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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154264
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】トンネルの交差部支保工の設計方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/00 20060101AFI20231012BHJP
   E21D 9/02 20060101ALI20231012BHJP
   E21D 9/14 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
E21D9/00 A
E21D9/02
E21D9/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063487
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】澤田 幸平
(72)【発明者】
【氏名】大塚 勇
(57)【要約】
【課題】本坑支保工の構造解析の際の土被り荷重を合理的根拠に基づいて体系化されたフローの下で設定することを可能にした、トンネルの交差部支保工の設計方法を提供する。
【解決手段】トンネルの交差部支保工の設計方法であり、交差部を含む本坑10に作用する土被り荷重の設定に際し、Terzaghiの緩み高さが算出できる場合はTerzaghiの緩み土圧に基づいて土被り荷重を設定し、Terzaghiの緩み高さが算出できない場合は有限要素法による掘削解放力に基づいて土被り荷重を設定するA工程、本坑支保工モデルM1、M2に対して設定した土被り荷重を載荷して構造解析を実施し、交差部支保工30の設計の際の交差部支保工設計用荷重Rを算定するB工程と、交差部支保工モデルM3の構造解析を実施するC工程とを有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの本坑と連絡坑が交差部にて交差し、該本坑の支保工である本坑支保工と、該交差部の支保工である交差部支保工をそれぞれモデル化して設計する、トンネルの交差部支保工の設計方法であって、
前記交差部を含む前記本坑に作用する土被り荷重の設定に際し、Terzaghiの緩み高さが算出できる場合は、Terzaghiの緩み土圧に基づいて前記土被り荷重を設定し、Terzaghiの緩み高さが算出できない場合は、有限要素法による掘削解放力に基づいて前記土被り荷重を設定する、A工程と、
前記交差部を含む前記本坑支保工の本坑支保工モデルに対して、設定した前記土被り荷重を載荷して構造解析を実施し、前記本坑支保工モデルにおける前記交差部に対応する位置の反力を求め、該反力を前記交差部支保工の設計の際の交差部支保工設計用荷重とする、B工程と、
前記交差部支保工の交差部支保工モデルに対して、前記交差部支保工設計用荷重を載荷して構造解析を実施し、該交差部支保工の構造仕様を設定する、C工程とを有することを特徴とする、トンネルの交差部支保工の設計方法。
【請求項2】
前記交差部支保工モデルは、鋼製支保工と吹付けコンクリートの双方をモデル化したモデルであることを特徴とする、請求項1に記載のトンネルの交差部支保工の設計方法。
【請求項3】
前記A工程においてTerzaghiの緩み高さが算出できる場合は、前記B工程において前記本坑支保工モデルを骨組みモデルとし、該骨組みモデルに対して本坑支保工の径方向地盤バネを設置し、本坑支保工の周方向地盤バネを設置しないことを特徴とする、請求項1又は2に記載のトンネルの交差部支保工の設計方法。
【請求項4】
前記A工程においてTerzaghiの緩み高さが算出できる場合は、前記骨組みモデルに対して前記土被り荷重に加えて水平荷重を載荷することを特徴とする、請求項3に記載のトンネルの交差部支保工の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの交差部支保工の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の山岳トンネルの施工においては、坑口側へのアクセスが困難な場合や、工程短縮を目的として複数の切羽を計画する場合等において、本坑の施工に先行して当該本坑に交差する縦断線形を有する連絡坑(もしくは、先進導坑、パイロットトンネル)を先行して施工する方法が適用される。相互に交差する本坑と連絡坑の交差部(分岐部)には、正面視がコの字形や馬蹄形で門型の交差部支保工が施工されるが、交差部支保工の施工は一般に狭隘な施工空間での施工となり、一般のトンネルとは異なる施工部材の揚重や組立を伴うことから、施工性に課題があり、施工安全性の担保も難しいのが現状である。
