(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154063
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】肺炎球菌表面タンパク質A(PspA)の発現
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20231011BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231011BHJP
C12N 15/70 20060101ALI20231011BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231011BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231011BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231011BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231011BHJP
C07K 1/14 20060101ALI20231011BHJP
C07K 14/315 20060101ALI20231011BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20231011BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231011BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20231011BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231011BHJP
A61P 27/16 20060101ALI20231011BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20231011BHJP
A61K 39/116 20060101ALI20231011BHJP
A61K 39/09 20060101ALI20231011BHJP
A61K 39/385 20060101ALI20231011BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20231011BHJP
A61K 47/62 20170101ALI20231011BHJP
【FI】
C12N15/31 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/70 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K1/14
C07K14/315
A61P31/04
A61P37/04
A61P11/00
A61P25/00
A61P27/16
A61P7/00
A61K39/116
A61K39/09
A61K39/385
A61K39/00 G
A61K47/62
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132515
(22)【出願日】2023-08-16
(62)【分割の表示】P 2020545584の分割
【原出願日】2019-03-01
(31)【優先権主張番号】201841007814
(32)【優先日】2018-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(71)【出願人】
【識別番号】517176375
【氏名又は名称】バイオロジカル イー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】スリラマン,ラジャン
(72)【発明者】
【氏名】マトゥール,ラメシュ ベンカト
(72)【発明者】
【氏名】マンテナ,ナレンダー デーブ
(72)【発明者】
【氏名】ダトラ,マヒマ
(72)【発明者】
【氏名】カミレッディ,スウェサ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】細菌において高レベルの切断型肺炎球菌表面タンパク質A1(PspA1)を安定的かつ構成的または誘導的に発現させることを可能にする発現構築物を提供する。
【解決手段】本発明は、特定の配列に示される切断型肺炎球菌表面タンパク質A1(PspA1)の高レベル発現を可能にする発現構築物を提供する。本発明は、第2の特定の配列に示される切断型PspA1をコードする遺伝子を含む発現構築物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号5または配列番号6のヌクレオチド配列を含む、切断型肺炎球菌表面タンパク質A1(PspA1)をコードする核酸。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸を含む、発現構築物。
【請求項3】
配列番号3または配列番号4に示される切断型肺炎球菌表面タンパク質A1(PspA1)の高レベル発現を可能にする、発現構築物。
【請求項4】
a.配列番号5または配列番号6に示される、切断型pspA1をコードする遺伝子、
b.複製開始点、
c.抗生物質耐性遺伝子、
d.プロモーター、および
e.リボソーム結合部位
を含む、配列番号3または配列番号4に示される切断型PspA1(肺炎球菌表面タンパク質A1)の高レベル発現のための発現構築物。
【請求項5】
抗生物質耐性遺伝子がカナマイシン耐性遺伝子である、請求項4に記載の発現構築物。
【請求項6】
a.oriR複製開始点、
b.カナマイシン耐性遺伝子、
c.Ptacプロモーター、および
d.配列番号5に示される、切断型pspA1をコードする目的の遺伝子
を含む、請求項4に記載の発現構築物。
【請求項7】
a.pUC複製開始点、
b.カナマイシン耐性遺伝子、
c.PT7プロモーター、および
d.配列番号6に示される、切断型pspA1をコードする目的の遺伝子
を含む、請求項4に記載の発現構築物。
【請求項8】
配列番号7に示されるトリオースリン酸イソメラーゼリボソーム結合部位をさらに含む、請求項7に記載の発現構築物。
【請求項9】
a.切断型pspA1をコードする遺伝子(配列番号5)、
b.oriR複製開始点(配列番号12)、
c.カナマイシン耐性遺伝子(配列番号1)、
d.Ptacプロモーター(配列番号2)、および
e.トリオースリン酸イソメラーゼリボソーム結合部位
を含む、Corynebacterium glutamicumにおける切断型PspA1(配列番号3)の高レベル発現のための発現構築物。
【請求項10】
a.切断型pspA1をコードする遺伝子(配列番号6)、
b.pUC複製開始点、
c.カナマイシン耐性遺伝子(配列番号1)、
d.PT7プロモーター(配列番号11)、および
e.リボソーム結合部位
を含む、大腸菌における切断型PspA1(配列番号4)の高レベル発現のための発現構築物。
【請求項11】
請求項2~10のいずれか1項に記載の発現ベクターを含む、組換え宿主細胞。
【請求項12】
宿主がCorynebacterium glutamicumまたは大腸菌である、請求項11に記載の組換え宿主細胞。
【請求項13】
