(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015415
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】活性炭の製造方法及びイグサ活性炭
(51)【国際特許分類】
C01B 32/318 20170101AFI20230125BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20230125BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20230125BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20230125BHJP
C01B 32/348 20170101ALI20230125BHJP
H01G 11/86 20130101ALN20230125BHJP
H01G 11/32 20130101ALN20230125BHJP
【FI】
C01B32/318
B01J20/20 A
B01J20/28 Z
B01J20/30
C01B32/348
H01G11/86
H01G11/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019237630
(22)【出願日】2019-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】505065582
【氏名又は名称】村上産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100133592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】大津 誠
(72)【発明者】
【氏名】村上 健
(72)【発明者】
【氏名】村上 勝代
【テーマコード(参考)】
4G066
4G146
5E078
【Fターム(参考)】
4G066BA25
4G066BA26
4G066CA10
4G066CA24
4G066CA31
4G066CA45
4G066DA02
4G066DA08
4G066FA11
4G066FA18
4G066FA21
4G146AA06
4G146AB01
4G146AC04A
4G146AC06B
4G146AC10A
4G146AC10B
4G146AC28B
4G146AD11
4G146AD23
4G146AD28
4G146AD31
4G146BA31
4G146BB03
4G146BB06
4G146BB07
4G146BC03
4G146BC33B
4G146BC37B
4G146BD06
4G146BD10
4G146BD18
4G146CA02
4G146CA08
4G146CA16
4G146CB09
4G146DA05
4G146DA14
4G146DA40
5E078AB01
5E078BA14
5E078BA70
(57)【要約】
【課題】より大きい比表面積を有する植物原料由来の活性炭を得ることができる活性炭の製造方法、及びより大きい比表面積を有するイグサ活性炭を提供する。
【解決手段】活性炭の製造方法は、植物を膨潤させる膨潤工程と、膨潤させた前記植物を乾燥させる乾燥工程と、乾燥させた前記植物を炭化する炭化工程と、炭化した前記植物を賦活化する賦活化工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を膨潤させる膨潤工程と、
膨潤させた前記植物を乾燥させる乾燥工程と、
乾燥させた前記植物を炭化する炭化工程と、
炭化した前記植物を賦活化する賦活化工程と、
を含む活性炭の製造方法。
【請求項2】
前記膨潤工程では、
前記植物を蒸す、
請求項1に記載の活性炭の製造方法。
【請求項3】
前記植物は、
イグサの茎である、
請求項1又は2に記載の活性炭の製造方法。
【請求項4】
2100m2/g以上の比表面積を有する、
イグサ活性炭。
【請求項5】
1.1mL/g以上の細孔容積を有する、
請求項4に記載のイグサ活性炭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭の製造方法及びイグサ活性炭に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭は主に廃水及び排ガス処理等の環境浄化に使用される他、キャパシタの電極等にも使用される。活性炭は炭化した炭材に多数の細孔を形成する賦活処理を施すことで製造される。
【0003】
炭材として、安定して大量に供給されるオガ屑及びヤシ殻等の植物原料、石炭並びにレーヨン等の合成繊維等が利用されている。石炭は化石燃料であるため有限であるうえ、環境負荷への配慮から植物原料を用いた活性炭が注目されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、イグサを原料とする活性炭が開示されている。イグサの茎は、畳表及びゴザの製造工程において、所定の寸法に裁断され、端部が廃棄される。活性炭の製造における炭材にイグサを用いることで廃棄物を有効利用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
植物を原料とする活性炭の用途を広げるために、当該活性炭の高機能化が図られている。特に、活性炭の吸着性能等の向上に寄与する活性炭の比表面積の増大が求められている。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、より大きい比表面積を有する植物原料由来の活性炭を得ることができる活性炭の製造方法、及びより大きい比表面積を有するイグサ活性炭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点に係る活性炭の製造方法は、
