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特開2023-154115熱伝導性組成物および該組成物を使用する熱伝導性部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154115
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】熱伝導性組成物および該組成物を使用する熱伝導性部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20231012BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231012BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20231012BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
C08L83/07
C08K3/013
C08L83/05
C08K3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063186
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】酒井 和哉
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CP042
4J002CP131
4J002DA026
4J002DA037
4J002DE066
4J002DE076
4J002DE136
4J002DE146
4J002DF016
4J002DJ016
4J002EZ008
4J002FD016
4J002FD206
4J002FD327
4J002GJ01
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】異常高温にさらされた際に、熱伝導性部材自身の凝集力を弱めることにより、バッテリーセルの破壊を防ぐことが可能な熱伝導性組成物を提供する。
【解決手段】
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C)膨張黒鉛と、
(D)熱伝導性フィラーと、
(E)付加触媒と、を含み、
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、前記(C)成分の含有量は0.5質量部以上5質量部以下であり、 前記(D)成分の含有量は300質量部以上2,000質量部以下であり、
硬化前に液体状態で基材に塗布されることを特徴とする熱伝導性組成物。

【選択図】なし


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C)膨張黒鉛と、
(D)熱伝導性フィラーと、
(E)付加触媒と、を含み、
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、前記(C)成分の含有量は0.5質量部以上5質量部以下であり、
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、前記(D)成分の含有量は300質量部以上2000質量部以下である熱伝導性組成物。
【請求項2】
前記熱伝導性組成物は、硬化前に液体状態で基材に塗布された後に硬化させてギャップフィラーを形成する熱伝導性ギャップフィラー組成物であることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
前記(A)成分は、分子鎖両末端にケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンである、請求項1または請求項2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
前記(B)成分は、分子鎖両末端にケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンである、請求項1または請求項2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
前記熱伝導性組成物は、回転粘度計による測定で、温度:25℃、せん断速度:10/sにおける硬化前の粘度が10~1,000Pa・sの範囲である請求項1または請求項2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
前記熱伝導性組成物は、硬化前の体積抵抗率が1×106Ω・cm以上である請求項1または請求項2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項7】
前記熱伝導性組成物を硬化して得られる熱伝導性部材の膨張倍率(高温暴露後の体積/高温暴露前の体積)が1.1以下である、請求項1または請求項2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項8】
前記(C)成分は100℃以上300℃以下の温度において無機酸を発生する膨張黒鉛である、請求項1または請求項2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項9】
前記無機酸は硫酸、硝酸、および塩酸からなる群より選択される1種又は2種以上である、請求項8に記載の熱伝導性組成物。
【請求項10】
前記(D)熱伝導性フィラーは非導電性の熱伝導性フィラーである、請求項1または請求項2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項11】
前記(D)熱伝導性フィラーは水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムから選択される少なくとも1種を含有する、請求項1または請求項2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項12】
1分子内にアルケニル基と、ケイ素原子に結合しているアルコキシ基をそれぞれ1つ以上有する有機ケイ素化合物を含まないことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項13】
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C)膨張黒鉛と、
(D)熱伝導性フィラーと、
(E)付加触媒と、を含む熱伝導性組成物であって、
前記熱伝導性組成物を硬化することにより得られる熱伝導性部材は、-30℃~80℃における熱伝導率1W/m・K以上を有し、下記(a)および(b)の条件を満たす、熱伝導性組成物。
(a) 下記試験により測定される加熱前の前記熱伝導性部材のせん断接着強さが0.1MPa以上である
(b) 下記試験により測定される、250℃で1時間以上加熱後の前記熱伝導性部材のせん断接着強さが0.1MPa未満である
試験:前記熱伝導性組成物を塗布厚み1mmになるようにアルミ板と電着塗装鋼板に挟み、室温で一日放置し硬化させる。その後引張試験機を用いて、室温にて引張速度50mm/分でせん断接着引張試験を行う。破断時の応力を測定する。
【請求項14】
前記熱伝導性部材は、ギャップフィラーである、請求項13に記載の熱伝導性組成物。
【請求項15】
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、(C)膨張黒鉛と、(D)熱伝導性フィラーと、(E)付加触媒と、を混合して第1液を得る第一工程と、
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、(C)膨張黒鉛と、(D)熱伝導性フィラーと、を混合して第2液を得る第二工程と、
を含む、2液型熱伝導性組成物の製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の2液型熱伝導性組成物の第1液と第2液とを混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた第1液と第2液との混合物を基材に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で塗布した未硬化の混合物を硬化させる硬化工程と、
を含む、熱伝導性部材の製造方法。
【請求項17】
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(D)熱伝導性フィラーと、
(E)付加触媒と、を含む混合物中に、
(C)膨張黒鉛を配合することにより、前記熱伝導性組成物の硬化後に下記試験方法により測定されるせん断接着強さを、250℃で1時間加熱後に加熱前の0.8倍以下とする方法であって、
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、前記(C)成分の配合量は0.5質量部以上5質量部以下である方法。
試験:前記熱伝導性組成物を塗布厚み1mmになるようにアルミ板と電着塗装鋼板に挟み、室温で一日放置し硬化させる。その後引張試験機を用いて、室温にて引張速度50mm/分でせん断接着引張試験を行い破断時の応力を測定する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性フィラーと膨張黒鉛を含有する硬化性熱伝導性シリコーン組成物及び該組成物を使用する熱伝導性部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の小型化、高性能化、高出力化に伴い、放出される熱エネルギーが増大し、電子部品の温度は上昇する傾向にある。また、近年は環境に配慮された電気自動車の普及に伴い、高性能バッテリーの開発が進められている。このような背景から、電子部品やバッテリー等の発熱体が発する熱をヒートシンクなどの放熱部材に伝えるための放熱性シリコーン製品が多く開発されている。
【0003】
放熱性シリコーン製品には、放熱シート等のシート状で提供されるものや、ギャップフィラー等の液状で提供されるものがある。
放熱シートは、熱伝導性シリコーン組成物をシート状に硬化させた、柔軟で高熱伝導性のシリコーンゴムシートである。そのため、簡便に設置することが可能で、部品表面に密着して放熱性を高める特徴がある。
一方でギャップフィラーは、液状またはペースト状の熱伝導性シリコーン組成物を発熱体または放熱体に直接塗布し、塗布後に硬化させることにより得られる。このため、複雑な凹凸形状に適用された場合にもその空隙を埋め、高い放熱効果を発揮する利点がある。
【0004】
