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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154113
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】炉の燃焼制御装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   F23G 5/50 20060101AFI20231012BHJP
   F23N 3/06 20060101ALI20231012BHJP
   F23N 5/00 20060101ALI20231012BHJP
   F23C 99/00 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
F23G5/50 H
F23G5/50 Z
F23N3/06
F23N5/00 J
F23C99/00 323
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063179
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(74)【代理人】
【識別番号】100119297
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 正男
(72)【発明者】
【氏名】山田 義裕
(72)【発明者】
【氏名】戸村 啓二
(72)【発明者】
【氏名】中山 剛
【テーマコード(参考)】
3K003
3K062
3K065
【Fターム(参考)】
3K003FA04
3K003FA05
3K003FB04
3K003JA07
3K003KA02
3K003KB01
3K003LA03
3K003MA04
3K003NA01
3K062AA02
3K062AB01
3K062AC01
3K062BA02
3K062CB06
3K062CB08
3K062DA22
3K062DA23
3K062DB08
3K062DB09
3K065TA19
3K065TC04
3K065TE02
3K065TE08
3K065TF01
3K065TN13
3K065TN16
(57)【要約】
【課題】炉の二次燃焼を行う区画に吹き込む空気の量を適切に制御することができる炉の燃焼制御装置を提供する。
【解決手段】炉3の二次燃焼を行う区画13に吹き込む空気の量を制御する炉の燃焼制御装置15において、区画13に空気を吹き込む吹込み部14a,14bの吹込み量を調節する調節部16a,16bと、炉3内の少なくとも第1ガスの濃度分布と第1ガスと種類が異なる第2ガスの濃度分布を計測する計測装置17と、少なくとも第1ガスの濃度分布と第2ガスの濃度分布の重なりに基づいて、調節部16a,16bを制御する制御装置18と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉の二次燃焼を行う区画に吹き込む空気の量を制御する炉の燃焼制御装置において、
前記区画に空気を吹き込む吹込み部の吹込み量を調節する調節部と、
前記炉内の少なくとも第1ガスの濃度分布と前記第1ガスと種類が異なる第2ガスの濃度分布を計測する計測装置と、
少なくとも前記第1ガスの濃度分布と前記第2ガスの濃度分布の重なりに基づいて、前記調節部を制御する制御装置と、を備える炉の燃焼制御装置。
【請求項2】
前記吹込み部と前記調節部が複数設けられ、
前記制御装置は、ある吹込み部の吹込み量を増やすとき、残りの吹込み部の吹込み量を減らすように、吹込み量の配分を変化させることを特徴とする請求項1に記載の炉の燃焼制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第1ガスの濃度が高い領域と低い領域を把握すると共に、前記第2ガスの濃度が高い領域と低い領域を把握し、
