(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154311
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】発電機及び風力発電装置
(51)【国際特許分類】
H02K 3/18 20060101AFI20231012BHJP
【FI】
H02K3/18 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063563
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】311009376
【氏名又は名称】株式会社アスター
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100142147
【弁理士】
【氏名又は名称】本木 久美子
(72)【発明者】
【氏名】本郷 武延
【テーマコード(参考)】
5H603
【Fターム(参考)】
5H603BB02
5H603BB07
5H603BB09
5H603BB12
5H603CA01
5H603CA05
5H603CB02
5H603CC11
5H603CC17
5H603CD13
5H603CD21
5H603CE02
5H603CE05
5H603FA25
(57)【要約】
【課題】小型、軽量且つ発電効率が向上された発電機を提供する。
【解決手段】軸線Aを中心とした円周方向に複数配置された磁石65を保持するとともに、前記軸線Aを中心に回転可能な回転子60と、前記回転子60に対して径方向に所定距離離間して配置され、前記軸線Aを中心とした円周方向に複数配置されたティース32と、前記ティース32の周囲に螺旋状に巻回されたコイル40を有する固定子と、を備える発電機1であって、前記コイル40は、前記コイル40内の位置によって連続的もしくは断続的に電気伝導率が異なっている、発電機1を提供する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心とした円周方向に複数配置された磁石を保持するとともに、前記軸線を中心に回転可能な回転子と、
前記回転子に対して径方向に所定距離離間して配置され、前記軸線を中心とした円周方向に複数配置されたティースと、前記ティースの周囲に螺旋状に巻回されたコイルを有する固定子と、を備える発電機であって、
前記コイルは、前記コイル内の位置によって連続的もしくは断続的に電気伝導率が異なっている、発電機。
【請求項2】
前記コイルの電気伝導率は、螺旋状に延びる方向に、連続的もしくは断続的に異なっている、
請求項1に記載の発電機。
【請求項3】
前記コイルは、
前記ティースの周囲に螺旋状に巻回された巻き線部と、
前記巻き線部の両端から延びる引出部と、を備え、
前記巻き線部において、
回転子側の電気伝導率は、前記回転子側と反対側の電気伝導率よりも低い、
請求項1記載の発電機。
【請求項4】
前記コイルは、
前記ティースの周囲に螺旋状に巻回された巻き線部と、
前記巻き線部の両端から延びる引出部と、を備え、
前記巻き線部は、
回転子側に配置された、第1導体で製造された第1部分と、
前記回転子側と反対側に配置された、前記第1導体よりも電気伝導率が高い第2導体で製造された第2部分と、を含む、
請求項1に記載の発電機。
【請求項5】
前記引出部は、前記第1導体で製造されている、
請求項4に記載の発電機。
【請求項6】
前記コイルが巻回される前記ティースの外周は略矩形で、
前記コイルは、前記ティースの外周を1周囲む単層コイルを複数層備え、
前記単層コイルは、
前記ティースの外周における、互いに対向する1組の第1辺に沿って配置された1組の第1延在部と、
前記ティースの外周における、互いに対向し且つ前記第1辺と略直交する方向の1組の第2辺に沿って配置された1組の第2延在部と、
前記第1延在部と前記第2延在部とを連結する略矩形の連結角部と、を含み、
前記単層コイルの内周及び外周は略矩形である、
請求項1に記載の発電機。
【請求項7】
前記連結角部は、厚みが略一定である、
請求項6に記載の発電機。
【請求項8】
前記コイルは、ポリイミドで被覆されている、
請求項1に記載の発電機。
【請求項9】
前記コイルにおける最も回転子側の端部と、前記ティースの回転子側端部との間に配置された、棒状押え部材を備える、
