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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154318
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】熱処理炉及び熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/08 20060101AFI20231012BHJP
   C21D 1/74 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
C21D9/08 J
C21D9/08 H
C21D1/74 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063575
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】591114102
【氏名又は名称】大同プラント工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】前田 淳
(72)【発明者】
【氏名】川手 賢治
(72)【発明者】
【氏名】安藤 秀哲
(72)【発明者】
【氏名】荒井 康輔
【テーマコード(参考)】
4K042
【Fターム(参考)】
4K042AA06
4K042BA13
4K042BA14
4K042CA16
4K042DA01
4K042DA02
4K042DA03
4K042DA04
4K042DB07
4K042DC04
4K042DC05
4K042DF01
4K042EA01
(57)【要約】
【課題】雰囲気ガスへの石油系ガスの使用を避けることができ、雰囲気ガスの消費量を抑えて、作業効率の向上を図ることができる熱処理炉及び熱処理方法を提供する。
【解決手段】金属管Wを雰囲気ガス中で熱処理する熱処理炉10であって、金属管Wの管内に、水素ガス及び不活性ガスからなる群から選択される少なくとも1種をパージガスとして送り込み、金属管Wの管内ガスをパージガスに置換するパージ装置12と、管内ガスをパージガスに置換した金属管Wを、炉内に収容して熱処理する炉体11と、を備えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属管を雰囲気ガス中で熱処理する熱処理炉であって、
前記金属管の管内に、水素ガス及び不活性ガスからなる群から選択される少なくとも1種をパージガスとして送り込み、前記金属管の管内ガスを前記パージガスに置換するパージ装置と、
管内ガスを前記パージガスに置換した前記金属管を、炉内に収容して熱処理する炉体と、を備えることを特徴とする熱処理炉。
【請求項2】
前記パージ装置は、
内部に充填室が設けられた本体と、
前記本体に接続されて前記充填室に前記パージガスを供給するガス供給系と、
前記本体に設けられて、前記充填室に前記金属管の一端部を挿入させる挿入部と、を備える請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項3】
前記パージ装置は、
前記ガス供給系に接続され、前記充填室への前記パージガスの流量を計測する流量計と、
前記流量計から取得した前記パージガスの流量に基づき、前記金属管の管内ガスの前記パージガスへの置換を管理する制御器と、をさらに備える請求項2に記載の熱処理炉。
【請求項4】
前記パージ装置は、
前記ガス供給系に接続され、前記充填室への前記パージガスの流量を計測する流量計と、
前記充填室の静圧を測定する測定器と、
前記流量計から取得した前記パージガスの流量と、前記測定器から取得した静圧に基づき、前記金属管の管内ガスの前記パージガスへの置換を管理する制御器と、をさらに備える請求項2に記載の熱処理炉。
【請求項5】
前記炉体における前記金属管の炉速に比べて、前記パージ装置による置換の対象とされた前記金属管の搬送速度を速くする搬送速度調整手段を備える請求項1乃至4のいずれか一項に記載の熱処理炉。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の熱処理炉を用いて金属管を熱処理する熱処理方法であって、
パージ装置を使用して前記金属管の管内に、水素ガス及び不活性ガスからなる群から選択される少なくとも1種をパージガスとして送り込み、前記金属管の管内ガスを前記パージガスに置換するパージ工程と、
前記パージ工程の後、管内ガスを前記パージガスに置換した前記金属管を、炉体に挿入して炉内に収容する挿入工程と、を備えることを特徴とする熱処理方法。
【請求項7】
前記パージ工程は、
前記金属管の一端部を前記パージ装置に挿入し、他端部を外部に開放された状態とする第1工程と、
前記金属管を前記パージ装置に固定する第2工程と、
前記パージ装置に挿入された前記金属管の一端部から管内に前記パージガスを送り込み、他端部から管内ガスを排出して、管内ガスを前記パージガスに置換する第3工程と、を含む請求項6に記載の熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管を雰囲気ガス中で熱処理する熱処理炉及び熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、金属を材料に用いた部品や製品等は、内部応力の除去、硬さの調整、加工性の向上などといった種々の目的に応じて熱処理を施される。この熱処理は、熱処理炉を使用し、その熱処理炉の炉内を雰囲気ガスで満たし、目的に応じた雰囲気にして行われる。
熱処理を施される部品や製品等として、金属管は、その内部に空気が残ったままで熱処理すると、雰囲気ガスが汚れて炉内の雰囲気が損なわれたり、金属管の内面が酸化や脱炭されたりしてしまう。このため、金属管は、熱処理を施す際、内部の空気を雰囲気ガスに置換する等して、空気のパージが行われる。
