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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154096
(43)【公開日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ダントロレンを含む水性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4178 20060101AFI20231011BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20231011BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231011BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
A61K31/4178
A61K47/69
A61P29/00
A61K9/14
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134091
(22)【出願日】2023-08-21
(62)【分割の表示】P 2018520391の分割
【原出願日】2016-10-19
(31)【優先権主張番号】15190601.3
(32)【優先日】2015-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16174999.9
(32)【優先日】2016-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】522480300
【氏名又は名称】スぺファーム アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(72)【発明者】
【氏名】エルベ ジャン シュウェーベル
(72)【発明者】
【氏名】ビンチェント アダモ
(57)【要約】
【課題】本発明は、ダントロレンまたはその医薬として許容される塩、およびシクロデキストリン誘導体を含む水性組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ダントロレンまたはその医薬として許容される塩のいずれか及びシクロデキストリン誘導体を含む水性組成物であって、該水性組成物のpHが7を超える水性組成物に関する。さらに、本発明は、本発明の組成物を乾燥させて得られる粉末、並びに本発明の粉末を含むキットに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)ダントロレンおよびダントロレンの医薬として許容される塩からなる群の1つ以上のメンバーから選択される成分(A);ならびに
ii)シクロデキストリン誘導体からなる群の1つ以上のメンバーから選択される成分(B)
を含む水性組成物であって、ここで、組成物のpHが7よりも大きく、および成分(A)対成分(B)のモル比が1:2~1:30の範囲である水性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダントロレンまたはその医薬として許容される塩、およびシクロデキストリン誘導体を含む水性組成物に関し、ここで、水性組成物のpHは7を超える。さらに、本発明は、本発明の組成物を乾燥して得られる粉末、ならびに上記粉末を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
悪性高体温症は、揮発性麻酔薬、および全身麻酔に使用される脱分極神経筋遮断薬に対する骨格筋の生命を脅かす遺伝的感受性である。感受性の高い個人では、これらの薬物は、酸素を供給し、二酸化炭素を除去し、体温を調節する身体の能力を圧倒し、急速に治療しなければ循環崩壊および死に至る、骨格酸化代謝の劇的で制御されない増加を誘発する可能性がある。
【0003】
悪性高体温症のために現在選択されている治療法は、1967年に最初に記載されたヒダントイン誘導体であるダントロレンの投与である。ダントロレンは、筋細胞における興奮収縮カップリングを軽減するシナプス後の筋弛緩薬である。しかしながら、ダントロレンは水に難溶性であり、多くの望ましくない特性を示す製剤をもたらす。これらの問題には、煩雑で時には不正確な準備、静脈内投与に適した溶液の調製におけるかなりの時間の投資および高温の使用、および効果的な用量(典型的には2.5~10mg/kg体重の範囲)を送達するために大量の溶液を投与する必要性が含まれる。水への溶解度が低いことは、溶液中で経時的に遊離酸の形態で沈殿するダントロレンの医薬として許容される塩にも及ぶ。得られた混合物は、注射のために受け入れられない。溶液の貯蔵寿命が短いことは、ダントロレン溶液を凍結乾燥させることによって得られた粉末を手元に保つことによって当該技術分野で取り組まれている。しかしながら、製剤の最終投与は、一般的に、好ましくは、粉末を水性希釈剤に溶解することを含む、注射可能な液体へのこの粉末の再構成を含む。したがって、好ましい水性調製物における溶解度の増加を示すダントロレンおよびその塩の貯蔵安定性および非経口注射可能な製剤、ならびに有効量のダントロレンの効果的な投与を可能にする注射液を提供する必要性が依然として存在する。
【0004】
EP2583670号は、製剤中のtert-ブチルアルコール(TBA)共溶媒系を使用して低溶解性の医薬品を製造する方法、特に静脈内使用のためのダントロレンナトリウム製剤を製造する方法を提供する。
【0005】
US2014/0099382は、ダントロレンナトリウム、水溶性ポリソルベート、ソルビトールまたはマンニトール、および液体担体としての水を含む、注射に安全なダントロレンの少量製剤を提供し、ダントロレンナトリウムおよび水は、水中でのダントロレンナトリウム粒子のコロイド分散としてともに存在する。
【0006】
US6,407,079は、β-シクロデキストリンエーテルまたはβ-シクロデキストリンエステルとの難水溶性または水不安定性薬物の包接化合物を含む医薬組成物、およびその調製方法に関する。
【0007】