植物を膨潤させる膨潤工程と、
膨潤させた前記植物を乾燥させる乾燥工程と、
乾燥させた前記植物を炭化する炭化工程と、
炭化した前記植物を賦活化する賦活化工程と、
を含む。
【0009】
この場合、前記膨潤工程では、
前記植物を蒸す、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記植物は、
イグサの茎である、
こととしてもよい。
【0011】
本発明の第2の観点に係るイグサ活性炭は、
2100m2/g以上の比表面積を有する。
【0012】
この場合、上記イグサ活性炭は、
1.1mL/g以上の細孔容積を有する、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より大きい比表面積を有する植物原料由来の活性炭及びイグサ活性炭を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る実施の形態について説明する。なお、本発明は下記の実施の形態によって限定されるものではない。
【0015】
(実施の形態)
本実施の形態に係る活性炭の製造方法は、膨潤工程と、乾燥工程と、炭化工程と、賦活化工程と、を含む。膨潤工程では、植物を膨潤させる。植物の種類は特に限定されず、任意の種類の、任意の部位を使用することができる。植物は、採取直後の植物でもよいし、採取から数日間、数週間、数か月間又は数年間経過した植物でもよい。植物として、採取してから乾燥させたものを用いてもよい。植物として、木材を用いてもよいし、木材と葉との混合物を用いてもよい。
【0016】
好適には、植物はイグサ科の植物である。例えば、イグサ科の植物は、主に畳表及びゴザ等に利用されるイグサ(Juncus effusus var. decipens等)である。イグサの含水率は、特に限定されず、採取した直後のイグサでも、天日干し及び加熱乾燥等の公知の乾燥処理により含水率を調整したイグサでもよい。イグサとして、好ましくはイグサの茎又は根が用いられる。イグサの茎は、円筒形状の外筒部と、外筒部の内部に綿状の繊維を有している。植物としてイグサの茎を用いる場合、膨潤工程の前に、イグサの茎に公知の泥染め処理を施し、イグサの茎を乾燥させてもよい。植物としては、カヤツリグサ科に属する七島藺(Cyperus malaccensis)を用いてもよい。
【0017】
膨潤方法としては、植物を膨潤させることができる任意の方法を採用すればよい。例えば、膨潤工程では、植物を水に暴露すればよく、植物を水に浸漬してもよいし、植物に流水を当ててもよい。膨潤工程では、膨潤を早めるために植物を水で煮沸してもよい。膨潤工程では植物を蒸すのが特に好ましい。植物としてイグサの茎を用いる場合、膨潤工程によって、イグサの茎の直径は1.2~2倍、1.3~2倍、1.4~2倍又は1.5~2倍に増加する。
【0018】
乾燥工程では、膨潤させた植物を乾燥させる。植物の乾燥方法は、特に限定されず、自然に乾燥させてもよいし、送風によって乾燥させてもよい。
【0019】
炭化工程では、乾燥させた植物を炭化する。炭化工程では、植物を、空気下で加熱してもよいし、窒素、二酸化炭素及びアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で加熱してもよい。空気下で加熱する場合、開放した容器内で植物を加熱してもよいし、空気を供給した閉塞した容器内で植物を加熱してもよい。不活性ガス雰囲気下で加熱する場合、不活性ガスを供給した閉塞した容器内で植物を加熱すればよい。
【0020】
加熱は公知の熱供給手段で行えばよい。熱供給手段としては、焚き木、ガスバーナー、電熱器及び電気炉等が挙げられる。植物の加熱にあたっては、適宜、温度センサ等を用いて、植物を保持する容器内の温度を制御するのが好ましい。
【0021】
炭化工程では、植物を加熱して炭化する。炭化処理の温度は、例えば、200~1200℃、250~1000℃、300~800℃又は400~800℃、特に好ましくは500~800℃又は550~650℃である。炭化処理の温度を600℃とした場合、炭化工程での加熱時間は、0.5~4時間、1~3時間又は1.5~2.5時間である。
【0022】
植物として炭化されるイグサの茎の長さは、特に限定されず、例えば、長手方向に0.1~1000mm、1~500mm、10~300mm又は50~80mmである。イグサの茎は、膨潤工程の前後、乾燥工程の後、又は炭化工程の後で任意の長さに切断してもよい。
【0023】
賦活化工程では、炭化した植物を賦活化する。活性炭の製造において公知の賦活化方法を採用すればよい。賦活化工程では、例えば、賦活剤として水蒸気、空気、燃焼ガス若しくは二酸化炭素等を用いるガス賦活法、又は賦活剤として塩化亜鉛、リン酸若しくはアルカリ性物質等の繊維質を侵食する薬品を用いる薬品賦活法によって植物を賦活化すればよい。好ましくは、薬品賦活法、特には強アルカリを用いたアルカリ賦活法が用いられる。アルカリ賦活法で使用するアルカリ性物質は、例えばアルカリ金属の水酸化物、具体的には水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等である。賦活化工程では、炭化した植物を、マイクロ波加熱法を用いて賦活化してもよい。
【0024】
アルカリ賦活法による賦活化工程では、炭化した植物とアルカリ性物質とを混合し、空気を断って500~1200℃、600~1100℃又は700~1000℃、好ましくは750~850℃に加熱する。好ましくは、賦活化工程では、不活性ガス雰囲気下で炭化した植物とアルカリ性物質との混合物が加熱される。賦活化工程における加熱は、温度を段階的に上昇させてもよい。段階的に温度を上昇させる場合、室温から開始し、例えば、一定時間の200℃及び500℃を経て、800~1000℃に加熱すればよい。賦活化工程における加熱の時間は、適宜設定されるが、例えば、60~500分、80~400分、100~300分、120~220分、150~200分又は160~190分である。
