(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154168
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】異音検知システムおよび異音検知方法
(51)【国際特許分類】
G01H 3/00 20060101AFI20231012BHJP
【FI】
G01H3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063303
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188949
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 成典
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】門脇 正天
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA05
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB15
2G064AB22
2G064BA02
2G064CC43
2G064CC52
2G064DD08
2G064DD15
(57)【要約】
【課題】高騒音下であっても異音を検知し、異音の発生位置を推定するシステムを提供する。
【解決手段】異音検知システムは、集音・検知装置と、音響信号解析装置と、を含む。集音・検知装置は、外部の音を集音する集音部と、音を集音した位置の位置情報を測位する測位部と、音響データと位置情報とを送信する通信部とを有する。音響信号解析装置は、通信部により送信された音響データと位置情報とを受信する受信部と、音響データを周波数解析して評価対象のスペクトラムデータを算出する音響信号解析部と、所定の周波数領域における評価対象のスペクトラムデータと所定の正常時のスペクトラムデータとを比較することにより、音響データに異音が含まれるかどうかを判定する異音判定部と、異音が含まれると判定した場合には、異音が含まれると判定された音響データが集音された位置情報に基づいて、異音の発生位置を推定する位置推定部とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集音・検知装置と、
音響信号解析装置と、
を含み、
前記集音・検知装置は、
外部の音を集音し、集音した前記音を音響データとして出力する集音部と、
前記音を集音した位置の位置情報を測位する測位部と、
前記音響データと、前記測位部により測位された前記位置情報とを送信する通信部と、
を有し、
前記音響信号解析装置は、
前記通信部により送信された前記音響データと前記位置情報とを受信する受信部と、
前記音響データを周波数解析して評価対象のスペクトラムデータを算出する音響信号解析部と、
所定の周波数領域における前記評価対象のスペクトラムデータと、所定の正常時のスペクトラムデータとを比較することにより、前記音響データに異音が含まれるかどうかを判定する異音判定部と、
異音が含まれると判定した場合には、異音が含まれると判定された前記音響データが集音された前記位置の前記位置情報に基づいて、前記異音の発生位置を推定する位置推定部と、
を有する異音検知システム。
【請求項2】
前記異音判定部は、前記所定の周波数領域における前記評価対象のスペクトラムデータの音圧のレベルが、前記正常時のスペクトラムデータの音圧のレベルよりも所定の閾値以上大きい場合、前記音のデータに異音が含まれると判定する、
請求項1に記載の異音検知システム。
【請求項3】
前記異音判定部は、前記所定の周波数領域における前記評価対象のスペクトラムデータのピーク値の周波数が、前記正常時のスペクトラムデータのピーク値の周波数と異なる場合、前記音のデータに異音が含まれると判定する、
請求項1又は請求項2に記載の異音検知システム。
【請求項4】
前記位置推定部は、三点測位法により、前記異音の発生位置を推定する、
請求項1又は請求項2に記載の異音検知システム。
【請求項5】
前記集音・検知装置が防音保護具に設けられている、
請求項1又は請求項2に記載の異音検知システム。
【請求項6】
外部の音を集音した音響データと前記音を集音した位置の位置情報を受信するステップと、
前記音響データを周波数解析して評価対象のスペクトラムデータを算出するステップと、
所定の周波数領域における前記評価対象のスペクトラムデータと所定の正常時のスペクトラムデータとを比較することにより、前記音響データに異音が含まれるかどうかを判定するステップと、
前記判定するステップにて異音が含まれると判定された場合、異音が含まれると判定された前記音響データに集音された前記位置の前記位置情報に基づいて、前記異音の発生位置を推定するステップと、
