(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023153971
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】シアリル化オリゴ糖を精製する工程
(51)【国際特許分類】
C12P 19/00 20060101AFI20231011BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20231011BHJP
A23C 9/152 20060101ALI20231011BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20231011BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20231011BHJP
C13K 5/00 20060101ALI20231011BHJP
C13K 13/00 20060101ALI20231011BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20231011BHJP
A61K 31/702 20060101ALI20231011BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231011BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20231011BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20231011BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20231011BHJP
【FI】
C12P19/00
A23L33/125
A23C9/152
A23L2/38 P
A23L2/52
C13K5/00
C13K13/00
A61P3/02
A61K31/702
A61K9/08
A61K9/14
C12N15/31
C12N15/52 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128317
(22)【出願日】2023-08-07
(62)【分割の表示】P 2020512564の分割
【原出願日】2018-08-29
(31)【優先権主張番号】17188280.6
(32)【優先日】2017-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】511149751
【氏名又は名称】クリスチャン.ハンセン・ハー・エム・オー・ゲー・エム・ベー・ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・イェネバイン
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・ヘルフリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ベネディクト・エンゲルス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】発酵ブロス、細胞溶解物又は生体触媒反応混合物から高純度の所望のシアリル化オリゴ糖を大量に得るための、シアリル化オリゴ糖を精製する方法を提供する。
【解決手段】i)発酵ブロスからバイオマスを分離するステップと、ii)発酵ブロス又は反応混合物から陽イオンを除去するステップと、iii)発酵ブロス又は反応混合物から陰イオン性不純物を除去するステップと、iv)発酵ブロス又は反応混合物から精製される前記シアリル化オリゴ糖よりも分子量が小さい化合物を除去するステップとを含む、微生物発酵又はインビトロ生体触媒作用で産生されたシアリル化オリゴ糖を精製する方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物発酵又はインビトロ生体触媒作用で産生されたシアリル化オリゴ糖を精製する方法であって、前記方法は、
i)発酵ブロスからバイオマスを分離するステップと、
ii)前記発酵ブロス又は反応混合物から陽イオンを除去するステップと、
iii)前記発酵ブロス又は反応混合物から陰イオン性不純物を除去するステップと、
iv)前記発酵ブロス又は反応混合物から精製される前記シアリル化オリゴ糖よりも分子量が小さい化合物を除去するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
v)前記シアリル化オリゴ糖の濃度を上昇させるステップと、
vi)所望でないオリゴ糖を除去するステップと、
vii)着色物質を除去するステップと、
viii)エンドトキシンを除去するステップと、
ix)滅菌するステップと、
x)前記シアリル化オリゴ糖を噴霧乾燥又は結晶化するステップと
からなる群より選ばれる1つ以上のステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シアリル化オリゴ糖が、シアリル化ヒトミルクオリゴ糖であり、好ましくは、3’-SL、6’-SL、LST-a、LST-b、LST-c、3-F-SL、DS-LNT及びF-LST-bからなる群より選ばれる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記発酵ブロスからのバイオマスの除去が、前記発酵ブロスに対する限外濾過、好ましくは、500kDa以上の分子量を有する前記バイオマス及び化合物を前記発酵ブロスから除去する限外濾過、より好ましくは、150kDa以上の分子量を有する前記バイオマス及び化合物を前記発酵ブロスから除去する限外濾過、最も好ましくは、100kDa以上の分子量を有する前記バイオマス及び化合物を前記発酵ブロスから除去する限外濾過を行うことにより実施される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記発酵ブロスからの陽イオンの除去が、陽イオン交換クロマトグラフィーにより実施される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記発酵ブロスからの陰イオン性不純物の除去が、陰イオン交換クロマトグラフィーにより実施される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記精製されるシアリル化オリゴ糖よりも分子量が小さい化合物の除去が、クロスフロー濾過により実施される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記精製されるシアリル化オリゴ糖の濃度が、ナノ濾過又は溶媒の蒸発により上昇する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
着色物質の除去が、所望の前記シアリル化オリゴ糖を含有する前記発酵ブロス/溶液を活性炭で処理することにより実施される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
エンドトキシンの除去が、所望の前記オリゴ糖を含有する溶液の、6kDaフィルタ又は3kDaフィルタによる濾過により実施される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
溶液の滅菌が、0.2μmフィルタによる前記溶液の濾過により実施される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
SMBクロマトグラフィーのステップをさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
電気透析のステップをさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
シアリル化オリゴ糖の調製物であって、前記シアリル化オリゴ糖が請求項1~13のいずれか一項に記載の方法で精製された、調製物。
【請求項15】
前記シアリル化オリゴ糖が、80重量%以上の純度で前記調製物中に存在する、請求項14に記載の調製物。
【請求項16】
前記調製物が、流体又は粉末であり、好ましくは、粒子が非晶質又は結晶性の粒子である粉末である、請求項14又は15に記載の調製物。
【請求項17】
栄養組成物、好ましくは乳児用調製粉乳を製造するための、請求項14~16のいずれか一項に記載の調製物の使用。
【請求項18】
少なくとも1種のシアリル化オリゴ糖を含む栄養組成物であって、前記少なくとも1種のシアリル化オリゴ糖が、微生物発酵又は生体触媒作用で産生されており、前記栄養組成物が、医薬製剤、栄養補助食品、乳飲料又は乳児用調製粉乳である、栄養組成物。
【請求項19】
