成層442、444、446を通過した光が、対象体10に到達する光路途中で合成されても良い。
【0729】
図30では透過パターンで結像パターンを形成する例を示した。しかしそれに限らず、反射光で結像パターンを形成しても良い。
上記の3次元透過パターン形成部440を通過した光の一部は、光路分割部430で振幅分割されて参照光436として抽出される。図30での記載を省略したが、ここで抽出される参照光436は参照光生成部320内で、可干渉光と部分的非可干渉光に分離される。
【0730】
そして分離された部分的非可干渉光の参照光436が、図32Bの参照光436として利用される。同様に分離後の可干渉光の参照光436が、図33の参照光436として利用される。
【0731】
なお図25の照射光の波面収差粗動補正部352と照射光の波面収差微動補正部354を纏め、図30では波面収差補正部350と記載した。
【0732】
測定/検出の対象体10内部で光の多重散乱が発生し、検出特性やイメージング特性に悪影響を及ぼす状況に付いて、図26を用いて5.1節内で説明した。第3章で説明したように、光の部分的非可干渉性を高めると多重散乱光370との光干渉の影響は低減される。しかし第3章の方法では、対象体10内部での光の多重散乱自体の発生は低減できない。
【0733】
例えば図30に示すように対象体10内の特定領域(αとβ、γの各領域)のみの特性やイメージを測定する場合には、その特徴を利用して多重散乱光370の影響を低減できる。
【0734】
すなわち図26から明らかなように、多重散乱光370の大部分は対象体10内のα領域/β領域/γ領域以外の場所で散乱を受ける。従って検出光路途中で結像光学系(または共焦光学系)を使い、α領域/β領域/γ領域以外の場所で散乱を受けた光を遮光して多重散乱光370の大部分を検出系から除去できる。
【0735】
図25に示す測定装置の例では、この多重散乱光の影響軽減処理を光分離部312、332内で実施している。しかしそれに限らず、信号検出部304、314、324、334および波面収差特性検出部306、316、326、336の光路に入る前段階で多重散乱光の影響を軽減するあらゆる方法を採用しても良い。
【0736】
図25の光分離部312、332内は図31(説明用に一部本来の光学配置から改変)に示すように、結像レンズ216と3次元透過パターン像形成部450、コリメートレンズ26、光路分離部430から構成される。
【0737】
この3次元透過パターン像形成部450の内部は図30の3次元透過パターン像形成部440と同様に、複数の2次元透過像形成層452、454、446が所定の距離を置いて積層された構造を持つ。そしてこの2次元透過像形成層452、454、456は検出光16の断面部分での特定領域光のみを抽出する機能を有する。またこの特定領域光のみの抽出方法として、特定領域のみの透過または反射を利用しても良い。すなわち図31の実施例では局所的にシャッターが開放された部分の通過光(あるいはピンホールや特定パターン領域の通過光)のみが抽出される構造となっているが、例えば光学的反射膜を用いた反射光を利用して特定領域光のみを抽出しても良い。またこの2次元透過像形成層452、454、456の具体的構造は所定パターンを有した光学素子(光透過/反射素子)や機械的構造体(マスクやピンホール)、あるいは液晶シャッターの様な能動的シャッターやスイッチでも良い。
【0738】
説明の便宜上、現行の図31では結像レンズ216が光分離部312、332の外部に配置されている。しかし実際には(説明用の改変前では)結像レンズ216は、光分離部312、332の内部に配置されている。図25に示した光学配置では、対物レンズ308、318通過直後の検出光16は平行光状態となっている。そしてこの平行光状態の検出光16が光分離部312、332内に入ると、実際には光分離部312、332内の入り口に配置された結像レンズ216の働きで集束光となる。従って本来は対物レンズ308、318と結像レンズ216の組み合わせで、対象体10内部の集光領域(αとβ、γの各領域)と3次元通過パターン形成部450内部での結像関係(共焦関係)が形成される。しかし説明利便性を重視し、図31では光分離部312、332外に配置された結像レンズ216単体で両者間の結像関係(共焦関係)が構成されるように改変して示してある。
【0739】
図31においてβ領域(β点)とζ領域(ζ点)間は、互いに結像関係(共焦関係)の場合を考える。すると対象体10内のβ領域(β点)から得られた検出光16は、光分離部312、332内のζ領域(ζ点)に集光する。
【0740】
そして2次元透過像形成層452では、ζ領域(ζ点)を通過する検出光16のみを抽出(光透過)するようにシャッターが局所的に開けられる。その結果として、ζ領域(ζ点)からわずかに離れた部分を通過する検出光16成分は遮光される。このように操作する事で、対象体10内のβ領域(β点)からわずかに離れた位置で多重反射した光は光分離部312、332を通過できない。一方ζ領域(ζ点)を通過する検出光16の光路に沿って、2次元透過像形成層454や456のシャッターが開く(光透過が可能となる)ように設定する。そしたζ領域(ζ点)を通過した検出光16成分のみが3次元透過パターン形成部450で選択的に抽出(光透過)される。
【0741】
同様に対象体10内のα領域(α点)やγ領域(γ点)に対する結像位置(共焦位置)であるε領域(ε点)やη領域(η点)を通過する検出光16も抽出する(透過させる)。すると対象体10内のα、β、γ領域(α、β、γ点)から離れた位置で散乱された多重散乱光が、3次元通過パターン形成部450内で遮光される。その結果として、対象体10内の測定または検出対象領域以外で散乱された多重散乱光の悪影響を除去でき、精度の高い検出/測定やイメージング、あるいは波面収差特性の検出が可能となる。
【0742】
上記3次元透過パターン形成部450で抽出された(通過した)検出光16は、コリメートレンズ26でほぼ平行光となる。そしてこのほぼ平行光の状態で、光路分離部430で部分的非可干渉光と可干渉光に分離される。なおこの光路分離部430での分離方法は、既に4.2節で説明した方法を利用する。
【0743】
6.4節 部分的非可干渉光を用いた波面収差特性検出方法
図25の部分的非可干渉性の反射光に対する波面収差特性検出部306と部分的非可干渉性の透過光に対する波面収差特性検出部316内部での、部分的非可干渉光を用いた波面収差特性検出方法を説明する。
【0744】
本実施形態例では、PSD(Position Sensitive Detector)セル472内に照射される集光スポット476に対し、部分的非可干渉光を用いて光干渉の影響を低減させている。そして上記PSDセル472内に照射される集光スポット476の位置を検出して局所的な波面収差状況を検出する。
【0745】
図32Aに、上記の波面収差特性の検出原理を示す。6.3節で説明した光分離部312、332または参照光生成部320(図25)を経てほぼ平行状態になった参照光436または検出光16を平面(参照光436または検出光16の進行方向に垂直な平面)で切断して得られる光断面上に、ミニレンズ474-1~4を2次元状に配列させる。またこのミニレンズ474-1~4の後ろ側焦点面上に2次元PSDセルアレイ470を配置する。そしてこの2次元PSDセルアレイ470表面にはPSDセル472-1~4が2次元状に配列され、参照光436または検出光16の一部で1個のミニレンズ474を通過した光はそれぞれ個々のPSDセル472内で集光スポット476を形成する。
【0746】
図32A(a)の記載例では、ミニレンズ474-2~4を通過する参照光436または検出光16の波面(等位相面)480は平面状となっており、光軸と平行な方向に直進する。従ってミニレンズ474-2~4を通過した光はそれぞれ、PSDセル472-2~4内の中央部に集光スポット476-2~4を形成する。
【0747】
一方でミニレンズ474-1を通過する参照光436または検出光16の波面(等位相面)480は曲面を形成し、光軸に対して上方に向かう進行方向を持つ。従ってこの光がミニレンズ474-1を通過すると、PSDセル472-1内の上部に集光スポット476-1を形成する。
【0748】
このようにPSDセル472内に形成される集光スポット476の位置を検出する事で、対応するミニレンズ474の通過光の波面(等位相面)480状態が分かる。そして各PSDセル472からの位置検出信号間をつなぎ合わせる事で、全体の波面(等位相面)480の特性を予想できる。
【0749】
この波面収差特性の検出に、可干渉光を用いた場合の問題点を下記に説明する。本来は図31のα/β/γの各領域(各点)のみから同時に得られる検出光16内に含まれる波面収差特性のみを検出したい。しかし図26を用いて5.1節で説明したように、対象体10内で発生する多重散乱光370、380が上記検出光16と合成される。そして本来検出したい検出光16と上記多重散乱光370、380との光干渉パターンが、図32A(b)に示すようにPSDセル472内に現れる。その結果として、PSDセル472-1~4内に照射される集光スポット476-1~4の位置が誤検知する。
【0750】
このように本実施形態例では部分的非可干渉光を波面収差特性検出に用いるため、PSDセル472-1~4に光干渉の少ない集光スポット476-1~4が形成される。その結果としてPSDセル472-1~4内での集光スポット476-1~4の位置検出精度が向上し、精度の高い波面収差特性検出が行える効果が生まれる。
【0751】
本実施形態例では、対象体10内部で波面収差が発生しない理想状態を示す参照光436と、対象体10内部で発生した波面収差を含む検出光16との間の比較から波面収差特性を検出する。これは検出光16に部分的非可干渉光を用いた場合も、可干渉光を用いた場合でも共通する。
【0752】
本実施形態例では、対象体10内の1点(1領域)からのみ得られる検出光16内の波面収差特性を検出する方法に限定されない。例えば図31に示すように対象体10内のα/β/γの複数領域(複数点)から同時に得られる光内に含まれる波面収差特性も検出できる。またそれに限らず、対象体10内の局在した任意の3次元パターンから得られる検出光16からの信号検出/測定(分光特性検出/測定も含む)やイメージングと平行して波面収差特性を検出しても良い。
【0753】
この場合には図30の3次元通過パターン形成部440で上記の局在した任意の3次元パターンを人工的に生成する。仮に対象体10内部で波面収差が発生しない場合には、結像特性(共焦特性)を利用して対象体10内部で上記の3次元パターンが形成できる。この対象体10内部での3次元パターン形成の阻害要因となる照射光学系における波面収差特性を事前に検出/測定し、その反転特性を波面収差補正部350に与える事で、対象体10内部で上記の3次元パターンが精度良く形成できる。
【0754】
またそれと平行して、3次元通過パターン形成部440で局在した3次元パターン生成時の理想の照射光12特性を、参照光436として抽出する。図30で抽出される参照光436は、部分的非可干渉光と可干渉光を混合させた混合光状態となっている。図示して無いが抽出された参照光436は、4.2節で説明した方法で分離される。従って図32Bで使用される参照光436には、上記分離抽出された部分的非可干渉光成分のみが含まれる。
【0755】
上記参照光436と部分的非可干渉光を用いた波面収差特性検出の電気的処理方法を図32Bに示す。上記参照光436と検出光16は別々に、図32A(a)に示す検出光学系を使用する。
【0756】
参照光の集光スポット位置検出部482で、PSDセル472上における参照光436の集光スポット位置を検出する。それと平行して検出光の集光スポット位置検出部484で、PSDセル472上における検出光16の集光スポット位置を検出する。
【0757】
次に集光スポット間の位置ずれ量算出部486では両者間の位置情報の差分を算出し、参照光436の集光スポット位置を基準にした時の検出光16の集光スポット位置のずれ量を算出する。図32A(a)の例では、ミニレンズ474-1を通過する光の波面(等位相面)が上向きに傾いた曲面となっていた。この場合の集光スポット476-1は、PSDセル472-1内の上部に照射される。このように集光スポット476-1が照射される位置のずれ量から、ミニレンズ474-1内を通過する光の波面傾き量が予想できる。ここで説明した原理から、集光スポット間の位置ずれ量算出部486からは局所的な波面の傾き量488の情報が出力される。
【0758】
1個の集光スポット間の位置ずれ量算出部486からは、1個のミニレンズ474内を通過する光に対する波面の傾き量しか得られない。従って図32Aの全てのミニレンズ474-1~4内を通過する光に対する波面の傾き量を個々に検出する必要が有る。
【0759】
その具体的方法として、全てのミニレンズ474-1~4に対応した異なる集光スポット間の位置ずれ量算出部486を個々に設置しても良い。また他の方法として時間経過に応じた波面収差特性変化速度が非常に遅い場合には、局所的な波面の傾き量488の対象となるミニレンズ474を時系列的に切り替えても良い。すなわち各PSDセル472-1~4の近傍に個々に集光スポット位置検出器482、484が設置されている場合、図示して無いが集光スポット間の位置ずれ量算出部486への入力信号に対応するミニレンズ474-1~4を時系列に応じて切り替えても良い。
【0760】
上記の結果として、全てのミニレンズ474-1~4内を通過する光に関する波面の傾き量488とその傾き方向が、全体的な波面収差特性算出部490内に入力される。この波面収差特性算出部490内部でミニレンズ474-1~4毎の波面の傾き量488とその傾き方向に関する情報を統合して、全体の波面収差特性を予測する。
【0761】
6.5節 可干渉光を用いた波面収差特性検出方法
可干渉光を用いた波面収差特性の検出方法を、図33に示す。図30で抽出された参照光436の中で、4.2節で説明した方法で分離されて得られた可干渉光成分のみが図33での参照光436として使用される。図25を用いて4.1節内で説明したように可干渉光を用いて波面収差特性を検出する前段階として、照射光の波面収差粗動補正部352と透過光の波面収差粗動補正部356が作動して既に大きな波面収差は補正済みの状態を前提とする。従って本6.5節で検出する波面収差量は、検出に利用する波長λ以下程度の小さな範囲内を想定する。この検出範囲は非常に小さいが、代わりに検出精度は非常に高い。
【0762】
撮像カメラ500-1~4内の撮像面からは、2次元状に配列された画素毎の検出光量の信号が得られる。特定画素に照射される参照光436の振幅値を基準に取り(振幅値を“1”とした時の)、検出光16の振幅値を“A”とする。この特定画素における波面収差量は、参照光436に対する検出光16の位相ずれ量δに対応する。従ってこの特定画素から得られる検出光量は、(B・18)式内に(B・13)式を代入した下記の式で与えられる。
【0763】
【数15】
【0764】
(B・40)式で問題となる所は、δが正負いずれの値を取っても(B・40)式の計算結果が同じ値になる。従って単に参照光436と検出光16を合成させて画素毎の照射光量を検出しただけでは、検出光16に関する精度の良い波面収差特性が得られない。
【0765】
その問題を解決するため本実施形態例では、所定の位相ずれ量を参照光436と検出光16間に加算した後に合成した光に対し、画素毎の検出光量を測定する。具体例として例えば参照光436と検出光16の波長をλとした時、その波長λをN分割する。そしてそのm/N(mは正数)に相当する位相ずれを加算した後に、参照光436と検出光16を合成する。この時の特定画素での検出光量は(B・40)式に対して
【0766】
【数16】
【0767】
となる。
【0768】
(B・41)式における変数は、“A”と“δ”および“δの極性(正か負か?)”の3種類存在するので、最低でも3個の連立方程式が必要となる。従って本実施形態例では、N≧3が望ましい。
【0769】
一般的に良く知られている複屈折性光学素子では、常光線(Ordinary Ray)方向と異常光線(Extraordinary Ray)方向では屈折率nが異なる。従って(B・13)式と類似した原理から、複屈折性光学素子の通過後では常光線と異常光線間に位相のずれが発生する。(B・41)式で加算する位相ずれ量m/Nは、上記複屈折性光学素子を利用して生成する。
【0770】
具体的な光学系の配置例を図33に示す。参照光436と検出光16は、偏光ビームスプリッタ492で混合させる(“混合”の用語定義は、3.1節を参照)。この偏光ビームスプリッタ492では、参照光436内のS波(Senkrecht Wave)成分のみを反射し、検出光16内のP波(Parallel Wave)成分のみを透過する。そしてこの偏光ビームスプリッタ492で混合された光内では、参照光436の(電場の)振動面方向(S波方向)と検出光16の方向(P波方向)間では互いに直交している。従って上記混合光内では、参照光436と検出光16間での光干渉は発生しない。
【0771】
無偏光ビームスプリッタ498-1では、S波成分とP波成分ともに光反射率と光透過率がほぼ一致する。従って無偏光ビームスプリッタ498-1の反射光内には、同一比率で参照光436と検出光16が含まれる。
【0772】
無偏光ビームスプリッタ498-1の反射光路途中に配置された検光子496-1は、上記偏光ビームスプリッタ492のS波方向とP波方向に対して45度傾いた(電場の)振動方向の成分のみを抽出(透過)する。すると検光子496-1で抽出した光内に含まれる参照光436と検出光16の(電場の)振動面方向が一致するため、両者間の光干渉が発生する。その結果として撮像カメラ500-1の撮像面内1個の画素で得られる検出光量信号は、(B・41)式における“m=0”の特性が得られる。
【0773】
図33では上述した複屈折性光学素子の中で標準的なλ/4板(Quarter Wave Plate)494を使用する。しかしそれに限らず本実施形態では任意の複屈折性光学素子を使用しても良い。そして上記λ/4板494の常光線方向もしくは異常光線方向を、上記偏光ビームスプリッタ492のS波方向またはP波方向に一致させる。
【0774】
するとλ/4板494-1を一個通過後には、参照光436と検出光16間の位相が1/4波長だけずれて加算される。さらにλ/4板494-2を通過すると、参照光436と検出光16間の位相が1/2波長ずれて加算された事になる。そしてその後でλ/4板494-3を通過すると、参照光436と検出光16間の位相が合計で3/4波長ずれて加算される。
【0775】
参照光436と検出光16間の位相が所定値加算される毎に、無偏光ビームスプリッタ498-2、3で光を抽出し、検光子496-2~4を通過させて参照光436成分と検出光16成分を光干渉させる。
【0776】
その結果として、撮像カメラ500-2~4の撮像面内1個の画素で得られる検出光量信号は、(B・41)式における“m=1”から“m=3”の特性が得られる。このようにして得られた連立方程式を解法して、画素毎の“検出光16の相対振幅A”と“波面収差量δ”が算出できる。
【0777】
図32Bの全体的な波面収差特性算出部490と同様に、撮像カメラ500内画素毎の波面収差量δを組み合わせる事で全体的な波面収差特性が算出できる。
【0778】
第7章 高分子内の特定官能基に限定した第n倍音特性の計算方法
7.1節 光学雑音低減化方法と特定官能基でのグループ振動に帰属した吸収帯波長予測
本実施形態システムでは、検出/測定の対象体10内の組成や構造あるいは活動状態を精度良く把握する方法を提供する所に主眼を置いている。従って対象体10から得られる検出信号や分光特性の精度向上やイメージングの鮮明度向上を単に目指すだけに限らず、そこから得られた情報を使って行われる対象体10内の組成や構造あるいは活動状態の把握精度を向上させる技術的手段の提供まで可能とする。
【0779】
2.1節で説明したように本実施形態では、下記の2種類の方法で光学雑音を低減させる。(1)部分的可干渉性に関係して発生する光学雑音の低減化方法を第3章で説明した。また(2)対象体10内部で発生する波面収差の影響で生じる光学雑音を低減させる方法に関しては、第6章で説明した。
【0780】
ところで第3章と第6章で説明した実施形態方法では、対象体10から得られる検出信号や分光特性の精度向上やイメージングの鮮明度向上は実現できる。しかしそこから得られた情報を使って対象体10内の組成や構造あるいは活動状態の把握を行うには、対象体10内部のミクロな構成体と光との間の相互作用原理を理解する必要が有る。そのため対象体10内部で生じる光吸収体や光散乱体と光との間の相互作用の概説を第5章で行った。
【0781】
すなわち所定官能基内のグループ振動は散乱断面積が小さいので、そこからの散乱光間の光干渉の発生頻度は相対的に低い。従って照射光12に部分的非可干渉光を使用すると、所定官能基内のグループ振動に帰属する吸収帯を比較的精度良く検出/測定できる。
【0782】
さらに対象体10内で発生する波面収差の低減技術(第6章)を組み合わせる事で、官能基内のグループ振動に帰属する吸収帯を一層精度良く検出できる。
【0783】
このように対象体10内部の特定領域が持つ吸収帯特性を精度良く検出しても、その吸収帯が帰属する振動モードの同定は難しい。もし吸収帯毎に帰属する振動モードが精度良く予想できれば、検出/測定結果と組み合わせて対象体10内部の組成や構造、あるいは活動状態の正確な把握が可能となる。
【0784】
基準音(Fundamental Vibration)に対応した吸収帯の波長に関しては現在、量子化学計算ソフトを用いた理論的予測が可能となっている。しかしグループ振動の第n倍音に相当する吸収帯の波長を簡易的に予想できる方法は、現在まで存在しない。
【0785】
特定官能基内で発生するグループ振動の第n倍音に帰属する吸収帯の波長を理論的に予測する簡易的手法が存在しない上記問題点に対し、その解決方法を第7章で説明する。
【0786】
7.2節 官能基内のグループ振動に関する数式的表現
特定官能基内で発生するグループ振動の第n倍音に対応した吸収帯波長値を理論的に予想する数式を導入するに当たり、特許文献3内で既に記載した数式の一部を転用する。本明細書で新たに記載する数式と上記の転用数式との違いを明確化するため、特許文献3内で記載した数式番号(A・&&)をそのまま利用する。一方で本明細書内に新たに記載する数式に関しては、数式番号に(C・$$)を設定する。
【0787】
図34で示すように、電荷量Qを持つ荷電粒子がZ軸上に配置された場合を考える。ここでZ軸上の単位ベクトルをeZとする。外部電場Ee-i2πνtに逆らって荷電粒子をZ軸方向にZだけ移動させた時の仕事量は(A・1)式となる。
【0788】
【数17】
【0789】
ここで(E・Z)は、ベクトルEとZとの内積を表わす。ところで(A・1)式には外部電磁波内の磁場との相互作用項が含まれてないが、その項は充分に無視できる。
【0790】
特定官能基が含まれる高分子が外部電磁波中に置かれた時のSchrodinger方程式は(A・1)式を利用して(A・2)~(A・5)式で与えられる。
【0791】
【数18】
【0792】
【数19】
【0793】
【数20】
【0794】
【数21】
【0795】
但し、バー付きのhは[プランク定数]/2π(ディラック定数)を意味し、eは電気素量、mは電子の質量を表わす。また、N:高分子中に含まれる原子核数、n:高分子中に含まれる電子数、t:時間、Ma:a番目の原子核の質量、Ra:a番目の原子核の3次元座標、Qa:a番目の原子核の実効電荷(原子核周辺電子によるシールド効果も加味したMullikenの電子数解析結果に基づく電荷量)、rj:j番目の電子の3次元座標、σj:j番目の電子のスピン座標 をそれぞれ表している。
【0796】
次に、Born-Oppenheimer近似を用いた原子核間の関係のみを示す方程式の抽出を行なう。まずBorn-Oppenheimer近似を適応させて、(A・2)式を満足する波動関数が(A・6)式のように近似できると仮定する。
【0797】
【数22】
【0798】
この(A・6)式を(A・2)式に代入して式の変形を行なうと、(A・7)式のようにΨnuclのみの式とΨelのみの式に分離できる。
【0799】
【数23】
【0800】
両者の等号で結ばれた値を(A・7)式に示されているようにW(R,・・,R,t)で表わすと、(A・7)式からΨnuclのみが含まれる式として原子核間の関係を示す方程式(A・8)が得られる。
【0801】
【数24】
【0802】
(A・8)式において、最適化された電子軌道の影響はW(R,・・,R,t)に集約される。
【0803】
その次に、(A・8)式から外部電磁波と相互作用を行なう特定官能基の基準振動(Normal Vibration)に対応する関係式部分の抽出を行なう。これに先立ち、量子化学計算ソフトを用いた計算機シミュレーションによる振動解析結果から特定の基準振動部分の抽出を事前に行なう。その結果として特定官能基内の中心原子核Cと周辺の水素原子核Hとの結合方向に振動する伸縮振動が、上記基準振動の一種に対応する事が判明した。従って(A・8)式から、この特定官能基内で発生するグループ振動に関係する方程式を抽出する。以下にグループ振動の計算例として、伸縮振動に関する第n倍音に帰属する吸収帯の波長値を算出する関係式の導出を行う。しかしそれに限らず例えば変角振動(Deformation)や結合音に関する関係式の導出も、下記に説明する内容と同様または類似の方法で行える。
【0804】
以降の説明では、特定官能基内の中心原子に対して“C”の記号を使用する。この“C”は“Central Atom”を意味している。従って特定官能基内の中心原子Cは炭素原子に限らず、窒素原子や酸素原子でも良い。またこの特定官能基の構造として、中心原子Cとその周辺に配置されたn個の水素原子が個々に共有結合(Covalent Bond)している構造を前提とする。またそれに限らず、このn個の水素原子の中で1個以上の水素原子が対象官能基外の所定原子(またはイオン)と水素結合(Hydrogen Bond)しても良い。また水素結合をしない状態で、対象官能基外の所定原子(またはイオン)が1個またはそれ以上の水素原子に近接しても良い。
【0805】
上記特定官能基-CHn内での各構成原子の位置ベクトル(Position Vector)を図35に示す。ここで中心原子Cの原子核位置に対する位置ベクトルをRcで示し、a番目の水素原子の原子核位置に対する位置ベクトルをRaで示す。また中心原子Cの質量をM、水素原子1個の質量をMで表す。ここで図35が示すように、中心原子Cの原子核位置からi番目の水素原子の原子核位置へ向かうベクトルを
≡ Ra - Rc …(C・1)
で表現すると、(C・1)式から
【0806】
【数25】
【0807】
を得る。一方この特定官能基の重心位置(Center Position of Gravity)を示す位置ベクトルRcは、
【0808】
【数26】
【0809】
と表現されるので、(C・3)式に(C・2)式を代入すると
【0810】
【数27】
【0811】
の関係が導かれる。
【0812】
次に特定官能基全体のトータルエネルギーが最小時の中心原子Cの原子核位置からa番目の水素原子の原子核位置へ向かうベクトルを、“x”(eは単位ベクトル)と定義する。そして図35から、下記の関係を定義する。
≡ ( x + x )e+s …(C・5)
≡ ( x ± x )e+s (2≦a≦n) …(C・6)
(C・5)式と(C・6)式内の“x”は、中心原子Cの原子核位置からa番目の水素原子の原子核位置までの距離の、特定官能基全体のトータルエネルギーが最小の時からのずれ量(Deviation)を表している。
【0813】
特定官能基内でのグループ振動では、この特定官能基に属する全ての水素原子が連動して振動する。本実施形態例では、この連動状態を同一パラメータ“x”で近似する。古典力学(Classical Mechanics)的に考えると、グループ振動時の構成水素原子のずれ量は必ずしも全て一致している訳では無い。この場合の構成水素原子毎の“x”からの不一致成分を(C・5)式と(C・6)式では、“s”内に繰り込む(internalize)。
【0814】
グループ振動の計算例として今回の説明では、伸縮振動に関する第n倍音に帰属する吸収帯の波長値を算出する計算式の導入を行っている。したがって(C・6)式内の記号“±”が“+”の時は、対称伸縮振動(Symmetrical Stretching)を表す。また“-”の時は、逆対称伸縮振動(Asymmetrical Stretching)または縮重伸縮振動(Degenerate Stretching)を表す。