を有する異音検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異音検知システムおよび異音検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製油所などのプラントや工場で作業する技術者が、作業中に、装置の作動音が通常とは異なる音になっていることを聞き分け、装置の異常を感知することがある。その一方で、プラントや工場には、圧縮機などの高騒音発生源が設けられている場合があり、例えば、85dB以上となると、技術者はイヤプラグ、イヤマフなどの騒音保護具を着用する。騒音保護具を着用すると、熟練した技術者であっても、装置が発する異音を聴き分けるのが困難となる。
【0003】
特許文献1には、異音の発生要因(例えば、エンジン、駆動系などの車両の構成要素)を特定するシステムが開示されている。このシステムは、異音を含む音圧データに対してFFT(Fast Fourier Transform)を施したFFTデータを生成し、統計解析処理を行って異常度を演算する。そして、異常度が閾値以上となるFFTデータを統合した統合FFTデータを作成し、統合FFTデータを異常発生要因毎にクラスタリングされたクラスタと照合することによって、異音の発生要因を特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラントや工場では、高騒音下であっても異音を検知し、異音の発生位置を特定する方法が必要とされている。
【0006】
そこでこの発明は、上述の課題を解決することのできる異音検知システムおよび異音検知方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様によれば、異音検知システムは、集音・検知装置と、音響信号解析装置と、を含み、前記集音・検知装置は、外部の音を集音し、集音した前記音を音響データとして出力する集音部と、前記音を集音した位置の位置情報を測位する測位部と、前記音響データと、前記測位部により測位された前記位置情報とを送信する通信部と、を有し、前記音響信号解析装置は、前記通信部により送信された前記音響データと前記位置情報とを受信する受信部と、前記音響データを周波数解析して評価対象のスペクトラムデータを算出する音響信号解析部と、所定の周波数領域における前記評価対象のスペクトラムデータと、所定の正常時のスペクトラムデータとを比較することにより、前記音響データに異音が含まれるかどうかを判定する異音判定部と、異音が含まれると判定した場合には、異音が含まれると判定された前記音響データが集音された前記位置の前記位置情報に基づいて、前記異音の発生位置を推定する位置推定部と、を有する。
【0008】
本開示の一態様によれば、異音検知方法は、外部の音を集音した音響データと前記音を集音した位置の位置情報を受信するステップと、前記音響データを周波数解析して評価対象のスペクトラムデータを算出するステップと、所定の周波数領域における前記評価対象のスペクトラムデータと所定の正常時のスペクトラムデータとを比較することにより、前記音響データに異音が含まれるかどうかを判定するステップと、前記判定するステップにて異音が含まれると判定された場合、異音が含まれると判定された前記音響データが集音された前記位置の前記位置情報に基づいて、前記異音の発生位置を推定するステップと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、高騒音下であっても異音を検知し、異音の発生位置を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る異常音検知システムの一例を示す概略図である。
【
図2】実施形態に係る異常音検知システムの一例を示すブロック図である。
【
図3】実施形態に係るAエリアのスペクトラムデータの一例を示す図である。
【
図4】実施形態に係るAエリアの時系列のスペクトラムデータの一例を示す図である。
【
図5】実施形態に係るBエリアのスペクトラムデータの一例を示す図である。
【
図6】実施形態に係るCエリアのスペクトラムデータの一例を示す図である。
【
図7】実施形態に係るDエリアのスペクトラムデータの一例を示す図である。
【
図8】実施形態に係る異音発生時のスペクトラムデータの一例を示す図である。
【
図9A】実施形態に係る異音発生位置の推定処理について説明する第1図である。
【
図9B】実施形態に係る異音発生位置の推定処理について説明する第2図である。
【
図10】実施形態に係る異音検知処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
(システム構成)
以下、本開示の一実施形態による異音検知システムについて
図1~
図10を参照して説明する。