請求項2~10のいずれか1項に記載の発現構築物で形質転換した細菌を培養するステップと、それによって発現したそのタンパク質を精製するステップとを含む、Streptococcus pneumoniae切断型PspA1(肺炎球菌表面タンパク質A1)の高レベル発現のための方法。
【請求項14】
切断型pspA1の収量が、約500mg/L、約400mg/L、約300mg/L、約250mg/L、約220mg/L、約200mg/L、約180mg/L、約160mg/L、約150mg/L、約120mg/L、約100mg/Lである、請求項13に記載の切断型PspA1の高レベル発現および精製の方法。
【請求項15】
配列番号3もしくは配列番号4に示される切断型PspA1または切断型PspA1とCRM197、破傷風トキソイド、百日咳トキソイドおよびPsaAを含む群から選択されるその他の担体タンパク質との組み合わせとコンジュゲートした、1、2、3、4、5、6A、6B、6C、6D、7F、8、9N、9V、10A、11A、12F、14、15A、15B、15C、16F、17F、18C、19F、19A、20A、20B、22F、23A、23B、23F、24B、24F、31、33F、34、35B、35F、38、39、および45から選択されるStreptococcus pneumoniae血清型の少なくとも1つの多糖類を含む、肺炎球菌コンジュゲートワクチン。
【請求項16】
ワクチンが、10価、14価、15価、17価、18価、19価、20価、22価、23価、24価および25価から選択される多価ワクチンである、請求項15に記載のワクチン組成物。
【請求項17】
配列番号3または配列番号4に示される切断型PspA1にコンジュゲートしたStreptococcus pneumoniae血清型3、6Aおよび6B、ならびにCRM197にコンジュゲートしたStreptococcus pneumoniae血清型1、4、5、7F、9V、14、18C、19A、19F、22F、23Fおよび33Fに由来する少なくとも3つの多糖類を含む、請求項15に記載の多価コンジュゲートワクチン。
【請求項18】
コンジュゲートワクチンにおける担体タンパク質としての配列番号3または配列番号4のアミノ酸配列を含む切断型肺炎球菌表面タンパク質A1(PspA1)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌における切断型肺炎球菌表面タンパク質A1(PspA1)の高レベル表現に関する。
【背景技術】
【0002】
Streptococcus pneumoniaeは、中耳炎、髄膜炎、菌血症および肺炎の重要な原因であり、高齢者や基礎疾患のある人における致死的な感染症の主な原因となっている。連鎖球菌ワクチン接種の魅力的な目標は、ワクチンを接種した集団における保菌を減らし、その後、肺炎球菌疾患の発生率を低下させることである。
【0003】
Pneumovax23の商品名で販売されている肺炎球菌多糖類ワクチンは、2歳未満の小児には効果がない。この集団において多糖類ワクチンが無効であることは、B細胞受容体の発現における小児免疫系の未熟さに起因している。多糖類(PS)を担体タンパク質にコンジュゲートさせると、T細胞非依存性抗原からT細胞依存性抗原に変化する。多糖類は、T細胞依存性抗原として、アイソタイプの切り替えを伴う応答、記憶細胞の生成および追加免疫可能な免疫応答を起こすことができる。
【0004】
膜タンパク質は膜の中および膜を横切って存在し、分子を輸送したり、細胞接着を促進したりする役割を果たしている。タンパク質は、拡散促進(すなわち、受動的輸送)または能動的輸送によって物質の移動を補助することができる。肺炎球菌表面タンパク質A(PspA)は、膜タンパク質であり、すべてのStreptococcus pneumoniae株の細胞壁に結合して見いだされるもう1つの重要な病原性因子である。
【0005】
破傷風トキソイド(TT)またはCRM197などの汎用担体タンパク質を、肺炎球菌タンパク質、特にPspA1またはその断片によって置き換えることもまた、ワクチンの適用範囲の拡大に加えて、コンジュゲートワクチンに同じ担体タンパク質を過剰使用することによって引き起こされる免疫応答の障害を防止するだろう。発現プラスミドは、エンハンサーおよびプロモーター領域として作用する調節配列を含有し、発現ベクターで運ばれる遺伝子が効率的に転写されるように操作されている。うまく設計された発現ベクターの目標は、タンパク質の効率的な生産であり、これは著しい量の安定したメッセンジャーRNAを合成することによって達成され得る。発現を強く制御する発現ベクターを設計することは可能であり、タンパク質は適切な発現条件を用いて必要なときにのみ大量に産生され得る。遺伝子発現が強く制御されていない場合、タンパク質はまた、構成的に発現され得る。
【0006】
Corynebacterium glutamicumは、グルタミン酸一ナトリウムの多量生産において広く使用されているグラム陽性発酵菌である。Corynebacterium glutamicumは、その安定した遺伝的特性と内毒素がないことから、GRAS生物(一般的に安全と考えられている)に分類されている。この細菌は細胞外プロテアーゼを分泌しないことが知られているので、培地において異種タンパク質を産生するための魅力的なプラットフォームとなる。これは、組換えタンパク質を大量に合成することができる発現プラスミド構築物を用いて達成することができる。
【0007】
欧州特許第2310502号は、構築物におけるPtacプロモーターの使用を開示しており、IPTG誘導性ftsZおよびminCDE欠失変異を含有する大腸菌(Escherichia Coli)株をLB培地において増殖させた。
【0008】
Nokanoら、J Bacteriol.1984 Jan;157(1):79~83は、カナマイシンに対する耐性の特性を獲得した形質転換株を作製するために、プラスミド構築物におけるカナマイシン耐性遺伝子の使用を開示している。
【0009】
Masaiら、Proc Natl Acad Sci USA.1987 Jul;84(14):4781~5は、R1プラスミド複製の開始およびoriR配列との相互作用についてRepAタンパク質を開示している。
【0010】
Nayakら、Infect.Immun.1998、Nayak、3744~51は、肺炎球菌表面タンパク質A(PspA)を発現する生きた経口組換えサルモネラワクチン株を開示している。
【0011】
Naborsら、Vaccine 18(2000)1743~54は、大腸菌における細胞質タンパク質としての組換え切断型PspAの発現を開示している。
Figueredoら、Appl Microbiol Biotechnol(2017)101:2305~2317は、タグ付けされていない組換え肺炎球菌表面タンパク質A(PspA4Pro)の産生および精製を開示している。
【0012】
前記文献は、発現ベクターの遺伝子要素または大腸菌もしくはサルモネラ菌における肺炎球菌表面タンパク質Aの発現のいずれかを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、肺炎球菌表面タンパク質の免疫原性断片を同定した。その後、本発明者らは、細菌における高レベルでの切断型肺炎球菌表面タンパク質A1(PspA1)の安定的かつ構成的または誘導的発現を可能にする発現構築物を開発するために多大な努力をしてきた。
【0014】
