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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015416
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】瘻孔治療用材料
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/22 20060101AFI20230125BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230125BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230125BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230125BHJP
   C07K 14/50 20060101ALN20230125BHJP
【FI】
A61K38/22
A61K47/42
A61K9/06
A61P1/04
A61P13/10
A61P13/02
A61P17/00
A61K9/14
C07K14/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019238614
(22)【出願日】2019-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】513001606
【氏名又は名称】EAファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】田畑 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】山多 洋司
(72)【発明者】
【氏名】西尾 光
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA29
4C076BB21
4C076BB29
4C076BB30
4C076CC16
4C076CC17
4C076CC30
4C076EE42P
4C076EE47P
4C076FF35
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084DB54
4C084MA27
4C084MA43
4C084MA56
4C084MA60
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA66
4C084ZA81
4C084ZC03
4H045AA10
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA01
4H045EA20
4H045EA34
4H045FA71
(57)【要約】
【課題】より優れた治療効果を発揮し得る新規瘻孔治療用材料を提供すること。
【解決手段】塩基性線維芽細胞増殖因子を含有するゼラチンハイドロゲル架橋ゼラチンゲルを含む瘻孔治療用材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性線維芽細胞増殖因子を含有する架橋ゼラチンゲルを含む瘻孔治療用材料。
【請求項2】
瘻孔が、腸管腸管瘻、直腸膀胱瘻、直腸膣瘻、腸管皮膚瘻又は痔瘻に関連する、請求項1に記載の瘻孔治療用材料。
【請求項3】
瘻孔が、自己免疫疾患患者の痔瘻に関連する、請求項1又は2に記載の瘻孔治療用材料。
【請求項4】
医薬品、医薬部外品又は医療機器として用いられる、請求項1~3のいずれか1項に記載の瘻孔治療用材料。
【請求項5】
形状が粒子状である、請求項1~4のいずれか1項に記載の瘻孔治療用材料。
【請求項6】
粒子の大きさがモード径50~300μmである、請求項5に記載の瘻孔治療用材料。
【請求項7】
哺乳動物体内において10日から21日間残存する、請求項1~6のいずれか1項に記載の瘻孔治療用材料。
【請求項8】
