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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154277
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】パワーユニット
(51)【国際特許分類】
   H02P 5/46 20060101AFI20231012BHJP
   H02P 21/06 20160101ALI20231012BHJP
【FI】
H02P5/46
H02P21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063506
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏▲崎▼ 貴司
(72)【発明者】
【氏名】青柳 真介
(72)【発明者】
【氏名】藤本 昌宏
【テーマコード(参考)】
5H505
5H572
【Fターム(参考)】
5H505BB03
5H505BB06
5H505CC04
5H505DD03
5H505HB01
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL41
5H572BB03
5H572BB07
5H572CC04
5H572DD01
5H572EE04
5H572HA01
5H572HA02
5H572HB07
5H572LL01
5H572LL22
5H572LL32
(57)【要約】
【課題】パワーユニットが大型化することを抑制しつつ、バッテリの充電状態の推定精度が低下することを抑制することができる技術を開示する。
【解決手段】パワーユニットは、バッテリと、第1回転機と、第2回転機と、バッテリと第1回転機との間に接続された第1インバータ装置と、バッテリと第2回転機との間に接続された第2インバータ装置と、第1回転機の回転角度を検出する第1角度センサと、第2回転機の回転角度を検出する第2角度センサと、バッテリに流れる電流値を検出する電流センサと、電流センサに接続された制御装置と、を備える。制御装置は、第1角度センサにより検出される第1回転機の回転角度と、第2角度センサにより検出される第2回転機の回転角度との差が、所定の第1基準範囲内であるときに、電流センサによる検出値を取得する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリと、
第1回転機と、
第2回転機と、
前記バッテリと前記第1回転機との間に接続された第1インバータ装置と、
前記バッテリと前記第2回転機との間に接続された第2インバータ装置と、
前記第1回転機の回転角度を検出する第1角度センサと、
前記第2回転機の回転角度を検出する第2角度センサと、
前記バッテリに流れる電流値を検出する電流センサと、
前記電流センサに接続された制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記第1角度センサにより検出される前記第1回転機の前記回転角度と、前記第2角度センサにより検出される前記第2回転機の前記回転角度との差が、所定の第1基準範囲内であるときに、前記電流センサによる検出値を取得する、
パワーユニット。
【請求項2】
前記第1基準範囲の中心値は、前記第1インバータ装置と前記第2インバータ装置による制御における前記第1回転機と前記第2回転機の電流進角差(Δβ)と、前記第1回転機の前記回転角度(θINV1)と、前記第2回転機の前記回転角度(θINV2)とを用いて、下記式により算出される値であり、
第1基準範囲の中心値=θINV1-(θINV2+Δβ)=360/4n+360k/2n
Δβ=arctan(Iq1/Id1)-arctan(Iq2/Id2)
ここで、nは、前記第1回転機と前記第2回転機の相の数であり、kは、任意の整数であり、Iq1は、前記第1回転機のq軸の電流指定値であり、Id1は、前記第1回転機のd軸の電流指令値であり、Iq2は、前記第2回転機のq軸の電流指令値であり、Id2は、前記第2回転機のd軸の電流指令値である、
請求項1に記載のパワーユニット。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第1角度センサにより検出される前記第1回転機の前記回転角度に基づいて前記第1回転機の回転数を算出し、前記第2角度センサにより検出される前記第2回転機の前記回転角度に基づいて前記第2回転機の回転数を算出し、