上記するトンネルの交差部支保工の従来の設計方法は、大略次の通りである。すなわち、まず、本坑支保工の検討を行い、この検討において算定された軸力(反力)のうち、交差部に対応する位置の軸力(反力)を特定し、特定された軸力(反力)を用いて交差部支保工の検討を行う。
本坑支保工の検討では、本坑支保工の諸元を決定し、本坑支保工周辺の地盤反力係数を設定して梁バネモデル(骨組みモデル)や二次元もしくは三次元のFEM(Finite Element Method、有限要素法)モデルである本坑支保工モデルを作成し、本坑支保工モデルに作用させる土被り荷重(鉛直荷重)を設定し、設定された土被り荷重を本坑支保工モデルに載荷する構造解析を実施することにより、本坑支保工が設計される。
本坑支保工の構造解析において算出された軸力(反力)のうち、交差部支保工の設置位置における軸力(反力)を特定し、この軸力(反力)を交差部支保工に作用させる荷重(鉛直荷重)として設定する。交差部支保工の設計においては、梁バネモデル等からなる交差部支保工モデルを作成し、本坑支保工の構造解析から特定された軸力(反力)を交差部支保工モデルに載荷する構造解析を実施することにより、交差部支保工が設計される。
【0003】
ところで、上記する従来の交差部支保工の設計方法では、その前工程である本坑支保工の構造解析に用いられる土被り荷重の設定方法(算出方法)が様々に存在し、従って、この設定される土被り荷重に応じて、設計される交差部支保工の仕様が様々に変化するといった課題がある。
すなわち、設計者に応じて土被り荷重の設定方法が異なり、設定方法の異なる土被り荷重に依拠して設計される交差部支保工の仕様が変化することになるため、設計結果の信頼性の問題に繋がり得る。さらに、トンネル設計の都度、複数の土被り荷重の設定方法の中から、採用根拠が明確でない可能性のある状態で設計者が一つの土被り荷重を設定する際の、合理性や効率性に関する課題もある。
【0004】
上記する土被り荷重の設定方法には、Terzaghiの緩み土圧による方法、弾塑性理論解の塑性領域を緩み土圧として評価する方法、発破損傷領域を緩み土圧として評価する方法、FEM解析による掘削解放力による方法がある。
Terzaghiの緩み土圧の算出方法は、地盤の強度定数(内部摩擦角、粘着力)などに基づいて緩み土圧を算出することから、強度定数の評価が重要になる。
また、弾塑性理論解の塑性領域を緩み土圧として評価する方法も、地盤の強度定数(内部摩擦角、粘着力)などに基づいて塑性領域を算出することから、強度定数の評価が重要になる。
一方、発破損傷領域を緩み土圧として評価する方法では、発破損傷領域をトンネルの坑壁から3mの範囲として評価する。
また、上記する三種の土被り荷重の設定方法が適用される場合、土被り荷重が載荷される本坑支保工モデルは梁バネモデル(骨組みモデル)であるのに対して、FEM解析による掘削解放力による方法では、本坑支保工モデルは文字通りのFEMモデルとなり、骨組み構造解析とは解析結果が自ずと相違する。
【0005】
以上のことから、トンネルの交差部支保工の設計において、交差部支保工モデルに載荷される荷重を本坑支保工の構造解析から特定するに当たり、本坑支保工の構造解析の際の土被り荷重を、合理的根拠に基づいて体系化されたフローの下で設定することを可能にした、トンネルの交差部支保工の設計方法が望まれる。
【0006】
ここで、特許文献1には、シールド掘進機で掘進した本線トンネルの内周面に、分岐トンネル等の開口部が形成されるシールドトンネルの構造が提案されている。具体的には、分岐トンネルの発進口の本線トンネル軸方向の前後両外側に、一対の補強用柱部材が設けられ、この一対の補強用柱部材の上下両端部にそれら補強用柱部材に跨るように上下の補強用梁部材が設けられている。補強用柱部材はセグメントによって構成され、補強用梁部材はセグメントに予め設けられた補強材組み付け部にセットされる。
【0007】
一方、特許文献2には、トンネルの本坑と連絡坑との交差部の覆工構造が提案されている。具体的には、交差部に設置されるとともに、本坑と連絡坑とを連通する開口を有する支持部材と、交差部において、本坑の内壁と間隔をおいて設けられるとともに、端部が本坑の底部と支持部材の上部との間で支持される覆工版と、覆工版と本坑の内壁との間、支持部材と本坑の内壁との間、及び支持部材と連絡坑の内壁との間に打設されるモルタルとを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003-253992号公報