瘻孔治療用材料が瘻孔内に投与される、請求項1~7のいずれか1項に記載の瘻孔治療用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、瘻孔治療用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内には、管腔臓器と皮膚との間、あるいは管腔臓器間である管と管とに生じる管状の欠損である瘻孔が生じることがある。生体内部環境で生じる瘻孔を内瘻といい、生体外部と孔が通じている瘻孔を外瘻という。
瘻孔は、腸管と腸管との間で通孔が生じる腸管腸管瘻、直腸と膀胱との間で通孔が生じる直腸膀胱瘻、直腸と膣との間で通孔が生じる直腸膣瘻、腸管と皮膚との間で通孔が生じる腸管皮膚瘻又は直腸と肛門との間で通孔が生じる痔瘻等に関連して生じる。
【0003】
瘻孔の中でも、痔瘻は、直腸と肛門周辺の皮膚との間に通孔ができる痔のことであり、疾病や感染の結果として生じ得ると考えられている。痔瘻においては、例えば、粘液を出す肛門腺が詰まり、そのために直腸から肛門部位の皮膚表面に向かう濃瘍が形成された場合に、痔瘻が生じることがある。また、肛門腺に大腸菌が入り、付近に傷がある場合や、抵抗力が落ちている場合には、感染・化膿して慢性化することにより、肛門周囲膿瘍が進行して痔瘻が生じる。
痔瘻の中でも、クローン病や潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患に関連する痔瘻は、直腸の潰瘍からトンネルができて生じる。通常の痔瘻と比べると複雑な形になることが多く、一般的な痔瘻と比較して複雑化しやすく、再燃を繰り返しやすいのが特徴である。
【0004】
痔瘻等による瘻孔は、シートン法等の外科的処置によって治療することができる。シートン法は、短期入院手術にも対応可能な術式であるものの、瘻孔が深かったり、長かったりすると、治療期間が長期化するといった弊害もある。また、クローン病や潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患に関連する痔瘻では、根治術により肛門括約筋に大きなダメージを与えてしまうと長期的に便失禁等の機能障害を来たすことがあり、この痔瘻を完治することは非常に困難である。
【0005】
一方、特許文献1には、生分解性繊維とコラーゲンからできている新規な瘻管治療材料が開示されている。
また、特許文献2には、塩基性線維芽細胞増殖因子と医薬上許容できるキャリアを含有することを特徴とする痔疾治療剤が開示されている。具体的には、特許文献2においては、痔疾治療剤の用途として、痔疾治療剤を直接痔疾患部に投与して痔疾の治療を行うことや、痔疾手術の効果が不充分である場合に、手術後に痔疾治療剤を直接痔疾患部に投与して痔疾治療を行うことを含むことが記載されている。より詳細には、痔瘻患者に対して、シートン法等による痔瘻根治術の後に、トラフェルミンスプレーを使用したり、トラフェルミンを含むゲルを患部に塗布することが記載されている。
さらに、特許文献3には、塩基性線維芽細胞増殖因子を含有する架橋ゼラチンゲルが開示され、血管新生効果や骨形成作用について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2010/110286号
【特許文献2】特開2004-26808号公報
【特許文献3】国際公開第1994/027630号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に記載される先行技術は、瘻孔の孔表面のみに薬剤を塗布(投与)するものであり瘻孔全体に投与して治療するものではなく、瘻孔の完治を目的とするものではない。
したがって、特許文献1及び2に記載される先行技術では、瘻孔治療用途において、十分に満足のいくものとはいえない。
そこで、より優れた治療効果を発揮し得る新規瘻孔治療用材料が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、塩基性線維芽細胞増殖因子を含有する架橋ゼラチンゲルを、瘻孔治療用材料として用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は以下のとおりである。
[1]塩基性線維芽細胞増殖因子を含有するゼラチンハイドロゲル架橋ゼラチンゲルを含む瘻孔治療用材料。
[2]瘻孔が、腸管腸管瘻、直腸膀胱瘻、直腸膣瘻、腸管皮膚瘻又は痔瘻に関連する、[1]に記載の瘻孔治療用材料。
[3]瘻孔が、自己免疫疾患患者の痔瘻に関連する、[1]又は[2]に記載の瘻孔治療用材料。