前記制御装置は、前記第1回転機の前記回転数と、前記第2回転機の前記回転数と、前記第1回転機のトルク値と、前記第2回転機のトルク値に基づいて、前記第1基準範囲を設定する、
請求項1に記載のパワーユニット。
【請求項4】
第3回転機と、
前記バッテリと前記第3回転機との間に接続された第3インバータ装置と、
前記第3回転機の回転角度を検出する第3角度センサと、
をさらに備え、
前記制御装置は、前記第1角度センサにより検出される前記第1回転機の前記回転角度と、前記第2角度センサにより検出される前記第2回転機の前記回転角度との差が、所定の前記第1基準範囲内であり、かつ、前記第2角度センサにより検出される前記第2回転機の前記回転角度と、前記第3角度センサにより検出される前記第3回転機の前記回転角度との差が所定の第2基準範囲内であり、かつ、前記第3角度センサにより検出される前記第3回転機の前記回転角度と、前記第1角度センサにより検出される前記第1回転機の前記回転角度との差が、所定の第3基準範囲内であるときに、前記電流センサによる前記検出値を取得する、
請求項1から3のいずれか一項に記載のパワーユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、パワーユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、パワーユニットが開示されている。パワーユニットは、バッテリと、第1回転機と、バッテリと第1回転機との間に接続された第1インバータ装置と、第1インバータ装置の直流側の正極と負極との間に接続されている平滑コンデンサと、バッテリの正極と負極との間に接続されたバッテリ側コンデンサと、を備える。平滑コンデンサとバッテリ側コンデンサは、電流リプルを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-110697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のパワーユニットでは、電流リプルは、平滑コンデンサとバッテリ側コンデンサにより抑制される。上記のパワーユニットの構成を使用して、バッテリの充電状態(いわゆるSOC:state of charge)を推定する場合、パワーユニットは、電流リプルが抑制されたバッテリに流れる電流値を使用することができる。これにより、バッテリの充電状態の推定精度が低下することを抑制することができる。
【0005】
しかしながら、パワーユニットは、2個のコンデンサを備える。このため、パワーユニットが大型化してしまう。また、パワーユニットが複数の回転機と複数のインバータ装置を備える構成とすると、パワーユニットはさらに大型化してしまう。本明細書では、パワーユニットが大型化することを抑制しつつ、バッテリの充電状態の推定精度が低下することを抑制することができる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する技術は、パワーユニットに具現化される。このパワーユニットは、バッテリと、第1回転機と、第2回転機と、バッテリと第1回転機との間に接続された第1インバータ装置と、バッテリと第2回転機との間に接続された第2インバータ装置と、第1回転機の回転角度を検出する第1角度センサと、第2回転機の回転角度を検出する第2角度センサと、バッテリに流れる電流値を検出する電流センサと、電流センサに接続された制御装置と、を備える。制御装置は、第1角度センサにより検出される第1回転機の回転角度と、第2角度センサにより検出される第2回転機の回転角度との差が、所定の第1基準範囲内であるときに、電流センサによる検出値を取得する。
【0007】
第1インバータ装置におけるスイッチングに起因して、バッテリに流れる電流に電流リプルが発生する。第1インバータ装置におけるスイッチングは、第1回転機の回転角度に同期しているため、このときに発生する電流リプルにも、第1回転機の回転角度に応じた周期性が発現する。同様に、第2インバータ装置におけるスイッチングに起因して、同電流には電流リプルが発生する。第2インバータ装置におけるスイッチングは、第2回転機の回転角度に同期しているため、このときに発生する電流リプルにも、第2回転機の回転角度に応じた周期性が発現する。従って、第1回転機と第2回転機との間で回転速度差が発生していると、第1インバータ装置に起因する電流リプルと第2インバータ装置に起因する電流リプルとが合成されて、うなりが発生する。このうなりには、その振幅が極小となる節が繰り返し発生し、そのタイミングで電流リプルの大きさが最小となる。そして、この節は、二つの回転機の回転角度差が所定の値(3相の場合、30、90、150、210、270、330度)(以下では、中心値と呼ぶ)となるタイミングで現れる。