【特許文献2】特開2011-32684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1,2には、シールドトンネルの構造や覆工構造に関する記載はあるものの、上記するように、トンネルの交差部支保工の設計において、合理的根拠に基づいて体系化された土被り荷重の設定方法を提案するものではない。
【0010】
本発明は、トンネルの交差部支保工の設計において、交差部支保工モデルに載荷される荷重を本坑支保工の構造解析から特定するに当たり、本坑支保工の構造解析の際の土被り荷重を、合理的根拠に基づいて体系化されたフローの下で設定することを可能にした、トンネルの交差部支保工の設計方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明によるトンネルの交差部支保工の設計方法の一態様は、
トンネルの本坑と連絡坑が交差部にて交差し、該本坑の支保工である本坑支保工と、該交差部の支保工である交差部支保工をそれぞれモデル化して設計する、トンネルの交差部支保工の設計方法であって、
前記交差部を含む前記本坑に作用する土被り荷重の設定に際し、Terzaghiの緩み高さが算出できる場合は、Terzaghiの緩み土圧に基づいて前記土被り荷重を設定し、Terzaghiの緩み高さが算出できない場合は、有限要素法による掘削解放力に基づいて前記土被り荷重を設定する、A工程と、
前記交差部を含む前記本坑支保工の本坑支保工モデルに対して、設定した前記土被り荷重を載荷して構造解析を実施し、前記本坑支保工モデルにおける前記交差部に対応する位置の反力を求め、該反力を前記交差部支保工の設計の際の交差部支保工設計用荷重とする、B工程と、
前記交差部支保工の交差部支保工モデルに対して、前記交差部支保工設計用荷重を載荷して構造解析を実施し、該交差部支保工の構造仕様を設定する、C工程とを有することを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、交差部を含む本坑に作用する土被り荷重の設定に際して、地山がTerzaghiの緩み高さが算出できる軟岩の場合はTerzaghiの緩み土圧に基づいて土被り荷重を設定し、地山がTerzaghiの緩み高さが算出できない硬岩(中硬岩を含む)場合は有限要素法による掘削解放力に基づいて土被り荷重を設定することにより、合理的根拠に基づいて体系化されたフローの下で土被り荷重を設定することができる。そして、このことにより、交差部支保工の設計結果の信頼性がより一層高まり、効率的で合理的な交差部支保工の設計に繋がる。
【0013】
本発明者等は、過去の複数の設計事例について、設計時の土被り荷重とは異なる土被り荷重を設定して構造解析を行い、土被り荷重ごとの構造解析結果と実際の計測結果(応力計測結果や変位計測結果に基づく算定応力等)を比較する検証を行っている。
その中で、地山が硬質である設計事例では、地山の粘着力や摩擦角が大きく、Terzaghiの緩み高さを算出できないことが確認できたことから、土被り荷重の設定方法として、発破損傷領域による方法、弾塑性理論解による方法、及び二次元FEM解析による方法で検討した。その結果、発破損傷領域による方法と弾塑性理論解による方法では、構造解析により算定される断面力を過小評価している一方で、二次元FEM解析による方法では、構造解析により算定される断面力が計測結果を比較的精度よく再現していることが検証されている。
この検証結果に基づき、地山が硬質(硬岩や中硬岩)であってTerzaghiの緩み高さが算出できない場合は、有限要素法(例えば、二次元有限要素法)による掘削解放力に基づいて土被り荷重を設定することとする。
一方、地山が軟質である設計事例では、発破損傷領域による方法と、二次元FEM解析による方法では、構造解析により算定される軸力や曲げモーメントをともに過小評価していることが確認され、Terzaghiの緩み土圧による方法と弾塑性理論解による方法では、構造解析により算定される断面力が計測結果を比較的精度よく再現していることが検証されている。ただし、弾塑性理論解による方法では、等方等圧であることと一層地盤であることが前提条件になるといった設計上の制約がある。
この検証結果に基づき、地山が軟質(軟岩)であってTerzaghiの緩み高さが算出できる場合は、Terzaghiの緩み土圧に基づいて土被り荷重を設定することとする。
【0014】
