(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154199
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】金属疲労評価方法、該プログラムおよび該装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2055 20180101AFI20231012BHJP
【FI】
G01N23/2055
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063355
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】杵渕 雅男
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 康人
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001KA07
2G001LA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、より信頼性の高い評価結果を得ることができる金属疲労評価方法を提供する。
【解決手段】本発明の金属疲労評価方法は、金属の評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求める方法であって、前記評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得し、前記取得した回折環データにおける、方位角に対する回折環のピーク強度分布、または、前記データ取得工程で取得した回折環データにおける、方位角に対する半価幅分布を、データ分布として求め、前記求めたデータ分布から、前記データ分布に含まれるうねり成分を除去した除去結果に基づいて前記評価指標を求める。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求める金属疲労評価方法であって、
前記評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得するデータ取得工程と、
前記データ取得工程で取得した回折環データにおける、方位角に対する回折環のピーク強度分布、または、前記データ取得工程で取得した回折環データにおける、方位角に対する半価幅分布を、データ分布として求める分布処理工程と、
前記分布処理工程で求めたデータ分布から、前記データ分布に含まれるうねり成分を除去した除去結果に基づいて前記評価指標を求める指標処理工程とを備える、
金属疲労評価方法。
【請求項2】
前記評価指標は、前記データ分布の均一の程度を表す均一性指標である、
請求項1に記載の金属疲労評価方法。
【請求項3】
前記均一性指標は、前記データ分布における標準偏差、または、前記データ分布における標準偏差を前記データ分布の平均値で除算した除算結果である、
請求項2に記載の金属疲労評価方法。
【請求項4】
前記指標処理工程は、
前記分布処理工程で求めたデータ分布から、前記データ分布に含まれるうねり成分を抽出するうねり成分抽出工程と、
前記分布処理工程で求めたデータ分布から、前記うねり成分抽出工程で抽出したうねり成分を除去した除去結果に基づいて前記評価指標を求める指標演算工程とを備える、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の金属疲労評価方法。
【請求項5】
前記うねり成分抽出工程は、前記分布処理工程で求めたデータ分布を、ガウシアンフィルタを用いたフィルタリング処理によって、または、エンベローブを抽出するエンベローブ処理によって、前記うねり成分を抽出する、
請求項4に記載の金属疲労評価方法。
【請求項6】
コンピュータに実行され、金属の評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求める金属疲労評価プログラムであって、
前記評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得するデータ取得工程と、
前記データ取得工程で取得した回折環データにおける、方位角に対する回折環のピーク強度分布、または、前記データ取得工程で取得した回折環データにおける、方位角に対する半価幅分布を、データ分布として求める分布処理工程と、
前記分布処理工程で求めたデータ分布から、前記データ分布に含まれるうねり成分を除去した除去結果に基づいて前記評価指標を求める指標処理工程とを備える、
金属疲労評価プログラム。
【請求項7】
金属の評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求める金属疲労評価装置であって、
前記評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部で取得した回折環データにおける、方位角に対する回折環のピーク強度分布、または、前記データ取得部で取得した回折環データにおける、方位角に対する半価幅分布を、データ分布として求める分布処理部と、
前記分布処理部で求めたデータ分布から、前記データ分布に含まれるうねり成分を除去した除去結果に基づいて前記評価指標を求める指標処理部とを備える、
金属疲労評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折環を用いて金属疲労の程度を評価する金属疲労評価方法、金属疲労評価プログラムおよび金属疲労評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属疲労による装置の損傷は、プロセスの不意な停止や事故等に繋がる虞があるため、金属疲労の程度を評価することは、重要であり、要望されている。この金属疲労の程度を評価する技術は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
この特許文献1では、マルテンサイトへの組織変化による腐食部を観察によって特定した疲労部についてX線回折が行われ、マルテンサイトの半価幅の変化量および残留オーステナイトの変化量が測定され、その測定結果から疲労度が求められている。
【0004】