したがって、本発明は、切断型肺炎球菌表面タンパク質の発現のための発現ベクターおよび組換え宿主細胞を調製することによって、先行技術の課題を克服することを企図している。さらに、本発明者らは、担体タンパク質として、切断型タンパク質を含むワクチン組成物を調製した。
【0015】
本発明の主な目的は、細菌における切断型肺炎球菌表面タンパク質A1(PspA1)の高レベル発現のための発現構築物を提供することである。
本発明の別の目的は、細菌において高レベルの切断型肺炎球菌表面タンパク質A1(PspA1)を安定的かつ構成的または誘導的に発現させることを可能にする発現構築物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、配列番号3および4に示される切断型肺炎球菌表面タンパク質A1(PspA1)の高レベル発現を可能にする発現構築物を提供する。
本発明は、配列番号5および6に示される切断型pspA1をコードする遺伝子を含む発現構築物を提供する。
【0017】
本発明は、
a)配列番号5または6に示される切断型pspA1をコードする遺伝子、
b)複製開始点、
c)抗生物質耐性遺伝子、
d)プロモーター、および
e)リボソーム結合部位
を含む、細菌における配列番号3または4に示される切断型PspA1(肺炎球菌表面タンパク質A1)の高レベル発現のための発現構築物を提供する。
【0018】
本発明はまた、切断型PspA1(肺炎球菌表面タンパク質A1)の高レベル発現の方法も対象としており、これは、発現構築物で形質転換された細菌を培養するステップと、それによって発現したタンパク質を精製ステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1-1】パネルAは、pBE31Cの模式図である。パネルBは、Rx1 pspA1の推定アミノ酸配列から描写されたpspAのドメインの配置図である。パネルCは、pBE117の模式図である。パネルDは、RBS、天然のシグナルペプチド、切断型pspA1、天然のターミネーターおよびtrrnBを含有するPCRアンプリコンを示す。
【
図2】ペプチドフィンガープリント解析における切断型PspA1のタンパク質配列包括度を示した図である。
【
図3】Corynebacterium glutamicumで発現した切断型PspA1のインタクト質量分析を示した図である。
【
図4】セラミックヒドロキシアパタイト(CHT-II)カラムから溶出した切断型PspA1を示した図である。
【
図5】アニオン交換カラムから溶出した切断型PspA1を示した図である。
【
図6】ダイアフィルトレーション後の切断型PspA1を示した図である。
【
図7】肺炎球菌多糖類血清型3(A)、6A(B)および6B(C)のコンジュゲーション反応速度論のためのSEC-HPLCクロマトグラムを示した図である。
【
図8】切断型pspA1の担体タンパク質と血清型3、6A、6BのStreptococcus pneumoniae多糖類(2.2mcg)との様々なコンジュゲートに対して免疫したウサギの血清抗体力価を示した図である。
【
図9】切断型pspA1の担体タンパク質と血清型3、6A、6BのStreptococcus pneumoniae多糖類(4.4mcg)との様々なコンジュゲートに対して免疫したウサギの血清抗体力価を示した図である。
【
図10】パネルAは、pBE114kの模式図である。パネルBは制限消化によって確認したpBE114kを示した図である。
【
図11】CHT Iクロマトグラフィーから溶出した切断型PspA1を示した図である。
【
図12】Capto Q Impressクロマトグラフィーから溶出した切断型PspA1を示した図である。
【
図13】MALDIによるPspA1のタンパク質包括度を示した図である。
【
図14】大腸菌で発現した切断型PspA1のインタクト質量分析である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
PspA1という用語は、Streptococcus pneumoniae由来の肺炎球菌表面タンパク質A1を意味する。
本発明は、細菌における切断型PspA1(肺炎球菌表面タンパク質A1)の高レベル発現に関する。pspA1の高レベル発現に適した細菌は、Corynebacterium glutamicumおよび大腸菌である。
【0021】
一実施形態において、本発明は、Corynebacterium glutamicumにおける配列番号3に示される切断型PspA1(肺炎球菌表面タンパク質A1)の高レベル発現に関する。
【0022】
別の実施形態では、本発明は、大腸菌における配列番号4に示される切断型PspA1(肺炎球菌表面タンパク質A1)の高レベル発現に関する。
本発明は、配列番号3に示される表面タンパク質の高レベル発現を可能にする発現構築物を提供する。
【0023】
本発明はまた、配列番号4に示される表面タンパク質の高レベル発現を可能にする発現構築物をも提供する。
別の実施形態では、本発明は、Corynebacterium glutamicumにおける配列番号3に示される切断型PspA1(肺炎球菌表面タンパク質A1)の高レベル発現のための発現構築物に関する。
【0024】
さらに別の実施形態では、本発明は、大腸菌における配列番号4に示される切断型PspA1(肺炎球菌表面タンパク質A1)の高レベル発現のための発現構築物に関する。
本発明は、
i.oriR複製開始点、
ii.カナマイシン耐性遺伝子、
iii.Ptacプロモーター、
iv.切断型pspA1をコードする目的の遺伝子(配列番号5)
を含む、Corynebacterium glutamicumにおける切断型PspA1の高レベル発現のために使用される発現構築物に関する。
【0025】
本発明はまた、
i.pUC複製開始点、
ii.カナマイシン耐性遺伝子、
iii.PT7プロモーター、
iv.切断型pspA1をコードする目的の遺伝子(配列番号6)
を含む、大腸菌における切断型PspA1の高レベル発現のために使用される発現構築物に関する。
【0026】
一実施形態では、切断型pspA1の高レベル発現のための発現構築物は、リボソーム結合部位(RBS)をさらに含む。RBSは、フォワードプライマーに含まれ、天然のターミネーターを含有するDNAの短区間は、切断型pspA1のさらなる増幅のために使用されるリバースプライマーに含まれる。RBS(リボソーム結合部位)は、Corynebacterium glutamicumにおける切断型PspA1の発現のための発現構築物ではトリオースリン酸イソメラーゼである。
【0027】
本発明の一実施形態では、発現構築物は、PspA1シグナルペプチドをコードする領域(天然)、切断型pspA1、Ptacプロモーターおよびトリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子のリボソーム結合部位(RBS)を含む。
【0028】
好ましい実施形態では、本発明は、
a.切断型pspA1をコードする遺伝子(配列番号5)、
b.oriR複製開始点(配列番号12)、
c.カナマイシン耐性遺伝子(配列番号1)、
d.Ptacプロモーター(配列番号2)、および
e.トリオースリン酸イソメラーゼリボソーム結合部位
を含む、Corynebacterium glutamicumにおける切断型PspA1(配列番号3)の高レベル発現のための発現構築物を提供する。
【0029】
別の好ましい実施形態では、本発明は、
