(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154324
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 19/18 20060101AFI20231012BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20231012BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20231012BHJP
B60B 35/14 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
F16C19/18
F16C33/58
B60B35/02 L
B60B35/14 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063589
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 茂明
(72)【発明者】
【氏名】永井 奈都子
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA54
3J701BA55
3J701BA69
3J701FA15
3J701FA38
3J701GA03
3J701XB12
3J701XB14
3J701XB18
3J701XB24
(57)【要約】
【課題】車両直進時の低フリクション化と車両旋回時の高剛性化とを両立させることができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】車輪用軸受装置1は、内周に複列の外側軌道面2c、2dを有する外輪2と、アウター側の外側軌道面2dに対向するアウター側の内側軌道面3cを有するハブ輪3と、インナー側の外側軌道面2cに対向するインナー側の内側軌道面4aを有する内輪4と、外輪2とハブ輪3及び内輪4との両軌道面間に転動自在に収容された複数のボール7を有するインナー側ボール列5及びアウター側ボール列6と、ハブ輪3の溝部3jに圧入されてハブ輪3を弾性変形させ、アウター側の内側軌道面3cにおける車両旋回時にボール7が接触する位置の溝曲率半径を小径に変化させるプラグ11とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複数の転動体を有する複列の転動列と、を備えた車輪用軸受装置であって、
前記内方部材の内周面に圧入されて前記内方部材を弾性変形させ、前記内側軌道面における車両旋回時に前記転動体が接触する位置の溝曲率半径を小径に変化させる、又は前記外方部材の外周面に圧入されて前記外方部材を弾性変形させ、前記外側軌道面における車両旋回時に前記転動体が接触する位置の溝曲率半径を小径に変化させる、プラグを備えたことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記プラグは、前記内方部材又は前記外方部材のうち圧入される部材よりも硬い材料で構成されることを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記内方部材又は前記外方部材は、前記プラグを圧入可能な溝部又は段部を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記プラグは、前記内方部材のアウター側の内周面に圧入されて前記内方部材を弾性変形させ、アウター側の前記内側軌道面における車両旋回時に前記転動体が接触する位置の溝曲率半径を小径に変化させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記プラグは、環状部材であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪用軸受装置に要求される性能の一つに、操縦安定性に寄与する軸受剛性がある。軸受剛性を上げるためには、ある程度高予圧、すなわち軸受の負すきまを大きくする必要がある。一方、予圧を大きくすると、転動体と軌道面間の接触面圧が高くなり、車両燃費に影響する軸受の転がりフリクションが増大するばかりか、予圧が過大となれば軸受寿命の低下につながる。そのため、これら二律背反の特性を両立させようとする技術が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、車両旋回時の転動体接触角変化に応じて高予圧となるように、複数の曲率半径からなる円弧状に形成された内側軌道面、いわゆる複合溝曲率を有する内側軌道面を備えた車輪用軸受装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、車両旋回時に高負荷となるアウター側の軌道面をインナー側の軌道面よりも大径とすることにより、高剛性化した車輪用軸受装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-9895号公報