図1は、実施形態に係る異常音検知システムの一例を示す概略図である。異音検知システム100は、プラントや工場などの施設G内で作業する作業員Mが身に着けた集音・検知装置10によって、施設Gの各所で音響データを集音し、異音が発生していないかどうかを判定し、異音が発生している場合には、その異音が、施設Gの何処から発生しているかを推定する。異音検知システム100は、集音・検知装置10と、無線通信装置5と、ネットワークNWと、音響信号解析装置20と、表示装置30と、外部記憶装置40と、を含む。集音・検知装置10は、例えば、作業員Mが装着するイヤプラグ、イヤマフ等の騒音保護具に組み込まれている。あるいは、集音・検知装置10は、作業員Mの腕章、作業着などに装着したり、作業員Mが携帯する腕時計、工具、各種の装置に組み込んだりしてもよい。また、異音を含んだ音の検知は、施設Gの各所で作業を行っている複数の作業員Mが各々身につけている集音・検知装置10によって行われてもよいし、監視や物資の運搬などで施設G内を巡回する作業員Mの集音・検知装置10によって行われてもよい。また、集音・検知装置10は、作業員Mが身につける以外にも、監視や運搬などに利用される搬送装置等の移動体に取り付けられていてもよい。集音・検知装置10によって、集音された音響データは、無線通信装置5を介して、ネットワークNWを経由して音響信号解析装置20へ送信される。音響信号解析装置20は、送信された音響データを受信し、FFT(高速フーリエ変換)等の周波数解析を行って、音響データに異音が含まれるかどうかを判定し、異音が含まれる場合には、その異音が何処から発生しているかを推定する。そして、音響信号解析装置20は、推定した異音の発生位置を表示装置30へ出力する。例えば、施設Gには、図示するA~Dのエリアが存在し、音響信号解析装置20は、正常時にA~Dエリア近傍で収集される音と比較することによって異音が発生しているかどうかを判定し、異音が発生している場合には、複数個所で集音した音響データに基づいて、異音がどの位置で発生しているかを推定する。以下、一例として、A~Dのエリア近傍で収集される音に基いて、異音を検知する例を挙げて説明を行うが、エリアを限定する必要は無く、異音検知システム100によって、施設Gの任意の場所から正常時に発生する音との比較によって異音を検知し、その発生位置を特定することができる。
【0012】
図2は、実施形態に係る異常音検知システムの一例を示すブロック図である。
集音・検知装置10は、集音部11と、通信部12と、測位部13と、を含む。集音部11は、周囲の音を集音して、集音した音を音響データ(電気信号)として出力する。集音部11は、例えば、マイクロフォンである。通信部12は、Wifi(登録商標)や無線LAN等の無線通信を可能とする通信モジュールである。測位部13は、例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機などを含み、集音・検知装置10の位置情報を測定する。なお、測位部13は、RFID(Radio Frequency Identifier)タグを使用して位置情報を取得しても良い。測位部13は、Wifi(登録商標)や無線LANなどの無線通信の機器からの信号強度を元に位置情報を取得しても良い。あるいは、ジャイロや加速度センサと自律航法の計算モジュールを測位部13に組み込んで位置情報を取得しても良い。集音・検知装置10は、集音部11が集音する音響データと、測位部13が測位した集音・検知装置10の位置情報とを所定の制御周期で、通信部12を使って、音響信号解析装置20へ送信する。
【0013】
無線通信装置5は、集音・検知装置10と音響信号解析装置20の通信を仲介する。例えば、無線通信装置5は、集音・検知装置10と通信可能なアクセスポイント(AP)と、音響信号解析装置20と通信可能なルータとを含んでいてもよい。無線通信装置5は、集音・検知装置10と直接通信を行ってもよいし、集音・検知装置10とBluetooth(登録商標)で接続されたスマートフォン等の携帯端末を通じて集音・検知装置10との通信を行ってもよい。集音・検知装置10は、無線通信装置5を介して、インターネット等のネットワークNW上に存在する音響信号解析装置20と通信を行う。具体的には、集音・検知装置10は、音響データ、位置情報を音響信号解析装置20へ送信する。
【0014】
音響信号解析装置20は、サーバ装置によって構成される。音響信号解析装置20は、受信部21と、入力部22と、制御部23と、記憶部28と、を含む。
受信部21は、集音・検知装置10が送信した、音響データ、位置情報を受信し、これらと、受信時刻とを対応付けて記憶部28に記録する。
入力部22は、キーボード、マウス、タッチパネル、ボタン等の入力装置を用いて構成され、入力装置を用いたユーザの操作等を受け付ける。例えば、入力部22は、音響データをFFT解析したスペクトラムのうち、どの周波数領域に注目して、異音検知を行うかの設定を受け付ける。
