(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154291
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】反射防止膜、樹脂レンズ、レンズモジュール、及びカメラモジュール
(51)【国際特許分類】
G02B 1/115 20150101AFI20231012BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
G02B1/115
G02B3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063529
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山 真志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 安鉱
【テーマコード(参考)】
2K009
【Fターム(参考)】
2K009AA02
2K009BB11
2K009CC03
2K009DD03
(57)【要約】
【課題】
本発明は、酸素透過防止膜のクラックを防止することを目的とする。
【解決手段】
樹脂レンズ上に少なくとも3種類の層を積層した反射防止膜は、前記3種類の層は、3種類の層のうち最も低い屈折率を有する低屈折率層と、3種類の層のうち最も高い屈折率を有する高屈折率層と、3種類の層のうち最も酸素ガスバリア性が高いガスバリア層と、からなり、前記反射防止膜は、少なくとも2層以上の前記ガスバリア層を備える。ガスバリア層の少なくとも一層は、ガスバリア層が有する膜応力とは反対の方向の膜応力を有する層に挟まれている。反射防止膜が備える高屈折率層の数はガスバリア層の数以上である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂レンズ上に少なくとも3種類の層を積層した反射防止膜であって、
前記3種類の層は、
前記3種類の層のうち最も低い屈折率を有する低屈折率層と、
前記3種類の層のうち最も高い屈折率を有する高屈折率層と、
前記3種類の層のうち最も酸素ガスバリア性が高いガスバリア層と、からなり
前記反射防止膜は、少なくとも2層以上の前記ガスバリア層を備え、
前記ガスバリア層の少なくとも一層は、前記ガスバリア層が有する膜応力とは反対の方向の膜応力を有する層に挟まれており、
前記反射防止膜が備える前記高屈折率層の数は前記ガスバリア層の数以上である、
ことを特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
前記ガスバリア層は、前記低屈折率層に挟持される、
ことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項3】
前記高屈折率層は、前記低屈折率層に挟持される、
ことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項4】
前記低屈折率層が有する膜応力の方向は、前記ガスバリア層と前記高屈折率層のそれぞれが有する膜応力の方向とは反対である、
ことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項5】
前記低屈折率層が有する膜応力は圧縮応力であり、
前記ガスバリア層が有する膜応力は引張応力である、
ことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項6】
前記ガスバリア層の膜厚は、20nm以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項7】
前記反射防止膜中の全ての前記ガスバリア層の合計の膜厚は、40nm以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項8】
前記高屈折率層と前記ガスバリア層は、前記低屈折率層に隣接するように積層され、
前記反射防止膜中の前記低屈折率層を除いた場合、それぞれのガスバリア層が連続しないように積層される、
ことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項9】
前記低屈折率層は、前記樹脂レンズに接して形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項10】
前記樹脂レンズとの密着性が最も高い密着層をさらに備え、
前記密着層は、前記樹脂レンズに接して形成され、
前記低屈折率層は、前記密着層に接して形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項11】
前記ガスバリア層は、前記樹脂レンズに接して形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項12】
前記低屈折率層は、SiO2、MgF2の少なくともいずれかからなる薄膜である、
ことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項13】
前記高屈折率層は、TiO2、Nb2O5、ZrO2、Ta2O5、HfO2、La2Ti2O7(LaTiO3)、Si3N4の少なくともいずれかからなる薄膜である、
ことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項14】
前記ガスバリア層は、Al2O3、Si3N4、AlN、SiONの少なくともいずれかからなる薄膜である、
ことを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項15】
前記密着層は、SiOからなる薄膜である、
ことを特徴とする請求項10に記載の反射防止膜。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の反射防止膜が形成されている樹脂レンズ。
【請求項17】
請求項16に記載の樹脂レンズと、
絞りと、
を備えるレンズモジュール。
【請求項18】
請求項16に記載の樹脂レンズと、
