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特開2023-154179ガス分離器およびガス分離器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154179
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】ガス分離器およびガス分離器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/04 20060101AFI20231012BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
B01D53/04 110
B01J20/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063323
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【弁理士】
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(74)【代理人】
【識別番号】100195659
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】小宅 教文
(72)【発明者】
【氏名】今川 晴雄
(72)【発明者】
【氏名】山本 征治
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸山 徳彦
(72)【発明者】
【氏名】永田 哲治
【テーマコード(参考)】
4D012
4G066
【Fターム(参考)】
4D012BA01
4D012BA02
4D012BA03
4D012CA03
4D012CB02
4D012CG01
4G066AA05B
4G066AA22B
4G066AA61B
4G066AB24B
4G066BA07
4G066CA35
4G066DA01
4G066FA03
4G066FA21
4G066FA25
4G066FA27
4G066FA37
4G066FA38
(57)【要約】
【課題】吸着材モノリスの吸着能を低下させずに、良好な熱交換が可能な状態で吸着材モノリスと容器とが接着されているガス分離器を提供する。
【解決手段】ガス分離器は、モノリス構造を有し、ガスを吸着する吸着材とバインダとを含む混合体で構成された吸着材モノリスと、吸着材モノリスを内側に収容する容器と、混合体を主成分とし、吸着材モノリスと容器との間に充填されており、吸着材モノリスと容器とを接着している接着剤と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス分離器であって、
モノリス構造を有し、ガスを吸着する吸着材とバインダとを含む混合体で構成された吸着材モノリスと、
前記吸着材モノリスを内側に収容する容器と、
前記混合体を主成分とし、前記吸着材モノリスと前記容器との間に充填されており、前記吸着材モノリスと前記容器とを接着している接着剤と、を備える、ガス分離器。
【請求項2】
請求項1に記載のガス分離器であって、
前記吸着材モノリス中の前記混合体における前記吸着材の含有率は、重量比で80%以上である、ガス分離器。
【請求項3】
請求項2に記載のガス分離器であって、
前記接着剤中の前記混合体における前記吸着材の含有率は、重量比で80%以上である、ガス分離器。
【請求項4】
ガス分離器の製造方法であって、
ガスを吸着する吸着材とバインダとを含む混合体をモノリス構造に成形して吸着材モノリスを準備する準備工程と、
前記吸着材モノリスを容器の内側に収容する収容工程と、
前記混合体を主成分とした接着剤を、前記吸着材モノリスと前記容器との間に充填して前記吸着材モノリスと前記容器とを接着する接着工程と、を備える、ガス分離器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離器およびガス分離器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、混合ガスに含まれる特定の被吸着ガスを吸着材に吸着させたのち脱離することによって、特定の被吸着ガスを回収する技術が知られている。一般的に、吸着効率および脱離効率の観点から、吸着材による被吸着ガスの吸着は低温時に行い、吸着材からの被吸着ガスの脱離は高温時に行うことが好ましく、吸着材は外部との熱交換により温度調節される。これまでに、吸着材は造粒体の形状に成形されて、その造粒体を充填した粒子充填構造の状態で用いられることが多かった。しかし、粒子充填構造では、造粒体の各々が点接触で接触しているために造粒体間での熱伝導率が低いことから、吸着材と外部との熱交換効率は低い傾向にあった。