【特許文献2】特開2004-345439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1によれば、複合溝曲率を有する内側軌道面を切削加工等により形成するため、量産工程において精度良く加工し、測定し、保証することが困難である。また、特許文献2によれば、アウター側の転動体数が増加するため、低フリクション化することが困難である。
【0007】
本発明は、車両直進時の低フリクション化と車両旋回時の高剛性化とを両立させることができる車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複数の転動体を有する複列の転動列と、を備えた車輪用軸受装置であって、前記内方部材の内周面に圧入されて前記内方部材を弾性変形させ、前記内側軌道面における車両旋回時に前記転動体が接触する位置の溝曲率半径を小径に変化させる、又は前記外方部材の外周面に圧入されて前記外方部材を弾性変形させ、前記外側軌道面における車両旋回時に前記転動体が接触する位置の溝曲率半径を小径に変化させる、プラグを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、プラグにより所望の軌道面を精度よく複合溝曲率にすることができるため、車両直進時の低フリクション化と車両旋回時の高剛性化とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態の車輪用軸受装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[車輪用軸受装置の全体構成]
図1を用いて車輪用軸受装置1の全体構成について説明する。なお、以下の説明において、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。軸方向とは、車輪用軸受装置1の回転軸Rに沿った方向を表す。軸方向外側とは、回転軸Rに沿って環状空間Sから遠ざかる方向を表し、軸方向内側とは、回転軸Rに沿って環状空間Sに近づく方向を表す。よって、インナー側ボール列5において、軸方向外側とはインナー側であり、軸方向内側とはアウター側である。アウター側ボール列6において軸方向外側とはアウター側であり、軸方向内側とはインナー側である。径方向外側とは、回転軸Rから遠ざかる方向を表し、径方向内側とは、回転軸Rに近づく方向を表す。
【0012】
図1に示す車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものであり、従動輪用の軸受装置である。車輪用軸受装置1は第3世代と称呼される構成を備えており、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ輪3及び内輪4と、転動列である二列のインナー側ボール列5及びアウター側ボール列6と、インナー側シール部材9及びアウター側シール部材10とを備えている。
【0013】
外輪2は、ハブ輪3と内輪4とを支持している。外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材9が嵌合可能なインナー側開口部2aが形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材10が嵌合可能なアウター側開口部2bが形成されている。外輪2の内周面には、インナー側の外側軌道面2cと、アウター側の外側軌道面2dとが周方向に形成されている。外輪2の外周面には、外輪2を車体側部材に取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体的に形成されている。車体取り付けフランジ2eには、車体側部材と外輪2とを締結する締結部材(ここでは、ボルト)が挿入されるボルト孔2gが形成されている。
【0014】
ハブ輪3は、図示しない車両の車輪及びブレーキロータ(あるいは、ブレーキドラム)を回転自在に支持する。ハブ輪3の外周面におけるインナー側端部には、軸方向に延びる小径に変化した小径段部3aが設けられている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、ハブ輪3と車輪又はブレーキ部品とを締結するためのハブボルトが圧入されるボルト孔3fが形成されている。
【0015】
ハブ輪3には、外輪2のアウター側の外側軌道面2dに対向するようにアウター側の内側軌道面3cが設けられている。ハブ輪3における車輪取り付けフランジ3bの基部側には、アウター側シール部材10のリップが摺接するシールランド3dが形成されている。
【0016】
ハブ輪3の小径段部3aには、内輪4が設けられている。内輪4は、圧入及び加締加工によりハブ輪3の小径段部3aに固定されている。内輪4は、インナー側ボール列5及びアウター側ボール列6に予圧を付与している。ハブ輪3のインナー側端部には、内輪4のインナー側端面に加締められた加締部3hが形成されている。
【0017】