一般に、結晶の周期性が高い場合、その周期間隔および周期方向で規定される方向に強い回折波(ブラッグ反射波)が発生する。一方、金属疲労は、金属結晶中に転位を生成するので、金属結晶の格子の周期性を乱す。このため、ブラッグ反射波の反射方向に広がりが生じる結果、回折波の半価幅(ピーク位置からの広がり)が変化する。よって、結晶格子でのブラッグ反射による回折波の半価幅を評価することで、前記特許文献1のように、金属疲労の程度が評価できると推察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、金属疲労の評価は、上述したように重要であるため、より信頼性が高いことが好ましく、X線回折による金属疲労の程度を評価する評価方法には、改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、より信頼性の高い評価結果を得ることができる金属疲労評価方法、金属疲労評価プログラムおよび金属疲労評価装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる金属疲労評価方法は、金属の評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求める方法であって、前記評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得するデータ取得工程と、前記データ取得工程で取得した回折環データにおける、方位角に対する回折環のピーク強度分布、または、前記データ取得工程で取得した回折環データにおける、方位角に対する半価幅分布を、データ分布として求める分布処理工程と、前記分布処理工程で求めたデータ分布から、前記データ分布に含まれるうねり成分を除去した除去結果に基づいて前記評価指標を求める指標処理工程とを備える。
【0009】
このような金属疲労評価方法は、データ分布から、ノイズであるうねり成分を除去した除去結果に基づいて前記評価指標を求めるので、より信頼性の高い評価結果を得ることができる。
【0010】
他の一態様では、上述の金属疲労評価方法において、前記評価指標は、前記データ分布の均一の程度を表す均一性指標である。好ましくは、上述の金属疲労評価方法において、前記評価指標は、方位角に対する、前記回折環におけるピーク強度の均一の程度を表す均一性指標、または、方位角に対する、前記回折環における半価幅の均一の程度を表す均一性指標である。
【0011】
金属の評価対象が初期状態である場合、X線照射領域における結晶粒の数が不足するため、回折環は、スポッティな形状であるが、金属疲労が進行すると、転位増殖に伴う結晶粒の微細化(セル組織化)によって結晶粒の数が増え、回折環は、均一化する。上記金属疲労評価方法は、前記データ分布の均一の程度を表す均一性指標を、金属疲労の程度を表す評価指標として求めるので、より適切に金属疲労の程度を評価できる。
【0012】
他の一態様では、上述の金属疲労評価方法において、前記均一性指標は、前記データ分布における標準偏差、または、前記データ分布における標準偏差を前記データ分布の平均値で除算した除算結果である。好ましくは、上述の金属疲労評価方法において、前記均一性指標は、方位角に対する、前記回折環におけるピーク強度分布の標準偏差、または、方位角に対する、前記回折環におけるピーク強度の標準偏差を、前記ピーク強度分布の平均値で除算した除算結果である。好ましくは、上述の金属疲労評価方法において、前記均一性指標は、方位角に対する、前記回折環における半価幅分布の標準偏差、または、方位角に対する、前記回折環における半価幅の標準偏差を、前記半価幅分布の平均値で除算した除算結果である。
【0013】
これによれば、前記データ分布における標準偏差、または、前記データ分布における標準偏差を前記データ分布の平均値で除算した除算結果を前記均一性指標、すなわち、前記評価指標として求める金属疲労評価方法が提供できる。前記均一性指標として前記除算結果を用いる場合には、上記金属疲労評価方法は、前記標準偏差を前記平均値で除算するので、ビームの照射時間のばらつきによる評価指標への影響を軽減できる。
【0014】
他の一態様では、これら上述の金属疲労評価方法において、前記指標処理工程は、前記分布処理工程で求めたデータ分布から、前記データ分布に含まれるうねり成分を抽出するうねり成分抽出工程と、前記分布処理工程で求めたデータ分布から、前記うねり成分抽出工程で抽出したうねり成分を除去した除去結果に基づいて前記評価指標を求める指標演算工程とを備える。
【0015】
このような金属疲労評価方法は、うねり成分を抽出してから前記除去結果を生成するので、前記うねり成分の抽出に公知の抽出処理を利用でき、簡易に、データ分布からうねり成分を除去した前記除去結果を生成できる。
【0016】
他の一態様では、上述の金属疲労評価方法において、前記うねり成分抽出工程は、前記分布処理工程で求めたデータ分布を、ガウシアンフィルタを用いたフィルタリング処理によって、または、エンベローブを抽出するエンベローブ処理によって、前記うねり成分を抽出する。
【0017】
このような金属疲労評価方法は、前記うねり成分の抽出に、フィルタリング処理またはエンベローブ処理を用いるので、簡易な処理で前記うねり成分を抽出できる。
【0018】
本発明の他の一態様にかかる金属疲労評価プログラムは、コンピュータに実行され、金属の評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求めるプログラムであって、前記評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得するデータ取得工程と、前記データ取得工程で取得した回折環データにおける、方位角に対する回折環のピーク強度分布、または、前記データ取得工程で取得した回折環データにおける、方位角に対する半価幅分布を、データ分布として求める分布処理工程と、前記分布処理工程で求めたデータ分布から、前記データ分布に含まれるうねり成分を除去した除去結果に基づいて前記評価指標を求める指標処理工程とを備える。
【0019】
本発明の他の一態様にかかる金属疲労評価装置は、金属の評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求める装置であって、前記評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得するデータ取得部と、前記データ取得部で取得した回折環データにおける、方位角に対する回折環のピーク強度分布、または、前記データ取得部で取得した回折環データにおける、方位角に対する半価幅分布を、データ分布として求める分布処理部と、前記分布処理部で求めたデータ分布から、前記データ分布に含まれるうねり成分を除去した除去結果に基づいて前記評価指標を求める指標処理部とを備える。