【0815】
対象体10内部に局在する電気双極子モーメントが振動(あるいは励起状態に遷移)して光散乱や光吸収が発生すると、5.1節と5.2節で説明した。上記特定官能基全体のトータルエネルギーが最小となる位置に各原子核が配置している状態から、全水素原子が連動して“x”だけ移動した時(すなわち全てのiに対して“s=0”の時)の上記官能基内での電気双極子モーメントは、官能基内の重心位置RGを基準として
【0816】
【数28】
【0817】
で表現される。この(C・7)式を変形した(“s=0”における)
【0818】
【数29】
【0819】
を(A・3)式右辺の第3項に代入すると、官能基と外部電磁場との相互作用項は
【0820】
【数30】
【0821】
と記述できる。ここで(C・9)式は、“s=0”の条件下での近似式を示す。近似精度向上を目指し、(C・5)式と(C・6)式に記載したベクトル“s”を含んだ項を(C・9)式へ追加しても良い。しかしそれを行っても後述する変数分離で、その影響はポテンシャル関数V(x)内に繰り込まれ、最終的に導出される関係式は同じになる。従って説明の簡素化のため今後は、(C・9)の近似式を使った式の変形を進める。
【0822】
古典力学的には、上記特定官能基内での運動エネルギーの総和は
【0823】
【数31】
【0824】
となる。この(C・10)式に(C・1)式と(C・4)~(C・6)の各式を代入して変形すると
【0825】
【数32】
【0826】
となる。
【0827】
(C・11)式の右辺第2項内において
【0828】
【数33】
【0829】
の関係を利用し、さらに
【0830】
【数34】
【0831】
と近似すると(C・11)式は
【0832】
【数35】
【0833】
と近似できる。
【0834】
ところで(C・5)式と(C・6)式から(C・14)式の右辺第2項内は
【0835】
【数36】
【0836】
となる。量子化学計算ソフトを用いた計算機シミュレーションによる振動解析結果によると、基準振動に対応するグループ振動では、“e・ds/dt≒0”の場合が多い。従ってこの近似を(C・15)式に代入すると、(C・14)式は
【0837】
【数37】
【0838】
で表せる。(この近似が成り立つ条件に付いて、7.3節内で詳細に検討する。)ここで
【0839】
【数38】
【0840】
は、官能基内のグループ振動に関する換算質量(Reduced Mass)を意味する。
【0841】
そして(C・16)式右辺の第1項は、重心系(Center-of-mass Sustem)Rcの運動エネルギーを表す。また第2項は、近似されたグループ振動に対応した運動エネルギーを表す。そして最後の第3項はそれ以外の移動に対応した運動エネルギーに対応する。すなわち特定官能基の構成原子核の運動エネルギーの総和は、重心系とグループ振動、その他の運動エネルギーに分割できる事を(C・16)式は示している。
【0842】
(C・16)式で記述されるグループ振動に対応した運動エネルギーを量子化する(quantize)と、(A・3)式の右辺第1項内の一部を
【0843】
【数39】
【0844】
と書き替えられる(上記量子化の根拠は、特許文献3内で記載)。
【0845】
次に(C・5)式と(C・6)式において、xa>>|sa|≒0と近似すると、(A・3)式の右辺第2項内の一部は
【0846】
【数40】
【0847】
と変形/近似できる。さらに(A・7)式の最右辺において
W(R,…,R,t) ≒ Wx(x)+WOTHER(R,…,RN-n-1,R,s, …,s,t)…(C・20)
と近似する。
【0848】
(A・8)式の右辺において
nucl + W ≒ Hx + HOTHER …(C・21)
と変形すると、(C・9)と(C・18)、(C・19)の各式から
【0849】
【数41】
【0850】
と置ける。また同様にHOTHERの詳細は、下記の式で与えられる。
【0851】
【数42】
【0852】
(A・6)式内に記載された波動関数に関して
【0853】
【数43】
【0854】
と仮定すると、
【0855】
【数44】
【0856】
と変数分離できる。そして(C・22)式と(C・25)式において
【0857】
【数45】
【0858】
と近似すると、(C・22)と(C・24)~(C・26)の各式からグループ振動状態を記述するSchrodinger方程式として、
【0859】
【数46】
【0860】
が導かれる。
【0861】
特定官能基内のグループ振動状態が(A・27)式で与えられた時の、方程式解を以下で導き出す。そしてそれに対応した吸収帯の波長値を示す数式も示す。
【0862】
まず始めに“κ3=κ4=E=0”の時の波動関数ψXを、下記のように定義する。
【0863】
【数47】
【0864】
この(A・28)式と“κ3=κ4=E=0”の条件を(A27)式に代入すると、調和振動の方程式
【0865】
【数48】
【0866】
に変形される。ここで
【0867】
【数49】
【0868】
を定義すると、(A29)式の解は特許文献3で記載したように
【0869】
【数50】
【0870】
【数51】
【0871】
となる。
【0872】
特許文献3ではグループ振動の方程式は導かれてない。都合の良い事に特許文献3で定義した換算質量Mxを(C・17)式に変更するだけで、特許文献3内に記述した計算式(数式)をそのまま転用できる。従ってグループ振動状態を記述するSchrodinger方程式である(A・27)式の解に付いては、特許文献3の記述内容を下記に転記する。
【0873】
(A・30)式と(A・31)式を用いて非調和振動を示す(A27)式の最終解を導出する前に、まず(A27)式におけるE=0時の波動関数の解を求める。具体的には(A27)式における“κ+κ”項が充分小さな摂動項と見なす。そして調和振動方程式の解を示す(A30)式を基にして、摂動解を導く。
【0874】
特許文献3で説明したように、この非調和振動時のエネルギー固有値εは(A38)式で与えられる。
【0875】
【数52】
【0876】
非調和振動時のエネルギー固有値(Energetic Eigen Value)εmは、(A27)式内でのκの項のみの影響を受けるがκの項の影響を受けないことが(A38)式から分かる。またこの時の波動関数|m > は
【0877】
【数53】
【0878】
で与えられる。ここで
【0879】
【数54】
【0880】
の関係が有る((A・39)式内の詳細式は特許文献3を参照)。
【0881】
エネルギー準位εからεへ遷移する時に必要なエネルギー量をhνで表わすと、
【0882】
【数55】
【0883】
で与えられる。したがって(A・60)式から、基準音と第1倍音、第2倍音の振動数をν、νおよびνとした時、
【0884】
【数56】
【0885】
【数57】
【0886】
の関係が成り立つ。そしてここで導かれた(A・60)~(A・62)式を用いると、非調和振動に基づく基準音と第1倍音、第2倍音の振動数ν、νおよびνから第m-1倍音の波長λ(振動数ν)の値が予想できる。
【0887】
上記理論式を用いた計算結果と実際の測定値を比較すると、理論計算結果の方が(波長値として1~3割の範囲内で)若干小さくなる傾向が有る。従って上記特定官能基内のグループ振動に帰属する吸収帯の波長値に関して理論予測値と実験値を比較する場合には、上記算出した理論値に所定の補正係数を掛けた後の値で実験値と照合しても良い。
【0888】
7.3節 官能基内グループ振動解析の意義
2原子分子(2体系)内での非調和振動解析法は、従来から知られている。その具体的な一例では、2原子分子内の運動を重心運動(Central Motion of Gravity)または並進運動(Translation Motion)と相対運動(Relative Motion)とに分離する。そしてこの相対運動に関しては、2原子間の距離のずれ量を“x”と設定すると(A・27)式に類似した方程式が導ける。
【0889】
それに比べてグループ振動では解析する対象(とする原子核)の数が3以上の多体系なので、自由度(解析に必要な変数の数)が大幅に増加し、解析が非常に複雑となる問題が有った。そのため、グループ振動特性を簡易的に解析する手法が今まで存在しなかった。
【0890】
有機高分子や生体内部を構成する生体系分子内では5.2節で説明したように、構成原子として水素原子を含む官能基(炭素原子や酸素原子、窒素原子などの中心原子と周辺に配置された水素原子間で共有結合された構造)が多く含まれている。
【0891】
特許文献3内で説明したように、生体内での活動(生体反応や触媒作用など)では水素結合が介在する場合が非常に多い。そして特定官能基内の水素原子と別原子や別イオンとの間で一時的に水素結合反応が起こると、対応する吸収帯の波長値が一時的に変化する事が理論的に予測されている。
【0892】
従って官能基内のグループ振動への簡易的な理論解析手法の提案は、上記吸収帯の波長変化に対する理論的予測精度を上げ、実験値との整合性を高める効果が有る。
【0893】
量子化学計算ソフトを用いて官能基内の基準振動(Normal Vibration)を解析した結果、官能基を構成する複数の水素原子間で互いに連動する事が分かる。例えば変角振動や対称伸縮振動、逆対称伸縮振動、縮重伸縮振動などは全て、官能基を構成する全水素原子が互いに連動している。
【0894】
(C・6)式内の“±”記号が示すように、上記振動モードで各水素原子の移動方向は異なる。しかしトータルエネルギーが最小時の位置からのずれ量(の絶対値)“x”は全ての水素原子で同じと近似し、実際に発生する水素原子毎の近似からの誤差量を“s”で表記した。すなわち安易な近似仮定は行わず、水素原子個々の独立した移動状態も考慮した。
【0895】
若干の近似も含めて関係式を変形(展開)した結果(C・16)に示すように、官能基内全構成原子の運動が、“重心運動”と“共通ずれ量xのみの運動”、“誤差成分sの運動”とに独立分離(各変数を含む項が互いに線形結合(Linear Addition)した形で表現)できる事を初めて発見した。このように共通なずれ量xと水素原子個々の移動の誤差量sが関係式内で分離できると、(C・25)式のように変数分離(Separation of Variables)が可能となる。その結果として(A・27)式に示す官能基内のグループ振動を記述する簡単な方程式が導出できる。
【0896】
またそれだけで無く本来多体系の運動解析が必要な計算対象(多原子分子)に対して、(A・27)式の“1次元方程式に集約”して解析する事で、大幅に解析労力が軽減できる効果も有る。その1次元解析への集約を可能にするため、(C・17)式に示す換算質量の関係式などの効果は非常に大きい。すなわち多体系における個々の運動状態の情報は、1〕(C・17)式内の“特定官能基に含まれる水素原子数n”と2〕各種振動モードを明示する(C・6)式内の“±”の符号(正負の極性)3〕(A・27)式内ポテンシャル部の2次~4次係数κ~κの値の中に集約されている。
【0897】
上記の“1次元方程式に集約”できる理論的根拠として、(C・16)式の近似が成り立つ必要がある。またその前提として、“e・ds/dt≒0”の条件の適用可否が重要となる。その条件が成り立つ範囲を下記に明示する。この条件に関しては
a]水中で官能基の構造が不安定な状態と
b]官能基構造が安定でかつ何らかの反応(活動)が関与しない静的な状態および
c]反応や生体活動など時系列的に状態変化を伴い得る動的な状態
に分けて説明する。
【0898】
始めに[a]に関して検討を行う。筆者(発明者)の実験経験から酸素原子が中心原子Cの官能基は、水中で比較的不安定との認識を持っている。そして実験的経験上は、“酸素原子-水素原子”結合内の水素原子は水中の水素原子と置換される確率が高い。7.4節の方法で理論的な予測値は得られるが、中心原子Cに酸素原子を持つ官能基のシミュレーション結果の信頼性は若干低下する認識が必要と考える。
【0899】
同様に実験の経験上では、-NH (Nは窒素原子)の構造を有する官能基内の1個の水素原子Hが遊離する可能性も高い。従って上記構造に対するシミュレーション結果の信頼性もそれ程高くは無い。
【0900】
次に1≦n≦2における-NH構造を有する官能基に関する検討を行う。過去の文献を調べると、上記構造内の水素原子を重水素(Deuterium)に置換する実験が多数報告されている。しかし上記置換を完了させるのに1~2日の放置が必要と記載されている。従って短期間で終了する実験では、-NH構造(1≦n≦2)は水中で多少は安定と考えられる。
【0901】
一方で中心原子Cに炭素原子を持つ官能基の構造は、非常に安定と考えられる。
【0902】
以上の結論として[a]に関しては、官能基の中心原子Cの種類でシミュレーション結果の信頼性が変化する。
【0903】
次に[b]に関して検討する。量子化学計算ソフトを用いた計算機シミュレーションによる振動解析結果を詳細に調べると、高分子内部での基準振動の一種に対応するグループ振動では、特定官能基に属する全ての水素原子が連動して振動する。また特定官能基に属する全ての水素原子間での振動振幅値も、ほぼ類似する場合が多い。-CHn(中心原子Cは炭素原子または窒素原子、酸素原子に対応)の構造を持つ官能基内の水素原子H配置は、比較的対象構造をしている事がその理由と考えられる。
【0904】
非常に特殊な例として特別な配列をした1個の官能基内では、特定の水素原子の振動振幅だけが他の水素原子のそれと異なる場合は有り得る。その例として1個の水素原子Hと中心原子C間の結合方向が、振動を誘起する外部電場の振動面方向E((A・3)式)と一致する場合が考えられる。しかし一般に対象体10内での官能基-CHnの配向性に規則性は無く、ランダム方向に配置される。従って全体を平均化して見た場合には、特定官能基に属する全ての水素原子間での振動振幅値が類似すると考えるのが自然である。
【0905】
従って[a]で安定構造を有する官能基に対する[b]の静的状態では、“e・ds/dt≒0”の条件に帰結するシミュレーション結果の信頼性は有る程度保たれると考える。
【0906】
次に[c]に関して検討する。7.3節で後述するように生体内部での活動時(生体反応や生化学反応、触媒反応など)には、一時的な水素結合が発生する場合が有る。この場合には特定官能基内の1個の水素原子の近傍に、他原子や他イオンが配置された状態が発生する。
【0907】
上記[a]で説明した水中で比較的安定構造を持つ官能基内では、中心原子Cとその周辺の各水素原子H間は共有結合をしており、原子間距離(結合長)は比較的短い。それに比べると近傍に配置された他原子や他イオンとの間の水素結合距離は、相対的に長い。従って水素結合した水素原子Hの原子振動(Atomic Vibration)への影響は、摂動効果(Perturbative Effect)に止まる。
【0908】
従って[c]の動的状態で特定官能基近傍に他原子や他イオンが接近した場合、その官能基内の水素原子毎の振動振幅値は(上記の摂動効果で)若干変化する。しかしこの場合でも“e・ds/dt≒0”の条件はおおむね満足する。
【0909】
以上の検討結果を纏める。非常に複雑で巨大な高分子系や生体系内での特定領域で発生する特定の基準振動(例えば特定官能基内のグループ振動)を理論的に解析する場合、その基準振動を起こす構造体内に含まれる原子の種類(すなわち“酸素原子-水素原子間結合”や“窒素原子-水素原子間結合”が有るか?)で理論的解析結果の信頼性が変化する。一方この理論的解析結果の信頼性は、解析対象が“静的状態”か“動的状態”かの影響は余り受けない。この結果から7.4節で後述するシミュレーションで得られる簡易的な理論解析結果は、時間と共に変化する生体内の活動状態やその変化にも適応できる。
【0910】
特に本実施形態例で重要な事は、複雑な構造をした巨大分子または巨大な複数分子の複合体内の解析も可能な効果を持つ所に有る。すなわち(A・3)式または(A・8)式内で記述されるハミルトニアン(Hamiltonian)Hnucl内には、膨大な数の構成原子を許容する。その巨大な分子または巨大な複数分子の複合体の中から、解析したい官能基を任意に選択できる。そこで選択された官能基に対し、7.4節で説明する手法を用いて(A・27)式内の2次係数κと4次係数κの値を算出すれば良い。それだけで(A・32)式と(A・38)式を用いて、関連する吸収帯の波長値が予測できる(必要に応じてさらに(A・61)式と(A・62)式を使用しても良い)。
【0911】
生体活動時(生体反応や触媒作用などの発生時)に特定官能基に他原子や他イオンが近接する状況を上述した。このように特定官能基に他原子や他イオンが近接すると摂動効果として、(A・27)式内の2次係数κと4次係数κの値が変化して対応吸収帯の波長値が変化する。従ってこの場合でも7.4節で説明する手法を用いて、対応する吸収帯の波長変化を理論的に予測できる。従ってこの吸収帯の波長変化から生体活動状態が予想できる。
【0912】
またそれに限らず、第8章で説明する機能性バイオ・エンジニアリング生成物内の構造確認や、製造工程管理が可能となる効果が有る。
【0913】
本実施形態例の説明として7.2節内での数式の展開(特に(C・5)式と(C・6)式)では、原子核間の結合長(Bond Length)の変化を中心に説明した。しかしそれに限らず本実施形態では、分子内構成原子間の任意の構造または形状変化に対する解析の簡素化を行っても良い。この場合には(A・27)式を導入する代わりに7.2節と類似した関係式展開(変形)を行い、他の変化(他の変数)に対応して簡素化された方程式を導いても良い。例えばグループ振動内の基準振動を形成する変角振動に関係して、分子内構成原子間の結合角(Torsional Angle)を変化させた1次元の(変数が1個の)方程式を導いて解析の簡素化を図っても良い。
【0914】
また7.2節では最終的に、時間変数t以外では1個の変数xのみが含まれる方程式(A・27)式を導出して解析の簡素化を図った。しかしそれに限らず(C・25)式に示す変数分離法を多用し、時間変数t以外ではそれぞれ1個ずつの変数のみが含まれる独立方程式を同時に複数導いても良い。
【0915】
そして異なる変数が含まれる複数の独立方程式が同時に成り立つ場合は、複数の異なる振動モード間で同時遷移(Transition)が発生する。この状態が結合音に対応する。1個の変数xのみが含まれる方程式(A・27)式のエネルギー固有値は、(A・38)式で与えられる。この結合音の場合は、各振動モードに対応した上記エネルギー固有値の線形結合の形でエネルギー準位(Energy Level)が定まる。そして(A・60)式と類似の形で、結合音に対応した吸収帯の中心波長値が理論的に予想できる。
【0916】
本実施形態の一例として7.2節では、伸縮振動に対応した解析の簡素化方法に関して説明を行った。しかしそれに限らず上記の説明のように7.2節で説明した式の展開(変形)方法の修正(例えば選択すべき変数を原子核間の“結合長”の代わりに“結合角”にして変角振動に対する解析方程式を導くなど)、あるいは式の展開(変形)の拡張(例えば変数分離を多用して異なる独立変数を含む独立方程式を複数導いて結合音の解析を可能とするなど)を行っても良い。
【0917】
7.4節 グループ振動に帰属する吸収帯波長のシミュレーション方法
量子化学計算ソフトと(C・17)式や(A・27)式、(A・60)式を組み合わせてグループ振動状態を簡易的に解析できる本実施形態例に付いて、図36を用いて説明する。
【0918】
S1で解析を開始すると、量子化学計算ソフトを用いて高分子構造(高分子を構成する各原子配置)の設定(S2)を行う。そして一般的な量子化学計算ソフトに組み込まれている構造最適化(S3)ルーチンを実行させる。
【0919】
7.3節で説明したように本実施形態では、巨大な高分子構造や複雑なそれらの複合体(構造体)を構成しても、その中の局所領域(特定の官能基周辺)での構造や反応(活動状態やその変化)の解析が可能となっている。従ってS4に示すように、局所的構造や反応(活動状態やその変化)を解析すべき領域を指定する。その一例として、グループ振動特性の解析対象となる官能基を設定しても良い。
【0920】
この方法として、ユーザが直接対象領域を指定しても良い。またそれに限らず、自動的に領域選択(領域設定)を行っても良い。この場合には予めユーザが事前に領域設定の条件を指定し、その条件に合致する領域を量子化学計算ソフトが自動的に判別しても良い。
【0921】
具体的には例えばユーザが予め、『特定の触媒反応や生体反応の活性領域(Active Area)』を量子化学計算ソフトに指定しても良い。その場合に量子化学計算ソフトが自動的に特定の水素原子を自動抽出し、その水素原子が含まれる官能基を選択しても良い。ここでその特定の水素原子は、上記触媒反応時や生体反応時に他原子や他のイオンと水素結合をしても良い。
【0922】
なおここで設定する振動特性解析対象領域としてS4では、所定の官能基を設定した。しかしそれに限らず本実施形態では、S2で設定された高分子内における任意の基準振動に関与する局所領域を設定しても良い。例えば特許文献3内では高分子内の基準振動に関与する2原子を指定し、その2原子間の基準振動を示す方程式として(A・27)式を導いた(但しこの場合はグループ振動の解析まで至って無いため、換算質量を表す関係式は(C・17)式とは異なる)。
【0923】
S4で設定された官能基内の構造は、S3で既に最適化されている。すなわち高分子のトータルエネルギーが最小になるように、この官能基内の中心原子核と周辺の水素原子核までの距離(結合長)が最適化されている。したがって中心原子核とa番目の水素原子核までの距離(結合長)は、(C・5)式と(C・6)式内の“x”(1≦a≦n)に対応する。
【0924】
なお図36では高分子構造の最適化(S3)を実施した後に振動特性解析対象となる局所領域(官能基など)の設定(S4)を行っている。しかし本実施形態例ではそれに限らず、両者間の順序(S3とS4の順序)が逆になっても良い。
【0925】
次のステップとして、S4で指定された官能基内(あるいは任意の基準振動に関与する局所領域内)の振動特性の解析を開始する。ここでは7.2節内の(A・27)式に合わせて2原子(核)間の結合長を変化させる方法の説明を行う。しかしそれに限らず本実施形態例では、中心原子(核)を挟んだ2原子(核)間の結合角を変化させても良い。
【0926】
すなわち(C・5)式と(C・6)式の計算モデルに従い、S4で設定された官能基を構成する全ての水素原子核と中心原子核との結合長を均等に“x”だけ変化させる(すらす)。そしてこの時の高分子全体のトータルエネルギーを、量子化学計算ソフトを用いて計算する(S5)。ここでa番目(2≦a≦n)の水素原子に対する結合長を“x”だけ加算するか減算するか((C・6)内の符号“±”の中で“+”側を採用するか、“-”側を採用するか)は、解析対象の振動モードの選択内容(例えば対称伸縮振動か?または逆対称伸縮振動や縮重伸縮振動か?)に拠って変化する。
【0927】
ここでずらし量xの絶対値は、(C・5)式または(C・6)式内の“x”(1≦a≦n)より小さいのが望ましい。従ってS5で設定するずらし量xは±0.1Å~±1.5Å範囲(望ましくは±0.1Å~±1.0Åの範囲)に設定するのが良い。
【0928】
この結合長の変化量xに対するトータルエネルギーの変化特性から、7.2節内(A・27)式の2次係数κと4次係数κの値を推定する。そしてこの2個の係数値を決定するには、ずらし量xとして一点のみのトータルエネルギーのみの計算結果では不足する。そのため本実施形態ではS6に示すように、ずらし量“x”の値を変化させて再度トータルエネルギーを計算する必要が有る。
【0929】
この計算仮定で、ずらし量の絶対値|x|の値が同じで正負の極性を変化させた2点でトータルエネルギー値を計算しても良い。さらに異なる別のずらし量の絶対値|x|に対して正負の極性を変化させた追加の2点でトータルエネルギー値を計算しても良い。
【0930】
このトータルエネルギー値を計算するずらし量xのサンプル数(すなわちずらし量xを変えてトータルエネルギーを算出する繰り返し計算回数)は多い方が、S7で行うフィッティングの精度が向上する。
【0931】
そしてS5とS6で算出したずらし量xに対するトータルエネルギーの変化量特性から、(A・27)式内の2次係数κと4次係数κの値を算出/適合(フィッティング)させる(S7)。このフィッティング方法として最小二乗法を用いた適合化を行っても良いし、他の任意方法での適合化を行っても良い。
【0932】
S7で得られた2次係数κと4次係数κの値を利用し、(A・61)式や(A・62)式に示した関係式を利用して対応する吸収帯の波長を理論的に算出する(S8)。また7.2節の最後に記載したように、理論予測結果と実験値間で一定比率のずれが生じる傾向に有る。それを補正するため必要に応じて、S8内に記載したように所定の補正係数を乗じ(掛け)ても良い。
【0933】
最終的にその計算結果をディスプレー上への表示、あるいは記憶媒体に保存する等の出力処理(S9)を行った後、一連の理論的振動解析を終了させる(S10)。
【0934】
特定の水素結合が生じている官能基内の水素原子を移動させた時のエネルギー変化とそれに基付く吸収波長変化に関する計算例を、第8章内の8.4節で簡単に後述する。
【0935】
第8章 機能性バイオ物質
図1A図1Cに示した本実施形態における対象体10に関する応用実施例内容を、本8章で説明する。
【0936】
8.1節 機能性バイオ物質とは
2.4節内の説明において、図1A図1Cで記載した対象体10として無機誘電体、有機物(ポリ化された高分子)や生命体を例として記載している。本第8章以前では、対象体10の具体例として“既存物”を中心に説明した。しかし“既存物”の範疇に限らず本実施形態では、新規な物質が対象体10の具体例(応用例)に含まれても良い。本第8章ではそのような視点から、対象体10に関する他の応用実施例に関する説明を行う。
【0937】
第3章と第6章で説明した光(波面収差特性が少なく、部分的可干渉性の低い/部分的非可干渉性の高い光)は、内部に-CHn形の官能基が含まれる対象体10の検出や測定に向く状況を、第5章と第7章で説明した。従って対象体10の応用例として説明する新規な物質内にも、上記-CHn形の官能基が含まれる事が望ましい。
【0938】
また生体内部の活動(生体反応や生化学反応、触媒反応など)時に一時的に特定官能基内の水素原子の近傍に他原子や他イオンが近接し、対応する吸収帯の波長変化が起こり得る状況を7.3節内で説明した。従って第3章と第6章で説明した光を用いた検出/測定対象として、生体構造や生体活動の検出/測定も適正が有ると考えられる。このような状況から対象体10の応用例として、機能性バイオ関連物質(Functional Bio-material)を提案する。
【0939】
本実施形態応用例における機能性バイオ関連物質が持つ代表的な属性は、“自然との親和性”に有る。その具体的な属性として、下記内容を列記できる。
1〕個々の機能性バイオ関連物質毎に多種多様な独自機能を有する
2〕既存の自然界では単体で存在しなかった
3〕既存生物の生体活動システムやメカニズムの一部を類似利用して生成(製造)する
4〕既存生態系や自然界に及ぼす影響が少ない(物質単体及びその派生物/生成物共に)
5〕単体及びその派生物/生成物はいずれも既存の自然環境下では自立的増殖力を持たない(他の生体への寄生形態での増殖力も持たない)
6〕既存生物が摂取しても体内では栄養補給以外の目立った独自機能を発揮しないまた上記属性に加えて、下記に記載した属性内の少なくとも1個が含まれても良い。
7〕廃却後の分解容易性を有する(微生物の分解作用に対応するなど)
8〕生成(製造)時に二酸化炭素などの分解難易性を持つ廃棄物生成を伴わない
上記属性を有する機能性バイオ関連物質の具体的な形態例として、既存の自然界では存在して無い(上記〔2〕の属性に対応)新規の工業用材料(または素材)や独自の食材、あるいは独自機能を有する部品などに利用しても良い。
【0940】
既に遺伝子操作を施した農作物が存在する。しかしこれら農作物から生成される種子は自然環境下で自立的増殖力を持つため、上記〔5〕の属性に合致しない。従って本実施形態における機能性バイオ関連物質その物あるいはその生成物(遺伝子操作を施した農作物の種子に対応)が誤って自然環境下に流出しても既存の生態系を乱す恐れが無い(上記〔4〕の属性にも合致)。
【0941】
また一方でバイオ技術を利用した医薬品の開発が進められている。これら医薬品の体内摂取目的に“治療(治癒)効果”と言う独自機能を有するため、上記〔6〕の属性には該当しない。
【0942】