内輪4の外周面には、内側軌道面4aが形成されている。つまり、ハブ輪3のインナー側には、内輪4によって内側軌道面4aが構成されている。内側軌道面4aは、外輪2のインナー側の外側軌道面2cと対向している。内輪4のインナー側端部における外周面には、インナー側シール部材9が嵌合可能な嵌合面4bが形成されている。
【0018】
転動列であるインナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、転動体である複数のボール7が保持器8によって保持されることにより構成されている。インナー側ボール列5は、内輪4の内側軌道面4aと、外輪2のインナー側の外側軌道面2cとの間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列6は、ハブ輪3の内側軌道面3cと、外輪2のアウター側の外側軌道面2dとの間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、外方部材と内方部材との両軌道面間に転動自在に収容されている。
【0019】
車輪用軸受装置1においては、外輪2と、ハブ輪3及び内輪4と、インナー側ボール列5と、アウター側ボール列6とによって複列アンギュラ玉軸受が構成されている。
【0020】
インナー側シール部材9及びアウター側シール部材10は、外方部材と内方部材とによって形成された環状空間Sの開口端を塞ぐシール部材である。インナー側シール部材9は、環状空間Sのうち外輪2と内輪4との間に形成されたインナー側開口端に装着されている。一方、アウター側シール部材10は、環状空間Sのうち外輪2とハブ輪3との間に形成されたアウター側開口端に装着されている。
【0021】
[プラグ]
車輪用軸受装置1は、ハブ輪3のアウター側の内周面3gに形成された回転軸Rを軸心とする円環状の溝部3jと、内周面3gの溝部3jより径方向内側に形成された雌ネジ部3kと、溝部3jに圧入された円環状のプラグ11と、雌ネジ部3kに螺合してプラグ11を軸方向に固定するボルト12とを備えている。所定の締代を持ったプラグ11の外周面11aがハブ輪3の内周面3gに圧入され、プラグ11がハブ輪3を径方向外側に押圧することにより、ハブ輪3のアウター側の内側軌道面3cの一部が径方向外側に弾性変形し、アウター側の内側軌道面3cが単一の曲率ではない複合溝曲率を有することとなる。なお、溝部3jと雌ネジ部3kとボルト12とは必須の構成ではなく、少なくともプラグ11がハブ輪3のアウター側の内周面3gに固定されていればよい。
【0022】
溝部3jは、プラグ11を圧入可能な溝であり、回転軸Rを軸心とする円筒状の内周面3mと、内周面3mのインナー側端から径方向内側に延びる円環状の底面3nとで構成されている。内周面3mは、所定の内径寸法となるように、研削により高精度に形成されることが好ましい。溝部3jが底面3nを有することにより、プラグ11を軸方向に正確に位置決めすることができる。
【0023】
雌ネジ部3kは、ボルト12をハブ輪3に固定するための雌ネジであり、溝部3jの底面3nの内周から軸方向内側に向けて形成されている。ボルト12は、雌ネジ部3kに螺合し、頭部でプラグ11を押圧して固定する。
【0024】
プラグ11は、溝部3jの内周面3mに圧入されてハブ輪3を弾性変形させ、アウター側の内側軌道面3cにおける車両旋回時にボール7が接触する位置、すなわち溝肩部近傍の溝曲率半径を小径に変化させる部材である。溝肩部近傍とは、内側軌道面3c、4aにおいては径方向外側の辺縁部を指し、外側軌道面2c、2dにおいては径方向内側の辺縁部を指す。プラグ11は、略矩形の断面を有する円環状の部材であり、外周面11aと、内周面11bと、インナー側面11dと、アウター側面11cとを有している。
【0025】
外周面11aは、溝部3jの内周面3mに嵌合する面であり、溝部3jの内周面3mよりも大径である。内周面11bは、ボルト12と干渉しないように、雌ネジ部3kよりも大径に形成されている。インナー側面11dは、溝部3jの底面3nに当接する面である。インナー側面11dが底面3nに当接する位置までプラグ11を圧入することにより、プラグ11を軸方向に正確に位置決めすることができる。アウター側面11cは、ボルト12に押圧される面である。アウター側面11cがボルト12で押圧固定されることにより、プラグ11の脱落を抑制できる。
【0026】
本実施形態のようにプラグ11を環状部材で構成することにより、プラグ11を省スペースに配置できる。なお、プラグ11の形状には特に限定はなく、例えば、同等の外径を有する球状部材や外周面が軸方向内側から軸方向外側へ向かうにつれて拡がるテーパ形状の環状部材であってもよい。
【0027】
プラグ11は、圧入される部材であるハブ輪3よりも硬い材料で構成されることが好ましい。その材料としては、例えば、焼入れされたSUJ2、SK材、S53C等を用いることができる。これにより、プラグ11の変形摩耗が抑制され、精度よくアウター側の内側軌道面3cを変形させることができる。
【0028】
