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特開2023-154261モータ制御装置並びに電気車
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154261
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】モータ制御装置並びに電気車
(51)【国際特許分類】
H02P 21/12 20160101AFI20231012BHJP
【FI】
H02P21/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063480
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】谷口 峻
(72)【発明者】
【氏名】松尾 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】安島 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】戸張 和明
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA19
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG01
5H505GG02
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ22
5H505JJ23
5H505JJ24
5H505JJ26
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】
無駄時間の影響があっても交流モータを安定に駆動できるモータ制御装置、並びにこのモータ制御装置によって制御される交流モータを搭載する電気車を提供する。
【解決手段】
このモータ制御装置は、交流モータ(1)が接続される電力変換器(2)を制御するものであって、交流モータの交流量が指令値に一致するように電力変換器の電圧指令を生成する電圧ベクトル演算部(18)と、交流量のdq軸成分の振動成分に基づいて、交流量の位相が進んだ時点におけるd軸成分の振動成分もしくはq軸成分の振動成分を演算し、演算されたd軸成分の振動成分もしくはq軸成分の振動成分に基づいて、電圧指令を補正するための補正量を生成する減衰比制御部(26)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流モータが接続される電力変換器を制御するモータ制御装置において、
前記交流モータの交流量が指令値に一致するように前記電力変換器の電圧指令を生成する電圧ベクトル演算部と、
前記交流量のdq軸成分の振動成分に基づいて、前記交流量の位相が進んだ時点におけるd軸成分の前記振動成分もしくはq軸成分の前記振動成分を演算し、演算された前記d軸成分の前記振動成分もしくは前記q軸成分の前記振動成分に基づいて、前記電圧指令を補正するための補正量を生成する減衰比制御部と、
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記交流量がモータ電流またはモータ磁束であることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記交流量の前記位相が無駄時間に応じて進んだ時点における前記d軸成分の前記振動成分もしくは前記q軸成分の前記振動成分を演算することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
d軸およびq軸を前記交流量の前記位相の進みだけ回転する座標変換により、前記d軸成分の前記振動成分もしくは前記q軸成分の前記振動成分を演算することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のモータ制御装置において、
前記座標変換は、無駄時間に応じた前記位相の進みだけ前記d軸および前記q軸を回転することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記電圧ベクトル演算部は、前記補正量によって、前記電圧指令のd軸電圧指令値またはq軸電圧指令値を補正することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記電圧ベクトル演算部は、前記補正量によって、前記電圧指令の位相を補正することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項8】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記補正量に応じてd軸およびq軸を回転させることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記減衰比制御部は、
前記交流量の前記d軸成分と、前記交流量のd軸成分指令値との差分から前記d軸成分の前記振動成分を抽出し、
前記交流量の前記q軸成分と、前記交流量のq軸成分指令値との差分から前記q軸成分の前記振動成分を抽出することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項10】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記減衰比制御部は、
前記交流量の前記d軸成分から前記d軸成分の前記振動成分を抽出し、
前記交流量の前記q軸成分から前記q軸成分の前記振動成分を抽出することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項11】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記減衰比制御部は、前記交流量の前記dq軸成分の前記振動成分をハイパスフィルタによって抽出することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項12】
交流モータによって駆動される電気車において、
前記交流モータに接続され、前記交流モータに電力を供給する電力変換器と、
前記電力変換器を制御するモータ制御装置と、
を備え、
前記モータ制御装置は、請求項1に記載のモータ制御装置であることを特徴とする電気車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期モータなどの交流モータを駆動するためのモータ制御装置並びにそれを用いる電気車に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを小型化するために、モータの高速回転化や高磁束密度化が進んでいる。特に、電気自動車などの電気車においては、モータの重量が消費電力量に影響を与えるため、その傾向は顕著である。
【0003】
高速回転化に対応するために、モータを安定に駆動するための安定化制御が要求される。
【0004】
安定化制御に関する従来技術として、特許文献1および特許文献2に記載された技術が知られている。
【0005】
特許文献1に記載された技術では、電流検出値の振動成分に対して逆相となるように電圧を制御することで、モータの共振周波数に対する電流制御のゲインを低下させる。
【0006】
特許文献2に記載された技術では、電流検出値の振動成分に基づいて、回転位相角を制御することで、モータの共振周波数に対するゲイン特性を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-168335号公報
【特許文献2】特開2010-172060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の技術では、高速域になると、無駄時間の影響により、振動成分に対する電圧の位相が逆相からずれてしまう。したがって、振動成分の抑制が難しくなる。
【0009】
また、特許文献2に記載の技術においても、高速域になると、無駄時間の影響による電圧の位相のずれによって、振動成分の抑制が難しくなる。
【0010】
そこで、本発明は、無駄時間の影響があっても交流モータを安定に駆動できるモータ制御装置、並びにこのモータ制御装置によって制御される交流モータを搭載する電気車を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明によるモータ制御装置は、交流モータが接続される電力変換器を制御するものであって、交流モータの交流量が指令値に一致するように電力変換器の電圧指令を生成する電圧ベクトル演算部と、交流量のdq軸成分の振動成分に基づいて、交流量の位相が進んだ時点におけるd軸成分の振動成分もしくはq軸成分の振動成分を演算し、演算されたd軸成分の振動成分もしくはq軸成分の振動成分に基づいて、電圧指令を補正するための補正量を生成する減衰比制御部と、を備える。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明による電気車は、交流モータによって駆動されるものであって、交流モータに接続され、交流モータに電力を供給する電力変換器と、電力変換器を制御するモータ制御装置と、を備え、モータ制御装置は、本発明によるモータ制御装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、無駄時間の影響があっても交流モータを安定に駆動できる。