【0025】
炭化された植物には、賦活化工程によって細孔が形成され、活性炭が得られる。賦活化工程の後、活性炭を水等で洗浄してもよい。特に賦活剤として薬品を用いた場合、活性炭を十分に洗浄するのが望ましい。
【0026】
本実施の形態に係る活性炭は、膨潤工程によって植物が膨潤しているため、賦活剤が植物内部に入り込み易く、植物と賦活剤との接触面積が大きくなる。これにより、本実施の形態に係る製造方法で得られた活性炭は、より大きい比表面積を有し、細孔容積が大きくなる。
【0027】
本実施の形態に係る製造方法において、植物としてイグサの茎を用いて得られるイグサ活性炭は、例えば2100m2/g以上、2200m2/g以上、2300m2/g以上、2400m2/g以上又は2500m2/g以上の比表面積を有する。本実施の形態に係るイグサ活性炭は、好ましくは2100~3200m2/g、2200~3100m2/g、好ましくは2300~3000m2/g、2400~3000m2/g、2200~2700m2/g又は2500~2700m2/gの比表面積を有する。
【0028】
また、本実施の形態に係るイグサ活性炭は、例えば1.1mL/g以上、1.2mL/g以上、1.3mL/g以上又は1.4mL/g以上の細孔容積を有する。当該イグサ活性炭は、好ましくは1.0~1.8mL/g、好ましくは1.2~1.7mL/g又は1.4~1.6mL/gの細孔容積を有する。
【0029】
活性炭の比表面積は、透過法及びガス吸着法等の公知の方法で測定できる。気体吸着法の場合、物理吸着法又は化学吸着法で活性炭の比表面積を測定できる。細孔容積も公知の方法で評価でき、例えばガス吸着法で細孔容積を求めることができる。また、BJH法及びMP法等の細孔分布計算結果から細孔容積を求めてもよい。
【0030】
本実施の形態に係る活性炭の用途は多岐に渡り、廃水又は廃ガス等の処理及び砂糖等の脱色及び精製等に使用できる他、水質浄化材、電極材料、電気二重層キャパシタ、低帯電材料、補強材料、溶剤回収材、セシウム吸着剤、ヨウ素吸着剤及び硫化水素吸着剤等に使用できる。
【0031】
本実施の形態に係る活性炭は、用途に応じて、例えば、粉末状にしてもよいし、破砕してもよい。また、粉末状の活性炭を任意の形状に加工してもよい。
【実施例0032】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は当該実施例によって限定されるものではない。
【0033】
泥染めしたイグサの茎を水に曝す(水)又は蒸す(蒸気)ことで膨潤させた。水に曝す場合、イグサの茎を長さ15~20cm程度に切断し、束にした。続いて約15~30分間、イグサの切断面(イグサの茎の長さ方向の一端及び他端)に十分に流水を当てた。蒸す場合、イグサの茎を長さ5~7cm程度に切断し、束にした。続いてイグサの切断面を長くて約30分間、蒸気に曝すことでイグサの茎を蒸した。
【0034】
膨潤させたイグサの茎を1~2日かけて自然乾燥させた。乾燥後、1~2cmの長さに切断したイグサの茎の質量を測定し、蓋付ステンレス容器に入れてステンレス容器を密閉して電気炉内に設置した。イグサの茎を600℃に2時間保持して炭化した。昇温速度は5℃/分とした。炭化物を放冷後、質量を測定した。
【0035】
水酸化カリウムを用いて炭化物をアルカリ賦活した。炭化物の質量に対して4倍の質量の固体の水酸化カリウムを粗粉砕し、炭化物と水酸化カリウムとを混合して蓋付ステンレス容器に入れ、ロータリーキルンの炉心管内に設置した。キルンを回転させずに、窒素ガスを約400mLの流量で流しながら、室温から30分で200℃、200℃で1時間保持、200℃から30分で500℃、500℃で1時間保持、500℃から1時間で800℃、800℃で賦活時間100分又は180分の順序で炭化物を熱処理した。その後、40分~1時間放冷して、炭化物を賦活化した試料を得た。
【0036】
試料を1L程度の蒸留水に浸漬し、撹拌した後、吸引濾過によって試料を分離した。ろ紙上で3L以上の蒸留水で十分に試料を洗浄した。濾液が中性であることをpH試験紙で確認した後、試料を回収した。試料を115℃で乾燥した。
【0037】
試料を粉砕し、実施例1~5を得た。なお、実施例4及び実施例5は、それぞれイグサに代えて七島藺及び茎の直径が比較的大きいイグサの品種を用いて調製したものである。実施例1~5について、マイクロラックベル社製のBELSORP-miniIIを用いて、77Kで窒素吸着等温線を測定し、相対圧約0.01~約0.1の範囲にBET理論を適用して比表面積を求めた。また、相対圧0.959のときの窒素吸着量から実施例1~5の細孔容積を得た。細孔が円筒状であると仮定し、実施例1~5の平均細孔直径を次の式から求めた。
平均細孔直径=4×細孔容積/比表面積
【0038】
比較対照として、イグサの茎を空気下で炭化した炭化物を同様にアルカリ賦活した試料(比較例1)、植物の葉を空気下250~300℃で炭化した炭化物を同様にアルカリ賦活した試料(比較例2)、及び電気炉内にて1000℃で炭化した炭化物を同様にアルカリ賦活した試料(比較例3)についても同様に比表面積等を評価した。結果を表1に示す。
【0039】
【0040】
膨潤工程を行った実施例1~5では、膨潤工程を行っていない比較例1~3よりも高い比表面積が得られた。
【0041】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等な発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。