【0003】
そこで、吸着材と外部との熱交換効率を向上する技術として、特許文献1には、吸着材がモノリス構造に成形された吸着材モノリスが開示されている。吸着材モノリスは一体構造であるため、粒子充填構造と比べて吸着材モノリス内での熱伝導率が向上する。特許文献2には、吸着材モノリスを内側に収容した容器であるモノリス吸着剤接触器が開示されている。特許文献2では、吸着材モノリスと容器との間において良好な熱交換が可能となるように、ポリマーを主成分とする接着剤を介して、吸着材モノリスが容器内面に接着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2019/0083954号明細書
【特許文献2】特表2014-514137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に開示された容器では、接着に用いられた接着剤が吸着材モノリスの吸着能を低下させる可能性については十分に考慮されていなかった。例えば、接着剤に吸着材を劣化させる成分が含まれる場合には、吸着材モノリスの吸着能を低下させることがある。また、接着剤の粘度が低い場合には、接着剤が吸着材モノリス内部に流れ込んだのち、吸着材モノリス内部を閉塞してガスの拡散を妨げたり、吸着材モノリス内部の表面を覆ってガスの吸着を妨げたりすることにより、吸着材モノリスの吸着能を低下させることもある。このため、吸着材モノリスの吸着能を低下させずに、良好な熱交換が可能な状態で吸着材モノリスと容器とを接着したいという要望があった。なお、特許文献1では、吸着材モノリスと容器との接着については何ら考慮されていない。
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、吸着材モノリスの吸着能を低下させずに、良好な熱交換が可能な状態で吸着材モノリスと容器とが接着されているガス分離器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、ガス分離器が提供される。このガス分離器は、モノリス構造を有し、ガスを吸着する吸着材とバインダとを含む混合体で構成された吸着材モノリスと、前記吸着材モノリスを内側に収容する容器と、前記混合体を主成分とし、前記吸着材モノリスと前記容器との間に充填されており、前記吸着材モノリスと前記容器とを接着している接着剤と、を備える。
【0009】
この構成によれば、ガス分離器において、吸着材とバインダとを含む混合体で構成された吸着材モノリスは、その混合体を主成分とした接着剤により吸着材モノリスと容器との間が充填および接着された状態で、容器の内側に収容されている。このため、接着剤は、吸着材モノリスを構成する混合体を主成分としていることから、接着剤に含まれる主成分により、吸着材モノリスの吸着能が低下することはない。また、吸着材モノリスのモノリス構造を構成している混合体を主成分とした接着剤の粘度は比較的高いため、接着剤が吸着材モノリス内部に流れ込むことによる吸着材モノリスの吸着能低下も抑制することができる。すなわち、この構成によれば、吸着材モノリスの吸着能を低下させずに、接着剤を介して吸着材モノリスと容器とが良好な熱交換が可能な状態で接着されている。したがって、ガス吸着時における容器を介した吸着材モノリスの冷却や、ガス脱離時における容器を介した吸着材モノリスの加熱を効率的に行うことができるため、ガス分離器におけるガスの吸着能および脱離能を向上することができる。
【0010】
(2)上記形態のガス分離器において、前記吸着材モノリス中の前記混合体における前記吸着材の含有率は、重量比で80%以上であってもよい。
吸着材モノリスを構成する混合体において吸着材の含有率が高いほど、より多くのガスの吸着および脱離が可能となる。この構成によれば、吸着材モノリス中の混合体における吸着材の含有率は、重量比で80%以上であることから、ガスの吸着能および脱離能をさらに向上することができる。
【0011】
(3)上記形態のガス分離器において、前記接着剤中の前記混合体における前記吸着材の含有率は、重量比で80%以上であってもよい。
この構成によれば、吸着材モノリスを構成する混合体と同等の高い比率で吸着材を含有する混合体が主成分の接着剤で、吸着材モノリスと容器とが接着されている。このため、高い比率で吸着材を含有していることにより吸着能が高い吸着材モノリスであっても、その吸着能を低下させずに、容器と良好な熱交換が可能な状態で接着することができる。