このような背景から、バッテリーセルまたはモジュールとの接着性を高めた放熱シートやギャップフィラーを形成するための組成物が多く開発されてきた。
例えば、特許文献1は有機樹脂に対して良好な接着性を与える熱伝導性シリコーン接着剤組成物を開示している。
特許文献2は強固に硬化するギャップフィラーについて記載している。
特許文献3は機械的特性の優れた組み合わせを備える熱伝導性ポリウレタン接着剤について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-224189号公報
【特許文献2】特表2021-523965号公報
【特許文献3】特表2021-507067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記文献に記載の組成物はいずれも強固に硬化するため、バッテリーセルの異常高温時の膨張に対する追従性は期待できず、バッテリーセルを変形・破壊させることが問題である。
バッテリーセルの異常高温若しくは発火の際には、バッテリーセルは発熱によって膨張するおそれがある。バッテリーセルではそのような膨張時においても、表皮にPETフィルムなど柔軟性のある素材が用いられることにより、熱による膨張に伸縮性が備えられている場合がある。
【0007】
しかしながら、放熱シートやギャップフィラー等の熱伝導性部材と表皮との接着力が強いと、バッテリーセルの膨張による表皮の伸縮に追従せずに、セルの表皮を破壊してしまう可能性がある。また異常高温にさらされ膨張したバッテリーセルに何らかの衝撃が加わった際に、熱伝導性部材の接着力が強いと、同様にバッテリーセルや表皮が破壊されるおそれがある。バッテリーセルが破壊されるとバッテリー内部の液が漏れ、バッテリーセルの爆発などを引き起こしてユーザーなどの安全性に多大な影響を与えるおそれがある。
【0008】
以上の背景から、本発明は、発熱体や放熱体等の基材に対して密着性・接着性が良好であり、熱伝導率が高いことにより放熱特性に優れた熱伝導性部材であって、かつ、異常高温下では基材との接着性が低下することにより基材の変形を軽減可能な熱伝導性部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、オルガノポリシロキサンを含むシリコーン組成物において、熱伝導性フィラーと、膨張黒鉛を配合することにより、本発明の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明に係る熱伝導性組成物は、
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C)膨張黒鉛と、
(D)熱伝導性フィラーと、
(E)付加触媒と、を含み、
(A)成分と(B)成分との合計量を100質量部としたときに、(C)成分の含有量は0.5質量部以上5質量部以下であり、
(A)成分と(B)成分との合計量を100質量部としたときに、(D)成分の含有量は300質量部以上2,000質量部以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明の熱伝導性組成物(以下、単に組成物ともいう)は、熱伝導性部材を形成するための組成物であればよく、熱伝導性部材としては例えば放熱シートやギャップフィラーが挙げられる。
放熱シートの場合には、熱伝導性組成物をシート状に硬化して放熱シートを形成した後に、バッテリーセルやモジュール等の発熱体(基材)に密着させることにより使用される。
ギャップフィラーの場合には、熱伝導性組成物は液体状態で基材に塗布される。基材に塗布された後に架橋反応により熱伝導性組成物が硬化してギャップフィラーが得られる。
【0012】
ここで、熱伝導性組成物中に含まれるアルケニル基や、SiOH基と、基材表面のカルボニル基やOH基との水素結合等による相互作用により、熱伝導性部材と基材とは高い密着性を示す。
熱伝導性組成物には(A)成分と(B)成分との合計量を100質量部としたときに、(D)成分である熱伝導性フィラーが300質量部以上含まれるため、熱伝導性部材の熱伝導性も十分に高く、高い熱伝導性と密着性に起因して高い放熱特性を発揮する。
【0013】
また、(A)成分と(B)成分との合計量を100質量部としたときに、(C)成分である膨張黒鉛の含有量は0.5質量部以上5質量部以下と低い含有量範囲であることから、得られる熱伝導性部材の絶縁性が高く、電子部材用途の熱伝導性部材としても有用である。また、膨張黒鉛の配合量を前記範囲内とすることで、熱伝導性組成物の混合粘度(熱伝導性組成物の全成分を混合した際の粘度)を低く維持することができ、微細な空隙にも熱伝導性組成物を注入可能となるため、ギャップフィラーを形成するための熱伝導性ギャップフィラー組成物として特に有用である。この点においても基材との密着性が高く、良好な熱伝導性を有するギャップフィラーを得ることが可能となる。
【0014】
熱伝導性部材が硬化後に高温に暴露された場合(例えば、250℃以上の温度下に1時間以上置かれた場合である)には、加熱により(C)成分である膨張黒鉛の層間に挿入された硫酸などの層間物が分解されガス化し、 ガス化の圧力によって、それぞれの層が垂直方向に膨張すると同時に、熱伝導性部材自身の凝集破壊または、基材とギャップフィラーとの水素結合を断裂させる。
すると、高温暴露前の膨張黒鉛は比表面積が小さく凝集破壊しにくいことから熱伝導性部材の基材に対する密着性が高かったのに対し、高温暴露後は凝集破壊を生じて熱伝導性部材自身の凝集力または、熱伝導性部材と基材との密着性が低下する。この現象により、基材に密着していた熱伝導性部材は、基材表面からはがれる。
上記のメカニズムにより、高温によるバッテリーセルの膨張や、バッテリーセルの表皮伸縮が発生した場合にも、熱伝導性部材が固着することによる表皮やバッテリーセルの破壊や変形を軽減することが可能である。
【0015】
ここで、膨張黒鉛の配合量は0.5質量部以上5質量部以下と低い含有量範囲であるため、熱伝導性部材自体の体積膨張は少ない。また、架橋構造を有する硬化後の熱伝導性部材は耐酸性が高いため、高温で気体状の酸が発生しても熱伝導性部材自体の劣化は限定的である。よって、高温下においても熱伝導性部材の形状変化によってバッテリーセルや表皮にダメージを与えるおそれは少ないし、高温暴露後においても物理的に基材に熱伝導性部材を押し付ければ、水素結合による密着よりは効果が低下するものの、引き続き放熱特性を発揮することも可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る熱伝導性組成物は、高温暴露前には基材に対して良好な密着性を有し、高温暴露後には基材から容易にはがれる熱伝導性部材を与える。このため、ギャップフィラーがバッテリーセルやその表皮に固着することによるバッテリーセルや表皮の破壊を抑制可能なギャップフィラーや放熱シートを得るための熱伝導性組成物として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明に係る、熱伝導性組成物、該組成物の製造方法、該組成物を使用する熱伝導性部材の製造方法の詳細を説明する。なお、本明細書において熱伝導性フィラーを単にフィラーまたは充填材ともいう。
【0018】
本発明に係る熱伝導性組成物は
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C)膨張黒鉛と、
(D)熱伝導性フィラーと、
(E)付加触媒と、を含み、
(A)成分と(B)成分との合計量を100質量部としたときに、(C)成分の含有量は0.5質量部以上5質量部以下であり、
(A)成分と(B)成分との合計量を100質量部としたときに、(D)成分の含有量は300質量部以上2,000質量部以下である。
【0019】
上記(A)、(B)、(D)および(E)成分を含む組成物に(C)膨張黒鉛を配合することにより、該組成物の硬化後に得られる熱伝導性部材の高温暴露前の基材に対する密着性を高く維持しながら、高温暴露後には容易に基材からはがれる特性を付与することが可能となる。
【0020】
本発明の熱伝導性組成物は、熱伝導性部材を形成するための組成物であればよく、熱伝導性部材としては例えば放熱シートやギャップフィラーが挙げられる。
本発明の熱伝導性組成物は、その硬化前に液体状態で基材に塗布され、塗布後に硬化させてギャップフィラーを得るための熱伝導性ギャップフィラー組成物であってもよい。
【0021】
(成分(A))
成分(A)は、熱伝導性組成物の主剤であり、ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンである。
成分(A)の粘度や重合度は特に限定されず、要求される熱伝導性組成物の混合粘度等に応じて選択することができ、例えば25℃における粘度が10mPa・s以上1,000,000mPa・s以下であってもよい。
ジオルガノポリシロキサンは、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これは、熱伝導性組成物の主剤であり、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に平均して、少なくとも1個、好ましくは2~50個、より好ましくは2~20個有するものである。
【0022】
(A)成分の分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状構造、一部分岐を有する直鎖状構造、分岐鎖状構造、環状構造、分岐を有する環状構造であってもよい。(A)成分は、このうち、実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサンであることが好ましく、具体的には、分子鎖が主にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンであってもよい。分子鎖末端の一部または全部、または側鎖の一部がSi-OH基であってもよい。
【0023】
(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の位置は特に制限されず、(A)成分は、分子鎖両末端にケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンであってもよい。分子鎖両末端にアルケニル基を1つずつ有するオルガノポリシロキサンであれば、架橋反応の反応点となるアルケニル基含有量が少なく、硬化後に得られるギャップフィラーの柔軟性が高まり、基材との密着性をより高められるという利点がある。
【0024】
アルケニル基は分子鎖末端のケイ素原子及び分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子のどちらか一方にのみ結合していてもよいし、これら両者に結合していてもよい。
