(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154160
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】地震予測方法及び地震予測装置
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20060101AFI20231012BHJP
【FI】
G01V1/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063282
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】598069423
【氏名又は名称】株式会社オプテージ
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【弁理士】
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(72)【発明者】
【氏名】藤縄 幸雄
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE02
2G105MM03
(57)【要約】
【課題】前兆現象の発生有無を的確に判定することを可能とする地震予測方法を提供する。
【解決手段】地震予測方法は、観測点毎の地震波観測データを取得する取得処理工程と、所定の評価期間に取得された観測点毎の地震波観測データに基づいて、地震の発生前に起こる前兆現象の発生状況を判定するデータ処理工程とを有する。データ処理工程は、複数の区分期間の各々において、地震波イベントの発生数を計数し、その発生数と異常判定閾値とを比較することで異常観測点を特定し、異常観測点の総数を示す総スコアを算出するスコア算出工程と、スコア算出工程により算出された区分期間毎、計数期間毎及び種類毎の総スコアと、総スコアの変化量とに基づいて、前兆現象の発生状況を判定する前兆現象判定工程とを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の観測点でそれぞれ観測された地震波観測データを取得する取得処理工程と、
所定の評価期間に取得された前記観測点毎の前記地震波観測データに基づいて、地震の発生前に起こる前兆現象の発生状況を判定するデータ処理工程とを有し、
前記データ処理工程は、
前記評価期間が分割された複数の区分期間の各々において、前記地震波観測データに含まれる複数の種類の地震波イベントの発生数を、前記区分期間が分割された計数期間毎、前記観測点毎及び前記種類毎に計数し、前記計数期間毎、前記観測点毎及び前記種類毎に計数された前記発生数と、前記観測点毎及び前記種類毎に設定された異常判定閾値とを前記観測点単位及び前記種類単位でそれぞれ比較することで前記発生数が前記異常判定閾値を超える前記観測点を異常観測点として計数期間毎及び前記種類毎に特定し、前記計数期間における前記異常観測点の総数を示す総スコアを計数期間毎及び前記種類毎に算出するスコア算出工程と、
前記スコア算出工程により算出された前記区分期間毎、前記計数期間毎及び前記種類毎の前記総スコアと、前記総スコアの変化量とに基づいて、前記前兆現象の発生状況を判定する前兆現象判定工程とを有する、
地震予測方法。
【請求項2】
前兆現象判定工程は、
複数の前記区分期間の各々において、前記計数期間毎の前記総スコアの代表値を示す総スコア代表値と、前記計数期間毎の前記変化量の代表値を示す変化量代表値とを前記種類毎に判別し、前記総スコア代表値及び前記変化量代表値に対して定められた前記前兆現象の検知条件を用いて、前記前兆現象の発生状況を判定する、
請求項1に記載の地震予測方法。
【請求項3】
前兆現象判定工程は、
前記検知条件として、前記前兆現象を検知してから前記地震が発生するまでの時間間隔にそれぞれ対応付けられた複数段階の前記検知条件を用いて、前記区分期間毎及び前記種類毎の前記総スコア代表値及び前記変化量代表値がいずれの前記段階の前記検知条件を満たしているか否かに基づいて、前記前兆現象を前記段階毎に検知することで、前記前兆現象の発生状況を判定する、
請求項2に記載の地震予測方法。
【請求項4】
前記前兆現象判定工程は、
前記前兆現象を検知したときの前記総スコア代表値及び前記変化量代表値を判別した判別時間と、前記前兆現象を検知したときの前記段階の前記検知条件に対応付けられた前記時間間隔とに基づいて、前記地震の発生時期を予測する時期予測工程と、
前記前兆現象を検知したときの前記異常観測点の位置に基づいて、前記地震の発生位置を予測する位置予測工程と、
前記前兆現象を検知したときの前記異常観測点の総数又は分布範囲に基づいて、前記地震の発生規模を予測する規模予測工程とを有する、
請求項3に記載の地震予測方法。
【請求項5】
前記データ処理工程の前に、前記異常判定閾値を前記観測点毎及び前記種類毎に設定する閾値設定工程を有し、
前記閾値設定工程は、
前記地震波観測データに含まれる複数の前記種類の前記地震波イベントの発生数を、前記評価期間が前記計数期間よりも短く分割された単位期間毎、前記観測点毎及び前記種類毎に計数し、
前記単位期間毎、前記観測点毎及び前記種類毎に計数された前記発生数に対して所定のノイズ除去処理及び統計処理を行うことにより、前記発生数の統計値を前記観測点毎及び前記種類毎に算出し、
前記観測点毎及び前記種類毎に算出された前記統計値に基づいて、前記異常判定閾値を前記観測点毎及び前記種類毎に設定する、
請求項1に記載の地震予測方法。
【請求項6】
前記データ処理工程は、
前記計数期間よりも短い判定周期に基づく判定期間が経過する毎に、前記スコア算出工程及び前記前兆現象判定工程を繰り返し実行する、
請求項1に記載の地震予測方法。
【請求項7】
コンピュータであって、
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の地震予測方法が有する各工程を行う制御部を備える、