前記制御装置は、前記第1ガスの濃度が高く前記第2ガスの濃度が高い領域、前記第1ガスの濃度が高く前記第2ガスの濃度が低い領域、前記第1ガスの濃度が低く前記第2ガスの濃度が高い領域、又は前記第1ガスの濃度が低く前記第2ガスの濃度が低い領域の少なくとも一つが発生するか否かを判断することを特徴とする請求項1又は2に記載の炉の燃焼制御装置。
【請求項4】
前記第1ガスが一酸化炭素であり、前記第2ガスが酸素であることを特徴とする請求項3に記載の炉の燃焼制御装置。
【請求項5】
前記制御装置は、一酸化炭素濃度が高く酸素濃度が低い領域が発生するとき、該領域の吹込み部の吹込み量を増やし、一酸化炭素濃度が高く酸素濃度が高い領域が発生するとき、該領域の吹込み部の吹込み量を減らすことを特徴とする請求項4に記載の炉の燃焼制御装置。
【請求項6】
前記計測装置は、ガスの温度分布を計測し、
前記制御装置は、温度が高い領域と温度が低い領域を把握し、
前記制御装置は、一酸化炭素濃度が高くかつ酸素濃度が低い領域の吹込み部の吹込み量を増やすとき、酸素濃度が高い領域の吹込み部の吹込み量を優先的に減らし、酸素濃度が低く温度が高い領域の吹込み部の吹込み量をそれに次ぐ優先度で減らすことを特徴とする請求項5に記載の炉の燃焼制御装置。
【請求項7】
前記計測装置は、ガスの温度分布を計測し、
前記制御装置は、温度が高い領域と温度が低い領域を把握し、
前記制御装置は、一酸化炭素濃度が高くかつ酸素濃度が高い領域の吹込み部の吹込み量を減らすとき、酸素濃度が低い領域の吹込み部の吹込み量を増やすことを特徴とする請求項5に記載の炉の燃焼制御装置。
【請求項8】
前記計測装置は、前記第1ガスの濃度分布と前記第2ガスの濃度分布、及びガスの温度分布を計測し、
前記制御装置は、少なくとも前記第1ガスの濃度分布と前記第2ガスの濃度分布、及びガスの温度分布に基づいて、前記調節部を制御することを特徴する請求項1又は2に記載の炉の燃焼制御装置。
【請求項9】
前記計測装置は、
前記炉の内部にレーザ光を照射する照射手段と、
前記炉の内部を透過したレーザ光を受光する受光手段と、
前記受光手段が出力する電気信号に基づいて、前記第1ガスの濃度分布と前記第2ガスの濃度分布、及びガスの温度分布を求める解析装置と、を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の炉の燃焼制御装置。
【請求項10】
炉の二次燃焼を行う区画に吹き込む空気の量を制御する炉の燃焼制御方法において、
前記炉内の少なくとも第1ガスの濃度分布と前記第1ガスと種類が異なる第2ガスの濃度分布を計測し、
少なくとも前記第1ガスの濃度分布と前記第2ガスの濃度分布の重なりに基づいて、前記区画に吹き込む空気の量を制御する炉の燃焼制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉の二次燃焼を行う区画に吹き込む空気の量を制御する炉の燃焼制御装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばストーカ式焼却炉の火格子の上方には、一次燃焼室が設けられ、一次燃焼室の上方には、二次燃焼を行う区画が設けられる。この区画には、排ガスに含まれる未燃分を燃焼させるために、空気吹込みノズル等の吹込み部から空気が吹き込まれる。このような二次燃焼を行う区画は、ストーカ式焼却炉だけでなく、流動床式焼却炉、灰溶融炉にも設けられる。
【0003】
吹込み部の吹込み量は、燃焼制御装置によって制御される。従来の燃焼制御装置として、特許文献1には、炉内の一酸化炭素又は酸素の濃度分布を計測し、一酸化炭素又は酸素の濃度分布に基づいて、吹込み部の吹込み量を制御する燃焼制御装置が開示されている。
【0004】
特許文献2には、炉の二次燃焼を行う区画を小区画からなる多数のセグメントに分割し、区画毎に吹込み部と酸素濃度計と温度計を設置し、区画毎に酸素濃度と温度に基づいて、吹込み部の吹込み量を制御する燃焼制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-311020号公報