WO99/62958は、分子内に少なくとも1個の低級アルキル基および少なくとも1個のC2~20アルカノイル基を有するシクロデキストリン誘導体に関し、医薬品を密接に混合するのに適している。
【0008】
シクロデキストリンは、薬物の溶解性、安定性およびバイオアベイラビリティを高めるために使用され得る。それらの安定化効果に関して一般に知られているが、シクロデキストリンは、直接触媒作用を介して薬剤に不安定化効果をもたせることができる。触媒作用は、シクロデキストリン空洞の縁に位置するヒドロキシル基の脱プロトン化に関連する。この触媒効果は、基本的な条件下で主に観察され、pHの上昇と共に増加する(A.Raheed et al,Cyclodextrins as Drug Carrier Molecule:A Review,Scientia Pharmaceutica 2008,76,567-598)。
【0009】
さらに、ダントロレンは、アルカリ溶液中で加水分解を受けて、ヒダントイン開環により分解して開環化合物を形成することが知られている。分解は、pH値の増加とともに加速され、高温で増強される。研究は、特定の塩基触媒が、pHが7.5から9.5に増加するにつれてより顕著になることを示し、その結果、ダントロレンの分解速度の増加をもたらす(S.R.Khan et al,Stability Characterization,Kinetics and Mechanism of Degradation of Dantrolene in Aqueous Solution:Effect of pH at Temperature,Pharmacology & Pharmacy,2012,3,281-290)。
【0010】
WO2010/126818A1において、過剰のダントロレンを少量のシクロデキストリン誘導体と混合して不均一なペーストを提供する組成物が開示されている。Jansen et al:“Some physical-chemical properties of dantrolene and two of its analogues”,International Journal of Pharmaceutics,Elsevier BV,NL,vol 75.No.2-3,20 September 1991 (1991-09-20), pages 193-199は、ダントロレンをシクロデキストリンと1:100~1:1000のモル比で混合する可能性を開示している。
【0011】
さらなる技術として、US6,407,079B1;およびRasheed et al:“Cyclodextrins as Drug Carrier Molecule:A Review”,Scienticia Pharmaceutica,vol.76,no.4,1 January 2008(2008-01-01),pages 567-598を挙げることができる。
【0012】
悪性高体温症の影響が大きいことに起因して、すべての病院にダントロレンを服用するように勧められているため、すべての病院は上記の問題に直面しています。したがって、調製が容易であり、長時間にわたり許容可能な安定性を示すダントロレン溶液が必要とされている。
【発明の概要】
【0013】
したがって、本発明の目的は、ダントロレンまたはその医薬として許容される塩を含む水性組成物であって、水性液体製剤における貯蔵安定性および溶解性の増大を示す組成物を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、迅速かつ簡単に溶液を清澄化することができるダントロレンまたはその医薬として許容される塩のいずれかを含む組成物、特に粉末を提供することである。
【0015】
本発明の開発中、驚くべきことに、従来技術の教示とは対照的に、ダントロレンまたは医薬として許容される塩のいずれか、およびアルカリ性pH値でシクロデキストリン誘導体と一緒に含む水性組成物について、貯蔵安定性および化学的安定性ならびに溶解性の増加が達成され得ることが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、6.0のpH値における溶解度測定の結果を示す。
図2図2は、7.0のpH値における溶解度測定の結果を示す。
図3図3は、8.0のpH値における溶解度測定の結果を示す。
図4図4は、9.0のpH値における溶解度測定の結果を示す。
図5図5は、10.0のpH値における溶解度測定の結果を示す。
図6図6は、6.0のpH値で10日間にわたり試験溶液中のダントロレンナトリウムの分解プロファイルを示す。
図7図7は、7.0のpH値で10日間にわたり試験溶液中のダントロレンナトリウムの分解プロファイルを示す。
図8図8は、8.0のpH値で10日間にわたり試験溶液中のダントロレンナトリウムの分解プロファイルを示す。
図9図9は、9.0のpH値で10日間にわたり試験溶液中のダントロレンナトリウムの分解プロファイルを示す。
図10図10は、10.0のpH値で10日間にわたり試験溶液中のダントロレンナトリウムの分解プロファイルを示す。
図11図11は、ダントロレンナトリウム塩の溶解度と溶液のpHの間の相関関係を示す。
図12図12は、ダントロレンナトリウム塩の溶解度と溶液のpHの間の相関関係を示す。
図13】溶液2を凍結乾燥して得られる本発明の粉末を、WO2010/12681 A1の粉末と比較した結果を示す。
図14】本発明による粉末製剤とWO2010/126818A1による調製物の濁度の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態は、
i)ダントロレンおよびダントロレンの医薬として許容される塩からなる群の1つ以上のメンバーから選択される成分(A);および
ii)シクロデキストリン誘導体からなる群の1つ以上のメンバーから選択される成分(B)
を含む水性組成物であり、ここで、組成物のpHが7よりも大きく、および成分(A)対成分(B)のモル比が1:2~1:30、好ましくは1:3~1:30の範囲である。
【0018】
水性組成物は、好ましくは20℃で液体である。
【0019】
明細書全体にわたって、言及されている値およびパラメーターは、特に明記しない限り、20℃で測定される。
【0020】
成分(A)
成分(A)は、本発明の水性組成物の必須成分である。