既存の工業用プラスチック材では、主鎖部(Principal Chain Part)に互いに共有結合で繋がれた炭素原子やシリコン原子が繰り返し連結された構造を有する場合が多い。この炭素原子間あるいはシリコン原子間の共有結合部は結合力が強いため、構造的に分解され難い。
【0943】
一方で蛋白質内のペプチド結合部(Peptide Bonding Part)の結合力は共有結合部よりも弱いため、微生物の作用などで容易に分解され易い。そのため蛋白質構造体は廃却後の分解容易性が高い(上記〔7〕の属性に合致)。
【0944】
この機能性バイオ関連物質の生成方法(あるいは製造方法)の詳細に付いては、第9章で詳細に説明する。ここでは上記〔3〕に記載した属性に関連して、簡単に効果を説明する。
【0945】
例えば多量な羊毛収得には、羊の飼育に多大な労力と費用が必要となる。それと比べて特定部位のみの培養や微生物を利用したアミノ酸生成など、生体活動の一部の(類似)システムや(類似)メカニズムを利用すると、機能性バイオ関連物質の製造効率が大幅に向上する。
【0946】
このように生体活動の一部の(類似)システムや(類似)メカニズムを利用して機能性バイオ関連物質の開発または生成を行う技術を、本実施形態システム内では“バイオ・エンジニアリング”と呼ぶ。
【0947】
ところで多種多様な蛋白質はその立体構造(Conformation)に応じて多様な独自機能を発揮する(上記〔1〕の属性に合致)事が知られている。。従って本実施の応用形態における機能性バイオ関連物質内の一部にアミノ酸(Amino Acid)が含まれても良い。従って本応用実施形態の機能性バイオ関連物質とは、少なくとも一部にアミノ酸が含まれ、独自な機能を有する物質(素材または食材、機能部品)と定義し直しても良い。
【0948】
そして上記定義に限定せず、他の見方で上記機能性バイオ関連物質を定義しても良い。機能性バイオ関連物質内の一部にアミノ酸が含まれても良いと、説明した。その見方をさらに進めた形で機能性バイオ関連物質の範疇を捉え、あらゆる人工蛋白質を機能性バイオ関連物質に含めても良い。この場合には、人工蛋白質内に含まれるアミノ酸選別やアミノ酸配列(Amino Acid Sequence)、または立体構造(Conformation)を制御して、各種独自の機能を発揮する。
【0949】
本実施形態では、自然に存在する各種蛋白質に対してアミノ酸配列が0.1%以上(望ましくは1.0%以上)異なる場合に、人工蛋白質と呼ぶ。多くの蛋白質はそれぞれ独自の立体構造(Conformation)を有し、この立体構造が独自機能発揮に大きく影響する。そして蛋白質を構成するアミノ酸配列が0.1%(すくなくとも1.0%)でも変化すると、この立体構造が大幅に変化する。従って8.2節または8.3節で後述するように本実施形態では、自然に存在する蛋白質のアミノ酸配列を0.1%(すくなくとも1.0%)以上変えて立体構造を大きく変化させて、人工蛋白質として独自の機能を発揮させても良い。
【0950】
上記で説明した“内部の少なくとも一部にアミノ酸が含まれる機能性バイオ関連物質”や、人工蛋白質で構成された機能性バイオ関連物質は、必ずしも上述した〔1〕~〔6〕の属性を全て持たなくても良い。しかし自然との親和性を持つ事が望ましい。
【0951】
ところで本実施形態では工業用材料/素材や食材または機能部品などの単なる最終的生成物に限らず、その生成物に対する生成元物質も機能性バイオ関連物質に含めても良い。機能性バイオ関連物質に含まれる生成元物質の具体的な一例には、上記人工蛋白質の生成情報が組み込まれたゲノムを細胞核に保有する細胞が含まれても良い。そしてこの細胞は、ゲノム編集(Genome Editing)技術として知られる例えばCRISPR(Clustered Regularity Interspaced Short Palindromic Repeats)/Cas9(CRISPR-Associated Protein 9)あるいはZFN(Zinc Finger Nuclease)、TALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease)などの技術を利用してゲノム編集されている。
【0952】
このゲノム編集後の遺伝子情報は上述した〔3〕に関連して、mRNA(Messenger Ribonucleic Acid)に一度転送された後、tRNA(Transfer Ribonucleic Acid)で蛋白質合成(Protein Synthesis)される。従って上記細胞のゲノム内が各種の独自機能を有する人工蛋白質の“生成に必要な情報の記憶機能”を持つと言う意味で、本実施形態における機能性バイオ関連物質に含まれても良い。また上記細胞はゲノム内への“情報記憶機能”を持つばかりでなく、細胞内での人工蛋白質の“生成(製造)機能”も有している。
【0953】
上記人工蛋白質の生成情報が記録されたゲノムを細胞核内に保有する細胞は、必ずしも上述した〔1〕~〔6〕の属性を全て持たなくても良い。しかし“〔5〕自然環境下で単体や寄生形態として自立的増殖力を持たない”属性を満足するため、上記細胞形態として種子形態や受精卵、ウィルス形態を取らない事が望ましい。
【0954】
8.2節 機能性バイオ物質の独自機能発揮方法から見た分類分け
本実施形態における機能性バイオ物質を独自機能発揮方法で分類分けした内容を、図37に示す。いずれの機能性バイオ物質またはそれを生成するバイオ・エンジニアリングにおいても、第3章または第6章で説明した照射光12または検出光16との間で独自な相互作用が存在する。個々の具体的な相互作用部位(やその内容)は、図37内の“光学的検出対象部位”欄に記載した。従って上記の照射光12または検出光16を用いて、機能性バイオ物質内部の構造分析や(検出特性の変化を用いた)製造管理が行える。
【0955】
図37に示した機能性バイオ物質としては8.1節の説明内容に沿って、特定機能を発揮する素材や部品、あるいは食材、酵素、細胞などの例を記載した。しかしそれに限らず本実施形態では、〔2〕自然界で既に存在せず、〔3〕既存生物生体活動一部の(に類似した)システムやメカニズムを利用して生成(製造)するあらゆる物質を含めても良い。
【0956】
図37と8.3節では説明のし易さから、繊維状の形状をし、また毛髪内に含まれるフィブロイン(Fibroin)構造の改良を中心に具体例を示した。しかしそれに限らず本実施形態では、既存に存在するあらゆる蛋白質の改良や多糖類(Polysaccharide)の改良でも良い。
【0957】
本実施形態において機能性バイオ物質が独自機能を発揮する方法として図37に示すように、・アミノ酸配列の変化を含めた立体構造的特徴を利用した物や・多量体(Polymer)を構成する一種類の単量体(Monomer)を別単量体に置換した構造、・所定アミノ酸配列内に特定アミノ酸の挿入や置換させた物、・蛋白質内の所定の活性領域(Active Area)の構造を変化させた物、・基質(Substrate)を加水分解(Hydrolysis)や脱水縮合(Dehydrating Condensation)させて新たな活性領域を生成させる酵素あるいは既存酵素の高速/高性能化(分解酵素など)、・アミノ酸配列を記録するゲノムを細胞核内に有する細胞・ゲノム編集を多量に効率良く行うためのゲノム編集モジュールとそのキャリア構造や・繊維状蛋白質の生成細胞などが上げられる。
【0958】
8.3節 アミノ酸配列や立体構造で機能を発揮する機能性バイオ物質の実施例
図37の一覧表内容に対応した具体的な一例を以下に説明する。、本8.3節では、図37“機能発揮方法”の欄内での“立体構造的違い”や“アミノ酸配列”で独自機能を発揮する方法に付いて説明する。8.3節内での説明内容はほんの一例に過ぎず、機能性バイオ物質として“立体構造的違い”や“アミノ酸配列”で独自機能を発揮する他のあらゆる方法も含まれても良い。
【0959】
始めに既存の蛋白質に対してアミノ酸配列を一部変化させる事で立体構造に特徴を持たせて独自機能を発揮する機能性バイオ物質の説明を行う。
【0960】
巨大蛋白質の立体構造内の一部が、αヘリックス(α-Helix)構造やβシート(β-Sheet)構造を有する場合が多い。このαヘリックス内部ではアミノ酸の主鎖(Principal Chain)が螺旋構造を描きながら円柱構造を形成する。そしてこの円柱の側面壁表面近傍で柱方向に沿った水素結合に拠って一定の強度が保たれる。
【0961】
またβシートでは屏風のように折れ曲がった紙が何重にも重なった構造を持ち、紙の重なり方向に発生した水素結合で一定の強度が保たれる。
【0962】
これらの水素結合領域での水素原子を中心とした伸縮振動の基準音や第1/第2倍音に対応した吸収帯が発生する。この吸収帯の波長と光吸収量から、立体構造が有る程度予想できる。具体的な水素結合部で発生する吸収帯の波長域は、第1倍音では1.5~1.7μmの範囲内に含まれ、第2倍音では1.0~1.2μmの範囲内に含まれる。ここでαヘリックス内の水素結合距離(長)がβシートよりも若干長いため、対応する吸収帯の波長がαヘリックスとβシートでは若干異なる。
【0963】
外部から加わる圧力や機械的振動の影響でαヘリックスやβシート内の一部の水素結合が切断されると、全体の立体構造が変化する。この変化を利用して圧力センサや振動センサに利用される。この内容が、図37内の1行目“力学的立体構造変化”に対応する。またこの時の吸収帯内の光吸収量変化が生じる波長から、どこの水素結合が切断されたか予想できる。
【0964】
また温度による立体構造変化が起き易い機能性バイオ物質は、感熱センサになる。これは、図37内の2行目“熱的立体構造変化”に対応する。また温度変化によっても上記と同じ理由から吸光特性の変化が現れる。
【0965】
フィブロインは蚕の絹糸や蜘蛛の繭糸の主要成分として知られる。アミノ残基(Residue)の小さなアミノ酸の組成比が90%に達する特殊な蛋白質で、組成の約35%をグリシン(Glycine)、約27%をアラニン(Alanine)が占める。
【0966】
自然に存在するフィブロインの構造は図38に示すようにβシート構造を持つβシート形結晶部602と非結晶部604から構成される。そして自然界に存在するフィブロイン内でこのβシート形結晶部602が全体に占める割合(結晶化度)は、約40%~50%と言われている。なお図38内非結晶部604内の曲線は、ペプチド結合されたアミノ酸の主鎖を表している。
【0967】
なお天然のフィブロインに関する情報は、https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=フィブロイン&oldid=57333210に記載されている。
【0968】
このβシート形結晶部602内部での(βシートを構成する)水素結合部に照射光12を照射した場合、そこから得られる検出光16からはβシートの水素結合(伸縮振動の基準音や第1倍音、第2倍音、結合音)に対応した吸収帯が特定波長で検出される。この吸収帯の波長測定に、図1A図1Cの測定装置を用いても良い。
【0969】
またその吸収帯内での光吸収量は、上記の結晶化度に応じて変化する。例えば結晶化度が40%より低いと、上記吸収帯内での光吸収量は減少する。一方で結晶化度が50%より高いと、光吸収量は増加する。従ってフィブロインから得られる検出光16から測定される対応吸収帯の光吸収量から、フィブロインの結晶化度が定量的に予測できる。
【0970】
特に照射光12に2.6節で説明した近赤外光を用いた場合、βシート内水素結合部での伸縮振動の第1倍音に帰属する吸収帯と伸縮振動の第2倍音に帰属する吸収帯の両方を同時に検出できる。そしてこの両方の吸収帯内での光吸収量は共に、上記結晶化度が増加すると増加する(結晶化度が減少すると光吸収量も減少する)。
【0971】
1個の波長域のみでの光吸収量の増減検出では、何らかの外乱ノイズの影響で誤検出する危険性が有る。しかし異なる複数の波長域(第1倍音より第2倍音に帰属する吸収帯の波長値が小さい)での吸収帯内の光吸収量を同時測定できるため、結晶化度の測定精度が向上する効果が有る。
【0972】
上記天然のフィブロインを改良して生成した機能性バイオ物質の実施形態例を図39A図39Bに示す。いずれの生成方法も8.1節の最後に簡単に記述した方法を利用している。すなわち人工蛋白質内のアミノ酸配列をゲノム編集技術で一部変更し、mRNA転写を経てtRNAを用いた蛋白質合成で生成される(詳細は8.5節で後述)。
【0973】
図39A(a)は改良形フィブロイン内の結晶化度を40%以下(望ましくは35%以下)に設定した構造で、図37内の3行目“良触感柔軟材:βシート形結晶化度を減少”に対応する。βシートを形成する水素結合の比率も低いので、対応する吸収帯内での光吸収量は(第1倍音と第2倍音共に)相対的に低い。
【0974】
強度の有る(比較的硬い)βシート形結晶部602の比率が少なく、非結晶部604の比率が高いので、触感(肌触り)が良く、柔らかい素材となっている。
【0975】
図39A(b)は改良形フィブロイン内の結晶化度を50%以上(望ましくは55%以上)に設定した構造で、図37内の4行目“剛性材・補強材:βシート形結晶化度を増加”に対応する。βシートを形成する水素結合の比率が高いので、対応する吸収帯内での光吸収量は(第1倍音と第2倍音共に)相対的に高い。
【0976】
強度の有る(比較的硬い)βシート形結晶部602の比率が高く、非結晶部604の比率が低いので、強度や剛性が高い素材となっており、補強材用の材質に適正が有る。
【0977】
αヘリックス内あるいはβシート内の水素結合部から得られる吸収帯を用いた方法は図39A(a)や(b)の構造を有した機能性バイオ物質に限らず、内部にαヘリックスあるいはβシート構造を有するあらゆる機能性バイオ物質内の構造検査やその変化の検出/測定に使用しても良い。
【0978】
図39A(c)は改良形フィブロイン内の非結晶部604内に酸性残基(Acid Residue)を持ったアミノ酸を添加した構造で、図37内の5行目“酸性残基含有”に対応する。ところで酸性残基を持ったアミノ酸は一般に負電荷を持っており、他物質と反応し易い。電荷量を中和して他物質との反応性を下げて構造を安定化させるため、本実施例では図39A(c)に示すように、カルボキシル基(Carboxyl Group)616に正電荷を持ったカチオン(Cation)を添加(エステル化(Esterification))している。このカチオンとしてナトリウムイオンに限らず、あらゆるカチオンを添加しても良い。
【0979】
酸性残基性アミノ酸の中に含まれるカルボキシル基616は、親水性が非常に高い。従って非結晶部604内にカチオンを添加した酸性残基性アミノ酸を配置する事で、非常に吸水性の高い機能性バイオ物質となる。
【0980】
非結晶部604内にカチオンを添加した酸性残基性アミノ酸が含まれるか否かは、カルボキシル基616(の伸縮振動の第2倍音あるいは第1倍音)に対応した波長値に吸収帯が存在するか否かで判定できる。エステル化されたカルボキシル基の第2倍音に対応する吸収帯は、1.8~2.0μmの波長域内に存在する。従って例えば図39A(c)の構造を目指して作成した人工蛋白質から得られる検出光16を調べ、上記波長域内に固有の吸収帯が観測されるか否かを判定する。もし上記波長域に吸収帯が存在しない場合には、エステル化された酸性残基性アミノ酸が含まれて無い(目的の人工蛋白質が生成されなかった)と判断する。
【0981】
この酸性残基を持ったアミノ酸として図39A(c)内では、アスパラギン酸(Aspartic Acid)+カチオン612を組み込んだ例を示している。しかしそれに限らず、例えばエステル化した(カチオンが添加された)グルタミン酸(Glutamic Acid)を組み込んで
も良い。
【0982】
また図39A(c)の構造に限らず、内部にカルボキシル基を含むあらゆる機能性バイオ物質内の構造分析やその変化に上記波長範囲の光を使用しても良い。
【0983】
フィブロインが10数種類のアミノ酸で構成された蛋白質なので、フィブロインの栄養補給食品への応用が開発されている。しかしフィブロインの分子量が35万から37万と非常に大きいため、消化吸収性に課題が有る。現在は酵素分解法を利用してオリゴペプチド(Oligopeptide)への低分子化が可能では有るが、パウダー状になる事で噛み心地が失われるなど食感が損なわれる問題が有る。
【0984】
その課題を解決する本実施形態例を図39Bに示す。またこの内容は図37内の6行目“オリゴペプチド結合”の内容に相当する。すなわち低分子化されたオリゴペプチドに起こり易いパウダー状態を組み合わせて食肉に近い噛み心地を提供し、摂取するユーザの満足度を高める効果を発揮している。
【0985】
アクチン・フィラメント(Actin Filament)やミオシン・フィラメント(Myosin Filament)は、食肉の主成分の一部を構成する。このアクチン・フィラメントは、アクチン2量体がADPで結合され、トロポミオシン(Tropomyosin)で外側が補強された構造となっている。ここでアクチン2量体自体は非常に小さく、単離されたアクチン2量体はパウダー状となっている。
【0986】
このアクチン・フィラメント構造を参考にして、低分子化されたフィブロイン改良品に食肉のような食感(噛み心地)を提供する機能性バイオ物質構造例を図39Bに示す。すなわち低分子化されたフィブロインを改良した分子単量体620内におけるアミノ酸配列端部にADP(Adenosine Diphosphate)固定部626とATPアーゼ活性部(Active Area of Adenosine Triphosphate Ase)622を形成する。
【0987】
図39Bに示す低分子化されたフィブロインを改良した分子単量体620はKClなどの塩水溶液中で、ATPの加水分解(Hydrolysis)を経てポリマー化される。最初にADP固定部626に固定されたATPが、マグネシウム・イオンと共にATPアーゼ活性部622に接触する。するとATPアーゼ活性部622の触媒効果で、ATPが加水分解される。その時にγ-燐酸基(γ-Phosphate Group)を放出するが、APTから分解されたADP624が残ってポリマー(多量体)を形成する。
【0988】
このADP624で結合されたポリマー(多量体)を入れた水溶液中からKClなどの塩成分を除去すると、モノマー化(単量体化)し易い特性を持つ。このように図39Bに示す多量体(ポリマー)構造の非堅牢性が、人体内での消化/吸収を促進する効果が有る。
【0989】
このAPTアーゼ活性部622を構成するアルギニン(Arginine)やリシン(Lysine)などの塩基性残基(Basic Residue)を持ったアミノ酸がATPやマグネシウム・イオンと結合する。この時に上記塩基性残基と燐酸基との間で水素結合が発生する。この水素結合の伸縮振動に帰属する吸収帯は、第1倍音に関しては1.4~1.6μm範囲の波長域内、第2倍音に関しては0.95~1.1μm範囲の波長域内に現れる。特にこの吸収帯は非常に特殊で、吸収帯の波長から水素結合相手の塩基性残基の種別(アルギニンか?リシンか?ヒスチジン(Histidine)か?)まで判別できる。
【0990】
またポリマー(多量体)状態からモノマー(単量体)状態に戻った時には、上記塩基性残基と燐酸基間の水素結合が切れる。従って図39Bのように塩基性残基と燐酸基間の水素結合が関与する場合には、そこから得られる検出光16の吸光特性から詳細な結合状態をモニターできる。
【0991】
近赤外光を用いた構造あるいは結合状態およびその変化の測定に関しては図39Bの実施例に限らず、塩基性残基と燐酸基間の水素結合が関与するあらゆる機能性バイオ物質(およびその内部での変化)に適用しても良い。
【0992】
図37内の6行目に記載した電位センサ機能例に付いて説明する。電位依存性イオン・チャネル(Voltage-gated Ion Channel)は、細胞膜を貫通する長さを持った複数のα-ヘリックス構造から構成される事を特許文献3で記載されている。その中の少なくとも1個の細胞膜貫通形α-ヘリックスの一部が、荷電極性残基(塩基性残基または酸性残基)を持つアミノ酸を含む。外部から直流電場(電位差)が与えられると、この荷電極性残基に静電気力が働く。その結果として電位依存性イオン・チャネルの立体構造が一部変化し、ゲートが開く構造となっている。
【0993】
上記原理を応用して図37の7行目“荷電極性残基含有”に記載した実施例では、比較的立体構造変化が容易に起き易い既存の蛋白質の一部に、荷電極性残基(塩基性残基または酸性残基)を持つアミノ酸を組み込む。そしてこの荷電極性残基に静電気力が働いて立体構造を変化させる事で、電圧センサの機能を発揮させる。
【0994】
上記電圧センサの機能を発揮させるには、荷電極性残基を持つアミノ酸の周辺に逆極性のイオンが局在して電荷的に中性化して無い必要が有る。生体内の水分(水溶液)中にはナトリウムイオンや塩素イオンが多量に含まれている。アスパラギン酸やグルタミン酸などの酸性残基を持つアミノ酸では図39(c)のようにエステル化されて(ナトリウムイオンなどの)カチオンと結合し易い。前述したように、エステル化前後で吸収帯の波長が変化する。従って電圧センサとしての機能性バイオ物質から得られる検出光16の吸光スペクトル内に現れる吸収帯の波長から、電圧感受部がエステル化されて電荷的に中性化して無いか否かが判定できる。
【0995】
同様にアルギニンやリシン、ヒスチジンなどの塩基性残基を持つアミノ酸の場合、塩基性残基周辺に塩素イオンなどのアニオン(Anion)が付着して電荷的に中和させる危険性が有る。このように塩基性残基周辺にアニオンが付着した場合も水素結合が生じた場合と同様に、吸収帯の波長が変化する(所定量波長が長くなる)。特にこの場合には、伸縮振動の第1倍音あるいは第2倍音に帰属する吸収帯の波長値で、塩基性残基を持つアミノ酸の種別と付着したアニオンの予想が可能となる。
【0996】
このように電圧センサの機能を持った機能性バイオ物質での機能安定性や不具合時の原因を、検出光16の吸収スペクトル内に現れる吸収帯の波長から予想できる。また上記方法は電圧センサに限定されず、塩基性残基を持つアミノ酸を含むあらゆる機能性バイオ物質に適用しても良い。すなわち塩基性残基を持つアミノ酸を含むあらゆる機能性バイオ物質から得られる検出光16の吸収スペクトル内に現れる吸収帯の波長から、塩基性残基とアニオン間の付着に関係した機能安定性の確認や機能不全の原因追及が行える。
【0997】
本8.3節内の前半で、『改良形フィブロイン内の結晶化度を50%以上(望ましくは55%以上)に設定すると、機械的強度が向上して剛性材・補強材に適する(図37内の4行目)』と説明した。
【0998】
このように改良形フィブロイン内の結晶化度を(50%以上)に高めて所定形状の構造体を作る事が可能となる。本実施形態の応用例として、成形性に優れた構造体の作成方法に付いて以下に説明する。なお以下では実施形態の一例として、フィブロインをベースとしたβシートを組み合わせて構造体を構成する方法の説明を行う。しかしそれに限らず、例えばαヘリックス構造を組み合わせて構造体をしても良い。さらにαヘリックスとβシートを組み合わせて構造体を構成しても良い。
【0999】
βシート構造を取る結晶部を基本ユニット(単量体(Monomer)ブロック)とし、それを集めた集合体(多量体(Polymer))でブロックを構成する。そしてそのブロック間を組み合わせて構造体を形成する。構造体の作成時に、比較的サイズの大きな(人間が扱い易いサイズの)ブロックを単位として扱うため、作成の利便性が向上する効果が有る。
【1000】
また静電気力などの所定の凝集力を用いて集合体内部での基本ユニット間を結合するため、集合体が壊れ難くなる効果も有る。下記では基本ユニット間の結合力に静電気力を利用した例を示す。すなわち上記基本ユニットの外壁(近傍)の一部に“電荷領域”を持つ構造を持たせる。そしてこの電荷領域には“正電荷を持った領域”と“負電荷を持った領域”を混在させても良い。さらに少なくとも2個の基本ユニット間で、正電荷あるいは負電荷を持った領域の位置を一致させても良い。
【1001】
しかし静電気力を使用するだけに限らず、ファン・デル・ワールス力や水素結合力、イオン結合力、共有結合力などを基本ユニット間の結合力に利用しても良い。
【1002】
また図49で後述するように基本ユニット(改良版βシート形結晶部(単量体ブロック)1602)のみで凝集する代わりに、何らかの凝集させる媒介物を使用しても良い。その凝集を助ける媒介物として例えば、図39BのようにADP624を用いても良い。
【1003】
また単量体を集めて多量体化する場合、あるいは多量体のブロックを集めて構造体に成形する場合に、静電気力などの凝集力を引き出すために上記を混入させた水溶液の水質を変化させる。本実施例では水溶液中のアニオン(塩素イオンなど)やカチオン(ナトリウムイオンなど)の濃度を下げるために純水に置換する。しかし本実施形態例はそれに限らず、例えば水溶液中のpH値や水溶液の温度を変化させても良い。
【1004】
なお説明の便宜上、下記に説明する構造体は全て蛋白質から構成される例を上げている。しかしそれに限らず、蛋白質と既存のエンジニアリング・プラスチックの混合材、あるいは他の材質を混ぜても良い。
【1005】
下記に説明する基本ユニット(単量体ブロック)として図49(a)が示すように、フィブロイン内のβシート形結晶部を出発点とする。この既存のフィブロイン内のβシート形結晶部に対して8.5節または9.2節で後述するゲノム編集を行い、改良版βシート形結晶部(単量体ブロック)1602を生成する。
【1006】
20種類存在するアミノ酸の中で、電荷(Charge)も極性(Polarity)も持たないアラニン、およびバリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、グリシン、システインを“非極性残基(Non-Polar Residue)を持ったアミノ酸”と呼ぶ。この非極性残基を持ったアミノ酸のみで構成された蛋白質は、疎水性が高い。
【1007】
従って本実施形態例において水に溶け難い構造体を構成したい場合には、蛋白質を構成するアミノ酸の中で50%以上(望ましくは70%以上または80%以上)が上記非極性残基を持ったアミノ酸で構成させても良い。上記疎水性の影響で結晶部集合(多量体)ブロック1604(図49(b))内の改訂版βシート形結晶部(単量体ブロック)1602間の隙間に水分が侵入し辛く、水に溶け難くする効果が生まれる。さらに上記の組成条件を満足すると、水分の吸収に拠る膨潤が生じ辛くなり、構造体の構造(寸法)安定性も向上する。
【1008】
一方で例えば薬のカプセルなど水溶性の高い構造体を生成したい場合には、構造体を構成する蛋白質内での非極性残基を持ったアミノ酸の含有量を50%以下(望ましくは40%以下または30%以下)にしても良い。このように組成比を選択すると、改良版β形結晶部(単量体ブロック)1602間の隙間(図49(b))、あるいは結晶部集合(多量体)ブロック1604間の隙間に水分が混入して凝集力を低下させ、水中で構造分解を起こし易くなる。
【1009】
本8.3節内の中央部で、「既存のフィブロインを食料への応用を試みた場合、分子量が大きいので消化/吸収が難しい」と説明した。しかし本実施形態での基本ユニット(単量体ブロック)は、比較的分子量が小さな1個の結晶部のみを取り扱う(図49(a))。さらに蛋白質内での非極性残基を持ったアミノ酸の含有量を50%以下(望ましくは40%以下または30%以下)にして、改良版βシート形結晶部(単量体ブロック)1602自体の水溶性を向上させると、体内での消化/吸収効果がより一層向上する。その結果として、食品や化粧品などへの適正が大幅に向上する効果が生まれる。
【1010】
図49(a)では線状の蛋白質が折れ曲がり、βシートを生成している状況を示している。この蛋白質を構成するアミノ酸の中で、リシンおよびアルギニン、ヒスチジンはいずれも“塩基性残基(Basic Residue)を持ったアミノ酸”と呼ばれている。そして蛋白質内のこの塩基性残基を持ったアミノ酸が配列された場所が“+”の記号で示した“結晶部内の正電荷領域”の場所を形成する。
【1011】
すなわち図49(a)に示す改良版βシート形結晶部(単量体ブロック)1602を構成するアミノ酸内に、塩基性残基を持ったアミノ酸を配置する。その結果として基本ユニットに相当する改良版βシート形結晶部(単量体ブロック)1602の外壁(近傍)の一部に正電荷領域が形成される。
【1012】
一方で20種類のアミノ酸に含まれるアスパラギン酸とグルタミン酸は“酸性残基(Acidic Residue)” を持ったアミノ酸”と呼ばれている。そして蛋白質内のこの酸性残基を持ったアミノ酸が配列された場所が“-”の記号で示した“結晶部内の負電荷領域”の場所を形成する。
【1013】