【0008】
上記の知見に基づいて、本技術に係る構成では、2個の回転機の回転角度差が第1基準範囲内であるときに、電流センサによる検出値が取得される。この基準範囲は、うなりに節が発生する前述の中心値に基づいて、適宜設定することができる(例えば、中心値±5度)。これにより、バッテリに流れる電流を、電流リプルの振幅が極小となるタイミングで把握することができる。このため、制御装置は、電流リプルが抑制されたバッテリの電流値を使用して、バッテリの充電状態を推定することができる。また、電流リプルを抑制するために、パワーユニットは、大型のコンデンサや複数のコンデンサを備える必要がない。よって、パワーユニットが複数の回転機と複数のインバータ装置を備える構成において、パワーユニットが大型化することを抑制しつつ、バッテリの充電状態の推定精度が低下することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施例のパワーユニットの電気回路構成を示す。
図2】第1実施例のパワーユニットで発生する電流リプルの概略波形を示す。
図3】第1実施例の第1回転機と第2回転機の電流ベクトルと電流進角を示す。
図4】第1実施例において、位相差とうなりの振幅との関係を示すグラフを示す。
図5】第1実施例のパワーユニットで発生するうなりの波形と判定図を示す。
図6】第3実施例のパワーユニットの電気回路構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本技術の一実施形態において、第1基準範囲の中心値は、第1インバータ装置と第2インバータ装置による制御における第1回転機と第2回転機の電流進角差(Δβ)と、第1回転機の回転角度(θINV1)と、第2回転機の回転角度(θINV2)と、を用いて下記式により算出される値であってもよい。
第1基準範囲の中心値=θINV1-(θINV2+Δβ)=360/4n+360k/2n
Δβ=arctan(Iq1/Id1)-arctan(Iq2/Id2)

ここで、nは、第1回転機と第2回転機の相の数であり、kは、任意の整数であり、Iq1は、第1回転機のq軸の電流指定値であり、Id1は、第1回転機のd軸の電流指令値であり、Iq2は、第2回転機のq軸の電流指令値であり、Id2は、第2回転機のd軸の電流指令値である。
【0011】
上記の構成では、第1回転機と第2回転機の相の数に応じて、バッテリに流れる電流値を、電流リプルの振幅が極小となるタイミングで正確に把握することができる。これにより、パワーユニットが大型化することを抑制しつつ、バッテリの充電状態の推定精度が低下することをより抑制することができる。
【0012】
本技術の一実施形態において、制御装置は、第1角度センサにより検出される第1回転機の回転角度に基づいて第1回転機の回転数を算出し、第2角度センサにより検出される第2回転機の回転角度に基づいて第2回転機の回転数を算出してもよい。制御装置は、第1回転機の回転数と、第2回転機の回転数と、第1回転機のトルク値と、第2回転機のトルク値に基づいて、第1基準範囲を設定してもよい。
【0013】
上記の構成では、第1回転機の回転数とトルク値によって、第1インバータ装置への電流指令値が決まっている。また、第2回転機の回転数とトルク値によって、第2インバータ装置への電流指令値が決まっている。このため、第1回転機の回転数とトルク値および第2回転機の回転数とトルク値が決まれば、うなりの節が発生するタイミングを容易に把握することができる。これにより、パワーユニットが大型化することを抑制しつつ、バッテリの充電状態の推定精度が低下することをより抑制することができる。
【0014】
本技術の一実施形態において、パワーユニットは、第3回転機と、バッテリと第3回転機との間に接続された第3インバータ装置と、第3回転機の回転角度を検出する第3角度センサと、をさらに備えてもよい。制御装置は、第1角度センサにより検出される第1回転機の回転角度と、第2角度センサにより検出される第2回転機の回転角度との差が、所定の第1基準範囲内であり、かつ、第2角度センサにより検出される第2回転機の回転角度と、第3角度センサにより検出される第3回転機の回転角度との差が所定の第2基準範囲内であり、かつ、第3角度センサにより検出される第3回転機の回転角度と、第1角度センサにより検出される第1回転機の回転角度との差が、所定の第3基準範囲内であるときに、電流センサによる検出値を取得してもよい。