また、(A)成分は、単一のシロキサン単位からなる重合体であっても、2種以上のシロキサン単位からなる共重合体であってもよい。
【0025】
(A)成分の25℃における粘度は、10mPa・s以上1,000,000mPa・s以下であり、20mPa・s以上100,000mPa・s以下が好ましく、30mPa・s以上2,000mPa・s以下がさらに好ましい。
【0026】
熱伝導性組成物に配合されることとなる成分を2以上の液状組成物に分けて貯蔵し、使用時に液状組成物を混合して熱伝導性組成物を得ることも可能である。この場合、(A)、(C)、(D)、および(E)成分を含む液状組成物である第1液と、(A)、(B)、(C)、および(D)成分を含む液状組成物である第2液とに分けることができる。上記粘度範囲であれば、(A)成分の粘度が低すぎることに起因して、得られる液状組成物において、 (C)成分、(D)成分が沈降しやすくなる現象を抑制可能である。従って長期の保存性に優れた熱伝導性組成物が得られる。また、上記粘度範囲であれば、得られる熱伝導性組成物の適度な流動性が得られるため、吐出性が高く、生産性を高めることが可能になる。
【0027】
液状組成物を混合して得られる熱伝導性組成物の硬化前の粘度(混合粘度)調整のため、粘度の異なる2種類以上のアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンを用いることもできる。
長期の保存安定性と、適度な流動性の両立のためには、25℃における粘度100,000mPa・s以上のジオルガノポリシロキサンを含まないことがより好ましく、粘度 10,000mPa・s以上のジオルガノポリシロキサンを含まないことがさらにより好ましい。
【0028】
熱伝導性組成物の混合粘度は、回転粘度計による測定で、温度:25℃、せん断速度:10/sにおける硬化前の粘度が10~1,000Pa・sの範囲であってもよく、20~500Pa・sの範囲であればより好ましく、30~300Pa・sの範囲であればさらにより好ましい。上記範囲内であれば、熱伝導性組成物を基材へ塗布する際の作業性が良好である。
混合粘度を上記範囲内とするために、(A)成分と(B)成分の25℃における粘度をそれぞれ例えば10mPa・s以上2,000mPa・s以下としてもよい。
【0029】
熱伝導性組成物を硬化させて得られる熱伝導性部材は、シート状、液状、ブロック状、円筒状などあらゆる形状であってもよいが、シート状または液状であることが好ましい。
熱伝導性部材がギャップフィラーである場合、混合粘度が上記範囲にある液状の上記熱伝導性組成物は、カートリッジ、リボン、又はディスペンサー、シリンジ及びチューブ等の容器から押し出され、基材に塗布することができ、作業性が良好である。L字ノズル/ニードル等を備えたディスペンサーを用いて基材に塗布することが好ましい。
ここで基材とは放熱部や発熱部をいう。シリコーン組成物は、放熱部に塗布された後にシリコーン組成物を挟むように発熱部を配置してもよく、発熱部に塗布したのちにシリコーン組成物を挟むように放熱部を配置してもよく、発熱部と放熱部の間の空隙に注入してもよい。
熱伝導性組成物を、厚さ0.01~50mm、好ましくは0.1mm~5mmの厚さのシート状に硬化させて放熱シートを得ることもできる。シート状とは、単にシート単体からなるもののみならず、他の部材に積層されて層状となったもの、他の部材に塗布などによりコーティングされて薄膜状になったものも含まれる。シート状に成形された熱伝導性部材である放熱シートは、貼り付けなどをしてバッテリーセルの表面に配置されてもよい。
【0030】
具体的には、成分(A)は、平均組成式が下記一般式(1)で表される。
R1 aSiO(4-a)/2 (1)
(ただし、式(1)中、R1は、互いに同一または異種の炭素数1~18の非置換のまたは置換された一価炭化水素基である。aは1.7~2.1である。また、aは好ましくは1.8~2.5、より好ましくは1.95~2.05であり、このオルガノポリシロキサンは実質的に直鎖状であるが、硬化後の熱伝導性部材の特性が損なわれない範囲で分岐していてもよい。)
【0031】
一つの実施形態において、上記R1で示される一価炭化水素基のうち、少なくとも2個以上はビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基などのアルケニル基から選ばれ、それ以外の基は、炭素数1~18の置換または非置換の一価炭化水素基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基などのアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基などのアラルキル基や、これらの炭化水素基中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子、シアノ基などによって置換されたクロロメチル基、2-ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基、シアノエチル基などのハロゲン置換アルキル基やシアノ置換アルキル基などから選ばれる。
【0032】
R1の選択にあたって、2個以上必要なアルケニル基としてはビニル基が好ましく、その他の基としてはメチル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基が好ましい。また、全R1中の70モル%以上がメチル基であることが、硬化物の物性および経済性などの点で好ましく、通常はメチル基が80モル%以上のものが用いられる。
【0033】
成分(A)の分子構造としては、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサンコポリマー、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサンコポリマー、式:(CH3)2ViSiO1/2で示されるシロキサン単位、式:(CH3)3SiO1/2で示されるシロキサン単位、式:SiO4/2で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン(式中のViは、ビニル基を表す)、これらのオルガノポリシロキサンのメチル基の一部または全部をエチル基、プロピル基などのアルキル基;フェニル基、トリル基などのアリール基;3,3,3-トリフルオロプロピル基などのハロゲン化アルキル基で置換したオルガノポリシロキサン、およびこれらのオルガノポリシロキサンの2種類以上の混合物が例示されるが、分子鎖長の増長によって硬化物の切断時の伸びを高める観点から、直鎖状のジオルガノポリシロキサンで分子鎖両末端にビニル基を有するものが好ましい。
【0034】
これらのジオルガノポリシロキサンは市販のものを使用してもよく、また当業者に公知の方法で製造されたものを使用してもよい。
【0035】
本発明の熱伝導性組成物中、(A)成分および前記(B)成分の合計量を100質量部としたときの、(A)成分のオルガノポリシロキサンの含有量は、2質量部以上90質量部以下であることが好ましく、10質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。上記範囲内であれば、熱伝導性組成物全体の粘度が適切な範囲となり、より長期の保存安定性に優れ、基材へ塗布した後に流出する現象を抑制可能であり、適度な流動性を有することにより、得られる熱伝導性部材の熱伝導性を高く維持することが可能となる。
【0036】
(成分(B))
成分(B)は、ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンである。
成分(B)の粘度や重合度は特に限定されず、要求される熱伝導性組成物の混合粘度等に応じて選択することができ、例えば25℃における粘度が10mPa・s以上1,000,000mPa・s以下であってもよい。
成分(B)は1分子中にケイ素原子に結合している水素原子を1個以上含有するジオルガノポリシロキサンであり、本発明の熱伝導性組成物を硬化させるための架橋剤の役割を果たす成分である。
ケイ素原子に結合している水素原子の数は1個以上であれば特に限定されず、2個以上4個以下であってもよい。直鎖状の成分(B)の両末端に各1個のケイ素原子に結合している水素原子を有し、分子中のケイ素原子に結合している水素原子数が2個であってもよい。
【0037】
成分(B)は、1分子中にケイ素原子と結合している水素原子(SiH基)を1個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであればいかなるものでもよく、例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー、メチルフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー、環状メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルハイドロジェンシロキシ単位とSiO4/2単位からなるコポリマーが用いられる。成分(B)は、1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
成分(B)の分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状、分岐状、環状、又は三次元網状構造のいずれのものであってもよいが、具体的には、下記平均組成式(2)で示されるものを用いることができる。
R3 pHqSiO(4-p-q)/2 (2)
(式中、R3は脂肪族不飽和炭化水素基を除く、非置換又は置換の一価炭化水素基である。またpは0~3.0、好ましくは0.7~2.1、qは0.0001~3.0、好ましくは0.001~1.0で、かつp+qは0.5~3.0、好ましくは0.8~3.0を満足する正数である。)
【0039】
式(2)中のR3としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等の、脂肪族不飽和結合を除く、通常、炭素数1~10、好ましくは1~8程度の非置換又はハロゲン置換の1価炭化水素基等が例示され、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0040】
(B)成分としては、具体的には、例えば1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、H(CH3)2SiO1/2単位とSiO2単位との共重合体、H(CH3)2SiO1/2単位と(CH3)3SiO1/2単位とSiO2単位との共重合体や、これらのオルガノハイドロジェンシロキサンの2種以上の混合物等が例示できる。
