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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154247
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】嗅覚補助装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 11/00 20060101AFI20231012BHJP
【FI】
A61M11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063449
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】598133665
【氏名又は名称】学校法人国際医療福祉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100128451
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】石川 幸伸
(57)【要約】
【課題】咽頭摘出者の嗅覚リハビリテーションの効率を高めるとともに、咽頭摘出者のQOLを向上する。
【解決手段】鼻腔内に気流を誘引する携帯型の嗅覚補助装置4を提供する。嗅覚補助装置4は、給気口13及び送気口14の2つの開口部を有する筐体7と、給気口13から前記送気口14への気流を生成する気流生成ユニット(12a、12b、8,9,15)と、給気口を覆う防塵フィルタ10と、送気口に取り付けられたノズル5aを備える。ノズル5aを外鼻孔に挿入し、気流生成ユニットにより生成された気流をノズル5aから送出することで、香り・においを含む気流を鼻腔内に誘引する。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼻腔内に気流を誘引する携帯型の嗅覚補助装置であって、
給気口及び送気口の2つの開口部を有する筐体と、
前記給気口から前記送気口への気流を生成する気流生成ユニットと、
前記給気口を覆う防塵フィルタと、
前記送気口に取り付けられたノズルと、を備え、
前記ノズルを外鼻孔に挿入し、前記気流生成ユニットにより生成された気流を当該ノズルから送出する嗅覚補助装置。
【請求項2】
長手方向の全長が15センチ以下であることを特徴とする請求項1記載の嗅覚補助装置。
【請求項3】
前記気流生成ユニットが、少なくとも1つのファン及び前記ファンを駆動する駆動ユニットを備えることを特徴とする請求項1または2記載の嗅覚補助装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嗅覚を補助し、嗅覚の低下を予防又は改善するための嗅覚補助装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
喉頭がんや下咽頭がんの治療では、喉頭の全摘出が行われることがある。図1(A)は健常者の気管の構造、図1(B)は喉頭全摘出術を施された無喉頭者(喉頭摘出者)の気管の構造を示す図である。同図が示すように、喉頭摘出者は、頸部の下方に永久気管孔3が形成され、気道と食道が分離される。永久気管孔3が形成されると、肺への空気の出し入れはすべてその気管孔を通して行われるようになるため、鼻(外鼻孔1)からの呼吸は行われなくなる。
【0003】
においは、鼻腔2の奥の上皮粘膜にある嗅細胞表面の受容体がにおい分子と結合し、それを脳神経に伝達することにより知覚される。このため、鼻呼吸がなくなると嗅覚が低下する。喉頭摘出者を対象とした調査では、約94%の喉頭摘出者が嗅覚障害を訴えていることが報告されている。
【0004】
嗅覚が低下すると、香りや風味を楽しむことができなくなるだけでなく、食品腐敗やガス漏れを察知して危険を回避することも難しくなる。喉頭がんの治療では、患者の10年生存率が70%を超えているため、嗅覚障害は、術後患者のQOL(Quality of Life)に大きく影響する。しかし、発明者らが咽頭摘出者105名を対象に行ったアンケート調査では、医療機関において嗅覚回復のための指導を受けた経験がある者の割合は、僅か4.7%に過ぎなかった。
【0005】
嗅覚を回復させるためのリハビリテーションとしては、永久気管孔と口腔をチューブで繋げた状態で鼻から吸気する方法が知られている。しかし、この方法は、チューブ等の器具の装着が必要であり、医療機関でしか行われていないのが実情である。日常的に実施できるリハビリテーションとしては、NAIM(Nasal Airflow Inducing Maneuver)法が知られている(非特許文献1参照)。NAIM法は、唇を閉じた状態で口周りの運動を繰り返すことで、口腔内を陰圧にし、鼻腔内への気流を誘引する方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】山口ほか6名、“喉頭全摘出術後の嗅覚のリハビリテーション”,耳鼻と臨床,63巻5号,2017年9月,pp151-156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
NAIM法は器具を使わずに実施できるものの、鼻腔からの吸気量は熟達者であっても健常者の約40%程度にしかならない。また発明者らの研究によれば、NAIM法によるリハビリテーションの成果は、嗅覚閾値(においを検知できる最小濃度)を健常者の37.7%まで改善できる程度に留まっている。
【0008】