撮像素子と、
を備えるカメラモジュール。
【請求項19】
樹脂レンズ上に複数の層を積層した反射防止膜であって、
低屈折率層と、前記低屈折率層よりも高い屈折率を有する高屈折率層と、を含む積層体が2つ以上積層された構造を有し、
前記積層体同士の間に、前記低屈折率層及び前記高屈折率層よりも酸素ガスバリア性が高いガスバリア層をさらに備える、
ことを特徴とする反射防止膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜、樹脂レンズ、レンズモジュール、及びカメラモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
監視カメラ及び車載カメラは、屋外及び車内等の高温環境下で使用されるため、高い耐環境性が求められている。近年、カメラの低コスト化の要望により、カメラに搭載されるレンズに関してガラスレンズから樹脂レンズへの切替えが検討されている。特許文献1は、高温環境下で急速に劣化する樹脂レンズの黄変を低減するレンズモジュールを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年のカメラモジュールの高精度化の要求に伴い、樹脂レンズに対しても、更なる黄変の抑制が求められている。特許文献1は、SiO膜やSiO2膜によって形成された酸素透過防止膜により、樹脂レンズの黄変を抑止することを提案している。しかし、酸素透過防止膜を厚膜化して酸素透過防止効果を高めた場合、反射特性の悪化及び厚膜化による酸素透過防止膜のクラック(亀裂)が発生することがある。酸素透過防止膜のクラックは、カメラで撮影した画像の画質を悪化させる。また、酸素透過防止膜のクラック箇所から酸素が透過してしまうため、樹脂レンズの耐環境性が低下する。
【0005】
以上により、本発明は、酸素透過防止膜のクラックを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る反射防止膜は、以下の構成を備える。すなわち、樹脂レンズ上に少なくとも3種類の層を積層した反射防止膜であって、前記3種類の層は、前記3種類の層のうち最も低い屈折率を有する低屈折率層と、前記3種類の層のうち最も高い屈折率を有する高屈折率層と、前記3種類の層のうち最も酸素ガスバリア性が高いガスバリア層と、からなり、前記反射防止膜は、少なくとも2層以上の前記ガスバリア層を備え、前記ガスバリア層の少なくとも一層は、前記ガスバリア層が有する膜応力とは反対の方向の膜応力を有する層に挟まれており、前記反射防止膜が備える前記高屈折率層の数は前記ガスバリア層の数以上である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、酸素透過防止膜のクラックを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図5】第3実施形態における樹脂レンズと反射防止膜を示す概略図。
【
図6】レンズモジュール及びカメラモジュールの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
(第1実施形態)
反射防止膜は、3種類の層のうち最も低い屈折率を有する低屈折率層と、3種類の層のうち最も高い屈折率を有する高屈折率層と、3種類の層のうち最も酸素ガスバリア性が高いガスバリア層と、を備える。ガスバリア層は、ガスバリア層が有する膜応力とは反対の方向の膜応力を有する層に挟まれており、反射防止膜は少なくとも2層以上のガスバリア層を備え、反射防止膜が備える高屈折率層の数はガスバリア層の数以上である。なお、反射防止膜は、カメラ用レンズへの適用に限られず、例えば、他の光学用レンズ、スマートフォン、タブレット、PC等のディスプレイに適用されても良い。
【0011】
(反射防止膜)
反射防止膜は、樹脂レンズ上に少なくとも3種類の層を積層した多層膜である。3種類の層は、低屈折率層、高屈折率層、及びガスバリア層を含むが、これに限定されることはない。また、反射防止膜は、3種類の層以外に他の種類の層を含む4種類以上の層からなっても良い。反射防止膜は、高屈折率層と、低屈折率層とを交互に積層した積層体を基本構成単位として有する。積層体は2つ以上であれば良く、積層体同士の間にガスバリア層が積層される。以下で用いる「膜厚」の用語は、物理膜厚のことを指す。膜応力とは、薄膜と基板の膨張率などの違いによって生じる応力のことをいう。
【0012】
反射防止膜は、良好な光学特性(対象波長領域全域で低い反射特性)を有する。また、反射防止膜は、高温環境下及び高湿度環境において樹脂レンズの劣化(例えば、黄変)を抑制するために、酸素ガスの透過を抑制するガスバリア機能を備える。ガスバリア機能は、反射防止膜を構成する2層以上のガスバリア層により発現する。
【0013】
図1は、反射防止膜の反射特性を示す図である。
図1の横軸は波長(Wavelength[nm])を示し、縦軸は反射率(Reflectance[%])を示す。反射率の数値が低ければ低いほど、光の反射が抑えられることを表す。
【0014】
反射防止膜は、400~700nmの可視波長領域における反射率が1%以下となるような反射低減機能を有する。また、反射防止膜は、近赤外領域(波長700nm以上)及び紫外領域(波長400nm以下)において、反射率が1%以下となるような反射低減機能を有する。なお、後述の第2実施形態及び第3実施形態の反射防止膜は、第1実施形態と同様の光の反射低減機能を有するものである。
【0015】
反射防止膜は、前述のように高屈折率層と低屈折率層との交互に積層した積層体を基本構成単位として有している。そのため、高屈折率層と低屈折率層との屈折率差による光の干渉効果を用いて反射防止膜の光学特性を最適化している。しかし、積層体と積層体との間にガスバリア層が挿入された反射防止膜の屈折率差は、複数の積層体だけで構成された反射防止膜の屈折率差と比較すると、小さくなってしまう。
【0016】