図2に示すように、プラグ11は、溝部3jの内周面3mに圧入されてハブ輪3を径方向外側に弾性変形させ、アウター側の内側軌道面3cにおける車両旋回時にボール7が接触する位置(内側軌道面3cの溝肩部)Aの溝曲率半径を小径に変化させる。
図2において、面Bはプラグ11が圧入される前の内側軌道面3cを示している。このように、内側軌道面3cにおける車両旋回時にボール7が接触する位置Aでは、溝曲率半径を小径に変化させることにより、軸受の負すきまが大きく、すなわちボール7と内側軌道面3c間の接触面圧が高くなり(高予圧)、車両旋回時の高剛性化を実現できる。アウター側の内側軌道面3cが車両旋回時に最も負荷のかかる軌道面であるため、プラグ11による効果が大きい。
【0029】
図2において、内側軌道面3cにおける車両直進時にボール7が接触する位置Cは、車両直進時の低フリクション化を目的として軸受の負すきまを小さく(低予圧)設定した状態の位置を示している。なお、プラグ11を圧入しても車両直進時にボール7が接触する位置Cの溝曲率半径は変化しないように、プラグ11の位置が設計される。本実施形態においてプラグ11のインナー側面11dは、車両旋回時にボール7が接触する位置Aよりもアウター側に位置している。これにより、車両直進時にボール7が接触する位置Cの軌道面は弾性変形させず、車両旋回時にボール7が接触する位置Aの軌道面を弾性変形させることができる。つまり、内側軌道面3cを複合溝曲率にすることができる。なお、プラグ11の軸方向の位置には特に限定はなく、アウター側の内側軌道面3cが所望の複合溝曲率を有するように弾性変形する位置であればよい。
【0030】
上記の構成によれば、アウター側の内側軌道面3cを複合溝曲率にすることができるため、車両直進時の低フリクション化と車両旋回時の高剛性化とを両立させることができる。また、プラグ11を用いることで簡単に、切削加工と同等に精度よく複合溝曲率を有する内側軌道面3cを形成することができる。
【0031】
[車輪用軸受装置の製造方法]
車輪用軸受装置1の組立工程において、外輪2とハブ輪3及び内輪4とインナー側ボール列5及びアウター側ボール列6とインナー側シール部材9及びアウター側シール部材10とを組み付け、加締部3hを形成した後、つまり、車輪用軸受装置1に付与された予圧が決定した後に、プラグ11を圧入する面である溝部3jの内周面3mの径を測定する。そして、内周面3mの径の測定値に応じた外径を有するプラグ11を選択して圧入する。これには、予め内側軌道面3cが所望の変形量となるようなプラグ11の外径と溝部3jの内径との組み合わせをデータ化しておき、種々の外径のプラグ11を作成しておく必要がある。
【0032】
これにより、溝部3jの内径のバラツキに応じて最適な外径のプラグ11を選択することができる。よって、内側軌道面3cを精度よく複合溝曲率にすることができる。また、車輪用軸受装置1に付与された予圧が決定した後に溝部3jの内径を測定することにより、精度が向上する。
【0033】
なお、1種類の外径のプラグ11を用い、溝部3jの内周面3mの径を測定しないことも可能である。また、ハブ輪3単体の状態で予めプラグ11を組み付けることも可能である。
【0034】
[変形例1]
図3は、変形例1の車輪用軸受装置20の断面図である。変形例1の車輪用軸受装置20が上記の車輪用軸受装置1と異なる点は、ハブ輪3のインナー側の内周面3pに形成された溝部3qと、雌ネジ部3rと、プラグ21と、ボルト22とを備える点であり、他の構成は車輪用軸受装置1と同様であるため、その詳細な説明を省略する。溝部3q、雌ネジ部3r、プラグ21及びボルト22は、アウター側の溝部3j、雌ネジ部3k、プラグ11及びボルト12と軸方向に対称に配置されており、大きさは相違するが同等の構造を有している。
【0035】
プラグ21は、溝部3qに圧入されてハブ輪3及び内輪4を径方向外側に弾性変形させ、インナー側の内側軌道面4aにおける車両旋回時にボール7が接触する位置(内側軌道面4aの溝肩部)の溝曲率半径を小径に変化させる。これにより、ボール7と内側軌道面4aの肩部間の接触面圧が高くなり(高予圧)、車両旋回時の高剛性化を実現できる。
【0036】
プラグ21を圧入しても車両直進時にボール7が接触する位置の溝曲率半径は変化しないように、プラグ21の位置が設計される。本実施形態においてプラグ21のアウター側面21cは、車両旋回時にボール7が接触する位置よりもインナー側に位置している。これにより、車両直進時にボール7が接触する位置の軌道面は弾性変形させず、車両旋回時にボール7が接触する位置の軌道面を弾性変形させることができる。つまり、内側軌道面4aを所望の複合溝曲率にすることができる。なお、プラグ21の軸方向の位置には特に限定はなく、内側軌道面4aが複合溝曲率を有するように弾性変形する位置であればよい。
【0037】
上記の構成によれば、インナー側の内側軌道面4aを複合溝曲率にすることができるため、車両直進時の低フリクション化と車両旋回時の高剛性化とを両立させることができる。また、プラグ21を用いることで簡単に、切削加工と同等に精度よく複合溝曲率を有する内側軌道面4aを形成することができる。
【0038】