【0015】
上記の構成では、パワーユニットが3個の回転機と3個のインバータ装置を備える構成においても、パワーユニットが大型化することを抑制しつつ、バッテリの充電状態の推定精度が低下することを抑制することができる。
【0016】
(第1実施例)
第1実施例のパワーユニット10は、電気自動車、ハイブリッド自動車や燃料電池車等の車両(電動車)に搭載され、当該車両の車輪を駆動する動力源として機能する。図1に示すように、パワーユニット10は、バッテリ12と、第1インバータ装置14と、第1回転機16と、第2インバータ装置18と、第2回転機20と、電流センサ22と、第1角度センサ24と、第2角度センサ26と、制御装置28と、を備える。
【0017】
第1インバータ装置14は、複数のスイッチング素子(図示省略)を備える。第1インバータ装置14は、複数のスイッチング素子を選択的にオンおよびオフすることより、入力される直流電流を交流電流に変換して、変換した交流電流を第1回転機16に出力する。
【0018】
第1インバータ装置14は、バッテリ12の正極に第1高圧配線30を介して電気的に接続されている。第1高圧配線30上には、バッテリ12から第1インバータ装置14に向かって、電流センサ22と、抵抗成分32と、インダクタンス成分34と、抵抗成分36と、インダクタンス成分38が順番に配置されている。また、第1インバータ装置14は、バッテリ12の負極に第1低圧配線40を介して電気的に接続されている。
【0019】
第1高圧配線30上の第1入力点30aと第1低圧配線40の第1出力点40aとの間には、第1配線42が配置されている。第1入力点30aは、インダクタンス成分38よりも第1インバータ装置14側に配置されている。第1配線42上には、抵抗成分44と、第1平滑コンデンサ46が配置されている。
【0020】
第1回転機16は、第1インバータ装置14に電気的に接続されている。第1回転機16は、例えば、3相モータである。第1回転機16は、第1インバータ装置14から入力された交流電流により回転する。
【0021】
第2インバータ装置18は、複数のスイッチング素子(図示省略)を備える。第2インバータ装置18は、複数のスイッチング素子を選択的にオンおよびオフすることより、入力される直流電流を交流電流に変換して、変換した交流電流を第2回転機20に出力する。
【0022】
第2インバータ装置18は、第1高圧配線30上の第1高圧分岐点30bに、第2高圧配線48を介して電気的に接続されている。第1高圧分岐点30bは、インダクタンス成分34と抵抗成分36との間に配置されている。第2高圧配線48上には、第1高圧分岐点30bから第2インバータ装置18に向かって、抵抗成分50と、インダクタンス成分52が配置されている。また、第2インバータ装置18は、第1低圧配線40上の第1低圧分岐点40bに、第2低圧配線54を介して電気的に接続されている。
【0023】
第2高圧配線48上の第2入力点48aと第2低圧配線54の第2出力点54aとの間には、第2配線56が配置されている。第2入力点48aは、インダクタンス成分52よりも第2インバータ装置18側に配置されている。第2配線56上には、抵抗成分58と、第2平滑コンデンサ60が配置されている。
【0024】
第2回転機20は、第2インバータ装置18に電気的に接続されている。第2回転機20は、例えば、3相モータである。第2回転機20は、第2インバータ装置18から入力された交流電流により回転する。
【0025】
電流センサ22は、第1高圧配線30上で、抵抗成分32よりもバッテリ12側に配置されている。電流センサ22は、バッテリ12に流れる電流値を検出する。電流センサ22は、制御装置28と信号線を介して接続されており、電流センサ22による検出値が、制御装置28に入力されるように構成されている。
【0026】
第1角度センサ24は、第1回転機16近傍に配置されている。第1角度センサ24は、第1回転機16の回転角度を検出する。第1角度センサ24は、制御装置28と信号線を介して接続されており、第1角度センサ24による検出値が、制御装置28に入力されるように構成されている。
【0027】