また、本発明によるトンネルの交差部支保工の設計方法の他の態様において、
前記交差部支保工モデルは、鋼製支保工と吹付けコンクリートの双方をモデル化したモデルであることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、交差部支保工が鋼製支保工と吹付けコンクリートを有する場合に、交差部支保工モデルを鋼製支保工と吹付けコンクリートの双方をモデル化したモデルとすることにより、実際の交差部支保工の構造を反映して、計測結果をより精度よく再現可能な設計方法となる。
交差部支保工は一般に、削孔された孔壁に対して吹付けコンクリート(充填コンクリート)が施工され、吹付けコンクリートの内側にH形鋼等による鋼製支保工が建て込まれることにより形成されるのが一般的であるが、本発明者等による過去の複数の設計事例の検証によれば、交差部支保工モデルの作成において吹付けコンクリートは一般に考慮されていない。その理由は、安全側の構造設計に基づくものと推察されるが、所定の厚みで施工される吹付けコンクリートは一定の剛性を備えていることから、吹付けコンクリートを考慮しない設計は過大仕様の鋼製支保工の設定に繋がる。
そこで、実際に施工されている吹付けコンクリートも含めて交差部支保工をモデル化し、構造解析を行った結果、吹付けコンクリートと鋼製支保工の双方をモデル化した交差部支保工モデルを用いた構造解析結果が、計測結果を比較的精度よく再現していることが検証されており、過大仕様の鋼製支保工を適正な仕様とすることが可能になる。このことにより、上記するように、一般に狭隘な施工空間での施工となる交差部支保工の施工性を向上させることに繋がる。
【0016】
また、本発明によるトンネルの交差部支保工の設計方法の他の態様は、
前記A工程においてTerzaghiの緩み高さが算出できる場合は、前記B工程において前記本坑支保工モデルを骨組みモデルとし、該骨組みモデルに対して本坑支保工の径方向地盤バネを設置し、本坑支保工の周方向地盤バネを設置しないことを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、Terzaghiの緩み高さが算出できる場合において、骨組みモデルである本坑支保工モデルに対して径方向地盤バネを設置し、周方向地盤バネ(せん断バネ)を設置しないことにより、計測結果をより精度よく再現することができる。この結果も、本発明者等による検証結果に基づくものである。
【0018】
また、本発明によるトンネルの交差部支保工の設計方法の他の態様は、
前記A工程においてTerzaghiの緩み高さが算出できる場合は、前記骨組みモデルに対して前記土被り荷重に加えて水平荷重を載荷することを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、Terzaghiの緩み高さが算出できる場合において、骨組みモデルである本坑支保工モデルに対して土被り荷重に加えて水平荷重を載荷することにより、計測結果をより精度よく再現することができる。この結果も、本発明者等による検証結果に基づくものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明のトンネルの交差部支保工の設計方法によれば、トンネルの交差部支保工の設計において、交差部支保工モデルに載荷される荷重を本坑支保工の構造解析から特定するに当たり、本坑支保工の構造解析の際の土被り荷重を、合理的根拠に基づいて体系化されたフローの下で設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本坑と連絡坑が交差する態様の一例を示す模式図である。
図2図1のII方向矢視図である。
図3図1のIII方向矢視図である。
図4】実施形態に係るトンネルの交差部支保工の設計方法の一例のフローチャートである。
図5】骨組みモデルである本坑支保工モデルの一例のモデル図である。
図6】二次元FEMモデルである本坑支保工モデルの一例のモデル図である。
図7】交差部支保工モデルの一例のモデル図である。
図8A】地山が硬質である設計事例において、土被り荷重の設定方法として発破損傷領域による方法が適用された際の、構造解析結果と計測結果をともに示す図である。
図8B】地山が硬質である設計事例において、土被り荷重の設定方法として弾塑性理論解による方法が適用された際の、構造解析結果と計測結果をともに示す図である。
図8C】地山が硬質である設計事例において、土被り荷重の設定方法として二次元FEM解析による方法が適用された際の、構造解析結果と計測結果をともに示す図である。