制御部23は、集音・検知装置10から集音した音響データを解析して、異音を検知する処理、異音の発生位置を推定する処理を制御する。制御部23は、音響信号解析部24と、異音判定部25と、位置推定部26と、出力部27と、を含む。
音響信号解析部24は、受信部21が受信した音響データをFFT等により周波数解析し、解析後のスペクトラムデータを記憶部28に記録する。
異音判定部25は、音響信号解析部24が算出したスペクトラムデータと、施設Gの各エリアから発された音のスペクトラムとを比較し、音響データに異音が含まれているか否かを判定する。
位置推定部26は、異音判定部25によって異音が含まれていると判定されたスペクトラムデータを用いて、異音が発生した場所を推定する。例えば、位置推定部26は、少なくとも3つの位置で集音・検知装置10によって集音された音響データに基づいて、3点測位法により、異音の発生位置を推定する。
出力部27は、異音判定部25による判定結果や、位置推定部26が推定した異音の発生位置を表示装置30へ出力する。
記憶部28は、受信部21が受信した各種データ、音響信号解析部24が算出したスペクトラムデータ、異音判定部25が異音の検知に用いるエリア別の正常時のスペクトラムデータなどを記憶する。
【0015】
表示装置30は、液晶ディスプレイ等を用いて構成され、音響信号解析装置20と接続されている。表示装置30は、出力部27が出力した情報を表示する。
外部記憶装置40は、音響信号解析装置20の外部に設けられた記憶装置である。外部記憶装置40は、所謂クラウドコンピューティングシステムに設けられていてもよい。音響信号解析装置20と外部記憶装置40とは、ネットワークNWを介して通信が可能であり、音響信号解析装置20は、外部記憶装置40にデータを記録し、外部記憶装置40からデータを読み出すことができる。異音検知システム100において、外部記憶装置40は、記憶部28の代わりに使用することができる。例えば、音響信号解析装置20の受信部21は、受信した各種データを外部記憶装置40に記録してもよい。音響信号解析装置20の音響信号解析部24は、算出したスペクトラムデータを外部記憶装置40に記録してもよい。また、外部記憶装置40は、エリア別の正常時のスペクトラムデータを記憶していてもよい。以下の説明では、一例として、各種データの記録先として記憶部28を用いることとしているが、記憶部28の代わりに外部記憶装置40を使用することができる。
【0016】
(異音の検知方法)
施設GのA~Dの各エリアでは、正常時においても、各エリアに特有のスペクトラムを有する音が出力されている。記憶部28には、正常時(異音が発生していない状態)に集音された各エリアの音響データのスペクトラムデータが、比較に用いる参照データとして予め登録されている。異音判定部25は、エリアごとに用意された正常時のスペクトラムデータと、集音・検知装置10から送信された音響データを解析して得られたスペクトラムデータを比較して異音の検知を行う。
図3~
図8に、正常時の各エリアのスペクトラムデータの一例を示す。
図3~
図8に示すグラフの縦軸は音圧の大きさ(dB)、横軸は周波数(kHz)を示す。
【0017】
図3は、実施形態に係るAエリアのスペクトラムデータの一例を示す図である。
図3に、ある時刻に集音されたAエリアの音響データから得られるスペクトラムデータw0を示す。枠w1に、600kHz以上の周波数領域の波形を示し、枠w2に、600kHz以上の周波数領域のピーク値を示す。
【0018】
図4は、実施形態に係るAエリアの時系列のスペクトラムデータの一例を示す図である。
図4に、時刻t1~t7に集音されたAエリアの音響データから得られるスペクトラムデータw0を示す。
図3と同様に、枠w1,w2には、それぞれ600kHz以上の周波数領域の波形とピーク値が示されている。
図4に示すように、600kHzより低い周波数の範囲では、波形が時刻に応じて大きく変化する。これに対し、600kHz以上の周波数領域では、波形の経時的な変動が少なく、ピーク値およびピーク値が出現する周波数もほぼ変化しない。
【0019】
同様に、
図5~
図7に、それぞれ正常時におけるBエリア~Dエリアのスペクトラムデータw0の一例を示す。何れの図においても、枠w1に、600kHz以上の周波数領域の波形を示し、枠w2にピーク値を示す。図示は省略するが、解析の結果、
図4を用いて説明したことと同様のことがB~Dエリアについても確認されている。つまり、B~Dエリアにおいても、600kHz未満の周波数領域では、波形の経時的な変動が大きく、600kHz以上の周波数領域では、波形の経時的な変動が少ない。また、600kHz以上の周波数領域のピーク値およびピーク値が出現する周波数も変化しない。つまり、600kHz未満の周波数領域では、正常時においても波形の変動が大きいため、この周波数領域に注目しても、異音が発生しているかどうかの判別が難しい。反対に、波形の変動が少ない600kHz以上の周波数領域に注目し、この周波数領域で波形の変化が生じれば、異音が発生したと考えることができる。