そこで、反射防止膜中の高屈折率層の数を、ガスバリア層の数よりも多くする事で、屈折率差が大きくなるようにする。例えば、反射防止膜中のガスバリア層の数が2層である場合、高屈折率層の数は2層以上とする。また、高屈折率層、低屈折率層、ガスバリア層を互いに異なる成膜材料で形成する事で、反射防止膜の反射低減機能及びガスバリア機能を効率的に発揮させることができる。
【0017】
膜応力により発生するガスバリア層のクラックを抑制する観点から、反射防止膜中の引張応力を有する層と、圧縮応力(又は弱い圧縮応力)を有する層とを交互に積層する。特に、ガスバリア層の膜応力の方向と、ガスバリア層に隣接する2つの層の膜応力の方向とが互いに反対となるようにする。ここで、弱い圧縮応力は、例えば100nmの膜の厚さに換算した場合に-100MPaよりも小さい圧縮応力のことをいう。また、プラスの数値で表される応力(例えば、100MPa)は、引張応力を示す。
【0018】
さらに、反射防止膜中の各層の互いの膜応力(引張応力と圧縮応力)で膜応力が相殺されるように、各層の膜応力の値が調整されても良い。膜応力の値は、例えば、各層の膜厚及び膜密度等で調整される。なお、反射防止膜中の各層の膜応力の値は、小さい値であっても良く、例えば各層の膜厚を薄くすることで実現する。
【0019】
(ガスバリア層)
ガスバリア層は、3種類の層の中で最も酸素ガスに対するガスバリア性が高い層である。ガスバリア層として成膜可能な材料は、例えば、Al2O3、Si3N4、AlN、SiON等を含む。なお、ガスバリア層は、ガスバリア層として成膜可能な材料で形成した複数の薄膜を組み合わせた複合層であっても良い。
【0020】
ガスバリア層の屈折率は、高屈折率層よりも低く、低屈折率層よりも高い。ガスバリア層では、波長500nmにおける屈折率は1.6より大きく1.8より小さい。
【0021】
さらに、ガスバリア層は、水分に対する高いバリア効果を有するため、高湿度下において水分に起因する樹脂レンズの膨張及び加水分解を抑制できる。ガスバリア層は、膜密度が高い等の理由から、比較的硬い膜質を有する。また、高いガスバリア効果を得るために、ガスバリア層を厚膜化する必要がある。これにより、厚膜化したガスバリア層は、他の層(低屈折率層、高屈折率層)よりも膜応力等に起因したクラック(亀裂)が生じ易くなる。
【0022】
そこで、厚膜化したガスバリア層は、複数のガスバリア層に分割される。複数の(例えば、2層以上の)ガスバリア層は、ガスバリア層のクラック(亀裂)を防止する観点で、1層当たりの物理的な膜厚が所定の数値以下となるように形成される。この際、1層当たりのガスバリア層の膜厚は、例えば、5nm以上又は15nm以上、及び、30nm以下又は20nm以下である。さらに、ガスバリア層が高いガスバリア効果を発揮するように、反射防止膜中の全てのガスバリア層の物理的な膜厚の合計値は、例えば、30nm以上又は40nm以上、及び、100nm以下又は90nm以下である。
【0023】
また、1層当たりのガスバリア層の膜厚を薄くして膜応力を低減する観点から、複数のガスバリア層のうちいずれかのガスバリア層の膜厚が厚くなることを防止するために、複数のガスバリア層の膜厚を均等にする。一方で、ガスバリア層に隣接する層(低屈折率層又は高屈折率層)の膜厚(例えば、50nm)が、ガスバリア層の膜厚(例えば、20nm)よりも顕著に厚い場合、そのガスバリア層の膜厚(例えば、20nm)を、他のガスバリア層の膜厚よりも厚くなるように成膜しても良い。
【0024】
本発明の各実施形態において、ガスバリア層がSiON又はAl2O3からなる薄膜である場合、ガスバリア層は「引張応力」を有する。ガスバリア層のクラック(亀裂)を防止する観点から、反射防止膜中でガスバリア層に隣接する2つの層の膜応力の方向は以下の通りとする。例えば、ガスバリア層の膜応力が圧縮応力である場合、2つの層の膜応力が引張応力となるように調整する。また、ガスバリア層の膜応力が引張応力である場合、ガスバリア層に隣接する2つの層の膜応力が圧縮応力となるように調整する。すなわち、ガスバリア層の膜応力とは反対方向の膜応力を有する2つの層により、ガスバリア層が挟持される。上記の積層に係る配置構成を採用することで、ガスバリア層に生じる膜応力による局所的な歪みを低減でき、ガスバリア層のクラック(亀裂)を抑制できる。
【0025】
本発明の各実施形態においては、ガスバリア層を構成する材料の種類を変更することで、ガスバリア層の光学特性、及び、膜応力の方向(引張応力又は圧縮応力)を変更できる。ガスバリア層の膜応力の方向は、成膜方法を変更することによっても変更できる。
【0026】
(高屈折率層)
高屈折率層は、光学設計上の観点から、3種類の層の中で最も屈折率が高い層(薄膜)である。高屈折率層として成膜可能な材料は、例えば、TiO2、Nb2O5、ZrO2、Ta2O5、HfO2、La2Ti2O7(LaTiO3)、Si3N4等を含む。なお、高屈折率層は、高屈折率層として成膜可能な材料で形成した複数の薄膜を組み合わせた複合層であっても良い。また、高屈折率層がTiO2、Nb2O5等からなる場合、高屈折率層は特に屈折率差を大きくし易い。高屈折率層がTa2O5、HfO2、La2Ti2O7等からなる薄膜である場合、高屈折率層は紫外領域の光の吸収を抑制できる。
【0027】
高屈折率層では、波長500nmにおける屈折率が1.8以上であり、対象波長領域で光の吸収が少ない。
【0028】
本発明の各実施形態においては、高屈折率層がNb2O5からなる薄膜である場合、高屈折率層の膜応力は「弱い圧縮応力」を有する。高屈折率層がTiO2からなる薄膜である場合、高屈折率層の膜応力は「引張応力」を有する。
【0029】
本発明の各実施形態においては、高屈折率層を構成する材料の種類を変更することで、高低屈折率層の光学特性、及び、膜応力の方向(引張応力又は圧縮応力)を変更できる。高屈折率層の膜応力の方向は、成膜方法を変更することによっても変更できる。
【0030】
(低屈折率層)
低屈折率層は、光学設計上の観点から、3種類の層の中で最も屈折率が低い層(薄膜)である。低屈折率層として成膜可能な材料は、例えば、SiO2、MgF2を含む。
【0031】
低屈折率層では、波長500nmにおける屈折率が1.6以下であり、対象波長領域で光の吸収が少ない。
【0032】