すなわち図49(a)に示す改良版βシート形結晶部(単量体ブロック)1602を構成するアミノ酸内に、酸性残基を持ったアミノ酸を配置する。その結果として基本ユニットに相当する改良版βシート形結晶部(単量体ブロック)1602の外壁(近傍)の一部に負電荷領域が形成される。
【1014】
本実施形態例では基本ユニットに相当する改良版βシート形結晶部(単量体ブロック)1602の外壁(近傍)の一部に電荷領域を持つ構造にする事で、構造体を構成する改良版βシート形結晶部(単量体ブロック)1602間の静電気力を利用した凝集力を高める効果が生まれる。そのため単量体間の結合力が高まり、構造体全体の機械的強度が上がる。
【1015】
図50Aを用いて詳細に後述するように、体内で蛋白合成をする分泌性微生物が生息する水溶液中には、塩素イオンとナトリウムイオンが多量に含まれている。いずれのイオンも水溶液中の電離度(Degree of Ionization)が高いため、上記の電荷領域とイオン結合して“塩(Salt)”を構成する比率は低い。従って多量の改良版βシート形結晶部(単量体ブロック)1602をこの水溶液中に滴下しても、凝集作用は起きない。
【1016】
しかし多量の改良版βシート形結晶部(単量体ブロック)1602が混入している水溶液中の塩素イオンとナトリウムイオンの濃度を下げて純水に置換した上で乾燥させると、改良版βシート形結晶部(単量体ブロック)1602の外壁(近傍)に配置された電荷領域間で静電気力が働いて凝集する。
【1017】
この凝集した結果として、図49(b)に示す結晶部集合(多量体)ブロック1604が生成される。ここで結晶部集合(多量体)ブロック1604の外壁部では、電荷量を中性化させるため、塩素あるいはナトリウム間の“塩”が生成される。
【1018】
さらにこの結晶部集合(多量体)ブロック1604を多量に含んだ水溶液中で純水に置換して塩素イオンとナトリウムイオンを除去した後に乾燥させると、図49(c)に示す最終的な構造体が形成される。ここで図49(c)が示すように、成形された構造体表面に表面コート層1610が塗布されている。この表面コート層1610の働きで、構造体表面近傍に残った電荷領域の悪影響が除去される。
【1019】
図49(b)の構造をした結晶部集合(多量体)ブロック1604の成形手順例を、図50Aに示す。最初(S71)に、8.5節または9.2節で後述するゲノム編集を行うためのアミノ酸配列設計(アミノ酸への転写の基になるDNAの塩基配列設計)を行う(S72)。
【1020】
体内で蛋白質合成をして体外に分泌する(secrete)微生物として麹菌を使用しても良いし、グルタミン酸生産菌のCorymebacterium Glutamicumを使用しても良い。またそれに限らず、破砕して菌体内の蛋白質の抽出に適した大腸菌を使用しても良い。
【1021】
合成した蛋白質を分泌する細菌(微生物)を使用して単量体ブロック(改良版βシート形結晶部)1602を生成(S74)する場合、図46(詳細は第10章内で後述)に示す光学的管理装置(測定装置)1020を用いて単量体ブロック(改良版βシート形結晶部)1602の分泌量を光学的モニター(S75)しても良い。
【1022】
S78で、この分泌された改良版βシート形結晶部(単量体ブロック)1602の抽出と精製を行う。この抽出と精製を行う水溶液中には、塩素イオンとナトリウムイオンが多量に含まれている(食塩水に近い状態)。
【1023】
次にこの水溶液を純水に置換して塩素イオンとナトリウムイオンの濃度を下げた後、乾燥させて単量体ブロック(改良版βシート形結晶部)1602間を凝集させる(S78)。その凝集した結果として、結晶部集合(多量体)ブロック1604が得られる。
【1024】
ここで最終の構造体に成形するには図49(c)に示すように、結晶部集合(多量体)ブロック1604のサイズが均一に揃っている事が望ましい。この所定範囲内のサイズを持った結晶部集合(多量体)ブロック1604の抽出(S79)には、濾過処理を利用しても良い。すなわち結晶部集合(多量体)ブロック1604を一時的に純水中に分散させた形で濾紙を複数回通過させる。そしてこの濾紙の網目サイズを変化させる事で、所定範囲内の結晶部集合(多量体)ブロック1604のみを選択できる。
【1025】
なお結晶部集合(多量体)ブロック1604の長期安定性を保持するため、選択抽出した結晶部集合(多量体)ブロック1604は乾燥雰囲気中で長期保存する(S80)。
【1026】
乾燥雰囲気中での長期保存を持って、結晶部集合(多量体)ブロック1604自体の生成が終了する(S81)。ここで生成された結晶部集合(多量体)ブロック1604は、粉末状または顆粒状となっている。一時的にこのような形状で管理する事で、最終構造体への成型容易性を向上させる効果が有る。
【1027】
この粉末状または顆粒状の結晶部集合(多量体)ブロック1604を用いた構造体への成形には、3Dプリンタ方式や注型(Casting)方式を利用しても良い。ここで図50Bは、注型方式を用いた構造体成形への手順の一例を示している。また図50Cは、3Dプリンタ方式を用いた構造体成形への手順の一例を示している。図49(b)に示すように、結晶部集合(多量体)ブロック1604の外壁ではナトリウム原子や塩素原子が結合した“塩”の状態となっている。いずれの成型方法でも、粉末状または顆粒状の結晶部集合(多量体)ブロック1604を一度水中に分散させて(S83及びS86)外壁に結合したナトリウム原子や塩素原子を除去し、結晶部集合(多量体)ブロック1604間の凝集
力を高めるのが望ましい。
【1028】
すなわち図49(b)において結晶部集合(多量体)ブロック1604の外壁を覆うナトリウム原子や塩素原子を除去すると、“外壁(近傍)の電荷領域”が露出する。この露出した電荷領域間の静電力の働きで、構造体内での結晶部集合(多量体)ブロック1604間の凝集力として働く。
【1029】
さらに結晶部集合(多量体)ブロック1604を水中に分散させると、成形時の取り扱い容易性が大幅に向上する。すなわちこの状態にすると、3Dプリンタ/インクジェットプリンタに使用されるインクとして使用できる。また水中分散状態で注型方式を利用した場合、どんな微細な型形状に対しても適合した形状を持つ構造体が作れる効果が生まれる。
【1030】
例えば注型方式でアクリル板を成形する場合、温度制御による架橋完了に一晩分の時間が掛かる。それに比べて本実施形態では早期乾燥を促進させる事で、非常な短時間での凝集(S84)が可能となる。
【1031】
3Dプリンタ方式で構造体に成形する場合には、逐次3次元的に積層される上部に風を吹き付けて(空気噴射して)乾燥を早め(S88)ても良い。乾燥が早まる程、凝集の高速化が実現できる。
【1032】
いずれの成形方式でも構造体として完成した後に完全乾燥させて(S85、S89)、結晶部集合(多量体)ブロック1604間の凝集を強固にさせる。
【1033】
その後で、成形された構造体の表面に表面コート層を塗布し(S91)、乾燥させて(S92)、構造体の成形が終了する(S93)。
【1034】
なお上記では成形の一例として、注型と3Dプリンタを例にして説明した。しかし本実施形態ではそれに限らず、他のいかなる成形方式を採用しても良い。
【1035】
8.4節 活性領域内構造や酵素として機能を発揮する機能性バイオ物質の実施例
図37“機能発揮方法”の欄内での“活性領域(Active Area)内構造”や新規な“酵素として働く”方法で独自機能を発揮する方法の例に付いて、本8.4節内で説明する。8.4節内での説明内容はほんの一例に過ぎず、機能性バイオ物質として“活性領域内構造”や“酵素”として独自機能を発揮する他のあらゆる方法も含まれても良い。
【1036】
図40Aは、人工蛋白質を用いて導電性機能(Conductive Function)を発揮する実施形態例を示す。この実施形態例は、図37内の9行目“水中対応導電線”に相当する。ここで外側に蛋白質内主鎖領域632、634が複数存在し、その内側に活性領域が配置された構造となっている。そして内側の活性領域630内が導電構造(Conducting Structure)を有する。
【1037】
図40Aで説明の便宜上、平面配置の形で記載した。しかしそれに限らずDNA(Deoxyribpnucleic Acid)の2重螺旋構造のように、蛋白質内主鎖領域632、634が2重
螺旋の構造をしても良い。またそれに応じて活性領域630が平面状ではなく、ねじれた構造(Helical Structure)となっても良い。
【1038】
水中に平面構造の活性領域630を晒すと、純水中でも若干の導電性を持つため電気的漏れが発生する。特に生体内部の水溶液中はナトリウムイオンや塩素イオンが多量に含まれているため、平面構造の活性領域630では電気的リークが多量となる。
【1039】
蛋白質内主鎖領域632、634が2重螺旋の構造を取る事で外部に対する皮膜の働きをし、活性領域630から外部への電流の漏れを防止する絶縁効果が発生する。
【1040】
図40Aに示す本実施形態例では、ねじれを有した活性領域630内がπ電子局在領域(Localized Molecular Orbital Area of π-Electron)となっている。トリプトファンTrp残基内の6因環部(6-Atoms Cyclic Compound Part)と5因環部にはπ軌道(Localized Molecular Orbital of π-Electron)の電子が存在する。そしてこのπ軌道が連続する領域内では、π電子(π-Electron)が局所範囲内での移動が可能となる。従って活性領域630内で局所的なπ軌道を連結させて、活性領域630内の導電機能を持たせている。
【1041】
π電子局在領域(活性領域)630内でπ軌道を連結させるため図40AではチロシンTyr残基の6因環部内のπ軌道を連結させている。またそれだけでなく、アスパラギン酸Asp残基のカルボキシル基内のπ電子も連結させて、導電特性を向上させても良い。
【1042】
特にアスパラギン酸Asp内のカルボキシル基とトリプトファンTrpとで“C-C=O…H-N<”形の水素結合(“…”が水素結合部に該当)を形成させている。それにより、1.カルボキシル基内π電子の連結により、活性領域630内の導電特性が向上する、2.蛋白質内主鎖領域632、634間の2重螺旋結合強度が向上する、3.水素結合原子間距離の柔軟性を利用した2重螺旋全体の弾力性を確保すると言う数々の効果が生まれる。
【1043】
図40Aに示す導電機能を持った機能性バイオ物質が安定に動作するには、π電子局在領域(活性領域)630が正確に形成されている必要が有る。このπ電子局在領域(活性領域)630生成の正否に対する指標の一つとして、上記“C-C=O…H-N<”形水素結合状態に関して近赤外光を用いた吸光スペクトル観察を行っても良い。
【1044】
単なる“C=O…H-N”形水素結合自体は、一般的な生体系内では多く観察される。しかし図40Aのようにπ電子局在領域(活性領域)630内での水素結合に帰属する吸収帯の波長値は、一般的生体内で得られる吸収帯波長値から若干変化する。この吸収帯波長値変化を測定して、π電子局在領域(活性領域)630形成の正否をモニターしても良い。ここで図1A図1Cの測定装置を用いて、上記吸収帯の波長値変化を測定しても良い。
【1045】
ポーリング(Pauling)の電気陰性度(Electronegativity)で比較すると、水素原子は炭素原子や窒素原子、酸素原子と比べて小さな値を持つ。従って分子内での水素原子の実行電荷(Actual Charge)は、正値を取る。
【1046】
π電子局在領域(活性領域)630内では、比較的自由に移動できるπ電子が多量に存在している。従って上記“C-C=O…H-N<”形水素結合部位内で、π電子は水素原子核近傍より最隣接した窒素原子核周辺に偏在し易い。その結果として窒素原子の実行電荷量が大きく減少(絶対値の大きい負電荷)するので、水素原子と窒素原子間の静電気引力が増加する。そのためにπ電子が多量に存在しない場合と比べて、基底状態(分子全体の最もエネルギーが低い状態)での水素原子核と窒素原子核間距離が短くなる。
【1047】
7.4節で説明したように、図36のS5とS6で水素原子核を移動させた時の分子全体のトータルエネルギーを計算する。基底状態(分子全体の最もエネルギーが低い状態)での水素原子核と窒素原子核間距離が(π電子が存在しない場合より)短いため、水素原子核と窒素原子核間距離を縮めた時のトータルエネルギーの増加量が大きくなる。
【1048】
上記の影響で、図36のS7で計算する(A・27)式あるいは(A・38)内のκの値が増加する。そしてπ電子が存在しない場合よりπ電子が多量に有る環境下での水素結合に帰属する伸縮振動の第1倍音や第2倍音の波長値が、若干短くなる事が(A・60)式から分かる。なお上記に類似したシミュレーション方法が特許文献3内に記載されている。但し特許文献3では特定官能基内のグループ振動の計算方法に付いては開示されていない。従って特定官能基内のグループ振動の計算方法を説明した第7章の内容に独自性が有る。
【1049】
導電機能を有した機能性バイオ物質内のπ電子局在領域(活性領域)630内を構成するアミノ酸残基に付いて説明する。図40Aの実施形態例では、トリプロファンTrpとチロシンTyr、アスパラギン酸Aspそれぞれの残基から構成される例を示した。しかしそれに限らず本実施形態例として、他にヒスチジンあるいはグルタミン酸Glu、アスパラギン、グルタミン、フェニルアラニンの残基を使用しても良い。またπ電子局在領域(活性領域)630内を構成形態として図40Aに限らず、上述したアミノ酸残基の内のいずれか1種類のみで構成しても良い。また一方では、上述したアミノ酸残基内から任意の種類を抽出し、任意の構成で組み合わせても良い。
【1050】
図37の“活性領域内構造”で独自機能を発生させる実施形態例として、FETスイッチングと水中対応導電線、NIRFPに関する説明を行う。いずれの活性領域内の構造も、特定の酵素(Enzyme)による触媒機能(Cataltsis)に基付いて生成されても良い。ところで上記酵素は既存の自然界に存在しないので、上記酵素自体が機能性バイオ物質に含まれる(図37の“機能発揮方法”欄内に記載)。また酵素の機能自体は既存の自然界に存在したとしても、既存酵素の高速化を実現する新規酵素も本実施形態例の機能性バイオ物質内に含まれる。
【1051】
以下では図40Aに示した導電機能を持った機能性バイオ物質の活性領域630の生成方法を例に取り、上記酵素の働きを含めて説明する。
【1052】
8.1節の最後に説明したようにゲノム編集技術でアミノ酸配列を決定し、mRNA転写を経てtRNAを用いた蛋白質合成で、それぞれのアミノ酸残基を有した蛋白質内主鎖領域632、634が予め生成される。
【1053】
脱水縮合反応を触媒する第1の酵素でトリプロファンTrp残基とチロシン残基間を結合させて、2本の蛋白質内主鎖領域632と蛋白質内主鎖領域634をつなぐ。次に脱水素酵素(Dehydrogenase)の機能を持つ第2の酵素で、主鎖方向(図40Aの横方向)での残基間の結合を行う。
【1054】
なお触媒作用の順番として、第2の酵素で脱水素縮合反応を促進させた後に第1の酵素で脱水縮合反応を促進させても良い。またそれに限らず、第1の酵素と第2の酵素の触媒作用を同時に行っても良い。
【1055】
特許文献3内に記載したように、上記酵素による触媒作用時(基質(Substrate)と酵素間の接触時)に一時的に基質の一部と酵素の一部で水素結合が生じる場合が多い。そして水素結合時の水素原子と結合する両側の原子(あるいはアニオンやカチオン)の種類に応じて吸収帯の波長値が異なる。吸光特性内に現れる上記吸収帯波長値の違いから本実施形態例では、上記触媒作用の状況をモニターしても良い。またこの吸光特性の測定に、図1A図1Cの測定装置を使用しても良い。
【1056】
図40Aに示した導電機能を持つ機能性バイオ物質の他の応用例を、図40Bに示す。
この応用例は、図37内の8行目“FETスイッチング”に相当する。電子部品のFET(Field-Effect Transistor)は、電力増幅機能やスイッチング機能を有する。この機能を機能性バイオ物質で実現させた例を示している。これは基本的に、図37内の8行目“荷電極性残基含有/電位センサ:荷電極性残基部で立体構造変化”と図37内の9行目“水中対応導電線”を組み合わせた実施形態となっている。
【1057】
基本的には水中や水溶液中でも使用可能なように、外側を螺旋状に取り巻く蛋白質内主鎖領域636、638で外側が被膜され、その内部にはπ電子局在領域(活性領域)640が配置される。図40Bでは説明の便宜上平面上に記載されているが、図40Aと同様に長さ方向にねじれた構造になっても良い。
【1058】
またこのπ電子局在領域(活性領域)640は図40Bに示すトリプロファンTrpとチロシンTyr、アスパラギン酸Asp、グルタミンGlnそれぞれの残基に限らず、他にヒスチジンあるいはアスパラギン、グルタミン酸、フェニルアラニンの残基を使用しても良い。また以上の残基のいずれか一つのみから構成されても良いし、上記内の任意の組み合わせで構成されても良い。
【1059】
図40B内での図40Aと共通する部分は(生成方法も含めて)、図40Aでの説明内容と一致する。従ってここでは、図40Aとは異なる部分のみの説明を行う。
【1060】
図40Aのπ電子局在領域(活性領域)630内では、トリプトファンTrp残基とチロシンTyr残基間が全て共有結合(Covalent bond)されている。そのためにπ電子局在領域(活性領域)630内は、有る程度の剛性を持つ。
【1061】
それに比べて図40Bでは、1個のチロシンTyrをグルタミンGlnに置換している。グルタミンGln残基内の炭素原子と酸素原子間の結合領域内にπ電子が含まれるため、グルタミンGln残基周辺での導電特性は確保される。
【1062】
一方で図40Bが示すように、グルタミンGln残基内の酸素原子と隣接するトリプトファンTrp残基内の水素原子間で水素結合(図40B内の“…”と記載された領域)される。この水素結合力は、(トリプトファンTrp残基とチロシンTyr残基間の)共有結合より結合力が弱い。従ってπ電子局在領域(活性領域640)内のこの部分で、弾力性を持った形状変形が許容される。
【1063】
また他方の蛋白質内主鎖領域638内では、荷電極性残基が外側にはみ出したアスパラギン酸Aspが結合されている。8.3節の後半での図37の7行目“荷電極性残基含有”に対応した説明と同様に外部から電圧(電位差)が印加されると、外側にはみ出したアスパラギン酸Aspの荷電極性残基が静電力を受ける。
【1064】
このアスパラギン酸Aspが受けた外部からの静電力に応じて、π電子局在領域(活性領域)640内の結合力が最も弱い場所(すなわちグルタミンGln残基の水素結合部)で変形が起きる。
【1065】
この変形が最も大きい場合には上記の水素結合が切断され、π電子局在領域(活性領域)640内の導電性が断線される。また変形が小さい場合でも水素結合領域での結合距離変化に応じてπ電子局在領域(活性領域)640内の電気抵抗値が変化する。
【1066】
アスパラギン酸Asp残基が受ける外部電圧(電位差)に対応したπ電子局在領域(活性領域)640内の電気抵抗変化が急峻の場合には、スイッチング素子(部品)として働く。一方で外部電圧(電位差)に対する電気抵抗変化がなだらかな場合には、FET素子のような電力(電流)増幅素子(部品)として働く。この電気抵抗変化特性は、機能性バイオ物質を構成するアミノ酸や全体の立体構造などで変化する。
【1067】
なお図40Bの電位センサ部としてアスパラギン酸Aspを例示したが、それに限らず荷電極性残基を有するアルギニンやリシン、ヒスチジン、グルタミン酸を使用しても良い。
【1068】
図41を用いて、図37の10行目の“NIRFP”の説明を行う。生体内部の状態の観測に使用される蛍光指示物質として、GFP(Green Fluorescent Protein)が知られている。この発光団は波長397nmの近紫外光を吸収し、波長509nmの緑色可視光を放出する。また最近では蛍光時に赤色可視光を放出するRFP(Red Fluorescent Protein)が製品化されている。
【1069】
5.4節内の後半部で説明したように、赤色可視光でも生体内部への侵入距離が短い。従ってRFPを使用しても、生体内部深い領域での観察には限界が有る。
【1070】
上記課題を解決するため、蛍光波長が2.6節で説明した波長域(近赤外光)特性を持つNIRFP(Near Infra-Red Fluorescent Protein)の提供が望まれている。これを利用すれば、生体内部の深い領域での観察が可能となる効果が生まれる。
【1071】
既存のGFPの発光団(活性領域)は、セリンSer65とチロシンTyr66、グリシンGly67の3アミノ酸残基が環化・酸化を起こして自発的に形成される。そして最終的に形成された発光団(活性領域)内の分子構造を、図41の従来GFP内の発光団領域650に示す。
【1072】
図41内の2重結合(結合の2重線)領域が示唆するように、従来GFP内の発光団領域650内でのπ軌道(Localized Molecular Orbital of π-Electron)の電子が蛍光特性に影響すると考えられる。そしてこのπ軌道の電子が局在する領域を広げて、蛍光波長を広げて(蛍光波長値を増加させて)も良い。
【1073】
図41では図示してないが既存のGFPでは、上記の従来GFPの発光団領域650の周辺をバレル構造(Barrel Structure)(βシートでできた筒状の構造)が取り囲んでいる。このバレル構造を形成するアミノ酸配列の一部に、バレルの内側に伸びるチロシンTyrを挿入(必要に応じて前記チロシンTyr前後のアミノ酸配列も挿入)しても良い。
【1074】
そして図37の11行目“新規活性領域生成”用に開発した酵素を用いて脱水縮合反応を起こし、図41のように挿入したチロシンTyrを従来GFP内の発光団領域650に結合させても良い。このようにして発光団領域内のπ軌道の電子が局在する領域を広げて、蛍光波長を広げて(蛍光波長値を増加させて)も良い。
【1075】
上記の脱水縮合反応時には、基質と酵素間の接触箇所で(構造を安定化させるために)水素結合が一時的に生じている場合がある(特許文献3内の記載内容参照)。従って上記の脱水縮合反応時の吸光特性変化内での対応する波長の吸収帯発生を観測する事で、確実に脱水縮合反応が起きているか否かが判定できる。それによりNIRFPに対応した機能性バイオ物質の生成可否を管理できる。
【1076】
上記NIRFPの例として図41では、チロシンTyr残基を追加結合させたがそれに限らず、π電子を持つヒスチジンやアスパラギン酸Asp、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミンGln、フェニルアラニン、トリプロファンTrpのいずれか、あるいはその組み合わせを追加結合させても良い。
【1077】
遺伝疾病(遺伝子特性に起因する病気)の治療(Medical Care of Hereditary Desease)に、患者や受精卵に対するCRISPR/Cas9(やZFN、TALENなど)のゲノム編集を施す場合が有る。この時には、正確に所望のゲノム編集が行われたか否かを確認する必要が有る。
【1078】
このゲノム編集時に遺伝疾病内容のゲノム修復箇所に隣接させて、上記のNIRFP生成遺伝子も組み込んでも良い。そして上記NIRFPからの近赤外蛍光の放出可否で、ゲノム修正可否(遺伝疾病治療の正否)を予測できる効果が生まれる。上述したように近赤外光は生体内部の侵入距離が広いので、患者あるいは妊婦の体外からの非接触かつ非侵襲の観測が可能となる。その結果として、患者や妊婦に負担を掛けずに遺伝疾病治療の正否を確認できる。
【1079】
さらに上記近赤外光に第3章の部分的可干渉性を低下させる(部分的非可干渉性を増加させる)技術あるいは第6章の収差補正技術を組み合わせる事で、さらに生体内部の侵入距離が広がる。
【1080】
なお蛍光前の吸収光照射には、所定波長発光素子(発光ダイオードなど)が挿入されたカプセルの摂取や内視鏡やカテーテルを採用しても良い。
【1081】
図37“機能発揮方法”欄内の“酵素機能”に関し、今までは新規な基質に対する酵素例の説明を行った。しかしそれに限らず既存の基質に対して従来と同様な酵素機能を発揮しても、従来品より触媒機能の高速化が図れる新規酵素も機能性バイオ物質に含めても良い。
【1082】
例えば図37の12行目“新規高速分解酵素”では、植物内のセルロースを高速で分解して澱粉を生成する酵素のセルラーゼの分解速度を高速にしても良い。
【1083】
上記セルラーゼの活性領域内では、セリンSerとヒスチジン、グルタミン酸で触媒のトライアッド(Triad)を形成する。このヒスチジン残基内でπ電子を持つ窒素原子と結合している水素原子間で、(伸縮振動の第1倍音と第2倍音に帰属する)独自波長を持った吸収帯が存在する。従って本実施形態において吸光特性内の上記吸収帯を観測して、セルロース分解速度のモニタリングを行っても良い。
【1084】
8.5節 生成処理に関係した部分で機能を発揮する機能性バイオ物質の実施例
多量体内構造や8.3節や8.4節で説明した機能性バイオ材料の生成過程に関わる機能性バイオ物質の説明を行う。
【1085】
8.3節内で図39Bを用いた説明内で、アクチン・フィラメントの説明を簡単にした。食肉内の主成分であるアクチン・フィラメントは図39Bと類似して、アクチン2量体がADPを介して繋がっている。8.3節内で説明したように、水溶液中のKCl等の塩成分を除去するとADP624部分で容易に乖離が生じる。
【1086】
これに対してトロポミオシン(Tropomyosin)がアクチン・フィラメント周辺で螺旋状に絡み付いて、一定の強度を保っている。またそれ以外の分子の付着も上記アクチン・フィラメントの強度を上げている。一方でトロポミオシンなどの補強効果が強過ぎると、食肉として硬くなり過ぎる弊害が生じる。
【1087】
図37の13行目“人工食肉”の実施形態では多量体を構成する成分の一部を置換して、食材に適した適正な強度(歯ごたえ)と食感(柔らかさ)の両方を同時に達成しても良い。
【1088】
具体的にはアクチン・フィラメントの外周に絡み付いているトロポミオシンを、他のαヘリックス構造を持った蛋白質に置換する。
【1089】
8.1節内で説明したように、CRISPR/Cas9(やTALENあるいはZFN)などを利用してゲノム編集を行い、図37の中央から上部に記載した独自のアミノ酸配列を決定しても良い。このアミノ酸配列情報の記憶機能を有する機能性バイオ物質として、図37の14行目“人工蛋白質のアミノ酸配列情報を細胞内記憶”を行っても良い。具体的にはゲノム編集(Genom Editing)後のDNAが収納された細胞核を持つ細胞自体を意味しても良い。
【1090】
DNAの2重螺旋内部では特定塩基間でペアを形成し、そのペア間で“>N-H…N<”形の水素結合が形成されている。このタイプの水素結合は他の細胞領域内では余り見掛けない、独自の水素結合となっている。したがって“>N-H…N<”形の水素結合内で発生する伸縮振動の第2倍音や第1倍音、基準音に帰属する独自波長を持った吸収帯が吸光特性内に現れる。
【1091】
7.4節で説明した方法で、DNAの2重螺旋内部での“>N-H…N<”形の水素結合領域で発生する伸縮振動に対応した吸収帯の波長値をシミュレーションによる理論的予測を行った。補正係数(7.4節)を乗じた後の値は、基準音で3408nm、第1倍音で1698nm、第2倍音で1172nmだった。さらにシミュレーションの計算誤差範囲を±20%と見積もると、実際の吸収帯の波長値は基準音で4090~2726nm、第1倍音で2038~1358nm、第2倍音で1406~938nmの範囲内に存在すると予想される。
【1092】
一般の光学顕微鏡では、生きた細胞内の細胞核位置の観察は難しい。多くの場合は細胞核を染色(dye)して観察するが、この染色過程で細胞にダメージを与える。それに対して“>N-H…N<”形の水素結合内で発生する伸縮振動の第2倍音や第1倍音、基準音に帰属する独自波長位置に吸収帯が観察されるか否かで、生きた細胞内の細胞核位置が判定できる効果が有る。それにより“アミノ酸配列情報の細胞内記憶場所”を容易に発見できる。
【1093】
例えば図7の近赤外顕微装置を改良して分光器22の位置に別のモニタカメラを併設し、各モニタカメラ24直前に狭帯域のバンドパスフィルタ(色フィルタ)を設置しても良い。ここでこれらのバンドパスフィルタ(色フィルタ)の一方の透過波長を上記吸収帯の波長に合わせ、他方の透過波長を少しずらす。両者間での撮像パターン内強度分布が(わずかに)異なる場所を抽出する事で、細胞核の位置を検出しても良い。この方法を利用すると、細胞核に一切のダメージを与えずに細胞核位置が正確に判明する効果が生じる。
