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特開2023-1541仮受けブラケット及びブラケット選定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001541
(43)【公開日】2023-01-06
(54)【発明の名称】仮受けブラケット及びブラケット選定方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/02 20060101AFI20221226BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
E01D19/02
E01D22/00 A
E01D22/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021102334
(22)【出願日】2021-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 星一
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA03
2D059AA07
2D059GG39
2D059GG40
2D059GG55
(57)【要約】      (修正有)
【課題】工事終了後に廃棄せず再利用することによりコストダウンを図ることができる鋼桁の仮受けブラケットを提供する。
【解決手段】工事対象の橋梁の橋脚に設置されて鋼桁の荷重を一時的に受けるための仮受けブラケットにおいて、鋼桁の下方の橋脚の側面にアンカーボルトにて固定される所定の強度を有する側面視で逆L状の拡幅ブラケットと、鋼桁の下面と前記拡幅ブラケットの上部フランジとの間に設置される高さ調整部材と、鋼桁を構成する鉛直方向の主鋼板の側面に結合される互いに大きさと強度が異なる複数の張出ブラケットの中の一つの張出ブラケットと、鋼桁の主鋼板と前記張出ブラケットとの間に介在され、張出ブラケットを主鋼板に結合する互いに大きさが異なる複数の連結補鋼材の中の一つの連結補鋼材と、前記張出ブラケットと連結補鋼材とを連結する複数の添接板の中の一つの添接板と、により構成するようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工事対象の橋梁の橋脚に設置されて鋼桁の荷重を一時的に受けるための仮受けブラケットであって、
前記鋼桁の下方の橋脚の側面にアンカーボルトにて固定される所定の強度を有する側面視で逆L状の拡幅ブラケットと、
鋼桁の下面と前記拡幅ブラケットの上部フランジとの間に設置される高さ調整部材と、
前記鋼桁を構成する鉛直方向の主鋼板の側面に結合される互いに大きさと強度が異なる複数の張出ブラケットの中の一つの張出ブラケットと、
前記鋼桁の前記主鋼板と前記張出ブラケットとの間に介在され、前記張出ブラケットを前記主鋼板に結合する互いに大きさが異なる複数の連結補鋼材の中の一つの連結補鋼材と、
前記張出ブラケットと前記連結補鋼材とを連結する複数の添接板の中の一つの添接板と、により構成されていることを特徴とする仮受けブラケット。
【請求項2】
前記連結補鋼材はL型アングル材で構成され、
前記L型アングル材の一方の辺が前記鋼桁の前記主鋼板にボルトおよびナットにより結合され、
前記L型アングル材の他方の辺は、前記張出ブラケットの鉛直方向のプレート部にボルトおよびナットにより結合された前記添接板に、ボルトおよびナットにより結合されるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の仮受けブラケット。
【請求項3】
前記拡幅ブラケットは、当該仮受けブラケットが受ける荷重が所定値よりも大きい場合または工事対象の橋梁の桁長が所定値よりも長い場合に、同一種類の拡幅ブラケットが2個並んだ状態で前記鋼桁の下方の橋脚の側面に固定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の仮受けブラケット。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の仮受けブラケットを構成するのに使用する張出ブラケットを、予め用意された複数の張出ブラケットの中から選定するブラケットの選定方法であって、