[4]医薬品、医薬部外品又は医療機器として用いられる、[1]~[3]のいずれかに記載の瘻孔治療用材料。
[5]形状が粒子状である、[1]~[4]のいずれかに記載の瘻孔治療用材料。
[6]粒子の大きさがモード径50~300μmである、[1]~[5]のいずれかに記載の瘻孔治療用材料。
[7]哺乳動物体内において10日から21日間残存する、[1]~[6]のいずれかに記載の瘻孔治療用材料。
[8]瘻孔治療用材料が瘻孔内に投与される、[1]~[7]のいずれかに記載の瘻孔治療用材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、瘻孔の完治を目的とする新規瘻孔治療用材料を提供することができる。本発明によれば、瘻孔の表面に塗布するにとどまらず、分解されるまで患部に直接とどまることができ治療の効果を格段に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例2におけるin vitroでのbFGF放出結果を示す。
図2】実施例3におけるin vivoにおけるbFGF放出結果を示す。
図3】実施例4における治療効果の結果を示す。
図4】実施例5における治療効果の結果を示す。対照群においては、盲腸からは腸液が漏出するため、治癒が得られないラットではその周辺の毛が剥げ落ちていると考えられた。
図5】実施例6における薬剤投与後14日目の1群の瘻孔面積を100%とした場合の2群及び3群の瘻孔面積率を示す。
図6】実施例6における瘻孔の完全閉鎖の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の瘻孔治療用材料は、塩基性線維芽細胞増殖因子を含有する架橋ゼラチンゲルを含む。
塩基性線維芽細胞増殖因子を含有する架橋ゼラチンゲルとしては、例えば、国際公開第1994/027630号に記載される材料を利用して用いることができる。
【0013】
塩基性線維芽細胞増殖因子は、bFGFとしても知られる物質であって、本発明においては、特に限定されず、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)として公知の物質を用いることができる。
塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)は、脳下垂体、脳、網膜、黄体、副腎、腎、胎盤、前立腺、胸腺等の臓器より抽出されるもの、組換えDNA技術等の遺伝子工学的手法で製造されるものであってもよい。
また、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)は、修飾体であって線維芽細胞増殖因子として作用し得るものを含む。
塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の修飾体としては、例えば、抽出により得られる、あるいは遺伝子工学的手法で得られる塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が付加、置換又は欠失したものが挙げられる。
また、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の修飾体としては、例えば、抽出により得られる、あるいは遺伝子工学的手法で得られる塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)のアミノ酸配列と、70%以上、好ましくは80%以上、90%以上、95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するものが挙げられる。
塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)は、単独で用いてもよいし、混合物として用いてもよい。
【0014】
本発明においては、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の担体として、架橋ゼラチンゲルを用いる。
架橋ゼラチンゲルとは、ゼラチンを原料とし、架橋処理によりゼラチンが架橋網目構造を有しているゲルである。
