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特開2023-154126負荷駆動システム及びその方法,鉄道車両及びその運用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154126
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】負荷駆動システム及びその方法,鉄道車両及びその運用方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20231012BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
H02P27/06
H02P5/46 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063204
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】隅田 悟士
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 徹
(72)【発明者】
【氏名】大塚 邦晃
【テーマコード(参考)】
5H505
5H572
【Fターム(参考)】
5H505AA19
5H505BB04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE49
5H505FF01
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ24
5H505JJ25
5H505JJ26
5H505LL22
5H505LL39
5H572AA01
5H572BB04
5H572DD05
5H572EE03
5H572FF01
5H572GG06
5H572HA10
5H572HB09
5H572HC07
5H572JJ24
5H572JJ25
5H572JJ26
5H572LL22
5H572LL30
(57)【要約】

【課題】 フリーラン時の電流オフセット誤差を抑制して正確に推定されたモータ回転速度で再起動することにより,トルクショックを低減できる負荷駆動システムを提供する。
【解決手段】 インバータとインバータのスイッチングを制御するインバータ制御回路と,それが負荷の端子を短絡させたときに,負荷に流れる電流を検出する電流検出回路と,検出された電流を入力とする複数の周波数フィルタと,フィルタそれぞれの帯域と出力とに基づく判断基準で,複数のうち何れかの出力を選択する選択回路と,を備え,選択出力に基づくインバータ周波数によりフリーラン再起動する負荷駆動システムにおいて,複数の周波数フィルタそれぞれの出力側に接続され,フリーラン再起動するためのインバータ周波数を演算するインバータ周波数演算回路を備え,その後段の選択回路が,複数のインバータ周波数演算回路の一つの出力を選択する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータと,
該インバータのスイッチングを制御するインバータ制御回路と,
該インバータ制御回路が負荷の端子を短絡させたときに,前記負荷に流れる電流を検出する電流検出回路と,
前記検出された電流を入力とする複数の周波数フィルタと,
前記複数の周波数フィルタそれぞれの帯域と出力とに基づく判断基準で,前記複数のうち何れかの出力を選択する選択回路と,
を備えて,前記選択された出力に基づくインバータ周波数を駆動周波数として前記負荷をフリーラン再起動する負荷駆動システムにおいて,
前記複数の周波数フィルタそれぞれの出力側に接続され,前記フリーラン再起動するための前記インバータ周波数を演算するインバータ周波数演算回路をさらに備え,
前記選択回路は,前記複数の前記インバータ周波数演算回路の後段に設けられて一つの出力を選択する,
負荷駆動システム。
【請求項2】
前記選択回路は,1回の初期速度推定中に対し複数回の選択動作する,
請求項1に記載の負荷駆動システム。
【請求項3】
前記選択回路は,異なる通過帯域に振り分けられた前記周波数フィルタの出力の中で,所定値以上であり,かつ最も高い周波数帯域を有する出力に基づく前記インバータ周波数演算回路の出力を選択する,
請求項1に記載の負荷駆動システム。
【請求項4】
前記周波数フィルタは,直流成分も含んで入力された電流検出値をそのまま出力させる選択肢を有する,
請求項1に記載の負荷駆動システム。
【請求項5】
前記インバータ周波数演算回路は,前記周波数フィルタの出力に基づいて電流位相を演算する電流位相演算部と,前記電流位相を入力とするPLL部と,を備える,
請求項1に記載の負荷駆動システム。
【請求項6】
前記PLL部は,前記電流位相と前記PLL部によるPLL出力位相との位相差が±π [rad]をオーバーフローしたことを検出する位相オーバーフロー検出部と,前記オーバーフローの回数をカウントするオーバーフロー回数演算部と,前記オーバーフローの回数と2π [rad]の積を前記位相差に加算する位相差補正部と,を備える,
請求項5に記載の負荷駆動システム。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の負荷駆動システムで駆動されるモータと,該モータに接続された車輪と,を備える鉄道車両。
【請求項8】
前記モータは複数台であり,前記モータそれぞれに接続された車輪と,前記モータそれぞれに対応する前記インバータ周波数のばらつきから前記車輪の摩耗量を検出する車輪摩耗量検出部と,を備える請求項7に記載の鉄道車両。
【請求項9】
インバータ制御回路でスイッチング制御されるインバータにより負荷を駆動し,
該負荷の端子を短絡させ,該負荷に流れる電流が検出された電流検出値を異なる通過帯域に複数の周波数フィルタで振り分けて出力し,
選択回路が,前記複数の周波数フィルタそれぞれの帯域と出力とに基づく判断基準で切換えて出力を選択し,