地震予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震予測方法及び地震予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から地震(例えば、M6クラスやM7クラスの大規模地震)の発生前には、前兆現象が起きることが知られており、この前兆現象を捉えることで地震の発生を予測する地震予測方法が開発されている。例えば、特許文献1には、各区画内で発生した微弱地震の日別の地震発生回数を観測し、その地震発生回数が異常な地震発生回数の閾値を超えた場合に地震が発生すると予測する地震予測方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された地震予測方法では、いずれかの区画の地震発生回数が閾値を超えたか否かに基づいて、地震の発生前に起こる前兆現象の発生有無が判定されるものである。そのため、特許文献1に開示された地震予測方法では、局地的に頻発する微弱地震を地震の前兆現象として捉えるものであるが、微弱小地震の発生状況について、空間的な広がり具合や時系列での傾向を考慮したものではなかった。さらに、このような微弱地震は、大規模地震に先行して発生する確率が少ないことから、実用的ではないと考えられる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、前兆現象の発生有無を的確に判定することを可能とする地震予測方法及び地震予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであって、本発明の一実施形態に係る地震予測方法は、
複数の観測点でそれぞれ観測された地震波観測データを取得する取得処理工程と、
所定の評価期間に取得された前記観測点毎の前記地震波観測データに基づいて、地震の発生前に起こる前兆現象の発生状況を判定するデータ処理工程とを有し、
前記データ処理工程は、
前記評価期間が分割された複数の区分期間の各々において、前記地震波観測データに含まれる複数の種類の地震波イベントの発生数を、前記区分期間が分割された計数期間毎、前記観測点毎及び前記種類毎に計数し、前記計数期間毎、前記観測点毎及び前記種類毎に計数された前記発生数と、前記観測点毎及び前記種類毎に設定された異常判定閾値とを前記観測点単位及び前記種類単位でそれぞれ比較することで前記発生数が前記異常判定閾値を超える前記観測点を異常観測点として前記種類毎に特定し、前記計数期間における前記異常観測点の総数を示す総スコアを前記種類毎に算出するスコア算出工程と、
前記スコア算出工程により算出された前記区分期間毎、前記計数期間毎及び前記種類毎の前記総スコアと、前記総スコアの変化量とに基づいて、前記前兆現象の発生状況を判定する前兆現象判定工程とを有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施形態に係る地震予測方法によれば、スコア算出工程が、評価期間が分割された複数の区分期間の各々において、地震波観測データに含まれる複数の種類の地震波イベントの発生数を、区分期間が分割された計数期間毎、観測点毎及び種類毎に計数し、計数期間毎、観測点毎及び種類毎に計数された発生数と、観測点毎及び種類毎に設定された異常判定閾値とを観測点単位及び種類単位でそれぞれ比較することで発生数が異常判定閾値を超える観測点を異常観測点として計数期間毎及び種類毎に特定し、計数期間における異常観測点の総数を示す総スコアを計数期間毎及び種類毎に算出し、前兆現象判定工程が、スコア算出工程により算出された区分期間毎、計数期間毎及び種類毎の総スコアと、総スコアの変化量とに基づいて、前兆現象の発生状況を判定する。そのため、地震波イベントの発生状況について、総スコアには、空間的な広がり具合が反映されるとともに、総スコアの変化量には、時系列での傾向が反映されるので、前兆現象の発生有無を的確に判定することができる。
【0008】
上記以外の課題、構成及び効果は、後述する発明を実施するための形態にて明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る地震予測システム1の一例を示す全体構成図である。
【
図2】本実施形態に係る地震予測装置3の一例を示すブロック図である。
【
図3】本実施形態に係る所定の評価期間における観測点毎の地震波観測データと、各期間(評価期間、区分期間、計数期間、移動平均期間、単位期間)との関係を示す図である。
【
図4】本実施形態に係るデータ処理部312(スコア算出部3120)の一例を示す機能説明図である。
【
図5】本実施形態に係るデータ処理部312(スコア算出部3120及び前兆現象判定部3121)の一例を示す機能説明図である。
【
図6】本実施形態に係るデータ処理部312(前兆現象判定部3121)の一例を示す機能説明図である。
【
図7】本実施形態に係るデータ処理部312(時期予測部3121A)の一例を示す機能説明図である。
【
図8】本実施形態に係るデータ処理部312(位置予測部3121B及び規模予測部3121C)の一例を示す機能説明図である。
【
図9】地震予測装置3の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図10】地震予測装置3の動作の一例を示すフローチャート(
図9の続き)である。
【0010】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0011】
(地震予測システム1の構成)
図1は、本実施形態に係る地震予測システム1の一例を示す全体構成図である。地震予測システム1は、複数の観測点Opに設置された地震計で構成される地震観測網2と、ネットワーク4を介して地震観測網2に接続可能な地震予測装置3とを備える。ネットワーク4は、有線通信又は無線通信により各種のデータや信号を通信するものであり、任意の通信規格が用いられる。
【0012】
地震観測網2は、複数の観測点Opにそれぞれ設置された複数の地震計21と、複数の観測点Op(地震計21)でそれぞれ観測された地震波を地震波観測データとして収集し、その地震波観測データを外部装置(地震予測装置3等)に提供するデータセンタ22とを備える。地震計21は、例えば、観測井戸に設置されたボアホール型の地震計で構成される。データセンタ22は、例えば、複数の観測点Op(地震計21)から地震波観測データをネットワーク4を介して収集するとともに、地震波観測データをプッシュ方式又はプル方式にてネットワーク4を介して外部装置(地震予測装置3等)に提供する。地震波観測データは、例えば、サンプリング周波数100Hz以上の連続波形を記録したデジタルデータであり、観測点Opの識別情報や位置情報等が含まれる。
【0013】