少なくとも5種のHMOを含む栄養組成物であって、前記少なくとも5種のHMOは、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、ラクト-N-フコペンタオースI、3’-シアリルラクトース及び6’-シアリルラクトースからなる群より選ばれる、栄養組成物。
【請求項20】
少なくとも1種のシアリル化HMOと、少なくとも1種の中性HMOと、プロバイオティック微生物とを含む、請求項18又は19に記載の栄養組成物。
【請求項21】
乾燥重量で>80%の純度を有し、かつ10重量%未満の水を有するシアリル化オリゴ糖から本質的になる、噴霧乾燥されGMOのない粉末。
【請求項22】
3’-シアリルラクトースと、6’-シアリルラクトースと、3’-シアリルラクトース及び6’-シアリルラクトースの混合物と、からなる群より選ばれる、請求項21に記載の噴霧乾燥された粉末生成物。
【請求項23】
前記噴霧乾燥された粉末が、3’-シアリルラクトースと、6’-シアリルラクトースと、1種以上の中性HMOとの混合物から本質的になり、前記1種以上の中性HMOが、2’-フコシルラクトースと、3-フコシルラクトースと、ラクト-N-テトラオースと、ラクト-N-ネオテトラオースと、ラクト-N-フコペンタオースIとからなる群より選ばれる、請求項22に記載の噴霧乾燥された粉末生成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアリル化オリゴ糖の精製に関する。より具体的には、本発明は、発酵ブロス、清澄化された細胞溶解物又は反応混合物からの、シアリル化オリゴ糖の精製、特に、シアリル化ヒトミルクオリゴ糖(sHMO)の精製に関する。
【背景技術】
【0002】
人乳は、炭水化物、脂肪、タンパク質、ビタミン、ミネラル及び微量元素の複合混合物である。中でも炭水化物は最も豊富な割合で存在し、ラクトースと、より複合的なオリゴ糖である、いわゆるヒトミルクオリゴ糖(HMO)とに細分することができる。ラクトースがエネルギー源として使われるのに対し、複合オリゴ糖は乳児に代謝されることがない。複合オリゴ糖部分は、炭水化物部分全体の10%を占め、おそらく150種を超えるオリゴ糖からなる。このような複合オリゴ糖の発生と濃度はヒトに特異的であるため、家畜化された酪農動物など他の哺乳類の乳に大量に存在することは見られない。
【0003】
人乳にこのような複合オリゴ糖が存在することは長く知られており、数十年もの間、こうしたオリゴ糖の生理機能は医学研究の対象であった(Gura,T.(2014)Science 345:747-749;Kunz,C.&Egge,H.(2017)In:Prebiotics and Probiotics in Human Milk.Eds.McGuire,M.K;McGuire,M.A.&Bode,L.Elsevier,London pp.3-16)。比較的豊富に存在するHMOのいくつかは、すでに具体的な機能が特定されている(Bode,L.(2012)Glycobiology 22:1147-1162.;Bode,L.and Jantscher-Krenn,E.(2012)Adv.Nutr.3:383S-391S;Morrow et al.(2004)J.Pediatr.145:297-303)。
【0004】
個々のHMOの供給量が限られており、充分な量のHMO分子を供給することが不可能であることから、化学合成に基づく工程が開発され、こうした複合分子の一部が生成されるようになった。しかしながら、HMOの化学合成や、酵素的合成、発酵に基づく産生のいずれも、きわめて困難であることが判明している。食品用途で充分な品質を有するHMOの大規模生産は、これまでほとんど達成されていない。特に、2’-フコシルラクトース(WO2010/115935A1)などのHMOの化学合成には、いくつかの有害化学物質が必要であり、最終生成物が汚染される可能性がある。
【0005】
HMOの化学合成に欠点があることから、酵素法及び発酵に基づく方法がいくつか開発された(Miyazaki et al.,(2010)Methods in Enzymol.480:511-524;Murata et al.,(1999)Glycoconj.J.16:189-195;Baumgartner et al.(2013)Microb.Cell Fact.12:40;Lee et al.,(2012)Microb.Cell Fact.11:48;US7,521,212B1;Albermann et al,(2001)Carbohydr.Res.334:97-103;Fierfort,N.and Samain,E.(2008)J.Biotechnol.134:216-265)。しかしながら、これらの工程でオリゴ糖の複合混合物を生成した場合、所望の生成物が、ラクトース等の出発物質のほか、中間体、望ましくない副産物(例えば、ある一定のグリコシルトランスフェラーゼの副活性に起因する副産物)、個々の単糖やポリペプチド等の基質で汚染される傾向がある。
【0006】
オリゴ糖混合物から個々のオリゴ糖を精製するための最新の方法は、技術的に複雑であり、スケールアップが難しく、食品用途には不経済である。乳清又は糖蜜からそれぞれ二糖類ラクトースを精製するための工業規模の工程が開発されているが、これらの方法は複数の結晶化ステップを要し、複雑であり、収率が低い。しかしながら、乳清と糖蜜は、開始物質としては「食品グレード」の生成物であり、組換え細菌又は組換え酵母の発酵工程から得られる発酵ブロスのように複雑で規制上の難題があることはまったくない。
【0007】
微生物発酵により産生されるHMOのような複合オリゴ糖を精製するには、ゲル濾過クロマトグラフィーが最善の方法であるが、ゲル濾過クロマトグラフィーは、拡張性に欠ける、連続処理に適合しない、といった短所がある。したがって、ゲル濾過クロマトグラフィーは不経済であり、人間の食物用、特に乳児や幼児の栄養製品用に、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース等のHMO、その他のシアリル化オリゴ糖を充分な品質かつ充分な数量で生産するには、ゲル濾過クロマトグラフィーを使用することはできない。しかしながら、3’-シアリルラクトース(3’-SL)、6’-シアリルラクトース(6’-SL)、シアリルラクト-N-テトラオースa(LST-a)、シアリルラクト-N-テトラオースb(LST-b)、シアリルラクト-N-テトラオースc(LST-c)、3-フコシル-シアリルラクトース(F-SL)、ジシアリル-ラクト-N-テトラオース(DS-LNT)、フコシル-LSTb(F-LSTb)といったシアリル化HMOを生産することは注目を集めている。その理由は、シアリル化オリゴ糖は、例えば神経発達に関連しているからである。
【0008】
組換え微生物(細菌又は酵母)をHMOの発酵生産に利用することも問題がある。その理由は、組換えのDNAやタンパク質が最終生成物を汚染する可能性があり、このことは、今日の消費者や規制当局に受け入れられるものではないからである。特に、組換えDNA分子の検出限界が非常に低いことを考えれば(例えば、現在の代表的検出基準とみなされているqPCRに基づく検出を使用する場合)、オリゴ糖製品中のわずか1個のDNA分子ですら検出可能である。
【0009】
加えて、タンパク質はアレルギー反応を起こすリスクがあるので、所望のオリゴ糖生成物から効率よくタンパク質を除去する必要もある。
【0010】
この先行技術を出発点として、本発明は、微生物発酵により産生されたシアリル化オリゴ糖、特にシアリル化HMOを精製する工程を提供することを目的とし、上記工程は、シアリル化オリゴ糖の商業規模又は工業規模の製造に適用可能であり、ヒトによる消費に適した純度を有する製品を実現し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2010/115935号
【特許文献2】米国特許第7521212号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Gura,T.(2014)、「Science(サイエンス)」、345、747-749
【非特許文献2】Kunz,C.&Egge,H.(2017)、「Prebiotics and Probiotics in Human Milk(人乳におけるプレオバイオティクスとプロバイオティクス)」、Eds.McGuire、M.K;McGuire、M.A.&Bode、L.Elsevier、London pp.3-16
【非特許文献3】Bode,L.(2012)、「Glycobiology(糖鎖生物学)」、22:1147-1162
【非特許文献4】Bode,L.;Jantscher-Krenn,E.(2012)、「Adv.Nutr.」、3:383S-391S
【非特許文献5】Morrowら(2004)、「J.Pediatr.」、145:297-303
【非特許文献6】Miyazakiら(2010)、「Methods in Enzymol(酵素学における方法)」、480:511-524
【非特許文献7】Murataら(1999)、「Glycoconj.J」、16:189-195