a)切断型pspA1をコードする遺伝子(配列番号6)、
b)pUC複製開始点、
c)カナマイシン耐性遺伝子(配列番号1)、
d)PT7プロモーター(配列番号11)、および
e)リボソーム結合部位
を含む、大腸菌における切断型PspA1(配列番号4)の高レベル発現のための発現構築物を提供する。
【0030】
肺炎球菌表面タンパク質A(PspA)は膜タンパク質であり、全Streptococcus pneumoniae株の細胞壁に結合して見いだされる重要な病原性因子であり、免疫原性が高いことが示されていることから、有望な成分である。
【0031】
本発明の特定の実施形態では、切断型PspA1は担体タンパク質として使用される。コンジュゲートワクチンで採用される担体タンパク質は、毒性がなく、反応源性がなく、大量かつ高純度で得ることができるタンパク質が好ましい。担体タンパク質は、多糖類の免疫原性を高めるために、病原性細菌から単離された莢膜多糖類にコンジュゲートさせることもある。担体タンパク質は、標準的な化学的コンジュゲーション手順に適していなければならない。
【0032】
Corynebacterium glutamicumにおける切断型PspA1は、細胞外培地に分泌される。細胞外媒体への分泌は、効率的な精製に役立つ。
本発明は、切断型pspA1遺伝子のプロリンリッチ領域と共にN末端領域が、上流の領域と一緒に、Streptococcus pneumoniaeの23F莢膜血清型から増幅される、Corynebacterium glutamicumにおける切断型PspA1の高レベル発現に関する。
【0033】
本発明の一実施形態では、発現構築物は切断型pspA1、Ptacプロモーターおよびトリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子のリボソーム結合部位(RBS)を含む。
本発明の一実施形態では、発現構築物は切断型pspA1、PT7プロモーターおよびリボソーム結合部位(RBS)を含む。
【0034】
発現構築物はCorynebacterium glutamicumにエレクトロポレーションされ、選択可能なマーカーとしてカナマイシンを含むLBプレートで選択される。
【0035】
Ptacはtrpプロモーターの-35領域およびlacUV5プロモーター/オペレーターの-10領域から構成される強力なハイブリッドプロモーターである。
pspA配列はGenBankから得られ、タンパク質データベースに整列させた。プライマーは、天然のシグナルペプチドのコーディング領域、ファミリー1および2に属するpspA遺伝子のプロリンリッチ領域と共にN末端領域を特異的に増幅するように設計された。pspA1およびpspA2の必要な領域は、利用可能なStreptococcus pneumoniaeの臨床単離物から増幅された。MHCペプチド分析は、pspA1はpspA2よりも比較的免疫原性が高いことを示した。
【0036】
Corynebacterium glutamicumにおいて発現および産生される切断型PspA1をコードするアミノ酸配列は、配列番号3で記載され、インタクトな質量は35452ダルトンであることが観察されている。
【0037】
大腸菌で発現および産生される切断型PspA1をコードするアミノ酸配列は、配列番
号4で記載され、インタクトな質量は41966ダルトンであることが観察されている。
Corynebacterium glutamicumおよび大腸菌で発現される切断型pspA1をコードするDNA配列はそれぞれ、配列番号5および6で記載される。
【0038】
切断型pspA1を発現するために使用されるCorynebacterium glutamicum(以前は、Micrococcus glutamicusとして知られていた)は、GRAS生物のグラム陽性桿菌である。Corynebacterium
glutamicumは、GRAS生物である。Corynebacterium glutamicum ATCC 13032の全ゲノム配列は利用可能で、高い細胞密度まで増殖させることができ、組換え修復系が欠如しているので遺伝的にも安定している。この細菌の制限修飾系は限定されている。自己融解を示さず、成長抑止条件下で代謝活性を維持することができる。プロテアーゼ活性は低く、組換えタンパク質の産生に有利である。代謝の可塑性と強力な二次代謝特性、広範な炭素源(ペントース、ヘキソース、および他の炭素源)を利用する能力、炭素源へのストレス耐性により、異種タンパク質産生の有望な宿主となっている。これらの生理学的特性により、Corynebacterium glutamicumは、安定した産業条件での操作および培養がしやすくなり、工業的生産を成功させる戦力となっている。Corynebacterium glutamicumでは、α-アミラーゼ、エンドグルカナーゼ、エンドキシラナーゼ、GFP、キシラナーゼなどのタンパク質の異種発現が報告された。
【0039】
本発明の一実施形態では、切断型PspA1の収量は、約500mg/L、約400mg/L、約300mg/L、約250mg/L、約220mg/L、約200mg/L、約180mg/L、約160mg/L、約150mg/L、約120mg/L、約100mg/Lである。
【0040】
さらに別の実施形態では、本発明は、本発明の切断型pspA1または切断型PspA1とCRM197、破傷風トキソイド、百日咳トキソイド、PsaAなどのその他の担体タンパク質との組み合わせとコンジュゲートさせた1、2、3、4、5、6A、6B、6C、6D、7F、8、9N、9V、10A、11A、12F、14、15A、15B、15C、16F、17F、18C、19F、19A、20A、20B、22F、23A、23B、23F、24B、24F、31、33F、34、35B、35F、38、39、および45から選択されるStreptococcus pneumoniae血清型の少なくとも1つの多糖類を含む肺炎球菌コンジュゲートワクチンを提供する。
【0041】
さらに別の実施形態では、本発明は、本発明の切断型pspA1または切断型PspA1とCRM197、破傷風トキソイド、百日咳トキソイド、PsaAなどのその他の担体タンパク質との組み合わせとコンジュゲートさせた1、2、3、4、5、6A、6B、6C、6D、7F、8、9N、9V、10A、11A、12F、14、15A、15B、15C、16F、17F、18C、19F、19A、20A、20B、22F、23A、23B、23F、24B、24F、31、33F、34、35B、35F、38、39、および45から選択されるStreptococcus pneumoniae血清型の多糖類を含む、10価、14価、15価、17価、18価、19価、20価、22価、23価、24価または25価から選択される多価肺炎球菌ワクチン組成物を提供する。
【0042】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の切断型PspA1にコンジュゲートさせたStreptococcus pneumoniae血清型3、6Aおよび6Bの少なくとも3つの多糖類を含む多価コンジュゲートワクチンを提供する。
【0043】
一実施形態において、本発明は、本発明の切断型PspA1にコンジュゲートさせたStreptococcus pneumoniae血清型3、6Aおよび6BならびにC
RM197にコンジュゲートさせたStreptococcus pneumoniae血清型1、4、5、7F、9V、14、18C、19A、19F、22F、23Fおよび33Fの多糖類を含む多価コンジュゲートワクチンを提供する。