第2角度センサ26は、第2回転機20近傍に配置されている。第2角度センサ26は、第2回転機20の回転角度を検出する。第2角度センサ26は、制御装置28と信号線を介して接続されており、第2角度センサ26による検出値が、制御装置28に入力されるように構成されている。
【0028】
制御装置28は、第1インバータ装置14と、第2インバータ装置18と、電流センサ22と、第1角度センサ24と、第2角度センサ26のそれぞれに電気的に接続されている。制御装置28は、第1インバータ装置14のスイッチング素子(図示省略)をスイッチングすることにより、第1インバータ装置14から第1回転機16に出力される交流電流を制御する。制御装置28は、第2インバータ装置18のスイッチング素子(図示省略)をスイッチングすることにより、第2インバータ装置18から第2回転機20に出力される交流電流を制御する。制御装置28は、バッテリ12に流れる電流値を電流センサ22から取得する。制御装置28は、第1回転機16の回転角度を第1角度センサ24から取得する。制御装置28は、第2回転機20の回転角度を第2角度センサ26から取得する。
【0029】
制御装置28が第1インバータ装置14のスイッチング素子(図示省略)をスイッチングすると、図2に示すように、第1インバータ装置14に入力される電流IINV1には、第1電流リプルR1が発生する。第1インバータ装置14におけるスイッチングは、第1回転機16の回転角度に同期しているため、第1電流リプルR1は、第1回転機16の回転角度に応じた周期性を有する。また、制御装置28が第2インバータ装置18のスイッチング素子(図示省略)をスイッチングすると、第2インバータ装置18に入力される電流IINV2には、第2電流リプルR2が発生する。第2インバータ装置18におけるスイッチングは、第2回転機20の回転角度に同期しているため、第2電流リプルR2は、第2回転機20の回転角度に応じた周期性を有する。
【0030】
第1回転機16の回転速度が第2回転機20の回転速度と異なる場合、第1回転機16の回転角度と第2回転機20の回転角度には、差が生じる。このとき、第1電流リプルR1と第2電流リプルR2が合成されて、バッテリ12に流れる電流Ibatには、うなりR3が発生する。うなりR3では、うなりR3の振幅が極小となる極小部Rminと、うなりR3の振幅が極大となる極大部Rmaxが交互に繰り返し発生する。うなりR3の極小部Rminのタイミングでは、電流リプルの大きさが最小となり、うなりR3の極大部Rmaxのタイミングでは、電流リプルの大きさが最大となる。極小部Rminは、うなりR3の節と呼ばれることがあるため、以下では、うなりR3の節を、極小部Rminと同様の符号を付して説明することがある。
【0031】
うなりR3の節Rminのタイミングは、以下の式(1)、(2)によって算出される。
うなりR3の節Rminのタイミング=θINV1-(θINV2+Δβ)
=360/4n+360k/2n (1)
Δβ=arctan(Iq1/Id1)-arctan(Iq2/Id2) (2)
【0032】
ここで、θINV1は、第1回転機16の回転角度であり、θINV2は、第2回転機20の回転角度であり、nは、第1回転機16と第2回転機20の相の数であり、kは、任意の整数である。図3に示すように、Δβは、第1インバータ装置14と第2インバータ装置18による制御における第1回転機16と第2回転機20の電流進角の位相差であり、第1インバータ装置14の制御に伴う第1回転機16の第1電流ベクトルIaINV1と、第2インバータ装置18の制御に伴う第2回転機20の第2電流ベクトルIaINV2とがなす角度である。Iq1は、第1電流ベクトルIaINV1のq軸成分の電流指令値であり、Id1は、第1電流ベクトルIaINV1のd軸成分の電流指令値であり、Iq2は、第2電流ベクトルIaINV2のq軸成分の電流指令値であり、Id2は、第2電流ベクトルIaINV2のd軸成分の電流指令値である。上記の式(1)では、第1回転機16の回転角度θINV1と第2回転機20の回転角度θINV2の差が、Δβにより補正されている。
【0033】
第1回転機16と第2回転機20が3相モータである場合、n=3より、うなりR3の節Rminは、位相差が30、90、150、210、270、330度となるときに発生する。また、図4に示すように、位相差が上記の値のそれぞれから±10度の範囲にあるとき、うなりR3の振幅は、第1電流リプルR1の振幅と第2電流リプルR2の振幅のそれぞれよりも小さくなる。図4の縦軸は、うなりR3の振幅に対する第1電流リプルR1の振幅(第2電流リプルR2の振幅)を示している。