請求項1に記載の発電機。
【請求項10】
前記回転子は、
磁石を保持するコア部材を備え、
前記コア部材は前記軸線に沿った方向に、分割されている、
請求項1に記載の発電機。
【請求項11】
前記コア部材の外周面には、前記軸線に沿って延び且つ前記軸線と直交する断面において円弧状に突出した突条部が、均等な間隔で複数設けられている、
請求項10に記載の発電機。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の発電機を有する、風力発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電機及び風力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置等に用いられる大容量の発電機は、希土類磁石を使用した永久磁石型が普及してきている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの大容量の発電機は、サイズが大きく重量が重いため、設置にかかるコストがかかり、さらにメンテナンスコストもかかる。したがって、これらの設置にかかるコスト、メンテナンスコストを下げるためには、より小型軽量な発電機が必要である。
【0005】
本発明は、小型、軽量且つ発電効率が向上された発電機及び風力発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、軸線を中心とした円周方向に複数配置された磁石を保持するとともに、前記軸線を中心に回転可能な回転子と、前記回転子に対して径方向に所定距離離間して配置され、前記軸線を中心とした円周方向に複数配置されたティースと、前記ティースの周囲に螺旋状に巻回されたコイルを有する固定子と、を備える発電機であって、前記コイルは、前記コイル内の位置によって連続的もしくは断続的に電気伝導率が異なっている、発電機を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、小型、軽量且つ発電効率が向上された発電機及び風力発電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】固定子30と回転子60との部分断面図である。
【
図5】ティース32と、ティース32に保持されたコイル40と、棒状押え部材33との斜視図である。
【
図7】コイル40の製造方法の一例を示した図である。
【
図8】第1コア部材62Aと、第2コア部材62Bと、第3コア部材62Cとのスキュー角度θを説明する図である。
【
図9】実施形態の発電機1を用いた風力発電装置100の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[発電機1の構成]
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態の発電機1について説明する。
図1は、実施形態に係る発電機1の斜視図、
図2は発電機1の分解斜視図である。実施形態の発電機1は、これに限定されないが、例えば直径φ約628mm、長さL約395mmである。
【0010】
発電機1は、中心を通る軸線Aに沿って前蓋10と、バスバー20と、固定子30と、ハウジング50と、回転子60と、後蓋80とを備える。なお、便宜上、
図1及び
図2における図中左下を前、右上を後として説明する。
【0011】
[ハウジング50]
ハウジング50は、例えばアルミダイカスト、アルミニウム等の金属材料で製造された略円筒形状の部材で、内部に収納空間51が設けられている。収納空間51の内部には固定子30が配置され、固定子30の前方にバスバー20が配置され、固定子30の内部に回転子60が配置されている。
【0012】
[前蓋10]
前蓋10は略円板部材で、中央に軸孔11が設けられている。軸孔11には、回転子60のシャフト61の先端が回転可能に挿通されている。
【0013】
[後蓋80]
後蓋80は略円板部材で、中央に保持孔81が設けられている。保持孔81には、回転子60のシャフト61の後端が回転可能に保持されている。
【0014】
[固定子30]
固定子30は、ハウジング50の内面に嵌合されてハウジング50に固定される。