本発明の各実施形態においては、低屈折率層がSiO2からなる薄膜である場合、低屈折率層の膜応力は「圧縮応力」を有し、耐環境性に優れる。一方、低屈折率層がMgF2からなる場合、低屈折率層は「引張応力」及び低屈折率を有する。
【0033】
本発明の各実施形態においては、低屈折率層を構成する材料の種類を変更することで、低屈折率層の光学特性、及び、膜応力の方向(引張応力又は圧縮応力)を変更できる。低屈折率層の膜応力の方向は、成膜方法を変更することによっても変更できる。
【0034】
(反射防止膜の成膜プロセス)
反射防止膜は、物理的又は化学的成膜方法、スピンコート等の湿式法で基板(例えば、樹脂レンズ上)に成膜される。反射防止膜を基板上に成膜する際に、膜の再現性及び耐環境性等の観点から、スパッタ法及び何らかのアシストを付加した蒸着方法等の比較的高エネルギーな成膜方法が用いられる。反射防止膜の成膜方法は、例えば、スパッタ法、IAD(Ion Assist Deposition)法、イオンプレーティング法、IBS(Ion Beam Sputter)法、クラスター蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)法等、及びこれらの方法を複合的に用いた成膜方法を含む。反射防止膜を構成する各層の膜厚を正確に制御でき、膜の再現性が高く、膜密度が高い膜を成膜可能な方法であれば上記の方法に限定されることはない。また、反射防止膜に要求される特性及び生産性等を考慮して、最適な成膜方法が選択されて良い。
【0035】
また、反射防止膜を基板(樹脂レンズ)に成膜する際、基板(樹脂レンズ)の耐熱性に応じて加熱されると良い。高い耐環境性が要求される樹脂レンズ上に反射防止膜を成膜する場合、樹脂レンズのガラス転移温度Tgが高いため(すなわち、耐熱性が高い)、通常の樹脂材料に比して高温で成膜処理する事が可能である。そのため、例えば、成膜処理時の加熱温度は100℃以上であっても良い。また、車載カメラのような高温環境下での使用が想定される場合、成膜処理時の加熱温度は110℃以上であっても良い。一方で、樹脂レンズのガラス転移温度Tgに近い成膜処理時の加熱温度、又は、ガラス転移温度Tg以上の加熱温度は、成膜処理時の加熱温度として不適である。すなわち、ガラス転移温度Tgよりも15℃~20℃程度低い加熱温度で、樹脂レンズ上に反射防止膜を成膜すると良い。
【0036】
(樹脂レンズ)
樹脂レンズは、可視波長領域等の対象波長に対して透明性を有するレンズであり、例えば、カメラ用レンズを含む。樹脂レンズの形状は、例えば、球面形状、非球面形状、及び光学フィルタ等の平板形状を含む。
【0037】
樹脂レンズは、機械特性、光学特定、及び熱特性に優れた樹脂材料で形成される。樹脂材料は、例えば、ポリエステル系、ポリウレタン系、オレフィン系、ポリエーテル系、アクリル系、スチレン系、PET(ポリエチレンテレフタレート)系、PES(ポリエーテルスルホン)系、ポリスルホン系、PEN(ポリエチレンナフタレート)系、PC(ポリカーボネート)系、及びポリイミド系等の合成樹脂を含む。また、樹脂レンズは、有機無機ハイブリッド材料として、例えば、シルセスキオキサン骨格を有する材料等で形成されても良い。樹脂レンズは、芳香族デンドリマー状の多分岐構造を持つ多官能反応性ポリマー等の熱・光硬化性樹脂を用いて形成されても良い。
【0038】
樹脂材料はガラスと比較すると、柔軟で軽く、加工性に優れるが、熱による変形や変質を起こしやすい。そのため、樹脂材料は、高耐熱性を有している必要があり、例えば、ガラス転移温度Tgが120℃以上又は140℃以上を有していれば良い。さらに、樹脂レンズは、吸水による基板の変形を考慮する場合、吸水率の少ないオレフィン系、特にシクロオレフィン系の材料で形成されても良い。また、高屈折率でアッベ数の小さい樹脂レンズが求められる場合、樹脂レンズは、例えば、PC系、フルオレン含有ポリエステル樹脂等で形成される。
【0039】
樹脂レンズが、例えば、使用温度範囲が広い車載カメラ及び監視カメラ等に搭載される場合、樹脂レンズには温度による屈折率変化が小さいことが要求される。例えば、e線(波長546nmの水銀のスペクトル線)において0℃における屈折率と、80℃における屈折率との差分が0.8%以下又は0.6%以下である樹脂レンズであれば良い。
【0040】
樹脂レンズには、高温環境による光学特性の変化を評価する指標となる黄変度(ΔYI)が小さいことが要求される(JIS K 7105に準拠)。例えば、110℃で1500時間保持後(暴露後)の黄色度(YI:イエローインデックス)と、初期の黄色度YI0との差分である黄変度(ΔYI)の値が10以下又は3以下である樹脂レンズであれば良い。以下で黄色度の評価方法を説明する。
【0041】
(黄変度の評価方法)
黄色度は、無色又は白色から色相が黄方向に離れる度合いであり、次の(式1)で求められる。YI=100(1.28X-1.06Z)/Y (式1)、ここで、YIは黄色度を、X、Y、Zは測色色差計で測定した試験片の三刺激値を示す。黄変度(ΔYI)は、光、熱などの環境に暴露されたプラスチックの劣化の評価に用いられ、初期の黄色度と暴露後の黄色度の差分により求められる。黄変度(ΔYI)は、次の(式2)で算出される。ΔYI=YI-YI0 (式2)、ここで、ΔYIは黄変度を、YIは暴露後の黄色度を、YI0は試験片の初期の黄色度を示す。式2で算出したΔYIがプラスの値の場合、黄変度が増加したことを示し、ΔYIがマイナスの値の場合、黄変度が減少したことを示す。
【0042】
樹脂レンズには、400~700nmの可視光波長領域において透過率80%以上であること、及び、110℃で1500時間保持後に上記の可視光波長領域において透過率60%以上であることが要求される。
【0043】
上記の複数の樹脂レンズを搭載したレンズモジュール、又は、レンズモジュールに撮像素子を組み込んだカメラモジュールでは、収差等の光学特性を調整するために、屈折率及びアッベ数の異なる複数の種類の樹脂レンズが組み合わせて用いられても良い。
【0044】