なお、地震観測網2の具体例としては、国立研究開発法人防災科学技術研究所の高感度地震観測網(Hi-net)や海底地震津波観測網等で挙げられるが、これらに限られない。また、観測点Opの配置間隔は、一律であることを必須としないが、例えば、20km程度の配置間隔で分散配置されていることが好ましい。
【0014】
地震予測装置3は、例えば、汎用又は専用のコンピュータで構成される。地震予測装置3は、地震観測網2から地震波観測データを観測点毎に取得し、所定の観測域に含まれる観測点毎の地震波観測データに基づいて、地震(本震)の発生前に起こる前兆現象(小規模微小地震及び高周波微動)の発生状況を判定する。地震予測装置3では、地震の発生前に起こる前兆現象として、主に、地殻破壊直前に破壊面で発生するスロースリップやこれに伴う微小クラックの発生状況を判定(推定)するものである。そして、地震予測装置3は、前兆現象の発生状況から地震の発生時期、発生位置(例えば、震央等)、発生規模(例えば、マグニチュード等)を予測する。
【0015】
(地震予測装置3の構成)
図2は、本実施形態に係る地震予測装置3の一例を示すブロック図である。地震予測装置3は、具体的なハードウェア構成として、
図2に示すように、HDD、SDD、メモリ等により構成される記憶部30と、CPU、MPU、GPU等のプロセッサにより構成される制御部31と、ネットワーク4との通信インターフェースとして機能する通信部32と、マウス、キーボード等により構成される操作部33と、ディスプレイ等により構成される表示部34とを備える。
を備える。
【0016】
記憶部30には、データベース300と、地震予測プログラム301とが記憶されている。
【0017】
データベース300は、例えば、観測点毎の地震波観測データと、データ処理部312にて参照される各種の設定データと、データ処理部312による各種の処理結果である解析データとが登録可能な記憶手段である。
【0018】
地震波観測データは、地震観測網2から取得したものであり、例えば、観測点毎に時系列順に登録される。設定データには、例えば、異常判定閾値、地震波イベントの特徴量、ピークスコア閾値、最大速度閾値、前兆現象検知条件等が登録される。解析データには、地震波イベントの発生数の計数結果、異常観測点の特定結果、総スコアの算出結果、前兆現象の判定結果、地震の予測結果(発生時期、発生位置、発生規模)等が登録される。なお、設定データ及び解析データに含まれる各データの詳細は後述するが、設定データ及び解析データは、表示部34に表示可能であり、設定データは、操作部33による入力操作を介して編集可能である。また、データベース300は、上記以外のデータが登録可能であってもよい。
【0019】
地震波イベントは、スロースリップに伴って観測される地震動であり、周波数帯が高く、かつ、継続時間が短い現象(小規模微小地震及び高周波微動)を表すものである。具体的には、地震動の周波数帯が、例えば、1~80Hz、より好ましくは2~40Hzであり、地震動の継続時間が、例えば、60秒以内、より好ましくは30秒以内のように、極めて短く、地震動の振幅(加速度成分)の最大値が、例えば、1.0μm/s以下、より好ましくは0.5μm/s以下のように、極めて小さな揺れとして特徴付けられる現象を表し、その現象を特徴付ける特徴量により定義される。また、地震波イベントは、低周波微動(Obara, K., H. Hirose, F. Yamamizu, and K. Kasahara, Episodic slow slip events accompanied by non-volcanic tremors in southwest Japan subduction zone, Geophys. Res. Lett. 31)と呼ばれる現象に比べて、周波数帯が高く、かつ、継続時間が短い現象を表すことが好ましい。
【0020】
地震波イベントは、特徴量が異なる複数の種類(以下「イベント種類」という)の地震波イベントが定義される。本実施形態では、地震波イベントは、後述する第1乃至第6の地震波イベント、すなわち、6種類の地震波イベントである場合について説明するが、イベント種類の数や定義は適宜変更してもよい。
【0021】
第1の地震波イベント(近地極微小地震)は、P波とS波が明瞭に観測される地震であり、微小地震よりも地震動の振幅が小さい地震(振幅0.5μm以下)である。
【0022】
第2の地震波イベント(遠地極微小地震)は、P波が観測されないような遠地を震源とする地震であり、微小地震よりも地震動の振幅が小さい地震(振幅0.5μm以下)である。
【0023】
第3の地震波イベント(紐型の近地高周波的地震)は、地震波の波形が紐状で、継続時間が10秒を超える程度の長さを有する高周波微動である。第3の地震波イベントの周波数帯は、2~40Hz程度であり、ピーク周波数は、3~20Hzで程度である。
【0024】
第4の地震波イベント(群発型の近地高周波的微動)は、他の地震波イベントに比べて地震動の振幅の変動が大きい高周波微動である。第4の地震波イベントのピーク周波数は、3~20Hzで程度である。
【0025】
第5の地震波イベント(遠地高周波的微動)は、やや遠地の高周波的地震(微動)で、高周波成分が減衰し、低周波成分が卓越しているような高周波微動である。第5の地震波イベントは、高周波成分が減衰し、低周波成分が卓越しており、継続時間は10数秒程度である。第5の地震波イベントのピーク周波数は、4~5Hz程度である。
【0026】
第6の地震波イベント(複合高周波的微動)は、第3の地震波イベントの変形であり、継続時間が最も長く(30秒)、振幅の変動が極めて小さい高周波微動である。
【0027】
制御部31は、記憶部30に記憶された地震予測プログラム301を実行することにより、取得処理部310、閾値設定部311、データ処理部312、及び、出力処理部313として機能する。また、データ処理部312は、スコア算出部3120、及び、前兆現象判定部3121として機能するとともに、前兆現象判定部3121は、時期予測部3121A、位置予測部3121B、及び、規模予測部3121Cとして機能する。
【0028】
取得処理部310は、複数の観測点Opでそれぞれ観測された地震波観測データを取得する。例えば、取得処理部310は、所定の取得周期(例えば、1時間)で、その取得周期に基づく取得期間に観測された観測点毎の地震波観測データを逐次取得し、その取得した観測点毎の地震波観測データをデータベース300に逐次登録することで、データベース300には、観測点毎の連続波形が蓄積される。なお、取得処理部310は、各観測点Opの地震波観測データをデータセンタ22からまとめて取得することを基本とするが、各地震計21から直接取得してもよい。