図3は固定子30の分解斜視図である。固定子30は、固定子リングコア31と、固定子リングコア31の内面に保持された複数のティース32と、それぞれのティース32の外周に巻回されたコイル40と、コイル40の回転子60側の端面を、ティース32の回転子60側の端面から離間させる棒状押え部材33と、固定子リングコア31の前方に配置された円環状の押えリング35とを備える。コイル40及びティース32は、コイル40によって三相の電流を発生させるため3の倍数の個数、配置されている。なお、
図3は、1つのコイル40及びティース32と、2本の棒状押え部材33とが、固定子リングコア31から取り外され、他のコイル40、ティース32、及び棒状押え部材33は、固定子リングコア31に取り付けられている状態を示す。
【0015】
[固定子リングコア31]
図4は固定子30と回転子60との、軸線Aと直交する部分断面図である。固定子リングコア31は、全体として円筒部材で、内面に長さ方向に延びる複数の嵌合溝31aが設けられている。嵌合溝31aは、コイル40が巻かれるティース32の個数と等しい個数が互いに等間隔で設けられている。
【0016】
[ティース32]
図5は、ティース32と、ティース32に保持されたコイル40と、棒状押え部材33との斜視図である。ティース32は、軟磁性材料で製造された細長い略直方体部材である。また、ティース32は、
図4に示す断面に示すように、矩形部32cと、矩形部32cの固定子リングコア31側に設けられた嵌合スライド部32aと、矩形部32cの回転子60側に設けられた係止部32bとを備える。
【0017】
嵌合スライド部32aは、
図4の断面において上底aが矩形部32cの短辺bよりも短く、下底cが短辺bの長さと略等しい台形形状である。嵌合スライド部32aは、上底a側が矩形部32cの一方の短辺c側を向くようにして矩形部32cに当接された形状を有する。嵌合スライド部32aは、固定子リングコア31の嵌合溝31aにスライド式で嵌合される。
【0018】
係止部32bは、上底dの長さが矩形部32cの短辺bと略等しく、下底eが矩形部32cの短辺bよりも長い台形形状である。係止部32bは、上底d側が矩形部32cの他方の短辺b側を向くようにして矩形部32cに当接された形状を有する。
係止部32bは、棒状押え部材33を係止させる部分である。なお、係止部32bの下底eは、
図4の断面において、直線ではなく、中央部が窪むように僅かに湾曲している。
【0019】
複数のティース32の嵌合スライド部32aが、固定子リングコア31の複数の嵌合溝31aにそれぞれ挿入されると、固定子リングコア31の内面より複数のティース32内径側に突出した櫛歯形状となる。
【0020】
[コイル40]
コイル40の個数は、三相の電流を発生させるように3の倍数配置される。
図6は、コイル40の斜視図である。コイル40は、平導体を1つのティース32の周囲に螺旋状に巻回した、いわゆる集中巻きのコイル40である。
【0021】
[コイル40の材料]
コイル40は、コイル40内の位置によって、連続的もしくは断続的に電気伝導率が異なっている。具体的には、コイル40の電気伝導率は、螺旋状に延びる方向に、連続的もしくは断続的に異なっている。より具体的には、コイル40は、巻き線部41と、巻き線部41の両端から延びる引出部42と、を備え、巻き線部41において回転子60側が、回転子60側と反対側と比べて電気伝導率が低い。
さらに具体的には、コイル40の巻き線部41は、
図5,6中上側となる回転子60側に配置された、第1導体で製造された第1部分41Aと、
図5,6中下側となる固定子リングコア31側に配置された、第1導体よりも電気伝導率が高い第2導体で製造された第2部分41Bとを備える。
すなわち、巻き線部41は、回転子60の磁石65が作る磁束の変化が大きい回転子60側から、磁束の変化が小さい固定子60から離れた固定子リングコア31側へと、連続的もしくは断続的に、電気伝導度が高くなるように形成されている。
【0022】
第1導体は、実施形態において、アルミニウム(Al)を主成分とする金属で製造されている。第2導体は、第1導体よりも電気伝導率が高い(抵抗が小さい)金属で製造され、実施形態において、銅を主成分とする金属で製造されている。また、実施形態において引出部42は、第2導体で製造されている。
【0023】