【非特許文献8】Baumgartnerら(2013)、「Microb.Cell Fact」、12:40
【非特許文献9】Leeら(2012)、「Microb.Cell Fact」、11:48
【非特許文献10】Albermannら(2001)、「Carbohydr.Res.」、334:97-103
【非特許文献11】Fierfort,N&Samain,E.(2008)、「J.Biotechnol.」、134:216-265
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
第1の態様では、微生物発酵又はインビトロの生体触媒作用により産生されたシアリル化オリゴ糖の精製方法を提供する。
【0014】
第2の態様では、微生物発酵又はインビトロの生体触媒作用により産生されたシアリル化オリゴ糖の調製物を提供する。
【0015】
第3の態様では、第2の態様によるシアリル化オリゴ糖の使用を提供する。
【0016】
第4の態様では、微生物発酵又はインビトロの生体触媒作用により産生された少なくとも1種のシアリル化オリゴ糖を含む栄養組成物を提供する。
【0017】
第5の態様では、本質的にシアリル化オリゴ糖からなる、噴霧乾燥されGMOのない粉末を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】3’-シアリルラクトース及び6’-シアリルラクトースの化学構造を示す図である。
【
図2】発酵ブロスからシアリル化オリゴ糖を精製する工程の一実施形態を示す図である。
【
図3】発酵ブロスからシアリル化オリゴ糖を精製する工程の一実施形態を示す図である。
【
図4】発酵ブロスからシアリル化オリゴ糖を精製する工程の一実施形態を示す図である。
【
図5】4ゾーン擬似移動床クロマトグラフィーの原理を示す図である。
【
図6】8ゾーン擬似移動床クロマトグラフィーの原理を示す図である。
【
図7】噴霧乾燥された6’-SLのX線粉末回折の結果を示すグラフである。
【
図8】噴霧乾燥された3’-SLのX線粉末回折の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
第1の態様によれば、微生物発酵により産生されたシアリル化オリゴ糖を精製する方法又は工程が提供される。この方法は、
i)発酵ブロスからバイオマスを分離するステップと、
ii)発酵ブロスから陽イオンを除去するステップと、
iii)発酵ブロスから陰イオン性不純物を除去するステップと、
iv)精製されるシアリル化オリゴ糖よりも分子量が小さい化合物を除去するステップと
を含む。
【0020】
一実施形態では、微生物発酵により所望のシアリル化オリゴ糖が産生される。したがって、所望のシアリル化オリゴ糖の産生能力を有する細胞が、所望のシアリル化オリゴ糖を当該細胞が産生する上で許容される条件下で培養される。所望のオリゴ糖を産生するのに適した細胞には、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、ラクトバチルス・ラクチス(Lactobacillus lactis)、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)、シュードモナス・プチタ(Pseudomonas putita)等の細菌又はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)等の酵母が含まれる。
【0021】
遺伝子組換えされていない前駆細胞では産生できない所望のシアリル化オリゴ糖を産生するため、又は所望のオリゴ糖の産生効率を向上させるために、細胞を遺伝子操作してよい。エシェリキア・コリ(Escherichia coli)は、代謝工学に好適な宿主であり、HMO(中性HMO及びシアリル化HMO)の発酵ですでに採用されている。他方、酵母類(サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等)、乳酸菌、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、バチルス種等、GRAS(generally recognized as safe:一般に安全と認められる)ステータスを有する他の宿主株も、オリゴ糖(特にシアリル化HMOをはじめ、HMO全般)を産生する目的で同等に操作し得る。
【0022】
所望のシアリル化オリゴ糖を産生するため、細菌宿主株又は酵母宿主株は通常、1種以上の異種グリコシルトランスフェラーゼ、典型的には少なくとも1種の異種シアリルトランスフェラーゼを含有し、CMP-シアル酸の合成のための遺伝子(例えば、シアル酸の取込み又はデノボ合成に関わる遺伝子に加えて、CMP-シアル酸合成酵素)、ラクトースインポーター及び/又は所望のsHMOに適したエクスポーターを過剰発現させる。適切なエクスポーターが発現することは、酵母をsHMOの産生宿主として用いる場合に特に有利である。なぜなら、S.セレビシエ(S.cerevisiae)は、適切なエクスポーターを保有することなしには、採算の取れる量の異種産生されたオリゴ糖を、発酵ブロスに分泌しないことが知られているからである。
【0023】
シアリル化オリゴ糖に関して使用する「所望の」という用語は、細胞により産生されるシアリル化オリゴ糖をいう。所望のシアリル化オリゴ糖とは、本明細書で開示される工程で精製されるオリゴ糖である。シアリル化オリゴ糖に関して本明細書で使用する「所望の」という用語は、産生されるシアリル化オリゴ糖と、細胞が意図せずに産生し得る他のシアリル化オリゴ糖とを区別するのにも役立つ。
【0024】
本明細書で使用する「オリゴ糖」という用語は、3~20個の単糖残基からなる直鎖状又は分枝状の糖類を指す。
【0025】
一実施形態では、シアリル化オリゴ糖はシアリル化HMOである。本明細書で使用する「シアリル化HMO」という用語は、1つ以上のシアル酸残基を含むヒトミルクオリゴ糖を指す。
【0026】
上記方法は、発酵ブロスからバイオマスを分離するステップを含む。このステップは、シアリル化オリゴ糖を精製する工程の最初のステップである。
【0027】
本明細書で使用する「バイオマス」という用語は、発酵ステップの終了時に発酵ブロス内に存在する細胞全体を指す。発酵ステップの終了時に発酵ブロス内に存在する細胞には、所望のシアリル化オリゴ糖を産生することができる細胞が含まれ、任意に、発酵ブロスに存在しシアリル化オリゴ糖の産生を補助する補助細胞(例えば、望まれない副産物を分解する細胞)も含まれる。したがって、発酵ステップの終了時に発酵ブロスに存在する細胞は発酵ブロスから分離され、その結果、発酵ブロスから実質的に細胞がなくなる。
【0028】
発酵ブロスからバイオマスを分離する適切な方法として遠心分離が挙げられ、この場合、バイオマスはペレットとして得られ、発酵ブロスは上清として得られる。追加及び/又は別の実施形態では、バイオマスは濾過により発酵ブロスから分離される。発酵ブロスから細胞を分離する適切な濾過方法として、精密濾過及び限外濾過が挙げられる。
【0029】
精密濾過自体は物理的な濾過方法であり、粒子を含む流体を特殊な細孔サイズの膜に通して流体から粒子を分離する。本明細書で使用する「精密濾過」という用語は、発酵ブロスから細胞を分離する物理的な濾過工程を指す。
【0030】
限外濾過は種々の膜濾過であり、基本的には変わりがない。限外濾過では、圧力や濃度勾配のような力により半透膜を通して分離を起こす。細胞、浮遊固体及び高分子量の溶質はいわゆる残余分に保持され、他方、水や、所望のシアリル化オリゴ糖等の低分子量の溶質は、透過液(濾液)中の膜を通過する。
【0031】
限外濾過膜は、使用する膜の分画分子量(MWCO)で定義される。限外濾過はクロスフローモード又はデッドエンドモードで行われる。
【0032】
精密濾過又は限外濾過に適したフィルタは、SPIRA CEL(R)DS MP005 4333及びファイバーFS10-FC FUS1582(Microdyn-Nadir GmbH、ヴィースバーデン、ドイツ)である。
【0033】
典型的には、細胞が所望のシアリル化オリゴ糖を細胞内で合成し、発酵ブロスへと分泌する。このようにして産生されたシアリル化オリゴ糖は、最終的に発酵ブロスに到達し、その後、後述するように、所望のシアリル化オリゴ糖を精製するさらなる工程ステップが行われる。
【0034】
実施形態では、所望のシアリル化オリゴ糖が生合成後に細胞内に残る場合、発酵ブロスからバイオマスを分離し、上記バイオマスを、所望のシアリル化オリゴ糖の精製に用いる。この目的で、バイオマスの細胞を溶解させ、さらに、不溶性成分、核酸、脂質及びタンパク質を溶解物から除去するという点で、得られた溶解物を清澄化する。細胞を溶解させる方法並びに不溶性成分、核酸、脂質及び/又はタンパク質を細胞溶解物から除去する方法は、公知である。所望のシアリル化オリゴ糖を含有する清澄化された溶解物を上記のようにして得た後、所望のシアリル化オリゴ糖を精製する目的で、この溶解物に対し、所望のシアリル化オリゴ糖を含有する無細胞発酵ブロスと同じ工程ステップを行う。