成分(A)は、ダントロレンおよびその医薬として許容される塩からなる群から選択される。
成分(A)は、以下の式(I)で表すことができ、式(I)はダントロレンを表す。
【0021】
【化1】
【0022】
ダントロレンの医薬として許容される塩は、ダントロレンの脱プロトン化形態およびカチオン対イオンX+を指す。陽イオン対イオンX+は、好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、アルキルアンモニウム、ポリアルキルアンモニウム、アリールアンモニウム、置換または非置換キノリジニウムおよび置換または非置換ピリジニウムの群から選択される。
【0023】
ダントロレンの医薬として許容される塩は、ダントロレンの塩を指し、ここで、ダントロレンアニオンに対するカチオン性対イオンX+は、好ましくは、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、生理学的に許容されるアミノ化合物のアンモニウム塩から選択され、特に、アルギニン、リシン、メグルミン、トロメタミン;コリン、ベンジルトリメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、N-メチルピリジニウム、テトラブチルアンモニウム、2-(2,3-ジヒドロキシ-1-プロピルアミノ)-キノリジニウム、キノリジニウム、2-カルボニル-1-メチルピリジニウム、2,3-ジメチル-1-フェニル-4-トリメチルアンモニウム3-ピラゾリン-5-オン、ジメチルアンモニウム、1,3-ジメチルイミダゾリウムおよび2-(1-ヒドロキシ-2-メチル)プロピルトリメチルアンモニウムからなる群から選択される。
【0024】
好ましい実施形態において、ダントロレンアニオンに対する対イオンX+は、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムおよびマグネシウムからなる群から選択される。特に好ましい態様において、ダントロレンアニオンに対する対イオンX+はナトリウムである。
【0025】
驚くべきことに、本発明の組成物中の成分(A)の安定性は、組成物のpHを増加させることによって増加させることができることが見出された。したがって、組成物の好ましい実施形態において、pHは、7.5~10.5、好ましくは8.0~10.0、より好ましくは8.5~9.5の範囲である。
【0026】
好ましい実施形態において、成分(A)は、本発明の組成物中に、水性組成物の体積に基づいて、0.1~10mg/ml、好ましくは0.2~7.0mg/ml、特に0.3~6.0mg/mlの範囲の濃度で存在する。
【0027】
0.25~25.0mmol/l、より好ましくは0.50~17.50mmol/l、特に0.75mmol/l~15.0mmol/lの範囲の濃度の成分(A)を含む。
【0028】
成分(B)
本発明の水性組成物のさらなる必須成分は、成分(B)である。
成分(B)は、シクロデキストリンおよびシクロデキストリン誘導体からなる群から選択される。
【0029】
シクロデキストリンは、疎水性中心空洞および親水性外表面を有する環状(α-1,4)結合オリゴ糖である。切断された円錐または円環体のために、シクロデキストリンは、適切なサイズの分子と相互作用して、包接錯体の形成を引き起こし得る。適切なシクロデキストリンの例は、β-シクロデキストリンまたはγ-シクロデキストリンである。
【0030】
驚くべきことに、成分(A)の水溶性は、成分(B)への置換基の導入によって増加し得ることが見出された。好ましい実施形態では、成分(B)は、シクロデキストリンの誘導体、好ましくはシクロデキストリン(好ましくはβ-シクロデキストリン)の誘導体であり、これは、独立して、好ましくはアルキル、ヒドロキシアルキル、カルボキシアルキル、アルキルカルボニル、カルボキシアルコキシアルキル、スルホアルキル、アルキルカルボニルオキシアルキル、アルコキシカルボニルアルキルおよびヒドロキシル-(モノまたはポリ)アルキル基から選択される1つ以上の置換基を含む。
【0031】
上記において、「アルキル」および「アルキレン」という用語は、置換されてもよく又は置換されなくてもよい直鎖および分岐炭化水素基の両方を含むと理解されるべきである。
【0032】
好ましくは、各アルキルまたはアルキレン部分は6個までの炭素原子、好ましくは1~6個の炭素原子、より好ましくは2~4個の炭素原子、特に3または4個の炭素原子を含む。
【0033】
スルホアルキルは、好ましくは-C1-10-アルキル-SO3H部分または対応する医薬として許容されるその塩を意味する。好ましい対イオンは、上記成分(A)の対イオンX+として定義されるものである。
【0034】
好ましい実施形態では、成分(B)は、β-シクロデキストリンおよびβ-シクロデキストリン誘導体から選択される。
【0035】
さらに好ましいのは、成分(B)が、β-シクロデキストリン、2,6-ジメチル-β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシエチル-β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシエチル-γ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン、(2-カルボキシメトキシ)プロピル-β-シクロデキストリン、スルホニルブチル-β-シクロデキストリンおよび2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンからなる群から選択される本発明の実施形態である。
【0036】
好ましい実施形態において、成分(B)は、式(II)で表される。
【0037】
【化2】
【0038】
式中、1つ以上の置換基Rは、H、アルキル、ヒドロキシアルキル、カルボキシアルキル、アルキルカルボニル、カルボキシアルコキシアルキル、-C1-10-アルキル-SO3Hまたは対応する医薬として許容されるその塩、アルキルカルボニルオキシアルキル、アルコキシカルボニルアルキルおよびヒドロキシ-(モノまたはポリ)アルキルからなる群から独立して選択される。
【0039】