樹脂レンズは、例えば、射出成形法等により成形される。具体的には、固定側鏡面駒及び可動側鏡面駒を突き合わせて形成されるレンズ部、外周部、及びゲート部等を含むキャビティに、ゲート部より樹脂材料を充填する。樹脂材料が固化した後に、金型(固定側鏡面駒及び可動側鏡面駒)を開いて、基板(樹脂レンズ)を取り出す。最後に、基板(樹脂レンズ)に付属するゲート部を切断する。射出成形法により、ガラスレンズでは実現が困難な非球面レンズ、高曲率レンズも比較的容易に作製することができる。なお、基板(樹脂レンズ)は、射出成型法に限らず、例えば、射出圧縮成型法及び注型重合法等の方法により成形されても良い。
【0045】
また、成形による内部応力の解放及び基板(樹脂レンズ)に吸着した水分を除去するために、反射防止膜を樹脂レンズ上に成膜する前に、樹脂レンズをアニール処理する。アニール処理は、80℃~基板(樹脂レンズ)のTg以下の温度、基板(樹脂レンズ)のTgから15℃程度低い温度で、0.5~24時間程度、1~12時間程度実施される。
【0046】
(レンズモジュール)
図6は、レンズモジュール及びカメラモジュールの概略図である。レンズモジュール54は、レンズ50a、レンズ50b、レンズ50c、レンズ50d、レンズ50e、絞り53、鏡筒(不図示)、及びレンズ間に配置される遮光板(不図示)からなる。使用環境や、撮像素子の特性によっては、絞り53は、レンズモジュール54から省略されることもある。
【0047】
レンズモジュール54が所定の光学特性を有するように、レンズ50a~50eの枚数、形状、及び材質が適切に調整されている。
図6では、レンズモジュール54は5枚のレンズからなるが、これに限らず、4枚以下、6枚以上等の最適な枚数のレンズからなっても良い。レンズ50a~50eのうち少なくとも1枚以上のレンズに対して反射防止膜が成膜される。
【0048】
レンズモジュール54は、互いに異なる樹脂材料で形成された複数の種類の樹脂レンズからなっても良い。レンズモジュール54は、1枚以上の樹脂レンズを含む場合、ガラスレンズを併用しても良い。例えば、樹脂レンズ(シクロオレフィン系、PC系)とガラスレンズとが、レンズモジュール54として併用される。レンズモジュール54内で樹脂レンズとガラスレンズとが併用される場合、外気の熱の影響を最も受けやすいレンズ50aをガラスレンズにすると良い。このように、高いガスバリア機能を有する反射防止膜を樹脂レンズ上に成膜することにより、樹脂レンズの黄変の一因である酸化劣化を低減でき、耐環境性に優れたレンズモジュール54を実現できる。
【0049】
(カメラモジュール)
カメラモジュール55は、レンズモジュール54と、撮像素子51とを含む。撮像素子51は、CCD(Charge Coupled Device)及びCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等である。また、カメラモジュール55はIRカットフィルタ52を含んでも良い。IRカットフィルタ52は、近赤外領域の光を制限するフィルタである。カメラモジュール55は、例えば、近赤外領域の光のみを透過するIRパスフィルタ(不図示)、他の光学フィルタ、複数の光学フィルタを有していても良い。その際、複数の光学フィルタは、カメラモジュール55の光軸上で挿抜される。このように、樹脂レンズの黄変の一因である酸化劣化を低減したレンズモジュール54をカメラモジュール55に搭載する事で、耐環境性に優れたカメラモジュール55を実現できる。
【0050】
図2は、第1実施形態における反射防止膜の断面図である。樹脂レンズ10上の反射防止膜11は、ガスバリア層12、高屈折率層13、及び低屈折率層14を含む。反射防止膜11は、2層のガスバリア層12、3層の高屈折率層13、及び6層の低屈折率層14を含む11層(=2層+3層+6層)からなる。反射防止膜11中の全ての層は、スパッタ法により成膜される。特に、金属ターゲットをスパッタして極薄の金属膜を形成した後、専用の反応ソースで金属膜を酸化や窒化させる事で酸化膜や窒化膜を形成する、後反応方式のスパッタ法を成膜方法として用いた。
【0051】
樹脂レンズ10は、150℃以上のガラス転移温度Tgを有するシクロオレフィン系の樹脂材料からなるレンズである。
【0052】
反射防止膜11は、低屈折率層14と高屈折率層13を交互に積層する構成(積層体と呼称)を有する。積層体中で高屈折率層13の代替としてガスバリア層12が積層されるが、低屈折率層14の代替としてガスバリア層12が積層されても良い。
【0053】
ガスバリア層12は、SiONからなる薄膜である。ガスバリア層12の膜応力は、引張応力である。ガスバリア層12の膜厚は、酸素ガスに対する良好なガスバリア効果を得るために、20nm(1層当たり)である。2層のガスバリア層12の合計膜厚は、40nm(=2層×20nm)である。ガスバリア層12の膜厚を約20nmとすることで、ガスバリア層12に生じる局所的な歪みを低減できる。
【0054】
ガスバリア層12は、2層の低屈折率層14によって挟持される。また、2層のガスバリア層12は、反射防止膜11中で互いに隣接しない位置に積層される。例えば、ガスバリア層12は、反射防止膜11の下から4層目と8層目にそれぞれ積層される。2層のガスバリア層12を隣接して配置しない理由は、反射防止膜11の光学特性を最適化するためである。
図2に示す反射防止膜11は、2層のガスバリア層が隣接して配置された反射防止膜(不図示)に比して、良好な光学特性(反射特性)を有する。なお、光学特性の向上及び膜応力の緩和等を目的として、3種類の層(低屈折率層、高屈折率層、ガスバリア層)とは異なる他の成膜材料からなる層(例えば、中間屈折率層)を反射防止膜11中に積層しても良い。また、2層のガスバリア層12は、それぞれ異なる成膜材料で形成されても良い。
【0055】
Siターゲットを用い、極薄のSi薄膜を樹脂レンズ10上に形成した後、所定の組成となるようにO2とN2の配合比を調整した混合ガスを反応ソースに流す事で極薄のSiON薄膜を形成した。その後、所定の膜厚になるまでこのプロセスを繰り返してSiON薄膜を樹脂レンズ10に形成した。また、別の成膜方法として、SiOやSiO2をターゲットとして、反応ソースで窒化反応を促進させても良い。Siターゲットを反応ソースで酸化させた後、さらに同じ反応ソース、又は、第2の反応ソースで窒化させる方法でも同様のSiON薄膜を形成できる。