架橋ゼラチンゲルは、生体内分解吸収性天然高分子であるゼラチンを架橋処理することにより製造される。架橋処理による水不溶化により、架橋ゼラチンゲルは、生体適合性が良く、生体に対する刺激が少ないため、徐放性担体として優れた性質を有する。
塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を架橋ゼラチンゲル中に存在させ、ゼラチンの架橋の程度、架橋ゼラチンゲルの含水率、及びゼラチンの性質(等電点等)などを調整することにより、架橋ゼラチンゲルからの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の所望の徐放速度を達成することができる。
【0015】
本発明においてゼラチンハイドロゲルを作製するために使用されるゼラチンは、天然に得られるものであっても、微生物を用いた発酵法、化学合成、あるいは遺伝子組換え操作により得られるものであってもよい。これらの材料を適当に混合して用いることもできる。天然のゼラチンは、ヒトをはじめ、ブタ、ウシ、サケ、タイ、サメ等の魚類など、種々の動物由来のコラーゲンから、アルカリ加水分解、酸加水分解、及び酵素分解等の種々の処理によって変性させて得ることができる。ゼラチンは、等電点5.0付近のものが好ましい。
【0016】
ゼラチンハイドロゲルは、例えば、牛の骨のコラーゲンを水酸化カルシウムで処理して得たゼラチンに、グルタルアルデヒドなどの架橋剤を加えて重合・ゲル化することによって調製される。その粒状物(acidic gelatin hydrogel microspheres、以下「AGHM」という。)の調製法としては、例えば、国際公開第94/27630号パンフレット(特許文献1)の記載の方法、すなわち、ゼラチン水溶液にオリーブ油などの油剤を加えて200~600rpmで撹拌してW/Oエマルジョンとし、これに架橋剤水溶液を添加する方法、あるいは、予め200~600rpmで撹拌した油剤中にゼラチン水溶液を滴下してW/Oエマルジョンとした後、遠心分離などによってゼラチン粒子を回収、乾燥し、乾燥ゼラチン粒子を架橋剤水溶液に懸濁させてAGHMを得る方法などが例示される。得られたAGHMは減圧乾燥、好ましくは凍結乾燥して使用に供する。製法や原料の相違により、分子量、含水率などの物性において異なる場合があるが、そのいずれでもよい。
【0017】
ゼラチンとしては、特に限定されず、通常入手できるものを用いてよい。
ゼラチンとしては、例えば、等電点4.9アルカリ処理ゼラチン(新田ゼラチン社製)、等電点9.0酸処理ゼラチン(新田ゼラチン社製)等が挙げられる。
ゼラチンは、一種を用いてもよく、溶解性、分子量、等電点及び原料等の物性の異なるゼラチンを複数混合して用いてもよい。
【0018】
ゼラチンを架橋するための架橋剤としては、生体に対して毒性のないものであれば特に限定されず、カルボキシル-アミン架橋剤、アミン反応性架橋剤(イミドエステル架橋剤)、マレイミド活性架橋剤、カルボニル反応性架橋剤、光反応性架橋剤等を適宜使用することができ、例えば、グルタルアルデヒド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド-メト-p-トルエンスルホナート等の水溶性カルボジイミド、ビスエポキシ化合物、ホルマリン等が挙げられる。
架橋剤としては、グルタルアルデヒド及び1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩が好ましい。
ゼラチンの架橋は、熱処理又は紫外線照射等によって行われる。
架橋反応条件は特に限定されず、通常、反応温度は0~40℃、反応時間は0.5~48時間である。
カルボキシル-アミン架橋剤を使用する場合、外来性のカルボニル及びアミンを含有しない条件下で架橋を行うことが好ましい。アミン反応性架橋剤を使用する場合、室温又は低温下で0.5~数時間、リン酸緩衝液等の緩衝液で中性又は弱アルカリ性の条件下で架橋を行うことが好ましい。マレイミド活性架橋剤及びカルボニル反応性架橋剤を使用する場合、中性付近の条件下(pH6.5~7.5)で架橋を行うことが好ましい。
架橋ゼラチンゲルを調製する際のゼラチンと架橋剤の濃度は特に限定されず、通常、溶媒中、ゼラチン濃度1~100w/v%、架橋剤濃度0.01~100w/v%(1~5400mMに相当)である。
【0019】
