IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中西金属工業株式会社の特許一覧

特開2023-154274動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体、及び動力伝達用樹脂歯車
<>
  • 特開-動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体、及び動力伝達用樹脂歯車 図1
  • 特開-動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体、及び動力伝達用樹脂歯車 図2
  • 特開-動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体、及び動力伝達用樹脂歯車 図3
  • 特開-動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体、及び動力伝達用樹脂歯車 図4
  • 特開-動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体、及び動力伝達用樹脂歯車 図5
  • 特開-動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体、及び動力伝達用樹脂歯車 図6
  • 特開-動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体、及び動力伝達用樹脂歯車 図7
  • 特開-動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体、及び動力伝達用樹脂歯車 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154274
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体、及び動力伝達用樹脂歯車
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/22 20060101AFI20231012BHJP
【FI】
F16H55/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063503
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】中村 成嘉
(72)【発明者】
【氏名】中 元正
【テーマコード(参考)】
3J030
【Fターム(参考)】
3J030BA03
3J030BC01
3J030BC08
(57)【要約】
【課題】射出成形におけるボイドを抑制できるとともに成形サイクルを短縮できる、動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体、及び動力伝達用樹脂歯車を提供する。
【解決手段】動力伝達用樹脂歯車の歯を設ける前の成形体1である。芯金2と芯金2の外周を被う円環状樹脂部3とからなる。円環状樹脂部3は、円環状内側樹脂部材4と、円環状内側樹脂部材4と異材質である円環状外側樹脂部材5とからなる。円環状内側樹脂部材4は、芯金2の外周を被う。円環状外側樹脂部材5は、円環状内側樹脂部材4の外周を被う。円環状外側樹脂部材5の外周面には、前記歯の歯溝を設ける位置に、切削代を設けた凹溝6がある。円環状外側樹脂部材5の軸方向の端面Bには、動力伝達用樹脂歯車の周方向に隣り合う歯溝の間の位置に、軸方向肉盗み5Aがある。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達用樹脂歯車の歯を設ける前の成形体であって、
芯金と前記芯金の外周を被う円環状樹脂部とからなり、
前記円環状樹脂部の外周面には、前記歯の歯溝を設ける位置に、切削代を設けた凹溝が少なくとも1箇所にあり、
前記円環状樹脂部の軸方向の端面には、前記動力伝達用樹脂歯車の周方向に隣り合う歯溝の間の位置に、軸方向肉盗みがある、
動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体。
【請求項2】
前記円環状樹脂部は、円環状内側樹脂部材と、前記円環状内側樹脂部材と異材質である円環状外側樹脂部材とからなり、
前記円環状内側樹脂部材は、前記芯金の外周を被い、
前記円環状外側樹脂部材は、前記円環状内側樹脂部材の外周を被い、
前記円環状外側樹脂部材の外周面に前記凹溝があり、
前記円環状外側樹脂部材の軸方向の端面に前記軸方向肉盗みがある、
請求項1に記載の動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体。