【1094】
上記アミノ酸配列情報に限らず、あらゆるゲノム内のDNA塩基配列編集を促進する機能“ゲノム編集機能”を有した機能性バイオ物質も本実施形態例に含まれる。このゲノム編集を同時に多量かつ効率良く行うためにベクターキャリア(Vector Carrier)構造を工夫した実施形態例について、第9章で詳細に後述する。
【1095】
またそれに限らず、本実施形態例に示す細胞核内搬送用キャリア(each Carrie into Cell Nucleuse)を用いて、遺伝子調節因子(Gene Regulator or Gene Regulation Factor)を細胞核内に搬送しても良い。その方法で、効率の良い“遺伝子調節機能”が実現できる。
【1096】
このキャリアによる細胞核内への搬送可否を評価する手段として、上記の近赤外顕微装置を使用しても良い。ここで内側包装領域内に、例えばGFPなど光学的方法で位置モニター可能な物質を挿入しておく。そして上記の方法で細胞核位置を確認しながら、細胞核内搬送用キャリア内部の位置をリアルタイムでモニターする。その結果として、キャリア内部が細胞核内に搬送されたか否かの確認が可能となる。
【1097】
編集されたゲノム情報を細胞核内に収納した細胞は、“新しいアミノ酸配列情報を含めたゲノム情報を記憶”する固有機能を有しているのに対し、さらにそのゲノム情報を利用して機能性バイオ物質を生成する“生成機能”を有する細胞自体も、本実施形態例では機能性バイオ物質に含めても良い。これが図37内の最下行“細胞内で生成/放出”に対応する。
【1098】
具体的には図37内の上部から中央部に掛けて記載された各種の機能性バイオ物質の生成に関係したゲノム情報を細胞核内に持ち、その情報に基付いて機能性バイオ物質を細胞内で生成し、生成した機能性バイオ物質を細胞外に分泌(secrete放出)しても良い。
【1099】
グルタミン酸の発酵法が上記プロセス例に該当する。さとうきびからとった糖蜜などの原料を発酵タンクに入れ、グルタミン酸生産菌を適正条件下で培養すると、グルタミン酸が菌体外に排出される。このように微生物内で図37内の上部から中央部に掛けて記載された各種の機能性バイオ物質を生成させても良い。
【1100】
上記の微生物に機能性バイオ物質を生成させる代わりに、編集されたゲノム情報を細胞核内に持つ毛母細胞を人工的に培養しても良い。この場合には毛母細胞から毛髪が伸びるプロセスとほぼ同様に、毛髪の代わりに機能性バイオ物質を生成して毛母細胞の外に出す。
【1101】
上記の毛母細胞内では頻繁にtRNAを用いた人工蛋白質の合成処理が行われている。この蛋白質合成(Protein Synthesis)過程で、一時的な水素結合が発生する。この一時的に発生する水素結合部位での伸縮振動の第2倍音や第1倍音、基準音に帰属する独自の吸収帯を吸光特性内から検出して、蛋白質合成過程の工程管理を行っても良い。なおこの吸光特性の測定に、図1A図1Cに示した測定装置を使用しても良い。
【1102】
本実施形態における既存の生物の生態活動システムやメカニズムの一部を類似利用して機能性バイオ物質を生成(製造)する方法の一例を示す。すなわち
1.(例えば羊など)動物の表皮から毛母細胞を採取する
2.上記採取した毛母細胞の細胞核に対してゲノム編集を行う(上記ゲノム編集には、8.1節で説明したCRISPR/Cas9やTALEN、ZFNなどを使用しても良い。)
3.ゲノム編集を行った毛母細胞を培養する(この前に特許文献4や特許文献5内に記載された方法で細胞の初期化(Initialization)を行った後、特定環境下で毛母細胞に育てても良い)
4.毛母細胞内で生成され毛髪のようにそこから成長した機能性バイオ物質を収集する
このようにして生成されて収集された機能性バイオ物質の形態は、頭皮から抜いた毛髪のように機能性バイオ物質の端部に毛母細胞が付着している。この毛母細胞は培養環境から自然の空気中に放置されると、栄養補給が遮断されて死滅する。従って上記毛母細胞を単独で自然環境下に放置されても自己増殖機能を持たないため、自然環境に悪影響を及ぼす危険性が無い。
【1103】
既存の生物の生態活動システムやメカニズムの一部を類似利用して機能性バイオ物質を生成(製造)する製造工程において、雑菌の繁殖(コンタミの混入)が非常に大きな問題となる。上記毛母細胞自体は微生物に比べて有る程度の消毒耐性を持つ。従って培地内に有る程度の殺菌や消毒が行えるため、雑菌繁殖やコンタミ混入の対策が容易となる効果が有る。
【1104】
またゲノム編集(や細胞の初期化)には大規模な設備が必要なため、任意の場所での作業は難しい。それに対して培地内に梱包した機能性バイオ物質生成細胞(毛母細胞など)の輸送とこの機能性バイオ物質生成細胞(毛母細胞など)の育成は、どの場所でも比較的容易となる。
【1105】
従って特定場所で生成した機能性バイオ物質生成細胞(毛母細胞など)を配送する事で、世界中の各地で容易に機能性バイオ物質の生成(育成)が可能となる。そのため本実施形態例に示した機能性バイオ物質の生成(製造)を世界中に広め易い効果が有る。
【1106】
図37の“機能発揮方法”欄内の“人工蛋白質合成”の具体例として上述した微生物内での生成と放出や機能性バイオ物質生成細胞(毛母細胞など)内での生成と細胞外設置に限らず、他のあらゆるプロセスを経由しても良い。例えば蜘蛛の体内の『蜘蛛の糸生成細胞』の利用、あるいは蚕の体内の『絹の生成細胞』を利用しても良い。この場合でも、生成細胞内での蛋白質合成時に一時的に発生する吸収帯を測定して、製造工程の管理を行っても良い。
【1107】
第9章 機能性バイオ物質を用いたゲノム編集処理図37内の下から2行目に記載した“ゲノム編集”機能を持った機能性バイオ物質の具体的な構造例と実際の動作例に付いて説明する。図37で示したあらゆる“機能”を持った機能性バイオ物質生成の出発点として、“ゲノム編集”機能を持った機能性バイオ物質を利用できる。そして第10章で説明する機能性バイオ物質の製造方法にも“ゲノム編集”機能を持った機能性バイオ物質が必要となる。
【1108】
“ゲノム編集”機能を持った機能性バイオ物質の人体や動物への応用には、安全性確保と生態系維持を保証するため、多くの副次的機能が要求される。そのため第9章では遺伝的疾患や癌治療を例に取って説明する。但し“ゲノム編集”機能を持った機能性バイオ物質の用途はそれに限らず、図37で記載したあらゆる機能性バイオ物質の生成に利用しても良い。また他の用途で使用する場合は、第9章で説明する副次的機能を適正に除外して使用しても良い。
【1109】
9.1節 DNA障害に関係した患部への対処例と現状の問題点癌遺伝子依存性(Oncogene Addiction)を持つ癌の治療において、多数の分子標的治療薬(Molecular Target Medicine)が既に存在する。現状でのそれらの作用機序(Mechanism of Effectiveness)は、腫瘍細胞(Tumor Cell)に対する傷害(細胞膜破壊など)や貧食(Phagocytosis)、あるいは腫瘍細胞内信号伝達経路(Pathway of Signal Transduction)の阻害(チロシンキナーゼ活性の阻害(Inhibition of Tyrosine Kinase Activity)など)などに関係する。換言すると上記作用機序は全て腫瘍細胞活動への抑制作用(Negative Affection)として働くため、重大な副作用(Side Reaction)を併発させる危険性が高い。つまり上記の細胞活動への抑制作用が誤って正常細胞に働き、正常活動を阻害する副作用のリスクが高い所に主な原因が有る。
【1110】
それに比べて本実施形態例が目指すのは腫瘍細胞自体の“正常細胞化(Transformation into Normal Cell)”なので、副作用を小さくできる効果が有る(元々の正常細胞を正常化しても、問題は生じ辛い)。つまり悪性腫瘍(malignant Tumor)の半数以上で、p53と呼ばれる遺伝子の異常が見付かっている。従ってp53遺伝子の働きを正常化できると、多くの癌が治癒できる可能性が有る。
【1111】
そして消化管間質腫瘍(Gastrointestinal Stromal Tumor)の発症にはc-kit遺伝子変異が関与し、KITチロシンキナーゼ活性を阻害すると劇的な治療効果がもたらされる。
【1112】
また他の例として2番染色体(Chromosome)の逆位により生じたEML4(Echinoderm Microtubule-Associated Protein-like 4)遺伝子とALK(Anaplastic Lymphoma Kinase)遺伝子の融合遺伝子EML4-ALKも腫瘍化の原因と言われている。そしてここからの遺伝子発現が起こると、肺癌などの腫瘍化が報告されている。そしてその発症患者にALK阻害薬(ALK Blocking Medicine)(チロシンキナーゼ阻害薬)投与時の高い有効性が示された。
【1113】
それ以外の融合遺伝子例としてKIF5B-RETも報告されており、ここでの遺伝子発現により肺癌が発症している。それに対しては、RETを阻害するバンデタニブ(Vandetanib)が有効と考えられている。
【1114】
前述したように、チロシンキナーゼ阻害薬の投与には、重大な副作用の発症が起こり易い。従って本実施例のようにベクターキャリアを用いてc-kit遺伝子変異場所やALK融合遺伝子配置場所あるいは融合遺伝子KIF5B-RET配置場所のみを直接的にゲノム編集して正常な遺伝子配列に戻す事で、少ない副作用での治癒が期待できる。
【1115】
図42では本実施形態を利用した治療手順例を示している。この処方は医学分野のみに限定する必要は無く、より一般的な分野にも適用できる。従って一般的な広い分野に適用させた場合の処理手順を、図42では括弧内に併記した。さらに不具合箇所の修正に限らず、例えば図37の各種機能性バイオ物質の生成にも図42の手順を適用できる。
【1116】
本実施形態に置ける不具合箇所(患部)に対する基本的な対処手順は、“原因分析⇒修正⇒結果評価(診断⇒治療⇒確認)”から構成される。
【1117】
診断(不具合原因分析)関連処理手順702内では、患部の切片摘出(不具合箇所の情報収集)S22と摘出された切片の分析(不具合情報内容の分析)S23が実施される。ここで切片摘出(S22)には、ナイフを利用した外科的な部分切断が行われる。もし患部が体の内部の場合には、内視鏡(Endoscope)やカテーテル(Catheter)を使用しても良い。
【1118】
また摘出切片の分析(S23)では、腫瘍が良性(benign)か悪性か(malignant)を判定し、悪性時には癌遺伝子依存性の有無を調べる。
【1119】
癌遺伝子依存性の場合にはDNA分析を行い、不具合原因の判定に相当する障害箇所のDNA塩基配列の決定(S24)を行う。次にその結果を利用してS25では、DNA塩基配列の最適化設計(最適な修正方法の設計)を実施する。そしてこの最適化設計(S25)の結果に基付き、図37内下から2行目に記載された“ベクターキャリア”の製作(既に多数の標準品が有る場合には、最適なベクターキャリアの選択)を行う。ここで治療(不具合箇所の修正)のために患部(不具合箇所)内の染色体(Chromosome)に移行するDNA分子の事をベクター(Vector)と呼ぶ。
【1120】
治療(不具合箇所修正)関連処理手順704としては、まず上記のベクターキャリアを患部(不具合箇所)周辺に搬送(S26)する必要が有る。患部(不具合箇所)が表面に露出している場合には、ベクターキャリアを含む薬剤塗布で済む。患部(不具合箇所)が体内の深部に局在している場合には、内視鏡やカテーテルを利用して近くに搬送しても良い。
【1121】
9.2節で詳細に説明する標的細胞内のゲノム編集処理(S27)を実行する段階で、編集処理の進行状況をリアルタイムでモニター(S28)する事が非常に重要となる。マクロ的視点で見ると、患部のサイズや到達深さに大きなばらつきが有るだけで無く、上記ベクターキャリアの搬送場所で患部内への侵入速度も大きく異なる。特に患部(不具合箇所)が体内の深部に局在する場合には、従来の既存技術ではベクターキャリアの患部内部への拡散状況の把握が非常に難しかった。
【1122】
この光学的モニター(S28)に(第3章と第6章で説明した)光学雑音の少ない近赤外光を適用する効果が非常に大きい。2.6節で説明したように、波長域が0.7~2.5μm範囲内の近赤外光は生体内の光透過性に優れている。従って上記近赤外光を利用した測定装置(図1A図1C)を用いて、ゲノム編集の進行状況がリアルタイムでモニターできる。
【1123】
9.2節で後述するように、標的細胞内のゲノム編集処理(S27)に対応して発生する
○ ゲノム編集モジュールの細胞核(Cell Nucleus)内侵入
○ DNA塩基配列変更
○ 遺伝子発現(Gene Expression)などの様々な課程毎に、それぞれ独自形態の“水素結合”が(一時的に)発生する。そして特許文献3内で説明されるように、独自な水素結合形態毎に対応する吸収帯の波長変化が生じる。
【1124】
そして光学的モニター(S28)においてゲノム編集処理中の患部(不具合箇所)から得られる近赤外光の吸光スペクトル変化をリアルタイムに測定する事で、ゲノム編集の進行状況を高精度で観察できる。しかし従来技術の範囲で近赤外光を測定に利用すると、第2章で説明した光学雑音の影響で充分な検出精度が得られない。そのため図1A図1Cで説明した測定装置(あるいは顕微装置)に少なくとも第3章と第6章の一方の技術を適用して初めて精度の高い観測が可能となる。
【1125】
治療(修正)結果の評価・確認関連処理手順706では、上記“遺伝子発現”の結果を利用する。この時に、図37の下から2行目に記載したNIRFPを利用しても良い。具体的方法として、図37の10行目(及び図41)に記載され、8.4節内後半に説明したNIRFPを発現させるDNA塩基配列も一緒にベクターキャリア内に配置しておく。そしてベクターキャリア内に含まれていた遺伝子を発現させた時に、細胞内でNIRFPも一緒に生成されているか否かで、ゲノム編集効果を評価・確認しても良い。
【1126】
S29の患部(修正箇所)周辺へのテスター挿入のステップで、内視鏡やカテーテルを利用して可視光をガイドし、患部(修正箇所)周辺(患者の体内)で可視光を放出させる。ゲノム編集処理が成功した細胞内ではNIRFPが生成されているので、この可視光を吸収して(この可視光エネルギーで励起されて)近赤外光を放出(蛍光放出)する。近赤外光は生体内部での光透過性が高いので、一部は体外まで通過する。
【1127】
評価結果の分析(S30)として、体外に放出された光の分光特性内にNIRFPから放出された近赤外光成分が含まれるか否かを分析する。この測定装置(または近赤外顕微装置)内の検出光16光路途中に少なくとも第3章と第6章の一方の技術を適用すると、検出精度が向上する。
【1128】
評価結果の判定(S31)は、NIRFPから放出された近赤外光成分が所定量以上含まれるか否かで判定する。すなわち患者の体外に放出された光の分光特性内に上記近赤外光成分量が所定閾値以上含まれている場合には、評価結果の判定結果(S31)が良好(Yes)と見なして、一連の対処を終了させる(S32)。逆に上記近赤外光成分量が所定閾値に満たない(Noの)場合には、治療(不具合箇所の修正)効果が不十分と見なす。この場合には、治療(不具合箇所修正)関連処理手順704の最初からやり直す。
【1129】
既存のゲノム編集技術を治療や図37の各種機能性バイオ物質の量産に利用した場合の現状での問題点は、主に下記のようになる。
1.複製DNAのスケーラビリティと編集対象の効率的な選択性
2.編集後細胞内の長期安全性
3.編集前後での塩基配列管理と人為的誤編集防止
最初に列記した問題点に付いて説明する。細胞核膜(Nuclear Membrane)の外部に分布する低分子やイオンは、核膜孔(Nuclear Pore)内を通過して容易に細胞核(Cell Nucleus)内に入り込める。一方で分子量が大きな分子が細胞核内に運ばれるには、キャリア蛋白質(Carrier Protein)の助けが必要となる。そのためベクターを構成する複製DNA分子の分子量が増大するにつれて、キャリア蛋白質を利用した細胞核内への搬送が難しくなる。また上記キャリア蛋白質との相性性から、ゲノム編集モジュール(図37下から2行目)形態の任意性が大きく損なわれる。
【1130】
次の問題点は、ゲノム編集後の細胞核内にヌクレアーゼ(Nuclease)が残留する所に有る。ゲノム編集には、既存のDNA2重螺旋構造(Double-Helix Structure of DNA)の一部を切断するために上記ヌクレアーゼが必須となる。しかしこのゲノム編集後も細胞核内にヌクレアーゼが残留するため、“外科手術後にメスを体内に残した”状態に近い。
【1131】
図42の一連の治療が完了した元患者のウィルス感染(Viral Infection)などがきっかけで、宿主細胞(Host Cell)や後述するcrRNA(CRISPR RNA)内の塩基配列が変化すると、細胞内に残留したヌクレアーゼが作用して正常なゲノムが破壊されるリスクが有る。
【1132】
ゲノム編集技術の治療への適用やゲノム編集後の細胞培養などでは、上記2番目の問題が深刻となる。
【1133】
実験室レベルでのゲノム編集では、最後(3番目)の問題はそれ程重大では無い。しかしゲノム編集が多発する現場では、人為的誤編集防止策は重要となる。
【1134】
次の9.2節で説明する本実施形態例では、上記3点の問題点が解消される。
【1135】
9.2節 細胞核内搬送用キャリアの構造と動作原理
本実施形態の一例として示す細胞核内搬送用キャリアを使用すると、効率の良い“ゲノム編集機能”や“遺伝子調節機能”が実現できる。またゲノム編集機能を利用した応用例の一つとして、図42を用いて9.1節内で説明した不具合箇所の対処例が有る。そしてその不具合箇所の対処例の一つとして、悪性腫瘍などの治療例を説明した。
【1136】
本9.2節では上記細胞核内搬送用キャリアの構造と動作原理の例に付いて説明する。この説明の一環として、9.1節の後半で説明した3点の問題点を解消する仕組みも説明する。ところでこの問題点を解消した特性の適用は、治療/不具合箇所の対処や各種機能性バイオ物質の量産に限らず、あらゆる用途に適用しても良い。
【1137】
本実施形態例における2重包装構造を有した細胞核内搬送用キャリア内にゲノム編集モジュールが入った場合を、ベクターキャリアと呼ぶ。また遺伝子調節因子が入った場合を、遺伝子調節キャリアと呼ぶ。両者に共通する内容は、
○ キャリア内部に内包部(Inner Pack)を持つ2重包装構造を有する
○ 上記内包部の周囲は内部と隔離する皮膜(キャリア内部の膜領域)で覆われる
○ この内包部内に内蔵物(ゲノム編集モジュールまたは遺伝子調節因子など)が収納される
○ 内蔵物(ゲノム編集モジュールまたは遺伝子調節因子)を直接に細胞核内へ届ける所
にあり、そのために
○ 内側の包装膜(キャリア内包部の外膜)表面に、細胞核膜表面への選択的接合部を持つ
すなわち上記の選択接合部の細胞核膜との接合をきっかけに、内包部内に収納されている内蔵物(ゲノム編集モジュールまたは遺伝子調節因子など)が細胞核内に搬送される(be delivered)。またそれだけで無く、
○ キャリア内包部の内部に核ラミナが存在しても良い、本実施形態における細胞核内搬送用キャリア800の構造例を図43(a)に示す。細胞核内搬送用キャリア800の外側は、キャリア外包部の外被840で覆われている。このキャリア外包部の外被840の材質はポリペプチド鎖が多数集合した蛋白質でも良いし、脂質2重層(Lipid Bilayer)のエンベロープ(Envelope)でも良い。
【1138】
選択的に悪性腫瘍細胞(癌細胞)内に搬送されるベクターキャリアとして細胞核内搬送用キャリア800を使用する場合には、キャリア外包部の外被840の一部に選択細胞への接合部846が設置されている。この選択細胞への接合部846として悪性腫瘍細胞(癌細胞)表面の細胞膜上に存在する特定受容体(Receptor)に結合するリガンド(Ligand)の一部を利用しても良いし、特定の癌細胞を特定する抗体(Antibody)を利用しても良い。
【1139】
上記具体的な特定受容体として、VEGFR(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor)やEGFR(Epidermal Growth Factor Receptor)に直接結合させても良い。
【1140】
また特定の癌細胞を特定する抗体として例えば、上記VEGFRを特定するモノクローナル抗体を使用しても良い。またそれに限らず、上記特定受容体に結合するリガンド自体に識別結合する抗体を使用しても良い。この場合にはベクターキャリアが結合したリガンドが受容体に結合するタイミングを利用して、ベクターキャリア内の内包部を悪性腫瘍細胞(癌細胞)内に搬送する。
【1141】
細胞核内搬送用キャリア800内のキャリア内包部の外膜838とキャリア内包部の内膜836は脂質2重層で構成され、両者の間には主に脂質から構成される内外膜間の疎水領域834が形成されている。
【1142】
またキャリア内包部の外膜838(とキャリア内包部の内膜836)の一部には、細胞核膜表面への選択的結合部830(詳細は後述)が設置されている。これにより内包部内に格納されているゲノム編集モジュール808や遺伝子調節因子806を細胞核内に安定に搬送できる。
【1143】
この細胞核膜表面への選択的結合部830を利用する事で、9.1節内で説明した最初の問題点“1.複製DNAのスケーラビリティと編集対象の効率的な選択性”が解消できる。細胞核の外膜は、小胞体(Endoplasmic Reticulum)の一部と直接繋がっている。従って小胞体近傍でゲノム編集モジュール808が放出されると、ゲノム編集が行えない。その対策として本実施形態例では、細胞核膜表面への選択的結合部830が細胞核膜(核ラミナを含む)とのみ結合する。その結果として効率良く細胞核内にゲノム編集モジュール808を搬送できる。
【1144】
そして細胞核膜表面への選択的結合部830と(核ラミナを含めた)細胞核膜との結合をきっかけとして、細胞核膜とキャリア内包部の内膜836/外膜838が融合してゲノム編集モジュール808を細胞核内に搬送する。従って任意サイズのゲノム編集モジュール808を細胞核内に搬送できるため、複製DNAのスケーラビリティに関する柔軟性が大幅に向上する効果が有る。
【1145】
なおキャリア内包部の内膜836内部には核ラミナ832が配置されても良い。この核ラミナ832の材質は細胞核膜内に存在する核ラミナと類似させても良い。それによりキャリア内包部と細胞核間の親和性を向上させ、両者間の融合性を向上させる効果が有る。またそれだけでなく、両者が融合してゲノム編集モジュール808または遺伝子調節因子806が細胞核内に侵入した時の、細胞核膜に及ぼすダメージを最小にする効果も有る。
【1146】
また後述するようにキャリア内包部の内膜836の内側に突出した細胞核膜表面への選択的結合部830は、キャリア内包部の内膜836と核ラミナ832間の結合性を高めている。それによりキャリア内包部の内膜836と外膜838の相対的強度を高め、搬送時の膜破壊を防止する効果も有る。
【1147】
キャリア内包部内部に遺伝子調節因子806を格納する場合には、キャリア内包部内部は細胞核内と同じ核液(Caryolymph)が満たされても良い。そしてその核液内に、後述する1種類以上の遺伝子調節因子806が分散されても良い。遺伝子調節因子806を格納したそれによりキャリア内包部と細胞核が融合して遺伝子調節因子806が細胞核内に侵入した時に予め核液が入っていると、細胞核内部に及ぼすダメージを最小にする効果が有る。
【1148】
それに比べてキャリア内包部内部にゲノム編集モジュール808を格納する場合には、ATP(Adenosine Triphosphate)が完全に除去された特殊な核液を使用しても良い。生体高分子の燐酸化は多くの場合、ATPからADP(Adenosine Diphosphate)への加水分解(Hydrolysis)を利用する。従ってATPが完全に除去された“ATPフリー”の環境下では、燐酸化が起きない。
【1149】
この“ATPフリー”の状態を利用し、ゲノム編集モジュール808が細胞核内への搬送直後の所定期間だけゲノム編集を有効化しても良い。そしてこの有効期間を過ぎた後は、ゲノム編集を不可能にする。このように有効期間後にゲノム編集を不可能にする事で、9.1節で説明した“外科手術後にメスを体内に残した状態”を回避(=体内のメスの自動的破壊に相当)できる。その結果として9.1節で提示した2番目の問題点に相当する“2.編集後細胞内の長期安全性”を確保できる効果が生まれる。
【1150】
図43(a)で示すゲノム編集モジュール808内に含まれるゲノム編集基本部810の詳細な内部構造例を図43(b)に示す。8.1節内で説明したCRISPR/Cas9に対し、本実施形態ではCas9を一部改変したmCas(modified CRISPR-associated System)812-1、2を使用する。ここでmCas812-1、2内のcrRNA(CRISPR RNA)領域816-1、2は、既存のCas9と同等部品または類似部品を使用する。
【1151】
このmCas812-1、2で改変した部分は、従来のCas9に“活性制御機構”を付加した所に有る。この活性化機構例として、“燐酸化による活性化”を利用する。しかしそれに限らず、他の任意の方法で活性化制御機構を付与しても良い。例えば他の例として、ベクターキャリア内に収納時には個々に分離されて分散(単量体状態(Monomer State))され、細胞核内に移った直後に重合して(polymerize)mCasを構成しても良い
【1152】
すなわちベクターキャリア内に格納されたmCas812-1、2は、ATPフリー環境下で不活性状態となっている。そしてこれが細胞核内に移動した時、細胞核内に存在するATPと反応してヌクレアーゼ領域814が活性化する。この活性化を引き起こす燐酸化に関し、mCas812-1、2に自己燐酸化機能を持たせても良い。
【1153】
またそれに限らず、キナーゼ(燐酸化)特性を持ったmCas制御酵素A_822を利用しても良い。ベクターキャリア内のATPフリー環境下では、このmCas制御酵素A_822は働かない。しかしこのmCas制御酵素A_822が細胞核内に移動すると、細胞核内に存在するATPを利用してmCas812-1、2を燐酸化して、ヌクレアーゼ領域814を活性化させる。もし上記mCas812-1、2が自己燐酸化に基付く自己活性化機能を持つ場合には、上記mCas制御酵素A_822は不要となる。
【1154】
次にmCas812-1、2内のヌクレアーゼ領域814の機能を所定期間(有効期間)内のみ発揮させる方法に付いて説明する。それには、mCas812-1、2(あるいはその内部のヌクレアーゼ領域814)を不活性化させる手段あるいは自然に不活性化する属性を与える事が望ましい。
【1155】
ATPの加水分解でmCas812-1、2が燐酸化された状態では、mCas812-1、2内の一部にATP内のγ-燐酸基(γ-Phosphatic Group)が一時的に結合している。一般的にこの結合は永久には持続しない。このmCas812-1、2が自己燐酸化機能を持たず、mCas制御酵素A_822が遠方に拡散された場合には、再燐酸化は不可能となり、非活性な状態に戻る。この場合の活性有効期間は、γ-燐酸基がmCas812-1、2内の一部に結合している期間に相当する。従ってmCas812-1、2に活性化させる活性制御機構(例えば燐酸化領域)を付けた事が、自然に不活性化する属性を持たせる事に対応する。
【1156】
他にヌクレアーゼ領域814を不活性にする応用例として、mCas制御酵素B_824を使用しても良い。このmCas制御酵素B_824が蛋白質を分解するプロテアーゼ(Protease)で構成させると、活性化時に前記のmCas812-1、2が分解される。
【1157】
またmCas制御酵素B_824を使用する代わりに、何らかの方法でゲノム編集基本部810内に容易に“異物と識別できるマーカー”を付与し、貧食作用(Phagocytosis)を用いて破壊させても良い。
【1158】
さらに他の応用例として、mCas制御酵素B_824内に脱燐酸化(Dephosphorylation)機能を有するホスファターゼ(Phosphatase)を内蔵させてmCas812-1、2内の一部に結合した燐酸基を除去すると共に、再結合を防止するために結合阻害物質(アニオン(Anion))を代わりに結合さても良い。
【1159】