特許文献1、2には、金属管内部の空気のパージに関する装置又は方法について、記載されている。特許文献1に記載のガスの置換装置は、炉内の装入側帯域のプレナムチャンバーに、装入口側に傾斜した複数の雰囲気ガス噴射ノズルを設け、これらのノズルから雰囲気ガスを噴射し、金属管内部の空気を押し出すことを特徴としている。特許文献2に記載のパージ方法は、排気手段を接続したパージボックスを設け、金属管の一端部を炉内に、他端部をパージボックス内に位置させた状態として、排気手段でパージボックス内を強制排気することにより、金属管内部に炉内の雰囲気ガスを吸引して空気をパージすることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭51-122608号公報
【特許文献2】特開2019-173144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属管内部の空気のパージについて、特許文献1は金属管の全部を炉内に位置させた状態で行われ、特許文献2は金属管の一端部を炉内に位置させた状態で行われる。つまり、特許文献1、2は、金属管内部の空気をパージする際、パージ前の金属管の全部又は一端部を炉内に位置させている。このように、金属管の少なくとも一部を炉内に位置させてパージを行う場合、金属管内部から漏れ出た空気によって炉内の雰囲気が損なわれる、漏れ出た空気を炉内からパージする必要が生じる、炉内で高熱となった雰囲気ガスが金属管内部に吸い込まれて炉外に排出されることで安全性が低下したり作業環境が悪化したりする、雰囲気ガスの消費量の増加や作業効率の低下を招く等の問題が生じる。
また、雰囲気ガスには、通常、プロパンガス等を変成して得られる石油系ガスが使用されるが、近時は、カーボンニュートラル等といった環境配慮への意識の高まりから、脱炭素が要求され、石油系ガスの使用を避けて、水素ガス等の使用が検討されている。こうした雰囲気ガスへの水素ガス等の使用は、作業コストの高騰を招くため、雰囲気ガスの消費量の低減が求められている。
【0005】
本発明は、このような従来技術が有していた問題点を解決しようとするものであり、雰囲気ガスへの石油系ガスの使用を避けることができ、雰囲気ガスの消費量を抑えて、作業効率の向上を図ることができる熱処理炉及び熱処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するべく、請求項1に記載の発明は、金属管を雰囲気ガス中で熱処理する熱処理炉であって、
前記金属管の管内に水素ガス及び不活性ガスからなる群から選択される少なくとも1種をパージガスとして送り込み、前記金属管の管内ガスを前記パージガスに置換するパージ装置と、
管内ガスを前記パージガスに置換した前記金属管を、炉内に収容して熱処理する炉体と、を備えることを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記パージ装置は、
内部に充填室が設けられた本体と、
前記本体に接続されて前記充填室に前記パージガスを供給するガス供給系と、
前記本体に設けられて、前記充填室に前記金属管の一端部を挿入させる挿入部と、を備えることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記パージ装置は、
前記ガス供給系に接続され、前記充填室への前記パージガスの流量を計測する流量計と、
前記流量計から取得した前記パージガスの流量に基づき、前記金属管の管内ガスの前記パージガスへの置換を管理する制御器と、をさらに備えることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記パージ装置は、
前記ガス供給系に接続され、前記充填室への前記パージガスの流量を計測する流量計と、
前記充填室の静圧を測定する測定器と、
前記流量計から取得した前記パージガスの流量と、前記測定器から取得した静圧に基づき、前記金属管の管内ガスの前記パージガスへの置換を管理する制御器と、をさらに備えることを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の発明において、前記炉体における前記金属管の炉速に比べて、前記パージ装置による置換の対象とされた前記金属管の搬送速度を速くする搬送速度調整手段を備えることを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1又は2に記載の熱処理炉を用いて金属管を熱処理する熱処理方法であって、
パージ装置を使用して前記金属管の管内に前記パージガスを送り込み、前記金属管の管内ガスを前記パージガスに置換するパージ工程と、
前記パージ工程の後、管内ガスを前記パージガスに置換した前記金属管を、炉体に挿入して炉内に収容する挿入工程と、を備えることを要旨とする。
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記パージ工程は、
前記金属管の一端部を前記パージ装置に挿入し、他端部を外部に開放された状態とする第1工程と、
前記金属管を前記パージ装置に固定する第2工程と、
前記パージ装置に挿入された前記金属管の一端部から管内に前記パージガスを送り込み、他端部から管内ガスを排出して、管内ガスを前記パージガスに置換する第3工程と、を含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、雰囲気ガスへの石油系ガスの使用を避けることができ、雰囲気ガスの消費量を抑えて、作業効率の向上を図ることができる熱処理炉及び熱処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の熱処理炉の一形態を示す概略側面図。
図2】パージ装置を示す斜視図。
図3】パージ装置を示す一部を拡大した正面図。
図4】本発明の熱処理方法におけるパージ工程の一例を説明する側面図。
図5】(a),(b)は、本発明の熱処理方法における挿入工程の一例を説明する側面図。
図6】パージ装置の変更例を示す一部を拡大した平面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
[1]熱処理炉
本発明の熱処理炉は、金属管Wを雰囲気ガス中で熱処理する熱処理炉10であって、
前記金属管Wの管内に水素ガス及び不活性ガスからなる群から選択される少なくとも1種をパージガスとして送り込み、前記金属管Wの管内ガスをパージガスに置換するパージ装置12と、
管内ガスをパージガスに置換した前記金属管Wを、炉内に収容して熱処理する炉体11と、を備えることを特徴とする(図1参照)。