図9A】地山が軟質である設計事例において、土被り荷重の設定方法としてTerzaghiの緩み土圧による方法が適用された際の、構造解析結果と計測結果をともに示す図である。
図9B】地山が軟質である設計事例において、土被り荷重の設定方法として発破損傷領域による方法が適用された際の、構造解析結果と計測結果をともに示す図である。
図9C】地山が軟質である設計事例において、土被り荷重の設定方法として弾塑性理論解による方法が適用された際の、構造解析結果と計測結果をともに示す図である。
図9D】地山が軟質である設計事例において、土被り荷重の設定方法として二次元FEM解析による方法が適用された際の、構造解析結果と計測結果をともに示す図である。
図10A】地山が軟質である設計事例において、本坑支保工モデルに対して周方向地盤バネ(せん断バネ)を設置した場合の構造解析結果と計測結果をともに示す図である。
図10B】地山が軟質である設計事例において、本坑支保工モデルに対して周方向地盤バネ(せん断バネ)を設置しない場合の構造解析結果と計測結果をともに示す図である。
図11A】地山が軟質である設計事例において、本坑支保工モデルに対して水平荷重を載荷した場合の構造解析結果と計測結果をともに示す図である。
図11B】地山が軟質である設計事例において、本坑支保工モデルに対して水平荷重を載荷しない場合の構造解析結果と計測結果をともに示す図である。
図12A】地山が硬質である設計事例において、吹付けコンクリートが考慮されていない交差部支保工モデルを用いた際の、構造解析結果と計測結果をともに示す図である。
図12B】地山が軟質である設計事例において、吹付けコンクリートが考慮されていない交差部支保工モデルを用いた際の、構造解析結果と計測結果をともに示す図である。
図12C】地山が硬質である設計事例において、吹付けコンクリートが考慮されている交差部支保工モデルを用いた際の、構造解析結果と計測結果をともに示す図である。
図12D】地山が軟質である設計事例において、吹付けコンクリートが考慮されている交差部支保工モデルを用いた際の、構造解析結果と計測結果をともに示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態に係るトンネルの交差部支保工の設計方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0023】
[実施形態に係るトンネルの交差部支保工の設計方法]
図1乃至図12を参照して、実施形態に係るトンネルの交差部支保工の設計方法の一例について説明する。ここで、図1は、本坑と連絡坑が交差する態様の一例を示す模式図であり、図2図3はそれぞれ、図1のII方向矢視図とIII方向矢視図である。また、図4は、実施形態に係るトンネルの交差部支保工の設計方法の一例のフローチャートである。さらに、図5は、骨組みモデルである本坑支保工モデルの一例のモデル図であり、図6は、二次元FEMモデルである本坑支保工モデルの一例のモデル図であり、図7は、交差部支保工モデルの一例のモデル図である。
【0024】
実施形態の設計方法が対象とするトンネルの交差部支保工は、地盤G内に施工される山岳トンネルである本坑10と、本坑10に交差する連絡坑20(先進導坑)との交差部に施工される支保工である。本坑10に先行して施工される連絡坑20は、本坑10よりも一般に小断面であり、本坑10の施工(掘進)に際して地山Gの物性取得に供され、かつ、本坑10の施工に際して資機材の搬出入等に供される等、様々な目的で先行施工される。そして、連絡坑20を利用して本坑10の施工出発坑が施工され、施工出発坑を起点として本坑10の施工が行われる。
【0025】
図2図3に示すように、本坑10は、本坑鋼製支保工12と本坑吹付けコンクリート13とを含む本坑支保工11と、本坑支保工11の内側に施工される本坑覆工コンクリート14を有する。ここで、図示例の本坑10の断面形状は馬蹄形であるが、その他、円形や楕円形、矩形等、様々な断面形状が適用される。
【0026】
本坑10と連絡坑20の交差部に施工される交差部支保工30は、鋼製支保工31と、その周囲にある吹付けコンクリート32とを有し、鋼製支保工31の内部には、連絡坑20を構成する連絡坑覆工コンクリート22が施工される。連絡坑20の施工においては、削孔された坑壁に対して吹付けコンクリートや鋼製支保工を含む連絡支保工が施工され、その内部に連絡坑覆工コンクリート22が施工される。ここで、図示例の交差部支保工30の断面形状も馬蹄形であり、その内部に施工される連絡坑20の断面形状は円形である。尚、交差部支保工30の断面形状は、図示例の馬蹄形の他にもコの字形状等があるが、いずれの断面形状の交差部支保工ともに門型支保工に含まれる。