【0044】
本発明は、本発明の切断型PspA1にそれぞれコンジュゲートさせた血清型3、6Aおよび6Bの肺炎球菌多糖類それぞれの2.2μgまたは4.4μg、ならびにCRM197にそれぞれコンジュゲートさせた血清型1、4、5、7F、9V、14、18C、19A、19F、22F、23Fおよび33Fの肺炎球菌多糖類それぞれの約2.2μgを含有する製剤を提供する。
【0045】
別の実施形態では、本発明は、肺炎球菌ワクチン組成物を0.5mL単回用量として提供し、この単回用量は、1つまたは複数の肺炎球菌多糖類約2.2から4.4μg、1つまたは複数の肺炎球菌多糖類のそれぞれにコンジュゲートさせた本発明の切断型PspA1約1μgから約50μg、リン酸アルミニウムアジュバント約0.2mgから約1mgおよび賦形剤を提供する。
【0046】
別の実施形態では、本発明は、肺炎球菌ワクチン組成物を0.5mL単回用量として提供し、この単回用量は、1つまたは複数の肺炎球菌多糖類約2.2から4.4μg、1つまたは複数の肺炎球菌多糖類のそれぞれにコンジュゲートさせた本発明の切断型PspA1約1μgから約30μg、1つまたは複数の肺炎球菌多糖類のそれぞれにコンジュゲートさせたCRM197約1μgから約30μg、リン酸アルミニウムアジュバント約0.2mgから約1mgおよび賦形剤を含む。
【0047】
別の実施形態では、本発明はまた、本発明の切断型PspA1を肺炎球菌多糖類とコンジュゲートさせることによって調製されたコンジュゲートワクチンを投与することによって、Streptococcus pneumoniaeによって引き起こされる侵襲性疾患の予防のためのワクチンを提供する。
【実施例0048】
以下の実施例は、本発明を例示するために提供されており、単なる例示のために過ぎず、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
実施例1
Corynebacterium glutamicumにおける切断型PspA1の組換え発現。
【0049】
pBE31Cの構築
2.692KbのpNG2 oriR配列を有する合成プラスミドを使用して、安定して複製し広い宿主範囲を持つ小さなプラスミドpBE30を生成した。このプラスミドDNAを鋳型として使用して、1.8KbのoriR領域をプライマーpEP-F1(5’-GCG CGG ACT AGT AGA TCT ATG GTA AAT CTG
CGC AGA CAG-3’)およびpEP-R1(5’-GCG CGG ACT
AGT GAA TTC GGT GAG GTT ATG GCG-3’)を用いて増幅した。
【0050】
同時に、1.033KbのkanR配列を、pUC4-KIXX鋳型DNAおよびKan-F2(5’-AAG GTC CCG GGA TGG CGA TAG CTA GAC TGG GCG GT-3’)およびKan-R2(5’-AAG GTC CCG GGG GTT GGG CGT CGC TTG GTC GG-3’)プライマーを使用して増幅した。kanR遺伝子アンプリコンおよびoriRアンプリコンの両方は平滑末端で連結して、pBE30ベクターを作製した。さらに、タンデムのtac
lac UV5プロモーター、多数のクローニング部位、lacZα成分およびTrrnBターミネーター配列を含有する0.851Kbの発現カセットは、それぞれSpeI制限部位を付加したP
tac-F1(5’-GG AGC ACT AGT CTG AAA TGA GCT GTT GAC AAT TAA TC-3’)およびP
tac-R1(5’-GG AGC ACT AGT TTT AAA CAT GAG CGG
ATA CAT ATT TGA A-3’)プライマーを使用して増幅した。発現カセットの増幅に使用した鋳型DNAは、pMMB206(ATCC37808)である。その後、発現カセットは、pBE30プラスミド中に設計された特有のSpeI部位にクローニングされた。このようにして得られたプラスミドをpBE31C(
図1A;配列番号14)と称する。
【0051】
pBE117の構築
切断型pspA1遺伝子(プロリンリッチ領域と共に、N末端領域
図1B)は、上流の領域と一緒に、Streptococcus pneumoniaeの23F莢膜血清型から増幅した。これをTAベクター(Fermentasから入手したpTZ57R/T)において、プライマーPSPAF1_FP(5’ATG AAT AAG AAA AAA ATG ATT TTA ACA AGT CTA GCC 3’)およびPSPAF1_RP(5’CGA GAG AGA TCT AAA TTA AAA TGT CAA ATG TTC TTA ACA TGC TTT AAT TTT TAT TTT GGT GC 3’)および検証された配列を使用してクローニングした。これをpTZ-pspA1と称した。天然のターミネーター配列は、リバースプライマーPSPAF1_RPに含まれていた。クレード確認領域は、それがPspAタンパク質のファミリー1に属することを確認するために、得られた切断型pspA1配列にマッピングされた。
【0052】
Corynebacterium glutamicumにおいて切断型pspA1を発現するために、P
tacプロモーター(配列番号2)およびCorynebacteriumに属するトリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子のリボソーム結合部位(RBS)(配列番号7)が選択された。RBS、天然のシグナルペプチド(配列番号8)、切断型pspA1遺伝子、天然のターミネーター(配列番号10)を含むカセット全体と共にpspA1遺伝子は、プライマーSDTICGR0949_FP5(5’GAG CGA TGG ATC CTA GAA AGG TGT GTT TCA CCC ATG AAT AAG AAA AA 3’)およびPSPA2_2RP (5’TCA AAT
GTT CTT AAC ATG CTT TAA TTT TTA TGG TGC
AGG AGC TGG TTG 3’)および鋳型としてpTZ-pspA1を使用して増幅した。RBSはフォワードプライマーSDTICGR0949_FP5に含まれた。rrnBターミネーター(配列番号13)領域は、社内で入手可能なpBE31Cから増幅し、オーバーラップエクステンション(SOE)PCRによるスプライシングを使用して切断型pspA1をコードする遺伝子に連結された。rrnB遺伝子は、TER FP2(5’ATG TTA AGA ACA TTT GAC ATT TTA ATT TCG GCA CTG GCC GTC GTT 3’)およびTER_RP3(5’GCG ATA TGG ATC CCA TGA GCG GAT ACA 3’)を使用して増幅した。PSPA2_2RPおよびTER FP2は、17塩基の重複があるように設計された。アンプリコンpspA1およびrrnBはいずれも1:1のモル比で加え、SOE PCRの鋳型として、プライマーSDTICGR0949_FP5(5’GAG CGA TGG ATC CTA GAA AGG TGT GTT TCA CCC ATG AAT AAG AAA AA 3’)およびTER_RP3(5’GCG ATA TGG ATC CCA TGA GCG GAT ACA 3’)と共に使用した。その後、RBS、天然のシグナルペプチド(配列番号8)、切断型pspA1遺伝子、天然のターミネーター(配列番号10)、rrnBターミネーターを含む