好ましくは、各アルキル部分またはアルキレン部分は、10個までの炭素原子、より好ましくは1~6個の炭素原子、さらにより好ましくは2~4個の炭素原子、特に3または4個の炭素原子を含む。
【0040】
好ましい実施形態では、置換基Rの1つ以上は、H、-CH2CH(CH3)OH、-(CH24SO3Na、-CH3、グルコシル、ヒドロキシエチルおよびマルトシルからなる群から選択される。
【0041】
特に好ましい実施形態では、成分(B)は、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンナトリウム塩および2-ヒドロキシエチル-β-シクロデキストリンからなる群から選択される。特に好ましい実施形態では、成分(B)は2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンである。
【0042】
成分(B)は、0.05~10の範囲のモル置換(MS)を有するシクロデキストリン、好ましくはβ-シクロデキストリンである場合、最良の結果が達成される。したがって、成分(B)が、0.05~10、好ましくは0.2~2、特に0.25~1、特に0.5~0.8の範囲の平均モル置換率を有するシクロデキストリンである本発明の実施形態が好ましい。平均モル置換は、一般に、グルコース単位当たりの全ての置換基の平均モル数の尺度として使用される。
【0043】
特に好ましい実施形態では、成分(B)は、0.2~0.9、好ましくは0.3~0.8、特に0.5~0.7のモル置換率を有する2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンである。
【0044】
好ましくは、本発明の水性組成物は、成分(B)を、水性組成物の体積を基準として15~400mg/ml、好ましくは20~350mg/ml、特に50~300mg/mlの範囲の濃度で含む。
【0045】
本発明の1つの態様において、水性組成物は、成分(B)を、水性組成物の全体積に基づいて10~300/l、好ましくは14~250mmol/l、特に36~210mmol/lの範囲の濃度で含む。
【0046】
本発明の開発において、本発明の水性組成物中の成分(A)の量と成分(B)の量の間には慎重なバランスが確立された。成分(A)の安定性に関する最良の結果は、成分(B)のモル量が成分(A)のモル量よりも高く、(A):(B)のモル比が1:2~1:30、好ましくは1:3~1:30である場合に達成される。
【0047】
したがって、成分(A)対成分(B)のモル比が1:5~1:18の範囲である本発明の実施態様がさらに好ましい。
【0048】
好ましくは、本発明の組成物中の成分(A)対成分(B)の重量比は、1:10~1:100、好ましくは1:17~1:65の範囲である。しかしながら、好ましい実施形態では、不一致の場合には、モル比との相違に関する記述全体を通して、モル比が優先され、すなわち、モル比(または他の値)は、モル比が満たされるように変更する必要がある。
【0049】
本発明による水性組成物は、7より高いpHを有する。pH値を所望の範囲に調整し、可能な希釈剤の酸性度を補償するために、pH調整剤を使用することができる。したがって、好ましい実施形態では、水性組成物はpH調整剤をさらに含む。本発明の意味におけるpH調整剤は、本発明の水性組成物のpHを特定の範囲、例えば、7超、好ましくは7.5~10.5、より好ましくは8.0~10.0、特に好ましくは8.5~9.5に調整及び維持することができる成分またはシステムである。
【0050】
好ましい実施形態では、pH調整剤は、クエン酸塩、炭酸塩、リン酸塩、アルギニン、リジン、メグルミン、トロメタミン、ヒスチジンおよびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0051】
pH調整剤は、pH緩衝液としてまたはpH緩衝系の一部として使用することができる。
【0052】
好ましい実施形態では、pH調整剤は、組成物のpHをアルカリ性範囲内に調整し、維持するのに適した量で本発明の組成物中に存在する。好ましくは、組成物中のpH調整剤の量は、本発明の組成物中に存在する成分(A)の量に対して選択される。好ましい実施形態において、成分(A)対pH調整剤のモル比は、20:1~1:20、好ましくは10:1~1:10、特に好ましくは8:1~1:5の範囲である。
【0053】
本発明の水性組成物は水性希釈剤を含む。好ましくは、希釈剤は、水、または生理学的に許容される溶媒と水の混合物である。通常、水の量は、希釈剤の総量を基準にして、50重量%より高く、好ましくは75重量%より高く、特に95重量%より高い。本発明の一態様では、水性希釈剤中の水対有機溶媒の重量比は、少なくとも1:2、好ましくは少なくとも1:1、より好ましくは少なくとも2:1、特に少なくとも5:1または少なくとも10:1、特に少なくとも20:1または少なくとも50:1である。本発明のさらなる態様において、希釈剤は、少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも1.0重量%、より好ましくは少なくとも5重量%、特に0.5~30重量%の有機溶媒を含み、その量は希釈剤の総重量に基づく。水性組成物に適した希釈剤を以下に定義する。
【0054】
当業者に知られているように、ダントロレン化合物を含む水性組成物の貯蔵寿命が短いという問題は、水性組成物を乾燥させ、得られた粉末を使用直前に再構成するまで貯蔵することによって対処されている。しかしながら、これらの粉末は一般に溶解性が乏しく、注入に適したように多量の溶媒を使用する必要がある。本発明のさらなる目的は、緊急の臨床状況ならびに非緊急および予防環境において迅速かつ確実に再構成される、ダントロレン、特にダントロレンのナトリウム塩などのダントロレン塩の製剤を提供することである。特に、製剤は、ダントロレンのナトリウム塩の300mgまたは200mgの完全治療用量が、臨床状況において単一の臨床医によって1分未満で再構成され得るようなものである。驚くべきことに、本発明の組成物を乾燥させることによって得られる粉末は、水または適切な水性希釈剤に容易に溶解することが見出された。
【0055】