【0027】
次に、図4を参照して、交差部支保工の設計方法について詳説する。
【0028】
交差部支保工の設計方法の概略は、まず、交差部を含む本坑支保工の構造解析を行うことにより交差部に作用する軸力(反力)を特定し、次に、特定された反力を交差部支保工の構造解析に使用して交差部支保工の構造解析を行う方法となる。
【0029】
本坑支保工の検討では、まず、交差部支保工30を含む本坑10や連絡坑20が施工される地盤Gの硬軟を判定し、対象地盤が軟岩か中硬岩(硬岩の一例)かを判定する(ステップS10)。
【0030】
地盤Gの硬軟の判定の結果、地盤Gが軟岩であると判定された場合は、フローの右側のルートを経て構造解析を実行し、交差部に作用する軸力(反力)を特定する。一方、地盤Gが中硬岩(硬岩の一種)であると判定された場合は、フローの左側のルートを経て構造解析を実行し、交差部に作用する軸力(反力)を特定する。
【0031】
この設計方法において、地盤Gが軟岩であると判定された場合は、Terzaghiの緩み高さが算出できることから、Terzaghiの緩み土圧に基づいて土被り荷重を設定し、地盤Gが中硬岩であると判定された場合は、Terzaghiの緩み高さが算出できないことから、有限要素法による掘削解放力に基づいて土被り荷重を設定する。
【0032】
まず、地盤Gが軟岩であると判定された場合について説明する。はじめに、本坑支保工11の諸元を決定する。ここで、本坑支保工11の諸元には、本坑鋼製支保工12の仕様に応じたν(ポアソン比)やE(ヤング係数)、A(断面積)、及びI(断面二次モーメント)等が含まれ、本坑吹付けコンクリート13の仕様に応じたνやE、A等が含まれる(ステップS12)。
【0033】
Terzaghiの緩み土圧に基づいて土被り荷重が設定される右側のルートでは、図5に示すように、コンピュータにおいて本坑支保工モデルM1を骨組みモデル(梁バネモデル)として作成する。
【0034】
次に、本坑支保工11の周囲の地盤反力係数を設定する。ここで、本坑支保工モデルに取り付ける地盤バネには、本坑支保工モデルの径方向地盤バネと周方向地盤バネ(せん断バネ)があり得るが、ここでは、径方向地盤バネM1aのみを設置し、周方向地盤バネは設置しない(ステップS16)。
【0035】
次に、地盤Gが軟岩であると判定されていることに依拠して、Terzaghiの緩み高さが算出できることから、図5に示すように、Terzaghiの緩み土圧に基づいて土被り荷重Qを設定する。
【0036】
さらに、本坑支保工モデルM1に対して、土圧もしくは土水圧である水平荷重P1、P2を載荷する(ステップS16、以上がA工程)。尚、水平荷重は、本坑支保工モデルM1の形状等に応じて、左右の片側のみから作用する場合は片側の水平荷重(例えば水平荷重P1)のみを載荷する。
【0037】
本坑支保工モデルM1に対して、Terzaghiの緩み土圧に基づく土被り荷重Qと水平荷重P1、P2を載荷することにより、コンピュータにて構造解析を実行する。
【0038】
この構造解析により、図5に示すように、本坑支保工モデルM1における交差部支保工位置に作用する軸力Nを算定する(ステップS18,B工程)。
【0039】
一方、地盤Gが中硬岩(硬岩の一種)であると判定された場合は、ステップS12と同様に本坑支保工11の諸元を決定する(ステップS20)。ここで、図4の左側のルートでは、図6に示すように本坑支保工モデルを二次元FEMモデルM2として作成し、本坑支保工11の諸元を決定する(ステップS20)。
【0040】
次に、地盤Gが中軟岩であると判定されていることに依拠して、Terzaghiの緩み高さが算出できないことから、有限要素法による掘削解放力に基づいて土被り荷重を設定し(ステップS22)、コンピュータにて構造解析を実行する(ステップS18)。この構造解析により、交差部支保工モデルに作用する交差部支保工設計用荷重を特定する。
【0041】
このように、地盤Gの硬軟を判定した上で、本坑支保工の構造解析を異なるルートで実行し、いずれのルートにおいても、交差部支保工に作用する交差部支保工設計用荷重を特定する。
【0042】
次に、交差部支保工30(門型支保工)の検討に移行する。まず、交差部支保工30の諸元を決定する。ここで、交差部支保工30は、図3に示すように鋼製支保工31と吹付けコンクリート32を有することから、図7に示すように、双方をモデル化した鋼製支保工モデルM3aと吹付けコンクリートモデルM3bの重ね梁モデルに対して径方向地盤バネM3cを取り付けることにより、交差部支保工モデルM3を作成する(ステップS24)。