【0029】
閾値設定部311は、データ処理部312にて前兆現象の発生状況を判定する所定のデータ処理を行う前に、そのデータ処理にて用いられる異常判定閾値を設定する。そして、閾値設定部311は、その観測点毎の異常判定閾値を設定データとしてデータベース300に登録することで、データ処理部312により参照される。異常判定閾値を設定するときの具体的な工程(閾値設定工程)は後述する。
【0030】
データ処理部312は、所定の評価期間に取得された観測点毎の地震波観測データに基づいて、地震の発生前に起こる前兆現象の発生状況を判定する。例えば、データ処理部312は、データベース300に登録された、評価期間における観測点毎の地震波観測データと、設定データ(観測点毎の異常判定閾値等)とを参照し、データ処理を行うことで前兆現象の発生状況を判定する。前兆現象の発生状況を判定するときの具体的な工程(データ処理工程)は後述する。
【0031】
図3は、本実施形態に係る所定の評価期間における観測点毎の地震波観測データと、各期間(評価期間、区分期間、計数期間、移動平均期間、単位期間)との関係を示す図である。
【0032】
本実施形態における観測点毎の地震波観測データは、
図3に示すように、所定の観測域に含まれる20箇所の観測点Op(Op1~Op20)にて観測された地震波観測データである。また、本実施形態の各期間として、評価期間は、2か月間である。区分期間(Pe1~Pe12)は、評価期間が12個に分割されたものであり、区分期間(Pe1~Pe12)の各々は5日間である。計数期間(Ct1~Ct10)は、区分期間が10個に分割されたものであり、計数期間(Ct1~Ct10)の各々は12時間である。移動平均期間は、区分期間(5日間)よりも短く設定されたものであり、3日間である。単位期間は、評価期間(2か月間)が計数期間(12時間)よりも短く分割されたものであり、1時間である。なお、観測域の広さや形状、観測点Opの数や分布、各期間(評価期間、区分期間、計数期間、移動平均期間、単位期間)の長さは、上記の例に限られず、適宜変更してもよい。
【0033】
(閾値設定工程の詳細)
閾値設定部311は、地震波観測データに含まれる複数の種類の地震波イベントの発生数(以下「イベント発生数」という)を、単位期間(例えば、1時間)毎、観測点毎及びイベント種類毎に計数する。具体的には、閾値設定部311は、計数対象となる単位期間及び観測点における地震波観測データに対して、計数対象となる地震波イベントの特徴量(周波数、継続時間、振幅等)に一致又は類似するようなイベント発生期間を検索し、その結果発見されたイベント発生期間に含まれる一連の連続波形を「1」としてカウントすることで、単位期間におけるイベント発生数を計数する。そして、閾値設定部311は、上記のように、計数対象となる単位期間及び観測点における地震波観測データに対して計数対象の地震波イベントのイベント発生数を計数する処理を、単位期間毎、観測点毎及びイベント種類毎にそれぞれ行う。
【0034】
次に、閾値設定部311は、上記のように、単位期間毎、観測点毎及びイベント種類毎に計数されたイベント発生数Eij(t1h)(iは観測点、jは地震波イベントの種類を示す)に対して所定のノイズ除去処理及び統計処理を行うことにより、発生数の統計値を観測点毎及びイベント種類毎に算出し、観測点毎及びイベント種類毎に算出された統計値に基づいて、異常判定閾値を観測点毎及びイベント種類毎に設定する。
【0035】
具体的には、閾値設定部311は、ノイズ除去処理の一例として、イベント発生数Eij(t1h)に対して移動平均期間(例えば、3日間)による移動平均値Dij(t1h)を算出し、単位期間毎、観測点毎及びイベント種類毎に算出された移動平均値Dij(t1h)を、計数期間(例えば、12時間)毎に平滑化発生数Xij(t12h)として集計する。移動平均値を用いることで日周期等の環境ノイズが除去される。そして、閾値設定部311は、統計処理の一例として、計数期間毎、観測点毎及びイベント種類毎に集計された平滑化発生数Xij(t12h)に対して評価期間の平均値Aij及び標準偏差σij(発生数の統計値)を算出し、以下の(1)式により、観測点毎及びイベント種類毎に算出された平均値Aij及び標準偏差σijに基づいて、異常判定閾値Nijを観測点毎及びイベント種類毎に設定する。
【0036】
異常判定閾値: Nij=Aij+λ・σij (1)
【0037】
ただし、(1)式において、添え字iは観測点、添え字jは地震波イベントの種類を表す。λは、係数であり、適宜調整される。なお、イベント発生数に対するノイズ除去処理及び統計処理は、上記の例に限られず、適宜変更してもよく、上記とは異なる統計値や算出式を用いるようにしてもよい。
【0038】
(データ処理工程の詳細)
図4乃至
図8は、本実施形態に係るデータ処理部312の一例を示す機能説明図である。
図4乃至
図8には、6種類の地震波イベント(第1の地震波イベントEv1、第2の地震波イベントEv2,…,第6の地震波イベントEv6)が定義された状態で、データ処理部312が、所定の観測域に含まれる20箇所の観測点Op(観測点Op1,観測点Op2,…,観測点Op20)にて観測された地震波観測データを処理する場合が例示されている。
【0039】
スコア算出部3120は、
図4及び
図5に示すように、複数の区分期間(Pe1~Pe12)の各々に含まれる観測点毎の地震波観測データを処理する。なお、
図4及び
図5では、説明の簡略化のため、12個の区分期間(Pe1~Pe12)のうち、6番目の第6ピリオドに相当する区分期間Pe6が例示されているが、残りの11個の区分期間(Pe1~Pe5、Pe7~Pe12)についても同様の処理が行われる。
【0040】
まず、スコア算出部3120は、