【0056】
高屈折率層13は、Nb2O5からなる薄膜である。高屈折率層13の膜応力は、弱い圧縮応力である。高屈折率層13は、2層の低屈折率層14によって挟持される。例えば、高屈折率層13は、反射防止膜11の下から2層目、6層目、10層目にそれぞれ積層される。
【0057】
Nbターゲットを用いて、極薄のNb薄膜を樹脂レンズ10上に形成した後、所定の組成となるように酸素ガスを流した反応ソースで酸化させる事でNb2O5薄膜を得た。所定の膜厚になるまでこのプロセスを繰り返してNb2O5薄膜を樹脂レンズ10に形成した。また、Nb2O5薄膜の膜応力は、スパッタ条件、酸化条件、加熱条件等を変える事で、引張応力を有していても良い。本スパッタプロセスでは、膜密度が大幅に低下してしまう弊害が懸念されたため、弱い圧縮応力を有するNb2O5薄膜となるように成膜条件を調整した。
【0058】
低屈折率層14は、SiO2からなる薄膜である。低屈折率層14の膜応力は、圧縮応力である。低屈折率層14は、反射防止膜11の下から1層目、3層目、5層目、7層目、9層目、11層目にそれぞれ積層される。11層目に積層される低屈折率層14は、最も外気及び光に晒される。
【0059】
Siターゲットを用いて、極薄のSi薄膜を樹脂レンズ10上に形成した後、所定の組成となるようにO2ガスを流した反応ソースで酸化させる事でSiO2薄膜を得た。所定の膜厚になるまでこのプロセスを繰り返してSiO2薄膜を樹脂レンズ10上に形成した。
【0060】
(反射防止膜の耐環境性評価試験の結果)
反射防止膜11を有する複数の樹脂レンズ10の耐環境性を評価するために、高温試験(110℃で1000時間保持)を行った。110℃で1000時間保持した後の全ての樹脂レンズ10上の反射防止膜11にクラック(亀裂)は確認されなかった。ΔYI値は2以下であった。樹脂レンズ10の黄変は確認されなかった。
【0061】
反射防止膜11を有する樹脂レンズ10を、複数の樹脂レンズ10からなるレンズモジュールに搭載する事で、高温環境下で黄変の発生を抑制したレンズモジュールを得る事ができる。さらに、レンズモジュールと撮像素子を一体化する事で、高温環境下で黄変の発生を抑制したカメラモジュールを得る事ができる。
【0062】
以上の通り、第1実施形態によれば、反射防止膜中の各層に生じる膜応力の方向を考慮して、引張応力を有する層と、圧縮応力(又は弱い圧縮応力)を有する層とが交互になるように積層した。また、反射防止膜中でガスバリア層の膜応力の方向と、ガスバリア層を挟持する2つの層の膜応力の方向とが反対となるように、ガスバリア層を積層した。これにより、ガスバリア層に生じる膜応力による局所的な歪みを抑制できるため、高温環境下においてガスバリア層のクラック(亀裂)及び層間剥離を抑制できる。
【0063】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態における反射防止膜の断面図である。樹脂レンズ20上の反射防止膜21は、ガスバリア層22、高屈折率層23、低屈折率層24、及び密着層25を含む。反射防止膜21は、3層のガスバリア層22、3層の高屈折率層23、7層の低屈折率層24、及び1層の密着層25を含む14層(=3層+3層+7層+1層)からなる。第2実施形態の反射防止膜21は、第1実施形態の反射防止膜11とは異なり、密着層25を更に含む。
【0064】
樹脂レンズ20は、150℃以上のガラス転移温度Tgを有するポリエステル系の樹脂材料からなるレンズである。
【0065】
反射防止膜21は、樹脂レンズ20上に配置した密着層25と、密着層25より上側で低屈折率層24と高屈折率層23を交互に積層する構成(積層体と呼称)を有する。積層体中で高屈折率層23の代替としてガスバリア層22が積層されるが、低屈折率層24の代替としてガスバリア層22が積層されても良い。
【0066】
ガスバリア層22は、2層の低屈折率層24によって挟持される。また、3層のガスバリア層22は、反射防止膜21中で互いに隣接しない位置に積層される。例えば、ガスバリア層22は、反射防止膜21の下から3層目、7層目、11層目にそれぞれ積層される。3層のガスバリア層22を隣接して配置しない理由は、反射防止膜21の光学特性を最適化するためである。
図3に示す反射防止膜21は、3層のガスバリア層が隣接して配置された反射防止膜(不図示)に比して、良好な光学特性(反射特性)を有する。なお、光学特性の向上及び膜応力の緩和等を目的として、3種類の層(低屈折率層、高屈折率層、ガスバリア層)とは異なる他の成膜材料からなる層(例えば、中間屈折率層)を反射防止膜21中に積層しても良い。また、3層のガスバリア層22は、それぞれ異なる成膜材料から形成されていても良い。
【0067】
ガスバリア層22は、Al2O3からなる薄膜である。ガスバリア層22の膜応力は、引張応力である。蒸着源としてAl2O3を用い、所定の組成となるように、イオンソースから酸素イオンを照射して酸化を促す。そして、エネルギーを与えて成膜をアシストする事で、高密度のAl2O3薄膜を樹脂レンズ20上に形成した。
【0068】
また、3層のガスバリア層22(Al2O3薄膜)は、それぞれ約15nmの膜厚を有し、局所的な歪みを低減した薄膜である。上記の通り、良好な酸素ガスバリア効果を得るための複数のガスバリア層の合計膜厚は40nm以上である。そのため、3層のガスバリア層22の合計の膜厚が45nm程度となるように、各ガスバリア層22の膜厚を15nmとし、反射防止膜21中で3層のガスバリア層22を互いに連続しない位置に積層した。
【0069】
高屈折率層23は、TiO2からなる薄膜である。高屈折率層23の膜応力は、引張応力である。蒸着源としてTi3O5を用い、所定の組成となるように、イオンソースから酸素イオンを照射して酸化を促す。そして、エネルギーを与えて成膜をアシストする事で、高密度のTiO2薄膜を樹脂レンズ20上に形成した。また、高屈折率層23(TiO2薄膜)の膜応力は、アシストパワー及び加熱条件等の成膜条件を変更することで、弱い圧縮応力であっても良い。