工事対象の橋梁の桁高が所定値よりも大きいか否か判定する第1工程と、
設置対象の仮受けブラケットが活荷重の仮受けが必要であるかを否か判定する第2工程と、
工事対象の橋梁の桁図面があり図面番号が分かるか否か判定する第3工程と、
工事対象の橋梁が斜角桁であるか否か判定する第4工程と、
前記第1工程で桁高が所定値よりも大きいと判定され、前記第2工程で活荷重の仮受けが必要であると判定され、前記第3工程で図面番号が分かると判定され、前記第4工程で斜角桁でないと判定された場合に、所定の反力計算式を用いて仮受けブラケットが支持すべき仮受け反力を算出する第5工程と、
前記第5工程で算出された仮受け反力と工事対象の橋梁の桁長とに基づいて予め作成されたブラケット選定シートを用いて、前記複数の張出ブラケットと前記複数の連結補鋼材と前記複数の添接板の中からそれぞれ1つずつ使用する張出ブラケットと連結補鋼材と添接板を選択する第6工程と、
を含み、前記ブラケット選定シートは、仮受け反力と橋梁の桁長とをファクタとし、仮受け反力の荷重に関するタイプ区分け値と桁長に関するタイプ区分け値とを有するモノグラムであることを特徴とするブラケットの選定方法。
【請求項5】
前記第4工程で斜角桁でないと判定された場合に、工事対象の橋梁の橋脚上面にジャッキを設置する余裕があるか否か判定する第7工程を備え、当該第7工程においてジャッキを設置する余裕があると判定された場合には拡幅ブラケットを使用しないと決定し、ジャッキを設置する余裕があると判定された場合には拡幅ブラケットを使用すると決定した後に、前記第6工程を実行することを特徴とする請求項4に記載のブラケットの選定方法。
【請求項6】
前記拡幅ブラケットとして互いに大きさと強度が異なる複数の拡幅ブラケットが用意されており、前記第7工程において拡幅ブラケットを使用すると決定した場合には、前記第6工程において、前記第5工程で算出された仮受け反力と工事対象の橋梁の桁長とに基づいて前記複数の拡幅ブラケットの中から使用する拡幅ブラケットを1つ選択することを特徴とする請求項5に記載のブラケットの選定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼橋梁の耐震補強や修善等の工事の際に使用する鋼桁の仮受けブラケット及びブラケット選定方法に関し、特に拡幅ブラケットと張出ブラケットの組み合わせによる仮受けブラケット及びブラケット選定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼橋梁の耐震補強や補修等の工事の際に、対象となる橋梁に大きな変状が発生していたり修繕内容が沓座の打替え(支承交換)であったりすると、鋼桁(橋桁)の荷重を高さ調整材もしくはジャッキで支える必要がある。その際、橋脚の上面において高さ調整材もしくはジャッキの設置面積が不足していたり、桁かかり長が不足していたりする場合には、縁端拡幅を行うために、桁直下の橋脚の側面部に拡幅ブラケットと呼ばれる鋼製の仮受けブラケットが設置されている。
しかし、工事の対象となる鋼橋梁は、1つ1つ寸法が異なるとともに鋼桁の高さや死荷重(静荷重)および活荷重などの条件も異なるため、従来は、鋼橋梁ごとに仮受けブラケットを設計していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-212916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の仮受けブラケットは、鋼橋梁ごとに設計をしているため工事開始前の準備作業に時間がかかるとともに、工事終了後には撤去して廃棄していたため無駄なコストが発生する。また、従来の仮受けブラケットは一体物であったため、人力で取り扱うのが困難で重機を必要とする大掛かりな工事になるという課題があった。
なお、拡幅ブラケットに関する発明としては、特許文献1のように、ブラケットをコンクリート橋脚の側面に固定する最上段部のボルトをアンカーボルトとし、2段目以下のボルトを長さの短い打込み式アンカーボルトとするようにした発明があるが、この発明はボルト孔穿孔時に鉄筋と干渉することを少なくできるようにするためのものであり、本願発明とは課題が異なる。