【0011】
熱処理炉10を用いた熱処理については、特に限定されないが、例えば、焼なまし(焼鈍)、焼ならし、焼入れ、焼戻し等を挙げることができる。これら熱処理の中でも焼鈍が有用であり、さらに焼鈍の中でも光輝焼鈍は、本発明の熱処理炉10を用いることで、金属管Wの内面の光輝仕上がり(白濁)が可能となるため、特に有用である。
熱処理炉10に供される金属管Wについて、金属の種類は、特に限定されないが、例えば、鉄、銅、アルミニウム、チタン、銀、タングステン等の金属、ステンレス鋼、チタン合金、ニッケル合金、銅合金等の合金を挙げることができる。これらの中でもステンレス鋼は、その製品として光輝焼鈍に供されるものが多く、有用である。
金属管Wの形状は、円管状や、四角管状、六角管状等の角管状などのような管状であれば、特に限定されない
【0012】
金属管Wのサイズについて、長さは特に限定されないが、長くなるほど内部の空気等(以下、「管内ガス」と記載する)が抜け出し難くなることから、本発明の熱処理炉10に供される金属管Wとして、長さが長いものが有用である。具体的に、金属管Wの長さの下限は、好ましくは0.5m以上、より好ましくは0.8m以上、さらに好ましくは1m以上とすることができる。金属管Wの長さの上限は、特に限定されないが、通常、10m以下とすることができる。
金属管Wの内径は、特に限定されないが、小さくなるほど管内ガスが抜け出し難くなることから、本発明の熱処理炉10に供される金属管Wとして、内径が小さいものが有用である。具体的に、金属管Wの内径の上限は、好ましくは15mm以下、より好ましくは10mm以下、さらに好ましくは8mm以下とすることができる。金属管Wの内径の下限は、特に限定されないが、通常、0.1mm以上とすることができる。
【0013】
以下、熱処理炉10が備える炉体11、パージ装置12等について説明する。
(1)炉体
炉体11は、金属管Wを収容して熱処理するためのものである(図1参照)。
炉体11は、熱処理に適用可能であれば、金属管Wの処理・搬送方式、構成、使用材料、形状、大きさ、炉内の容積、加熱・冷却方式等は、特に問わない。
炉体11の処理・搬送方式は、熱処理に係る金属管Wの加熱処理と冷却処理とを連続的に行う連続式のものとすることができ、あるいは、金属管Wの加熱処理と冷却を断続的に行うバッチ式のものとすることができる。
【0014】
炉体11は、炉内での金属管Wの搬送を行う搬送装置111を備えることができる(図1参照)。搬送装置111は、金属管Wを搬送することが可能であれば、構成等について、特に限定されない。通常、搬送装置111には、ベルトコンベア等を用いることができる。
炉体11は、金属管Wを炉内に挿入する入口112を備えることができる(図1参照)。また、炉体11は、金属管Wを炉内から取り出す出口(図示略)を備えることができる。これら入口112や出口は、扉(図示略)を設けることにより、必要に応じて開閉可能な構成とすることができる。
炉体11の炉内において、金属管Wは、搬送装置111により、入口112から出口へ向かって一定の炉速で搬送することができる。
【0015】
炉体11とパージ装置12との間には、炉体11へ金属管Wを搬入する搬入装置13を備えることができる(図1参照)。
搬入装置13は、金属管Wを炉体11へ搬入することが可能であれば、構成等について、特に限定されない。通常、搬入装置13には、ローラコンベア等を用いることができる。
搬入装置13は、金属管Wの搬入速度について、搬送装置111による金属管Wの炉体11の炉内における炉速と同じ速度にすることができる。
つまり、熱処理炉10は、金属管Wの搬入装置13による搬入速度と搬送装置111による炉速を同じ速度とすることにより、金属管Wの炉体11への搬入のタイミングと、金属管Wの炉体11の炉内における搬送のタイミングとが同期する構成とすることができる。この構成は、複数ロットの金属管Wを連続的に処理する場合に有用であり、各ロット間におけるタイミング差による時間的ロスの発生を抑制することができ、作業時間の短縮化を図ることができる。
【0016】
炉体11は、炉内を複数室に区画することができ、あるいは1室のみとすることができる。
炉体11は、炉内を複数室に区画する場合、金属管Wに対し、熱処理に係る加熱処理を施す加熱室(図示略)と、熱処理に係る冷却処理を施す冷却室(図示略)とを備える構成とすることができる。
加熱室及び冷却室は、内部の構成、構造等について、特に限定されず、それぞれ目的に応じたものとすることができる。
通常、加熱室は、金属管Wを加熱処理するための、電気ヒーターや燃焼式バーナー等のような昇温装置を備える構成とすることができる。冷却室は、金属管Wを冷却処理するための、クーラ、ファン、ブロア等のような降温装置を備える構成とすることができる。
【0017】
炉体11は、炉内に加熱室を備える場合、加熱室よりも入口112側に前室(図示略)を備える構成とすることができる。前室は、炉内に金属管Wを挿入するための室であり、金属管Wの挿入時に加熱室へ外気が流れ込むことを抑制する室である。
炉体11は、炉内に冷却室を備える場合、冷却室よりも出口側に後室(図示略)を備える構成とすることができる。後室は、金属管Wを炉内から取り出すための室であり、金属管Wの取出時に冷却室へ外気が流れ込むことを抑制する室である。
【0018】
本発明の熱処理炉10において、炉体11の炉内を熱処理に適した雰囲気とするための雰囲気ガスには、水素ガス及び不活性ガスからなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。つまり、雰囲気ガスには、水素ガス及び不活性ガスの混合ガス、又は、水素ガスのみ、又は不活性ガスのみを使用することができる。
水素(H)ガスは、炉内を還元性の雰囲気とし、炉内の酸素(O)を奪う等することにより金属管Wの表面及び内面の酸化を防止することができる。
不活性ガスは、熱処理時における高温度の雰囲気下において、金属管Wに用いられた金属に対して不活性であるため、水素(H)ガスによる炉内の無酸化雰囲気を維持することができる。不活性ガスとしては、窒素(N)ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス等を例示することができる。不活性ガスの中でも窒素(N)ガスは、入手が容易であり、その使用に係るコストを抑えることができるため、雰囲気ガスとして有用である。