【0012】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、ガス分離器の製造方法、その製造方法を実行するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、そのコンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態としてのガス分離器の構成を例示した説明図である。
図2】吸着材モノリスが容器に挿入されている状態を示す説明図である。
図3】ガス分離器の製造工程の手順の一例を示すフローチャートである。
図4】吸着能の評価試験におけるガス分離器の配置を示した説明図である。
図5】吸着能の評価試験による試験結果を示した説明図である。
図6】吸着能の評価試験による試験結果のうち一部を拡大した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
図1は、本発明の一実施形態としてのガス分離器1の構成を例示した説明図である。ガス分離器1は、混合ガスに含まれる特定の被吸着ガスを吸着材に吸着させたのち脱離することによって、特定の被吸着ガスを回収する装置である。ガス分離器1では、二酸化炭素(CO2)を特定の被吸着ガスとする。ガス分離器1は、吸着材モノリス10と、容器20と、接着剤30と、を備える。
【0015】
吸着材モノリス10は、モノリス構造を有し、特定の被吸着ガスであるCO2を吸着する吸着材とバインダとを含む混合体で構成されている。モノリス構造とは、微細な網目状の骨格が3次元に連続した一体型の多孔質構造のことである。図1には、円柱形状である吸着材モノリス10の一方の面において、混合ガスを吸着材モノリス10の内部に流入させる複数の孔Pが図示されている。孔Pから流入した混合ガスは、吸着材モノリス10中の吸着材にCO2を吸着されながら、吸着材モノリス10を通過する。吸着材モノリス10を構成する混合体に含まれる吸着材としては、金属有機構造体(MOF)、ゼオライト、シリカ、活性炭、共有結合性有機構造体などが例示される。本実施形態では、代表的な金属有機構造体の1つであるHKUST-1が、混合体に含まれる吸着材として用いられている。吸着材モノリス10中の混合体における吸着材の含有率は、重量比で80%以上である。
【0016】
また、吸着材モノリス10を構成する混合体に含まれるバインダとしては、無機バインダ(カーボンファイバ、グラファイト、ベーマイト、ベントナイト、セピオライト等)と、有機バインダ(メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール等)と、のバインダ混合物が例示される。本実施形態では、無機バインダであるベーマイトと、有機バインダであるヒドロキシプロピルセルロースと、のバインダ混合物が混合体に含まれるバインダとして用いられている。
【0017】
図2は、ガス分離器1の製造過程において、吸着材モノリス10が容器20に挿入されている状態を示す説明図である。容器20は、吸着材モノリス10を内側に収容する容器である。図2に示されているように、容器20の概形は、円筒形状である。円筒形状である容器20の内側に対して、円柱形状である吸着材モノリス10が挿入されることにより、容器20は、吸着材モノリス10を内側に収容する。
【0018】
図1の説明に戻り、接着剤30は、上述した吸着材モノリス10を構成している混合体を主成分とし、吸着材モノリス10と容器20との間に充填されており、吸着材モノリス10と容器20とを接着している。主成分とは、50%以上の重量パーセントを占めることをいう。図2に示されているように、ガス分離器1の製造過程において吸着材モノリス10が容器20に挿入されると、吸着材モノリス10は容器20に嵌まるが、吸着材モノリス10と容器20との間には隙間GPが存在する。この隙間GPに熱処理前の接着剤30P(不図示)が充填されたのち熱処理が加えられることによって、熱処理前の接着剤30Pが接着剤30に変性して、吸着材モノリス10と容器20とが接着される。すなわち、隙間GPは接着剤30により充填される。接着剤30中の混合体における吸着材の含有率は、重量比で80%以上である。
【0019】
図3は、ガス分離器1の製造工程の手順の一例を示すフローチャートである。ガス分離器1の製造においては、まず初めに、製造者は、吸着材(HKUST-1)を、バインダ混合物(ベーマイト、ヒドロキシプロピルセルロース)と混合したのち、溶媒であるエタノールを含有させて粘土状に混錬する(ステップS10)。次に、製造者は、混錬された粘土をモノリス構造に成形する(ステップS20)。モノリス構造の成形には、押出成形や3Dプリンタでの成形が利用される。
【0020】