【0034】
制御装置28は、バッテリ12の充電状態(State Of Charge)を推定するときに、電流センサ22から取得した電流値を使用する。上述したように、バッテリ12に流れる電流IbatにはうなりR3が発生している。このため、制御装置28は、例えば、うなりR3の極大部Rmax(図2参照)となるときに電流センサ22から取得した電流値を使用すると、バッテリ12の充電状態を正確に推定することができない。本実施例では、制御装置28は、うなりR3の節Rminとなるときに、電流センサ22から電流値を取得して、バッテリ12の充電状態を推定する。以下では、制御装置28が電流センサ22から電流値を取得するまでの方法のみを説明し、取得した電流値を使用してバッテリ12の充電状態を推定する具体的な方法については説明を省略する。
【0035】
バッテリ12の充電状態を推定する処理では、制御装置28は、第1回転機16の回転角度を第1角度センサ24から取得し、第2回転機20の回転角度を第2角度センサ26から取得することにより、第1回転機16の回転角度と第2回転機20の回転角度を監視している。制御装置28は、第1回転機16の回転角度と第2回転機20の回転角度に差が生じたと判断する場合、第1電流ベクトルIaINV1のq軸成分の電流指令値Iq1と、第1電流ベクトルIaINV1のd軸成分の電流指令値Id1と、第2電流ベクトルIaINV2のq軸成分の電流指令値Iq2と、第2電流ベクトルIaINV2のd軸成分の電流指令値Id2を使用して、上記の式(2)に基づいて、Δβを算出する。
【0036】
次に、制御装置28は、取得した第1回転機16の回転角度と、取得した第2回転機20の回転角度と、算出したΔβを使用して、上記の式(1)に基づいて、うなりR3の節Rminのタイミングを算出する。図5に示すように、うなりR3を実測した結果では、うなりR3の節Rminのタイミングは、一定の間隔(例えば、約0.06秒間隔)で発生する。
【0037】
次に、制御装置28は、電流センサ22から電流値を取得する第1基準範囲を設定する。位相差がうなりR3の節Rminのタイミングから±10度であるときに、うなりR3の振幅が第1電流リプルR1の振幅と第2電流リプルR2の振幅のそれぞれよりも小さくなる。このため、制御装置28は、第1基準範囲の中心値をうなりR3の節Rminのタイミング(30、90、150、210、270、330度)に設定し、中心値からの幅を、±10度よりも小さい第1基準幅(例えば、±5度)に設定することにより、第1基準範囲を設定する。
【0038】
最後に、制御装置28は、図5に示すように、第1基準範囲において判定フラグをオンに切り替え、電流値を電流センサ22から取得する。図5では、判定フラグがオンとなることは、判定が「1」となることを示している。その後、制御装置28は、取得した電流値を使用して、バッテリ12の充電状態を推定する。
【0039】
(効果)
本実施例では、パワーユニット10は、バッテリ12と、第1回転機16と、第2回転機20と、バッテリ12と第1回転機16との間に接続された第1インバータ装置14と、バッテリ12と第2回転機20との間に接続された第2インバータ装置18と、第1回転機16の回転角度を検出する第1角度センサ24と、第2回転機20の回転角度を検出する第2角度センサ26と、バッテリ12に流れる電流値を検出する電流センサ22と、電流センサ22に接続された制御装置28と、を備える。制御装置28は、第1角度センサ24により検出される第1回転機16の回転角度と、第2角度センサ26により検出される第2回転機20の回転角度との差が、所定の第1基準範囲内であるときに、電流センサ22による検出値を取得する。
【0040】
上記の構成では、2個の回転機16、20の回転角度差が第1基準範囲内であるときに、電流センサ22による検出値が取得される。この基準範囲は、うなりR3に節Rminが発生するタイミング(中心値の一例)に基づいて、適宜設定することができる(例えば、中心値±5度)。これにより、バッテリ12に流れる電流Ibatを、電流リプルの振幅が極小となるタイミングで把握することができる。このため、制御装置28は、電流リプルが抑制されたバッテリ12の電流値を使用して、バッテリ12の充電状態を推定することができる。また、電流リプルを抑制するために、パワーユニット10は、大型のコンデンサや複数のコンデンサを備える必要がない。よって、パワーユニット10が複数の回転機16、20と複数のインバータ装置14、18を備える構成において、パワーユニット10が大型化することを抑制しつつ、バッテリ12の充電状態の推定精度が低下することを抑制することができる。