生吸収性高分子ハイドロゲルは、種々の化学的架橋剤を用いて生体吸収性高分子の分子間に化学架橋を形成させることにより不溶化することができる。化学的架橋剤としては、例えばグルタルアルデヒド、例えばEDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)等の水溶性カルボジイミド、例えばプロピレンオキサイド、ジエポキシ化合物、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、イミダゾール基などの間に化学結合を作る縮合剤を用いることができる。好ましいものは、グルタルアルデヒドである。また、生体吸収性高分子は、熱脱水処理、紫外線、ガンマ線、電子線照射によっても化学架橋することもできる。また、これらの架橋処理を組み合わせて用いることもできる。さらに、塩架橋、静電的相互作用、水素結合、疎水性相互作用などを利用した物理架橋によりハイドロゲルを作製することも可能である。
【0020】
架橋ゼラチンゲルの形状は特に限定されず、例えば円柱状、角柱状、シート状、ディスク状、球状、粒子状等が挙げられる。
円柱状、角柱状、シート状、ディスク状の場合、インプラントとして用いられることが多く、球状、粒子状の場合、注射投与も可能であり、瘻孔へ本発明の瘻孔治療用材料を充填することを考慮すると、架橋ゼラチンゲルの形状は、球状又は粒子状が好ましく、粒子状がより好ましい。
【0021】
形状が球状又は粒子状である架橋ゼラチンゲルは、国際公開第1994/027630号に記載される方法に沿って製造することができる。
架橋ゼラチンゲルは、その平均粒子径が、通常、1~1000μmであり、目的に応じてホモジナイザー等で粉砕してもよく、さらに、メッシュを用いて必要なサイズの粒子となるようにふるい分けてもよい。
【0022】
架橋ゼラチンゲルは、原料であるゼラチンと架橋剤の濃度を変化させることにより所望の含水率とすることができる。含水率を高くするには、ゼラチン濃度、架橋剤濃度共に低くし、逆に含水率を低くするにはゼラチン濃度、架橋剤濃度共に高くすればよい。
架橋ゼラチンゲルの含水率は、通常、50~99w/w%である。
架橋ゼラチンゲルの含水率は、湿潤時のゲル全重量に対するゲル中の水分重量の割合を意味する。
塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を架橋ゼラチンゲルに担持後において、50~99w/w%の含水率としてよい。
【0023】
上記のようにして得られた架橋ゼラチンゲルを減圧乾燥又は凍結乾燥してもよい。
塩基性線維芽細胞増殖因子を含有する架橋ゼラチンゲルは、凍結乾燥した架橋ゼラチンゲルに塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)水溶液を滴下して含浸させるか、架橋ゼラチンゲルを塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)水溶液中に懸濁して再膨潤させることにより得られる。
架橋ゼラチンゲル中の塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の含有量は、架橋ゼラチンゲルの含水率等により適宜設定できるが、通常、架橋ゼラチンゲル1mg当たり0.1~500μgである。
【0024】
塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含有する架橋ゼラチンゲルからの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の徐放期間、bFGFの放出量等は、架橋ゼラチンゲルの含水率、用いたゼラチンの等電点等の物性、製剤に担持されるbFGFの量、投与される部位などの種々の条件により適宜設定し得る。
【0025】
本発明の瘻孔治療用材料は、瘻孔の治療用に用いられるものであり、例えば、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律に規定される医薬品、医薬部外品又は医療機器として利用可能である。
【0026】
瘻孔治療の対象となる瘻孔としては、内瘻や外瘻として知られる管状の欠損が挙げられる。
瘻孔としては、特に限定されず、例えば、腸管腸管瘻、直腸膀胱瘻、直腸膣瘻、腸管皮膚瘻又は痔瘻に関連する瘻孔が挙げられる。