【0005】
本発明は上記のような課題に着目してなされたものでその目的とするところは、工事の対象となる鋼橋梁ごとに最初から設計し直す必要がないとともに、工事終了後に廃棄せず再利用することによりコストダウンを図ることができる鋼桁の仮受けブラケットを提供することにある。
本発明の他の目的は、人力で取り扱うことができ重機を使用せずに工事を実施することができる鋼桁の仮受けブラケットを提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、工事開始前の準備期間を短縮することができるブラケットの選定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、
工事対象の橋梁の橋脚に設置されて鋼桁の荷重を一時的に受けるための仮受けブラケットにおいて、
前記鋼桁の下方の橋脚の側面にアンカーボルトにて固定される所定の強度を有する側面視で逆L状の拡幅ブラケットと、
鋼桁の下面と前記拡幅ブラケットの上部フランジとの間に設置される高さ調整部材と、
前記鋼桁を構成する鉛直方向の主鋼板の側面に結合される互いに大きさと強度が異なる複数の張出ブラケットの中の一つの張出ブラケットと、
前記鋼桁の前記主鋼板と前記張出ブラケットとの間に介在され、前記張出ブラケットを前記主鋼板に結合する互いに大きさが異なる複数の連結補鋼材の中の一つの連結補鋼材と、
前記張出ブラケットと前記連結補鋼材とを連結する複数の添接板の中の一つの添接板と、により構成するようにしたものである。
【0007】
上記のような構成によれば、鋼橋梁の改修等の工事の際に大きさの異なる鋼橋梁に適した仮受けブラケットをそれぞれ構築することができるとともに、工事の対象となる鋼橋梁ごとに仮受けブラケットを最初から設計し直す必要がないため、工事開始前の準備期間を短縮することかできるとともに、工事終了後にブラケットを廃棄せず再利用することによりコストダウンを図ることができる。また、仮受けブラケットが拡幅ブラケットと張出ブラケットにより構成されるため、それぞれ人力で取り扱うことができ、重機を使用せずに工事を実施することができる。
さらに、仮受けブラケットを拡幅ブラケットと張出ブラケットとにより構成しているため、支承部(沓座)に代わって鋼桁の荷重を受ける拡幅ブラケットからの反力を張出ブラケットによって分散して、鋼桁の鉛直方向の主鋼板に伝達することができ、鋼桁に通常時とは異なる力やモーメントが加わって変形を起こすのを回避することができる。
【0008】
ここで、望ましくは、前記連結補鋼材はL型アングル材で構成され、
前記L型アングル材の一方の辺が前記鋼桁の前記主鋼板にボルトおよびナットにより結合され、
前記L型アングル材の他方の辺は、前記張出ブラケットの鉛直方向のプレート部にボルトおよびナットにより結合された前記添接板に、ボルトおよびナットにより結合されるように構成する。
かかる構成によれば、張出ブラケットを連結補鋼材と添接板を介して鋼桁の主鋼板にボルトおよびナットによって結合することができる。そのため、工事対象の橋梁を構成する鋼桁の高さが異なる場合に、柔軟に対応することができる。
【0009】
また、望ましくは、前記拡幅ブラケットは、当該仮受けブラケットが受ける荷重が所定値よりも大きい場合または工事対象の橋梁の桁長が所定値よりも長い場合に、同一種類の拡幅ブラケットが2個並んだ状態で前記鋼桁の下方の橋脚の側面に固定されるようにする。
かかる構成によれば、仮受けブラケットが受ける荷重が大きい場合にも対応することができるとともに、予め用意しておく拡幅ブラケットの種類を減らすことができるので、仮受けブラケットを構成する部品を管理し易くなるとともに、部品を保管しておくスペースを小さくすることができる。
【0010】
本出願の他の発明に係るブラケットの選定方法は、
上記のような仮受けブラケットを構成するのに使用する張出ブラケットを、予め用意された複数の張出ブラケットの中から選定するブラケットの選定方法において、
工事対象の橋梁の桁高が所定値よりも大きいか否か判定する第1工程と、
設置対象の仮受けブラケットが活荷重の仮受けが必要であるかを否か判定する第2工程と、