【請求項3】
前記凹溝は、前記歯の歯溝を設ける位置に、全周にわたってある、
請求項1に記載の動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体。
【請求項4】
前記軸方向肉盗みは、前記円環状樹脂部の軸方向の両端面にある、
請求項1に記載の動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体における前記凹溝の位置を基準にして前記歯の歯溝を全周に設けてなる動力伝達用樹脂歯車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯金及び円環状樹脂部からなる動力伝達用樹脂歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量化及び静粛性等のニーズに応えるために、芯金とその外周を被う円環状樹脂部からなる動力伝達用樹脂歯車がある(例えば、特許文献1の段落[0003]参照)。
【0003】
特許文献1のウォームホイールは、歯面にボイドが現れるのを回避するために、斜歯歯車形状であり、歯丈と歯厚を歯幅方向全体に亘り一様に成形した素形体を金型成形する。すなわち、先ず、芯金である金属製中芯のブッシュをインサートワークとして射出成形用金型内に配置した状態で、切削加工のための削り代を厚くなりすぎないように付与した前記形状の素形体10を射出成形する。次に、素形体10に対して、歯部11と歯底12の両方に切削加工を施すことで所定のウォームホイールの歯面形状に仕上げた樹脂製ウォームホイールを製造する(特許文献1の図3図5参照)。
【0004】
一方、前記円環状樹脂部を2段階に成形するものがある(例えば、特許文献2参照)。すなわち、特許文献2のウォームホイールは、芯金である内側部12の外周に熱可塑性樹脂の連結部14を成形した後、前記連結部14の外周に熱可塑性樹脂の外側部16を成形する(特許文献3の図1参照)。連結部14の軸方向の表面には肉盗みがある。
【0005】
他方、前記芯金がない、全体が合成樹脂からなる動力伝達用樹脂歯車において、動力の伝達を正確に行いながら騒音の発生を抑えるために、斜歯の軸心方向の端部を凹没させたものがある(例えば、特許文献3参照)。すなわち、特許文献3の斜歯歯車は、斜歯20の前記端部に凹部21及び薄肉部22を設けることで、薄肉部22の弾性変形により斜歯20の端部同士の衝突時における衝撃を緩和する(特許文献3の図4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4423815号公報
【特許文献2】独国特許出願公開第102012102780号明細書
【特許文献3】特開2008-115886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の動力伝達用樹脂歯車は、成形後に歯車の歯の部分を作る歯切り加工を行うことから、歯切り加工を行う部分の樹脂の肉厚を大きくする必要があるので厚肉成形品となる。厚肉成形品を射出成形する工程は、厚肉成形品における欠陥となるボイドを抑制するため、保圧工程では保圧力を高くし、保圧工程の時間を長くする必要がある。また、固化速度が遅いので、保圧工程完了から型開き開始までの冷却工程の時間も長くする必要がある。したがって、厚肉成形品の射出成形では、成形サイクルが長時間になる。
【0008】
本発明は、射出成形におけるボイドを抑制できるとともに成形サイクルを短縮できる、動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体、及び動力伝達用樹脂歯車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1観点に係る動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体は、動力伝達用樹脂歯車の歯を設ける前の成形体であって、芯金と前記芯金の外周を被う円環状樹脂部とからなる。前記円環状樹脂部の外周面には、前記歯の歯溝を設ける位置に、切削代を設けた凹溝が少なくとも1箇所にある。前記円環状樹脂部の軸方向の端面には、前記動力伝達用樹脂歯車の周方向に隣り合う歯溝の間の位置に、軸方向肉盗みがある。
【0010】
本発明の第2観点に係る動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体は、第1観点に係る動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体において、前記円環状樹脂部は、円環状内側樹脂部材と、前記円環状内側樹脂部材と異材質である円環状外側樹脂部材とからなる。前記円環状内側樹脂部材は、前記芯金の外周を被い、前記円環状外側樹脂部材は、前記円環状内側樹脂部材の外周を被う。前記円環状外側樹脂部材の外周面に前記凹溝があり、前記円環状外側樹脂部材の軸方向の端面に前記軸方向肉盗みがある。