【0020】
このように、A~Dの各エリアでは、所定値(この例の場合600kHz)より小さな周波数領域では波形が大きく変動し、当該周波数以上の領域では、波形とピーク値に変化があまり生じないことが分かっている。この性質を利用して、本実施形態では、所定値(例えば、600kHz)以上の周波数領域に注目し、この周波数領域にて正常時には見られない波形の変動が生じると、異音が発生したと判定する。正常時には見られない波形の変動とは、例えば、ピーク値が現れる周波数が変化する、あるいは、ピーク値が隠れるぐらい全体的に音圧が上昇する(一般に機器の異常などにより、異音が発生すると、音が小さくなることはなく、音が大きくなる)等である。異音判定部25は、集音・検知装置10から送信された音響データのスペクトラムデータの波形と、A~Dエリアの正常時のスペクトラムデータの波形とを、所定の周波数領域に限定して比較し、集音・検知装置10から送信された音響データに異音が含まれるかどうかの判定を行う。なお、この例では、一律に600kHz以上の周波数領域に注目することとしたが、Aエリアは600kHz以上、Bエリアは500kHz以上、・・・など、各エリアについて注目する周波数領域は異なっていてもよい。
【0021】
(異音の例)
図8に、Cエリアにて異音が発生したときに集音された音響データのスペクトラムデータの一例を示す。
図3~
図7と同様にw0はスペクトラムデータ、w1は600kHz以上の周波数領域、w2はピーク値が現れる周波数を示している。また、
図8の波形w0´は、Cエリアの機器にある故障が生じたときに集音されたある時刻における音響データのスペクトラムを示す。図示するように、スペクトラムデータw0´は、600kHz以上の周波数領域において、正常時のスペクトラムデータw0を上回っており、スペクトラムデータw0´の枠w2内の周波数成分は、正常時のピーク値を上回っている。また、スペクトラムデータw0´では、正常時とは異なり、枠w2´に示す周波数領域でピーク値が観測される。このように、正常時とは異なる周波数領域でピーク値が現れる、又は、正常時に比べて注目する周波数領域(枠w1内)の音圧が全体的に上昇する(高音領域で音が大きくなる。)など、正常時と異なる波形の状態となると、異音判定部25は、異音が発生したと判定する。
【0022】
(異音発生位置の推定)
次に異音が発生したと判定された場合の異音発生位置の推定処理について説明する。
図9Aに示すように、施設G内を巡回している作業員Mが、a地点、b地点、c地点に位置しているときに集音・検知装置10によって集音された音響データについて、異音が含まれていると判定されたとする。すると、位置推定部26は、a地点、b地点、c地点の位置情報を用いて三点測位法により、異音の発生位置を推定する。三点測位法は、例えば、3か所の無線LANのアクセスポイントが測定する電波強度により、電波を発信する端末等の位置を計算するような場面で用いられる公知のアルゴリズムである。このアルゴリズムにおける電波強度を音圧レベルに置き換えることで、三点測位法を利用して異音の発生位置を推定することができる。例えば、a地点の位置情報を(p1、q1)、b地点の位置情報を(p2、q2)、c地点の位置情報を(p3、q3)とする。また、異音発生源の位置情報を(x、y)とし、a地点と異音発生源の距離をR1、b地点と異音発生源の距離をR2、c地点と異音発生源の距離をR3とする。すると、
図9Bに示すように以下の式(1)~(3)が成立する。
(x-p1)
2+(y-q1)
2=R1
2 ・・・(1)
(x-p2)
2+(y-q2)
2=R2
2 ・・・(2)
(x-p3)
2+(y-q3)
2=R3
2 ・・・(3)
【0023】
(p1、q1)、(p2、q2)、(p3、q3)は集音・検知装置10にて計測する為、既知である。従って、R1~R3が分かれば、式(1)~(3)により、異音発生源の位置情報を(x、y)を求めることができる。R1~R3については、例えば、以下のようにして算出する。一般的にある騒音源からの距離がr1(m)(例えば、r1=1(m))の地点で計測した音のレベルをLr1(dB)、騒音源からの距離がr2(m)の地点で計測した音のレベルをLr2(dB)とすると、次式(4)が成立する。
騒音減衰量(Lr1-Lr2)=10・log
10(r1/r2)・・・(4)
式(4)をLr2について解くと、以下の式(4´)が得られる。
Lr2=Lr1-10・log
10(r1/r2)
=Lr1-10・(log
e(r1/r2)/log