【0041】
上記組成物中、(B)成分の含有量は、(A)成分中のアルケニル基に対する(B)成分中のSiH基の個数の比が1/5~7となる範囲であることが好ましく、1/2~2となる範囲であることがより好ましく、3/4~5/4の範囲であることがさらにより好ましい。上記範囲内であれば熱伝導性組成物が十分に硬化し、熱伝導性組成物全体の硬さがより好適な範囲となり、ギャップフィラーまたは放熱シート等の熱伝導性部材として使用する場合に割れが生じにくくなるほか、熱伝導性部材がギャップフィラーである場合に、縦型に基材を配置しても熱伝導性組成物が垂直保持性を維持できるという利点がある。
【0042】
(B)成分中のSiH基は、分子鎖末端にあってもよく、側鎖にあってもよく、分子鎖末端と側鎖の両方にあってもよい。分子鎖末端にのみSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、分子鎖側鎖にのみSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを混合して使用してもよい。
【0043】
(B)成分は、分子鎖両末端にのみケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンであってもよい。分子鎖両末端にSiH基を1つずつ有するオルガノポリシロキサンであれば、SiH基含有量が少なく、硬化後に得られる熱伝導性部材の柔軟性が高まり、基材との密着性をより高められるという利点がある。
分子鎖末端にのみSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、立体障害が少ないことから反応性が高いという利点があり、側鎖にSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは架橋反応によりネットワーク構築に寄与するため強度を向上させるという利点がある。硬化後の熱伝導性部材に柔軟性を付与するためには、分子鎖末端にのみSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用するのが好ましい。
【0044】
成分(B)は、接着性および耐熱性向上の観点からは、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基を有するもので、分子中に芳香族の基を分子中に少なくとも1個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含むこともできる。経済的な理由により芳香族の基としてはフェニル基であることがより好ましい。
【0045】
成分(B)のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの25℃における粘度は、10mPa・s以上1,000,000mPa・s以下であり、20mPa・s以上100,000mPa・s以下が好ましく、30mPa・s以上2,000mPa・s以下がさらに好ましい。
最終的な生成物である熱伝導性組成物の粘度調整のため、粘度の異なる2種類以上の、水素原子を有するジオルガノポリシロキサンを用いることもできる。ギャップフィラー組成物の混合粘度は10~1,000Pa・sの範囲であってもよく、20~500Pa・sの範囲であればより好ましく、30~250Pa・sの範囲であればさらにより好ましい。
【0046】
本発明の熱伝導性組成物中、(A)成分および(B)成分の合計量を100質量部としたときの(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの含有量は、10質量部以上98質量部以下であることが好ましく、20質量部以上90質量部以下であることがより好ましい。上記範囲内であれば、熱伝導性組成物の硬化後の硬さが適切な範囲となり、硬化後の熱伝導性部材は柔軟性及び頑強性を有することができる。
【0047】
(成分(C))
(C)成分の膨張黒鉛は、熱伝導性部材が高温に暴露された場合に、熱伝導性部材を基材からはがれやすくするために配合される。
(C)膨張黒鉛は、特に限定されず、公知の膨張黒鉛を適宜利用することができる。ここで、膨張黒鉛とは、熱により膨張する黒鉛であればよく、黒鉛(例えば、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等)の層間に化合物等を挿入したものを好適に利用することができる。このような黒鉛の層間に挿入する化合物としては、硫酸、硝酸等の酸や、それらの酸の混合物、硝酸塩、重クロム酸カリウム、塩素酸カリウム、過マンガン酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、過酸化水素、過マンガン酸カリウム等が挙げられる。このような膨張黒鉛としては市販品を適宜利用することができ、例えば、富士黒鉛工業社製のEXP-50シリーズ、EXP-80シリーズ;伊藤黒鉛工業社製の953240シリーズ、9550シリーズ、9510シリーズ;コールケミカル社製の5099SS-3、60CA-60;中越黒鉛工業社製SMF,EMF,SFF,SS;等を利用することができる。
【0048】
(C)膨張黒鉛が膨張する膨張開始温度は、通常、100~300℃であるのが好ましく、150~300℃であるのがより好ましい。膨張開始温度は、層間挿入する化合物の種類等により制御できる。膨張開始温度が上記範囲内であれば、バッテリーの異常発熱が起きた場合に膨張黒鉛の膨張が開始され、速やかに熱伝導性部材が基材からはがれることにより、バッテリーセルや表皮の破壊・変形を軽減可能である。また、バッテリーが一定程度昇温しても、異常発熱ではない場合(例えば100℃未満である場合)には、膨張が開始されないため、通常発熱時に熱伝導性部材が基材からはがれて放熱特性が低下するといった現象を抑制可能である。
【0049】
(C)膨張黒鉛は100℃以上300℃以下の温度において気体状の無機酸を発生しながら膨張する。無機酸は硫酸、硝酸、および塩酸からなる群より選択される1種または2種以上であってもよい。
【0050】
(C)膨張黒鉛の膨張倍率は100~300cc/gが好ましく、150~250cc/gがより好ましい。この(C)膨張黒鉛を上記配合量範囲で含む熱伝導性組成物を硬化して得られる熱伝導性部材の膨張倍率(高温暴露後の体積/高温暴露前の体積)は1.1以下であってもよい。上記範囲内であれば、高温暴露後に基材からはがれやすいという特性を維持しつつも、体積膨張が比較的少ないため、熱伝導性部材の体積膨張に起因するバッテリーセルへのダメージを軽減可能である。さらに、はがれた後においても、密着性の低下による放熱特性の低下は見られるものの、膨張倍率が大きい場合と比較して熱伝導性部材自体に生じる断熱性は小さく、熱伝導性部材を物理的に基材に押し付けることによりある程度の放熱特性維持が可能である。
【0051】
(C)膨張黒鉛の配合量は、(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、0.5質量部以上5質量部以下となる範囲である。0.5質量部以上3質量部以下であればより好ましく、0.5質量部以上2質量部以下であれば、さらにより好ましい。上記範囲であれば、熱伝導性組成物の混合粘度を低く維持することができる。特に熱伝導性部材がギャップフィラーである場合には、熱伝導性組成物を微細な空隙にも注入可能となり、押しつぶし性にも優れるという利点がある。さらに硬化後の熱伝導性部材の硬さを低く維持することが可能となり、高温暴露時の変位追従性にも優れたものとなる。また、高温暴露後の熱伝導性部材の膨張倍率(高温暴露後の体積/高温暴露前の体積)を1.1以下とすることが可能となる。
【0052】
膨張黒鉛配合量を、低下させるとすると、高温暴露後の熱伝導性部材の膨張倍率をさらに低くすることができ、基材等へのダメージを低減することができるため、好ましい。
膨張黒鉛配合量をさらに減少させ、例えば(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、2質量部以下とすると、混合粘度をさらに低く、例えば25℃で95Pa・s以下にすることができるため、より好ましい。
また、膨張黒鉛は所定の体積抵抗率を有するものであるが、配合量範囲を上記の範囲内に抑えることにより絶縁性の高い熱伝導性部材を得ることが可能となる。
【0053】
なお、熱伝導性組成物の体積抵抗率は特に限定されず、熱伝導性部材の用途や形状に応じて適宜選択することが可能である。ギャップフィラーや放熱シートが電子部材に使用される場合には絶縁性が高いことが好ましいため、例えば熱伝導性組成物は、硬化前の体積抵抗率は1×106Ω・cm以上であることが好ましい。
【0054】
(成分(D))
(D)成分の熱伝導性フィラーは、熱伝導性組成物の熱伝導率を向上させ、形状保持性を向上させるための充填材成分である。(D)成分として、金属、酸化物、水酸化物及び窒化物からなる群より選択される少なくとも1種以上を含む熱伝導性フィラーを使用することができる。
電子基板等に適用するための絶縁性の高い熱伝導性部材を得るためには、(D)成分の熱伝導性フィラーは熱伝導性のみならず絶縁性にも優れた無機材料を使用することが好ましい。
【0055】
(D)成分の形状は特に限定されず、球状、不定形、または繊維状であってもよい。
熱伝導性フィラーとしては、例えば、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ベリリウム等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の窒化物;炭化ホウ素、炭化チタン、炭化ケイ素等の炭化物;グラファイト、黒鉛等の石墨;アルミニウム、銅、ニッケル、銀等の金属、およびこれらの混合物からなるものが挙げられる。
【0056】
特に、熱伝導性部材に電気絶縁性が必要な場合は、非導電性の熱伝導性フィラーを選択することが考えられる。
金属酸化物、金属水酸化物、窒化物、またはこれらの混合物であることが好ましく、両性水酸化物または両性酸化物であってもよく、具体的には、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムからなる群より選択される1種又は2種以上を用いることが好ましく、水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムから選択される少なくとも1種を含有することがより好ましい。
なお、酸化アルミニウムは絶縁材料であり、成分(A)および(B)との相溶性が比較的良好であり、工業的に広範囲な粒径の品種が選択可能であり、資源的に入手が容易であり、比較的安価で入手可能であることから、熱伝導性無機充填材として好適である。