アンプリコン全体を、フォワード(SDTICGR0949_FP5)およびリバースプライマー(TER_RP3)に付加された制限酵素で消化し、Corynebacterium属のために作られた発現ベクターpBE31Cにクローニングした。得られたクローンを発現構築物pBE117(
図1C、配列番号15)と称した。以後、切断型pspA1と共に、発現ベクターは発現構築物を示す。挿入物(
図1D)の向きはPCR分析によって確認した。その発現カセットと共に、切断型pspA1遺伝子の配列はDNA配列決定により確認した。
【0053】
切断型PspA1の発現
発現構築物をCorynebacterium glutamicum ATCC13032にエレクトロポレーションし、選択可能なマーカーとしてカナマイシンを含むLBプレートで選択した。20個の組換えCorynebacterium glutamicumコロニーを採取し、PCRによって分析した。切断型pspA1の構成的発現のために5つのコロニーを選択した。Corynebacterium glutamicum ATCC13032(陰性対照として)と共に組換えコロニーをカナマイシン最終濃度25μg/mlを含むTerrificブロス10mlに接種し、200rpmで震盪しながら35℃でインキュベートした。16時間後、最終ODが0.1になるように、上記と同じ培地10mlで二次接種を行った。培養物は、200rpmで振盪しながら35℃で18~20時間インキュベートした。18時間後、培養上清を切断型pspA1の発現について調べた。上清30μlを12%SDS-PAGEに付与し、切断型pspA1発現について分析した。45kDa付近に顕著なバンドが認められた。
【0054】
N末端エピトープ特異的pspAポリクローナル抗体(SantaCruz)を用いたウエスタン解析により、切断型pspA1の発現が確認された。組換えクローン5の発現分析を500mlまで拡大し、切断型pspA1の発現は少なくとも3回確認した。切断型pspA1は、最初にCHT1型およびCapto Q impressを使用して震盪フラスコ実験から、ほぼ99%の純度まで精製した。その後、C.glutamicumにおいて切断型PspA1の一貫した発現を確認した後、発現を1.5Lまで拡大した。
【0055】
切断型PspA1の精製および検証
上流から得られた1.6Lからの切断型PspA1(0.66mg/ml)を含有する培養上清800mlを、10kDaを通して透析し、260ml(1.92mg/ml)まで濃縮した。この透析濃縮液70mlに、CHT1型およびCapto Q impressを使用して精製を行った。切断型pspA1の最終回収量は、162mg/Lであった。
【0056】
SDS-PAGEから精製された切断型PspA1を含有するゲルプラグのMALDI
MS/MS分析によって、肺炎球菌表面タンパク質Aで233の明確なヒットスコアが得られた。PspAタンパク質の配列包括度は、NCBIタンパク質id ABY67187.1では31%(
図2)で示された。インタクト分子量分析は、発現した切断型pspA1の分子量が35.4kDaであることを示した。この質量は、切断型pspA1の理論分子量と一致する。17725.4のピークは、2つの電荷を持つ分子のピークであるため、m/zでは、切断型pspA1のインタクト質量の半分でピークが出現する(
図3)。
【0057】
実施例2
切断型PspA1の産生
切断型pspA1(以下、pspA1とする)遺伝子を含む発現構築物を保有するCorynebacterium glutamicum ATCC13032を、保存源か
らLB培地で起眠させた。これは、発酵容器(5L;CSTR)に接種するために使用された。産生工程中にモニターされたパラメーターは、pH、DO、温度(ΔT)、炭素源、代謝物であった。工程自動化技術(PAT)をベースにした供給戦略が、切断型PspA1発酵のショートフェドバッチを実行するために採用された。これは増殖関連産物であるため、産物(切断型PspA1)の誘導をベースにした制御は行わなかった。半合成培地での回収時の回収ODは約90(OD600nm)であった。細胞を回収してPBSで洗浄してから、フレンチプレスで細胞を破壊した。
【0058】
切断型PspA1の精製
総タンパク質濃度が0.8mg/mLの使用済み培地16.2Lを、20Lの発酵バッチから収集した。使用済み培地16.2Lを、10kDa 0.5m
2カセットを使用して2.6L(3.6mg/mL)に濃縮した後、20mMリン酸カリウムpH6.8、導電率3.2ms/cmに対してダイアフィルトレーションした。この2.6Lを、2つのロット、すなわち、1.4Lのロット1と1.2Lのロット2に分割し、さらに精製を続行した。CHT I樹脂500mlをHiScale50/40カラムに充填した。樹脂を滅菌蒸留水で洗浄した後、8カラム容量(CV)の20mMリン酸カリウムpH6.8(緩衝液A)で平衡化した。使用済み培地濃縮液1400mL(3.6mg/mL)(ロット1)をカラムに付与し、素通り画分を収集した。カラムを5カラム容量の緩衝液Aで洗浄した。PspA1は、250mMリン酸カリウムpH6.8(緩衝液B)を使用したステップ勾配で溶出された。ステップ勾配には、5CVのステップ-40%B、5CVのステップ-80%B、および3CVの0.5Mリン酸カリウム緩衝液が含まれた。流速は、操作全体で80mL/分に維持した。PspA1はステップ-80%Bの画分1に収集され、画分容量は1250mLであった(
図4)。
【0059】
PspA1精製の第2のクロマトグラフィーステップとして、Capto Q Impressを使用した。Capto Q Impress樹脂250mlをXK50/20カラムに充填した。樹脂を滅菌蒸留水で洗浄した後、5カラム容量(CV)の20mMリン酸カリウムおよび100mM NaCl、pH6.8(緩衝液A)で平衡化した。CHT I画分1250mLを20mMリン酸カリウム、pH6.8で2300mLに希釈し、カラムに付与して、素通り画分を収集した。カラムを5カラム容量の緩衝液Aで洗浄した。PspA1は、12CVの緩衝液B(NaCl 1Mを含む20mMリン酸カリウム、pH6.2)を使用して、0から40%Bの直線勾配および3CVの100%Bの最終ステップで溶出された。各画分250mLを収集した。流速は、40mL/分に維持した。PspA1は40%Bの直線勾配で収集し、プールした画分容量は1250mLであった(
図5)。
【0060】
4、5、6、7および8のCapto Q画分をプールし、20mMリン酸カリウムpH6.8で濃縮/ダイアフィルトレーションした。ロット1から得られた最終的な回収量は、タンパク質濃度15.5mg/mLのpspA1 100mL(総PspA1は1550mg)であった。同様の工程をロット2に行い、ロット2から得られた最終的な回収量は、濃度16mg/mLのpspA1 70mL(総PspA1は1120mg)であった。ロット1およびロット2の両方から精製したPspA1は、16.2Lバッチで2670mgである(精製PspA1の収量は164mg/L)(
図6)。
【0061】
実施例3
pBE114Kの構築
発現ベクターpRSET A(Invitrogenから市販されているベクター)は、DraI制限消化を使用してアンピシリン耐性遺伝子を除去し、SmaI消化カナマイシンコーディング遺伝子(pUC4 KIXXから取得)に連結することによって修飾した。この修飾ベクターは、pRSET-kmと称した。切断型PspA1は、pRSET