【0035】
シアリルオリゴ糖を精製する工程は、微生物発酵により産生されたシアリル化オリゴ糖を精製するために使用されるが、上記工程を、インビトロ生体触媒反応と称されるインビトロでの触媒反応で産生されたシアリル化オリゴ糖の精製に使用してもよい。1以上のインビトロでの酵素反応によって所望のシアリル化オリゴ糖が得られる。また、(無細胞発酵ブロス又は清澄化溶解物の代わりに)上記反応混合物に対して本明細書に記載の精製工程を行うので、生体触媒反応の終了時に反応混合物から所望のシアリル化オリゴ糖を精製することができる。インビトロ生体触媒作用の反応混合物からシアリル化オリゴ糖を精製する場合、反応混合物からバイオマスを除去する必要はないと理解される。
【0036】
無細胞発酵ブロス、清澄化溶解物又は反応混合物は、所望のシアリル化オリゴ糖を含有するほか、相当な量の不純物及び不要な成分、例えば、所望のシアリル化オリゴ糖以外のオリゴ糖、一価塩、二価塩、アミノ酸、ポリペプチド、タンパク質、有機酸、核酸、単糖類等を含有する。
【0037】
シアリル化オリゴ糖を精製する工程は、陽イオン交換クロマトグラフィーにより、無細胞発酵ブロス、清澄化溶解物又は反応混合物から正電荷を持つ化合物を除去するステップを含む。
【0038】
正電荷を持つ化合物を除去するのに適した陽イオン交換樹脂として、Lewatit S2568(H+)(Lanxess AG、ケルン、ドイツ)が挙げられる。
【0039】
シアリル化オリゴ糖を精製する工程は、陰イオン交換クロマトグラフィーにより、無細胞発酵ブロス、清澄化溶解物又は反応混合物から、負電荷を持つ望ましくない化合物を除去するステップを含む。
【0040】
適切な陰イオン交換樹脂としては、Lewatit S6368A、Lewatit S4268、Lewatit S5528、Lewatit S6368A(Lanxess AG、ケルン、ドイツ)、Dowex AG 1x2(Mesh200-400)、Dowex 1x8(Mesh100-200)、Purolite Chromalite CGA100x4(Purolite GmbH、ラーティンゲン、ドイツ)、Dow Amberlite FPA51(Dow Chemicals、ミシガン州、米国)が挙げられる。
【0041】
シアリル化オリゴ糖を精製する工程は、精製されるべきシアリル化オリゴ糖よりも分子量が小さい化合物を除去するステップを含む。精製されるべきシアリル化オリゴ糖よりも分子量が小さい化合物を除去する適切な方法として、ナノ濾過及び透析濾過が挙げられる。
【0042】
透析濾過は、膜透過性成分を除去する(洗い流す)ために、新鮮な水を溶液に添加することを伴う。透析濾過を使用した場合、適切な膜を使用することにより成分の分子サイズと電荷に基づいて成分を分離できる。この場合、1以上の種が効率的に保持され、他の種は膜を透過する。特に、ナノ濾過膜を用いた透析濾過は、塩から低分子量の化合物を分離するのに有効である。ナノ濾過膜は通常、150~300ダルトンの範囲の分画分子量を有する。ナノ濾過は、乳清の濃縮及び脱ミネラル化で乳業において広く使用されている。
【0043】
ナノ濾過及び/又は透析濾過に適した膜として、Dow Filmtec NF270-4040、Trisep 4040-XN45-TSF(Microdyn-Nadir GmbH、ヴィースバーデン、ドイツ)、GE4040F30、GH4040F50(GE Water&Process Technologies、ラーティンゲン、ドイツ)が挙げられる。
【0044】
HMOを含有する溶液の電気透析処理の前に相当量の汚染物質を除去するための前処理として、ナノ濾過膜を用いた透析濾過が効率的であることが見出された。他方、限外濾過ステップの後に低分子量の汚染物質を除去するのにナノ濾過が有効であることが見出された。この場合、低分子量の汚染物質を除去することは、イオン交換処理前にHMO溶液を濃縮し脱ミネラル化するのに有益である。HMO精製時に濃縮と透析濾過のためにナノ濾過膜を使用することにより、熱曝露が減少して省エネルギー化、処理コスト低下、製品品質向上が実現し、結果としてメイラード反応とアルドール反応が減少する。
【0045】
精製工程により、調製物内のシアリル化オリゴ糖の純度が80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の上記所望シアリル化オリゴ糖が得られる。この精製工程により、シアリル化オリゴ糖の純度が食品及び飼料用途に適したシアリル化オリゴ糖の調製物が得られる。
【0046】
さらに、この精製工程は費用効率が高く、スケールアップが容易であるので、何トンもの規模の製造工程の基礎となるのに適している。
【0047】
シアリル化オリゴ糖を精製する上記工程は、所望のシアリル化オリゴ糖が、処理助剤として使用され得る組換え微生物発酵株由来の組換えDNA及び組換えタンパク質なしに得られるという点でも有利である。
【0048】
追加及び/又は別の実施形態では、上記工程は、溶液中の糖類の濃度を上昇させるナノ濾過ステップをさらに含む。
【0049】
追加及び/又は別の実施形態では、上記工程は、電気透析ステップを含む。
【0050】
電気透析は透析と電気分解を組み合わせたものであり、半透膜を通じた選択的エレクトロマイグレーションに基づき、溶液中のイオン濃度の分離に使用することができる。
【0051】
電気透析(ED)は透析と電気分解を組み合わせたものであり、半透膜を通じた選択的エレクトロマイグレーションに基づき、溶液中のイオンの分離又は濃縮に使用することができる。電気透析の工業利用は1960年代初期にさかのぼる。当時この方法は、乳児用調製粉乳に含まれるチーズ乳清の脱ミネラル化に使われた。電気透析の別の利用例として、ワイン、グレープマスト、アップルジュース、オレンジジュース等の飲料のpH調整が挙げられる。
【0052】
電気透析の応用例で今日最も普及しているものは、飲料水生産のための汽水の脱塩及び乳児食生産のための乳清の脱ミネラル化である(Tanaka,Y.(2010)、「Ion Exchange Membrane Electrodialysis(イオン交換膜電気透析)」、Nova Science Publishers,Inc.、New York)。
【0053】
電気透析の基本原理は電解槽で構成され、この電解槽は、イオン伝導のため電解質に浸漬され直流発電機に接続された、一対の電極を含む。直流発電機の正極に接続された電極はアノードであり、陰極に接続された電極はカソードである。負イオンと正イオンがそれぞれアノードとカソードに移動する結果、電流が流れ、電解質溶液がこの電流を支持する。電気透析に使われる膜は、本質的に、負の電荷基又は正の電荷基を有するシート状の多孔質イオン交換樹脂であるので、それぞれカチオン膜、アニオン膜と表される。イオン交換膜は、通常、ジビニルベンゼンで架橋された適切な官能基(例えば、カチオン膜用のスルホン酸又はアニオン膜用の四級アンモニウム基)を有するポリスチレンで作られている。電解質は、例えば、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム又はスルファミン酸であり得る。次に、フィルタプレスと同様にカチオン膜とアニオン膜が2つの電極ブロック間で平行になるように電気透析スタックを組み立てる。これにより、イオン枯渇を受ける流れが、イオン濃縮を受ける流れから充分に分離される(この2つの溶液を、希釈液(イオン枯渇を受ける溶液)、濃縮液(イオン濃縮を受ける溶液)と呼ぶこともある)。電気透析工程の核心部は膜スタックにあり、この膜スタックは、スペーサで分離され2つの電極間に設置された、いくつかの陰イオン交換膜と陽イオン交換膜からなる。直流を印加することにより、陰イオンと陽イオンが膜を越えて電極に移動し、(脱塩された)希釈液の流れと、濃縮液の流れが生じる。
【0054】
電気透析時に酸性条件を適用することにより、sHMOをプロトン化することができ、sHMOが帯電していないように見えるようになる(オリゴ糖のシアル酸部分のカルボニル基のプロトン化)。代わりに、双極性膜を用いて中性条件下で電気透析を実施することもできる。この場合、シアリル化オリゴ糖を別の電気透析濃縮回路内で濃縮することもできる。このように、シアリル化オリゴ糖を電気透析中にさらに濃縮することができる。
【0055】
イオン交換膜の細孔サイズは充分小さいので、2つの流れの間の大きな濃度差により希釈液の流れから濃縮液の流れへと生成物が拡散することが防止される。バイオマスからの分離後、タンパク質、特に組換えDNA分子(断片からゲノム全体に至る範囲のサイズ)を、所望の生成物から定量的に除去しなければならない。少しでも可能性がある場合、(HMOの分子サイズと比較して)このような大きな分子を電気透析にかければ長時間を要し、それに付随して、希釈液から濃縮液への所望の生成物が著しく損失するのは確実である。
【0056】