中でも、本発明の瘻孔治療用材料は、痔瘻に関連する瘻孔の治療に好適に用いられる。
なお、例えば、痔瘻に関連する瘻孔という場合の「関連する」という用語は、痔瘻と病態と評価される瘻孔であるという意味で用いられている。
【0027】
潰瘍性大腸炎及びクローン病等の自己免疫疾患を有する患者においては、その17%~50%もの患者において、痔瘻が生じる。自己免疫疾患を基礎疾患として有する患者においては、免疫力の低下に伴い、利用可能な治療に応答しないことが多く、自己免疫疾患患者においては、痔瘻に関連する瘻孔の管理は極めて困難な問題を呈し続けている。
痔瘻に関連する瘻孔やそれらの再発は、自己免疫疾患罹患患者の生活の質を大幅に低下させるとても苦痛を伴う合併症として知られている。
本発明の瘻孔治療用材料は、痔瘻に関連する瘻孔の治療、中でも、自己免疫疾患における痔瘻に関連する瘻孔の治療に好適に用いられる。
【0028】
本発明の瘻孔治療用材料は、腸管腸管瘻、直腸膀胱瘻、直腸膣瘻、腸管皮膚瘻又は痔瘻等の生体内の二つの部位で生じる瘻孔を閉塞させるために用いられるものである。
本発明において、瘻孔治療用材料を用いて瘻孔の治療を行う場合、以下のような治療方法(投与方法)を一例として採用し得る。
例えば、瘻孔治療用材料を適切な媒体に懸濁した注射剤形の製剤を患部に注入する方法、瘻孔治療用材料を糸状、シート状やディスク状としたゲル製剤を患部に留置する方法、あるいは体外より注射器等を用いて疾患部位(痔瘻内又は瘻孔内)に注入する方法等により使用することができる。治療方法(投与方法)としては、瘻孔治療用材料が瘻孔内に投与される方法を採用することが好ましく、注射器等を用いて疾患部位(痔瘻内又は瘻孔内)に注入する方法が好ましい。
本発明の瘻孔治療用材料は、それを必要とする患者に投与する方法において用いられてもよく、瘻孔を有する患者の瘻孔内に投与する方法において用いられてもよい。
より具体的には、外側(体外側)から腸内に向けて瘻孔にチューブを挿入する。その後、腸内側の瘻孔の入り口を塞ぎ、チューブを抜きながら注射器内の瘻孔治療用材料を瘻管内に投与(充填)する。チューブを瘻孔の外側に抜き取ったら、外側の瘻孔を塞ぐ。
瘻孔の閉塞は、医療用細胞接着剤を用いてもよく、外科的におこなってもよく、瘻孔治療用材料からの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の徐放性にも影響されるが、瘻孔治療用材料は、留置や注入した部位において、あるいは疾患部位(痔瘻内又は瘻孔内)において、10日程度(8日から12日)から21日程度(19日から23日)、10日~21日残存していてよく、好ましくは2週間程度(12日から16日)残存して存在していることが好適である。
ここで用いるチューブの形状は、医療現場で採用されるのであれば特に限定されず、瘻孔の孔径に応じて、適宜設定される。
【0029】
本発明の瘻孔治療用材料を注入可能な製剤とする場合には、注射用精製水、生理食塩水、緩衝液などの媒体に適宜懸濁する。緩衝液としては、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液等が挙げられる。
必要に応じて、注射可能な製剤の製造に通常使用される、分散剤、界面活性剤、等張化剤、pH調整剤、無痛化剤、安定化剤、保存剤、着色剤等を適宜配合してもよい。
注射針を通すことで、粒子形状を整粒してもよい。
本発明の瘻孔治療用材料は、疾患部位(痔瘻内又は瘻孔内)に投与する方法が好ましいことから、粒子の大きさは、チューブ内を通過する大きさとすることが好ましく、モード径で、1~500μm、10~300μm、50~300μmであればよい。粒子の大きさを測定する方法は、ふるい分け法、顕微鏡法、沈降法、クロマトグラフィー法等を挙げることができ、モード径を測定する方法であればいずれの方法であってもよい。
【0030】
瘻孔治療用材料の形状は適宜整粒することで整えてよく、必要に応じて、架橋ゼラチンゲルを、例えば、円柱状等のチューブ内に挿入して、円柱状等の形状に整えてから塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を担持してもよい。
【0031】
本発明の瘻孔治療用材料には、必要に応じて、通常痔疾治療剤として用いられている他の有効成分を含有させてもよい。