工事対象の橋梁の桁図面があり図面番号が分かるか否か判定する第3工程と、
工事対象の橋梁が斜角桁であるか否か判定する第4工程と、
前記第1工程で桁高が所定値よりも大きいと判定され、前記第2工程で活荷重の仮受けが必要であると判定され、前記第3工程で図面番号が分かると判定され、前記第4工程で斜角桁でないと判定された場合に、所定の反力計算式を用いて仮受けブラケットが支持すべき仮受け反力を算出する第5工程と、
前記第5工程で算出された仮受け反力と工事対象の橋梁の桁長とに基づいて予め作成されたブラケット選定シートを用いて、前記複数の張出ブラケットと前記複数の連結補鋼材と前記複数の添接板の中からそれぞれ1つずつ使用する張出ブラケットと連結補鋼材と添接板を選択する第6工程と、
を含み、前記ブラケット選定シートは、仮受け反力と橋梁の桁長とをファクタとし、仮受け反力の荷重に関するタイプ区分け値と桁長に関するタイプ区分け値とを有するモノグラムであるようにしたものである。
【0011】
上記のような方法によれば、予め用意されている仮受けブラケットの複数の構成部品の中から適切な強度と大きさを有する部品を選定することができるため、工事開始前の準備期間を短縮することができる。また、工事対象の橋梁に設置する仮受けブラケットを構成する張出ブラケットを、予め作成されたモノグラムを使用して選定するため、適切な強度と大きさを有する張出ブラケットを容易に選定することができる。また、使用する張出ブラケットが決まれば、張出ブラケットと共に使用する連結補鋼材および添接板も自動的に決定することができる。
【0012】
また、望ましくは、前記第4工程で斜角桁でないと判定された場合に、工事対象の橋梁の橋脚上面にジャッキを設置する余裕があるか否か判定する第7工程を備え、当該第7工程においてジャッキを設置する余裕があると判定された場合には拡幅ブラケットを使用しないと決定し、ジャッキを設置する余裕があると判定された場合には拡幅ブラケットを使用すると決定した後に、前記第6工程を実行するようにする。
かかる方法によれば、工事対象の橋梁の橋脚上面にジャッキを設置する余裕がある場合には拡幅ブラケットを使用しないで仮受けブラケットを構築し、工事対象の橋梁にジャッキを設置する余裕がない場合には拡幅ブラケットを使用して仮受けブラケットを構築するため、工事対象の橋梁の条件に応じて充分な強度を有しかつ無駄のない仮受けブラケットを構築することができる。
【0013】
さらに、望ましくは、前記拡幅ブラケットとして互いに大きさと強度が異なる複数の拡幅ブラケットが用意されており、前記第7工程において拡幅ブラケットを使用すると決定した場合には、前記第6工程において、前記第5工程で算出された仮受け反力と工事対象の橋梁の桁長とに基づいて前記複数の拡幅ブラケットの中から使用する拡幅ブラケットを1つ選択するようにする。
かかる方法によれば、拡幅ブラケットに関しても、工事対象の橋に最適な仮受けブラケットを構成する拡幅ブラケットを選定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鋼桁の仮受けブラケットによれば、工事の対象となる鋼橋梁ごとに最初から設計し直す必要がないとともに、工事終了後に廃棄せず再利用することによりコストダウンを図ることができる。また、人力で取り扱うことができ重機を使用せずに工事を実施することができる。さらに、本発明のブラケットの選定方法によれば、工事開始前の準備期間を短縮することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る鋼桁の仮受けブラケット(タイプ1)を橋梁に取り付けた状態を示す正面図である。
図2】実施形態の仮受けブラケットのタイプ2の張出ブラケットを橋梁に取り付けた状態を示す正面図である。
図3】実施形態の仮受けブラケットのタイプ3の張出ブラケットを橋梁に取り付けた状態を示す正面図である。
図4】(A)は実施形態の仮受けブラケットを構成する張出ブラケットの形状を示す側面図,(B)は拡幅ブラケットの形状を示す側面図である。
図5】(A),(B)は実施形態の仮受けブラケットを構成する連結補鋼材の形状を示す正面図および側面図である。
図6】(A),(B)は実施形態の仮受けブラケットを構成する添接板の形状を示す正面図および側面図である。