【0057】
(D)成分として酸化アルミニウムを用いる場合には球状又は不定形のものを用いることが好ましい。球状酸化アルミニウムは、主として高温溶射法あるいはアルミナ水和物の水熱処理により得られるα-アルミナである。ここでいう球状とは、真球状のみならず、丸み状であってもよい。
【0058】
(D)成分の平均粒径は特に限定されず、例えば0.1μm以上500μm以下の範囲であってもよく、0.5μm以上200μm以下がより好ましく、1.0μm以上100μm以下がさらにより好ましい。平均粒径が小さすぎると、シリコーン組成物の流動性が低下し、平均粒径が大きすぎるとディスペンス性が低下する上、塗布装置の摺動部分に挟まり、装置の削れなどの問題発生のおそれがある。なお、本発明において、(C)成分の平均粒径は、レーザー回折式粒度測定装置で測定された体積基準累積粒度分布における50%粒子径であるD50(又はメジアン径)である。
【0059】
成分(D)として、球状のフィラーのみまたは不定形のフィラーのみを使用することもできるが、これらを併用することもできる。形状が異なる少なくとも2種以上のフィラーを併用すると、最密充填に近い状態で充填でき、熱伝導性がより高くなる効果が得られる。球状と不定形のフィラーを併用する場合、成分(D)全体を100質量%とした場合の、球状熱伝導性フィラーの割合は30質量%以上とすると、より熱伝導性を高めることが可能となる。
【0060】
(D)成分のBET比表面積は特に限定されず、例えば球状のフィラーでは、1 m2/g以下が好ましく、0.5 m2/g以下がより好ましい。不定形フィラーでは、5 m2/g以下が好ましく、3 m2/g以下がより好ましい。
BET比表面積が5m2/gを超える不定形フィラーだけ配合すると熱伝導性組成物の粘度が高くなり、また硬化後の熱伝導性組成物と基材との密着性が悪くなり、その結果放熱性が悪くなる。またかさ高いフィラーの高充填は組成物内のシリコーンゴム分子の運動が妨げられるために復元性が悪くなる。なお、本発明において、(D)成分のBET比表面積は、粒子を低温状態にした時に粒子表面に物理吸着したガス量を測定し比表面積を計算した値である。
【0061】
分散性を向上させ、フィラーの充填性を増加させるためあるいは混合粘度を低下させるために、熱伝導性フィラー表面の少なくとも一部は表面処理又はコーティングされていてもよい。任意の既知の表面処理及びコーティングが好適であり得る。熱伝導性部材をPET等の樹脂基材に適用する場合には、表面処理またはコーティングにより密着性が向上するが、高温暴露後の基材からのはがれやすさはやや低下する傾向にある。
【0062】
本発明の熱伝導性組成物中、(D)成分の含有量は、(A)成分及び(B)成分の合計を100質量部とした場合、300質量部以上2,000質量部以下が好ましく、400質量部以上1,900質量部以下がより好ましく、500質量部以上1,800質量部以下がさらにより好ましい。
上記範囲内であれば、熱伝導性組成物全体として十分な熱伝導率を有し、配合時に混合しやすく、硬化後にも柔軟性が維持され、さらに比重も大きくなりすぎないことから、熱伝導性と軽量化が求められる熱伝導性部材を形成するための熱伝導性組成物としてより好適である。(D)成分の含有量が少なすぎると、得られる熱伝導性組成物の硬化物の熱伝導率を十分に高めることが困難となり、一方、(D)成分の含有量が多すぎるとシリコーン組成物は高粘度になり、熱伝導性組成物を均一に塗布することが困難となるおそれがあり、硬化後の組成物の熱抵抗上昇、柔軟性の低下といった問題が生じる場合がある。
【0063】
(成分(E))
成分(E)の付加触媒は、上述した成分(A)におけるケイ素原子に結合しているアルケニル基と、上述した成分(B)におけるケイ素原子に結合している水素原子との付加硬化反応を促進する触媒であって、当業者には公知の触媒である。成分(E)としては白金、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、ルテニウムなどの白金族金属、または、これらを微粒子状の担体材料(例えば、活性炭、酸化アルミニウム、酸化ケイ素)に固定したものが挙げられる。
さらに、成分(E)としては、白金ハロゲン化物、白金-オレフィン錯体、白金-アルコール錯体、白金-アルコラート錯体、白金-ビニルシロキサン錯体、ジシクロペンタジエン-白金ジクロライド、シクロオクタジエン-白金ジクロライド、シクロペンタジエン-白金ジクロライド等の白金化合物が挙げられる。
【0064】
また、経済的な観点から、上述したような白金族金属以外の金属化合物触媒を用いてもよい。例えば、ヒドロシリル化鉄触媒としては、鉄-カルボニル錯体触媒、シクロペンタジエニル基を配位子として有する鉄触媒、ターピリジン系配位子や、ターピリジン系配位子とビストリメチルシリルメチル基を有する鉄触媒、ビスイミノピリジン配位子を有する鉄触媒、ビスイミノキノリン配位子を有する鉄触媒、アリール基を配位子として有する鉄触媒、不飽和基を有する環状または非環状のオレフィン基を有する鉄触媒、不飽和基を有する環状または非環状のオレフィニル基を有する鉄触媒である。その他、ヒドロシリル化のコバルト触媒、バナジウム触媒、ルテニウム触媒、イリジウム触媒、サマリウム触媒、ニッケル触媒、マンガン触媒などが例示される。
【0065】
成分(E)の配合量は用途により所望される硬化温度や硬化時間に応じた有効量が用いられるが、通常、熱伝導性組成物の合計質量に対して、触媒金属元素の濃度として好ましくは0.5~1,000ppm、より好ましくは1~500ppm、より一層好ましくは1~100ppmの範囲である。配合量が0.5ppm未満の場合は、付加反応が著しく遅くなり、一方、配合量が1,000ppmを超えるとコストが上昇するため経済的に好ましくない。
【0066】
上記ギャップフィラー組成物は(E)付加触媒の存在下で、(A)成分と(B)成分とが架橋反応し、硬化物(ギャップフィラー)を与える。ギャップフィラー組成物は、熱伝導率が1以上であればよく、2以上であればより好ましい。また、組成物の比重は1.5以上10以下であればよい。熱伝導性組成物が塗布される基材または熱伝導性部材が適用される基材を含む部材(例えば電子機器、バッテリー等である)は軽量化が重視される傾向にあることから、組成物の比重は5.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。
【0067】
本発明に係る熱伝導性組成物の製造方法には、当業者に公知な方法を用いることができ、その方法は限定されないが、(A)、(B)、及び(D)成分を混合した後に(C)成分を添加し、さらに混合する工程を有するものとしてもよい。
例えば、予め成分(A)、(B)および(D)を攪拌機で混合したり、あるいは2本ロール、ニーダーミキサー、加圧ニーダーミキサーや、ロスミキサーなどの高せん断型の混合機や押出し機、連続式の押出し機などで均一に混練してシリコーンゴムベースを調整した後、これに成分(C)を添加配合して製造するという方法が用いられる。
【0068】
本発明の熱伝導性組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、さらに、上記成分(A)~(E)以外のさらなる任意成分として、シリコーンゴム、ゲルへの添加物として従来公知のものを使用することができる。このような添加物としては、加水分解によりシラノールを生成する有機機ケイ素化合物またはオルガノシロキサン(シランカップリング剤ともいう)、架橋剤、縮合触媒、接着助剤、顔料、染料、硬化抑制剤、耐熱付与剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、気密性向上剤、放射線遮蔽剤、電磁波遮蔽剤、防腐剤、安定剤、有機溶剤、可塑剤、防かび剤、あるいは、1分子中に1個のケイ素原子結合水素原子またはアルケニル基を含有し、他の官能性基を含有しないオルガノポリシロキサンや、ケイ素原子結合水素原子およびアルケニル基を含有しない無官能性のオルガノポリシロキサンが例示され、これらのさらなる任意成分は、1種を単独で使用してもよく、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0069】
シランカップリング剤としては、1分子中にエポキシ基、アルキル基、アリール基等の有機基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物またはオルガノシロキサンが挙げられる。シランカップリング剤の一例としてオクチルトリメトキシシラン,オクチルトリエトキシシラン,デシルトリメトキシシラン,デシルトリエトキシシラン,ドデシルトリメトキシシラン,ドデシルトリエトキシシラン等のシラン化合物がある。前記シラン化合物は、SiH基を有しない化合物であってもよく、一種又は二種以上混合して使用することができる。前記シランカップリング剤で熱伝導性フィラーの表面を処理することにより、シリコーンポリマーとの親和性が良くなり、組成物の粘度を下げることができ、フィラーの充填性が向上することが可能となる。したがってより多くのフィラーを配合することで、熱伝導率を向上することが可能である。
加水分解により生成したシラノールは金属基材または有機樹脂基材の表面に存在する縮合性基(例えば、水酸基、アルコキシ基、酸基等)と反応・結合し得るものであり、後述する縮合触媒の触媒効果によりシラノールと縮合性基とが反応・結合することにより、熱伝導性部材の各種基材への接着を進行させる。
シランカップリング剤のフィラーに対する配合量は用途により所望される硬化温度や硬化時間に応じた有効量が用いられるが、通常、熱伝導性フィラーに対して0.5~2wt%が一般的な最適量であるが、必要量の目安として次の式により計算され、1~3倍量配合してもよい。
シランカップリング剤の必要量(g)=フィラー重量(g)×フィラーの比表面積(m2/g)÷シランカップリング剤の固有の最小被覆面積(m2/g)
【0070】
架橋剤としては、オルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、アルケニル基と付加反応することにより硬化物を形成するものであり、分子中に少なくとも3個以上SiH基を有するものであってもよい。本発明の架橋剤としては、SiH基を5個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンがより好ましく、10個以上15個以下有するものであってもよい。架橋剤であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、その側鎖に少なくとも1個のSiH基を有するものである。分子鎖末端のSiH基の数は0個以上2個以下であることができるが、2個であることが経済的には好ましい。オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよい。水素原子が結合するケイ素原子の位置は特に制約はなく、分子鎖の末端でも非末端、側鎖でもよい。その他の条件、水素基以外の有機基、結合位置、重合度、構造等については特に限定されず、また2種以上のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用してもよい。