【0041】
また、第1基準範囲の中心値は、式(1)、(2)により算出される。
【0042】
上記の構成では、第1回転機16と第2回転機20の相の数に応じて、バッテリ12に流れる電流値を、電流リプルの振幅が極小となるタイミングで正確に把握することができる。これにより、パワーユニット10が大型化することを抑制しつつ、バッテリ12の充電状態の推定精度が低下することをより抑制することができる。
【0043】
(第2実施例)
第2実施例では、第1実施例と異なる点のみ説明する。第2実施例では、第1基準範囲を設定する方法が、第1実施例の方法と異なる。
【0044】
制御装置28は、第1回転機16の回転角度と第2回転機20の回転角度に差が生じたと判断する場合、基準範囲を設定するためのマップを使用して、第1基準範囲を設定する。具体的には、まず、制御装置28は、監視していた第1回転機16の回転角度から第1回転機16の回転数を算出するとともに、監視していた第2回転機20の回転角度から第2回転機20の回転数を算出する。また、制御装置28は、第1トルクセンサ(図示省略)から第1回転機16のトルク値を取得するとともに、第2トルクセンサ(図示省略)から第2回転機20のトルク値を取得する。次に、制御装置28は、第1回転機16の回転数とトルク値および第2回転機20の回転数とトルク値を、マップ内のデータと比較する。マップは、第1回転機16の回転数とトルク値および第2回転機20の回転数とトルク値に関連付けられた第1基準範囲の基準データを含んでいる。マップは、予め実験により特定されており、制御装置28に記憶されている。次に、制御装置28は、取得した第1回転機16の回転数とトルク値および第2回転機20の回転数とトルク値を含んでいる第1基準範囲の基準データを、マップから選択する。最後に、制御装置28は、選択した第1基準範囲の基準データを、第1基準範囲として設定する。
【0045】
(効果)
本実施例では、制御装置28は、第1角度センサ24により検出される第1回転機16の回転角度に基づいて第1回転機16の回転数を算出し、第2角度センサ26により検出される第2回転機20の回転角度に基づいて第2回転機20の回転数を算出する。制御装置28は、第1回転機16の回転数と、第2回転機20の回転数と、第1回転機16のトルク値と、第2回転機20のトルク値に基づいて、第1基準範囲を設定する。
【0046】
上記の構成では、第1回転機16の回転数とトルク値によって、第1インバータ装置14への電流指令値が決まっている。また、第2回転機20の回転数とトルク値によって、第2インバータ装置18への電流指令値が決まっている。このため、第1回転機16の回転数とトルク値および第2回転機20の回転数とトルク値が決まれば、うなりR3の節Rminが発生するタイミングを容易に把握することができる。これにより、パワーユニット10が大型化することを抑制しつつ、バッテリ12の充電状態の推定精度が低下することをより抑制することができる。
【0047】
(第3実施例)
第3実施例では、第1実施例と異なる点のみを説明する。図6に示すように、第3実施例では、パワーユニット10は、第3インバータ装置80と、第3回転機82と、第3角度センサ84と、をさらに備える。
【0048】
第3インバータ装置80は、複数のスイッチング素子(図示省略)を備える。第3インバータ装置80は、複数のスイッチング素子を選択的にオンおよびオフすることにより、入力させる直流電流を交流電流に変換して、変換した交流電流を第3回転機82に出力する。
【0049】
第3インバータ装置80は、第2高圧配線48の第2高圧分岐点48bに、第3高圧配線86を介して電気的に接続されている。第2高圧分岐点48bは、第1高圧分岐点30bと抵抗成分50との間に配置されている。第3高圧配線86上には、第2高圧分岐点48bから第3インバータ装置80に向かって、抵抗成分88と、インダクタンス成分90が配置されている。また、第3インバータ装置80は、第2低圧配線54の第2低圧分岐点54bに、第3低圧配線92を介して電気的に接続されている。
【0050】
第3高圧配線86の第3入力点86aと第3低圧配線92の第3出力点92aとの間には、第3配線94が配置されている。第3入力点86aは、インダクタンス成分90と第3インバータ装置80との間に配置されている。第3配線94上には、抵抗成分96と、第3平滑コンデンサ98が配置されている。