【0014】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】第二dq軸電流指令演算部24におけるPI制御器の構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】減衰比制御部26の構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】電圧ベクトル演算部18の構成を示す機能ブロック図である。
【
図6】実施例1の第1の変形例であるモータ制御装置における、減衰比制御部の構成を示す機能ブロック図である。
【
図7】実施例1の第2の変形例であるモータ制御装置における、減衰比制御部の構成を示す機能ブロック図である。
【
図8】実施例2であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図9】減衰比制御部26Aの構成を示す機能ブロック図である。
【
図10】電圧ベクトル演算部18Aの構成を示す機能ブロック図である。
【
図11】実施例3であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図12】減衰比制御部26Bの構成を示す機能ブロック図である。
【
図13】実施例3の一変形例である減衰比制御部26Bの構成を示す機能ブロック図である。
【
図14】電圧ベクトル演算部18Bの構成を示す機能ブロック図である。
【
図15】実施例4であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図16】電圧ベクトル演算部18Cの構成を示す機能ブロック図である。
【
図17】実施例5であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図18】第二dq軸磁束指令演算部25におけるPI制御器の構成を示す機能ブロック図である。
【
図19】減衰比制御部27の構成を示す機能ブロック図である。
【
図20】電圧ベクトル演算部19の構成を示す機能ブロック図である。
【
図21】実施例6であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図22】減衰比制御部27A(の構成を示す機能ブロック図である。
【
図23】電圧ベクトル演算部19Aの構成を示す機能ブロック図である。
【
図24】実施例7であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図25】減衰比制御部27Bの構成を示す機能ブロック図である。
【
図26】実施例7の第1の変形例における減衰比制御部26Bの構成を示す機能ブロック図である。
【
図27】実施例7の第2の変形例における減衰比制御部26Bの構成を示す機能ブロック図である。
【
図28】電圧ベクトル演算部19Bの構成を示す機能ブロック図である。
【
図29】実施例8であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図30】電圧ベクトル演算部19Cの構成を示す機能ブロック図である。
【
図31】電圧ベクトルと磁束ベクトルを示すベクトル図である。
【
図32】1パルス制御における、U相ゲート信号およびU相電圧指令値を示す波形図である。
【
図33】実施例9である電気車の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、下記の実施例1~9により、図面を用いながら説明する。各図において、参照番号が同一のものは、同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示している。
【0017】
いずれの実施例においても、交流モータの交流量をフィードバック量とするベクトル制御が適用される。実施例1~4では、フィードバック量はモータ電流である。実施例5~8では、フィードバック量はモータ磁束である。
【0018】
各実施例において、制御対象である交流モータは、永久磁石同期モータ(以下、「PMSM」(Permanent Magnet Synchronous Motorの略)と記す)である。
【実施例0019】
図1は、本発明の実施例1であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。なお、本実施例においては、マイクロコンピュータなどのコンピュータシステムが、所定のプログラムを実行することにより、
図1に示すモータ制御装置として機能する(他の実施例も同様)。
【0020】
図1において、電力変換器2の交流側および直流側には、それぞれPMSM1および直流電圧源9(例えばバッテリ)が接続される。電力変換器2は、直流電圧源9からの直流電力を交流電力に変換してPMSM1へ出力する。PMSM1は、この交流電力によって、回転駆動される。電力変換器2は、半導体スイッチング素子からなるインバータ主回路を備えている。半導体スイッチング素子がゲート信号によってオン・オフ制御されることにより、直流電力が交流電力に変換される。なお、半導体スイッチング素子としては、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が適用される。
【0021】
相電流検出器3は、電力変換器2からPMSM1に流れる3相のモータ電流、すなわちU相電流Iu、V相電流IvおよびW相電流Iwを検出して、それぞれU相電流検出値Iuc、V相電流検出値IvcおよびW相電流検出値Iwcとして出力する。なお、相電流検出器3としては、ホールCT(Current Transformer)などが適用される。
【0022】
磁極位置検出器4は、PMSM1の磁極位置を検出して、磁極位置情報θ*を出力する。磁極位置検出器4としては、レゾルバなどが適用される。
【0023】
周波数演算部5は、磁極位置検出器4が出力する磁極位置情報θ*から、時間微分演算などによって速度情報ω1
*を演算して出力する。
【0024】
座標変換部7は、相電流検出器が出力するIuc,Ivc,Iwcを、磁極位置情報θ*に応じて、回転座標系におけるdq軸電流検出値Idc,Iqcに変換して、Idc,Iqcを出力する。
【0025】
なお、Iuc,Ivc,Iwcと、座標変換部7が演算処理する電流との間の時間遅れを補償するために、座標変換における位相を補正してもよい。
【0026】
第二dq軸電流指令演算部24は、上位制御装置などから与えられる第一dq軸電流指令値Id*,Iq*と、dq軸電流検出値Idc,Iqcが一致するように、比例積分(PI)制御器によって第二dq軸電流指令値Id**,Iq**を演算して出力する。
【0027】
図2は、第二dq軸電流指令演算部24(
図1)におけるPI制御器の構成を示す機能ブロック図である。
【0028】
図2の上図に示すように、第二d軸電流指令値Id
**を演算するPI制御器においては、加減算器81によって、第一d軸電流指令値Id
*とd軸電流検出値Idcとの差分(Id
*-Idc)が演算され、比例器87によって、差分演算値に、比例ゲイン(K
P)が乗算される。また、差分演算値は、積分器83によって積分され、比例器85によって、積分値に積分ゲイン(K
I)が乗算される。比例ゲインK
Pが乗算された差分演算値と、積分ゲインK
Iが乗算された積分値とが、加算器89によって加算され、第二d軸電流指令値Id
**が演算される。
【0029】
図2の下図に示すように、第二q軸電流指令値Iq
**を演算するPI制御器においては、加減算器91によって、第一q軸電流指令値Iq
*とq軸電流検出値Iqcとの差分(Iq
*-Iqc)が演算され、比例器97によって、差分演算値に比例ゲイン(K
P)が乗算される。また、差分演算値は、積分器93によって積分され、比例器95によって、積分値に積分ゲイン(K
I)が乗算される。比例ゲインK
Pが乗算された差分演算値と、積分ゲインK
Iが乗算された積分値とが、加算器99によって加算され、第二q軸電流指令値Iq
**が演算される。
【0030】
図1に示す減衰比制御部26は、モータ電流の振動成分を抽出し、抽出した振動成分に応じて、この振動成分を減衰させるための電圧指令値(以下、「安定化電圧指令値」と称す)を生成する。本実施例では、
図1に示すように、減衰比制御部26は、第一d軸電流指令値Id
*、第一q軸電流指令値Iq
*、d軸電流検出値Idc、q軸電流検出値Iqcおよび速度情報ω
1
*に基づき、d軸電流およびq軸電流の各振動成分を抽出し、抽出した両振動成分に応じて、モータ電流の振動成分を減衰させるためのd軸安定化電圧指令値Vdd
*を生成する。
【0031】
電圧指令に対するモータの応答(電流など)における減衰比の値は、通常は、モータ定数(電機子巻線の抵抗や電機子巻線のインダクタンスなど)によって設定され、制御が難しい。これに対し、本実施例1では、このような減衰比が、減衰比制御部26によって、等価的に、応答の振動を抑えるように制御される。