次に、製造者は、モノリス構造に成形された粘土塊に追加工が必要か判定する(ステップS30)。具体的には、製造者は、モノリス構造に成形された粘土塊に対して、容器20への収容が可能な形状への追加工が必要か判定する。本実施形態では、容器20の概形は円筒形状であることから、ステップS20後の粘土塊の形状が円柱形状であるか否かに応じて、追加工の要否が判定される。追加工が必要な場合(ステップS30:YES)、製造者は、モノリス構造に成形された粘土塊に対して、追加工を行う(ステップS35)。追加工により粘土塊は円柱形状に成形される。
【0021】
追加工が不要な場合(ステップS30:NO)、もしくは、追加工を行ったのち(ステップS35)、製造者は、円柱形状の粘土塊に対して、熱処理を行う(ステップS40)。このときの熱処理で粘土塊に含有されていたエタノールが除去されることにより、当該粘土塊は吸着材モノリス10となる。これらステップS10からステップS40までの工程は、吸着材モノリス10を準備する準備工程にあたる。次に、製造者は、図2で示されているように、吸着材モノリス10を容器20へ収容する(ステップS50)。このステップS50の工程は、収容工程にあたる。
【0022】
次に、製造者は、吸着材モノリス10と容器20との間に熱処理前の接着剤30Pを充填する(ステップS60)。具体的には、吸着材モノリス10と容器20との間(図2に隙間GPとして図示)に熱処理前の接着剤30Pを充填する。熱処理前の接着剤30Pは、ステップS10にて混錬された粘土に溶媒であるエタノールを追加して流動性を付与することにより準備される。このとき追加する溶媒の量を調節することにより、所望の流動性が粘土に付与される。
【0023】
次に、製造者は、吸着材モノリス10が容器20に収容されていて、且つ、吸着材モノリス10と容器20との間に熱処理前の接着剤30Pが充填されている中間製品に対して、熱処理を行う(ステップS70)。この熱処理により熱処理前の接着剤30Pからエタノールが除去されて接着剤30に変性し、吸着材モノリス10と容器20とが接着されることによって、ガス分離器1が完成する(図1参照)。これらステップS60およびステップS70の工程は、接着工程にあたる。なお、ステップS70後に、ガス分離器1のうち吸着材モノリス10の内部を真空ポンプで減圧しつつ200℃での加熱を3時間行うことによって、吸着材モノリス10中の吸着材の再生(吸着材に吸着された水分等の脱離)を行ってもよい。
【0024】
図4は、吸着能の評価試験におけるガス分離器1の配置を示した説明図である。図4に示された矢印は、各配管内を流通するガスの流通方向である。主配管MPは、N2およびCO2(被吸着ガス)を含んだ混合ガスを流通させる配管である。バイパス配管BYは、主配管MPにおける第1位置L1から分岐するとともに、第1位置L1より下流側の第2位置L2において主配管MPに合流する配管である。主配管MPおよびバイパス配管BYには、それぞれバルブV1およびバルブV2が設けられている。バルブV1は、第1位置L1から主配管MPを介した第2位置L2へのガスの流通を遮断可能な遮断弁である。バルブV2は、第1位置L1からバイパス配管BYを介した第2位置L2へのガスの流通を遮断可能な遮断弁である。バイパス配管BYのうちバルブV2が設けられた位置より下流側には、ガス分離器1が設けられている。吸着能の評価試験の開始前は、バルブV1は開弁しているとともにバルブV2は閉弁している。そして、吸着能の評価試験の開始時には、バルブV1を閉弁するとともにバルブV2を開弁することによって、ガス分離器1への混合ガスの流入が開始される。この状態において、第2位置L2より下流側に設けられたセンサ40が測定したCO2濃度を用いて、ガス分離器1の吸着能が評価される。なお、評価試験は、ガス分離器1のうち容器20の外側面が水冷されることによって外部から吸着材モノリス10が冷却されている状態で行われる。
【0025】
図5は、吸着能の評価試験による試験結果を示した説明図である。図5の縦軸はセンサ40が測定したCO2濃度を示し、図5の横軸は評価試験が開始されてからの経過時間を示す。図5に示された破過曲線BT1は、ガス分離器1に対する混合ガス(N2濃度85%およびCO2濃度15%を含有)の流入が開始されてから、センサ40が測定するCO2濃度の履歴を示している。一方、図5に示された破過曲線BT2は、比較例のガス分離器における同履歴を示している。比較例のガス分離器(以降、比較例と呼ぶ)は、ガス分離器1と比べて、吸着材モノリス10は容器20に嵌まっているが、吸着材モノリス10と容器20との間に接着剤30は充填されておらず隙間GPが存在しているガス分離器である。破過曲線BT2のうち経過時間150秒以前の部分は、破過曲線BT1と重なっている。なお、図5の破過曲線BT1,BT2により示された試験結果は、評価試験の直前に吸着材モノリス10中の吸着材の再生が行われているものとする。