また、喉頭摘出者のQOL向上のためには、日常生活において少しでも多くの香りやにおいを知覚できるようにすることが重要である。例えば会食の席で同席者とともに料理の風味を楽しめるようになるだけでも、喉頭摘出者のQOLは大きく向上する。しかし、気管孔と口腔をチューブで繋ぐ、あるいはNAIM法の口周り運動を行うといった方法は、人目につきやすい。このため、周囲の目を気にする人にとっては、香りやにおいを知覚できたとしても、必ずしもQOLの向上に繋がるとは限らない。
【0009】
本発明は、日常的に実施できる嗅覚リハビリテーションにおいて、鼻腔内により多くの気流を誘引できるようにして、リハビリテーションの効率を高めることを第一の課題とする。また、眼鏡や補聴器のように周囲の目を気にせずに気軽に使用することができる携帯型の嗅覚補助装置を提案し、咽頭摘出者のQOLを向上することを第二の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、鼻腔内に気流を誘引する携帯型の嗅覚補助装置であって、給気口及び送気口の2つの開口部を有する筐体と、給気口から送気口への気流を生成する気流生成ユニットと、給気口を覆う防塵フィルタと、送気口に取り付けられたノズルとを備えている。ノズルを外鼻孔に挿入し、気流生成ユニットにより気流を生成することで、給気口から吸い込まれた空気をノズルから送出し、鼻腔内に送り込むことができる。
【0011】
上記嗅覚補助装置は、長手方向の全長が15センチ以下となるように構成することが好ましい。長手方向の全長は、10センチ以下とすることができれば、なお好ましい。衣服のポケットにも収納でき、手で覆い隠しながら使用できる大きさとすることで、日常生活において、嗅覚補助装置を人目を気にせず気軽に使用できるようになる。
【0012】
また、上記気流生成ユニットは、少なくとも1つのファン及びそのファンを駆動する駆動ユニットにより構成することが好ましい。回転数等を電気的に制御できるファンを採用することにより、鼻腔内に安定した気流を送り込むことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の嗅覚補助装置は、香りやにおいを含む空気を鼻腔に誘引することにより、咽頭摘出者の嗅覚リハビリテーションの効率を高めるとともに、咽頭摘出者のQOLを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(A)は健常者の気管の構造、(B)は喉頭摘出者の気管の構造を示す図である。
図2】第1実施形態における嗅覚補助装置の外観を示す図である。
図3】第1実施形態における嗅覚補助装置の構造を示す図である。
図4】嗅覚補助装置の使用方法を示す図である。
図5】第2実施形態における嗅覚補助装置の外観及び構造を示す図である。
図6】ノズルの変形例を示す図である。
図7】第1実施形態における嗅覚補助装置に取り付けるオプション部品を示す図である。
図8】オプション部品を嗅覚補助装置に取り付けた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
図2および図3を参照して、第1実施形態における嗅覚補助装置4について説明する。図2は嗅覚補助装置4の外観を示す図であり、図3は嗅覚補助装置4の構造を示す図っである。嗅覚補助装置4は、長さ約10cm、内径約1.5cmの円筒型の筐体7と、筐体7の一方の開口部(送気口14)に取り付けられたノズル5aと、筐体7の他方の開口部(給気口13a)に取り付けられた防塵フィルタ10と、筐体7の内部に配置された2台のマイクロファン12a、12bと、筐体7と一体となるように筐体7に取り付けられたファン駆動ユニット16aとにより構成される。ファン駆動ユニット16aは、マイクロファン12a,12bの回転を制御する制御回路15、スイッチ8及び電源ユニット9により構成される。電源ユニット9には、アルカリ電池あるいはリチウムイオン電池が装填される。
【0016】
筐体7は、軽量且つ加工が容易で、マイクロファン12a、12bを動作中も安定的に支持できる厚み及び堅さを有する素材(例えばポリカーボネート、ABS樹脂等の樹脂素材)からなる。筒の内側には、マイクロファン12a、12bを固定するための爪又は溝(図示せず)が形成されており、ファンを回転させることにより給気口13aから取り込まれた空気が送気口14に向かって流れるような位置及び向きでファンが固定される。
【0017】
マイクロファン12a、12bは、ファン駆動ユニット16aの制御回路15に配線され、ファンの駆動/停止及び駆動時の回転数は制御回路15により制御される。スイッチ8のLow/Highは、動作電圧3.3V/5.0Vに対応しており、ファンの回転数は、Lowで10,000RPM、Highで16,000RPMとなる。
【0018】
防塵フィルタ10は、ネジ状のリング留具11により筐体7の給気口13aに取り付けられ、汚れた場合に取り外して洗浄あるいは交換することができる。粉塵などの異物を除去しながら香りやにおいを通す必要があるため、素材は、開目0.2mm以下の平織金網または不織布などとする。
【0019】
ノズル5aは、ネジ状のリング留具6により筐体7の送気口14に取り付けられ、防塵フィルタ10と同様、汚れた場合に取り外して洗浄あるいは交換することができる。ノズル5aは、外鼻孔(鼻の孔)に挿入するものであるため、粘膜を傷つけず且つ外鼻孔の内壁にフィットしやすいように、素材はシリコーンとする。
【0020】