10)・・・(4´)
a~cの各地点で検出された異音の音圧レベル(dB)を騒音Lr2(dB)とし、a~cの各地点と異音の発生位置の距離をr2(つまり、それぞれR1、R2、R3)とすると、a~c地点の各々について、式(4´)が得られる。この3つの式(4´)から、Lr1が等しくなるような、R1、R2、R3を算出する。すると、上記の式(1)~(3)により、異音発生源(x、y)が存在するおおよその範囲を推定することができる。
図9Aの点Pは、三点測位法により推定された異音の発生位置の例である。このように、施設Gの様々な位置で音響データを集音し、集音した音響データを解析することで異音の発生位置を推定することができる。
【0024】
(動作)
次に
図10を参照して、本実施形態の異音検知処理について説明する。上述の通り、以下の説明においても、データの記録先として記憶部28を用いる場合を例に説明を行うが、記憶部28の代わりに外部記憶装置40を使用してもよい。
図10は、実施形態に係る異音検知処理の一例を示すフローチャートである。
前提として、記憶部28には、
図3、
図5~
図7に例示するような各エリアの正常時のスペクトラムデータが保存されている。正常時のスペクトラムデータは、例えば、日々、作業員Mが施設G内を巡回しているときにA~Dの各エリア付近で集音・検知装置10が検知した音響データを音響信号解析部24が周波数解析したスペクトラムデータによって更新してもよいし、音響信号解析部24が周波数解析したスペクトラムデータの中から技術者が選択してもよい。また、注目する周波数領域(例えば、600kHz以上)およびその周波数領域におけるピーク値の周波数については、知見を有する技術者が設定してもよいし、所定期間に得られたスペクトラムデータについて、例えば、音響信号解析部24が、正常時のスペクトラムデータの経時的な変動を解析して、波形の変動が所定の範囲内となる周波数領域、その周波数領域のピーク値およびピーク値が出現する周波数を検出し、自動設定するようにしてもよい。記憶部28には、エリア別の正常時のスペクトラムデータ、注目する周波数領域、ピーク値、ピーク値が出現する周波数の情報が登録されている。
【0025】
また、集音・検知装置10を身に着けた作業員Mは、定期的に施設Gを巡回し、施設Gの各所で、音響データ、位置情報を計測する。集音・検知装置10は、同じ時刻(同じ時刻とみなせる同時間帯)に計測した音響データ、位置情報を組みとして、リルタイムに音響信号解析装置20へ送信する。これらのデータは、ネットワークNWを経由して音響信号解析装置20へ送信される。集音・検知装置10による音響データ等の計測・送信の処理と並行して、音響信号解析装置20側では、以下の処理が所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0026】
音響信号解析装置20では、受信部21が、1組の音響データ、位置情報を受信すると(ステップS1)、これらと受信時刻とを対応付けて記憶部28に記録する。次に音響信号解析部24が、記録された音響データをFFT等により周波数解析し(ステップS2)、解析結果のスペクトラムデータ(評価対象のスペクトラムデータと称する。)を、音響データ、位置情報、受信時刻情報と対応付けて記憶部28に記録する。次に、異音判定部25が、音響データに異音が含まれるかどうか判定する(ステップS3)。異音判定部25は、評価対象のスペクトラムデータと、正常時のスペクトラムデータを比較して、受信された音響データに異音が含まれているかどうかを判定する(異音を検出する。)。例えば、異音判定部25は、A~Dエリアの正常時のスペクトラムデータの何れか、又は、A~Dエリアの正常時のスペクトラムデータのうちの複数を合成した波形、における所定の周波数以上の領域(例えば600kHz以上)と、評価対象のスペクトラムデータにおける同じ周波数領域とを比較して、波形の形状、音圧のレベル、ピーク値の大きさ、ピーク値が出現する周波数が一致する、又は、両者の差が一致すると見做せる所定の範囲内に収まっていれば、集音・検知装置10から送信された音響データに異音は含まれていないと判定する。また、異音判定部25は、比較の結果、評価対象のスペクトラムデータが、A~Dエリアの正常時のスペクトラムデータおよびA~Dエリアの正常時のスペクトラムデータのうちの複数を合成して得られる波形データの何れとも特徴が一致しない場合、評価対象のスペクトラムデータには、異音が含まれていると判定する。例えば、評価対象のスペクトラムデータの注目周波数領域における音圧レベルの平均値から正常時の各エリアのスペクトラムデータの注目周波数領域における音圧レベルの平均値を減じた値が所定の閾値以上となったり、各エリアの正常時のスペクトラムデータには出現しない周波数にピーク値が出現したりすると、異音判定部25は、評価対象のスペクトラムデータに異音が含まれていると判定する。異音が含まれていると判定すると、異音判定部25は、異音が含まれるスペクトラムデータ、音響データ、受信時刻情報、位置情報と対応付けて異音が検知されたことを示すフラグ情報を記憶部28に記録する。また、異音判定部25は、注目する周波数領域で検出されたピーク値の音圧(dB)を異音が含まれるスペクトラムデータ等と対応付けて記憶部28に記録する。ピーク値の音圧は、上述の三点測位法のLr2(dB)として用いられる。