図4に示すように、複数の区分期間(Pe1~Pe12)の各々において、地震波観測データに含まれる複数のイベント種類の地震波イベントの発生数(以下「イベント発生数」という)を、計数期間毎(Ct1~Ct10)、観測点毎(Op1~Op20)及びイベント種類毎(Ev1~Ev6)に計数する。具体的には、スコア算出部3120は、閾値設定部311と同様に、計数対象となる計数期間及び観測点における地震波観測データに対して、計数対象となる地震波イベントの特徴量(周波数、継続時間、振幅等)に一致又は類似するようなイベント発生期間を検索し、その結果発見されたイベント発生期間に含まれる一連の連続波形を「1」としてカウントすることで、計数期間におけるイベント発生数を計数する。そして、スコア算出部3120は、上記のように、計数対象となる計数期間及び観測点における地震波観測データに対して計数対象の地震波イベントのイベント発生数を計数する処理を、計数期間毎(Ct1~Ct10)、観測点毎(Op1~Op20)及びイベント種類毎(Ev1~Ev6)にそれぞれ行い、それらイベント発生数の計数結果(
図4参照)をデータベース300に登録する。
【0041】
次に、スコア算出部3120は、
図4に示すように、複数の区分期間(Pe1~Pe12)の各々において、計数期間毎(Ct1~Ct10)、観測点毎(Op1~Op20)及びイベント種類毎(Ev1~Ev6)に計数されたイベント発生数と、観測点毎(Op1~Op20)及びイベント種類毎(Ev1~Ev6)に設定された異常判定閾値とを観測点単位及びイベント種類単位でそれぞれ比較することでイベント発生数が異常判定閾値を超える観測点Opを異常観測点Ep(
図4にて「1」が記録された観測点)として計数期間毎(Ct1~Ct10)及びイベント種類毎(Ev1~Ev6)に特定し、それら異常観測点Epの特定結果(
図4参照)をデータベース300に登録する。なお、イベント発生数が異常判定閾値を超えていない観測点Opを正常観測点(
図4にて「0」が記録された観測点)という。
【0042】
そして、スコア算出部3120は、
図5に示すように、複数の区分期間(Pe1~Pe12)の各々において、計数期間(Ct1~Ct10)における異常観測点Epの総数を示す総スコアを計数期間毎(Ct1~Ct10)及びイベント種類毎(Ev1~Ev6)に算出し、それら総スコアの算出結果(
図5参照)をデータベース300に登録する。総スコアの算出例としては、例えば、
図4に示すように、区分期間Pe6、計数期間Ct10、第1の地震波イベントEv1に対する総スコアは、
図4の破線で囲まれた範囲に含まれる「1」(異常観測点Epを示す値)を合計することで、
図5の破線で囲まれた値で示すように、「6」と算出される。
【0043】
前兆現象判定部3121は、スコア算出工程により算出された区分期間毎期間(Pe1~Pe12)、計数期間毎(Ct1~Ct10)及びイベント種類毎(Ev1~Ev6)の総スコアと、総スコアの変化量とに基づいて、前兆現象の発生状況を判定する。具体的には、前兆現象判定部3121は、複数の区分期間(Pe1~Pe12)の各々において、計数期間(Ct1~Ct10)の総スコアの代表値を示す総スコア代表値と、計数期間毎(Ct1~Ct10)の変化量の代表値を示す変化量代表値とをイベント種類毎(Ev1~Ev6)に判別し、総スコア代表値及び変化量代表値に対して定められた前兆現象の検知条件(前兆現象検知条件)を用いて、前兆現象の発生状況を判定する。その際、前兆現象判定部3121は、前兆現象検知条件として、例えば、前兆現象を検知してから地震が発生するまでの時間間隔にそれぞれ対応付けられた複数段階の前兆現象検知条件を用いて、区分期間毎及び種類毎の総スコア代表値及び変化量代表値がいずれの段階の前兆現象検知条件を満たしているか否かに基づいて、前兆現象を段階毎に検知することで、前兆現象の発生状況を判定する。
【0044】
総スコアの変化量は、総スコアが変化したときの変化値又は変化比率であり、本実施形態では、計数時間当たりの変化値を用いる場合について説明する。総スコア代表値は、計数期間毎(Ct1~Ct10)の総スコアから所定の基準(最大、平均等)により得られる総スコアを代表する任意の値であり、本実施形態では、計数期間毎(Ct1~Ct10)の総スコアが最大となる値を示すピークスコアを用いる場合について説明する。変化量代表値は、計数期間毎(Ct1~Ct10)の総スコアから得られる所定の基準(最大、平均等)により得られる総スコアの変化量を代表する任意の値であり、本実施形態では、計数期間毎(Ct1~Ct10)の総スコアの単位時間当たりの変化量が最大となる値を示す最大速度を用いる場合について説明する。
【0045】
前兆現象判定部3121は、
図5に示すように、スコア算出部3120により算出された総スコアの算出結果を参照し、複数の区分期間(Pe1~Pe12)の各々において、計数期間毎(Ct1~Ct10)の総スコアが最大となる時間及び値を示すピークスコア時間及びピークスコア(総スコア代表値)と、計数期間毎の総スコアの単位時間当たりの変化量が最大となる時間及び値を示す最大速度時間及び最大速度(変化量代表値)とをイベント種類毎(Ev1~Ev6)に判別し、それらピークスコア時間、ピークスコア、最大速度時間及び最大速度の判別結果(
図5参照)をデータベース300に登録する。なお、
図5では、説明の簡略化のため、12個の区分期間(Pe1~Pe12)のうち、6番目の第6ピリオドに相当する区分期間Pe6が例示されているが、残りの11個の区分期間(Pe1~Pe5、Pe7~Pe12)についても同様の処理が行われる。
【0046】
そして、前兆現象判定部3121は、
図6に示すように、区分期間毎(Pe1~Pe12)及びイベント類毎(Ev1~Ev6)のピークスコア及び最大速度の判別結果を参照し、前兆現象検知条件として、複数段階の前兆現象検知条件を用いて、区分期間毎(Pe1~Pe12)及びイベント類毎(Ev1~Ev6)のピークスコア及び最大速度がいずれの段階(本実施形態では、3段階)の前兆現象検知条件を満たしているか否かに基づいて、前兆現象を段階毎に検知することで、前兆現象の発生状況を判定し、その前兆現象の判定結果(前兆現象の発生有り又は発生無し)をデータベース300に登録する。
【0047】
複数段階の前兆現象検知条件は、ピークスコアに対するピークスコア閾値と、最大速度に対する最大速度閾値との組み合わせによりそれぞれ定められるとともに、前兆現象を検知してから地震が発生するまでの時間間隔にそれぞれ対応付けられたものである。
【0048】