【0020】
このような金属疲労評価プログラムおよび金属疲労評価装置は、データ分布から、ノイズであるうねり成分を除去した除去結果に基づいて前記評価指標を求めるので、より信頼性の高い評価結果を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる金属疲労評価方法、金属疲労評価プログラムおよび金属疲労評価装置は、より信頼性の高い評価結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態における金属疲労評価装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】前記金属疲労評価装置におけるデータ取得部の一例の構成を示すブロック図である。
【
図3】金属疲労の進行に伴う回折環の変化の様子を説明するための図である。
【
図4】一例として、回折環、前記回折環の方位角に対するピーク強度分布、その平均値およびその標準偏差を示す図である。
【
図5】入射角と方位角とによるX線侵入深さの変化を示すグラフである。
【
図6】入射角による、方位角に対する回折環のピーク強度分布の変化を説明するための図である。
【
図7】離間間隔抽出処理を説明するための図である。
【
図8】ガウシアンフィルタのフィルタリング処理に関し、損傷度に対する均一性指標の変化率を示すグラフである。
【
図9】離間間隔抽出処理に関し、損傷度に対する均一性指標の変化率を示すグラフである。
【
図10】前記金属疲労評価装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0024】
実施形態における金属疲労評価装置は、金属の評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求める装置である。この金属疲労評価装置は、前記評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得するデータ取得部と、前記データ取得部で取得した回折環データにおける、方位角に対する回折環のピーク強度分布、または、前記データ取得部で取得した回折環データにおける、方位角に対する半価幅分布を、データ分布として求める分布処理部と、前記分布処理部で求めたデータ分布から、前記データ分布に含まれるうねり成分を除去した除去結果に基づいて前記評価指標を求める指標処理部とを備える。以下、このような金属疲労評価装置、ならびに、これに実装される金属疲労評価方法および金属疲労評価プログラムについて、より具体的に説明する。
【0025】
図1は、実施形態における金属疲労評価装置の構成を示すブロック図である。
図2は、前記金属疲労評価装置におけるデータ取得部の一例の構成を示すブロック図である。
図2Aは、全体的な構成を示し、
図2Bは、撮像部15と評価対象Obとの関係を示す。
図3は、金属疲労の進行に伴う回折環の変化の様子を説明するための図である。
図4は、一例として、回折環、前記回折環の方位角に対するピーク強度分布、その平均値およびその標準偏差を示す図である。
図4Aは、回折環を示し、
図4Bは、
図4Aに示す回折環における方位角αに対するピーク強度分布(回折環の周方向における各位置でのピーク強度の分布)、その平均値μおよびその標準偏差σを示す。
図4Bの横軸は、0°から360°までの方位角α[deg]であり、その縦軸は、回折強度(Diffraction Intensity[counts])のピーク値である。
【0026】
実施形態における金属疲労評価装置Dは、例えば、
図1に示すように、データ取得部1と、制御処理部2と、入力部3と、出力部4と、インターフェース部(IF部)5と、記憶部6とを備える。
【0027】
データ取得部1は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、金属(合金を含む)の評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得する装置である。より具体的には、例えば、本実施形態では、データ取得部1は、前記ビームを照射する照射部と、前記評価対象に前記照射部によって前記ビームを照射することによって形成された回折環を撮像し、前記回折環を表す回折環データを生成する撮像部とを備える。
【0028】
より詳しくは、データ取得部1は、
図2に示すように、高圧電源11、冷却部12、制御部13、X線照射部14および撮像部15を備える。高圧電源11は、電子線加速用の高電圧をX線照射部14に供給する装置である。冷却部12は、X線照射部14を冷却する装置である。制御部13は、データ取得部1全体の動作を制御する装置である。なお、制御部13は、制御処理部2に機能的に構成される後述の制御部21と兼用されてよい。
【0029】
X線照射部14は、電子線をターゲットに衝突させてX線を発生させるX線発生装置と、発生したX線を細束のX線ビームとして評価対象Obに照射するX線照射管とを備える。前記X線発生装置は、例えば、電子線を高電圧で加速して陽極に衝突させCrKα特性X線を発生させるためのX線管球(真空管)である。前記X線照射管は、例えば、発生したX線を細い平行ビームに絞り照射するピンホールコリメータである。
【0030】
なお、評価対象Obに対し回折する性質を持つビーム(回折光)として、ここでは、X線を用いる例を説明するが、回折の性質を持つビームには、X線に限らず、電磁波(可視光、紫外線、γ線を含む)、中性子線、電子線等が含まれる。
【0031】
撮像部15は、評価対象ObにX線照射部14によってビームを照射することによって形成された回折環を撮像し、前記回折環を表す回折環データを生成する装置である。撮像部15は、例えば、いわゆるイメージングプレートを備えて構成される。このイメージングプレートには、輝尽性蛍光発光現象が利用されている。大略、輝尽性蛍光体を塗布したフィルムがX線によって露光され、露光されたフィルムにレーザ光を照射して生じた蛍光の発光量が計測される。蛍光は、X線の露光量に応じた発光量で発光するので、発光量を計測することで、X線像が得られる。
【0032】