図7】実施形態の仮受けブラケットの選定過程で用いるブラケット選定シート(モノグラム)の一例を示す図である。
図8】実施形態の拡幅ブラケットと張出ブラケットの具体的な選定方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る鋼桁の仮受けブラケットおよびブラケットの選定方法の実施形態について説明する。
図1には、実施形態に係る仮受けブラケットを橋梁に取り付けた状態を示す正面図が示されている。
【0017】
本実施形態の仮受けブラケットは、鉄筋コンクリート製の橋脚の側壁に固定され橋脚の上面の見かけ上の面積を広げる一対の拡幅ブラケット21A,21Bと、鋼桁(橋桁)10を構成する鉛直方向の主鋼板11の両側面に固定される一対の張出ブラケット22A,22Bと、主鋼板11と張出ブラケット22A,22Bとの間に介挿される連結補鋼材23A,23Bおよび添接板24A,24Bとにより構成される。張出ブラケット22A,22Bと連結補鋼材23A,23Bおよび連結補鋼材23A,23Bと添接板24A,24Bはそれぞれボルト・ナット(31,32)によって結合され、拡幅ブラケット21A,21Bはアンカーボルト・ナット(33,34)によって橋脚の側壁に固定されている。
【0018】
橋脚の側壁に固定された拡幅ブラケット21A,21Bの上部フランジ21a,21bの上には一対の高さ調整部材25A,25Bが載置され、高さ調整部材25A,25Bと張出ブラケット22A,22Bの下部水平フランジ22a,22bとの間には、一対の高さ調整部材25A,25Bが介挿され、高さの調整が行われる。上記拡幅ブラケット21A,21Bと張出ブラケット22A,22Bと連結補鋼材23A,23Bと添接板24A,24Bと高さ調整部材25A,25Bによって、鋼桁10の仮受け装置が構成される。
なお、活荷重については、先に述べた構成を基本とするが、死荷重及び活荷重についても個別に検討を行った場合は、下部水平フランジ22a,22bと高さ調整部材25A,25Bの間に油圧ジャッキ26A,26Bを介挿した状態で、鋼桁10の仮受け装置が構成される場合もある。
なお、張出ブラケット22A,22Bの下部水平フランジ22a,22bと高さ調整部材25A,25Bとの間には、高さ調整プレートが1枚あるいは複数枚挿入されることもある。
【0019】
なお、工事対象の橋梁によっては、拡幅ブラケット21A,21Bのみ使用し、張出ブラケット22A,22Bと連結補鋼材23A,23Bと高さ調整部材25A,25Bを使用しないこともある。また、後に説明するように、鋼桁10の重量すなわち支える仮受け荷重に応じて、張出ブラケット22A,22Bとして大きさと強度の異なる3種類のものが用意されている。また、添接板24A,24Bも鋼桁10の高さに応じて高さの異なる3種類のものが用意されている。さらに、拡幅ブラケット21A,21Bについても、大きさと強度の異なる2種類のものが用意されている。
【0020】
上記3種類の張出ブラケット22A,22Bは、例えば200kN×a(安全係数)までの荷重を支えられるように強度設計されたタイプ1と、400kN×aまでの荷重を支えられるように強度設計されたタイプ2と、800kN×aまでの荷重を支えられるように強度設計されたタイプ3として用意される。具体的には、タイプ1、タイプ2、タイプ3の順に外形寸法が大きくなるように設計される。タイプに応じて、ブラケットを構成する鋼板の板厚を変えても良い。図1はこのうち、タイプ1の拡幅ブラケット21A,21Bと張出ブラケット22A,22Bを使用して仮受け装置を構成した状態が示されている。
【0021】
一方、図2にはタイプ2の張出ブラケットを設けた仮受けブラケットを橋梁に取り付けた状態が、図3にはタイプ3の張出ブラケットを設けた仮受けブラケットを橋梁に取り付けた状態がそれぞれ示されている。