【0026】
評価試験の開始によりバルブV1を閉弁するとともにバルブV2を開弁すると、ガス分離器1および比較例のいずれにおいても、センサ40が測定するCO2濃度は経過時間t1に到るまで低下し続ける。すなわち、評価試験が開始されてから経過時間t1までの間、バイパス配管BYを流通する混合ガス中のCO2を吸着材モノリス10に含まれる吸着材がすべて吸着し、且つ、主配管MPのうち第1位置L1から第2位置L2までの間の部分に残っていた混合ガスが下流側に流出する。
【0027】
経過時間t1から経過時間t2までの間、ガス分離器1および比較例のいずれにおいても、センサ40が測定するCO2濃度は0%である。すなわち、この間においても、バイパス配管BYを流通する混合ガス中のCO2を吸着材モノリス10に含まれる吸着材がすべて吸着している。経過時間t2を経過すると、破過曲線BT2で示されるように、比較例では、吸着材が混合ガス中のCO2を吸着できなくなることにより、センサ40が測定するCO2濃度が上昇し始める。
【0028】
図6は、図5に示された試験結果のうち一部を拡大した説明図である。具体的には、図6には、図5に示された試験結果のうち経過時間100秒から経過時間200秒までの間の試験結果が拡大して示されている。図6の縦軸および横軸は、図5と同様である。指標IDは、吸着能の性能指標とするCO2濃度であり、本評価試験においては、0.1%に設定されている。破過曲線BT2で示されるように、比較例では、経過時間t2からCO2濃度が上昇し始めて経過時間t3において指標IDに到達する。図6において経過時間t3は163秒である。一方、ガス分離器1では、経過時間t4(>t3)からCO2濃度が上昇し始めて経過時間t5において指標IDに到達する。図6において経過時間t5は173秒である。したがって、図5,6の結果により、ガス分離器1では、比較例と比べて、接着剤30が吸着材モノリス10と容器20との間に充填されて両者を良好な熱交換が可能な状態で接着していることにより、吸着能を約6%(=173÷163×100)向上させていることが示された。
【0029】
以上説明したように、第1実施形態のガス分離器1によれば、吸着材とバインダとを含む混合体で構成された吸着材モノリス10は、その混合体を主成分とした接着剤30により吸着材モノリス10と容器20との間が充填および接着された状態で、容器の内側に収容されている。このため、接着剤30は、吸着材モノリス10を構成する混合体を主成分としていることから、接着剤30に含まれる主成分により、吸着材モノリス10の吸着能が低下することはない。また、吸着材モノリス10のモノリス構造を構成している混合体を主成分とした接着剤30の粘度は比較的高いため、接着剤30が吸着材モノリス10内部に流れ込むことによる吸着材モノリス10の吸着能低下も抑制することができる。すなわち、第1実施形態のガス分離器1によれば、吸着材モノリス10の吸着能を低下させずに、接着剤30を介して吸着材モノリス10と容器20とが良好な熱交換が可能な状態で接着されている。したがって、ガス吸着時における容器20を介した吸着材モノリス10の冷却や、ガス脱離時における容器20を介した吸着材モノリス10の加熱を効率的に行うことができるため、ガス分離器1におけるガスの吸着能および脱離能を向上することができる。また、吸着材モノリス10と容器20との間が接着剤30により充填されていることから、ガス分離器1に送られてきた混合ガスが、吸着材モノリス10の内部ではなく吸着材モノリス10と容器20との間である隙間を通ってガス分離器1を通過するのを防止することができる。
【0030】
また、第1実施形態のガス分離器1では、吸着材モノリス10中の混合体における吸着材の含有率は、重量比で80%以上である。吸着材モノリス10を構成する混合体において吸着材の含有率が高いほど、より多くのガスの吸着および脱離が可能となる。したがって、第1実施形態のガス分離器1によれば、吸着材モノリス10中の混合体における吸着材の含有率は、重量比で80%以上であることから、ガスの吸着能および脱離能をさらに向上することができる。
【0031】
また、第1実施形態のガス分離器1では、吸着材モノリス10を構成する混合体と同等の高い比率で吸着材を含有する混合体が主成分の接着剤30で、吸着材モノリス10と容器20とが接着されている。このため、高い比率で吸着材を含有していることにより吸着能が高い吸着材モノリス10であっても、その吸着能を低下させずに、容器20と良好な熱交換が可能な状態で接着することができる。
【0032】
<第2実施形態>