【0027】
異音判定部25が、異音が含まれていないと判定した場合(ステップS4;No)、出力部27は、例えば、「正常」、「異音検知なし」などの情報を、その音響データが集音された位置および時刻(受信時刻)の情報とともに表示装置30に出力する(ステップS7)。
【0028】
異音判定部25が、異音が含まれていると判定した場合(ステップS4;Yes)、位置推定部26が、位置推定を行う。まず、位置推定部26は、異音が検知されたことを示すフラグ情報が付されたスペクトラムデータおよびピーク値の音圧、音響データ、位置情報、受信時刻情報が合計で3つ以上、記憶部28に記録されているかどうかを検索する。このとき、ステップS3で異音が含まれると判定された音響データの受信時刻情報を基準として所定の時間内に集音された音響データだけを対象としてもよいし(例えば、数日前のデータは古すぎて現在検出された異音とは異なると判断し除外する等。)、位置情報についても範囲を制限(例えば、数秒前の数メートルしか離れていない位置で集音された異音を含む音響データは三点測位法の計算に用いるものとしてはあまり有効ではない為除外する等。)してもよい。ステップS3で異音が含まれると判定した音響データを含んで3つ以上、異音が検知されたことを示すフラグ情報が付された音響データを見つけることができない場合(ステップS5;No)、三点測位法による位置推定ができないので、例えば、音響信号解析装置20を使用して監視を行っている監視員等が、音響データ等をさらに計測するよう作業員Mへ指示する。作業員Mは、施設G内を巡回し、集音・検知装置10によって、音響データと位置情報の計測を行う。集音・検知装置10は、音響データ、位置情報を音響信号解析装置20へ送信し、異音が含まれると判定される音響データが3地点以上で集音されるまで、ステップS1以降の処理が繰り返し実行される。このとき、出力部27は、異音を検出したこと、異音が検知されたデータが足りないこと、及び、現在までに得られている異音が検出された場所の位置情報を表示装置30に出力してもよい。この出力を見た監視員は、現場の作業員Mに、適切な場所へ赴き、集音・検知装置10により音響データを集音するように指示してもよい。
【0029】
異音が含まれると判定されたデータが3地点以上存在する場合(ステップS5;Yes)、位置推定部26は、異なる3地点で検知された音響データを使って、三点測位法によって異音の発生位置を推定する(ステップS6)。三点測位法では、選択した3地点によって囲まれた範囲内に異音の発生位置がなければ解なしになる。従って、ステップS3で異音が含まれると判定した音響データは使用することとし、残り2つのデータについては、異なる地点で集音された音響データの中から任意の2点を選択するようにし、今回異音が含まれると判定したデータを含む3地点の組合せを様々に変化させながら、三点測位法による位置推定を繰り返し行い、異音の発生位置を推定するようにしてもよい。位置推定部26は、推定した異音の発生位置を記憶部28に記録する。なお、異音発生位置の推定方法は三点測位法に限定されず、他の方法であってもよい。例えば、ある領域を囲んで、異音を含む音響データが集音された場合には、大まかにその領域に異音発生源が存在すると推定してもよい。次に出力部27は、推定された異音の発生位置を表示装置30に出力する(ステップS7)。例えば、出力部27は、
図9Aに例示するように、施設Gの地図上に推定に用いられた3つの地点と異音の発生位置Pを示した画像を生成して、この画像を表示装置30に出力してもよい。異音の発生位置が複数推定された場合には、複数の異音の発生位置を表示するようにしてもよい。
【0030】
以上説明したように、本実施形態の異音検知システム100は、作業員が装着する騒音保護具などに、外部環境音の集音部11、通信部12、測位部13を含む集音・検知装置10を搭載し、集音部11にて集音した外部の音を正常時の音と比較し、両者に差があれば異音検知と判定する。この際、装置や場所ごとに特徴が表れ、且つ、経時的な変動が少ない周波数領域に注目して比較を行うことにより、精度よく、異音を検知する。また、異音検知された場所の位置情報に基づいて、異音の発生位置を推定することができるので、広大な施設G内の異常発生箇所を速やかに見つけ対処することができる。このように本実施形態によれば、作業員Mがイヤプラグなどの騒音保護具を装着したまま、通常のパトロールルートを巡回するだけで、あるいは、作業員Mが、騒音保護具を装着したまま、自分の作業場所で通常の作業を行うだけで、早期に異音を検知し、異音の発生位置を特定することができる。