【0070】
低屈折率層24は、SiO2からなる薄膜である。低屈折率層24の膜応力は、圧縮応力である。密着層25の直上のSiO2薄膜以外のSiO2薄膜については、蒸着源としてSiO2を用い、所定の組成となるように、イオンソースからO2イオンを照射して酸化を促し、エネルギーを与えて成膜をアシストする事で、高密度のSiO2薄膜として形成される。
【0071】
密着層25は、SiOからなる薄膜である。蒸着源としてSiOを用い、イオンソースのアシストは使用せずにEB(Electron Beam evaporation)蒸着によりSiO薄膜を樹脂レンズ20上に形成した。密着層25(SiO薄膜)は、樹脂レンズ20と反射防止膜21との密着力を高める目的で形成される。密着層25は、5~20nmの膜厚を有し、光の吸収等の発生を抑制する。密着層25は、小さい膜応力を有する。密着層25は、隣接する低屈折率層14(SiO2薄膜)と成膜材料の組成が近い。密着層25は、低屈折率層14との界面で酸素の共有等を行うため、反射防止膜21中の他の界面に比べて組成が連続的かつ一体的となっている。つまり、密着層25は、低屈折率層14の一部として機能しても良い。
【0072】
蒸着源としてSiOを用い、SiO薄膜を形成した直後に、プロセスを区切らず連続的に、イオンソースによるアシストを使用して、そのままSiO2薄膜を連続的に成膜した。密着層25の直上に成膜された低屈折率層14(SiO2薄膜)は、他のSiO2薄膜と同様に、蒸着源にSiO2を用いて、イオンソースから酸素イオンを照射する事でも形成され得る。
【0073】
樹脂レンズ20と反射防止膜21の互いの熱膨張率の違いから、それらの界面を起点にクラック(亀裂)が生じることがある。そこで、樹脂レンズ20と反射防止膜21との界面の密着性を高める事で、反射防止膜21のクラックの発生を抑制する。密着層25(SiO層)以外の層に関してはIAD法により成膜された。
【0074】
(反射防止膜の耐環境性評価試験の結果)
反射防止膜21を有する複数の樹脂レンズ20の耐環境性を評価するために、高温試験(110℃で1000時間保持)を行った。110℃で1000時間保持した全ての樹脂レンズ20上の反射防止膜21にクラック(亀裂)は確認されなかった。ΔYI値は2以下であった。樹脂レンズ20の黄変は確認されなかった。
【0075】
反射防止膜21を有する樹脂レンズ20を、複数の樹脂レンズ20からなるレンズモジュールに搭載する事で、高温環境下で黄変の発生を抑制したレンズモジュールを得る事ができる。さらに、レンズモジュールと撮像素子を一体化する事で、高温環境下で黄変の発生を抑制したカメラモジュールを得る事ができる。
【0076】
以上の通り、第2実施形態によれば、反射防止膜中に密着層を設けることで、樹脂レンズと反射防止膜との界面に生じる反射防止膜の亀裂を抑制することができる。
【0077】
(第3実施形態)
図4は、第3実施形態における反射防止膜の断面図である。樹脂レンズ30上の反射防止膜31は、ガスバリア層32、高屈折率層33、及び低屈折率層34を含む。
図5は、第3実施形態における樹脂レンズと反射防止膜を示す概略図である。
図5では、ALD法で成膜された反射防止膜31は、樹脂レンズ30の側面を含めた全面を覆うことを示す。
【0078】
反射防止膜31は、2層のガスバリア層32、2層の高屈折率層33、及び4層の低屈折率層34を含む8層(=2層+2層+4層)からなる。反射防止膜31中の全ての層は、スパッタ法により成膜される。
【0079】
樹脂レンズ30は、150℃以上のガラス転移温度Tgを有するシクロオレフィン系の樹脂材料からなるレンズである。樹脂レンズ30の直上の初期層(ガスバリア層32)を成膜する際に、樹脂レンズ30に第1プリカ―サが吸着できるサイトとして、例えばOH基が設けられる。OH基を樹脂レンズ30上に設けるために、プラズマ処理及びUVオゾン処理等が用いられても良く、水分子をプリカ―サとしてOH基を樹脂レンズ30上に吸着させてもよい。
【0080】
反射防止膜31は、低屈折率層34と高屈折率層33を交互に積層する構成(積層体と呼称)を有する。積層体中で高屈折率層33の代替としてガスバリア層32が積層されるが、低屈折率層34の代替としてガスバリア層32が積層されても良い。ここで、反射防止膜31中の1つのガスバリア層32が樹脂レンズ30上に配置される。反射防止膜31中の全ての層は、ALD法により成膜される。
【0081】
ALD法は、CVD法と類似の気相薄膜形成法である。CVD法では、反応チャンバー内に2種類のプリカ―サ(前駆体)を同時に導入し、反応生成物を基板(樹脂レンズ30)に堆積させる。一方で、ALD法では、反応チャンバー内に1種類のプリカ―サ(前駆体)を導入し、基板(樹脂レンズ30)に吸着したプリカ―サ以外は、他のプリカーサと化学反応することはなく、基板の表面のみで反応生成物が形成される。このため、ALD法は、成膜面への単分子層の吸着により成膜が進行するため、基板(樹脂レンズ30)の形状に影響を受けることなく成膜を行うことができる。
【0082】
ALD法は、複雑な形状の基板として例えば、高曲率なレンズ、非球面レンズ等に対しても、コンフォーマルな層(成膜対象物の表面形状に沿った均一な膜厚の層)を形成できる。ALD法は、成膜する層は単分子層であるので、精密な膜厚制御が可能である。また、ALD法は、物理蒸着等とは異なり、単分子レベルでの成膜により膜欠陥を少なくできる事から、ガスバリア性に優れた成膜が可能である。このため、ALD法による膜を有する樹脂材料からなる基板では、樹脂の酸化に起因する黄変、及び水分に起因する膨張又は加水分解が抑制される。
【0083】
ガスバリア層32は、Al2O3からなる薄膜である。ガスバリア層32の膜応力は、引張応力である。1層当たりのガスバリア層32の膜厚は、酸素に対する良好なガスバリア効果を得るために、20nmとする。2層のガスバリア層32の合計膜厚は、40nm(=2層×20nm)である。1層当たりのガスバリア層32の膜厚を約20nmとすることで、ガスバリア層32に生じる局所的な歪みを低減できる。
【0084】