ピークスコア閾値は、特定の地震波イベントのピークスコアに対して上限側の閾値及び下限側の閾値の少なくとも一方を定めるものである。最大速度閾値は、特定の地震波イベントの最大速度に対して上限側の閾値及び下限側の閾値の少なくとも一方を定めるものである。特定の地震波イベントは、1つのイベント種類でもよいし、複数のイベント種類でもよい。複数の閾値は、AND条件として組み合わせてもよいし、OR条件として組み合わせてもよい。ピークスコア閾値及び最大速度閾値は、例えば、過去に地震が発生したときの地震波観測データを解析することで予め設定されている。なお、対象となる観測域で過去に地震が発生したときの地震波観測データが存在しない場合には、ピークスコア閾値及び最大速度閾値は、近隣の観測域や地盤の状況が類似する観測域での地震波観測データを解析することで設定されるようにすればよい。
【0049】
前兆現象検知条件が、例えば、
図6の検知条件3で示すように、第6の地震波イベントEv6に対して、ピークスコア閾値(上限側)T3-Pが「8」、最大速度閾値(上限側)T3-Aが「6」と定められている場合、前兆現象判定部3121は、
図5に示す区分期間Pe6における第6の地震波イベントEv6のピークスコア「10」はそのピークスコア閾値「8」を超えており、かつ、
図5に示す区分期間Pe6における第6の地震波イベントEv6の最大速度「7」はその最大速度閾値「6」を超えていることから、その前兆現象検知条件を満たしていると判定する。すなわち、前兆現象判定部3121は、区分期間Pe6にて前兆現象の発生有りと判定する。
【0050】
時間間隔は、前兆現象と地震との間の期間であり、所定の範囲を有するものでもよい。
図6には、3段階の前兆現象検知条件として、「初期」(本実施形態では、6~8週間)の時間間隔が対応付けられた第1段階の前兆現象検知条件と、「中期」(本実施形態では、3~5週間)の時間間隔が対応付けられた第2段階の前兆現象検知条件と、「直前」(本実施形態では、1~2週間)の時間間隔が対応付けられた第3段階の前兆現象検知条件とが例示されている。複数段階の前兆現象検知条件が、各前兆現象検知条件に対応付けられた時間間隔の時間順に従って検知された場合には、前兆現象の検知精度は高いと判定されてもよいし、そうでない場合には、前兆現象の検知精度は低い、又は、前兆現象を検知していないと判定されてもよい。
【0051】
なお、前兆現象判定部3121は、上記のような複数段階の前兆現象の検知条件に代えて、ピークスコア閾値と最大速度閾値との組み合わせにより定められた前兆現象の検知条件(前兆現象検知条件)を用いて、前兆現象の発生状況を判定するようにしてもよい。その際、前兆現象判定部3121は、区分期間毎(Pe1~Pe12)のピークスコア及び最大速度の判別結果が、前兆現象検知条件を満たしているか否かに基づいて前兆現象を検知することで、前兆現象の発生状況を判定するようにすればよい。
【0052】
前兆現象判定部3121は、上記のように、前兆現象の発生有無を判定するだけでなく、地震(本震)の発生状況を予測するものであり、その構成として、上記のように、時期予測部3121A、位置予測部3121B、及び、規模予測部3121Cを有する。
【0053】
時期予測部3121Aは、複数段階(本実施形態では、3段階)の前兆現象検知条件を用いて前兆現象を検知したときのピークスコア及び最大速度を判別した判別時間をそれぞれ示すピークスコア時間及び最大速度時間と、前兆現象を検知したときの段階の前兆現象検知条件に対応付けられた時間間隔(本実施形態では、「初期」、「中期」、「直前」)とに基づいて、地震の発生時期を予測する。そして、時期予測部3121Aは、その地震の発生時期の予測結果をデータベース300に登録する。
【0054】
図7に示すように、例えば、前兆現象判定部3121が、5月31日時点において、第12ピリオドに相当する区分期間Pe12におけるピークスコア及び最大速度が第1段階の前兆現象検知条件を満たしていることで前兆現象を検知した場合、時期予測部3121Aは、その前兆現象を検知したときのピークスコア及び最大速度を判別した判別時間をそれぞれ示すピークスコア時間及び最大速度時間(ここでは、5月27日)と、第1段階の前兆現象検知条件に対応付けられた時間間隔(「初期」=6~8週間)とに基づいて、地震の発生時期を「7月15日±1週間」と予測する。
【0055】
そして、時間が経過し、前兆現象判定部3121が、6月20日時点において、第8ピリオドに相当する区分期間Pe8におけるピークスコア及び最大速度が第1段階の前兆現象検知条件を満たしており、第12ピリオドに相当する区分期間Pe12におけるピークスコア及び最大速度が第2段階の前兆現象検知条件を満たしていることで前兆現象を検知した場合、時期予測部3121Aは、その前兆現象を検知したときのピークスコア及び最大速度を判別した判別時間をそれぞれ示すピークスコア時間及び最大速度時間(ここでは、5月27日、6月18日)と、第1段階及び第2段階の前兆現象検知条件に対応付けられた時間間隔(「初期」=6~8週間、「中期」=3~5週間)とに基づいて、地震の発生時期を「7月16日±1週間」と予測する。
【0056】
さらに、時間が経過し、前兆現象判定部3121が、7月10日時点において、第4ピリオドに相当する区分期間Pe4におけるピークスコア及び最大速度が第1段階の前兆現象検知条件を満たしており、第8ピリオドに相当する区分期間Pe8におけるピークスコア及び最大速度が第2段階の前兆現象検知条件を満たしており、第12ピリオドに相当する区分期間Pe12におけるピークスコア及び最大速度が第3段階の前兆現象検知条件を満たしていることで前兆現象を検知した場合、時期予測部3121Aは、その前兆現象を検知したときのピークスコア及び最大速度を判別した判別時間をそれぞれ示すピークスコア時間及び最大速度時間(ここでは、5月27日、6月18日、7月7日)と、第1段階、第2段階及び第3段階の前兆現象検知条件に対応付けられた時間間隔(「初期」=6~8週間、「中期」=3~5週間、「直前」=1~2週間)とに基づいて、地震の発生時期を「7月17日±3日間」と予測する。
【0057】
位置予測部3121Bは、前兆現象を検知したときの異常観測点Epの位置に基づいて、地震の発生位置を予測する。所定の観測域に含まれる複数の観測点Opのうち、異常観測点Epの位置(
図8の黒丸)が、例えば、
図8に示すように分布している場合には、位置予測部3121Bは、それら異常観測点Epの位置に対する重心を、地震の発生位置(震央)と予測する。そして、位置予測部3121Bは、その地震の発生位置の予測結果をデータベース300に登録する。なお、位置予測部3121Bは、異常観測点Epの位置に基づいて地震の発生位置を予測する際、例えば、総スコアを重みとする加重重心を用いてもよいし、他の基準を用いて地震の発生位置を予測するようにしてもよい。