上述の水素(H)ガスや不活性ガスは、石油系ガスに含まれる一酸化炭素、二酸化炭素等の炭素系ガスを含んでおらず、雰囲気ガスに使用した場合、脱炭素を図ることができるため、有用である。
【0019】
炉体11は、上述の雰囲気ガスを炉内に供給する雰囲気ガス供給系が接続された構成とすることができる。
炉体11に対する雰囲気ガス供給系の接続場所は、特に問わず、炉体11の何れの箇所ともすることができる。炉体11が炉内に上述の加熱室を備える場合、雰囲気ガス供給系は、炉体11の加熱室に接続することができる。
雰囲気ガス供給系には、系路を開閉するバルブを接続することができる。このバルブは、その種類等について、特に問わず、電動弁、電磁弁、逆止弁等で構成することができる。
【0020】
炉体11に接続される雰囲気ガス供給系の系路の数は、特に問わない。雰囲気ガス供給系の系路の数は、1つのみとすることができ、あるいは2以上とすることもできる。
雰囲気ガスに水素(H)ガスと不活性ガスを用いる場合、雰囲気ガス供給系は、系路の数を2つとして、水素(H)ガスを供給する第1供給系と、不活性ガスを供給する第2供給系とを備える構成とすることができる。この構成について、水素(H)ガスと不活性ガスは、各個別に炉体11の炉内への供給量を調整することができ、例えば、水素(H)ガスの使用量を必要最小限に留めて、運用コストの低減を図る等の効果を得ることができる。
あるいは、雰囲気ガス供給系の系路の数を1つのみとして、不活性ガス及び水素(H)ガスを混合した状態で、炉体11の炉内に供給することもできる。この構成について、雰囲気ガス供給系の構成を簡易化することができる。
【0021】
(2)パージ装置
パージ装置12は、金属管Wの管内に水素ガス及び不活性ガスからなる群から選択される少なくとも1種をパージガスとして送り込み、金属管Wの管内ガスをパージガスに置換するものである(図1参照)。
パージ装置12は、
内部に充填室214が設けられた本体21と、
本体21に接続されて充填室214にパージガスを供給するガス供給系22と、
本体21に設けられて、充填室214に金属管Wの一端部を挿入させる挿入部23と、を備える構成とすることができる(図1~3参照)。
【0022】
(2-1)本体
本体21は、内部の充填室214に溜められたパージガスを金属管Wの管内に送り込むことが可能であれば、構成、形状、充填室214の容積等は、特に問わない。
具体例として、本体21は、箱部211と蓋部212とを備えた構成とすることができる(図2参照)。箱部211は、上面と前面の上半部とが開口された箱状に形成することができる。蓋部212は、箱部211の開口を閉塞するように、断面横L字状に形成することができる。
蓋部212は、その後端部に設けられたヒンジ(図示略)を介することにより、箱部211の後部上端に、回動自在に接続することができる(図2参照)。
【0023】
蓋部212の上面には、シリンダ213が取り付けられており、このシリンダ213の収縮により蓋部212は箱部211の開口を開放し、シリンダ213の伸長により蓋部212は箱部211の開口を閉塞することができる。
蓋部212が箱部211の開口を閉塞した状態で、本体21の内部には、空間として充填室214を形成することができる(図1参照)。この充填室214と連通するように、本体21の後面には、供給ノズル215が設けられている。
【0024】
(2-2)ガス供給系
ガス供給系22は、本体21に接続されて、充填室214にパージガスを供給することが可能であれば、構成等について、特に問わない。
パージガスには、水素ガス及び不活性ガスからなる群から選択される少なくとも1種が使用されている。
水素(H)ガスは、還元性ガスであり、パージガスとして使用された場合、金属管Wの内面の酸化を防止することができる。
不活性ガスは、金属管Wに用いられた金属に対して不活性であり、パージガスとして使用された場合、金属管Wの内面を酸化させないようにすることができる。不活性ガスとしては、窒素(N)ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス等を例示することができる。これらの中でもアルゴンガスは、金属管Wの水素脆性化や窒化等を防止でき、パージガスとして有用である。
【0025】
パージガスには、上述の雰囲気ガスと同じ組成のガスを使用することができ、あるいは異なる組成のガスを使用することができる。
例えば、パージガスは、雰囲気ガスと同じ組成のものを使用する場合、雰囲気ガスに応じて、水素ガス及び不活性ガスの混合ガス、水素ガスのみ、不活性ガスのみを使用することができる。
また、パージガスは、雰囲気ガスと異なる組成のものを使用する場合、例えば、雰囲気ガスに水素ガスと不活性ガスである窒素ガスとの混合ガスが用いられているものとして、水素ガスのみ、不活性ガスであるアルゴンガスのみ、不活性ガスである窒素ガスのみ、水素ガスとアルゴンガスの混合ガス等を使用することができる。
【0026】
具体例として、パージガスに水素ガスのみを用いる構成を挙げる場合、ガス供給系22は、ガス供給源として水素(H)ガスを貯留するタンク221を有し、タンク221から伸びて、本体21の供給ノズル215に接続された構成とすることができる(図1参照)。
また、ガス供給系22について、タンク221と本体21(供給ノズル215)との間は、フレキシブルホースで接続する構成とすることができる。この構成の場合、パージ装置12の移動を阻害しないようにすることができる。
【0027】
パージガスに水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを用いる構成とする場合、特に図示しないが、ガス供給系は、水素(H)ガスを供給する第1の系路、不活性ガスを供給する第2の系路等の2以上の複数系路を設けることができる。
ガス供給系は、複数系路を設ける場合、各系路を本体21の供給ノズル215にそれぞれ接続する構成とすることができ、あるいは、複数系路を途中で1系路に合流させて、その合流した1系路を本体21の供給ノズル215に接続する構成とすることができる。