-kmのP
T7プロモーター(配列番号11)の下で大腸菌において発現した。天然のターミネーターを含有する単鎖DNAは、pspA1のさらなる増幅のために使用したリバースプライマーに含まれた。その後、切断型pspA1遺伝子全体はその天然のターミネーターと共に増幅され、フォワードおよびリバースプライマーに付加された制限酵素で消化され、pRSET-kmベクターにクローニングされた。得られたクローンをpBE114kと称した(
図10A)。以後、切断型PspA1と共に、発現ベクターは発現構築物を意味する。発現構築物pBE114kは制限消化により確認された(
図10B)。切断型PspA1遺伝子の配列はその発現カセットと共に、DNA配列決定によって確認された。
【0062】
切断型PspA1の発現
pBE114kで大腸菌DH5α-T1R化学物質コンピテント細胞(Invitrogenから入手)を形質転換し、選択可能なマーカーとしてカナマイシンを含むLBプレートで選択した。40個の組換え大腸菌コロニーを採取し、PCRによって分析した。切断型PspA1の誘導的発現のために40個のコロニー全てを選択した。大腸菌(陰性対照として)と共に組換えコロニーをカナマイシン最終濃度25μg/mlを含むTerrific Broth10mlに接種し、200rpmで震盪しながら37℃でインキュベートした。対数増殖期中期に、IPTG 1mMを加えて、大腸菌(pBE114k)でのPspA1の発現を誘導した。誘導後、培養物を200rpmで震盪しながら16時間、30℃でインキュベートした。16時間後、培養上清を切断型PspA1の発現について調べた。細胞を遠心分離によって収集し、溶解し、12%SDS-PAGEに付与し、切断型PspA1発現について分析した。65kDa付近に顕著なバンドが認められた。N末端エピトープ特異的PspAポリクローナル抗体(SantaCruz)を用いたウエスタン解析により、切断型PspA1の発現が確認された。組換えクローン29個の発現分析では、切断型PspA1の発現が少なくとも3回確認された。切断型PspA1は最初、CHT1型およびCapto Q impressを使用して震盪フラスコ実験から精製された。
【0063】
切断型PspA1の精製および検証
大腸菌(pBE114k)の細胞ペレット40グラム(湿重量)を採取し、リゾチーム1mg/mlおよびPMSF 1mMを含有する20mMリン酸カリウム緩衝液pH6.8 400mlに再懸濁した。細胞懸濁液を、高圧ホモジナイザーを使用して、1000psiで3回溶解した。総タンパク質濃度4mg/mLの細胞溶解液400mLを20mMリン酸カリウム緩衝液pH6.8で750mLまで希釈し、CHT I樹脂、続いて第2のクロマトグラフィーとしてCapto Q Impressを使用して精製した。
【0064】
CHT I樹脂250mlをHiScale50/20カラムに充填した。樹脂を滅菌蒸留水で洗浄した後、5カラム容量(CV)の緩衝液Aで平衡化した。希釈した細胞溶解液750mLをカラムに付与し、素通り画分を収集した。カラムを5カラム容量の緩衝液Aで洗浄した。PspA1は、250mMリン酸カリウムpH6.8、電導率29.5ms/cm(緩衝液B)を使用したステップ勾配で溶出された。ステップ勾配には、5CVのステップ-50%の緩衝液B、5CVのステップ-80%の緩衝液Bが含まれ、カラムは3CVの0.5Mリン酸カリウム緩衝液pH6.8、電導率48ms/cm(緩衝液C)でストリップした。流速は、操作全体で40mL/分に維持した。PspA1タンパク質ピーク画分は手動で収集し、ステップ-80%Bの5、6および7の溶出画分プールの最終容量は350mLであった(
図11)。
【0065】
Capto Q Impressは、PspA1精製の第2のクロマトグラフィーステップとして使用した。Capto Q Impress樹脂60mlをXK26/20カラムに充填した。樹脂を滅菌蒸留水で洗浄した後、5カラム容量(CV)の20mMリン
酸カリウムおよび100mM NaCl、pH6.8、電導率13.6ms/cm(緩衝液A)で平衡化した。CHT I画分350mLを1mMリン酸カリウム、pH6.8で700mLまで希釈し、カラムに付与して素通り画分を収集した。カラムを5カラム容量の緩衝液Aで洗浄した。PspA1は、10CVの緩衝液B(NaCl 1Mを含む20mMリン酸カリウム、pH6.2、電導率89ms/cm)の直線勾配を使用して溶出し、0から40%Bの直線勾配中の画分は手動で収集し、4から8、10、11は60mL、9、12は100mL画分であった(
図12)。3CVの100%Bの最終ステップ、180mLを画分13として収集した。流速は、10mL/分に維持した。PspA1タンパク質は、40%Bの直線勾配の画分9に収集され、100mLであった。
【0066】
9のCapto Q画分を収集し、20mMリン酸カリウムpH6.8で濃縮/ダイアフィルトレーションした。得られた最終的な回収量は、4mg/mLの濃度の細胞溶解物400mLからタンパク質濃度5mg/mLのPspA1 100mL(総PspA1タンパク質は500mg)であった。回収%は31.25である。
【0067】
SDS-PAGEから精製された切断型PspA1を含有するゲルプラグのMALDI
MS/MS分析では、肺炎球菌表面タンパク質Aで223の明確なヒットスコアが得られた。PspAタンパク質の配列包括度は、NCBIタンパク質id WP_050210652.1では39%(
図13)で示された。
【0068】
インタクト分子量分析は、発現した切断型PspA1の分子量が41.96kDaであることを示した。41966Da(41.9kDa)を示した大腸菌で発現した切断型PspA1のインタクト質量分析は、切断型PspA1の理論分子量と一致した。20982.7Daのピークは、2の電荷を持つ分子のピークであるため、m/zでは、切断型pspA1のインタクト質量の半分でピークが出現する(
図14)。
【0069】
実施例4
多糖類-切断型PspA1コンジュゲートを形成するための個々の肺炎球菌多糖類の担体タンパク質へのコンジュゲーション
血清型3の活性化および切断型pspA1とのコンジュゲーション
大きさを測定した血清型3(PS 6.0mL、濃度10mg/mL)およびCDAP(100mg/mL(w/v)アセトニトリル溶液)の比約1:1をガラスバイアル中で混合し、1分間攪拌した。肺炎球菌多糖類血清型3のpHをトリエチルアミン0.2Mで9.25に調整し、室温(RT)で3分間攪拌した。切断型PspA1(濃度15.0mg/mLで4.0mL)を、活性化血清型3に1:1の比(切断型PspA1:血清型3)で加えた。
【0070】
反応のpHをトリエチルアミン0.2Mで約9.05に調整し、撹拌しながら室温で5時間反応を継続し、最後に過剰濃度のグリシンを加えることにより反応を停止した。
反応混合物は、100kDa MWCO膜を使用してダイアフィルトレーションし、サイズ排除クロマトグラフィーで精製し、クロマトグラムAにおいて、実線は多糖類であり、破線は切断型pspA1であり、5時間の反応は点線で表されている(
図7)。画分はSEC-MALLSアントロン法によって分析し、コンジュゲートを含有する画分はプールし、0.2μフィルターでろ過滅菌した。これ以降、この材料を一価コンジュゲートバルク(血清型3-切断型PspA1コンジュゲート)と呼ぶ。
【0071】
血清型6Aの活性化および切断型PspA1とのコンジュゲーション