アルミニウムを主成分とする金属とは、純アルミニウムまたはアルミニウム合金を全体の50%以上含有する金属であり、純アルミニウムまたはアルミニウム合金とは異なる他の成分を含む場合、他の成分の種類や数は任意である。また、純アルミニウムまたはアルミニウム合金の含有率が100%(または略100%)の金属であってもよい。
【0024】
また銅を主成分とする金属とは、純銅または銅合金を全体の50%以上含有する金属であり、純銅または銅合金とは異なる他の成分を含む場合、他の成分の種類や数は任意である。また、純銅または銅合金の含有率が100%(または略100%)の金属であってもよい。
【0025】
[コイル40の形状]
コイル40は、ティース32の略矩形である外周を1周囲む単層コイル40Aを複数層備える。
それぞれの単層コイル40Aは、ティース32の外周における、互いに対向する1組の第1辺に沿って配置された1組の第1延在部43と、ティース32の外周における、互いに対向し、且つ第1辺と略直交する1組の第2辺に沿って配置された1組の第2延在部44と、ティース32の外周における、角部の外側に配置され、第1延在部43と第2延在部44とを連結する略直方体の連結角部45と、を備える。第1延在部43の幅と、第2延在部44の幅と、略直方体の連結角部45の2つの辺の長さとは、略等しい。第1延在部43と第2延在部44との間が略直方体の連結角部45により連結されている。
【0026】
単層コイル40Aは、ティース32が挿通される矩形の開口部46の周囲を囲む角環形状で、内周の輪郭と外周の輪郭とがそれぞれ略矩形となる。すなわち、単層コイル40Aの角部は、略直角となる。また、連結角部45は内周側と外周側との厚みが略一定である。
【0027】
単層コイル40Aにおける、
図5,6中下側となる固定子リングコア31側の11層の単層コイル40Bは、第2導体である銅を主成分とする金属で製造され、
図5,6中上側となる回転子60側の9層の単層コイル40Aは、第1導体である、アルミニウムを主成分とする金属で製造されている。
【0028】
[絶縁樹脂膜]
また、コイル40の巻き線部41には、一端側から他端側にわたって、例えばポリイミドである絶縁樹脂膜が、均一且つ連続して設けられている。
【0029】
[引出部42]
引出部42は、巻き線部41の両端より外側に延びた部分であり、いずれも同様に、前方であるバスバー20側に延びている。引出部42は、複数のコイル40の全てにおいて、前方に引き出されているため、バスバー20との接合が容易となる。
【0030】
[コイル40の製造方法]
図7は、コイル40の製造方法の一例を示した図である。
図7(A)に示すように、まず、1つの単層コイル40Aの素材として、例えば、板部材より打ち抜かれた2つのコの字部材40a、40bを準備する。ただし、素材の形状はコの字に限定されず、他の形状であってもよい。そして、一方のコの字部材40aの例えば中央部40cを、長さ方向の一方が他方に対して、単層コイル40Aが積層される積層方向において1層分、位置がずれるように折り曲げる。
【0031】
次いで、
図7(B)に示すように2つのコの字部材40aの一方の端面40eとコの字部材40bの一方の端面40eとを突き合わせて、例えば、冷間圧接して接合し、単層コイル40Aを製造する。このとき、他方の端面40dは、コの字部材40aの中央部40cが積層方向において1層分、位置がずれるよう折り曲げられているので当接せず、接続されない。
次いで、このようにして製造された複数の単層コイル40Aは、上下に積層される単層コイル40Aの端面40d同士が突き合わせされて、例えば、冷間圧接して接合される。これにより、単層コイル40Aが複数螺旋状に連結される。
【0032】
次に、コイル40を、例えば絶縁性の樹脂を含有した溶液に浸漬し、例えば電着等によって絶縁樹脂で被覆する。なお、絶縁樹脂による被膜は浸漬に限らず、液状の絶縁樹脂をコイル40に吹き付ける等して被膜するものであってもよい。以上のようにしてコイル40が製造される。
【0033】
[棒状押え部材33]
図4に戻り、上述したように、ティース32における固定子30側の端部に、ティース32におけるコイル40が巻回されている矩形部32cよりも幅が徐々に拡大する係止部32bが設けられている。したがって、ティース32における係止部32bの部分は、回転子60側(内径側)の端部に向かうにつれて、隣り合うティース32との距離が徐々に狭くなる。そして、隣り合うティース32との距離が最も狭くなった係止部32bの先端よりも固定子リングコア31側(外径側)に、実施形態では棒状押え部材33が配置されている。