そしてmCas812-1、2内のヌクレアーゼ領域814を不活性にさせる(上記mCas制御酵素B_824を活性化させる)までの期間(ゲノム編集の有効期間)を設定する手段を設けても良い。
【1160】
このゲノム編集の有効期間を示すタイマーとして本実施形態例では、細胞核内の信号伝達経路を利用しても良い。細胞核内の信号伝達経路として、カルモジュリンCALM(Calmodulin)⇒カムキナーゼCaMIV(CaM KinaseIV)⇒CREB(cAMP Response Element Binding Protein)の燐酸化の経路や、p38MAPK(正式名称は後述)⇒MSK1⇒CREBの順で順次燐酸化する経路などが知られている。そしてその経路間で信号伝達に要する時間をタイマー(有効期間設定)として使っても良い。
【1161】
従って細胞核内信号制御酵素826としてカルモジュリンCALMまたはp38MAPKなど、細胞核内で信号伝達経路の出発点になる酵素を入れておく。そしてCREBなど細胞核内で信号伝達経路の最終点近くの酵素の燐酸化に誘発されて活性化する酵素をmCas制御酵素B_824として選定しておく。そして上述したように活性化されたmCas制御酵素B_824が作用して、mCas812-1、2(内のヌクレアーゼ領域814)を不活性化させる。
【1162】
ゲノム編集には取り除くべきDNAの先端部を検知するcrRNA816-1と終端部を検知するcrRNA816-2及び複製すべき(新たに入れ替える)DNA(ベクター)818が必要となる。
【1163】
本実施形態例ではゲノム編集基本部810の具体的構造として図43(b)に示すように、複製DNA(ベクター)818を保持する複製DNAの保持用蛋白質817およびmCas812-2とmCas812-1が連結された構造となっている。このように互いに連結された形で保存可能にすると、9.1節内で3番目に提起した問題点が解消される。それによりゲノム編集前後での塩基配列関係の管理が容易になるだけで無く、人為的な誤編集を防止できる効果も生まれる。
【1164】
図43(b)では複製DNA(ベクター)818の形状として2重螺旋構造を取りながら全体として直線に近い形状の例を示している。しかしそれに限らず図43(c)のように、複製DNA(ベクター)818が巻き付かれたヒストン(Histone)819がmCas812-2に連結されても良い。
【1165】
ゲノム編集モジュール808内部ではATPフリーなため、自己燐酸化プロテアーゼ828が不活性の状態になっている。そしてこのゲノム編集モジュール808が細胞核内に移動すると、細胞核内のATPを利用して自己燐酸化プロテアーゼ828が燐酸化(活性化)する。その結果として活性化された自己燐酸化プロテアーゼ828が燐酸化活性特性を持つプロテアーゼの切断場所820を切断する。
【1166】
また複製DNAの保持用蛋白質817に自己燐酸化機能を持たせても良い。ATPフリーの内包部内部では、複製DNAの保持用蛋白質817が複製DNA(ベクター)818を保持している。ゲノム編集モジュール808全体が特定の細胞核内に入ると、細胞核内に有るATPが上記の自己燐酸化機能部と結合し、複製DNAの保持用蛋白質817の立体構造(conformation)の変化が生じて複製DNA(ベクター)818を放す。これにより複製DNA(ベクター)818が編集対象ゲノムに取り込まれ易くなる。
【1167】
またそれに限らず複製DNAの保持用蛋白質817は燐酸化で立体構造変化は起きるが、自己燐酸化機能を持たせなくても良い。この場合には、mCas制御酵素A_822が自己燐酸化してmCas812-1、2(内のヌクレアーゼ領域814)を活性化させると同時に、複製DNAの保持用蛋白質817を燐酸化させて立体構造変化を起こさせても良い。
【1168】
次に遺伝子調節キャリアで搬送する遺伝子調節因子806に関する説明を行う。前記の遺伝子調節因子806には、発現させる(express)遺伝子の選択や、遺伝子転写(Transcription)の制御などに関与する物質全般を含める。従って遺伝子を抑制する働きを持つリプレッサ蛋白(Repressor Protein)や遺伝子を活性化する働きを持つアクチベーター蛋白(Activator Protein)も、上記遺伝子調節因子806に含まれる。またそれに限らず、細胞核内部(細胞核膜の内部)での信号伝達経路(Pathway of Signal Transduction)に関与する物質も、上記の遺伝子調節因子806に含めても良い。
【1169】
1個の細胞内において、外から与えられた情報が細胞核内部に伝わるまでの間でも、非常に複雑な信号伝達経路が存在する。従って細胞核の外に遺伝子調節因子806を挿入した場合、想定外の信号伝達を誘発する恐れが大きい。本実施形態例で示すように遺伝子調節因子806を直接細胞核内に搬送する事で、効率良く確実に遺伝子調節が行える効果が有る。
【1170】
生体内の各部位(each part)を構成する個々の細胞は、成長過程で周囲との情報交換(主に化学的信号のやり取り)を通じて配置場所に適正な細胞に成長(細胞運命が決定)する。すなわち個々の細胞は、それが配置された生体内の構成部位に応じた遺伝子発現(Gene Expression)が起こる。
【1171】
例えば特許文献4または特許文献5に記載の方法で初期化した細胞(Initialized Cell)を培養して生体内の特定部位で作用する細胞に成長させるには、従来は時間を掛けて所定環境下で育てる(長期間培養の)必要が有った。
【1172】
それに対して本実施例では、上記の初期化した細胞を培養している培養液中に遺伝子調節キャリアを混入させるだけで短期間に効率良く所望の細胞に成長させられる効果が有る。ここでこの遺伝子調節キャリア内には、初期化した細胞を所望の細胞に成長させるために必要な遺伝子発現を促進させる遺伝子調節因子806が内蔵されている。
【1173】
また本実施形態例では、同一の細胞に対してベクターキャリアと遺伝子調節キャリアを投与(give)しても良いし、複数回ずつ投与しても良い。またそれに限らず、ゲノム編集モジュール808の中身が異なるベクターキャリアを複数回投与しても良いし、遺伝子調節因子806が異なる遺伝子調節キャリアを複数回投与しても良い。
【1174】
ベクターキャリアを投与してゲノム編集された細胞を多量に増殖培養したい場合、ベクターキャリア投与後に遺伝子調節キャリアを投与できる。この時に遺伝子調節キャリアの内蔵物(遺伝子調節因子806)として、分裂促進因子活性化プロテインキナーゼのMAPK(Mitogen-activated Protein Kinase)を使用しても良い。
【1175】
現在までのところ、MARKとして細胞外信号制御キナーゼのERK(Extracellular Signal-regulated Kinase)とJNK(c-Jun N-terminal Kinase)、p38MARKの3種類が同定されている。ここで上記のERKは“細胞外信号制御”の機能を有するが、細胞核内での動作は確認されている。
【1176】
活性化した(燐酸化された(phosphorylated))ERKは細胞核内で、CREB(cAMP
Response Element Binding Protein)やEts、Jun、Fos、Elk、HIF1、STAT3などを燐酸化して(活性化させて)遺伝子に作用させる。この遺伝子への作用により、増殖(Proliferation)に寄与するだけでなく、分化(Differentiation)や成長(Growth)にも寄与する。
【1177】
また活性化した(燐酸化された)JNKは細胞核内で、c-JunやAFT-2、ELK-1、p53MAPK、NFAT、STAT3などを燐酸化して(活性化させて)遺伝子に作用させる。この遺伝子への作用では、増殖に寄与するだけでなく、分化やアポトーシス(Apoptosis)などにも関与する。
【1178】
そして活性化した(燐酸化された)p38MARKは細胞核内で、Ets-1やNFAT、Sap1、Stat1、Max、Myc、Elk1、p53MAPK、CHOP、MEF2、ATF-2、MSK1、MK2/3などを燐酸化して(活性化させて)遺伝子に作用させる。この遺伝子への作用は、増殖以外にサイトカインの生成(Cytokine Prodiction)やアポトーシスなどにも関与する。
【1179】
なお遺伝子調節キャリア内に入れる遺伝子調節因子806として上記に限らず、その信号伝達経路に関係するCREBやEts、c-Jun、Fos、Elk、HIF1、STAT1や3、NFAT、Sap1、Max、Myc、CHOP、MEF2、ATF-2、MSK1、MK2/3、HMG-14、Smad、Co-Act、TFあるいはそれらの組み合わせを使用しても良い。
【1180】
また中心体(Centrosome)や紡錘体(Mitotic Spindle)、動原体(Kinetochore)の活性を調整して有糸分裂(Mitosis)を正常に進行させるオーロラA/B(Aurora A/B)を遺伝子調節因子806として使用しても良い。但し過剰摂取は癌化に繋がる危険性が有るので、投与量に配慮が必要となる。
【1181】
細胞核膜表面への選択的接合部830の一構造例を図44(a)に示す。本実施形態例における細胞核膜表面への選択的接合部830内には、膜貫通部870と細胞核検出部850が含まれる。この膜貫通部870の働きで細胞核膜表面への選択的接合部830が、細胞核内運搬用キャリア800内のキャリア内包部の内部842を覆う膜領域に局在する。ここでこの膜貫通部870内の少なくとも一部には、疎水領域852-1~6が存在する。そして細胞核検出部850が細胞内の細胞核の位置を検出または識別する。
【1182】
この細胞核検出部850が細胞核近傍に近付くと、細胞核膜表面への選択的接合部830内の膜貫通部870がキャリア内包部の内側842を覆う膜領域を引きずる形で、キャリア内包部を細胞膜近傍に近付ける。
【1183】
この細胞核検出部850の具体例として本実施形態例では“抗体(Antibody)”を使用しても良い。しかしそれに限らず本実施形態では、細胞核の位置を検出または識別する方法で有れば任意の方法を使用しても良い。
【1184】
また細胞核を識別(あるいは検出)する抗体の例として、細胞核内部に配置されている核ラミナ832に対する抗体を使用した例を説明する。従って細胞核検出部の一例として、核ラミナ識別抗体部850を利用した場合の説明を行う。しかしそれに限らず、細胞核表面あるいは細胞核内部に存在するあらゆる物質に対する抗体を使用しても良い。
【1185】
また図44では説明の都合上、核ラミナ880を示す抗原(Antigen)と抗体間の反応(結合)を“連続する三角柱列の側面間のはめ込み/羽目合わせ関係”で図示した。しかし図44の接合部形状は、実在しない。
【1186】
細胞核膜の外膜898は小胞体と連結しているので、細胞核検出部850が小胞体位置への誤検知しないように防止する必要が有る。小胞体は単層膜構造を取るのに対し、細胞核膜は内膜と外膜の2層膜構造を取り、細胞核膜の内膜896周辺には多量の核ラミナ880が局在している。つまりこの核ラミナ880は、細胞核内の比較的外側部に多く分布している。従ってこの特徴を利用すると、外部から細胞核位置を発見し易くする効果が有る。
【1187】
膜貫通部870は、キャリア内包部の内部842を外側で覆う膜領域(内の少なくとも外膜838と内膜836のいずれか)を1回以上貫通する。図44(a)に示した例では、6回繰り返し貫通する。しかし本実施形態例ではそれに限らず、任意の回数(例えば2回や4回、7回、24回)だけ繰り返し貫通しても良い。
【1188】
また膜貫通部870内では、αヘリックス構造を保持して(αヘリックス構造部860を形成した形で)膜貫通する例を示している。しかしそれに限らず、任意の形態で膜貫通しても良い。すなわちランダム構造を取った膜貫通形態や、βシート構造での膜貫通形態でも良い。
【1189】
図44(a)の実施形態例では6本のαヘリックス構造部860の中で、2本のαヘリックス構造部860の長さが他の4本より長い。そして長い2本のαヘリックス構造部860の端部で、核ラミナ識別抗体部(細胞核検出部)850と接続している。αヘリックス構造体860として繋がったまま、膜貫通部870から細胞核検出部(核ラミナ識別抗体部)850に接続する構造を取ると、細胞核膜表面への選択的接合部830内部で強固に細胞核検出部(核ラミナ識別抗体部)850を保持できる効果が有る。
【1190】
しかしそれに限らず、任意の形態で膜貫通部870と細胞核検出部(核ラミナ識別抗体部)850間が接続されても良い。その一例として、膜貫通部870と細胞核検出部(核ラミナ識別抗体部)850の間にβシート(結晶)部が配置されても良い。
【1191】
αヘリックスを構成するαヘリックス構造部860内の親水領域856-1~8、858-1~6では、極性残基(Polar Residue)を持つアミノ酸のアスパラギンまたは、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシンが多く含まれる。またこの親水領域856-1~8、858-1~6内に、電荷量を持った残基(Charged Residue)を含むアミノ酸のリシンまたは、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸も一部存在しても良い。
【1192】
一方で疎水領域852-1~6、854-1、2内では上記アミノ酸の配合比は比較的少なく、非極性残基(Non-Polar Residue)を持つアミノ酸のアラニンまたはバリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、グリシン、システインなどが含まれる。
【1193】
図44(a)で説明した構造を有する細胞核膜表面への選択的接合部830の、細胞核内搬送用キャリア800(図43)内部での配置場所と機能例を図44(b)に示す。
【1194】
細胞核内搬送用キャリア800の内包部を覆う膜領域は、ほ乳類の細胞膜と同様に、キャリア内包部の外膜838とキャリア外包部の内膜836から構成される脂質2重層構造を有する。そしてこのキャリア内包部の外膜838とキャリア外包部の内膜836の間は、主に脂質で構成される内外膜間の疎水領域834が存在する。
【1195】
脂質は主に炭素原子と水素原子から構成されるため、疎水性特性を有する。そして“水中で油滴が分離されて集合する”ように、水溶液中では疎水性物質が集まる(水分子分布領域の外に押し出される)特性が有る。この特性から、膜貫通部870内の疎水領域852-1~6が、内外膜間の疎水領域834内に入り込む。
【1196】
なお細胞核膜表面への選択的接合部830内では図44(a)が示すように、疎水領域852-1~6の他に疎水領域854-1、2が存在する。ところで疎水領域852-1~6の表面積は、疎水領域854-1、2の表面積より広い。そのため疎水領域854-1、2では無く、疎水領域852-1~6が内外膜間の疎水領域834内に入り込む。
【1197】
細胞核膜も細胞核膜の内膜896と細胞核膜の外膜898からなる脂質2重膜で構成される。また細胞核膜の内膜896と細胞核膜の外膜898の間にも、主に脂質で構成される内外膜間の疎水領域894が存在する。そして細胞核膜の内膜896の内側に核ラミナ880が配置されている。
【1198】
従って細胞核膜表面への選択的接合部830内の核ラミナ識別抗体部(細胞核検出部)850は、細胞核膜の中に入り込んで核ラミナ880の存在を識別する必要が有る。その活動を促進させる手段として本実施形態例では、疎水領域854-1、2が設けられている。
【1199】
すなわち図44(b)が示すように、この疎水領域854-1、2が細胞核膜内の内外膜間の疎水領域内に入り込む。このように核ラミナ識別抗体部(細胞核検出部)850の細胞核内での地盤を確立させる事で、核ラミナ識別抗体部(細胞核検出部)850の核ラミナ880との接合を促進させる効果が有る。
【1200】
細胞内に注入後で細胞核内に吸収される前の細胞核内搬送用キャリア800は、細胞内で自由に動き回る。この動き回る過程で、上記疎水領域854-1、2が例えば小胞体内に一時的に侵入する場合が有る。しかし小胞体などの膜は単層構造をしているため、細胞核膜とは厚みが異なる。さらに小胞体などの内部に核ラミナ880が存在しないため、核ラミナ識別抗体部(細胞核検出部)850による強固な固定は起きない。そのために短期間で細胞核内搬送用キャリア800は小胞体などから離れ、細胞核の探索を始める。
【1201】
9.3節で細胞核内搬送用キャリア800の製造方法を後述するように細胞核内搬送用キャリア800の一部は、細胞核膜表面への選択的接合部830がキャリア内包部の内部842を向いて配置されても良い。
【1202】
キャリア内包部の内部842に配置された核ラミナ832も、比較的強固な構造を持つ。従ってこのキャリア内包部の内部842を向いた細胞核膜表面への選択的接合部830を核ラミナ832と接合させる事で、キャリア内包部の内膜836と外膜838の強度を向上させる効果として働く。
【1203】
細胞核膜表面への選択的接合部830で細胞核内搬送用キャリア800と細胞核膜を接合させると図44(c)で示すように、ここを起点としてキャリア内包部の膜領域が細胞核膜の一部に取り込まれる。その結果として細胞核内搬送用キャリア800の内蔵物(ゲノム編集モジュール808または遺伝子調節因子806)が、細胞核内部890内に取り込まれる。
【1204】
図44(c)での詳細描写を省いたが、キャリア内包部の内膜836が細胞核膜の内膜896の一部として取り込まれ、キャリア内包部の外膜838が細胞核膜の外側898の一部として取り込まれる。またそれと並行してキャリア内包部の内部842に配置された核ラミナ832も、細胞核内の核ラミナ880の一部として取り込まれる。
【1205】
従ってキャリア内包部の内部842に配置された核ラミナ832の材質と組成、構造、厚みの少なくともいずれかを細胞核内の核ラミナ880と一致または類似させると、細胞核内搬送用キャリア800の内蔵物(ゲノム編集モジュール808または遺伝子調節因子806)を細胞核内に搬送した時の細胞核に与えるダメージを最小限に抑えられる効果が生まれる。
【1206】
同様にキャリア内包部の内膜836の材質と組成、構造、厚みの少なくともいずれかを細胞核膜の内膜896と一致または類似させると、細胞核に与えるダメージを最小限に抑えられる効果が生まれる。
【1207】
さらにキャリア内包部の外膜838の材質と組成、構造、厚みの少なくともいずれかを細胞核膜の外膜898と一致または類似させると、細胞核に与えるダメージを最小限に抑えられる効果が生まれる。
【1208】
9.3節 細胞核内搬送用キャリアの製造方法(量産化適合)
膜蛋白質(Membrane Protein)として知られるG蛋白質(G Protein)やイオンチンャネル(Ion Channel)内には、αヘリックス構造860をした膜貫通部870を持っている。従ってこれらのアミノ酸配列情報を参考にして、図44(a)の構造を持った細胞核膜表面への選択的接合部830に対応したアミノ酸配列の設計を最初に行う。その情報を利用して、麹菌などに対するゲノム編集を行い、例えば図45または図47の方法で細胞核膜表面への選択的接合部830を作成する。
【1209】
参考文献3内で詳細に説明されているように、細胞核膜を構成する燐脂質分子は、親水性の頭部と炭化水素のいみで成り立つ疎水性の尾部から構成されている。従ってシャーレ内の純水中に上記の燐脂質分子を適量分注入すると、純水表面上一面に燐脂質分子が一様に並んだ単層膜が形成される。
【1210】
この単層膜内では、親水性頭部が純水と接する面側に下向きとなる。一方で疎水性の尾部は上向きに一様に配列し、空気との接触面側に配置される。
【1211】
この状態で純水内に注射針を挿入して、細胞核膜表面への選択的接合部830を注入する。図44(a)に示すように細胞核膜表面への選択的接合部830内に疎水領域852-1~6を持つため、水分子に押し出されて純水の表面上に移動する。そして細胞核膜表面への選択的接合部830内の核ラミナ識別抗体部(細胞核検出部)850が下を向いた形で、単層膜が形成された表面上に局在する。特に燐脂質分子の単層膜内の疎水性の尾部が多く分布する領域内に、上記の疎水領域852-1~6が入り込む。
【1212】
次に純水内に事前に配置したメッシュまたは細かい孔の開いた板をななめにして純水から上部の外へ移動させる。するとメッシュの隙間または板内の孔内に燐脂質分子層が入り込み、脂質2重層を形成する。
【1213】
この脂質2重層内部に細胞核膜表面への選択的接合部830が分散配置されている。ここで分散配置された細胞核膜表面への選択的接合部830内の核ラミナ識別抗体部(細胞核検出部)850の方向は全て一致しておらず、細胞核膜表面への選択的接合部830によって互いに正反対の方向を向く。
【1214】
キャリア内包部内にゲノム編集モジュール808を格納する場合には、図43のようにATPフリー状態の核液内に核ラミナ832とゲノム編集基本部810を混入させた水溶液を事前に準備しておく。なおこの水溶液中には必要に応じて、mCas制御酵素A_822やmCas制御酵素B_824、細胞核内信号制御酵素826、自己燐酸化プロテアーゼ828を混入させても良い。
【1215】
一方でキャリア内包部内に遺伝子調節因子806を格納する場合には、核ラミナ832と所定の遺伝子調整因子806を混入させた核液を事前に準備する。
【1216】
この核液(水溶液)を脂質2重層で塞がったメッシュまたは板内の孔部に向けて噴霧する。するとシャボン玉作成原理と同じ原理で、キャリア内包部が生成される。噴霧先に細胞膜内搬送用キャリア800内部と同じ成分を持つ水溶液を配置しておくと、膜領域で覆われたキャリア内包部が上記水溶液中に入る。
【1217】
上述したようにキャリア内包部の内膜386の内部側は核ラミナ832で裏打ちされているので、所定強度が保たれている。従ってキャリア内包部の内膜386に核ラミナ832で裏打ちされた構造を持たせる事で、キャリア内包部の取り扱いが容易になる効果が生まれる。
【1218】
次に上記キャリア内包部を作成した手順と類似した方法で、細胞核内搬送用キャリア800を作成しても良い。
【1219】
上記方法を利用すると、比較的容易に細胞核内搬送用キャリア800を作成できる。しかし本実施形態例では上記の作成方法に限らず、任意の方法で作成しても良い。
【1220】
第10章 機能性バイオ物質の製造方法と工程管理
第10章では、本実施形態例における機能性バイオ物質の量産方法と工程管理方法の説明を行う。
【1221】
10.1節 製造方法と工程管理の基本手順
図37に示す機能性バイオ物質の生成過程では、いずれも2.6節で説明した近赤外領域光での吸光特性の変化が生じる。すなわち機能性バイオ物質の生成過程では、何らかの形で特定酵素の触媒反応を利用している。そして特許文献3に拠ると、この触媒反応時に一時的な水素結合が生じ、この水素結合形態に応じた吸収帯の波長変化が生じる。したがってこの吸収帯の波長変化を測定して、機能性バイオ物質製造時の状態管理が行える。またこの時に少なくとも第3章と第6章で説明した方法を採用すると、吸収帯の波長変化測定の精度が大幅に向上する。
【1222】
近赤外光を用いて状態管理をしながら機能性バイオ物質を製造する方法を、図45図46に示す。図45で示した方法は、第9章内で説明したベクターキャリアを用いたゲノム編集処理(S42)の後に、遺伝子調節キャリアを用いた細胞の増殖培養(S47)を行う。一方で図46の方法は、遺伝子調節キャリアを用いた細胞培養(S64)を行った後に、ベクターキャリアを用いたゲノム編集(S66)を行う。
【1223】
しかしそれに限らず、ゲノム編集のみか増殖培養のみを行っても良いし、両者を同時に行っても良い。さらに両者を順不同に組み合わせても良い。
【1224】
図45を用いた量産方法と工程管理方法の説明に当たり具体的な一例として、トランスジェニック蚕(Transgenic Silkworm)を用いた機能性バイオ物質の製造例も一緒に説明する。
【1225】
図37内3~4行目に記載した“フィブロイン変形”あるいは図37内5行目に記載した“酸性残基含有フィブロイン”に関しては、図38図39Aを用いて8.3節で説明した。
【1226】
蚕が吐き出す繭(Cocoon)内には多量のフィブロインが含まれているので、トランスジェニック蚕を用いて上記の“フィブロイン変形”や“酸性残基含有フィブロイン”を製造できる。
【1227】
製造開始(S41)の最初の工程で、9.2節で説明したベクターキャリアを用いて標的細胞内のゲノム編集処理(S42)を行う。この時にはヌクレオチド(Nucleotide)内の塩基間水素結合が一時的に発生する。従ってこの時に8.5節で説明した吸収帯の波長変化が生じる。
【1228】
またそれだけでなくゲノム編集にCRISPR/Cas9を使用する場合、ヌクレアーゼ領域814でのDNA切断が行われる。このDNA切断時にも固有の水素結合が発生するので、それに対応した吸収帯の波長変化を観測できる。
【1229】
S43の光学的モニターとは、近赤外光を用いた上記吸収帯の波長変化観測に基付く工程管理(ゲノム編集状態の管理)を意味する。
【1230】
トランスジェニック蚕を用いた場合には、蚕の受精卵に対してS42のゲノム編集を施す。
【1231】
上記のゲノム編集が的確に行われたか否かを評価(S45)し、的確で無かった(Noの)場合には、再度ゲノム編集処理(S42)に戻る。トランスジェニック蚕に対するこのゲノム編集後の遺伝子発現および生成された機能性バイオ物質の評価(S44)とは、成長した蚕が吐き出す繭の成分分析や特性分析を行う事に対応する。
【1232】
評価結果(S45)が良好な(Yesの)場合には、次のS46のステップに移行する。ゲノム編集後の受精卵が細胞分裂を始めた段階で、一部を分離抽出して冷凍保存しておく。残りの受精卵から蚕の幼虫への成長と蛹(Pupa)変身後の評価(S44)結果が良好だった冷凍保存卵に対してS46で初期化処理を施す。この初期化には、特許文献4あるいは特許文献5で開示された方法を利用する。
【1233】
初期化された細胞に対して遺伝子調節キャリアを与えて増殖培養(S47)を行う。この時に使用する遺伝子調節因子としては、9.2節の後半で説明したMAPKファミリーを使用しても良い。
【1234】
ここで遺伝子調節因子がDNAに作用する時に、遺伝子調節因子の一部とDNAの一部との間で一時的な水素結合が発生する。この水素結合に固有な吸収帯の波長変化を観察してDNAに対する遺伝子調節因子の作用効果を管理する処理が、光学的モニターS48に対応する。
【1235】
次のS49のステップで増殖培養後細胞を終末分化(Terminal Differentiation)させて機能性バイオ物質を収穫する(S51)方法として、本実施形態例では2種類の方法が選択できる。最初の方法は受精卵から蚕の幼虫へ成長させて蛹に変身させた後、繭のみ抽出する方法である。
【1236】
また他の方法は、培養液中の細胞に対して終末分化を促す遺伝子調節因子を入れた遺伝子調節キャリアを投与する。その結果として培養液中で絹糸細胞(Silk Cell)に成長させた後に細胞膜を破壊してフィブロインを抽出(S51の機能性バイオ物質の収穫に相当)する。
【1237】
ここで終末分化を促す遺伝子調節因子のDNAへの作用時にも一時的な水素結合が発生する。従ってこの水素結合に固有な吸収帯の波長変化を観察してDNAに対する遺伝子調節因子の作用効果を管理する処理が、光学的モニターS50に対応する。
【1238】
なお図46内のS65とS67の各ステップでも光学的モニターを実施するが、具体的内容は上記とほぼ一致するので、以降での説明を省略する。
【1239】
上記2種類のいずれの方法を採用した場合でも、フィブロインの抽出(機能性バイオ物質の収穫S51)が完了した場合に製造終了(S52)となる。しかしそれに限らず、S46の細胞初期化あるいはS47の増殖培養から始まるサイクルを繰り返しても良い。
【1240】
機能性バイオ物質の生産能を有する親細胞(元種)(図48)として絹糸細胞のイメー
ジを例に取って、上記の説明を行った。本実施形態例における機能性バイオ物質を量産する方法として、
A〕細胞を使用せず、所定容器内で生産する方法
B〕細胞の内部で生産し、細胞膜破砕により機能性バイオ物質を採取する方法
C〕細胞内部で生産した機能性バイオ物質を、細胞自体が外部に分泌(secrete)する方法
D〕細胞の内部で生産し、細胞と連結した形で機能性バイオ物質が細胞外に伸ばす方法などを利用しても良い。しかし本実施形態例ではそれに限らず、任意の方法で機能性バイオ物質を生産しても良い。
【1241】