ガス供給系は、不活性ガスにアルゴンガスを用いる場合、ガス供給源としてアルゴンガスを貯留するタンクを有する構成とすることができる。
また、ガス供給系は、不活性ガスに窒素ガスを用いる場合、ガス供給源として、例えば、窒素ガスを貯留するタンク、窒素ガスを製造するPSA式窒素ガス製造装置等を有する構成とすることができる。
上述のガス供給系について、ガス供給源と本体21(供給ノズル215)との間は、フレキシブルホースで接続する構成とすることができる。
【0028】
ガス供給系22には、流量計222を接続することができる(図1参照)。
流量計222は、ガス供給系22におけるパージガス(水素ガス)の流量を計測することができ、流量計222を利用することにより、本体21の充填室214へのパージガス(水素ガス)の供給量を測定することができる。
なお、ガス供給系を複数系路設ける場合、流量計は、水素(H)ガスを供給する系路、不活性ガスを供給する系路等の各系路それぞれに接続することができる。流量計を複数系路それぞれに接続する場合には、各流量計による計測値の合計を、パージガスの流量として、本体21の充填室214へのパージガスの供給量を測定することができる。
【0029】
ガス供給系22には、調整バルブ223を接続することができる(図1参照)。
本体21の充填室214へのパージガスの供給量は、調整バルブ223を利用することにより、調整することができる。
調整バルブ223は、必要に応じて供給量を0(m/h)とすることにより、本体21の充填室214へのパージガスの供給を停止することができる。調整バルブ223に使用される弁体の種類は、特に限定されないが、供給量をリニアに調整可能な電動弁等を採用することができる。
なお、ガス供給系を複数系路設ける場合、調整バルブは、水素(H)ガスを供給する系路、不活性ガスを供給する系路等の各系路それぞれに接続することができる。調整バルブを複数系路それぞれに接続する場合には、パージガスに使用される水素ガス及び不活性ガスの各ガス毎に供給量を調整することができる。
【0030】
(2-3)挿入部
挿入部23は、本体21に設けられて、充填室214に金属管Wの一端部を挿入させることが可能であれば、構成等について、特に問わない。
具体例として、挿入部23は、本体21の前面に長孔状に設けることができる(図3参照)。
この長孔状の挿入部23は、本体21において、蓋部212が箱部211の開口を閉塞した状態で、箱部211の前面上端と、蓋部212の前面下端との間に設けられた隙間により形成することができる。
長孔状に設けた挿入部23において、金属管Wは、一端部が本体21の内部、つまり充填室214に位置するように、複数本を横並びに揃えて挿入することができる(図2、3参照)。
なお、金属管Wは、一端部が本体21の充填室214に挿入され、他端部が本体21の外部に露出されたままの状態に保持されている(図1参照)。
【0031】
挿入部23の内側には、シール材231を設けることができる。シール材231は、挿入部23からのパージガスの漏出を防止するためのものである。
シール材231の材質等について、特に問わないが、通常、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂による弾性体や発泡体などを使用することができる。
具体例として、シール材231は、箱部211の前面上端と、蓋部212の前面下端にそれぞれ設けられている。これらシール材231は、蓋部212が箱部211の開口を閉塞した状態で、互いの間に金属管Wを挟み込み、金属管Wの外形に応じて変形して、金属管Wの外面に圧着することにより、挿入部23からのパージガスの漏出を防止している(図3参照)。
【0032】
(2-4)測定器
パージ装置12は、充填室214の静圧を測定する測定器24を、本体21に接続することができる。ここで、充填室214の静圧とは、充填室214を満たすパージガスが、金属管Wの管内ガスを管外へ圧し出す力(圧力)をいう。
パージ装置12は、本体21の充填室214に供給されたパージガスが、金属管Wの管内に送り込まれ、管内ガス(主に酸素)を管外へ圧し出すことにより、金属管Wの管内ガスのパージを行う。
このため、パージガスの本体21の充填室214からの漏れが発生すると、パージガスが金属管Wの管内ガスを圧し出す力(圧力)が不足してしまうことになる。特に、パージガスに水素ガスを用いる場合、水素ガスは、分子が非常に小さいため、本体21の充填室214から漏れやすい。
【0033】
測定器24は、充填室214の静圧を測定することができる。このため、測定器24による測定結果に基づき、静圧が金属管Wの管内ガスのパージを行うのに十分な圧力を満たしているかを判断することができる。
つまり、パージ装置12は、本体21に測定器24を設けることにより、金属管Wの管内ガスのパージを行うのに十分な静圧を保持することができる。
測定器24の種類は、静圧を測定可能であれば、特に限定されないが、通常、圧力計を使用することができる。
【0034】
(2-5)制御器
パージ装置12は、金属管Wの管内ガスのパージガスへの置換を管理する制御器25を備える構成とすることができる。この制御器25には、パージガスへの置換の管理に係る設定値が予め記憶されているとともに、その管理に係るプログラムが格納された電子計算機を用いることができる。
制御器25は、上述したガス供給系22の流量計222及び調整バルブ223と電気的に接続することができる。
制御器25は、流量計222からパージガスの流量を取得し、その流量から本体21の充填室214へのパージガスの供給量を演算して算出することができる。
そして、制御器25は、算出されたパージガスの供給量を設定値と比較し、供給量が設定値の範囲内となるように、調整バルブ223の開閉を操作することにより、金属管Wの管内ガスのパージガスへの置換を管理することができる。
【0035】
具体的に、本体21の充填室214へのパージガスの供給量について、設定値は、金属管Wの管内容積(金属管Wが複数の場合、複数の金属管Wの管内総容積)に応じて、管内容積(又は管内総容積)以上として定めることができる。
制御器25は、本体21の充填室214へのパージガスの供給量が設定値となるまで調整バルブ223を開き、設定値となった後は、調整バルブ223を閉じることにより、供給量を管理することができる。
【0036】