なお、データ取得部1は、例えば、外部の機器との間でデータを入出力するインターフェース回路であり、前記外部の機器は、前記回折環データを記憶した、例えばUSB(Universal Serial Bus)メモリおよびSDカード(登録商標)等の記憶媒体であってよい。あるいは、例えば、データ取得部1は、外部の機器との間でデータを入出力するインターフェース回路であり、前記外部の機器は、前記回折環データを記録した、例えばCD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、CD-R(Compact Disc Recordable)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)およびDVD-R(Digital Versatile Disc Recordable)等の記録媒体からデータを読み込むドライブ装置であってよい。あるいは、例えば、データ取得部1は、外部の機器と通信信号を送受信する通信インターフェース回路であって、前記外部の機器は、ネットワーク(WAN(Wide Area Network、公衆通信網を含む))あるいはLAN(Local Area Network)を介して前記通信インターフェース回路に接続され、前記回折環データを管理するサーバ装置であってよい。なお、データ取得部1がインターフェース回路や通信インターフェース回路である場合では、データ取得部1は、IF部5と兼用されてもよい(すなわち、IF部5がデータ取得部1として用いられてもよい)。
【0033】
図1に戻って、入力部3は、制御処理部2に接続され、評価開始を指示するコマンド等の各種コマンド、および、例えば金属疲労評価装置Dによって評価される評価対象の名称(例えばシリアル番号等)等の、金属疲労評価装置Dの稼働を行う上で必要な各種データを金属疲労評価装置Dに入力する装置であり、例えば、所定の機能を割り付けられた複数の入力スイッチ、キーボードおよびマウス等である。出力部4は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、入力部3から入力されたコマンドやデータ、データ取得部1で取得された回折環データで表される回折環、および、金属疲労評価装置Dによって求められた評価指標等を出力する装置であり、例えばCRTディスプレイ、LCD(液晶表示装置)および有機ELディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0034】
IF部5は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、例えば、外部の機器との間でデータを入出力する回路であり、例えば、シリアル通信方式であるRS-232Cのインターフェース回路、Bluetooth(登録商標)規格を用いたインターフェース回路、および、USB規格を用いたインターフェース回路等である。また、IF部5は、例えば、データ通信カードや、IEEE802.11規格等に従った通信インターフェース回路等の、外部の機器と通信信号を送受信する通信インターフェース回路であってもよい。
【0035】
記憶部6は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、各種の所定のプログラムおよび各種の所定のデータを記憶する回路である。前記各種の所定のプログラムには、例えば、制御処理プログラムが含まれ、前記制御処理プログラムには、金属疲労評価装置Dの各部1、3~6を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御する制御プログラム、前記データ取得部1で取得した回折環データにおける、方位角に対する回折環のピーク強度分布、または、前記データ取得部1で取得した回折環データにおける、方位角に対する半価幅分布を、データ分布として求める分布処理プログラム、前記分布処理プログラムで求めたデータ分布から、前記データ分布に含まれるうねり成分を除去した除去結果に基づいて前記評価指標を求める指標処理プログラム等が含まれる。前記各種の所定のデータには、例えば前記回折環データ等の、これら各プログラムを実行する上で必要なデータが含まれる。このような記憶部6は、例えば不揮発性の記憶素子であるROM(Read Only Memory)や書き換え可能な不揮発性の記憶素子であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等を備える。そして、記憶部6は、前記所定のプログラムの実行中に生じるデータ等を記憶するいわゆる制御処理部2のワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等を含む。なお、記憶部6は、大容量を記憶可能なハードディスク装置を備えてもよい。
【0036】
制御処理部2は、金属疲労評価装置Dの各部1、3~6を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求めるための回路である。制御処理部2は、例えば、CPU(Central Processing Unit)およびその周辺回路を備えて構成される。制御処理部2には、前記制御処理プログラムが実行されることによって、制御部21、分布処理部22および指標処理部23が機能的に構成される。
【0037】
制御部21は、金属疲労評価装置Dの各部1、3~6を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、金属疲労評価装置D全体の制御を司るものである。
【0038】
分布処理部22は、データ取得部1で取得した回折環データにおける、方位角に対する回折環のピーク強度分布、または、データ取得部1で取得した回折環データにおける、方位角に対する半価幅分布を、データ分布として求めるものである。
【0039】
指標処理部23は、分布処理部22で求めたデータ分布から、前記データ分布に含まれるうねり成分を除去した除去結果に基づいて前記評価指標を求めるものである。前記除去結果は、データ分布から直接的に求められてよく、あるいは、うねり成分を求めてから、データ分布からこの求めたうねり成分を除去することで求められてよい。後者の場合には、指標処理部23は、
図1に破線で示すように、うねり成分抽出部231および指標演算部232を機能的に備える。うねり成分抽出部231は、前記分布処理部22で求めたデータ分布から、前記データ分布に含まれるうねり成分を抽出するものである。指標演算部232は、分布処理部22で求めたデータ分布から、うねり成分抽出部231で抽出したうねり成分を除去した除去結果に基づいて前記評価指標を求めるものである。前記除去結果を直接的に求める処理、および、うねり成分を抽出する処理については、さらに、後述する。
【0040】