追加及び/又は別の実施形態では、シアリル化オリゴ糖を精製する工程は、擬似移動床(SMB)クロマトグラフィーのステップをさらに含む。
【0057】
擬似移動床(SMB)クロマトグラフィーは、最初は石油化学産業及び鉱物産業に端を発する。今日では、SMBクロマトグラフィーは、製薬産業においてラセミ混合物からのエナンチオマーの分離に使用されている。大規模SMBクロマトグラフィーはすでに、フルクトース-グルコース溶液からの単糖フルクトースの分離、及びサトウダイコン(sugar beet)又はサトウキビ(sugar cane)シロップからの二糖スクロースの分離に使われている。しかしながら、化学合成時、酵素合成時又は発酵ベースの合成時に、シアリル化ヒトミルクオリゴ糖(例えば、シアリル化ラクト-N-テトラオース、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース)を精製する目的では、SMBクロマトグラフィーはまだ使われていない。ウシ乳からのシアリルラクトースの精製にSMBが使われているが、HMOの源として本明細書で使用する微生物発酵ブロスと比較して、ウシ乳はまったく異なる母体である。
【0058】
SMBクロマトグラフィーは、精留などの連続的な化学分離工程に類似した連続的分離工程として使用される。精留では、液体相と気体相との間で向流が樹立され、供給物の連続的適用と生成物の連続的回収が可能になる。向流クロマトグラフィーは、理論的には、従来の逆流システムと比較して優れた分離を達成するが、向流システムにおける移動相と固定相が反対方向に移動する必要がある。SMBクロマトグラフィーは、連続的クロマトグラフ分離工程で固体クロマトグラフィー材料を移動させようとするときに実際に直面する難題の解決策として開発された。
【0059】
古典的なSMBの概念は、4つの外部の流れを有する4つの異なるゾーンを要する。4つの外部の流れとは、これから分離される成分を含む供給物の流れと、脱着又は移動相の流れと、エキストラクトと、ラフィネートの流れである(後者は滞留効率の低い成分を表す)。これらの液体の流れにより、SMBシステムは、それぞれ働きを有する4つの異なるゾーンに分かれる(各ゾーン又はセクションは1つ以上のカラムを含んでよい)。各ゾーンの働きは次の通りである。ゾーンIは、固相の再生で必要とされ、ゾーンIIの目的は、あまり強く脱着されていない物質を脱着させることであり、ゾーンIIIの働きは、強く吸着された材料を吸着させることであり、最後に、ゾーンIVの働きは、吸着性が比較的低い物質を吸着させることである(
図5)。したがって、比較的強く吸着する成分がゾーンIIにおいて濃度波を樹立してエキストラクトポートに輸送されるのに対し、比較的弱く吸着する成分はラフィネートポートに向けて移動する。
【0060】
原則的に、ゾーンIとゾーンIVが固相の再生に寄与するのに対し(再生ゾーン)、ゾーンIIとゾーンIIIは、システムの実際の分離ゾーンとみなすことができる(分離ゾーン)。4つの液体の流れ及び結果として得られるゾーンに加えて、システムは、(閉ループ動作の場合)移動相(脱着剤)用のリサイクルポンプを含み、移動相を一方向に固定ゾーンに通過させる。次に、供給物、脱着剤及び生成物がシステム内のカラムから隣のカラムへと周期的に移動し連続的に供給又は回収されることにより、向流が達成される。
【0061】
古典的な4ゾーン閉ループ4SMBシステムに加えて、3ゾーン開ループシステムも使用可能である。例えば、水又は水/エタノール混合物を移動相として使用する場合のように、新鮮な溶媒が安価であれば、3ゾーン開ループシステムの方が費用効果が高くなり得る。3ゾーンループ構成では、液相の再生が不要となるため、ゾーンIVは不要となる。
【0062】
2成分混合物を分離する古典的なSMBシステムに加えて、3成分以上を分離するための8ゾーン閉ループシステム(
図6)及び5ゾーン開ループシステムが開発された。
【0063】
動作モードが連続的であり、移動相が再循環され、また大サイズのカラムを使用できる可能性があることを考えると、原理上、SMBシステムを拡大して数百トンの生産量を達成することができる。
【0064】
擬似移動床クロマトグラフィーという工程ステップは、この工程ステップが、所望のシアリル化オリゴ糖と構造的に密接に関連するオリゴ糖をさらに除去することを可能にする点で有利である。
【0065】
追加及び/又は別の実施形態では、上記工程は、着色物質を除去するステップをさらに含む。
【0066】
着色物質を除去する適切な工程ステップは、無細胞発酵ブロス又は清澄化溶解物を活性化チャコール等の活性炭で処理することを含む。
【0067】
発酵ブロスを活性炭で処理することにより、望ましくない着色物質が除去され、許容できる外観を有した所望のオリゴ糖の調製物が得られる。
【0068】
追加及び/又は別の実施形態では、シアリル化オリゴ糖を精製する工程は、所望のシアリル化オリゴ糖の濃度を上昇させる少なくとも1つのステップを含む。
【0069】
上記工程の追加及び/又は別の実施形態では、精製ステップi)~iv)のうちの少なくとも1つの後に、好ましくは精製ステップiv)の後に、真空蒸発(例えば、流下膜式蒸発器若しくはプレート蒸発器を使用)又は逆浸透若しくはナノ濾過(例えば、≦20Åのサイズ排除限界を有するナノ濾過膜を用いたナノ濾過)を用いて、所望のシアリル化オリゴ糖を含有する溶液を、
a)>100g/L、好ましくは>200g/L、より好ましくは>300g/Lの濃度まで、及び/又は
b)<80℃、好ましくは<50℃、より好ましくは20℃~50℃、さらにより好ましくは30℃~45℃、最も好ましくは35℃~45℃の温度で(特に真空蒸発若しくは逆浸透に該当)、及び/又は
c)<80℃、好ましくは<50℃、より好ましくは4℃~40℃の温度で(特にナノ濾過に該当)
濃縮する。
【0070】
所望のシアリル化オリゴ糖の濃度を上昇させる適切な方法は、溶媒のナノ濾過と蒸発とを含む。
【0071】
本発明に係る工程の追加及び/又は別の実施形態では、好ましくは3kDaフィルタ又は6kDaフィルタを通して精製溶液を濾過することにより、精製溶液に対し、滅菌濾過及び/又はエンドトキシン除去を行う。
【0072】
発酵ブロス、細胞溶解物又は生物触媒反応の反応混合物から所望のオリゴ糖を精製する工程を実施することにより、所望のオリゴ糖の水溶液が得られる。追加及び/又は別の実施形態では、高濃度の所望のオリゴ糖を含む所望のオリゴ糖の溶液を提供するように、又は所望のオリゴ糖の固体調製物が得られるように、上記工程は、シアリル化オリゴ糖から溶媒を除去するステップをさらに含む。
【0073】
シアリル化オリゴ糖の液体調製物から溶媒を除去し、所望のオリゴ糖の固形調製物を得る適切な方法として、結晶化と凍結乾燥(フリーズドライ)が挙げられる。凍結乾燥とは、sHMO含有水溶液を凍結させてから、周囲圧力を低下させることにより材料中の凍結水を固相から気相へと直接昇華させる工程である。この結果、通常は吸湿性のsHMO粉末となる。
【0074】
別の実施形態では、噴霧乾燥によりシアリル化オリゴ糖の液体調製物から溶媒を除去することができる。炭水化物は、典型的には噴霧乾燥に適さないことがよく知られており、これにはラクトース、シアル酸、フコース等も含まれるが、驚くべきことに、本発明者らは、所望のシアリル化オリゴ糖を含有する液体調製物を噴霧乾燥して、所望のシアリル化オリゴ糖から本質的になる粉末を得ることができることを明らかにした。
【0075】
発酵ブロスからバイオマスを分離することは、典型的に精製工程の第1ステップである。調製物から溶媒を除去するステップが精製工程に含まれる場合、このステップは、典型的には所望のオリゴ糖を精製する中で最終のステップである。追加の工程ステップの順序は特に限定されない。
【0076】
図2を参照すると、シアリル化オリゴ糖を精製する工程の一実施形態が模式的に示されており、ここでは、シアリル化オリゴ糖は微生物発酵により産生されるsHMOである。発酵の終了時に、クロスフロー濾過により発酵ブロスからバイオマスが分離される。濾液(無細胞発酵ブロス)に対し、陽イオン交換クロマトグラフィー及び陰イオン交換クロマトグラフィーを行う。続いて、溶出液を濃縮し活性炭で処理する。得られた溶液をSMBクロマトグラフィーにかけて、得られた溶液中のシアリル化オリゴ糖の濃度を上昇させる。最後に、3kDa分画の濾過を行った後、滅菌濾過を行って、高濃度の所望のsHMOを含有した溶液を得る。
【0077】
図3は、上記工程の別の実施形態を示す図である。
図2に示す実施形態と異なる点は、高濃度の所望のsHMOを含有した溶液を噴霧乾燥して、所望のsHMOを粉末として得る点である。意外にも、我々は、3’-シアリルラクトース及び6’-シアリルラクトースを噴霧乾燥できる条件を特定することができた。噴霧乾燥できないラクトースやシアル酸と対照的に、こうしたsHMOを噴霧乾燥粉末として得ることを可能にする条件を見出すことができた。噴霧乾燥した粉末は、ごくわずかに吸湿性であるようにも見えた。噴霧乾燥を使用することは、結晶化や凍結乾燥といった他の工程と比べて、経済性が高い、大規模なsHMO製造に適合する、結晶化の場合のような有機溶媒を回避できるなど、いくつかの利点を有する。