【0032】
図3は、減衰比制御部26(
図1)の構成を示す機能ブロック図である。
【0033】
図3に示すように、減衰比制御部26においては、一次遅れ演算器61および一次遅れ演算器62によって、それぞれ、第一d軸電流指令値Id
*の一次遅れおよび第一q軸電流指令値Iq
*の一次遅れが演算される。なお、本実施例1では、制御系のカットオフ角周波数ωcの逆数を、一次遅れにおける時定数としている。
【0034】
さらに、d軸電流検出値Idcと、第一d軸電流指令値Id*の一次遅れとのd軸電流差分dId(=Idc-(Id*の一次遅れ))が、加減算器63によって演算される。かつ、q軸電流検出値Iqcと、第一q軸電流指令値Iq*の一次遅れとのq軸電流差分dIq(Iqc-(Iq*の一次遅れ))が、加減算器64によって演算される。
【0035】
座標変換器65は、制御動作に伴う無駄時間を補償するために、d軸電流差分dIdおよびq軸電流差分dIqを、制御軸であるdq軸を無駄時間分の位相だけ回転させた座標における補正d軸電流差分dId’および補正q軸電流差分dIq’に変換する。
【0036】
座標変換器65は、予め座標変換器65に設定されている式(1)を用いて、d軸電流差分dIdおよびq軸電流差分dIqを、速度情報ω1
*と無駄時間dtを乗算した補正位相ω1
*dtだけdq軸を回転させた座標における補正d軸電流差分dId’および補正q軸電流差分dIq’を演算する。
【0037】
【0038】
座標変換器65によれば、振動成分を含むd軸電流差分dIdおよびq軸電流差分dIqが、IdcおよびIqc(もしくは、三相電流(Iu,Iv,Iw))を検出した時点から、無駄時間分だけ位相を進めた時点での、振動成分を含むd軸電流差分dId’およびq軸電流差分dIq’に変換される。
【0039】
図3に示すように、本実施例において、座標変換器65はdId’を出力する。したがって、座標変換器65は、dId’およびdIq’の内、dId’だけを演算する。なお、座標変換器65には、式(1)のようにdId’およびdIq’を表す式に限らず、dId’を表す式だけが設定されていてもよい。
【0040】
座標が変換されたd軸電流差分dId’の振動成分が、ハイパスフィルタ66(
図3中に伝達関数を示す)によって抽出される。抽出されたdId’の振動成分、すなわちd軸電流の振動成分に、比例器67によって、ゲイン(2ζLd)が乗算される。Ldは、d軸インダクタンスである。ハイパスフィルタ66が出力する、d軸電流差分dId’の振動成分は、座標変換器65によって位相が進められたd軸電流の振動成分である。
【0041】
ここで、ζは、振動成分の減衰の程度に関わる制御パラメータである。すなわち、ζは、モータの応答における減衰比に相当するが、制御系において、モータの応答における減衰比とは独立に、任意(ただし、0<ζ≦1)に設定される定数である。そこで、以下、ζを「減衰比」と称する。
【0042】
図3に示すように、ゲイン(2ζLd)が乗算されたd軸電流の振動成分に、PMSM1(
図1)の速度情報ω
1
*の絶対値が、乗算器69によって乗算される。これにより、電流値が電圧値に変換される。なお、速度情報ω
1
*の絶対値は、絶対値演算器68(ABS)によって演算される。
【0043】
ローパスフィルタ57は、乗算器69の出力から高周波成分を除去して、d軸安定化電圧指令値Vdd*を出力する。なお、後述するように、ローパスフィルタ57のカットオフ周波数は、速度情報ω1
*に応じて設定される。
【0044】
図1に示す電圧ベクトル演算部18は、電流制御に関わるモータモデルの逆モデルに基づいて、電圧指令値を生成する
モータモデルの逆モデルは、モータのd軸電流およびq軸電流をそれぞれIdおよびIqとし、モータのd軸電圧およびq軸電圧をそれぞれVdおよびVqとすると、式(2)のような電圧方程式によって表される。
【0045】
【0046】
本実施例1においては、式(2)において、IdおよびIqをそれぞれ第二d軸電流指令値Id**および第二q軸電流指令値Iq**とする。電圧ベクトル演算部18は、式(2)によって演算したVdと、減衰比制御部26が出力するd軸安定化電圧指令値Vdd*とに基づいて、d軸電圧指令値Vd*を生成して出力する。また、電圧ベクトル演算部18は、式(2)によって演算したVqを、q軸電圧指令値Vq*として出力する。
【0047】
図4は、式(2)で表される逆モデルに基づく電圧ベクトル演算部19の構成を示す機能ブロック図である。
図4において、R,Ld,Lq,Keは、それぞれPMSM1における巻線抵抗、d軸インダクタンス、q軸インダクタンス、誘起電圧定数である。
【0048】
Ldを係数とする微分器45によって、sLdId**が演算される。また、比例器46によって、RId**が演算される。さらに、加算器47によって、(R+sLd)Id**が演算される。
【0049】
乗算器48によって、比例器(Lq)によって演算されたLqIq
**とω
1
*とが乗算される。加減算器49によって、加算器47による加算演算値から乗算器48による乗算値が減算され、(R+sLd)Id
**-ω
1
*LqIq
**が演算される。この演算値は、式(2)におけるd軸電圧Vdに対応する。加減算器49は、さらに、減衰比制御部26(
図1,3)によって生成されたd軸安定化電圧指令値Vdd
*を減算する。これにより、d軸電圧指令値Vd
*が生成される。
【0050】
Lqを係数とする微分器35によって、sLqIq**が演算される。また、比例器36によって、RIq**が演算される。さらに、加算器37によって、(R+sLq)Iq**が演算される。
【0051】
乗算器38によって、比例器(Ld)によって演算されたLdId**とω1
*とが乗算される。加算器39によって、加算器37による加算演算値と、乗算器38による乗算値と、誘起電圧値ω1
*Keとが加算され、(R+sLq)Iq**+ω1
*LdId**+ω1
*Keが演算される。これにより、q軸電圧指令値Vq*が生成される。なお、加算器39による演算値は、式(2)におけるq軸電圧Vqに対応する。
【0052】
図1に示す座標変換部11は、電圧ベクトル演算部18が出力する、電力変換器2に対するdq軸電圧指令値Vd
*,Vq
*を、磁極位置検出器4で検出される磁極位置情報θ
*を用いて座標変換することにより、電力変換器2に対する三相電圧指令値Vu
*,Vv
*,Vw
*を生成して出力する。なお、Vd
*,Vq
*と、座標変換部11が演算処理するVu
*,Vv
*,Vw
*との間の時間遅れを補償するために、座標変換における位相を補正してもよい。
【0053】
図1に示す直流電圧検出器6は、直流電圧源9の電圧を検出して、直流電圧情報Vdcを出力する。
【0054】
図1に示すPWM制御器12は、座標変換部11から三相電圧指令値Vu
*,Vv
*,Vw
*を受けるとともに、直流電圧検出器6から直流電圧情報Vdcを受け、これらに基づいて、パルス幅変調によって、電力変換器2に与えるゲート信号を生成して出力する。PWM制御器12は、例えば、キャリア信号として三角波を用い、三相電圧指令値を変調波とするパルス幅変調によってゲート信号を生成する。
【0055】
前述のように、減衰比制御部26における座標変換器65によって無駄時間分だけ位相が進められたd軸電流の振動成分に基づいて生成されたVdd*が、式(2)に基づいて生成されるd軸電圧Vdに、振動成分を相殺する方向に重畳される。このため、無駄時間が補償されたモータ電流の振動成分の抑制が可能になる。
【0056】
以下、本実施例における無駄時間補償に関する本発明者による検討について説明する。
【0057】
【0058】
本発明者の検討によれば、
図5に示すように、d軸電流の振動成分311とq軸電流の振動成分315については、位相差が90度であり、かつ振幅が同じ大きさである。したがって、式(1)のような座標軸を回転させる座標変換により、減衰比制御部26(
図1)における無駄時間補償が可能になる。公知の位相進み補償では高周波域のゲインを上げるのに対し、ゲインを上げることなく座標軸を回転させる座標変換によれば、安定に無駄時間を補償することができる。
【0059】
また、
図3に示すように、ローパスフィルタ57によって、乗算器69の出力から高周波成分を除去することにより、高周波帯域における位相の進みすぎが抑制できる。例えば、基本波周波数の成分の位相を45度進める場合、6次成分の位相は270度進んでしまう。これに対し、ローパスフィルタ57で高周波成分をカットすることにより、このような位相の進みすぎが抑制できる。なお、ローパスフィルタ57のカットオフ周波数は、速度情報ω
1
*に対して1.5~2倍程度の値に設定することが好ましい。これにより、高周波帯域の位相が進みすぎてしまうことが防止される。
【0060】
本実施例によれば、座標変換によってdq軸電流の振動成分の位相を進めることにより、基本波周波数が高いために無駄時間の影響が大きくなる場合においても、無駄時間の影響を補償して、安定した減衰比制御が可能になる。
【0061】