なお、図3においては、油圧ジャッキ26A,25Bを使用しない場合が示されており、実際の橋梁改修工事の際には、図1と同様に、張出ブラケット22A,22Bと拡幅ブラケット21A,21Bとの間に、高さ調整部材25A,25Bや高さ調整プレートを介挿し高さ調整を行う。また、橋脚の上面に高さ調整部材25A,25Bを載せるスペースがある場合には、拡幅ブラケット21A,21Bは使用せず、張出ブラケット22A,22Bと橋脚との間に、高さ調整部材25A,25Bが介挿されることとなる。想定される荷重によっては,図2のように高さ調整材25A、25Bと下部水平フランジ22a,22bの間に油圧ジャッキ26A、26Bを介挿することもある。
【0022】
拡幅ブラケット21A(21B)は、図4(B)に示すように、水平な上部傾斜フランジ21a(21b)と垂直プレート21cを有する側面視で逆L字状をなす本体部と、上部傾斜フランジ21a(21b)および垂直プレート部21cと直角をなすように本体部に固着された2枚の補強片部21dとにより構成されている。補強片部21dは、必要な強度を保持しつつブラケットの軽量化を図るために、下端部が斜めにカットされた形状をなすように形成されている。
垂直プレート部21cにはアンカーボルトの挿通孔21eが複数形成されており、拡幅ブラケット21A,21Bは、上部傾斜フランジ21a(21b)が水平となるようにして、橋脚の側壁に予め埋設しておいたアンカーボルトとこれに螺合されるナットによって橋脚に固定される。
【0023】
なお、2種類の拡幅ブラケット21A,21Bのうち1つは例えば200kN×a(安全係数)までの荷重を支えられるように強度設計されたタイプ1で、他の1つは例えば400kN×aまでの荷重を支えられるように強度設計されたタイプ2であり、タイプ2はタイプ1よりも高さおよびアンカーボルトの挿通孔21eの数が多くなっている。また、荷重が400kN×aを超える場合にはタイプ2を2個並べて使用する。本明細書においては、便宜上、2個並べて使用する場合をタイプ3と称する。
【0024】
張出ブラケット22A(22B)は、図4(A)に示すように、鋼桁12の下面と平行な下部水平フランジ部22a(22b)と鋼桁12に対して垂直をなす垂直プレート部22cと約45度傾斜した上部傾斜フランジ部22dを有する本体部と、垂直プレート部22cの前面と背面に該垂直プレート部22cおよび下部水平フランジ部22a(22b)と直角をなすように固着された鉛直方向の補強片部22eとにより構成されている。
なお、本実施例においては、軽量化を図るために垂直プレート部22cの上端部は斜めにカットされ、該縁部に沿って上記上部傾斜フランジ部22dが設けられている。また、垂直プレート部21cには張出ブラケットを鋼桁12に連結するためのボルトの挿通孔が複数形成されている。
【0025】
図5には、連結補鋼材23A,23Bの実施例が示されている。なお、図5において、(A)は正面図、(B)は側面図である。
本実施例における連結補鋼材23A,23Bは、厚さ12mmの圧延鋼板(SS400)で、上面視でL字をなすように形成されたL型アングル材であり、一方の辺23aには鋼桁12を構成する主鋼板11の両側面に固定するためのボルトの挿通孔23cが設けられ、他方の辺23bには添接板24A,24Bを結合するためのボルトの挿通孔23dが設けられている。連結補鋼材23A,23Bは、接合対象の橋桁の高さ(上下フランジ間)に対応するように長さが設定される。
【0026】
図6には、添接板24A,24Bの実施例が示されている。なお、図6において、(A)は小型の張出ブラケット(タイプ1、2)に対応して使用する添接板の正面図、(B)は大型(タイプ3)の張出ブラケットに対応して使用する添接板の正面図である。
添接板24A,24Bは、厚さ12mmの平板状の圧延鋼板(SS400)で構成され、図6(A),(B)に示すように、張出ブラケット22A,22Bの垂直プレート部22cに固定するためのボルトの挿通孔24aと、連結補鋼材23A,23Bと結合するためのボルトの挿通24bが設けられている。
図6(A)の小型の張出ブラケット(タイプ1、2)に対応する添接板24A,24Bは、長さおよびボルト挿通孔24a,24bの数が異なる2種類のものが用意される。添接板24A,24Bは、接合される張出ブラケット22A(22B)の高さに対応するように長さが設定される。
【0027】