【0071】
必要に応じて、上記シランカップリング剤と共に縮合触媒を使用してもよい。縮合触媒としては、マグネシウム、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、タングステン、ビスマスから選ばれる金属の化合物等が使用できる。アルミニウム三価、鉄三価、コバルト三価、亜鉛二価、ジルコニウム四価、ビスマス三価の有機酸塩、アルコキシド、キレート化合物等の金属化合物が好ましく挙げられる。例えば、オクチル酸、ラウリン酸、ステアリン酸等の有機酸、プロポキシド、ブトキシド等のアルコキシド、カテコール、クラウンエーテル、多価カルボン酸、ヒドロキシ酸、ジケトン、ケト酸等の多座配位子キレート化合物が挙げられ、一つの金属に複数種類の配位子が結合していてもよい。特に、配合や使用条件が多少異なっても安定した硬化性が得られ易いジルコニウム、アルミニウム、鉄の化合物が好ましく、更に望ましい構造は、ジルコニウムのブトキサイド、または、マロン酸エステル、アセト酢酸エステル、アセチルアセトン、それらの置換誘導体等を多座配位子としたアルミニウム又は鉄の三価キレート化合物である。アルミニウム三価、鉄三価の金属化合物では更にオクチル酸等の炭素数5~20の有機酸も好ましく使用でき、上述の多座配位子と有機酸とが一つの金属に結合している構造でもよい。
【0072】
上記置換誘導体としては、上記化合物中に含まれる水素原子をメチル基、エチル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基等のアリール基、塩素原子、フッ素原子等のハロゲン原子、水酸基、フルオロアルキル基、エステル基含有基、エーテル含有基、ケトン含有基、アミノ基含有基、アミド基含有基、カルボン酸含有基、ニトリル基含有基、エポキシ基含有基等で置換したものであって、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオーネ、ヘキサフルオロペンタンジオーネを挙げることができる。
【0073】
接着助剤としては分子内にアルコキシ基を有するものが好ましく、具体的にはテトラエトキシシランが好ましい。他には3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランのオリゴマー、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランのオリゴマー、あるいは有機官能基として、ビニル基、メタクリル基、アクリル基、イソシアネート基から選択されるいずれかひとつ、あるいは複数を含むものも好ましく、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランや3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのメタクリロキシシランや、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、ジヒドロ-3-(3-(トリエトキシシリル)プロピル)-2,5-フランジオンなどのフランジオンなどが挙げられる。
有機官能基はアルキレン基などの他の基を介してケイ素原子に結合していてもよい。前記以外にも、1分子中にエポキシ基、アルキル基、アリール基などの有機基とケイ素原子結合アルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物またはオルガノシロキサンを含むものが好ましく、少なくとも1個のエポキシ基、アルキル基、アリール基などの有機基と、少なくともケイ素原子結合のアルコキシ基を2個以上有する有機ケイ素化合物またはオルガノシロキサンがより好ましい。かかるエポキシ基としては、グリシドキシプロピル基などのグリシドキシアルキル基、2,3-エポキシシクロヘキシルエチル基、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル基などのエポキシ含有シクロヘキシルアルキル基などの形でケイ素原子に結合していること、または、炭素数1~20の直鎖状または分岐状のアルキル基、または芳香環をもつ有機基が好ましい。エポキシ基の場合、1分子中のエポキシ基は2~3個含むものを用いてもよい。また、ケイ素原子結合アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基のほか、メチルジメトキシシリル基、エチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基などのアルキルジアルコキシシリル基などが好ましい。
また、前述以外の官能基としては、例えば、ビニル基などのアルケニル基、(メタ)アクリロキシ基、ヒドロシリル基(SiH基)、イソシアネート基、から選択される官能基を用いてもよい。
【0074】
顔料としては、酸化チタン、アルミナケイ酸、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、カーボンブラック、希土類酸化物、酸化クロム、コバルト顔料、群青、セリウムシラノレート、アルミニウムオキシド、アルミニウムヒドロキシド、チタンイエロー、カーボンブラック、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム等、および、これらの混合物が例示される。
顔料の配合量は用途により所望される硬化温度や硬化時間に応じた有効量が用いられるが、通常、熱伝導性シリコーン組成物の合計質量に対して、顔料成分の配合量は0.001%から5%の範囲が望ましい。好ましくは0.01%~2%、より好ましくは0.05%~1%、の範囲である。配合量が0.001%未満の場合は、着色が不十分であり、第1液と第2液を視覚的に区別することが困難となる。一方、配合量が5%を超えるとコストが上昇するため経済的に好ましくない。
【0075】
硬化抑制剤としては、付加反応の硬化速度を調整する能力を有するものであり、アセチレン系化合物、ヒドラジン類、トリアゾール類、フォスフィン類、メルカプタン類が例示され、硬化抑制効果を持つ化合物として当該技術分野で従来公知の硬化抑制剤はすべて使用することができる。かかる化合物としては、トリフェニルホスフィン等のリン含有化合物、トリブチルアミンやテトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール等の窒素含有化合物、硫黄含有化合物、アセチレン系化合物、アルケニル基を2個以上含有する化合物、ハイドロパーオキシ化合物、マレイン酸誘導体などが例示される。また、アミノ基を有する、シランおよびシリコーン化合物を使用してもよい。
硬化抑制剤の配合量は用途により所望される硬化温度や硬化時間に応じた有効量が用いられるが、通常、(A)成分および(B)成分の合計量を100質量部としたとき、0.1質量部から15質量部の範囲が望ましい。好ましくは0.2質量部から10質量部の範囲、より好ましくは0.5質量部から5質量部の範囲である。0.1質量部未満であると付加反応が著しく速くなり、塗布作業性中に硬化反応が進行し、作業性を悪化させるおそれがある。一方10質量部を超えると、付加反応が遅くなり、ポンプアウトの発生のおそれがある。
【0076】
具体的には、3-メチル-3-ペンテンー1-イン、および3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-インのような各種の「エン-イン」システム;3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、および2-フェニル-3-ブチン-2-オールのようなアセチレン性アルコール;周知のジアルキル、ジアルケニル、およびジアルコキシアルキルフマラートおよびマレアートのようなマレアートおよびフマラート;およびシクロビニルシロキサンを含有するものが例示される。
【0077】
耐熱付与剤としては、水酸化セリウム、酸化セリウム、酸化鉄、ヒューム二酸化チタン等、および、これらの混合物が例示される。
【0078】
気密性向上剤としては、硬化物の通気性を低下させる効果を有するものであればいかなるものでもよく、有機物、無機物を問わず、具体的にはウレタン、ポリビニルアルコール、ポリイソブチレン、イソブチレン-イソプレン共重合体や、板状形状を有するタルク、マイカ、ガラスフレーク、ベーマイト、各種金属箔や金属酸化物の粉体、および、これらの混合物が例示される。
【0079】
本発明の熱伝導性組成物は、1分子内にアルケニル基と、ケイ素原子に結合しているアルコキシ基をそれぞれ1つ以上有する有機ケイ素化合物を含まないものであってもよい。同一分子内にアルケニル基と、ケイ素原子に結合しているアルコキシ基を有する化合物が含まれると、当該化合物は基材とギャップフィラーとを接着させる成分として働く。このような成分を含まない本発明の組成物であれば、高温に暴露され、熱伝導性部材が基材からはがれるときに、バッテリー等の変形、破壊等をより軽減させることが可能となる。
【0080】
本発明はまた、
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C)膨張黒鉛と、
(D)熱伝導性フィラーと、
(E)付加触媒と、を含む熱伝導性組成物であって、
熱伝導性組成物を硬化することにより得られる熱伝導性部材は、-30℃~80℃における熱伝導率1W/m・K以上を有し、下記(a)および(b)の条件を満たすギャップフィラーである、熱伝導性組成物である。
(a) 下記試験により測定される加熱前の前記熱伝導性部材のせん断接着強さが0.1MPa以上である
(b) 下記試験により測定される250℃で1時間以上加熱後の前記熱伝導性部材のせん断接着強さが0.1MPa未満である
試験: 前記熱伝導性組成物を塗布厚み1mmになるようにアルミ板と電着塗装鋼板に挟み、室温で一日放置し硬化させる。その後引張試験機を用いて、室温(23℃)にて引張速度50mm/分でせん断接着引張試験を行う。破断時の応力を測定する。
【0081】
ここで、加熱前とは、熱伝導性組成物が硬化して熱伝導性部材を形成した後、80℃以上の高温に暴露されていない状態をいう。加熱後とは、熱伝導性組成物が硬化した後、250℃以上の高温に1時間以上暴露された後の状態をいう。