【0034】
棒状押え部材33は、円柱状であり、径は、隣り合う係止部32b間における最も狭い距離、すなわち、係止部32bの回転子60側の端部間の距離よりも大きく、隣り合う矩形部32c間における、最も狭い距離、すなわち、矩形部32cの回転子60側の端部間の距離よりも小さい。また、棒状押え部材33の長さは、ティース32と略等しい。
【0035】
棒状押え部材33の周面は、互いに隣り合うティース32のそれぞれの係止部32bの外面と接している。また、棒状押え部材33の周面は、コイル40の回転子60側(内径側)の端面40Aaと当接して、コイル40の回転子60側(内径側)への移動を阻止している。すなわち、棒状押え部材33は、
図4に示すように、コイル40の回転子60側の端面40Aaを、ティース32の回転子60側の端面eよりも回転子60から離間するように保持している。これにより、渦電流の発生が減少し、発電機1としての発電効率が向上する。
【0036】
なお、実施形態において棒状押え部材33は樹脂製であるが、例えば表面を絶縁したグラファイト等で製造することで、コイル40で発生した熱を放熱させる放熱機構を持たせてもよい。
【0037】
[バスバー20]
図2に示すようにバスバー20は、固定子30の前方において、固定子30の円周に沿って配置され、コイル40の引出部42に接続され、また図示しない外部構造へと接続され、コイル40によって発生された電力を外部へと出力する。
【0038】
[回転子60]
固定子30の内径側には、回転子60が配置されている。回転子60は、シャフト61と、シャフト61に取り付けられるコア部材62とを備える。
【0039】
[シャフト61]
シャフト61は、軸線Aに沿って延び、コア部材62の中央に設けられた貫通孔64に圧入される。シャフト61の前側は、前蓋10の軸孔11に回転可能に挿通され、シャフト61の後端は、ハウジング50の後蓋12の保持孔81に回転可能に保持されている。
【0040】
[コア部材62]
コア部材62は、シャフト61の外周に固定されてシャフト61とともに回転する。コア部材62は、軟磁性材料で製造されている。コア部材62は、軸線Aに沿った方向に、第1コア部材62Aと、第2コア部材62Bと、第3コア部材62Cとに分割されている。
【0041】
[スキュー角度]
第1コア部材62Aと、第2コア部材62Bと、第3コア部材62Cとは、略同じ構造であるが、周方向に所定のスキュー角度θずれて配置されている。
図8は、第1コア部材62Aと、第2コア部材62Bと、第3コア部材62Cとのスキュー角度θを説明する図であり、第1コア部材62Aと、第2コア部材62Bと、第3コア部材62Cとの一部分を軸Aの前側から見た図である。実施形態においてスキュー角度θは5/3deg(≒1.667deg)であるが、これに限定されず、内部に配置された磁石65の形状、数等により適宜設定される。
【0042】
[コア部材62の形状]
図2、
図4、
図8に示すように、それぞれのコア部材62の外周面には、軸線A方向に沿って延び、且つ軸線Aと直交する断面において略円弧状に突出した突条部63が、周方向に均等な間隔で複数設けられている。突条部63の突出形状は、内部に保持された磁石65による磁束の変化が正弦波に近くなるように設けられる。
【0043】
[磁石65]
コア部材62における突条部63の内径側には、磁石65が埋め込まれている。磁石65は、1つの突条部63に対して、周方向に2つ、軸線A方向に2つ、合計4つ埋め込まれている。磁石65はそれぞれ永久磁石であって、略同形状である。
【0044】
また、コア部材62の突条部63との間の、
図4に示すエアギャップの最短距離xは、実施形態では1mm程度である。この狭い最短距離xの存在ゆえに、固定子30及び回転子60との間の磁気抵抗を低減でき、固定子30へ伝達される磁束を増大できる。これにより発電機1の性能を向上させることができる。
【0045】
[発電機1の動作]
以上の構造を有する発電機1は、回転子60が回転すると、磁石65により形成される磁界が変化する。そうすると、電磁誘導作用により固定子30のコイル40に誘導起電力が発生する。このコイル40に誘起された電力は、バスバー20を介して外部へと出力される。