前記評価指標には、一般的な、回折環の半価幅が用いられてよいが、本実施形態では、前記データ分布の均一の程度を表す均一性指標が用いられる。すなわち、前記評価指標は、方位角に対する、前記回折環におけるピーク強度の均一の程度を表す均一性指標である。あるいは、前記評価指標は、方位角に対する、前記回折環における半価値幅の均一の程度を表す均一性指標である。好ましくは、前記均一性指標は、前記データ分布における標準偏差、または、前記データ分布における標準偏差を前記データ分布の平均値で除算した除算結果である。すなわち、前記均一性指標は、方位角に対する、前記回折環におけるピーク強度分布の標準偏差、または、方位角に対する、前記回折環におけるピーク強度の標準偏差を、前記ピーク強度分布の平均値で除算した除算結果である。あるいは、前記均一性指標は、方位角に対する、前記回折環における半価幅分布の標準偏差、または、方位角に対する、前記回折環における半価幅の標準偏差を、前記半価幅分布の平均値で除算した除算結果である。
【0041】
このような均一性指標が、金属疲労の程度を表す評価指標となることについて説明する。
図3には、一例として、金属疲労の進行に伴う回折環の変化の様子が示されている。
図3には、引っ張りと圧縮とを交互に繰り返す引張圧縮繰返し試験によって、損傷度0%、10%、30%、50%および100%それぞれの疲労損傷を与えた各試料に対し、CrKαのX線を入射角0°で入射したX線回折が行われ、その結果得られた各回折環画像が示されている。前記引張圧縮繰返し試験には、通常の振動荷重印加の疲労試験機が用いられ、破断したときのサイクル数が損傷度100%とされ、損傷度0%、10%、30%および50%は、これに対するサイクル数の比率である。試料は、一例として、ボイラ管に使用される一般規格の鋼管材料である。
図3の上段は、電解研磨処理を実施していない各試料の各回折環画像であり、その下段は、電解研磨処理を実施している各試料の各回折環画像である。平面視にて、左から右へ順に、損傷度0%、10%、30%、50%および100%の各試料の各回折環画像である。
【0042】
図3を左から右へ順に観察すると、回折環は、ピーク強度が周方向の各位置で異なるスポッティ状の初期状態の形状から、金属疲労の増加に伴い徐々に前記ピーク強度が周方向の各位置で略均一な形状に変化している様子が分かる。この変化をTEM(透過型電子顕微鏡)の観察結果(不図示)と対比すると、疲労損傷の蓄積に伴う転位増殖によって微細なセル組織が数多く形成されていく過程と、回折環が均一化する変化とが関連しているものと推察される。
【0043】
一般に、X線の照射領域に十分な数の結晶粒が存在している場合、均一な回折環が得られる。
図3に示す結果は、初期状態において、X線照射領域における結晶粒の数が不足する結果、スポッティ状の回折環の形状であったものが、転位増殖に伴う結晶粒の微細化(セル組織化)によって結晶粒の数が増えたため、回折環の均一化に寄与したものと推察される。残留応力測定を含むX線回折を用いた評価手法において、測定精度の低下を避けるために、試料の平均結晶粒径は、30μm以下であることが推奨されているが、この指針と比較すると、
図3の試料の初期状態におけるフェライト粒径は、大きいもので50~60μm程度であり、X線回折の計測的には、粗大な部類に入り、上記考察と合致する。
【0044】
以上から、疲労損傷の蓄積に伴う回折環の均一化現象は、第1に、転位増殖(セル組織形成)による組織微細化、および、第2に、その微視組織の方位変化の2点に起因するものと結論づけることができ、回折環の凹凸は、その微視組織変化を端的に表す物理量と考えられ、回折環におけるピーク強度の均一の程度を表す均一性指標は、金属疲労の程度を表す新たな評価指標として用いることができる。
【0045】
前記均一性指標(=評価指標の一例)は、例えば、回折環の方位角に対する最大ピーク強度と最小ピーク強度との差や、ピークの半価幅の変化等を用いてもよいが、本実施形態では、方位角に対する回折環のピーク強度分布における標準偏差が前記均一性指標として用いられる。その一例が
図4に示されている。
図4Aは、回折環を示し、
図4Bは、
図4Aに示す回折環における方位角αに対するピーク強度分布(回折環の周方向における各位置でのピーク強度の分布)、その平均値μおよびその標準偏差σを示す。
図4Bの横軸は、0°から360°までの方位角α[deg]であり、その縦軸は、回折強度(Diffraction Intensity[counts])のピーク値である。方位角αは、
図4Aに示すように、回折環の中心位置Oを通るベースライン(Baseline)を基準0°とした場合に、時計回りに回折環の周方向に、前記ベースラインからの角度である。評価対象Obは、ボイラ管に使用される一般規格の鋼管材料の一例であるSTBA21であり、電解研磨処理が実施されている。回折角2θは、156.396°である。前記均一性指標としての標準偏差σが相対的に大きい場合には、回折環の周方向における各位置でのピーク強度は、ばらついており、金属疲労は、相対的に小さい。一方、前記標準偏差σが相対的に小さい場合には、回折環の周方向における各位置でのピーク強度は、略均一であり(ばらつきが小さく)、金属疲労は、相対的に大きい。
【0046】
方位角に対する、回折環におけるピーク強度が均一化されるとともに、方位角に対する、回折環におけるピークの半価幅も均一化されるので、前記均一性指標(=評価指標の他の一例)は、方位角に対するピークの半価幅分布における標準偏差であってもよい。あるいは、ビームの照射時間のばらつきによる評価指標への影響を軽減するために、前記均一性指標(=評価指標の他の一例)は、方位角に対する回折環のピーク強度分布における標準偏差を前記回折環におけるピーク強度分布の平均値で除算した除算結果であってもよく、前記均一性指標(=評価指標の他の一例)は、方位角に対する半価幅分布における標準偏差を前記回折環における半価幅分布の平均値で除算した除算結果であってもよい。
【0047】
上述の
図4は、データ取得部1で取得した回折環データに基づく、うねり成分を除去する前の結果を示すが、本実施形態では、さらにより信頼性の高い評価結果を得るために、前記うねり成分が除去される。
【0048】
図5は、入射角と方位角とによるX線侵入深さの変化を示すグラフである。
図5の横軸は、方位角α[deg]であり、その縦軸は、X線侵入深さ[μm]である。
図5には、入射角Ψ0が0°である場合における方位角に対するX線侵入深さのグラフ、入射角Ψ0が15°である場合における方位角に対するX線侵入深さのグラフ、入射角Ψ0が30°である場合における方位角に対するX線侵入深さのグラフ、入射角Ψ0が45°である場合における方位角に対するX線侵入深さのグラフ、および、入射角Ψ0が60°である場合における方位角に対するX線侵入深さのグラフが示されている。