【0078】
図4に模式的に示す工程の実施形態は、高純度のsHMO調製物を得るためのSMBクロマトグラフィーを含まないという点が、
図3に示す実施形態とは異なる。
【0079】
第2の態様によれば、微生物発酵又はインビトロの生体触媒作用により産生されたシアリル化オリゴ糖の調製物を提供する。
【0080】
本明細書に記載の工程により、発酵ブロス、細胞又は反応混合物から、調製物のシアリル化オリゴ糖が精製された。
【0081】
追加的及び/又は別の実施形態では、シアリル化オリゴ糖はシアリル化HMOである。追加及び/又は別の実施形態では、シアリル化HMOは、3’-SL、6’-SL、LST-a、LST-b、LST-c、F-SL、F-LST-b及びDS-LNTからなる群より選ばれる。
【0082】
シアリル化オリゴ糖の調製物は、溶媒、好ましくは水に溶解したシアリル化オリゴ糖の溶液として、液体の形態で存在してよい。別の実施形態では、シアリル化オリゴ糖の調製物は、固体形態、好ましくは粉末形態で存在する。この粉末は、粒子形態のシアリル化オリゴ糖を含み、この場合、シアリル化オリゴ糖は、非晶質粒子の形態又は結晶状粒子の形態で存在する。最も好ましくは、シアリル化オリゴ糖は、含水率10%未満の噴霧乾燥粉末として得られる。
【0083】
【0084】
本明細書に記載の工程で得られるシアリル化オリゴ糖の調製物は、純度が80重量%以上の所望のシアリル化オリゴ糖を含む。
【0085】
第3の態様によれば、栄養組成物、好ましくは乳児用調製粉乳の調製のための、本明細書で前述したシアリル化オリゴ糖、特にシアリル化HMOの使用が提供される。
【0086】
シアリル化オリゴ糖を精製する工程により、シアリル化オリゴ糖の調製物が提供され、このオリゴ糖は、ヒトに消費されるのに充分な純度で存在する。
【0087】
上記栄養組成物は、本明細書の上記で開示されている方法により産生された、少なくとも1種のシアリル化オリゴ糖を含有する。
【0088】
したがって、第4の態様によれば、本明細書の上記で開示されている方法により産生された、少なくとも1種のシアリル化オリゴ糖、好ましくは少なくとも1種のsHMOを含有する栄養組成物が提供される。栄養組成物中の上記少なくとも1種のsHMOは、3’-SL、6’-SL、LST-a、LST-b、LST-c、F-SL、DS-LNT及びF-LSTbからなる群より選ばれる。上記少なくとも1種のシアリル化オリゴ糖は、微生物発酵又はインビトロの生体触媒作用により産生されたものである。
【0089】
追加の一実施形態では、栄養組成物は、医薬製剤、乳児用調製粉乳、乳飲料及び栄養補助食品からなる群より選ばれる。栄養組成物はさらに、タンパク質、炭水化物、脂肪、脂肪酸、好ましくは多価不飽和脂肪酸(PUFA)、ビタミン、ミネラル等の微量栄養素及び/又は多量栄養素を含む。
【0090】
上記栄養組成物を医薬製剤として使用すれば、糖尿病の症状を改善し得る。その理由は、シアリルラクトースがインスリンの分泌を促進するので、真性糖尿病を予防又は緩和するために血糖値を増加させるからである。加えて、3’-SLを含有する栄養組成物は、変形性関節症に有効であり得る。
【0091】
乳児用調製粉乳としては、上記栄養組成物は、規制(EU)2016/127に規定されている組成要件を満たす。乳児用調製粉乳の例示的組成物を表2及び表3に明示する。
【0092】
【0093】
【0094】
追加及び/又は別の実施形態では、栄養組成物は、微生物、好ましくはプロバイオティック微生物をさらに含む。乳児用食品用途で使用する場合、好ましい微生物は、健康なヒトのマイクロバイオームに由来する微生物であるか、又は健康なヒトのマイクロバイオーム内で発見できる微生物である。好ましくは、上記微生物は、下記には限定されないが、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、ペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、クロストリジウム(Clostridium)属、ユーバクテリウム(Eubacterium)属、ベイロネラ(Veilonella)属、フソバクテリウム(Fusobacterium)属、バクテリオイデス(Bacterioides)属、プレボテラ(Prevotella)属、エシェリキア(Escherichia)属、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属及びサッカロミセス(Saccharomyces)属から選ばれる。追加及び/又は別の実施形態では、上記微生物は、ビフィドバクテリウム・ブレベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ラクチス(Bifidobacterium lactis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)、ビフィドバクテリウム・ビフィドゥム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・アルドレセンティス(Bifidobacterium aldolescentis)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ガッセリー(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)及びストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)(VSL#3)からなる群より選ばれる。
【0095】
sHMOを生物と組み合わせることに加えて、これらのオリゴ糖を死滅培養物と組み合わせて使用することもできる。プロバイオティクスの分野では、死滅させた培養物(例えば、チンダル間欠滅菌された細菌)を使用することもある。このような死滅培養物は、免疫系の短期刺激をもたらし得るタンパク質、ペプチド、オリゴ糖、細胞外壁断片、天然産物を提供すると考えられている。
【0096】
少なくとも1種のシアリル化オリゴ糖、特に少なくとも1種のsHMOと、プロバイオティック微生物とを栄養組成物中で組み合わせることは、腸内で適切なマイクロバイオームを樹立又は再樹立することと、それに関連する健康上の利益が促進される点で特に有利である。
【0097】
さらに有利なものは、少なくとも1種のシアリル化オリゴ糖、特に1種のsHMOと、樹立したプレバイオティクス、例えばGOS(ガラクトオリゴ糖)及び/又はFOS(フラクトオリゴ糖、イヌリン)との組合せである。
【0098】
栄養組成物は、液体の形態で存在してもよく、又は粉末、顆粒、フレーク、ペレット(ただし、これらに限定されない)等の固体の形態で存在してもよい。
【0099】
したがって、少なくとも5種のHMOを含む栄養組成物も提供され、上記少なくとも5種のHMOは、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、ラクト-N-フコペンタオースI、3’-シアリルラクトース及び6’-シアリルラクトースからなる群より選ばれる。
【0100】
追加及び/又は別の実施形態では、本明細書の上記で開示されている栄養組成物は、少なくとも1種のシアリル化HMOと、少なくとも1種の中性HMOと、プロバイオティック微生物とを含有する。
【0101】
第5の態様によれば、噴霧乾燥されGMOのない粉末が提供され、この粉末は、乾燥重量で>80%の純度を有し10重量%未満の水を有するシアリル化オリゴ糖から本質的になる。
【0102】
一実施形態では、噴霧乾燥された上記粉末は、3’-シアリルラクトースと、6’-シアリルラクトースと、3’-シアリルラクトース及び6’-シアリルラクトースの混合物と、からなる群より選ばれるシアリル化オリゴ糖から本質的になる粉末である。
【0103】
追加及び/又は別の実施形態では、噴霧乾燥された上記粉末は、3’-シアリルラクトースと、6’-シアリルラクトースと、1種以上の中性HMOとの混合物から本質的になり、上記1種以上の中性HMOは、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、ラクト-N-フコペンタオースIからなる群より選ばれる。
【0104】
本発明は、特定の実施形態及び図面を参照して説明されるが、本発明は、これらに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。さらに、本明細書及び特許請求の範囲における第1、第2、といった用語は、類似の要素同士を区別するために使用されるものであり、必ずしも順序を時間的、空間的、ランキング又は他の方法で表すためのものではない。このように使用される用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書に記載の本発明の実施形態は、本明細書に記載又は図示されている順序以外の順序で運用できることを理解するべきである。