前記選択された前記複数のうち何れかの周波数を用いて前記インバータの負荷をフリーラン再起動する負荷駆動システムにおいて,
前記複数の周波数フィルタそれぞれの出力側に接続されたインバータ周波数演算回路が,インバータ周波数を演算して駆動周波数とし,
前記複数の前記インバータ周波数演算回路の後段に設けられた前記選択回路が,前記複数の出力から一つを選択し,
該選択された前記一つの出力に基づいて生成された前記インバータ周波数により前記負荷をフリーラン再起動する,
負荷駆動方法。
【請求項10】
前記選択回路は,1回の初期速度推定中に対し複数回の選択動作する,
請求項9に記載の負荷駆動方法。
【請求項11】
前記選択回路は,前記周波数フィルタの出力が所定値以上となる出力の中で,最も高い帯域を有する周波数フィルタの出力に基づく前記インバータ周波数演算回路の出力を選択出力として選択する,
請求項9に記載の負荷駆動方法。
【請求項12】
前記周波数フィルタを実質的に短絡し,直流成分も含んで入力された電流検出値をそのまま出力させるように処理する,
請求項9に記載の負荷駆動方法。
【請求項13】
前記インバータ周波数演算回路は,位相演算部に前記周波数フィルタの出力に基づいて電流位相を演算させ,PLL部に前記電流位相を入力する,
請求項9に記載の負荷駆動方法。
【請求項14】
前記PLL部はつぎの処理を実行する,
前記電流位相と前記PLL部によるPLL出力位相との位相差が,±π [rad]をオーバーフローしたことを位相オーバーフロー検出部に検出させ,
前記オーバーフローの回数をオーバーフロー回数演算部にカウントさせ,
前記オーバーフローの回数と2π [rad]の積を前記位相差とを位相差補正部に加算させる,
請求項13に記載の負荷駆動方法。
【請求項15】
請求項9~14の何れか1項に記載の負荷駆動方法で車輪に接続されたモータを駆動して走行させる鉄道車両の運用方法。
【請求項16】
複数台の前記モータそれぞれに接続された車輪と,前記モータそれぞれに対応する前記インバータ周波数と,のばらつきから前記車輪の摩耗量を検出する,
請求項15に記載の鉄道車両の運用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,フリーラン再起動を滑らかにする負荷駆動システムと,それを備えた鉄道車両と,負荷駆動方法と,それを応用した鉄道車両の運用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを駆動源とするシステムでは,モータの電源がオフであってもモータが回転している場合がある。例えば,鉄道の惰行期間,電気自動車のアクセルオフ期間などである。この状態(典型的には,モータが回転している間にインバータからモータへの電力供給が遮断されてもモータが惰性で回転し続ける状態)を「フリーラン」と呼び,フリーランにあるモータを再起動させることを「フリーラン再起動」と呼ぶ。フリーラン再起動では,モータの回転子位置あるいは回転速度などを推定し,その推定値に基づいてインバータを制御する。もし,速度推定値に誤差があると,トルクショックを発生し,乗り心地が悪化するため,高い推定精度を求められる。そこで,トルクショックの原因となるオフセット誤差を三相交流電流から取り除くことにより,トルク脈動を抑制する技術も開示されている(例えば,特許文献1)。
【0003】
特許文献1のモータ制御装置は,モータの三相交流電流検出回路から電流変換部へ入力する三相交流電流に対し,特定周波数成分を通過させないフィルタ部を備えている。また,フィルタ部として,モータ回転速度に応じて通過帯域を変更するハイパスフィルタを用いることを提案している。これらによって,三相交流電流に重畳されるオフセット誤差を取り除くことにより,トルク脈動を抑制する効果が得られる。
【0004】
通過帯域の基準となるモータ回転速度を検出するには,レゾルバを備えるか,あるいは,参考文献1のようにモータに流れる三相交流電流から推定すればよく,コストの観点では後者の方が望ましい。しかし,フリーラン再起動においては,再起動開始前まで三相交流電流は流れておらず,モータ回転速度は未知である。このため,フィルタ部の通過帯域を設定することができず,三相交流電流のオフセット誤差を除去することができない。この状態でフリーラン再起動を開始すると,三相交流電流のオフセット誤差によりモータ回転速度推定値の誤差が発生する。その結果,不正確な推定に基づくモータ回転速度で再起動することにより,トルクショックを発生させて振動や騒音の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-273302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は上記課題に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,フリーラン時の電流オフセット誤差を抑制して推定されたモータ回転速度で再起動することにより,振動や騒音の原因となるトルクショックを低減できる負荷駆動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は,インバータと,インバータのスイッチングを制御するインバータ制御回路と,インバータ制御回路が負荷の端子を短絡させたときに,負荷に流れる電流を検出する電流検出回路と,検出された電流を入力とする複数の周波数フィルタと,複数の周波数フィルタそれぞれの帯域と出力とに基づく判断基準で,複数のうち何れかの出力を選択する選択回路と,を備えて,選択された出力に基づくインバータ周波数を駆動周波数として負荷をフリーラン再起動する負荷駆動システムにおいて,複数の周波数フィルタそれぞれの出力側に接続され,フリーラン再起動するためのインバータ周波数を演算するインバータ周波数演算回路をさらに備え,選択回路は,複数のインバータ周波数演算回路の後段に設けられて一つの出力を選択する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,フリーラン時の電流オフセット誤差を抑制して正確に推定されたモータ回転速度で再起動することにより,振動や騒音の原因となるトルクショックを低減できる負荷駆動システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例1に係る負荷駆動システムの構成図である。