【0058】
位置予測部3121Bは、特定のイベント種類(例えば、第6の地震波イベント)に対する異常観測点Epの位置に基づいて、地震の発生位置を予測してもよいし、複数のイベント種類の全て(例えば、第1乃至第6の地震波イベントの全て)に対して異常観測点Epと判定された観測点Opの位置に基づいて、地震の発生位置を予測してもよいし、複数のイベント種類の少なくとも1つのイベント種類(例えば、第1乃至第6の地震波イベントの少なくとも1つ)に対して異常観測点Epと判定された観測点Opの位置に基づいて、地震の発生位置を予測してもよい。
【0059】
規模予測部3121Cは、前兆現象を検知したときの異常観測点Epの総数又は分布範囲に基づいて、地震の発生規模を予測する。そして、位置予測部3121Bは、その地震の発生規模の予測結果をデータベース300に登録する。
【0060】
例えば、異常観測点Epが、
図8に示すように分布している場合には、規模予測部3121Cは、異常観測点Epの総数に、例えば、観測点Opの配置間隔に基づくような所定の単位面積を乗算することで分布面積Sを算出してもよいし、異常観測点Epを全て含むような円や多角形を分布範囲として、その分布範囲から分布面積Sを算出してもよい。そして、規模予測部3121Cは、その分布面積Sを、以下の(2)式に代入することにより、地震の発生規模(例えば、マグニチュード)を予測する。
【0061】
マグニチュード: Mj=Log10・S+k1 (2)
【0062】
ただし、上記(2)式において、k1は、係数であり、適宜調整される。
【0063】
規模予測部3121Cは、特定のイベント種類(例えば、第6の地震波イベント)に対する異常観測点Epの総数又は分布範囲に基づいて、地震の発生規模を予測してもよいし、複数のイベント種類の全て(例えば、第1乃至第6の地震波イベントの全て)に対して異常観測点Epと判定された観測点Opの総数又は分布範囲に基づいて、地震の発生規模を予測してもよいし、複数のイベント種類の少なくとも1つのイベント種類(例えば、第1乃至第6の地震波イベントの少なくとも1つ)に対して異常観測点Epと判定された観測点Opの総数又は分布範囲に基づいて、地震の発生規模を予測してもよい。
【0064】
出力処理部313は、データ処理部312による処理結果(前兆現象の判定結果、地震の予測結果等)を、例えば、表示部34の表示画面として出力する出力処理を行う。なお、出力処理部313は、出力処理として、データ処理部312による処理結果を、地震予測装置3とは別の装置(例えば、各ユーザが所持する携帯端末装置、地震情報の配信システム、建物、産業用設備又はインフラ設備の管理システム等)に送信してもよいし、画像形成装置(プリンタ、複合機等)を介して紙媒体等に出力してもよい。また、出力処理部313は、出力処理の対象として、データベース300に登録された各種のデータ(地震波観測データ、設定データ、解析データ)を出力してもよい。
【0065】
(地震予測システム1の動作)
次に、上記構成を有する地震予測システム1(特に地震予測装置3)の動作について説明する。
図9及び
図10は、地震予測装置3の動作の一例を示すフローチャートである。以下では、データベース300の設定データ(異常判定閾値、地震波イベントの特徴量、ピークスコア閾値、最大速度閾値、前兆現象検知条件等)は、設定済みであるものとして説明する。また、以下では、6種類の地震波イベント(第1乃至第6の地震波イベント)が定義された場合について説明する。
【0066】
まず、ステップS100(取得処理工程)において、取得処理部310は、複数の観測点Opでそれぞれ観測された地震波観測データを取得する。そして、取得処理部310は、各観測点Opの地震波観測データをデータベース300に登録する。
【0067】
次に、ステップS110において、データ処理部312は、計数期間よりも短い判定周期に基づく判定期間(例えば、1時間)が経過したか否かを監視し、判定期間が経過したと判定した場合(ステップS110:Yes)、閾値設定部311によるステップS120と、データ処理部312によるステップS130~S161を実行するデータ処理を行う。
【0068】
まず、ステップS120において、閾値設定部311は、データベース300を参照し、現在時刻から過去2か月間の評価期間にて取得された観測点毎の地震波観測データを読み出す。そして、閾値設定部311は、その評価期間における観測点毎の地震波観測データに基づいて、異常判定閾値を観測点毎及びイベント種類毎に設定する。
【0069】
次に、ステップS130において、スコア算出部3120は、ステップS120と同様に、データベース300を参照し、現在時刻から過去2か月間の評価期間にて取得された観測点毎の地震波観測データを読み出す。そして、スコア算出部3120は、その評価期間が分割された複数の区分期間の各々において、その地震波観測データに含まれるイベント発生数を、計数期間毎、観測点毎及びイベント種類毎に計数する(
図4参照)。
【0070】
次に、ステップS131において、スコア算出部3120は、複数の区分期間の各々において、ステップS130にて計数期間毎、観測点毎及びイベント種類毎に計数されたイベント発生数と、ステップS120にて観測点毎及びイベント種類毎に設定された異常判定閾値とを観測点単位及び種類単位でそれぞれ比較し、複数の観測点Opのうち、イベント発生数が異常判定閾値を超える異常観測点Epを計数期間毎及びイベント種類毎に特定する(
図4参照)。
【0071】
次に、ステップS132において、スコア算出部3120は、複数の区分期間の各々において、ステップS131にて特定された異常観測点Epの特定結果に基づいて、計数期間毎の異常観測点Epの総数を示す総スコアを計数期間毎及びイベント種類毎に算出する(
図5参照)。
【0072】
次に、ステップS140において、前兆現象判定部3121は、複数の区分期間の各々において、ステップS132にて算出された総スコアの算出結果に基づいて、計数期間毎の総スコアが最大となる時間及び値を示すピークスコア時間及びピークスコアと、計数期間毎の総スコアの単位時間当たりの変化量が最大となる時間及び値を示す最大速度時間及び最大速度とをイベント種類毎に判別する(
図5参照)。
【0073】