したがって、本発明のさらなる実施形態は、本発明の水性組成物を乾燥することによって得られる粉末である。本発明の水性組成物は、当業者に公知の任意の適切な手段によって乾燥させることができる。好ましい実施形態において、本発明の粉末は、本発明の水性組成物の凍結乾燥によって得られる。好ましい実施形態では、本発明の粉末はインスタント粉末、すなわち即座に水に溶解する粉末である。これに関連して、即座に溶解するとは、粉末の100%が20℃で撹拌して30秒以内に溶解することを意味すると理解されるべきである。
【0056】
上記で検討したように、悪性高体温症の治療の重要なステップは、ダントロレン化合物の即時投与である。したがって、ダントロレン化合物は投与可能な形態で、好ましくは注射に適した形態で容易に入手可能でなければならない。さらに、成分の面倒な混合は、一方では時間を節約して、他方では成分の誤った取り扱いによって引き起こされる可能性のある患者およびスタッフの両方に対する潜在的な危険を回避するように回避されるべきである。
【0057】
本発明のさらなる目的は、本発明の組成物の迅速かつ正確な調製を可能にするキットである。
【0058】
本発明によるキットは、本発明の粉末を含む少なくとも1つの第1の区分、および水性希釈剤を含む少なくとも1つの第2の区分を含む。
【0059】
水性希釈剤は、好ましくは、水、および水と生理学的に許容される溶媒の混合物からなる群から選択される。生理学的に許容される溶媒は、好ましくはC1-6アルコール(特にエタノール)、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ジメチルアセトアミド、ジメチルイソソルビド、ジメチルスルホキシド、1-メチル-2-ピロリドンおよび1-エチル-2-ピロリドンからなる群から選択される有機溶媒である。溶媒は通常室温(20℃)で液体である。
【0060】
好ましくは、ポリエチレングリコールは、非経口的に注射可能なポリエチレングリコール、特にPEG300、PEG400およびPEG600の群から選択される。上記の用語では、「PEG」は「ポリエチレングリコール」を示し、数字は平均相対分子量を反映する。
【0061】
好ましい実施形態では、ポリエチレングリコールは、200~700、より好ましくは300~600、特に350~550の平均相対分子量を有するポリエチレングリコールから選択される。
【0062】
水性希釈剤は、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、塩化物、乳酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩、クエン酸塩および重炭酸塩;および/またはグルコース、マンニトール、スクロース、トレハロース、ソルビトールなどのポリオールから選択される塩などの追加の化合物をさらに含み得る。
【0063】
本発明によるキットは、本発明の水性組成物を注射に適した形態でその場で調製することを可能にする。少なくとも1つの第1の区分に含まれる本発明の粉末の量、および少なくとも1つの第2の区分に含まれる水性希釈剤の水の量は、好ましくは、本発明の粉末を完全に溶解させるように互いに適合される。
【0064】
第1の区分と第2の区分は、互いに分離されていることが好ましく、互いに物理的に分離されていること、例えば、壁又は箔で分離されていることが好ましい。
【0065】
好ましい実施形態では、本発明によるキットは、バッグ、カートリッジ、容器、バイアル、シリンジまたはボトルの形態である。
【0066】
好ましい実施形態では、キットは、例えば隔壁によって互いに分離される第1および第2の区分を含むバッグの形態である。
【0067】
キットの材料は、好ましくは化学的に不活性であり、内容物と反応しない。内容物の分解をもたらす可能性のある任意の形態、例えば、熱および/または光の曝露に対して区分の内容物を付加的に保護する材料がさらに好ましい。好ましくは、材料は、ガラス、有機ポリマーおよびそれらの混合物からなる群から選択される。上記キットまたは少なくとも第1および/または少なくとも第2の区分が、ガラス、有機ポリマーおよびそれらの混合物からなる群から選択される材料で作られている、本発明のキットがさらに好ましい。好ましい有機ポリマーは、ポリエチレンおよび/またはポリプロピレンである。
【0068】
好ましくは、キットは、例えば細菌または他の微生物による内容物の汚染を避けるために密封することができる。
【0069】
キットの好ましい実施形態では、区分は、内容物の意図しない混合を防止するように配置される。
【0070】
本発明のさらなる目的は、本発明の水性組成物の調製方法である。この方法は、成分(A)および(B)を水性希釈剤中に溶解させ、溶液のpHを7より高く調整する工程を含む。
【0071】
好ましい実施形態では、この方法は、以下のステップ:
a)成分(A)および成分(B)を水性希釈剤に溶解して、成分(A)および成分(B)の水溶液を1:2~1:30、好ましくは1:3~1:30のモル比で得るステップ;
b)任意に、ステップa)の水溶液のpHを7より高く、好ましくは7.5から10.5の範囲に調整するステップ;
c)ステップa)またはb)で得られた水溶液を凍結乾燥して乾燥粉末を得るステップ;
d)水性希釈剤中でステップc)の粉末を再構成するステップ
を含む。
【0072】
本発明のさらなる目的は、本発明の組成物または本発明の粉末を含む医薬製剤である。
【0073】
本発明のさらなる態様は、(i)本発明の水性組成物を含むまたはそれからなる、または(ii)本発明の粉末を含むまたはそれからなる。
【0074】
本発明による製剤は、結晶化遅延剤、抗酸化剤および脂肪のような他の薬学的賦形剤および/またはアジュバントをさらに含んでもよい。結晶化遅延剤および抗酸化剤からなるリストの各メンバーの総量は、製剤の総量を基準にして、通常、10重量%未満、好ましくは3重量%未満、より好ましくは1重量%未満、特に0.1重量%、特に0.01重量%未満である。賦形剤は、好ましくは、安全かつ正確な投与を可能にするように選択される。好ましい実施形態では、結晶化遅延剤はポリビニルピロリドン(PVP)である。平均分子量が2000~11000のPVPが好ましい。平均分子量が約2500のポビドンK12または平均分子量が約10000のポビドンK17が特に好ましい。
【0075】