図2】インバータ周波数演算回路6aの内部構成図である。
図3】フリーラン再起動時の波形図である。
図4】第1HPF 5a~第3HPF 5cに関する波形図である。
図5】選択回路7の動作を示すフローチャートである。
図6】実施例2に係る負荷駆動システムの要部構成図である。
図7A】位相オーバーフロー検出部62cが無い場合の波形比較図である。
図7B】位相オーバーフロー検出部62cが有る場合の波形比較図である。
図8】位相差の現在値/過去値に関する説明図である。
図9】実施例3に係る負荷駆動システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下,図面を用いて本発明の各実施例を説明する。
【実施例0011】
図1は実施例1に係る負荷駆動システムの構成図である。以下,各構成要素について説明する。モータ1は,負荷駆動システムの駆動源となる。インバータ2は直流電圧Ecfを受電し,スイッチング素子を用いて直流電圧を交流電圧に変換し,モータ1に印加する。コンデンサ3は,直流電圧Ecfを平滑化するために備えられる。電流検出回路4は,モータ1のU相電流iu,V相電流iv,W相電流iwを検出する。これら電流検出回路4の各相それぞれの検出値を以下、電流検出値iuf,ivf,iwf又は、単に検出値iuf,ivf,iwfとする。
【0012】
ハイパスフィルタ(HPF)群5は,第1HPF 5a,第2HPF 5b,第3HPF 5cを備え,第1~第3のうち何れのHPFにも検出値iuf,ivf,iwfが入力される。第1HPF 5aのU相・V相・W相出力をそれぞれius,ivs,iwsで表し、HPF出力ius,ivs,iwsともいう。なお,実施例1~3に例示したハイパスフィルタ(HPF)群5は,上位概念で周波数フィルタ(バンドパスフィルタ)5と呼ぶこともある。
【0013】
インバータ周波数演算回路群6は,第1インバータ周波数演算回路6a,第2インバータ周波数演算回路6b,第3インバータ周波数演算回路6cを備え,ハイパスフィルタHPF 5a,5b,5cの入力に基づいてインバータ周波数ωa,ωb,ωcを演算する。
【0014】
図2に第1インバータ周波数演算回路6aの内部構成図を示す。第1インバータ周波数演算回路6aは,電流位相演算部61とPLL部62から構成される。まず,電流位相演算部61では,三相/二相変換部61aによりα軸電流iα,β軸電流iβが演算され,逆正接関数61bにより電流位相θiが演算される。
【0015】
ここで,電流位相θiは,HPF出力ius,ivs,iwsで定義される電流ベクトルの位相と等価であるから,電流位相θiの変化速度は,HPF出力ius,ivs,iwsの周波数と一致する。つぎに,PLL部62では,PI制御部62a及び積分部62bから構成されるPLL(Phase Locked Loop)によって,位相差Δθ,インバータ周波数ωinv,PLL出力位相θPLLが演算される。PLLの安定性によって,θPLLはθiに同期するため,θPLLの変化速度すなわちインバータ周波数ωinvはHPF出力ius,ivs,iwsの周波数と一致する。
【0016】
しかし、本システムにおいて、HPF出力ius,ivs,iwsの周波数が同一でも、HPF 5a~HPF 5cの設定周波数の違いに応じた位相差が生じれば、切り替え時に衝撃発生の原因になる。これを避けるため、本システムは、図2のインバータ周波数演算回路群6により、交流量を直流量に変換して位相差成分がインバータ制御に影響を及ぼさないようにする。選択回路7は,インバータ周波数ωa,ωb,ωcのいずれか一つを選択し,選択したインバータ周波数をωinvとして出力する。3つのインバータ周波数ωa,ωb,ωcは,周波数の高さに比例した直流電圧であり,交流量が直流量に変換されている。
【0017】
本システムにおいて、3つのHPF 5a~HPF 5cを選択回路7で切り替え選択する際,HPF 5a~HPF 5cの違いによって生じる位相差は、交流量であるため、直流量には変換されず、悪影響も及ぼさない。同様に,インバータ周波数演算回路群6は、同一周波数に基づく直流電圧を概ね同一に変換する。したがって、選択回路7が,3つのHPF 5a~HPF 5cを選択回路7で切り替えても、そこを経て出力されるインバータ周波数ωinvに変動もない。そのため、モータ1も衝撃を受けない。
【0018】
インバータ制御回路8は,再起動信号gonがLowである場合には,ゲート信号g1~g6を全てオフとして,インバータ2のスイッチングを停止する。また,gonがHighである場合には,一定期間,U相・V相・W相上アームのゲート信号g1,g3,g5,あるいは下アームのゲート信号g2,g4,g6をオンすることでモータ1の端子を短絡させる。その後,インバータ2の出力電圧の基本波周波数がインバータ周波数ωinvとなるようにゲート信号g1~g6をPWM制御に基づいて決定する。以上が実施例1の構成要素である。つぎに、フリーラン再起動について説明する。
【0019】
図3にフリーラン再起動時の波形図を示す。時刻t1までは再起動信号gonがLowであり,ゲート信号g1~g6はオフである。図3では,g1~g6のうち,U相上下アームのゲート信号g1,g2のみを図示している。インバータ2のスイッチング素子は全てOFFであるから,iu,iv,iwも全てゼロであり,モータ1のトルクもゼロであるが,慣性あるいは外部負荷によってモータ1の駆動周波数ωrはゼロとは限らない。