【特許文献2】特開平4-203802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の燃焼制御装置のように、炉内の一酸化炭素又は酸素の濃度分布を計測することで、一酸化炭素又は酸素の濃度が高い領域と低い領域を把握することができる。しかし、特許文献1の燃焼制御装置においては、例えば一酸化炭素濃度が高い領域において、酸素濃度が高いか否かを判断することができず、これが原因で、空気の吹込み量を適切に制御できないという課題がある。
【0007】
具体的には、例えば一酸化炭素濃度が高く酸素濃度が低い領域では、酸素不足によって不完全燃焼が発生しているので、吹込み量を増やす必要がある。一方、例えば一酸化炭素濃度が高く酸素濃度が高い領域では、吹込み過剰によって不完全燃焼が発生しているので、逆に吹込み量を減らす必要がある。特許文献1の燃焼制御装置においては、酸素不足によって不完全燃焼が発生しているのか、吹込み過剰によって不完全燃焼が発生しているのかを区別できないから、空気の吹込み量を適切に制御できない。
【0008】
特許文献2の燃焼制御装置のように、二次燃焼を行う区画を小区画からなる多数のセグメントに分割したとしても、上記の課題を解決することはできない。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたもので、炉の二次燃焼を行う区画に吹き込む空気の量を適切に制御することができる炉の燃焼制御装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、炉の二次燃焼を行う区画に吹き込む空気の量を制御する炉の燃焼制御装置において、前記区画に空気を吹き込む吹込み部の吹込み量を調節する調節部と、前記炉内の少なくとも第1ガスの濃度分布と前記第1ガスと種類が異なる第2ガスの濃度分布を計測する計測装置と、少なくとも前記第1ガスの濃度分布と前記第2ガスの濃度分布の重なりに基づいて、前記調節部を制御する制御装置と、を備える炉の燃焼制御装置である。
【0011】
本発明の他の態様は、炉の二次燃焼を行う区画に吹き込む空気の量を制御する炉の燃焼制御方法において、前記炉内の少なくとも第1ガスの濃度分布と前記第1ガスと種類が異なる第2ガスの濃度分布を計測し、少なくとも前記第1ガスの濃度分布と前記第2ガスの濃度分布の重なりに基づいて、前記区画に吹き込む空気の量を制御する炉の燃焼制御方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、炉の二次燃焼を行う区画に吹き込む空気の量を適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態の炉の燃焼制御装置を備える焼却炉の縦断面図である。
図2】計測装置を示す図であり、二次燃焼室の水平断面図である。
図3】光路pとグリッドqを示す模式図である。
図4図4(a)は、解析装置のディスプレイに表示される一酸化炭素の濃度分布の二次元画像を示し、図4(b)は、制御装置が把握した一酸化炭素濃度が高い領域と低い領域を表す模式図である。
図5】一酸化炭素の濃度分布と酸素の濃度分布の重なりを表す模式図である。
図6】制御装置が実行するプログラムのフローチャートである。
図7】一酸化炭素濃度と酸素濃度と温度の関係を表すマトリクス図である。
図8】制御装置が実行するプログラムのフローチャートである。
図9】制御装置が実行するプログラムのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明は種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態の炉の燃焼制御装置15を備える焼却炉の縦断面図を示す。焼却炉は、廃棄物が投入されるホッパ2と、ホッパ2から供給された廃棄物Wを攪拌及び前進させながら燃焼させるストーカ炉3と、ストーカ炉3から排気される排ガスと熱交換して蒸気を発生させるボイラ4と、を備える。
【0016】