【0011】
本発明の第1観点に係る動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体、及び本発明の第2観点に係る動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体によれば、動力伝達用樹脂歯車の周方向に隣り合う歯溝の間の位置に、軸方向肉盗みがある。したがって、歯切り加工で歯を設ける部分の樹脂の肉厚が大きくならないので、厚肉成形品における欠陥となるボイドを抑制するために保圧工程で保圧力を高くする必要がなく、保圧工程の時間を長くする必要もない。その上、厚肉成形品のように固化速度が遅くないので、保圧工程完了から型開き開始までの冷却工程の時間も長くする必要がない。したがって、成形サイクルを短縮できる。その上さらに、前記軸方向肉盗みがあるので、動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体を軽量化できる。
【0012】
本発明の第3観点に係る動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体は、第1観点に係る動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体において、前記凹溝は、前記歯の歯溝を設ける位置に、全周にわたってある。
【0013】
本発明の第3観点に係る動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体によれば、動力伝達用樹脂歯車の歯の歯溝を設ける位置に、凹溝が全周にわたってあることから、成形のために使用する樹脂量が少なくなるので、材料費を低減できる。
【0014】
本発明の第4観点に係る動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体は、第1観点に係る動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体において、前記軸方向肉盗みは、前記円環状樹脂部の軸方向の両端面にある。
【0015】
本発明の第4観点に係る動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体によれば、軸方向肉盗みが円環状樹脂部の軸方向の両端面にあることから、成形収縮により変形しにくいので、動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体の形状精度が悪化しない。
【0016】
本発明の第5観点に係る動力伝達用樹脂歯車は、第1観点に係る動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体ないし第4観点に係る動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体の何れかにおける前記凹溝の位置を基準にして前記歯の歯溝を全周に設けてなる。
【0017】
本発明の第5観点に係る動力伝達用樹脂歯車によれば、第1観点に係る動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体ないし第4観点に係る動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0018】
以上のとおり、本発明に係る動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体、及び動力伝達用樹脂歯車によれば、射出成形におけるボイドを抑制できるとともに成形サイクルを短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態に係る動力伝達用樹脂歯車の斜視図である。
図2】前記動力伝達用樹脂歯車の縦断面側面図である。
図3】前記動力伝達用樹脂歯車の要部拡大正面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体の斜視図である。
図5図4の前記歯切り加工前成形体を裏面側から見た斜視図である。
図6】前記歯切り加工前成形体の縦断面側面図である。
図7】前記歯切り加工前成形体の要部拡大正面図である。
図8】前記歯切り加工前成形体の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明の実施の形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