【0051】
第3回転機82は、第3インバータ装置80に電気的に接続されている。第3回転機82は、例えば、3相モータである。第3回転機82は、第3インバータ装置80から入力された交流電流により回転する。
【0052】
第3角度センサ84は、第3回転機82近傍に配置されている。第3角度センサ84は、第3回転機82の回転角度を検出する。第3角度センサ84は、制御装置28と信号線を介して接続されており、第3角度センサ84による検出値が、制御装置28に入力されるように構成されている。
【0053】
第3実施例のパワーユニット10では、制御装置28が第3インバータ装置80のスイッチング素子(図示省略)をスイッチングすると、第3インバータ装置80に入力される電流IINV3には、第3電流リプルが発生する。第3インバータ装置80におけるスイッチングは、第3回転機82の回転角度に同期しているため、第3電流リプルは、第3回転機82の回転角度に応じた周期性を有する。
【0054】
第1回転機16の回転速度が第2回転機20の回転速度や第3回転機82の回転速度と異なる場合、第1回転機16の回転角度と第2回転機20の回転角度と第3回転機82の回転角度には、差が生じる。このとき、第1電流リプルR1と、第2電流リプルR2と、第3電流リプルが合成されて、バッテリ12に流れる電流Ibatには、うなりが発生する。このうなりでは、第1実施例のうなりR3の同様に、うなりの振幅が極小となる極小部と、うなりの振幅が極大となる極大部が交互に繰り返し発生する。
【0055】
第3実施例では、制御装置28が電流センサ22から電流値を取得するまでの方法が、第1実施例の方法と異なる。第3実施例では、制御装置28は、第1回転機16の回転角度と第2回転機20の回転角度の差に基づいて第1基準範囲を設定するとともに、第2回転機20の回転角度と第3回転機82の回転角度の差に基づいて第2基準範囲を設定し、さらに、第3回転機82の回転角度と第1回転機16の回転角度の差に基づいて第3基準範囲を設定する。第2基準範囲を設定する方法と第3基準範囲を設定する方法は、第1基準範囲を設定する方法(式(1)、(2)を使用する方法)と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0056】
制御装置28は、第1基準範囲と第2基準範囲と第3基準範囲を設定すると、第1基準範囲と第2基準範囲と第3基準範囲のすべてが含まれる重複基準範囲を設定する。制御装置28は、重複基準範囲において判定フラグをオンに切り替え、電流センサ22から電流値を取得する。
【0057】
(効果)
本実施例では、パワーユニット10は、第3回転機82と、バッテリ12と第3回転機82との間に接続された第3インバータ装置80と、第3回転機82の回転角度を検出する第3角度センサ84と、をさらに備える。制御装置28は、第1角度センサ24により検出される第1回転機16の回転角度と、第2角度センサ26により検出される第2回転機20の回転角度との差が、所定の第1基準範囲内であり、かつ、第2角度センサ26により検出される第2回転機20の回転角度と、第3角度センサ84により検出される第3回転機82の回転角度との差が所定の第2基準範囲内であり、かつ、第3角度センサ84により検出される第3回転機82の回転角度と、第1角度センサ24により検出される第1回転機16の回転角度との差が、所定の第3基準範囲内であるときに、電流センサ22による検出値を取得する。
【0058】
上記の構成では、パワーユニット10が3個の回転機16、20、82と3個のインバータ装置14、18、80を備える構成においても、パワーユニット10が大型化することを抑制しつつ、バッテリ12の充電状態の推定精度が低下することを抑制することができる。
【0059】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0060】
10 :パワーユニット
12 :バッテリ
14 :第1インバータ装置
16 :第1回転機
18 :第2インバータ装置
20 :第2回転機
22 :電流センサ
24 :第1角度センサ
26 :第2角度センサ
28 :制御装置
80 :第3インバータ装置
82 :第3回転機
84 :第3角度センサ
R1 :第1電流リプル
R2 :第2電流リプル
Rmax :極大部
Rmin :極小部、節
図1
図2
図3
図4
図5
図6