【0105】
特許請求の範囲において使用される用語「含む(comprising)」は、その後に列挙される手段に限定されるものと解釈するべきではなく、他の要素又はステップを排除するものではないことに注目すべきである。したがって、この用語は、言及され記載されている特徴、整数、ステップ若しくは構成要素の存在を指定するものと解釈するべきであるが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ若しくは構成要素又はこれらからなる群の存在、追加を排除するものではない。したがって、「手段Aと手段Bとを含む装置」という表現の範囲は、構成要素Aと構成要素Bのみからなる装置に限定されるべきではない。この表現は、本発明に関して、装置の単に関連する構成要素がAとBであることを意味する。
【0106】
本明細書全体において「一実施形態」又は「1つの実施形態」という言及は、当該実施形態に関連して説明されている特定の特徴、構造又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な場所で出現する「一実施形態では」又は「1つの実施形態では」という語句は、必ずしも全部が同一の実施形態を指すわけではないが、同一の実施形態を指す場合もある。さらに、本開示から当業者には明らかなように、1つ以上の実施形態において、特定の特徴、構造又は特性を、任意の適切な方法で組み合わせてよい。
【0107】
同様に、本発明の例示的実施形態の説明において、開示を合理化し1つ以上の様々な発明態様の理解を助ける目的で、本発明の様々な特徴が、単一の実施形態、図又はその説明にまとめられている場合があることを理解するべきである。しかしながら、本開示の方法を、請求項に係る発明が各請求項で明示的に列挙されている特徴よりも多くの特徴を必要とするという意図を反映したものと解釈するべきではない。逆に、以下の請求項が表すように、本発明の態様は、上記で開示されている単一の実施形態の全特徴に満たない部分に存する。ゆえに、「発明を実施するための形態」に続く請求項は、ここに「発明を実施するための形態」へと明示的に組み込まれ、各請求項は、本発明の個別の実施形態として独立している。
【0108】
さらに、本明細書に記載のいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれる特徴のうちのいくつかの特徴を含み他の特徴を含まないが、当業者に理解される通り、複数の異なる実施形態の特徴の組合せは、本発明の範囲内にあり、複数の異なる実施形態を形成することが意図されている。例えば、以下の請求項において、請求項に係る実施形態のいずれも任意に組み合わせて使用することができる。
【0109】
さらに、実施形態のいくつかは、方法又は方法を構成する要素の組合せが、コンピュータシステムのプロセッサによって、又は機能を実行するための他の手段によって実現できるものとして本明細書で説明されている。したがって、方法又は方法の要素を実行するために必要な命令を有するプロセッサは、方法又は方法の要素を実行するための手段を形成する。さらに、装置の実施形態について本明細書に記載されている要素は、本発明を実施するために当該要素が遂行する機能を実行するための手段の一例である。
【0110】
本明細書に示す説明及び図面において、多数の具体的な詳細が記載されている。しかしながら、本発明の実施形態は、これらの具体的な詳細なしに実施してよいと理解される。別の例では、本明細書の理解を不明瞭にすることを避けるため、周知の方法、構造及び技術は詳細に示されていない。
【0111】
本発明は、本発明のいくつかの実施形態の詳細説明により説明される。本発明の真の趣旨又は技術的教示から逸脱することなく、当業者の知識に従って、本発明の他の実施形態を構成できることは明らかであり、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0112】
[実施例1]
<組換え微生物を用いた3’-シアリルラクトースの発酵>
ビブリオ(Vibrio)sp.JT-FAJ-16由来の3’-シアリルトランスフェラーゼ遺伝子のゲノム組込みを含む、組換え3’-シアリルラクトース合成大腸菌株(E.coli BL21(DE3)ΔlacZ)を用いた3’-シアリルラクトースの流加発酵。大腸菌(E.coli)由来のグルコサミン-6-リン酸シンターゼをコードするCMP-シアル酸遺伝子GlmSの生合成を増強するため、シネコシスティス種(Synechocystis sp.)由来のN-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼSlr1975、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のグルコサミン6-リン酸N-アセチルトランスフェラーゼGna1、大腸菌由来のホスホエノールピルビン酸シンターゼPpsA、N-アセチルノイラミン酸シンターゼNeuB及びCMP-シアル酸シンテターゼNeuA(後者2つはカンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)由来)を、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)宿主中に染色体的に組み込んだ。さらに、大腸菌(E.coli)由来のラクトースパーミアーゼをコードする遺伝子LacYと、大腸菌(E.coli)W由来の遺伝子cscB(スクロースパーミアーゼ)、cscK(フルクトキナーゼ)、cscA(スクロースヒドロラーゼ)及びcscR(転写制御因子)とを、BL21ゲノムに組み込んだ。組み込まれた遺伝子の転写は、テトラサイクリンプロモーターPtet、PT5プロモーターのいずれかの構成的プロモーターから開始される。遺伝子galE(UDP-グルコース-4-エピメラーゼ)、galT(ガラクトース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ)、galK(ガラクトキナーゼ)及びgalM(ガラクトース-1-エピメラーゼ)からなる機能性ガルオペロンを、大腸菌(E.coli)K12からBL21株のゲノムに導入した。N-アセチルグルコサミン-6-リン酸デアセチラーゼ(NagA)、グルコサミン-6-リン酸デアミナーゼ(NagB)及びN-アセチルグルコサミン特異的PTSタンパク質IIABC(NagE)をコードする、N-アセチルグルコサミン6-リン酸遺伝子の分解を防止するために、これらの遺伝子を染色体から欠失させた。加えて、マンノース、グルコース、グルコサミン及びN-アセチルグルコサミン向けの大腸菌(E.coli)PTS系の糖トランスポーターをコードするオペロンmanXYZを欠失させ、N-アセチルノイラミン酸リアーゼ、N-アセチルマンノサミンキナーゼ、N-アセチルマンノサミンキナーゼ-6-リン酸エピメラーゼ、シアル酸トランスポーターをそれぞれコードする遺伝子nanA、nanK、nanE、nanTも欠失させた。N-アセチルガラクトサミン-6-リン酸デアセチラーゼ(AgaA)をコードする遺伝子も欠失させた。
【0113】
3’-シアリルラクトース産生株を、7g l-1のNH4H2PO4、7g l-1のK2HPO4、2g l-1のKOH、0.3g l-1のクエン酸、5g l-1のNH4Cl、1ml l-1の消泡剤(Struktol J673、Shill+Seilacher)、0.1mMのCaCl2、8mMのMgSO4、微量元素、及び炭素源として2%スクロースを含む、限定無機塩培地中で増殖させた。
【0114】
微量元素は、0.101g l-1のニトリロ三酢酸、pH6.5、0.056g l-1のクエン酸アンモニウム鉄、0.01g l-1のMnCl2×4H2O、0.002g l-1のCoCl2×6H2O、0.001g l-1のCuCl2×2H2O、0.002g l-1のホウ酸、0.009g l-1のZnSO4×7H20、0.001g l-1のNa2MoO4×2H2O、0.002g l-1のNa2SeO3及び0.002g l-1のNiSO4×6H2Oで構成された。
【0115】
スクロース供給物(500g l-1)に、8mMのMgSO4、0.1mMのCaCl2、微量元素及び5g l-1のNH4Clを補足した。3’-シアリルラクトースを形成するため、216g l-1のラクトース供給物を使用した。アンモニア溶液(25% v/v)を用いてpHを制御した。流加発酵は、5.5~7mL L-1 h-1のスクロース供給速度を適用することにより、開始体積を参照しながら、30℃で72時間、一定の通気及び撹拌下で実施した。発酵開始から72時間後、添加したラクトースの大部分が3’-シアリルラクトースに変換された。発酵上清に存在する残留ラクトースを除去するため、発酵容器にβ-ガラクトシダーゼを添加した。生じた単糖類は産生株により代謝された。
【0116】
[実施例2]
<組換え微生物を用いた6’-シアリルラクトースsHMOの発酵>