ストーカ炉3の底部には、乾燥火格子5a、燃焼火格子5b、後燃焼火格子5cが設けられる。乾燥火格子5aは、ホッパ2側に位置する。燃焼火格子5bは、乾燥火格子5aの下流側に位置する。後燃焼火格子5cは、燃焼火格子5bの下流側に位置する。乾燥火格子5a、燃焼火格子5b、後燃焼火格子5cの上方には、一次燃焼室6が設けられる。
【0017】
乾燥火格子5aでは、廃棄物Wの乾燥と着火が行われる。燃焼火格子5bでは、廃棄物Wの熱分解及び部分酸化が行われる。燃焼火格子5bでは、熱分解により発生した可燃性ガスと固形分が燃焼し、火炎が形成される。後燃焼火格子5cでは、廃棄物Wの未燃分をおき燃焼させる。おき燃焼後の燃焼灰は、灰落下口7から排出される。
【0018】
乾燥火格子5a、燃焼火格子5b、後燃焼火格子5cの下部には、風箱8a,8b,8cが設けられる。風箱8a,8b,8cには、一次空気管9a,9b,9cが接続される。一次空気主管10には、送風機11と流量を調節するためのダンパ12が設けられる。送風機11から圧送された空気は、一次空気主管10を通った後、一次空気管9a,9b,9cを経由して火格子5a,5b,5cに供給される。
【0019】
一次燃焼室6の上方には、二次燃焼を行う区画(すなわち二次燃焼室13)が設けられる。二次燃焼室13には、空気吹込みノズル等の吹込み部14a,14bから空気が吹き込まれる。吹込み部14a,14bは複数設けられる。吹込み部14a,14bは、例えば二次燃焼室13の乾燥火格子5a側と後燃焼火格子5c側それぞれに設けられる。吹込み部14a,14bの配置は、これに限定されるものではなく、例えば二次燃焼室13の紙面の手前側と奥側それぞれに設けてもよい。吹込み部14a,14bの本数も限定されるものではなく、2本、4本等様々に設定することができ、例えば二次燃焼室13の各辺に2本以上の吹込み部を設けてもよい。また、吹込み部14a,14bを上下にずらして配置してもよいし、上下の2段以上の高さそれぞれに吹込み部14a,14bを配置してもよい。
【0020】
吹込み部14a,14bの吹込み量は、燃焼制御装置15によって制御される。燃焼制御装置15は、調節部16a,16bと、計測装置17と、制御装置18と、を備える。燃焼制御装置15の構成は、後述する。
【0021】
二次燃焼室13の排ガス出口には、ボイラ4が設けられる。ボイラ4は、二次燃焼室13から排気される排ガスと熱交換して蒸気を発生させる。ボイラ4の出口には、煙道19が設けられる。煙道19の下流側には、排ガスを降温させるための減温塔(図示せず)、消石灰、活性炭等を用いて排ガスを無害化する排ガス処理装置(図示せず)、排ガスから飛灰を取り除く除塵装置(図示せず)、排ガスを大気中へ放出する煙突(図示せず)が設けられる。
【0022】
燃焼制御装置15の構成を説明する。燃焼制御装置15は、吹込み部14a,14bの吹込み量を調節する調節部16a,16bと、ストーカ炉3内の少なくとも一酸化炭素の濃度分布と酸素の濃度分布を計測する計測装置17と、少なくとも一酸化炭素の濃度分布と酸素の濃度分布の重なりに基づいて、調節部16a,16bを制御する制御装置18と、を備える。
【0023】
調節部16a,16bは、例えばダンパであり、各吹込み部14a又は14bそれぞれに対応して設けられる。調節部16a,16bは、吹込み部14a,14bの全体の吹込み量を調節すると共に、吹込み部14a,14bの吹込み量の配分を変更する。二次空気供給用の送風機20の下流側に設けられた二次空気管21は途中で分岐する。二次空気管21aは、調節部16aに接続される。二次空気管21bは、調節部16bに接続される。
【0024】
計測装置17の照射手段23と受光手段24は、例えば吹込み部14a,14bの下流側に配置される。計測装置17の位置は吹込み部14a,14bの下流側に限定されるものではなく、例えば上流側に配置されてもよい。計測装置17は、レーザ光を利用した吸収分光法とCT(Computed Tomography)を用いて、一酸化炭素の濃度分布と酸素の濃度分布、及びガスの温度分布を求める。吸収分光法とCTは後述する。
【0025】