また、制御器25は、上述した測定器24と電気的に接続することができる。この場合、制御器25は、測定器24から本体21の充填室214の静圧を取得し、予め設定された設定値の範囲と比較して、金属管Wの管内ガスのパージガスへの置換が実行可能か否かを判断する機能を備えることができる。
具体的に、制御器25は、取得した静圧が設定値に満たない場合、調整バルブ223を操作し、パージガス(図1の場合は水素ガス)の流量を増すことにより、本体21の充填室214の静圧を上昇させることができる。
なお、本体21の充填室214の静圧を上昇させ、その静圧が設定値の範囲となった後、制御器25は、調整バルブ223を再び操作し、パージガス(図1の場合は水素ガス)の流量を元の値に戻すことができる。
【0037】
(2-6)搬送速度調整手段
熱処理炉10は、炉体11における金属管Wの炉速に比べて、パージ装置12による置換の対象とされた金属管Wの搬送速度を速くする搬送速度調整手段を備える構成とすることができる。
通常、金属管Wの炉体11への搬入時に、パージ装置12を用いて金属管Wの管内ガスをパージガスへ置換する作業を行う場合、その作業に要した時間だけ、搬入のタイミングは遅れる。上述したように、熱処理炉10は、金属管Wの搬入装置13による搬入速度と搬送装置111による炉速を同じ速度とし、炉体11への搬入のタイミングと、炉体11の炉内における搬送のタイミングとを同期させて、作業時間の短縮化を図ることができる。
作業時間の短縮化という利点を維持するには、パージ装置12を用いた作業による搬入のタイミングの遅れを解消する必要がある。つまり、搬送速度調整手段は、炉体11における金属管Wの炉速に比べ、パージ装置12による置換の対象とされた金属管Wの搬送速度を速くすることで、搬入のタイミングの遅れの解消を図るためのものである。
【0038】
具体的に、搬送速度調整手段は、載置台31と、載置台31を搬送するコンベア32とを備える構成とすることができる(図1参照)。
パージ装置12において、本体21等は、載置台31に載せられ、コンベア32の可動により、搬送可能に構成されている。
そして、パージ装置12による置換の対象とされた金属管Wは、その一端部が本体21の充填室214に挿入されたまま、載置台31上に支持されて、パージ装置12の本体21等とともに、コンベア32の可動により搬送可能に構成されている。
【0039】
搬送速度調整手段において、コンベア32による搬送速度は、搬送装置111による金属管Wの炉速に比べて、速くなるように設定されている。即ち、搬送速度調整手段を構成する載置台31及びコンベア32は、パージ装置12による置換の対象とされた金属管Wの搬送速度を、炉体11における金属管Wの炉速に比べて速めた分、パージ装置12を用いた作業による搬入のタイミングの遅れを解消することができる。
さらに、搬送速度調整手段において、載置台31は、金属管Wとともにパージ装置12の本体21等のコンベア32による搬送を可能としている。つまり、搬送速度調整手段は、金属管Wに対するパージ装置12を用いた作業を行いながら、金属管Wの炉体11への搬送作業を可能としている。これにより、パージ装置12を用いた作業による搬入のタイミングの遅れを最小限に留めることができる。
【0040】
(3)パージ装置(変更例)
パージ装置12は、金属管Wの管内にパージガスを送り込み、金属管Wの管内ガスをパージガスに置換するものであり、上述の形態に限らず、以下の形態とすることもできる。
即ち、パージ装置12は、内部に充填室214が設けられた本体21と、本体21に接続されて充填室214にパージガスを供給するガス供給系22と、本体21から伸びて金属管Wの一端部に挿入されるガス吐出部27と、を備える構成とすることができる(図6参照)。
【0041】
(3-1)本体
本体21は、内部の充填室214に溜められたパージガスを金属管Wの管内に送り込むことが可能であれば、構成、形状、充填室214の容積等は、特に問わない。
具体例として、本体21は、箱状に形成することができ、その内部を充填室214とすることができる(図6参照)。
本体21の後面には、供給ノズル215を、充填室214と連通するように設けることができる。
本体21の前面には、吐出ノズル216を、充填室214と連通するように設けることができる。この吐出ノズル216は、金属管Wの処理本数に応じて、複数設けることができる。
【0042】
(3-2)ガス供給系
ガス供給系22は、本体21に接続されて、充填室214にパージガスを供給することが可能であれば、構成等について、特に問わない。
このガス供給系22には、上述した「(2)パージ装置」の「(2-2)ガス供給系」と同様のものを使用することができる。
また、ガス供給系22は、本体21の後面に設けられた供給ノズル215に接続することができ、供給ノズル215を介して、充填室214にパージガスを供給することができる。
【0043】
(3-3)ガス吐出部
ガス吐出部27は、本体21から伸び、金属管Wの一端部に挿入が可能であれば、構成等について、特に問わない。
具体例として、ガス吐出部27は、金属管Wの一端部に挿入される挿入ノズル271と、挿入ノズル271と本体21の吐出ノズル216との間に接続された給気チューブ272と、を備える構成とすることができる(図6参照)。
挿入ノズル271は、特に限定されないが、例えば、金属管Wの一端部に挿入することができるように、金属管Wよりも細径のパイプ状に形成することができる。
給気チューブ272は、特に限定されないが、例えば、樹脂チューブを用いて形成することができ、充填室214から吐出ノズル216を介して吐出されるパージガスを、挿入ノズル271へ給気することができる。
なお、金属管Wは、一端部に挿入ノズル271が挿入され、他端部が外部に露出された状態に保持されている。
【0044】
(3-4)測定器
このパージ装置12は、上述した「(2)パージ装置」の「(2-4)測定器」と同様の測定器を備える構成とすることができる。
【0045】
(3-5)制御器
このパージ装置12は、上述した「(2)パージ装置」の「(2-5)制御器」と同様の制御器を備える構成とすることができる。
【0046】
(3-6)搬送速度調整手段
このパージ装置12は、上述した「(2)パージ装置」の「(2-6)搬送速度調整手段」と同様の搬送速度調整手段により、熱処理炉10の内部において、搬送される金属管Wとともに移動可能に構成することができる。