【0020】
フリーラン再起動とは,このように駆動周波数ωrが未知の状態でインバータを再起動させる技術であり,モータ1のトルクを滑らかに立ち上げるには,駆動周波数ωrとインバータ周波数ωinvを一致させた状態で,インバータ制御回路8によるPWM制御を開始する必要がある。
【0021】
ゆえに,何らかの手段によって駆動周波数ωrを推定し,これをインバータ周波数ωinvの初期値として設定することが求められる。フリーラン再起動時の駆動周波数ωrを推定するには,図3の時刻t1にてgonがHighに変化した後,インバータ制御回路8によってg2,g4,g6をオンさせ,モータ1の端子を短絡させる。
【0022】
これによって,例えば,(1)モータ1が磁石モータである場合,(2)モータ1が誘導モータであり,かつロータに残留磁束がある場合,には,駆動周波数ωrと同じ周波数のiuが流れる。
【0023】
iuには,時刻t1での残留磁束の位相に応じオフセットiofsが含まれるため,HPFによってiofsの影響を除去した後の信号をインバータ周波数演算回路群6に入力し,選択回路7がωa,ωb,ωcのいずれかを選択することでインバータ周波数ωinvは駆動周波数ωrに収束する。この収束が完了した時刻をt2として,このタイミングでインバータ制御回路8によるPWM制御が開始されることで,モータ1のトルクを滑らかに立ち上げることができる。以上がフリーラン再起動の概要である。
【0024】
フリーラン再起動の課題について説明する。HPFによってiofsを除去するには,iuの周波数すなわち駆動周波数ωrを通過帯域とするHPFが必要である。しかし,駆動周波数ωr図3の時刻t1においては未知であり,その時点では通過帯域を設定することはできない。
【0025】
ゆえに,オフセットiofsは除去されず,駆動周波数ωrとインバータ周波数ωinvの誤差が発生する。この周波数誤差があるため,インバータ周波数ωinvに基づく通過帯域の可変部を備えていても,結局,iofsは除去されず,さらなる周波数誤差の原因となる。
【0026】
このようにiofsを除去するためのHPFの通過帯域は,駆動周波数ωrが既知でなければ設定できないが,駆動周波数ωrを推定するには先にオフセットiofsを除去する必要があるという矛盾がある。これがフリーラン再起動時における課題である。
【0027】
本発明では,駆動周波数ωrが未知の状態でもiofsに影響されずに駆動周波数ωrとインバータ周波数ωinvを一致させるための部として,周波数フィルタ5,インバータ周波数演算回路群6及び選択回路7を備えており,これらの動作原理について説明する。なお,周波数フィルタ5は,第1HPF 5a~第3HPF 5cをまとめたHPF群5を上位概念で称している。
【0028】
図4に第1HPF 5a~第3HPF 5cに関する波形図を示す。第1HPF 5a~第3HPF 5cの通過帯域ωHPF1~ωHPF3は,「ωHPF1 < ωHPF2 < ωHPF3」の関係があり,ωHPF2が最も駆動周波数ωrに近いとする。第1HPF 5aでは,「ωHPF1 < ωr」であるためにHPF出力にオフセットが残る。
【0029】
このため,図2に示すθiは,図4のAの箇所で示すように歪み,駆動周波数ωrと第1インバータ周波数ωaの誤差が発生する。第2HPF 5bでは,「ωHPF2 ≒ ωr」であるためにHPF出力にオフセットiofsが残らず,駆動周波数ωrと第2インバータ周波数ωbは一致する。
【0030】
第3HPF 5cでは,「ωHPF3 > ωr」であるためにHPF出力はゼロになり,図2に示すθiは,図4のBの箇所で示すようにゼロとなり,第3インバータ周波数ωcもゼロとなる。選択回路7では,適切なインバータ周波数をωa,ωb,ωcから選択するため,図5に示すフローチャートに従って動作する。図5のステップS1,S2において、選択回路7を切換えるための判断基準は、第1HPF 5a~第3HPF 5cそれぞれの出力に基づく。
【0031】
ステップS1では,出力が閾値ith以上となるHPFに基づいて計算されたインバータ周波数を選択する。図4に示す第1HPF 5a,第2HPF 5bのように通過帯域がωr以下のHPFにおいては,その出力は非ゼロであるから,ωa,ωbがステップS1によって選択される。ステップS2では,ステップS1で選択されたインバータ周波数のうち,最大の帯域を有するHPFに基づいて計算されたインバータ周波数を選択する。つまり,ωa,ωbの2択からωbが選択される。このように選択回路7では,図4に示される以下の性質を利用している。
【0032】
(1)通過帯域が駆動周波数ωrを超えるHPFでは,その出力はゼロになる。
(2)通過帯域が駆動周波数ωr以下のHPFでは,その出力は非ゼロになる。
(3)HPFの通過帯域が高いほど,オフセットiofsを除去できる。
【0033】
ステップS1では,上記(1)に該当するHPFに基づくインバータ周波数を除外し,(2)に該当するHPFに基づくインバータ周波数を残す。ステップS2では,(2)に該当するHPFに基づくインバータ周波数のうち,(3)に該当するHPFに基づくインバータ周波数を選択する。
【0034】
これらのステップによって,駆動周波数ωr以下,かつ,最も駆動周波数ωrに近い通過帯域を有するHPFに基づくインバータ周波数を選択できる。そのため,選択回路7によって選択されたインバータ周波数ωinvを駆動周波数ωrに収束させることが可能となる。
【0035】
以上がHPF群5,インバータ周波数演算回路群6及び選択回路7の動作原理であり,駆動周波数ωrが未知の状態でもオフセットiofsに影響されずに駆動周波数ωrとインバータ周波数ωinvを一致させることができる。この結果,フリーラン再起動時のトルクショックを防止し,負荷駆動システムの振動や騒音の低減に寄与する。
【0036】