図6は、入射角による、方位角に対する回折環のピーク強度分布の変化を説明するための図である。
図6Aは、入射角Ψ0が0°である場合における、方位角に対する回折環のピーク強度分布を示し、
図6Bは、入射角Ψ0が45°である場合における、方位角に対する回折環のピーク強度分布を示す。
図6Aおよび
図6Bにおける各横軸は、方位角α[deg]であり、それらの各縦軸は、ピーク強度である。
図7は、離間間隔抽出処理を説明するための図である。
図8は、ガウシアンフィルタのフィルタリング処理に関し、損傷度に対する均一性指標の変化率を示すグラフである。
図8Aおよび
図8Bは、フィルタリング処理を用いて得たグラフであり、
図8Cおよび
図8Dは、前記フィルタリング処理を用いていないグラフである。
図8Aおよび
図8Cでは、均一性指標として、方位角に対する回折環のピーク強度分布における標準偏差を、前記ピーク強度分布の平均値で除算した除算結果が用いられ、
図8Aおよび
図8Cは、その初期値からの変化率のグラフである。
図8Aおよび
図8Cの各横軸は、損傷度[%]であり、それらの縦軸は、前記変化率である。
図8Bおよび
図8Dでは、均一性指標として、方位角に対する回折環の半価幅分布における標準偏差を、前記半価幅分布の平均値で除算した除算結果が用いられ、
図8Bおよび
図8Dは、その初期値からの変化率のグラフである。前記初期値は、損傷度0%の均一性指標の値である。
図8Bおよび
図8Dの各横軸は、損傷度[%]であり、それらの縦軸は、前記変化率である。
図9は、離間間隔抽出処理に関し、損傷度に対する均一性指標の変化率を示すグラフである。
図9Aおよび
図9Bは、離間間隔抽出処理を用いて得たグラフであり、
図9Cおよび
図9Dは、前記離間間隔抽出処理を用いていないグラフである。
図9Aおよび
図9Cでは、均一性指標として、方位角に対する回折環のピーク強度分布における標準偏差を、前記ピーク強度分布の平均値で除算した除算結果が用いられ、
図9Aおよび
図9Cは、その初期値からの変化率のグラフである。
図9Aおよび
図9Cの各横軸は、損傷度[%]であり、それらの縦軸は、前記変化率である。
図9Bおよび
図9Dでは、均一性指標として、方位角に対する回折環の半価幅分布における標準偏差を、前記半価幅分布の平均値で除算した除算結果が用いられ、
図9Bおよび
図9Dは、その初期値からの変化率のグラフである。前記初期値は、上述と同様に、損傷度0%の均一性指標の値である。
図9Bおよび
図9Dの各横軸は、損傷度[%]であり、それらの縦軸は、前記変化率である。
図8Cと
図9Cとは、同一であり、
図8Dと
図9Dとは、同一である。つまり、見易くするために、
図8Cおよび
図8Dは、
図9Cおよび
図9Dとして再掲している。
【0049】
図4に示す測定系では、例えば、
図5に示すように、入射角Ψ0と方位角αとにより、材料(評価対象)へのX線侵入深さが異なる。X線侵入深さは、入射角Ψ0が0°である場合には方位角αにかかわらず一定であるが、前記X線侵入深さは、入射角Ψ0が大きくなるに従って深くなり、方位角αが180°で谷(最も深く)となる。
図5に示す各グラフは、光路差に基づく減衰により回折強度に与える影響をシミュレーションすることによって生成された。
【0050】
発明者は、入射角Ψ0が0°である場合における、方位角に対する回折環のピーク強度分布、および、入射角Ψ0が45°である場合における方位角に対する回折環のピーク強度分布それぞれを実測することによって、
図5に示すX線侵入深さの変化が前記ピーク強度分布に与える影響について、調べた。その結果が
図6に示されている。
図6には、測定条件を、X線;CrKα、回折角2θ;156.396°、測定対象;火STBA24J1、平均スポット径;入射角Ψ0が0°で約1.7mm、入射角Ψ0が45°で約2.2mm、表面研磨;電解研磨として実測した、損傷度30%での、回折環のピーク強度が示されている。
【0051】
図6に示すように、入射角Ψ0が0°である場合には方位角αにかかわらずX線侵入深さが一定であるので、
図6Aに示す、入射角Ψ0が0°である場合における回折環のピーク強度を基準に、
図6Bに示す、入射角Ψ0が45°である場合における回折環のピーク強度を参照すると、0°から360°までの方位角の増加に伴う、ピーク強度における相対的に細かな、相対的に小さい変動(増減)は、これら両者間で近いように見えるが、入射角Ψ0が45°である場合における回折環のピーク強度には、入射角Ψ0が0°である場合における回折環のピーク強度に較べ、0°から360°までの方位角の増加に伴い、ピーク強度における相対的に緩やかな、相対的に大きい変動(増減)が見られる。方位角空間における空間周波数について、前者は、高周波成分であり、後者は、うねり成分である。均一性指標を評価指標とする場合、このうねり成分によって均一性が劣化するため、前記均一性指標にとって前記うねり成分がノイズとなってしまう。
【0052】
このため、本実施形態では、データ分布からうねり成分が除去され、その除去結果に基づいて評価指標の一例として均一性指標が求められる。この除去結果は、上述したように、まず、うねり成分を求めてから、データ分布からこの求めたうねり成分を除去することで求められてよい。このうねり成分の抽出には、公知の抽出処理が用いられる。
【0053】
例えば、前記データ分布に対し移動平均(単純移動平均)を求めることによって、うねり成分は、抽出できる。あるいは、例えば、前記データ分布に対し重み付き移動平均を求めることによって、うねり成分は、抽出できる。前記重みには、例えば、ガウス関数が用いられ、ガウシアンフィルタを用いたフィルタリング処理によって、うねり成分は、抽出できる。その結果が
図8Aおよび
図8Bに示されている。
図8に示す各グラフは、
図6に示す測定結果から作成され、ガウシアンフィルタを用いたフィルタリング処理が用いられた。この例では、サンプリング間隔は、0.72°であり、重み付き移動平均を求める測定点およびこの測定点に対し±10.08°の2点の合計3点に間引き、この3点の各測定点に、ガウス関数の重みを付ける畳み込み積分を行うことによって重み付き移動平均が求められた。なお、前記間引きが行われること無く、重み付き移動平均を求める測定点およびこの測定点に対し±10.08°の範囲内にある各測定点に、ガウス関数の重みをける畳み込み積分を行うことによって重み付き移動平均が求められてもよい。