嗅覚補助装置4は、図4に示すように、先端のノズル5aを外鼻孔に挿入し、後端の給気口13aを香りやにおいが漂う方向に向けて使用する。その状態でスイッチを入れ、マイクロファンを回転させることで、香りやにおいが給気口13aから筐体に吸い込まれ、ノズル5aから鼻腔の奥へと送り込まれる。
【0021】
健常者の鼻孔からの吸気量が平均269.7cm/秒、NAIM法熟達者の吸気量が平均110.1cm/秒であるのに対し、嗅覚補助装置4を用いた場合の吸気量は、スイッチをLowにした場合で約283cm/秒と試算される。すなわち、嗅覚補助装置4の使用により、喉頭摘出者であっても、健常者と同等の吸気量を確保することができる。
【0022】
また、嗅覚補助装置4は長さが約10cmであるため、ポケット等に入れて携帯することができ、使用時には片手で持ち、もう一方の手で覆い隠すようにして使用すれば、人目を気にすることなく嗅ぎたい香り、においを嗅ぐことができる。
【0023】
[実施形態2]
図5に、第2実施形態における嗅覚補助装置18の外観および構造を示す。本実施形態では、筐体7となる円筒のノズル5aと反対側の開口部は蓋17により塞がれており、給気口13bは、筐体7の側面に設けられている。また、ファン駆動ユニット16bは、筐体7の内部に配置され、電池を装填するときは蓋17を取り外して装填する。本実施形態の嗅覚補助装置18は、ファン駆動ユニット16bを筐体7内に納めることにより、第1実施形態よりも装置のサイズをコンパクトにすることができる。
【0024】
[変形例]
図6に、ノズルの他の形状を例示する。図6(A)は、ノズルの先端部を円筒筐体の中心軸上ではなく円筒筐体の壁際に寄せた形状のノズル5bを示している。ノズル5bは、筐体の側壁の延長線上にノズルの先端があるため、ノズルを鼻孔に挿入するときに装置が顔にあたりにくくなる。
【0025】
図6(B)は、ノズルの先端部が二股の形成されたノズル5cを示している。鼻腔内の嗅上皮は左右に2つあり、嗅覚リハビリテーションでは左右両方の嗅上皮ににおい刺激を与える必要があり、ノズル5cを用いることでリハビリテーションの効率を高めることができる。
【0026】
ノズルの形状は、本明細書に例示する形状に限定されるものではなく、例えば鼻孔に挿入する先端部をより長くした形状、先端部を筐体の軸に対して傾斜させた形状など、種々の変形例が考えられる。ノズルや筐体の素材も、本明細書に例示する素材に限らず、例えばステンレス、チタンなど、他の素材を採用することも可能である。
【0027】
また、本明細書では円筒の筐体を例示したが、筐体は断面形状が正方形、長方形あるいは六角形等の多角形状である角筒であってもよい。給気口の形状や配置も、本明細書の例示に限定されるものではなく、種々の変形例が考えられる。
【0028】
気流生成ユニットは、本明細書の例示では、2つのマイクロファンにより気流を生成しているが、マイクロファンの数は、個々のマイクロファンの性能に応じて調整すればよく、1つあるいは3個以上のマイクロファンを備えた構成も考えられる。
【0029】
また、本明細書に例示する気流生成ユニットは、マイクロファンとファン駆動ユニットが近接して配置されているが、ファン駆動ユニットを本体(筐体)から分離した構造も考えられる。分離構造では、両者を接続する配線を長くとる必要はあるものの、ファン駆動ユニットを胸ポケットに入れたまま本体を使用するといったことが可能になる。
【0030】
ファン駆動ユニットを本体から分離した構造では、本体の軽量化を図ることができるため、耳掛け式のマウスシールド(マウスガード)や頭部固定式のフェイスシールド(フェイスガード)、あるいは専用の保持具に本体を固定して、眼鏡や補聴器のように身につけて使用することも可能になる。手を使わずに嗅覚補助装置を使用することができれば、においを嗅ぎながら料理をすることもでき、咽頭摘出者のQOLを向上することができる。
【0031】
また、本明細書に例示する嗅覚補助装置は、オプション部品の取り付けにより機能を追加することもできる。図7に、嗅覚補助装置4に取り付けるオプション部品を例示する。この部品は、嗅覚補助装置4の筐体7と同じ内径の円筒型の部品で、一方の開口部にリング留具11と同じ形状のリング留具17aを備えている。他方の開口部には、リング留具17bにより防塵フィルタ10が取り付けられており、円筒の内部には、さらにもう一つ防塵フィルタ10が設けられている。オプション部品は、リング留具11と防塵フィルタ10を取り外したあとの給気口13aに、リング留具17aを取り付けることにより、本体と結合する。
【0032】
図8は、図7のオプション部品を嗅覚補助装置4に取り付けた状態を示している。同図が示すように、このオプション部品は、2つの防塵フィルタ10の間のスペースに、アロマオイル等の嗅素を染みこませたガーゼ18、あるいは脱脂綿、スポンジ等を置くことができる。これにより、日常生活の中にある匂いだけでなく、意図的に調合等した匂いを嗅げるようになるため、より積極的なリハビリテーション、トレーニングを行うことができる。
【0033】
なお、オプション部品の形状は、本明細書に例示する形状に限定されるものではなく、給気口の仕様に応じて、種々の変形例が考えられる。
【符号の説明】
【0034】
4 嗅覚補助装置
5a,5b,5c ノズル
6,11,17a,17b リング留具
7 筐体
8 スイッチ
9 電源ユニット
10 防塵フィルタ
12a,12b マイクロファン
13a,13b 給気口
14 送気口
15 制御回路
16a,16b ファン駆動ユニット
18 ガーゼ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8