好ましい実施形態では、本発明の製剤または本発明の水性組成物は、浸透圧剤をさらに含む。
【0076】
好ましくは、浸透圧剤は、等浸透圧剤または等張剤、好ましくは非イオン性等張剤である。
【0077】
さらに好ましい実施形態では、浸透圧剤は、2~10個の炭素原子を有する脂肪族ポリヒドロキシアルカノールであり、好ましくは、マンニトール、フルクトース、グルコース、グルコノラクトン、グルコン酸塩、スクロース、ラクトース、トレハロース、デキストロース、デキストラン、ヒドロキシエチルデンプン、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0078】
さらに好ましい浸透圧剤は、グリシンゼラチン、グルココルグルコヘプタン酸カルシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウムおよびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0079】
好ましくは、浸透圧剤は、0.5~10重量パーセント、より好ましくは1~7重量パーセント、さらにより好ましくは1.5~5重量パーセント、特に2~4重量パーセントの範囲の量で存在する。言及される量は、製剤または水性組成物の総重量に基づく。
【0080】
本発明による製剤の好ましい浸透圧は、250mOsm/kg~600mOsm/kg、より好ましくは280mOsm/kg~450mOsm/kgの範囲である。
【0081】
好ましい実施形態では、本発明の製剤または水性組成物は、
0.75mmol/l~15.0mmol/lの範囲の量の成分(A);
5.0mmol/l~250.0mmol/lの範囲の量の成分(B);
水性希釈剤;
任意に0.2mmol/l~20.0mmol/lの範囲の量のpH調整剤;および
任意に25.0mmol/l~250.0mmol/lの範囲の量の浸透圧剤
を含むまたはそれらからなり、ここで、濃度は、製剤または水性組成物の総体積に基づき、成分(A)対成分(B)のモル比は1:2~1:30、好ましくは1:3~1:30の範囲である。
【0082】
好ましい実施形態では、本発明の製剤または水性組成物は、注射可能であり、
1.5~15mg/ml、好ましくは1.6~11mg/mlの範囲の濃度のダントロレンナトリウム塩;
75~350mg/ml、好ましくは80~320mg/mlの範囲の濃度の2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン;
水性希釈剤;
任意に最大25mmol/l、好ましくは0.1~20mmol/lの濃度のpH調整剤;および
任意に最大200mmol/l、好ましくは20~200mmol/lの濃度の浸透圧剤
を含み又はそれらからなり、ここで、水性希釈剤は、水、または水と生理学的に許容される溶液の混合物からなり、成分(A)対成分(B)の重量比は、1:2~1:30、好ましくは1:3~1:30の範囲である。
【0083】
本発明の製剤を投与することができる投薬計画は、各患者の個々の状況に依存し、各場合について注意深く考慮する必要がある。好ましくは、推奨される投与計画は、個々の患者の体重を基準にして、1mg/kg/日~10mg/kg/日、好ましくは1.5mg/kg/日~3.0mg/kg/日の範囲であり、mg量は成分(A)の量を指す。
【0084】
ダントロレンまたはその薬学的に許容される塩は、筋肉細胞における興奮収縮カップリングを軽減することが知られている。したがって、本発明のさらなる目的は、筋弛緩剤として使用するための本発明の医薬製剤である。好ましくは、本発明による医薬製剤は、筋肉痙攣に関連する疾患、特に脳卒中後の可塑性の治療に使用するためのものである。特に好ましい実施形態では、本発明の医薬製剤は、悪性高体温症の治療に使用するためのものである。
【0085】
可能な限り効果的に疾患を治療するためには、作用部位での高い標的特異性および迅速な取り込みを確実にするために、それぞれの薬物を投与することが重要である。したがって、本発明による医薬製剤は、好ましくは、非経口的に、特に静脈内に投与される。
【0086】
本発明のさらなる目的は、本発明の水性組成物または本発明の医薬製剤を投与することを含む筋肉痙攣に関連する病的状態の治療方法である。好ましい実施形態では、投与は非経口、好ましくは静脈内投与である。
【0087】
本発明の水性組成物および医薬製剤は注射可能である。これは、水性組成物および医薬製剤が注射に安全であることを意味する。
【0088】
「注射に安全である」を適切な試験対象またはモデル哺乳動物に適切な臨床用量で静脈内に確実に注射することができる製剤を意味すると定義し、処方による生命を脅かす合併症の発生率は低いことを含み、この場合、低い発症率は、約10%の症例、好ましくは約1%未満の症例を意味する。特に、超ミクロンサイズの粒子または凝集物に起因する肺塞栓(PE)、病理学的に変化した動脈圧、または重篤な血管損傷などの製剤関連毒性は、低い発生率に制限されなければならない。現在の特許の文脈では、「注射に安全である」という用語は、決して静脈内注射に対する薬剤処方の制限を意味しないことを指摘することは重要であり、それは製剤が静脈注射を可能にするのに十分に安全であることをだけを意味する。安全性の問題に関して静脈内経路に焦点を当てる理由は、製剤が筋肉内、動脈内、皮下、腹腔内、眼内または局所点滴などの別の注射経路によって投与されたとしても、静脈への誤った経路を無視することはできず、誤った投与が本質的に静脈内投与である場合でも製剤が安全であることをしばしば要求する。このため、この特許では、「静脈注射に安全である」および「注射に安全である全」という用語を同じ意味で使用する。
【0089】