図1のHPF群5では,通過帯域の異なるHPFを複数備えたが,それに加えて,検出値iuf,ivf,iwfをそのまま通過させる処理,つまり,通過帯域0HzのHPFを追加してもよい。フリーラン再起動では,モータ1が停止している可能性もあり,モータ1が誘導モータ,かつ,ロータに残留磁束がある場合,検出値iuf,ivf,iwfがDC成分として観測されるためである。
【0037】
この場合でも図5のフローチャートはそのまま適用可能であり,検出値iuf,ivf,iwfがDC成分であることから,ステップS1では通過帯域0HzのHPFに基づくインバータ周波数のみが選択され,ステップS2では一意にそのインバータ周波数が選択される。
【0038】
DC成分の検出値iuf,ivf,iwfが第1インバータ周波数演算回路6aに入力された場合,インバータ周波数ωaはゼロであり,これが選択されることからインバータ周波数ωinvもゼロとなる。このように選択回路7は,電流検出値を選択肢の一つとして含めることで,モータ1の停止を検知することも可能となる。
【0039】
モータ1の残留磁束は、短絡電流に変換され、それがジュール熱として次第に失われるため,図3において厳密にはU相電流はiu'に示すようにその振幅およびオフセットiofsは徐々に小さくなる。このため,図5のフローチャートで選択されるインバータ周波数は時間の経過とともに変わるが,インバータ周波数演算回路群6で複数のインバータ周波数を並列に演算しておくことで,切替時のショックを低減することができる。
【0040】
オフセットiofsの影響を除去するだけであれば,選択回路7をハイパスフィルタ群5とインバータ周波数演算回路群6の間に備え,ハイパスフィルタ5a~5cを選択する構成としてもよいが,この場合には切替時にインバータ周波数ωinvのショックが発生する問題がある。
【0041】
同様に,インバータ制御回路8とインバータ2と、それぞれを数種類に機能分割(不図示)し、選択回路7をインバータ制御回路8とインバータ2の間に備えて,インバータ制御回路8を選択する構成,あるいは選択回路7をインバータ2とモータ1の間に備えて,インバータ2を選択する構成も考えられる。
【0042】
しかし,インバータ周波数ωinvが直流量であるのに対し,ゲート信号g1~g6,U相電流iu,V相電流iv,W相電流iwは,全て交流であるため,任意のタイミングで円滑に切り替えることができない。交流量を切り替える場合,周波数だけでなく,位相合わせしてからでないと,切り替えの衝撃を生ずる。これを避けるため,インバータ周波数ωinvを直流量に変換してから切り替えると良い。
【0043】
そうすることにより,惰行から力行へ1回移行するときに,選択回路7を複数回の切り替えた場合も、その切り替え前後で発生する衝撃を少なくできる。このため,選択回路7は,インバータ周波数演算回路群6とインバータ制御器8の間に設けるのが望ましい。その結果,本システムは、選択回路7によって選択されたインバータ周波数ωinvを駆動周波数ωrに収束させる際の衝撃低減の効果を高められる。
【実施例0044】
図6は実施例2に係る負荷駆動システムの要部構成図である。実施例2では,PLL部62において,位相オーバーフロー(以下,「位相OF」又は単に「OF」と略すことがある)検出部62c,OF回数演算部63,及び位相差補正部64を備え,それぞれの内部構成について以下説明する。
【0045】
位相OF検出部62cは,遅延素子62d,絶対値演算部62e,62f,閾値判定部62g,62h,及び論理積部62iを備える。図7A及び図7Bに位相OF検出部62cの有無による波形比較図を示す。ただし,図7A及び図7Bに示す範囲では選択回路7によってωaが選択されており,「ωinv = ωa」とする。
【0046】
図7Aに示すように,位相OF検出部62cがない場合,インバータ周波数ωinvが駆動周波数ωrに収束する過程において,Δθが+π [rad]を超え,-π [rad]に不連続変化する場合が考えられる。
【0047】
この不連続変化が発生する時刻をtaとする。時刻ta以降,Δθが負である間は,インバータ周波数ωinvが低下し,駆動周波数ωrとの差が増加する。Δθが正になると,再度,インバータ周波数ωinvは増加するが,以下,同様の現象が繰り返され,所定の時刻t2においてΔωが残り,トルクショックの原因となる。これを防ぐため,位相OF検出部62cでは,Δθが±πを超えたタイミングで位相OF検出フラグFovrを1にする。以下,図6に示す構成によって,Fovrを正しく出力できることを示す。
【0048】
図6において,「Fovr = 1」となるのは,閾値判定部62g,62h,論理積部62iより,以下の(x),(y)がともに成立する場合である。
(x)Δθの現在値Δθnowと過去値Δθoldの正負は異なる。
(y)ΔθnowとΔθoldそれぞれの絶対値の和Sがπ [rad]以上である。
(x)が成立しているならば,Δθnow,Δθoldの符号は負・正あるいは正・負であり,それぞれ,図8のケースA・Bで表される。
【0049】
図8は、位相差の現在値/過去値に関する説明図である。ここで,図8のΔθold,Δθnowを始点・終点とし,基準軸(Δθ = 0)を通過する円弧をp(点線),基準軸を通過しない円弧をq(実線)とする。ΔθoldからΔθnowへの変化は,p,qの何れかの経路であり,位相OF検出部62cの演算周期が十分に短いならば,短い方を通ったと考えるのが妥当である。
【0050】
(y)のSは,pの成す角であるから,(y)が成り立つならば,pよりもqの方が短い。ゆえに,ΔθoldからΔθnowへの変化はqであり,その変化途中に±π [rad]を含むことから,OFが発生している。逆にOFが発生するケースは,図8のケースA・Bの何れかであるから,議論を逆に追えば,OFが発生するならば,「Fovr = 1」となることが示される。以上より,図6に示す構成によって,Fovrを正しく出力できるといえる。
【0051】