本明細書において、動力伝達用樹脂歯車Aの回転軸の方向を「軸方向」といい、前記回転軸の軸心(図2の符号O)を基準にして「径方向」及び「周方向」を定義する。軸方向から見た図を正面図とする。
【0022】
<動力伝達用樹脂歯車>
図1の斜視図、及び図2の縦断面側面図に示すように、動力伝達用樹脂歯車Aは、金属製の芯金2とその外周を被う円環状樹脂部3からなる。円環状樹脂部3の外周面には、周方向等分に歯Tが形成されている。動力伝達用樹脂歯車Aは、例えば、電動パワーステアリングに使われるウォームギヤのウォームホイールとして用いる。
【0023】
(芯金)
芯金2は、例えば図1及び図2に示すような円環状スリーブであるが、円環状スリーブではなくシャフト部を有するものであってもよい。
【0024】
(円環状樹脂部)
円環状樹脂部3は、円環状内側樹脂部材4と円環状外側樹脂部材5とからなる。円環状内側樹脂部材4は、芯金2の外周を被い、円環状外側樹脂部材5は、円環状内側樹脂部材4の外周を被う。なお、円環状内側樹脂部材4の軸方向の一端面には、図2図5図6に示す周方向等分に並ぶ肉盗み4Aを設けている。したがって、円環状外側樹脂部材5は、円環状内側樹脂部材4の外周部に対して、前記肉盗み4Aがある前記一端面側は前記肉盗み4Aの手前までの範囲で狭く被覆し、円環状内側樹脂部材4の軸方向の他端面側は前記一端面側よりも径方向内方に向かって広い範囲で被覆している。
【0025】
円環状内側樹脂部材4は、例えばガラス繊維等の強化材で強化した合成樹脂製であり、円環状外側樹脂部材5は、例えば前記強化材で強化しない合成樹脂製である。すなわち円環状内側樹脂部材4及び円環状外側樹脂部材5は異材質である。「異材質」には、ポリマーが異なる場合だけでなく、ポリマーが同じ場合で強化材の含有量が異なる場合も含む。
【0026】
円環状樹脂部3は、円環状内側樹脂部材4及び円環状外側樹脂部材5からなるものでなくてもよい。すなわち、円環状樹脂部3は、ガラス繊維等の強化材を含まない合成樹脂製の一体ものであってもよい。
【0027】
(軸方向肉盗み)
図2の縦断面側面図に示すように、円環状樹脂部3の円環状外側樹脂部材5の軸方向の両端面B,Cには、軸方向肉盗み5A,5Bがある。軸方向肉盗み5A,5Bは、図3の要部拡大正面図に示すように、動力伝達用樹脂歯車Aの周方向に隣り合う歯溝G,Gの間の位置にあり、周方向に離間して周方向等分に並んでいる。
【0028】
<動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体>
図4及び図5の斜視図、図6の縦断面側面図、並びに図7の要部拡大正面図に示す動力伝達用樹脂歯車Aの歯切り加工前成形体1は、動力伝達用樹脂歯車Aに歯T(図1)を設ける前の成形体である。
【0029】
円環状樹脂部3の円環状外側樹脂部材5の外周面には、全周にわたって、動力伝達用樹脂歯車Aに歯Tの歯溝G(図1)を設ける位置に、切削代を設けた凹溝6がある。
【0030】
(軸方向肉盗み)
円環状樹脂部3の円環状外側樹脂部材5には、軸方向肉盗み5A,5Bが周方向に離間して周方向等分に並んでいる。軸方向肉盗み5A,5Bは、図6及び図7に示すように、周方向に隣り合う凹溝6,6の間、すなわち動力伝達用樹脂歯車A(図3)の周方向に隣り合う歯溝G,Gの間の位置にある。
【0031】
図6に示すように、軸方向肉盗み5Aは、円環状内側樹脂部材4の表面を円環状外側樹脂部材5が被っている浅い凹部、及び前記浅い凹部よりも径方向外方に位置する深い凹部、並びに、前記浅い凹部と前記深い凹部とを繋ぐ曲面部により形成されている。図6に示すように、軸方向肉盗み5Bは、軸方向肉盗み5Aの前記深い凹部の軸方向の反対面側に位置する深い凹部により形成されている。
【0032】
例えば図7を参照して、軸方向肉盗み5A,5Bの径方向位置は、円環状外側樹脂部材5の外径から2mm以上径方向内方で、かつ凹溝6の最奥部よりも径方向内方とする。また、動力伝達用樹脂歯車Aにおいて歯Tの歯底やその近傍は強度が最も必要な箇所であるので、図2及び図6に示す軸方向肉盗み5A,5Bを設定する部分の歯元の幅(Wa+Wb)を、円環状外側樹脂部材5の外径部の軸方向幅Wに対して、(W/4)≦(Wa+Wb)≦(W/3)とし、かつWaとWbは、幅Wの幅方向中央(図2及び図6の一点鎖線Wo)振り分けで、Wa≧(W/8),Wb≧(W/8)とする。それにより、歯底強度と本発明の課題である射出成形における成形性を両立できる。
【0033】
軸方向肉盗みは、円環状外側樹脂部材5の軸方向の一端面に成形するようにしてもよいが、円環状外側樹脂部材5の軸方向の両端面に成形することにより、成形収縮により変形しにくいので、歯切り加工前成形体1の形状精度が悪化しない。