車輪用軸受装置20の組立工程において、外輪2とハブ輪3及び内輪4とインナー側ボール列5及びアウター側ボール列6とインナー側シール部材9及びアウター側シール部材10とを組み付け、加締部3hを形成した後、つまり、車輪用軸受装置20に付与された予圧が決定した後に、プラグ21を圧入する面である溝部3qの内径を測定する。そして、溝部3qの内径の測定値に応じた外径を有するプラグ21を選択して圧入する。これにより、上述したプラグ11を用いた場合と同様の作用、効果を得ることができる。
【0039】
[変形例2]
図4は、変形例2の車輪用軸受装置30の断面図である。車輪用軸受装置30は、駆動輪用の軸受装置である。変形例2の車輪用軸受装置30が上記の車輪用軸受装置1と異なる点は、ハブ輪31が等速自在継手90とスプライン嵌合可能な貫通孔部3sを有し、ハブ輪31を等速自在継手90に固定するナット32がプラグ11も固定している点であり、他の構成は車輪用軸受装置1と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0040】
よって、駆動輪用の車輪用軸受装置30においても、上記の車輪用軸受装置1と同様の作用、効果を得ることができる。
【0041】
[変形例3]
図5は、変形例3の車輪用軸受装置40の断面図である。変形例3の車輪用軸受装置40が変形例2の車輪用軸受装置30と異なる点は、外輪2のアウター側の外周面に形成され、軸方向に延びる拡径された段部3tと、段部3tに圧入されたプラグ41とを備える点であり、他の構成は車輪用軸受装置30と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0042】
プラグ41は、段部3tに圧入されて外輪2を径方向内側に弾性変形させ、アウター側の外側軌道面2dにおける車両旋回時にボール7が接触する位置(外側軌道面2dの溝肩部)の溝曲率半径を小径に変化させる。これにより、ボール7と外側軌道面2dの肩部間の接触面圧が高くなり(高予圧)、車両旋回時の高剛性化を実現できる。
【0043】
プラグ41を圧入しても車両直進時にボール7が接触する位置の溝曲率半径は変化しないように、プラグ41の位置が設計される。本実施形態においてプラグ41のアウター側面41cは、車両旋回時にボール7が接触する位置よりもインナー側に位置している。これにより、車両直進時にボール7が接触する位置の軌道面は弾性変形させず、車両旋回時にボール7が接触する位置の軌道面を弾性変形させることができる。つまり、外側軌道面2dを所望の複合溝曲率にすることができる。なお、プラグ41の軸方向の位置には特に限定はなく、外側軌道面2dが複合溝曲率を有するように弾性変形する位置であればよい。
【0044】
上記の構成によれば、アウター側の外側軌道面2dを複合溝曲率にすることができるため、車両直進時の低フリクション化と車両旋回時の高剛性化とを両立させることができる。また、プラグ41を用いることで簡単に、切削加工と同等に精度よく複合溝曲率を有する外側軌道面2dを形成することができる。
【0045】
車輪用軸受装置40の組立工程においては、外輪2単体の状態で予めプラグ41を組み付ける。このとき、段部3tの外径を測定し、その測定値に応じた内径を有するプラグ41を選択して圧入してもよい。これにより、段部3tの外径のバラツキに応じて最適な内径のプラグ41を選択することができる。よって、外側軌道面2dを精度よく複合溝曲率にすることができる。
【0046】
なお、車体取り付けフランジ2eの位置によっては、ハブ輪3、31のインナー側の外周面にプラグを圧入する形態も可能である。この場合、プラグは、インナー側の外側軌道面2cにおける車両旋回時にボールが接触する位置(外側軌道面2cの溝肩部)の溝曲率半径を小径に変化させる。
【0047】
上記の車輪用軸受装置1、20、30、40は、ハブ輪3、31の外周に転動体の内側軌道面3cが直接形成されている内輪回転の第3世代構造の車輪用軸受装置として説明したがこれに限定されるものではなく、例えば、ハブ輪に一対の内輪が圧入固定された内輪回転の第2世代(第2.5世代)構造、外輪及び内輪で構成される第1世代構造であってもよい。また、上記の従動輪用の車輪用軸受装置1、20は、外輪回転の第3世代構造又は第2世代(第2.5世代)構造であってもよい。
【0048】
上記の実施形態は、本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、車輪用軸受装置は、上記のプラグのうち少なくとも1つ以上を備えていればよい。また、車輪用軸受装置が複数のプラグを備える場合、プラグの組み合わせに限定はない。また、可能であれば、溝部に替えて段部、段部に替えて溝部を用いてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 車輪用軸受装置
2 外輪(外方部材)
2c、2d 外側軌道面
3 ハブ輪(内方部材)
3c、4a 内側軌道面
4 内輪(内方部材)
5 インナー側ボール列(転動列)
6 アウター側ボール列(転動列)
7 ボール(転動体)