本発明の別の態様は、ダントロレンまたはダントロレン塩の使用のための新しい適応症のクラスを中心にしている。特に、本発明の目的は、本明細書に記載の負の脳脊髄損傷および認知損傷を防止、低減または逆転させる方法を提供することであって、これらは、血圧の変更、特に低下;血流の変更、特に低下;に脳灌流の変更、特に低下;脈管流の変動、特に減少、ならびに損なわれた脳灌流を本異質的に変更する頭蓋内圧の増加、及び続く脳組織の酸素化;非正常状態、特に約4時間超の期間、維持される状態に関連し得る。認知能力および機能の変化ならびに運動機能の障害を伴うまたは伴わない神経精神医学的変化の現象は、一般に、麻酔医、心胸郭外科医、および他の医療関係者の間で「ポンプヘッド」と呼ばれる。特に、本発明では、ダントロレンまたはその塩、類似体または関連体の1つの予防的投与は、多数の細胞内および/または髄質細胞の独特かつ相乗的な組み合わせを介して、及び/又は細胞内カルシウムの安定化によるこれらの神経学的合併症の影響を予防または制限し得ることが想定される。ダントロレンは、ヒトだけでなく、獣医学の状況においても、傷害に対して適時に提供される場合、神経学的合併症を最小限に抑えることができる適切な治療剤であることがさらに期待される。
【0090】
さらに、本発明の別の態様は、ダントロレンまたはダントロレン塩の新規適応症であり、本明細書に開示される既存のダントロレン製剤および低容量製剤は、新しい治療および予防方法を提供する。本発明者らは、ダントロレンまたはダントロレン塩が、本発明に先立って不十分に治療された特定の脳脊髄損傷および特に認知障害の予防および治療における独特の適用性を生化学および薬理学的メカニズムの驚くべきかつ相乗的な組み合わせを提供することを認識した。このような傷害に注意を払うことは、特に、ある種の外科的処置の後に症候が「沈黙」し、時には遅れている場合に、以前の医療行為では主な外科的適応症に後ろ向きとなっている。
【0091】
既に述べたものに加えて、本発明のいくつかの利点の以下の非網羅的なリストでは、
-驚くほど多量のダントロレン(塩)を溶解することができ、特に従来技術で可能であったよりも溶液中のダントロレン(塩)の著しく高い濃度に達することができる点、
-容易に濾過することができる透明な溶液を得ることができ、
-滅菌粉末製剤は、成分(A)透明な濾過された液体溶液から得られ、
-粉末製剤は、透明であり、粒子物質を含まず、即座に注射可能である非経口溶液をもたらす迅速な再構成時間を示し、
-粉末製剤から再構成された調製物は、規制濁度限界を考慮して規制要件を満たし(欧州PhamacopoeiaはNTU=3に濁度値の限界を設定する)、
-ダントロレン(塩)の溶液は非常に良好な安定性を示し、容易に非経口的に注射可能であり、
-この調製物は、初期溶液および再構成溶液の両方において、より多量のダントロレン(塩)を可溶化することができ、
-本発明の調製物(溶液および粉末)を使用しているときに、より少ない時間で大量の活性成分を注入することができ、治療用量に達するのに必要な時間が大幅に短縮され、
-ダントロレン(塩)のバイオアベイラビリティの増加が明らかに予期される
ことが挙げられる。
【実施例0092】
本発明は、以下の実施例を通じてより詳細に例証される。
表1は、水性希釈剤が水であり、濃度が組成物の総体積を基準とする、本発明の例示的な組成物の内容を概要したものである。
【0093】
【表1】
【0094】
組成物は、適切な量のダントロレンナトリウム塩、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)およびpH調整剤を水に溶解し、十分に混合することによって調製した。得られた混合物を凍結乾燥して乾燥粉末を得た。次に粉末を注射用水または5重量%デキストロースを含む水溶液に再構成し、新たに得られた溶液のpHを決定した。
【0095】
異なる成分(B)を使用し、組成物のpHを変化させて実験を行った。
【0096】
これらの実験では、4種の異なるシクロデキストリンをダントロレンナトリウム塩と組み合わせて試験した。シクロデキストリン化合物の濃度は50mg/mlであり、ダントロレンナトリウム塩の濃度は1mg/mlであった。pH値は、pH6.0,7.0,8.0,9.0および10.0にそれぞれ達するように、水中リン酸塩25mMおよびトロメタミン25mMからなる緩衝液を用いて調整した。得られた溶液を室温で貯蔵し、10日間にわたって試験した。ダントロレンナトリウム塩の溶解度を24時間後および48時間後に測定した。溶液を目視で分析したが、ダントロレンナトリウム塩の含量および分解プロファイルは、HPLCおよびpH値モニタリングによって決定した。
【0097】
ダントロレン含量および分解プロファイルは、四元ポンプ、オートサンプラー、ダイオードアレイ検出器およびサーモスタットカラムコンパートメントを備えたAgilent Series 1100 HPLC装置(Agilent Technologies Inc、Santa Clara、CA、USA)で測定した。0.1%ギ酸(A)を含む水、および0.1%ギ酸を含むアセトニトリル(B)からなる移動相を用いて、Kinetex XB-C18カラム(75×4.6mm、2.6μm、Phenomenex)上で直線勾配12分にて15%~45%(B)により使用を分析した。
【0098】
pH測定は、ガラスpH電極を備えたMetrohm pH mobile 826(Metrohm SA、Herisau、Switzerland)を用いて行った。他に記載がない限り、20℃で測定を行った。
【0099】
以下のシクロデキストリンを試験した:
A:対照(リン酸塩/トロメタミン溶液)
B:β-シクロデキストリン(CAS[7585-39-9])
F:スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンナトリウム塩(置換の程度6.0-7.1;CAS[182410-00-0])
D:2-ヒドロキシエチル-β-シクロデキストリン(モル置換率0.7;CAS[128446-32-2])
E:2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(モル置換率0.6;CAS[12446-35-5])
【0100】
図1~5は、6.0(図1)、7.0(図2)、8.0(図3)、9.0(図4)、および10.0(図5)のpH値における溶解度測定の結果を示す。図から分かるように、溶解度はすべての場合において増強され、pHの増加と共にさらに増加した。最良の結果は、化合物(B)が2-ヒドロプロピル-β-シクロデキストリンであり、ダントロレン塩のほぼ完全な溶解度がpH9で達成されたときに得られた。改良された溶解度は長期間にわたって維持できた。すなわち、本発明による組成物の場合には、当該技術分野で通常組成物に見られるダントロレンナトリウムの沈殿は観察されなかった。