6’-シアリルラクトースを合成する菌株は、シアリルトランスフェラーゼにかかわらず、3’-シアリルラクトース産生株と同様の遺伝子的特徴を有する。6’-シアリルラクトースを産生するため、α-2,6-シアリルトランスフェラーゼをコードするフォトバクテリウム・レイオグナチ(Photobacterium leiognathi)JT-SHIZ-119由来のplsT6遺伝子を大腸菌(E.coli)BL21(DE3)ゲノムに導入した。
【0117】
6’-シアリルラクトースの発酵産生のために、7g l-1のNH4H2PO4、7g l-1のK2HPO4,2g l-1のKOH、0.3g l-1のクエン酸、5g l-1のNH4Cl、1ml l-1の消泡剤(Struktol J673,Schill+Seilacher)、0.1mMのCaCl2、8mMのMgSO4、微量元素(0.101g l-1のニトリロ三酢酸、pH6.5、0.056g l-1のクエン酸アンモニウム鉄、0.01g l-1のMnCl2×4H20、0.002g l-1のCoCl2×6H2O、0.001g l-1のCuCl2×2H2O、0.002g l-1のホウ酸、0.009g l-1のZnSO4×7H20、0.001g l-1のNa2MoO4×2H2O、0.002g l-1のNa2SeO3、0.002g l-1のNiSO4×6H2O)及び炭素源として2%スクロースを含む限定無機塩培地において、菌株を増殖させた。
【0118】
スクロース供給物(500g l-1)に、8mMのMgSO4、0.1mMのCaCl2、微量元素及び5g l-1のNH4Clを補足した。6’-シアリルラクトースを形成するため、216g l-1のラクトース供給物を使用した。アンモニア溶液(25% v/v)を用いてpHを制御した。流加発酵は、5.5~7mL L-1 h-1のスクロース供給速度を適用することにより、開始体積を参照しながら、30℃で72時間、一定の通気及び撹拌下で実施した。産生工程の終了時に6’-シアリルラクトースに変換されなかったラクトースは、β-ガラクトシダーゼの添加により分解され、ラクトースの加水分解により生じた単糖類は、産生株により代謝された。
【0119】
[実施例3]
<発酵ブロスからの6’-シアリルラクトース及び3’-シアリルラクトースの精製>
ワインディング・モジュール・フィルタ(0.05μm分画)(CUT membrane technology、エルクラート、ドイツ)、クロスフローフィルタ(150kDa分画)(Microdyn-Nadir、ヴィースバーデン、ドイツ)を連続的に用いることにより、限外濾過により発酵培地からバイオマスを分離した。20g L-1を超えるシアリル化オリゴ糖を含有した約1m3の無細胞発酵培地が得られた。
【0120】
次いで、無細胞液をイオン交換クロマトグラフィーにより脱イオン化した。最初に、陽イオン性の汚染物質を、容積200L、H+形の強陽イオン交換体(Lewatit S2568(Lanxess、ケルン、ドイツ)で除去した。得られた溶液のpHを、NaOHを用いて7.0に設定した。第2のステップにおいて、塩素形の強陰イオン交換体Lewatit S6368S(Lanxess、ケルン、ドイツ)を使って溶液から陰イオン及び不要な着色物質を除去した。このイオン交換体のベッドボリュームは200Lであった。クロスフローフィルタ(150kDa分画)(Microdyn-Nadir、ヴィースバーデン、ドイツ)での第2の濾過ステップにより、溶液の酸性化から生じた沈殿物を除去した。糖を濃縮するために、溶液をDow Filmtec NF270-4040(Inaqua、メンヒェングラートバッハ、ドイツ)又は代替としてTrisep4040-XN45-TSF Membrane(0.5kDa分画)(Microdyn-Nadir、ヴィースバーデン、ドイツ)でナノ濾過した。後者を使用して、発酵工程から生じシアリルラクトース溶液を汚染している単糖N-アセチルグルコサミンを、生成物から分離した。次に、濃縮したシアリルラクトース溶液を活性チャコール(CAS:7440-44-0、Carl Roth、カールスルーエ、ドイツ)で処理して、メイラード反応生成物、アルドール反応生成物等の着色物質を除去した。シアル酸やN-アセチルグルコサミンのような発酵工程から生じた副産物からシアリルラクトースを分離するため、溶液を1kDa分画膜GE4040F30(GE water&process technologies、ラーティンゲン、ドイツ)で濾過し、導電率0.6~0.8mSまで透析濾過を行った。希釈した溶液をロータリーエバポレータで濃縮して、約300g L-1の濃度にした。最終のクロマトグラフ分離により、ジシアリルラクトースのような他の汚染糖を除去した。その目的で、濃縮溶液を酢酸形の弱陰イオン交換樹脂(Amberlite FPA51、Dow Chemical、ミシガン州、米国)にかけた。シアリルラクトースはほとんど樹脂と結合しないが、ジシアリルラクトースは吸着する。したがって、シアリルラクトースが10mMの酢酸アンモニウムで溶離するのに対し、ジシアリルラクトースは1Mの酢酸アンモニウムで溶離する。酢酸アンモニウムを除去するため、シアリルラクトースを10倍過剰量のエタノールで沈殿させた。固体部分を濾過し、乾燥させた。
【0121】
20%シアリルラクトース溶液を6kDaのフィルタ(Pall Microza限外濾過モジュールSIP-2013、Pall Corporation、ドライアイヒ、ドイツ)と0.2μmの滅菌フィルタに順に通すことにより、生成物を完成させた。
【0122】
以下のパラメータ:入口温度130℃、出口温度:67℃~71℃、気体流670L/h、アスピレータ100%を適用して、溶液の一部をBuchi噴霧乾燥機(Buchi Mini Spray Dryer B-290)(Buchi、エッセン、ドイツ)を用いて噴霧乾燥した。
【0123】
噴霧乾燥後、6’-シアリルラクトースの純度は91%、3’-シアリルラクトース材料の純度は93%であった。
【0124】
[実施例4]
<広角X線パワー(power)回折(XDR)による噴霧乾燥シアリルラクトースの分析>
広角X線粉末回折(XRD)を用いて、凍結乾燥した生成物の形態を調査した。銅アノード(45kV、40mA、波長0.154nmでKα1放出)及びPIXcel3D検出器を備えたX線回折計Empyrean(Panalytical、アルメロ、オランダ)を使用した。5~45°2θの角度範囲、ステップサイズ0.04°2θ、カウント時間は1ステップ当たり100秒として、噴霧乾燥サンプル約100mgを反射モードで分析した。
【0125】
噴霧乾燥された6’-シアリルラクトースは、完全な非晶質構造を有することが判明した(
図7)。これに対し、3’-シアリルラクトースのサンプルは、7°と31°の2つの回折ピークを示し、部分的に結晶構造であることを示したが、3’-シアリルラクトースのサンプルも大部分は非晶質シグナルを示した(
図8)。
【0126】
[実施例5]
<示差走査熱量測定(DSC)による噴霧乾燥シアリルラクトースの分析>
Mettler Toledo 821e(Mettler Toledo、ギーセン、ドイツ)による示差走査熱量測定(DSC)を用いて、噴霧乾燥生成物の熱事象を測定した(ガラス転移温度(Tg)、その後の発熱事象及び吸熱事象)。
【0127】
噴霧乾燥された生成物約25mgを、圧着アルミるつぼ(Mettler Toledo、ギーセン、ドイツ)に入れて分析した。サンプルを10K/分で0℃まで冷却し、10K/分の走査速度で100℃まで再加熱した。第2の加熱サイクルにおいてサンプルを0℃まで冷却した後、サンプルを150℃まで再加熱した。加熱走査中のベースラインの吸熱シフトの中間点をTgとした。発熱ピーク及び吸熱ピークを、ピーク温度及び事象の正規化エネルギーを用いて報告した。
【0128】
噴霧乾燥された6’-シアリルラクトースのサンプルは、第1の加熱走査において48℃のTg値を示し、第1のTg後の吸熱緩和ピークを有する第2の加熱走査において50℃のTgを示した。6’-シアリルラクトースと比較すると、3’-シアリルラクトースは両方の加熱走査において22℃のTg値を示し、より高温での6’-シアリルラクトースのより高い安定性が示された。
少なくとも5種のHMOを含む栄養組成物であって、前記少なくとも5種のHMOは、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、ラクト-N-フコペンタオースI、3’-シアリルラクトース及び6’-シアリルラクトースからなる群より選ばれる、請求項2に記載の栄養組成物。
前記噴霧乾燥された粉末が、3’-シアリルラクトースと、6’-シアリルラクトースと、1種以上の中性HMOとの混合物から本質的になり、前記1種以上の中性HMOが、2’-フコシルラクトースと、3-フコシルラクトースと、ラクト-N-テトラオースと、ラクト-N-ネオテトラオースと、ラクト-N-フコペンタオースIとからなる群より選ばれる、請求項8に記載の噴霧乾燥された粉末。