図8において、入射角Ψ0が0°である場合の変化率は、○で示され、入射角Ψ0が45°である場合の変化率は、■で示されている。
図8Aおよび
図8Bでは、前記うねり成分を求めるためのガウシアンフィルタを用いたフィルタリング処理では測定点および前記測定点に対し±10.08°の2点の合計3点で重み付き移動平均が求められたが、重み付き移動平均を求める間引く間隔は、これに限定するものではない。図示を省略するが、前記重み付き移動平均を求める間引く間隔は、測定点に対し±0.72°、±2.88°、±5.04°、±10.08°、±20.16°、±40.32°、±60.48°および±80.64°それぞれに設定され、各間引く間隔での各均一性指標が算出され、損傷度と比較された。前記間引く間隔を表す角度が大きいと、前記ピーク強度に基づく均一性指標と損傷度との相関が得られず、前記半価幅に基づく均一性指標の変化が小さいため、損傷の有無の判断が難しくなる傾向が示された。一方、前記間引く間隔を表す角度が小さいと、半価幅に基づく均一性指標の変化が小さく、損傷の有無の判断が難しくなる傾向が示された。このため、前記重み付き移動平均を求める前記間引く間隔は、好ましくは±2°~±40°であり、より好ましくは、±5°~±30°である。なお、本方法では、均一性指標の初期値(損傷度0%)からの変化率には、ガウス関数の重みは影響しない。したがって、前記間引く間隔が重要なパラメータであり、重みは測定精度を考慮して適切な絶対値が得られればよい。
【0054】
あるいは、例えば、前記データ分布に対し、エンベローブ(包絡線)を抽出するエンベローブ処理(包絡線検波)することによって、うねり成分は、抽出できる。
【0055】
あるいは、例えば、前記除去結果を直接的に求める離間間隔抽出処理が用いられてもよい。この離間間隔抽出処理は、データ分布に設定された複数のサンプリング点それぞれについて、当該サンプリング点とこれに隣接するサンプリング点とを連結した直線と、当該サンプリング点とこれに隣接する前記サンプリング点との間のデータ分布との距離(離間間隔)を求め、これら求めた複数の各距離を前記除算結果とするものである。データ分布がピーク強度分布である場合について説明すると、前記離間間隔抽出処理では、まず、
図7に示すように、方位角に対する回折環のピーク強度分布に対し、所定の一定間隔で複数のサンプリング点が設定される。次に、このように設定された複数のサンプリング点それぞれについて、方位角0°から360°へ向けて、当該サンプリング点とこれに隣接するサンプリング点が直線で連結され、この直線と、当該サンプリング点とこれに隣接する前記サンプリング点との間のピーク強度分布までの距離が離間間隔として求められる。次に、このように求められた複数の離間間隔が、方位角0°から360°へ向けて、順次に連結され、方位角に対する離間間隔の曲線が生成される。次に、前記離間間隔の曲線に与えるサンプリング点の設定位置の影響を低減するために、各回で最初のサンプリング点の設定位置を互いに異なるように設定して、このような離間間隔抽出処理が所定の回数、実行される。そして、これによって各回で生成された、方位角に対する離間間隔の各曲線が平均され、1個の、方位角に対する離間間隔の曲線(平均曲線)が前記離間間隔抽出処理の結果として生成される。この方位角に対する離間間隔の平均曲線は、データ分布からうねり成分を除去した前記除去結果に相当する。
【0056】
このような離間間隔抽出処理を用いて得られた、損傷度に対する均一性指標の変化率を示すグラフが
図9Aおよび
図9Bに示されている。
図9に示す各グラフは、
図6に示す測定結果から作成され、
図9Aおよび
図9Bでは、前記所定の間隔は、7.2°であり、前記所定の回数は、10回である。
図9において、
図8と同様に、入射角Ψ0が0°である場合の変化率は、○で示され、入射角Ψ0が45°である場合の変化率は、■で示されている。
図9Aおよび
図9Bでは、うねり成分を除去するための前記所定の間隔は、7.2°であるが、前記所定の間隔は、結果の図示を省略するが、3.6°、7.2°および14.4°の各試行の結果、略同様の傾向が示され、約3°~30°であってよく、好ましくは、約5°~25°であってよい。
【0057】
図8Cおよび
図9Cに示す、前記フィルタリング処理を用いず、前記離間間隔抽出処理を用いていないグラフでは、○で示すように、入射角Ψ0が0°である場合では、方位角に対する回折環のピーク強度分布における標準偏差を、前記ピーク強度分布の平均値で除算した除算結果(均一性指標)は、損傷度の増加に従い小さくなり、均一性が増しているが、■で示すように、入射角Ψ0が45°である場合では、前記除算結果は、損傷度の増加に従い、一旦小さくなった後に、増加している。これに対し、
図8Aに示す、前記フィルタリング処理を用いたグラフでは、○および■それぞれで示すように、入射角Ψ0が0°である場合および入射角Ψ0が45°である場合共に、前記除算結果は、損傷度の増加に従い小さくなり、均一性が増している。そして、
図9Aに示す、前記離間間隔抽出処理を用いたグラフでも、○および■それぞれで示すように、入射角Ψ0が0°である場合および入射角Ψ0が45°である場合共に、前記除算結果は、損傷度の増加に従い小さくなり、均一性が増している。
【0058】
図8Dおよび
図9Dに示す、前記フィルタリング処理を用いず、前記離間間隔抽出処理を用いていないグラフでは、○で示すように、入射角Ψ0が0°である場合では、方位角に対する回折環の半価幅分布における標準偏差を、前記半価幅分布の平均値で除算した除算結果(均一性指標)は、損傷度の増加に従い小さくなり、均一性が増しているが、■で示すように、入射角Ψ0が45°である場合では、前記除算結果は、損傷度の増加にかかわらず略一定になっている。これに対し、
図8Bに示す、前記フィルタリング処理したグラフでは、○および■それぞれで示すように、入射角Ψ0が0°である場合および入射角Ψ0が45°である場合共に、前記除算結果は、損傷度の増加に従い小さくなり、均一性が増している。そして、
図9Bに示す、前記離間間隔抽出処理を用いたグラフでも、○および■それぞれで示すように、入射角Ψ0が0°である場合および入射角Ψ0が45°である場合共に、前記除算結果は、損傷度の増加に従い小さくなり、均一性が増している。
【0059】
したがって、均一性指標に、うねり成分がノイズとして影響していると推察され、データ分布から、前記データ分布のうねり成分を除去した除去結果に基づいて評価指標の一例として均一性指標を求めることで、前記評価指標の信頼性を、より高めることができる。そして、このうねり成分の除去により、入射角間の前記除算結果(均一性指標)の差が低減されていることから、実測での測定条件のばらつきの観点からも、前記うねり成分の除去は、有用である。