【0046】
[発電機1の効果]
実施形態の発電機1は、コイル40が巻回されるティース32の外周が略矩形で、ティース32の外周を1周囲む単層コイル40Aを複数層備え、単層コイル40Aは、ティース32の外周における、互いに対向する1組の第1辺に沿って配置された1組の第1延在部43と、ティース32の外周における、互いに対向し且つ第1辺と略直交する方向の1組の第2辺に沿って配置された1組の第2延在部44と、第1延在部43と第2延在部44とを連結する略矩形の連結角部45と、を含み、単層コイル40Aの内周及び外周は略矩形である。
すなわち、実施形態の発電機1によると、単層コイル40Aとしても、また単層コイル40Aが複数層積層されたコイル40全体としても、角部(外周側、内周側のいずれも)が略直角になる。そして、ティース32の角も略直角である。ゆえに、実施形態の発電機1によると、ティース32をコイル40の矩形開口部の内部に、隙間なく、又は小さい隙間で配置することができる。
【0047】
[発電効率]
ティース32とコイル40との間の隙間が大きいと、コイルの巻線部分における占有率が大きくなり、発電効率が悪化する。しかし、実施形態の発電機1によると、ティース32は矩形状であるため、コイル40の矩形開口部の内部に、隙間なく、又は小さい隙間で配置することができるので、コイル占有率が大きくなり、発電機1として高効率化が達成できる。
【0048】
[放熱性]
コイル40で発生した熱は、ティース32を介してハウジング50へと伝わり、外部へと放熱される。ティース32とコイル40との間の隙間が大きいと、コイル40で発生した熱がハウジング50へと伝達しにくく、放熱性が悪化する。しかし、実施形態ではティース32とコイル40との間に隙間がなく、又は隙間が小さいので発電機1の放熱性が向上する。
【0049】
[占積率]
例えば、丸線コイルの場合、ティース32に巻回した際の占積率は50%であり、角線コイルの場合の占積率は55%である。しかし、実施形態のコイル40は、角部(外周側、内周側のいずれも)が略直角であるので、90%以上の占積率を実現することができる。したがって、発電機1の小型化を図ることができる。
さらに、高占積率化で放熱性を改善したことにより、発電機1のピーク出力を既存の発電機以上に長時間維持することができる。
【0050】
[応答性]
コイル40は、平板状の単層コイル40Aの積層体であるので、例えば丸線コイルと比べて、コイル40が延びる方向と直交する方向の断面積が大きい。ゆえに、丸線コイルを用いた場合と比べてコイル40に大電流を流すことが可能で、発電機1としての応答性が向上するとともに、出力密度が向上し、高出力化が可能となる。
【0051】
[リサイクル効率]
発電機1のコイル40は、廃棄の際にリサイクル可能であるが、この際、コイル40の金属部分から被覆を剥がすことが必要となる。丸線コイル等の場合、リサイクル時に無駄な廃棄や、コイルの金属素材あたりの絶縁被膜の多さにより、そのリサイクル効率は低い。
しかし、実施形態のコイル40は、平板状の単層コイル40Aの積層体である。ゆえに、コイル40の表面積が丸線コイルと比べて、半分以下になり、単位体積当たりの被膜量が少ない。このため、コイル40からは金属素材を90%以上リサイクル可能となる。
【0052】
[環境・安価]
単層コイル40Aにおける、固定子リングコア31側の11層の単層コイル40Aは、第2導体である銅を主成分とする金属で製造され、回転子60側の9層の単層コイル40Aは、第1導体である、アルミニウムを主成分とする金属で製造されている。
アルミニウムは融点が低く、リサイクル時のCO2排出量が銅よりもはるかに少ない。ゆえに、実施形態のコイル40は、コイル全体を銅で製造した場合と比べて、リサイクル時のCO2排出量が少なくなるため、環境に優しい。さらに、アルミニウム資源は、銅と比べて豊富に存在するので、枯渇の心配が少なく、安価に製造可能である。
【0053】
[軽量化]
単層コイル40Aにおける、固定子リングコア31側の11層の単層コイル40Aは、第2導体である銅を主成分とする金属で製造され、回転子60側の9層の単層コイル40Aは、第1導体である、アルミニウムを主成分とする金属で製造されている。したがって、コイル40A全体を第2導体である銅を主成分とする金属で製造する場合と比べて、軽量化が可能である。