【0101】
図6~10は、6.0(図6)、7.0(図7)、8.0(図8)、9.0(図8)、9.0(図9)及び10.0(図10)のpH値で10日間にわたり試験溶液中のダントロレンナトリウムの分解プロファイルを示す。データによって確認されるように、本発明による溶液は、より高いpH値でさえも安定であり、10日間の終わりにかけてわずかな分解しか観察されない。
【0102】
本発明の組成物の改善された安定性は、表2に示されるデータによってさらに実証される。表2は、ダントロレンナトリウムのpH9(溶液1)に対する安定性に対する2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの効果を、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを含有しない溶液(溶液3)との対比で示す。見られるように、ダントロレン塩の内容物がほとんど喪失していない(すなわち、ダントロレン遊離酸の沈殿はほとんどない)ことが観察され得、一方、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの非存在下で内容物の急速な損失が起こった。
【0103】
【表2】
【0104】
溶液を以下のように調製した:
溶液1
10mgのダントロレンナトリウム塩を、水中pH9に調整したリン酸/トロメタミン緩衝液(25mM/25mM)中で調製した50mg/mlの2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン溶液10mlに添加した。ダントロレンナトリウム対2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンのモル比は約1:15である(分子量:ダントロレンナトリウムM=399,33g/molおよび2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンM=1400g/molの分子量)。ダントロレンナトリウム対2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの重量比は1:50である。
溶液2
実施例1と同様に調製した;ダントロレンナトリウム対2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの重量比は1:10である。
溶液3-シクロデキストリンを含まない対照溶液
10mgのダントロレンナトリウム塩を、pH9に調整したリン酸塩/トロメタミン緩衝液(25mM/25mM)10mlに加えた。
溶液4-比較
溶液1のように調製したが、非置換シクロデキストリン(すなわち、β-シクロデキストリン)を使用した。
溶液5-比較
WO2010/126818の実施例3に記載されるように調製したが、ダントロレン:2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン=2.5:1の比(w/w)を有する。
【0105】
その都度、溶液を濾過し、ダントロレンナトリウム塩の含有量をHPLCで測定した。
【0106】
表2から分かるように、本発明の組成物は、とりわけ、先行技術に関して改善された安定性を示す。
【0107】
図11および12は、ダントロレンナトリウム塩の溶解度と溶液のpHの間の相関関係を示す。図11は、1日後のダントロレン化合物の溶解度を測定して得られたデータを示し、一方、図12に要約したデータは2日後に得られた。図からわかるように、ダントロレンナトリウム塩の溶解度はpHの上昇と共に増加し、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンも使用すると最良の結果が得られた。
【0108】
さらに、上記溶液2を凍結乾燥して得られる本発明の粉末を、WO2010/12681A1の粉末と比較した。図13から分かるように、本発明の調製物は、WO2010/126818A1による製剤と比較して、成分(A)と成分(B)の特定の比により、より高い量(+100%)のダントロレンナトリウムを可溶化することができる。実際に、はるかに多くのダントロレンが再構成された溶液に可溶化され、より多くの量の活性成分がより短時間で注入され得ることを意味する。換言すれば、治療用量に到達するのに必要な時間が大幅に短縮される。また、この実施例の文脈における生物学的利用能の増加も予測される。この属性は、緊急事態のために悪性高体温症に罹患している患者にとって、これまで以上に重要かつ重大である。さらなる相違(図13には示されていない)は、本発明の調製物は透明な溶液であり、一方、WO2010/126818A1の溶液は、完全に溶液ではないが、濁った不均一な混合物である。
【0109】
また、本発明による粉末製剤は、透明であり、粒子状物質がなく、直ちに注射できる非経口溶液をもたらす迅速な再構成時間を示す。WO2010/126818A1による調製物は、それらの再構成後に可視できる粒子で非常に濁っている。WO2010/126818A1の調製物は、非経口製品(図14)についての規制限界(NTU=3)と比較して濁度値として1000倍である(乳白光)。したがって、本発明では、規制限界が満たされるが、WO2010/126818A1による調製物では満たされない。
【0110】
本発明による粉末は、ダントロレンナトリウムの透明で濾過された液体溶液に由来するため、滅菌方法で得ることができたが、一方、WO2010/126818A1の調製物は、異種形態の懸濁製剤であるため濾過によって滅菌することができない。これは調製物の違いによるものである。本発明によれば、成分(A)が溶解され(すなわち、透明な溶液が得られる)、一方で、WO2010/126818A1の調製物は、混練プロセスを用いて調製され、ペーストが得られる。
【0111】
要約すると、本発明は、特にアルカリ性環境において、改善された溶解性を示すだけでなく、安定性の増加を示すダントロレン水溶液を提供する。pHが8~9の範囲で最良の結果が得られ、したがって、より高いpHでのダントロレン塩の分解を回避できることが実証された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14