【0043】
次に、地盤反力係数を設定し(ステップS26)、図7に示すように、特定されている交差部支保工設計用荷重Rを設定する(ステップS28)。具体的には、図5に示すように、算定されている交差部支保工位置に作用する軸力Nの角度θを考慮して、交差部支保工モデルに作用する鉛直荷重(交差部支保工設計用荷重):Rを、R=Nsinθとして設定する。
【0044】
設定された交差部支保工設計用荷重Rを交差部支保工モデルM3に載荷することにより、構造解析を実行する(ステップS30)。
【0045】
図示する交差部支保工の設計方法によれば、交差部を含む本坑10に作用する土被り荷重の設定に際して、Terzaghiの緩み高さが算出できる場合はTerzaghiの緩み土圧に基づいて土被り荷重を設定し、Terzaghiの緩み高さが算出できない場合は有限要素法による掘削解放力に基づいて土被り荷重を設定することにより、合理的根拠に基づいて体系化されたフローの下で土被り荷重を設定することができる。そして、このことにより、設計者によって設計結果が変化することが無くなり、交差部支保工30の設計結果に対する信頼性がより一層高まるとともに、効率的で合理的な交差部支保工30の設計に繋がる。
【0046】
次に、図8乃至図12を参照して、地盤Gの硬軟の判定結果に基づく土被り荷重の設定方法の設定根拠、地山が軟質である場合に本坑支保工モデルに対して周方向地盤バネを設置しない根拠、地山が軟質である場合に本坑支保工モデルに対して水平荷重を載荷する根拠、さらには、交差部支保工モデルにおいて吹付けコンクリートを考慮する根拠について説明する。
【0047】
まず、図8A乃至図8C図9A乃至図9Dを参照して、地盤Gの硬軟の判定結果に基づく土被り荷重の設定方法の設定根拠について説明する。ここで、図8A乃至図8Cはそれぞれ、地山が硬質である設計事例において、土被り荷重の設定方法として、発破損傷領域による方法が適用された際、弾塑性理論解による方法が適用された際、及び二次元FEM解析による方法が適用された際のそれぞれの構造解析結果と計測結果をともに示す図である。また、図9A乃至図9Dはそれぞれ、地山が軟質である設計事例において、土被り荷重の設定方法として、Terzaghiの緩み土圧による方法が適用された際、発破損傷領域による方法が適用された際、弾塑性理論解による方法が適用された際、及び、二次元FEM解析による方法が適用された際のそれぞれの構造解析結果と計測結果をともに示す図である。以下、地山が硬質である設計事例に関する図8A乃至図8Cでは、解析値や計測値を、基準の大きさで正規化した数値として示している。
【0048】
以下、各図において、実線は本坑支保工モデルを示し、点線は発生応力(軸力や曲げモーメント)を示し、一点鎖線は実際のトンネルにおける計測結果(計測断面力等)を示している。
【0049】
まず、図8A乃至図8Cを参照すると、図8A図8Bに示す解析結果は、軸力と曲げモーメントともに計測結果との乖離が大きいのに対して、図8Cに示す解析結果は、計測結果をより精度よく再現していることが分かる。
【0050】
この検証結果に基づき、対象地盤が中軟岩であって、Terzaghiの緩み高さが算出できない場合は、有限要素法による掘削解放力に基づいて土被り荷重を設定することとする。
【0051】
一方、図9A乃至図9Dを参照すると、図9B図9Dに示す解析結果は、軸力と曲げモーメントともに計測結果との乖離が大きいのに対して、図9A図9Cに示す解析結果は、計測結果をより精度よく再現していることが分かる。この中で、図9Cに示す弾塑性理論解による方法では、等方等圧であることと一層地盤であることが前提条件になるといった設計上の制約があることから、制約条件のない汎用的な設計を考慮して、対象地盤が軟岩であって、Terzaghiの緩み高さが算出できる場合は、Terzaghiの緩み土圧に基づいて土被り荷重を設定することとする。
【0052】
次に、図10A図10Bを参照して、本坑支保工モデルに対して周方向地盤バネ(せん断バネ)を設置しない根拠について説明する。ここで、図10A図10Bはそれぞれ、地山が軟質である設計事例において、本坑支保工モデルに対して周方向地盤バネ(せん断バネ)を設置した場合と、周方向地盤バネ(せん断バネ)を設置しない場合の、それぞれの構造解析結果と計測結果をともに示す図である。
【0053】