痔疾治療剤としては、特に限定されず、例えば、酢酸プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン又はベタメサゾンなどの副腎皮質ホルモン剤、例えば、リドカイン又はジブカインなどの局所麻酔剤、例えば、インドメタシン、アスピリン、サリチル酸ナトリウムなどの解熱鎮痛消炎剤、例えば、塩化リゾチーム又はグリチルレチン酸などの消炎剤、例えば、クロタミトン等の鎮痒剤、例えば、フィブリン糊等の組織接着剤、例えば、アラントイン等の創傷治癒剤、例えば、肝油、エルゴカルシフェロール、リボフラビン、塩酸ピリドキシン、トコフェロール又は酢酸トコフェロールなどのビタミン剤、例えば、スルフイソミジン、スルフイソミジンナトリウム、ホモスルファミン又はスルファジアジンなどのサルファ剤、塩酸クロルヘキシジン、セトリミド、塩化デカリニウム又は塩化ベンザルコニウムなどの殺菌剤、例えば、ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミンなどの抗ヒスタミン剤、抗生物質等が挙げられる。
痔疾治療剤としては、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0032】
本発明で用いる剤形は、懸濁剤又はゲル剤として用いることができる。
【実施例0033】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。また、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0034】
実施例1
<bFGFを含有する架橋ゼラチンゲルの調製>
等電点5.0アルカリ処理ゼラチン(新田ゼラチン株式会社製)水溶液(5.0%)40000μLに、80μLのグルタルアルデヒド(ナカライテスク株式会社製)水溶液(25%、最終濃度0.05%に相当)を加えた後、プラスチック製のモールドに流し込み、摂氏4℃で12時間の条件で、架橋反応を行った。その後、架橋ゼラチンゲルを短冊状に細切し、0.1Mのグリシン水溶液1L中、室温で1時間の条件で浸透することによりゼラチンの架橋反応を停止した。ゼラチンゲルを蒸留水1Lへ移し、室温で1時間の条件で洗浄した。得られたゼラチンゲルをホモジナイザーを用いて粉砕し、ふるいに通して直径106~180μmの分画を凍結乾燥し、架橋ゼラチンゲルの細粒を得た。
次に、クロラミン法にて125I標識した1.3μgのbFGF(トラフェルミン(遺伝子組換え)、科研製薬株式会社製)と非標識のbFGF8.7μgとを適量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS、日水製薬株式会社製)で調製し30μLの混合液とし、この混合液を架橋ゼラチンゲルの細粒3.0mgに摂氏4度で18時間の条件で含浸させ、bFGF含有架橋ゼラチンゲルを調製した。
【0035】
実施例2
<bFGFの放出試験(1)>
調製したbFGF含有架橋ゼラチンゲルにCollagenase D(Roch;4ug/mL)を含むPBS(+)750μL添加した。架橋ゼラチンゲルは時間とともに分解され、8時間には完全に分解された。添加から1、2、4及び8時間後における溶液中のRI活性を測定した。Collagenase D添加時のbFGF残存量を100%、8時間後のbFGF残存量を0%とした、in vitroでのbFGF放出結果を図1に示す。
【0036】
実施例3
<bFGFの放出試験(2)>
調製したbFGF含有架橋ゼラチンゲルを雌性ddyマウス(清水実験材料株式会社より購入)の背部皮下に埋入した。投与から1、3、7及び14日後における皮下組織のRI活性を測定することにより、ゲルのin vivoでのbFGF放出能を評価した。架橋ゼラチンゲルは時間とともに分解され、経日的に皮下組織のRI活性は低下した。投与から14日目には完全に分解され、皮下組織におけるRI活性はほぼ完全に消失した。埋入時のRI活性を100%とした、in vivoにおけるbFGF放出結果を図2に示す。
【0037】
参考実施例4
<ラットモデルにおけるbFGF及び架橋ゼラチンゲルの試験>
盲腸皮膚瘻に対するbFGF及び架橋ゼラチンゲルの効果を評価した。