大きさを測定した血清型6A(PS 6.0mL、濃度10mg/mL)およびCDAP(100mg/mL(w/v)アセトニトリル溶液)の比約1:1をガラスバイアル中で混合し、1分間攪拌した。肺炎球菌多糖類血清型6AのpHをトリエチルアミン0.2M
で9.25に調整し、室温(RT)で3分間攪拌した。切断型PspA1(濃度15.0mg/mLで4.0mL)を、活性化血清型6Aに1:1の比(切断型PspA1:血清型6A)で加えた。
【0072】
反応のpHをトリエチルアミン0.2Mで約9.05に調整し、撹拌しながら室温で反応を5時間継続し、最後に過剰濃度のグリシンを加えることにより反応を停止した。
反応混合物は、100kDa MWCO膜を使用してダイアフィルトレーションし、サイズ排除クロマトグラフィーで精製し、クロマトグラムBにおいて、実線は多糖類であり、破線は切断型PspA1であり、5時間の反応は点線で表されている(
図7)。画分はSEC-MALLS、アントロン法によって分析し、コンジュゲートを含有する画分はプールし、0.2μフィルターでろ過滅菌した。これ以降、この材料を一価コンジュゲートバルク(血清型6A-切断型PspA1コンジュゲート)と呼ぶ。
【0073】
血清型6Bの活性化および切断型PspA1とのコンジュゲーション
大きさを測定した血清型6B(PS 6.0mL、濃度10mg/mL)およびCDAP(100mg/mL(w/v)アセトニトリル溶液)の比約1:1をガラスバイアル中で混合し、1分間攪拌した。肺炎球菌多糖類血清型6BのpHをトリエチルアミン0.2Mで9.25に調整し、室温(RT)で3分間攪拌した。切断型PspA1(濃度15.0mg/mLで4.0mL)を、活性化血清型6Bに1:1の比(切断型PspA1:血清型6B)で加えた。
【0074】
反応のpHをトリエチルアミン0.2Mで約9.05に調整し、撹拌しながら室温で反応を5時間継続し、最後に過剰濃度のグリシンを加えることにより反応を停止した。
反応混合物は、100kDa MWCO膜を使用してダイアフィルトレーションし、サイズ排除クロマトグラフィーで精製し、クロマトグラムCにおいて、実線は多糖類であり、破線は切断型PspA1であり、5時間の反応は点線で表されている(
図7)。画分はSEC-MALLS、アントロン法によって分析し、コンジュゲートを含有する画分はプールし、0.2μフィルターでろ過滅菌した。これ以降、この材料を一価コンジュゲートバルク(血清型6B-切断型PspA1コンジュゲート)と呼ぶ。
【0075】
実施例5
コンジュゲートワクチンの免疫原性試験
切断型PspA1にそれぞれコンジュゲートした血清型3、6Aおよび6Bの2.2μgまたは4.4μgを含有する2つの製剤は、それぞれCRM197にコンジュゲートした血清型1、4、5、7F、9V、14、18C、19A、19F、22F、23Fおよび33Fの2.2μgを含有して調製された。これらのコンジュゲートは、Al-ヒドロゲルに吸収させた。
【0076】
体重1.5から2kgのウサギを7匹ずつ群分けし、上記のコンジュゲート製剤で免疫した。免疫化の前後に血清試料を分析した。免疫したウサギから得られた血清を、間接ELISAで多糖類特異的抗体の存在について分析した。
【0077】
免疫したウサギの血清抗体力価は、間接ELISAによって評価した。特定の多糖類でコーティングしたマイクロタイタープレートを血清抗体と反応させた。免疫前、1回目と2回目の投与後のウサギ血清を分析に使用し、Y軸は抗体力価を示し、これはELISA
OD
450がカットオフを超える最大希釈の逆数を使用して得られる。免疫前のウサギの血清抗体力価は検出限界を下回っていた。白い棒は1回目のワクチン投与後の力価を示し、黒塗りの棒は2回目のワクチン後の抗体力価を示す(
図8および9)。切断型pspA1をコンジュゲートした血清型およびCRM197をコンジュゲートした血清型力価の両方において用量依存的な増加があった。CRM197をコンジュゲートした多糖類の力
価は、切断型PspA1コンジュゲートの存在によって阻害されず、その逆も同様であった。これは、切断型PspA1が多糖類タンパク質コンジュゲートワクチンの代替担体タンパク質として使用できたことを示す。
1、2、3、4、5、6A、6B、6C、6D、7F、8、9N、9V、10A、11A、12F、14、15A、15B、15C、16F、17F、18C、19F、19A、20A、20B、22F、23A、23B、23F、24B、24F、31、33F、34、35B、35F、38、39および45からなる群より選択される2つまたはそれ以上のStreptococcus pneumoniae血清型に由来する莢膜多糖類を含む、多価肺炎球菌コンジュゲートワクチン組成物であって、
少なくとも1つの肺炎球菌血清型に由来する莢膜多糖類が、配列番号3または配列番号4の配列を有する切断型pspA1にコンジュゲートされ、
少なくとも1つの肺炎球菌血清型に由来する莢膜多糖類が、CRM197、破傷風トキソイド、百日咳トキソイド、およびPsaAを含む群より選択される担体タンパク質にコンジュゲートされ、
配列番号3または配列番号4の配列を有する切断型pspA1にコンジュゲートされた肺炎球菌莢膜多糖類血清型が、CRM197、破傷風トキソイド、百日咳トキソイド、およびPsaAを含む群より選択される担体タンパク質にコンジュゲートされた肺炎球菌莢膜多糖類血清型とは異なる、
上記組成物。
配列番号3または配列番号4の配列を有する切断型pspA1にコンジュゲートされた、Streptococcus pneumoniae血清型に由来する少なくとも1つの莢膜多糖類が、3、6Aおよび6Bからなる群より選択される、請求項1に記載の多価肺炎球菌コンジュゲートワクチン組成物。
ワクチンが、10価、14価、15価、17価、18価、19価、20価、22価、23価、24価および25価から選択される多価ワクチンである、請求項1に記載の多価肺炎球菌コンジュゲートワクチン組成物。
多価ワクチンが、血清型1、3、4、5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19A、19F、22F、23Fおよび33Fから選択される肺炎球菌莢膜多糖類を含む15価の組成物である、請求項1に記載の多価肺炎球菌コンジュゲートワクチン組成物。
配列番号3または配列番号4に示される切断型PspA1にコンジュゲートされた少なくとも3つのStreptococcus pneumoniae血清型3、6Aおよび6Bに由来する莢膜多糖類、ならびにCRM197にコンジュゲートされたStreptococcus pneumoniae血清型1、4、5、7F、9V、14、18C、19A、19F、22F、23Fおよび33Fに由来する莢膜多糖類を含む、請求項1に記載の多価肺炎球菌コンジュゲートワクチン組成物。
肺炎球菌莢膜多糖類が、1、2、3、4、5、6A、6B、6C、6D、7F、8、9N、9V、10A、11A、12F、14、15A、15B、15C、16F、17F、18C、19F、19A、20A、20B、22F、23A、23B、23F、24B、24F、31、33F、34、35B、35F、38、39および45からなる群より選択される1つまたは複数のStreptococcus pneumoniae血清型を含む、請求項11に記載の方法。
莢膜多糖類が、3、6Aおよび6Bからなる群より選択される1つまたは複数のStreptococcus pneumoniae血清型を含む、請求項13に記載の方法。