【0034】
軸方向肉盗みを円環状外側樹脂部材5の軸方向の一端面に成形する場合は、図2及び図6を参照して、以下のようにWa,Wbを設定する。すなわち、Wa側の肉盗み5aが無くWb側の肉盗み5bが有る場合は、(W/8)≦Wb≦(W/6)とし、Wb側の肉盗み5bが無くWa側の肉盗み5aが有る場合は、(W/8)≦Wa≦(W/6)とする。それにより、歯底強度と本発明の課題である射出成形における成形性を両立できる。
【0035】
図3のように動力伝達用樹脂歯車Aを正面(軸方向の一端側又は他端側)から見て、軸方向肉盗み5A,5Bの外径側と歯溝Gとの肉厚は最小部で2mm以上かつ3mm以下にすることが望ましい。このように設定することで、歯Tの略周方向の強度を保ちつつ、切削代を設けた凹溝6との関係において、本発明の課題である射出成形における成形性を確保することができる。
【0036】
(円環状内側樹脂部材の射出成形)
円環状樹脂部3の円環状内側樹脂部材4は、前記のとおり、例えばガラス繊維等の強化材で強化した合成樹脂製であり、バインダーである合成樹脂は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂である。
【0037】
図5の斜視図に示すように、円環状内側樹脂部材4の軸方向の一端面には、周方向に離間して周方向等分に並ぶ軸方向肉盗み4Aがある。円環状内側樹脂部材4の射出成形は、図示しない円盤状のインサートコアの丸軸を芯金2の内径孔2Aに嵌合させた状態で射出成形用金型にセットして行う。前記インサートコアに設けた軸方向へ突出する軸方向凸部により、前記軸方向肉盗み4Aを成形する。
【0038】
円環状内側樹脂部材4に前記軸方向肉盗み4Aを設けることにより、歯切り加工前成形体1を軽量化できる。その上、円環状内側樹脂部材4の体積が小さくなり、固化時間が短縮されるので、成形サイクルを短縮できる。
【0039】
(円環状外側樹脂部材の射出成形)
円環状樹脂部3の円環状外側樹脂部材5は、前記のとおり、例えばガラス繊維等の強化材で強化しない合成樹脂製であり、前記合成樹脂は熱可塑性樹脂である。
【0040】
円環状外側樹脂部材5の射出成形は、前記インサートコア、芯金2及び円環状内側樹脂部材4を射出成形用金型にセットして行う。円環状外側樹脂部材5の射出成形により、軸方向の端面の軸方向肉盗み5A及び5B、並びに外周面の凹溝6を成形する。
【0041】
以上の構成の歯切り加工前成形体1によれば、動力伝達用樹脂歯車Aの周方向に隣り合う歯溝G,Gの間の位置に、軸方向肉盗み5A,5Bがある。したがって、歯切り加工で歯を設ける部分の樹脂の肉厚が大きくならないので、厚肉成形品における欠陥となるボイドを抑制するために保圧工程で保圧力を高くする必要がなく、保圧工程の時間を長くする必要もない。その上、厚肉成形品のように固化速度が遅くないので、保圧工程完了から型開き開始までの冷却工程の時間も長くする必要がない。したがって、成形サイクルを短縮できる。その上さらに、軸方向肉盗み5A,5Bがあるので、歯切り加工前成形体1を軽量化できる。
【0042】
<歯切り加工>
図4及び図7の歯切り加工前成形体1に対して歯切り加工を行って、図1及び図3のように歯Tを設けた動力伝達用樹脂歯車Aを完成させる場合、歯切り加工前成形体1の外周面にある凹溝6の位置を基準にして歯溝Tの歯溝Gを全周に設ける。凹溝6の位置を基準にして歯溝Gを歯切り加工することにより、軸方向肉盗み5A,5Bと歯溝Gとは干渉しない。
【0043】
円環状樹脂部3の円環状外側樹脂部材5の外周面に設ける凹溝6は、歯溝Gを歯切り加工する際の基準にできればよいので、図8の斜視図のように1箇所のみに設けてもよく、すなわち、凹溝6は少なくとも1箇所にあればよい。ただし、図4のように凹溝6を全周にわたって設けたものの方が、成形のために使用する樹脂量が少なくなるので、材料費を低減できる。
【0044】
以上の実施の形態の記載はすべて例示であり、これに制限されるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく種々の改良及び変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0045】
1 動力伝達用樹脂歯車の歯切り加工前成形体
2 芯金
2A 内径孔
3 円環状樹脂部
4 円環状内側樹脂部材
4A 軸方向肉盗み
5 円環状外側樹脂部材
5A,5B 軸方向肉盗み
6 凹溝
A 動力伝達用樹脂歯車
B,C 軸方向の端面
G 歯溝
O 軸心
T 歯
W 円環状外側樹脂部材の外径部の軸方向幅
Wo 幅方向中央
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8