bFGFを適量の生理食塩水(大塚生食注)で調製し、10μgの用量で用いた(bFGF群)。架橋ゼラチンゲルは、大塚生食注を架橋ゼラチンゲルの細粒に摂氏4度で18時間の条件で含浸させて調製した(架橋ゼラチンゲル群)。対照群として、大塚生食注を使用した(対照群)。
7週齢の雄性Wistar系ラット(日本クレア株式会社より購入)を1週間順化後に使用した。12時間交替の明暗サイクル下に、自由摂餌及び飲水条件にて飼育した。瘻孔の動物モデルとしては、ラットに腸管皮膚瘻を形成したモデルラットを用いた。
腸管皮膚瘻はラット腹部の筋層及び皮膚に作製した瘻から露呈した盲腸に小切開を加え、皮膚開放部と縫合することにより作製した。
bFGF群、架橋ゼラチンゲル群、及び対照群共に、腸管皮膚瘻の周辺皮下に注射投与した。
腸管皮膚瘻を作製後1日目及び14日目に腸管皮膚瘻を評価した。治療効果は14日目における盲腸皮膚瘻の完全閉鎖によって判定し、各群における完全閉鎖達成率として評価した。結果を図3に示す。
対照群、bFGF群、架橋ゼラチンゲル群いずれにおいても、腸管皮膚瘻作成後14日目における完全閉鎖達成率は0%であり、bFGF及び架橋ゼラチンゲルによる治療効果は認められなかった。
【0038】
実施例5
<ラットモデルにおけるbFGF含有架橋ゼラチンゲルの試験>
盲腸皮膚瘻に対するbFGF含有架橋ゼラチンゲルの効果を評価した。
薬剤投与群として、実施例1にて調整したbFGFを10μg含むbFGF含有架橋ゼラチンゲル(bFGF含有ゼラチンゲル群)、対照群として参考実施例4と同様に調製した大塚生食注を含浸させたbFGF非含有架橋ゼラチンゲルを用い(対照群)、腸管皮膚瘻に対する治療効果を評価した。
bFGF含有架橋ゼラチンゲルは、10μgのbFGFを適量の生理食塩水(大塚生食注)で調製し、10mgの架橋ゼラチンゲルに実施例1と同条件で含侵させて調整した。
ラット腸管皮膚瘻の作製及び評価は参考実施例4と同様に行った。
結果を図4に示す。
腸管皮膚瘻作製後14日目における完全閉鎖達成率は、対照群では0%であったのに対し、bFGF含有ゼラチンゲル群では67%であった。
図4に示す結果より、bFGF含有架橋ゼラチンゲルは瘻孔に対して著明な治療効果を有することが認められた。
【0039】
実施例6
<ウサギモデルにおけるbFGF含有架橋ゼラチンゲル及び架橋ゼラチンゲルの試験>
痔瘻に対するbFGF含有架橋ゼラチンゲル及び架橋ゼラチンゲルの効果を評価した。
bFGF含有架橋ゼラチンゲルは、100μgのbFGFを適量の生理食塩水(大塚生食注)で調製し、5mgの架橋ゼラチンゲルに実施例1と同条件で含侵させて調整した。架橋ゼラチンゲルは、大塚生食注を架橋ゼラチンゲルの細粒に摂氏4度で18時間の条件で含浸させて調製した。
10週齢の雌性Kbl:JW系ウサギ(オリエンタル酵母工業株式会社より購入)を1週間順化後に使用した。12時間交替の明暗サイクル下に、自由摂餌及び飲水条件にて飼育した。瘻孔の動物モデルとしては、ウサギに痔瘻を形成したモデルウサギを用いた。
痔瘻はウサギ肛門部から注射針を用いて皮膚に向かって穿通し、6週間結束バンドにて瘻孔形成を促すことにより作製した。6週後に結束バンドを除去し、痔瘻内を掻爬した後に痔瘻の腸粘膜周辺を縫合して閉鎖し、痔瘻の皮膚側より架橋ゼラチンゲルあるいはbFGF含有架橋ゼラチンゲルを投与した。その後、痔瘻の皮膚側を縫合して閉鎖し、縫合部周辺皮膚側に架橋ゼラチンゲルあるいはbFGF含有架橋ゼラチンゲルを塗布した。
【0040】
【表1】
【0041】
薬剤投与後14日目の1群の瘻孔面積を100%とした場合の2群及び3群の瘻孔面積率を算出した。結果を図5に示す。さらに、各個体の痔瘻の完全閉鎖を判定した。結果を図6に示す。
薬剤投与後14日目における瘻孔面積率は、2群では2%であり、3群では32%であった。
各個体の痔瘻の完全閉鎖は、1群及び3群では、いずれの個体においても確認されなかったが、2群では、1/3の個体において確認された。
図5及び図6に示す結果より、bFGF含有架橋ゼラチンゲルの痔瘻周辺皮膚投与により、治癒促進作用を有することが認められた。また、bFGF含有架橋ゼラチンゲルの痔瘻内投与により、完全閉鎖が認められる等、痔瘻周辺皮膚投与よりもより顕著な治癒促進作用を有することが認められた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6