上記〔B〕の方法はE.Coli法と呼ばれ、大腸菌(Escherichia Coil)内部で蛋白質を生成する。この方法では“破砕⇒精製”の工程が必要となるため、製造工程が複雑化して相対的な製造コストが上昇し易い。
【1242】
一方で麹菌(Aspergillus Oryzae)やグルタミン酸生産菌(Corynebacterium Glutamicum)は、菌内で生産した蛋白質を分泌する〔C〕の方法に適している。特にグルタミン酸生産菌はTatABCと呼ばれるチャネルを利用する事で、高分子を立体構造保持のままで分泌できる特性を有している。しかしこの場合でも分泌可能な高分子の分子サイズ(分子量)には上限が有るため、サイズの大きな機能性バイオ物質の直接的な分泌は難しい。
【1243】
それに比べて〔A〕の方法では任意サイズの生成蛋白質を容易に収集できる。具体的方法として、大腸菌抽出液が入った特殊形状試験管内にDNAを滴下するだけで、蛋白合成まで自動的に行う。また上記特殊形状試験管内を特殊フィルタで仕切る事で、微量透析(Dialysis)法を用いた遺伝子発現も可能となっている。
【1244】
しかし大腸菌抽出液中では雑菌が繁殖し易いため、雑菌混入を避けた特殊環境下(クリーンルーム内)のみでの製造が望ましい。一般環境下での量産を目指して混入した雑菌の消毒/殺菌処理を行うと、mRNA転写系や蛋白質合成系が重大なダメージを受け易い。
【1245】
本実施形態における他の応用例として、上記〔D〕の方法を利用しても良い。毛母細胞は内部で生成した羊毛や毛髪を、毛母細胞と直接連携した形で外部に延長させる。また〔A〕と比べると、毛母細胞は消毒/殺菌耐性が高い。そのため適正な消毒/殺菌の選択により、一般環境での生産容易性が高い。
【1246】
機能性バイオ物質の生産能を有する親細胞(元種)あるいはそこから増殖培養して得た娘細胞(Daughter Cell)(種子種)として毛母関連細胞1000を用い、上記〔D〕の方法で機能性バイオ物質1002を生成するイメージ図を図46に示す。
【1247】
図46に示すように所定容器1010内に攪拌機1006と光学的状態管理装置(測定装置)1020が予め設置されている。この光学的状態管理装置(測定装置)1020は図1A図1Cに示した構造と同様に、光源部2と検出部6から構成される。
【1248】
なお図46内へは図示してないが、培地1004内のpH値を調整するpH調整機や、培地1004内への酸素ガスを補給する酸素補給も設置されても良い。
【1249】
図46(a)に示すように容器1010内に所定の培地1004を満たして常に撹拌させた状態で、毛母関連細胞(親細胞/元種または娘細胞/種子種)1000を入れる。この環境下で毛母関連細胞(親細胞/元種または娘細胞/種子種)1000を所定期間だけ培養し続ける。
【1250】
すると図46(b)のように生成された機能性バイオ物質1002が付いた毛母関連細胞(親細胞/元種または娘細胞/種子種)1000となる。この状態は毛母細胞が付いた毛髪と類似した形態となる。
【1251】
培地1004から取り出す非常に簡単な操作で生成された機能性バイオ物質1002の収集が行えるため、量産工程の大幅な短縮化が可能になる効果が有る。
【1252】
ここで使用される親細胞(元種)1000の量産化対応製造方法を、図47に示す。製造開始(S61)直後の最初のステップS62として、既存生体から同一種類の細胞を多量に採取する。具体的には羊などの動物の表皮を採取しても良い。
【1253】
その直後に、特許文献4または特許文献5に記載された方法で、収集細胞の初期化処理を行う(S63)。そしてMAPKファミリーなどの遺伝子調節因子を含んだ遺伝子調節キャリアを投入して初期化直後の細胞を増殖培養すると共に、所定の遺伝子調節因子を含んだ遺伝子調節キャリアを投入して終末分化を促進させる。なお光学的モニターS65とS67の内容は図45内と同一または類似なので、ここでの説明を省く。
【1254】
そしてS66のステップでは、ベクターキャリアを投与して所定のゲノム編集を行う。その後にスクリーニング(Screening)して(S68)所望のゲノム編集が実施された細胞のみを抽出し、親細胞(元種)1000として外部へ提供する(S69)。そして製造が終了する(S69)。
【1255】
上記〔A〕から〔D〕で説明した機能性バイオ物質を量産する方法に付いて、補足説明する。上記〔B〕から〔D〕の各方法では、機能性バイオ物質の量産時に特定の細胞を使用する。ここで使用する細胞は、量産する機能性バイオ物質の種別に応じて適正に選択する必要がある。
【1256】
例えば遺伝子操作して細胞内で『高等生物由来の蛋白質(Protein obtained from Higher Organism)』の生成を試みる。この原始的生物に帰属する細胞(Cell belonging to Primitive Organism)から見ると、上記『高等生物由来の蛋白質』は異物の侵入に見える。またいずれの細胞も、蛋白質を分解するプロテアーゼ(Proteinase)を内部に所持している。そのため原始的生物に帰属する細胞内で『高等生物由来の蛋白質』の生成を試みると、異物の侵入と見なしてプロテアーゼの働きで合成された蛋白質の分解が行われる。
【1257】
具体的な一例として、(微生物由来の)麹菌内で(昆虫種由来の)フィブロインの生成を試みても、プロテアーゼが作用してフィブロインの分泌効率が大幅に低下する。フィブロインの分泌効率向上のためプロテアーゼの活動を停止すると、逆に別の不要な異物の生成量が増加する。
【1258】
上記の理由から『特定生物由来の機能性バイオ物質』(特定生物が直接生成するバイオ物質の一部改良物質も含む)の量産には、その特定生物と同等階層もしくはそれより高等な生物由来の細胞を使用するのが望ましい。
【1259】
具体例として人工食材として例えば野菜や米、小麦など(の構成物質)の量産には、植物由来細胞を使用するのが望ましい。また人工食肉(あるいはその構成物質のアクチン・フィラメント(Actin Filament)など)の量産時には(蚕の錦糸細胞など)昆虫由来の細胞は使わず、ほ乳類や鳥類、魚類由来の細胞を使用するのが望ましい。
【1260】
上記〔D〕の方法使用例として、毛母関連細胞1000の利用を上述した。上記理由から、なるべく高等生物由来(例えば羊やヒトなどのほ乳類由来)の毛母関連細胞1000を使用するのが望ましい。
【1261】
また上記〔C〕の方法でも、(例えばほ乳類などの)高等生物由来の細胞を量産に使用するのが望ましい。“内部で生産した機能性バイオ物質を外部に分泌する(高等生物由来の)細胞”の一例として、膵β細胞(Pancreas β Cell)(あるいはその改良細胞)の利用例に関する説明をする。
【1262】
この膵β細胞から分泌されるヒトインスリン(Human Insulin)は、2量体蛋白質構造(Protein Structure comprising Two Monomers)をしている。具体的にヒトインスリンは、21個のアミノ酸のつながりで構成される“A鎖(A Chain)”と、30個のアミノ酸のつながりで構成される“B鎖(B Chain)”が2箇所のジスルフィド結合(DisulfideBonds)で接合されている。
【1263】
本実施形態例で使用するインスリンを分泌する膵β細胞は、必ずしも人間由来の必要は無く、他のほ乳類の体内に存在する膵β細胞を使用しても良い。この膵β細胞内のインスリン生成に関与する遺伝子に対し、第9章で説明したゲノム編集処理を行う。そして例えば筋肉細胞の一部などの食材、あるいは機能性素材などに適合した機能性蛋白質を生成/分泌する特殊な細胞に作り替える。
【1264】
図46で示した実施例では、上記〔D〕の方法例に合わせた毛母関連細胞1000の使用例を説明した。一方で上記〔C〕の方法では例えば改良形膵β細胞のように、細胞から機能性蛋白質を分泌させる。この場合の機能性蛋白質を生成/分泌させる環境は、図46に示すような培地1004と製造状態管理装置(測定装置)1020を使用しても良い。
【1265】
10.2節 地域分散形量産化工程
図45図47に示した方法では主に、同一箇所で機能性バイオ物質1002を製造する方法の説明を行った。しかしそれに限らず本実施形態例では、製造工程毎に実施する場所を分けて広域に分散配置しても良い。
【1266】
生成された機能性バイオ物質1002のトータル容量が増大すると、その運搬費用が非常に高価となる。一方で毛母関連細胞などのような機能性バイオ物質1002を生産する元になる親細胞/元種やそれを増殖培養して得た娘細胞/種子種1000は非常に小さいので、比較的安価に運送できる。
【1267】
したがって機能性バイオ物質1002の消費地域までは親細胞/元種または娘細胞/種子種1000の形で輸送し、消費地域で機能性バイオ物質1002の生産をするとトータルコストを大幅に下げられる効果が得られる。
【1268】
一方で図43および図44図37を用いて9.2節内で説明したベクターキャリアや遺伝子調節キャリアを使用するとゲノム編集モジュールや遺伝子調節因子が直接細胞核内に侵入する。従って自然環境の保護や生態系維持の必要性から、ベクターキャリアや遺伝子調節キャリアを使用できるエリアを特定地域内に限定する事が望ましい。
【1269】
従って図48に示す本実施形態例では、製造工程毎に生産拠点の階層化を行う。中核統括拠点1130を一箇所に集中させ、遺伝子調節キャリアとベクターキャリアの取り扱いをこの地域内に限定させる。そしてこの中核統括拠点1130内部での管理を強化させて、ベクターキャリアや遺伝子調節キャリアの外部への流出防止を徹底する。この方法を採用する事で、既存生態系や自然界に及ぼす悪影響を防止・制御できる効果が有る。
【1270】
すなわち上記中核統括拠点1130内のみでゲノム編集や細胞の初期化、遺伝子調節を行う。そして機能性バイオ物質の生産能を有する親細胞(元種)1000の生成(量産)を行う。そして得られた親細胞(元種)1000を、分散流通拠点1120へ提供する。
【1271】
各分散流通拠点1120a~1120cでは、提供された親細胞(元種)1000を増殖させて娘細胞(種子種)の生成を行う。また増殖効果を上げるため、成長因子(Growth Factor)の投与を行う。
【1272】
ところで各分散流通拠点1120a~1120c内で行う親細胞(元種)1000からの有糸分裂(Mitosis)促進や娘細胞(種子種)の成長促進のために与える成長因子は、あくまでも細胞外からの投与に限定される。すなわちここでは、細胞核内に直接的に搬入させる遺伝子調節キャリアをしようしない。
【1273】
また一般環境下での培地1004内での雑菌繁殖を防止し、娘細胞(種子種)へのダメージが少なく調整された殺菌/消毒剤(雑菌繁殖防止剤)を入れた培地1004も製造する。そしてここで生産された娘細胞(種子種)と雑菌繁殖防止剤入り培地1004を、機能性バイオ物質の最終的な生産場所1100a~1100jに提供する。
【1274】
最終生産地域1110は、上記分散生産の階層内の末端部に位置する。そして各機能性バイオ物質の最終的な生産場所1100a~1100jは、機能性バイオ物質の消費場所の近くに存在する。
【1275】
この各機能性バイオ物質の最終的な生産場所1100a~1100jでは図46で説明した簡易的な設備を一般環境下で使用し、娘細胞(種子種)と雑菌繁殖防止剤入り培地1004を分散流通拠点1120から購入する。購入方法として直接購入の他に、ネットワーク経由で購入しても良い。
【1276】
そして図46に示した方法で機能性バイオ物質1002を製造するため、一般者の一般的環境下で容易に生産が可能になる効果が有る。従って本実施形態例では、誰でもが内職する容易さで簡単に生産できる。
【1277】
以上いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【1278】
10.3節 非可干渉性近赤外光を用いた機能性バイオ物質の推定
図64(a)または(b)で記載した分子構造408を持つポリエチレンは、図63に示す吸光特性を持っている。また絹シート(フィブロイン)内の一部のアミノ酸配列400は、図64(c)に示す特徴を持っている。そしてこれは、図62に示す吸光特性を持っている。
【1279】
部分的可干渉性を持つ従来の直進光360は、絹シート内通過時に多重散乱光370との間で光学的干渉を起こす(図26(a)参照)。その結果として図61に示すように、部分的可干渉性を持つ従来の光では絹シート(フィブロイン)の吸光特性は得られなかった。すなわち第3章で説明した方法で部分的可干渉性を低減させた(非可干渉性の)近赤外光で、精度の高い吸光特性が得られる。
【1280】
10.1節内で、“上記非可干渉性の光を用いて機能性バイオ物質の製造工程管理”する例を説明した。しかし上記の製造工程管理に限らず、製造された機能性バイオ物質の成分や分子構造などの推定(同定)にも、図62図63で得た知見を活用しても良い。
【1281】
食材は(ビタミン、ミネラルなどを除き)、蛋白質系と糖質系、脂質系におおまかに分類できる。従って食材に使用する機能性バイオ物質に限らず、素材として利用する機能性バイオ物質なども含めて、機能性バイオ物質を蛋白質系(Protein Group)と糖質系(Glucide Group)、脂質系(Lipid Group)におおまかに分類しても良い。
【1282】
中心に窒素原子を含む官能基(-NHn)は、糖質系と脂質系の機能性バイオ物質には含まれない(図65)。一方で中心に炭素原子を含む官能基(-CHn)が、脂質系の機能性バイオ物質内の大多数を占める。そして脂質系の機能性バイオ物質内での水酸基(Hydroxyl Group、-OH)の含有率は、それと比べると非常に少ない。また糖質系の機能性バイオ物質内では、メチル基(-CH3)の含有率が低い。
【1283】
蛋白質系の機能性バイオ物質内では、いずれの官能基を含有できる。また“-NH基”以外では、これらの官能基は“アミノ酸残基(Amino Acid Residue)”内に存在する。従って人工蛋白質が主成分の機能性バイオ物質から得られる吸光特性では、検出される官能基から“人工蛋白質の主成分を構成するアミノ酸の種類とおよその組成量”が推定できる。
【1284】
図65の枠内の下部に括弧内で記載した数字は、図62図63から直接読み取った値を示す。また枠内の中央部は、尾崎らの文献(尾崎幸洋・河田聡編:近赤外分光法(学会出版センター、1996年)p.216.219)から転記した。
【1285】
一例としてフィブロイン内では、“-CH基”を持ったグリシン(Glycine)が全体の46%を占め、“-CH3基”を持ったアラニン(Alanine)が全体の30%を占める。従って図62内の“下向き矢印(Lower Direction Arrow)”で示したピーク(極大)位置は、アラニンの含有量30%を表すと考えられる。
【1286】
一方で“蜘蛛の糸”では、βシート形結晶部602(図38)の大部分は、アラニンのみが占めると言われている。従って蜘蛛の糸の吸光特性を測定すると、“下向き矢印”位置でのピーク量(極大値)は大幅に増加すると予想される。
【1287】
また図62図63を比較すると、伸縮振動の第1倍音に帰属する吸収帯の中心波長はメチル基(Methyl Group、-CH3)で1.7μmを越える(1.81μmから1.70μmの範囲内)に対し、メチレン基(Methylene Group、-CH2)や“-CH基”は1.7μm以下となる。図62内の下向き矢印で示した位置は、1.683μmと1.177μmだった。従って1.683μm近傍(1.80μmから1.67μmの範囲内)または1.177μm近傍(1.23μmから1.12μmの範囲内)に吸収帯の中心波長が観察されると、メチル基の存在が予想される。このように、機能性バイオ物質から得た吸光特性の吸収帯中心波長が1.7μmを越えるか否かで、主成分となるアミノ酸の種別が分かる。
【1288】
図示して無いが、メチル基を持つPMMA(Poly-Methyl-Metacrylate)やエポシキ樹脂(Epoxy Resin)でも共通に、1.7μm以下の所に吸収帯の中心波長が観測された。
【1289】
またそれだけでなく、1.23μmから1.15μmの範囲内または0.94μmから0.86μmの範囲内に吸収帯の中心波長が観測されると、メチル基またはメチレン基、“-CH基”が含まれている可能性が高い。
【1290】
さらに図65から、測定対象の機能性バイオ物質内に蛋白質系材料が含まれるか否かが容易に予測できる。すなわち蛋白質系材料が含まれる場合には、1.67μm~1.46μmの範囲内または1.11μm~0.97μmの範囲内に吸収帯の中心波長が存在する。
【1291】
図62の実測結果では、1.570μm近傍と1.538μm近傍、1.495μm近傍に、それぞれ吸収帯の中心が存在する。フィブロイン内にはβシート形結晶部602(図38)が存在する。従って蛋白質がβシート構造(β Sheet Structure)を持つ場合、上記数値のいずれか(もしくはその近傍)に中心波長を持つ吸収帯が検出され得る。
【1292】
例えば食材や素材などに(将来)利用される機能性バイオ物質から得られる吸光特性(第3章で説明した部分的可干渉性を低減させた(または非可干渉性の)光を用いて測定した場合)から、その機能性バイオ物質の組成(構成材料)の推定方法を下記にまとめる。
【1293】
官能基内のグループ振動の中でまず始めに、伸縮振動の倍音に帰属する吸収帯の説明から始める。図65に拠ると、測定波長として1.67μmと1.46μm、1.38μm、1.11μm、0.94μmのそれぞれが境界値となる。
【1294】
すなわち吸光特性内で観察される吸収帯の中心波長が、1.67μmから1.46μmの範囲内あるいは1.11μmから0.97μmの範囲内に有る場合は、対象となる機能性バイオ物質は“蛋白質系”(少なくとも一部にアミノ酸が含まれる)と解釈しても良い。
【1295】
一方で吸収帯の中心波長が、1.46μmから1.38μmの範囲内あるいは0.99μmから0.94μmの範囲内に観察される場合は、機能性バイオ物質は“糖質系”(例えばオリゴ糖(Oligosaccharides)やセルロース(Cellulose)などの多糖(Polysaccharide)が、少なくとも一部に含まれる)あるいは“蛋白質系”(少なくとも一部にアミノ酸が含まれる)と解釈しても良い。
【1296】
ここで1.67μmから1.46μmの範囲内あるいは1.11μmから0.97μmの範囲内に吸収帯の中心波長が存在しない場合には、主に“糖質系”が中心組成を構成すると推定しても良い。
【1297】
一方で1.67μmから1.46μmの範囲内あるいは1.11μmから0.97μmの範囲内に吸収帯の中心波長が存在する場合には、1〕“蛋白質系”が中心組成を構成する場合と2〕“蛋白質系”と“糖質系”の混在系のいずれかの可能性が高い。
【1298】
図65では“脂質系”材料の一部に、水酸基(-OH)が含まれる。しかし“脂質系”では、メチル基やメチレン基の存在比率が圧倒的に高い。従って“脂質系”で観測される水酸基(-OH)の量(すなわち吸収帯の強さ)は、測定誤差に埋もれる場合が多い。
【1299】
同様に“糖質系”内に存在するメチル基(-CH3)の存在確率は、非常に低い。従って(上述したように)1.7μm以上の位置に吸収帯の中心波長が有る場合は、“脂質系”か“蛋白質系”かのいずれかに含まれる。しかも吸収帯の中心波長が1.67μmから1.46μmの範囲内あるいは1.11μmから0.97μmの範囲内に存在しない場合には、“脂質系”が中心組成を構成すると推定できる。
【1300】
次に吸光特性内での伸縮振動の倍音に帰属する吸収帯と結合音に帰属する吸収帯との見分け方を説明する。図63の(a)と(c)が示すように伸縮振動の倍音に帰属する吸収帯は、比較的幅が狭く強度(ベースラインから中心部までの高さ)が大きい。それに比べて結合音に帰属する吸収帯は図63(j)周辺のように、比較的幅が広く強度も低い。
【1301】
また5.6節で図63(j)部分の説明をしたように、比較のために“部分的可干渉性の高い光”を使用し、“大きな振動”が発生する部分を“結合音”に帰属すると判定しても良い。
【1302】
第2章で解説し図61の測定結果で示したように、従来の部分的可干渉性を持つ近赤外光では光学雑音内に検出信号が埋もれてしまう。従来技術ではその結果として、官能基内のグループ振動に帰属する吸収帯個々の特性分析は困難だった。それに対して本実施形態では、第3章で説明した手法で部分的可干渉性の低い(非可干渉性の)光を生成できる。従ってその光を使用して初めて、官能基内のグループ振動に帰属する吸収帯個々の特性が可能となる効果が生まれる。
【1303】
10.4節 本実施形態における機能性バイオ物質の光学特性
本実施形態で作成した機能性バイオ物質の光学特性に付いて説明する。始めに“蛋白質系”材料を使用して構造体を形成した機能性バイオ物質の光学特性の説明を行う。そして次に、それ以外の独自機能を発揮する機能性バイオ物質の光学特性を説明する。
【1304】
本実施形態において、蛋白質系材料を用いた機能性バイオ物質の構造体ではA)αヘリックス(α-Helix)またはβシート(β-Sheet)、折り返し(Turned)構造を利用して構造体を形成するB)光学的に製造工程管理が容易な組成を適用するの2点を実施する。
【1305】
最初に上記(B)を説明する。自然界には20種類のアミノ酸が存在する。したがって機能性バイオ物質の材料として、20種類のアミノ酸の組成比を均等に使用する選択肢も有り得る。しかしこの場合には、その機能性バイオ物質から得られる吸光特性は非常に複雑となる。仮に非常に複雑な吸収特性を持つ機能性バイオ物質を製造する場合を想定する。元々複雑な特性を持っていると、製造の工程管理時に吸収特性がわずかに変化しても“何の不具合が発生したか?”の予測が難しい。
【1306】
本実施形態における機能性バイオ物質では、特徴を持ったアミノ酸の組成比を高くして構造体を形成する機能性バイオ物質を製造する。それにより、製造時に発生する不具合箇所の分析を容易にする効果が生まれる。また本実施形態では、特徴を持ったアミノ酸の組成比の数値限定をする代わりに、製造した機能性バイオ物質から得られる吸光特性に対して規定する(詳細は後述)。また図66から分かるように、特徴を持ったアミノ酸の組成比を高くすると、上記の(A)の条件も満足する。
【1307】
8.3節では図49を用いて、改良版βシート形結晶部1602を組み合わせて構造体を形成する例の説明をした。図49では複数の結晶部集合(多量体)ブロック1604から構造体を構成した。
【1308】
このようなブロックの組み合わせに限らず、例えば繊維状蛋白質(Fibriform Protein)を縒る/編む事で、例えば衣服などの構造体を構成しても良い。既にβシート構造を持つフィブロインを原料とした絹糸は、上記の繊維状蛋白質に該当する。一方で繊維状蛋白質に分類されるコラーゲン(Collagen)やトロポミオシン(Tropomyosin)の2次構造は、αヘリックス構造を取る。
【1309】
従って本実施形態における機能性バイオ物質では、αヘリックスまたはβシート、折り返しなどの構造を利用して構造体を形成する。本実施形態における機能性バイオ物質内部の少なくとも一部で上記構造を持たせる事で、機能性バイオ物質の巨視的構造/形状の成形を容易にするばかりで無く、長期保存時の成形品の形状安定性を確保できる効果が有る。
【1310】
それを実現する具体的な手段として本実施形態では、αヘリックスまたはβシート、折り返しなどの構造を取り易いアミノ酸の組成比を高くして機能性バイオ物質を形成する。
【1311】
上記αヘリックス構造を取り易いアミノ酸とβシード構造を取り易いアミノ酸を、図66に示す。図66では、アミノ酸残基(Amino Acid Residue)内の先端部に配置された官能基の中心原子の違いでアミノ酸を分類している。炭素系(Carbon Group)に分類されるアミノ酸が最も多く、窒素系(Nitrogen Group)に分類されるアミノ酸が最も少ない。
【1312】
図66から分かる事は、αヘリックス構造またはβシート構造を取り易いアミノ酸は全て、メチル基かメチレン基が含まれている。従って図65で説明した内容と組み合わせると、『本実施形態における機能性バイオ物質から得られる吸光度特性では、1.81μmから1.67μmの範囲内または1.23μmから1.12μmの範囲内、0.94μmから0.84μmの範囲内に吸収帯の中心波長が存在する』事になる。
【1313】
次にそれらのアミノ酸の組成比と検出特性の関係を説明する。図62に示した厚みが約100μmの絹シートの吸光度特性では、下向き矢印位置にメチル基を持ったアラニンに関係する吸収帯が現れている。蜘蛛の糸ではアラニンの組成比が一層高い。従って蜘蛛の糸では、同じ下向き矢印位置の近傍に吸収強度の高い(吸光度特性上は高さの高い)吸収帯が現れると予想される。
【1314】
本実施形態ではアミノ酸毎の組成比を規定する代わりに、メチル基とメチレン基の伸縮振動の倍音に帰属する吸収帯の高さ(すなわち吸収帯の中心波長位置での吸光度の値と破線で示したベースラインとの差分値)で規定する。アミノ酸毎の組成比を規定するより吸収帯の高さで規定した方が、製造時あるいは完成品の品質管理時の対応が容易になる効果が有る。
【1315】
図62図63内の非可干渉光測定結果におけるノイズ成分の大半は、分光器22内の1次元ラインセンサ132(図22)の電気的ノイズ(暗電流とショットノイズ)に起因している。測定直前にその都度、1次元ラインセンサ132の暗電流を測定して減算処理を行っている。しかし時間と共に変化する暗電流成分の除去は難しい。また250回繰り返し測定した平均値を取って、ショットノイズの影響を低減している。しかし低減には限界が有る。特に検出光16の光量が低い場合には、相対的に電気的ノイズの影響が大きくなる。
【1316】
図63内の非可干渉光測定結果での吸光度でのノイズ振幅は、最大“0.0003p-p”程度と見積もれる。一方で長波長側での絹シートの透過率が5.3%程度と低いため、電気的ノイズの影響が大きい。そして図62から、ノイズ振幅は最大“0.003p-p”程度と見積もれる。
【1317】
したがって安定に信号検出できる条件として本実施形態例では、本実施形態における機能性バイオ物質の吸光度として、1.81μmから1.67μmの範囲内または1.23μmから1.12μmの範囲内、0.94μmから0.84μmの範囲内に観測される吸収帯の高さ(吸収帯の中心波長位置での吸光度の値と破線で示したベースラインとの差分値)が0.003以上(望ましくは0.0003以上)となる必要が有る。
【1318】
なおフィブロイン内のアラニンの組成比は30%と言われている。図62に拠ると、この時の伸縮振動の第1倍音に帰属する吸収帯の高さ(ベースラインとの差分値)は“0.008”前後となっている。また第2倍音に帰属する吸収帯の高さ(ベースラインとの差分値)は“0.002”前後と読み取れる。
【1319】
組成比10%程度まで検出する場合には、“0.008/3=0.0027”、“0.002/3=0.00067”となる。従って図62のデータを使用した場合には、1.81μmから1.67μmの範囲内に観測される吸収帯の高さは0.0027以上(望ましくは0.008以上)となる必要がある。同様に1.23μmから1.12μmの範囲内に観測される吸収帯の高さは0.00067以上(望ましくは0.002以上)となる必要がある。
【1320】
また本実施の応用例として、蜘蛛の糸で機能性バイオ物質を製造した場合を考える。蜘蛛の糸ではアラニンの組成比が45%以上になると予想される。そして“0.008×45/30=0.012”、“0.002×45/30=0.003”となる。従って例えば蜘蛛の糸を材料に用いて機能性バイオ物質を製造した場合、1.81μmから1.67μmの範囲内に観測される吸収帯の高さが0.012以上あるいは、1.23μmから1.12μmの範囲内に観測される吸収帯の高さが0.003以上になるように工程管理する方法もある。
【1321】
次に観測され得るメチル基に帰属する吸収帯の高さ(ベースラインとの差分値)の予想最大値を検討する。もしアラニンの組成比が100%の合成蛋白質を作成した場合には、“0.008×100/30=0.027”、“0.002×100/3=0.0067”となる。但し測定誤差やベースラインの取り方でも吸収帯の高さが変化するので、マージンを2倍取ると、第1倍音と第2倍音に帰属する吸収帯の高さは0.054と0.0134と見積もれる。
【1322】
この見積もり値は、アラニン100%を仮定した場合である。図66が示すようにバリン(Valine)やイソロイシン(Isoleucine)、ロイシン(Leucine)では、1個の残基内にそれぞれ2個ずつのメチル基が存在する。従ってこれらのアミノ酸の組成比が100%の場合には上記の値が2倍となる。従ってこの場合には、第1倍音と第2倍音に帰属する吸収帯の高さ(吸収帯の中心波長位置での吸光度の値と破線で示したベースラインとの差分値)は0.108と0.0268となる。