【0082】
前述の通り、加熱前は膨張黒鉛の比表面積が小さく、熱伝導性部材の凝集力が大きく、基材への密着性が高い。好適なせん断接着強さは、熱伝導性部材の特性、形状等によって異なり、例えば、熱伝導性部材がギャップフィラーである場合には、上記試験方法により測定されるせん断接着強さが0.10MPa以上である。せん断接着強さは0.11MPa以上であればより好ましく、0.12MPa以上であればさらにより好ましい。
熱伝導性部材が放熱シートである場合には、ギャップフィラーの場合よりもせん断接着強さは低くてもよい。
熱伝導性部材が250℃で1時間以上加熱されると、膨張黒鉛の作用により熱伝導性部材の凝集力の低下が起こり、基材や放熱シート形成用基板から熱伝導性部材がはがれやすくなるため、上記方法により測定されるせん断接着強さが0.1MPa未満となる。加熱後のせん断接着強さは0.09MPa以下がより好ましく、0.08MPa以下がさらにより好ましい。
【0083】
本発明に係る熱伝導性組成物は、付加硬化型組成物であり、1液型組成物としてもよいが、2液型組成物としてもよい。1液型の場合には、加熱硬化により硬化させる組成物にする等の工夫により、貯蔵性を向上させることができる。
2液型組成物の場合には、これらの工夫なしに貯蔵安定性をさらに向上させることが可能になり、室温(例えば25℃)で硬化する組成物とすることが容易である。その場合、本発明に係る熱伝導性組成物を例えば次のように第1液と第2液とに分配することができる。第1液は(B)成分を含まず、(E)成分を含むことを特徴とし、第2液は(B)成分を含み、(E)成分を含まないことを特徴とする。
【0084】
したがって、本発明の2液型熱伝導性組成物の製造方法は、
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、(C)膨張黒鉛と、(D)熱伝導性フィラーと、(E)付加触媒と、を混合して第1液を得る第一工程と、
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、(C)膨張黒鉛と、(D)熱伝導性フィラーと、を混合して第2液を得る第二工程と、を含む。
【0085】
本発明はまた、上記2液型熱伝導性組成物の第1液と第2液とを混合する混合工程と、混合工程で得られた第1液と第2液との混合物を基材または放熱シート形成用基板に塗布する塗布工程と、塗布工程で塗布した未硬化の混合物を硬化させる硬化工程と、を含む、熱伝導性部材の製造方法である。
【0086】
塗布工程において基材に塗布された熱伝導性組成物は、塗布後概ね120分以内に非流動性の硬化物である熱伝導性部材を形成する。
基材に塗布後に硬化させる際の温度は特に限定されず、例えば15℃以上60℃以下の温度であってもよい。基材等への熱ダメージを軽減させるため、15℃以上40℃以下の温度としてもよい。加熱硬化性組成物である場合、基材等に組成物を塗布したのちに加熱してもよく、放熱部材の放熱を利用して硬化させてもよい。加熱硬化させる場合の温度は、例えば40℃以上200℃以下であってもよい。
【0087】
ギャップフィラーまたは放熱シートが適応される基材は特に限定されず、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ(1,4-ブチレンテレフタレート)(PBT)、ポリカーボネート等の樹脂、セラミックス、ガラス、及びアルミニウム等の金属が挙げられる。
【0088】
上記方法で製造された熱伝導性部材は基材に対して密着性・接着性が良好であり、放熱特性に優れ、かつ、異常高温下では基材との接着性が低下することにより、基材の破壊・変形を軽減可能である。さらに2液型の貯蔵安定性が高い熱伝導性組成物から製造することにより長期間保存後の熱伝導性組成物を使用しても高品質な熱伝導性部材が得られる利点がある。
【0089】
本発明はまた、
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(D)熱伝導性フィラーと、
(E)付加触媒と、を含む混合物中に、
(C)膨張黒鉛を配合することにより、前記熱伝導性組成物の硬化後に下記試験方法により測定されるせん断接着強さを、250℃で1時間加熱後に加熱前の0.8倍以下とする方法であって、
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、前記(C)成分の配合量は0.5質量部以上5質量部以下である方法である。
試験:前記熱伝導性組成物を塗布厚み1mmになるようにアルミ板と電着塗装鋼板に挟み、室温で一日放置し硬化させる。その後引張試験機を用いて、室温にて引張速度50mm/分でせん断接着引張試験を行う。破断時の応力を測定する。
上記倍率の範囲内であれば、高温暴露時に基材等からははがれやすいという特性が発揮される。
【実施例0090】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。実施例および比較例の各成分の配合比と、評価結果を表1、表2に示す。表1、表2中に示す配合比の数値は質量部を示す。
【0091】
<熱伝導性組成物の硬化物(熱伝導性部材)の作製方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、各熱伝導性組成物を作製した。これを、各評価項目に応じた試験片となるように、各硬化物である熱伝導性部材を作製した。
【0092】
<硬さの測定方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、これを、直径30mm×高さ6mmの円柱状のプレス金型に流し込み、100℃60分で硬化させ、円柱状の硬化物を作製した。
Shore-OO硬さの測定は、日本ゴム協会規格JIS K6253法に準拠し、デュロメータ硬さ試験機を使用してて、温度23℃の環境下で行った。具体的には、デュロメータ硬さ試験機を得られた円柱状硬化物の表面に真上から押し当て、加圧面を密着させてえられた値を測定値とし、上記硬度計を用いて3回測定し、測定結果の平均値を採用した。一般に、Shore-OO硬さが小さいほど柔軟性が高いことを示す。 硬化物のShore-OO硬さは50以上95以下の範囲であることが好ましい。硬度が50未満では、硬化物の強度が不十分であり、十分なせん断強度が得られない。一方硬さが95を超えると、硬化物の柔軟性が損なわれ、発熱体と放熱体の間隙に充填硬化後の振動に対する追従性が十分ではないと推察される。
【0093】
<比重の測定方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、これを、縦約10cm×横約10cm×厚み2mmのシート状のプレス金型に流し込み、100℃60分で硬化させ、硬化物を作製した。 JIS K 6249に準拠し、実施例、比較例で得られた硬化物の比重(密度)(g/cm3)を測定した。
軽量化が重視される用途の場合、比重は3.0以下であることが好ましい。また、同様の試験片を250℃で1時間暴露したのち同じ方法で比重を測定した時、加熱前より比重が減少していれば、加熱後に膨張性原料が膨張していることが確認できる。加熱後の試験片の比重は加熱前の試験片の比重の0.95倍以上0.99倍以下であれば好ましく、0.97倍以上0.99倍以下であればより好ましい。
【0094】
<熱伝導率の測定方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、さらに真空ポンプで脱気を行い、これを、直径30mm×高さ6mmの円柱状のプレス金型に流し込み、100℃60分で硬化させ、円柱状の硬化物を作製した。硬化物の熱伝導率はISO 22007-2に準拠したホットディスク法により測定する機械[TPS-500、京都電子工業(株)製]を用いて測定した。上記で作成した2個の円柱状の硬化物にセンサーを挟み、上記装置で熱伝導率を測定した。
熱伝導率は2.0W/m・k以上であることが好ましい。
【0095】
<せん断接着強さの測定方法>
せん断接着強さは、JIS K6850に準拠しせん断引張強度を測定した。縦約60cm×横約25cm×厚み2mmのアルミ板と電着塗装鋼板を基材とし、ギャップフィラーを縦約25mm、横約25mmの面積で、厚み約1mmで第一基材に塗布し、もう一方の基材で挟み、室温で24時間で硬化させた。島津製作所製オートグラフを使用し、23℃の環境下で測定した。その後、前記第1基材板および前記第2基材板をせん断方向に、速度50mm/分で引っ張り、2枚の前記基材が剥がれた際の応力をせん断接着強さとする。
高温に暴露する前は、基材への密着性が必要なため、せん断接着強さは0.1MPa以上が好ましい。一方、同様に試験片を作成した後、250℃で1時間暴露し、せん断接着強さを測定した時、簡単に引き剥がれる必要があるため、高温暴露後のせん断接着強さは0.1MPa未満であればよく、0.08MPa以下であることが好ましい。
【0096】
<混合粘度の測定方法>
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液を、1:1の割合で計量し、撹拌機で十分に混合し、JIS K 7117―2に従い、25℃における粘度を測定した。具体的には直径25mmのパラレルプレート間に上記未硬化の熱伝導組成物を乗せ、せん断速度10(1/s)、ギャップ0.5mmで粘度をAnton Paar社製 Physica MR 301で測定した。
粘度500Pa・s以下であれば塗布作業性が良好であるといえる。
【0097】
<体積抵抗率の測定方法>
本発明の熱伝導組成物の体積抵抗率は、IEC 60093に準拠した方法により測定した。体積抵抗率が1×106Ω・cm以上であることが好ましく、1×107Ω・cm以上がより好ましい。この範囲内であれば、本発明の組成物は、絶縁性を確保することができる。
【0098】
<硬化性シリコーン組成物の硬化物の作製方法>
(実施例1)
実施例と比較例にそれぞれ示した第1液と第2液とを、表に示す組成に従い、それぞれ以下の手順により作成した。表に示す各成分の配合比の単位は質量部である。
【0099】
[実施例1~7の第1液]
成分(A)として、アルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン、成分(D)として、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、任意の成分のシランカップリング剤としてn―オクチルトリエトキシシラン、モメンティブ社製A-137、硬化抑制剤として3-メチル-3-ペンテンー1-イン、縮合触媒として、テトラノルマルブチルジルコネート、顔料としてPolyone社製Stan-Tone 50SP01グリーンをそれぞれ計量し加え、プラネタリミキサーを用いて室温で30分間混練りした。