なお、ハイパスフィルタに代えて、基本波周波数の振動成分を抽出する他の手段を適用してもよい。例えば、フーリエ級数展開やバンドパスフィルタなどを適用することができる。
【0062】
図6は、実施例1の第1の変形例であるモータ制御装置における、減衰比制御部の構成を示す機能ブロック図である。
【0063】
本変形例では、座標変換器65の前段にハイパスフィルタが設けられる。
図6に示すように、d軸電流差分dIdの振動成分dIdhがハイパスフィルタ66(
図6中に伝達関数を示す)によって抽出され、かつq軸電流差分dIqの振動成分dIqhがハイパスフィルタ66A(
図6中に伝達関数を示す)によって抽出される。座標変換器65は、式(1)を用いて、振動成分dIdhおよびdIqhを、dq軸を無駄時間分の位相だけ回転させた座標における振動成分dIdh’およびdIqh’に変換する。なお、本変形例では、座標変換器65は、dIdh’およびdIqh’の内、dIdh’のみを出力する。
【0064】
図7は、実施例1の第2の変形例であるモータ制御装置における、減衰比制御部の構成を示す機能ブロック図である。
【0065】
本変形例においても、座標変換器の前段にハイパスフィルタが設けられる。
図7に示すように、d軸電流検出値Idcの振動成分Idhがハイパスフィルタ66B(
図7中に伝達関数を示す)によって抽出され、かつq軸電流検出値Iqcの振動成分Iqhがハイパスフィルタ66C(
図7中に伝達関数を示す)によって抽出される。座標変換器65Aは、式(1)を用いて、振動成分IdhおよびIqhを、dq軸を無駄時間分の位相だけ回転させた座標における振動成分Idh’およびIqh’に変換する。なお、本変形例では、座標変換器65Aは、dIdh’およびdIqh’の内、dIdh’のみを出力する。
【0066】
これらの変形例によれば、実施例1と同様に、座標変換によってdq軸電流の振動成分の位相を進めることにより、基本波周波数が高いために無駄時間の影響が大きくなる場合においても、無駄時間の影響を補償して、安定した減衰比制御が可能になる。
【実施例0067】
図8は、本発明の実施例2であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。以下、主に、実施例1と異なる点について説明する。
【0068】
図8に示すように、本実施例2においては、実施例1(
図1)とは異なり、減衰比制御部26Aは、q軸安定化電圧指令値Vqd
*を生成する。
【0069】
図9は、減衰比制御部26A(
図8)の構成を示す機能ブロック図である。
【0070】
本実施例2における減衰比制御部26A(
図8)が備える座標変換器65A(
図9)は、実施例1(
図3)と同様に、式(1)を用いて、d軸電流差分dIdおよびq軸電流差分dIqを、制御軸であるdq軸を無駄時間分の位相ω
1
*dtだけ回転させた座標における補正d軸電流差分dId’および補正q軸電流差分dIq’に変換する。
【0071】
なお、
図9に示すように、本実施例2において、座標変換器65AはdIq’を出力する。したがって、座標変換器65Aは、dId’およびdIq’の内、dIq’だけを演算する。座標が変換されたq軸電流差分dIq’の振動成分が、ハイパスフィルタ66D(
図9中に伝達関数を示す)によって抽出される。
【0072】
図10は、式(2)で表される逆モデルに基づく、本実施例2における電圧ベクトル演算部18A(
図8)の構成を示す機能ブロック図である。
【0073】
加減算器49Aによって、加算器47による加算演算値から、乗算器48による乗算値が減算され、(R+sLd)Id**-ω1
*LqId**が演算される。これにより、d軸電圧指令値Vd*が生成される。なお、加減算器49Aによる演算値は、式(2)におけるd軸電圧Vdに対応する。
【0074】
加減算器34によって、加算器37による演算値からq軸安定化電圧指令値Vqd*が減算される。加算器39により、加減算器34の演算値と、乗算器38の演算値と、ω1
*Keとが加算され、(R+sLq)Iq**+ω1
*LdId**+ω1
*Ke-Vqd*が演算される。この演算値は、式(2)におけるq軸電圧Vqからq軸安定化電圧指令値Vqd*を減算した演算値に対応する。加算器39は、演算値をq軸電圧指令値Vq*として出力する。
【0075】
本実施例2によれば、実施例1と同様に、座標変換によってdq軸電流の振動成分の位相を進めることにより、無駄時間の影響を補償して、安定した減衰比制御が可能になる。
【0076】
なお、本実施例2においても、実施例1と同様に、ハイパスフィルタに代えて、基本波周波数の振動成分を抽出する他の手段を適用してもよい。
【0077】
また、本実施例2においても、実施例1の第1および第2の変形例と同様の変形例が可能である。
【実施例0078】
図11は、本発明の実施例3であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【0079】
以下、主に、実施例1と異なる点について説明する。
【0080】
図11に示すように、本実施例3における減衰比制御部26Bは、第一d軸電流指令値Id
*、第一q軸電流指令値Iq
*、d軸電流検出値Idc、q軸電流検出値Iqc、および速度情報ω
1
*に基づき、dq軸電流の振動成分を抽出し、抽出した振動成分に応じて、この振動成分を減衰させるための安定化電圧指令位相補正量θd
*を生成する。
【0081】
実施例1では、電圧方程式(式(1))から演算される電圧指令の電圧値が補正されるのに対し、本実施例3では、安定化電圧指令位相補正量θd*によって電圧指令の位相が補正される。
【0082】
図12は、本実施例3における減衰比制御部26B(
図11)の構成を示す機能ブロック図である。
【0083】
図12に示すように、実施例1(
図3)と同様に、Id
*,Iq
*,Idc,Iqcおよびω
1
*に基づき、一次遅れ演算器61,62、加減算器63,64、座標変換器65およびハイパスフィルタ66によって位相が進められたd軸電流の振動成分が演算される。さらに、実施例1(
図3)と同様に、比例器67によって、電流値が電圧相当値(=電圧値/ω
1
*)に変換される。
【0084】
本実施例3においては、比例器51および加算器53によって、電圧ベクトルのd軸成分相当値(=d軸電圧成分値/ω1
*=Ld・I*+Ke)が演算される。さらに、除算器55によって、加算器53の演算値を除数とし、比例器67の演算値を被除数とする除算値が演算される。これにより、d軸電流の振動成分に応じた、電圧指令ベクトルの位相の変化分が演算される。除算器55の演算値は、ローパスフィルタ57によって高周波成分が除去される。ローパスフィルタ57は、高周波成分が除去された除算器55の演算値を、安定化電圧指令位相補正量θd*として出力する。
【0085】
図13は、実施例3の一変形例における減衰比制御部26Bの構成を示す機能ブロック図である。
【0086】
図13に示すように、本変形例においては、Id
*,Iq
*,Idc,Iqcおよびω
1
*に基づき、一次遅れ演算器61,62、加減算器63,64、座標変換器65およびハイパスフィルタ66Aによって、位相が進められたq軸電流の振動成分が演算される。さらに、比例器67Aによって、電流値が電圧相当値(=電圧値/ω
1
*)に変換される。
【0087】
本変形例においては、比例器52によって、電圧ベクトルのq軸電圧成分相当値(=q軸電圧成分値/ω1
*=Lq・Iq*)が演算される。さらに、除算器56によって、比例器52の演算値を除数とし、比例器67Aの演算値を被除数とする除算値が演算される。これにより、q軸電流の振動成分に応じた、電圧指令ベクトルの位相の変化分が演算される。除算器56の演算値は、ローパスフィルタ57によって高周波成分が除去される。ローパスフィルタ57は、高周波成分が除去された除算器56の演算値を、安定化電圧指令位相補正量θd*として出力する。
【0088】
図14は、本実施例3における電圧ベクトル演算部18B(
図11)の構成を示す機能ブロック図である。なお、
図14に示す電圧ベクトル演算部18Bは、
図13に減衰比制御部26Bを示した変形例においても、適用される。
【0089】
電圧ベクトル演算部18Bにおいては、実施例1と同様に、前述の式(2)の電圧方程式によって表される、モータモデルの逆モデルが用いられる。
【0090】
さらに、本実施例3における電圧ベクトル演算部18Bは、減衰比制御部26Bによって生成された安定化電圧指令位相補正量θd*に応じて、電圧指令値の位相を補正する座標変換部40を有する。
【0091】
座標変換部40は、電圧方程式を用いて生成される電圧指令値(電圧指令ベクトル(Vd0*,Vq0*))の位相を、安定化電圧指令位相補正量θd*に応じて回転させる。上述のように、θd*は、位相が進められた電流ベクトルの振動成分に応じて生成される。したがって、モータ電流の振動が抑制されるので、PMSM1の制御の安定性が向上する。
【0092】
本実施例3によれば、座標変換を用いた進み補償によって基本波周波数の振動を抑制することができる。
【0093】
なお、本実施例3においても、実施例1と同様に、ハイパスフィルタに代えて、フーリエ級数展開やバンドパスフィルタなど、基本波周波数の振動成分を抽出する他の手段を適用してもよい。