【0047】
[2]熱処理方法
本発明の熱処理方法は、上述の熱処理炉10を用いて金属管Wを熱処理する熱処理方法であって、
パージ装置12を使用して前記金属管Wの管内に、水素ガス及び不活性ガスからなる群から選択される少なくとも1種をパージガスとして送り込み、前記金属管Wの管内ガスをパージガスに置換するパージ工程と、
前記パージ工程の後、管内ガスをパージガスに置換した前記金属管Wを、炉体11に挿入して炉内に収容する挿入工程と、を備えることを特徴とする。
【0048】
(1)パージ工程
パージ工程は、前記金属管Wの一端部を前記パージ装置12に挿入し、他端部を外部に開放された状態とする第1工程と、
前記金属管Wを前記パージ装置12に固定する第2工程と、
前記パージ装置12に挿入された前記金属管Wの一端部から管内にパージガスを送り込み、他端部から管内ガスを排出して、管内ガスをパージガスに置換する第3工程と、を含む構成とすることができる。
【0049】
図4は、パージ工程が備える第1工程、第2工程及び第3工程を例示する説明図である。
パージ工程の第1工程では、本体21において、シリンダ213の収縮により蓋部212が開放され、金属管Wが、一端部を充填室214に位置させるようにして、挿入部23に配置される。このとき、金属管Wの他端部は、本体21の外部に位置しており、開放された状態とされる。
パージ工程の第2工程では、本体21において、シリンダ213の伸長により蓋部212が閉塞され、挿入部23において、金属管Wは、上下のシール材231の間に挟まれて固定される。
【0050】
パージ工程の第3工程では、前工程として、本体21の充填室214へのパージガスの供給が開始されて、充填室214がパージガスで満たされる。
さらに、第3工程では、後工程として、充填室214を満たしたパージガスが、金属管Wの、一端部から管内に送り込まれ、管内ガスを金属管Wの他端部から圧し出して排出する。
そして、第3工程により、金属管Wは、管内ガスが排出され、パージガスに置換される。
【0051】
上述のパージ装置12を用いたパージ工程は、炉体10の炉内ではなく、炉体10の外部(以下、「炉外」と記載する)において、金属管Wの全体を配置し、管内ガスのパージガスへの置換が行われる。
そして、炉体10の炉内には、管内ガスをパージガスへ置換した後の金属管Wが挿入される。
つまり、管内ガスは、炉体10の炉外において、金属管Wの他端部から排出されるため、炉内に入り込むことがない。このため、炉体10は、炉内の雰囲気が金属管Wの管内ガスによって汚されることがない。さらに、金属管Wは、炉体10に挿入された時点で、管内ガスが、水素ガスや、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスによるパージガスによって置換されており、管内ガスによる金属管Wの内面の酸化等を防止することができる。
【0052】
第3工程では、上述の前工程と後工程による金属管Wの管内ガスのパージガスへの置換と併せて、載置台31及びコンベア32による金属管Wの炉体11への搬送を開始することができる。
搬送の開始のタイミングは、第3工程中の何れの時点でもよく、特に限定されない。例えば、搬送の開始のタイミングは、第3工程の後工程の開始と同時とすることができ、あるいは第3工程の後工程の開始から終了までの間とすることができ、あるいは第3工程の前工程の開始と同時とすることができる。
これらの中でも搬送の開始のタイミングは、第3工程の後工程の開始と同時、あるいは第3工程の後工程の開始から終了までの間とした場合、炉体11への搬送中に金属管Wの管内ガスをパージガスに置換することができるため、作業効率の向上を図ることができ、有用である。
【0053】
第3工程は、充填室214へのパージガスの供給量が一定値に達するまで継続される。このパージガスの供給量は、金属管Wの管内をパージガスによって満遍なく置換することが可能な量に設定することができる。
なお、充填室214へのパージガスの供給量は、ガス供給系22から本体21へのパージガスの流量(m/s)の時間(供給時間)による積算値である。
【0054】
具体的に、パージガスの供給量の下限は、供給量をA(m)とし、金属管Wの管内容積をd(m)とした場合、好ましくは管内容積の1.5倍以上(1.5×d≦A)、より好ましくは管内容積の2倍以上(2×d≦A)である。
また、金属管Wを複数まとめて処理する場合、金属管Wをn(本)とし、複数の金属管Wの管内総容積をD〔=d(m)×n〕として、パージガスの供給量の下限は、好ましくは管内総容積の1.5倍以上(1.5×D≦A)、より好ましくは管内総容積の2倍以上(2×D≦A)である。
パージガスの供給量の上限は、特に限定されないが、例えば、水素ガスやアルゴンガス等といった高コストなパージガスの使用量の低減を図る観点から、好ましくは管内容積(又は管内総容積)の3倍以下(A≦3×d又はA≦3×D)、より好ましくは管内容積(又は管内総容積)の2.5倍以下(A≦2.5×d又はA≦2.5×D)である。
【0055】
また、第3工程では、測定器24から取得した充填室214の静圧に基づき、充填室214へのパージガスの供給を管理することができる。
即ち、第3工程では、充填室214の静圧を測定することにより、本体21の充填室214からのパージガスの漏出の有無を確認することができる。
充填室214の静圧は、特に限定されないが、パージガスによる管内ガスの圧し出しを好適に行う観点から、好ましくは常圧(通常は大気圧)以上であり、より好ましくは常圧を超える圧力とすることができる。
具体的に静圧は、好ましくは1気圧以上3気圧以下とすることができる。
【0056】
(2)挿入工程
挿入工程は、金属管Wを、炉体11に挿入する工程である。
挿入工程において、金属管Wは、他端部のみを炉体11に挿入することができ(図5(b)参照)、あるいは、全体を炉体11に挿入することもできる。
図5(a),(b)は、挿入工程を例示する説明図である。
挿入工程は、パージ装置12の本体21の蓋部212を開き、本体21に対する金属管Wの固定を解除する固定解除作業を備えることができる(図5(a)参照)。