【1323】
以上から(図65も参照して)本実施形態の機能性バイオ物質から得られる吸光度特性をまとめる。波長域1.80μmから1.67μm内で観測される吸収帯の中心波長位置での吸光度の値とベースラインとの差分値は、0.0027から0.108までの範囲内となる。また波長域1.23μmから1.12μm内で観測される差分値は、0.00067から0.0268の範囲内となる。
【1324】
次に観測され得るメチレン基に帰属する吸収帯の高さを検討する。ポリエチレン内のメチレン基の存在比率は、充分に高い。従って図63内の(a)位置での読み取り値の0.003が、組成比100%の値に近い。これに測定誤差やベースラインの取り方精度誤差から来るマージンを2倍取ると、0.006(=0.003×2)と見積もれる。また組成比10%以上を想定すると、0.003×10/100=0.0003となる。これに2倍のマージンを考慮すると、最小値は0.0003/2=0.00015と見積もれる。
【1325】
従って図65の記載内容も考慮すると、波長域1.23μmから1.15μm内で観測される吸収帯の中心波長位置での吸光度の値とベースラインとの差分値は、0.00015から0.006までの範囲内となる。
【1326】
上述した“蛋白質系”を用いて構造体を成形する代わりに、独自機能を発揮する機能性バイオ物質の光学特性に付いて説明する。例えば8.3節で図39A(c)を用いて説明したように、機能性バイオ物質内にカルボキシル基616が存在すると吸水性が向上する。図39A(c)でカルボキシル基616にカチオン612を結合させる前は、図65の水酸基(-OH基)が存在する。このように機能性バイオ物質が多量の水酸基(-OH基)やアミノ基(Amino Group、-NHn)を持つと、親水性(Hydrophilic Characteristic)が向上する。
【1327】
従って例えば親水性を持つ機能性バイオ物質では図65が示すように、波長域1.67μmから1.38μmの範囲内もしくは1.11μmから0.94μmの範囲内に、高さ(ベースラインとの差分値)が0.003以上(望ましくは0.0003以上)の吸収帯が観測されるように製造工程管理を行っても良い。
【1328】
10.5節 細胞外環境で製造する機能性バイオ物質の製造方法
10.1節と10.2節で説明した機能性バイオ物質の製造方法は主に、少なくとも材料を所定の細胞内で生産させる方法を説明した。本実施形態の応用例として、機能性バイオ物質の材料を細胞外環境で製造する方法に付いて説明する。
【1329】
基本的な製造手順を図67Aで示す。すなわち機能性バイオ物質の材料生成とその抽出を行うステップS110と、材料の純度を向上させる機能性バイオ物質材料の精製ステップS120、機能性バイオ物質の成形ステップS130、そして最後に品質検査ステップS140から構成され、上記手順で進められる。
【1330】
この機能性バイオ物質の材料生成とその抽出を行うステップS110内では、S111で行う透析式連続交換法(Continuously Exchangeable Method with Dialysis)と遠心分離法(Centrifugal Separation Method)を用いた機能性バイオ物質の材料抽出(S112)が行われる。またこのいずれの工程でも、本実施形態(第3章)で示した非可干渉性近赤外光を用いたモニタリングS113が並列して実行される。ここでは10.3節と10.4節で説明した光学特性が継続的に得られるように管理される。
【1331】
また機能性バイオ物質の材料の精製(S120)では材料の純度を向上させるため、機能性バイオ物質に使用する材料のみの分離を各種の方法で実行する。その具体例として図67Aでは、1〕光ピンセットの原理を使用して、蛋白質系材料のみを分離抽出する方法(S121)2〕水溶液中に電界を与えて、電荷を持った材料のみを分離抽出する方法(S122)3〕材料サイズの違いを用いて、濾紙などのフィルタで分離する方法(S124)を適用している。しかしそれに限らず、上記以外の精製方法を採用しても良い。また上記内のいずれかを選択的に採用してもよい。
【1332】
上記各種の精製工程S121、S122で、精製の進行状況をモニターするために本実施形態(第3章)で示した非可干渉性近赤外光を使用(S123)しても良い。
【1333】
S113またはS123でモニタリングした結果、10.3節と10.4節で説明した範囲の特性が得られない場合の対処方法に付いて説明する。上記特性が得られない頻度が低い場合には、対象外の材料を選択して廃棄する。一方で頻度が高い場合には、一旦製造ラインを停止して問題点発生原因を調べて対処する。
【1334】
S110の機能性バイオ物質の材料生成/抽出工程とS120の機能性バイオ物質材料の精製工程では、生成した高分子状態をモニタリングS113、S123する必要もある。特に高分子内の結合状態に関する情報は、5.6節内で説明したようにA)ベースラインのプロファイル特性やB)波長域1.67μmから1.46μmの範囲(図65)の吸収帯特性… 図62内の“上向き中抜け太矢印(White-Centerd Bold Arrow of Higher Direction)”で示したピーク(極大)位置を参照に現れる。従ってこれらの特性も同時に評価して工程管理を行うのが望ましい。
【1335】
上記S111で行う透析式連続交換法を用いた機能性バイオ物質の材料生成方法の一例を、図67B(a)に示す。透明容器1010内に入れる外液1034は、
○ 材料製造元になる各種アミノ酸
○ グルコース(Glucose)などの活動エネルギー源となる糖類
○ ヌクレオチド三燐酸(Nucleoside triphosphates)
○ tRNA(Transfer Ribonucleic Acid)
○ その他の転写および翻訳に関する各種基質(Substrates)
○ 転写/翻訳促進用成長因子(Growth Factor)などの混合物水溶液で構成される。
【1336】
また透析容器1036内に入れる内液1032には、
○ 無細胞蛋白質合成系CF(Cell-Free Protein Synthesis System)反応液
○ 蛋白質生産の鋳型用の直鎖状DNA(Single Chaining Deoxyribonucleic Acid)断片
を入れる。
【1337】
上記のCF反応液として従来は、大腸菌、ウサギ、および小麦胚芽細胞抽出液(Solution Extracted from Wheat Cell with Embryo Buds)を使用している。しかし最近は従来の系に加え、真核細胞抽出液(Solution Extracted from Eucaryote Cell)を使用するようになった。
【1338】
『高等生物由来の蛋白質(Protein obtained from Higher Organism)生成』には、同等階層もしくはそれより高等な階層に属する生物由来細胞の使用が望ましい事を10.1節で説明した。従って蛋白質系の機能性バイオ物質製造時には、『対象となる蛋白質由来生物と同等もしくはより高等な生物由来細胞からの抽出液』を上記CF反応液に使用しても良い。それにより、機能性バイオ物質製造の生産性が向上する。さらに『対象となる蛋白質由来生物の細胞からの抽出液』を使用すると、生成対象の人工蛋白質とCF反応液との親和性が一層高くなる。その場合には、機能性バイオ物質製造の生産性が更に向上する。
【1339】
例えば食材として鶏肉を人工的に製造する場合には、『鶏の細胞からの抽出液』または『別の鳥種の細胞抽出液』をCF液に使用するのが望ましい。同様に牛肉や豚肉の人工的に製造する場合には、牛の細胞や豚の細胞あるいは他のほ乳類の細胞からの抽出液を上記CF反応液に使用しても良い。
【1340】
それ以外の応用例として筋萎縮症(Muscular Atrophy)の治療で、患者に正常な筋肉(Muscle)を移植する場合を考える。この筋肉を人工的に製造する場合には、ヒトの細胞からの抽出液を上記CF反応液に使用しても良い。
【1341】
また絹や蜘蛛の糸を利用した機能性バイオ物質を人工的に製造する場合には、その材料生成に蚕や蜘蛛、あるいはそれ以外の昆虫種の細胞からCF液を抽出しても良い。またそれに限らずヒトやほ乳類由来の細胞抽出液をCF反応液に使用すると、比較的汎用性の高い人工蛋白質材料の生成が可能となる。
【1342】
なお蛋白質生産の鋳型用の直鎖状DNAは、予め設計されたヌクレオチド配列(Nucleotide Sequence)に従って人工的に合成しても良い。またそれに限らず8.1節や8.5節で説明したゲノム編集技術(CRISPR/Cas9やZFN、TALENなど)を用い、既存のゲノム配列を編集した後、2重螺旋構造を開いて生成しても良い。
【1343】
この内液1032が入った透析容器1036を外液1034が入った容器1010内に入れて(図67B(a))、インキュベーション(Incubation)を開始する。このインキュベーションでは、28℃~40℃で1時間以上32時間以下保持する。
【1344】
なお透析容器1036には攪拌機1006が配置されている。そして攪拌機回転誘導用の外部磁界発生/回転部1038が回転して攪拌機1006を廻し、内液1036内を撹拌する。
【1345】
また図1B(a)に示すように、光源部2と透過して得られる検出光16を検出する検出部6が容器1010内に配置され、機能性バイオ物質の材料生成状況(図67AのS111)を逐次モニタリング(図67AのS113)している。上記で説明した1~32時間のインキュベーション時間に限らず、上記S113のモニタリングで材料生成が完了した時点で適宜インキュベーションを終了させても良い。
【1346】
そして透析容器1036を容器1010から抜き取り、内液1032を別容器内に回収する。そしてこの内液1032を低温下で放置して、インキュベーションを終了させる。この時の内液1032温度は、0℃から10℃範囲内(望ましくは4℃前後)が望ましい。
【1347】
次の図67AのS112で示した機能性バイオ物質材料の抽出では例えば、4℃前後で5分間12000rpm前後に回転させて遠心分離させる。ここで得られた分離液内の上清層(Top Clear Layer)内に、生成した機能性バイオ物質の材料が混入している。
【1348】
また上記分離液内の上端からどの範囲まで生成した機能性バイオ物質の材料が混入しているかが、S133の非可干渉性光を利用したモニタリングで分かる。
【1349】
次に図67AのS130に記載した機能性バイオ物質の成形方法の例を、図67B(b)に示す。図67B(b)では、例えば絹糸のような繊維状機能性バイオ物質の成形方法を示す。成形用型1050表面には成形用窪み1054が彫られている。ここに精製後の内液1032を滴下すると、成形用窪み1054内に集中する。
【1350】
そして乾燥環境下に放置すると、水分が蒸発して繊維状の機能性バイオ物質が得られる。例えばβシート形結晶部602(図38)を含んだフィブロインやαヘリックス構造を持つコラーゲンやトロポミオシン単体では、比較的短い繊維構造を持っている。そして精製後の内液1032内の水分が蒸発すると、個々の繊維が互いに絡まって図67B(c)のようにまとまった大きな繊維構造が構成される。そして糸を織って布生地にする従来方法を使い、この繊維状の機能性バイオ物質から衣服や食品を作成しても良い。
【1351】
図67Aの成形工程(S130)では上記に限らず、図49を用いて8.3節で説明した方法で成形しても良い。さらにそれら以外の任意の方法で成形しても良い。
【1352】
図67Aの精製工程(S120)で使用する装置例を、図67Cに示す。図67Aの遠心分離(S112)で得た上清液1096を精製用容器1090内に入れる。そして重力を利用して、上記の上清液1096を右方向に移動させる。
【1353】
図67AのS121に示す光圧力を利用した機能性バイオ物質の材料分離では、光ピンセットの原理(光圧力)を利用して分離させる。図65に示すように、蛋白質系の機能性バイオ物質は、波長域が1.67μmからμ1.46μmの範囲と1.11μmから0.99μmの範囲の近赤外光を選択的に吸収する。従って図67Cの精製用照射光1060として、上記波長域の近赤外光を使用する。
【1354】
この精製用照射光1060の強度が、低い方向(図67Cでの紙面の上方向)から高い方向(紙面の下方向)に向かって力が発生する。この力を利用して、蛋白質系の機能性バイオ物質のみを下方に移動させる。
【1355】
図67Cが示すように、光源部2から放射された照射光12は光ファイバ100を経由して、遠心分離後の上清液1096の通過位置に照射される。そしてこの上清液1096を通過して得られた検出光16は、光ファイバ100を経由して検出部6に到達する。この光学系で上清液1096の吸光度特性がリアルタイムでモニタリング(S123)される。この結果を用いて、上清液1096からの機能性バイオ物質の材料分離状況が管理される。
【1356】
図67AのS122に示す水溶液中に印加する電界を利用して精製する方法を、次に説明する。アミノ酸の中でアルギニン(Arginine)とヒスチジン(Histidine)、リシン(Lysine)は、正電荷を持つ。そして生成されるアミノ酸配列(Amino Acid Sequence)内に上記の正電荷を持つアミノ酸が若干多く含まれるように、鋳型用DNA内のヌクレオチド配列の設計を行う。その結果として機能性バイオ物質の材料となる高分子は、水溶液中で正電荷を持つ。
【1357】
そして精製用可変電圧電源1074から精製用電圧印加電極1070に電圧印加され、蛋白質系の機能性バイオ物質の材料分離(図67AのS122)が行われる。この状況も電源部2と検出部6の組み合わせでモニタリング(S123)される。
【1358】
上記の実施形態では、機能性バイオ物質の材料となる高分子が水溶液中で正電荷を持つ。しかし上記精製された水溶液中に例えば塩素イオンなどのアニオンを混入させると、成形工程で塩(Salt)を生成して電気的に中性となる。
【1359】
このように精製された水溶液が図67Cの(a)の方向に進み、下方向に集められる。またそれ以外の成分を含んだ水溶液は(b)の方向に進んで廃却される。
【1360】
また例えば濾紙などを利用した機能性バイオ物質材料抽出用フィルタ1080を利用し、分子サイズの違いを利用して機能性バイオ物質の材料の精製を行う。
【1361】
ここでは蛋白質系の機能性バイオ物質を中心に製造方法の説明をした。しかしそれに限らず、糖質系や脂質系の機能性バイオ物質に関する製造に、図67Aの方法を用いても良い。
【1362】
例えばグルコース(Glucose)を重合(Polymerize)させて、食材に利用される澱粉(Starch)を作れる。この澱粉製造工程で、図67Aの一部を使用しても良い。
【1363】
以上いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【1364】
2 光源部
4、6 検出部
8 フィードバック部
9 壁
10 対象体
12 照射光(第1の光)(Illuminating Light (First Light))
16 検出光(第2の光)(Detection Light (Second Light))
18 ビームスプリッタ
20 ビームスプリッタ
22 分光器
24 モニタカメラ
25 対物レンズ
26 コリメートレンズ
28-1、2 検出レンズ
30 測定装置
32 参照試料用カラム
34 測定試料用カラム
36 透明硝子容器
38 硝子容器の移動方向
42 注入口
44 注出口
46 蓋
48 ミラー面
50 タングステン・フィラメント
52 光学的な狭帯域バンドパスフィルタ(波長選択フィルタ)
54 波長選択された光の電場振幅
56、58 片面に微細な凹凸構造を有する光透過物体
60 部分的可干渉性を有する入射光
62 部分的可干渉性を有する短波長光
64 光学雑音低減化素子または部分的可干渉性低減化素子
(Optical Noise Reduction Element or Partial Coherency Reduction Element)
66 微小な光散乱体
67 タングステン・ハロゲンランプの管球(石英ガラス)
68 部分的可干渉性を有する長波長光
70 発光源
72、74 光の一部
76 光路長変化
78、79 合成光(混合光)
80 光検出器
82 背面鏡
84 前方放出光
86 撮像面(検出面)
88 後方放出光
90 光学特性変更部材
92 透過光断面
94-1~6 透明な半円平行平板
95 切断面
96 光透過方向
97 切断面の境界線
98 集光レンズ
100、100-1、2 光ファイバ
101 複数光路生成用光学特性変更部材
102、102-1~5 光合成(混合)部
104 片面がランダムな微細凹凸構造を有する透明平板
106 透過光の波面
107 放射時刻の異なる光
108 合成光の出口
110-1、2 透過光
112 接着層
114-1~4 透明な平行平板
116-1~2 透明な円柱形平行平板
118-1~3 反射防止コート層
120 透過形回折格子
122 フレネルプリズム(ブレーズ形ホログラム)
(Fresnel Prism / Blazed Hologram)
124、126 ブレーズ形回折格子(Blazed Grating)
128 ブレーズ形回折格子またはプリズム
130 ピンホールまたはスリット
132 1次元ラインセンサ
134-1、2 コンデンサレンズ
136 コリメートレンズ
142 コア領域(Core Area)
144 クラッド層(Clad Layer)
200 対象体内特定領域(光合成(混合)場所)
201、206 第1の光路を通過する光
202、207 第2の光路を通過する光
203、208 第3の光路を通過する光
210 光路変更素子(光学特性変更部材)
212 位相変換素子(光路変更素子/光学特性変更部材)
214 内壁または外壁に位相変換特性(微細な凹凸)を有する管球
216 結象レンズ
218 エキスパンドレンズ
220 プリズム
222 レンチキュラーレンズ
230 マイクロ凹レンズ
240 凹レンズまたはシリンドリカル凹レンズ
250 光ガイド(光パイプ)(Light Guide / Light Pipe)
252 光ガイドの前端面(Front-end Boundary of Light Guide / Light Pipe)
254-1、-2 側面(Side Surface)
256 光ガイドの後端面(Back-end Boundary of Light Guide / Light Pipe)
260 ε点通過光の光路
270 ζ点通過光の光路
280 光の混合領域
290-1~-n 指向性を持つ電磁波
292-1~-n 電磁波発生源/受信部/受信部
294-1、-2 指向性を持つ混合電磁波
296-1~-n マグネトロン電磁波発生源/受信部
298-1~-n 導波管形アンテナ
300 バンドル形光ファイバ群
302 部分的非可干渉光の光源部
304 部分的非可干渉性の反射光に対する信号検出部
306 部分的非可干渉性の反射光に対する波面収差特性検出部
308 対物レンズ
310 照射光と検出光間の光路分離部
312 光分離部
314 部分的非可干渉性の透過光に対する信号検出部
316 部分的非可干渉性の透過光に対する波面収差特性検出部
318 対物レンズ
320 参照光生成部
322 可干渉光の光源部
324 可干渉性の反射光に対する信号検出部
326 可干渉性の反射光に対する波面収差特性検出部
332 光分離部
334 可干渉性の透過光に対する信号検出部
336 可干渉性の透過光に対する波面収差特性検出部
340 光混合部
342、344、346、348 光分割部
350 波面収差補正部
352 照射光の波面収差粗動補正部
354 照射光の波面収差微動補正部
356 透過光の波面収差粗動補正部
358 透過光の波面収差微動補正部
360 直進光
362-1、-2 指向性電磁波発生/受信部
364 電磁波発生/受信部の回転機構
366 電磁波発生/受信部の回転駆動部
368 水蒸気
370、380 多重散乱光
372 キャタピラ
374 移動用車輪
376 遠赤外線分光器
378 赤外線分光器
382 熱(遠赤外光)
384 太陽電池パネル
386 水源または金属鉱床
388 バッテリ
390 後方散乱光
392 地表
393 6アミノ酸周期内での基底状態電子軌道
394 通信制御部
396 アンテナ
398 探索装置内制御系
399 6アミノ酸周期内での励起状態電子軌道
400 フィブロインのアミノ酸配列
402-1、2 高分子化合物
404-1、2 電子雲
406-1、2 官能基
408 ポリエチレンの分子構造
410 共通電極部
414-1~6 個別電極部
416-1~6 光反射面
418-1~6 圧電素子
420 光反射面を兼用する共通電極部
422 仕切り板
424-1~3 透明電極部
428-1~3 液晶層
430 光路分割部
436 参照光
440、450 3次元透過パターン形成部
442、444、446 2次元透過像形成層
452、454、456 2次元透過像形成層
460 光路分離部
470 2次元PSD(Position Sensitive Detector)
セルアレイ
472-1~4 PSD(Position Sensitive Detector)セル
474-1~4 ミニレンズ
476-1~4 集光スポット(干渉が無い状態)
478-1~4 集光スポット(干渉が生じる状態)
480 波面(等位相面)
482 参照光の集光スポット位置検出部
484 検出光の集光スポット位置検出部
486 集光スポット間の位置ずれ量算出部
488 局所的な波面の傾き量
490 全体的な波面収差特性算出部
492 偏光ビームスプリッタ
494-1~3 λ/4板(1/4位相板)
496-1~4 検光子
498-1~3 無偏光ビームスプリッタ
500-1~4 撮像カメラ
602 βシート形結晶部
604 非結晶部
612 アスパラギン酸+カチオン
616 カルボキシル基
620 低分子化されたフィブロイン改良分子単量体
622 ATPアーゼ活性部
624 ADP
626 ADP固定部
630、640 π電子局在領域(活性領域)
632、634、636、638 蛋白質内主鎖領域
650 従来GFP内の発光団領域
702 診断(不具合原因分析)関連処理手順
704 治療(不具合箇所修正)関連処理手順
706 治療(修正)結果の評価・確認関連処理手順
800 細胞核内搬送用キャリア
806 遺伝子調節因子
808 ゲノム編集モジュール
810 ゲノム編集基本部
812-1、2 (燐酸化活性)mCas(modified CRISPR-Associated System)
814 ヌクレアーゼ領域
816-1、2 crRNA(CRISPR RNA)
817 複製DNAの保持用蛋白質
818 複製DNA(ベクター)
819 ヒストン
820 燐酸化活性特性を持つプロテアーゼの切断場所
822 mCas制御酵素A(キナーゼ)
824 mCas制御酵素B(インヒビター/ホスファターゼ)
826 細胞核内信号制御酵素
828 自己燐酸化プロテアーゼ(キナーゼが内蔵されATP付加による自己活性作用)830 細胞核膜表面への選択的接合部
832 核ラミナ
834 内外膜間の疎水領域
836 キャリア内包部の内膜
838 キャリア内包部の外膜
840 キャリア外包部の外被
842 キャリア内包部の内部
846 選択細胞への接合部
850 核ラミナ識別抗体部(細胞核検出部)
852-1~6 疎水領域
854-1、2 疎水領域
856-1~8 親水領域
858-1~6 親水領域
860 αヘリックス構造部
870 膜貫通部
880 核ラミナ
888 細胞核膜
890 細胞核内部
894 内外膜間の疎水領域
896 細胞核膜の内膜
898 細胞核膜の外膜
1000 毛母関連細胞(親細胞/元種または娘細胞/種子種)
1002 生成された機能性バイオ物質
1004 培地
1006 撹拌部
1010 容器
1020 光学的状態管理装置(測定装置)
1032 内液
1034 外液
1036 透析容器
1038 撹拌機回転誘導用の外部磁界発生/回転部
1040 繊維状蛋白質
1050 成形用型
1054 成形用窪み
1060 精製用照射光
1070 精製用電圧印加電極
1074 精製用可変電圧電源
1080 機能性バイオ物質材料抽出用フィルタ
1090 精製用容器
1096 遠心分離後の上清液
1100a~ 機能性バイオ物質の最終的な生産場所
1130 中核統括拠点
1120a~1120c 分散流通拠点
1602 改良版βシート形結晶部(単量体ブロック)
1604 結晶部集合(多量体)ブロック
1608 最終成形された構造体
1610 表面コート層
A 部分的可干渉性光の一方側の振幅
a 光ファイバのコア半径またはピンホール半径/スリット幅の1/2
Asp アスパラギン酸
C 光速
Cl- 塩素イオン
d 物理的な段差量
D バンドル形光ファイバ群(または1本の光ファイバ)内の光入射領域の幅または光学特性変更部材を経た光の集光面上でのずれ量
F コリメートレンズ26/検出レンズ28-2の焦点距離
G 特定官能基の重心位置
Gln グルタミン
Gly グリシン
k 波数
L 光ファイバ全長
CL 可干渉距離(Coherence Length)
M 結像倍率( 横倍率 )または部分的非干渉化対応の光分割数
m 異なる光路の個々サフィックス/添え字記号(光路番号)
N 測定装置内での異なる光路数(複数の光路に分割する分割数)
n 光が通過する透明媒体内の屈折率
NA NA(Numerical Apperture)値
Na+ ナトリウムイオン
R 発光点/散乱点から測定点までの距離
Ra 位相変換素子内の平均表面粗さ
r コリメートレンズ26の瞳面上半径
Ser セリン
SF 発光源から光ファイバ入射領域までの距離
SL コンデンサレンズとラインセンサ間距離
T タングステン・ハロゲンランプの管球厚み
Trp トリプトファン
Tyr チロシン
t 時間または平行平板の厚み単位
v r2W スリット幅またはピンホールの直径
z 光進行方向の距離
α、β タングステン・フィラメント上の発光点、対象体内の特定領域内の散乱点または
対象体内の擬似発光点
γ 測定点あるいはタングステン・フィラメント上の発光点、または対象体内の擬似発光点
ΔD 光ファイバ内コア径
Δt 時間幅
ΔY ラインセンサ上での位置ずれ量
Δλ 選択波長幅(波長範囲)
Δν 周波数幅
δ 光路長差
δmax 光路長差の最大値
ε 光ファイバへの入射光の入射角または結像点
ζ 透明な平行平板通過後の光の進行方向傾き角または結像点
η 光の進行角または切断面の傾き角または結像点
θ 透明な平行平板を構成する両平面間の傾き角または回折角
λ0 中心波長
ν 振動数
ξ 光ファイバまたは光ガイド(光パイプ)内伝搬光の傾き角
ρ 石英ガラス中での出射角
σ 位相量または合成波の位相量
τ タングステン・ハロゲンランプの管球内光路の機械的距離
χ 回折格子の入射波長に対する回折角係数
ψ 部分的可干渉光間の合成波
Ψ コリメートレンズを通過する部分的可干渉光全体の合成波
+ 結晶部内の正電荷領域(塩基性残基を持つアミノ酸)
- 結晶部内の負電荷領域(酸性残基を持つアミノ酸)
ι タングステン・ハロゲンランプの長手方向に沿ったα点とβ点間の距離
κ 光ガイド(光パイプ)の前端面への入射角
μ 光ガイド(光パイプ)側面の傾き角
φ 光ガイド(光パイプ)内部の反射角
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B
図14C
図14D
図14E
図15
図16A
図16B
図17
図18
図19A
図19B
図20
図21A
図21B
図21C
図22
図23A
図23B
図24A
図24B
図24C
図25
図26
図27
図28
図29A
図29B
図30
図31
図32A
図32B
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39A
図39B
図40A
図40B
図41
図42
図43
図44
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図49
図50A
図50B
図50C
図51
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図55
図56
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図59
図60
図61
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図67A
図67B
図67C