図2は、二次燃焼室13の水平断面を示す。計測装置17は、二次燃焼室13の内部にレーザ光を照射する照射手段23と、二次燃焼室13を透過したレーザ光を受光する受光手段24と、受光手段24が出力する電気信号に基づいて、一酸化炭素の濃度分布と酸素の濃度分布を求める解析装置25と、を備える。
【0026】
照射手段23は、レーザ発信機26と、分波器27と、レーザ照射器28と、を備える。レーザ発信機26は、一酸化炭素の吸収帯の波長域のレーザ光を出力するレーザを備えると共に、酸素の吸収帯の波長域のレーザ光を出力するレーザを備える。これらのレーザは、図示しないレーザ制御装置によって制御されていて、所定の波長域のレーザ光を出力する。分波器27は、レーザ発信機26からのレーザ光を複数の光路に分岐して出力する。
【0027】
レーザ照射器28は、レーザ光の進行方向を調整するためのコリメータ(レンズ)等であり、二次燃焼室13にレーザ光を入射する。レーザ照射器28と分波器27は、光ファイバで接続される。
【0028】
受光手段24は、受信機29を備える。受信機29は、レーザ照射器28と対向して配置される。受信機29は、フォトダイオードやフォトトランジスタのような受光素子を含み、二次燃焼室13を透過したレーザ光を受光し、受光したレーザ光の強度に応じた電気信号を出力する。受信機29と解析装置25とは、電気信号を伝達する配線で接続される。
【0029】
解析装置25は、コンピュータ等から構成される。解析装置25は、受信機29からの電気信号をアンプにより増幅し、増幅した信号の波形(吸収スペクトル)を吸収分光法とCTを用いて解析して、一酸化炭素の濃度分布と酸素の濃度分布、及びガスの温度分布を求める。なお、通常、ガスの種類による温度分布の違いはない。実用的には、ガスの温度分布は、第3のガス(水蒸気又は二酸化炭素)によって計測する。
【0030】
以下に吸収分光法とCTを説明する。吸収分光法は、ある波長のレーザ光を計測対象ガスに照射した際に、計測対象ガスに含まれるある気体分子が特有波長のレーザ光を吸収する性質、及びその吸収量が濃度と温度に依存するという性質を利用した計測方法である。入射光の強度(Iλ0)と透過光の強度(Iλ)の比(Iλ/Iλ0)を求めることにより、計測対象ガスの濃度と温度を計測することができる。Iλ/Iλ0は、Lambert-Beerの公式により、次の関係式(1)で表される。
【数1】
ここで、Aλは吸光度、nは準位iに存在する分子数密度、Lは光路長、Si,j(T)は吸収線強度、Tは温度、GVi,jはブロードニング関数である。
【0031】
レーザ光をガスに照射した場合、各光路pにおける吸光度Aλは、以下の関係式(2)で表される。
【数2】
【0032】
ここで、Aλ,pは光路pにおける吸光度、nはグリッドqにおける分子数密度、Lp,qはグリッドqを通るp方向の光路長、αλ,qはグリッドqにおける吸収係数である。光路pとグリッドqは、図3に示すように設定される。
【0033】
(2)式により、ある波長に対する吸光度Aλ,pは、計測対象ガスの濃度nと、吸収係数αλ,qと、光路長Lとで求められる。光路長Lは、既知であることから、各光路pに含まれる複数のグリッドqのそれぞれに対してガスの濃度nと吸収係数αλ,qが分かれば、光路p毎に吸光度Aλ,pが求められる。ここで、吸収係数αλ,qは温度の関数である。よって、各光路pに含まれる複数のグリッドqのそれぞれのガスの濃度nと温度Tが分かれば、光路p毎に吸光度Aλ,pが求められる。
【0034】
初期の濃度、温度を仮定し、式(3)を用いて繰り返し計算を行うことにより、実測値((Aλ,q)data、吸収度データ)と理論値((Aλ,q)theory)の誤差(Error)が最小となるよう、各グリッドにおける濃度、温度を収束させる。これにより各グリッドqにおけるガスの濃度nと温度Tを算出することができ、計測対象ガスの濃度分布と温度分布を求めることができる。
【数3】
【0035】
なお、計測対象ガスの二次元の濃度分布と温度分布を求めてもよいし、三次元の濃度分布と温度分布を求めてもよい。また、吸収分光法とCT以外の手法を用いて、計測対象ガスの濃度分布と温度分布を求めてもよい。