【0094】
また、本実施例3においても、実施例1の第1(
図6)および第2(
図7)の変形例と同様に、ハイパスフィルタを座標変換器65の前段に設けたり、電流検出値を電流指令値との差分を取らずに直接ハイパスフィルタに入力したりすることも可能である。
【実施例0095】
図15は、本発明の実施例4であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【0096】
以下、主に、実施例3と異なる点について説明する。
【0097】
図15に示すように、本実施例4では、加減算器15によって、減衰比制御部26Bが生成する安定化電圧指令位相補正量θd
*が、磁極位置検出器4による磁極位置検出値θ0
*から減算される。加減算器15による演算値(θ0
*-θd
*)が、磁極位置情報θ
*として、周波数演算部5、座標変換部7および座標変換部11において用いられる。
【0098】
すなわち、座標変換部7における三相/dq変換において用いられる制御用回転座標軸、並びに座標変換部11におけるdq/三相変換において用いられる制御用回転座標軸を、θd*に応じて回転させる。
【0099】
図16は、本実施例4における電圧ベクトル演算部18C(
図15)の構成を示す機能ブロック図である。
【0100】
本実施例4における電圧ベクトル演算部18Cは、実施例3(
図14)のような座標変換部40は備えていない。このため、電圧ベクトル演算部18Cは、式(2)で表される逆モデルに基づいて演算するd軸電圧値およびq軸電圧値を、補正することなく、それぞれd軸電圧指令値Vd
*およびq軸電圧指令値Vq
*として出力する。
【0101】
本実施例4では、実施例3と同様に安定化電圧指令位相補正量θd*が生成されるが、電圧ベクトル演算部18Cにおいては、安定化電圧指令位相補正量θd*による電圧位相の補正は実行されない。本実施例4では、磁極位置検出値θ0*から安定化電圧指令位相補正量θd*を減算して位置情報θ*とし、この位置情報θ*を用いてベクトル制御が実行される。これにより、実質的に電圧ベクトルの位相を制御できる。
【0102】
なお、本実施例4(
図15)における、磁極位置検出器4(例えば、レゾルバ)で検出される磁極位置検出値θ0
*に代えて、センサレス制御による磁極位置推定値を用いてもよい。また、磁極位置を推定する際にPLL(Phase Locked Loop)を用いる場合、PLLの目標値を用いてもよい。本実施例4によれば、センサレス制御であってもPMSM1の共振を確実に抑えることができるので、センサレス制御の安定性が向上する。
【0103】
本実施例4によれば、座標変換を用いた位相進み補償によって基本波周波数の振動を抑制することができる。
【0104】
なお、本実施例4においても、実施例1と同様に、ハイパスフィルタに代えて、フーリエ級数展開やバンドパスフィルタなど、基本波周波数の振動成分を抽出する他の手段を適用してもよい。
【0105】
また、本実施例4においても、実施例1の第1(
図6)および第2(
図7)の変形例と同様に、減衰比制御部26Bにおけるハイパスフィルタを座標変換器の前段に設けたり、電流検出値を電流指令値との差分を取らずに直接ハイパスフィルタに入力したりすることも可能である。
【実施例0106】
図17は、本発明の実施例5であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。以下、主に、実施例1と異なる点について説明する。
【0107】
本実施例5では、モータ電流の検出値から変換された磁束量をフィードバック量としている(実施例6~8も同様)。
【0108】
dq軸磁束推定部23は、座標変換部7が出力するdq軸電流検出値Idc,Iqcに基づいて、ルックアップテーブル(テーブルデータ)を参照して、dq軸磁束推定値φd,φqを推定する。dq軸磁束推定部23が参照するルックアップテーブル(テーブルデータ)は、Idc,Iqcとφd,φqとの対応を表す表データであり、本実施例5のモータ制御装置が備える記憶装置(図示せず)に記憶されている。なお、ルックアップテーブルに替えて、所定の関数(近似式など)を用いてもよい。
【0109】
第一dq軸磁束指令演算部21は、上位制御装置などから与えられるdq軸電流指令値Idc*,Iqc*に基づいて、ルックアップテーブル(テーブルデータ)を参照して、第一dq軸磁束指令値φd*,φq*を演算して出力する。第一dq軸磁束指令演算部21が参照するルックアップテーブル(テーブルデータ)は、Idc*,Iqc*とφd*,φq*との対応を表す表データであり、本実施例5のモータ制御装置が備える記憶装置(図示せず)に記憶されている。ルックアップテーブルに替えて、所定の関数(近似式など)を用いてもよい。
【0110】
なお、PMSM1における磁束と電流の対応関係を表す情報である、上述のルックアップテーブル、テーブルデータ、関数(近似式)は、実測や磁場解析などに基づいて、設定することができる。
【0111】
第二dq軸磁束指令演算部25は、第一dq軸磁束指令値φd*,φq*とdq軸磁束推定値φd,φqが一致するように、比例積分(PI)制御器によって第二dq軸磁束指令値φd**,φq**を演算して出力する。
【0112】
図18は、第二dq軸磁束指令演算部25(
図17)におけるPI制御器の構成を示す機能ブロック図である。
【0113】
図18の上図に示すように、第二d軸磁束指令値φd
**を演算するPI制御器においては、加減算器181によって、第一d軸磁束指令値φd
*とd軸磁束推定値φdとの差分(φd
*-φd)が演算され、比例器187によって、差分演算値に、比例ゲイン(K
P)が乗算される。また、差分演算値は、積分器183によって積分され、比例器185によって、積分値に積分ゲイン(K
I)が乗算される。比例ゲインK
Pが乗算された差分演算値と、積分ゲインK
Iが乗算された積分値とが、加算器189によって加算され、第二d軸磁束指令値φd
**が演算される。
【0114】
図18の下図に示すように、第二q軸磁束指令値φq
**を演算するPI制御器においては、加減算器191によって、第一q軸磁束指令値φq
*とq軸磁束推定値φqとの差分(φq
*-φq)が演算され、比例器197によって、差分演算値に比例ゲイン(K
P)が乗算される。また、差分演算値は、積分器193によって積分され、比例器195によって、積分値に積分ゲイン(K
I)が乗算される。比例ゲインK
Pが乗算された差分演算値と、積分ゲインK
Iが乗算された積分値とが、加算器199によって加算され、第二q軸磁束指令値φq
**が演算される。
【0115】
図17に示す減衰比制御部27は、モータ磁束の振動成分を抽出し、抽出した振動成分に応じて、この振動成分を減衰させるための電圧指令値(以下、「安定化電圧指令値」と称す)を生成する。本実施例5では、
図17に示すように、減衰比制御部27は、第一d軸磁束指令値φd
*、第一q軸磁束指令値φq
*、d軸磁束推定値φd、q軸磁束推定値φqおよび速度情報ω
1
*に基づき、d軸磁束およびq軸磁束の各振動成分を抽出し、抽出した両振動成分に応じて、モータ電流の振動成分を減衰させるためのd軸安定化電圧指令値Vdd
*を生成する。
【0116】
図19は、減衰比制御部27(
図17)の構成を示す機能ブロック図である。
【0117】
図19に示すように、減衰比制御部27においては、一次遅れ演算器161および一次遅れ演算器162によって、それぞれ、第一d軸磁束指令値φd
*の一次遅れおよび第一q軸磁束指令値φq
*の一次遅れが演算される。なお、本実施例5では、制御系のカットオフ角周波数ωcの逆数を、一次遅れにおける時定数としている。
【0118】
さらに、d軸磁束推定値φdと、第一d軸磁束指令値φd*の一次遅れとのd軸磁束差分dφd(=φd-(φd*の一次遅れ))が、加減算器163によって演算される。かつ、q軸磁束推定値φqと、第一q軸磁束指令値φq*の一次遅れとのq軸磁束差分dφq(φq-(φq*の一次遅れ))が、加減算器164によって演算される。
【0119】
座標変換器165は、制御動作に伴う無駄時間を補償するために、d軸磁束差分dφdおよびq軸磁束差分dφqを、制御軸であるdq軸を無駄時間分の位相だけ回転させた座標における補正d軸磁束差分dφd’および補正q軸磁束差分dφq’に変換する。
【0120】
座標変換器165は、予め座標変換器165に設定されている式(3)を用いて、d軸磁束差分dφdおよびq軸磁束差分dφqを、速度情報ω1
*と無駄時間dtを乗算した補正位相ω1
*dtだけdq軸を回転させた座標における補正d軸磁束差分dφd’および補正q軸磁束差分dφq’を演算する。
【0121】
【0122】
座標変換器165によれば、振動成分を含むd軸磁束差分dφdおよびq軸磁束差分dφqが、φdおよびφqが推定された時点(もしくは、三相電流(Iu,Iv,Iw)が検出された時点)から、無駄時間分だけ位相を進めた時点での、振動成分を含むd軸磁束差分dφd’およびq軸電流差分dφq’に変換される。
【0123】