【0060】
これら制御処理部2、入力部3、出力部4、IF部5および記憶部6は、例えば、デスクトップ型やノート型やタブレット型等のコンピュータによって構成可能である。なお、データ取得部1がインターフェース回路や通信インターフェース回路である場合には、IF部5は、データ取得部1と兼用できるので、データ取得部1も含めて、金属疲労評価装置Dは、コンピュータによって構成可能である。
【0061】
次に、本実施形態の動作について説明する。
図10は、前記金属疲労評価装置の動作を示すフローチャートである。
【0062】
このような構成の金属疲労評価装置Dは、その電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。制御処理部2には、その制御処理プログラムの実行によって、制御部21、分布処理部22および指標処理部23が機能的に構成される。なお、必要に応じて、指標処理部23には、うねり成分抽出部231および指標演算部232が機能的に構成される。
【0063】
評価開始が入力されると、
図10において、まず、金属疲労評価装置Dは、データ取得部1から回折環データを取得し、記憶部6に記憶する(S1)。より具体的には、本実施形態では、データ取得部1は、制御部13の制御によりX線照射部14から評価対象ObにX線ビームを照射し、制御部13の制御により撮像部15で回折環を撮像し、前記回折環を表す回折環データを生成する。そして、データ取得部1は、この回折環データを制御処理部2へ出力する。
【0064】
次に、金属疲労評価装置Dは、制御処理部2の分布処理部22によって、処理S1でデータ取得部1によって取得した回折環データにおける、方位角に対する回折環のピーク強度分布、または、処理S1でデータ取得部1によって取得した回折環データにおける、方位角に対する半価幅分布を、データ分布として求め、記憶部6に記憶する(S2)。
【0065】
次に、金属疲労評価装置Dは、制御処理部2のうねり指標処理部23によって、処理S2で分布処理部22によって求めたデータ分布から、前記データ分布に含まれるうねり成分を除去した除去結果に基づいて評価指標を求め、記憶部6に記憶する(S3)。例えば、指標処理部23は、前記離間間隔抽出処理によってデータ分布から直接的に前記除去結果を求め、この求めた前記除去結果に基づいて前記評価指標を求める。あるいは、例えば、指標処理部23は、うねり成分抽出部231によって、処理S2で分布処理部22によって求めたデータ分布から、前記データ分布に含まれるうねり成分を抽出し、指標演算部232によって、処理S2で分布処理部22によって求めたデータ分布から、うねり成分抽出部231で抽出したうねり成分を除去して除去結果を求め、この求めた前記除去結果に基づいて前記評価指標を求める。
【0066】
より具体的には、本実施形態では、指標処理部23は、そのうねり成分を除去した、方位角に対する回折環のピーク強度分布における標準偏差を前記均一性指標、すなわち、前記評価指標として求める。あるいは、指標処理部23は、そのうねり成分を除去した、方位角に対する半価幅分布における標準偏差を前記均一性指標(前記評価指標)として求める。あるいは、指標処理部23は、そのうねり成分を除去した、方位角に対する回折環のピーク強度分布における標準偏差を、方位角に対する回折環におけるピーク強度分布の平均値で除算した除算結果を、前記均一性指標(前記評価指標)として求める。あるいは、指標処理部23は、そのうねり成分を除去した、方位角に対する半価幅分布における標準偏差を、方位角に対する回折環における半価幅分布の平均値で除算した除算結果を前記均一性指標(前記評価指標)として求める。
【0067】
そして、金属疲労評価装置Dは、制御処理部2によって、この求めた評価指標を出力部4から出力し、本処理を終了する(S4)。なお、必要に応じて、前記評価指標は、IF部5から外部の機器へ出力されてもよい。
【0068】
また、ユーザ(オペレータ)は、回折環のピーク強度分布に基づく評価指標によって金属疲労を評価してよく、あるいは、回折環の半価幅分布に基づく評価指標によって金属疲労を評価してよく、あるいは、回折環のピーク強度分布に基づく評価指標と、回折環の半価幅分布に基づく評価指標とによって金属疲労を評価してよい。
【0069】
以上説明したように、実施形態における金属疲労評価装置D、ならびに、これに実装された金属疲労評価方法および金属疲労評価プログラムは、データ分布から、ノイズであるうねり成分を除去した除去結果に基づいて前記評価指標を求めるので、より信頼性の高い評価結果を得ることができる。
【0070】
上記金属疲労評価装置D、金属疲労評価方法および金属疲労評価プログラムは、前記データ分布の均一の程度を表す均一性指標を、金属疲労の程度を表す評価指標として求めるので、より適切に金属疲労の程度を評価できる。
【0071】
上述によれば、前記データ分布における標準偏差、または、前記データ分布における標準偏差を前記データ分布の平均値で除算した除算結果を前記均一性指標、すなわち、前記評価指標として求める金属疲労評価装置D、ならびに、これに実装された金属疲労評価方法および金属疲労評価プログラムが提供できる。前記均一性指標として前記除算結果を用いる場合には、上記金属疲労評価装置D、ならびに、これに実装された金属疲労評価方法および金属疲労評価プログラムは、前記標準偏差を前記平均値で除算するので、ビームの照射時間のばらつきによる評価指標への影響を軽減できる。
【0072】
上記金属疲労評価装置D、ならびに、これに実装された金属疲労評価方法および金属疲労評価プログラムは、うねり成分を抽出してから前記除去結果を生成する場合、前記うねり成分の抽出に公知の抽出処理を利用でき、簡易に、データ分布からうねり成分を除去した前記除去結果を生成できる。
【0073】
上記金属疲労評価装置D、ならびに、これに実装された金属疲労評価方法および金属疲労評価プログラムは、前記うねり成分の抽出に、フィルタリング処理またはエンベローブ処理を用いるので、簡易な処理で前記うねり成分を抽出できる。
【0074】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0075】
D 金属疲労評価装置
1 データ取得部
2 制御処理部
11 高圧電源
12 冷却部
13、21 制御部
14 X線照射部
15 撮像部
22 分布処理部
23 指標処理部
231 うねり成分抽出部
232 指標演算部