図10A図10Bを参照すると、図10Bに示す解析結果の方が、計測結果をより精度よく再現していることが分かる。周方向地盤バネを考慮すると、本坑支保工モデルの肩部以深の断面力が小さくなるが、計測結果では肩部以深にも軸力と曲げモーメントが発生しており、周方向地盤バネを考慮しない方が計測結果に近くなる。
【0054】
この検証結果に基づき、本坑支保工の設計においては、骨組みモデルである本坑支保工モデルに対して、周方向地盤バネ(せん断バネ)を設置せず、径方向地盤バネのみを設置することとする。
【0055】
次に、図11A図11Bを参照して、本坑支保工モデルに対して水平荷重を載荷する根拠について説明する。ここで、図11A図11Bはそれぞれ、地山が軟質である設計事例において、本坑支保工モデルに対して水平荷重を載荷した場合と、水平荷重を載荷しない場合のそれぞれの構造解析結果と計測結果をともに示す図である。
【0056】
図11A図11Bを参照すると、図11Aに示す解析結果の方が、計測結果をより精度よく再現していることが分かる。水平荷重を載荷することにより、本坑支保工モデルに作用する荷重が等方等圧に近くなることから、水平荷重を載荷しない場合と比べて、軸力が卓越し、曲げモーメントが低減する傾向が見られる。
【0057】
この検証結果に基づき、本坑支保工の設計においては、骨組みモデルである本坑支保工モデルに対して、土圧や土水圧である水平荷重を載荷することとする。
【0058】
次に、図12A乃至図12Dを参照して、交差部支保工モデルの作成において吹付けコンクリートを考慮する根拠について説明する。ここで、図12A図12Bはそれぞれ、地山が硬質と軟質である設計事例において、吹付けコンクリートが考慮されていない交差部支保工モデルを用いた際の、構造解析結果と計測結果をともに示す図である。一方、図12C図12Dはそれぞれ、地山が硬質と軟質である設計事例において、吹付けコンクリートが考慮されている交差部支保工モデルを用いた際の、構造解析結果と計測結果をともに示す図である。以下、地山が硬質である設計事例に関する図12A図12Cでは、解析値や計測値を、基準の大きさで正規化した数値として示している。
【0059】
図12A図12Bを参照すると、地山が硬質と軟質のいずれのケースにおいても、交差部支保工モデルにおいて吹付けコンクリートを考慮しない場合の解析結果の応力値は、計測値の2倍乃至3倍程度と大きな乖離がある。これに対して、図12C図12Dを参照すると、地山が硬質と軟質のいずれのケースにおいても、交差部支保工モデルにおいて吹付けコンクリートを考慮する場合の解析結果の応力値は、計測値を精度よく再現していることが分かる。
【0060】
この検証結果は、交差部支保工が吹付けコンクリートと鋼製支保工の双方を備えている場合は、双方の構成要素がともに構造部材として荷重を支持していることを示している。
【0061】
ここで、図12C図12Dに示す結果のもととなる交差部支保工モデルを構成する吹付けコンクリートは、硬化後の吹付けコンクリートであり、図12C図12Dに示す結果は、吹付けコンクリートの曲げ剛性を考慮した場合の結果である。図示を省略するが、本発明者等は、硬化後の吹付けコンクリートであってその曲げ剛性を考慮しないケースにおいても検証を行っており、その解析結果は、図12A図12Bよりは計測値に近く、図12C図12Dよりは計測値に近くない結果となっている。
【0062】
ところで、吹付けコンクリートは一般に無筋コンクリートであるが、設計上は無筋コンクリートである吹付けコンクリートに曲げ剛性を期待しないのが一般的である。
【0063】
以上のことから、吹付けコンクリートと鋼製支保工を備えた交差部支保工のモデル化においては、吹付けコンクリートの硬化後の弾性係数を考慮するものとし、曲げ剛性を有さない棒部材としてモデル化することとする。
【0064】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0065】
10:本坑
11:本坑支保工
12:本坑鋼製支保工
13:本坑吹付けコンクリート
14:本坑覆工コンクリート
20:連絡坑
21:連絡坑支保工
22:連絡坑覆工コンクリート
30:交差部支保工
31:鋼製支保工
32:吹付けコンクリート
G:地山(地盤)
M1:本坑支保工モデル(梁バネモデル)
M1a:径方向地盤バネ
M2:本坑支保工モデル(二次元FEMモデル)
M3:交差部支保工モデル
M3a:鋼製支保工モデル
M3b:吹付けコンクリートモデル
M3c:径方向地盤バネ
Q:土被り荷重
P1、P2:水平荷重
N:軸力
R:反力(交差部支保工設計用荷重)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図12D