図19に示すように、本実施例5において、座標変換器165はdφd’を出力する。したがって、座標変換器165は、dφd’およびdφq’の内、dφd’だけを演算する。なお、座標変換器65には、式(3)のようにdφd’およびdφq’を表す式に限らず、dφd’を表す式だけが設定されていてもよい。
【0124】
座標が変換されたd軸磁束差分dφd’の振動成分が、ハイパスフィルタ166(
図19中に伝達関数を示す)によって抽出される。抽出されたdφd’の振動成分、すなわちd軸磁束の振動成分に、比例器167によって、ゲイン(2ζ)が乗算される。ハイパスフィルタ166が出力する、d軸磁束差分dφd’の振動成分は、座標変換器165によって位相が進められたd軸磁束の振動成分である。
【0125】
実施例1と同様に、ζは、振動成分の減衰の程度に関わる制御パラメータである。すなわち、ζは、モータの応答における減衰比に相当するが、制御系において、モータの応答における減衰比とは独立に、任意(ただし、0<ζ≦1)に設定される定数である。そこで、以下、ζを「減衰比」と称する。
【0126】
図19に示すように、ゲイン(2ζ)が乗算されたd軸電流の振動成分に、PMSM1(
図17)の速度情報ω
1
*の絶対値が、乗算器169によって乗算される。これにより、磁束値が電圧値に変換される。なお、速度情報ω
1
*の絶対値は、絶対値演算器168(ABS)によって演算される。
【0127】
ローパスフィルタ157は、乗算器169の出力から高周波成分を除去して、d軸安定化電圧指令値Vdd*を出力する。なお、実施例1(
図3)と同様に、ローパスフィルタ157のカットオフ周波数は、速度情報ω
1
*に応じて設定される。
【0128】
図17に示す電圧ベクトル演算部19は、磁束制御に関わるモータモデルの逆モデルに基づいて、電圧指令値を生成する
モータモデルの逆モデルは、モータのd軸磁束およびq軸磁束をそれぞれφdおよびφqとし、モータのd軸電圧およびq軸電圧をそれぞれVdおよびVqとすると、式(4)のような電圧方程式によって表される。
【0129】
【0130】
本実施例5においては、式(4)で表される逆モデルが適用されるが、φdおよびφqをそれぞれ第二d軸磁束指令値φd**および第二q軸磁束指令値φq**とし、ω1を速度情報ω1
*とする。電圧ベクトル演算部19は、式(4)によって演算したVdと、減衰比制御部27が出力するd軸安定化電圧指令値Vdd*とに基づいて、d軸電圧指令値Vd*を生成して出力する。また、電圧ベクトル演算部19は、式(4)によって演算したVqを、q軸電圧指令値Vq*として出力する。
【0131】
図20は、式(4)で表される逆モデルに基づく電圧ベクトル演算部19の構成を示す機能ブロック図である。なお、R,Ld,Lq,Keは、それぞれPMSM1における巻線抵抗、d軸インダクタンス、q軸インダクタンス、誘起電圧定数である。
【0132】
図20に示すように、微分器145により、φd
**の微分が演算される。また、加減算器144により、φd
**とKeとの差分(φd
**-Ke)が演算される。この差分演算値に、比例器146によって、R/Ldが乗じられる。微分器145による微分演算値と、比例器146によってゲインであるR/Ldが乗じられた差分演算値とが、加算器147によって加算される。また、乗算器148によって、ω
1
*とφq
**とが乗算される。さらに、加減算器149によって、加算器147による加算演算値から、乗算器148による乗算値と、減衰比制御部27(
図17)によって生成されたd軸安定化電圧指令値Vdd
*とが減算される。これにより、Vd
*が生成される。
【0133】
図20に示すように、微分器135により、φq
**の微分が演算される。また、比例器136によって、φq
**にR/Lqが乗じられる。微分器135による微分演算値と、比例器136によってR/Lqが乗じられたφq
**とが、加算器137によって加算される。また、乗算器138によって、ω
1
*とφd
**とが乗算される。さらに、加算器139によって、加算器137による加算演算値と、乗算器138による乗算値とが加算される。これにより、Vq
*が生成される。
【0134】
前述のように、減衰比制御部27における座標変換器65によって無駄時間分だけ位相が進められたd軸磁束の振動成分に基づいて生成されたVdd*が、式(4)に基づいて生成されるd軸電圧Vdに、振動成分を相殺する方向に重畳される。このため、無駄時間が補償されたモータ電流の振動成分の抑制が可能になる。
【0135】
なお、本実施例5においても、実施例1と同様に、ハイパスフィルタに代えて、フーリエ級数展開やバンドパスフィルタなど、基本波周波数の振動成分を抽出する他の手段を適用してもよい。
【0136】
また、本実施例5においても、実施例1の第1(
図6)および第2(
図7)の変形例と同様に、ハイパスフィルタを座標変換器65の前段に設けたり、磁束推定値を磁束指令値との差分を取らずに直接ハイパスフィルタに入力したりすることも可能である。
【実施例0137】
図21は、本発明の実施例6であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【0138】
以下、主に、実施例5と異なる点について説明する。
【0139】
図21に示すように、本実施例6においては、実施例5(
図17)とは異なり、減衰比制御部27Aは、q軸安定化電圧指令値Vqd
*を生成する。
【0140】
図22は、減衰比制御部27A(
図21)の構成を示す機能ブロック図である。
【0141】
本実施例6における減衰比制御部27A(
図21)が備える座標変換器165は、実施例5(
図19)と同様に、式(3)を用いて、d軸磁束差分dφdおよびq軸磁束差分dφqを、制御軸であるdq軸を無駄時間分の位相ω
1
*dtだけ回転させた座標における補正d軸磁束差分dφd’および補正q軸磁束差分dφq’に変換する。
【0142】
なお、
図22に示すように、本実施例6において、座標変換器165はdφq’を出力する。したがって、座標変換器165は、dφd’およびdφq’の内、dφq’だけを演算する。座標が変換されたq軸磁束差分dφq’の振動成分が、ハイパスフィルタ166A(
図22に伝達関数を示す)によって抽出される。
【0143】
図23は、式(4)で表される逆モデルに基づく、本実施例6における電圧ベクトル演算部19A(
図21)の構成を示す機能ブロック図である。
【0144】
加減算器149Aによって、加算器147による加算演算値から、乗算器148による乗算値が減算されて、d軸電圧指令値Vd*が生成される。なお、加減算器149Aによる演算値は、式(4)におけるd軸電圧Vdに対応する。
【0145】
加減算器139Aによって、加算器137による演算値と、乗算器138による演算値とが加算されるとともに、q軸安定化電圧指令値Vqd*が減算される。加減算器139Aによる演算値は、式(4)におけるq軸電圧Vdからq軸安定化電圧指令値Vqd*を減算した演算値に対応する。加減算器139Aは、演算値をq軸電圧指令値Vq*として出力する。
【0146】
本実施例6によれば、実施例5と同様に、座標変換によってdq軸磁束の振動成分の位相を進めることにより、無駄時間の影響を補償して、安定した減衰比制御が可能になる。
【0147】
前述のように、減衰比制御部27Aにおける座標変換器165によって無駄時間分だけ位相が進められたq軸磁束の振動成分に基づいて生成されたVqd*が、式(4)に基づいて生成されるq軸電圧Vqに、振動成分を相殺する方向に重畳される。このため、無駄時間が補償されたモータ電流の振動成分の抑制が可能になる。
【0148】
なお、本実施例6においても、実施例1と同様に、ハイパスフィルタに代えて、フーリエ級数展開やバンドパスフィルタなど、基本波周波数の振動成分を抽出する他の手段を適用してもよい。
【0149】
また、本実施例6においても、実施例1の第1(
図6)および第2(
図7)の変形例と同様に、ハイパスフィルタを座標変換器65の前段に設けたり、磁束推定値を磁束指令値との差分を取らずに直接ハイパスフィルタに入力したりすることも可能である。
【実施例0150】
図24は、本発明の実施例7であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【0151】
以下、主に、実施例5,6と異なる点について説明する。
【0152】
図24に示すように、本実施例7における減衰比制御部27Bは、第一d軸磁束指令値φd
*、第一q軸磁束指令値Iq
*、d軸磁束推定値φd、q軸磁束推定値φq、および速度情報ω
1
*に基づき、dq軸磁束の振動成分を抽出し、抽出した振動成分に応じて、この振動成分を減衰させるための安定化電圧指令位相補正量θd
*を生成する。
【0153】
実施例5,6では、電圧方程式(式(4))から演算される電圧指令の電圧値が補正されるのに対し、本実施例7では、安定化電圧指令位相補正量θd*によって電圧指令の位相が補正される。
【0154】
図25は、本実施例7における減衰比制御部27B(
図24)の構成を示す機能ブロック図である。
【0155】
図25に示すように、実施例5(
図19)と同様に、φd
*,φq
*,φd,φqおよびω
1