上述したように、タイプ別に3種類の張出ブラケットおよび2種類の拡幅ブラケットを用意しておくことにより、従来は作業対象の橋梁ごとに設計し製造していた仮受けブラケットを、予め用意されているものの中から選択して構築することができるため、仮受けブラケットを設置するまでの期間を短縮することができるとともに、工事終了後に廃棄せず再利用することによりコストダウンを図ることができる。
また、仮受けブラケットが複数の部品で構成されていて、1つ1つの部品の重量が重くならないため、人手による移送、取付け、取り外しが容易に行えるので、重機が不要となるという利点がある。なお、連結補鋼材23A,23Bと添接板24A,24Bは、安価な市販品を用いて穴あけ加工をするだけで形成することができる。また、工事後に橋桁から外さずに残すようにしても良い。
【0028】
次に、橋梁の耐震補強や補修等の工事における上記タイプ1~3の拡幅ブラケットと張出ブラケットの具体的な選定方法の手順を、図8のフローチャートを用いて説明する。
なお、図8のフローチャートに従ったブラケットの選定を開始する前に、図7に示すように、横軸に橋梁の桁長、縦軸に仮受け反力をとったモノグラム(ブラケット選定シート)を作成しておく。図7のモノグラムにおいて、KS-18をモデルケースとし、横軸に橋梁の桁長をとっているのは、ブラケットを選択する際に、設計時の支点反力と桁長の依存度が高いためであり、2つのファクタで整理することによって、例えば仮受け荷重が200kN以下であるが長さが10mを超える鋼桁の仮受けブラケットとしてタイプ1やタイプ2が選択されてしまうことによって、強度が不足する状況が生じるのを回避することができる。
【0029】
図7において、白抜き領域Aはタイプ1のブラケットの選択範囲を、ハッチングが付されている領域Bはタイプ2のブラケットの選択範囲を、メッシュが付されている領域Cはタイプ3のブラケットの選択範囲を示している。なお、各領域の境界の数値は一例であり、これに限定されるものでない。
図7のモノグラムは、KS-18,KS-16,KS-12,E-33等、橋梁の設計荷重ごとに作成しておくのが望ましい。設計当時は最も重い貨物列車が通過する場合について、徐行せずに安全運行が可能となるように設計をしており、設計荷重により適応できる支点反力と適用できる桁長が若干異なるため別々に検討する必要がある。
【0030】
ブラケットの選定においては、図8に示すように、先ず工事対象の橋梁の鋼桁の高さ(桁高)が所定の高さ(例えば460mm)以上あるか否か判定する(ステップS1)。ここで、桁高が460mm未満(ステップS1:No)と判定した場合は、ステップS11へ移行して、現場調査を実施して、個別にブラケットを設計して対応する。桁高が460mm未満の小規模の橋梁は修繕よりも桁交換の方が経済的であるとともに、仮に修繕することと判断した場合にも、鋼桁の重量が大きくないため簡単な拡幅ブラケットで対応できることが多いので、個別に対応するためである。
【0031】
一方、ステップS1で桁高が460mm以上である(Yes)と判定すると、ステップS2へ進み、活荷重を含めた仮受けが必要な橋梁であるか否か判定する。活荷重を含めた仮受けが必要であるか否かは、補修方法および線区の作業時間に応じて判断することができる。具体的には、夜間の列車が入っていない時間内で施工できる場合は死荷重のみの対応すなわち活荷重を含めた仮受けが不要と判定し、1夜間で補修が完了しない場合は、列車が運行している状態での施工となるため、活荷重を含めた仮受けが必要と判定する。
上記ステップS2で、活荷重を考慮しなくても良い(ステップS2:No)と判定した場合には、ステップS15へ移行して、死荷重のみを考慮して仮受けを検討する。なお、ブラケット(タイプ1)を使用するか否かは現場状況に応じて決定する。
【0032】
また、ステップS2で活荷重を含めた仮受けが必要である(Yes)と判定すると、ステップS3へ進み、設計資料の中に工事対象の橋梁の桁図面があり、図面番号が分かるか否か判定する。ここで、図面番号が分からない(ステップS3:No)と判定した場合は、ステップS4へ移行して、現場調査を行い取得した情報から図面番号を確定できるか否か判定する。そして、ステップS4で図面番号を確定できない(No)と判定した場合は、ステップS11へ移行して、現場調査を実施し、個別にブラケットを設計して対応する。
【0033】