次に、ステップS141において、前兆現象判定部3121は、ステップS140にて判別された区分期間毎(Pe1~Pe12)及びイベント類毎(Ev1~Ev6)のピークスコア及び最大速度の判別結果に基づいて、ピークスコア及び最大速度が前兆現象検知条件を満たしているか否かに基づいて、前兆現象の発生状況を判定する(
図6参照)。
【0074】
そして、前兆現象判定部3121が、ステップS141の判定結果として、前兆現象の発生有りと判定した場合には(ステップS142:Yes)、ステップS150~S152に進み、地震の発生状況(発生時期、発生位置、発生規模)を予測する。
【0075】
具体的には、ステップS150にて、時期予測部3121Aは、ステップS141にて複数段階の前兆現象検知条件を用いて前兆現象を検知したときのピークスコア及び最大速度に対応するピークスコア時間及び最大速度時間と、前兆現象を検知したときの段階の前兆現象検知条件に対応付けられた時間間隔とに基づいて、地震の発生時期を予測する(
図7参照)。
【0076】
次に、ステップS151にて、位置予測部3121Bは、ステップS141にて前兆現象を検知したときの異常観測点Epの位置(例えば、異常観測点Epの重心)に基づいて、地震の発生位置を予測する(
図8参照)。
【0077】
次に、ステップS152にて、規模予測部3121Cは、ステップS141にて前兆現象を検知したときの異常観測点Epの総数又は分布範囲に基づいて、地震の発生規模を予測する(
図8参照)。
【0078】
次に、ステップS160において、出力処理部313は、ステップS141における前兆現象の発生有りとの判定結果と、ステップS150~S152における地震の発生状況(発生時期、発生位置、発生規模)の予測結果とを出力する。
【0079】
一方、前兆現象判定部3121が、ステップS141の判定結果として、前兆現象の発生無しと判定した場合には(ステップS142:No)、ステップS161において、出力処理部313は、前兆現象の発生無しとの判定結果を出力する。
【0080】
そして、ステップS160、S161に後続するステップS170において、データ処理(前兆現象の発生有無の判定や地震の発生状況の予測)を継続するか否かを判定し、データ処理を継続する場合には、上記のステップS100に戻る。なお、ステップS120は、閾値設定工程に相当し、ステップS130~S161は、データ処理工程に相当する。そのうち、ステップS130~S132はスコア算出工程、ステップS140、S141は前兆現象判定工程、ステップS150は位置予測工程、ステップS151は規模予測工程、ステップS152は時期予測工程に相当する。
【0081】
以上のように、本実施形態に係る地震予測装置3(地震予測方法)によれば、スコア算出部3120が、評価期間が分割された複数の区分期間の各々において、区分期間が分割された計数期間毎及び観測点毎に、地震波観測データに含まれる複数の種類の地震波イベントの発生数を種類毎に計数し、計数期間毎、観測点毎及び種類毎に計数された発生数と、観測点毎及び種類毎に設定された異常判定閾値とを観測点単位及び種類単位でそれぞれ比較することで発生数が異常判定閾値を超える観測点を異常観測点として計数期間毎及び種類毎に特定し、計数期間における異常観測点の総数を示す総スコアを計数期間毎及び種類毎に算出する。そして、前兆現象判定部3121が、スコア算出工程により算出された区分期間毎、計数期間毎及び種類毎の総スコアと、総スコアの変化量とに基づいて、前兆現象の発生状況を判定する。そのため、地震波イベントの発生状況について、ピークスコアには、空間的な広がり具合が反映されるとともに、最大速度には、時系列での傾向が反映されるので、前兆現象の発生有無を的確に判定することができる。
【0082】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0083】
上記実施形態では、本発明の地震予測方法を実現する地震予測装置3が、
図9及び
図10のフローチャートに従って動作する場合について説明したが、各ステップの実行順序を適宜変更してもよいし、一部のステップを省略してもよい。例えば、ステップS150~S152の実行順序は適宜変更されてもよいし、それらのうち少なくとも1つのステップが省略されてもよい。
【0084】
上記実施形態では、地震予測装置3が、区分期間毎、計数期間毎及び種類毎の総スコアと総スコアの変化量とから取得された区分期間毎及び観測点毎のピークスコア(総スコア代表値)と最大速度(変化量代表値)とに基づいて、前兆現象の発生状況を判定する場合について説明したが、前兆現象の発生状況の判定方法は上記の例に限られず、区分期間毎、計数期間毎及び種類毎の総スコアと総スコアの変化量とに基づいて、前兆現象の発生状況を判定するものであれば任意の判定方法を用いるようにしてもよい。
【0085】
上記実施形態では、地震予測装置3が、リアルタイム(オンライン)で取得された観測点毎の地震波観測データに基づいて、前兆現象の発生有無を繰り返し判定する場合について説明したが、過去(オフライン)に取得された観測点毎の地震波観測データに基づいて、前兆現象の発生有無を判定するようにしてもよい。
【0086】
上記実施形態では、地震予測プログラム301は、記憶部30に記憶されたものとして説明したが、USBメモリ、DVD等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体にインストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルで記録されて提供されてもよいし、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供されてもよい。また、地震予測装置3は、制御部31が地震予測プログラム301を実行することにより実現される各部の機能を、例えば、FPGA、ASIC等のハードウェアで実現するものでもよい。
【符号の説明】
【0087】
1…地震予測システム、2…地震観測網、3…地震予測装置、4…ネットワーク、
21…地震計、22…データセンタ、
30…記憶部、31…制御部、32…通信部、33…操作部、34…表示部、
300…データベース、301…地震予測プログラム、
310…取得処理部、311…閾値設定部、312…データ処理部、
313…出力処理部、3120…スコア算出部、3121…前兆現象判定部、
3121A…時期予測部、3121B…位置予測部、3121C…規模予測部