*に基づき、一次遅れ演算器161,162、加減算器163,164、座標変換器165およびハイパスフィルタ166によって、位相が進められたd軸磁束の振動成分が演算される。さらに、実施例5(
図19)と同様に、比例器167によって、磁束値が電圧相当値(=電圧値/ω
1
*)に変換される。
【0156】
本実施例7においては、φd*の一次遅れが、電圧ベクトルのd軸成分相当値(=d軸電圧成分値/ω1
*)として、除算器155に入力される。除算器155は、φd*の一次遅れを除数とし、比例器167の演算値を被除数とする除算値を演算する。これにより、d軸磁束の振動成分に応じた、電圧指令ベクトルの位相の変化分が演算される。除算器155の演算値は、ローパスフィルタ157によって高周波成分が除去される。ローパスフィルタ157は、高周波成分が除去された除算器155の演算値を、安定化電圧指令位相補正量θd*として出力する。
【0157】
図26は、実施例7の第1の変形例における減衰比制御部27Bの構成を示す機能ブロック図である。
【0158】
図26に示すように、第1の変形例においては、φd
*,φq
*,φd,φqおよびω
1
*に基づき、一次遅れ演算器161,162、加減算器163,164、座標変換器165およびハイパスフィルタ166Aによって、位相が進められたq軸磁束の振動成分が演算される。さらに、比例器167によって、磁束値が電圧相当値(=電圧値/ω
1
*)に変換される。
【0159】
第1の変形例においては、φq*の一次遅れが、電圧ベクトルのq軸成分相当値(=d軸電圧成分値/ω1
*)として、除算器156に入力される。除算器156は、φq*の一次遅れを除数とし、比例器167の演算値を被除数とする除算値を演算する。これにより、q軸磁束の振動成分に応じた、電圧指令ベクトルの位相の変化分が演算される。除算器156の演算値は、ローパスフィルタ157によって高周波成分が除去される。ローパスフィルタ157は、高周波成分が除去された除算器156の演算値を、安定化電圧指令位相補正量θd*として出力する。
【0160】
図27は、実施例7の第2の変形例における減衰比制御部26Bの構成を示す機能ブロック図である。
【0161】
図27に示すように、第2の変形例においては、一次遅れ演算器261によって、第一d軸磁束指令φd
*の一次遅れが演算される。また、一次遅れ演算器262によって、第一q軸磁束指令φq
*の一次遅れが演算される。なお、制御系のカットオフ角周波数ωcの逆数を、一次遅れにおける時定数とする。
【0162】
d軸磁束推定値φdと、第一d軸磁束指令φd*の一次遅れとのd軸磁束差分dφdが、加減算器263によって演算される。また、q軸磁束推定値φqと、第一q軸磁束指令φq*の一次遅れとのq軸磁束差分dφqが、加減算器264によって演算される。
【0163】
座標変換器165は、実施例5(
図19)と同様に、式(3)を用いて、d軸磁束差分dφdおよびq軸磁束差分dφqを、制御軸であるdq軸を無駄時間分の位相ω
1
*dtだけ回転させた座標における補正d軸磁束差分dφd’および補正q軸磁束差分dφq’に変換する。なお、座標変換器165は、dφd’およびdφq’を出力する。
【0164】
dφd’およびdφq’の振動成分が、それぞれハイパスフィルタ255および256によって抽出される。
【0165】
ハイパスフィルタ255によって抽出されたdφd’の振動成分に、φd*の一次遅れ(以下、「φdf*」と記す)が乗算器257によって乗算される。また、ハイパスフィルタ256によって抽出されたdφq’の振動成分に、φq*の一次遅れ(以下、「φqf*」と記す)が乗算器258によって乗算される。また、乗算器257による乗算値と乗算器258による乗算値とが、加算器259によって加算される。加算器259による加算演算値は、磁束指令ベクトルと磁束の振動成分ベクトルとの内積に相当する。
【0166】
φdf*およびφqf*は、乗算器257,258のほかに、二乗和演算器260にも入力される。二乗和演算器260は、φqf*の二乗とφdf*の二乗との和を演算する。
【0167】
二乗和演算器260による二乗和演算値((φdf*)2+(φqf*)2)と、加算器259による加算値とが、除算器265に入力される。除算器265は、二乗和演算器260による二乗和演算値を除数とし、加算器259による加算値を被除数として、除算値((加算値)÷(二乗和))を演算する。
【0168】
ここで、除算器265による除算値は、磁束の振動成分の、磁束指令の振幅方向の成分の値((磁束指令ベクトルと磁束の振動成分ベクトルとの内積)÷(磁束指令ベクトルの大きさ(=((φqf*)2+(φdf*)2))1/2))を、電圧指令の位相補正量(ゲイン乗算前の暫定的な補正量)に変換((磁束指令の振幅方向の成分)÷(磁束指令の大きさ(=((φqf*)2+(φdf*)2))1/2))した値である。
【0169】
除算器265による除算値に、比例器266によって、ゲイン(2ζ)が乗算される。これにより、安定化電圧指令位相補正量θd*が生成される。比例器266の演算値は、ローパスフィルタ267によって高周波成分が除去される。ローパスフィルタ267は、高周波成分が除去された比例器266の演算値を、安定化電圧指令位相補正量θd*として出力する。
【0170】
なお、実施例5(
図25)と同様に、ローパスフィルタ267のカットオフ周波数は、速度情報ω
1
*に応じて設定される。
【0171】
図28は、実施例7における電圧ベクトル演算部19B(
図24)の構成を示す機能ブロック図である。なお、
図28に示す電圧ベクトル演算部19Bは、
図26および27に減衰比制御部26Bを示した第1および第2の変形例においても、適用される。
【0172】
電圧ベクトル演算部19Bにおいては、実施例5と同様に、前述の式(4)の電圧方程式によって表される、モータモデルの逆モデルが用いられる。
【0173】
さらに、本実施例7における電圧ベクトル演算部19Bは、減衰比制御部27Bによって生成された安定化電圧指令位相補正量θd*に応じて、電圧指令値の位相を補正する座標変換部140を有する。
【0174】
座標変換部140は、電圧方程式を用いて生成される電圧指令値(電圧指令ベクトル(Vd0*,Vq0*))の位相を、安定化電圧指令位相補正量θd*に応じて回転させる。上述のように、θd*は、位相が進められた磁束ベクトルの振動成分に応じて生成される。したがって、モータ電流の振動が抑制されるので、PMSM1の制御の安定性が向上する。
【0175】
なお、本実施例7においても、実施例1と同様に、ハイパスフィルタに代えて、フーリエ級数展開やバンドパスフィルタなど、基本波周波数の振動成分を抽出する他の手段を適用してもよい。
【0176】
また、本実施例7においても、実施例1の第1(
図6)および第2(
図7)の変形例と同様に、ハイパスフィルタを座標変換器65の前段に設けたり、磁束推定値を磁束指令値との差分を取らずに直接ハイパスフィルタに入力したりすることも可能である。
【実施例0177】
図29は、本発明の実施例8であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【0178】
以下、主に、実施例7と異なる点について説明する。
【0179】
図29に示すように、本実施例8では、加減算器15によって、減衰比制御部27Bが生成する安定化電圧指令位相補正量θd
*が、磁極位置検出器4による磁極位置検出値θ0
*から減算される。加減算器15による演算値(θ0
*-θd
*)が、磁極位置情報θ
*として、周波数演算部5、座標変換部7および座標変換部11において用いられる。
【0180】
すなわち、座標変換部7における三相/dq変換において用いられる制御用回転座標軸、並びに座標変換部11におけるdq/三相変換において用いられる制御用回転座標軸を、θd*に応じて回転させる。
【0181】
図30は、本実施例8における電圧ベクトル演算部19C(
図29)の構成を示す機能ブロック図である。
【0182】
本実施例8における電圧ベクトル演算部19Cは、実施例7(
図28)のような座標変換部140は備えていない。このため、電圧ベクトル演算部19Cは、式(4)で表される逆モデルに基づいて演算するd軸電圧値およびq軸電圧値を、補正することなく、それぞれd軸電圧指令値Vd
*およびq軸電圧指令値Vq
*として出力する。
【0183】
本実施例8は、実施例7と同様に安定化電圧指令位相補正量θd*が生成されるが、電圧ベクトル演算部19Cにおいては、安定化電圧指令位相補正量θd*による電圧位相の補正は実行されない。本実施例8では、磁極位置検出値θ0*から安定化電圧指令位相補正量θd*を減算して位置情報θ*とし、この位置情報θ*を用いてベクトル制御が実行される。これにより、実質的に電圧ベクトルの位相を制御できる。
【0184】
なお、本実施例8(
図29)における、磁極位置検出器4(例えば、レゾルバ)で検出される磁極位置検出値θ0
*に代えて、センサレス制御による磁極位置推定値を用いてもよい。また、磁極位置を推定する際にPLL(Phase Locked Loop)を用いる場合、PLLの目標値を用いてもよい。本実施例8によれば、センサレス制御であってもPMSM1の共振を確実に抑えることができるので、センサレス制御の安定性が向上する。