【0054】
[組立容易]
コイル40の引出部42は、複数のコイル40の全てにおいて、バスバー20が配置されている前側に引き出されているため、バスバー20との接合が容易となる。
【0055】
[抵抗]
コイル40の製造過程において、冷間圧接を用いる。冷間圧接によると、接合面に形成されている酸化膜等を十分に微細な破片に圧壊して、その破片を接合界面で広い間隔に分散させることができる。それにより、酸化膜等が実質的に接合界面に介在されることなく接合面同士を原子間結合させることができ、接合部での接触抵抗の増加がほとんど見られない。したがって、コイル40としての抵抗が小さいので、抵抗が小さくなり、発電機1として高効率化が達成できる。
【0056】
[棒状押え部材33の効果]
棒状押え部材33は、
図4に示すように、コイル40の回転子60側の端面が、ティース32の回転子60側の端面32dの回転子60よりも、回転子60から離間するように保持している。これにより、渦電流が防止され、発電効率が向上する。
【0057】
[コア部材62の形状の効果]
それぞれのコア部材62の外周面には、軸線A方向に沿って延び、且つ軸線Aと直交する断面において略円弧状に突出した突条部63が、周方向に均等な間隔で複数設けられている。この突条部63の突出形状により、内部に保持された磁石65による磁束の変化が正弦波に近くなる。したがって、発電機1として高効率化が達成できる。
【0058】
[スキュー構造の効果]
第1コア部材62Aと、第2コア部材62Bと、第3コア部材62Cが周方向にスキュー角度θずれていることにより、それぞれのコア部材62に取り付けられている磁石65による磁極が軸線A方向に沿って段階的にずれた形となり、ステップスキュー構造が形成される。
磁石65を用いた発電機1では、回転子60の回転時において、磁石65とコイル40との間で吸引力が働き、コギングトルクが発生する。低騒音で低振動の円滑な回転を図るには、コギングトルクを低減させることが有効である。実施形態においては、このようなステップスキュー構造を用いることで、コギングトルクを低減することができる。
【0059】
[風力発電装置100]
以上の構造を有する発電機1は、例えば風力発電等に利用可能である。
図9は実施形態の発電機1を用いた風力発電装置100の概略図である。風力発電装置100は、ブレード110と、ナセル120と、タワー130と、基礎140と、を備える。風力発電装置100は、これに限定されないが、例えば定格出力300kW程度である。
【0060】
ブレード110は風を受けて回転する部分であり、実施形態では3本設けられている。これに限定されないが、実施形態のブレード110の回転直径は約330cmである。
ナセル120はタワー130の上に取り付けられた機械室である。ナセル120の先端にブレード110が取り付けられている。ナセル120の内部には、主軸121、増速機122、本実施形態の発電機1等が格納されている。主軸121は、ブレード110によって回転される軸である。増速機122は、ブレード110から主軸121へと伝わった低速・高トルクの入力を増速して発電機1へと伝達する。タワー130は、風力発電装置100を支持する支柱である。基礎140は、タワー130を地盤に固定する部分である。
【0061】
このような風力発電装置100に実施形態の発電機1を用いると、実施形態の発電機1は、上述ように小型且つ軽量であるので、風力発電装置100のナセル120部分の小型化且つ軽量が可能となり、設置コスト・維持コスト等の低減が可能となる。
【符号の説明】
【0062】
θ スキュー角度
A 軸線
1 発電機
20 バスバー
30 固定子
31 固定子リングコア
31a 嵌合溝
32 ティース
32a 嵌合スライド部
32b 係止部
32c 矩形部
32d 端面
33 棒状押え部材
40 コイル
40A 単層コイル
41 巻き線部
41A 第1部分
41B 第2部分
42 引出部
43 第1延在部
44 第2延在部
45 連結角部
46 開口部
50 ハウジング
51 収納空間
60 回転子
61 シャフト
62 コア部材
62A 第1コア部材
62B 第2コア部材
62C 第3コア部材
63 突条部
64 貫通孔
65 磁石
100 風力発電装置
110 ブレード
120 ナセル
121 主軸
122 増速機
130 タワー
140 基礎