OF回数演算部63は,図6に示す通り,閾値判定部63a,63b,論理積部63c,63d,遅延素子63eから構成される。FpnはOF発生時のΔθの増減方向を表し,Δθが増加・減少方向である場合にそれぞれ1,-1と定義する。また,Ncntは,OFの累積回数を表す。ただし,Δθ増加・減少方向のOF回数は相殺してカウントする。以下,図6に示す構成によって,Fpn及びNcntを演算できることを示す。
【0052】
「Fpn = 1」となるのは,「Fovr = 1」が成り立ち,Δθnowが負のときである。これは,図8のケースAに相当し,ΔθoldからΔθnowへの変化方向は,矢印j,kで表される。矢印方向が示す通り,ケースAのΔθは増加方向であり,逆にOF発生時のΔθが増加方向であるのは,ケースAに限られるから,議論を逆に追って「Fpn = 1」が成り立つ。
【0053】
ゆえに,「Fpn = 1」とOF発生時にΔθが増加方向にあることは等価である。「Fpn = -1」の場合も同様である。Ncntは,図6に示す通り遅延素子63eを含むフィードバックによって,Fpnの積分値を計算することから,OFの累積回数をカウントできることは明らかである。以上より,図6に示す構成によって,Fpn及びNcntを正しく演算できるといえる。
【0054】
位相差補正部64は,Ncntに基づいて,拡張位相差Δθcを演算する。ΔθcはΔθを±π [rad]を超えて計算可能とした変数であり,その挙動について図7Bに示すように,時刻taにおいて,Δθがπ [rad]を超えると,「Fovr:0→1」,「Fpn:0→1」,「Ncnt:0→1」と変化する。
【0055】
ここで,図6に示す通り,「Δθc = Δθ + 2π・Ncnt」であるから,Δθcはπ [rad]を超えて連続的に変化する。このΔθc図6のPI制御部62aに入力されることで,PLLの安定性は保たれ,インバータ周波数ωinvは駆動周波数ωrを追従し続ける。やがて,図7Bの時刻tbにおいて,Δθcはπ [rad]を下回り,「Fovr:0→1」,「Fpn:0→-1」,「Ncnt1→0」と変化する。tb以降では,「Ncnt = 0」であり,ΔθcとΔθは一致し,ともにゼロに収束する。この結果,t2において,インバータ周波数ωinvは駆動周波数ωrに収束する。
【0056】
以上のように位相OF検出部62c,OF回数演算部63,位相差補正部64を備えることで,Δθが±π [rad]を超える場合にもインバータ周波数ωinvを駆動周波数ωrに一致させることができる。これにより,以下の場合においてもトルクショックを防止できる。
【0057】
(1)高効率化のためにモータ1が高速設計された場合。
(2)CPU負荷低減のためにPI制御部62aの演算周期を長く設定し,PLLの安定性を保証するためにKP(比例ゲイン)及びKI(積分ゲイン)を低下させた場合。
(3)検出値iuf,ivf,iwfの検出誤差あるいは量子化誤差などに起因するθiの誤差によるΔωを低減するためにKP及びKIを低下させた場合。
【0058】
以上が実施例2による効果であり,これに必要な処理は以下のようにまとめられる。
・位相OF検出部62c:θiとθPLLの差分であるΔθが±π [rad]をOFしたことを検出する。
・OF回数演算部63:Ncntをカウントする。
・位相差補正部64:Ncntと2π [rad]の積をΔθに加算する。
【実施例0059】
図9は,実施例3に係る負荷駆動システムの構成図である。実施例3に係る負荷駆動システムは,複数台のモータ1と,そのモータ1にそれぞれ接続された車輪9と,車輪摩耗量検出部10と,鉄道車両11と,を備え,架線12から受電する。車輪摩耗量検出部10は,複数台のモータ1に対応するインバータ周波数ωinv1~ωinv4を受信し,これらにばらつきがある場合には,特定の車輪9に摩耗が発生したと判断し,摩耗検知フラグFwを出力する。以下,インバータ周波数ωinv1~ωinv4のばらつきから摩耗を検知できる理由について説明する。
【0060】
車輪9の空転が発生しない限り,単位時間あたりの車輪9の転がり量は,全車輪で同じである。ゆえに,特定の車輪9のみ摩耗した場合には,その車輪9の回転速度は相対的に高くなり,その車輪9に接続されたモータ1のインバータ周波数ωinvj(j = 1~4)も相対的に高くなる。
【0061】
このため,インバータ周波数ωinvj(j = 1~4)のばらつきを検出することで,特定の車輪9に摩耗が発生したと判断できる。実施例3により,駆動周波数ωrの検出部がない場合においても,特定の車輪9の摩耗を検知し,その保守間隔を延長することが可能となる。これにより,鉄道車両11の保守コストを低減することができる。
【0062】
本発明の実施形態に係る負荷駆動システム(本システム)は,つぎのように総括できる。
[1]本システムは,インバータ2と,そのインバータ2のスイッチングを制御するインバータ制御回路8と,インバータ周波数演算回路群6と,電流検出回路4と,周波数フィルタ(バンドパスフィルタ)5と,選択回路7と,を備える。本システムは,選択回路7で選択された出力に基づくインバータ周波数を駆動周波数として負荷のモータ1をフリーラン再起動する。本システムの特徴は,複数の周波数フィルタHPF 5a,5b,5cそれぞれの出力側に接続され,フリーラン再起動するためのインバータ周波数を演算するインバータ周波数演算回路群6をさらに備える点と,選択回路7が,複数のインバータ周波数演算回路6a~6cの後段に設けられて一つの出力を選択する点,にある。
【0063】
ロータに残留磁束があるモータ1は,レゾルバを備える代わりに,回転に伴う三相交流電流から回転速度を検出できる。本システムにおいて,フリーラン再起動時に,モータ1の惰行空転(鉄道を例示)に伴う駆動周波数ωrを推定する。
【0064】
そのため,インバータ制御回路8は,インバータ出力を止めた状態で,モータ1の端子を短絡させることにより,惰行空転に伴ってモータ1から生じる三相交流電流iu,iv,iwを得る。この短絡状態で,電流検出回路4は,モータ1の空転で生じる電流iu,iv,iwに対する検出値iuf,ivf,iwfを検出する。