【0185】
なお、本実施例8においても、実施例1と同様に、ハイパスフィルタに代えて、フーリエ級数展開やバンドパスフィルタなど、基本波周波数の振動成分を抽出する他の手段を適用してもよい。
【0186】
また、本実施例8においても、実施例1の第1(
図6)および第2(
図7)の変形例と同様に、減衰比制御部26Bにおけるハイパスフィルタを座標変換器の前段に設けたり、磁束推定値を磁束指令値との差分を取らずに直接ハイパスフィルタに入力したりすることも可能である。
【0187】
従来技術(例えば、上述の特許文献1もしくは特許文献2に記載の技術)では、電圧指令値を生成するために電流制御に関わる電圧方程式が用いられるが、この場合、トルクや速度に応じて電流と電圧の方向は変化し、関係性は一定ではない。これに対し、実施例5~8では、磁束制御に関する電圧方程式が用いられるが、この場合、一次抵抗成分を無視すれば、電圧と磁束は直交する。
【0188】
図31は、電圧ベクトルと磁束ベクトルを示すベクトル図である。
【0189】
図31に示すように、磁束ベクトル323(φ)と電圧ベクトル321(V)は互いに直交する。したがって、磁束の振幅方向は、電圧の振幅方向に直交する方向、すなわち電圧ベクトルの位相方向に相当する。
【0190】
したがって、実施例7,8のように、磁束の振幅方向の振動成分に応じて電圧位相角を、この振動成分に対して電圧の位相方向の成分が逆方向になるように制御すれば、実施例5,6のように磁束の振動成分と逆方向に電圧指令値を補正する場合と同様に、PMSM1の共振を抑制できる。
【0191】
なお、実施例7,8は、電圧位相を補正制御するため、電力変換器2(例えば、インバータ)の出力電圧が、出力可能な電圧の制限(上限)に近い領域である場合でも、確実に共振を抑えることができる。例えば、実施例5,6において、電圧ベクトルVの大きさの補正が難しくても、位相を補正して、Vd,Vqを変化させて、磁束ベクトルの変動を抑えることができる。
【0192】
このように、実施例7,8によれば、電圧制限に近い領域において、PMSM1の共振を抑制できる。例えば、本実施例3は、1パルス制御によって、PMSM1を駆動制御する場合に、好適である。
【0193】
図32は、1パルス制御における、U相ゲート信号(Su+
*,Su-
*)およびU相電圧指令値Vu
*を示す波形図である。なお、U相ゲート信号Su+
*およびSu-
*は、それぞれ、電力変換器2(三相インバータ)のU相上アームおよびU相下アームに与えられるゲート信号である。
【0194】
図32に示すように、PWM制御器12は、1パルス制御では、基本波周波数でオン・オフを繰り返す矩形波のゲート信号を出力する。したがって、電力変換器2が出力する電圧の大きさは一定値に維持される。このため、電圧値の大きさの補正は難しいが、電圧の位相を補正して、共振を抑えることができる。
【0195】
上述のように、実施例7,8によれば、電圧指令の大きさの補正が難しい場合でも、電圧指令の位相を補正することにより、PMSM1の振動を抑えることができる。
【実施例0196】
図33は、本発明の実施例9である電気車の構成を示すブロック図である。なお、本実施例9における電気車は、電気自動車である。
【0197】
モータ制御装置100は、電力変換器2(インバータ)からPMSM1に供給する交流電力を制御する。直流電圧源9(例えばバッテリ)は、電力変換器2(インバータ)に直流電力を供給する。電力変換器2(インバータ)は、モータ制御装置100によって制御されることにより、直流電圧源9からの直流電力を交流電力に変換する。モータ制御装置100として、前述の実施例1~8の内のいずれかのモータ制御装置が適用される。
【0198】
PMSM1は、トランスミッション101に機械的に接続される。トランスミッション101は、ディファレンシャルギア103を介してドライブシャフト105に機械的に接続され、車輪107に機械的動力を供給する。これにより、車輪107が回転駆動される。
【0199】
なお、PMSM1が、トランスミッション101を介さず、直接、ディファレンシャルギア103に接続されてもよい。また、自動車の前輪および後輪の各々が、独立したPMSMおよびインバータによって駆動されてもよい。
【0200】
電気自動車においては、振動抑制や空転制御のためにトルクの高速応答を要する場合、制御系の減衰比を高精度に設定することが要求される。このため、制御設計が複雑になるが、実施例1~8のモータ制御装置によれば、実質的に減衰比が制御されるので、制御設計を複雑化することなく、トルク応答を高速化しながらも、モータの振動が抑制された安定な制御が可能になる。
【0201】
また、実施例1~8のモータ制御装置によれば、電気自動車における、低レベルから高レベルまでの広範囲にわたる速度やトルクに応じた広範囲の動作点で、モータ振動を減衰させることができる。
【0202】
また、電気自動車においては、速度およびトルクの範囲が広い電気自動車用のモータは、高効率化のために一次抵抗が小さく、
図31に示すような電圧ベクトルと磁束ベクトルの直交関係が、広い速度範囲で成り立つ。したがって、前述の実施例7,8が好適である。
【0203】
また、本実施例9によれば、モータの振動を抑制できるので、運転者や搭乗者の乗り心地が向上する。
【0204】
本発明の実施例1~8は、上述の電気自動車に限らず、電気鉄道車両なども含む電気車に対して適用でき、上述した作用・効果を生じる。
【0205】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前述した各実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、削除、置き換え、他の構成の追加をすることが可能である。
【0206】
例えば、制御対象の交流モータは、PMSMに限らず、同期リラクタンスモータ、巻線界磁型同期電動機などでもよい。
【0207】
また、PMSMは、埋込磁石型および表面磁石型のいずれでもよいし、外転型および内転型のいずれでもよい。
【0208】
また、インバータ主回路を構成する半導体スイッチング素子は、IGBTに限らず、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などでもよい。
【0209】
また、上記各実施例によるモータ制御装置は、交流モータと、交流モータを駆動する電力変換器と、電力変換器を制御する制御装置を備える各種のモータ駆動システムにおいて、この制御装置として適用できる。
【符号の説明】
【0210】
1:PMSM、2:電力変換器、3:相電流検出器、4:磁極位置検出器、5:周波数演算部、6:直流電圧検出器、7:座標変換部、9:直流電圧源、11:座標変換部、12:PWM制御器、15:加減算器、18,18A,18B,18C:電圧ベクトル演算部、19,19A,19B,19C:電圧ベクトル演算部、21:第一dq軸磁束指令演算部、23:dq軸磁束推定部、24:第二dq軸電流指令演算部、25:第二dq軸磁束指令演算部、26,26A,26B:減衰比制御部、27,27A,27B:減衰比制御部、34:加減算器、35:微分器、36:比例器、37:加算器、38:乗算器、39:加算器、40:座標変換部、45:微分器、46:比例器、47:加算器、48:乗算器、49,49A:加減算器、51:比例器、52:比例器、53:加算器、55:除算器、56:除算器、57:ローパスフィルタ、61:一次遅れ演算器、62:一次遅れ演算器、63:加減算器、64:加減算器、65,65A:座標変換器、66,66A,66B,66C,66D:ハイパスフィルタ、67,67A:比例器、68:絶対値演算器、69:乗算器、81:加減算器、83:積分器、85:比例器、87:比例器、89:加算器、91:加減算器、93:積分器、95:比例器、97:比例器、99:加算器、100:モータ制御装置、101:トランスミッション、103:ディファレンシャルギア、105:ドライブシャフト、107:車輪、135:微分器、136:比例器、137:加算器、138:乗算器、139:加算器、139A:加減算器、140:座標変換部、144:加減算器、145:微分器、146:比例器、147:加算器、148:乗算器、149,149A:加減算器、155:除算器、156:除算器、157:ローパスフィルタ、161:一次遅れ演算器、162:一次遅れ演算器、163:加減算器、164:加減算器、165:座標変換器、166,166A:ハイパスフィルタ、167:比例器、168:絶対値演算器、169:乗算器、181:加減算器、183:積分器、185:比例器、187:比例器、189:加算器、191:加減算器、193:積分器、195:比例器、197:比例器、199:加算器、251:一次遅れ演算器、252:一次遅れ演算器、253:加減算器、254:加減算器、255:ハイパスフィルタ、256:ハイパスフィルタ、257:乗算器、258:乗算器、259:加算器、260:二乗和演算器、261:一次遅れ演算器、262:一次遅れ演算器、263:加減算器、264:加減算器、265:除算器、266:比例器、267:ローパスフィルタ、268:絶対値演算器
33