【0036】
図4(a)は、解析装置25のディスプレイに表示される一酸化炭素の濃度分布の二次元画像を示す。解析装置25が求めた一酸化炭素の濃度分布と酸素の濃度分布、及び温度分布のデータは通信回線を介して、制御装置18(図1参照)に入力される。
【0037】
制御装置18は、コンピュータ等から構成される。制御装置18は、解析装置25から入力した一酸化炭素の濃度分布のデータに基づいて、例えば図4(b)の模式図に示すように、一酸化炭素濃度が高い領域と低い領域を把握する。図4(b)の黒で塗り潰された楕円内が、一酸化炭素濃度が高い領域であり、それ以外の領域は、一酸化炭素濃度が低い領域である。制御装置18は、例えば一酸化炭素濃度が所定の閾値より高い領域を一酸化炭素濃度が高い領域と把握し、一酸化炭素濃度が所定の閾値より低い領域を一酸化炭素濃度が低い領域と把握する。図4(b)の13は二次燃焼室13の水平断面を表し、14a,14bは吹込み部を表す。なお、制御装置18は、例えば吹込み部14aが設けられる領域(図4(b)の二次燃焼室13の下半分の領域)と吹込み部14bが設けられる領域(図4(b)の二次燃焼室13の上半分の領域)で一酸化炭素の濃度分布の代表値(最大値、平均値等)を比較して、高い方を一酸化炭素濃度が高い領域と把握し、低い方を一酸化炭素濃度が低い領域と把握してもよい。
【0038】
同様に、制御装置18は、解析装置25から入力した酸素の濃度分布のデータに基づいて、酸素濃度が高い領域と低い領域を把握する。そして、温度分布のデータに基づいて、温度が高い領域と低い領域を把握する。
【0039】
次に、制御装置18は、一酸化炭素の濃度分布と酸素の濃度分布の重なりを把握する。具体的には、図5(a)(b)の模式図に示すように、一酸化炭素濃度が高く酸素濃度が高い領域(図5(b)のA4)、一酸化炭素濃度が高く酸素濃度が低い領域(図5(a)のA2)、一酸化炭素濃度が低く酸素濃度が高い領域(図5(a)のA1)、又は一酸化炭素濃度が低く酸素濃度が低い領域(図5(b)のA3)の少なくとも一つが発生するか否かを判断する。
【0040】
制御装置18は、一酸化炭素濃度が高く酸素濃度が低い領域(図5(a)のA2)が発生するとき、図5(a)に示すように、該領域A2の吹込み部14aの吹込み量を増やす。そして、一酸化炭素濃度が高く酸素濃度が高い領域(図5(b)のA4)が発生するとき、図5(b)に示すように、該領域A4の吹込み部14aの吹込み量を減らす。
【0041】
一酸化炭素濃度が高く酸素濃度が低い領域(図5(b)のA2)では、酸素不足によって不完全燃焼が発生している。このため、吹込み部14aの吹込み量を増やす必要がある。一方、一酸化炭素濃度が高く酸素濃度が高い領域(図5(b)のA4)では、吹込み過剰によって不完全燃焼が発生している。このため、逆に吹込み部14aの吹込み量を減らす必要がある。本実施形態によれば、制御装置18が一酸化炭素濃度分布と酸素濃度分布の重なりに基づいて、吹込み部14aの吹込み量を制御することで、酸素不足によって不完全燃焼が発生しているのか、吹込み過剰によって不完全燃焼が発生しているのかを区別することができ、吹込み量を適切に制御することができる。
【0042】
図6は、制御装置18が実行するプログラムのフローチャートを示す。このプログラムは、制御装置18の記憶部に記憶されている。図6に示すように、まず制御装置18は、一酸化炭素濃度が高い領域が発生しているか否かを判断する(S1)。一酸化炭素濃度が高い領域が発生していない場合、制御装置18は、調節部16a,16bを操作しない(S2)。一酸化炭素濃度が高い領域が発生している場合、制御装置18は、一酸化炭素濃度が高い領域において、酸素濃度が高いか低いかを判断する(S3)。一酸化炭素濃度が高い領域において酸素濃度が低いとき、制御装置18は、吹込み部14aの吹込み量を増やす(S4)。一酸化炭素濃度が高い領域において酸素濃度が高いとき、制御装置18は、吹込み部14aの吹込み量を減らす(S5)。
【0043】