【0065】
モータ1の空転で生じる電流iu,iv,iwには,残留磁束の位相に応じたオフセットiofsが含まれる。周波数フィルタ5は,検出値iuf,ivf,iwfを異なる通過帯域に振り分けて出力する。振り分けられた周波数フィルタ5の出力の内,所望の通過帯域を通過した出力からはオフセットiofsが除去される。所望の通過帯域とは,モータ1の駆動周波数ωrを通過させるが,オフセットiofsを除去する周波数帯域をいう。
【0066】
インバータ周波数演算回路群6は,周波数フィルタHPF 5a,5b,5cによって振り分けられた出力ius,ivs,iwsそれぞれからインバータ周波数ωa,ωb,ωcを演算する。選択回路7は,検出された電流を入力とする複数の周波数フィルタHPF 5a,5b,5cと,それら複数それぞれの帯域と出力とに基づく判断基準で,複数のうち何れかの出力を選択する。選択回路7は,周波数フィルタHPF 5a,5b,5cの通過帯域それぞれに応じた出力に基づいて,インバータ周波数演算回路群6により演算されるインバータ周波数ωa,ωb,ωcのうちの一つを選択出力ωinvとして選択する。選択回路7は,複数のインバータ周波数演算回路6a,6b,6cの後段に設けられて一つの出力を選択する。
【0067】
つまり,異なる複数の通過帯域を有する周波数フィルタHPF 5a,5b,5cから,出力それぞれに対してインバータ周波数ωa,ωb,ωcが演算され,その内,所望の通過帯域を通過した検出値iuf,ivf,iwfに基づくインバータ周波数ωinvが選択される。
【0068】
このように,オフセットiofsの影響を除去するため,所望の通過帯域を有する周波数フィルタHPF 5の出力信号に基づくインバータ周波数ωinvは,適切な駆動周波数ωrに収束する。つまり,フリーラン再起動時に,モータ1の惰行空転に伴う駆動周波数ωrに位相まで一致するように同期させたインバータ周波数ωinvが得られる。
【0069】
この収束が完了したタイミングで,インバータ制御回路8によるPWM制御が開始されることで,モータ1のトルクを滑らかに立ち上げることができる。その結果,本システムは,フリーラン時の電流オフセット誤差を抑制して正確に推定されたモータ回転速度で再起動することにより,振動や騒音の原因となるトルクショックを低減できる。
【0070】
[2]選択回路7は,1回の初期速度推定中に対し複数回に及んで選択動作すると良い。このとき、スイッチ切り換えの判断基準は、HPF 5の出力に基づくが、切り替えの対象が、HPF 5a~HPF 5c及びその後段に設けられて対応するそれぞれの第1~第3インバータ周波数演算回路6a~6cの組となる。このような本システムは、最適の通過帯域を有する周波数フィルタHPF 5a~HPF 5cを、1回の初期速度推定中に対し複数回に及んで選択動作することにより、上述したオフセットiofsの影響をより効果的に除去できる。
【0071】
このような本システムは、より細やかな最適制御が可能となり、トルクショックの低減効果を高められる。例えば、鉄道車両11に適用された本システムは、惰行から力行へ1回転換する毎の初期速度推定中に、選択回路7によって複数回に及んで細やかにスイッチ切り換えすることで、より衝撃緩和の作用効果を増し、トルクショックの低減された良好な乗心地を実現できる。
【0072】
[3]選択回路7は,異なる通過帯域に振り分けられた周波数フィルタHPF 5a,5b,5cの出力それぞれに基づくインバータ周波数ωa,ωb,ωcの中で,周波数フィルタHPF 5a~HPF 5cの出力が所定値以上であり,かつ最も高い周波数帯域を有する出力に基づくインバータ周波数ωinvを選択することが好ましい。モータ1を駆動する駆動周波数ωrとは無関係で,オフセットiofsに係るノイズには,低い周波数成分が含まれていることが多い。
【0073】
また,本システムにおける周波数フィルタ5は,HPFの通過帯域の設定を高くするほど,オフセットiofsが除去され易く,選択回路7が選択したインバータ周波数が参照する周波数フィルタ5の出力から,オフセットiofsに係るノイズ成分が除去されて,モータ1を駆動する駆動周波数ωrのみを効果的に生成できる。その結果,本システムは,より効果的にトルクショックを低減できる。
【0074】
[4]周波数フィルタ5は,直流(DC)成分も含んで入力された検出値iuf,ivf,iwfが、フィルタ機能を通さずにそのまま出力させる選択肢も有ると良い。特に、モータ1が停止している場合,DC成分の検出値iuf,ivf,iwfが,インバータ周波数演算回路群6内の一つのインバータ周波数演算回路に入力される。
【0075】
そのインバータ周波数演算回路群6は、インバータ周波数をゼロとして演算出力する。このような周波数ゼロの演算出力を選択回路7が選択するため,インバータ周波数ωinvはゼロに収束する。本システムは,このように選択回路7が,DC成分の電流検出値に基づくインバータ周波数ωinvを選択肢の一つとして含めることで,モータ1の停止を検知することも可能となる。
【0076】
[5]インバータ周波数演算回路群6は,周波数フィルタ5のHPF出力ius,ivs,iwsに基づいて電流位相θiを演算する電流位相演算部61と,それにより演算された電流位相θiを入力とするPLL部62と,を備えることが好ましい。ここで,電流位相θiの変化速度は,HPF出力ius,ivs,iwsの周波数と一致する。
【0077】
PLL部62では,PI制御部62a及び積分部62bから構成されるPLLによって,位相差Δθ,インバータ周波数ωinv,PLL出力位相θPLLが演算される。PLLの安定性によって,PLL出力位相θPLLは電流位相θiに同期するため,θPLLの変化速度すなわちインバータ周波数ωinvは,HPF出力ius,ivs,iwsの周波数と一致する。
【0078】