成分(A)は両末端にのみアルケニル基を有し、粘度が150mPa・sである直鎖のジメチルポリシロキサンである。
成分(C)として熱伝導性フィラーである平均粒径45μmの球状アルミナおよび平均粒径3μmの不定形アルミナの半量を加えプラネタリミキサーを用いて室温で15分間混練りした。
その後、シランカップリング剤の半量、成分(C)として球状である熱伝導性フィラーおよび不定形である熱伝導性フィラーの半量、成分(E)として膨張黒鉛を加えプラネタリミキサーを用いて室温で15分間混練りし、第1液を作製した。
球状アルミナとしてはデンカ株式会社製球状アルミナDAM―45(平均粒径45μm)を使用した。
不定形アルミナとしては住友化学株式会社製の微粒アルミナ AL-S43B (平均粒径3μm)を使用した。
膨張黒鉛としては富士黒鉛工業株式会社製のEXP-50HO(膨張黒鉛, 膨張倍率200cc/g、膨張開始220℃)を使用した。
実施例1から実施例7は膨張黒鉛の配合量を0.5質量部から5質量部まで水準を変えている。
【0100】
[実施例1~7の第2液]
成分(A)として、第1液と同じアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン、成分(B)として、両末端に水素原子2個を有する粘度が100mPa・sである直鎖状ジオルガノポリシロキサン、任意の成分として架橋剤、シランカップリング剤、接着助剤をそれぞれ計量し加え、プラネタリミキサーを用いて室温で30分間混練りした。
任意成分の架橋剤は、側鎖にのみケイ素原子に結合する水素原子を有する、粘度200mPa・sのジメチルポリシロキサンである。任意成分の接着助剤としては、テトラエトキシシランを用いた。
その後、任意成分のシランカップリング剤の半量、第1液と同じ成分(C)として熱伝導性フィラーである平均粒径45μmの球状アルミナおよび平均粒径3μmの不定形アルミナの半量を加えプラネタリミキサーを用いて室温で15分間混練りした。
その後、シランカップリング剤の半量、第1液と同じ成分(C)として球状である熱伝導性フィラーおよび不定形である熱伝導性フィラーの半量、成分(E)として膨張黒鉛を加えプラネタリミキサーを用いて室温で15分間混練りし、第2液を作製した。実施例1から実施例7は膨張黒鉛の配合量を0.5質量部から5質量部まで水準を変えている。
【0101】
(実施例9)
膨張黒鉛として、富士黒鉛工業株式会社製のEXP-50S160(膨張黒鉛, 膨張倍率300cc/g、膨張開始160℃)を使用した点以外は実施例3と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0102】
(実施例10)
球状アルミナ、不定形アルミナの配合量を増やした点以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
【0103】
(実施例11)
不定形アルミナの替りに、水酸化アルミニウムを配合した点以外は実施例1と同様に第1液及び第2液を作成した。
水酸化アルミニウムとして、日本軽金属株式会社製BW103(平均粒径10μm)を使用した。
【0104】
(比較例1)
(E)成分の膨張黒鉛を含まない点以外は、実施例1と同様にして第1液と第2液を作製した。
【0105】
(比較例2)
(E)成分の膨張黒鉛の替りにマイクロバルーンを配合した点以外は、実施例6と同様にして第1液と第2液を作製したマイクロバルーンとして、松本油脂工業株式会社FN-190D(膨張開始温度190℃)を使用した。
【0106】
(比較例3)
(E)成分の膨張黒鉛の替りに膨張化黒鉛を配合した点以外は、実施例3と同様にして第1液と第2液を作製した。膨張化黒鉛として、富士黒鉛工株式会社製AED-50を使用した。
【0107】
(比較例4)
(E)成分の膨張黒鉛の替りに膨張化黒鉛を配合した点以外は、実施例6と同様にして第1液と第2液を作製した
【0108】
(比較例5)
(E)成分の膨張黒鉛の配合量を20質量部とした点以外は、実施例1と同様にして第1液と第2液を作製した。
【0109】
評価結果は表1、表2に示す通りであった。
実施例1から7では、(E)成分の膨張黒鉛としてEXP-50HO(膨張黒鉛, 膨張開始温度220℃)を0.5から5質量部配合したが、いずれも高温暴露前のせん断接着強さは0.1MPa以上であり、250℃に1時間暴露した後のせん断接着強さは0.1MPa未満(0.08MPa以下)であった。通常状態では良好な接着性を確保しつつ、高温暴露された後は容易に基材から剥がれることが確認できた。また、いずれも熱伝導率は2.0W/m・k以上であり、熱伝導性は良好である。体積抵抗率は107Ω・cm以上であり電気絶縁性も良好であった。実施例6、7では膨張黒鉛をそれぞれ3質量部、5質量部配合した。粘度が上昇したが、許容範囲であった。
【0110】
実施例8では接着助剤及び縮合触媒を含まない配合である。高温暴露前はせん断接着強さは低いが、高温温暴露後は、膨張黒鉛の配合により、より低いせん断接着強さとなっている。
【0111】
実施例9では、膨張開始温度が160℃である膨張黒鉛EXP-50S160を配合したが、通常状態では良好な接着性を確保しつつ、高温暴露された後は容易に基材から剥がれるとことが確認できた。また、熱伝導率は2.0W/m・k以上であり熱伝導性は良好である。体積抵抗率は106Ω・cm以上であり電気絶縁性も良好であった。
【0112】
実施例10では、熱伝導性フィラーである成分(C)のアルミナを増量したところ、熱伝導率は2.8W/m・kと高熱伝導を実現できたが、粘度が150Pa・sとなり、塗布性が劣ることが考えられる。しかしながら、通常状態では良好な接着性を確保しつつ、高温暴露された後は容易に基材から剥がれるとことが確認できた。
【0113】
実施例11では不定形アルミナの替りに水酸化アルミニウムを配合したが、熱伝導率はやや低下したが、比重は2.88と低比重が実現でき、軽量化に貢献できる配合であった。また、通常状態では良好な接着性を確保しつつ、高温暴露された後は容易に基材から剥がれるとことが確認できた。
【0114】
比較例1では、膨張黒鉛を配合していないが、通常状態では良好な接着性であり、250℃1時間暴露された後でも高いせん断接着強さであった。高温時に基材から容易に剥がれないことが考えられる。
比較例2では膨張黒鉛の160℃で膨張するマイクロバルーンを配合した。マイクロバルーンも膨張黒鉛と同様に加熱により膨張するため、通常状態では良好な接着性を確保しつつ、高温暴露された後は容易に基材から剥がれるとことが確認できた。しかしながら、マイクロバルーンは中空になっているため、自身の熱伝導性が低いため、ギャップフィラーとしての熱伝導率1.9W/m・kと低い結果となった
比較例3及び4では、膨張黒鉛の替りに膨張化黒鉛を配合した。膨張化黒鉛はすでに膨張された黒鉛であるため、通常状態の凝集力が低いために通常状態でのせん断接着強さが低いため、基材への接着性は十分ではない。
比較例5では、膨張黒鉛を20質量部配合したが、通常状態では良好な接着性を確保しつつ、高温暴露された後は容易に基材から剥がれることが確認できた。しかしながら導電性である黒鉛が多量のため、体積抵抗率が減少してしまい十分な絶縁性を得られない。
【0115】
【表1】
【0116】
上記実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下の記載には限定されない。
【0117】
(付記1)
(A)ケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンと、
(B)ケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンと、
(C)膨張黒鉛と、
(D)熱伝導性フィラーと、
(E)付加触媒と、を含み、
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、前記(C)成分の含有量は0.5質量部以上5質量部以下であり、
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量を100質量部としたときに、前記(D)成分の含有量は300質量部以上2,000質量部以下である熱伝導性組成物。
【0118】
(付記2)
前記熱伝導性組成物は、硬化前に液体状態で基材に塗布された後に硬化させてギャップフィラーを形成する熱伝導性ギャップフィラー組成物であることを特徴とする、付記1に記載の熱伝導性組成物。
【0119】
(付記3)
前記(A)成分は、分子鎖両末端にケイ素原子に結合しているアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサンである、付記1または付記2に記載の熱伝導性組成物。
【0120】
(付記4)
前記(B)成分は、分子鎖両末端にケイ素原子に結合している水素原子を有するジオルガノポリシロキサンである、付記1ないし付記3のいずれか1つに記載の熱伝導性組成物。
【0121】
(付記5)
前記熱伝導性組成物は、回転粘度計による測定で、温度:25℃、せん断速度:10/sにおける硬化前の粘度が10~1,000Pa・sの範囲である、付記1ないし付記4のいずれか1つに記載の熱伝導性組成物。
【0122】
(付記6)
前記熱伝導性組成物は、硬化前の体積抵抗率が1×106Ω・cm以上である、付記1ないし付記5のいずれか1つに記載の熱伝導性組成物。
【0123】
(付記7)
前記熱伝導性組成物を硬化して得られる熱伝導性部材の膨張倍率(高温暴露後の体積/高温暴露前の体積)が1.1以下である、付記1ないし付記6のいずれか1つに記載の熱伝導性組成物。
【0124】
(付記8)
前記(C)成分は100℃以上300℃以下の温度において無機酸を発生する膨張黒鉛である、、付記1ないし付記7のいずれか1つに記載の熱伝導性組成物。
【0125】
(付記9)
前記無機酸は硫酸、硝酸、および塩酸からなる群より選択される1種又は2種以上である、付記8に記載の熱伝導性組成物。
【0126】
(付記10)
前記(D)熱伝導性フィラーは非導電性の熱伝導性フィラーである、、付記1ないし付記9のいずれか1つに記載の熱伝導性組成物。
【0127】
(付記11)
前記(D)熱伝導性フィラーは水酸化アルミニウム及び酸化アルミニウムから選択される少なくとも1種を含有する、付記1ないし付記10のいずれか1つに記載の熱伝導性組成物。
【0128】
(付記12)
1分子内にアルケニル基と、ケイ素原子に結合しているアルコキシ基をそれぞれ1つ以上有する有機ケイ素化合物を含まないことを特徴とする、、付記1ないし付記11のいずれか1つに記載の熱伝導性組成物。