ガスバリア層32は、2層の低屈折率層34によって挟持される。また、2層のガスバリア層32は、反射防止膜11中で互いに隣接しない位置に積層される。例えば、ガスバリア層32は、反射防止膜31の下から1層目と5層目にそれぞれ積層される。2層のガスバリア層32を隣接して配置しない理由は、反射防止膜31の光学特性を最適化するためである。
図4に示す反射防止膜31は、2層のガスバリア層が隣接して配置された反射防止膜(不図示)に比して、良好な光学特性(反射特性)を有する。なお、光学特性の向上及び膜応力の緩和等を目的として、3種類の層(低屈折率層、高屈折率層、ガスバリア層)とは異なる他の成膜材料からなる層(例えば、中間屈折率層)を反射防止膜31中に積層しても良い。また、2層のガスバリア層32は、それぞれ異なる成膜材料から形成されていても良い。
【0085】
ガスバリア層32(Al2O3薄膜)は、第1プリカ―サとしてTMA(トリメチルアルミ)を、第2プリカーサとして水分子を用いたALD法で成膜される。第2プリカーサとして水分子が用いられるが、活性酸素として、例えばオゾン等が用いられても良い。また、成膜材料に応じて第2プリカ―サとしてアンモニアガス及び窒素ガスが用いられても良い。
【0086】
ALD法では、ガスバリア層32(Al2O3薄膜)を成膜する際に用いるプリカーサの種類
が多いため、最も安定的に成膜できる。ガスバリア層32と樹脂レンズ30との界面の密着状態、膜組成、及び膜密度の均質化等を考慮して、樹脂レンズ30の直上にガスバリア層32(Al2O3薄膜)を配置した。
【0087】
高屈折率層33は、TiO2からなる薄膜である。高屈折率層33の膜応力は、引張応力である。高屈折率層33は、2層の低屈折率層34によって挟持される。例えば、高屈折率層33は、反射防止膜31の下から3層目、7層目にそれぞれ積層される。
【0088】
高屈折率層33(TiO2薄膜)は、第1プリカ―サとしてTDMAT(テトラキスジメチルアミノチタン)を、第2プリカ―サとして水分子を用いたALD法で成膜される。第2プリカーサとして水分子が用いられるが、活性酸素として、例えばオゾン等が用いられても良い。また、成膜材料に応じて第2プリカ―サとしてアンモニアガス及び窒素ガスが用いられても良い。
【0089】
低屈折率層34は、SiO2からなる薄膜である。低屈折率層34の膜応力は、圧縮応力である。低屈折率層34、反射防止膜31の下から2層目、4層目、6層目、8層目にそれぞれ積層される。
【0090】
低屈折率層34(SiO2薄膜)は、第1プリカ―サとしてTDMAS(トリスジメチルアミノシラン)を、第2プリカ―サとして水分子を用いたALD法で成膜される。第2プリカーサとして水分子が用いられるが、活性酸素として、例えばオゾン等が用いられても良い。また、成膜材料に応じて第2プリカ―サとしてアンモニアガス及び窒素ガスが用いられても良い。
【0091】
上記の通り、ALD法を用いて反射防止膜31中の各層を成膜することを説明したが、CVD法とALD法を組みわせた成膜プロセスを用いて反射防止膜31中の各層を成膜しても良い。例えば、高屈折率層33(TiO2薄膜)と、低屈折率層34(SiO2薄膜)は、CVD法で成膜されても良く、ガスバリア層32(Al2O3薄膜)がALD法で成膜されても良い。
【0092】
反射防止膜31の反射特性に影響を与える高屈折率層33と低屈折率層34は、ALD法に比べて成膜レートが速いCVD法により成膜される。一方で、高いガスバリア機能を発現するために、緻密で膜欠陥が少ない事が要求されるガスバリア層32は、ALD法で成膜される。これにより、CVD法とALD法を組み合わせたハイブリッドな方法は、ALD法のみで反射防止膜31中の全ての層を成膜するよりも、生産性を向上させることができる。なお、特定の層(薄膜)の成膜においてCVD法とALD法が組み合わせて用いられても良く、例えば4層の低屈折率層34のうち一部の層をALD法で成膜し、他の層をCVD法で成膜しても良い。つまり、同一の特性を有する複数の層(例えば、複数の低屈折率層34)において各層毎の成膜方法が互いに異なっていても良い。
【0093】
なお、ALD法は、熱を用いたサーマルALD法、及び、プラズマを用いたプラズマALD法等を含むが、いずれの方法を用いて反射防止膜31中の各層の成膜が行われても良い。特に、樹脂基板(樹脂レンズ30)上に成膜する場合、成膜中の温度を低くできるメリットから、プラズマALD法が用いられると良い。この際、樹脂レンズ30のプラズマによるダメージを避けるため、例えばプラズマを反応チャンバー外で発生させて、励起したOHラジカルのみが反応チャンバーに到達するようなプラズマALD法であっても良い。同様に、成膜対象となる基板が樹脂レンズ30である場合、プラズマCVD法が用いられても良い。
【0094】
(反射防止膜の耐環境性評価試験の結果)
反射防止膜31を有する複数の樹脂レンズ30の耐環境性を評価するために、高温試験(110℃で1000時間保持)を行った。110℃で1000時間保持した全ての樹脂レンズ30上の反射防止膜31にクラック(亀裂)は確認されなかった。ΔYI値は2以下であった。樹脂レンズ30の黄変は確認されなかった。
【0095】
反射防止膜31を有する樹脂レンズ30を、複数の樹脂レンズ30からなるレンズモジュールに搭載する事で、高温環境下で黄変の発生を抑制したレンズモジュールを得る事ができる。さらに、レンズモジュールと撮像素子を一体化する事で、高温環境下で黄変の発生を抑制したカメラモジュールを得る事ができる。
【0096】
以上の通り、第3実施形態によれば、ALD法とCVD法を組み合わせた成膜方法により様々な形状の樹脂レンズ上に亀裂の発生を抑制した反射防止膜を成膜することができる。
【0097】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0098】
10、20、30.樹脂レンズ
11、21、31.反射防止膜
12、22、32.ガスバリア層
13、23、33.高屈折率層
14、24、34.低屈折率層
25.密着層
50a、50b、50c、50d、50e.レンズ
51.撮像素子
52.IRカットフィルタ
53.絞り
54.レンズモジュール
55.カメラモジュール