本システムは,このようなPLL部62を備えてPLL制御を採用すれば現実対応能力を高められる。例えば,実施された環境において,本システムは,ノイズが多くS/N比が劣化した場合は,PLL部62に備わるKP(比例ゲイン)及びKI(積分ゲイン)を低下させて安定化させる。逆に,本システムは,ノイズが少なくS/N比が良好な場合は,KP及びKIを高めて応答性を向上させる。その結果,本システムは,より実用性を高めてトルクショックを低減できる。
【0079】
[6]上述の実施例1として,図2に示した第1インバータ周波数演算回路6aには,図6の位相OF検出部62cがない。この場合,図7Aに示すように,Δθが+π [rad]を超え,-π [rad]に不連続変化すると,正逆方向判別能力を欠いて,真の駆動周波数ωrが捉えられなくなる不具合が生じる。その結果,インバータ周波数ωinvが駆動周波数ωrに収束できないことがある。
【0080】
そこで,実施例2として図6に示すように,上記[5]に記載の本システムにおいて,PLL部62は,位相OF検出部62cと,OF回数演算部63と,位相差補正部64と,を備えることが好ましい。位相OF検出部62cでは,Δθが±πを超える都度にFovrを正しく出力できる。OF回数演算部63は,OFの累積回数Ncntをカウントする。
【0081】
位相差補正部64は,OFの累積回数Ncntに基づいて,拡張位相差Δθcを演算する。ΔθcはΔθを±π [rad]を超えて計算可能とした変数であり,その挙動について図7Bに示すように,時刻taにおいて,Δθがπ [rad]を超えると,「Fovr:0→1」,「Fpn:0→1」,「Ncnt:0→1」と変化する。ここで,図6に示す通り,「Δθc = Δθ + 2π・Ncnt」であるから,拡張位相差Δθcはπ [rad]を超えて連続的に変化する。
【0082】
PLL部62の各部の処理により,拡張位相差Δθcはπ [rad]を超えて連続的に変化し,位相差補正部64により,正逆方向判別能力が得られる。この拡張位相差Δθc図6のPI制御部62aに入力されることで,PLLの安定性は保たれ,インバータ周波数ωinvは駆動周波数ωrを追従し続ける。
【0083】
その結果,図7Bの時刻t2において,インバータ周波数ωinvは駆動周波数ωrに収束する。これにより,KP(比例ゲイン)及びKI(積分ゲイン)を低下させて応答速度が遅くなった場合のほか,モータ1が高速のため,位相差Δθが±π [rad]がOFし易い場合にも,トルクショックを防止できる。なお,実際の電車等では,収束した時刻t2から数秒,例えば2秒の余裕を持たせて,モータ1に給電開始する。
【0084】
[7]本発明の実施例3に係る鉄道車両11は,上記[1]~[6]の何れかに記載の負荷駆動システムで駆動されるモータ1と,そのモータ1に接続された車輪9と,を備える。その結果,鉄道車両11は,フリーラン時の電流オフセット誤差を抑制して正確に推定されたモータ回転速度で再起動することにより,振動や騒音の原因となるトルクショックを低減できる。
【0085】
[8]上記[7]に記載の鉄道車両11において,モータ1は複数台であり,それらモータ1それぞれに接続された車輪9と,モータ1それぞれに対応するインバータ周波数ωinvのばらつきから車輪9の摩耗量を検出する車輪摩耗量検出部10と,を備える。多軸の車輪9を複数のモータ1で駆動する鉄道車両11において,特定の車輪9のみ摩耗した場合には,その車輪9の回転速度は相対的に高くなり,その車輪9に接続されたモータ1のインバータ周波数ωinvj(j = 1~4)も相対的に高くなる。
【0086】
このため,本システムは,それを適用した鉄道車両11において,インバータ周波数ωinvj(j = 1~4)のばらつきを検出することにより,特定の車輪9に偏在する摩耗の発生をリアルタイムかつ継続的に監視し,保守を実施するタイミングを適切に決定できる。その結果,駆動周波数ωrの検出部がない場合においても,特定の車輪9の摩耗を検知し,その保守間隔を延長することが可能となる。その結果,鉄道車両11の保守コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0087】
1…モータ(負荷),2…インバータ,3…コンデンサ,4…電流検出回路,5…周波数フィルタ(バンドパスフィルタ,又はHPF群),5a~5c…第1~第3HPF,6…インバータ周波数演算回路群,6a~6c…第1~第3インバータ周波数演算回路,61…電流位相演算部,61a…三相/二相変換部,61b…逆正接関数,62…PLL部,62a…PI制御部,62b…積分部,62c…位相OF検出部,62d…遅延素子,62e,62f…絶対値演算部,62i,63c,63d…論理積部,63…OF回数演算部,63a,63b,62g,62h…閾値演算部,63e…遅延素子, 64…位相差補正部,7…選択回路,8…インバータ制御回路,9…車輪,10…車輪摩耗量検出部,11…鉄道車両,12…架線,Fovr…位相OF検出フラグ,Fw…摩耗検知フラグ,g1~g6…ゲート信号,gon…(インバータ制御回路8の)再起動信号,iofs…(HPF出力に残る)オフセット,ius,ivs,iws…HPF出力,iu,iv,iw…(モータ1から生じる)三相交流電流,iu…U相電流,iv…V相電流,iw…W相電流,iuf,ivf,iwf…(電流検出回路4の各相それぞれの)検出値,ius,ivs,iws…(第1HPF 5a~第3HPF 5cそれぞれの)出力,iα…(三相/二相変換部61aによる)α軸電流,iβ…β軸電流,Ncnt…OFの累積回数,ωa,ωb,ωc…(HPF 5a,5b,5cの入力に基づいて)直流変換したインバータ周波数,ωHPF1~ωHPF3…(第1HPF 5a~第3HPF 5cそれぞれの)通過帯域,ωinvj…インバータ周波数,ωr…駆動周波数,θPLL…PLL出力位相,θi…電流位相,Δθ…位相差,Δθc…拡張位相差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9