一方、ステップS4で図面番号を確定できる(Yes)と判定した場合およびステップS3で図面番号が分かる(Yes)と判定した場合、ステップS5へ進み、工事対象の橋梁の鋼桁が斜角桁すなわち河川に対して斜めに架けられている鋼桁であるか否か判定する。斜角桁では、桁に設置する連結補鋼材(L型アングル)23A,23Bと拡幅ブラケット21A,21Bを据え付ける橋台の角度が通常の鋼桁とは異なっており、L型アングルと張出ブラケットとを接続する添接板24A,24Bを、作業対象の橋梁の橋台角度に応じて加工する必要があるためである。
【0034】
ステップS5で、斜角桁である(Yes)と判定すると、ステップS12へ進み、現場調査を実施して支障構造を確認するとともに橋梁の長さや支間距離、桁高等の寸法を測定し、所定の反力計算式を用いて仮受け反力を算出して仮受け装置の部材寸法を決定する。
また、このとき、図面番号が分かっていれば、図面番号からデータベースを参照して設計荷重を知ることができるので、その設計荷重に基づいて、予め設計荷重ごとに作成された前述の複数のブラケット選定シートの中から使用するシート(図7)を選択する。そして、そのブラケット選定シートを用いて、反力計算式により算出された仮受け反力および工事対象の橋梁の長さに基づき、タイプ1~3のブラケットの中から使用するブラケットを選定する。なお、ステップS12における仮受け反力の算出は、反力計算シートと呼ばれる表計算ソフト(プログラム)が提供されているので、そのようなプログラムをインストールしたコンピュータを用いて算出することができる。
【0035】
また、ステップS5で斜角桁でない(No)と判定した場合は、ステップS6へ移行して、データベース内の桁図面の情報を用いて活荷重を含めた仮受けの検討を実施した後、桁座(橋脚上面)にジャッキを設置する余裕があるか否か判定する(ステップS7)。そして、桁座にジャッキを設置する余裕がある(Yes)と判定すると、ステップS13へ進み、反力計算シートに桁図面から読み取った寸法を入力して仮受け装置の部材寸法を決定し、ブラケット選定シートを用いて、タイプ1~3の拡幅ブラケットの中から使用するブラケットを選定する。
【0036】
一方、ステップS7で桁座にジャッキを設置する余裕がない(No)と判定した場合は、ステップS14へ移行して、反力計算シートに桁図面から読み取った寸法を入力して仮受け装置の部材寸法を決定し、タイプ1~3の張出ブラケットと拡幅ブラケットの中から使用するブラケットを選定する。
上記のような手順に従ったブラケットの選定方法によれば、工事に使用する仮受けブラケットを構成するのに適した拡幅ブラケットと張出ブラケットを容易に選定することができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、上記実施形態では、張出ブラケット22A,22Bのタイプを3種類に設定しているが、張出ブラケットのタイプは3種類に限定されるものでなく、4種類以上であっても良い。
なお、張出ブラケットのタイプを4種類以上にすると、管理が煩雑になるとともに、保管の際により大きなスペースを必要とするが、タイプを3種類にすることによって、ほぼ既存のすべての橋梁の工事に対応することができる上、管理が容易であるとともに保管に必要なスペースも小さくできるという利点がある。
【0038】
また、上記実施形態では、拡幅ブラケット21A,21Bとして、大きさと強度が異なる2種類のものを予め用意しタイプ1~3として使用できるようにしているが、拡幅ブラケットとして、上記実施例でタイプ2とした1種類のみを用意しておいて、張出ブラケットとしてタイプ1を使用するとした場合には、拡幅ブラケットはタイプ2で代用するようにしても良い。このようにすることで、強度不足になるのを回避しつつ拡幅ブラケットの種類を減らすことができ、より管理が容易であるとともに保管に必要なスペースも小さくできるようになる。
【符号の説明】
【0039】
10 鋼桁
11 主鋼板
21A,21B 拡幅ブラケット
22A,22B 張出ブラケット
23A,23B 連結補鋼材
24A,24B 添接板
25A,25B 高さ調整部材
26A,26B 油圧ジャッキ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8