第2実施形態のガス分離器は、第1実施形態のガス分離器1と比べて、吸着材モノリス10を構成する混合体に含まれる吸着材として、HKUST-1の代わりにゼオライトを用いている点が異なる。また、第2実施形態のガス分離器は、第1実施形態のガス分離器1と比べて、吸着材モノリス10を構成する混合体に含まれるバインダとして、バインダ混合物(ベーマイト、ヒドロキシプロピルセルロース)の代わりに、別のバインダ混合物(ベントナイト、メチルセルロース)を用いている点も異なる。ここで、別のバインダ混合物に含まれる有機バインダは、メチルセルロースの代わりにカルボキシメチルセルロースであってもよいし、メチルセルロースとカルボキシメチルセルロースとの混合物であってもよい。また、吸着材モノリス10を構成する混合体には、ポリビニルアルコールが含まれている。
【0033】
第2実施形態のガス分離器の製造工程は、上記の吸着材、別のバインダ混合物およびポリビニルアルコールを混合したのち、水を溶媒として粘土状に混錬するものの、第1実施形態のガス分離器1の製造工程(図3)と概ね同じである。一方、ステップS60において、吸着材モノリス10と容器20との間に充填される、熱処理前の接着剤の準備は異なる。第1実施形態のガス分離器1の製造工程(図3)では、ステップS10にて混錬された粘土(HKUST-1含有)に溶媒を追加するのみであったが、第2実施形態のガス分離器の製造工程では、ステップS10にて混錬された粘土(ゼオライト含有)に溶媒を加えただけでは接着成分が不足することから、更にポリビニルアルコールを追加して接着成分を付与することにより、充填に用いられる熱処理前の接着剤が準備される。その後、ステップS70の熱処理によって、その接着成分が付与された熱処理前の接着剤が変性することにより、吸着材モノリス10と容器20とが接着されて、第2実施形態のガス分離器が完成する。
【0034】
以上のような第2実施形態のガス分離器によっても、第1実施形態と同様に、吸着材モノリス10の吸着能を低下させずに、吸着材モノリス10と容器20とが良好な熱交換が可能な状態で接着されている。また、第2実施形態のガス分離器の製造工程にて説明したように、充填に用いられる熱処理前の接着剤の準備段階において、ステップS10にて混錬された粘土に溶媒を追加するのみでは接着成分が不足している場合、さらに接着成分を有する材料(例えば上述のポリビニルアルコール)を追加することで、接着成分を十分に付与された熱処理前の接着剤の準備が可能となる。このため、溶媒で溶かしただけでは接着成分が不足する混合体(例えば上述のゼオライト含有)であっても、接着剤への適用が可能となる。したがって、そのような混合体で構成された吸着材モノリス10が、同じ混合体を主成分とする接着剤により容器20と接着されているガス分離器の製造も可能となる。
【0035】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0036】
[変形例1]
上記実施形態では、吸着材モノリス10中の混合体における吸着材の含有率は、重量比で80%以上であったが、これに限られない。例えば、吸着材モノリス10中の混合体における吸着材の含有率は、80%未満であってもよい。
【0037】
[変形例2]
上記実施形態では、吸着材モノリスや接着剤に用いられている混合体に含まれるバインダは、無機バインダと有機バインダとのバインダ混合物であったが、これに限られない。例えば、混合体に含まれるバインダは、無機バインダと有機バインダとのうち一方のバインダであってもよい。
【0038】
[変形例3]
上記第1実施形態では、ガス分離機1の製造工程のステップS10において、吸着材をバインダ混合物と混合したのち、溶媒としてエタノールを含有させて粘土状に混錬していたが、これに限られない。例えば、溶媒として、メタノール、イソプロピルアルコール、水、ヘキサン等がエタノールの代わりに用いられてもよい。
【0039】
[変形例4]
上記第2実施形態では、充填に用いられる熱処理前の接着剤の準備段階において、ステップS10にて混錬された粘土に接着成分を付与する際に、ポリビニルアルコールが追加されていたが、これに限られない。例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などのポリマーがポリビニルアルコールの代わりに用いられてもよい。
【0040】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0041】
1…ガス分離器
10…吸着材モノリス
20…容器
30…接着剤
30P…接着剤
40…センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6