吹込み部14aの吹込み量を増減させると、全体の吹込み量(総量)が増減してしまう。これを防止するために、吹込み部14aの吹込み量を増やすとき、吹込み部14aに対向する吹込み部14bの吹込み量を減らせばよい。同様に、吹込み部14aの吹込み量を減らすとき、吹込み部14bの吹込み量を増やせばよい。
【0044】
ただし、吹込み部14bの吹込み量を増減させると、一酸化炭素濃度の低い領域(図5(a)のA1、図5(b)のA3)で新たなリスクが発生するおそれがある。このため、図7のマトリクス図の左側に示すように、一酸化炭素濃度が高く酸素濃度が低い領域で吹込み部14aの吹込み量を増やすとき、図7のマトリクス図の右側に示すように、一酸化炭素濃度が低く酸素濃度が高い領域(新たなリスクが発生しにくい領域)で吹込み部14bの吹込み量を減らす。同様に、図7のマトリクス図の左側に示すように、一酸化炭素濃度が高く酸素濃度が高い領域で吹込み部14aの吹込み量を減らすとき、図7のマトリクス図の右側に示すように、一酸化炭素濃度が低く酸素濃度が低い領域(新たなリスクが発生しにくい領域)で吹込み部14bの吹込み量を増やす。
【0045】
この制御を図8図9のフローチャートを用いて詳細に説明する。図8に示すように、制御装置18は、一酸化炭素濃度が高く酸素濃度が低い領域で吹込み部14aの吹込み量を増やすとき(S1~S3)、酸素濃度が高い領域で吹込み部14bの吹込み量を優先的に減らし(S4~S7)、酸素濃度が低く温度が高い領域で吹込み部14bの吹込み量をそれに次ぐ優先度で減らす(S8~S9)。より詳しくは、酸素濃度が高く温度が低い領域で吹込み部14bの吹込み量を優先順位1で減らし(S7)、酸素濃度が高く温度が高い領域で吹込み部14bの吹込み量をそれに次ぐ優先順位2で減らし(S6)、酸素濃度が低く温度が高い領域で吹込み部14bの吹込み量をそれに次ぐ優先順位3で減らし(S9)、酸素濃度が低く温度が低い領域で吹込み部14bの吹込み量を維持する(S10)。
【0046】
また、図9のフローチャートに示すように、制御装置18は、一酸化炭素濃度が高く酸素濃度が高い領域で吹込み部14aの吹込み量を減らすとき(S1~S3)、酸素濃度が低い領域で吹込み部14bの吹込み量を増やす(S5~S6)。より詳しくは、酸素濃度が低く温度が高い領域で吹込み部14bの吹込み量を優先順位1で増やし(S6)、酸素濃度が低く温度が低い領域で吹込み部14bの吹込み量をそれに次ぐ優先順位2で増やす(S7)。また、酸素濃度が高く温度が高い領域で吹込み部14bの吹込み量をそれに次ぐ優先順位3で増やし(S9)、酸素濃度が高く温度が低い領域で吹込み量を維持する(S10)。
【0047】
図8図9に示す制御により、一酸化炭素濃度が高い領域の吹込み部14aの吹込み量を増やしたり、減らしたりするときでも、全体の吹込み量(総量)を略一定に保つことができる。なお、全体の吹込み量(総量)は、濃度分布の代表値(例えば最小値、平均値等)を用いて制御してもよいし、計測装置17の下流側に設置したセンサーを用いて制御してもよい。
【0048】
以上に本発明の実施形態を詳細に説明した。本発明は上記の実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で他の実施形態に具現化できる。
【0049】
例えば、上記実施形態では、一酸化炭素と酸素の濃度分布を計測しているが、水蒸気、アンモニア等の他のガスの濃度分布を計測してもよい。
【0050】
上記実施形態では、本発明をストーカ式焼却炉に適用した例を説明したが、本発明は流動床式焼却炉、灰溶融炉等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
3…ストーカ炉(炉)
13…二次燃焼室(二次燃焼を行う区画)
14a,14b…吹込み部
15…燃焼制御装置
16a,16b…調節部
17…計測装置
18…制御装置
23…照射手段
24…受光手段
25…解析装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9