【0031】
集音・検知装置10、音響信号解析装置20における各処理の過程は、例えば集音・検知装置10、音響信号解析装置20の各々が有するCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサがプログラムを実行することによって実現できる。集音・検知装置10、音響信号解析装置20によって実行されるプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録され、この記録媒体に記録されたプログラムを読み出して実行することによって実現してもよい。なお、集音・検知装置10、音響信号解析装置20は、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、コンピュータが読み取り可能な記録媒体は、例えば、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)等の可搬媒体、集音・検知装置10、音響信号解析装置20に内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。また、コンピュータが読み取り可能な記録媒体には、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0032】
(付記1)
集音・検知装置と、音響信号解析装置と、を含み、前記集音・検知装置は、外部の音を集音し、集音した前記音を音響データとして出力する集音部と、前記音を集音した位置の位置情報を測位する測位部と、前記音響データと、前記測位部により測位された前記位置情報とを送信する通信部と、を有し、前記音響信号解析装置は、前記通信部により送信された前記音響データと前記位置情報とを受信する受信部と、前記音響データを周波数解析して評価対象のスペクトラムデータを算出する音響信号解析部と、所定の周波数領域における前記評価対象のスペクトラムデータと、所定の正常時のスペクトラムデータとを比較することにより、前記音響データに異音が含まれるかどうかを判定する異音判定部と、異音が含まれると判定した場合には、異音が含まれると判定された前記音響データが集音された前記位置の前記位置情報に基づいて、前記異音の発生位置を推定する位置推定部と、を有する異音検知システム。
【0033】
(付記2)
前記異音判定部は、前記所定の周波数領域における前記評価対象のスペクトラムデータの音圧のレベルが、前記正常時のスペクトラムデータの音圧のレベルよりも所定の閾値以上大きい場合、前記音のデータに異音が含まれると判定する、付記1に記載の異音検知システム。
【0034】
(付記3)
前記異音判定部は、前記所定の周波数領域における前記評価対象のスペクトラムデータのピーク値の周波数が、前記正常時のスペクトラムデータのピーク値の周波数と異なる場合、前記音のデータに異音が含まれると判定する、付記1または付記2に記載の異音検知システム。
【0035】
(付記4)
前記位置推定部は、三点測位法により、前記異音の発生位置を推定する、付記1から付記3の何れか1つに記載の異音検知システム。
【0036】
(付記5)
前記集音・検知装置が防音保護具に設けられている、付記1から付記4の何れか1つに記載の異音検知システム。
【0037】
(付記6)
外部の音を集音した音響データと前記音を集音した位置の位置情報を受信するステップと、前記音響データを周波数解析して評価対象のスペクトラムデータを算出するステップと、所定の周波数領域における前記評価対象のスペクトラムデータと所定の正常時のスペクトラムデータとを比較することにより、前記音響データに異音が含まれるかどうかを判定するステップと、前記判定するステップにて異音が含まれると判定された場合、異音が含まれると判定された前記音響データに集音された前記位置の前記位置情報に基づいて、前記異音の発生位置を推定するステップと、を有する異音検知方法。
【0038】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。また、この発明の技術範囲は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0039】
5・・・無線通信装置
10・・・集音・検知装置
11・・・集音部
12・・・通信部
13・・・測位部
20・・・音響信号解析装置
21・・・受信部
22・・・入力部
23・・・制御部
24・・・音響信号解析部
25・・・異音判定部
26・・・位置推定部
27・・・出力部
28・・・記憶部
30・・・表示装置
40・・・外部記憶装置
100・・・異音検知システム