上述したパージ工程の第3工程において、金属管Wへのパージガスの供給の終了のタイミングは、この固定解除作業の開始と略同時、又は固定解除作業の開始の直前とすることができる。
【0057】
挿入工程は、パージ工程の第3工程で搬送された金属管Wを、パージ装置12から搬入装置13へ受け渡す受渡作業を備えることができる(図5(a)参照)。
挿入工程は、搬入装置13上の金属管Wを、搬入装置13から炉体11の搬送装置111へと移し替える移替作業を備えることができる(図5(b)参照)。
挿入工程は、金属管Wの少なくとも他端部を、炉体11の入口112に挿入する挿入作業を備えることができる(図5(b)参照)。
挿入作業は、金属管Wの少なくとも他端部が炉体11に挿入されることにより、パージ装置12による金属管Wの管内へのパージガスの供給が停止した状態で、その金属管Wの管内へ外気(空気)が流入することを抑制することができる。
また、挿入作業後の金属管Wは、搬送装置111に載せられて、炉体11の入口112から炉内へ搬送される。
【0058】
挿入工程において、固定解除作業は、受渡作業の前に実行することができ、あるいは、挿入作業の後に実行することもできる。
固定解除作業を受渡作業の前に実行する場合、挿入工程に係る各作業の具体的な順序は、金属管Wへのパージガスの供給の終了(パージ工程の第3工程の終了)、固定解除作業、受渡作業、移替作業、挿入作業とすることができる。
この作業順序において、受渡作業、移替作業及び挿入作業は、間断なく連続して実行することができる。この場合、管内ガスをパージガスに置換された金属管Wを、炉体11の炉外で停止させることなく迅速に炉体11へ搬送することにより、金属管Wの管内へ外気(空気)が流入することを好適に抑制することができる。
【0059】
固定解除作業を挿入作業の後に実行する場合、挿入工程に係る各作業の具体的な順序は、受渡作業、移替作業、挿入作業、金属管Wへのパージガスの供給の終了(パージ工程の第3工程の終了)、固定解除作業とすることができる。
即ち、パージ工程の第3工程では、載置台31及びコンベア32による金属管Wの炉体11への搬送もまた実行され、その搬送で金属管Wを、その他端部が炉体11に挿入される位置まで搬送することができる。
そして、挿入作業の後に固定解除作業を実行する場合、金属管Wの管内へのパージガスの供給を停止する前に、金属管Wの他端部が炉体11に挿入された状態とすることができ、金属管Wにおける管内への外気(空気)の流入を防止することができる。
【0060】
なお、固定解除作業を挿入作業の後に実行する場合、つまり、パージ工程の第3工程において、金属管Wの他端部が炉体11に挿入される位置まで搬送する場合には、金属管Wの他端部から排出された管内ガスが、炉体11の炉内へ侵入することを抑制することが好ましい。
炉体11の炉内への管内ガスの侵入抑制は、挿入作業の直前までに、パージ工程の第3工程における金属管Wの管内ガスのパージガスへの置換を終了させることにより、達成することができる。
具体的には、金属管Wの他端部が炉体11に挿入される位置に達する前に、パージガスの供給量が金属管Wの管内を満遍なく置換可能な量に達するように、制御器25を用いて第3工程におけるパージガスの流量(m/s)や供給時間、充填室214の静圧等を適宜調整することにより、炉体11の炉内への管内ガスの侵入を抑制することができる。
【0061】
上述の挿入工程において、金属管Wの搬入装置13による搬送速度[S(m/h)]と、搬送装置111による炉体11の炉内における搬送速度[S(m/h)]とは、同じ速度である(S=S)。
これにより、複数ロットの金属管Wを熱処理する場合において、例えば、搬入装置13から搬送装置111へ金属管Wを移し替えるタイミングや、炉内の各室へ金属管Wを移送するタイミング等、搬入装置13による搬送のタイミングと、搬送装置111による炉内における搬送のタイミングとが同期している。
つまり、挿入工程は、金属管Wの搬送速度を一定にして行われるため、例えば、金属管Wを炉内に挿入するタイミング、炉内の各室に金属管Wを移送するタイミング等といった挿入工程における金属管Wの搬送に関する全てのタイミングを同期させることができ、複数ロットの金属管Wを熱処理するのに有用である。
【0062】
(3)搬送速度の調整
本発明の熱処理方法は、パージ工程や挿入工程を備えており、例えば、パージ工程の第1工程や第2工程、挿入工程の固定解除作業等は、金属管Wの炉体11への搬送を停止させた状態で行う必要がある。このため、パージ工程における金属管Wの搬送のタイミングと、挿入工程における金属管Wの搬送のタイミングとの同期にずれが生じてしまう。
こうした搬送のタイミングの同期ずれを解消するべく、上述の熱処理炉10において、パージ装置12は、搬送速度調整手段を備えている。
【0063】
搬送速度調整手段は、金属管Wとともにパージ装置12の本体21を、載置台31及びコンベア32により、搬送するものである(図1図4参照)。
搬送速度調整手段において、金属管Wやパージ装置12等のコンベア32による搬送速度[S(m/h)]は、搬入装置13による搬送速度[S(m/h)]及び搬送装置111による搬送速度[S(m/h)]に比べ、速くなっている(S>S、S>S)。
即ち、上述のパージ工程に係る作業による搬送の遅れは、コンベア32の搬送速度(S)を、搬入装置13の搬送速度(S)及び搬送装置111の搬送速度(S)よりも速くすることにより、解消することができる。
このため、パージ工程における金属管Wの搬送のタイミングと、挿入工程における金属管Wの搬送のタイミングとを同期させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、広範な製品で利用することができ、特にカーボンニュートラルの観点で有用である。
【符号の説明】
【0065】
W;金属管、10;熱処理炉、
11;炉体、111;搬送装置、112;入口、
12;パージ装置、13;搬入装置、
21;本体、211;箱部、212;蓋部、213;シリンダ、214;充填室、215;供給ノズル、216;吐出ノズル、
22;ガス供給系、221;タンク、222;流量計、223;調整バルブ、
23;挿入部、231;シール材、
24;測定器、25;制御器、
27;ガス吐出部、271;挿入ノズル、272;給気チューブ、
31;載置台、32;コンベア。
図1
図2
図3
図4
図5
図6